説明

炭化珪素質焼結体及びその製造方法

【課題】炭化珪素質焼結体のクラックやメタルベインを解消し、欠陥のない緻密な炭化珪素質焼結体を提供できる。
【解決手段】金属珪素を含む炭化珪素質焼結体であって、該炭化珪素焼結体は珪素スポットを有し、前記炭化珪素質焼結体の断面より求めた前記珪素スポットの平均等価円直径D1と炭化珪素粒子の平均粒子間距離D2との比D1/D2が4以上であることを特徴とする炭化珪素質焼結体。前記珪素スポットは、真円度0.6〜1.0である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化珪素質焼結体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化珪素質焼結体は、金属材料と比べて軽量で比剛性が高く、熱膨張が小さいことや、高温下でも優れた機械的特性を有するため、さまざまな産業分野で構造材料として注目され、実用化が進められている。炭化珪素、または炭化珪素と炭素からなる多孔体中に、非酸化雰囲気下で、珪素の融点以上の温度で珪素を含浸させて、炭化珪素質焼結体を作製する反応焼結の製法は、従来から提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【0003】
例えば、特許文献1には、平均粒径5μm以上10μm未満の炭化珪素粉末と、平均粒径10μm以上〜20μm未満の炭化珪素粉末と、平均粒径20〜50μmの炭化珪素粉末とを質量比として1:2〜3:5〜7の割合で粒度配合した混合微粉末に、平均粒径1〜10μmの炭素粉末と有機結合剤を加えて混合し、該混合物を造粒して得た造粒粉を成形して仮焼し、該仮焼体を溶融金属珪素と反応焼結する製造方法が記載されている。
【0004】
また、特許文献2には、炭化珪素質焼結体の製造方法において、珪素の含浸工程後の降温過程で少なくとも珪素の融点の±10℃の温度範囲を12℃/hr以下の降温速度で徐冷する製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−183661号公報
【特許文献2】特開平6−263538号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記のような反応焼結法では高緻密質な炭化珪素質焼結体が得られるものの、焼結体中にクラックや、亀裂状の珪素リッチ相(以下、メタルベインと呼ぶ)が生じる場合があった。
【0007】
したがって、本発明は、反応焼結法で作製する炭化珪素質焼結体中のクラックやメタルベインを解消し、欠陥のない緻密な炭化珪素質焼結体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意研究し本発明を完成した。本発明は、以下の(1)〜(6)を提供する。
(1)金属珪素を含む炭化珪素質焼結体であって、該炭化珪素焼結体は、珪素スポットを有し、前記炭化珪素焼結体の断面より求めた前記珪素スポットの平均等価円直径D1と炭化珪素粒子の平均粒子間距離D2との比D1/D2が4以上であることを特徴とする炭化珪素質焼結体。
(2)前記珪素スポットは、真円度0.6〜1である(1)記載の炭化珪素焼結体。
(3)前記平均粒子間距離D2は、0.3〜30μmである(1)または(2)に記載の炭化珪素質焼結体。
(4)気孔率が0.1%以下である(1)〜(3)に記載の炭化珪素質焼結体。
(5)炭化珪素、または炭化珪素と炭素とからなる多孔体原料と、粗大気孔を形成するための真球度0.9〜1の樹脂ビーズからなる造孔材とを混合する混合工程と、
前記多孔体原料と前記造孔材の混合物を成形して成形体を得る成形工程と、
前記成形体を焼結して多孔体を得るとともに前記造孔材を焼失させて前記多孔体に粗大気孔を形成する焼結工程と、
前記多孔体に非酸化雰囲気下で、溶融珪素を含侵させる含侵工程と、
を含む炭化珪素質焼結体の製造方法。
(6)前記含侵工程は、
多孔体の少なくとも前記粗大気孔以外の細孔に、非酸化雰囲気下で、珪素の融点以上の温度で珪素を含侵させるとともに、前記粗大気孔に未含侵空間を形成する工程と、
珪素の凝固膨脹を利用して未凝固の珪素を前記未含侵空間に充填する工程と、
