説明

焼却飛灰及びセメントキルン燃焼ガス抽気ダストの処理方法及び処理装置

【課題】焼却飛灰及びセメントキルン燃焼ガス抽気ダストを処理する際に、運転コスト及び設備コストを低く抑えながら、純度の高い重金属、石膏及び工業塩を回収する。
【解決手段】焼却飛灰Aの溶解槽19と、溶解槽からのスラリーS2を固液分離する第1(S2)の固液分離機21と、窯尻25aから燃焼ガスを冷却しながら抽気する抽気装置6と、抽気ガスG1に含まれるダストD2を第1(S2)の固液分離機からのろ液W1を利用しながら湿式集塵するとともに、湿式集塵で生成したスラリーS1に含まれる重金属がスラリーの液相に溶解するように、スラリーのpHを調整する湿式集塵機11と、湿式集塵機でpH調整されたスラリーを固液分離する第1(S1)の固液分離機21と、第1(S1)の固液分離機で分離されたろ液中W2の重金属を沈殿させる調整槽22と、調整槽から供給されたスラリーS3を固液分離する第2の固液分離機23とを備える処理装置1等。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、都市ごみなどを焼却した際に発生する焼却飛灰や、セメントキルンの窯尻から最下段サイクロンに至るまでのキルン排ガス流路より抽気した燃焼ガスに含まれるダストを処理する方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
都市ごみなどを焼却した際に発生する焼却灰は、最終処分場の枯渇の虞に鑑み、近年、セメント原料としてリサイクルしている。都市ごみ焼却灰のうち、気体とともに運ばれ、集塵装置で回収される飛灰は、10〜20%の塩素分を含むため、セメント原料としてリサイクルするにあたって事前に塩素分を除去する必要がある。そこで、ベルトフィルタなどの水洗脱塩設備を用い、焼却飛灰に含まれる水溶性塩素化合物を水洗除去した後、セメント原料として利用している。
【0003】
一方、セメント製造設備におけるプレヒータの閉塞等の問題を引き起こす原因となる塩素、硫黄、アルカリ等の中で、塩素が特に問題となることに着目し、セメントキルンの窯尻から最下段サイクロンに至るまでのキルン排ガス流路より、燃焼ガスの一部を抽気して塩素を除去する塩素バイパスシステムが用いられている。
【0004】
この塩素バイパス設備では、例えば、特許文献1に記載のように、抽気した燃焼排ガスを冷却して生成したダストの微粉側に塩素が偏在しているため、ダストを分級機によって粗粉と微粉とに分離し、粗粉をセメントキルン系に戻すとともに、分離された塩化カリウム(KCl)などを含む微粉(塩素バイパスダスト)を回収してセメント粉砕ミル系に添加していた。
【0005】
ところが、近年、廃棄物のセメント原料化又は燃料化によるリサイクルが推進され、廃棄物の処理量が増加するに従い、セメントキルンに持ち込まれる鉛の量も増加し、セメント中の鉛濃度が管理基準値を上回る虞もある。そのため、例えば、特許文献2に記載の廃棄物のセメント原料化処理方法では、従来水洗処理されている塩素バイパスダストなどを脱塩処理し、塩素を含む廃棄物に水を添加して廃棄物中の塩素を溶出させてろ過し、得られた脱塩ケークをセメント原料として利用するとともに、排水を浄化処理して鉛や銅等の重金属を除去し、環境汚染を引き起こすことなく、塩素バイパスダストの有効利用を図っている。
【0006】
一方、セメント製造工程には、上記鉛や銅等に加え、セレン(Se)や、タリウム(Tl)がもたらされる。例えば、キルンや仮焼炉に供給される微粉炭中には1ppm程度、廃タイヤには8ppm程度のタリウムが含まれる。このタリウムは、沸点が低く、セメント焼成装置のキルンからプレヒータの間で揮発し、大部分がプレヒータにおいて濃縮されるため、塩素バイパスダストを処理した排水等に含まれることとなる。
【0007】
上述のように、従来、都市ごみ焼却飛灰等をセメント原料としてリサイクルするにあたり、飛灰と塩素バイパスダストから塩素分を除去する必要があるとともに、塩素バイパスダストからタリウム、鉛、セレンなどの重金属を除去する必要があるケースがあるため、複数の処理設備が必要になるとともに、各々の処理設備に配員する必要があるなど、設備コスト及び運転コストが高騰するという問題があった。
