癌化情報提供方法および装置
【課題】癌の初期段階で癌のおそれがあることを精度よく検出することができる癌化情報提供方法を提供する。
【解決手段】細胞の癌化に関する情報を提供する癌化情報提供方法。上皮組織から採取された細胞を含む測定試料に光を照射して、測定試料に含まれる各細胞からの光学情報を含む測定データを取得するデータ取得工程、前記各細胞について取得した光学情報に基づいて、測定試料中の複数の細胞の測定データのうち、前記上皮組織において表層に存在する細胞よりも基底膜側の細胞の少なくとも一部である解析対象の細胞の測定データを抽出し、抽出した測定データを解析するデータ解析工程、および抽出した測定データの解析結果に基づいて、細胞の癌化に関する情報を出力する情報出力工程を含む。
【解決手段】細胞の癌化に関する情報を提供する癌化情報提供方法。上皮組織から採取された細胞を含む測定試料に光を照射して、測定試料に含まれる各細胞からの光学情報を含む測定データを取得するデータ取得工程、前記各細胞について取得した光学情報に基づいて、測定試料中の複数の細胞の測定データのうち、前記上皮組織において表層に存在する細胞よりも基底膜側の細胞の少なくとも一部である解析対象の細胞の測定データを抽出し、抽出した測定データを解析するデータ解析工程、および抽出した測定データの解析結果に基づいて、細胞の癌化に関する情報を出力する情報出力工程を含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は細胞を分析し、当該細胞の癌化に関する情報を提供する癌化情報提供方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
被検者の細胞を自動的に分析し、当該細胞の癌化に関する情報を提供する分析装置が知られている(例えば、特許文献1〜2参照)。特許文献1には、被検者から採取した細胞を含む測定試料をフローセルに流し、当該フローセルを流れる測定試料に光を照射することで個々の細胞について散乱光信号を取得し、各散乱光信号の波形を解析することにより特徴パラメータを抽出し、その特徴パラメータを用いて複数の細胞から癌・異型細胞を弁別する装置が開示されている。
【0003】
また、特許文献2には、フローセルを流れる細胞を撮像し、得られた画像データから核および細胞質の分布を推定し、推定した核および細胞質の分布面積の割合(N/C比)に基づいて、病理組織標本内における癌部位の分布を推定する病理診断支援装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2006/103920号パンフレット
【特許文献2】特開2004−286666号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
例えば、子宮頸部の組織診においては、正常な状態から癌に至るまでの過程は、正常な状態から順に、「Normal」、「CIN1」、「CIN2」、「CIN3」、及び「Cancer」という複数の段階がある。そのうち、子宮頸部上皮内腫瘍(CIN)と呼ばれる段階にあるのは、「CIN1」、「CIN2」、及び「CIN3」の段階である。
【0006】
「CIN1」は、基底層から表層に向かう間の3分の1に異型の傍基底細胞が増殖している状態であり、自然消退する可能性が高い状態である。そのため、「CIN1」では、まだ治療は不要と判断されている。「CIN2」は、基底層から表層に向かう間の3分の2に異型の傍基底細胞が増殖している状態であり、「CIN2」では治療が必要と判断される状態である。「CIN3」は、基底層から表層に向かう間のほぼ全てにわたり異型の傍基底細胞が増殖している状態であり、「CIN3」では治療が必要と判断されている。早期に癌の治療を開始するには、癌の進行具合が「Cancer」に至る前の「CIN2」から「CIN3」のような癌の初期段階で、癌のおそれがあるということを検出できることが望ましく、治療が不要と判断されている「CIN1」以前の段階にあるのか又は治療が必要と判断される状態である「CIN2」以降の段階にあるのかを区別することが望ましい。
【0007】
治療が不要と判断されている「CIN1」においても、治療が必要と判断される状態である「CIN2」においても、正常細胞と癌細胞または異型細胞とが混在している状態である。そのため、「CIN1」の被検者の子宮頸部から細胞を採取し測定試料を調製しても、「CIN2」の被検者の子宮頸部から細胞を採取し測定試料を調製しても、どちらの測定試料も正常細胞と癌細胞または異型細胞とが混在している状態となり、異型細胞を検出したことのみをもって癌の初期段階で癌のおそれがあることを精度よく検出することは難しい。
【0008】
また、特許文献1及び2に記載の分析装置で、癌の初期段階にある被検者の子宮頸部から採取し調製した測定試料を分析しても、分析に供される細胞の数に占める癌細胞または異型細胞の割合が小さくなり、癌の初期段階で癌のおそれがあることを精度よく検出することが難しかった。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、癌の初期段階で癌のおそれがあることを精度よく検出することができる癌化情報提供方法および装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)本発明の癌化情報提供方法は、細胞の癌化に関する情報を提供する癌化情報提供方法であって、
上皮組織から採取された細胞を含む測定試料に光を照射して、測定試料に含まれる各細胞からの光学情報を含む測定データを取得するデータ取得工程、
前記各細胞について取得した光学情報に基づいて、測定試料中の複数の細胞の測定データのうち、前記上皮組織において表層に存在する細胞よりも基底膜側の細胞の少なくとも一部である解析対象の細胞の測定データを抽出し、抽出した測定データを解析するデータ解析工程、および
抽出した測定データの解析結果に基づいて、細胞の癌化に関する情報を出力する情報出力工程
を含むことを特徴としている。
【0011】
子宮頸部、口腔などの部位にある細胞は、表層側から基底膜側に向けて、複数種類の細胞がそれぞれ層状になって存在している。例えば、子宮頸部の上皮細胞は、基底膜側から表層側に向けて順に基底細胞により形成される層(基底層)、傍基底細胞により形成される層(傍基底層)、中層細胞により形成される層(中層)、および表層細胞により形成される層(表層)が存在しており、基底膜付近の基底細胞が傍基底細胞、傍基底細胞が中層細胞、中層細胞が表層細胞へと分化する。子宮頸部の上皮細胞において癌化に関連する細胞は基底細胞であり、癌にいたる過程において、基底細胞は異形成を獲得し異型細胞となる。異型細胞は増殖能を獲得し、基底層側から表層側を占めるようになる。また、異型化した基底細胞は分化するため、癌化の過程では異型化した傍基底細胞、中層細胞が出現する。癌にいたる初期段階においては、異型化した細胞は基底側に多く存在し、表層側には少なく、表層側は正常な表層細胞が多数存在している。本発明者らは、上記のことに着目することで、本発明を完成させた。
【0012】
本発明の癌化情報提供方法では、データ解析工程において、測定試料中の細胞から、癌化する可能性がある細胞である、表層に存在する細胞よりも基底側の細胞の少なくとも一部の解析対象の細胞の測定データを抽出している。換言すれば、DNA量に異常がない表層に存在する細胞を除外している。そして、測定データが抽出された細胞について解析を行い、情報出力工程において、細胞の癌化に関する情報を出力している。したがって、解析に供される細胞に占める癌化またはその過程にある細胞の割合を大きくすることができ、当該癌化またはその過程にある細胞の検出感度を向上させることができる。
【0013】
(2)前記(1)の癌化情報提供方法において、
前記データ取得工程は、前記光学情報として、測定試料に光を照射することによって生じる散乱光の強度を示す散乱光信号及び蛍光の強度を示す蛍光信号を取得する信号取得工程を含んでいてもよい。
(3)前記(2)の癌化情報提供方法において、
前記データ解析工程は、測定試料に含まれる各細胞について前記蛍光信号の波形から得られる数値と散乱光信号の波形から得られる数値との比を算出し、算出された比に基づいて解析対象の細胞の測定データを抽出してもよい。
(4)前記(3)の癌化情報提供方法において、
前記データ解析工程において、前記蛍光信号の波形から得られる数値は、前記蛍光信号の波形の幅であり、前記散乱光信号の波形から得られる数値は、前記散乱光信号の波形の幅であってもよい。
【0014】
(5)前記(4)の癌化情報提供方法において、前記データ解析工程は、前記算出された比が第1の閾値以上である細胞の測定データを、解析対象の細胞の測定データとして抽出してもよい。
【0015】
(6)前記(5)の癌化情報提供方法において、前記データ解析工程は、前記算出された比が第1の閾値以上であって、かつ、前記散乱光信号の波形の幅が第2の閾値以下である細胞の測定データを、解析対象の細胞の測定データとして抽出してもよい。
【0016】
(7)前記(1)〜(6)の癌化情報提供方法において、前記データ解析工程は、
解析対象として抽出した細胞について、DNA量を反映した値を算出し、
算出した値に基づいて細胞の癌化に関する情報を決定してもよい。
【0017】
(8)前記(7)の癌化情報提供方法において、前記データ解析工程は、解析対象として抽出したそれぞれの細胞について前記DNA量を反映した値にもとづき、正常なDNA量を示す第一グループと前記正常なDNA量を示す範囲より大きなDNA量を示す第二グループとに分類し、前記第一グループの細胞数と前記第二グループの細胞数との比を算出し、算出した比に基づいて細胞の癌化に関する情報を決定してもよい。
【0018】
(9)前記(1)〜(8)の癌化情報提供方法は、解析対象として抽出した細胞の数を第3の閾値と比較し、当該細胞の数が第3の閾値未満である場合に、前記細胞の癌化に関する情報の出力を禁止する、または、細胞数が少ない旨の情報を付加して癌化に関する情報を出力する工程を含んでいてもよい。
【0019】
(10)前記(1)〜(9)の癌化情報提供方法は、前記データ取得工程に先立って、測定試料中の凝集細胞を分散させる分散工程をさらに含んでいてもよい。
【0020】
(11)前記(1)〜(10)の癌化情報提供方法は、単一上皮細胞の数を第4の閾値と比較し、当該単一上皮細胞の数が第4の閾値未満である場合には、前記細胞の癌化に関する情報の出力を禁止する、または、細胞数が少ない旨の情報を付加して癌化に関する情報を出力する工程を含んでいてもよい。
【0021】
(12)前記(1)〜(11)の癌化情報提供方法において、前記細胞は子宮頸部の細胞であり、且つ
前記表層に存在する細胞は表層細胞であってもよい。
【0022】
(13)前記(1)〜(12)の癌化情報提供方法において、前記情報出力工程は、細胞の癌化に関する情報として、再検査が必要か否かに関する情報を出力してもよい。
【0023】
(14)本発明の癌化情報提供装置は、細胞の癌化に関する情報を提供する癌化情報提供装置であって、
上皮組織から採取された細胞を含む測定試料に光を照射して、測定試料に含まれる各細胞からの光学情報を含む測定データを取得するデータ取得部と、
前記各細胞について取得した光学情報に基づいて、測定試料中の複数の細胞の測定データのうち、前記上皮組織において表層に存在する細胞よりも基底膜側の細胞の少なくとも一部である解析対象の細胞の測定データを抽出し、抽出した測定データを解析して細胞の癌化に関する情報を出力する制御部と、
を含むことを特徴としている。
【0024】
(15)前記(14)の癌化情報提供装置において、
前記データ取得部は、前記測定試料が流れるフローセルと、当該フローセルを流れる前記測定試料に光を照射して測定試料に含まれる細胞からの光学情報を取得する光学情報取得部とを備えていてもよい。
【0025】
(16)前記(15)の癌化情報提供装置において、
前記光学情報取得部は、前記光学情報として、測定試料に光を照射することによって生じる散乱光の強度を示す散乱光信号及び蛍光の強度を示す蛍光信号を取得してもよい。
【発明の効果】
【0026】
本発明の癌化情報提供方法および装置によれば、癌の初期段階で癌のおそれがあることを精度よく検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の一実施の形態に係る癌化情報提供装置の斜視説明図である。
【図2】図1に示される癌化情報提供装置の構成を示すブロック図である。
【図3】図1に示される癌化情報提供装置におけるデータ処理装置を構成するパーソナルコンピュータのブロック図である。
【図4】図1に示される癌化情報提供装置におけるフローサイトメータの構成を示すブロック図である。
【図5】癌化情報提供方法の流れの一例を示すフローチャートである。
【図6】測定データの説明図である。
【図7】スキャッタグラムの一例を示す図である。
【図8】信号波形と特徴パラメータとの関係を示す説明図である。
【図9】データ処理装置の表示部の表示例を示す図である。
【図10】子宮頸部の上皮細胞の模式図である。
【図11】子宮頸部の各種上皮細胞について細胞の大きさとN/C比との関係を示す図である。
【図12】抽出された細胞のDNA量のヒストグラムである。
【図13】細胞周期とDNA量ヒストグラムを関連付けて説明する図である。
【図14】細胞周期における各ステージとDNA量との関係を説明する図である。
【図15】データ処理装置の表示部の表示例を示す図である。
【図16】データ処理装置の表示部の表示例を示す図である。
【図17】全ての単一細胞について作成されたヒストグラムの一例を示す図である。
【図18】全ての単一細胞について作成されたヒストグラムの他の例を示す図である。
【図19】ステップS9において作成されるヒストグラムの一例を示す図である。
【図20】ステップS9において作成されるヒストグラムの他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、添付図面を参照しつつ、本発明の癌化情報提供方法および装置の実施の形態を詳細に説明する。
〔癌化情報提供装置の全体構成〕
図1は、本発明の一実施の形態に係る癌化情報提供装置1の斜視説明図であり、図2は、図1に示される癌化情報提供装置1の構成を示すブロック図である。
【0029】