を含む(5)に記載の炭化珪素質焼結体の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、炭化珪素質焼結体のクラックやメタルベインを解消し、欠陥のない緻密な炭化珪素質焼結体を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の炭化珪素質焼結体について、更に詳しく説明する。
【0011】
金属珪素を含む炭化珪素質焼結体は、炭化珪素、または炭化珪素と炭素からなる多孔体中に、非酸化雰囲気下で、珪素の融点以上の温度で珪素を含浸させてなる。炭化珪素質焼結体は、実質的に炭化珪素と珪素とからなる。すなわち、炭素源を加えた場合であっても、珪素を含侵させ反応焼結により炭化珪素が生成するので、ほとんどの炭素は反応に消費される。したがって、本発明の炭化珪素焼結体に含まれる炭素は0.1質量%以下、より好ましくは0とすることができる。ただし、炭化珪素の焼結助剤として炭素の他、硼素、炭化硼素等が含まれていても良い。
【0012】
珪素スポットは、実質的に金属珪素のみからなる。珪素スポットは、粗大気孔を有する多孔体の少なくとも前記粗大気孔以外の気孔に、非酸化雰囲気下で、珪素の融点以上の温度で珪素を含侵させるとともに、前記粗大気孔に未含侵空間を形成した後、珪素の凝固膨脹を利用して未凝固の珪素を前記未含侵空間に充填することにより得られる。
【0013】
炭化珪素質焼結体中に珪素スポットを形成する理由は、炭化珪素、または炭化珪素と炭素からなる多孔体中に溶融珪素が含浸した後、冷却固化する過程で、珪素の体積膨張により発生する応力を緩和するためである。粗大気孔が無く珪素スポットが形成されない場合、多孔体に含侵した溶融珪素が凝固する際に、体積膨脹を起こすため、応力により多孔体の骨格が破壊されクラックやメタルベインが生じてしまう。一方、本発明では、粗大気孔により未含侵空間が形成されているので溶融珪素が凝固して体積膨脹を起こしても、未凝固の珪素が未含侵空間に染み出すので応力が緩和される。
【0014】
炭化珪素焼結体の断面より求めた前記珪素スポットの平均等価円直径D1と炭化珪素粒子の平均粒子間距離D2との比D1/D2が4以上であることが好ましい。ここで、平均等価円直径とは、断面に表れた珪素スポットの面積と同面積の等価円の直径を各珪素スポットについて求めその平均を算出したものである。また、平均粒子間距離は、次のようにして測定する。はじめに断面に表れた炭化珪素粒子の平均粒子径を求め、次に一つの炭化珪素粒子と、それに隣接する炭化珪素粒子との重心間の平均距離を求め、平均重心間距離と平均粒子径との差を算出し、平均粒子間距離とした。炭化珪素粒子の平均粒子径は、珪素スポットの等価円直径と同様に、炭化珪素粒子の面積から同面積の等価円の直径を求め、それを粒子径として平均を算出した。重心間を結んだ線分が他の粒子と交わらない関係を有する粒子間を隣接するものとした。また、炭化珪素粒子に外接する円の中心を重心とした。これらの算出は、断面のSEM観察画像の画像解析によって行った。
【0015】
珪素スポットの平均等価円直径D1と平均粒子間距離D2が上記関係を有するのは、平均粒子間距離D2に対して所定以上の大きさの珪素スポットを形成することで珪素の凝固膨張による応力緩和の効果が大きくなるためである。珪素スポットの平均等価円直径に対して平均粒子間距離が大きいと応力緩和の効果は発揮されず、クラックやメタルベインが生じてしまう。なお平均等価円直径D1と炭化珪素粒子の平均粒子間距離D2との比D1/D2は、4〜50が好ましく、4〜20がより好ましい。上記比が大きく成りすぎると、未含侵空間に珪素を充填することができなくなり、緻密化することができなくなるためである。
【0016】
珪素スポットの形状は球状が好ましい。珪素スポットは冷却固化する過程において、未含侵空間に未凝固の珪素が染み出すことによって形成される。したがって、未含侵空間を球状に形成することが好ましい。未含侵空間が球状であれば、溶融珪素が凝固する際の体積膨張による応力を緩和する効果を大きくできる。また、球状であれば、形成される各未含侵空間の大きさの均一性を高め易いからである。未含侵空間の大きさの均一性が高いほど、珪素の染み出しによる未含侵空間への充填を均一化できる。
【0017】
上記のような観点から、炭化珪素質焼結体の断面の珪素スポットは、真円度0.6〜1であることが好ましい。ここで言う真円度とは、珪素スポットの内接円の直径と外接円の直径との比(内接円/外接円)である。
