説明

玉縁縫いミシン

【課題】布地の切断動作を安定して行う。
【解決手段】ミシンモータを駆動源とする針上下動機構と、送りモータを駆動源とする布送り機構と、固定メスに対してメスモータによりセンターメスを上下動させて直線切れ目を形成するメス機構と、被縫製物の搬送速度に応じて定まるセンターメスの上下動頻度に従ってメスモータを制御する動作制御手段とを備え、メスモータの動作速度を検出する検出手段を備え、動作制御手段が、メスモータの指令値に対して検出手段の検出する動作速度が規定値以上の低下を生じた場合に、ミシンモータ及び送りモータを減速させる制御を行うことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、縫製を行いながら被縫製物に切れ目を形成するミシンに関する。
【背景技術】
【0002】
玉縁縫いミシンは、例えば、衣服の身頃生地に玉布を縫着すると共に身頃生地と玉布に切れ目を形成して、ポケットを形成するのに好適なミシンである(以下、重ねられた身頃生地と玉布とを単に布地と称することとする)。
従来の玉縁縫いミシンは、バインダーに沿って布地を搬送する布送り機構と、搬送される布地に対して二本針により運針を行う針上下動機構と、前記布送り機構により搬送される布地に対して針板上に固定された固定メスと上下動を行うセンターメスとの協働により布地の二本の縫い目の間に切れ目を形成するメス機構とを備えている。
そして、上記玉縁縫いミシンは、布送り機構と針上下動機構とメス機構とがそれぞれ個々に駆動源としてのモータを備え、これらの各モータが適切な回転速度で駆動を行うことにより適正な縫製が行われていた。
即ち、縫い針の上下動を行うミシンモータの設定回転数(回転速度)に対して、予め設定されている縫いピッチにミシンモータの回転数を乗じた送り速度となるように布送りを行うモータの駆動を行っていた。また、メス機構の駆動を行うメスモータは、布の送り速度に対してセンターメスの一回の上下動で切断を行う有効切断長を除した値に比例する回転数で駆動を行っていた(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−218189号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の玉縁縫いミシンは、上述のように、センターメスが一回の上下動によりほぼ有効切断長で切断が行われる前提でメスモータの回転数を定めていた。
しかしながら、布地が厚い場合や硬い場合には、センターメスが切り込む際に大きな抵抗を生じてメスモータの速度低下と切断不良とを生じる。また、布地が薄い場合や柔らかい場合には、固定メスとセンターメスとの間に布地が入り込んでしまうことで挟み込みによる抵抗を生じてメスモータの速度低下と切断不良とを生じる。
このような切断不良の状態で、設定に従って縫製が行われると、布送り速度に切断が追いつかなくなり、布地を破損したり、布地が押し潰されたまま縫いが行われることで縫い品質を低減させてしまうという問題があった。
【0005】
本発明は、布地を破損や縫い品質の低下を回避又は低減することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載の発明は、ミシンモータにより縫い針を上下動させる針上下動機構と、送りモータにより針板上で布送り方向に沿って被縫製物を搬送する布送り機構と、固定メスに対してメスモータによりセンターメスを上下動させることで前記被縫製物に布送り方向に沿った直線切れ目を形成するメス機構と、前記被縫製物の搬送速度に応じて定まるセンターメスの上下動頻度に従って前記メスモータを制御する動作制御手段とを備える玉縁縫いミシンにおいて、前記メスモータの動作速度を検出する検出手段を備え、前記動作制御手段が、前記メスモータの指令値に対して前記検出手段の検出する動作速度が規定値以上の低下を生じた場合に、前記ミシンモータ及び前記送りモータを減速させる制御を行うことを特徴とする。
【0007】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明と同様の構成を備えると共に、前記動作制御手段による減速制御は、前記ミシンモータ及び前記送りモータを一旦減速させると、一つの縫製パターンの縫製が完了するまで減速状態を継続することを特徴とする。
【0008】
請求項3記載の発明は、請求項1又は2記載の発明と同様の構成を備えると共に、前記動作制御手段による減速制御では、前記メスモータに生じた速度低下の比率と等しい比率で前記ミシンモータ及び前記送りモータを減速させる制御を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
請求項1記載の発明では、検出手段によりメスモータの速度を監視し、一定の速度低下により切断が良好に行われていない状態(以下、切断不良という)を検出する。これら切断不良の主要な原因については、メスモータの速度低下を生じるものであり、速度低下の監視により切断長の低下を検出することができる。
そして、切断長の低下が検出されると、ミシンモータ及び送りモータを減速させる制御が行われることにより、布地の送りに対して切断が追いつかない状態の発生が回避又は低減され、布地の破損や縫い品質の低下を回避又は低減することが可能となる。
また、切断不良が検出された場合に、メスモータを加速するのではなく、ミシンモータ及び送りモータを減速させるので、センターメスと固定メスとの摺接を低減し、センターメスの寿命低下を回避しつつも、布地の破損や縫い品質の低下を回避又は低減することが可能となる。
【0010】