【0008】
そこで、特許文献3には、焼却灰と塩素バイパスダストの水洗を同時に行うとともに、水洗後得られたろ液に溶出するタリウム、鉛、セレンから選択される一つ以上の物質を硫化剤及び/又は還元剤の添加により除去することで、都市ごみ焼却灰等をセメント原料としてリサイクルするにあたり、設備コスト及び運転コストを低く抑える方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第97/21638号パンフレット
【特許文献2】特開2000−281398号公報
【特許文献3】特開2007−268398号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、上記特許文献3に記載の焼却灰の処理方法によって焼却飛灰と塩素バイパスダストの水洗を同時に行うと、水洗設備等を共用することができるため、設備コストを低く抑えることができるものの、例えば、焼却飛灰又は塩素バイパスダストのいずれか一方にのみ含まれている物質や、いずれか一方にのみ多量に含まれている物質が水洗後のろ液全体に分散するため、多量の薬剤を消費して薬剤コストが高騰するという問題があった。
【0011】
また、焼却飛灰を水洗した後のろ液には、塩化カルシウム(CaCl2)が多く溶解しているため、塩化カリウム純度の高い工業塩を回収することが困難であった。
【0012】
さらに、塩素バイパスダスト等を水洗処理した際に鉛等の重金属や、石膏を回収することもできるが、回収された重金属や石膏の純度が低いため、再利用することが容易ではないという問題もあった。
【0013】
そこで、本発明は、上記従来の技術における問題点に鑑みてなされたものであって、焼却飛灰及びセメントキルン燃焼ガス抽気ダストを処理するにあたり、薬剤コストを含む運転コスト及び設備コストを低く抑えるとともに、純度の高い工業塩、重金属及び石膏を回収することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するため、本発明は、焼却飛灰及びセメントキルン燃焼ガス抽気ダストの処理方法であって、セメントキルンの窯尻から最下段サイクロンに至るまでのキルン排ガス流路より燃焼ガスの一部を冷却しながら抽気し、該抽気ガスに含まれるダストを湿式集塵し、焼却飛灰を水に溶解させた後、ろ過して得られたろ液を前記湿式集塵に利用し、前記湿式集塵により生成したスラリーに含まれる重金属が該スラリーの液相に溶解するように、該スラリーのpHを調整し、該pH調整されたスラリーを固液分離し、該固液分離によって得られたろ液中の重金属を回収することを特徴とする。
【0015】
そして、本発明によれば、焼却飛灰を含むスラリーのろ液を、セメントキルン燃焼ガス抽気ダストの湿式集塵に利用するため、焼却飛灰の水洗処理系と、抽気ダストの水洗処理系とを共用することができ、設備コスト及び運転コストを低減することができる。また、湿式集塵により生成されるスラリーの液相に、焼却飛灰及びセメントキルン燃焼ガス抽気ダストに含まれる重金属が溶解し、該スラリーを固液分離することで、液相に含まれる重金属と、固相に含まれる石膏とに分離することができ、各々の純度を高めることができる。さらに、焼却飛灰を水洗して得られたろ液は、pHが11〜12と高く、該ろ液に含まれる水酸化物イオン(OH-)を、湿式集塵により生成したスラリーを脱硫する脱硫助剤として利用することもでき、薬剤コストを含む運転コストを低く抑えることができる。
【0016】
前記焼却飛灰及びセメントキルン燃焼ガス抽気ダストの処理方法において、重金属を回収して得られたろ液から塩を回収することができる。また、焼却飛灰を含むスラリーのろ液を湿式集塵に利用することで、焼却飛灰を含むスラリーのろ液に含まれる塩化カルシウムを硫酸カルシウムに変化させて回収することができる。これにより、塩水に塩化カルシウムが混入することを回避することができ、塩化カリウム純度の高い回収塩を得ることができる。
【0017】
上記焼却飛灰及びセメントキルン燃焼ガス抽気ダストの処理方法において、前記焼却飛灰をろ過する装置と、前記スラリーを固液分離する装置を共用することができ、これによって設備コスト及び運転コストをさらに低減することができる。
【0018】
