説明

無塵紙

【課題】 発塵量が少なく、ブロッキングや樹脂含浸以降の工程機器の汚染が発生しにくい、クリーンルーム等の清浄化された環境で使用可能な無塵紙を提供すること。
【解決手段】 パルプを主成分とする基紙にアクリル系樹脂エマルジョンを含む含浸液を含浸させた無塵紙であって、前記アクリル系樹脂エマルジョンは、ガラス転移温度が−68乃至−25℃であるアクリル系樹脂(A)と、ガラス転移温度が40乃至70℃であるアクリル系樹脂(B)とを、それぞれ固形分換算による重量比で(A):(B)=55:45乃至80:20の割合で含み、前記含浸液はアクリル系樹脂エマルジョン100重量部に対し、5乃至40重量部のポリビニルアルコールを含み、かつ含浸液の含浸量が固形分換算でパルプ100重量部あたり6乃至30重量部とすることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クリーンルーム等の清浄化された環境で使用される無塵紙に係り、特に、発塵量が少なく、しかもブロッキングと、樹脂含浸機や無塵紙を断裁する際のカッターの汚れなど樹脂含浸以降の工程機器の汚染も少ない無塵紙に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、半導体工業、医薬品製造業、精密機械工業等の産業においては、微細な埃や塵等が各種機器や製品等の不良を引き起こす原因とならないように高レベルに清浄化されたクリーンルーム内で作業が行われている。そして、このようなクリーンルーム内では、記録用紙や包装紙等の用途に無塵紙と呼ばれる発塵量が極めて少ない紙が使用されている。無塵紙の特性としては、擦ったり破ったりした際に、微細な無機粒子等の紙粉やパルプ繊維等の塵が発生しないことが最も重要である。
【0003】
このような無塵紙としてはポリオレフィン系やポリスチレン系の合成紙が多く用いられてきたが、これらの合成紙は耐熱性に劣ることが多くヒートロール定着方式のプリンターやコピー機での使用が困難であったり、水性ペンなどによる筆記適正に劣るなどの問題があり、近年ではパルプを主成分とする無塵紙が開発されるようになってきた。耐熱性や筆記適性の観点からパルプを主成分とする無塵紙が求められる一方で、パルプを主成分とする無塵紙ではパルプ繊維の脱落等による塵の発生が起こり得るため、これを防ぐためにパルプを主成分とする基紙に樹脂エマルジョンを含浸するという技術も提案されている。
【0004】
このような無塵紙として、特開昭60−167996号(特許文献1)にはガラス転移温度が0℃以下である高分子物質を紙中に含有させてなる無塵紙が開示されており、使用できる高分子物質として具体的にはアクリル三元共重合体、アクリル酸エステル共重合体、酢酸ビニル−アクリル酸共重合体が開示されている。また、特開昭63−105199号(特許文献2)にはガラス転移温度が0℃以下の合成樹脂と中空顔料を含浸させてなる無塵紙が開示されており、使用できる合成樹脂としてポリアクリル酸エステル系共重合樹脂エマルジョンが開示されている。特許文献1,2に開示されているように、パルプを主成分とする基紙に低ガラス転移温度のアクリル系樹脂を含浸させた場合には、アクリル系樹脂のガラス転移温度が低くなるほど発塵量は小さくなる傾向となる。
【特許文献1】特開昭60−167996号公報(請求項1及び第1表参照)
【特許文献2】特開昭63−105199号公報(請求項1及び表1参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、その一方で含浸させるアクリル系樹脂のガラス転移温度が低くなるほど無塵紙を重ね合わせた際などにブロッキングが発生しやすくなり、また、樹脂含浸機や無塵紙を断裁する際のカッターが汚れるなど樹脂含浸以降の工程において、工程機器の汚染が起こりやすい傾向となる。特にガラス転移温度が−25℃以下のアクリル系樹脂を含浸させた場合には、ガラス転移温度が低くなるにつれブロッキングや汚染が増す傾向が顕著となり、無塵紙としての取扱いや操業性に問題が生じるという問題があった。
【0006】
本発明はこのような問題点を鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、発塵量が少なく、しかもブロッキングが発生しにくく、樹脂含浸機や無塵紙を断裁する際のカッターの汚れなど樹脂含浸以降の工程機器の汚染も少ないクリーンルーム等の清浄化された環境で使用可能な無塵紙を提供することにある。
【0007】
本発明の他の目的並びに作用効果については、以下の記述を参照することにより、当業者であれば容易に理解されるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明の無塵紙は、パルプを主成分とする基紙にアクリル系樹脂エマルジョンを含む含浸液を含浸させた無塵紙であって、前記アクリル系樹脂エマルジョンは、ガラス転移温度が−68乃至−25℃であるアクリル系樹脂(A)と、ガラス転移温度が40乃至70℃であるアクリル系樹脂(B)とを、それぞれ固形分換算による重量比で(A):(B)=55:45乃至80:20の割合で含み、前記含浸液は、アクリル系樹脂エマルジョン100重量部に対し、5乃至40重量部のポリビニルアルコールを含み、かつ含浸液の含浸量が、固形分換算でパルプ100重量部あたり6乃至30重量部とするものである。
【0009】
