炭化水素系混合ガスの分離方法
【課題】優れた炭化水素系混合ガスの分離方法を提供する。
【解決手段】周期表の2族及び7〜12族に属する金属のイオンから選択される少なくとも1種の金属イオンと、ルイス塩基性アニオンと、該金属イオンに二座配位可能な下式(I)で示される有機配位子とからなる金属錯体を用いる炭素数1又は2の炭化水素系混合ガスの分離方法。
(式中、X、Y及びZはそれぞれ同一又は異なって炭素原子等を表し、R1〜R6は同一又は異なって水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基等を表し、A1及びA2は同一又は異なってピリジル基、イミダゾリル基又はトリアゾリル基を表す。)
【解決手段】周期表の2族及び7〜12族に属する金属のイオンから選択される少なくとも1種の金属イオンと、ルイス塩基性アニオンと、該金属イオンに二座配位可能な下式(I)で示される有機配位子とからなる金属錯体を用いる炭素数1又は2の炭化水素系混合ガスの分離方法。
(式中、X、Y及びZはそれぞれ同一又は異なって炭素原子等を表し、R1〜R6は同一又は異なって水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基等を表し、A1及びA2は同一又は異なってピリジル基、イミダゾリル基又はトリアゾリル基を表す。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化水素系混合ガスの分離方法に関する。さらに詳しくは、少なくとも1種の金属イオンと、ルイス塩基性アニオンと、該金属に二座配位可能な有機配位子とからなる金属錯体を用いる炭素数1又は2の炭化水素系混合ガスの分離方法に関する。本発明の分離方法は、メタンとエタン、メタンとエチレン、エチレンとエタン、エチレンとアセチレンなどの分離方法として好ましい。
【背景技術】
【0002】
これまで、脱臭、排ガス処理などの分野で種々の吸着材が開発されている。活性炭はその代表例であり、活性炭の優れた吸着性能を利用して、空気浄化、脱硫、脱硝、有害物質除去など各種工業において広く使用されている。近年は半導体製造プロセスなどへ窒素の需要が増大しており、かかる窒素を製造する方法として、分子ふるい炭を使用して圧力スイング吸着法や温度スイング吸着法により空気から窒素を製造する方法が使用されている。また、分子ふるい炭は、メタノール分解ガスからの水素精製など各種ガス分離精製にも応用されている。
【0003】
圧力スイング吸着法や温度スイング吸着法により混合ガスを分離する際には、一般に、分離吸着材として分子ふるい炭やゼオライトなどを使用し、その平衡吸着量又は吸着速度の差により分離を行っている。しかしながら、平衡吸着量の差によって混合ガスを分離する場合、これまでの吸着材では除去したいガスのみを選択的に吸着することができないため分離係数が小さくなり、装置の大型化は不可避であった。また、吸着速度の差によって混合ガスを分離する場合、ガスの種類によっては除去したいガスのみを吸着できるが、吸着と脱着を交互に行う必要があり、この場合も装置は依然として大型にならざるを得なかった。
【0004】
一方、より優れた吸着性能を与える吸着材として、外部刺激により動的構造変化を生じる高分子金属錯体が開発されている。この新規な動的構造変化高分子金属錯体をガス吸着材として使用した場合、ある一定の圧力まではガスを吸着しないが、ある一定圧を越えるとガス吸着が始まるという特異な現象が観測されている。また、ガスの種類によって吸着開始圧が異なる現象が観測されている。
【0005】
この現象を、例えば圧力スイング吸着方式のガス分離装置における吸着材に応用した場合、非常に効率良いガス分離が可能となる。また、圧力のスイング幅を狭くすることができ、省エネルギーにも寄与する。さらに、ガス分離装置の小型化にも寄与し得るため、高純度ガスを製品として販売する際のコスト競争力を高めることができることは勿論、自社工場内部で高純度ガスを用いる場合であっても、高純度ガスを必要とする設備に要するコストを削減できるため、結局最終製品の製造コストを削減する効果を有する。
【0006】
しかしながら、さらなる装置小型化によるコスト削減が求められているのが現状であり、これを達成するために分離性能のさらなる向上が求められている。
【0007】
[X(CF3SO3)2L2]n(式中、Xは2価の遷移金属イオン、Lは有機配位子である。)の単位構造を有する高分子金属錯体が開示されている(特許文献1参照)。しかしながら、実施例に記載されているのは銅イオンとトリフルオロメタンスルホン酸イオンと4,4’−ビピリジルとからなる高分子金属錯体であり、炭化水素系混合ガスの分離において、4,4’−ビピリジル以外の二座配位可能な有機配位子が分離性能に与える効果については何ら言及されていない。
【0008】
[NiY2L2]n(式中、Yは対イオン、Lは有機配位子である。)の単位構造を有する高分子金属錯体が開示されている(特許文献2参照)。しかしながら、実施例に記載されているのはニッケルイオンとテトラフルオロホウ酸イオンと1,4−ビス(4−ピリジル)ベンゼンとからなる高分子金属錯体であり、炭化水素系混合ガスの分離において、1,4−ビス(4−ピリジル)ベンゼン以外の二座配位可能な有機配位子が分離性能に与える効果については何ら言及されていない。
【0009】
[XY2L2]n(式中、Xは2価の遷移金属イオン、Yは対イオン、Lは有機配位子である。)の単位構造を有する高分子金属錯体が開示されている(特許文献3参照)。しかしながら、実施例に記載されているのは銅イオンとテトラフルオロホウ酸イオンと4,4’−ビピリジルとからなる高分子金属錯体であり、炭化水素系混合ガスの分離において、4,4’−ビピリジル以外の二座配位可能な有機配位子が分離性能に与える効果については何ら言及されていない。
【0010】
二価の金属イオン、前記金属イオンに配位可能な原子を有する二座配位可能な有機配位子、及びハロゲン化二価金属アニオンより構成される三次元構造を有するガス貯蔵可能な有機金属錯体が開示されている(特許文献4参照)。しかしながら、実施例に記載されているのは銅イオンとヘキサフルオロケイ酸イオンと4,4’−ビピリジルとからなる高分子金属錯体、銅イオンとテトラフルオロホウ酸イオンと1,4−ビス(4−ピリジル)ベンゼンとからなる高分子金属錯体、銅イオンとヘキサフルオロゲルマン酸イオンと4,4’−ビピリジルとからなる高分子金属錯体、銅イオンとヘキサフルオロチタン酸イオンと4,4’−ビピリジルとからなる高分子金属錯体及び銅イオンとヘキサフルオロジルコン酸イオンと4,4’−ビピリジルとからなる高分子金属錯体であり、炭化水素系混合ガスの分離において、4,4’−ビピリジル及び1,4−ビス(4−ピリジル)ベンゼン以外の二座配位可能な有機配位子が分離性能に与える効果については何ら言及されていない。
【0011】
銅イオンと、ルイス塩基性アニオンと、1,2−ビス(4−ピリジル)エタン、1,3−ビス(4−ピリジル)プロパン及び4,4’−ジピリジルスルフィドから選択される該金属に二座配位可能な有機配位子とからなる高分子金属錯体が開示されている(特許文献5参照)。しかしながら、実施例に銅イオンとヘキサフルオロリン酸イオンと1,3−ビス(4−ピリジル)プロパンとからなる高分子金属錯体及び銅イオンとテトラフルオロホウ酸イオンと1,3−ビス(4−ピリジル)プロパンとからなる高分子金属錯体の記載はあるが、0006段落においてメタンやエタンなどの分極性の低いガスは細孔の拡張が起きないために金属錯体骨格中にほとんど取り込まれないとの記載があり、これらの金属錯体が炭化水素系混合ガスの分離に有効であることは何ら言及されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2005−232033公報
【特許文献2】特開2005−232034公報
【特許文献3】特開2005−232222公報
【特許文献4】特開2000−117100公報
【特許文献5】特開2009−208028公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
したがって、本発明の目的は、従来よりも優れた炭化水素系混合ガスの分離方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは鋭意検討し、少なくとも1種の金属イオンと、ルイス塩基性アニオンと、該金属イオンに二座配位可能な有機配位子(I)とからなる金属錯体を用いることにより、上記目的を達成することができることを見出し、本発明に至った。
【0015】
すなわち、本発明によれば、以下のものが提供される。
(1)周期表の2族及び7〜12族に属する金属のイオンから選択される少なくとも1種の金属イオンと、ルイス塩基性アニオンと、下記一般式(I);
【0016】
【化1】
【0017】
(式中、X、Y及びZはそれぞれ同一又は異なって炭素原子、窒素原子、酸素原子又は硫黄原子である。X、Y及びZが炭素原子の場合にR1、R2、R3、R4、R5及びR6はそれぞれ同一又は異なって水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、アルコキシ基、ホルミル基、アシロキシ基、アルコキシカルボニル基、ニトロ基、シアノ基、アミノ基、モノアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、アシルアミノ基又はハロゲン原子である。X、Y及びZが窒素原子の場合にR1、R3及びR5は水素原子であり、R2、R4及びR6は存在しない。X、Y及びZが酸素原子又は硫黄原子の場合にR1、R2、R3、R4、R5及びR6は存在しない。A1及びA2は同一又は異なって下記一般式
【0018】
【化2】
【0019】
で表されるピリジル基、
【0020】
【化3】
【0021】
で表されるイミダゾリル基又は
【0022】
【化4】
【0023】
で表されるトリアゾリル基であり、R7、R8、R9、R10、R11、R12、R13、R14及びR15はそれぞれ同一又は異なって水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、アルコキシ基、ホルミル基、アシロキシ基、アルコキシカルボニル基、ニトロ基、シアノ基、アミノ基、モノアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、アシルアミノ基又はハロゲン原子であるか、R12とR13が一緒になって置換基を有していてもよいアルカジエニレン基を形成してもよい。nは1又は2である。)で表される該金属イオンに二座配位可能な有機配位子(I)とからなる金属錯体を用いる炭素数1又は2の炭化水素系混合ガスの分離方法。
(2)該二座配位可能な有機配位子(I)が1,3−ビス(4−ピリジル)プロパン、1,3−ビス(1−イミダゾリル)プロパン、1,3−ビス(1,2,4−トリアゾリル)プロパン、1,4−ビス(4−ピリジル)ブタン、1,4−ビス(1−イミダゾリル)ブタン及び1,4−ビス(1,2,4−トリアゾリル)ブタンから選択される少なくとも1種である金属錯体を用いる(1)に記載の分離方法。
(3)該金属イオンがマンガンイオン、鉄イオン、コバルトイオン、ニッケルイオン及び銅イオンから選択される少なくとも1種の金属イオンである金属錯体を用いる(1)又は(2)に記載の分離方法。
(4)該炭化水素系混合ガスがメタンとエタン、メタンとエチレン、エチレンとエタン又はエチレンとアセチレンである(1)〜(3)のいずれかに記載の分離方法。
(5)該分離方法が金属錯体と炭化水素系混合ガスとを0.01〜10MPaの圧力範囲で接触させる工程を含む(1)〜(4)のいずれかに記載の分離方法。
(6)該分離方法が圧力スイング吸着法又は温度スイング吸着法である(1)〜(5)のいずれかに記載の分離方法。
(7)周期表の2族及び7〜12族に属する金属のイオンから選択される少なくとも1種の金属イオンと、ルイス塩基性アニオンと、下記一般式(I);
【0024】
【化5】
【0025】
(式中、X、Y及びZはそれぞれ同一又は異なって炭素原子、窒素原子、酸素原子又は硫黄原子である。X、Y及びZが炭素原子の場合にR1、R2、R3、R4、R5及びR6はそれぞれ同一又は異なって水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、アルコキシ基、ホルミル基、アシロキシ基、アルコキシカルボニル基、ニトロ基、シアノ基、アミノ基、モノアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、アシルアミノ基又はハロゲン原子である。X、Y及びZが窒素原子の場合にR1、R3及びR5は水素原子であり、R2、R4及びR6は存在しない。X、Y及びZが酸素原子又は硫黄原子の場合にR1、R2、R3、R4、R5及びR6は存在しない。A1及びA2は同一又は異なって下記一般式
【0026】
【化6】
【0027】
で表されるピリジル基、
【0028】
【化7】
【0029】
で表されるイミダゾリル基又は
【0030】
【化8】
【0031】
で表されるトリアゾリル基であり、R7、R8、R9、R10、R11、R12、R13、R14及びR15はそれぞれ同一又は異なって水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、アルコキシ基、ホルミル基、アシロキシ基、アルコキシカルボニル基、ニトロ基、シアノ基、アミノ基、モノアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、アシルアミノ基又はハロゲン原子であるか、R12とR13が一緒になって置換基を有していてもよいアルカジエニレン基を形成してもよい。nは1又は2である。)で表される該金属イオンに二座配位可能な有機配位子(I)とからなる金属錯体からなる炭素数1又は2の炭化水素系混合ガス分離材。
【0032】
(8)該二座配位可能な有機配位子(I)が1,3−ビス(4−ピリジル)プロパン、1,3−ビス(1−イミダゾリル)プロパン、1,3−ビス(1,2,4−トリアゾリル)プロパン、1,4−ビス(4−ピリジル)ブタン、1,4−ビス(1−イミダゾリル)ブタン及び1,4−ビス(1,2,4−トリアゾリル)ブタンから選択される少なくとも1種である金属錯体からなる(7)に記載の分離材。