請求項2記載の発明は、減速後、一つの縫製パターンの縫製が完了するまで減速状態を継続する。前述したように、切断不良の原因は布地の特性によるものなので、切断不良が検出されるような布地は、切断不良状態が縫製完了まで継続するのが普通であり、その途中でメスモータの速度が回復したとしても一時的なものである場合が多い。従って、メスモータの速度回復が検出されるたびにミシンモータ及び送りモータの速度を復帰させる制御を行うと、絶えず減速と復帰を繰り返す恐れがあり、切断を安定的に行えなくなる。従って、本願発明のように、減速後、一つの縫製パターンの縫製が完了するまで減速状態を継続する制御を行うことにより、安定的な縫製を行うことができ、切断不良発生時にも縫い品質の低下を回避又は低減することが可能となる。
【0011】
請求項3記載の発明は、ミシンモータ及び送りモータをメスモータの速度低下率と同じ比率で減速するため、ミシンモータ及び送りモータをメスモータの切断速度に対して適切な速度とすることができ、さらに効果的に縫製の品質低下を回避又は低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】玉縁縫いミシンの全体の概略構成を示す斜視図である。
【図2】センターメスによる直線状の切れ目とコーナーメスによる切れ目と二本針による縫い目の配置の関係を示す説明図である。
【図3】針上下動機構の斜視図である。
【図4】メス機構及び針上下動機構の切断可能状態の斜視図である。
【図5】メス機構及び針上下動機構の切断規制状態の斜視図である。
【図6】図3及び図4と異なる方向から見たメス機構の斜視図である。
【図7】センターメスをY軸方向から見た図であり、図7(A)は前述した切断可能状態における上死点にある状態を示し、図7(B)は下死点にある状態を示す。
【図8】玉縁縫いミシンの動作制御手段を含む制御系を示すブロック図である。
【図9】玉縁縫いの動作制御の全体的な流れを示すフローチャートである。
【図10】玉縁縫いの動作制御におけるセット動作の制御を示すフローチャートである。
【図11】玉縁縫いの動作制御における縫製動作の制御を示すフローチャートである。
【図12】縫製中に行われる縫製減速制御を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(発明の実施形態の全体構成)
以下、本発明の実施の形態である玉縁縫いミシン10について図1乃至図12に基づいて説明する。図1は玉縁縫いミシン10の全体の概略構成を示す斜視図である。なお、本実施の形態においては、各図中に示したXYZ軸を基準にしてそれぞれの方向を定めるものとし、Z軸方向は後述するセンターメスの上下動方向と一致し、縫製作業を行う平面はZ軸方向と垂直となり、当該作業平面に平行であって布送りが行われる方向をX軸方向とし、作業平面に平行であってX軸方向に直交する方向をY軸方向とする。
【0014】
玉縁縫いミシン10は、二本針41,41により形成される二本の平行な直線縫い目Tにより身頃生地Mに対して玉布Bを縫着すると共にこれらの布地の送り方向Fに沿った直線状の切れ目(直線切れ目)Sと当該切れ目Sの両端部に略V字状の切れ目V(図2参照)とを形成するミシンである。
そして、当該玉縁縫いミシン10は、縫製の作業台となるテーブル11と、テーブル11に配置されたミシンフレーム12と、身頃生地M及び玉布Bからなる布地の送りを行う布送り機構としての大押さえ送り機構20と、身頃生地Mの上側で玉布Bを上方から押さえるバインダー30と、バインダー30の布送り方向Fにおける下流側近傍であってバインダー30の両側で針落ちを行う針上下動機構40と、各縫い針41の布送り方向下流側でセンターメス51を昇降させて各布地B,Mに切れ目を形成するメス機構50と、直線状の切れ目Sの両端となる位置に略V字状の切れ目Vを形成するコーナーメス機構90と、上記各部の制御を行う動作制御手段80とを備えている。
以下各部を詳説する。
【0015】
(テーブル及びミシンフレーム)
テーブル11はその上面がX−Y平面に平行であって、玉縁縫いミシン10はテーブル上面が水平となるように設置された状態で使用される。このテーブル11の上面は布の送り方向F即ちX軸方向に沿って長い長方形状に形成されている。かかるテーブル11上に大押さえ送り機構20とバインダー30とが配置され、テーブル11の下側に図示を省略したコーナーメス機構が配置されている。
また、テーブル11における二つの縫い針41,41の下方の位置には針板13が設けられている。この針板13には二本針41,41の各々に対応する針穴が設けられており、各針穴の下側には図示しない水平釜がそれぞれ設けられている。つまり、各縫い針41,41のそれぞれに挿通された縫い糸は、それぞれ針板13の下側で対応する各水平釜に捕捉され、水平釜から繰り出される下糸に絡められて縫製が行われるようになっている。
さらに、針板13の二つの針穴のほぼ中間であって布送り方向Fの前側にはセンターメス51が挿入されるスリットが形成され、当該スリットの内側にはセンターメス51との協働により布地を切断する図示しない固定メスが配置されている。
【0016】
ミシンフレーム12は、テーブル11の長手方向中間位置のすぐ脇に配置されたベッド部12aとベッド部から立設された縦胴部12bと縦胴部12bの上端部からY軸方向に沿って延設されたアーム部12cとからなり、アーム部12c内に針上下動機構40とメス機構50の主要構成が格納されている。また、アーム部12cの先端側下端部から二本針41,41とセンターメス51とが垂下支持されている。
【0017】
(針上下動機構)