ここで含浸液の基紙への含浸量は、含浸液を含浸する前後の基紙の重量差や、単位時間当たりの含浸液の減少量を元に算出される。含浸液を含浸する前後の重量差で含浸量を求める場合には、先ず含浸液を含浸する前に基紙の重量を測定し、含浸液を含浸して乾燥させた後にも同様にして無塵紙の重量を測定し、この前後の重量差を含浸液の含浸量とする。また、含浸液の減少量に基づき算出する場合には、例えば以下のようにして求める。サイズプレス工程にて含浸液を含浸させる場合において、1時間当たりにパルプを100kg使用して無塵紙を抄造し、サイズプレス液の減少量が10kgだったときには「含浸液の含浸量は、パルプ100重量部あたり10重量部」となる。また、供給ラインと排出ラインとの含浸液の流量差から減少量を求めることもできる。なお、このサイズプレス液の濃度が20%であれば、「含浸液の含浸量は、固形分換算でパルプ100重量部あたり2重量部」となる。
【0010】
そして、このような構成によれば、ガラス転移温度が低いため比較的軟質性で粘着性の高いアクリル系樹脂(A)を使用したことにより、発塵量が少ない無塵紙とすることができる。また、ガラス転移温度が低いアクリル系樹脂(A)と、ガラス転移温度が高いため比較的硬質性で粘着性の低いアクリル系樹脂(B)とを併用したことにより、ガラス転移温度が低いアクリル系樹脂(A)を単独使用したときと比べて、ブロッキングが発生しにくく、樹脂含浸機や無塵紙を断裁する際のカッターの汚れなど樹脂含浸以降の工程機器の汚染も少ない無塵紙とすることが可能となる。
【0011】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記ポリビニルアルコールは、ケン化度85〜95mol%の部分ケン化型ポリビニルアルコールであることが望ましい。このような構成によれば、完全ケン化型ポリビニルアルコールよりも水溶性が高く皮膜強度も小さい部分ケン化型ポリビニルアルコールを用いたことにより、ブロッキングや、樹脂含浸機や無塵紙を断裁する際のカッターの汚れなど樹脂含浸以降の工程機器の汚染がより少ない無塵紙とすることが可能となる。
【0012】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記含浸液は、更にアクリル系樹脂エマルジョン100重量部に対し0.1乃至1重量部のワックスエマルジョンを含有することが望ましい。このような構成によれば、ワックスエマルジョンを添加したことにより無塵紙表面の滑性が上がるため、更にブロッキングが発生しにくく、樹脂含浸機や無塵紙を断裁する際のカッターの汚れなど樹脂含浸以降の工程機器の汚染の少ない無塵紙とすることが可能となる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、発塵量が少なく、ブロッキングが発生しにくく、樹脂含浸機や無塵紙を断裁する際のカッターの汚れなど樹脂含浸以降の工程機器の汚染も少ない無塵紙を得ることが可能となる。
【0014】
更に、前記ポリビニルアルコールをケン化度85〜95mol%の部分ケン化型ポリビニルアルコールとすることにより、よりブロッキングが発生しにくく、樹脂含浸機や無塵紙を断裁する際のカッターの汚れなど樹脂含浸以降の工程機器の汚染も少ない無塵紙とすることが可能となる。
【0015】
さらに、前記含浸液に、アクリル系樹脂エマルジョン100重量部に対し0.1乃至1重量部のワックスエマルジョンを含有させることにより、更にブロッキングが発生しにくく、樹脂含浸機や無塵紙を断裁する際のカッターの汚れなど樹脂含浸以降の工程機器の汚染の少ない無塵紙とすることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下において、本発明の好適な実施の形態について述べるが、本発明は以下の記述で限定されるものではない。
【0017】
先に出願人は、含浸液にガラス転移温度が−68乃至−25℃であるアクリル系樹脂(A)を含有させることにより、ガラス転移温度がこの範囲であるアクリル系樹脂(A)が比較的軟質性で粘着性の高いという性質から、無塵紙の発塵量を小さくし、クリーンルーム等の清浄化された環境で好適に用いることが可能な低発塵量の無塵紙が得られるということを知見した。
【0018】
しかしながら、ガラス転移温度が−68乃至−25℃であるアクリル系樹脂を単独で使用すると、比較的軟質性で粘着性が高いという性質からブロッキングや汚染が発生しやすくなる虞がある。本願発明者はこの点について鋭意検討を行い、アクリル系樹脂として、先より用いていたガラス転移温度が−68乃至−25℃であるアクリル系樹脂(A)と、相対的に硬質性であるガラス転移温度が40乃至70℃であるアクリル系樹脂(B)とを混合して用い、更にポリビニルアルコールを配合することにより、高度な発塵性能を維持したままでブロッキングや汚染の発生を抑制することが可能となることを見出した。
【0019】
ここで、アクリル系樹脂(A)のガラス転移温度が−68℃より低いと、アクリル系樹脂(A)の粘着性が増すことにより発塵量はより小さくなると考えられるが、その一方でガラス転移温度が低くなるにつれブロッキングや汚染の発生が増加する。一方、相対的に軟質性であるアクリル系樹脂(A)のガラス転移温度が−25℃より高いと、アクリル系樹脂(A)の粘着性が低下することにより発塵量が増え、クリーンルーム等の清浄化された環境で使用可能である高度な発塵性能を持つ無塵紙とすることができない。
【0020】
発明者らの知見によれば、相対的に軟質性であるアクリル系樹脂(A)として、ガラス転移温度が−68℃であるものを用いた場合には、ガラス転移温度が40乃至70℃であるアクリル系樹脂(B)と、ポリビニルアルコールとを用いること、で実用上問題ない程度までブロッキングや汚染を抑制可能であった。一方、相対的に軟質性であるアクリル系樹脂(A)として、ガラス転移温度が−68℃よりも低いアクリル系樹脂エマルジョンを用いた場合には、ガラス転移温度が40乃至70℃であるアクリル系樹脂(B)と、ポリビニルアルコールとを用いても、ブロッキングや汚染を実用に耐えうる程度まで抑制できない可能性が高い。
【0021】
