説明

発泡成形用金型及び発泡成形品

【課題】発泡成形品の薄肉化された端部に白化傷が発生することを防止できること。
【解決手段】固定型11に対して移動可能な可動型12と前記固定型に囲まれて発泡成形用のキャビティ14と、このキャビティに順次連続するゲート15及びランナー16等とが形成され、これらのランナー及びゲートを経てキャビティ14内に溶融樹脂1を充填した後、可動型12を固定型11から離反させることで溶融樹脂1を発泡させて発泡成形品4を得る発泡成形用金型10において、キャビティ14を形成する固定型11と可動型12の少なくとも一方には、発泡成形品4の端部5が薄肉となるようにキャビティ14における端部5の成形部分が狭隘部として形成されると共に、端部5におけるゲート15の近傍に対応する位置にリブ6が成形されるようリブ用凹部23が形成されたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、端部が薄肉化された発泡成形品を成形する発泡成形用金型、及び発泡成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車等の車両から排出される二酸化炭素(CO)を削減するため、燃費の向上が求められており、車両軽量化が必須となっている。このような車両軽量化の一環として、これまでには自動車等の内装樹脂部品を薄肉化により軽量化する手法が提案されているが、製品を薄肉化すると剛性を確保することが難しくなる。
【0003】
そこで、軽量化を図りつつ剛性を確保する方法として、射出発泡成形を適用することが知られている。射出発泡成形は、例えば1対の開閉可能な金型を適用し、これらの両金型を組立てた状態で、発泡剤を添加した溶融樹脂を金型に射出し、その後に片側の金型を所定量開いて離反させた状態とすること(以下、「コアバック」という。)で発泡させる方法である。
【0004】
この射出発泡成形では、樹脂が金型のキャビティ内に射出された瞬間に圧力が開放され、樹脂が発泡を開始する。従って、金型内に射出された溶融樹脂は発泡しながら金型内を流動するが、このとき、気泡の破裂によって起こる銀白色の条痕(スワールマーク)が製品表面に発生する。また、溶融樹脂の流動過程において、溶融樹脂がエアを巻き込むと発泡成形品の表面に窪みが発生する。
【0005】
このような外観不良対策のため、従来では熱可塑化した発泡樹脂を、予めエア等の気体で発泡圧以上に加圧した金型内に射出し、金型内への溶融樹脂の充填中に、この発泡樹脂の発泡を抑制して外観不良(スワールマークや窪み)や発泡ガスの抜けを抑制し、更に、射出完了後に金型をコアバックし、キャビティを増大させて溶融樹脂を発泡させるときに、金型内に残留した気体を吸引あるいは減圧することで発泡を促進し、更に、樹脂と金型との間にトラップされたエアを除去して発泡成形品に窪みが発生することを抑制するものが提案されている(例えば、特許文献1等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭49−25061号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、図8に示すように、発泡成形用金型100にて成形される発泡成形品101は、その端面102が発泡成形用金型100のパーティングライン103と一致する位置関係にある。このパーティングライン103は、発泡成形用金型100を構成する固定型104と、この固定型104に対して移動可能な移動型105とにおいて、固定型104と可動型105及び発泡成形品101とが分離するラインである。
【0008】
尚、図8中の符号106は射出成形機であり、この射出成形機106からの溶融樹脂107が、固定型104に形成されたホットランナー108、スプール109、ランナー110及びゲート111を経て、発泡成形用のキャビティ112に導かれ、このキャビティ112内に充填される。キャビティ112内での溶融樹脂107の充填は、前述の如く加圧状態下で実施され、充填完了後、可動型105がコアバックすると同時にキャビティ112内が減圧されて、このキャビティ112内で溶融樹脂107が発泡し発泡成形品101が得られる。
【0009】
前述のように発泡成形品101の端面102と発泡成形用金型100のパーティングライン103とが一致する場合には、図9に示すように、可動型105をコアバックさせたときに、溶融樹脂107の冷却が不十分になって発泡成形品101の端部113に玉縁形状部114が生じてしまう。そこで、この玉縁形状部114の発生を防止するために、図10に示すように、発泡成形品101の端部115が薄肉となるように、キャビティ116における端部115の成形部分が狭隘部117として形成された発泡成形用金型118が用いられる。
【0010】
しかしながら、図10に示す発泡成形用金型118を採用した場合には、図11(A)に示すように、可動型105が固定型104に対して閉じた状態(コアバックした状態)から、図11(B)に示すように、可動型105が固定型104に対し離反し発泡成形品101を発泡成形用金型118から取り出す際に、発泡成形品101の薄肉の端部115が固定型104のゲート111内で固化された樹脂に引っ張られて塑性変形し、この端部115に白化傷119が発生する恐れがある。
