説明

環境試験設備におけるガス系消火方法及びその設備

【課題】消火に対する確実性と人に対する安全性の両方を満たすようにした環境試験設備におけるガス系消火方法及びその設備を提供すること。
【解決手段】恒圧恒温室Ra、Rbを備えた環境試験設備におけるガス系消火方法において、恒圧恒温室Ra、Rbの室内の気圧及び気温のデータに基づいて、ガス消火剤を放出した後の恒圧恒温室Ra、Rbの室内の酸素濃度が10%以上で、かつ、消火設計濃度以下を維持するように、ガス消火剤の放出量を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、恒圧恒温室を備えた環境試験設備におけるガス系消火方法及びその設備に関し、特に、消火に対する確実性と人に対する安全性の両方を満たすようにした環境試験設備におけるガス系消火方法及びその設備に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の経済や産業のグローバル化に伴い、自動車、電気機械等の各種製品が、日本から世界の様々な地域に輸出されるようになってきている。
ところで、輸出された自動車、電気機械等の製品が使用される環境は、日本のような通常の環境とは異なり、例えば、高地(気圧:430mmHg、気温:−40℃)等の厳しい環境下で使用されることも多いことから、このような厳しい環境下で、自動車、電気機械等の製品が故障することなく安定して稼動することを検証するための試験が必要となってきている。
そして、この試験は、製品を構成する部品単位にとどまらず、信頼性の高い検証結果を得るために、気圧及び気温を自由に設定できるようにした恒圧恒温室を備えた環境試験設備において自動車、電気機械等の製品を実稼動させることによって行う要請がなされてきている。
【0003】
一方、このような恒圧恒温室を備えた環境試験設備において自動車、電気機械等の製品を実稼動させる場合、火災が発生する危険性があるため消火設備を設置する必要があるが、恒圧恒温室を上記高地(気圧:430mmHg、気温:−40℃)の環境に設定した場合、消火設備配管内の凍結のおそれ等があるため、水消火設備や泡消火設備を使用することができないことから、消火設備としては、沸点の低いガス系消火設備を使用することになる。
【0004】
ところで、ガス系消火設備は、通常、消火対象区画内にガス消火剤を放出することによって、消火対象区画内の酸素濃度が消火設計濃度(消炎濃度)以下となるように、消火対象区画内に放出するガス消火剤の量を、当該消火対象区画の容積に基づいて演算し、制御装置に予め設定するようにしていた。
【0005】
現在使用可能なガス系消火設備は、二酸化炭素、窒素等の不活性ガスを利用し、消火時の消火対象区画内の酸素濃度を約14%以下まで低下させることで酸素を遮断して燃焼しないようにするものである。この常圧時の酸素濃度約14%以下(今回は12.5%以下と規定する)が消火設計濃度である。
ところで、酸欠空気が充満した室内において酸素濃度が12%以上あれば、30分程度までの短時間の暴露の場合は人体に殆ど影響がないことが報告されている。また、空気中の酸素濃度が9〜14%では軽度の一時的な障害が発生しても回復可能だが、酸素濃度が10%以下の場合意識不明やけいれん等の重篤な障害が発生することの報告もある。
消火時の空気内に他に毒性のない気体で満たされていると前記の事柄が利用できるが、二酸化炭素を不活性ガスとするガス系消火設備の場合、放出する二酸化炭素の設計濃度は約35%であり、この濃度では万一消火対象区画内に人が存在している場合、二酸化炭素の毒性(麻酔性)により人命に関わる事態が発生するおそれがある。空気中の二酸化炭素濃度が7〜10%では数分以内に昏倒するという報告がある。
その点、窒素を不活性ガスとするガス系消火設備の場合、窒素ガス自体には毒性がない(例えば、特許文献1及び非特許文献1参照)。
【0006】
しかしながら、恒圧恒温室のような特殊な環境においては、例えば、低圧の場合には、気体の密度が低くなるため、消火対象区画内に放出するガス消火剤の量を、通常の消火対象区画の容積に基づいて演算した量よりも減らす必要があるが、放出するガス消火剤の量や環境の変化等によっては、ガス消火剤を放出した消火対象区画内の酸素濃度が消炎濃度以下にならず消火ができないことが考えられる。