本発明において用いる軟質性のアクリル系樹脂(A)としては、ガラス転移温度が−68乃至−25℃の範囲内であれば特に限定するものではなく、アクリル酸エステル重合体、スチレン−アクリル酸共重合体、酢酸ビニル−アクリル酸共重合体、アクリル三元共重合体のエマルジョン等を用いることができ、この中でもガラス転移温度が−68乃至−25℃のものを選択しやすいという点から、アクリル酸エステル重合体がより好ましい。
【0022】
先にも述べたように、本発明の無塵紙においては、ブロッキングと、無塵紙を断裁する際のカッターの汚れなど樹脂含浸以降の工程機器の汚染を抑制するため、含浸液にガラス転移温度が40乃至70℃であるアクリル系樹脂(B)を適量配合する。ガラス転移温度がこの範囲にあるアクリル系樹脂(B)を適量配合することで、発塵量を抑えたままブロッキングと、機器の汚染が少ない無塵紙を得ることができる。これは、硬質性であるアクリル系樹脂(B)が軟質性であるアクリル系樹脂(A)の粘着性を妨げ、無塵紙とした際にアクリル系樹脂(A)の粘着性に由来するブロッキングや無塵紙を断裁する際のカッターの汚れなど抑制するからであると推測される。尚、本発明の無塵紙においては、含浸液にポリビニルアルコールを配合するが、硬質性のアクリル系樹脂(B)とポリビニルアルコールを併用すると、それぞれを単独で用いた場合に比べ、ブロッキングや無塵紙を断裁する際のカッターの汚れなどが顕著に抑制される。
【0023】
本発明の無塵紙において、硬質性であるアクリル系樹脂(B)のガラス転移温度が40℃より低いと、無塵紙とした際のブロッキング抑制効果が十分ではなく、また、無塵紙を断裁する際のカッターの汚れなど樹脂含浸以降の工程機器の汚染を防止する効果にも乏しくなる。一方、アクリル系樹脂(B)のガラス転移温度が70℃より高いと、より硬質なアクリル樹脂であるためブロッキング抑制や汚染防止の効果はあるものの、軟質性のアクリル系樹脂(A)による粘着性が十分に発揮されなくなり、高度な発塵性能を維持できない可能性が高い。アクリル系樹脂は、ガラス転移温度が高くなるにつれ硬質となる傾向にあり、硬質性であるアクリル系樹脂(B)としてガラス転移温度が高すぎるものを用いると、無機顔料や有機顔料を多量に含有させた場合と同様に塵となる原因物質を紙中に多量に含むこととなり、無塵紙の発塵量が増加しやすくなる。
【0024】
本発明において用いる硬質性のアクリル系樹脂(B)としては、ガラス転移温度が40乃至70℃の範囲であれば特に限定するものではなく、アクリル酸エステル重合体、スチレン−アクリル酸共重合体、酢酸ビニル−アクリル酸共重合体、アクリル三元共重合体のエマルジョン等を用いることができ、この中でもガラス転移温度が40乃至70℃のものを選択しやすいという点で、スチレン−アクリル酸共重合体が好ましい。
【0025】
本発明の無塵紙において、ガラス転移温度が−68乃至−25℃であるアクリル系樹脂(A)と、ガラス転移温度が40乃至70℃であるアクリル系樹脂(B)との配合割合は、それぞれ固形分換算による重量比で、アクリル系樹脂(A):アクリル系樹脂(B)=55:45乃至80:20とする。アクリル系樹脂(A)の配合割合がこの範囲より多くなると、軟質性のアクリル系樹脂(A)による粘着性が増しすぎるため、無塵紙とした際のブロッキングの抑制効果が十分ではなく、また、無塵紙を断裁する際のカッターの汚れなど樹脂含浸以降の工程機器の汚染を防止する効果が乏しくなる。逆に、アクリル系樹脂(A)の配合割合がこの範囲を下回ると、軟質性のアクリル系樹脂(A)による粘着性が十分に得られず、クリーンルームで使用可能な程度の高度な発塵性能を維持できない虞が高い。
【0026】
次に、ポリビニルアルコールについて説明する。本発明の無塵紙においては、含浸液に、アクリル系樹脂エマルジョン100重量部に対し5乃至40重量部のポリビニルアルコールを配合する。ここでアクリル系樹脂エマルジョン100重量部とは、前述のアクリル系樹脂(A)とアクリル系樹脂(B)との総量を表す。含浸液にポリビニルアルコールを配合することで、発塵量を抑えたままで、ブロッキングが発生しにくく、樹脂含浸機や無塵紙を断裁する際のカッターの汚れなど樹脂含浸以降の工程機器の汚染も少ない無塵紙を得ることができる。含浸液にポリビニルアルコールを加えることによりブロッキングや機器の汚染が抑制される理由は定かではないが、ポリビニルアルコールがアクリル系樹脂に保護コロイド状に吸着することにより、アクリル系樹脂の粘着性が抑えられてブロッキングやカッターの汚染が防げられ、また、アクリル系樹脂の水和性が向上することから、樹脂含浸機などの工程機器の汚れも防げられるのではないかと推測される。
【0027】
本発明の無塵紙において、含浸液中のポリビニルアルコールの配合量がアクリル系樹脂エマルジョン100重量部に対し5重量部より少なくなると、無塵紙のブロッキングを抑制できず、また樹脂含浸機や無塵紙を断裁する際のカッターの汚れなど樹脂含浸以降の工程機器の汚染を防止する効果が乏しくなる。特に、アクリル系樹脂の水和性を向上させる効果が乏しくなることから、樹脂含浸機などの工程機器の汚れを十分に防止するころができなくなる。一方、含浸液中のポリビニルアルコールの配合量がアクリル系樹脂エマルジョン100重量部に対し40重量部を超えると、相対的にアクリル系樹脂エマルジョン(A)の配合量が少なくなるために無塵紙の発塵量が多くなり、クリーンルーム等で使用可能な高度な発塵性能を持つ無塵紙とすることができない。
【0028】
本発明の無塵紙においては、含浸液の基紙への含浸量を固形分換算でパルプ100重量部に対し6乃至30重量部とする。含浸液の基紙への含浸量がパルプ100重量部に対し6重量部に満たないと、発塵量を抑えるためのアクリル系樹脂エマルジョン(A)の量が不足するために無塵紙の発塵量が多くなり、クリーンルーム等の清浄化された環境で用いる高度な発塵性能を持つ無塵紙とすることができない。一方、含浸液の基紙への含浸量がパルプ100重量部に対し30重量部を超えた場合には、基紙中のアクリル系樹脂エマルジョン(A)の量が多くなりすぎるため、ブロッキングや無塵紙を断裁する際のカッターの汚れが発生し易くなる。更に、無塵紙の不透明度や剛度が低下するため無塵紙としての取扱いが困難となり、筆記適正や印字適正も悪くなる虞がある。