【発明の効果】
【0033】
本発明により、周期表の2族及び7〜12族に属する金属のイオンから選択される少なくとも1種の金属イオンと、ルイス塩基性アニオンと、該金属イオンに二座配位可能な有機配位子(I)とからなる金属錯体を用いる炭素数1又は2の炭化水素系混合ガスの分離方法を提供することができる。
【0034】
本発明の分離方法は、炭素数1又は2の炭化水素系混合ガスの分離において、高い混合ガス分離性能を発現する分離方法として使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】合成例1で得た金属錯体の粉末X線回折パターンである。
【図2】合成例2で得た金属錯体の粉末X線回折パターンである。
【図3】合成例3で得た金属錯体の粉末X線回折パターンである。
【図4】合成例4で得た金属錯体の粉末X線回折パターンである。
【図5】比較合成例1で得た金属錯体の粉末X線回折パターンである。
【図6】比較合成例2で得た金属錯体の粉末X線回折パターンである。
【図7】比較合成例3で得た金属錯体の粉末X線回折パターンである。
【図8】比較合成例4で得た金属錯体の粉末X線回折パターンである。
【図9】合成例1で得た金属錯体について、メタン及びエタンの298Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果である。
【図10】合成例2で得た金属錯体について、メタン及びエタンの298Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果である。
【図11】合成例3で得た金属錯体について、メタン及びエタンの298Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果である。
【図12】比較合成例1で得た金属錯体について、メタン及びエタンの298Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果である。
【図13】比較合成例2で得た金属錯体について、メタン及びエタンの298Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果である。
【図14】比較合成例3で得た金属錯体について、メタン及びエタンの298Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果である。
【図15】比較合成例4で得た金属錯体について、メタン及びエタンの298Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果である。
【図16】合成例4で得た金属錯体について、メタン及びエチレンの298Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果である。
【図17】比較合成例1で得た金属錯体について、メタン及びエチレンの298Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果である。
【図18】比較合成例2で得た金属錯体について、メタン及びエチレンの298Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果である。
【図19】合成例2で得た金属錯体について、エチレン及びエタンの298Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果である。
【図20】比較合成例1で得た金属錯体について、エチレン及びエタンの298Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果である。
【図21】比較合成例2で得た金属錯体について、エチレン及びエタンの298Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果である。
【図22】比較合成例3で得た金属錯体について、エチレン及びエタンの298Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果である。
【図23】比較合成例4で得た金属錯体について、エチレン及びエタンの298Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果である。
【図24】合成例1で得た金属錯体について、容量比でメタン:エタン=80:20からなるメタンとエタンの混合ガスを用い、298K、0.9MPa、空間速度6min-1における破過曲線を測定した結果である。
【図25】合成例1で得た金属錯体について、メタン及びエタンの273Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
本発明の金属錯体は、周期表の2族及び7〜12族に属する金属のイオンから選択される少なくとも1種の金属イオンと、ルイス塩基性アニオンと、該金属イオンに二座配位可能な有機配位子(I)とからなる。
【0037】
本発明に用いられる周期表の2族及び7〜12族に属する金属のイオンとしては、例えば、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、マンガンイオン、鉄イオン、ルテニウムイオン、コバルトイオン、ロジウムイオン、ニッケルイオン、パラジウムイオン、銅イオン、亜鉛イオン、カドミウムイオンなどを使用することができ、中でもマンガンイオン、鉄イオン、コバルトイオン、ニッケルイオン、銅イオンが好ましい。金属イオンは、単一の金属イオンを使用することが好ましいが、2種以上の金属イオンを混合して用いてもよい。また、本発明の金属錯体は、単一の金属イオンからなる金属錯体を2種以上混合して使用することもできる。
【0038】
該金属イオンは金属塩の形で用いてもよい。金属塩としては、例えば、マグネシウム塩、カルシウム塩、マンガン塩、鉄塩、ルテニウム塩、コバルト塩、ロジウム塩、ニッケル塩、パラジウム塩、銅塩、亜鉛塩、カドミウム塩などを使用することができ、中でもマンガン塩、鉄塩、コバルト塩、ニッケル塩、銅塩が好ましい。金属塩は、単一の金属塩を使用することが好ましいが、2種以上の金属塩を混合して用いてもよい。また、これらの金属塩としては、酢酸塩、ギ酸塩などの有機酸塩、硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩、塩酸塩、臭化水素酸塩などの無機酸塩を使用することができる。
【0039】
本発明に用いられるルイス塩基性アニオンとしては、例えば、テトラフルオロホウ酸イオン、ヘキサフルオロリン酸イオン、ヘキサフルオロヒ酸イオン、ヘキサフルオロアンチモン酸イオン、ギ酸イオン、酢酸イオン、メタンスルホン酸イオン、ベンゼンスルホン酸イオン、トリフルオロ酢酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、ビス(トリフルオロメタンスルホン酸)イミドなどを使用することができ、中でもテトラフルオロホウ酸イオン、ヘキサフルオロリン酸イオン、ヘキサフルオロヒ酸イオン、ヘキサフルオロアンチモン酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオンが好ましく、テトラフルオロホウ酸イオン、ヘキサフルオロリン酸イオンがより好ましい。アニオンは、2種以上のアニオンを混合して用いても良い。ここで、ルイス塩基性のアニオンとは化学的に安定で還元性や求核性をほとんど示さないアニオンを意味する。
【0040】
本発明に用いられるルイス塩基性アニオンは、金属塩のカウンターアニオンをそのまま使用してもよく、他のカウンターアニオンを有する金属錯体を前記ルイス塩基性アニオンのアルカリ金属塩と反応させて、ルイス塩基性アニオンを有する金属錯体に変換して使用しても良い。
【0041】
本発明に用いられる二座配位可能な有機配位子(I)は、下記一般式(I);
【0042】
【化9】
【0043】
式中、X、Y及びZはそれぞれ同一又は異なって炭素原子、窒素原子、酸素原子又は硫黄原子である。X、Y及びZが炭素原子の場合にR1、R2、R3、R4、R5及びR6(X、Y及びZの各々に対し、R1並びにR2、R3並びにR4、及びR5並びにR6の各々が対応)はそれぞれ同一又は異なって水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、アルコキシ基、ホルミル基、アシロキシ基、アルコキシカルボニル基、ニトロ基、シアノ基、アミノ基、モノアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、アシルアミノ基又はハロゲン原子である。X、Y及びZが窒素原子の場合にR1、R3及びR5はそれぞれ水素原子であり、R2、R4及びR6はそれぞれ存在しない。X、Y及びZが酸素原子又は硫黄原子の場合にR1、R2、R3、R4、R5及びR6(X、Y及びZの各々に対し、R1並びにR2、R3並びにR4、及びR5並びにR6の各々が対応)は存在しない。なお「X、Y及びZが炭素原子」、「X、Y及びZが窒素原子の場合」、及び「X、Y及びZが酸素原子又は硫黄原子の場合」とは、X、Y及びZのいずれもが係る同じ原子である場合のみを指すわけではなく、X、Y及びZの少なくともいずれかが係る原子であることを指す。
A1及びA2は同一又は異なって下記一般式
【0044】
【化10】
【0045】
で表されるピリジル基、
【0046】
【化11】
【0047】
で表されるイミダゾリル基又は
【0048】
【化12】
【0049】
で表されるトリアゾリル基であり、R7、R8、R9、R10、R11、R12、R13、R14及びR15はそれぞれ同一又は異なって水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、アルコキシ基、ホルミル基、アシロキシ基、アルコキシカルボニル基、ニトロ基、シアノ基、アミノ基、モノアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、アシルアミノ基又はハロゲン原子であるか、R12とR13が一緒になって置換基を有していてもよいアルカジエニレン基を形成してもよい。nは1又は2である。
【0050】
上記R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、R10、R11、R12、R13、R14及びR15を構成することのできる置換基の内、アルキル基又はアルコキシ基の炭素原子数は1〜5が好ましい。アルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基などの直鎖又は分岐を有するアルキル基が、アルコキシ基の例としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基,n−ブトキシ基、イソブトキシ基、tert−ブトキシ基が、アシロキシ基の例としては、アセトキシ基、n−プロパノイルオキシ基、n−ブタノイルオキシ基、ピバロイルオキシ基、ベンゾイルオキシ基が、アルコキシカルボニル基の例としては、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n−ブトキシカルボニル基が、モノアルキルアミノ基の例としては、メチルアミノ基が、ジアルキルアミノ基の例としては、ジメチルアミノ基が、アシルアミノ基の例としては、アセチルアミノ基が、ハロゲン原子の例としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が、それぞれ挙げられる。また、該アルキル基等が有していてもよい置換基の例としては、アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基,n−ブトキシ基、イソブトキシ基、tert−ブトキシ基など)、アミノ基、モノアルキルアミノ基(メチルアミノ基など)、ジアルキルアミノ基(ジメチルアミノ基など)、ホルミル基、エポキシ基、アシロキシ基(アセトキシ基、n−プロパノイルオキシ基、n−ブタノイルオキシ基、ピバロイルオキシ基、ベンゾイルオキシ基など)、アルコキシカルボニル基(メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n−ブトキシカルボニル基など)、カルボン酸無水物基(−CO−O−CO−R基)(Rは炭素数1〜5のアルキル基である)などが挙げられる。アルキル基の置換基の数は、1〜3個が好ましく、1個がより好ましい。
【0051】
上記アルカジエニレン基の炭素数は、4が好ましい。アルカジエニレン基の炭素数が4の場合、R12とR13はそれらが結合している炭素原子と一緒になって6員環(ベンゼン環)を構成する。このようなイミダゾリル基の例としては、ベンゾイミダゾリル基が挙げられる。
【0052】
また、該アルカジエニレン基が有していてもよい置換基の例としては、アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基,n−ブトキシ基、イソブトキシ基、tert−ブトキシ基など)、アミノ基、モノアルキルアミノ基(メチルアミノ基など)、ジアルキルアミノ基(ジメチルアミノ基など)、ホルミル基、エポキシ基、アシロキシ基(アセトキシ基、n−プロパノイルオキシ基、n−ブタノイルオキシ基、ピバロイルオキシ基、ベンゾイルオキシ基など)、アルコキシカルボニル基(メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n−ブトキシカルボニル基など)、カルボン酸無水物基(−CO−O−CO−R基)(Rは炭素数1〜5のアルキル基である)などが挙げられる。
【0053】