一方、低温の場合には、気体の密度が高くなるため、消火対象区画内に放出するガス消火剤の量を、通常の消火対象区画の容積に基づいて演算した量よりも増やす必要があるが、放出するガス消火剤の量や環境の変化等によっては、ガス消火剤を放出した消火対象区画内の酸素濃度が10%未満という人体には望ましくない環境になることが考えられる。
【特許文献1】特開平8-141102号公報
【非特許文献1】空気調和・衛生工学便覧1 基礎編 第2編第3章2・5空気質基準と汚染物質の影響 ページ489〜490 2001年(平成13年)11月30日 第13版第1刷発行 社団法人空気調和・衛生工学会
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記従来のガス系消火設備を特殊な環境下において使用する場合の問題点に鑑み、消火に対する確実性と人に対する安全性の両方を満たすようにした環境試験設備におけるガス系消火方法及びその設備を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の環境試験設備におけるガス系消火方法は、恒圧恒温室を備えた環境試験設備におけるガス系消火方法において、恒圧恒温室内の気圧及び気温のデータに基づいて、ガス消火剤を放出した後の恒圧恒温室内の酸素濃度が10%以上で、かつ、消火設計濃度以下を維持するように、ガス消火剤の放出量を制御することを特徴とする。
【0009】
この場合において、恒圧恒温室内の気圧及び気温のデータに、設定気圧及び設定気温のデータやリアルタイムで測定した恒圧恒温室内の気圧及び気温のデータを用いることができる。
【0010】
また、恒圧恒温室内の気圧及び気温のデータを、それぞれ予め設定されている複数の区分からなる気圧範囲及び気温範囲のいずれかに属するように分類し、分類された気圧範囲及び気温範囲に基づいて、ガス消火剤の放出量を制御することができる。
【0011】
また、恒圧恒温室内の気圧が大気圧以下の予め設定した圧力以下の場合に、ガス消火剤の放出時に恒圧恒温室内の気圧が大気圧以上の所定の圧力に上昇した際に避圧ダンパを開放し、ガス消火剤の放出完了後の所定時間後に避圧ダンパを閉鎖するようにすることができる。
【0012】
また、本発明の環境試験設備におけるガス系消火設備は、上記環境試験設備におけるガス系消火方法を実施するためのもので、恒圧恒温室を備えた試験環境設備におけるガス系消火設備であって、恒圧恒温室を対象として設置した恒圧恒温環境を作り出す除湿機及び空調機へ、気圧や温度の制御信号を送出する制御装置から取り出す恒圧恒温室内の気圧及び気温のデータに基づいて、ガス消火剤を放出した後の恒圧恒温室内の酸素濃度が10%以上で、かつ、消火設計濃度以下を維持するように、ガス消火剤の放出量を制御するガス消火設備制御盤を備えたことを特徴とする。
【0013】
この場合において、恒圧恒温室内の気圧及び気温のデータに、設定気圧及び設定気温のデータやリアルタイムで測定した恒圧恒温室内の気圧及び気温のデータを用いることができる。
【0014】
また、恒圧恒温室内の気圧及び気温のデータを、それぞれ予め設定された複数の区分からなる気圧範囲及び気温範囲のいずれかに属するかの分類を演算する演算回路をガス消火設備制御盤に備え、演算で得られた気圧範囲及び気温範囲に基づいて、ガス消火剤の放出量を制御することができる。
【0015】
また、恒圧恒温室に密閉した室内装が室内外の圧力差で破損することを防止する避圧ダンパを備え、高圧高温室内の気圧が大気圧以下の予め設定した圧力以下の場合に、ガス消火剤の放出時に恒圧恒温室内の気圧が大気圧以上の所定の圧力に上昇した際に避圧ダンパを開放し、ガス消火剤の放出完了後の所定時間後に避圧ダンパを閉鎖するようにすることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の環境試験設備におけるガス系消火方法及びその設備によれば、恒圧恒温室内の気圧及び気温のデータに基づいて、ガス消火剤を放出した後の恒圧恒温室内の酸素濃度が10%以上で、かつ、消火設計濃度以下を維持するように、ガス消火剤の放出量を制御することにより、特殊な環境下にある環境試験設備の恒圧恒温室においても、恒圧恒温室内に放出するガス消火剤の量を適正に制御して恒圧恒温室内の酸素濃度を適正値に維持することができ、ガス消火剤を放出した恒圧恒温室内の酸素濃度が消炎濃度以下にならず消火ができなくなったり、酸素濃度が10%未満という人体には望ましくない環境になることがなく、消火に対する確実性と人に対する安全性の両方の要請を満たすことができる。