【0029】
本発明の無塵紙においては、用いるポリビニルアルコールの種類は特に限定するものではなく、シラノール変性、カルボキシル基変性、アセトアセチル基変性、カチオン変性、などのポリビニルアルコールを用いることができる。
【0030】
また、本発明の無塵紙においては、ポリビニルアルコールとして部分ケン化型ポリビニルアルコールを用いることが望ましい。部分ケン化型ポリビニルアルコールは完全ケン化型ポリビニルアルコールと比べてアクリル樹脂に対する吸着性が優れており、より保護コロイド的な効果が期待できる。更に、完全ケン化型ポリビニルアルコールより水溶性が高く被膜強度も小さいことから、樹脂含浸機などの工程機器への含浸液の付着を小さくする事ができる。その為、部分ケン化型ポリビニルアルコールを用いることにより、更にブロッキングが発生しにくく、樹脂含浸以降の工程機器の汚染を抑制することが可能となる。ここで部分ケン化型ポリビニルアルコールのケン化度については特に制限するものではないが、ケン化度は85〜95mol%の範囲であることが好ましく、86〜89mol%であると好適に用いることが可能でありより好ましい。
【0031】
本発明の無塵紙に用いる含浸液には、アクリル系樹脂エマルジョン100重量部に対し0.1乃至1重量部のワックスエマルジョンを含有させることが望ましい。少量のワックスエマルジョンを含有させることにより、ワックスの滑性により樹脂含浸以降の工程機器の汚染を更に減らすことができる。ワックスエマルジョンの配合量がアクリル系樹脂エマルジョン100重量部に対し0.1重量部に満たないと、ワックスによる工程機器の汚染抑制効果が十分に得られない。逆に、アクリル系樹脂エマルジョン100重量部に対し1重量部を超えると、水性ペンなどによる筆記適正を損ねる虞があり、また、無塵紙表面の滑性が高くなるためプリンタに通紙した際の走行性に問題を生じる虞がある。
【0032】
本発明においては、目的とする効果を損なわない範囲で含浸液に公知の添加剤を適宜使用することができる。これらの添加剤としては、増粘剤、分散剤、消泡剤、pH調整剤、界面活性剤、等が挙げられる。また、インクジェットによる印字適正を付与するためにインクジェットインク定着剤を使用してもよい。
【0033】
本発明の無塵紙において、含浸液の基紙への含浸方法は特に制限するものではなく、通常製紙分野にて一般に用いられる公知の含浸方法を適宜使用できる。例えば、オンマシンでのサイズプレス方式やオフマシンでのディッピング含浸方式、更には各種コーティングマシンなどでの含浸方法を用いることが可能である。
【0034】
本発明の無塵紙において、基紙に使用するパルプは特に限定するものではなく、公知の木材パルプを1種又は2種以上適宜選択して使用することができる。例えば、化学パルプのNBKP、LBKP、SCP等、機械パルプのGP、CGP、RGP、TMP等、脱墨パルプ、再生パルプなどであり、工程で発生する損紙を離解したパルプ等を用いても良い。
【0035】
本発明の無塵紙に用いる基紙においては、発塵量を抑制するために発塵の原因となる填料は極力添加しないことが望ましいが、不透明度の向上などのためにやむなく填料を添加する必要がある場合には、その添加量は3重量%以下とすることが望ましい。填料を3重量%を超えて配合すると、発塵量が顕著に増加するためクリーンルーム等の清浄化された環境で使用可能な無塵紙とすることが困難になる。本願において填料を用いるときには通常抄紙に使用される公知の填料を使用することが可能であり、不透明度の向上を目的とする場合であれば、少量の添加でも効果のある酸化チタンを配合することが望ましい。
【0036】
また、本願において無塵紙に用いる基紙には、目的とする効果を損なわない範囲で通常抄紙に使用される公知の添加剤を適宜使用することができる。これらの添加剤としては、サイズ剤、乾燥紙力増強剤、湿潤紙力増強剤、歩留まり向上剤、染料、顔料、消泡剤、pH調整剤、等が挙げられる。
【実施例1】
【0037】
以下に本発明に係る無塵紙の実施例について具体的に説明するが、これによって本発明が限定されるものではない。尚、実施例中の部及び%は、断らない限り乾燥重量部及び重量%を示す。
【0038】
<実施例1>
LBKP70重量部、NBKP30重量部を用い、濾水度を460ml:CSFとした後、水中に分散したパルプ100重量部に対し、硫酸バンド0.3質量部、ポリアミドエポキシ樹脂(Sumirez Resin 6615/住友化学工業株式会社製)0.5重量部を添加して、基紙の抄造原料を得た。次に、相対的に軟質性であるアクリル系樹脂(A)としてガラス転移温度が−52℃であるアクリル酸エステル共重合体(ニューコートSFK−1000A・K5/新中村化学工業株式会社製)70重量部、相対的に硬質性であるアクリル系樹脂(B)としてガラス転移温度が60℃であるアクリル共重合体(サイビノールX−507−631E/サイデン化学株式会社製)30重量部、完全ケン化型ポリビニルアルコール(JF−17/日本酢ビ・ポバール株式会社製)20重量部を水中に分散し含浸液を得た。得られた抄造原料を用いて抄紙機で基紙を抄紙し、抄紙工程においてサイズプレス装置を用いて基紙のパルプ100重量部に対し固形分換算で15重量部の含浸液を付着させた。その後、カレンダ圧を25kg/cmとしてカレンダ処理を行い目的とする無塵紙を得た。得られた無塵紙の坪量は74g/m2であった。
【0039】
<実施例2>