図3は針上下動機構40の斜視図である。針上下動機構40は、二本針を構成する二つの縫い針41,41と、二本針のそれぞれの縫い針41を下端部に保持する二本の針棒42と、各針棒42をその長手方向に沿って滑動可能に支持する支持枠43と、二本の針棒42を同時に保持する針棒抱き44と、縫い針上下動の駆動源となるミシン主軸モータ45と、ミシン主軸モータ45(図8)により回転駆動を行うミシン主軸46と、ミシン主軸46の一端部に固定連結され回転運動を行う回転錘47と、回転錘47の回転中心から偏心した位置に一端部が連結されると共に他端部が針棒抱き44に連結されたクランクロッド48と、支持枠43に一端部が連結されると共に図示しない回動駆動源により回動駆動力が付与される回動軸49とを有している。
【0018】
上記支持枠43は、回動軸49により軸支されており、回動軸49はアーム部12cの内部でY軸方向に沿っており且つ回転可能に支持されている。一方、各針棒42は、いずれも回動軸49と直交する方向に沿って互いに平行に支持枠43に支持されている。また、支持枠43は、各針棒42がおおむねZ軸方向に沿うように配置されており、回動軸49から所定の角度範囲で回動力が付与されると各針棒42の下端部に位置する縫い針41,41はX軸方向、即ち、布送り方向と平行に移動されるようになっている。
回動軸49は、布送り方向と逆方向に短いストロークで縫いを行い、その上から重ねるように縫製を行うことで、縫い始めと縫い終わりの縫い糸が解けることを防止するいわゆるバックタック縫いを行うために、図示しない回動駆動源から駆動力が付与されるものである。従って、通常縫製時には、回動軸49は、各針棒42がZ軸方向に平行となる状態で保持されている。
【0019】
また、ミシン主軸46も、アーム部12cの内部でY軸方向に沿っており且つ回転可能に支持されており、ミシン主軸モータ45により全回転の回転駆動力が付与される。ミシン主軸46が回転されると、回転錘47も同様に回転を行い、クランクロッド48の一端部はミシン主軸46を中心として円運動を行い、他端部では、一端部側の円運動のZ軸方向の移動成分のみが針棒抱き44に伝達されて各針棒42が往復上下動を行うようになっている。かかる構造により針棒42の上下動の周波数とミシン主軸モータ45の回転数とは一致するようになっている。
【0020】
(メス機構)
図4はメス機構50及び針上下動機構40の切断可能状態の斜視図、図5はメス機構50及び針上下動機構40の切断規制状態の斜視図、図6は図4及び図5と異なる方向から見たメス機構50の斜視図である。
メス機構50は、上下動により直線状の切れ目を形成するセンターメス51と、針板13の下に固定されると共にセンターメス51に摺接して布地B、Mの切断を促す図示しない固定メスと、センターメス51を下端部に備えると共にアーム部12c内でZ軸方向に沿って滑動可能に支持されたメス棒52と、ミシンフレームに固定されメス棒52をその長手方向に沿って滑動可能に支持するメタル軸受け53と、メス棒52の長手方向中間位置に固定装備されたメス棒抱き54と、メス棒抱き54に設けられた駒55と、ミシンフレーム12に固定支持され、駒55を介してメス棒52を回転させないで上下方向の移動をガイドするガイド枠56と、センターメス51の上下動の駆動源となるステッピングモータであるメスモータ57と、メスモータ57の出力軸57bに対して偏心して装着された偏心カム58を介して一端部が連結されたクランクロッド59と、クランクロッド59の他端部に揺動端部が連結された入力アーム60と、一端部が入力アーム60に連結されてミシン機枠に固定された軸受け69に軸支されて回動を行う回動軸61と、回動軸61の他端部に回動軸61に直交して一体的に形成されて揺動を行う出力アーム62と、出力アーム62の揺動端部に一端部が連結された第一のリンク体63と、第一のリンク体63の他端部とメス棒抱き54とを連結する第二のリンク体64と、センターメス51の切断可能状態と切断規制状態との切り替え動作の駆動源となるエアシリンダ65と、エアシリンダ65のプランジャに一端部が連結されて揺動動作が行われるベルクランク66と、第一のリンク体63と第二のリンク体64との連結点Jとベルクランク66の他端部とを連結する連結リンク体67と、エアシリンダ65の突出時のプランジャを所定位置で停止させるストッパ68とを備えている。
【0021】
上記メス機構50は、エアシリンダ65が後退位置(図4の状態)のときに、メスモータ57の回転駆動力をセンターメス51への上下の往復動作に変換して伝達する切断可能状態とし、エアシリンダ65が前進位置(図5の状態)のときに、メスモータ57の回転駆動力をセンターメス51へ伝達しない切断規制状態に切り替えることができる。
【0022】
即ち、上記ベルクランク66は、その長手方向中間位置が揺動の支点となるように且つ当該支点の揺動軸線がY軸方向に向けられた状態でミシンフレーム12に支持されている。そして、エアシリンダ65が後退した状態にある時には、ベルクランク66は連結リンク体67を介して、第一のリンク体63と第二のリンク体64との連結点Jを出力アーム62の揺動の中心線上よりも下方に引き下げた位置に維持する。
かかる状態で上記メスモータ57が回転駆動を行うと、Y軸方向に向けられた出力軸57bに装備された偏心カム58によりクランクロッド59の一端部を円運動させる。クランクロッド59はその一端部の円運動によりその他端部において進退運動を行い、入力アーム60を揺動させる。これにより、回動軸61は回動を行い、出力アーム62を揺動させる。