【0017】
この場合、恒圧恒温室内の気圧及び気温のデータには、設定気圧及び設定気温のデータやリアルタイムで測定した恒圧恒温室内の気圧及び気温のデータを、環境試験設備の用途、使用状態等に応じて適宜選択して用いることができる。
【0018】
また、恒圧恒温室内の気圧及び気温のデータを、それぞれ予め設定されている複数の区分からなる気圧範囲及び気温範囲のいずれかに属するように分類し、分類された気圧範囲及び気温範囲に基づいて、ガス消火剤の放出量を制御することにより、ガス系消火設備の構造を簡略化することができる。
【0019】
また、ガス消火剤を放出し恒圧恒温室内が予め設定した圧力になったときに避圧ダンパを開放するとともに、ガス消火剤の放出後は避圧ダンパを閉鎖するようにすることにより、ガス消火剤の漏出を防止して恒圧恒温室内の酸素濃度を適正値に維持しながら、恒圧恒温室内の圧力が異常に上昇することによる恒圧恒温室の躯体等の損壊を未然に防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の環境試験設備におけるガス系消火方法及びその設備の実施の形態を、図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0021】
図1に、本発明の環境試験設備におけるガス系消火方法及びその設備を適用する環境試験設備の一例を示し、図2に、本発明のガス系消火設備の一例を示す。
【0022】
この環境試験設備は、種々の環境下で自動車や自動車に組み込む前のエンジンを実稼動させることによって、当該環境下で自動車やそのエンジンが故障することなく安定して稼動することを検証するための試験を行うためのものである。
【0023】
本実施例において、環境試験設備は、低温試験を行う際に導入外気を除湿冷却するための除湿ユニット5を共通に備え、外気ガラリ6から取り入れた外気を所定の乾球温度及び露点温度に調整して車両実験室Ra及びエンジン実験室Rbに導入するようにしている。
【0024】
車両実験室Raには、室内の温度(乾球温度及び露点温度)を調整可能にする空調機7を室内に、試験車両8の駆動輪をローラ上にて定置走行の形で実走行させるシャシダイナモメータ9を床面に、試験車両8が室内空気をエンジンインテークから吸引し内燃した結果排気管から発生する排気ガスを排気する排ガスファン10を排気ダクト装置11を介して試験車両8の排気管に間接接続するように、それぞれ設けている。
除湿ユニット5の給気ファンと排ガスファン10との風量の差により車両実験室Ra内の圧力を変化できるように、各々のファンには回転数可能なインバータが備わっている。
車両実験室Raには、乾球温度を計測する温度センサTEa、露点温度を計測する露点温度センサDPa、室内圧力(外部との差圧でもよい)を計測する圧力センサPaをそれぞれ備え、室内圧力が所定の設定値を超えた場合開放される避圧ダンパDaも壁面等に備えられている。
【0025】
エンジン実験室Rbには、室内の温度(乾球温度及び露点温度)を調整可能にする空調機12を室内に、試験エンジン13を定盤14上に設置して燃料・冷却水・エンジンオイル等を供給しながら、試験エンジン13の駆動軸に対し負荷を掛け、かつ駆動力を吸収するエンジンダイナモメータ15を室内に、試験エンジン13のエアインテークから吸引し内燃した結果排気管から発生する排気ガスを排気する排ガスファン16を、排気ダクト装置17を介して試験エンジン13の排気管に間接接続するように、それぞれ設けている。
除湿ユニット5の給気ファンと排ガスファン16との風量の差によりエンジン実験室Rb内の圧力を変化できるように、各々のファンには回転数可能なインバータが備わっている。
エンジン実験室Rbには、乾球温度を計測する温度センサTEb、露点温度を計測する露点温度センサDPb、室内圧力(外部との差圧でもよい)を計測する圧力センサPbをそれぞれ備え、室内圧力が所定の設定値を超えた場合開放される避圧ダンパDbも壁面等に備えられている。なお、実施例では除湿ユニット5は車両実験室Ra及びエンジン実験室Rbで1台共通としたが、各室の設定自由度をより大きくするため、各室個別に設けてももちろんよい。
【0026】