実施例1において、ガラス転移温度が−52℃であるアクリル酸エステル共重合体(ニューコートSFK−1000A・K5/新中村化学工業株式会社製)の代わりに、ガラス転移温度が−25℃である酢酸ビニル−アクリル酸共重合体(サイビノールACF−10/サイデン化学株式会社製)を用いた以外は実施例1と同様にして無塵紙を得た。
【0040】
<実施例3>
実施例1において、ガラス転移温度が−52℃であるアクリル酸エステル共重合体(ニューコートSFK−1000A・K5/新中村化学工業株式会社製)の代わりに、ガラス転移温度が−68℃であるアクリル酸エステル共重合体(ニューコートSFK−1000C・S1/新中村化学工業株式会社製)を用いた以外は実施例1と同様にして無塵紙を得た。
【0041】
<実施例4>
実施例1において、ガラス転移温度が60℃であるアクリル共重合体(サイビノールX−507−631E/サイデン化学株式会社製)の代わりに、ガラス転移温度が40℃であるスチレン−アクリル酸共重合体(サイビノールEK−81/サイデン化学株式会社製)を用いた以外は実施例1と同様にして無塵紙を得た。
【0042】
<実施例5>
実施例1において、ガラス転移温度が60℃であるアクリル共重合体(サイビノールX−507−631E/サイデン化学株式会社製)の代わりに、ガラス転移温度が70℃であるスチレン−アクリル酸共重合体(ジョンクリル61J/ジョンソンポリマー株式会社製)を用いた以外は実施例1と同様にして無塵紙を得た。
【0043】
<実施例6>
実施例1において、ガラス転移温度が−52℃であるアクリル酸エステル共重合体(ニューコートSFK−1000A・K5/新中村化学工業株式会社製)の配合量を80重量部、ガラス転移温度が60℃であるアクリル共重合体(サイビノールX−507−631E/サイデン化学株式会社製)の配合量を20重量部とした以外は実施例1と同様にして無塵紙を得た。
【0044】
<実施例7>
実施例1において、ガラス転移温度が−52℃であるアクリル酸エステル共重合体(ニューコートSFK−1000A・K5/新中村化学工業株式会社製)の配合量を55重量部、ガラス転移温度が60℃であるアクリル共重合体(サイビノールX−507−631E/サイデン化学株式会社製)の配合量を45重量部とした以外は実施例1と同様にして無塵紙を得た。
【0045】
<実施例8>
実施例1において、完全ケン化型ポリビニルアルコール(JF−17/日本酢ビ・ポバール株式会社製)の配合量を5重量部とした以外は実施例1と同様にして無塵紙を得た。
【0046】
<実施例9>
実施例1において、完全ケン化型ポリビニルアルコール(JF−17/日本酢ビ・ポバール株式会社製)の配合量を40重量部とした以外は実施例1と同様にして無塵紙を得た。
【0047】
<実施例10>
実施例1において、含浸液の含浸量を基紙のパルプ100重量部に対し30重量部とした以外は実施例1と同様にして無塵紙を得た。
【0048】
<実施例11>
実施例1において、含浸液の含浸量を基紙のパルプ100重量部に対し6重量部とした以外は実施例1と同様にして無塵紙を得た。
【0049】
<実施例12>
実施例1において、ガラス転移温度が−52℃であるアクリル酸エステル共重合体(ニューコートSFK−1000A・K5/新中村化学工業株式会社製)70重量部の代わりに、ガラス転移温度が−68℃であるアクリル酸エステル共重合体(ニューコートSFK−1000C・S1/新中村化学工業株式会社製)80重量部を用い、ガラス転移温度が60℃であるアクリル共重合体(サイビノールX−507−631E/サイデン化学株式会社製)30重量部の代わりに、ガラス転移温度が40℃であるスチレン−アクリル酸共重合体(サイビノールEK−81/サイデン化学株式会社製)20重量部を用い、完全ケン化型ポリビニルアルコール(JF−17/日本酢ビ・ポバール株式会社製)の配合量を5重量部とし、含浸液の含浸量を基紙のパルプ100重量部に対し30重量部とした以外は実施例1と同様にして無塵紙を得た。
【0050】
<実施例13>
実施例1において、ガラス転移温度が−52℃であるアクリル酸エステル共重合体(ニューコートSFK−1000A・K5/新中村化学工業株式会社製)70重量部の代わりに、ガラス転移温度が−25℃である酢酸ビニル−アクリル酸共重合体(サイビノールACF−10/サイデン化学株式会社製)55重量部を用い、ガラス転移温度が60℃であるアクリル共重合体(サイビノールX−507−631E/サイデン化学株式会社製)30重量部の代わりに、ガラス転移温度が70℃であるスチレン−アクリル酸共重合体(ジョンクリル61J/ジョンソンポリマー株式会社製)45重量部を用い、完全ケン化型ポリビニルアルコール(JF−17/日本酢ビ・ポバール株式会社製)の配合量を40重量部とし、含浸液の含浸量を基紙のパルプ100重量部に対し6重量部とした以外は実施例1と同様にして無塵紙を得た。
【0051】
<実施例14>
実施例1において、完全ケン化型ポリビニルアルコール(JF−17/日本酢ビ・ポバール株式会社製)の代わりにケン化度95.5〜97.5mol%であるカルボキシ変性ポリビニルアルコール(AT−17/日本酢ビ・ポバール株式会社製)を用いた以外は実施例1と同様にして無塵紙を得た。
【0052】
<実施例15>
実施例1において、完全ケン化型ポリビニルアルコール(JF−17/日本酢ビ・ポバール株式会社製)の代わりにケン化度98〜99mol%であるシラノール変性ポリビニルアルコール(R−1130/クラレ株式会社製)を用いた以外は実施例1と同様にして無塵紙を得た。
【0053】
<実施例16>
実施例1において、完全ケン化型ポリビニルアルコール(JF−17/日本酢ビ・ポバール株式会社製)の代わりにケン化度86〜89mol%である部分ケン化型ポリビニルアルコール(ゴーセノールGL−03/日本合成化学工業株式会社製)を用いた以外は実施例1と同様にして無塵紙を得た。
【0054】
<実施例17>