第一のリンク体63と第二のリンク体64との連結点Jは、連結リンク体67の一端部(ベルクランク66との連結端部)を中心とする当該連結リンク体67を半径とする円弧運動のみが可能な状態に規制される。そして、連結点Jが当該円弧運動を行うことで、出力アーム62の揺動運動が第一のリンク体63及び第二のリンク体64を介してメス棒52及びセンターメス51を上下動させて切断動作が行われる。
【0023】
一方、エアシリンダ65が前進した状態にある時には(図5の状態)、当該エアシリンダ65のプランジャはストッパ68に当接した位置で制止され、ベルクランク66は連結リンク体67を介して、第一のリンク体63と第二のリンク体64との連結点Jを出力アーム62の揺動の中心線の線上となる位置に引き上げて維持する。
第一のリンク体63の両端部における回動の中心間距離は、出力アーム62の揺動半径と一致する長さに設定されている。そして、連結点Jが出力アーム62の揺動の中心線の線上に位置する状態でメスモータ57の駆動により出力アーム62が揺動を開始すると、第一のリンク体63も連結点Jを中心に揺動を行い、その結果、第二のリンク体64に対して何ら駆動力を付与しない状態となる。従って、センターメス51は、上下動を行わず、停止を維持した状態となる。
従って、エアシリンダ65の駆動により、センターメス51の切断可能状態と切断規制状態とが切り替えられるようになっている。
【0024】
図7はセンターメス51をY軸方向から見た図であり、図7(A)は前述した切断可能状態における上死点にある状態を示し、図7(B)は下死点にある状態を示す。
センターメス51は、その刃先形状が、下方に突出した尖状部51aと、大押さえ2による布送り方向Fの上流側から下流側に向かって下方に傾斜した部分を有し、上下動する際に固定メスと摺接して被縫製物に切れ目を形成する切刃部51bとからなる。そして、センターメス51は、切断規制状態では、尖状部51aの下端部が針板13の上面よりも高位置となるように設定されている。さらに、センターメス51は、切断規制状態から切断可能状態に切り替えられる際に下降することで尖状部51aが針板13上の布地B,Mに突き通され、切断可能状態におけるメスモータ57の全回転による上下動によりほぼ切刃部51bのみにより布地B,Mの切断を行うように、高さ設定がされている。つまり、切断可能状態における上死点においてセンターメス51が布地B,Mに突き通されている部分によるX軸方向の切断長さ(開始切断長さとする)をE1とし、下死点においてセンターメス51が布地B,Mに突き通されている部分によるX軸方向の切断長さをE2とすると、切刃部51bの布送り方向に沿う長さである有効切断長さEは、E2−E1となる。
【0025】
(バインダー)
バインダー30は、長尺状平板である底板部31と、底板部31の長手方向に沿ってその上面に垂直に立設された立板部32と、立板部32の布送り方向下流側端部に、センターメス51を回避して玉布Bを案内する案内部材33と、玉布Bの幅方向の両端部が立板部32の両面に沿ってそれぞれ送られるように案内する縦ガイド(図示略)とを備えている。
上記バインダー30は、エアシリンダを備える図示しない支持機構に支持されており、非使用時には図1に示すように二本針41,41の針下の位置から離れて待避されている。そして、使用時には、エアシリンダの駆動により針板位置にセットされるようになっている。
【0026】
底板部31は、長方形状に形成され、使用時において、その長手方向がX軸方向に平行になるように且つ、その底面がテーブル11の上面に正対して載置されるように支持されている。また、底板部31の布送り方向先端部には、二つの縫い針41,41がそれぞれ針落ちを行うための略U字状の切り欠き(図示略)が形成されている。
立板部32は、案内部材33の近傍の部分を除いてその全体が平板状であり、底板部31の上面において、当該底板部31の幅方向(Y軸方向)の中間位置に、底板部31と長手方向を揃えた状態で、垂直に立設されている。即ち、バインダー30は、底板部31と立板部32とがその長手方向から見て逆さのT字状となるように一体形成されている。
【0027】
そして、玉布Bは、針板13上において身頃生地Mの上側に重ねてセットされると、上方からバインダー30が載置され、玉布Bの幅方向(図6におけるY軸方向)の両端部を折り返して底板部31の幅方向両端部から上方に立ち上げ、さらに、玉布Bの幅方向両端部をそれぞれ立板部32の両側の側面にそれぞれ沿わせるようにして、後述する大押さえ21,21に装備された折り込み板により保持する。即ち、立板部32の一方の側面から底板部31を介して他方の側面32まで玉布Bを沿わせた状態とする。このように、バインダー30に玉布Bを巻き付けるようにセットした状態で、玉布B及び身頃生地Mを送りつつ、立板部32の両側で二本針41,41により縫製を行うと共にセンターメス51の上下動により直線上の切れ目Sを形成する。
また、バインダー30の布送り方向Fのすぐ下流側には、センターメス51により切り裂かれてしまわないように、案内部材33が設けられている。かかる案内部材33は、同方向Fに向かって二又に分岐して平面視形状が略V字状となるように形成されている。そして、かかる形状により、布送りの際に玉布Bの幅方向両端部はそれぞれ立板部32から離間する方向に誘導されて、センターメス51を回避する方向に案内される。
【0028】
(大押さえ送り機構)
大押さえ送り機構20は、バインダー30にセットされた玉布Bの幅方向両端部のそれぞれを上方から押さえる図示しない一対の折り込み板と、当該各折り込み板を格納すると共にバインダー30の幅方向両側において身頃生地を上方から保持する大押さえ21,21と、これらの大押さえ21,21を支持する支持体22と、支持体22を介して大押さえ21,21を上下に移動させる図示しないエアシリンダと、大押さえ21,21により押さえた玉布B及び身頃生地Mを支持体22を介して布送り方向Fに移動させる送りモータ23(図8)とを備えている。