車両実験室Raの場合、車両運転モードによっては実際に作業者が車両を運転する場合があり、室内に立ち入ることがある。エンジン実験室Rbの場合にも、観測室から遠隔で操作するだけでなく、室内に作業者が立ち入って試験する場合もある。
【0027】
観測室等に設けられる自動制御盤Prには、車両実験室Raの試験開始停止ボタン、エンジン実験室Rbの試験開始停止ボタンや、車両実験室Raの室圧設定入力装置及び室温設定入力装置、エンジン実験室Rbの室圧設定入力装置及び室温設定入力装置が盤面に設けられている。
【0028】
車両実験室Ra内にある温度センサTEa、露点温度センサDPa、エンジン実験室Rb内にある温度センサTEb、露点温度センサDPbからそれぞれ送られる信号※2a、※3a、※2b、※3bは自動制御盤Pr内に設けられた温度コントローラ回路TICに入力として入り、温度コントローラ回路TICに外部から設定される車両実験室Ra、エンジン実験室Rbそれぞれの室内設定温度との偏差を比例積分演算されて演算結果を、自動制御盤Pr内の操作器コントローラ回路ICに送る。
操作器コントローラ回路IC内で演算された結果、試験開始停止ボタンに関連して、空調機7のファン発停信号※10a、空調機12のファン発停信号※10bやその他各ファンの起動停止信号が発せられ、4種の温度センサから発せられる信号に対応して、除湿ユニット5の冷却コイルへの制御弁調整信号※5、同除湿機への制御信号※6、空調機7に内蔵される冷却コイルへの制御弁調整信号※7a、同加湿器への制御弁調整信号※8a、同加熱コイルへの制御弁調整信号※9a、空調機12に内蔵される冷却コイルへの制御弁調整信号※7b、同加湿器への制御弁調整信号※8b、同加熱コイルへの制御弁調整信号※9bが送信される。
【0029】
車両実験室Ra内にある圧力センサPa、エンジン実験室Rb内にある圧力センサPbからそれぞれ送られる信号※1a、※1bは自動制御盤Pr内に設けられた圧力コントローラ回路PICに入力として入り、圧力コントローラ回路PICに外部から設定される車両実験室Ra、エンジン実験室Rbそれぞれの室内設定圧力との偏差を比例積分演算されて演算結果を、自動制御盤Pr内の操作器コントローラ回路ICに送る。 操作器コントローラ回路IC内で演算された結果、2種の圧力センサから発せられる信号に対応して、除湿ユニット5のファンへの回転数制御調整信号※4c、排ガスファン10への回転数制御調整信号※4a、排ガスファン16への回転数制御調整信号※4bが送信される。
また、圧力コントローラ回路PICに設定される所定の設定値を超えた場合には、避圧ダンパDaの開閉信号※11a、もしくは避圧ダンパDbの開閉信号※11bを送信することもある。
【0030】
このようにして室内の気圧及び気温を任意に設定できる車両実験室Ra及びエンジン実験室Rbの2つの恒圧恒温室を備えるようにしている。
【0031】
ところで、車両実験室Ra及びエンジン実験室Rbにおいて自動車等を実稼動させる場合、火災が発生する危険性があるため消火設備を設置する必要があるが、車両実験室Ra及びエンジン実験室Rbは、恒圧恒温室として特殊な環境が形成されることから、消火に対する確実性と人に対する安全性の両方を満たすようにする必要がある。
すなわち、例えば、低圧の場合には、気体の密度が低くなるため、消火対象区画内に放出するガス消火剤の量を、通常の消火対象区画の容積に基づいて演算した量よりも減らす必要があるが、放出するガス消火剤の量や環境の変化等によっては、ガス消火剤を放出した消火対象区画内の酸素濃度が消炎濃度以下にならず消火ができないことが考えられる。
一方、低温の場合には、気体の密度が高くなるため、消火対象区画内に放出するガス消火剤の量を、通常の消火対象区画の容積に基づいて演算した量よりも増やす必要があるが、放出するガス消火剤の量や環境の変化等によっては、ガス消火剤を放出した消火対象区画内の酸素濃度が10%未満という人体には望ましくない環境になることが考えられる。
【0032】
