説明

環状ポリオレフィン層を含むプラスチック容器

【課題】液体状医薬の薬剤含有量の低下を抑え、耐衝撃性、充填時の操作性、容器の成形性や透明性に優れたプラスチック容器を提供すること。
【解決手段】ヒートシール可能なシール層、環状ポリオレフィン層及び最外層を備え、シール層はポリプロピレンからなり、環状ポリオレフィン層は環状ポリオレフィンポリマー又は環状ポリオレフィンコポリマーからなり、最外層はポリプロピレンを含む層からなり、さらにプロピレン系重合体とスチレン系エラストマーとのブレンド物からなる樹脂組成物層を環状ポリオレフィン層の両側表面に備える多層フィルムを、そのシール層が対向するように重ね合わせた状態で、その周縁部をヒートシールすることによって成形されたプラスチック容器であって、3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン若しくはその生理的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物を有効成分として含有する溶液を充填したプラスチック容器。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体状の医薬を収容するのに適したプラスチック容器に関する。
【背景技術】
【0002】
ある種の薬剤の含量低下の抑制は、環状ポリオレフィンから構成される容器において達成される。例えば特開平5−293159号公報(特許文献1)、特開2003−24415号公報(特許文献2)に開示されている。しかしながら、環状ポリオレフィンは、剛直で脆い性質を有し、また、ヒートシール性に劣ることから、そのものでは実用的なバッグを形成することができない問題があり、これを解決するために、例えば特開2002−301796号公報(特許文献3)、特表2005−525952号公報(特許文献4)には、特定のエチレン・α−オレフィン共重合体と環状ポリオレフィンを備える多層フィルム及びそれを用いてなる容器が提案されている。
【0003】
また、構成する多層フィルムが剛直で柔軟性が低いと、耐衝撃性が低いことや、充填時の操作性が悪化する等の問題がある。
一方、下記式(I)
【0004】
【化1】

(式中、R1は水素原子、アリール、炭素数1〜5のアルキル又は総炭素数3〜6のアルコキシカルボニルアルキルを表し、R2は、水素原子、アリールオキシ、アリールメルカプト、炭素数1〜5のアルキル又は炭素数1〜3のヒドロキシアルキルを表し、あるいは、R1及びR2は、共同して炭素数3〜5のアルキレンを表し、R3は水素原子、炭素数1〜5のアルキル、炭素数5〜7のシクロアルキル、炭素数1〜3のヒドロキシアルキル、ベンジル、ナフチル又はフェニル、又は炭素数1〜5のアルコキシ、炭素数1〜3のヒドロキシアルキル、総炭素数2〜5のアルコキシカルボニル、炭素数1〜3のアルキルメルカプト、炭素数1〜4のアルキルアミノ、総炭素数2〜8のジアルキルアミノ、ハロゲン原子、トリフルオロメチル、カルボキシル、シアノ、水酸基、ニトロ、アミノ、及びアセトアミドからなる群から選ばれる同一若しくは異なる1〜3個の置換基で置換されたフェニルを表す。)で表されるピラゾロン誘導体については、医薬の用途として、脳機能正常化作用(特許文献5:特公平5−31523号公報)、過酸化脂質生成抑制作用(特許文献6:特公平5−35128号公報、例1の化合物)、抗潰瘍作用(特許文献7:特開平3−215425号公報)、及び血糖上昇抑制作用(特許文献8:特開平3−215426号公報)等が知られている。
【0005】
また、上記式(I)の化合物は、2001年6月以来、脳保護剤(一般名「エダラボン」、商品名「ラジカット」:田辺三菱製薬株式会社製造・販売)として上市されている。この「エダラボン」は活性酸素に対して高い反応性を有することが報告されている(非特許文献1及び2)。このようにエダラボンは活性酸素をはじめとする種々のフリーラジカルを消去することで、細胞障害などを防ぐ働きをするフリーラジカルスカベンジャーである。
ラジカットは現在、ラジカット注30mgとして、30mgの3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン(エダラボン)を含む20mlの溶液をガラスアンプルに充填した形態で市販されている。また、国際公開パンフレットWO2007/55312(特許文献9)には着色が抑えられたエダラボンを含有する水溶液を充填したプラスチック容器について報告されている。しかしながら、プラスチック容器にエダラボンが付着することによる含有量低下の抑制が可能なプラスチック容器については開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−293159号公報
【特許文献2】特開2003−24415号公報
【特許文献3】特開2002−301796号公報
【特許文献4】特表2005−525952号公報
【特許文献5】特公平5−31523号公報
【特許文献6】特公平5−35128号公報
【特許文献7】特開平3−215425号公報
【特許文献8】特開平3−215426号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Kawai, H., et al., J. Pharmacol. Exp. Ther., 281(2), 921, 1997
【非特許文献2】Wu, TW. et al., 67(19), 2387, 2000
【特許文献9】国際公開パンフレットWO2007/55312
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、液体状医薬の薬剤含有量の低下を抑え、耐衝撃性、充填時の操作性、容器の成形性や透明性に優れたプラスチック容器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
