説明

熱変色性筆記具

【課題】ノック体の摩擦部を用いて摩擦操作する際の安定した摩擦操作が可能となる熱変色性筆記具を提供する。
【解決手段】筆記体3の内部に熱変色性インキを収容し、筆記体3の前端に前記熱変色性インキが吐出可能なペン先31を設ける。筆記体3を軸筒2内に前後方向に移動可能に収容する。軸筒2の後端部にノック体6を設け、ノック体6を前方に押圧することによりペン先31を軸筒2の前端孔21から突出状態にし、再度、前記ノック体6を前方に押圧することによりペン先31を没入状態にする出没機構を備える。ノック体6の後端部外面に、熱変色性インキの筆跡を摩擦しその際に生じる摩擦熱で熱変色性インキの筆跡を熱変色可能な摩擦部8を設ける。摩擦部8を用いて摩擦操作する際、弾発体9の後方への付勢によってノック体6の前方移動を阻止してなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱変色性筆記具に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、軸筒内に筆記体を前後方向に移動可能に収容し、軸筒の外面に操作部を設け、前記操作部を操作することにより前記筆記体のペン先を軸筒の前端孔から出没可能に構成し、前記筆記体の内部に熱変色性インキを収容し、前記筆記体の前端に前記熱変色性インキが吐出可能なペン先を設け、前記軸筒の外面に、前記熱変色性インキの筆跡を摩擦しその際に生じる摩擦熱で該筆跡を熱変色可能な摩擦部を設けた熱変色性筆記具が開示されている。
【0003】
前記特許文献1は、軸筒後端の操作部(本願のノック体に相当)を前方に押圧するタイプにおいて操作部に摩擦部を設けた場合、該摩擦部を用いて摩擦操作すると、被筆記面によって操作部が前方に移動し、安定した摩擦操作を行うことができないおそれがある。特に、ペン先突出操作及びペン先没入操作のいずれもが操作部を前方に押圧操作するタイプの出没機構(いわゆるダブルノック式)を採用し且つ操作部に摩擦部を設けた場合、ペン先突出状態において操作体が前後方向にがたつき、安定した摩擦操作を行うことができないおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2008/105227号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、前記従来の問題点を解決するものであって、ノック体の摩擦部を用いて安定した摩擦操作が可能となる熱変色性筆記具を提供しようとするものである。尚、本発明で、「前」とは、ペン先側を指し、「後」とは、その反対側を指す。尚、本発明で、「ペン先没入状態」とは、ペン先が軸筒内に没入した状態をいい、「ペン先突出状態」とは、ペン先が軸筒の前端より外部に突出した状態をいう。
【課題を解決するための手段】
【0006】
[1]本願の第1の発明は、筆記体3の内部に熱変色性インキを収容し、前記筆記体3の前端に前記熱変色性インキが吐出可能なペン先31を設け、前記筆記体3を軸筒2内に前後方向に移動可能に収容し、前記軸筒2の後端部にノック体6を設け、前記ノック体6を前方に押圧することによりペン先31を軸筒2の前端孔21から突出状態にし、再度、前記ノック体6を前方に押圧することにより前記ペン先突出状態を解除しペン先31を軸筒2の前端孔21より軸筒2内に没入状態にする出没機構を備え、前記出没機構が、軸筒2内面に設けたカム部4と、前記カム部4と係合し且つ筆記体3後端と当接する回転部材5と、前記回転部材5と係合し且つ軸筒2後端より突出するノック体6と、軸筒2内に収容され且つ筆記体3または回転部材5を後方に付勢する弾発体9とからなり、前記ノック体6の後端部外面に、前記熱変色性インキの筆跡を摩擦しその際に生じる摩擦熱で前記熱変色性インキの筆跡を熱変色可能な摩擦部8を設け、前記摩擦部8を用いて摩擦操作する際、弾発体9の後方への付勢によってノック体6の前方移動を阻止してなることを要件とする。