このため、本実施例においては、車両実験室Ra及びエンジン実験室Rbのそれぞれの室内の気圧及び気温のデータ、具体的には、設定気圧及び設定気温のデータやリアルタイムで測定した気圧及び気温のデータを抽出し、この気圧及び気温のデータに基づいて、ガス消火剤を放出した後の室内の酸素濃度が10%以上(消防予第102号(平成13年3月30日))で、かつ、消火設計濃度以下を維持するように、放出するガス消火剤の量を制御するようにしている。具体的には、自動制御盤Prの圧力コントローラ回路PICから、設定圧力のデータや、圧力センサPa、Pbの計測信号を演算したリアルタイム測定気圧データを、温度コントローラ回路TICから設定温度のデータや、温度センサTEa、DPa、TEb、DPbの計測信号を演算したリアルタイム測定気温データを、それぞれ取り出して消火設備制御盤Pfへ送り、消火設備制御盤Pfの演算回路により、気圧及び気温のデータに基づいて、ガス消火剤を放出した後の室内の酸素濃度が10%以上で、かつ、消火設計濃度以下を維持するように、放出するガス消火剤の量を制御するようにしている。
【0033】
ここで、ガス消火剤として窒素ガスを使用する場合には、窒素ガスを車両実験室Ra及びエンジン実験室Rbのそれぞれの室内に放出することによって、酸素濃度(通常21%)を消火設計濃度(12.5%)以下まで低下させることにより消火することができる。
【0034】
以下、その具体的な実施例について消火設備制御盤Pfでの演算内容を明らかにしながら説明する。
【0035】
1. 実験室の条件
(1)実験室
車両実験室Ra
エンジン実験室Rb
(2)設計仕様
最低室内圧力:430mmHg
最低室内温度:−40℃
【0036】
2.ガス消火剤の必要量
(1)消火剤係数F
消火対象はガソリン等の油火災を想定し、設計消火剤濃度Cは、不活性ガス:n−ヘプタン消炎濃度33.6%を基準として、安全率1.2を乗じた、40.3%とする。
消火剤係数F(m/m)は、
F=ln(100/(100−C))(20℃) ・・・(式1)
で求められ、常温20℃ではCを代入して、
F=0.52m/m
となる。
なお、実験室の条件として最悪の火災シナリオ(常圧・低温状態)を想定し、最低設定温度−40℃を考慮すると、室内温度T℃の場合、消火剤係数Fは、
F=0.52×(273+20)/(273+T) ・・・(式2)
と、シャルルの法則に従って表されるので、T=(−40℃)を代入し、
F=0.52×(273+20)/(273−40)=0.654m/m(−40℃)
とする。
消火対象区画の体積に、この消火剤係数Fを乗じれば、ガス消火剤の必要量G(m)が求まる。
ガス消火剤をボンベに封入する際には20.3m容器に封入するのが一般的である。
(2)ガス消火剤の必要量G(m
上記の計算過程で求めた車両実験室Ra及びエンジン実験室Rbの2つの恒圧恒温室の一例のガス消火剤の必要量は表1に示すようになる。ここまでは、ガス消火剤の種類と室が決まれば固定値となるので、与条件として消火設備制御盤Pfでの演算に与えることが可能である。
【0037】
【表1】

【0038】
3.対象区画内の酸素濃度
前項「ガス消火剤の必要量」で算出したガス消火剤の必要量Gを実験室に放出した場合の消火剤濃度C(%)を求め、消火剤濃度C(%)から消火剤放出後の室内酸素濃度C(%)を演算する。
=21×(1−消火剤濃度C) ・・・(式3)
=[1−exp{−W/V+ln(1−C/100)}]×100 ・・・(式4)
=W×{(273+T)/(273+20)}−V×(1−P/760) ・・・(式5)
=(1−P/760)×100 ・・・(式6)
ここで、W:所要消火剤量(m)、V:実空間体積(m)、T:最低室内温度(℃)、P:最低室内圧(mmHg)、C:消火剤濃度(%)、W:消火剤放出開始から1気圧に復帰した時点での残消火剤量(m)C:消火剤放出開始から1気圧に復帰した時点での消火剤濃度(%)である。
式3〜式6を用いて、ガス消火剤の必要量Gを実験室に放出した場合の消火シナリオで最悪の条件で設計し、かつ、その他の条件における酸素濃度を比較したものを表2に示す。
【0039】
【表2】

【0040】
この結果から、低圧常温条件で消火剤を放出する場合、酸素濃度が10%を下回ることが分かる。
【0041】
4.低圧状態での酸素濃度低下を回避する方策
前項で示すとおり、最悪の条件で算出したガス消火剤の必要量を、低圧、かつ、常温時に放出すると、酸素濃度が10%を下回ることが分かった。
このため、酸素濃度が10%を下回らないように、車両実験室Ra及びエンジン実験室Rbの気圧及び気温に基づいて消火設備制御盤Pfの演算回路により、気圧及び気温のデータに基づいて、ガス消火剤を放出した後の室内の酸素濃度が10%以上で、かつ、消火設計濃度以下を維持するように、放出するガス消火剤の量(開放する容器本数)を制御するようにする。