また、上記課題を解決するための本発明に係るプラスチック容器は、ヒートシール可能なシール層、環状ポリオレフィン層及び最外層を備え、シール層はポリプロピレンからなり、環状ポリオレフィン層は環状ポリオレフィンポリマー又は環状ポリオレフィンコポリマーからなり、最外層はポリプロピレンを含む層からなり、さらにプロピレン系重合体とスチレン系エラストマーとのブレンド物からなる樹脂組成物層を備える多層フィルムを、そのシール層が対向するように重ね合わせた状態で、その周縁部をヒートシールすることによって成形されている。本発明ではプラスチックフィルムのシール層が内側表面となるように成形されている。すなわち、シール層はこの容器に収容される液体状の医薬と直接に接触することになる。
【0010】
本発明に係るプラスチック容器は環状ポリオレフィン層の両側表面に樹脂組成物層又はポリエチレン層を備えることが好ましい。また、この樹脂組成物層は120℃以上170℃以下にのみ融解ピーク温度を有し、かつ融解熱が5J/g以上20J/g以下である樹脂組成物を用いることが好ましい。
【0011】
本発明に係るプラスチック容器に用いる環状ポリオレフィン層の環状ポリオレフィンはジシクロペンタジエン又はその誘導体の開環重合体水素添加物であることが好ましい。また、環状ポリオレフィンの別の好ましい態様として、ガラス転移温度(Tg)が80〜120℃である環状ポリオレフィンを挙げることができ、さらに別の好ましい態様として、メルトフローレート(230℃、21.2N)値が1〜20(g/10分)である環状ポリオレフィンを挙げることができる。
【0012】
本発明に係るプラスチック容器に用いるシール層はメルトフローレート(230℃、21.2N)値が1〜4(g/10分)であるポリプロピレンを用いることが好ましい。また、シール層の別の好ましい態様として、曲げ弾性率が400〜600MPaを挙げることができる。さらに別の好ましい態様として、最大融解ピーク温度が125〜135℃であるポリプロピレンを挙げることができ、さらに別の好ましい態様として、最高融解ピーク温度が150〜160℃であるプロピレンを挙げることができる。本明細書における最大融解ピーク温度及び最高融解ピーク温度について説明する。示差走査熱量測定(DSC)において、複数の吸熱ピークが観測される場合がある。最大融解ピーク温度とは最も大きな吸熱ピークが観測された温度のことであり、最高融解ピーク温度とは吸熱ピークが観測された温度の中で最も高温のピークが観測された温度のことである。
【0013】
本発明に係るプラスチック容器に用いる最外層はメルトフローレート(230℃、21.2N)値が1〜4(g/10分)であるポリプロピレンを用いることが好ましい。また、最外層の別の好ましい態様として、曲げ弾性率が400〜600MPa、さらに別の好ましい態様として、融解ピーク温度が160〜170℃であるポリプロピレンを挙げることができる。
本発明において、引張弾性率が300MPa以下の多層フィルムにより成形されたプラスチック容器であることが好ましい。
本発明に係るプラスチック容器は115℃ 30分以上での滅菌が可能であることが好ましい。また、別の好ましい態様として、121℃ 15分以上での滅菌が可能であることを挙げることができる。
【0014】
本発明に係るプラスチック容器に収容される液体状の医薬の有効成分は下記式(I)
【化2】

(式中、R1は水素原子、アリール、炭素数1〜5のアルキル又は総炭素数3〜6のアルコキシカルボニルアルキルを表し、R2は、水素原子、アリールオキシ、アリールメルカプト、炭素数1〜5のアルキル又は炭素数1〜3のヒドロキシアルキルを表し、あるいは、R1及びR2は、共同して炭素数3〜5のアルキレンを表し、R3は水素原子、炭素数1〜5のアルキル、炭素数5〜7のシクロアルキル、炭素数1〜3のヒドロキシアルキル、ベンジル、ナフチル又はフェニル、又は炭素数1〜5のアルコキシ、炭素数1〜3のヒドロキシアルキル、総炭素数2〜5のアルコキシカルボニル、炭素数1〜3のアルキルメルカプト、炭素数1〜4のアルキルアミノ、総炭素数2〜8のジアルキルアミノ、ハロゲン原子、トリフルオロメチル、カルボキシル、シアノ、水酸基、ニトロ、アミノ、及びアセトアミドからなる群から選ばれる同一若しくは異なる1〜3個の置換基で置換されたフェニルを表す。)
で表されるピラゾロン誘導体若しくはその生理的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物であることが好ましい。また、別の好ましい態様として、3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オンを挙げることができる。
【0015】
本発明に係るプラスチック容器はその形態が輸液バッグの形態であることが好ましい。
また、本発明に係るプラスチック容器は脱酸素剤共に気体難透過性の容器内に収容されていることが好ましい。
本発明に係るプラスチック容器に収容される液体状の医薬の有効成分が上記式(I)で表されるピラゾロン誘導体若しくはその生理的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物である場合、好ましくは、60℃で4週間保存前後における有効成分の含有率低下は4%以下であり、また好ましくは滅菌前後における有効成分の含有率低下は4%以下である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明において提供されるプラスチック容器は最外層とシール層の間に少なくとも環状ポリオレフィン層と樹脂組成物層を含む構成となっている。これらの配置に制限はないが、好ましくは環状ポリオレフィン層の両側には樹脂組成物層又はポリエチレン層が配置され、より好ましくは環状ポリオレフィン層の両側には樹脂組成物層が配置される。この環状ポリオレフィン層の最外層側とシール層側に配置され得る樹脂組成物層は同一であっても良く、異なっていても良い。ポリエチレン層についても同様である。
【0017】