この癌化情報提供装置1は、患者(被検者)から採取した細胞を含む測定試料をフローセルに流し、このフローセルを流れる測定試料にレーザ光を照射し、測定試料からの光(前方散乱光、側方蛍光等)を検出・分析することで、前記細胞に癌化またはその過程にある細胞(以下、これらをまとめて「癌化細胞」ともいう)が含まれているか否かを判定し、その結果を出力する。具体的には、患者から採取した子宮頸部の上皮細胞を用いて子宮頸癌をスクリーニングするのに用いられる。癌化情報提供装置1は、試料の測定等を行う測定装置2と、この測定装置2に接続され、測定結果の分析や表示(出力)等を行うデータ処理装置4とを備えている。なお、図1において、参照符号50はメタノールを主成分とする保存液と患者から採取した生体試料との混合液を収容する複数の試験管(図示せず)をセットするための検体セット部である。
【0030】
図2に示されるように、癌化情報提供装置1の測定装置2は、測定試料から細胞や核のサイズ等の情報を検出するための光学情報取得部であるフローサイトメータからなる光学検出部3と、信号処理回路5と、測定制御部16と、モータ、アクチュエータ、バルブ等の駆動部17と、各種センサ18と、細胞の画像を撮像する撮像部26とを備えている。信号処理回路5は、フローサイトメータ3の出力をプリアンプ(図示せず)により増幅したものに対して増幅処理やフィルタ処理等を行うアナログ信号処理回路と、アナログ信号処理回路の出力をデジタル信号に変換するA/Dコンバータと、デジタル信号に対して所定の波形処理を行うデジタル信号処理回路とを備えている。また、測定制御部16がセンサ18の信号を処理しつつ駆動部17の動作を制御することにより、測定試料の吸引や測定が行われる。子宮頸癌をスクリーニングする場合、測定試料としては、患者の子宮頸部から採取した細胞(上皮細胞)に遠心、希釈、攪拌、PI染色等の処理を施して調製されたものを用いることができる。調製された測定試料は試験管に収容された状態で前述した検体セット部50の所定位置に配置され、ついで測定装置2のピペット(図示せず)下方位置に搬送され、当該ピペットにより吸引されてシース液とともにフローセルに供給され、フローセルにおいて試料流が形成される。PI染色(DNA染色)は、赤色の色素を含んでいる蛍光染色液であるヨウ化プロピジウム(PI)により行われる。PI染色では核に選択的に染色が施されるため、核からの赤色蛍光が検出可能となる。
【0031】
[測定制御部の構成]
測定制御部16は、マイクロプロセッサ20、記憶部21、I/Oコントローラ22、センサ信号処理部23、駆動部制御ドライバ24、および外部通信コントローラ25等を備えている。記憶部21は、ROM、RAM等からなり、ROMには、駆動部17を制御するための制御プログラムおよび当該制御プログラムの実行に必要なデータが格納されている。マイクロプロセッサ20は、制御プログラムをRAMにロードし、またはROMから直接実行することが可能である。
【0032】
マイクロプロセッサ20には、センサ18からの信号がセンサ信号処理部23およびI/Oコントローラ22を通じて伝達される。マイクロプロセッサ20は、制御プログラムを実行することにより、センサ18からの信号に応じて、I/Oコントローラ22および駆動部制御ドライバ24を介して駆動部17を制御することができる。
マイクロプロセッサ20が処理したデータや、マイクロプロセッサ20の処理に必要なデータは、外部通信コントローラ25を介してデータ処理装置4等の外部装置との間で送受信される。
【0033】
[データ処理装置の構成]
図3は、データ処理装置4のブロック図である。データ処理装置4は、パーソナルコンピュータ等からなり、本体27と、表示部28と、入力部29とから主に構成されている。本体27は、CPU27aと、ROM27bと、RAM27cと、ハードディスク27dと、読出装置27eと、I/Oインターフェース27fと、画像出力インターフェース27gとから主に構成されている。これらの要素の間は、バス27hによって通信可能に接続されている。
【0034】
CPU27aは、ROM27bに記憶されているコンピュータプログラムおよびRAM27cにロードされたコンピュータプログラムを実行することが可能である。CPU27aは、後述する細胞核の大きさに関するデータや細胞質の大きさに関するデータなどを取得するデータ取得部、および抽出した細胞を解析して癌化に関する情報を出力する制御部として機能する。
【0035】
ROM27bは、マスクROM、PROM、EPROM、EEPROM等によって構成されており、CPU27aに実行されるコンピュータプログラムおよびこれに用いるデータ等が格納されている。RAM27cは、SRAMまたはDRAM等によって構成されている。RAM27cは、ROM27bおよびハードディスク27dに記録されているコンピュータプログラムの読み出しに用いられる。また、これらのコンピュータプログラムを実行するときに、CPU27aの作業領域として利用される。
【0036】
ハードディスク27dは、オペレーティングシステムおよびアプリケーションプログラム等、CPU27aに実行させるための種々のコンピュータプログラムおよびそのコンピュータプログラムの実行に用いるデータがインストールされている。例えば、ハードディスク27dには、米マイクロソフト社が製造販売するWindows(登録商標)等のグラフィカルユーザーインターフェース環境を提供するオペレーティングシステムがインストールされている。また、後述する波形データを作成したりN/C比などを算出したりするためのコンピュータプログラムおよびそのコンピュータプログラムの実行に用いるデータが、ハードディスク27dにインストールされている。
【0037】
また、ハードディスク27dには、癌化情報提供装置1の測定制御部16への測定オーダ(動作命令)の送信、測定装置2で測定した測定結果の受信および処理、処理した分析結果の表示等を行う操作プログラムがインストールされている。この操作プログラムは、前記オペレーティングシステム上で動作するものとしている。
【0038】
読出装置27eは、フレキシブルディスクドライブ、CD−ROMドライブ、またはDVD−ROMドライブ等によって構成されており、可搬型記録媒体に記録されたコンピュータプログラムまたはデータを読み出すことができる。I/Oインターフェース27fは、例えば、USB、IEEE1394、RS−232C等のシリアルインタフェース、SCSI、IDE、IEEE1284等のパラレルインタフェース、およびD/A変換器、A/D変換器等からなるアナログインタフェース等から構成されている。I/Oインターフェース27fには、キーボードおよびマウスからなる入力部29が接続されており、ユーザが入力部29を操作することにより、パーソナルコンピュータにデータを入力することが可能である。また、I/Oインターフェース27fは、測定装置2と接続されており、当該測定装置2との間でデータ等の送受信を行うことが可能である。
【0039】
画像出力インターフェース27gは、LCDまたはCRT等で構成された表示部28に接続されており、CPU27aから与えられた画像データに応じた映像信号や波形データに応じた波形信号を表示部28に出力するようになっている。表示部28は、入力された映像信号や波形信号にしたがって、画像(画面)を表示する。
【0040】
[フローサイトメータおよび撮像部の構成]
図4は、光学情報取得部を構成する光学検出部3、および撮像部26の構成を示す図である。この光学検出部3は、フローサイトメータからなり、半導体レーザからなる光源53を備え、この光源53から放射されたレーザ光は、レンズ系52を経てフローセル51を流れる測定試料に集光する。このレーザ光により測定試料中の細胞から生じた前方散乱光は、対物レンズ54およびフィルタ57を経てフォトダイオード(受光部)55に検出される。なお、レンズ系52は、コリメータレンズ、シリンダーレンズ、コンデンサーレンズ等を含むレンズ群から構成されている。
【0041】
さらに、細胞から生じた側方蛍光および側方散乱光は、フローセル51の側方に配置された対物レンズ56を経てダイクロイックミラー61に入射する。そして、このダイクロイックミラー61を反射した側方蛍光および側方散乱光がダイクロイックミラー62に入射する。
【0042】
ダイクロイックミラー62を透過した側方蛍光は、フィルタ63を経てフォトマルチプライヤ59によって検出される。また、ダイクロイックミラー62を反射した側方散乱光は、フィルタ64を経てフォトマルチプライヤ58によって検出される。
【0043】
フォトダイオード55、フォトマルチプライヤ58およびフォトマルチプライヤ59は、検出した光を電気信号に変換し、それぞれ、前方散乱光信号(FSC)、側方散乱光信号(SSC)および側方蛍光信号(SFC)を出力する。これらの信号は、図示しないプリアンプにより増幅された後、前述した信号処理回路5(図2参照)に送られる。
【0044】
図2に示されるように、信号処理回路5でフィルタ処理やA/D変換処理等の信号処理が施されて得られた前方散乱光データ、側方散乱光データおよび側方蛍光データは、マイクロプロセッサ20によって、外部通信コントローラ25を介して前述したデータ処理装置4へ送られ、ハードディスク27dに記憶される。データ処理装置4では、前方散乱光データ、側方散乱光データおよび側方蛍光データに基づいて、細胞質や核の幅、およびN/C比などが算出される。
【0045】
なお、光源53として、前記半導体レーザに代えてガスレーザを用いることもできるが、低コスト、小型、且つ低消費電力である点で半導体レーザを採用するのが好ましい。半導体レーザの採用により製品コストを低減させるとともに、装置の小型化および省電力化を図ることができる。本実施の形態では、ビームを狭く絞ることに有利な波長の短い青色半導体レーザを用いている。青色半導体レーザは、PI等の蛍光励起波長に対しても有効である。なお、半導体レーザのうち、低コスト且つ長寿命であり、メーカーからの供給が安定している赤色半導体レーザを用いてもよい。
【0046】
また、本実施の形態では、フローサイトメータ3に加えて撮像部26が設けられている。この撮像部26は、図4に示されるように、パルスレーザからなる光源66とCCDカメラ65とを備えており、パルスレーザ66からのレーザ光はレンズ系60を経てフローセル51に入射し、さらに対物レンズ56及びダイクロイックミラー61を透過してカメラ65に結像する。パルスレーザ66は、所定のタイミングで発光してカメラ65による撮像を可能にする。
【0047】
図2に示されるように、カメラ65によって撮像された細胞の画像は、マイクロプロセッサ20によって、外部通信コントローラ25を介してデータ処理装置4へ送られる。そして、細胞の画像は、データ処理装置4において、当該細胞に係る前述した前方散乱光データ、側方散乱光データおよび側方蛍光データに対応づけてハードディスク27dに記憶される。
【0048】
〔癌化情報提供方法〕
次に、図5を参照しつつ、本実施の形態に係る癌化情報提供装置1を用いた癌化情報提
供方法の流れの一例について説明する。
【0049】
癌化情報提供装置1を用いた分析に際して、まず、患者の子宮頸部から採取した細胞(上皮細胞)に対して、ユーザにより凝集細胞の除去、PI染色などの前処理が行われ、測定試料が調製される。その後、前処理された測定試料と、メタノールを主成分とする保存液とが収容された試験管がユーザにより検体セット部50にセットされ、癌化情報提供装置1による分析が開始される。
【0050】
凝集細胞の除去は、単一細胞としては正常なDNA量であるにもかかわらず複数の細胞が凝集することで測定DNA量が異常値を示すことによる分析精度の低下を防ぐために行われる。かかる凝集細胞の除去は、例えば、希釈した生体試料中に配置した回転軸をモータで回転させて当該生体試料中の細胞を分散させる分散操作と、分散後の生体試料をフィルタを通すことで凝集細胞を取り除くフィルタリングとを組み合わせた処理や、超音波振動を生体試料に付与する処理などにより行うことができる。後者の場合、超音波振動により発生する生体試料中のキャビテーション(微細な気泡の発生と気泡の破裂)に伴う衝撃(圧力変動)により凝集細胞を分散させることができる。
【0051】
図5は、本実施形態に係る癌化情報提供装置1の測定装置2のマイクロプロセッサ20とデータ処理装置4のCPU27aとによる、データ処理装置4のCPU27aに対してユーザが測定開始指示をした後から癌化情報の提供までの処理を示すフローチャートである。ユーザによる測定開始指示は、データ処理装置4の電源が入れられ当該データ処理装置4に格納されているコンピュータプログラムの初期化などが行われた後に行われる。ユーザにより測定開始指示がデータ処理装置4のCPU27aになされると、データ処理装置4のCPU27aは、測定装置2のマイクロプロセッサ20に測定開始指示を送信する。そして、測定装置2のマイクロプロセッサ20が測定開始指示を受信すると、測定装置2において、試験管に収容された測定試料がピペットにより吸引されて図4に示されるフローセル51に供給され、試料流が形成される(ステップS1)。
【0052】
そして、フローセル51を流れる測定試料中の細胞にレーザ光が照射され、当該細胞からの前方散乱光がフォトダイオード55により検出され、側方散乱光がフォトマルチプライヤ58で検出され、側方蛍光がフォトマルチプライヤ59により検出される。
【0053】
ついで、フローサイトメータ3から出力された前方散乱光信号、側方散乱光信号および側方蛍光信号が信号処理回路5に送られ、信号処理回路5で所定の処理を施すことによって前方散乱光強度を示す前方散乱光データ、側方散乱光強度を示す側方散乱光データおよび側方蛍光強度を示す側方蛍光データならびに後述する特徴パラメータが取得される(ステップS2)。
【0054】
図6は、ステップS2において得られる測定データの説明図である。図6には、細胞核を含む細胞の模式図と、当該細胞から得られる前方散乱光信号の波形および側方蛍光信号の波形が示されている。図6において、グラフの縦軸はそれぞれの光の強度を表している。前方散乱光強度の波形の幅が細胞質の幅を示す数値(細胞質の大きさに関する第2データ)を表しており、側方蛍光強度の波形の幅が細胞核の幅を示す数値(細胞核の大きさに関する第1データ)を表している。また、側方蛍光強度の波形と所定のベースラインとで囲まれる、図6においてハッチングを施したエリアの面積が細胞のDNA量を表している。そして、データ処理装置4のCPU27aにおいて、各細胞について第1データと第2データとの比であるN/C比、すなわち細胞核の大きさと細胞の大きさとの比(=側方蛍光信号波形の幅と前方散乱光信号波形の幅との比)が算出される。
【0055】
ステップS2の後、マイクロプロセッサ20は、ステップS2において取得した前方散乱光データ、側方散乱光データ、側方蛍光データ、及び特徴パラメータを含む測定データを、外部通信コントローラ25を介してデータ処理装置4に送信し(ステップS3)、処理を終了する。
【0056】