二座配位可能な有機配位子(I)としては、例えば、1,3−ビス(4−ピリジル)プロパン、1,3−ビス(1−イミダゾリル)プロパン、1,3−ビス(1,2,4−トリアゾリル)プロパン、1,4−ビス(4−ピリジル)ブタン、1,4−ビス(1−イミダゾリル)ブタン、1,4−ビス(1,2,4−トリアゾリル)ブタンなどを使用することができ、中でも1,3−ビス(4−ピリジル)プロパンが好ましい。ここで、二座配位可能な有機配位子とは非共有電子対で金属イオンに対して配位できる部位を少なくとも2箇所持つ中性配位子を意味する。
【0054】
本発明の金属錯体は、周期表の2族及び7〜12族に属する金属イオンの塩から選択される少なくとも1種の金属塩と、ルイス塩基性アニオンと、該金属イオンに二座配位可能な有機配位子(I)とを、気相、液相又は固相のいずれかで反応させることで製造することができるが、常圧下、溶媒中で数時間から数日間反応させ、析出させて製造することが好ましい。
【0055】
金属錯体を製造するときのルイス塩基性アニオンと二座配位可能な有機配位子(I)の混合比率は、ルイス塩基性アニオン:二座配位可能な有機配位子(I)=1:5〜5:1のモル比の範囲内が好ましく、1:3〜3:1のモル比の範囲内がより好ましい。これ以外の範囲で反応を行っても目的とする金属錯体は得られるが、収率が低下し、副反応も増えるために好ましくない。
【0056】
金属錯体を製造するときの金属塩と二座配位可能な有機配位子(I)の混合比率は、金属塩:二座配位可能な有機配位子(I)=3:1〜1:3のモル比の範囲内が好ましく、2:1〜1:2のモル比の範囲内がより好ましい。これ以外の範囲では目的とする金属錯体の収率が低下し、また、未反応の原料が残留して得られた金属錯体の精製が困難になる。
【0057】
金属錯体を製造するときの金属塩がルイス塩基性アニオン以外の他のカウンターアニオンを有する場合には、他のカウンターアニオンの含有量はルイス塩基性アニオンよりも少なくなることが好ましい。これ以外の範囲で反応を行っても目的とする金属錯体は得られるが、収率が低下し、副反応も増えるために好ましくない。
【0058】
金属錯体を製造するための溶媒における金属塩のモル濃度は、0.005〜5.0mol/Lが好ましく、0.01〜2.0mol/Lがより好ましい。これより低い濃度で反応を行っても目的とする金属錯体は得られるが、収率が低下するため好ましくない。また、これより高い濃度では未反応の金属塩が残留し、得られた金属錯体の精製が困難になる。
【0059】
金属錯体を製造するための溶媒におけるルイス塩基性アニオンのモル濃度は、0.001〜5.0mol/Lが好ましく、0.005〜2.0mol/Lがより好ましい。これより低い濃度で反応を行っても目的とする金属錯体は得られるが、収率が低下するため好ましくない。また、これより高い濃度では溶解性が低下し、反応が円滑に進行しない。
【0060】
金属錯体を製造するための溶媒における二座配位可能な有機配位子(I)のモル濃度は、0.001〜5.0mol/Lが好ましく、0.005〜2.0mol/Lがより好ましい。これより低い濃度で反応を行っても目的とする金属錯体は得られるが、収率が低下するため好ましくない。また、これより高い濃度では溶解性が低下し、反応が円滑に進行しない。
【0061】
金属錯体の製造に用いる溶媒としては、有機溶媒、水又はそれらの混合溶媒を使用することができる。具体的には、メタノール、エタノール、プロパノール、ジエチルエーテル、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、塩化メチレン、クロロホルム、アセトン、酢酸エチル、アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、水又はこれらの混合溶媒を使用することができる。反応温度としては、253〜423Kが好ましい。
【0062】
反応が終了したことはガスクロマトグラフィー又は高速液体クロマトグラフィーにより原料の残存量を定量することにより確認することができる。反応終了後、得られた混合液を吸引濾過に付して沈殿物を集め、有機溶媒による洗浄後、373K程度で数時間真空乾燥することにより、本発明の金属錯体を得ることができる。
【0063】
金属錯体を構成する各成分の組成比は、例えば、単結晶X線構造解析、粉末X線結晶構造解析又は元素分析などにより確認できるが、これらに限定されるものではない。
【0064】
本発明の金属錯体における三次元構造は、合成後の結晶においても変化できるため、その変化に伴って、細孔の構造や大きさも変化する。この構造が変化する条件は、吸着される物質の種類、吸着圧力、吸着温度に依存する。すなわち、細孔表面と物質の相互作用の差に加え、吸着する物質により構造変化の程度が異なるため、高い選択性が発現する。本発明では、金属イオンとそのカウンターアニオンである塩基性アニオンの間の相互作用を制御すること、すなわち、金属イオンと一般式(I)で表される二座配位可能な有機配位子とからなる一次元鎖状構造からなる細孔表面の電荷密度を制御することで、高いガス分離性能が発現する。吸着された物質が脱着した後は、元の構造に戻るので、細孔の大きさも元に戻る。
【0065】
前記の選択吸着メカニズムは推定ではあるが、例え前記メカニズムに従っていない場合でも、本発明で規定する要件を満足するのであれば、本発明の技術的範囲に包含される。
【0066】
本発明に用いる金属錯体は、吸着圧力又は吸着温度を制御することで各種ガスを選択的に吸着することができるので、炭素数1又は2の炭化水素(メタン、エタン、エチレン、アセチレン)系混合ガスを分離するための分離材として好ましく、特に、メタン中のエタン、エチレン中のエタン又はエチレン中のアセチレンなどを、圧力スイング吸着法や温度スイング吸着法により分離するのに適している。
【0067】
分離方法は、ガスが金属錯体に吸着できる条件でガスと本発明の金属錯体とを接触させる工程を含む。ガスが金属錯体に吸着できる条件である吸着圧力及び吸着温度は、吸着される物質の種類に応じて適宜設定することができる。例えば、吸着圧力は0.01〜10MPaが好ましく、0.1〜3.5MPaがより好ましい。また、吸着温度は195K〜343Kが好ましく、273〜313Kがより好ましい。
【0068】
分離方法は、圧力スイング吸着法又は温度スイング吸着法とすることができる。分離方法が圧力スイング吸着法である場合は、分離方法はさらに、圧力を、吸着圧力からガスを金属錯体から脱着させることができる圧力まで昇圧させる工程を含む。脱着圧力は、吸着される物質の種類に応じて適宜設定することができる。例えば、脱着圧力は0.005〜2MPaが好ましく、0.01〜0.1MPaがより好ましい。分離方法が温度スイング吸着法である場合は、分離方法はさらに、温度を、吸着温度からガスを金属錯体から脱着させることができる温度まで昇温させる工程を含む。脱着温度は、吸着される物質の種類に応じて適宜設定することができる。例えば、脱着温度は273〜473Kが好ましく、298〜373Kがより好ましい。
【0069】
分離方法は、圧力スイング吸着法又は温度スイング吸着法である場合、ガスと金属錯体とを接触させる工程と、ガスを金属錯体から脱着させることができる圧力又は温度まで変化させる工程を、適宜繰り返すことができる。
【実施例】
【0070】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下の実施例および比較例における分析および評価は次のようにして行った。
【0071】
(1)粉末X線回折パターンの測定
X線回折装置を用いて、回折角(2θ)=5〜50°の範囲を走査速度1°/分で走査し、対称反射法で測定した。測定条件の詳細を以下に示す。
<分析条件>
装置:株式会社リガク製RINT2400
X線源:CuKα(λ=1.5418Å) 40kV 200mA
ゴニオメーター:縦型ゴニオメーター
検出器:シンチレーションカウンター
ステップ幅:0.02°
スリット:発散スリット=0.5°
受光スリット=0.15mm
散乱スリット=0.5°
【0072】
(2)元素分析
炭素、水素及び窒素については、炭素・水素・窒素同時測定装置を用いて定量した。また、フッ素については、陰イオンクロマトグラフィー装置を用いて定量した。測定条件の詳細を以下に示す。
<分析条件>
≪炭素・水素・窒素≫
装置:株式会社ジェイ・サイエンス・ラボ製MICRO CORDER JM10
燃焼温度:950℃
燃焼時間:4分
≪フッ素・硫黄≫
装置:日本ダイオネクス株式会社製イオンクロマトグラフDX―500
カラム:AS12A
カラム温度:30℃
検出器温度:35℃
流速:1.5mL/分
【0073】
(3)吸脱着等温線の測定
高圧ガス吸着量測定装置を用いて容量法(JIS Z8831−2に準拠)により測定を行った。このとき、測定に先立って試料を373K、50Paで10時間乾燥し、吸着水などを除去した。分析条件の詳細を以下に示す。
<分析条件>
装置:日本ベル株式会社製BELSORP−HP
平衡待ち時間:500秒
【0074】
(4)破過曲線の測定
ガス流量計とバルブ類を備えたステンレスチューブでボンベと接続した内容積10mLの耐圧ガラス容器を用意した。測定は、耐圧ガラス容器に試料を入れ、373K、7Paで3時間乾燥し、吸着水などを除去した後に、混合ガスを流通させることで行った。このとき、出口ガスを2分おきにサンプリングし、ガスクロマトグラフィーで分析することで出口ガスの組成を算出した(入口ガスの組成はあらかじめガスクロマトグラフィーを用いて測定)。分析条件の詳細を以下に示す。
<分析条件>
装置:株式会社島津製作所製GC−14B
カラム:ジーエルサイエンス株式会社製Unibeads C 60/80
カラム温度:200℃
キャリアガス:ヘリウム
注入量:1.0mL
検出器:TCD
【0075】
<合成例1>
窒素雰囲気下、テトラフルオロホウ酸銅六水和物1.55g(4.5mmol)を水100mLに溶解させ、353Kで1時間攪拌した。続いて、1,3−ビス(4−ピリジル)プロパン1.99g(10mmol)のアセトン溶液100mLを1時間かけて滴下した。その後、353Kで3時間攪拌した。析出した金属錯体を吸引濾過により回収した後、水で3回、続いてアセトンで3回洗浄し、目的の金属錯体2.55g(収率67%)を得た。得られた金属錯体の粉末X線回折パターンを図1に示す。得られた金属錯体を373K、50Paで8時間乾燥し、元素分析を行った結果、その組成比は、銅イオン:テトラフルオロホウ酸イオン:1,3−ビス(4−ピリジル)プロパン=1:2:2であった。
実測値 C:48.59,H:4.41,N:8.78,F:23.95 (%)
理論値 C:49.28,H:4.45,N:8.84,F:23.98 (%)
【0076】
<合成例2>
窒素雰囲気下、過塩素酸銅六水和物3.71g(10mmol)及びヘキサフルオロリン酸カリウム3.68g(20mmol)を水200mLに溶解させ、298Kで30分間攪拌した後、吸引濾過により不溶物を除去した。続いて、濾液に1,3−ビス(4−ピリジル)プロパン3.97g(20mmol)のアセトン溶液200mLを1時間かけて滴下した。その後、298Kで1時間攪拌した。析出した金属錯体を吸引濾過により回収した後、アセトンで3回洗浄し、目的の金属錯体6.41g(収率74%)を得た。得られた金属錯体の粉末X線回折パターンを図2に示す。得られた金属錯体を373K、50Paで8時間乾燥し、元素分析を行った結果、その組成比は、銅イオン:ヘキサフルオロリン酸イオン:1,3−ビス(4−ピリジル)プロパン=1:2:2であった。
実測値 C:41.74,H:3.90,N:7.51,F:30.37 (%)
理論値 C:41.64,H:3.76,N:7.47,F:30.40 (%)
【0077】
<合成例3>
窒素雰囲気下、過塩素酸銅六水和物333mg(0.90mmol)及びヘキサフルオロリン酸カリウム663mg(3.6mmol)をメタノール4.5mLに溶解させ、298Kで30分間攪拌した後、吸引濾過により不純物を除去した。続いて、濾液にトリフルオロメタンスルホン酸銅36.0mg(0.10mmol)の水溶液5.0mLと1,3−ビス(4−ピリジル)プロパン397mg(2.0mmol)のアセトン溶液10mLを加え、298Kで20分間攪拌した。析出した金属錯体を吸引濾過により回収した後、水で3回、続いてアセトンで3回洗浄し、目的の金属錯体765mg(収率88%)を得た。得られた金属錯体の粉末X線回折パターンを図3に示す。得られた金属錯体を373K、50Paで8時間乾燥し、元素分析を行った結果、その組成比は、銅イオン:ヘキサフルオロリン酸イオン:トリフルオロメタンスルホン酸イオン:1,3−ビス(4−ピリジル)プロパン=1:1.8:0.2:2であった。
【0078】
実測値 C:41.72,H:3.70,N:7.34,F:30.00,S:0.82 (%)
理論値 C:41.91,H:3.76,N:7.46,F:28.85,S:0.85 (%)
【0079】
<合成例4>
窒素雰囲気下、トリフルオロメタンスルホン酸銅362mg(1.0mmol)を水20mLに溶解させ、298Kで1時間攪拌した。続いて、1,3−ビス(1−イミダゾリル)プロパン352mg(2.0mmol)のアセトン40mL溶液を1時間かけて滴下した。この後、298Kで24時間撹拌した。析出した金属錯体を吸引濾過により回収した後、水で3回、続いてアセトンで3回洗浄し、目的の金属錯体605mg(収率73%)を得た。得られた金属錯体の粉末X線回折パターンを図4に示す。得られた金属錯体を373K、50Paで8時間乾燥し、元素分析を行った結果、その組成比は、銅イオン:トリフルオロメタンスルホン酸イオン:1,3−ビス(1−イミダゾリル)プロパン=1:2:2であった。
実測値 C:33.31,H:3.42,N:15.59 (%)
理論値 C:33.64,H:3.39,N:15.69 (%)
【0080】
<比較合成例1>
窒素雰囲気下、テトラフルオロホウ酸銅六水和物3.45g(10mmol)を水200mLに溶解させ、298Kで30分攪拌した。続いて、1,2−ビス(4−ピリジル)エタン3.69g(20mmol)のアセトン溶液200mLを1時間かけて滴下した。その後、298Kで1時間攪拌した。析出した金属錯体を吸引濾過により回収した後、アセトンで3回洗浄し、目的の金属錯体5.99g(収率83%)を得た。得られた金属錯体の粉末X線回折パターンを図5に示す。