本発明において使用されるポリエチレン層を構成するポリエチレンは、エチレンのホモポリマーのほか、プロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテン等のα−オレフィンとの共重合体でも良く、また、該共重合体は、直鎖状、分岐鎖状のいずれでも良い。さらに、エチレンのホモポリマーと上記α−オレフィンとの混合樹脂を用いることもできる。また、ポリエチレンは、高密度であるか低密度であるかを問わず、広い範囲より適宜選択できるが、柔軟性や透明性の点からと、直鎖状低密度ポリエチレンを用いるのが有利である。
【0018】
本発明で好適に使用できるポリエチレンの具体例を例示すると、エチレンのホモポリマー(商品名ハーモレック(登録商標))、α−オレフィンコポリマー(商品名タフマー(登録商標))、エチレンと1−オクテンのコポリマー(商品名モアテック(登録商標))を挙げることができ、ハーモレック(登録商標)とタフマー(登録商標)の混合樹脂をより好適な例として挙げることができる。
【0019】
このポリエチレン層の厚みは、特に限定されないが、10μm以上150μm以下とすることが好ましい。
【0020】
本発明において使用される樹脂組成物層を構成する樹脂組成物は120℃以上170℃以下にのみ融解ピーク温度を有し、かつ融解熱が5J/g以上20J/g以下であることが好ましい。この樹脂組成物は、環状ポリオレフィンポリマー又は環状ポリオレフィンコポリマー層とポリオレフィン層の間の密着性を向上させ、かつ、多層フィルム全体の柔軟性を向上させる役割を果たす。この樹脂組成物は、樹脂の結晶成分由来の120℃以上170℃以下に融解ピーク温度を有するが、120℃未満では、121℃滅菌に耐える多層フィルムを構成することができず、170℃超過では、成形温度が高すぎるため、良好な外観の多層フィルムが得られない。また、融解熱が5J/g未満では、121℃滅菌に耐える多層フィルムを構成することができず、20J/g超過では、環状ポリオレフィンポリマー又は環状ポリオレフィンコポリマー層との密着性に乏しくなり、滅菌後に層間剥離(デラミ)が生じやすく、外観が悪化したり、所望の保存性が低下する懸念がある。
【0021】
また、120℃未満にも融解ピーク温度を有する場合、滅菌時にその融解ピークを有する成分が融解するため、樹脂組成物の耐熱性が損なわれ、多層フィルムの変形、白化等を引き起こす。このような120℃未満に融解ピーク温度を有する樹脂としては、密度が0.93以下の高圧法ポリエチレンまたは直鎖状低密度ポリエチレン、密度が0.90以下のエチレン−αオレフィン共重合体が挙げられる。
【0022】
本発明の樹脂組成物は、上記項目、すなわち、120℃以上170℃以下にのみ融解ピーク温度を有し、かつ融解熱が5J/g以上20J/g以下であることを満たすならば、どのような方法で製造しても良い。例えば、連続重合により、まず、120℃以上170℃以下に融解ピーク温度を有する結晶性のプロピレン単独重合体または、3重量%程度以下の少量のエチレンとのプロピレン−エチレン共重合体を製造後、120℃以上170℃以下には融解ピーク温度を有さない、実質的に非晶性のプロピレンと10〜20重量%程度のエチレンとの共重合体を製造し、全体として融解熱が5J/g以上20J/g以下である樹脂組成物を得る方法や、120℃以上170℃以下に融解ピーク温度を有する結晶性のプロピレン単独重合体またはプロピレンと3重量%程度以下の少量のエチレンとのプロピレン−エチレン共重合体とプロピレンと10〜20重量%程度のエチレンとの共重合体をそれぞれ別に重合したものをブレンドすることにより、全体として、融解熱が5J/g以上20J/g以下である樹脂組成物を得る方法が挙げられる。
【0023】
前記連続重合により得られる樹脂組成物の製造法については、例えば特開平2001−172454号公報、特開平2003−292700号公報に開示されている方法が挙げられる。
【0024】
さらには、120℃以上170℃以下に融解ピーク温度を有する結晶性のプロピレン単独重合体、3重量%程度以下の少量のエチレンとのプロピレン−エチレン共重合体、連続重合により、120℃以上170℃以下に融解ピーク温度を有する結晶性のプロピレン単独重合体または、3重量%程度以下の少量のエチレンとのプロピレン−エチレン共重合体を製造後、120℃以上170℃以下に融解ピーク温度を有さない、非晶性または半結晶性のプロピレンと10〜20重量%程度のエチレンとの共重合体を製造して得られるプロピレン系重合体組成物から選ばれる120℃以上170℃以下に融解ピーク温度を有するプロピレン系重合体と、スチレン系エラストマーとのブレンド物が挙げられる。
【0025】
上記のスチレン系エラストマーとは、ビニル芳香族炭化水素・共役ジエンブロック共重合体の水素添加誘導体を示し、一般式:a(b−a)n、(a−b)n又はa−b−cで表されるブロック共重合体の水素添加誘導体の1種または2種以上である(ただし、式中、(a)はモノビニル置換芳香族炭化水素の重合体ブロック、(b)はモノビニル置換芳香族炭化水素と共役ジエンとのランダム共重合体ブロック又は共役ジエンのエラストマー性重合体ブロック、(c)はモノビニル置換芳香族炭化水素と共役ジエンとのブロックであって且つモノビニル置換芳香族炭化水素が漸増するテーパーブロックであり、nは1〜5の整数である)。
【0026】