実施例1において、含浸液中にワックスエマルジョン(SNコート289/サンノプコ株式会社製)を0.1重量部更に配合した以外は実施例1と同様にして無塵紙を得た。
【0055】
<実施例18>
実施例1において、含浸液中にワックスエマルジョン(SNコート289/サンノプコ株式会社製)を1重量部更に配合した以外は実施例1と同様にして無塵紙を得た。
【0056】
<実施例19>
実施例1において、完全ケン化型ポリビニルアルコール(JF−17/日本酢ビ・ポバール株式会社製)の代わりにケン化度86〜89mol%である部分ケン化型ポリビニルアルコール(ゴーセノールGL−03/日本合成化学工業株式会社製)を用い、含浸液中にワックスエマルジョン(SNコート289/サンノプコ株式会社製)を0.5重量部更に配合した以外は実施例1と同様にして無塵紙を得た。
【0057】
<比較例1>
実施例1において、ガラス転移温度が−52℃であるアクリル酸エステル共重合体(ニューコートSFK−1000A・K5/新中村化学工業株式会社製)の代わりにをガラス転移温度が−12℃であるアクリル酸エステル共重合体(MT−2780SS/新中村化学工業株式会社製)を用いた以外は実施例1と同様にして無塵紙を得た。
【0058】
<比較例2>
実施例1において、ガラス転移温度が60℃であるアクリル共重合体(サイビノールX−507−631E/サイデン化学株式会社製)の代わりに、ガラス転移温度が24℃であるスチレン−アクリル酸共重合体(サイビノールEK−61/サイデン化学株式会社製)を用いた以外は実施例1と同様にして無塵紙を得た。
【0059】
<比較例3>
実施例1において、ガラス転移温度が60℃であるアクリル共重合体(サイビノールX−507−631E/サイデン化学株式会社製)の代わりに、ガラス転移温度が96℃であるスチレン−アクリル酸共重合体(サイビノールSK−202/サイデン化学株式会社製)を用いた以外は実施例1と同様にして無塵紙を得た。
【0060】
<比較例4>
実施例1において、ガラス転移温度が−52℃であるアクリル酸エステル共重合体(ニューコートSFK−1000A・K5/新中村化学工業株式会社製)の配合量を90重量部、ガラス転移温度が60℃であるアクリル共重合体(サイビノールX−507−631E/サイデン化学株式会社製)の配合量を10重量部とした以外は実施例1と同様にして無塵紙を得た。
【0061】
<比較例5>
実施例1において、ガラス転移温度が−52℃であるアクリル酸エステル共重合体(ニューコートSFK−1000A・K5/新中村化学工業株式会社製)の配合量を45重量部、ガラス転移温度が60℃であるアクリル共重合体(サイビノールX−507−631E/サイデン化学株式会社製)の配合量を55重量部とした以外は実施例1と同様にして無塵紙を得た。
【0062】
<比較例6>
実施例1において、完全ケン化型ポリビニルアルコール(JF−17/日本酢ビ・ポバール株式会社製)の配合量を3重量部とした以外は実施例1と同様にして無塵紙を得た。
【0063】
<比較例7>
実施例1において、完全ケン化型ポリビニルアルコール(JF−17/日本酢ビ・ポバール株式会社製)の配合量を50重量部とした以外は実施例1と同様にして無塵紙を得た。
【0064】
<比較例8>
実施例1において、含浸液の含浸量を基紙のパルプ100重量部に対し3重量部とした以外は実施例1と同様にして無塵紙を得た。
【0065】
<比較例9>
実施例1において、含浸液の含浸量を基紙のパルプ100重量部に対し35重量部とした以外は実施例1と同様にして無塵紙を得た。
実施例1〜19、比較例1〜9で得られた無塵紙についての評価結果が図1に示されている。同図に示されている発塵量、ブロッキング、汚染の評価方法、及び表記は以下の通りである。
【0066】
[発塵量]
SEMI G67−0996「シート材料から発生する粒子の測定方法」に準じて、クリーンベンチ内で擦り及び引き裂きの試験を行い、KR−12A(リオン社製パーティクルカウンター)を用いて粒子径0.3μm以上の粒子の個数を測定した。表中の単位は個/CF(1立方フィートあたりの個数)である。擦り及び引き裂きの両試験での結果を総合的に評価し、発塵量の少ないものから順に◎優、○良、△可、×不可とし、4段階評価を行った。
ここでクリーンベンチは、鋼鉄を骨組みとした幅0.75m×奥行0.5m×全高0.7mの直方体の前後左右の四面を塩ビ樹脂製カーテンで覆い、上面をHEPAフィルターを有する清浄機設置(CS−CUTE−05A型/シーズシー有限会社製)を設置した金属板で蓋をしたものを使用した。清浄機の風出口は幅0.58m×奥行0.275mであり、フィルター風出口風速は0.6m/sである。

擦り試験:紙の流れ方向(MD方向)が短辺となるA5サイズの試験片2枚を用意し、試験片の表と裏を重ね合わせ、紙の流れ方向と垂直方向(CD方向)に1分間に30往復の割合で1分間手で擦りあわせ、発生した塵の個数を測定した。

引き裂き試験:紙の流れ方向(MD方向)が長辺となるA4サイズの試験片を紙の長辺方向に沿って1分間に18箇所引き裂き(引き裂き長さがA4サイズの長辺となる)、発生した塵の個数を測定した。
【0067】
[ブロッキング]
A4サイズの試験片250枚を積層し、40kgの重りを乗せ、23℃×50%r.hの条件下で30日間経過した後にブロッキングの程度を確認した。ブロッキングの少ないものから順に◎優、○良、△可、×不可とし、4段階評価を行った。
【0068】
[汚染]
以下の2種の感応試験を総合的に評価し、汚染の少ないものから順に◎優、○良、△可、×不可とし、4段階評価を行った。

洗浄性感応試験:含浸機及び含浸後の乾燥工程における含浸液による汚れの有無を確認した。

断裁性感応試験:試験片に刃長約7cmのハサミで切り込みを入れ、これを300回繰り返した時点での刃の汚れを確認した。
【0069】