【0081】
<比較合成例2>
窒素雰囲気下、テトラフルオロホウ酸銅六水和物3.45g(10mmol)及びヘキサフルオロリン酸カリウム3.68g(20mmol)を水200mLに溶解させ、298Kで30分間攪拌した後、吸引濾過により不溶物を除去した。続いて、濾液に1,2−ビス(4−ピリジル)エタン3.69g(20mmol)のアセトン溶液200mLを1時間かけて滴下した。その後、298Kで1時間攪拌した。析出した金属錯体を吸引濾過により回収した後、アセトンで3回洗浄し、目的の金属錯体6.71g(収率80%)を得た。得られた金属錯体の粉末X線回折パターンを図6に示す。
【0082】
<比較合成例3>
窒素雰囲気下、塩化銅(II)二水和物170mg(1.0mmol)及びヘキサフルオロリン酸銀505mg(2.0mmol)をメタノール5.0mLに溶解させ、298Kで30分間攪拌した後、吸引濾過により不純物を除去した。続いて、濾液に4,4’−ビピリジル312mg(2.0mmol)のメタノール溶液5mLを加え、298Kで30分間攪拌した。析出した金属錯体を吸引濾過により回収した後、メタノールで3回洗浄し、目的の金属錯体432mg(収率60%)を得た。得られた金属錯体の粉末X線回折パターンを図7に示す。
【0083】
<比較合成例4>
窒素雰囲気下、4,4’−ビピリジル2.35g(15mmol)をメタノール250mLに溶解させた。続いて、トリフルオロメタンスルホン酸銅2.72g(7.5mmol)の水溶液250mLを1時間かけて滴下した。その後、298Kで1時間攪拌した。吸引濾過の後、メタノールで3回洗浄し、目的の錯体3.17g(収率54%)を得た。得られた金属錯体の粉末X線回折パターンを図8に示す。
【0084】
<実施例1>
合成例1で得た金属錯体について、メタン及びエタンの298Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した。結果を図9に示す。
【0085】
<実施例2>
合成例2で得た金属錯体について、メタン及びエタンの298Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した。結果を図10に示す。
【0086】
<実施例3>
合成例3で得た金属錯体について、メタン及びエタンの298Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した。結果を図11に示す。
【0087】
<比較例1>
比較合成例1で得た金属錯体について、メタン及びエタンの298Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した。結果を図12に示す。
【0088】
<比較例2>
比較合成例2で得た金属錯体について、メタン及びエタンの298Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した。結果を図13に示す。
【0089】
<比較例3>
比較合成例3で得た金属錯体について、メタン及びエタンの298Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した。結果を図14に示す。
【0090】
<比較例4>
比較合成例4で得た金属錯体について、メタン及びエタンの298Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した。結果を図15に示す。
【0091】
図9、図10及び図11と、図12、図13、図14及び図15との比較より、本発明の構成要件を満たす合成例1、合成例2及び合成例3で得た金属錯体は圧力の増加と共にエタンを選択的に吸着し、その吸着量は本発明の構成要件を満たさない比較合成例1、比較合成例2、比較合成例3及び比較合成例4で得た金属錯体よりも多く、また、圧力の減少と共にエタンを放出するので、本発明の金属錯体がメタンとエタンの分離材として優れていることは明らかである。
【0092】
<実施例4>
合成例4で得た金属錯体について、メタン及びエチレンの298Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した。結果を図16に示す。
≪図16≫
【0093】
<比較例5>
比較合成例1で得た金属錯体について、メタン及びエチレンの298Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した。結果を図17に示す。
【0094】
<比較例6>
比較合成例2で得た金属錯体について、メタン及びエチレンの298Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した。結果を図18に示す。
【0095】
図16と、図17及び図18との比較より、本発明の構成要件を満たす合成例4で得た金属錯体は圧力の増加と共にエチレンを選択的に吸着し、その吸着量は本発明の構成要件を満たさない比較合成例1及び比較合成例2で得た金属錯体よりも多く、また、圧力の減少と共にエチレンを放出するので、本発明の金属錯体がメタンとエチレンの分離材として優れていることは明らかである。
【0096】
<実施例5>
合成例2で得た金属錯体について、エチレン及びエタンの298Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した。結果を図19に示す。
【0097】
<比較例7>
比較合成例1で得た金属錯体について、エチレン及びエタンの298Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した。結果を図20に示す。
【0098】
<比較例8>
比較合成例2で得た金属錯体について、エチレン及びエタンの298Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した。結果を図21に示す。
【0099】
<比較例9>
比較合成例3で得た金属錯体について、エチレン及びエタンの298Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した。結果を図22に示す。
【0100】
<比較例10>
比較合成例4で得た金属錯体について、エチレン及びエタンの298Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した。結果を図23に示す。
【0101】
図19と、図20、図21、図22及び図23との比較より、本発明の構成要件を満たす合成例2で得た金属錯体は0.55MPa以上でエタンを、0.62MPaでエチレンを吸着し、エチレンとエタンの吸着開始圧力が異なるのに対し、本発明の構成要件を満たさない比較合成例1、比較合成例2比較合成例3及び比較合成例4で得た金属錯体はいずれも圧力に比例してエチレンとエタン共に吸着量が増大するので、本発明の金属錯体がエチレンとエタンの分離材として優れていることは明らかである。
【0102】
<実施例6>
合成例1で得た金属錯体について、容量比でメタン:エタン=80:20からなるメタンとエタンの混合ガスを用い、298K、0.9MPa、空間速度6min-1における破過曲線の測定を行い、ガス分離性能を評価した。結果を図24に示す。
【0103】
図24より、本発明の構成要件を満たす合成例1で得た金属錯体はエタンを優先的に吸着し、メタンを95%以上にまで濃縮することができるので、本発明の金属錯体がメタンとエタンの分離材として使用できることは明らかである。また、図9より、本発明の金属錯体は、圧力の減少と共に吸着したエタンを放出するので、圧力スイング吸着法に用いる分離材として使用できることは明らかである。
【0104】
<実施例7>
合成例1で得た金属錯体について、メタン及びエタンの273Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した。結果を図25に示す。
【0105】
図9と、図25との比較より、本発明の構成要件を満たす合成例1で得た金属錯体の吸着開始圧力は温度に依存し、制御可能であることが分かる。この特徴を利用することにより、従来の分離材を用いる場合に比べて、温度スイング吸着法において分離度の向上が可能であることは明らかである。
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化水素系混合ガスの分離方法に関する。さらに詳しくは、少なくとも1種の金属イオンと、ルイス塩基性アニオンと、該金属に二座配位可能な有機配位子とからなる金属錯体を用いる炭素数1又は2の炭化水素系混合ガスの分離方法に関する。本発明の分離方法は、メタンとエタン、メタンとエチレン、エチレンとエタン、エチレンとアセチレンなどの分離方法として好ましい。
【背景技術】
【0002】
これまで、脱臭、排ガス処理などの分野で種々の吸着材が開発されている。活性炭はその代表例であり、活性炭の優れた吸着性能を利用して、空気浄化、脱硫、脱硝、有害物質除去など各種工業において広く使用されている。近年は半導体製造プロセスなどへ窒素の需要が増大しており、かかる窒素を製造する方法として、分子ふるい炭を使用して圧力スイング吸着法や温度スイング吸着法により空気から窒素を製造する方法が使用されている。また、分子ふるい炭は、メタノール分解ガスからの水素精製など各種ガス分離精製にも応用されている。
【0003】
圧力スイング吸着法や温度スイング吸着法により混合ガスを分離する際には、一般に、分離吸着材として分子ふるい炭やゼオライトなどを使用し、その平衡吸着量又は吸着速度の差により分離を行っている。しかしながら、平衡吸着量の差によって混合ガスを分離する場合、これまでの吸着材では除去したいガスのみを選択的に吸着することができないため分離係数が小さくなり、装置の大型化は不可避であった。また、吸着速度の差によって混合ガスを分離する場合、ガスの種類によっては除去したいガスのみを吸着できるが、吸着と脱着を交互に行う必要があり、この場合も装置は依然として大型にならざるを得なかった。
【0004】
一方、より優れた吸着性能を与える吸着材として、外部刺激により動的構造変化を生じる高分子金属錯体が開発されている。この新規な動的構造変化高分子金属錯体をガス吸着材として使用した場合、ある一定の圧力まではガスを吸着しないが、ある一定圧を越えるとガス吸着が始まるという特異な現象が観測されている。また、ガスの種類によって吸着開始圧が異なる現象が観測されている。
【0005】
この現象を、例えば圧力スイング吸着方式のガス分離装置における吸着材に応用した場合、非常に効率良いガス分離が可能となる。また、圧力のスイング幅を狭くすることができ、省エネルギーにも寄与する。さらに、ガス分離装置の小型化にも寄与し得るため、高純度ガスを製品として販売する際のコスト競争力を高めることができることは勿論、自社工場内部で高純度ガスを用いる場合であっても、高純度ガスを必要とする設備に要するコストを削減できるため、結局最終製品の製造コストを削減する効果を有する。
【0006】
しかしながら、さらなる装置小型化によるコスト削減が求められているのが現状であり、これを達成するために分離性能のさらなる向上が求められている。
【0007】
[X(CF3SO3)2L2]n(式中、Xは2価の遷移金属イオン、Lは有機配位子である。)の単位構造を有する高分子金属錯体が開示されている(特許文献1参照)。しかしながら、実施例に記載されているのは銅イオンとトリフルオロメタンスルホン酸イオンと4,4’−ビピリジルとからなる高分子金属錯体であり、炭化水素系混合ガスの分離において、4,4’−ビピリジル以外の二座配位可能な有機配位子が分離性能に与える効果については何ら言及されていない。
【0008】
[NiY2L2]n(式中、Yは対イオン、Lは有機配位子である。)の単位構造を有する高分子金属錯体が開示されている(特許文献2参照)。しかしながら、実施例に記載されているのはニッケルイオンとテトラフルオロホウ酸イオンと1,4−ビス(4−ピリジル)ベンゼンとからなる高分子金属錯体であり、炭化水素系混合ガスの分離において、1,4−ビス(4−ピリジル)ベンゼン以外の二座配位可能な有機配位子が分離性能に与える効果については何ら言及されていない。
【0009】
[XY2L2]n(式中、Xは2価の遷移金属イオン、Yは対イオン、Lは有機配位子である。)の単位構造を有する高分子金属錯体が開示されている(特許文献3参照)。しかしながら、実施例に記載されているのは銅イオンとテトラフルオロホウ酸イオンと4,4’−ビピリジルとからなる高分子金属錯体であり、炭化水素系混合ガスの分離において、4,4’−ビピリジル以外の二座配位可能な有機配位子が分離性能に与える効果については何ら言及されていない。
【0010】
二価の金属イオン、前記金属イオンに配位可能な原子を有する二座配位可能な有機配位子、及びハロゲン化二価金属アニオンより構成される三次元構造を有するガス貯蔵可能な有機金属錯体が開示されている(特許文献4参照)。しかしながら、実施例に記載されているのは銅イオンとヘキサフルオロケイ酸イオンと4,4’−ビピリジルとからなる高分子金属錯体、銅イオンとテトラフルオロホウ酸イオンと1,4−ビス(4−ピリジル)ベンゼンとからなる高分子金属錯体、銅イオンとヘキサフルオロゲルマン酸イオンと4,4’−ビピリジルとからなる高分子金属錯体、銅イオンとヘキサフルオロチタン酸イオンと4,4’−ビピリジルとからなる高分子金属錯体及び銅イオンとヘキサフルオロジルコン酸イオンと4,4’−ビピリジルとからなる高分子金属錯体であり、炭化水素系混合ガスの分離において、4,4’−ビピリジル及び1,4−ビス(4−ピリジル)ベンゼン以外の二座配位可能な有機配位子が分離性能に与える効果については何ら言及されていない。
【0011】