また、前記湿式集塵により生成したスラリーのpHを1以上6以下に調整することができ、これにより、湿式集塵後のスラリーに含まれる重金属をより多く該スラリー中に溶解させることができ、重金属の回収率を高めることができる。
【0019】
さらに、上記焼却飛灰及びセメントキルン燃焼ガス抽気ダストの処理方法において、前記ろ液中の重金属の回収を、硫化反応又はpH調整、あるいは硫化反応とpH調整とを組み合わせて行うことができる。
【0020】
上記セメントキルン燃焼ガス抽気ダストの処理方法において、前記湿式集塵及び脱硫により生成したスラリーから石膏を回収し、セメントクリンカに添加することができる。この石膏は、純度が高いため、セメント中の重金属濃度の増加を懸念せずに利用することができる。
【0021】
また、前記湿式集塵を行う前に、前記抽気ガス中の粗粉を除去することにより、塩素除去効率を高めることができる。
【0022】
さらに、前記塩回収後の排水を、前記焼却飛灰の溶解に再利用することで、さらに運転コストを低減することができる。
【0023】
また、本発明は、焼却飛灰及びセメントキルン燃焼ガス抽気ダストの処理装置であって、焼却飛灰を水に溶解させる溶解槽と、該溶解槽からのスラリーを固液分離する第1の固液分離機と、セメントキルンの窯尻から最下段サイクロンに至るまでのキルン排ガス流路より燃焼ガスの一部を冷却しながら抽気する抽気装置と、該抽気装置により抽気された抽気ガスに含まれるダストを、前記第1の固液分離機からのろ液を利用しながら湿式集塵するとともに、該湿式集塵で生成したスラリーに含まれる重金属が該スラリーの液相に溶解するように、該スラリーのpHを調整する湿式集塵機と、該湿式集塵機でpH調整されたスラリーを固液分離する第2の固液分離機と、該第2の固液分離機で分離されたろ液中の重金属を沈殿させる調整槽と、該調整槽から供給されたスラリーを固液分離する第3の固液分離機とを備えることを特徴とする。本発明によれば、上記発明と同様に、焼却飛灰及びセメントキルン燃焼ガス抽気ダストを処理する際に、設備コスト及び運転コストを低く抑えながら、純度の高い石膏と重金属を得ることができる。
【0024】
また、上記焼却飛灰及びセメントキルン燃焼ガス抽気ダストの処理装置は、さらに、前記第3の固液分離機で分離されたろ液中の塩を回収する塩回収装置を備えることができ、塩化カリウム純度の高い工業塩を得ることができる。
【0025】
上記焼却飛灰及びセメントキルン燃焼ガス抽気ダストの処理装置において、前記第1の固液分離機と前記第2の固液分離機を、前記溶解槽からのスラリーの固液分離と、前記湿式集塵機でpH調整されたスラリーの固液分離とを時分割にて行う1台の固液分離機とすることができ、さらに設備コスト及び運転コストを低減することができる。
【0026】
また、前記抽気装置と前記湿式集塵機との間に、前記抽気ガス中の粗粉を除去する分級装置を備え、該分級装置で分級された微粉及び抽気ガスを前記湿式集塵機に導入することができ、塩素除去効率を高めることができる。
【発明の効果】
【0027】
以上のように、本発明によれば、焼却飛灰及びセメントキルン燃焼ガス抽気ダストを処理するにあたり、薬剤コストを含む運転コスト及び設備コストを低く抑えながら、純度の高い重金属、石膏及び工業塩を回収することなどが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明にかかる焼却飛灰及びセメントキルン燃焼ガス抽気ダストの処理装置の一実施の形態を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
次に、本発明を実施するための形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0030】
図1は、本発明にかかる焼却飛灰及びセメントキルン燃焼ガス抽気ダストの処理装置の一実施の形態を示し、この処理装置1は、大別して、ガス抽気部2と、ガス処理部3と、焼却飛灰水洗処理部(以下「飛灰水洗処理部」という)4と、分別処理部5とから構成される。
【0031】