次に、データ処理装置4のCPU27aは、マイクロプロセッサ20から測定データを受信したか否かを判定する(ステップS4)。ステップS4において、データ処理装置4のCPU27aは、マイクロプロセッサ20から測定データを受信していないと判定すると(ステップS4においてNo)、受信するまでステップS4の処理を繰り返す。一方、ステップS4において、データ処理装置4のCPU27aは、マイクロプロセッサ20から測定データを受信したと判定すると(ステップS4においてYes)、ステップS5に処理を進める。
【0057】
ステップS5において、データ処理装置4のCPU27aは、図7に示すような、スキャッタグラムを作成する。作成されたスキャッタグラムは、データ処理装置4の表示部28に表示することができる。このスキャッタグラムの縦軸は細胞の大きさであり、横軸は前述したN/C比である。図7は、正常な人から採取された子宮頸部の上皮細胞を癌化情報提供装置1で分析する場合に、ステップS5において作成されるスキャッタグラムの例である。正常な人から採取された子宮頸部の上皮細胞を癌化情報提供装置1で分析する場合に、ステップS5において作成されるスキャッタグラムは、図7に示されるように、右下がりの三日月形状を呈するように分布する。
【0058】
ついで、ステップS5においてスキャッタグラムが作成されると、ステップS6において、データ処理装置4のCPU27aは、測定データを取得した細胞中に単一上皮細胞が5000個(第4の閾値)以上存在するか否かの判断を行う。この判断は、本実施の形態では、特許文献1に記載されている以下の方法で行われている。
【0059】
すなわち、前方散乱光の波形信号から得られる、差分積分値をピーク値で除した値である特徴パラメータB、または正規化2次モーメントである特徴パラメータMを用いて行うことができる。波形信号は、図示しないA/D変換器によって、例えば20nsecのサンプリング周期でX0、X1、X2、・・・Xnにおいてサンプリングされ、最大電圧10Vとベースライン(Base Line)電圧0.05Vの間の計測電圧を8ビットの分解能で電子化してデジタル信号に変換される。
【0060】
そして、特徴パラメータBは、以下の式(1)で表される。
【0061】
【数1】
【0062】
ここで、差分積分値とは、隣り合うサンプリングデータの差の絶対値の累積加算値を表しており、ピーク値(Peak)とは、波形の最大値(図8参照)であり、以下の式(2)で表される。
【0063】
【数2】
【0064】
また、特徴パラメータMは、以下の式(3)で表される。
【0065】
【数3】
【0066】
ただし、PはXpがピーク値となる添字であり、Width(幅)は、図8に示されるようにベースライン(Base Line)より大きい部分の幅であり、以下の式(4)で表される。
【0067】
【数4】
【0068】
ただし、PはXpがピーク値になる添字である。
単一細胞であるか否かの判定を行うための閾値は、各パラメータについて実験などにより設定されている。本実施の形態では、例えば特徴パラメータBを用いており、当該特徴パラメータBが2.2以上のものを凝集細胞であるとし、2.2未満のものを単一細胞であるとしている。また、特徴パラメータMを用いる場合、当該特徴パラメータMが2100以上のものを凝集細胞とし、2100未満のものを単一細胞とすることができる。
【0069】
なお、前述した「5000個」という数字(閾値)は、細胞診の検査の適正性を判断する指標として一般的に用いられている数字であり、本実施の形態においても、かかる「5000個」という数字を分析精度を保証するための閾値に採用している。
【0070】
ステップS6において、単一細胞の数が5000個未満であると判断されると、データ処理装置4のCPU27aは、後述するステップS7の分析対象細胞の抽出を行わず、ステップS13に進む。ステップS13において、データ処理装置4のCPU27aは、ステップS1で調製された測定試料について判定不能という情報を、図9に示すように、データ処理装置4の表示部28に表示する(ステップS13)。
【0071】
ステップS6において、単一細胞の数が5000個以上であると判断されると、データ処理装置4のCPU27aは、細胞の大きさおよびN/C比という2つのパラメータを用いて、分析対象とする細胞の測定データの抽出を行う(ステップS7)。
【0072】
[分析対象細胞の測定データの抽出(ステップS7)]
本発明の癌化情報提供方法および装置が、主たる分析対象としている子宮頸部、口腔粘膜の上皮組織は、基底膜から順に複数種類の細胞がそれぞれ層状になって存在している。なお、本明細書では、基底膜を下層とした場合に上層に位置する側を表層側という。子宮頸部および口腔粘膜では、外界と隣接する側が表層側に該当する。
【0073】
子宮頸部においては、図10に示されるように、基底膜側から順に、基底細胞により形成される層(基底層)、傍基底細胞により形成される層(傍基底層)、中層細胞により形成される層(中層)、および表層細胞により形成される層(表層)が形成されている。基底膜付近の基底細胞が傍基底細胞、傍基底細胞が中層細胞、中層細胞が表層細胞へと分化する。また、口腔粘膜においては、基底膜側から順に、基底細胞の層、有棘細胞の層、顆粒細胞の層、および角質層が形成されている。これらを以下の表1にまとめる。
【0074】
【表1】
【0075】
前述したように、上皮組織の複数種類の細胞のうち癌化に関連する細胞は、子宮頸部の上皮組織では基底細胞であり、口腔粘膜の上皮組織では基底細胞である。癌にいたる過程において、基底細胞は異形成を獲得し異型細胞となる。異型細胞は増殖能を獲得し、基底層側から表層側を占めるようになる。そのため、癌にいたる初期段階においては、子宮頸部の上皮組織では、基底層、傍基底層、及び中層に存在する細胞に、癌化細胞が多く存在し、口腔粘膜の上皮組織では、基底細胞の層及び有棘細胞の層に存在する細胞に、癌化細胞が多く存在する。逆に、癌にいたる初期段階においては、子宮頸部の上皮組織の表層及び口腔粘膜の上皮組織の角質層などの上皮組織の表層側の層に存在する細胞には、癌化細胞が極めて少ない。
【0076】
また、前述した上皮組織では、表層側の層から基底膜側の層に向かうにしたがい、細胞の大きさは順次小さくなるが、細胞核の大きさは順次大きくなることが分かっている。したがって、細胞核の大きさと細胞の大きさとの比であるN/C比も、表層側の層から基底膜側の層に向かうにしたがい順次大きくなる。そこで、本実施の形態では、細胞の大きさとN/C比を用いて、分析対象とする細胞の測定データを抽出している。具体的には、ステップS7では、細胞の大きさについては、10μm以上50μm以下の範囲であり、かつ、N/C比については、0.2以上1以下の範囲である細胞の測定データを抽出している。
【0077】
分析対象として抽出すべきか否かの判断基準となる細胞の大きさ(第2の閾値)およびN/C比(第1の閾値)は、分析対象とする上皮組織の種類に応じて、サンプル組織の観察・分析などにより設定することができ、例えば、子宮頸部の上皮組織を分析対象とする子宮頸がんのスクリーニングの場合には、N/C比が0.2以上であり、且つ、細胞幅(細胞の大きさ)が50μm以下であることを判断基準とすることができる。子宮頸部の上皮組織を構成する各細胞の形態・大きさや核の大きさを以下の表2にまとめる。また、横軸をN/C比とし、縦軸を細胞の大きさとする座標に各細胞をプロットしたものを図11に示す。
【0078】
【表2】
【0079】
図11および表2より、子宮頸部の上皮組織の場合、N/C比が0.2以上であり且つ細胞幅が50μm以下の細胞を抽出することにより、癌化細胞が極めて少ない表層に存在する表層細胞をほぼ分析対象から外し、癌化細胞が表層よりも明らかに多い層に存在する中層細胞、傍基底細胞および基底細胞を分析対象とし得ることが分かる。図11では、分かり易くするために全体の細胞数に占める表層細胞の割合が少なくなっているが、実際に被検者から採取される子宮頸部の上皮組織における表層細胞の数は他の細胞に比べて多い。したがって、採取した全ての細胞を分析対象とすると、仮に当該細胞の中に癌化細胞が含まれていたとしても、その存在が希釈化されるので、再検査が必要(陽性)であると判定されないことも考えられる。すなわち、採取した全ての細胞を分析対象とする場合、検出感度を向上させることは難しい。
【0080】
しかし、採取した細胞から、癌化細胞が極めて少ない表層に存在する表層細胞を実質的に分析対象から外すことにより、全体の細胞に占める癌化細胞の割合を大きくすることができ、その結果、当該癌化細胞の検出感度を向上させることができる。
【0081】
本発明の癌化情報提供方法では、分析対象とする細胞の測定データを抽出する細胞抽出工程において、ある程度基底膜に近い層に存在する細胞を含む、N/C比がある程度大きい細胞を抽出している。したがって、細胞の大きさやN/C比には多少のばらつきがあることから、すべての表層細胞だけを分析対象から外すことは現実的には不可能であり、一部の表層細胞は分析対象として抽出されることがあり、また、逆に一部の中層細胞、傍基底細胞および基底細胞が分析対象から外されることがある。しかし、抽出の判断基準となる細胞の大きさやN/C比を適切に選定することにより、癌化する可能性が極めて低い表層細胞のほとんどを分析対象から除外することができる。
【0082】
本発明では、例えば子宮頸部においては、基底細胞、傍基底細胞、中層細胞および表層細胞からなる細胞集団から基底細胞、傍基底細胞および中層細胞が抽出される。また、口腔粘膜においては、基底細胞、有棘細胞、顆粒細胞および角質からなる細胞集団から基底細胞および有棘細胞が抽出される。
【0083】
図5のフローチャートに戻り、ステップS7において、データ処理装置4のCPU27aによってN/C比0.2以上且つ細胞幅50μm以下の細胞の測定データが抽出されると、続くステップS8において、データ処理装置4のCPU27aは、N/C比0.2以上且つ細胞幅50μm以下の細胞の数が1000個(第3の閾値)以上であるか否かの判断を行う。データ処理装置4のCPU27aは、N/C比0.2以上且つ細胞幅50μm以下の細胞の数が1000個以上である(ステップS8においてYes)と判断すると、ステップS9へ処理を進め、当該ステップS9において、後述するヒストグラム(DNA量ヒストグラム)を作成する。一方、ステップS8において、N/C比0.2以上且つ細胞幅50μm以下の細胞の数が1000個未満であると判断されると(ステップS8においてNo)、データ処理装置4のCPU27aは、後述するステップS11及びステップS12を行わず、ステップS13に進む。ステップS13において、データ処理装置4のCPU27aは、ステップS1で調製された測定試料について判定不能という情報を、図9に示すように、データ処理装置4の表示部28に表示する(ステップS13)。1000個という値(第3の閾値)は、分析の精度や信頼性を考慮して、種々の実験や検証などにより選定される値であり、本発明において、特に限定されるものではない。
【0084】
図12は、ステップS9において作成されるヒストグラムの一例を示している。図12は、ステップS7において抽出されたN/C比0.2以上且つ細胞幅50μm以下の細胞について作成されたものであり、縦軸は細胞の数を、横軸は細胞のDNA量を表している。正常なDNA量を示す範囲(以下2Cとも表記する)は、多数の陰性検体のデータより算出される。本実施形態では、正常なDNA量を示す範囲は、a以上b以下の範囲と設定している。異常なDNA量の範囲(以下S期以上とも表記する)は、正常なDNA量よりも大きい範囲と設定しており、bより大きくc以下の範囲と設定した。正常なDNA量の範囲および異常なDNA量の範囲は、本発明において、特に限定されるものでなく、分析の精度や信頼性を考慮して、種々の実験や検証などにより選定される値である。
【0085】
細胞は、図13に示されるように、一定のサイクル(細胞周期)にしたがって、DNA複製、染色体の分配、核分裂、細胞質分裂などの事象を経て二つの細胞となって出発点に戻る。細胞周期は、その段階に応じて以下の4期に分けることができ、この4期に細胞の増殖が休止している休止期(G0期)を加えると、細胞は、5期のうちいずれかのステージにある。
G1期:S期に入るための準備と点検の時期
S期:DNA合成期
G2期:M期に入るための準備と点検の時期
M期:分裂期
【0086】
細胞周期にしたがって増殖する際、細胞内の核の染色体も増加するため、細胞のDNA量を測定することで、当該細胞が細胞周期のどの状態にあるのかを推定することができる。正常な細胞の場合、図14に示されるように、G1期におけるDNA量は一定であり、続くS期においてはDNA量が徐々に増加し、その後G2期に入ると一定の値となり、この値はM期においても維持される。そして、正常な細胞について、DNA量ヒストグラムを作成すると、図13に示されるようなヒストグラムとなる。最も高いピークを有する山はDNA量が最も少ないG0期又はG1期にある細胞に対応し、次に高いピークを有する山はDNA量が最も多いG2期又はM期にある細胞に対応し、それらの間はS期にある細胞に対応している。
【0087】
正常な細胞の場合、S期、G2期又はM期のいずれかの状態にある細胞の数と、G0期又はG1期にある細胞の数との比は、ほぼ一定の範囲内の値を示す。しかし、細胞が癌化するか、またはその過程にある場合、当該細胞の染色体の数は異常に多くなり、したがってDNA量も多くなる。また、癌化細胞は、正常な細胞に比べて増殖能が高いため、DNA量が多い細胞の数が多くなる。
【0088】
そこで、正常なG0期又はG1期にある細胞の数を基準として、この細胞数に対する、当該正常な細胞が有するDNA量よりも多いDNA量を有する細胞の数の比を判断基準とすることで、分析対象の細胞が、癌化細胞であるか否かを推定することができる。具体的に、図12に示されるDNA量ヒストグラムにおいて、最も左側の山は、DNA量が少ないG0期またはG1期にある正常細胞に対応しており、その右側の3つの山は、前記G0期またはG1期にある正常細胞のDNA量よりも多いDNA量を有する細胞に対応している。これら右側の3つの山は、図13に示されるS期にある細胞(真ん中の2つの山)、またはG2/M期にある細胞(最も右側の山)に対応するものと考えられるが、分析対象細胞に癌化細胞が含まれていると、かかる癌化細胞も前記2つの山に含まれる。そして、癌化細胞の数が多くなればなるほど、前記3つの山は大きくなると考えられる。なお、図12では、分かり易くするために3つの山がある例を示したが、実際に被検者から採取される子宮頸部の上皮組織においてDNA量ヒストグラムを作成する場合、山ができるかは被験者の状態による。
【0089】