銅イオンと、ルイス塩基性アニオンと、1,2−ビス(4−ピリジル)エタン、1,3−ビス(4−ピリジル)プロパン及び4,4’−ジピリジルスルフィドから選択される該金属に二座配位可能な有機配位子とからなる高分子金属錯体が開示されている(特許文献5参照)。しかしながら、実施例に銅イオンとヘキサフルオロリン酸イオンと1,3−ビス(4−ピリジル)プロパンとからなる高分子金属錯体及び銅イオンとテトラフルオロホウ酸イオンと1,3−ビス(4−ピリジル)プロパンとからなる高分子金属錯体の記載はあるが、0006段落においてメタンやエタンなどの分極性の低いガスは細孔の拡張が起きないために金属錯体骨格中にほとんど取り込まれないとの記載があり、これらの金属錯体が炭化水素系混合ガスの分離に有効であることは何ら言及されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2005−232033公報
【特許文献2】特開2005−232034公報
【特許文献3】特開2005−232222公報
【特許文献4】特開2000−117100公報
【特許文献5】特開2009−208028公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
したがって、本発明の目的は、従来よりも優れた炭化水素系混合ガスの分離方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは鋭意検討し、少なくとも1種の金属イオンと、ルイス塩基性アニオンと、該金属イオンに二座配位可能な有機配位子(I)とからなる金属錯体を用いることにより、上記目的を達成することができることを見出し、本発明に至った。
【0015】
すなわち、本発明によれば、以下のものが提供される。
(1)周期表の2族及び7〜12族に属する金属のイオンから選択される少なくとも1種の金属イオンと、ルイス塩基性アニオンと、下記一般式(I);
【0016】
【化1】
【0017】
(式中、X、Y及びZはそれぞれ同一又は異なって炭素原子、窒素原子、酸素原子又は硫黄原子である。X、Y及びZが炭素原子の場合にR1、R2、R3、R4、R5及びR6はそれぞれ同一又は異なって水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、アルコキシ基、ホルミル基、アシロキシ基、アルコキシカルボニル基、ニトロ基、シアノ基、アミノ基、モノアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、アシルアミノ基又はハロゲン原子である。X、Y及びZが窒素原子の場合にR1、R3及びR5は水素原子であり、R2、R4及びR6は存在しない。X、Y及びZが酸素原子又は硫黄原子の場合にR1、R2、R3、R4、R5及びR6は存在しない。A1及びA2は同一又は異なって下記一般式
【0018】
【化2】
【0019】
で表されるピリジル基、
【0020】
【化3】
【0021】
で表されるイミダゾリル基又は
【0022】
【化4】
【0023】
で表されるトリアゾリル基であり、R7、R8、R9、R10、R11、R12、R13、R14及びR15はそれぞれ同一又は異なって水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、アルコキシ基、ホルミル基、アシロキシ基、アルコキシカルボニル基、ニトロ基、シアノ基、アミノ基、モノアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、アシルアミノ基又はハロゲン原子であるか、R12とR13が一緒になって置換基を有していてもよいアルカジエニレン基を形成してもよい。nは1又は2である。)で表される該金属イオンに二座配位可能な有機配位子(I)とからなる金属錯体を用いる炭素数1又は2の炭化水素系混合ガスの分離方法。
(2)該二座配位可能な有機配位子(I)が1,3−ビス(4−ピリジル)プロパン、1,3−ビス(1−イミダゾリル)プロパン、1,3−ビス(1,2,4−トリアゾリル)プロパン、1,4−ビス(4−ピリジル)ブタン、1,4−ビス(1−イミダゾリル)ブタン及び1,4−ビス(1,2,4−トリアゾリル)ブタンから選択される少なくとも1種である金属錯体を用いる(1)に記載の分離方法。
(3)該金属イオンがマンガンイオン、鉄イオン、コバルトイオン、ニッケルイオン及び銅イオンから選択される少なくとも1種の金属イオンである金属錯体を用いる(1)又は(2)に記載の分離方法。
(4)該炭化水素系混合ガスがメタンとエタン、メタンとエチレン、エチレンとエタン又はエチレンとアセチレンである(1)〜(3)のいずれかに記載の分離方法。
(5)該分離方法が金属錯体と炭化水素系混合ガスとを0.01〜10MPaの圧力範囲で接触させる工程を含む(1)〜(4)のいずれかに記載の分離方法。
(6)該分離方法が圧力スイング吸着法又は温度スイング吸着法である(1)〜(5)のいずれかに記載の分離方法。
(7)周期表の2族及び7〜12族に属する金属のイオンから選択される少なくとも1種の金属イオンと、ルイス塩基性アニオンと、下記一般式(I);
【0024】
【化5】
【0025】
(式中、X、Y及びZはそれぞれ同一又は異なって炭素原子、窒素原子、酸素原子又は硫黄原子である。X、Y及びZが炭素原子の場合にR1、R2、R3、R4、R5及びR6はそれぞれ同一又は異なって水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、アルコキシ基、ホルミル基、アシロキシ基、アルコキシカルボニル基、ニトロ基、シアノ基、アミノ基、モノアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、アシルアミノ基又はハロゲン原子である。X、Y及びZが窒素原子の場合にR1、R3及びR5は水素原子であり、R2、R4及びR6は存在しない。X、Y及びZが酸素原子又は硫黄原子の場合にR1、R2、R3、R4、R5及びR6は存在しない。A1及びA2は同一又は異なって下記一般式
【0026】
【化6】
【0027】
で表されるピリジル基、
【0028】
【化7】
【0029】
で表されるイミダゾリル基又は
【0030】
【化8】
【0031】
で表されるトリアゾリル基であり、R7、R8、R9、R10、R11、R12、R13、R14及びR15はそれぞれ同一又は異なって水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、アルコキシ基、ホルミル基、アシロキシ基、アルコキシカルボニル基、ニトロ基、シアノ基、アミノ基、モノアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、アシルアミノ基又はハロゲン原子であるか、R12とR13が一緒になって置換基を有していてもよいアルカジエニレン基を形成してもよい。nは1又は2である。)で表される該金属イオンに二座配位可能な有機配位子(I)とからなる金属錯体からなる炭素数1又は2の炭化水素系混合ガス分離材。
【0032】
(8)該二座配位可能な有機配位子(I)が1,3−ビス(4−ピリジル)プロパン、1,3−ビス(1−イミダゾリル)プロパン、1,3−ビス(1,2,4−トリアゾリル)プロパン、1,4−ビス(4−ピリジル)ブタン、1,4−ビス(1−イミダゾリル)ブタン及び1,4−ビス(1,2,4−トリアゾリル)ブタンから選択される少なくとも1種である金属錯体からなる(7)に記載の分離材。
【発明の効果】
【0033】
本発明により、周期表の2族及び7〜12族に属する金属のイオンから選択される少なくとも1種の金属イオンと、ルイス塩基性アニオンと、該金属イオンに二座配位可能な有機配位子(I)とからなる金属錯体を用いる炭素数1又は2の炭化水素系混合ガスの分離方法を提供することができる。
【0034】
本発明の分離方法は、炭素数1又は2の炭化水素系混合ガスの分離において、高い混合ガス分離性能を発現する分離方法として使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】合成例1で得た金属錯体の粉末X線回折パターンである。
【図2】合成例2で得た金属錯体の粉末X線回折パターンである。
【図3】合成例3で得た金属錯体の粉末X線回折パターンである。
【図4】合成例4で得た金属錯体の粉末X線回折パターンである。
【図5】比較合成例1で得た金属錯体の粉末X線回折パターンである。
【図6】比較合成例2で得た金属錯体の粉末X線回折パターンである。
【図7】比較合成例3で得た金属錯体の粉末X線回折パターンである。
【図8】比較合成例4で得た金属錯体の粉末X線回折パターンである。
【図9】合成例1で得た金属錯体について、メタン及びエタンの298Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果である。
【図10】合成例2で得た金属錯体について、メタン及びエタンの298Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果である。
【図11】合成例3で得た金属錯体について、メタン及びエタンの298Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果である。
【図12】比較合成例1で得た金属錯体について、メタン及びエタンの298Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果である。
【図13】比較合成例2で得た金属錯体について、メタン及びエタンの298Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果である。
【図14】比較合成例3で得た金属錯体について、メタン及びエタンの298Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果である。
【図15】比較合成例4で得た金属錯体について、メタン及びエタンの298Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果である。
【図16】合成例4で得た金属錯体について、メタン及びエチレンの298Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果である。
【図17】比較合成例1で得た金属錯体について、メタン及びエチレンの298Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果である。
【図18】比較合成例2で得た金属錯体について、メタン及びエチレンの298Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果である。
【図19】合成例2で得た金属錯体について、エチレン及びエタンの298Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果である。
【図20】比較合成例1で得た金属錯体について、エチレン及びエタンの298Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果である。
【図21】比較合成例2で得た金属錯体について、エチレン及びエタンの298Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果である。
【図22】比較合成例3で得た金属錯体について、エチレン及びエタンの298Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果である。
【図23】比較合成例4で得た金属錯体について、エチレン及びエタンの298Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果である。
【図24】合成例1で得た金属錯体について、容量比でメタン:エタン=80:20からなるメタンとエタンの混合ガスを用い、298K、0.9MPa、空間速度6min-1における破過曲線を測定した結果である。
【図25】合成例1で得た金属錯体について、メタン及びエタンの273Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
本発明の金属錯体は、周期表の2族及び7〜12族に属する金属のイオンから選択される少なくとも1種の金属イオンと、ルイス塩基性アニオンと、該金属イオンに二座配位可能な有機配位子(I)とからなる。
【0037】
本発明に用いられる周期表の2族及び7〜12族に属する金属のイオンとしては、例えば、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、マンガンイオン、鉄イオン、ルテニウムイオン、コバルトイオン、ロジウムイオン、ニッケルイオン、パラジウムイオン、銅イオン、亜鉛イオン、カドミウムイオンなどを使用することができ、中でもマンガンイオン、鉄イオン、コバルトイオン、ニッケルイオン、銅イオンが好ましい。金属イオンは、単一の金属イオンを使用することが好ましいが、2種以上の金属イオンを混合して用いてもよい。また、本発明の金属錯体は、単一の金属イオンからなる金属錯体を2種以上混合して使用することもできる。
【0038】
該金属イオンは金属塩の形で用いてもよい。金属塩としては、例えば、マグネシウム塩、カルシウム塩、マンガン塩、鉄塩、ルテニウム塩、コバルト塩、ロジウム塩、ニッケル塩、パラジウム塩、銅塩、亜鉛塩、カドミウム塩などを使用することができ、中でもマンガン塩、鉄塩、コバルト塩、ニッケル塩、銅塩が好ましい。金属塩は、単一の金属塩を使用することが好ましいが、2種以上の金属塩を混合して用いてもよい。また、これらの金属塩としては、酢酸塩、ギ酸塩などの有機酸塩、硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩、塩酸塩、臭化水素酸塩などの無機酸塩を使用することができる。
【0039】
本発明に用いられるルイス塩基性アニオンとしては、例えば、テトラフルオロホウ酸イオン、ヘキサフルオロリン酸イオン、ヘキサフルオロヒ酸イオン、ヘキサフルオロアンチモン酸イオン、ギ酸イオン、酢酸イオン、メタンスルホン酸イオン、ベンゼンスルホン酸イオン、トリフルオロ酢酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、ビス(トリフルオロメタンスルホン酸)イミドなどを使用することができ、中でもテトラフルオロホウ酸イオン、ヘキサフルオロリン酸イオン、ヘキサフルオロヒ酸イオン、ヘキサフルオロアンチモン酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオンが好ましく、テトラフルオロホウ酸イオン、ヘキサフルオロリン酸イオンがより好ましい。アニオンは、2種以上のアニオンを混合して用いても良い。ここで、ルイス塩基性のアニオンとは化学的に安定で還元性や求核性をほとんど示さないアニオンを意味する。