各大押さえ21,21は、それぞれ長方形状の平板であり、それぞれが長手方向をX軸方向に沿わせた状態で支持体22に支持されている。また、各大押さえ21,21はその平板面がX−Y平面に平行となるように支持されている。そして、エアシリンダの駆動により上下の二位置に切替可能であり、上位置の時にはテーブル11の上面から離間し、下位置でテーブル11の上面高さとなる。また、二つの大押さえ21,21は、その間に、少なくともバインダー30の立板部32を通すことができるようにY軸方向について離間した状態で支持されている。
支持体22は、テーブル11上においてX軸方向に沿って移動可能に支持されており、支持体22が支持する二つの大押さえ21,21が二本針41,41の上下動経路の両側を通過するように配置されている。また、支持体22は、図示しないボールネジ機構(又はベルト機構)を介して送りモータ23に駆動されるようになっている。
【0029】
(コーナーメス機構)
コーナーメス機構90は、テーブル11の下方であって大押さえ送り機構20による大押さえ21,21の通過経路に配置されており、大押さえ送り機構20により搬送されてきた玉布B及び身頃生地Mを下方からコーナーメス91を突き通すことで直線状の切れ目Sの両端となる位置に略V字状の切れ目Vを形成する。
即ち、コーナーメス機構90は、布送り方向Fに沿って間隔をあけて配置された二つのコーナーメス91,91と、各コーナーメス91,91をそれぞれ上下動させる図示しない上下動用モータとを備えている。
各コーナーメス91は、その先端側から見た形状がV字状となるように並べられた一対の三角形状のメスからなり、当該先端部を上方に向けた状態で支持されている。そして、上下動用モータによりテーブル11の上面よりも下方から上方に移動することで布地B、MにV字状の切れ目Vを形成することを可能としている。また、各コーナーメス91は一対の三角形状のメスの間の角度を調節可能としており、二本針41,41による二本の縫い目Tの間隔に対応することを可能としている。
そして、二つのコーナーメス91は、それぞれが形成するV字状の切れ目の開口部が互いに逆向きとなるように各々が支持されている。また、布送り方向下流側のコーナーメス91は、他方のコーナーメス91に対して布送り方向下流側に移動位置調節する駆動源を備え、各コーナーメス間隔を調節することを可能としている。
上記コーナーメス機構90は、二本の縫い目Tと直線状の切れ目Sが形成された布地B,Mが、大押さえ送り機構20により、コーナーメス機構90の真上となる位置まで搬送されると、二つのコーナーメス91,91を切れ目Sのそれぞれの端部位置で上下動させることで、二つのV字状の切れ目Vを布地B、Mに形成する。つまり、コーナーメス機構90により、図2に示すように、直線状の切れ目Sの一端部から二つの縫い目Tのそれぞれの近い方の端部に渡る一方の切れ目Vと、直線状の切れ目Sの他端部から二つの縫い目Tのそれぞれの近い方の端部に渡るもう一方の切れ目Vが形成される。
【0030】
(玉縁縫いミシンの制御系)
図8は、玉縁縫いミシン10の動作制御手段80を含む制御系を示すブロック図である。
動作制御手段80には、所定の文字又は画像情報を表示する表示パネル84と、表示パネル84に併設された各種の設定を行うための画面選択やコマンド入力を行うための設定スイッチ85と、各種の設定を行う際に数値入力及びその決定や取消を入力するためのテンキー86と、縫製の開始を入力するスタートスイッチ87とが図示しない入出力回路を介して接続されている。
また、ミシン主軸モータ45、送りモータ23及びメスモータ57のそれぞれには、回転数を検出する検出手段としてのエンコーダ101,102,103が装備されており、各エンコーダ101,102,103は入力回路101a,102a,103aを介して動作制御手段80に接続されている。これにより、所定の原点からの回転角度及び回転速度を検出することが可能となっている。
また、動作制御手段80には、その制御の対象となるミシン主軸モータ45,送りモータ23,メスモータ57がそれぞれドライバ45a,23a,57aを介して接続されている。また、バインダー30の上下動を行うエアシリンダ、大押さえ21,21の昇降を行うエアシリンダ及びコーナーメスの昇降を行うエアシリンダをそれぞれ駆動する電磁弁(図示略)がドライバを介して動作制御手段80に接続されている。また同様に、センターメス51の作動状態と非作動状態とを切り替えるエアシリンダ65の電磁弁69がドライバ69aを介して接続されている。
さらに、動作制御手段80には、縫い糸切断を行うメスを駆動するための図示しないメス駆動シリンダ駆動用の電磁弁89がドライバ89aを介して接続されている。
【0031】
動作制御手段80は、各種の制御を行うCPU81と、玉縁縫いミシン10の後述する各種機能,動作を実行させる制御プログラム,制御データが記憶されたROM82と、各種縫製データが記憶されたEEPROM88と、CPU81の処理に関する各種データをワークエリアに格納するRAM83とを備えている。
【0032】
上記設定スイッチ85及びテンキー86は、動作制御手段80に対して、玉縁縫いミシン10の各針ごとの針落ち間隔である縫製ピッチP、縫製を行う際のミシン主軸モータ45に基づくミシン主軸46の回転数N、メス速度調整値(メスの駆動頻度の増加調整値)A、センターメス51の有効切断長E、直線縫い目Tの縫い長さ、直線切れ目Sの切断長、後述する縫製減速制御におけるミシン主軸モータ45及び送りモータ23の減速の度合いを示す減速率の設定入力を行うことが可能となっている。即ち、設定スイッチ85により入力項目を選択し、テンキー86により設定数値の入力を行うようになっている。