【0018】
平均粒子間距離D2は、0.3〜30μmであることが望ましい。このような範囲とし、さらに平均粒子間距離D2に対する珪素スポットの平均等価円直径D1を適切に制御することで、クラックやメタルベインの発生を防ぐことができる。この範囲を外れた場合、例えば、平均粒子間距離D2が0.3μmより小さいと溶融珪素の凝固が進行するときに、未凝固の溶融珪素が移動する経路が狭すぎるために、未含侵空間に十分に染み出すことができず応力を緩和できないおそれがある。また、平均粒子間距離D2が30μmよりも大きい場合は、珪素スポットの平均等価円直径D1を120μm以上の大きさにしなければならず、このような大きさの未含侵空間を溶融珪素の体積膨張で完全に埋めるのは困難であり、炭化珪素焼結体に気孔が残ってしまう。上記のような観点からより好ましい平均粒子間距離D2は、0.3〜30μmであり、さらに好ましくは、1〜20μmである。
【0019】
また、炭化珪素粒子間の総面積(珪素スポットの面積を除く)S2に対し、珪素スポットの総面積S1は、4〜20%であることが好ましい。溶融珪素は凝固する際に約9%体積膨張することから、凝固の進行に伴い、未凝固の珪素が未含侵空間に染み出す。このとき、本発明のように断面における炭化珪素粒子間の総面積S2に対し、珪素スポットの総面積S1は、4〜20%とすることでクラックやメタルベインの発生を防ぐことができる。なお、炭化珪素粒子間の総面積S2は、算出の基となるSEM観察像の面積Sから、珪素スポットの総面積S1及び炭化珪素粒子の総面積S3を引いた値である。
【0020】
本発明の炭化珪素質焼結体の気孔率は0.1%以下とすることができる。多孔体への含侵工程において、未含侵空間を形成することにより、クラックやメタルベインの発生が抑えられ、緻密な炭化珪素質焼結体を容易に作製することができる。緻密な炭化珪素質焼結体を得るには、従来、多孔体の気孔の大きさを均等にし、気孔径分布をシャープにすることが好ましいとされていたが、本発明は、敢えて多孔体に粗大気孔を形成することによって緻密化を図るものである。
【0021】
次に本発明の炭化珪素質焼結体の製造方法について詳しく説明する。
【0022】
多孔体原料としては、炭化珪素、または炭化珪素と炭素のいずれかを用いることができる。炭化珪素としては、市販の炭化珪素粉末を用いることができる。平均粒子間距離を適切に制御するためには、平均粒径(レーザー回折式粒度分布測定によるメディアン径D50)が0.3〜70μmのものを用いることが好ましい。また、炭化珪素と炭素を用いる場合には、上記同様の炭化珪素粉末に加え、炭素源となるバインダ等を用いることができる。バインダ等としては、粒子間の結合を高めるためのフェノール樹脂や、カーボンブラック等が挙げられる。また、炭化珪素の焼結助剤として、炭素、硼素、炭化硼素等、種々用いられて良い。
【0023】
多孔体に粗大気孔を形成するための造孔材は、真球度0.9〜1の樹脂ビーズからなる。樹脂ビーズとしては、熱処理により消失するアクリル等のビーズや、完全に消失しなくても揮発成分を含有し熱処理により体積収縮を伴うエポキシ樹脂、フェノール樹脂等のビーズを用いることができる。本発明における樹脂ビーズの真球度は、顕微鏡観察像により得られる任意の100個の二次元樹脂ビーズ形状から、その内接円と外接円の直径の比(内接円/外接円)の平均を算出して求めた。なお、造孔材の真球度を所定の範囲とすることに加え、造孔材の種類に応じた成形時のプレス圧等の成形条件を調整することで、球状の粗大気孔を形成することができる。
【0024】
また、粗大気孔を形成するための造孔材には、粒度分布がシャープなものを用いることが好ましい。例えば、レーザー回折式粒度分布測定によるD90とD10との比D90/D10が5以下である造孔材を用いることができる。
【0025】
多孔体原料と造孔材との混合は、乾式、湿式を問わず、種々の方法を採用することができる。十分に混合することで粗大気孔が多孔体に分散され、珪素スポットが分散された炭化珪素質焼結体を得ることができる。
【0026】