【0040】
本発明に用いられるルイス塩基性アニオンは、金属塩のカウンターアニオンをそのまま使用してもよく、他のカウンターアニオンを有する金属錯体を前記ルイス塩基性アニオンのアルカリ金属塩と反応させて、ルイス塩基性アニオンを有する金属錯体に変換して使用しても良い。
【0041】
本発明に用いられる二座配位可能な有機配位子(I)は、下記一般式(I);
【0042】
【化9】
【0043】
式中、X、Y及びZはそれぞれ同一又は異なって炭素原子、窒素原子、酸素原子又は硫黄原子である。X、Y及びZが炭素原子の場合にR1、R2、R3、R4、R5及びR6(X、Y及びZの各々に対し、R1並びにR2、R3並びにR4、及びR5並びにR6の各々が対応)はそれぞれ同一又は異なって水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、アルコキシ基、ホルミル基、アシロキシ基、アルコキシカルボニル基、ニトロ基、シアノ基、アミノ基、モノアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、アシルアミノ基又はハロゲン原子である。X、Y及びZが窒素原子の場合にR1、R3及びR5はそれぞれ水素原子であり、R2、R4及びR6はそれぞれ存在しない。X、Y及びZが酸素原子又は硫黄原子の場合にR1、R2、R3、R4、R5及びR6(X、Y及びZの各々に対し、R1並びにR2、R3並びにR4、及びR5並びにR6の各々が対応)は存在しない。なお「X、Y及びZが炭素原子」、「X、Y及びZが窒素原子の場合」、及び「X、Y及びZが酸素原子又は硫黄原子の場合」とは、X、Y及びZのいずれもが係る同じ原子である場合のみを指すわけではなく、X、Y及びZの少なくともいずれかが係る原子であることを指す。
A1及びA2は同一又は異なって下記一般式
【0044】
【化10】
【0045】
で表されるピリジル基、
【0046】
【化11】
【0047】
で表されるイミダゾリル基又は
【0048】
【化12】
【0049】
で表されるトリアゾリル基であり、R7、R8、R9、R10、R11、R12、R13、R14及びR15はそれぞれ同一又は異なって水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、アルコキシ基、ホルミル基、アシロキシ基、アルコキシカルボニル基、ニトロ基、シアノ基、アミノ基、モノアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、アシルアミノ基又はハロゲン原子であるか、R12とR13が一緒になって置換基を有していてもよいアルカジエニレン基を形成してもよい。nは1又は2である。
【0050】
上記R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、R10、R11、R12、R13、R14及びR15を構成することのできる置換基の内、アルキル基又はアルコキシ基の炭素原子数は1〜5が好ましい。アルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基などの直鎖又は分岐を有するアルキル基が、アルコキシ基の例としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基,n−ブトキシ基、イソブトキシ基、tert−ブトキシ基が、アシロキシ基の例としては、アセトキシ基、n−プロパノイルオキシ基、n−ブタノイルオキシ基、ピバロイルオキシ基、ベンゾイルオキシ基が、アルコキシカルボニル基の例としては、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n−ブトキシカルボニル基が、モノアルキルアミノ基の例としては、メチルアミノ基が、ジアルキルアミノ基の例としては、ジメチルアミノ基が、アシルアミノ基の例としては、アセチルアミノ基が、ハロゲン原子の例としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が、それぞれ挙げられる。また、該アルキル基等が有していてもよい置換基の例としては、アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基,n−ブトキシ基、イソブトキシ基、tert−ブトキシ基など)、アミノ基、モノアルキルアミノ基(メチルアミノ基など)、ジアルキルアミノ基(ジメチルアミノ基など)、ホルミル基、エポキシ基、アシロキシ基(アセトキシ基、n−プロパノイルオキシ基、n−ブタノイルオキシ基、ピバロイルオキシ基、ベンゾイルオキシ基など)、アルコキシカルボニル基(メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n−ブトキシカルボニル基など)、カルボン酸無水物基(−CO−O−CO−R基)(Rは炭素数1〜5のアルキル基である)などが挙げられる。アルキル基の置換基の数は、1〜3個が好ましく、1個がより好ましい。
【0051】
上記アルカジエニレン基の炭素数は、4が好ましい。アルカジエニレン基の炭素数が4の場合、R12とR13はそれらが結合している炭素原子と一緒になって6員環(ベンゼン環)を構成する。このようなイミダゾリル基の例としては、ベンゾイミダゾリル基が挙げられる。
【0052】
また、該アルカジエニレン基が有していてもよい置換基の例としては、アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基,n−ブトキシ基、イソブトキシ基、tert−ブトキシ基など)、アミノ基、モノアルキルアミノ基(メチルアミノ基など)、ジアルキルアミノ基(ジメチルアミノ基など)、ホルミル基、エポキシ基、アシロキシ基(アセトキシ基、n−プロパノイルオキシ基、n−ブタノイルオキシ基、ピバロイルオキシ基、ベンゾイルオキシ基など)、アルコキシカルボニル基(メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n−ブトキシカルボニル基など)、カルボン酸無水物基(−CO−O−CO−R基)(Rは炭素数1〜5のアルキル基である)などが挙げられる。
【0053】
二座配位可能な有機配位子(I)としては、例えば、1,3−ビス(4−ピリジル)プロパン、1,3−ビス(1−イミダゾリル)プロパン、1,3−ビス(1,2,4−トリアゾリル)プロパン、1,4−ビス(4−ピリジル)ブタン、1,4−ビス(1−イミダゾリル)ブタン、1,4−ビス(1,2,4−トリアゾリル)ブタンなどを使用することができ、中でも1,3−ビス(4−ピリジル)プロパンが好ましい。ここで、二座配位可能な有機配位子とは非共有電子対で金属イオンに対して配位できる部位を少なくとも2箇所持つ中性配位子を意味する。
【0054】
本発明の金属錯体は、周期表の2族及び7〜12族に属する金属イオンの塩から選択される少なくとも1種の金属塩と、ルイス塩基性アニオンと、該金属イオンに二座配位可能な有機配位子(I)とを、気相、液相又は固相のいずれかで反応させることで製造することができるが、常圧下、溶媒中で数時間から数日間反応させ、析出させて製造することが好ましい。
【0055】
金属錯体を製造するときのルイス塩基性アニオンと二座配位可能な有機配位子(I)の混合比率は、ルイス塩基性アニオン:二座配位可能な有機配位子(I)=1:5〜5:1のモル比の範囲内が好ましく、1:3〜3:1のモル比の範囲内がより好ましい。これ以外の範囲で反応を行っても目的とする金属錯体は得られるが、収率が低下し、副反応も増えるために好ましくない。
【0056】
金属錯体を製造するときの金属塩と二座配位可能な有機配位子(I)の混合比率は、金属塩:二座配位可能な有機配位子(I)=3:1〜1:3のモル比の範囲内が好ましく、2:1〜1:2のモル比の範囲内がより好ましい。これ以外の範囲では目的とする金属錯体の収率が低下し、また、未反応の原料が残留して得られた金属錯体の精製が困難になる。
【0057】
金属錯体を製造するときの金属塩がルイス塩基性アニオン以外の他のカウンターアニオンを有する場合には、他のカウンターアニオンの含有量はルイス塩基性アニオンよりも少なくなることが好ましい。これ以外の範囲で反応を行っても目的とする金属錯体は得られるが、収率が低下し、副反応も増えるために好ましくない。
【0058】
金属錯体を製造するための溶媒における金属塩のモル濃度は、0.005〜5.0mol/Lが好ましく、0.01〜2.0mol/Lがより好ましい。これより低い濃度で反応を行っても目的とする金属錯体は得られるが、収率が低下するため好ましくない。また、これより高い濃度では未反応の金属塩が残留し、得られた金属錯体の精製が困難になる。
【0059】
金属錯体を製造するための溶媒におけるルイス塩基性アニオンのモル濃度は、0.001〜5.0mol/Lが好ましく、0.005〜2.0mol/Lがより好ましい。これより低い濃度で反応を行っても目的とする金属錯体は得られるが、収率が低下するため好ましくない。また、これより高い濃度では溶解性が低下し、反応が円滑に進行しない。
【0060】
金属錯体を製造するための溶媒における二座配位可能な有機配位子(I)のモル濃度は、0.001〜5.0mol/Lが好ましく、0.005〜2.0mol/Lがより好ましい。これより低い濃度で反応を行っても目的とする金属錯体は得られるが、収率が低下するため好ましくない。また、これより高い濃度では溶解性が低下し、反応が円滑に進行しない。
【0061】
金属錯体の製造に用いる溶媒としては、有機溶媒、水又はそれらの混合溶媒を使用することができる。具体的には、メタノール、エタノール、プロパノール、ジエチルエーテル、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、塩化メチレン、クロロホルム、アセトン、酢酸エチル、アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、水又はこれらの混合溶媒を使用することができる。反応温度としては、253〜423Kが好ましい。
【0062】
反応が終了したことはガスクロマトグラフィー又は高速液体クロマトグラフィーにより原料の残存量を定量することにより確認することができる。反応終了後、得られた混合液を吸引濾過に付して沈殿物を集め、有機溶媒による洗浄後、373K程度で数時間真空乾燥することにより、本発明の金属錯体を得ることができる。
【0063】
金属錯体を構成する各成分の組成比は、例えば、単結晶X線構造解析、粉末X線結晶構造解析又は元素分析などにより確認できるが、これらに限定されるものではない。
【0064】
本発明の金属錯体における三次元構造は、合成後の結晶においても変化できるため、その変化に伴って、細孔の構造や大きさも変化する。この構造が変化する条件は、吸着される物質の種類、吸着圧力、吸着温度に依存する。すなわち、細孔表面と物質の相互作用の差に加え、吸着する物質により構造変化の程度が異なるため、高い選択性が発現する。本発明では、金属イオンとそのカウンターアニオンである塩基性アニオンの間の相互作用を制御すること、すなわち、金属イオンと一般式(I)で表される二座配位可能な有機配位子とからなる一次元鎖状構造からなる細孔表面の電荷密度を制御することで、高いガス分離性能が発現する。吸着された物質が脱着した後は、元の構造に戻るので、細孔の大きさも元に戻る。
【0065】
前記の選択吸着メカニズムは推定ではあるが、例え前記メカニズムに従っていない場合でも、本発明で規定する要件を満足するのであれば、本発明の技術的範囲に包含される。
【0066】
本発明に用いる金属錯体は、吸着圧力又は吸着温度を制御することで各種ガスを選択的に吸着することができるので、炭素数1又は2の炭化水素(メタン、エタン、エチレン、アセチレン)系混合ガスを分離するための分離材として好ましく、特に、メタン中のエタン、エチレン中のエタン又はエチレン中のアセチレンなどを、圧力スイング吸着法や温度スイング吸着法により分離するのに適している。
【0067】
分離方法は、ガスが金属錯体に吸着できる条件でガスと本発明の金属錯体とを接触させる工程を含む。ガスが金属錯体に吸着できる条件である吸着圧力及び吸着温度は、吸着される物質の種類に応じて適宜設定することができる。例えば、吸着圧力は0.01〜10MPaが好ましく、0.1〜3.5MPaがより好ましい。また、吸着温度は195K〜343Kが好ましく、273〜313Kがより好ましい。
【0068】
分離方法は、圧力スイング吸着法又は温度スイング吸着法とすることができる。分離方法が圧力スイング吸着法である場合は、分離方法はさらに、圧力を、吸着圧力からガスを金属錯体から脱着させることができる圧力まで昇圧させる工程を含む。脱着圧力は、吸着される物質の種類に応じて適宜設定することができる。例えば、脱着圧力は0.005〜2MPaが好ましく、0.01〜0.1MPaがより好ましい。分離方法が温度スイング吸着法である場合は、分離方法はさらに、温度を、吸着温度からガスを金属錯体から脱着させることができる温度まで昇温させる工程を含む。脱着温度は、吸着される物質の種類に応じて適宜設定することができる。例えば、脱着温度は273〜473Kが好ましく、298〜373Kがより好ましい。
【0069】
分離方法は、圧力スイング吸着法又は温度スイング吸着法である場合、ガスと金属錯体とを接触させる工程と、ガスを金属錯体から脱着させることができる圧力又は温度まで変化させる工程を、適宜繰り返すことができる。
【実施例】
【0070】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下の実施例および比較例における分析および評価は次のようにして行った。