ガス抽気部2は、セメントキルン25の窯尻25aから最下段サイクロン(不図示)に至るまでのキルン排ガス流路より、燃焼ガスの一部を抽気するために設けられる。このガス抽気部2は、燃焼ガスを抽気するプローブ6と、プローブ6内に冷風を供給して抽気した燃焼ガスを急冷する冷却ファン(不図示)と、プローブ6から排出された抽気ガスG1に含まれるダスト中の粗粉D1を分離する分級機としてのサイクロン7と、サイクロン7によって分離された微粉を含むガスをスクラバー13に供給するファン8等から構成される。
【0032】
ガス処理部3は、ファン8から排出された排ガスG2に含まれる微粉D2及び硫黄酸化物、重金属や有機成分等の微量成分を捕集するために設けられる。このガス処理部3は、排ガスG2に含まれる微粉D2及び硫黄酸化物、重金属や有機成分等の微量成分を湿式集塵、除去する湿式集塵機11と、湿式集塵機11の排ガスG3をセメントキルン25の排ガス系に戻すとともに、該排ガスG3を溶解槽19に導入するための排気ファン12等から構成される。
【0033】
湿式集塵機11は、排ガスG2中の微粉D2を捕集して排ガスG2から塩素を除去するとともに、排ガスG2中の硫黄分(SO2)と、微粉D2に含まれる生石灰(CaO)が水と反応して生じた消石灰(Ca(OH)2)、及び微粉D2から生じる消石灰で不足した分を補うために供給した消石灰とを反応させて石膏(CaSO4・2H2O)を生成する。この湿式集塵機11は、スクラバー13と、循環液槽14と、洗浄塔15とから構成され、スクラバー13と循環液槽14との間には、スラリーを循環させるためのポンプ14aが設けられる。また、循環液槽14には、硫酸を供給して循環スラリーのpH値を1〜6に調整する硫酸貯槽16とポンプ16a、及び不足した消石灰を補うための石灰乳を供給するための石灰乳貯槽17とポンプ17aが備えられる。
【0034】
飛灰水洗処理部4は、受け入れた焼却飛灰(以下「飛灰」という)Aを一旦貯蔵する飛灰タンク18と、飛灰Aを温水に溶解させてスラリーS2を生成するための溶解槽19と、溶解槽19からのスラリーS2を固液分離する第1の固液分離機21とを備える。
【0035】
分別処理部5は、湿式集塵機11にて生成されるスラリーS1から、鉛等の重金属、石膏及び塩を回収するために設けられる。この分別処理部5は、湿式集塵機11からのスラリーS1を貯留する調整槽20と、調整槽20からのスラリーS1を固液分離する第1の固液分離機21(第1の固液分離機21は、溶解槽19からのスラリーS2の固液分離も時分割にて行うため、以後、スラリーS1の固液分離機を行う場合には、「第1(S1)の固液分離機21」、スラリーS2の固液分離機を行う場合には、「第1(S2)の固液分離機21」という)と、第1(S2)の固液分離機21からのろ液W2に水硫化ソーダ(NaSH)等の硫化剤又は/及び水酸化ナトリウム(NaOH)等のpH調整剤を添加する調整槽22と、硫化剤等が添加された後のスラリーS3を固液分離して重金属を含むケーキC3と、ろ液(塩水)W3とを回収する第2の固液分離機(課題を解決するための手段及び特許請求の範囲の欄に記載の「第3の固液分離機」に相当する)23とで構成される。
【0036】
尚、上記第1及び第2の固液分離機21、23には、例えば、フィルタープレス、ベルトフィルター、ラメラセパレーター、マイクロフィルター、シックナーなど、従来の既存技術のいずれのものも使用することができ、これらを組み合わせて使用することもできる。また、塩水からの塩回収には、電気透析やスプレードライイヤー(加熱処理)など、従来の既存技術のいずれのものも使用することができ、これらを組み合わせて使用することもできる。
【0037】
次に、上記処理装置1の動作について、図1を参照しながら説明する。
【0038】
セメントキルン25の窯尻25aから最下段サイクロンに至るまでのキルン排ガス流路より、燃焼ガスの一部をプローブ6によって抽気すると同時に、冷却ファン(不図示)からの冷風によって、抽気した燃焼ガスを塩素化合物の融点である700℃以下に急冷する。次に、プローブ6からの抽気ガスG1を、サイクロン7によって、粗粉D1と、微粉D2を含む排ガスG2とに分離し、粗粉D1をセメントキルン系に戻す。
【0039】