上記の重合体ブロック(a)、(b)又は(c)を構成する単量体のビニル芳香族炭化水素としては、スチレン、α−メチルスチレン、(o−、m−、p−)メチルスチレン、1,3−ジメチルスチレン、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン等が挙げられ、これらの中では、スチレン又はα−メチルスチレンが好ましい。上記の重合体ブロック(b)又は(c)における共役ジエン単量体としては、ブタジエン及び/又はイソプレンが好ましい。 重合体ブロック(b)又は(c)を形成するためにブタジエンが単一の共役ジエン単量体として使用される場合は、ブロック共重合体が水素添加されて二重結合が飽和された後、プロピレン系重合体への相容性を増大する目的で、ポリブタジエンにおけるミクロ構造中の1,2−ミクロ構造が50重量%以上となる重合条件を採用するのが好ましい。1,2−ミクロ構造の好ましい割合は50重量%〜90重量%である。 重合体ブロック(a)の水素添加ブロック共重合体中に占める割合または重合体ブロック(a)と重合体ブロック(c)のビニル芳香族化合物の含量の和は、通常3〜30重量%、好ましくは5〜20重量%である。重合体ブロック(a)の割合または重合体ブロック(a)と重合体ブロック(c)のビニル芳香族化合物の含量の和が3重量%未満の場合には、得られる組成異物の機械的強度が劣る傾向となる。また、重合体ブロック(a)の割合または重合体ブロック(a)と重合体ブロック(c)のビニル芳香族化合物の含量の和が30重量%を超える場合は、組成物の柔軟性および透明性が劣る傾向がある。
【0027】
スチレン系エラストマー(ビニル芳香族炭化水素・共役ジエンブロック共重合体の水素添加誘導体)の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定したポリスチレン換算の値として、通常10〜55万、好ましくは15〜50万、更に好ましくは20〜45万である。重量平均分子量が10万未満の場合は、ゴム弾性および機械的強度が劣る傾向があり、55万を超える場合は、粘度が高くなり成形加工性が劣る傾向がある。
【0028】
上記の様なスチレン系エラストマー(ビニル芳香族炭化水素・共役ジエンブロック共重合体の水素添加誘導体)としては、例えば、クレイトンポリマーズ社の「KRATON−G」、クラレ社の「セプトン」、「ハイブラー」、旭化成社の「タフテック」、JSR社の「ダイナロン」等の市販品が、また、カネカ社からカチオン重合により得られたスチレンブロックとイソブチレンブロックから構成される「SIBSTAR」という市販品がある。
【0029】
このようにして得られる、120℃以上170℃以下に融解ピーク温度を有し、かつ融解熱が5J/g以上20J/g以下である樹脂組成物としては、三菱化学株式会社製のゼラスMC729が好適である。
【0030】
この樹脂組成物層の厚みは、特に限定されないが、20μm以上120μm以下が好ましく、20μm以上75μm以下とするのがより好ましい。また、環状ポリオレフィン層の両側に樹脂組成物層を配置する場合、シール層側の樹脂組成物層の厚みと最外層側の樹脂組成物層の厚みは同じであっても良く、異なっていても良い。
【0031】
本発明において使用される環状ポリオレフィン層を構成する環状ポリオレフィンポリマー又は環状ポリオレフィンコポリマーは、例えばエチレンとジシクロペンタジエン類との共重合体、エチレンとノルボルネン系化合物との共重合体や、シクロペンタジエン誘導体の開環重合体、種々のシクロペンタジエン誘導体の開環共重合体、及びそれらの水素添加物などが挙げられる。これらの中でも、エチレンとノルボルネン系化合物との共重合体の水素添加物、あるいは1種以上のシクロペンタジエン誘導体の開環(共)重合体水素添加物を用いるのが好ましく、ジシクロペンタジエン又はその誘導体の開環重合体水素添加物であることがより好ましい。
【0032】
上記樹脂としては、例えば、下記一般式(1)で表される繰り返し単位と、下記一般式(1’)で表される繰り返し単位を有するポリマーや、下記一般式(2)で表される繰り返し単位を有するポリマーが挙げられる。
【0033】
【化3】

【0034】
(式(1)および(1’)中、Ra、Ra’、Rb及びおよびRb’は同一または異なって、水素、炭化水素残基、またはハロゲン、エステル、ニトリル、ピリジル等の極性基を示す。Ra、Ra’、Rb及びRb’は互いに結合して環を形成してもよい。m及びおよびm'は1以上の整数、n及びn'は0または1以上の整数である。)
【0035】
【化4】

【0036】
(式(2)中、Rc及びRdは同一又は異なって、水素、炭化水素残基、又はハロゲン、エステル、ニトリル、ピリジル等の極性基を示す。また、R3 及びR4 は互いに結合して環を形成してもよい。x及びzは1以上の整数、yは0又は1以上の整数である。)
【0037】
一般式(1)および(1’)で表される繰り返し単位を有するポリマーは、1種または2種以上の単量体を公知の開環重合方法によって重合させ、又はこうして得られる開環重合体を常法に従って水素添加したものである。当該ポリマーの具体例としては、日本ゼオン(株)製の水添重合体 商品名「ゼオノア(登録商標)」、日本合成ゴム(株)製の商品名「ARTON(登録商標)」等が挙げられる。一般式(2)で表される構造単位を有するポリマーは、単量体としての、1種または2種以上のノルボルネン系モノマーと、エチレンとを公知の方法によって付加共重合させたもの、又はこれを常法に従って水素添加したものである。これらのポリマーの具体例としては、三井化学(株)製の商品名「アペル(登録商標)」、ポリプラスチック株式会社の商品名「トパス(登録商標)」等が挙げられる。
【0038】
本発明で用いる環状ポリオレフィンポリマー又は環状ポリオレフィンコポリマーの好ましい例としては「ゼオノア(登録商標)」、「トパス(登録商標)」を挙げることができる。
【0039】
上記一般式(1)、(1’)及び一般式(2)で表される構成単位を有するポリマーを含む、上記例示の樹脂のなかでも、その水素添加物は、いずれも飽和ポリマーであるので、ガス遮蔽性や水分遮蔽性に加えて、耐熱性や透明性、さらには安定性の点で優れている。本発明に用いる環状ポリオレフィンポリマーは、そのガラス転移温度(Tg )が70℃以上であるのが好ましく、80〜120℃であるのがより好ましい。また、その分子量の範囲が、シクロヘキサンを溶媒とするゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)分析により測定した数平均分子量<Mn>において1万〜10万であるのが好ましく、2万〜5万であるのがより好ましい。また、別の観点からはメルトフローレート(230℃、21.2N)値が1〜20(g/10分)であることが好ましい。環状ポリオレフィンの分子鎖中に残留する不飽和結合を水素添加により飽和させる場合において、その水添率は90%以上であるのが好ましく、95%以上であるのがより好ましく、99%以上であるのが特に好ましい。