【0071】
(1)粉末X線回折パターンの測定
X線回折装置を用いて、回折角(2θ)=5〜50°の範囲を走査速度1°/分で走査し、対称反射法で測定した。測定条件の詳細を以下に示す。
<分析条件>
装置:株式会社リガク製RINT2400
X線源:CuKα(λ=1.5418Å) 40kV 200mA
ゴニオメーター:縦型ゴニオメーター
検出器:シンチレーションカウンター
ステップ幅:0.02°
スリット:発散スリット=0.5°
受光スリット=0.15mm
散乱スリット=0.5°
【0072】
(2)元素分析
炭素、水素及び窒素については、炭素・水素・窒素同時測定装置を用いて定量した。また、フッ素については、陰イオンクロマトグラフィー装置を用いて定量した。測定条件の詳細を以下に示す。
<分析条件>
≪炭素・水素・窒素≫
装置:株式会社ジェイ・サイエンス・ラボ製MICRO CORDER JM10
燃焼温度:950℃
燃焼時間:4分
≪フッ素・硫黄≫
装置:日本ダイオネクス株式会社製イオンクロマトグラフDX―500
カラム:AS12A
カラム温度:30℃
検出器温度:35℃
流速:1.5mL/分
【0073】
(3)吸脱着等温線の測定
高圧ガス吸着量測定装置を用いて容量法(JIS Z8831−2に準拠)により測定を行った。このとき、測定に先立って試料を373K、50Paで10時間乾燥し、吸着水などを除去した。分析条件の詳細を以下に示す。
<分析条件>
装置:日本ベル株式会社製BELSORP−HP
平衡待ち時間:500秒
【0074】
(4)破過曲線の測定
ガス流量計とバルブ類を備えたステンレスチューブでボンベと接続した内容積10mLの耐圧ガラス容器を用意した。測定は、耐圧ガラス容器に試料を入れ、373K、7Paで3時間乾燥し、吸着水などを除去した後に、混合ガスを流通させることで行った。このとき、出口ガスを2分おきにサンプリングし、ガスクロマトグラフィーで分析することで出口ガスの組成を算出した(入口ガスの組成はあらかじめガスクロマトグラフィーを用いて測定)。分析条件の詳細を以下に示す。
<分析条件>
装置:株式会社島津製作所製GC−14B
カラム:ジーエルサイエンス株式会社製Unibeads C 60/80
カラム温度:200℃
キャリアガス:ヘリウム
注入量:1.0mL
検出器:TCD
【0075】
<合成例1>
窒素雰囲気下、テトラフルオロホウ酸銅六水和物1.55g(4.5mmol)を水100mLに溶解させ、353Kで1時間攪拌した。続いて、1,3−ビス(4−ピリジル)プロパン1.99g(10mmol)のアセトン溶液100mLを1時間かけて滴下した。その後、353Kで3時間攪拌した。析出した金属錯体を吸引濾過により回収した後、水で3回、続いてアセトンで3回洗浄し、目的の金属錯体2.55g(収率67%)を得た。得られた金属錯体の粉末X線回折パターンを図1に示す。得られた金属錯体を373K、50Paで8時間乾燥し、元素分析を行った結果、その組成比は、銅イオン:テトラフルオロホウ酸イオン:1,3−ビス(4−ピリジル)プロパン=1:2:2であった。
実測値 C:48.59,H:4.41,N:8.78,F:23.95 (%)
理論値 C:49.28,H:4.45,N:8.84,F:23.98 (%)
【0076】
<合成例2>
窒素雰囲気下、過塩素酸銅六水和物3.71g(10mmol)及びヘキサフルオロリン酸カリウム3.68g(20mmol)を水200mLに溶解させ、298Kで30分間攪拌した後、吸引濾過により不溶物を除去した。続いて、濾液に1,3−ビス(4−ピリジル)プロパン3.97g(20mmol)のアセトン溶液200mLを1時間かけて滴下した。その後、298Kで1時間攪拌した。析出した金属錯体を吸引濾過により回収した後、アセトンで3回洗浄し、目的の金属錯体6.41g(収率74%)を得た。得られた金属錯体の粉末X線回折パターンを図2に示す。得られた金属錯体を373K、50Paで8時間乾燥し、元素分析を行った結果、その組成比は、銅イオン:ヘキサフルオロリン酸イオン:1,3−ビス(4−ピリジル)プロパン=1:2:2であった。
実測値 C:41.74,H:3.90,N:7.51,F:30.37 (%)
理論値 C:41.64,H:3.76,N:7.47,F:30.40 (%)
【0077】
<合成例3>
窒素雰囲気下、過塩素酸銅六水和物333mg(0.90mmol)及びヘキサフルオロリン酸カリウム663mg(3.6mmol)をメタノール4.5mLに溶解させ、298Kで30分間攪拌した後、吸引濾過により不純物を除去した。続いて、濾液にトリフルオロメタンスルホン酸銅36.0mg(0.10mmol)の水溶液5.0mLと1,3−ビス(4−ピリジル)プロパン397mg(2.0mmol)のアセトン溶液10mLを加え、298Kで20分間攪拌した。析出した金属錯体を吸引濾過により回収した後、水で3回、続いてアセトンで3回洗浄し、目的の金属錯体765mg(収率88%)を得た。得られた金属錯体の粉末X線回折パターンを図3に示す。得られた金属錯体を373K、50Paで8時間乾燥し、元素分析を行った結果、その組成比は、銅イオン:ヘキサフルオロリン酸イオン:トリフルオロメタンスルホン酸イオン:1,3−ビス(4−ピリジル)プロパン=1:1.8:0.2:2であった。
【0078】
実測値 C:41.72,H:3.70,N:7.34,F:30.00,S:0.82 (%)
理論値 C:41.91,H:3.76,N:7.46,F:28.85,S:0.85 (%)
【0079】
<合成例4>
窒素雰囲気下、トリフルオロメタンスルホン酸銅362mg(1.0mmol)を水20mLに溶解させ、298Kで1時間攪拌した。続いて、1,3−ビス(1−イミダゾリル)プロパン352mg(2.0mmol)のアセトン40mL溶液を1時間かけて滴下した。この後、298Kで24時間撹拌した。析出した金属錯体を吸引濾過により回収した後、水で3回、続いてアセトンで3回洗浄し、目的の金属錯体605mg(収率73%)を得た。得られた金属錯体の粉末X線回折パターンを図4に示す。得られた金属錯体を373K、50Paで8時間乾燥し、元素分析を行った結果、その組成比は、銅イオン:トリフルオロメタンスルホン酸イオン:1,3−ビス(1−イミダゾリル)プロパン=1:2:2であった。
実測値 C:33.31,H:3.42,N:15.59 (%)
理論値 C:33.64,H:3.39,N:15.69 (%)
【0080】
<比較合成例1>
窒素雰囲気下、テトラフルオロホウ酸銅六水和物3.45g(10mmol)を水200mLに溶解させ、298Kで30分攪拌した。続いて、1,2−ビス(4−ピリジル)エタン3.69g(20mmol)のアセトン溶液200mLを1時間かけて滴下した。その後、298Kで1時間攪拌した。析出した金属錯体を吸引濾過により回収した後、アセトンで3回洗浄し、目的の金属錯体5.99g(収率83%)を得た。得られた金属錯体の粉末X線回折パターンを図5に示す。
【0081】
<比較合成例2>
窒素雰囲気下、テトラフルオロホウ酸銅六水和物3.45g(10mmol)及びヘキサフルオロリン酸カリウム3.68g(20mmol)を水200mLに溶解させ、298Kで30分間攪拌した後、吸引濾過により不溶物を除去した。続いて、濾液に1,2−ビス(4−ピリジル)エタン3.69g(20mmol)のアセトン溶液200mLを1時間かけて滴下した。その後、298Kで1時間攪拌した。析出した金属錯体を吸引濾過により回収した後、アセトンで3回洗浄し、目的の金属錯体6.71g(収率80%)を得た。得られた金属錯体の粉末X線回折パターンを図6に示す。
【0082】
<比較合成例3>
窒素雰囲気下、塩化銅(II)二水和物170mg(1.0mmol)及びヘキサフルオロリン酸銀505mg(2.0mmol)をメタノール5.0mLに溶解させ、298Kで30分間攪拌した後、吸引濾過により不純物を除去した。続いて、濾液に4,4’−ビピリジル312mg(2.0mmol)のメタノール溶液5mLを加え、298Kで30分間攪拌した。析出した金属錯体を吸引濾過により回収した後、メタノールで3回洗浄し、目的の金属錯体432mg(収率60%)を得た。得られた金属錯体の粉末X線回折パターンを図7に示す。
【0083】
<比較合成例4>
窒素雰囲気下、4,4’−ビピリジル2.35g(15mmol)をメタノール250mLに溶解させた。続いて、トリフルオロメタンスルホン酸銅2.72g(7.5mmol)の水溶液250mLを1時間かけて滴下した。その後、298Kで1時間攪拌した。吸引濾過の後、メタノールで3回洗浄し、目的の錯体3.17g(収率54%)を得た。得られた金属錯体の粉末X線回折パターンを図8に示す。
【0084】
<実施例1>
合成例1で得た金属錯体について、メタン及びエタンの298Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した。結果を図9に示す。
【0085】
<実施例2>
合成例2で得た金属錯体について、メタン及びエタンの298Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した。結果を図10に示す。
【0086】
<実施例3>
合成例3で得た金属錯体について、メタン及びエタンの298Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した。結果を図11に示す。
【0087】
<比較例1>
比較合成例1で得た金属錯体について、メタン及びエタンの298Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した。結果を図12に示す。
【0088】
<比較例2>
比較合成例2で得た金属錯体について、メタン及びエタンの298Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した。結果を図13に示す。
【0089】
<比較例3>
比較合成例3で得た金属錯体について、メタン及びエタンの298Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した。結果を図14に示す。
【0090】
<比較例4>
比較合成例4で得た金属錯体について、メタン及びエタンの298Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した。結果を図15に示す。
【0091】
図9、図10及び図11と、図12、図13、図14及び図15との比較より、本発明の構成要件を満たす合成例1、合成例2及び合成例3で得た金属錯体は圧力の増加と共にエタンを選択的に吸着し、その吸着量は本発明の構成要件を満たさない比較合成例1、比較合成例2、比較合成例3及び比較合成例4で得た金属錯体よりも多く、また、圧力の減少と共にエタンを放出するので、本発明の金属錯体がメタンとエタンの分離材として優れていることは明らかである。
【0092】
<実施例4>
合成例4で得た金属錯体について、メタン及びエチレンの298Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した。結果を図16に示す。
≪図16≫
【0093】
<比較例5>
比較合成例1で得た金属錯体について、メタン及びエチレンの298Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した。結果を図17に示す。
【0094】
<比較例6>
比較合成例2で得た金属錯体について、メタン及びエチレンの298Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した。結果を図18に示す。
【0095】
図16と、図17及び図18との比較より、本発明の構成要件を満たす合成例4で得た金属錯体は圧力の増加と共にエチレンを選択的に吸着し、その吸着量は本発明の構成要件を満たさない比較合成例1及び比較合成例2で得た金属錯体よりも多く、また、圧力の減少と共にエチレンを放出するので、本発明の金属錯体がメタンとエチレンの分離材として優れていることは明らかである。
【0096】
<実施例5>
合成例2で得た金属錯体について、エチレン及びエタンの298Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した。結果を図19に示す。
【0097】
<比較例7>
比較合成例1で得た金属錯体について、エチレン及びエタンの298Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した。結果を図20に示す。
【0098】
<比較例8>
比較合成例2で得た金属錯体について、エチレン及びエタンの298Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した。結果を図21に示す。
【0099】
<比較例9>
比較合成例3で得た金属錯体について、エチレン及びエタンの298Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した。結果を図22に示す。
【0100】
<比較例10>
比較合成例4で得た金属錯体について、エチレン及びエタンの298Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した。結果を図23に示す。
【0101】
図19と、図20、図21、図22及び図23との比較より、本発明の構成要件を満たす合成例2で得た金属錯体は0.55MPa以上でエタンを、0.62MPaでエチレンを吸着し、エチレンとエタンの吸着開始圧力が異なるのに対し、本発明の構成要件を満たさない比較合成例1、比較合成例2比較合成例3及び比較合成例4で得た金属錯体はいずれも圧力に比例してエチレンとエタン共に吸着量が増大するので、本発明の金属錯体がエチレンとエタンの分離材として優れていることは明らかである。
【0102】
<実施例6>
合成例1で得た金属錯体について、容量比でメタン:エタン=80:20からなるメタンとエタンの混合ガスを用い、298K、0.9MPa、空間速度6min-1における破過曲線の測定を行い、ガス分離性能を評価した。結果を図24に示す。