その一方で、微粉D2を含む排ガスG2をファン8を介して湿式集塵機11のスクラバー13に供給し、スクラバー13と循環液槽14との間でスラリーS1を循環させる。湿式集塵機11で生成されるスラリーS1には、微粉D2中のCaOが水と反応して生じた消石灰(Ca(OH)2)が存在し、排ガスG2中に存在する硫黄分(SO2)は、消石灰と以下のように反応する。
SO2+Ca(OH)2→CaSO3・1/2H2O+1/2H2
CaSO3・1/2H2O+1/2O2+3/2H2O→CaSO4・2H2
これにより、排ガスG2中の硫黄分が分解処理され、石膏(CaSO4・2H2O)が生成される。また、消石灰が不足している場合には、石灰乳貯槽17から適宜消石灰を、所定のpHよりも高くなる場合には、硫酸貯槽16から適宜硫酸を添加する。
【0040】
ここで、排ガスG2に含まれる硫黄分(SO2)や、持ち込まれるカルシウム分(CaO)によりpHが変動するが、石灰乳貯槽17からの消石灰、硫酸貯槽16からの硫酸の量を調整して、スラリーS1のpHを1〜6に調整する。表1は、重量比で微粉1に対して水4に溶解させ、30分撹拌しながら、pHを硫酸で調整し、pH7.3及びpH4.4としてろ過した液の各重金属の溶解度を示す。この表1に示すように、pHを下げることで、スラリーS1に含まれる鉛等の重金属をスラリーS1中の液相により多く溶解させることができる。
【0041】
【表1】

【0042】
洗浄塔15から排出された排ガスG3は、排気ファン12を介してキルン排ガス系に戻され、一部が溶解槽19に導入される。
【0043】
その一方で、溶解槽19において飛灰タンク18からの飛灰Aに温水を添加してスラリーS2を生成するとともに、排気ファン12を介して洗浄塔15から排出された排ガスG3を溶解槽19に導入する。排ガスG3の導入により、飛灰Aに含まれるカルシウム分を炭酸カルシウム(CaCO3)としてスラリー中に析出させ、後段の設備内でカルシウムのスケールが発生して成長するのを抑制することができる。尚、排ガスG3とともに、又は排ガスG3に代えて、集塵後のセメントキルン25の排ガス(最終排ガス)を溶解槽19に導入してもよい。
【0044】
次に、溶解槽19から排出されたスラリーS2を第1(S2)の固液分離機21で固液分離し、固液分離によって得られたろ液W1を湿式集塵機11で利用する。これにより、湿式集塵機11において、排ガスG2中の硫黄分(SO2)又は硫酸貯槽16より供給される硫酸と、ろ液W1中の塩化カルシウムが以下のように反応する。
CaCl2+H2SO4→CaSO4+2HCl
このように、塩化カルシウムを硫酸カルシウムに変化させることができ、硫酸カルシウムは、後段の分別処理部5における第1(S1)の固液分離機21でケーキC2に含まれることとなるため、塩の塩化カリウムの純度を高めることができる。また、ろ液W1に含まれる水酸化物イオン(OH-)を、湿式集塵機11においてスラリーS1を脱硫するための脱硫助剤として利用することもできる。一方、第1(S2)の固液分離機21における固液分離によって得られた飛灰ケーキC1はセメントキルン25でセメント原料として再利用する。
【0045】
次いで、上記スラリーS1を調整槽20に一旦貯留した後、第1(S1)の固液分離機21により固液分離し、スラリーS1からろ液W2を分離し、ケーキC2(石膏)を回収する。湿式集塵機11のpH調整により、スラリーS1中の重金属は、スラリーS1の液相に溶解しているため、ケーキC2には重金属が殆ど含まれていない。これにより、ケーキC2として回収する石膏の純度を高めることができ、セメント粉砕工程において重金属含有率の低い補助石膏として利用することができる。
【0046】
次に、調整槽22において、第1(S1)の固液分離機21からのろ液W2に硫化剤としての水硫化ソーダを添加し、ろ液W2中の塩化鉛、酸化鉛等を硫化して硫化鉛等の重金属の硫化物を生成する。また、硫化剤の代わりに、水酸化ナトリウムなどのアルカリ源を添加してろ液W2のpHを各重金属の溶解度を低下させるpHに調整し、溶液中の各重金属の濃度を低下させてもよい。さらに、硫化とpH調整とを組み合わせることや、塩化鉄等の助剤を添加することにより、回収効率を向上させることができ、そのために調整槽22の槽数を増やすことも可能である。
【0047】