具体的には、容器の開放本数を減じて、W:所要消火剤量(m)を段階的に調整した後、式3〜式6を用いて室内酸素濃度Cを演算して、上記室内の酸素濃度が10%以上で、かつ、消火設計濃度以下を維持するように制御するようにする。
開放する容器本数を制御して車両実験室Ra及びエンジン実験室Rbにそれぞれガス消火剤を放出した場合の酸素濃度を表3及び表4に示す。
【0042】
【表3】

【0043】
【表4】

【0044】
車両実験室Ra及びエンジン実験室Rbの気圧及び気温のデータに基づいて、放出するガス消火剤の量(開放する容器本数)を制御することにより、ガス消火剤を放出した後の車両実験室Ra及びエンジン実験室Rbの室内の酸素濃度を、人体に対する安全濃度(酸素濃度:10.0%以上)で、かつ、消火設計濃度以下(酸素濃度:12.5%以下)に維持することが可能となる。具体的には、消火設備制御盤Pfの演算回路に、式3〜式6を用いて室内酸素濃度Cを演算する回路を設け、T:最低室内温度(℃)やP:最低室内圧(mmHg)を車両実験室Ra及びエンジン実験室Rbの気圧及び気温のデータに基づいて与えて演算する。
【0045】
5.システム構成
(1)起動方式
消火設備の起動方式は、自動起動・手動起動の切換方式とし、人員が車両実験室Ra及びエンジン実験室Rbの室内に立ち入る場合においては、確実に手動起動方式に切り換えるものとする。
なお、起動方式の切り換えは、計測室に設置する操作箱から特定の責任者が操作するようにする(図3参照)。
【0046】
(2)起動操作
自動起動方式の場合(人員が車両実験室Ra及びエンジン実験室Rbの室内に立ち入らない場合)は、2ラインの感知器の動作によりシステムが起動するようにする。
手動起動方式の場合(人員が車両実験室Ra及びエンジン実験室Rbの室内に立ち入る場合)は、室内の人員の退避及び扉、シャッターの閉鎖を特定の責任者が確認した後に、手動起動装置を操作することにより行うようにする。
【0047】
(3)開放する容器本数の切り換え
前項に記載したとおり、車両実験室Ra及びエンジン実験室Rbの気圧及び気温に基づいて放出するガス消火剤の量(開放する容器本数)を制御するために、自動制御盤Prから出力される車両実験室Ra及びエンジン実験室Rbの気圧及び気温のデータを消火設備制御盤Pfで受信し、ガス消火剤を放出した後の車両実験室Ra及びエンジン実験室Rbの室内の酸素濃度を、人体に対する安全濃度(酸素濃度:10.0%以上)で、かつ、消火設計濃度以下(酸素濃度:12.5%以下)に維持することが可能な量のガス消火剤を放出する(容器本数を開放する)。
【0048】
この場合において、車両実験室Ra及びエンジン実験室Rbの気圧及び気温のデータには、設定気圧及び設定気温のデータやリアルタイムで測定した気圧及び気温のデータを、車両実験室Ra及びエンジン実験室Rbの用途、使用状態等に応じて適宜選択して用いることができ、本実施例においては、リアルタイムで測定した気圧のデータと設定気温のデータとを用いるようにしている。
【0049】
また、放出するガス消火剤の量(開放する容器本数)の制御は、例えば、上記特許文献1に記載されている機構と同様の機構を用いることができる。この機構は、起動信号が起動用ガス容器開放用のソレノイドに送られることによって、ソレノイドが動作して起動用ガス容器1が開放され、これにより放出された起動用ガスが、選択弁2a、2bを開放するとともに、不還弁3(この不還弁3は、一方向のガスの流れを許容し、それとは逆方向のガス消火剤貯蔵容器4を開放するものである。)を経てガス消火剤貯蔵容器4を開放するものである(図2参照)。
【0050】
また、放出するガス消火剤の量(開放する容器本数)の制御は、ガス消火剤を放出したときの車両実験室Ra及びエンジン実験室Rbの室内の酸素濃度が10%以上で、かつ、消火設計濃度以下を維持するようにできるものであれば、任意の方法を採用することができ、例えば、上記実施例においては、図4(b)に示すような区分で放出するガス消火剤の量(開放する容器本数)を制御するようにしたが、このほか、図4(a)に示すように、車両実験室Ra及びエンジン実験室Rbの気圧及び気温を、それぞれ予め設定されている複数の区分(本実施例においては、気圧を2区分、気温を3区分、全体を3区分としているが、区分の仕方(区分の範囲や区分数)は、本実施例のものに限定されるものではなく、適宜設定することができる。)からなる気圧範囲及び気温範囲のいずれかに属するように分類し、分類された気圧範囲及び気温範囲に基づいて、放出するガス消火剤の量(開放する容器本数)を制御することができる。