【0007】
前記第1の発明の熱変色性筆記具1は、ノック体6の摩擦部8を用いて摩擦操作する際、弾発体9の後方付勢によってノック体6の前方移動を阻止してなることにより、ノック体6の摩擦部8を用いて安定した摩擦操作が可能となる。尚、前記筆記体3を後方へ付勢する弾発体9の弾発力は200グラム以上(好ましくは300グラム以上)に設定される。
【0008】
[2]本願の第2の発明は、前記第1の発明の熱変色性筆記具1において、ペン先突出状態においてノック体6を回転部材5に一時的に固定したことを要件とする。
【0009】
前記第2の発明の熱変色性筆記具1は、ペン先突出状態においてノック体6を回転部材5に一時的に固定したことにより、ペン先突出状態においてノック体6の前後方向のがたつきが防止され、ペン先突出状態においてノック体6の摩擦部8を用いて安定した摩擦操作が可能となる。
【0010】
[3]本願の第3の発明は、前記第1または第2の発明の熱変色性筆記具1において、ノック体6の前端開口部内面と回転部材5の後端部外面とを前後方向に係止させたことを要件とする。
【0011】
前記第3の発明の熱変色性筆記具1は、ノック体6の前端開口部内面と回転部材5の後端部外面とを前後方向に係止させたことにより、ノック体6の前端開口部内面と回転部材5の後端部外面とを容易に一時的に固定できる。
【0012】
・摩擦部
前記第1乃至第3の発明で摩擦部8は、弾性材料(軟質材料)から構成されることが好ましい。前記摩擦部8を構成する弾性材料は、弾性を有する合成樹脂(ゴム、エラストマー)が好ましく、例えば、シリコーン樹脂、SBS樹脂(スチレン−ブタジエン−スチレン共重合体)、SEBS樹脂(スチレン−エチレン−ブタジエン−スチレン共重合体)、フッ素系樹脂、クロロプレン樹脂、ニトリル樹脂、ポリエステル系樹脂、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)等が挙げられる。前記摩擦体4を構成する弾性を有する合成樹脂は、高摩耗性の弾性材料(例えば、消しゴム等)からなるものよりも、摩擦時に摩耗カス(消しカス)が殆ど生じない低摩耗性の弾性材料からなることが好ましい。また、前記摩擦部8は、ノック体6の後端部外面に少なくとも設ければよく、例えば、ノック体6の後端部に弾性材料よりなる摩擦部8を圧入、係合、螺合、嵌合、接着、2色成形等によって固着する構成、またはノック体6の全体が弾性材料からなる構成が挙げられる。
【0013】
・熱変色性インキ
第1乃至第3の発明において、前記熱変色性インキは、可逆熱変色性インキが好ましい。前記可逆熱変色性インキは、発色状態から加熱により消色する加熱消色型、発色状態または消色状態を互変的に特定温度域で記憶保持する色彩記憶保持型、または、消色状態から加熱により発色し、発色状態からの冷却により消色状態に復する加熱発色型等、種々のタイプを単独または併用して構成することができる。
【0014】
また、前記可逆熱変色性インキに含有される色材は、従来より公知の(イ)電子供与性呈色性有機化合物、(ロ)電子受容性化合物、及び(ハ)前記両者の呈色反応の生起温度を決める反応媒体、の必須三成分を少なくとも含む可逆熱変色性組成物をマイクロカプセル中に内包させた可逆熱変色性顔料が好適に用いられる。
【0015】
本発明では、図4に示すように、温度変化による着色濃度の変化をプロットした曲線の形状が、温度を変色温度域より低温側から上昇させていく場合と逆に変色温度域より高温側から下降させていく場合とで異なる経路を辿って変色し、完全発色温度(t)以下の低温域での発色状態、または完全消色温度(t)以上の高温域での消色状態が、特定温度域〔t〜tの間の温度域(実質的二相保持温度域)〕で記憶保持できる色彩記憶保持型熱変色性インキが適用されることが好ましい。図4において、ΔHは、ヒステリシスの程度を示す温度幅(即ちヒステリシス幅)を示す。ΔHの値が小さいと、変色前後の両状態のうち一方の状態しか存在しえない。ΔHの値が大きいと、変色前後の各状態の保持が容易となる。