そこで、陽性検体および陰性検体を含む複数の臨床検体を用いて実験および検証を行うことにより、前記判断基準に用いる割合を選定することができる。本実施の形態では、90%以上の感度を得るという観点より、正常なG0期又はG1期にある細胞(正常なDNA量を示す範囲にある細胞)の数に対する、当該正常な細胞が有するDNA量よりも多いDNA量を有する細胞(異常なDNA量の範囲にある細胞)の数の比が16%(第5の閾値)以上であるか否かを判断基準としている。すなわち、検体について再検査が必要(陽性)であるか再検査が不要(陰性)であるかのカットオフ値を16%に設定している。なお、この16%というカットオフ値は、本発明において特に限定されるものではなく、臨床検査の感度と特異度のバランスを考慮して適宜設定することができる。
【0090】
ステップS10において、正常なDNA量を示す範囲にある細胞(第1グループ)の数に対する、当該正常な細胞が有するDNA量よりも多いDNA量を有する細胞(第2グループ)の数の比が16%以上である(ステップS10においてYes)と判断されると、ステップS11において、分析に用いた測定試料は再検査が必要(陽性)であると判定され、その結果は、図15に示すように、データ処理装置4の表示部28に表示される。一方、ステップS10において前記比が16%未満である(ステップS10においてNo)と判断されると、ステップS12において、分析に用いた測定試料は再検査が不要(陰性)であると判定され、その結果が、図16に示すように、データ処理装置4の表示部28に表示される。
【0091】
図17は、本発明の一実施の形態に係る癌化情報提供装置1の分析対象細胞の測定データの抽出(ステップS7)及びステップS8を実行せずに、全ての単一上皮細胞について、DNA量ヒストグラムを作成する装置において、CIN3(組織診において癌化の初期段階と診断される状態)の被験者の子宮頸部の上皮組織から採取された細胞を分析した場合に作成されるヒストグラムである。
【0092】
図18は、本発明の一実施の形態に係る癌化情報提供装置1の分析対象細胞の測定データの抽出(ステップS7)及びステップS8を実行せずに、全ての単一上皮細胞について、DNA量ヒストグラムを作成する装置において、NILM(細胞診において正常とされる状態)の被験者の子宮頸部の上皮組織から採取された細胞を分析した場合に作成されるヒストグラムである。
【0093】
図19は、本発明の一実施の形態に係る癌化情報提供装置1において、CIN3(組織診において癌化の初期段階と診断される状態)の被験者の子宮頸部の上皮組織から採取された細胞を分析した場合の、ステップS9において作成されるヒストグラムである。
図20は、本発明の一実施の形態に係る癌化情報提供装置1において、NILM(細胞診において正常とされる状態)の被験者の子宮頸部の上皮組織から採取された細胞を分析した場合の、ステップS9において作成されるヒストグラムである。
【0094】
図17のヒストグラムに基づいて、正常なDNA量を示す範囲(2C)にある細胞の数に対する、当該正常な細胞が有するDNA量よりも多いDNA量(S期以上)を有する細胞の数の比を算出すると、3.2%である。
図18のヒストグラムに基づいて、正常なDNA量を示す範囲(2C)にある細胞の数に対する、当該正常な細胞が有するDNA量よりも多いDNA量(S期以上)を有する細胞の数の比を算出すると、1.1%である。
これらのことから、分析対象細胞の測定データの抽出(ステップS7)及びステップS8を実行せずに、全ての単一上皮細胞について、DNA量ヒストグラムを作成すると、CIN3の被験者とNILMの被験者とで正常なDNA量を示す範囲(2C)にある細胞の数に対する、当該正常な細胞が有するDNA量よりも多いDNA量(S期以上)を有する細胞の数の比に大きな差が出にくいことが分かる。
【0095】
一方、図19のヒストグラムに基づいて、正常なDNA量を示す範囲(2C)にある細胞の数に対する、当該正常な細胞が有するDNA量よりも多いDNA量(S期以上)を有する細胞の数の比を算出すると、57.9%である。
図20のヒストグラムに基づいて、正常なDNA量を示す範囲(2C)にある細胞の数に対する、当該正常な細胞が有するDNA量よりも多いDNA量(S期以上)を有する細胞の数の比を算出すると、7.4%である。
これらのことから、分析対象細胞の測定データの抽出(ステップS7)及びステップS8を実行して、DNA量ヒストグラムを作成すると、CIN3の被験者とNILMの被験者とで正常なDNA量を示す範囲(2C)にある細胞の数に対する、当該正常な細胞が有するDNA量よりも多いDNA量(S期以上)を有する細胞の数の比に大きな差が出やすいことが分かる。本発明のように検体について再検査が必要(陽性)であるか再検査が不要(陰性)であるかのカットオフ値を16%に設定すると、CIN3の被験者は再検査が必要(陽性)と判定され、NILMの被験者は再検査が不要(陰性)と判定され、組織診あるいは細胞診の判定と合致する。
【0096】
〔その他の変形例〕
なお、今回開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、前述した実施の形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0097】
例えば、前述した実施の形態では、細胞の大きさを反映するデータとして前方散乱光強度の波形の幅を取得しているが、前方散乱光強度の波形のピーク、あるいは、前方散乱光強度の波形と所定のベースラインとで囲まれる領域の面積であってもよい。また、前述した実施の形態では、細胞核の大きさを反映するデータとして側方蛍光強度の波形の幅を取得しているが、側方蛍光強度の波形のピーク、あるいは、側方蛍光強度の波形と所定のベースラインとで囲まれる領域の面積であってもよい。
【0098】
また、前述した実施の形態では、ステップS6においてNOと判定されると、判定不能という情報を出力し、ステップS11及びステップS12の処理を行っていないが、本発明はこれに限らない。本発明は、ステップS6においてNOと判定されても、ステップS7以降の処理を実行し、ステップS11あるいはステップS12で出力される判定結果に、細胞数が少なかった旨の情報を付加して出力することができる。また、前述した実施の形態では、ステップS8においてNOと判定されると、判定不能という情報を出力し、ステップS11及びステップS12の処理を行っていないが、本発明はこれに限らない。本発明は、ステップS8においてNOと判定されても、ステップS9以降の処理を実行し、ステップS11あるいはステップS12で出力される判定結果に、細胞数が少なかった旨の情報を付加して出力することができる。
【0099】
また、前述した実施の形態では、フローサイトメータから得られる光学情報を用いて細胞核の幅・細胞のDNA量、細胞質の幅に相当するデータを取得しているが、撮像部により撮像した細胞の画像を解析することで、細胞核の幅・細胞のDNA量、細胞質の幅に相当するデータを取得することができる。
【0100】
また、前述した実施の形態では、図12に示されるようなヒストグラムを用いて、正常なG0期又はG1期にある細胞の数に対する、当該正常な細胞が有するDNA量よりも多いDNA量を有する細胞の数の比を判断基準として、抽出した細胞の解析を行っているが、ヒストグラムを用いた解析に代えて、図7に示されるようなスキャッタグラムを用いて細胞の解析を行うこともできる。具体的に、図7のスキャッタグラムにおける中層細胞、傍基底細胞および基底細胞が出現する領域(図7において、四角形内において三角形で囲まれる領域)と、癌化細胞が出現する領域(前記四角形内において三角形領域を除く領域)に属する細胞との比に基づいて、測定試料について再検査が必要(陽性)または再検査が不要(陰性)を判定することもできる。前記四角形内の領域は、細胞の大きさおよびN/C比の各パラメータを用いて抽出された細胞が出現する領域であり、前記三角形領域において三角形の斜辺が横軸と交差する点Rは、陽性検体および陰性検体を含む複数の臨床検体を用いて実験および検証を行うことにより設定することができる。前記四角形内において三角形領域を除く領域は、DNA量が異常に多い細胞が出現する領域であり、この領域に属する細胞の比が所定値以上である場合、当該測定試料は再検査が必要(陽性)であると判定することができる。
【0101】
また、前述した実施の形態では、N/C比として細胞核の幅/細胞質の幅を採用しているが、N/C比として細胞核の面積/細胞質の面積を採用することもできる。
【0102】
また、前述した実施の形態では、分析対象細胞を抽出する抽出工程において、中層細胞、傍基底細胞および基底細胞を抽出しているが、本発明がこれに限定されるものではなく、表層細胞よりも基底側の細胞の一部が含まれていればよい。具体的に、例えば傍基底細胞および基底細胞を抽出してもよいし、中層細胞および傍基底細胞を抽出してもよいし、中層細胞だけを抽出してもよいし、傍基底細胞だけを抽出してもよいし、基底細胞だけを抽出してもよい。また、抽出する細胞に、中層細胞などに加えて、表層細胞の一部が含まれていてもよい。
【0103】
また、前述した実施の形態では、N/C比と細胞質の幅の両方が抽出のためのパラメータとして用いられているが、N/C比だけを抽出のためのパラメータとすることもできる。この場合、癌化細胞の検出感度が若干低下するが、細胞質の幅を抽出のためのパラメータから外すことで解析の速度を上げることができる。図7に示されるように、N/C比を横軸とし細胞質の幅を縦軸とすると、測定試料中の細胞は右下がりの三日月形状を呈する分布を示すので、カットオフ値となるN/C比と適切に選定することで、N/C比と細胞質の幅の両方をパラメータとする場合とほぼ同数の細胞を抽出することができる。
【0104】
また、前述した実施の形態では、子宮頸部の上皮細胞を分析対象としているが、口腔など他の部位の細胞を分析対象とすることができる。
【符号の説明】
【0105】
1 癌化情報提供装置
2 測定装置
3 フローサイトメータ(光学検出部)
4 データ処理装置
5 信号処理回路
16 測定制御部
17 駆動部
18 センサ
20 マイクロプロセッサ
25 外部通信コントローラ
26 撮像部
27 本体
27a CPU
28 表示部
29 入力部
51 フローセル
【技術分野】
【0001】
本発明は細胞を分析し、当該細胞の癌化に関する情報を提供する癌化情報提供方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
被検者の細胞を自動的に分析し、当該細胞の癌化に関する情報を提供する分析装置が知られている(例えば、特許文献1〜2参照)。特許文献1には、被検者から採取した細胞を含む測定試料をフローセルに流し、当該フローセルを流れる測定試料に光を照射することで個々の細胞について散乱光信号を取得し、各散乱光信号の波形を解析することにより特徴パラメータを抽出し、その特徴パラメータを用いて複数の細胞から癌・異型細胞を弁別する装置が開示されている。
【0003】
また、特許文献2には、フローセルを流れる細胞を撮像し、得られた画像データから核および細胞質の分布を推定し、推定した核および細胞質の分布面積の割合(N/C比)に基づいて、病理組織標本内における癌部位の分布を推定する病理診断支援装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2006/103920号パンフレット
【特許文献2】特開2004−286666号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
例えば、子宮頸部の組織診においては、正常な状態から癌に至るまでの過程は、正常な状態から順に、「Normal」、「CIN1」、「CIN2」、「CIN3」、及び「Cancer」という複数の段階がある。そのうち、子宮頸部上皮内腫瘍(CIN)と呼ばれる段階にあるのは、「CIN1」、「CIN2」、及び「CIN3」の段階である。
【0006】
「CIN1」は、基底層から表層に向かう間の3分の1に異型の傍基底細胞が増殖している状態であり、自然消退する可能性が高い状態である。そのため、「CIN1」では、まだ治療は不要と判断されている。「CIN2」は、基底層から表層に向かう間の3分の2に異型の傍基底細胞が増殖している状態であり、「CIN2」では治療が必要と判断される状態である。「CIN3」は、基底層から表層に向かう間のほぼ全てにわたり異型の傍基底細胞が増殖している状態であり、「CIN3」では治療が必要と判断されている。早期に癌の治療を開始するには、癌の進行具合が「Cancer」に至る前の「CIN2」から「CIN3」のような癌の初期段階で、癌のおそれがあるということを検出できることが望ましく、治療が不要と判断されている「CIN1」以前の段階にあるのか又は治療が必要と判断される状態である「CIN2」以降の段階にあるのかを区別することが望ましい。
【0007】
治療が不要と判断されている「CIN1」においても、治療が必要と判断される状態である「CIN2」においても、正常細胞と癌細胞または異型細胞とが混在している状態である。そのため、「CIN1」の被検者の子宮頸部から細胞を採取し測定試料を調製しても、「CIN2」の被検者の子宮頸部から細胞を採取し測定試料を調製しても、どちらの測定試料も正常細胞と癌細胞または異型細胞とが混在している状態となり、異型細胞を検出したことのみをもって癌の初期段階で癌のおそれがあることを精度よく検出することは難しい。
【0008】
また、特許文献1及び2に記載の分析装置で、癌の初期段階にある被検者の子宮頸部から採取し調製した測定試料を分析しても、分析に供される細胞の数に占める癌細胞または異型細胞の割合が小さくなり、癌の初期段階で癌のおそれがあることを精度よく検出することが難しかった。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、癌の初期段階で癌のおそれがあることを精度よく検出することができる癌化情報提供方法および装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)本発明の癌化情報提供方法は、細胞の癌化に関する情報を提供する癌化情報提供方法であって、
上皮組織から採取された細胞を含む測定試料に光を照射して、測定試料に含まれる各細胞からの光学情報を含む測定データを取得するデータ取得工程、
前記各細胞について取得した光学情報に基づいて、測定試料中の複数の細胞の測定データのうち、前記上皮組織において表層に存在する細胞よりも基底膜側の細胞の少なくとも一部である解析対象の細胞の測定データを抽出し、抽出した測定データを解析するデータ解析工程、および
抽出した測定データの解析結果に基づいて、細胞の癌化に関する情報を出力する情報出力工程
を含むことを特徴としている。
【0011】