これにより、ガス系消火設備の構造を簡略化しながら、放出するガス消火剤の量(開放する容器本数)を正確に制御することができる。
【0051】
(4)安全対策
・車両実験室Raに設けられている退避室(低圧状態の実験室から人員が退避するための室)の内扉(車両実験室Ra側の扉)は、実験時開放状態のため、退避室を防護区画体積に含むものとする。ただし、退避室内に噴射ヘッドは設けない。
・計測室から車両実験室Ra及びエンジン実験室Rb並びに前室、退避室の人員の有無を安易に確認できるように各室に窓を設置する。
・車両実験室Ra内のトイレについては、消火設備起動時に作動するスピーカを設置することにより、トイレ内の人員に退避を促すようにする。
【0052】
6.退避機構について
防護区画が完全密閉区画の場合、消火剤放出時に約1.6気圧まで上昇するため、車両実験室Ra及びエンジン実験室Rbには、避圧措置、具体的には、避圧ダンパDa、Dbを備えた避圧機構を配設するようにする。
この場合、車両実験室Ra及びエンジン実験室Rbが低圧状態で火災が発生した場合、ガス消火剤の放出と同時に避圧ダンパDa、Dbが開放状態になると、外部からの空気の流入により、かえって火災を煽るおそれがあるため、室内圧力が1気圧以上に回復してから、避圧ダンパDa、Dbを開放させるようにする。
このため、避圧ダンパDa、Dbの開放の制御は、自動制御盤Prから行い、室内圧が1気圧以上の設定圧(例えば、2000Pa以上)になると避圧ダンパDa、Dbを開放し、ガス消火剤の放出完了後の所定時間後(本実施例においては、ガス消火剤の放出開始から数十秒でガス消火剤の放出完了することから、ガス消火剤の放出開始から1分後)に閉鎖するようにする。これは、図1に示す消火設備制御盤Pfから発せられる車両実験室Raの消火剤放出信号※A及びエンジン実験室Rbの消火剤放出信号※Bを、自動制御盤Prの操作器コントローラ回路ICに入力し、操作器コントローラ回路ICで演算制御することで、避圧ダンパDaの開閉信号※11a、もしくは避圧ダンパDbの開閉信号※11bを送信するものである。
これにより、車両実験室Ra及びエンジン実験室Rbからのガス消火剤の漏出を防止して車両実験室Ra及びエンジン実験室Rbの室内の酸素濃度を適正値に維持しながら、車両実験室Ra及びエンジン実験室Rbの室内の圧力が異常に上昇することによる車両実験室Ra及びエンジン実験室Rbの躯体等の損壊を未然に防止することができる。
なお、避圧に必要な有効開口面積を表5に示す。
【0053】
【表5】

【0054】
7.人に対する安全性
人に対する安全性については、前記のとおり、酸素濃度を10%以上に確保することが可能である。ただし、消火設備作動時に車両実験室Ra及びエンジン実験室Rbの室内は、無人であるというのが原則であり、人員の入室時の手動起動方式への切り換え、手動起動装置による手動起動時の人員退避の確認等は確実に実施する必要がある。
【0055】
以上、本発明の環境試験設備におけるガス系消火方法及びその設備について、その実施例に基づいて説明したが、本発明は上記実施例に記載した構成に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において適宜その構成を変更することができるものである。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の環境試験設備におけるガス系消火方法及びその設備は、消火に対する確実性と人に対する安全性の両方を満たすものであることから、室内に人が入って作業することがある、種々の環境下で自動車やそのエンジンを実稼動させることによって、当該環境下で自動車やそのエンジンが故障することなく安定して稼動することを検証するための試験を行うための環境試験設備に好適に用いることができるほか、広く一般の例えば、環境試験設備にも用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の環境試験設備におけるガス系消火方法及びその設備を適用する環境試験設備の一実施例を示す説明図である。
【図2】本発明の環境試験設備におけるガス系消火設備の一実施例を示す説明図である。