【0016】
本発明では、前記熱変色性インキの摩擦部8の摩擦熱による変色温度は、25℃〜95℃(好ましくは36℃〜95℃)に設定される。即ち、本発明では、前記高温側変色点〔完全消色温度(t)〕を、25℃〜95℃(好ましくは、36℃〜90℃)の範囲に設定し、前記低温側変色点〔完全発色温度(t)〕を、−30℃〜+20℃(好ましくは、−30℃〜+10℃)の範囲に設定することが有効である。それにより、常態(日常の生活温度域)で呈する色彩の保持を有効に機能させることができるとともに、可逆熱変色性インキによる筆跡を摩擦体4による摩擦熱で容易に変色することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、ノック体の摩擦部を用いて安定した摩擦操作が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施の形態のペン先没入状態を示す縦断面図である。
【図2】図1のペン先突出状態を示す縦断面図である。
【図3】図1の出没機構を示す分解図である。
【図4】熱変色性インキの変色挙動を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施の形態を図1及び図3に示す。
本実施の形態の熱変色性筆記具1は、軸筒2と、該軸筒2内に収容される筆記体3と、該筆記体3のペン先31を軸筒2の前端孔21より出没自在にさせる出没機構とを備える。
【0020】
前記筆記体3は、ペン先31と、該ペン先31が前端開口部に圧入固着されたインキ収容管32と、該インキ収容管32内に充填される熱変色性インキと、該熱変色性インキの後端に充填され且つ該熱変色性インキの消費に伴い前進する追従体(例えば高粘度流体)とからなる。
【0021】
前記ペン先31は、例えば、前端に回転可能にボールを抱持した金属製のボールペンのみからなる構成、または前記ボールペンチップの後部外面を保持した合成樹脂製のペン先ホルダーからなる構成のいずれであってもよい。また、前記インキ収容管32の後端開口部に、インキ収容管32と外部とが通気可能な通気孔を備えた尾栓を取り付けてもよい。
【0022】
前記出没機構は、回転カム機構を用いたノック式出没機構であり、軸筒2内面に形成されたカム部4と係合し且つ筆記体3の後端と当接する回転部材5と、該回転部材5と係合し且つ軸筒2後端より突出するノック体6と、軸筒2内に収容され且つ筆記体3を後方に付勢する弾発体9(例えば圧縮コイルスプリング)とからなる。本実施の形態の出没機構は、ペン先突出操作及びペン先没入操作のいずれもがノック体6を前方に押圧操作するダブルノック式である。
【0023】
図3(c)に示すように、カム部4は、前方に突出する鋸歯状の複数のカム歯41と、該カム歯41間に形成され、回転部材5の突条51が係合するカム溝42とを備える。図3(b)に示すように、回転部材5は、その外面に長手方向に延びる3本の突条51を備え、該突条51が、カム部4のカム溝42と係合される。図3の(a)に示すように、ノック体6は、その前端部に、カム部4のカム溝42内を摺動するガイド突条71と、回転部材5の突条の後端と係合するカム歯72とを備える。
【0024】
図1及び図2に示すように回転部材5の後端部外面には、環状の外向突起52が形成される。
【0025】
図1及び図2に示すようにノック体6は、前端及び後端が開口された円筒体7と、該円筒体7の後端部に固着される摩擦部8とからなる。前記ノック体6の円筒体7の前端開口部内面には環状の内向突起73が形成され、且つ、前記ノック体6の円筒体7の後端開口部内面には環状の係止突起74が形成される。ペン先突出状態において、前記ノック体6の円筒体7の前端開口部内面の内向突起73と、回転部材5の後端部外面の外向突起52とが前後方向に係止し、ノック体6と回転部材5が一時的に固定される。