子宮頸部、口腔などの部位にある細胞は、表層側から基底膜側に向けて、複数種類の細胞がそれぞれ層状になって存在している。例えば、子宮頸部の上皮細胞は、基底膜側から表層側に向けて順に基底細胞により形成される層(基底層)、傍基底細胞により形成される層(傍基底層)、中層細胞により形成される層(中層)、および表層細胞により形成される層(表層)が存在しており、基底膜付近の基底細胞が傍基底細胞、傍基底細胞が中層細胞、中層細胞が表層細胞へと分化する。子宮頸部の上皮細胞において癌化に関連する細胞は基底細胞であり、癌にいたる過程において、基底細胞は異形成を獲得し異型細胞となる。異型細胞は増殖能を獲得し、基底層側から表層側を占めるようになる。また、異型化した基底細胞は分化するため、癌化の過程では異型化した傍基底細胞、中層細胞が出現する。癌にいたる初期段階においては、異型化した細胞は基底側に多く存在し、表層側には少なく、表層側は正常な表層細胞が多数存在している。本発明者らは、上記のことに着目することで、本発明を完成させた。
【0012】
本発明の癌化情報提供方法では、データ解析工程において、測定試料中の細胞から、癌化する可能性がある細胞である、表層に存在する細胞よりも基底側の細胞の少なくとも一部の解析対象の細胞の測定データを抽出している。換言すれば、DNA量に異常がない表層に存在する細胞を除外している。そして、測定データが抽出された細胞について解析を行い、情報出力工程において、細胞の癌化に関する情報を出力している。したがって、解析に供される細胞に占める癌化またはその過程にある細胞の割合を大きくすることができ、当該癌化またはその過程にある細胞の検出感度を向上させることができる。
【0013】
(2)前記(1)の癌化情報提供方法において、
前記データ取得工程は、前記光学情報として、測定試料に光を照射することによって生じる散乱光の強度を示す散乱光信号及び蛍光の強度を示す蛍光信号を取得する信号取得工程を含んでいてもよい。
(3)前記(2)の癌化情報提供方法において、
前記データ解析工程は、測定試料に含まれる各細胞について前記蛍光信号の波形から得られる数値と散乱光信号の波形から得られる数値との比を算出し、算出された比に基づいて解析対象の細胞の測定データを抽出してもよい。
(4)前記(3)の癌化情報提供方法において、
前記データ解析工程において、前記蛍光信号の波形から得られる数値は、前記蛍光信号の波形の幅であり、前記散乱光信号の波形から得られる数値は、前記散乱光信号の波形の幅であってもよい。
【0014】
(5)前記(4)の癌化情報提供方法において、前記データ解析工程は、前記算出された比が第1の閾値以上である細胞の測定データを、解析対象の細胞の測定データとして抽出してもよい。
【0015】
(6)前記(5)の癌化情報提供方法において、前記データ解析工程は、前記算出された比が第1の閾値以上であって、かつ、前記散乱光信号の波形の幅が第2の閾値以下である細胞の測定データを、解析対象の細胞の測定データとして抽出してもよい。
【0016】
(7)前記(1)〜(6)の癌化情報提供方法において、前記データ解析工程は、
解析対象として抽出した細胞について、DNA量を反映した値を算出し、
算出した値に基づいて細胞の癌化に関する情報を決定してもよい。
【0017】
(8)前記(7)の癌化情報提供方法において、前記データ解析工程は、解析対象として抽出したそれぞれの細胞について前記DNA量を反映した値にもとづき、正常なDNA量を示す第一グループと前記正常なDNA量を示す範囲より大きなDNA量を示す第二グループとに分類し、前記第一グループの細胞数と前記第二グループの細胞数との比を算出し、算出した比に基づいて細胞の癌化に関する情報を決定してもよい。
【0018】
(9)前記(1)〜(8)の癌化情報提供方法は、解析対象として抽出した細胞の数を第3の閾値と比較し、当該細胞の数が第3の閾値未満である場合に、前記細胞の癌化に関する情報の出力を禁止する、または、細胞数が少ない旨の情報を付加して癌化に関する情報を出力する工程を含んでいてもよい。
【0019】
(10)前記(1)〜(9)の癌化情報提供方法は、前記データ取得工程に先立って、測定試料中の凝集細胞を分散させる分散工程をさらに含んでいてもよい。
【0020】
(11)前記(1)〜(10)の癌化情報提供方法は、単一上皮細胞の数を第4の閾値と比較し、当該単一上皮細胞の数が第4の閾値未満である場合には、前記細胞の癌化に関する情報の出力を禁止する、または、細胞数が少ない旨の情報を付加して癌化に関する情報を出力する工程を含んでいてもよい。
【0021】
(12)前記(1)〜(11)の癌化情報提供方法において、前記細胞は子宮頸部の細胞であり、且つ
前記表層に存在する細胞は表層細胞であってもよい。
【0022】
(13)前記(1)〜(12)の癌化情報提供方法において、前記情報出力工程は、細胞の癌化に関する情報として、再検査が必要か否かに関する情報を出力してもよい。
【0023】
(14)本発明の癌化情報提供装置は、細胞の癌化に関する情報を提供する癌化情報提供装置であって、
上皮組織から採取された細胞を含む測定試料に光を照射して、測定試料に含まれる各細胞からの光学情報を含む測定データを取得するデータ取得部と、
前記各細胞について取得した光学情報に基づいて、測定試料中の複数の細胞の測定データのうち、前記上皮組織において表層に存在する細胞よりも基底膜側の細胞の少なくとも一部である解析対象の細胞の測定データを抽出し、抽出した測定データを解析して細胞の癌化に関する情報を出力する制御部と、
を含むことを特徴としている。
【0024】
(15)前記(14)の癌化情報提供装置において、
前記データ取得部は、前記測定試料が流れるフローセルと、当該フローセルを流れる前記測定試料に光を照射して測定試料に含まれる細胞からの光学情報を取得する光学情報取得部とを備えていてもよい。
【0025】
(16)前記(15)の癌化情報提供装置において、
前記光学情報取得部は、前記光学情報として、測定試料に光を照射することによって生じる散乱光の強度を示す散乱光信号及び蛍光の強度を示す蛍光信号を取得してもよい。
【発明の効果】
【0026】
本発明の癌化情報提供方法および装置によれば、癌の初期段階で癌のおそれがあることを精度よく検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の一実施の形態に係る癌化情報提供装置の斜視説明図である。
【図2】図1に示される癌化情報提供装置の構成を示すブロック図である。
【図3】図1に示される癌化情報提供装置におけるデータ処理装置を構成するパーソナルコンピュータのブロック図である。
【図4】図1に示される癌化情報提供装置におけるフローサイトメータの構成を示すブロック図である。
【図5】癌化情報提供方法の流れの一例を示すフローチャートである。
【図6】測定データの説明図である。
【図7】スキャッタグラムの一例を示す図である。
【図8】信号波形と特徴パラメータとの関係を示す説明図である。
【図9】データ処理装置の表示部の表示例を示す図である。
【図10】子宮頸部の上皮細胞の模式図である。
【図11】子宮頸部の各種上皮細胞について細胞の大きさとN/C比との関係を示す図である。
【図12】抽出された細胞のDNA量のヒストグラムである。
【図13】細胞周期とDNA量ヒストグラムを関連付けて説明する図である。
【図14】細胞周期における各ステージとDNA量との関係を説明する図である。
【図15】データ処理装置の表示部の表示例を示す図である。
【図16】データ処理装置の表示部の表示例を示す図である。
【図17】全ての単一細胞について作成されたヒストグラムの一例を示す図である。
【図18】全ての単一細胞について作成されたヒストグラムの他の例を示す図である。
【図19】ステップS9において作成されるヒストグラムの一例を示す図である。
【図20】ステップS9において作成されるヒストグラムの他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、添付図面を参照しつつ、本発明の癌化情報提供方法および装置の実施の形態を詳細に説明する。
〔癌化情報提供装置の全体構成〕
図1は、本発明の一実施の形態に係る癌化情報提供装置1の斜視説明図であり、図2は、図1に示される癌化情報提供装置1の構成を示すブロック図である。
【0029】
この癌化情報提供装置1は、患者(被検者)から採取した細胞を含む測定試料をフローセルに流し、このフローセルを流れる測定試料にレーザ光を照射し、測定試料からの光(前方散乱光、側方蛍光等)を検出・分析することで、前記細胞に癌化またはその過程にある細胞(以下、これらをまとめて「癌化細胞」ともいう)が含まれているか否かを判定し、その結果を出力する。具体的には、患者から採取した子宮頸部の上皮細胞を用いて子宮頸癌をスクリーニングするのに用いられる。癌化情報提供装置1は、試料の測定等を行う測定装置2と、この測定装置2に接続され、測定結果の分析や表示(出力)等を行うデータ処理装置4とを備えている。なお、図1において、参照符号50はメタノールを主成分とする保存液と患者から採取した生体試料との混合液を収容する複数の試験管(図示せず)をセットするための検体セット部である。
【0030】
図2に示されるように、癌化情報提供装置1の測定装置2は、測定試料から細胞や核のサイズ等の情報を検出するための光学情報取得部であるフローサイトメータからなる光学検出部3と、信号処理回路5と、測定制御部16と、モータ、アクチュエータ、バルブ等の駆動部17と、各種センサ18と、細胞の画像を撮像する撮像部26とを備えている。信号処理回路5は、フローサイトメータ3の出力をプリアンプ(図示せず)により増幅したものに対して増幅処理やフィルタ処理等を行うアナログ信号処理回路と、アナログ信号処理回路の出力をデジタル信号に変換するA/Dコンバータと、デジタル信号に対して所定の波形処理を行うデジタル信号処理回路とを備えている。また、測定制御部16がセンサ18の信号を処理しつつ駆動部17の動作を制御することにより、測定試料の吸引や測定が行われる。子宮頸癌をスクリーニングする場合、測定試料としては、患者の子宮頸部から採取した細胞(上皮細胞)に遠心、希釈、攪拌、PI染色等の処理を施して調製されたものを用いることができる。調製された測定試料は試験管に収容された状態で前述した検体セット部50の所定位置に配置され、ついで測定装置2のピペット(図示せず)下方位置に搬送され、当該ピペットにより吸引されてシース液とともにフローセルに供給され、フローセルにおいて試料流が形成される。PI染色(DNA染色)は、赤色の色素を含んでいる蛍光染色液であるヨウ化プロピジウム(PI)により行われる。PI染色では核に選択的に染色が施されるため、核からの赤色蛍光が検出可能となる。
【0031】
[測定制御部の構成]
測定制御部16は、マイクロプロセッサ20、記憶部21、I/Oコントローラ22、センサ信号処理部23、駆動部制御ドライバ24、および外部通信コントローラ25等を備えている。記憶部21は、ROM、RAM等からなり、ROMには、駆動部17を制御するための制御プログラムおよび当該制御プログラムの実行に必要なデータが格納されている。マイクロプロセッサ20は、制御プログラムをRAMにロードし、またはROMから直接実行することが可能である。
【0032】
マイクロプロセッサ20には、センサ18からの信号がセンサ信号処理部23およびI/Oコントローラ22を通じて伝達される。マイクロプロセッサ20は、制御プログラムを実行することにより、センサ18からの信号に応じて、I/Oコントローラ22および駆動部制御ドライバ24を介して駆動部17を制御することができる。
マイクロプロセッサ20が処理したデータや、マイクロプロセッサ20の処理に必要なデータは、外部通信コントローラ25を介してデータ処理装置4等の外部装置との間で送受信される。
【0033】
[データ処理装置の構成]
図3は、データ処理装置4のブロック図である。データ処理装置4は、パーソナルコンピュータ等からなり、本体27と、表示部28と、入力部29とから主に構成されている。本体27は、CPU27aと、ROM27bと、RAM27cと、ハードディスク27dと、読出装置27eと、I/Oインターフェース27fと、画像出力インターフェース27gとから主に構成されている。これらの要素の間は、バス27hによって通信可能に接続されている。
【0034】
CPU27aは、ROM27bに記憶されているコンピュータプログラムおよびRAM27cにロードされたコンピュータプログラムを実行することが可能である。CPU27aは、後述する細胞核の大きさに関するデータや細胞質の大きさに関するデータなどを取得するデータ取得部、および抽出した細胞を解析して癌化に関する情報を出力する制御部として機能する。
【0035】
ROM27bは、マスクROM、PROM、EPROM、EEPROM等によって構成されており、CPU27aに実行されるコンピュータプログラムおよびこれに用いるデータ等が格納されている。RAM27cは、SRAMまたはDRAM等によって構成されている。RAM27cは、ROM27bおよびハードディスク27dに記録されているコンピュータプログラムの読み出しに用いられる。また、これらのコンピュータプログラムを実行するときに、CPU27aの作業領域として利用される。
【0036】
ハードディスク27dは、オペレーティングシステムおよびアプリケーションプログラム等、CPU27aに実行させるための種々のコンピュータプログラムおよびそのコンピュータプログラムの実行に用いるデータがインストールされている。例えば、ハードディスク27dには、米マイクロソフト社が製造販売するWindows(登録商標)等のグラフィカルユーザーインターフェース環境を提供するオペレーティングシステムがインストールされている。また、後述する波形データを作成したりN/C比などを算出したりするためのコンピュータプログラムおよびそのコンピュータプログラムの実行に用いるデータが、ハードディスク27dにインストールされている。
【0037】
また、ハードディスク27dには、癌化情報提供装置1の測定制御部16への測定オーダ(動作命令)の送信、測定装置2で測定した測定結果の受信および処理、処理した分析結果の表示等を行う操作プログラムがインストールされている。この操作プログラムは、前記オペレーティングシステム上で動作するものとしている。
【0038】
読出装置27eは、フレキシブルディスクドライブ、CD−ROMドライブ、またはDVD−ROMドライブ等によって構成されており、可搬型記録媒体に記録されたコンピュータプログラムまたはデータを読み出すことができる。I/Oインターフェース27fは、例えば、USB、IEEE1394、RS−232C等のシリアルインタフェース、SCSI、IDE、IEEE1284等のパラレルインタフェース、およびD/A変換器、A/D変換器等からなるアナログインタフェース等から構成されている。I/Oインターフェース27fには、キーボードおよびマウスからなる入力部29が接続されており、ユーザが入力部29を操作することにより、パーソナルコンピュータにデータを入力することが可能である。また、I/Oインターフェース27fは、測定装置2と接続されており、当該測定装置2との間でデータ等の送受信を行うことが可能である。