【0103】
図24より、本発明の構成要件を満たす合成例1で得た金属錯体はエタンを優先的に吸着し、メタンを95%以上にまで濃縮することができるので、本発明の金属錯体がメタンとエタンの分離材として使用できることは明らかである。また、図9より、本発明の金属錯体は、圧力の減少と共に吸着したエタンを放出するので、圧力スイング吸着法に用いる分離材として使用できることは明らかである。
【0104】
<実施例7>
合成例1で得た金属錯体について、メタン及びエタンの273Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した。結果を図25に示す。
【0105】
図9と、図25との比較より、本発明の構成要件を満たす合成例1で得た金属錯体の吸着開始圧力は温度に依存し、制御可能であることが分かる。この特徴を利用することにより、従来の分離材を用いる場合に比べて、温度スイング吸着法において分離度の向上が可能であることは明らかである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
周期表の2族及び7〜12族に属する金属のイオンから選択される少なくとも1種の金属イオンと、ルイス塩基性アニオンと、下記一般式(I);
【化1】
(式中、X、Y及びZはそれぞれ同一又は異なって炭素原子、窒素原子、酸素原子又は硫黄原子である。X、Y及びZが炭素原子の場合にR1、R2、R3、R4、R5及びR6はそれぞれ同一又は異なって水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、アルコキシ基、ホルミル基、アシロキシ基、アルコキシカルボニル基、ニトロ基、シアノ基、アミノ基、モノアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、アシルアミノ基又はハロゲン原子である。X、Y及びZが窒素原子の場合にR1、R3及びR5は水素原子であり、R2、R4及びR6は存在しない。X、Y及びZが酸素原子又は硫黄原子の場合にR1、R2、R3、R4、R5及びR6は存在しない。A1及びA2は同一又は異なって下記一般式
【化2】
で表されるピリジル基、
【化3】
で表されるイミダゾリル基又は
【化4】
で表されるトリアゾリル基であり、R7、R8、R9、R10、R11、R12、R13、R14及びR15はそれぞれ同一又は異なって水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、アルコキシ基、ホルミル基、アシロキシ基、アルコキシカルボニル基、ニトロ基、シアノ基、アミノ基、モノアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、アシルアミノ基又はハロゲン原子であるか、R12とR13が一緒になって置換基を有していてもよいアルカジエニレン基を形成してもよい。nは1又は2である。)で表される該金属イオンに二座配位可能な有機配位子(I)とからなる金属錯体を用いる炭素数1又は2の炭化水素系混合ガスの分離方法。
【請求項2】
該二座配位可能な有機配位子(I)が1,3−ビス(4−ピリジル)プロパン、1,3−ビス(1−イミダゾリル)プロパン、1,3−ビス(1,2,4−トリアゾリル)プロパン、1,4−ビス(4−ピリジル)ブタン、1,4−ビス(1−イミダゾリル)ブタン及び1,4−ビス(1,2,4−トリアゾリル)ブタンから選択される少なくとも1種である金属錯体を用いる請求項1に記載の分離方法。
【請求項3】
該金属イオンがマンガンイオン、鉄イオン、コバルトイオン、ニッケルイオン及び銅イオンから選択される少なくとも1種の金属イオンである金属錯体を用いる請求項1又は2に記載の分離方法。
【請求項4】
該炭化水素系混合ガスがメタンとエタン、メタンとエチレン、エチレンとエタン又はエチレンとアセチレンである請求項1〜3のいずれかに記載の分離方法。
【請求項5】
該分離方法が金属錯体と炭化水素系混合ガスとを0.01〜10MPaの圧力範囲で接触させる工程を含む請求項1〜4のいずれかに記載の分離方法。
【請求項6】
該分離方法が圧力スイング吸着法又は温度スイング吸着法である請求項1〜5のいずれかに記載の分離方法。
【請求項7】
周期表の2族及び7〜12族に属する金属のイオンから選択される少なくとも1種の金属イオンと、ルイス塩基性アニオンと、下記一般式(I);
【化5】
(式中、X、Y及びZはそれぞれ同一又は異なって炭素原子、窒素原子、酸素原子又は硫黄原子である。X、Y及びZが炭素原子の場合にR1、R2、R3、R4、R5及びR6はそれぞれ同一又は異なって水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、アルコキシ基、ホルミル基、アシロキシ基、アルコキシカルボニル基、ニトロ基、シアノ基、アミノ基、モノアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、アシルアミノ基又はハロゲン原子である。X、Y及びZが窒素原子の場合にR1、R3及びR5は水素原子であり、R2、R4及びR6は存在しない。X、Y及びZが酸素原子又は硫黄原子の場合にR1、R2、R3、R4、R5及びR6は存在しない。A1及びA2は同一又は異なって下記一般式
【化6】
で表されるピリジル基、
【化7】
で表されるイミダゾリル基又は
【化8】
で表されるトリアゾリル基であり、R7、R8、R9、R10、R11、R12、R13、R14及びR15はそれぞれ同一又は異なって水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、アルコキシ基、ホルミル基、アシロキシ基、アルコキシカルボニル基、ニトロ基、シアノ基、アミノ基、モノアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、アシルアミノ基又はハロゲン原子であるか、R12とR13が一緒になって置換基を有していてもよいアルカジエニレン基を形成してもよい。nは1又は2である。)で表される該金属イオンに二座配位可能な有機配位子(I)とからなる金属錯体からなる炭素数1又は2の炭化水素系混合ガス分離材。
【請求項8】
該二座配位可能な有機配位子(I)が1,3−ビス(4−ピリジル)プロパン、1,3−ビス(1−イミダゾリル)プロパン、1,3−ビス(1,2,4−トリアゾリル)プロパン、1,4−ビス(4−ピリジル)ブタン、1,4−ビス(1−イミダゾリル)ブタン及び1,4−ビス(1,2,4−トリアゾリル)ブタンから選択される少なくとも1種である金属錯体からなる請求項7に記載の分離材。
【請求項1】
周期表の2族及び7〜12族に属する金属のイオンから選択される少なくとも1種の金属イオンと、ルイス塩基性アニオンと、下記一般式(I);
【化1】
(式中、X、Y及びZはそれぞれ同一又は異なって炭素原子、窒素原子、酸素原子又は硫黄原子である。X、Y及びZが炭素原子の場合にR1、R2、R3、R4、R5及びR6はそれぞれ同一又は異なって水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、アルコキシ基、ホルミル基、アシロキシ基、アルコキシカルボニル基、ニトロ基、シアノ基、アミノ基、モノアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、アシルアミノ基又はハロゲン原子である。X、Y及びZが窒素原子の場合にR1、R3及びR5は水素原子であり、R2、R4及びR6は存在しない。X、Y及びZが酸素原子又は硫黄原子の場合にR1、R2、R3、R4、R5及びR6は存在しない。A1及びA2は同一又は異なって下記一般式
【化2】
で表されるピリジル基、
【化3】
で表されるイミダゾリル基又は
【化4】
で表されるトリアゾリル基であり、R7、R8、R9、R10、R11、R12、R13、R14及びR15はそれぞれ同一又は異なって水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、アルコキシ基、ホルミル基、アシロキシ基、アルコキシカルボニル基、ニトロ基、シアノ基、アミノ基、モノアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、アシルアミノ基又はハロゲン原子であるか、R12とR13が一緒になって置換基を有していてもよいアルカジエニレン基を形成してもよい。nは1又は2である。)で表される該金属イオンに二座配位可能な有機配位子(I)とからなる金属錯体を用いる炭素数1又は2の炭化水素系混合ガスの分離方法。
【請求項2】
該二座配位可能な有機配位子(I)が1,3−ビス(4−ピリジル)プロパン、1,3−ビス(1−イミダゾリル)プロパン、1,3−ビス(1,2,4−トリアゾリル)プロパン、1,4−ビス(4−ピリジル)ブタン、1,4−ビス(1−イミダゾリル)ブタン及び1,4−ビス(1,2,4−トリアゾリル)ブタンから選択される少なくとも1種である金属錯体を用いる請求項1に記載の分離方法。
【請求項3】
該金属イオンがマンガンイオン、鉄イオン、コバルトイオン、ニッケルイオン及び銅イオンから選択される少なくとも1種の金属イオンである金属錯体を用いる請求項1又は2に記載の分離方法。
【請求項4】
該炭化水素系混合ガスがメタンとエタン、メタンとエチレン、エチレンとエタン又はエチレンとアセチレンである請求項1〜3のいずれかに記載の分離方法。
【請求項5】
該分離方法が金属錯体と炭化水素系混合ガスとを0.01〜10MPaの圧力範囲で接触させる工程を含む請求項1〜4のいずれかに記載の分離方法。
【請求項6】
該分離方法が圧力スイング吸着法又は温度スイング吸着法である請求項1〜5のいずれかに記載の分離方法。
【請求項7】
周期表の2族及び7〜12族に属する金属のイオンから選択される少なくとも1種の金属イオンと、ルイス塩基性アニオンと、下記一般式(I);
【化5】
(式中、X、Y及びZはそれぞれ同一又は異なって炭素原子、窒素原子、酸素原子又は硫黄原子である。X、Y及びZが炭素原子の場合にR1、R2、R3、R4、R5及びR6はそれぞれ同一又は異なって水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、アルコキシ基、ホルミル基、アシロキシ基、アルコキシカルボニル基、ニトロ基、シアノ基、アミノ基、モノアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、アシルアミノ基又はハロゲン原子である。X、Y及びZが窒素原子の場合にR1、R3及びR5は水素原子であり、R2、R4及びR6は存在しない。X、Y及びZが酸素原子又は硫黄原子の場合にR1、R2、R3、R4、R5及びR6は存在しない。A1及びA2は同一又は異なって下記一般式
【化6】
で表されるピリジル基、
【化7】
で表されるイミダゾリル基又は
【化8】
で表されるトリアゾリル基であり、R7、R8、R9、R10、R11、R12、R13、R14及びR15はそれぞれ同一又は異なって水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、アルコキシ基、ホルミル基、アシロキシ基、アルコキシカルボニル基、ニトロ基、シアノ基、アミノ基、モノアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、アシルアミノ基又はハロゲン原子であるか、R12とR13が一緒になって置換基を有していてもよいアルカジエニレン基を形成してもよい。nは1又は2である。)で表される該金属イオンに二座配位可能な有機配位子(I)とからなる金属錯体からなる炭素数1又は2の炭化水素系混合ガス分離材。
【請求項8】
該二座配位可能な有機配位子(I)が1,3−ビス(4−ピリジル)プロパン、1,3−ビス(1−イミダゾリル)プロパン、1,3−ビス(1,2,4−トリアゾリル)プロパン、1,4−ビス(4−ピリジル)ブタン、1,4−ビス(1−イミダゾリル)ブタン及び1,4−ビス(1,2,4−トリアゾリル)ブタンから選択される少なくとも1種である金属錯体からなる請求項7に記載の分離材。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【公開番号】特開2013−63960(P2013−63960A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−182681(P2012−182681)
【出願日】平成24年8月21日(2012.8.21)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成21〜22年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「グリーン・サステイナブルケミカルプロセス基盤技術開発」「化学品原料の転換・多様性を可能とする革新グリーン技術の開発」「気体原料の高効率利用技術の開発」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【出願人】(504173471)国立大学法人北海道大学 (971)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年8月21日(2012.8.21)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成21〜22年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「グリーン・サステイナブルケミカルプロセス基盤技術開発」「化学品原料の転換・多様性を可能とする革新グリーン技術の開発」「気体原料の高効率利用技術の開発」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【出願人】(504173471)国立大学法人北海道大学 (971)
【Fターム(参考)】
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