【0026】
前記摩擦部8は、弾性材料(例えば、シリコーン樹脂、SBS樹脂、SEBS樹脂等)により形成される部材である。図1及び図2に示すように、前記摩擦部8は、円筒体7の後端開口部に挿入される小径部81と、該小径部81より後方に連設され且つ円筒体7後端より後方に突出する大径部82とからなる。前記摩擦体の小径部81の外面には、環状の係止突起81aが形成される。前記摩擦部8の小径部81の係止突起81aと、前記ノック体6の円筒体7の後端開口部内面の係止突起74とが乗り越え係止し、ノック体6の円筒体7と摩擦部8とが固着される。
【0027】
本実施の形態の熱変色性筆記具1は、ノック体6の摩擦部8を用いて摩擦操作する際、弾発体9の後方付勢によってノック体6の前方移動が阻止される。それにより、ノック体6の摩擦部8を用いて安定した摩擦操作が可能となる。尚、前記筆記体3を後方へ付勢する弾発体9の弾発力は200グラム以上(好ましくは300グラム以上)に設定される。
【0028】
本実施の形態の熱変色性筆記具1は、ペン先突出状態においてノック体6を回転部材5に一時的に固定したことにより、ペン先突出状態においてノック体6の前後方向のがたつきが防止され、ペン先突出状態においてノック体6の摩擦部8を用いて安定した摩擦操作が可能となる。
【0029】
本実施の形態の熱変色性筆記具1は、ノック体6の前端開口部内面と回転部材5の後端部外面とを前後方向に係止させたことによって、ノック体6の前端開口部内面と回転部材5の後端部外面とを容易に一時的に固定できる。
【符号の説明】
【0030】
1 熱変色性筆記具
2 軸筒
21 前端孔
3 筆記体
31 ペン先
32 インキ収容管
4 カム部
41 カム歯
42 カム溝
5 回転部材
51 突条
52 外向突起
6 ノック体
7 円筒体
71 ガイド突条
72 カム歯
73 内向突起
74 係止突起
8 摩擦部
81 小径部
81a 係止突起
82 大径部
9 弾発体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筆記体の内部に熱変色性インキを収容し、前記筆記体の前端に前記熱変色性インキが吐出可能なペン先を設け、前記筆記体を軸筒内に前後方向に移動可能に収容し、前記軸筒の後端部にノック体を設け、前記ノック体を前方に押圧することによりペン先を軸筒の前端孔から突出状態にし、再度、前記ノック体を前方に押圧することにより前記ペン先突出状態を解除しペン先を軸筒の前端孔より軸筒内に没入状態にする出没機構を備え、前記出没機構が、軸筒内面に設けた円筒状のカム本体と、前記カム本体のカム部と係合し且つ筆記体後端と当接する回転部材と、前記回転部材と係合し且つ軸筒後端より突出するノック体と、軸筒内に収容され且つ筆記体または回転部材を後方に付勢する弾発体とからなり、前記ノック体の後端部外面に、前記熱変色性インキの筆跡を摩擦しその際に生じる摩擦熱で前記熱変色性インキの筆跡を熱変色可能な摩擦部を設け、前記摩擦部を用いて摩擦操作する際、弾発体の後方への付勢によってノック体の前方移動を阻止してなることを特徴とする熱変色性筆記具。
【請求項2】
ペン先突出状態においてノック体を回転部材に一時的に固定した請求項1記載の熱変色性筆記具。
【請求項3】
ノック体の前端開口部内面と回転部材の後端部外面とを前後方向に係止させた請求項1または2記載の熱変色性筆記具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−37086(P2011−37086A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−185374(P2009−185374)
【出願日】平成21年8月10日(2009.8.10)
【出願人】(000111890)パイロットインキ株式会社 (832)
【Fターム(参考)】