【0039】
画像出力インターフェース27gは、LCDまたはCRT等で構成された表示部28に接続されており、CPU27aから与えられた画像データに応じた映像信号や波形データに応じた波形信号を表示部28に出力するようになっている。表示部28は、入力された映像信号や波形信号にしたがって、画像(画面)を表示する。
【0040】
[フローサイトメータおよび撮像部の構成]
図4は、光学情報取得部を構成する光学検出部3、および撮像部26の構成を示す図である。この光学検出部3は、フローサイトメータからなり、半導体レーザからなる光源53を備え、この光源53から放射されたレーザ光は、レンズ系52を経てフローセル51を流れる測定試料に集光する。このレーザ光により測定試料中の細胞から生じた前方散乱光は、対物レンズ54およびフィルタ57を経てフォトダイオード(受光部)55に検出される。なお、レンズ系52は、コリメータレンズ、シリンダーレンズ、コンデンサーレンズ等を含むレンズ群から構成されている。
【0041】
さらに、細胞から生じた側方蛍光および側方散乱光は、フローセル51の側方に配置された対物レンズ56を経てダイクロイックミラー61に入射する。そして、このダイクロイックミラー61を反射した側方蛍光および側方散乱光がダイクロイックミラー62に入射する。
【0042】
ダイクロイックミラー62を透過した側方蛍光は、フィルタ63を経てフォトマルチプライヤ59によって検出される。また、ダイクロイックミラー62を反射した側方散乱光は、フィルタ64を経てフォトマルチプライヤ58によって検出される。
【0043】
フォトダイオード55、フォトマルチプライヤ58およびフォトマルチプライヤ59は、検出した光を電気信号に変換し、それぞれ、前方散乱光信号(FSC)、側方散乱光信号(SSC)および側方蛍光信号(SFC)を出力する。これらの信号は、図示しないプリアンプにより増幅された後、前述した信号処理回路5(図2参照)に送られる。
【0044】
図2に示されるように、信号処理回路5でフィルタ処理やA/D変換処理等の信号処理が施されて得られた前方散乱光データ、側方散乱光データおよび側方蛍光データは、マイクロプロセッサ20によって、外部通信コントローラ25を介して前述したデータ処理装置4へ送られ、ハードディスク27dに記憶される。データ処理装置4では、前方散乱光データ、側方散乱光データおよび側方蛍光データに基づいて、細胞質や核の幅、およびN/C比などが算出される。
【0045】
なお、光源53として、前記半導体レーザに代えてガスレーザを用いることもできるが、低コスト、小型、且つ低消費電力である点で半導体レーザを採用するのが好ましい。半導体レーザの採用により製品コストを低減させるとともに、装置の小型化および省電力化を図ることができる。本実施の形態では、ビームを狭く絞ることに有利な波長の短い青色半導体レーザを用いている。青色半導体レーザは、PI等の蛍光励起波長に対しても有効である。なお、半導体レーザのうち、低コスト且つ長寿命であり、メーカーからの供給が安定している赤色半導体レーザを用いてもよい。
【0046】
また、本実施の形態では、フローサイトメータ3に加えて撮像部26が設けられている。この撮像部26は、図4に示されるように、パルスレーザからなる光源66とCCDカメラ65とを備えており、パルスレーザ66からのレーザ光はレンズ系60を経てフローセル51に入射し、さらに対物レンズ56及びダイクロイックミラー61を透過してカメラ65に結像する。パルスレーザ66は、所定のタイミングで発光してカメラ65による撮像を可能にする。
【0047】
図2に示されるように、カメラ65によって撮像された細胞の画像は、マイクロプロセッサ20によって、外部通信コントローラ25を介してデータ処理装置4へ送られる。そして、細胞の画像は、データ処理装置4において、当該細胞に係る前述した前方散乱光データ、側方散乱光データおよび側方蛍光データに対応づけてハードディスク27dに記憶される。
【0048】
〔癌化情報提供方法〕
次に、図5を参照しつつ、本実施の形態に係る癌化情報提供装置1を用いた癌化情報提
供方法の流れの一例について説明する。
【0049】
癌化情報提供装置1を用いた分析に際して、まず、患者の子宮頸部から採取した細胞(上皮細胞)に対して、ユーザにより凝集細胞の除去、PI染色などの前処理が行われ、測定試料が調製される。その後、前処理された測定試料と、メタノールを主成分とする保存液とが収容された試験管がユーザにより検体セット部50にセットされ、癌化情報提供装置1による分析が開始される。
【0050】
凝集細胞の除去は、単一細胞としては正常なDNA量であるにもかかわらず複数の細胞が凝集することで測定DNA量が異常値を示すことによる分析精度の低下を防ぐために行われる。かかる凝集細胞の除去は、例えば、希釈した生体試料中に配置した回転軸をモータで回転させて当該生体試料中の細胞を分散させる分散操作と、分散後の生体試料をフィルタを通すことで凝集細胞を取り除くフィルタリングとを組み合わせた処理や、超音波振動を生体試料に付与する処理などにより行うことができる。後者の場合、超音波振動により発生する生体試料中のキャビテーション(微細な気泡の発生と気泡の破裂)に伴う衝撃(圧力変動)により凝集細胞を分散させることができる。
【0051】
図5は、本実施形態に係る癌化情報提供装置1の測定装置2のマイクロプロセッサ20とデータ処理装置4のCPU27aとによる、データ処理装置4のCPU27aに対してユーザが測定開始指示をした後から癌化情報の提供までの処理を示すフローチャートである。ユーザによる測定開始指示は、データ処理装置4の電源が入れられ当該データ処理装置4に格納されているコンピュータプログラムの初期化などが行われた後に行われる。ユーザにより測定開始指示がデータ処理装置4のCPU27aになされると、データ処理装置4のCPU27aは、測定装置2のマイクロプロセッサ20に測定開始指示を送信する。そして、測定装置2のマイクロプロセッサ20が測定開始指示を受信すると、測定装置2において、試験管に収容された測定試料がピペットにより吸引されて図4に示されるフローセル51に供給され、試料流が形成される(ステップS1)。
【0052】
そして、フローセル51を流れる測定試料中の細胞にレーザ光が照射され、当該細胞からの前方散乱光がフォトダイオード55により検出され、側方散乱光がフォトマルチプライヤ58で検出され、側方蛍光がフォトマルチプライヤ59により検出される。
【0053】
ついで、フローサイトメータ3から出力された前方散乱光信号、側方散乱光信号および側方蛍光信号が信号処理回路5に送られ、信号処理回路5で所定の処理を施すことによって前方散乱光強度を示す前方散乱光データ、側方散乱光強度を示す側方散乱光データおよび側方蛍光強度を示す側方蛍光データならびに後述する特徴パラメータが取得される(ステップS2)。
【0054】
図6は、ステップS2において得られる測定データの説明図である。図6には、細胞核を含む細胞の模式図と、当該細胞から得られる前方散乱光信号の波形および側方蛍光信号の波形が示されている。図6において、グラフの縦軸はそれぞれの光の強度を表している。前方散乱光強度の波形の幅が細胞質の幅を示す数値(細胞質の大きさに関する第2データ)を表しており、側方蛍光強度の波形の幅が細胞核の幅を示す数値(細胞核の大きさに関する第1データ)を表している。また、側方蛍光強度の波形と所定のベースラインとで囲まれる、図6においてハッチングを施したエリアの面積が細胞のDNA量を表している。そして、データ処理装置4のCPU27aにおいて、各細胞について第1データと第2データとの比であるN/C比、すなわち細胞核の大きさと細胞の大きさとの比(=側方蛍光信号波形の幅と前方散乱光信号波形の幅との比)が算出される。
【0055】
ステップS2の後、マイクロプロセッサ20は、ステップS2において取得した前方散乱光データ、側方散乱光データ、側方蛍光データ、及び特徴パラメータを含む測定データを、外部通信コントローラ25を介してデータ処理装置4に送信し(ステップS3)、処理を終了する。
【0056】
次に、データ処理装置4のCPU27aは、マイクロプロセッサ20から測定データを受信したか否かを判定する(ステップS4)。ステップS4において、データ処理装置4のCPU27aは、マイクロプロセッサ20から測定データを受信していないと判定すると(ステップS4においてNo)、受信するまでステップS4の処理を繰り返す。一方、ステップS4において、データ処理装置4のCPU27aは、マイクロプロセッサ20から測定データを受信したと判定すると(ステップS4においてYes)、ステップS5に処理を進める。
【0057】
ステップS5において、データ処理装置4のCPU27aは、図7に示すような、スキャッタグラムを作成する。作成されたスキャッタグラムは、データ処理装置4の表示部28に表示することができる。このスキャッタグラムの縦軸は細胞の大きさであり、横軸は前述したN/C比である。図7は、正常な人から採取された子宮頸部の上皮細胞を癌化情報提供装置1で分析する場合に、ステップS5において作成されるスキャッタグラムの例である。正常な人から採取された子宮頸部の上皮細胞を癌化情報提供装置1で分析する場合に、ステップS5において作成されるスキャッタグラムは、図7に示されるように、右下がりの三日月形状を呈するように分布する。
【0058】
ついで、ステップS5においてスキャッタグラムが作成されると、ステップS6において、データ処理装置4のCPU27aは、測定データを取得した細胞中に単一上皮細胞が5000個(第4の閾値)以上存在するか否かの判断を行う。この判断は、本実施の形態では、特許文献1に記載されている以下の方法で行われている。
【0059】
すなわち、前方散乱光の波形信号から得られる、差分積分値をピーク値で除した値である特徴パラメータB、または正規化2次モーメントである特徴パラメータMを用いて行うことができる。波形信号は、図示しないA/D変換器によって、例えば20nsecのサンプリング周期でX0、X1、X2、・・・Xnにおいてサンプリングされ、最大電圧10Vとベースライン(Base Line)電圧0.05Vの間の計測電圧を8ビットの分解能で電子化してデジタル信号に変換される。
【0060】
そして、特徴パラメータBは、以下の式(1)で表される。
【0061】
【数1】
【0062】
ここで、差分積分値とは、隣り合うサンプリングデータの差の絶対値の累積加算値を表しており、ピーク値(Peak)とは、波形の最大値(図8参照)であり、以下の式(2)で表される。
【0063】
【数2】
【0064】
また、特徴パラメータMは、以下の式(3)で表される。
【0065】
【数3】
【0066】
ただし、PはXpがピーク値となる添字であり、Width(幅)は、図8に示されるようにベースライン(Base Line)より大きい部分の幅であり、以下の式(4)で表される。
【0067】
【数4】
【0068】
ただし、PはXpがピーク値になる添字である。
単一細胞であるか否かの判定を行うための閾値は、各パラメータについて実験などにより設定されている。本実施の形態では、例えば特徴パラメータBを用いており、当該特徴パラメータBが2.2以上のものを凝集細胞であるとし、2.2未満のものを単一細胞であるとしている。また、特徴パラメータMを用いる場合、当該特徴パラメータMが2100以上のものを凝集細胞とし、2100未満のものを単一細胞とすることができる。
【0069】
なお、前述した「5000個」という数字(閾値)は、細胞診の検査の適正性を判断する指標として一般的に用いられている数字であり、本実施の形態においても、かかる「5000個」という数字を分析精度を保証するための閾値に採用している。
【0070】
ステップS6において、単一細胞の数が5000個未満であると判断されると、データ処理装置4のCPU27aは、後述するステップS7の分析対象細胞の抽出を行わず、ステップS13に進む。ステップS13において、データ処理装置4のCPU27aは、ステップS1で調製された測定試料について判定不能という情報を、図9に示すように、データ処理装置4の表示部28に表示する(ステップS13)。
【0071】
ステップS6において、単一細胞の数が5000個以上であると判断されると、データ処理装置4のCPU27aは、細胞の大きさおよびN/C比という2つのパラメータを用いて、分析対象とする細胞の測定データの抽出を行う(ステップS7)。
【0072】
[分析対象細胞の測定データの抽出(ステップS7)]
本発明の癌化情報提供方法および装置が、主たる分析対象としている子宮頸部、口腔粘膜の上皮組織は、基底膜から順に複数種類の細胞がそれぞれ層状になって存在している。なお、本明細書では、基底膜を下層とした場合に上層に位置する側を表層側という。子宮頸部および口腔粘膜では、外界と隣接する側が表層側に該当する。
【0073】
子宮頸部においては、図10に示されるように、基底膜側から順に、基底細胞により形成される層(基底層)、傍基底細胞により形成される層(傍基底層)、中層細胞により形成される層(中層)、および表層細胞により形成される層(表層)が形成されている。基底膜付近の基底細胞が傍基底細胞、傍基底細胞が中層細胞、中層細胞が表層細胞へと分化する。また、口腔粘膜においては、基底膜側から順に、基底細胞の層、有棘細胞の層、顆粒細胞の層、および角質層が形成されている。これらを以下の表1にまとめる。
【0074】
【表1】
【0075】
前述したように、上皮組織の複数種類の細胞のうち癌化に関連する細胞は、子宮頸部の上皮組織では基底細胞であり、口腔粘膜の上皮組織では基底細胞である。癌にいたる過程において、基底細胞は異形成を獲得し異型細胞となる。異型細胞は増殖能を獲得し、基底層側から表層側を占めるようになる。そのため、癌にいたる初期段階においては、子宮頸部の上皮組織では、基底層、傍基底層、及び中層に存在する細胞に、癌化細胞が多く存在し、口腔粘膜の上皮組織では、基底細胞の層及び有棘細胞の層に存在する細胞に、癌化細胞が多く存在する。逆に、癌にいたる初期段階においては、子宮頸部の上皮組織の表層及び口腔粘膜の上皮組織の角質層などの上皮組織の表層側の層に存在する細胞には、癌化細胞が極めて少ない。
【0076】
また、前述した上皮組織では、表層側の層から基底膜側の層に向かうにしたがい、細胞の大きさは順次小さくなるが、細胞核の大きさは順次大きくなることが分かっている。したがって、細胞核の大きさと細胞の大きさとの比であるN/C比も、表層側の層から基底膜側の層に向かうにしたがい順次大きくなる。そこで、本実施の形態では、細胞の大きさとN/C比を用いて、分析対象とする細胞の測定データを抽出している。具体的には、ステップS7では、細胞の大きさについては、10μm以上50μm以下の範囲であり、かつ、N/C比については、0.2以上1以下の範囲である細胞の測定データを抽出している。