図1から明らかなように実施例1〜19で得られた無塵紙は、擦り及び引き裂きの何れの試験においても発塵量が少なく、ブロッキングが良好なレベルにあり、汚染についても問題ないものであった。以下においては、実施例1で得られた無塵紙を基準として検証を行う。尚、いずれの項目においても◎、○、△は実用上問題ないものであり、×は実用上問題のあるものである。
【0070】
先ず、含浸液中のアクリル系樹脂エマルジョンのガラス転移温度について検証を行う。相対的に軟質性であるアクリル系樹脂(A)としてガラス転移温度が−25℃のアクリル系樹脂を使用した実施例2で得られた無塵紙は、アクリル系樹脂(A)として−52℃のアクリル樹脂を使用した実施例1で得られた無塵紙よりも若干発塵量が多くなったが、実用上問題ないレベルであった。相対的に軟質性であるアクリル系樹脂(A)としてガラス転移温度が−68℃のアクリル系樹脂エマルジョンを使用した実施例3で得られた無塵紙は、実施例1で得られた無塵紙と比較してブロッキングや汚染がやや見られたが、実用上問題ないレベルであった。一方、相対的に軟質性であるアクリル系樹脂(A)としてガラス転移温度が−12℃のアクリル系樹脂を使用した比較例1で得られた無塵紙は、実施例1で得られた無塵紙に比べて発塵量が多くなり、クリーンルーム等の清浄化された環境で使用可能なものではなかった。以上より、相対的に軟質性であるアクリル系樹脂のガラス転移温度については、−68乃至−25℃の範囲であることが好ましいと思われる。
【0071】
相対的に硬質性であるアクリル系樹脂としてガラス転移温度が40℃のアクリル系樹脂を使用した実施例4で得られた無塵紙は、実施例1で得られた無塵紙と比較してブロッキングや汚染がやや見られたが、実用上問題ないレベルであった。相対的に硬質性であるアクリル系樹脂としてガラス転移温度が70℃のアクリル系樹脂を使用した実施例5で得られた無塵紙は、実施例1で得られた無塵紙よりも若干発塵量が多くなったが、実用上問題ないレベルであった。一方、相対的に硬質性であるアクリル系樹脂としてガラス転移温度が24℃のアクリル系樹脂を使用した比較例2で得られた無塵紙は、実施例1で得られた無塵紙に比べてブロッキングが発生し、また、含浸機や含浸後の乾燥工程でのドライヤーに樹脂が付着して汚れるなど洗浄性が悪く、断裁性の評価でも刃に多量の汚れが見られる結果となり、実用に供し得ないものであった。相対的に硬質性であるアクリル系樹脂としてガラス転移温度が96℃のアクリル系樹脂を使用した比較例3で得られた無塵紙は、実施例1で得られた無塵紙に比べて発塵量が多くなり、クリーンルーム等の清浄化された環境で使用可能なものではなかった。以上より、相対的に硬質性であるアクリル系樹脂のガラス転移温度については、40〜70℃の範囲であることが好ましいと思われる。
【0072】
次に、相対的に軟質性であるアクリル系樹脂と硬質性であるアクリル系樹脂との含浸液中への配合比率について検証を行う。相対的に軟質性であるアクリル系樹脂と硬質性であるアクリル系樹脂との配合比率を80:20とした実施例6で得られた無塵紙は、実施例1で得られた無塵紙と比較してブロッキングや汚染がやや見られたが、実用上問題ないレベルであった。相対的に軟質性であるアクリル系樹脂と硬質性であるアクリル系樹脂との配合比率を55:45とした実施例7で得られた無塵紙は、実施例1で得られた無塵紙よりも若干発塵量が多くなったが、実用上問題ないレベルであった。相対的に軟質性であるアクリル系樹脂と硬質性であるアクリル系樹脂との配合比率を90:10とした比較例4で得られた無塵紙は、実施例1で得られた無塵紙と比較して顕著にブロッキングが発生した。また、含浸機や含浸後の乾燥工程でのドライヤーに樹脂が付着して汚れるなど洗浄性が悪く、断裁性の評価でも刃に多量の汚れが見られる結果となり、実用に供し得ないものであった。相対的に軟質性であるアクリル系樹脂と硬質性であるアクリル系樹脂との配合比率を45:55とした比較例5で得られた無塵紙は、実施例1で得られた無塵紙と比べて発塵量が多くなり、クリーンルーム等の清浄化された環境で使用可能なものではなかった。以上より、相対的に軟質性であるアクリル系樹脂と硬質性であるアクリル系樹脂との含浸液中への配合比率は55:45〜80:20の範囲であることが好ましいと思われる。
【0073】
次に、ポリビニルアルコールの添加量について検証を行う。アクリル系樹脂エマルジョン100重量部に対して20重量部のポリビニルアルコールを添加した実施例1では、擦り及び引き裂きの何れの試験においても発塵量が少なく、ブロッキングが良好なレベルにあり汚染についても問題ないものであった。アクリル系樹脂エマルジョン100重量部に対して5重量部のポリビニルアルコールを添加した実施例8では、実施例1で得られた無塵紙と比べてブロッキングや汚染がやや見られたが、実用上問題ないレベルであった。アクリル系樹脂エマルジョン100重量部に対して40重量部のポリビニルアルコールを添加した実施例9で得られた無塵紙は、実施例1で得られた無塵紙と比べて若干発塵量が多くなったが、実用上問題ないレベルであった。アクリル系樹脂エマルジョン100重量部に対して3重量部のポリビニルアルコールを添加した比較例6で得られた無塵紙は、実施例1で得られた無塵紙と比べて顕著にブロッキングが発生した。また、含浸機や含浸後の乾燥工程でのドライヤーに樹脂が付着して汚れるなど洗浄性が悪く、断裁性の評価でも刃に多量の汚れが見られる結果となり、実用に供し得ないものであった。アクリル系樹脂エマルジョン100重量部に対して50重量部のポリビニルアルコールを添加した比較例7で得られた無塵紙は、実施例1で得られた無塵紙と比べて発塵量が多くなり、クリーンルーム等の清浄化された環境で使用可能なものではなかった。以上より、ポリビニルアルコールの添加量は、アクリル系樹脂エマルジョン100重量部に対して5〜40重量部の範囲であることが好ましいと思われる。
【0074】