なお、上記ミシン主軸46の回転数N(rpm)は、ミシン主軸モータ45の動作制御により縫製中に維持される回転数を示している。
メス速度調整値Aは、基準値を100パーセント(%)として調整すべき比率がパーセントで設定される。
また、縫製減速制御におけるミシン主軸モータ45及び送りモータ23の回転速度の減速率は、各モータ45,23について共通する値であり、後述する通常切断速度制御におけるメスモータ57の回転速度に乗じる倍率が百分率で設定される。なお、倍率ではなく縫製減速制御におけるミシン主軸モータ45又は送りモータ23の減速させる回転数そのものの値を設定可能としても良い。
【0033】
また、上記ROM82には、玉縁縫い全体の動作制御を行う縫い制御プログラム82aと、全体の切断速度を決定して制御する通常切断速度制御プログラム82bと、切断不良状態の検出時に布送り速度と縫製速度とが前述の減速率に応じて減速するように制御を行う縫製減速制御プログラム82cとを記憶している。
【0034】
(通常切断速度制御プログラムによる通常切断速度制御)
縫製時において、CPU81は、通常切断速度制御プログラム82bに従って、予め設定された縫製ピッチPとミシン主軸46の設定回転数Nの乗算値から布地B、Mの布送り速度P×Nを算出し、当該布送り速度で布地B,Mが連続的に行われるように送りモータ23の回転速度制御を実行する。
なお、送りモータ23は、センターメス51による布地B、Mの切断時においてセンターメス51の上下動位置とは無関係に布地B、Mが連続移動されるように駆動される。つまり、縫い針の上下動に同期して間欠的に布地の送りを行ういわゆる間欠送りは行われない。
さらに、縫製時において、CPU81は、所定の処理プログラムに従って、算出した布地B、Mの送り速度P×Nとセンターメス51の有効切断長Eとから適正なメスモータの回転速度R[rpm]を算出する処理を実行する。また、このとき、メス速度調整値Aが設定
されている場合には、その値を乗算する。
【0035】
メス機構50は、センターメス51と固定メスの摺接により切断を行う構造上、摩耗による劣化が早く進行するため、効率的に切断を行う必要がある。また、有効切断長Eにおける範囲全体が切断に寄与することが望ましい。そのためには、センターメスの1ストロークの下降期間中に切断される長さと上昇期間中に送りモータ23により搬送される布の送り量とが一致することが望ましい。
そのためには、センターメス51の1ストロークの下降中と上昇中とでそれぞれ有効切断長Eと等しい距離の送りが行われことが望ましい。つまり、メスモータ57の一回転につき、2Eの送りが行われることとなる。これより送り速度が速くなると、上昇中にセンターメス51に搬送される布が追いついてしまい、これより遅いと、センターメス52の有効切断長Eの範囲の一部が切断に寄与しないこととなる。
従って、メスモータ57の回転速度Rは、以下の条件を満たすように制御される。
R=P×N/2E
従って、センターメス51の所定時間におけるメスモータ57の回転速度Rは、布送り速度Gをセンターメス51の有効切断長さEの2倍で除した速度であり、布の送りピッチPと回転数Nを乗じて布送り速度を求め、この値をセンターメス51の有効切断長さEを2倍した値で除することにより求めることができる。
【0036】
なお、上記で求められたメスモータ57の回転速度Rは、センターメス51の上下動が等速で行われ、布地B,Mに厚さが0であると仮定して求めた理想的な値であり、実際には、センターメス51の上下動は、カムにより行なわれるから正弦波状の不等速運動であり、布地B,Mにも厚さが有る。
従って、上記で求めた上下動回数に若干の増分を加算した上下動回数を設定する必要がある。このため、布地B,Mの種類や厚さなどの条件でメス速度調整値AによりRの算出値の調整を図っている。
即ち、CPU81は、R=(P×N/2E)・(1+0.01×A)[rpm]により算出を行い、CPU81は、回転速度R[rpm]となるように、メスモータ57の回転速度制御を行う。
【0037】
(縫製減速制御プログラムによる縫製減速制御)
CPU81は、縫製減速制御プログラムを実行することにより縫製減速制御を行う。この縫製減速制御では、CPU81は、メスモータ57のエンコーダ103を縫製中に監視する。メスモータ57の回転速度は、前述した通常切断速度制御により縫製ピッチPとミシン主軸46の設定回転数Nに基づく回転速度に制御されているが、身頃生地Mや玉布Bの布質(例えば、通常よりも堅い場合や厚い場合、或いは、逆に過度に薄い場合や柔らかい場合など)によっては切断しにくいものがあり、センターメス51の1ストロークについて予定された切断長(=2E(メス速度調整値A=0の場合))に満たない場合がある。このような切断不良が生じている状態では、通常、メスモータ57に対する負荷が大きくなっており、速度低下が検出される。
従って、EEPROM88には、通常切断速度制御で定められたメスモータ57の回転速度に対する速度低下の閾値(規定値とも称する。)が定められており、CPU81は当該閾値以上の速度低下が生じた場合に、ミシン主軸モータ45及び送りモータ23をメスモータ57の速度低下率と同じ比率で減速する制御を実行する。なお、「メスモータ57の速度低下率」とは、メスモータ57のエンコーダ103で検出された回転速度の実測値を通常切断速度制御で定められたメスモータ57の回転速度(指令値)で除した値である。