【0040】
環状ポリオレフィンポリマー又は環状ポリオレフィンコポリマーは単独の単層の状態で用いることができるほか、他の樹脂と混合させた混合樹脂として用いることもできる。混合樹脂として用いる場合、環状ポリオレフィンポリマー又は環状ポリオレフィンコポリマーの含有割合が60重量%を下回ると、薬剤の吸着を防止する効果が低下する。一方、環状ポリオレフィンの含有割合が95重量%を超えると、多層フィルム全体の柔軟性が低下する。よって、混合樹脂として用いる場合、環状ポリオレフィンポリマー又は環状ポリオレフィンコポリマーの含有率は60重量%以上95重量%以下とすることが望ましい。
【0041】
環状ポリオレフィンポリマー又は環状ポリオレフィンコポリマーと混合させる樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ1―ブテン、ポリ4−メチル−1−ペンテン、エチレン−プロピレン共重合体、ポリプロピレンとポリエチレンまたはポリブテンとの混合物、前記ポリオレフィンの部分架橋物、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン−無水マレイン酸共重合体を挙げることができる。この中でも、エチレンのホモポリマー(商品名ハーモレック(登録商標))、α−オレフィンコポリマー(商品名タフマー(登録商標))、エチレンと1−オクテンのコポリマー(商品名モアテック(登録商標))を好ましい例として挙げることができる。
【0042】
環状ポリオレフィン層の厚みは、薬剤の吸着防止効果と多層フィルム全体の柔軟性とのバランスを考慮して上記の範囲で設定される。環状ポリオレフィン層の厚みが10μmを下回ると薬剤の吸着を防止する効果が低下する。一方、厚みが80μmを超えると多層フィルム全体の柔軟性が低下する。環状ポリオレフィン層の厚みの特に好ましい範囲としては10μm〜50μmを示すことができ、10μm〜30μmをより好ましい例として示すことができる。
【0043】
本発明において使用されるシール層を構成するポリプロピレンはプロピレンのホモポリマーのほか、エチレン、1−ブテン等のα−オレフィンを少量(好ましくは10重量%以下)共重合したコポリマーや、例えば特開2001−226435号公報に開示されるプロピレンとα−オレフィンとを多段重合により製造される共重合体等を用いることができる。中でも、環状ポリオレフィン層の剛直さを緩和し、多層フィルムの柔軟性を向上させるものとして、医療用容器用として汎用されている曲げ弾性率が400〜600MPaの比較的柔軟なグレードのものを用いるのが好適である。また別の観点からはメルトフローレート(230℃、21.2N)値が1〜4(g/10分)のポリプロピレンを用いるのが好適である。本発明で使用できるポリプロピレンの具体例を例示すると三菱化学株式会社製のゼラス(登録商標)を挙げることができ、特に融解ピーク温度が125〜135℃に存在するゼラスMC607を用いることが好ましい。シール層の厚みは特に限定されないが、20〜120μmが好適である。
【0044】
本発明において使用される最外層を構成するポリプロピレンを含む層はプロピレンのホモポリマーのほか、エチレン、1−ブテン等のα−オレフィンを少量(好ましくは10重量%以下)共重合したコポリマーや、例えば特開2001−226435号公報に開示されるプロピレンとα−オレフィンとを多段重合により製造される共重合体等により構成される。また、これらホモポリマーや共重合体と他のポリオレフィンや樹脂とのコンパウンドを用いてもよい。中でも、環状ポリオレフィン層の剛直さを緩和し、多層フィルムの柔軟性を向上させるものとして、医療用容器用として汎用されている曲げ弾性率が400〜600MPaの比較的柔軟なグレードのものを用いるのが好適である。また別の観点からは最外層のメルトフローレート(230℃、21.2N)値を1〜4(g/10分)とするのが好適である。本発明で好適に使用できる最外層を構成するものの具体例を例示すると三菱化学株式会社製のゼラス(登録商標)を挙げることができる。特に、融解ピーク温度が160〜170℃のゼラスMC715を用いることが好ましい。最外層の厚みは特に限定されないが、20〜100μmが好適である。
【0045】
このように最外層に融解ピーク温度の高いポリプロピレンを含む層を配置し、シール層に融解ピーク温度の比較的低いポリプロピレン層を配置することで、環状ポリオレフィン層を含有する多層フィルムのヒートシール性は著しく向上し、実用的な容器製造が可能となる。
【0046】
また以上述べたような構成で得られる本発明のプラスチック容器は、耐衝撃性、充填時の操作性、容器の成形性の観点から、引張弾性率が300MPa以下であることが望ましい。
【0047】
本発明において提供されるプラスチック容器に充填可能な液体状の医薬の有効成分に制限はないが、好ましい例として本明細書に定義する一般式(I)で示されるピラゾロン誘導体若しくはその生理的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物挙げることができる。
【0048】
一般式(I)で示される化合物は、互変異性により以下の一般式(I’)又は(I”)で示される構造をもとりうる。本明細書の一般式(I)には便宜上、互変異性体のうち1つを示したが、当業者には下記の互変異性体の存在は自明である。
【0049】
【化5】

【0050】
式(I)において、R1の定義におけるアリール基は単環性又は多環性アリール基のいずれでもよい。例えば、フェニル基、ナフチル基などのほか、メチル基、ブチル基などのアルキル基、メトキシ基、ブトキシ基などのアルコキシ基、塩素原子などのハロゲン原子、又は水酸基等の置換基で置換されたフェニル基等が挙げられる。アリール部分を有する他の置換基(アリールオキシ基など)におけるアリール部分についても同様である。