次に、含浸液の含浸量について検証を行う。含浸液を基紙のパルプ100重量部に対して30重量部含浸させた実施例10で得られた無塵紙は、実施例1で得られた無塵紙と比べてややブロッキングが見られ、断裁性の評価では刃に汚れが見られたが、実用上問題のないレベルであった。含浸液を基紙のパルプ100重量部に対して6重量部含浸させた実施例11で得られた無塵紙は、実施例1で得られた無塵紙と比べて若干発塵量が多くなったが、実用上問題ないレベルであった。含浸液を基紙のパルプ100重量部に対して3重量部含浸させた比較例8で得られた無塵紙は、実施例1で得られた無塵紙と比べて発塵量が多くなり、クリーンルーム等の清浄化された環境で使用可能なものではなかった。含浸液を基紙のパルプ100重量部に対して35重量部含浸させた比較例9で得られた無塵紙は、実施例1で得られた無塵紙と比べて顕著にブロッキングが発生し、断裁性の評価では刃に多量の汚れが見られた。加えて、実施例1〜19で得られた無塵紙に比べ不透明度が低く印字した際などの裏抜けの懸念があり、また、剛度が低いために取扱いが困難となり、水性ペンなどによる筆記適正や印字適正が比較的悪い結果となった。これは含浸液の含浸量が多すぎるためであると思われる。以上より、含浸液の含浸量は、固形分換算で基紙のパルプ100重量部に対して6〜30重量部であることが好ましいと思われる。
【0075】
次に、ポリビニルアルコールのケン化度について検証を行う。部分ケン化型ポリビニルアルコールを用いた実施例14〜16で得られた無塵紙は、実施例1で得られた無塵紙と比べて顕著なブロッキングと汚染の防止効果が見られた。特にケン化度86〜89mol%であるポリビニルアルコールを用いた実施例16で得られた無塵紙は、実施例1で得られた無塵紙と比べてより顕著なブロッキングと汚染の防止効果が見られた。このことより、ポリビニルアルコールとしては部分ケン化型ポリビニルアルコールを用いることがより好ましいと思われる。
【0076】
次に、ワックスエマルジョンの添加量について検証を行う。ワックスエマルジョンを0.1重量部添加した実施例17で得られた無塵紙は、実施例1で得られた無塵紙と比べて、ブロッキングと汚染の防止効果が見られた。ワックスエマルジョンを1.0重量部添加した実施例18で得られた無塵紙も実施例17で得られた無塵紙と同様に、実施例1で得られた無塵紙と比べてブロッキングと汚染の防止効果が見られた。以上より、ワックスエマルジョンは0.1〜1.0重量部の範囲で添加することが好ましいと思われる。
【0077】
また、軟質性であるアクリル系樹脂としてガラス転移温度が−68℃のアクリル系樹脂エマルジョンを使用し、硬質性であるアクリル系樹脂としてガラス転移温度が40℃のアクリル系樹脂を使用し、軟質性であるアクリル系樹脂と硬質性であるアクリル系樹脂との配合比率を80:20とし、アクリル系樹脂エマルジョン100重量部に対して5重量部のポリビニルアルコールを添加し、含浸液を基紙のパルプ100重量部に対して30重量部含浸させた実施例12で得られた無塵紙は、実施例1〜19の中でも最もブロッキングが見られ、断裁性の評価では刃に汚れが見られたが、実用に耐えうるレベルであった。また、軟質性であるアクリル系樹脂としてガラス転移温度が−25℃のアクリル系樹脂エマルジョンを使用し、硬質性であるアクリル系樹脂としてガラス転移温度が70℃のアクリル系樹脂を使用し、軟質性であるアクリル系樹脂と硬質性であるアクリル系樹脂との配合比率を55:45とし、アクリル系樹脂エマルジョン100重量部に対して40重量部のポリビニルアルコールを添加し、含浸液を基紙のパルプ100重量部に対して6重量部含浸させた実施例13で得られた無塵紙は、実施例1〜19の中でも最も発塵量が多くなったが、実用に耐えうるレベルであった。
【産業上の利用可能性】
【0078】
以上述べたように、本発明によれば、発塵量が少なく、しかもブロッキングが発生しにくく、樹脂含浸機や無塵紙を断裁する際のカッターの汚れなど樹脂含浸以降の工程機器の汚染も少ない無塵紙を得ることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】実施例及び比較例の評価結果を示す図表である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルプを主成分とする基紙にアクリル系樹脂エマルジョンを含む含浸液を含浸させた無塵紙であって、
前記アクリル系樹脂エマルジョンは、ガラス転移温度が−68乃至−25℃であるアクリル系樹脂(A)と、ガラス転移温度が40乃至70℃であるアクリル系樹脂(B)とを、それぞれ固形分換算による重量比で(A):(B)=55:45乃至80:20の割合で含み、
前記含浸液は、アクリル系樹脂エマルジョン100重量部に対し、5乃至40重量部のポリビニルアルコールを含み、かつ含浸液の含浸量が、固形分換算でパルプ100重量部あたり6乃至30重量部とすることを特徴とする無塵紙。
【請求項2】
前記ポリビニルアルコールは、ケン化度85〜95mol%の部分ケン化型ポリビニルアルコールであることを特徴とする請求項1に記載の無塵紙。
【請求項3】
前記含浸液は、アクリル系樹脂エマルジョン100重量部に対し0.1乃至1重量部のワックスエマルジョンを更に含有することを特徴とする請求項1又は2の何れかに記載の無塵紙。

【図1】
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【公開番号】特開2009−167546(P2009−167546A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−4827(P2008−4827)
【出願日】平成20年1月11日(2008.1.11)
【出願人】(592175416)紀州製紙株式会社 (23)
【Fターム(参考)】