なお、この縫製減速制御は、通常切断速度制よりも優先的に適用され、当該縫製減速制御によりミシン主軸モータ45及び送りモータ23の回転速度が低減された場合でも、メスモータ57の回転速度の指令値は減速せずそのままの値を維持する。
【0038】
(玉縁縫いの動作制御)
玉縁縫いの動作制御について図9〜図12のフローチャートにより説明する。これらのフローチャートによる処理は、各種のプログラム82a〜82cを実行することによりCPU81が行う処理である。
図9は玉縁縫いの動作制御の全体的な流れを示すフローチャート、図10は玉縁縫いの動作制御におけるセット動作の制御を示すフローチャート、図11は玉縁縫いの動作制御における縫製動作(縫い目及び直線切れ目形成動作)の制御を示すフローチャート、図12は縫製減速制御を示すフローチャートである。
【0039】
まず、縫製動作の全体的な流れを図9により説明する。
縫いが開始されると、まず、身生地Mと玉布Bのセット動作処理が行われ(ステップS20)、次いで、直線縫い目T及び直線切れ目Sの形成動作制御が行われ(ステップS50)、最後に縫い終わり動作処理としてコーナー切れ目の形成動作制御が行われ(ステップS70)、一連の玉縁縫いが完了する。このステップS20〜70の処理は繰り返し実行され、それにより複数の身生地及び玉布Bの玉縁縫いが行われる。
【0040】
次に、縫製動作におけるセット動作の処理を図10により説明する。
まず、送りモータ23が駆動して原点位置から大押さえ21を所定の縫い開始位置まで移動させる(ステップS21)。
ついで、テーブル11の上面における基準位置に合わせて身生地Mがセットされ、大押さえ21上に玉布Bがセットされると、大押さえ21が下降し、身生地Mが大押さえ21により保持される(ステップS22)。さらに、大押さえ21と21との間にバインダー30が降ろされる(ステップS23)。そして、この時点で、コーナーメス機構90は所定の原点位置に移動し待機する(ステップS24)。
さらに、各大押さえ21内には玉布Bの両側部をバインダー30の上面側に折り返すための折り返し板が装備されており、これがエアシリンダの駆動により内側に移動し、玉布Bがバインダー30に巻き付けられるように保持される(ステップS25)。
また、玉布Tの上面にフラップ布の縫いつけを行う場合には、フラップ布をセットし、その後、フラップ布を押さえるように布押さえ機構を動作させる(ステップS26)。
これにより、セット動作が完了する。なお、フラップ布の縫着は必須ではなく、実行しなくとも良い。
【0041】
次に、縫製動作における縫製動作の制御を図11により説明する。
まず、縫製動作の制御では、縫製を行うための各種の設定がなされている縫製データの作成処理が実行される(ステップS51)。
即ち、縫製に要するデータ作成時には、縫製ピッチP、縫製時のミシン主軸モータ45の回転速度N、直線縫い目Tの長さ、センターメスの有効切断長E、メス速度調整値A等が設定あるいは入力されるとこれらがEEPROM71に記憶される。
【0042】
次いで、大押さえ21が移動を開始し、布地M、Bにおける直線縫い目Tの前端部となる位置が縫い針41の下方に搬送される(ステップS52)。かかる時点で、ミシン主軸モータ45が駆動を開始し、縫製ピッチPとミシン主軸モータ45の設定回転数とに基づいて送りモータ23の駆動も開始され、縫い目の形成が開始される(ステップS53)。
また、ミシン主軸モータ45の駆動開始から針数のカウントが実行され、縫い完了までの針数に達しているか判定される(ステップS54)。針数が完了数に達していれば縫いは終了される。
また、達していないときには、縫製減速制御が実行される(ステップS55)。
次に、送りモータ23の積算回転量から、縫い目端部の端部位置基準で定められたセンターメスの下降位置(直線切れ目Sの前端部)に達したか判定し(ステップS56)、達した場合にはエアシリンダ65によりセンターメス51が下降し、上下動が開始されて直線切れ目Sの形成が開始される(ステップS57)。
なお、この時、メスモータ57の回転速度は、前述した通常切断速度制御に基づいて決定される。
【0043】
一方、ステップS56の判定において、センターメスの下降位置を過ぎて、直線切れ目Sの形成がすでに開始されている場合には、ステップS58に処理が進められる。
次いで、送りモータ23の積算回転量から、縫い目端部の端部位置基準で定められたセンターメスの上昇位置(直線切れ目Sの後端部)に達したか判定し(ステップS58)、達した場合にはセンターメス51の上昇並びに上下動が停止されて直線切れ目Sの形成が終了する(ステップS59)。一方、ステップS56の判定において、センターメスの下降位置を過ぎて、直線切れ目Sの形成がすでに開始されている場合には、ステップS58に処理が進められる。その後、ステップS54に処理が戻され、各直線縫い目TL、TRの後端部位置に達したか判定が行われる。そして、達した場合には、直線縫い目TL、TR及び直線切れ目Sの形成動作は終了される。
【0044】
次に、縫製動作中に実行される縫製減速制御を図12により説明する。
かかる縫製減速制御では、CPU81は、エンコーダ103によりメスモータ57の回転速度を検出し、メスモータ57の検出回転速度が通常切断速度制御により定められた回転速度に対して所定の閾値以上の遅れを生じているか判定を行う(ステップS71)
そして、メスモータ57に遅れが生じている場合には、検出回転速度を指令値で除した遅れの比率を算出し、当該比率をミシン主軸モータ45の現在の回転速度に乗じた回転速度となるようにミシン主軸モータ45の減速制御を実行する(ステップS72)。