【図3】本発明の環境試験設備におけるガス系消火方法のフローチャートである。
【図4】本発明の環境試験設備におけるガス系消火方法において、放出するガス消火剤の量(開放する容器本数)の制御方法を示す説明図である。
【符号の説明】
【0058】
Ra 車両実験室(恒圧恒温室)
Rb エンジン実験室(恒圧恒温室)
Da 避圧ダンパ
Db 避圧ダンパ
Pr 自動制御盤
Pf 消火設備制御盤
1 起動用ガス容器
2a 選択弁
2b 選択弁
3 不還弁
4 ガス消火剤貯蔵容器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
恒圧恒温室を備えた環境試験設備におけるガス系消火方法において、恒圧恒温室内の気圧及び気温のデータに基づいて、ガス消火剤を放出した後の恒圧恒温室内の酸素濃度が10%以上で、かつ、消火設計濃度以下を維持するように、ガス消火剤の放出量を制御することを特徴とする環境試験設備におけるガス系消火方法。
【請求項2】
恒圧恒温室内の気圧及び気温のデータに、設定気圧及び設定気温のデータを用いることを特徴とする請求項1記載の環境試験設備におけるガス系消火方法。
【請求項3】
恒圧恒温室内の気圧及び気温のデータに、リアルタイムで測定した恒圧恒温室内の気圧及び気温のデータを用いることを特徴とする請求項1記載の環境試験設備におけるガス系消火方法。
【請求項4】
恒圧恒温室内の気圧及び気温のデータを、それぞれ予め設定されている複数の区分からなる気圧範囲及び気温範囲のいずれかに属するように分類し、分類された気圧範囲及び気温範囲に基づいて、ガス消火剤の放出量を制御することを特徴とする請求項2又は3記載の環境試験設備におけるガス系消火方法。
【請求項5】
恒圧恒温室内の気圧が大気圧以下の予め設定した圧力以下の場合に、ガス消火剤の放出時に恒圧恒温室内の気圧が大気圧以上の所定の圧力に上昇した際に避圧ダンパを開放し、ガス消火剤の放出完了後の所定時間後に避圧ダンパを閉鎖するようにすることを特徴とする請求項1、2、3又は4記載の環境試験設備におけるガス系消火方法。
【請求項6】
恒圧恒温室を備えた試験環境設備におけるガス系消火設備であって、恒圧恒温室を対象として設置した恒圧恒温環境を作り出す除湿機及び空調機へ、気圧や温度の制御信号を送出する制御装置から取り出す恒圧恒温室内の気圧及び気温のデータに基づいて、ガス消火剤を放出した後の恒圧恒温室内の酸素濃度が10%以上で、かつ、消火設計濃度以下を維持するように、ガス消火剤の放出量を制御するガス消火設備制御盤を備えたことを特徴とする環境試験設備におけるガス系消火設備。
【請求項7】
恒圧恒温室内の気圧及び気温のデータに、制御装置に設定した設定気圧及び設定気温のデータを用いることを特徴とする請求項6記載の環境試験設備におけるガス系消火設備。
【請求項8】
恒圧恒温室内の気圧及び気温のデータに、リアルタイムで測定した恒圧恒温室内の気圧及び気温のデータを用いることを特徴とする請求項6記載の環境試験設備におけるガス系消火設備。
【請求項9】
恒圧恒温室内の気圧及び気温のデータを、それぞれ予め設定された複数の区分からなる気圧範囲及び気温範囲のいずれかに属するかの分類を演算する演算回路をガス消火設備制御盤に備え、演算で得られた気圧範囲及び気温範囲に基づいて、ガス消火剤の放出量を制御することを特徴とする請求項7又は8記載の環境試験設備におけるガス系消火設備。
【請求項10】
恒圧恒温室に密閉した室内装が室内外の圧力差で破損することを防止する避圧ダンパを備え、高圧高温室内の気圧が大気圧以下の予め設定した圧力以下の場合に、ガス消火剤の放出時に恒圧恒温室内の気圧が大気圧以上の所定の圧力に上昇した際に避圧ダンパを開放し、ガス消火剤の放出完了後の所定時間後に避圧ダンパを閉鎖するようにしたことを特徴とする請求項6、7、8又は9記載の環境試験設備におけるガス系消火設備。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−112796(P2009−112796A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−261609(P2008−261609)
【出願日】平成20年10月8日(2008.10.8)
【出願人】(000168676)株式会社コーアツ (14)
【出願人】(000001834)三機工業株式会社 (316)
【Fターム(参考)】