多孔体原料と造孔材との混合物の成形方法としては、プレス成形、CIP成形、湿式成形等を用いることができる。例えば、乾式成形方法としては、造孔材と炭化珪素粉末とを乾式混合した混合物を一軸プレスやCIP等により成形する方法を用いることができる。湿式成形方法としては、炭化珪素粉末と、炭素源となるバインダを、水等の溶媒と共に混合してスラリー状にし、型に流し込んで振動を付与することで固形分を沈降させて成形する方法を用いることができる。ここで、上記スラリー中に発泡剤を添加しておけば、沈降してできる成形体中に気泡として所望の大きさで球状の粗大気孔を形成できる。また、上記スラリー中に樹脂ビーズ等の造孔材を添加しておけば、成形体を仮焼する過程で造孔材が消失して所望の大きさの粗大気孔を形成できる。
【0027】
焼結方法としては、成形体を非酸化雰囲気下1500〜2000℃で焼成する方法を用いることができる。焼結して得られる多孔体の気孔率は10〜45%とすることが好ましい。
【0028】
炭化珪素、または炭化珪素と炭素からなる多孔体中に珪素を含浸させる方法としては、例えば、融点以上の温度に加熱され溶融した金属珪素を多孔体と接触させる方法を採用することができる。含侵した金属珪素は、多孔体中の炭素と反応し、炭化珪素を生成する。
【0029】
含侵工程の雰囲気は、非酸化雰囲気が好ましく、真空中、アルゴン、または窒素雰囲気を採用することができる。なかでもアルゴンまたは窒素雰囲気中が望ましい。
【0030】
含侵工程の温度は、1450〜1600℃が好ましい。このような範囲であれば、珪素が十分に溶融するので含侵が進行し、また珪素の揮発による不良も生じ難い。
【0031】
含侵工程は、多孔体の少なくとも前記粗大気孔以外の細孔に、非酸化雰囲気下で、珪素の融点以上の温度で珪素を含侵させるとともに、前記粗大気孔に未含侵空間を形成する工程と、珪素の凝固膨脹を利用して未凝固の珪素を前記未含侵空間に充填する工程とを含む。
【0032】
粗大気孔以外の細孔に珪素を含侵させる工程では、多孔体中の全気孔のうち、少なくとも粗大気孔以外に金属珪素を含侵させる。このとき、溶融した金属珪素が、粗大気孔の一部に含侵されていても良い。
【0033】
そして、上記工程の後冷却して、溶融した金属珪素を凝固させる。その際、珪素の凝固膨脹を利用して未凝固の珪素を粗大気孔に染み出させて充填することにより珪素スポットを形成する。なお、粗大気孔以外の細孔に珪素を含侵させる工程と未凝固の珪素を粗大気孔に染み出させて充填する工程とは、含侵時間や含侵温度等の含侵条件を調整することにより実験的に画定することができる。このように、本発明は、多孔体に球状の粗大気孔を形成することによってクラックやメタルベインの発生を抑制するものである。
【0034】
以下、本発明の試験例を具体的に挙げ、本発明をより詳細に説明する。
【0035】
[試験No.1、2、9、10]
市販の炭化珪素粉末に、焼結助剤として炭化硼素を0.2質量%、造孔材としてアクリル樹脂ビーズ(真球度0.94〜0.99、D90/D10=2.4)を所定の量添加して原料粉末を混合した。別途、炭化珪素粉末に対し黒鉛換算で3質量%のカーボンブラック粉末を水、及び乳化剤とともに混合することにより黒鉛エマルジョン液を作製した。この液に前述の原料粉末を添加、混合した後、スプレードライヤーにて顆粒を作製した。顆粒を金型に充填してプレス機で成形した後CIP処理して成形体を作製し、真空雰囲気下で所定の温度で3時間加熱処理を行い、炭化珪素と炭素からなる多孔体を得た。
【0036】
得られた多孔体と、金属珪素とをアルゴン雰囲気中で1500℃の温度で3時間保持し、溶融した金属珪素と多孔体に含まれている炭素とを反応させて炭化珪素とすると同時に、金属珪素を含侵させることにより炭化珪素質焼結体を得た。
【0037】
[試験No.3〜8、11〜13]
成形方法として熱プレス法を用いた例について説明する。市販の炭化珪素粉末に有機バインダとしてフェノール樹脂10質量部(炭素換算3質量部)、造孔材としてアクリル樹脂ビーズ(真球度0.94〜0.99、D90/D10=2.5)を混合し、大気中150℃でプレス成形することでフェノール樹脂を硬化させ成形体を作製した。次に、成形体を真空雰囲気下で1000℃の温度で3時間加熱処理を行い、炭化珪素と炭素からなる多孔体を得た。
【0038】
得られた多孔体と、金属珪素とをアルゴン雰囲気中で1500℃の温度で3時間保持し、溶融した金属珪素と多孔体中に含まれている炭素とを反応させて炭化珪素とすると同時に、金属珪素を含侵させることにより炭化珪素質焼結体を得た。
【0039】