【0051】
1、R2及びR3の定義における炭素数1〜5のアルキル基は直鎖状、分枝鎖状のいずれでもよい。例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基等が挙げられる。アルキル部分を有する他の置換基(アルコキシカルボニルアルキル基)におけるアルキル部分についても同様である。
1の定義における総炭素数3〜6のアルコキシカルボニルアルキル基としては、メトキシカルボニルメチル基、エトキシカルボニルメチル基、プロポキシカルボニルメチル基、メトキシカルボニルエチル基、メトキシカルボニルプロピル基等が挙げられる。
1及びR2の定義における炭素数3〜5のアルキレン基としては、トリメチレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、メチルトリメチレン基、エチルトリメチレン基、ジメチルトリメチレン基、メチルテトラメチレン基等が挙げられる。
【0052】
2の定義におけるアリールオキシ基としては、p−メチルフェノキシ基、p−メトキシフェノキシ基、p−クロロフェノキシ基、p−ヒドロキシフェノキシ基等が挙げられ、アリールメルカプト基としては、フェニルメルカプト基、p−メチルフェニルメルカプト基、p−メトキシフェニルメルカプト基、p−クロロフェニルメルカプト基、p−ヒドロキシフェニルメルカプト基等が挙げられる。
2及びR3の定義における炭素数1〜3のヒドロキシアルキル基としては、ヒドロキシメチル基、2−ヒドロキシエチル基、3−ヒドロキシプロピル基等が挙げられる。R3の定義における炭素数5〜7のシクロアルキル基としては、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等が挙げられる。
【0053】
3の定義において、フェニル基の置換基における炭素数1〜5のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、ペンチルオキシ基等が挙げられ、総炭素数2〜5のアルコキシカルボニル基としては、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロポキシカルボニル基、ブトキシカルボニル基等が挙げられ、炭素数1〜3のアルキルメルカプト基としては、メチルメルカプト基、エチルメルカプト基、プロピルメルカプト基等が挙げられ、炭素数1〜4のアルキルアミノ基としては、メチルアミノ基、エチルアミノ基、プロピルアミノ基、ブチルアミノ基等が挙げられ、総炭素数2〜8のジアルキルアミノ基としては、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジプロピルアミノ基、ジブチルアミノ基等が挙げられる。
【0054】
好適に用いられる化合物(I)として3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オンを挙げることができる。
式(I)で表される化合物はいずれも公知の化合物であり、特公平5−31523号公 報などに記載された方法により当業者が容易に合成できる。
【0055】
本発明により提供されるプラスチック容器に、式(I)で示されるピラゾロン誘導体若しくはその生理学的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物(以下、これらを総称して、ピラゾロン誘導体とも言う)を有効成分として含有する溶液を充填する場合、例えば、輸液バッグ製剤とする場合、ピラゾロン誘導体を、ピラゾロン誘導体の濃度が約0.06mg/mL以上約2mg/mL以下、好ましくは約0.1mg/mL以上約0.6mg/mL以下、より好ましくは約0.3mg/mLとなるように、溶媒(例えば、輸液等)に溶解し、所望によりpH調節剤を加えてpHを調節し、さらに所望によりその他の添加剤を加えることによって調製することができる。
【0056】
本発明のプラスチック容器に収容される液体状医薬の調整には、有効成分以外に一般に医薬として用いられるものであればどのようなものを用いてもよい。一例として、電解質類、糖類、ビタミン類、蛋白アミノ酸類等から任意に選択される一種または二種以上を任意の濃度で水(例えば、注射用蒸留水等)に溶解したもの等が挙げられる。電解質類としては、例えば、塩化ナトリウム等が挙げられる。これらの任意の成分は、単独でまたは組み合わせて任意の濃度で用いることができる。好ましい例としては、塩化ナトリウム等を任意の濃度で水(例えば、注射用蒸留水等)に溶解したものである。これらの物質の含有量としては、塩化ナトリウムであれば、例えば、生理食塩水と同等、すなわち、0.9%(W/V)等が好ましい。この他、pH調節剤としては、一般に注射剤のpH調節剤として用いられるものであれば特に制限なく用いることができる。
【0057】
液体状医薬の調製に用いられるその他の添加剤としては、一般に注射剤の添加剤として用いられているようなものであれば特に制限無く用いることができる。本発明において、好ましいその他の添加剤としては、例えば、薬事日報社2000年刊「医薬品添加物辞典」(日本医薬品添加剤協会編集)等に記載されているような医薬品添加剤等が挙げられる。これらの添加剤は、一般に注射剤に通常用いられる割合で配合される。また、これらの添加剤は使用目的に応じて、例えば、安定化剤、界面活性剤、緩衝剤、可溶化剤、抗酸化剤、消泡剤、等張化剤、乳化剤、懸濁化剤、保存剤、無痛化剤、溶解剤、溶解補助剤等として使い分けることが可能である。これらの添加剤は、所望によって、2以上の成分を組み合わせて添加することができる。
【0058】
本発明のプラスチック容器は、密封可能であり、内容物の無菌性を保つことができる容器であればどのような形態であってもよいが、一般的に注射液の充填に用いられる、輸液バッグ、シリンジ、アンプル、バイアル等の容器が好ましく、輸液バッグが特に好ましい。また、これらの容器は、不溶性異物生成の有無を確認するために、透明で無着色のものが好ましいが、不透明で着色されたものであってもよい。