表2は、重量比で微粉1に対して水4に溶解させ、30分間撹拌しながらpHを硫酸でpH4.5に調整後、微粉が持ち込んだ鉛に対して1.5モル当量の水硫化ソーダを添加し、ろ過したろ液の各重金属濃度と、重量比で微粉1に対して水4に溶解させ、30分間撹拌しながらpHを硫酸でpH4.5に調整後、水酸化ナトリウムでpHを10.5に調整し、ろ過したろ液の各重金属濃度を示す。同表より、これらの添加により、ろ液W2に含まれる鉛等の重金属の沈殿を促進し、ろ液W2中の重金属の濃度を低下させることができることが判る。
【0048】
【表2】

【0049】
次に、第2の固液分離機23において、調整槽22からのスラリーS3を固液分離し、スラリーS3中に沈殿する重金属をケーキC3として回収する。表3は、各重金属の回収率を示す。すなわち、表1のpH4.4の際のろ過後の溶液中の各重金属の濃度と、表2の水硫化ソーダ又は水酸化ナトリウムを添加した場合のろ過後の溶液中の濃度から、各重金属の回収率を算出したものである。同表より、各重金属の回収率は極めて高いことが判る。一方、第2の固液分離機23で分離されたろ液W3は、重金属を殆ど含んでいないため、塩化カリウム含有率の高い工業塩を回収した後に排水処理を行い、放流することができる。また、塩回収後のろ液W3を、溶解槽19において飛灰Aの溶解に再利用したり、セメント塩素濃度規格範囲内になるようにクリンカやセメント粉砕工程に添加することもできる。
【0050】
【表3】

【0051】
以上のように、本実施の形態によれば、飛灰Aを含むスラリーS2のろ液W1を、湿式集塵機11において排ガスG2に含まれる微粉(塩素バイパスダスト)D2の湿式集塵に利用するため、飛灰Aの水洗処理系と、微粉D2の水洗処理系とを共用することができ、設備コストを低減することができる。これに加え、飛灰Aを水洗して得られたろ液W1に含まれる水酸化物イオン(OH-)を、湿式集塵により生成したスラリーS1を脱硫する脱硫助剤として利用することもでき、薬剤コストを含む運転コストを低下させることができる。
【0052】
また、上述のように、湿式集塵により生成されるスラリーS1の液相に、飛灰A及び微粉D2に含まれる重金属が溶解し、該スラリーS1を固液分離することで、ろ液W2に含まれる鉛等の重金属と、ケーキC2に含まれる石膏とに分離することができ、回収する石膏及び重金属の純度を高めることができる。
【0053】
さらに、飛灰Aを含むスラリーS2のろ液W1に含まれる塩化カルシウムを硫酸カルシウムに変化させて回収するため、第2の固液分離機23のろ液W3に塩化カルシウムが混入することを回避することができ、ろ液W3より塩化カリウム純度の高い回収塩を得ることができる。
【0054】
尚、上記実施の形態においては、サイクロン7で粗粉D1を分離した後に、微粉D2を含む排ガスG2を湿式集塵機11に導入するが、サイクロン7を設けることなく、プローブ6で抽気した抽気ガスG1を湿式集塵機11に直接導入してもよい。
【0055】
また、スラリーS1、S2の両方の固液分離を、時間分割で第1の固液分離機21を用いて行うことが好ましいが、固液分離機を2基設置し、塩素バイパスダストD2及び飛灰Aを各々別々に固液分離することもできる。
【符号の説明】
【0056】
1 焼却飛灰及びセメントキルン燃焼ガス抽気ダストの処理装置
2 ガス抽気部
3 ガス処理部
4 飛灰水洗処理部
5 分別処理部
6 プローブ
7 サイクロン
8 ファン
11 湿式集塵機
12 排気ファン
13 スクラバー
14 循環液槽
14a ポンプ
15 洗浄塔
16 硫酸貯槽
16a ポンプ
17 石灰乳貯槽
17a ポンプ
18 飛灰タンク
19 溶解槽
20 調整槽
21 第1の固液分離機
22 調整槽
23 第2の固液分離機
25 セメントキルン
25a 窯尻
G1 抽気ガス
G2、G3 排ガス
D1 粗粉
D2 微粉
S1〜S3 スラリー
C1〜C3 ケーキ
W1〜W3 ろ液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントキルンの窯尻から最下段サイクロンに至るまでのキルン排ガス流路より燃焼ガスの一部を冷却しながら抽気し、
該抽気ガスに含まれるダストを湿式集塵し、
焼却飛灰を水に溶解させた後、ろ過して得られたろ液を前記湿式集塵に利用し、