【0077】
分析対象として抽出すべきか否かの判断基準となる細胞の大きさ(第2の閾値)およびN/C比(第1の閾値)は、分析対象とする上皮組織の種類に応じて、サンプル組織の観察・分析などにより設定することができ、例えば、子宮頸部の上皮組織を分析対象とする子宮頸がんのスクリーニングの場合には、N/C比が0.2以上であり、且つ、細胞幅(細胞の大きさ)が50μm以下であることを判断基準とすることができる。子宮頸部の上皮組織を構成する各細胞の形態・大きさや核の大きさを以下の表2にまとめる。また、横軸をN/C比とし、縦軸を細胞の大きさとする座標に各細胞をプロットしたものを図11に示す。
【0078】
【表2】
【0079】
図11および表2より、子宮頸部の上皮組織の場合、N/C比が0.2以上であり且つ細胞幅が50μm以下の細胞を抽出することにより、癌化細胞が極めて少ない表層に存在する表層細胞をほぼ分析対象から外し、癌化細胞が表層よりも明らかに多い層に存在する中層細胞、傍基底細胞および基底細胞を分析対象とし得ることが分かる。図11では、分かり易くするために全体の細胞数に占める表層細胞の割合が少なくなっているが、実際に被検者から採取される子宮頸部の上皮組織における表層細胞の数は他の細胞に比べて多い。したがって、採取した全ての細胞を分析対象とすると、仮に当該細胞の中に癌化細胞が含まれていたとしても、その存在が希釈化されるので、再検査が必要(陽性)であると判定されないことも考えられる。すなわち、採取した全ての細胞を分析対象とする場合、検出感度を向上させることは難しい。
【0080】
しかし、採取した細胞から、癌化細胞が極めて少ない表層に存在する表層細胞を実質的に分析対象から外すことにより、全体の細胞に占める癌化細胞の割合を大きくすることができ、その結果、当該癌化細胞の検出感度を向上させることができる。
【0081】
本発明の癌化情報提供方法では、分析対象とする細胞の測定データを抽出する細胞抽出工程において、ある程度基底膜に近い層に存在する細胞を含む、N/C比がある程度大きい細胞を抽出している。したがって、細胞の大きさやN/C比には多少のばらつきがあることから、すべての表層細胞だけを分析対象から外すことは現実的には不可能であり、一部の表層細胞は分析対象として抽出されることがあり、また、逆に一部の中層細胞、傍基底細胞および基底細胞が分析対象から外されることがある。しかし、抽出の判断基準となる細胞の大きさやN/C比を適切に選定することにより、癌化する可能性が極めて低い表層細胞のほとんどを分析対象から除外することができる。
【0082】
本発明では、例えば子宮頸部においては、基底細胞、傍基底細胞、中層細胞および表層細胞からなる細胞集団から基底細胞、傍基底細胞および中層細胞が抽出される。また、口腔粘膜においては、基底細胞、有棘細胞、顆粒細胞および角質からなる細胞集団から基底細胞および有棘細胞が抽出される。
【0083】
図5のフローチャートに戻り、ステップS7において、データ処理装置4のCPU27aによってN/C比0.2以上且つ細胞幅50μm以下の細胞の測定データが抽出されると、続くステップS8において、データ処理装置4のCPU27aは、N/C比0.2以上且つ細胞幅50μm以下の細胞の数が1000個(第3の閾値)以上であるか否かの判断を行う。データ処理装置4のCPU27aは、N/C比0.2以上且つ細胞幅50μm以下の細胞の数が1000個以上である(ステップS8においてYes)と判断すると、ステップS9へ処理を進め、当該ステップS9において、後述するヒストグラム(DNA量ヒストグラム)を作成する。一方、ステップS8において、N/C比0.2以上且つ細胞幅50μm以下の細胞の数が1000個未満であると判断されると(ステップS8においてNo)、データ処理装置4のCPU27aは、後述するステップS11及びステップS12を行わず、ステップS13に進む。ステップS13において、データ処理装置4のCPU27aは、ステップS1で調製された測定試料について判定不能という情報を、図9に示すように、データ処理装置4の表示部28に表示する(ステップS13)。1000個という値(第3の閾値)は、分析の精度や信頼性を考慮して、種々の実験や検証などにより選定される値であり、本発明において、特に限定されるものではない。
【0084】
図12は、ステップS9において作成されるヒストグラムの一例を示している。図12は、ステップS7において抽出されたN/C比0.2以上且つ細胞幅50μm以下の細胞について作成されたものであり、縦軸は細胞の数を、横軸は細胞のDNA量を表している。正常なDNA量を示す範囲(以下2Cとも表記する)は、多数の陰性検体のデータより算出される。本実施形態では、正常なDNA量を示す範囲は、a以上b以下の範囲と設定している。異常なDNA量の範囲(以下S期以上とも表記する)は、正常なDNA量よりも大きい範囲と設定しており、bより大きくc以下の範囲と設定した。正常なDNA量の範囲および異常なDNA量の範囲は、本発明において、特に限定されるものでなく、分析の精度や信頼性を考慮して、種々の実験や検証などにより選定される値である。
【0085】
細胞は、図13に示されるように、一定のサイクル(細胞周期)にしたがって、DNA複製、染色体の分配、核分裂、細胞質分裂などの事象を経て二つの細胞となって出発点に戻る。細胞周期は、その段階に応じて以下の4期に分けることができ、この4期に細胞の増殖が休止している休止期(G0期)を加えると、細胞は、5期のうちいずれかのステージにある。
G1期:S期に入るための準備と点検の時期
S期:DNA合成期
G2期:M期に入るための準備と点検の時期
M期:分裂期
【0086】
細胞周期にしたがって増殖する際、細胞内の核の染色体も増加するため、細胞のDNA量を測定することで、当該細胞が細胞周期のどの状態にあるのかを推定することができる。正常な細胞の場合、図14に示されるように、G1期におけるDNA量は一定であり、続くS期においてはDNA量が徐々に増加し、その後G2期に入ると一定の値となり、この値はM期においても維持される。そして、正常な細胞について、DNA量ヒストグラムを作成すると、図13に示されるようなヒストグラムとなる。最も高いピークを有する山はDNA量が最も少ないG0期又はG1期にある細胞に対応し、次に高いピークを有する山はDNA量が最も多いG2期又はM期にある細胞に対応し、それらの間はS期にある細胞に対応している。
【0087】
正常な細胞の場合、S期、G2期又はM期のいずれかの状態にある細胞の数と、G0期又はG1期にある細胞の数との比は、ほぼ一定の範囲内の値を示す。しかし、細胞が癌化するか、またはその過程にある場合、当該細胞の染色体の数は異常に多くなり、したがってDNA量も多くなる。また、癌化細胞は、正常な細胞に比べて増殖能が高いため、DNA量が多い細胞の数が多くなる。
【0088】
そこで、正常なG0期又はG1期にある細胞の数を基準として、この細胞数に対する、当該正常な細胞が有するDNA量よりも多いDNA量を有する細胞の数の比を判断基準とすることで、分析対象の細胞が、癌化細胞であるか否かを推定することができる。具体的に、図12に示されるDNA量ヒストグラムにおいて、最も左側の山は、DNA量が少ないG0期またはG1期にある正常細胞に対応しており、その右側の3つの山は、前記G0期またはG1期にある正常細胞のDNA量よりも多いDNA量を有する細胞に対応している。これら右側の3つの山は、図13に示されるS期にある細胞(真ん中の2つの山)、またはG2/M期にある細胞(最も右側の山)に対応するものと考えられるが、分析対象細胞に癌化細胞が含まれていると、かかる癌化細胞も前記2つの山に含まれる。そして、癌化細胞の数が多くなればなるほど、前記3つの山は大きくなると考えられる。なお、図12では、分かり易くするために3つの山がある例を示したが、実際に被検者から採取される子宮頸部の上皮組織においてDNA量ヒストグラムを作成する場合、山ができるかは被験者の状態による。
【0089】
そこで、陽性検体および陰性検体を含む複数の臨床検体を用いて実験および検証を行うことにより、前記判断基準に用いる割合を選定することができる。本実施の形態では、90%以上の感度を得るという観点より、正常なG0期又はG1期にある細胞(正常なDNA量を示す範囲にある細胞)の数に対する、当該正常な細胞が有するDNA量よりも多いDNA量を有する細胞(異常なDNA量の範囲にある細胞)の数の比が16%(第5の閾値)以上であるか否かを判断基準としている。すなわち、検体について再検査が必要(陽性)であるか再検査が不要(陰性)であるかのカットオフ値を16%に設定している。なお、この16%というカットオフ値は、本発明において特に限定されるものではなく、臨床検査の感度と特異度のバランスを考慮して適宜設定することができる。
【0090】
ステップS10において、正常なDNA量を示す範囲にある細胞(第1グループ)の数に対する、当該正常な細胞が有するDNA量よりも多いDNA量を有する細胞(第2グループ)の数の比が16%以上である(ステップS10においてYes)と判断されると、ステップS11において、分析に用いた測定試料は再検査が必要(陽性)であると判定され、その結果は、図15に示すように、データ処理装置4の表示部28に表示される。一方、ステップS10において前記比が16%未満である(ステップS10においてNo)と判断されると、ステップS12において、分析に用いた測定試料は再検査が不要(陰性)であると判定され、その結果が、図16に示すように、データ処理装置4の表示部28に表示される。
【0091】
図17は、本発明の一実施の形態に係る癌化情報提供装置1の分析対象細胞の測定データの抽出(ステップS7)及びステップS8を実行せずに、全ての単一上皮細胞について、DNA量ヒストグラムを作成する装置において、CIN3(組織診において癌化の初期段階と診断される状態)の被験者の子宮頸部の上皮組織から採取された細胞を分析した場合に作成されるヒストグラムである。
【0092】
図18は、本発明の一実施の形態に係る癌化情報提供装置1の分析対象細胞の測定データの抽出(ステップS7)及びステップS8を実行せずに、全ての単一上皮細胞について、DNA量ヒストグラムを作成する装置において、NILM(細胞診において正常とされる状態)の被験者の子宮頸部の上皮組織から採取された細胞を分析した場合に作成されるヒストグラムである。
【0093】
図19は、本発明の一実施の形態に係る癌化情報提供装置1において、CIN3(組織診において癌化の初期段階と診断される状態)の被験者の子宮頸部の上皮組織から採取された細胞を分析した場合の、ステップS9において作成されるヒストグラムである。
図20は、本発明の一実施の形態に係る癌化情報提供装置1において、NILM(細胞診において正常とされる状態)の被験者の子宮頸部の上皮組織から採取された細胞を分析した場合の、ステップS9において作成されるヒストグラムである。
【0094】
図17のヒストグラムに基づいて、正常なDNA量を示す範囲(2C)にある細胞の数に対する、当該正常な細胞が有するDNA量よりも多いDNA量(S期以上)を有する細胞の数の比を算出すると、3.2%である。
図18のヒストグラムに基づいて、正常なDNA量を示す範囲(2C)にある細胞の数に対する、当該正常な細胞が有するDNA量よりも多いDNA量(S期以上)を有する細胞の数の比を算出すると、1.1%である。
これらのことから、分析対象細胞の測定データの抽出(ステップS7)及びステップS8を実行せずに、全ての単一上皮細胞について、DNA量ヒストグラムを作成すると、CIN3の被験者とNILMの被験者とで正常なDNA量を示す範囲(2C)にある細胞の数に対する、当該正常な細胞が有するDNA量よりも多いDNA量(S期以上)を有する細胞の数の比に大きな差が出にくいことが分かる。
【0095】
一方、図19のヒストグラムに基づいて、正常なDNA量を示す範囲(2C)にある細胞の数に対する、当該正常な細胞が有するDNA量よりも多いDNA量(S期以上)を有する細胞の数の比を算出すると、57.9%である。
図20のヒストグラムに基づいて、正常なDNA量を示す範囲(2C)にある細胞の数に対する、当該正常な細胞が有するDNA量よりも多いDNA量(S期以上)を有する細胞の数の比を算出すると、7.4%である。
これらのことから、分析対象細胞の測定データの抽出(ステップS7)及びステップS8を実行して、DNA量ヒストグラムを作成すると、CIN3の被験者とNILMの被験者とで正常なDNA量を示す範囲(2C)にある細胞の数に対する、当該正常な細胞が有するDNA量よりも多いDNA量(S期以上)を有する細胞の数の比に大きな差が出やすいことが分かる。本発明のように検体について再検査が必要(陽性)であるか再検査が不要(陰性)であるかのカットオフ値を16%に設定すると、CIN3の被験者は再検査が必要(陽性)と判定され、NILMの被験者は再検査が不要(陰性)と判定され、組織診あるいは細胞診の判定と合致する。
【0096】
〔その他の変形例〕
なお、今回開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、前述した実施の形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0097】
例えば、前述した実施の形態では、細胞の大きさを反映するデータとして前方散乱光強度の波形の幅を取得しているが、前方散乱光強度の波形のピーク、あるいは、前方散乱光強度の波形と所定のベースラインとで囲まれる領域の面積であってもよい。また、前述した実施の形態では、細胞核の大きさを反映するデータとして側方蛍光強度の波形の幅を取得しているが、側方蛍光強度の波形のピーク、あるいは、側方蛍光強度の波形と所定のベースラインとで囲まれる領域の面積であってもよい。
【0098】
また、前述した実施の形態では、ステップS6においてNOと判定されると、判定不能という情報を出力し、ステップS11及びステップS12の処理を行っていないが、本発明はこれに限らない。本発明は、ステップS6においてNOと判定されても、ステップS7以降の処理を実行し、ステップS11あるいはステップS12で出力される判定結果に、細胞数が少なかった旨の情報を付加して出力することができる。また、前述した実施の形態では、ステップS8においてNOと判定されると、判定不能という情報を出力し、ステップS11及びステップS12の処理を行っていないが、本発明はこれに限らない。本発明は、ステップS8においてNOと判定されても、ステップS9以降の処理を実行し、ステップS11あるいはステップS12で出力される判定結果に、細胞数が少なかった旨の情報を付加して出力することができる。