【0059】
本発明により提供されるプラスチック容器に液体状の医薬を収容する場合、薬液を充填し、密封して製造することができる。また任意の過程で、滅菌操作に付すことで、無菌性を保持したプラスチック容器とすることができる。また、所望によってこれらの容器への充填の前に、防塵フィルター(例えば、0.45μmメチルセルロースメンブレン、0.45μmナイロン66メンブレン、0.45μmポリフッ化ビニリデンメンブレン等)で薬液の濾過等を行ってもよい。本発明プラスチック容器の具体的な滅菌方法としては、例えば、熱水浸漬滅菌法、熱水シャワー滅菌法、高圧蒸気滅菌(オートクレーブ)法等が挙げられる。熱水浸漬滅菌法、熱水シャワー滅菌法や高圧蒸気滅菌法は、例えば、薬液を調製し、本発明のプラスチック容器に充填した後に行われる。高圧蒸気滅菌は、例えば、100℃乃至125℃の条件で、5分乃至40分行うことが好ましく、本発明のプラスチック容器は115℃で30分以上、より好適には121℃で15分以上での滅菌が行えるものが好ましい。
【0060】
本発明により提供されるプラスチック容器は、5層以上から構成されることが望ましい。具体的には最外層−樹脂組成物層−環状ポリオレフィン層−樹脂組成物層−シール層を基本とすることが望ましい。このような構成とすることで、121℃15分以上の滅菌が可能であって、柔軟で耐衝撃性が高く、また薬液を充填し易いものとなる。また、最外層−樹脂組成物層−環状ポリオレフィン層−樹脂組成物層−シール層の任意の層間には任意の樹脂層を加えることが可能である。ここで追加される任意の樹脂層としては、ポリプロピレンなどのポリオレフィン類、ポリアミド類、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレート等のポリエステル類、エチレン−ビニルアルコール共重合体が挙げられ、これらの極性材料群と接着性を有するα、β不飽和カルボン酸類をグラフトしたポリオレフィンや、カルボン酸とエチレンの共重合体等が挙げられる。これらの中で好適な例としては、本明細書で既に述べている樹脂組成物層、ポリプロピレン層、ポリプロピレンを含む層などが挙げられる。層構成を決定するに当たっては、得られる多層フィルムの引張弾性率を300MPa以下となるように調整することが望ましい。
【0061】
本発明により提供されるプラスチック容器の形状が輸液バッグである場合、本発明により提供される多層フィルムを用い、常法に従って周縁シールをして袋状に成形することにより製造することができる。多層フィルムの厚さは、500μm以下、特に200〜300μmであるのが好ましい。
本発明により提供される多層フィルムは、共押し出しインフレーション法や共押出Tダイ法等の、従来公知の種々の方法を採用して製造することができる。
【0062】
本発明のプラスチック容器には、特定波長の光の透過性を抑えた遮光性の包装を施してもよい。かかる包装は、一般的に使用されている遮光性の包装であれば特に制限無く用いることができる。具体的には、特定波長の光の透過性を抑えた素材の袋、プラスチックやアルミニウム等の遮光素材の袋、または遮光性のプラスチックを用いたシュリンク包装(例えば、シュリンクラベル等)やブリスター包装等を用いることができる。これらの遮光性包装は、組み合わせて用いることで、より遮光性を高めることができる。
【0063】
さらに、本発明のプラスチック容器は、気体難透過性の容器内に収容されていてもよい。気体難透過性の容器は、一般に使用されている気体難透過性の材質で作られているものであれば特に制限なく用いることができる。具体的には、酸素や窒素を透過し難いものであればよく、例えばアルミ製やシリカ蒸着をしたPETフィルムの容器を挙げることができる。さらに気体難透過性の容器内に脱酸素剤を入れることができる。
【実施例】
【0064】
以下に、製造例、試験例及び実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例によって限定されるものではない。
輸液用バッグの製造例
6種6層のフィルムを成型できる水冷式のインフレーション装置を用いて表1にある構成のフィルムを製造し、ポリエチレン製またはポリプロピレン製のポートを溶着した100mL輸液用バッグを成型した。即ち、表1に記載の多層フィルムを、そのシール層が対向するように重ね合わせた状態で、その周縁部をヒートシールすることによって、輸液用バッグを成型した。なお、表1において、フィルムA01、A03、C01及びC02が本発明の実施例であり、フィルムA02、A04、A05.B01、B02、B03は参考例である。
【0065】
【表1】

【0066】
表中、ゼラス(登録商標)は三菱化学株式会社が販売しているオレフィン(ホモポリプロピレン)系熱可塑性エラストマーである。なお、ゼラスMC717及びゼラスMC729は、プロピレン系重合体とスチレン系エラストマーとのブレンド物からなる樹脂組成物である。トパス(登録商標)はポリプラスチック株式会社が販売している環状ポリオレフィンコポリマーである。モアテック(登録商標)はプライムポリマー株式会社が販売しているエチレンと1−オクテンを共重合させた直鎖状低密度ポリエチレンC8コポリマーである。ハーモレックス(登録商標)は日本ポリエチレン株式会社が販売しているポリエチレンである。タフマー(登録商標)は三井化学が販売しているα-オレフィンコポリマーである。ゼオノア(登録商標)は日本ゼオン株式会社が販売している環状ポリオレフィンポリマーである。
【0067】
実施例1
市販されているラジカット(登録商標)注30mg(田辺三菱製薬株式会社製造・販売)を生理食塩水で100mLに希釈したものを表1に記載のA01〜A05及び比較例1の各種フィルムで構成した輸液バッグに充填、滅菌(115℃ 30分)した。滅菌前後での主薬(エダラボン)含量の測定をした。結果を表2に示す。環状ポリオレフィンポリマーおよび環状ポリオレフィンコポリマーをバリア層として構成したフィルムを用いた製剤では、滅菌後の大きな含量低下は見られなかった。一方、ポリプロピレン(ゼラス(登録商標)RT−267A−1、MC717、7023)のみで構成したフィルムを用いた製剤では、滅菌後の含量低下が見られた。