それと同時に、算出されたメスモータ57の遅れの比率を送りモータ23の現在の回転速度に乗じた回転速度となるように送りモータ23も減速制御を実行する(ステップS73)。そして、縫製減速制御は終了し、縫製動作の制御(ステップS56)に進められる。
一方、ステップS71の判定において、メスモータ57の回転速度に遅れは生じていないと判定された場合には、そのまま縫製減速制御は終了し、縫製動作の制御(ステップS56)に進められる。
【0045】
(実施形態の効果)
玉縁縫いミシン10では、メスモータ57のエンコーダ103によりその速度を監視し、予め定められた閾値により一定の速度低下が検出された場合に、切断不良が生じているものとして、ミシン主軸モータ45及び送りモータ23を減速させる縫製減速制御が行われることにより、布地の送りに対して切断が追いつかない状態の発生が回避又は低減され、布地の破損や縫い品質の低下を回避又は低減することが可能となる。
このとき、切断不良が検出された場合に、メスモータ57を加速するのではなく、ミシン主軸モータ45及び送りモータ23を減速させるので、センターメス51と固定メスとの摺接を低減し、センターメス51の寿命低下を回避しつつも、布地の破損や縫い品質の低下を回避又は低減することが可能となる。
特に、玉縁縫いミシン10は、切断不良を生じないときには通常切断速度制御を行い、センターメス51を効率良く使用して長寿命化を図ることに主眼を置いているので、上記縫製減速制御により、切断不良発生時にもセンターメス51の長寿命化が図られることとなり、相乗的にセンターメス51を保護することができ、さらなる長寿命化を実現することが可能となる。
【0046】
また、玉縁縫いミシン10は、縫製開始当初は、通常切断速度制御によりミシン主軸モータ45はその設定回転数に対応する回転速度に設定され、送りモータ23はミシン主軸モータ45の回転速度に対応する回転速度に設定されるが、縫製途中で縫製減速制御により減速されると、縫製の終了まで減速されたまま速度復帰を行わない。
一方、切断不良の原因は布地の特性によるものなので、その途中でメスモータ57の速度が一時的に回復したとしてもその後も切断不良は頻出する。従って、送りモータ23とミシン主軸モータ45の速度復帰を行うように制御すると、絶えず減速と復帰を繰り返す恐れがあり、切断を安定的に行えなくなる。従って、減速後、一つの縫製パターンの縫製が完了するまで減速状態を継続する制御を行うことにより、安定的な縫製を行うことができ、縫い品質の低下を抑止することが可能となる。
また、上記縫製減速制御において、CPU81は、ミシン主軸モータ45及び送りモータ23をメスモータ57の速度低下率と同じ比率で減速するため、ミシン主軸モータ45及び送りモータ23をメスモータ57の切断速度に対して適切な速度とすることができ、さらに効果的に縫製の品質低下を抑止できる。
【0047】
(その他)
なお、上述の例では、ミシンが連続送りを行う場合を例示したが、これに限らず、間欠送りを行っても良い。
【符号の説明】
【0048】
10 玉縁縫いミシン
13 針板
20 大押さえ送り機構(布送り機構)
23 送りモータ
40 針上下動機構
41 縫い針
45 ミシン主軸モータ(ミシンモータ)
50 メス機構
51 センターメス
57 メスモータ(メス駆動源)
80 動作制御手段
81 CPU
82a 縫製制御プログラム
82b 通常切断速度制御プログラム
82c 縫製減速制御プログラム
101,102,103 エンコーダ(検出手段)
B 玉布(被縫製物)
E センターメスの有効切断長
F 布送り方向
M 身頃生地(被縫製物)
N ミシン主軸の回転数
P 縫製ピッチ
P×N 搬送速度
S 直線切れ目
T 直線縫い目

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミシンモータにより縫い針を上下動させる針上下動機構と、
送りモータにより針板上で布送り方向に沿って被縫製物を搬送する布送り機構と、
固定メスに対してメスモータによりセンターメスを上下動させることで前記被縫製物に布送り方向に沿った直線切れ目を形成するメス機構と、
前記被縫製物の搬送速度に応じて定まるセンターメスの上下動頻度に従って前記メスモータを制御する動作制御手段とを備える玉縁縫いミシンにおいて、
前記メスモータの動作速度を検出する検出手段を備え、
前記動作制御手段が、前記メスモータの指令値に対して前記検出手段の検出する動作速度が規定値以上の低下を生じた場合に、前記ミシンモータ及び前記送りモータを減速させる制御を行うことを特徴とする玉縁縫いミシン。
【請求項2】
前記動作制御手段による減速制御は、前記ミシンモータ及び前記送りモータを一旦減速させると、一つの縫製パターンの縫製が完了するまで減速状態を継続することを特徴とする請求項1記載の玉縁縫いミシン。
【請求項3】
前記動作制御手段による減速制御では、前記メスモータに生じた速度低下の比率と等しい比率で前記ミシンモータ及び前記送りモータを減速させる制御を行うことを特徴とする請求項1又は2記載の玉縁縫いミシン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−115258(P2011−115258A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−273375(P2009−273375)
【出願日】平成21年12月1日(2009.12.1)
【出願人】(000003399)JUKI株式会社 (1,557)
【Fターム(参考)】