前記湿式集塵により生成したスラリーに含まれる重金属が該スラリーの液相に溶解するように、該スラリーのpHを調整し、
該pH調整されたスラリーを固液分離し、
該固液分離によって得られたろ液中の重金属を回収することを特徴とする焼却飛灰及びセメントキルン燃焼ガス抽気ダストの処理方法。
【請求項2】
前記重金属を回収して得られたろ液から塩を回収することを特徴とする請求項1に記載の焼却飛灰及びセメントキルン燃焼ガス抽気ダストの処理方法。
【請求項3】
前記焼却飛灰をろ過する装置と、前記スラリーを固液分離する装置を共用することを特徴とする請求項1又は2に記載の焼却飛灰及びセメントキルン燃焼ガス抽気ダストの処理方法。
【請求項4】
前記湿式集塵により生成したスラリーのpHを1以上6以下に調整することを特徴とする請求項1、2又は3に記載の焼却飛灰及びセメントキルン燃焼ガス抽気ダストの処理方法。
【請求項5】
前記ろ液中の重金属の回収を、硫化反応又は/及びpH調整を介して行うことを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の焼却飛灰及びセメントキルン燃焼ガス抽気ダストの処理方法。
【請求項6】
前記湿式集塵及び脱硫により生成したスラリーから石膏を回収し、セメントクリンカに添加することを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載のセメントキルン燃焼ガス抽気ダストの処理方法。
【請求項7】
前記湿式集塵を行う前に、前記抽気ガス中の粗粉を除去することを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の焼却飛灰及びセメントキルン燃焼ガス抽気ダストの処理方法。
【請求項8】
前記塩回収後の排水を、前記焼却飛灰の溶解に再利用することを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の焼却飛灰及びセメントキルン燃焼ガス抽気ダストの処理方法。
【請求項9】
焼却飛灰を水に溶解させる溶解槽と、
該溶解槽からのスラリーを固液分離する第1の固液分離機と、
セメントキルンの窯尻から最下段サイクロンに至るまでのキルン排ガス流路より燃焼ガスの一部を冷却しながら抽気する抽気装置と、
該抽気装置により抽気された抽気ガスに含まれるダストを、前記第1の固液分離機からのろ液を利用しながら湿式集塵するとともに、該湿式集塵で生成したスラリーに含まれる重金属が該スラリーの液相に溶解するように、該スラリーのpHを調整する湿式集塵機と、
該湿式集塵機でpH調整されたスラリーを固液分離する第2の固液分離機と、
該第2の固液分離機で分離されたろ液中の重金属を沈殿させる調整槽と、
該調整槽から供給されたスラリーを固液分離する第3の固液分離機とを備えることを特徴とする焼却飛灰及びセメントキルン燃焼ガス抽気ダストの処理装置。
【請求項10】
さらに、前記第3の固液分離機で分離されたろ液中の塩を回収する塩回収装置を備えることを特徴とする請求項9に記載の焼却飛灰及びセメントキルン燃焼ガス抽気ダストの処理装置。
【請求項11】
前記第1の固液分離機と前記第2の固液分離機は、前記溶解槽からのスラリーの固液分離と、前記湿式集塵機でpH調整されたスラリーの固液分離とを時分割にて行う1台の固液分離機であることを特徴とする請求項9又は10に記載の焼却飛灰及びセメントキルン燃焼ガス抽気ダストの処理装置。
【請求項12】
前記抽気装置と前記湿式集塵機との間に、前記抽気ガス中の粗粉を除去する分級装置を備え、該分級装置で分級された微粉及び抽気ガスを前記湿式集塵機に導入することを特徴とする請求項9、10又は11に記載の焼却飛灰及びセメントキルン燃焼ガス抽気ダストの処理装置。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2011−144058(P2011−144058A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−4728(P2010−4728)
【出願日】平成22年1月13日(2010.1.13)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【Fターム(参考)】