【0099】
また、前述した実施の形態では、フローサイトメータから得られる光学情報を用いて細胞核の幅・細胞のDNA量、細胞質の幅に相当するデータを取得しているが、撮像部により撮像した細胞の画像を解析することで、細胞核の幅・細胞のDNA量、細胞質の幅に相当するデータを取得することができる。
【0100】
また、前述した実施の形態では、図12に示されるようなヒストグラムを用いて、正常なG0期又はG1期にある細胞の数に対する、当該正常な細胞が有するDNA量よりも多いDNA量を有する細胞の数の比を判断基準として、抽出した細胞の解析を行っているが、ヒストグラムを用いた解析に代えて、図7に示されるようなスキャッタグラムを用いて細胞の解析を行うこともできる。具体的に、図7のスキャッタグラムにおける中層細胞、傍基底細胞および基底細胞が出現する領域(図7において、四角形内において三角形で囲まれる領域)と、癌化細胞が出現する領域(前記四角形内において三角形領域を除く領域)に属する細胞との比に基づいて、測定試料について再検査が必要(陽性)または再検査が不要(陰性)を判定することもできる。前記四角形内の領域は、細胞の大きさおよびN/C比の各パラメータを用いて抽出された細胞が出現する領域であり、前記三角形領域において三角形の斜辺が横軸と交差する点Rは、陽性検体および陰性検体を含む複数の臨床検体を用いて実験および検証を行うことにより設定することができる。前記四角形内において三角形領域を除く領域は、DNA量が異常に多い細胞が出現する領域であり、この領域に属する細胞の比が所定値以上である場合、当該測定試料は再検査が必要(陽性)であると判定することができる。
【0101】
また、前述した実施の形態では、N/C比として細胞核の幅/細胞質の幅を採用しているが、N/C比として細胞核の面積/細胞質の面積を採用することもできる。
【0102】
また、前述した実施の形態では、分析対象細胞を抽出する抽出工程において、中層細胞、傍基底細胞および基底細胞を抽出しているが、本発明がこれに限定されるものではなく、表層細胞よりも基底側の細胞の一部が含まれていればよい。具体的に、例えば傍基底細胞および基底細胞を抽出してもよいし、中層細胞および傍基底細胞を抽出してもよいし、中層細胞だけを抽出してもよいし、傍基底細胞だけを抽出してもよいし、基底細胞だけを抽出してもよい。また、抽出する細胞に、中層細胞などに加えて、表層細胞の一部が含まれていてもよい。
【0103】
また、前述した実施の形態では、N/C比と細胞質の幅の両方が抽出のためのパラメータとして用いられているが、N/C比だけを抽出のためのパラメータとすることもできる。この場合、癌化細胞の検出感度が若干低下するが、細胞質の幅を抽出のためのパラメータから外すことで解析の速度を上げることができる。図7に示されるように、N/C比を横軸とし細胞質の幅を縦軸とすると、測定試料中の細胞は右下がりの三日月形状を呈する分布を示すので、カットオフ値となるN/C比と適切に選定することで、N/C比と細胞質の幅の両方をパラメータとする場合とほぼ同数の細胞を抽出することができる。
【0104】
また、前述した実施の形態では、子宮頸部の上皮細胞を分析対象としているが、口腔など他の部位の細胞を分析対象とすることができる。
【符号の説明】
【0105】
1 癌化情報提供装置
2 測定装置
3 フローサイトメータ(光学検出部)
4 データ処理装置
5 信号処理回路
16 測定制御部
17 駆動部
18 センサ
20 マイクロプロセッサ
25 外部通信コントローラ
26 撮像部
27 本体
27a CPU
28 表示部
29 入力部
51 フローセル
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞の癌化に関する情報を提供する癌化情報提供方法であって、
上皮組織から採取された細胞を含む測定試料に光を照射して、測定試料に含まれる各細胞からの光学情報を含む測定データを取得するデータ取得工程、
前記各細胞について取得した光学情報に基づいて、測定試料中の複数の細胞の測定データのうち、前記上皮組織において表層に存在する細胞よりも基底膜側の細胞の少なくとも一部である解析対象の細胞の測定データを抽出し、抽出した測定データを解析するデータ解析工程、
および
抽出した測定データの解析結果に基づいて、細胞の癌化に関する情報を出力する情報出力工程
を含むことを特徴とする、癌化情報提供方法。
【請求項2】
前記データ取得工程は、前記光学情報として、測定試料に光を照射することによって生じる散乱光の強度を示す散乱光信号及び蛍光の強度を示す蛍光信号を取得する信号取得工程を含む、請求項1に記載の癌化情報提供方法。
【請求項3】
前記データ解析工程は、測定試料に含まれる各細胞について前記蛍光信号の波形から得られる数値と前記散乱光信号の波形から得られる数値との比を算出し、算出された比に基づいて解析対象の細胞の測定データを抽出する、請求項2記載の癌化情報提供方法。
【請求項4】
前記データ解析工程において、前記蛍光信号の波形から得られる数値は、前記蛍光信号の波形の幅であり、前記散乱光信号の波形から得られる数値は、前記散乱光信号の波形の幅である、請求項3に記載の癌化情報提供方法。
【請求項5】
前記データ解析工程は、前記算出された比が第1の閾値以上である細胞の測定データを、解析対象の細胞の測定データとして抽出する、請求項4記載の癌化情報提供方法。
【請求項6】
前記データ解析工程は、前記算出された比が第1の閾値以上であって、かつ、前記散乱光信号の波形の幅が第2の閾値以下である細胞の測定データを、解析対象の細胞の測定データとして抽出する、請求項5に記載の癌化情報提供方法。
【請求項7】
前記データ解析工程は、
解析対象として抽出した細胞について、DNA量を反映した値を算出し、
算出した値に基づいて細胞の癌化に関する情報を決定する、請求項1〜6のいずれか1項に記載の癌化情報提供方法。
【請求項8】
前記データ解析工程は、解析対象として抽出したそれぞれの細胞について前記DNA量を反映した値にもとづき、正常なDNA量を示す第一グループと前記正常なDNA量を示す範囲より大きなDNA量を示す第二グループとに分類し、前記第一グループの細胞数と前記第二グループの細胞数との比を算出し、算出した比に基づいて細胞の癌化に関する情報を決定する、請求項7記載の癌化情報提供方法。
【請求項9】
解析対象として抽出した細胞の数を第3の閾値と比較し、当該細胞の数が第3の閾値未満である場合に、前記細胞の癌化に関する情報の出力を禁止する、または、細胞数が少ない旨の情報を付加して癌化に関する情報を出力する工程を含む、請求項1〜8のいずれか1項に記載の癌化情報提供方法。
【請求項10】
前記データ取得工程に先立って、測定試料中の凝集細胞を分散させる分散工程をさらに含む、請求項1〜9のいずれか1項に記載の癌化情報提供方法。
【請求項11】
単一上皮細胞の数を第4の閾値と比較し、当該単一上皮細胞の数が第4の閾値未満である場合には、前記細胞の癌化に関する情報の出力を禁止する、または、細胞数が少ない旨の情報を付加して癌化に関する情報を出力する工程を含む、請求項1〜10のいずれか1項に記載の癌化情報提供方法。
【請求項12】
前記細胞は子宮頸部の細胞であり、且つ
前記表層に存在する細胞は表層細胞である、請求項1〜11のいずれか1項に記載の癌化情報提供方法。
【請求項13】
前記情報出力工程は、細胞の癌化に関する情報として、再検査が必要か否かに関する情報を出力する、請求項1〜12の何れか1項に記載の癌化情報提供方法。
【請求項14】
細胞の癌化に関する情報を提供する癌化情報提供装置であって、
上皮組織から採取された細胞を含む測定試料に光を照射して、測定試料に含まれる各細胞からの光学情報を含む測定データを取得するデータ取得部と、
前記各細胞について取得した光学情報に基づいて、測定試料中の複数の細胞の測定データのうち、前記上皮組織において表層に存在する細胞よりも基底膜側の細胞の少なくとも一部である解析対象の細胞の測定データを抽出し、抽出した測定データを解析して細胞の癌化に関する情報を出力する制御部と、
を含むことを特徴とする、癌化情報提供装置。
【請求項15】
前記データ取得部は、前記測定試料が流れるフローセルと、当該フローセルを流れる前記測定試料に光を照射して測定試料に含まれる細胞からの光学情報を取得する光学情報取得部とを備える、請求項14記載の癌化情報提供装置。
【請求項16】
前記光学情報取得部は、前記光学情報として、測定試料に光を照射することによって生じる散乱光の強度を示す散乱光信号及び蛍光の強度を示す蛍光信号を取得する、請求項15記載の癌化情報提供装置。
【請求項1】
細胞の癌化に関する情報を提供する癌化情報提供方法であって、
上皮組織から採取された細胞を含む測定試料に光を照射して、測定試料に含まれる各細胞からの光学情報を含む測定データを取得するデータ取得工程、
前記各細胞について取得した光学情報に基づいて、測定試料中の複数の細胞の測定データのうち、前記上皮組織において表層に存在する細胞よりも基底膜側の細胞の少なくとも一部である解析対象の細胞の測定データを抽出し、抽出した測定データを解析するデータ解析工程、
および
抽出した測定データの解析結果に基づいて、細胞の癌化に関する情報を出力する情報出力工程
を含むことを特徴とする、癌化情報提供方法。
【請求項2】
前記データ取得工程は、前記光学情報として、測定試料に光を照射することによって生じる散乱光の強度を示す散乱光信号及び蛍光の強度を示す蛍光信号を取得する信号取得工程を含む、請求項1に記載の癌化情報提供方法。
【請求項3】
前記データ解析工程は、測定試料に含まれる各細胞について前記蛍光信号の波形から得られる数値と前記散乱光信号の波形から得られる数値との比を算出し、算出された比に基づいて解析対象の細胞の測定データを抽出する、請求項2記載の癌化情報提供方法。
【請求項4】
前記データ解析工程において、前記蛍光信号の波形から得られる数値は、前記蛍光信号の波形の幅であり、前記散乱光信号の波形から得られる数値は、前記散乱光信号の波形の幅である、請求項3に記載の癌化情報提供方法。
【請求項5】
前記データ解析工程は、前記算出された比が第1の閾値以上である細胞の測定データを、解析対象の細胞の測定データとして抽出する、請求項4記載の癌化情報提供方法。
【請求項6】
前記データ解析工程は、前記算出された比が第1の閾値以上であって、かつ、前記散乱光信号の波形の幅が第2の閾値以下である細胞の測定データを、解析対象の細胞の測定データとして抽出する、請求項5に記載の癌化情報提供方法。
【請求項7】
前記データ解析工程は、
解析対象として抽出した細胞について、DNA量を反映した値を算出し、
算出した値に基づいて細胞の癌化に関する情報を決定する、請求項1〜6のいずれか1項に記載の癌化情報提供方法。
【請求項8】
前記データ解析工程は、解析対象として抽出したそれぞれの細胞について前記DNA量を反映した値にもとづき、正常なDNA量を示す第一グループと前記正常なDNA量を示す範囲より大きなDNA量を示す第二グループとに分類し、前記第一グループの細胞数と前記第二グループの細胞数との比を算出し、算出した比に基づいて細胞の癌化に関する情報を決定する、請求項7記載の癌化情報提供方法。
【請求項9】
解析対象として抽出した細胞の数を第3の閾値と比較し、当該細胞の数が第3の閾値未満である場合に、前記細胞の癌化に関する情報の出力を禁止する、または、細胞数が少ない旨の情報を付加して癌化に関する情報を出力する工程を含む、請求項1〜8のいずれか1項に記載の癌化情報提供方法。
【請求項10】
前記データ取得工程に先立って、測定試料中の凝集細胞を分散させる分散工程をさらに含む、請求項1〜9のいずれか1項に記載の癌化情報提供方法。
【請求項11】
単一上皮細胞の数を第4の閾値と比較し、当該単一上皮細胞の数が第4の閾値未満である場合には、前記細胞の癌化に関する情報の出力を禁止する、または、細胞数が少ない旨の情報を付加して癌化に関する情報を出力する工程を含む、請求項1〜10のいずれか1項に記載の癌化情報提供方法。
【請求項12】
前記細胞は子宮頸部の細胞であり、且つ
前記表層に存在する細胞は表層細胞である、請求項1〜11のいずれか1項に記載の癌化情報提供方法。
【請求項13】
前記情報出力工程は、細胞の癌化に関する情報として、再検査が必要か否かに関する情報を出力する、請求項1〜12の何れか1項に記載の癌化情報提供方法。
【請求項14】
細胞の癌化に関する情報を提供する癌化情報提供装置であって、
上皮組織から採取された細胞を含む測定試料に光を照射して、測定試料に含まれる各細胞からの光学情報を含む測定データを取得するデータ取得部と、
前記各細胞について取得した光学情報に基づいて、測定試料中の複数の細胞の測定データのうち、前記上皮組織において表層に存在する細胞よりも基底膜側の細胞の少なくとも一部である解析対象の細胞の測定データを抽出し、抽出した測定データを解析して細胞の癌化に関する情報を出力する制御部と、
を含むことを特徴とする、癌化情報提供装置。
【請求項15】
前記データ取得部は、前記測定試料が流れるフローセルと、当該フローセルを流れる前記測定試料に光を照射して測定試料に含まれる細胞からの光学情報を取得する光学情報取得部とを備える、請求項14記載の癌化情報提供装置。
【請求項16】
前記光学情報取得部は、前記光学情報として、測定試料に光を照射することによって生じる散乱光の強度を示す散乱光信号及び蛍光の強度を示す蛍光信号を取得する、請求項15記載の癌化情報提供装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【公開番号】特開2013−55950(P2013−55950A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−250316(P2012−250316)
【出願日】平成24年11月14日(2012.11.14)
【分割の表示】特願2011−160746(P2011−160746)の分割
【原出願日】平成23年7月22日(2011.7.22)
【出願人】(390014960)シスメックス株式会社 (810)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年11月14日(2012.11.14)
【分割の表示】特願2011−160746(P2011−160746)の分割
【原出願日】平成23年7月22日(2011.7.22)
【出願人】(390014960)シスメックス株式会社 (810)
【Fターム(参考)】
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