【0068】
【表2】

【0069】
試験例1
市販されているラジカット(登録商標)注30mg(田辺三菱製薬株式会社製造・販売)を生理食塩水で100mLに希釈したものを表1に記載のA05、B01〜B03の各種フィルムで構成した輸液バッグに充填、滅菌(115℃ 30分)した。滅菌前後での主薬(エダラボン)含量の測定をした。結果を表3に示す。環状ポリオレフィンポリマーおよび環状ポリオレフィンコポリマーをバリア層として構成したフィルムでは、ほぼ同等に滅菌時の収着を抑制できた。環状ポリオレフィンポリマーの厚みは10μm以上あれば十分にその機能を果たした。
【0070】
【表3】

【0071】
実施例2
市販されているラジカット(登録商標)注30mg(田辺三菱製薬株式会社製造・販売)を生理食塩水で100mLに希釈したものを表1に記載のC01〜C02、比較例1のフィルムで構成した輸液バッグに充填、滅菌(115℃ 30分)した。その後、脱酸素剤としてエージレスを含むシリカ蒸着をしたガス透過性を抑制した2次包材と共に包装をした各サンプルの苛酷試験(60℃ 4週)を実施した。表4に示すとおり、比較例1のバッグでは経時的な含量の低下が見られたが、C01およびC02のバッグでは含量の低下は認められなかった。
【0072】
【表4】

【0073】
表中、フィルムC01及びC02において、4週経過後のエダラボン含有率の値が滅菌後のエダラボン含有率の値より高値を示しているが、この理由は60℃での保存中にバッグ内の溶媒(水)がバッグ外に蒸発したためである。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明によれば、液体状の医薬を収容するのに適したプラスチック容器を提供することができる。本発明より得られるプラスチック容器は収容される医薬の有効成分含有量の低下を抑え、高圧蒸気滅菌や長期保存による層間剥離を起すことがなく、耐衝撃性、充填時の操作性、容器の成形性や透明性に優れている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒートシール可能なシール層、環状ポリオレフィン層及び最外層を備え、シール層はポリプロピレンからなり、環状ポリオレフィン層は環状ポリオレフィンポリマー又は環状ポリオレフィンコポリマーからなり、最外層はポリプロピレンを含む層からなり、さらにプロピレン系重合体とスチレン系エラストマーとのブレンド物からなる樹脂組成物層を備える多層フィルムであって、環状ポリオレフィン層の両側表面にプロピレン系重合体とスチレン系エラストマーとのブレンド物からなる樹脂組成物層又はポリエチレン層を備える多層フィルムを、そのシール層が対向するように重ね合わせた状態で、その周縁部をヒートシールすることによって成形されたプラスチック容器であって、3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン若しくはその生理的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物を有効成分として含有する溶液を充填したプラスチック容器。
【請求項2】
環状ポリオレフィン層の両側表面に120℃以上170℃以下にのみ融解ピーク温度を有し、かつ融解熱が5J/g以上20J/g以下の樹脂組成物層を備える請求項1に記載のプラスチック容器。
【請求項3】
環状ポリオレフィン層の環状ポリオレフィンがジシクロペンタジエン又はその誘導体の開環重合体水素添加物である請求項1又は2に記載のプラスチック容器。
【請求項4】
環状ポリオレフィン層のガラス転移温度(Tg)が80〜120℃である請求項1〜3のいずれかに記載のプラスチック容器。
【請求項5】
環状ポリオレフィン層のメルトフローレート(230℃、21.2N)値が1〜20(g/10分)である請求項1〜4のいずれかに記載のプラスチック容器。
【請求項6】
シール層及び/又は最外層のメルトフローレート(230℃、21.2N)値が1〜4(g/10分)である請求項1〜5のいずれかに記載のプラスチック容器。
【請求項7】
シール層及び/又は最外層の曲げ弾性率が400〜600MPaである請求項1〜6のいずれかに記載のプラスチック容器。
【請求項8】
シール層の最大融解ピーク温度が125〜135℃である請求項1〜7のいずれかに記載のプラスチック容器。
【請求項9】
シール層の最高融解ピーク温度が150〜160℃である請求項1〜8のいずれかに記載のプラスチック容器。
【請求項10】
最外層の融解ピーク温度が160〜170℃である請求項1〜9のいずれかに記載のプラスチック容器。
【請求項11】
プラスチックフィルムの引張弾性率が300MPa以下である請求項1〜10のいずれかに記載のプラスチック容器。
【請求項12】
115℃ 30分以上での滅菌が可能な請求項1〜11のいずれかに記載のプラスチック容器。
【請求項13】
121℃ 15分以上での滅菌が可能な請求項1〜12のいずれかに記載のプラスチック容器。
【請求項14】
プラスチック容器が輸液バッグの形態である請求項1〜13のいずれかに記載のプラスチック容器。
【請求項15】
脱酸素剤と共に気体難透過性の容器内に収容されている請求項1〜14のいずれかに記載のプラスチック容器。

【公開番号】特開2011−62529(P2011−62529A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−223443(P2010−223443)
【出願日】平成22年10月1日(2010.10.1)
【分割の表示】特願2009−542592(P2009−542592)の分割
【原出願日】平成20年11月21日(2008.11.21)
【出願人】(000002956)田辺三菱製薬株式会社 (225)
【Fターム(参考)】