平均粒子間距離及び平均等価円直径は、得られた炭化珪素質焼結体の断面(500μm×500μm)のSEM観察画像から画像解析を用いて求めた。炭化珪素粉末及び造孔材の平均粒径(メディアン径:D50)は、レーザー回折式粒度分布測定により求めた。炭化珪素質焼結体の気孔率は、アルキメデス法により測定した。
【0040】
試験の結果を表1に示した。炭化珪素質焼結体の評価は、切断面の観察によって、クラック及びメタルベインが生じなかったものを○とし、クラック及びメタルベインのいずれかが生じたものを×とした。また、炭化珪素質焼結体の気孔率は、アルキメデス法により測定した開気孔率が0.1%以下の場合は0%と表記した。
【0041】
【表1】

【0042】
試験No.2〜6、8及び10〜12では、いずれも炭化珪素質焼結体にクラックやメタルベインは発生せず、気孔率も0.1%以下であった。
【0043】
一方、試験No.1、7、9では、溶融珪素の凝固に伴う体積膨張によって発生する応力により、炭化珪素質焼結体の表層にクラックが発生した。試験No.13では、珪素の体積膨張による応力でのクラックは発生しなかったものの、炭化珪素質焼結体中に0.2%の気孔が残った。
【0044】
以下、D1/D2が等しい試験No.7、8、11〜13について比較する。試験No.7では、珪素スポットの真円度が小さいことから、多孔体の少なくとも前記粗大気孔以外の細孔に、非酸化雰囲気下で、珪素の融点以上の温度で珪素を含侵させるとともに、前記粗大気孔に未含侵空間を形成する工程(以下、未含侵空間形成工程と呼ぶ)において、未含侵空間が形成されなかったか、または、未含侵空間の形成効果が小さかったためにクラックが生じたものと思われる。一方、試験No.13では、炭化珪素質焼結体に気孔が残った。気孔は珪素スポットに隣接して形成されていたことから、未含侵空間形成工程において、未含侵空間が形成されたものの、珪素の凝固膨脹を利用して未凝固の珪素を前記未含侵空間に充填する工程(以下、充填工程と呼ぶ)において、未含侵空間への珪素の充填が不十分だったと考えられる。
【0045】
試験No.8、11及び12では、クラックおよび気孔は見られなかった。このことから、試験No.8、11及び12では、未含侵空間形成工程において、未含侵空間が形成されており、さらに充填工程において、未含侵空間への珪素の充填が起こっていることが示された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属珪素を含む炭化珪素質焼結体であって、
該炭化珪素焼結体は珪素スポットを有し、
前記炭化珪素質焼結体の断面より求めた前記珪素スポットの平均等価円直径D1と炭化珪素粒子の平均粒子間距離D2との比D1/D2が4以上であることを特徴とする炭化珪素質焼結体。
【請求項2】
前記珪素スポットは、真円度0.6〜1である請求項1記載の炭化珪素焼結体。
【請求項3】
前記平均粒子間距離D2は、0.3〜30μmである請求項1または2に記載の炭化珪素質焼結体。
【請求項4】
気孔率が0.1%以下である請求項1〜3に記載の炭化珪素質焼結体。
【請求項5】
炭化珪素、または炭化珪素と炭素とからなる多孔体原料と、粗大気孔を形成するための真球度0.9〜1の樹脂ビーズからなる造孔材とを混合する混合工程と、
前記多孔体原料と前記造孔材の混合物を成形して成形体を得る成形工程と、
前記成形体を焼結して多孔体を得るとともに前記造孔材を焼失させて前記多孔体に粗大気孔を形成する焼結工程と、
前記多孔体に非酸化雰囲気下で、溶融珪素を含侵させる含侵工程と、
を含む炭化珪素質焼結体の製造方法。
【請求項6】
前記含侵工程は、
多孔体の少なくとも前記粗大気孔以外の細孔に、非酸化雰囲気下で、珪素の融点以上の温度で珪素を含侵させるとともに、前記粗大気孔に未含侵空間を形成する工程と、
珪素の凝固膨脹を利用して未凝固の珪素を前記未含侵空間に充填する工程と、
を含む請求項5に記載の炭化珪素質焼結体の製造方法。


【公開番号】特開2010−222155(P2010−222155A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−68853(P2009−68853)
【出願日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【Fターム(参考)】