【0011】
本発明の目的は、上述の事情を考慮してなされたものであり、発泡成形品の薄肉化された端部に白化傷が発生することを防止できる発泡成形用金型及び発泡成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る発泡成形用金型は、固定型に対して移動可能な可動型と前記固定型に囲まれて発泡成形用のキャビティと、このキャビティに順次連続するゲート及びランナーとが形成され、これらのランナー及びゲートを経て前記キャビティ内に溶融樹脂を充填した後、前記可動型を前記固定型から離反させることで前記溶融樹脂を発泡させて発泡成形品を得る発泡成形用金型において、前記キャビティを形成する前記固定型と前記可動型の少なくとも一方には、前記発泡成形品の端部が薄肉となるように前記キャビティにおける前記端部の成形部分が狭隘部として形成されると共に、前記端部における前記ゲート近傍に対応する位置にリブが成形されるようリブ用凹部が形成されたことを特徴とするものである。
【0013】
また、本発明に係る発泡成形品は、固定型に対して移動可能な可動型と前記固定型に囲まれて発泡成形用のキャビティと、このキャビティに順次連続するゲート及びランナーとが形成された発泡成形用金型を用いて、前記ランナー及び前記ゲートを経て前記キャビティ内に溶融樹脂を充填した後、前記可動型を前記固定型から離反させることで前記溶融樹脂を発泡させて得られた発泡成形品において、端部が、前記キャビティに形成された狭隘部によって薄肉化されると共に、前記端部には、前記発泡成形用金型のリブ用凹部によって、前記ゲート近傍に対応する位置にリブが成形されたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る発泡成形用金型及び発泡成形品によれば、発泡成形用金型のキャビティの狭隘部によって発泡成形品の端部が薄肉化されると共に、発泡成形用金型のリブ用凹部によって、発泡成形品の薄肉化された端部には、発泡成形用金型のゲート近傍に対応する位置にリブが成形される。このため、発泡成形品の薄肉化された端部がリブによって剛性が確保されるので、発泡成形用金型の可動型を固定型から離反させて発泡成形品を取り出すとき、この発泡成形品の薄肉化された端部が、ゲート内の固化された樹脂に引っ張られて塑性変形することを防止できる。この結果、発泡成形品の薄肉化された端部に白化傷が発生することを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る発泡成形用金型の一実施形態を示す縦断面図。
【図2】図1の射出成形機の構成を概略して示す断面図。
【図3】図1の発泡成形用金型を用いた発泡成形の工程(A)〜(E)を示す工程図。
【図4】図1のパーティングラインPに沿って矢印IV方向に目視した矢視図。
【図5】図1の発泡成形用金型により成形された発泡成形品のリブ周辺を示す斜視図。
【図6】図5のVI矢視図。
【図7】図1に示す発泡成形品の上面を含むVII−VII線に沿う断面図であり、(A)が発泡成形用金型の閉じた状態を、(B)が発泡成形用金型を開いて発泡成形品を取り出す状態をそれぞれ示す断面図。
【図8】比較形態としての発泡成形用金型を示す縦断面図。
【図9】図8の発泡成形用金型をコアバックさせたときに生ずる玉縁形状部を説明する部分断面図。
【図10】他の比較形態としての発泡成形用金型を示す縦断面図。
【図11】図10に示す発泡成形品の上面を含むXI−XI線に沿う部分断面図であり、(A)が発泡成形用金型を閉じた状態を、(B)が発泡成形用金型を開いて発泡成形品を取り出す状態をそれぞれ示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための実施形態を図面に基づき説明する。但し、本発明は、これらの実施の形態に限定されるものではない。
【0017】
図1に示すように、本実施形態の発泡成形用金型10は、射出成形機13から溶融樹脂1が供給される固定型11と、この固定型11に対して移動可能に組み合される可動型12とを備えて構成される。
【0018】
固定型11は、全体として凸形をなすブロック体として構成され、例えば中央位置から凸部11Aが突出する形状に形成される。また、可動型12は、固定型11の凸部11Aに嵌合し得る凹形状の凹部12Aを有する断面凹形のブロック体として構成される。固定型11に対する可動型12の移動量は調整可能に構成されている。
【0019】
固定型11と可動型12との接合位置、つまり固定型11の凸部11Aと可動型12の凹部12A間に、発泡成形用のキャビティ14が形成されている。また、固定型11には、キャビティ14に順次連続してゲート15、ランナー16、スプール17及びホットランナー18が形成され、ホットランナー18に射出成形機13が連通して接続される。この射出成形機13からの溶融樹脂1がホットランナー18、スプール17、ランナー16、ゲート15を順次流れてキャビティ14内に供給(射出)される。
【0020】
ここで、射出成形機13は、図2に示すように、シリンダ19内にスクリュー20が軸周りに回転可能で、且つ軸方向に移動可能に収容されて構成される。更に、シリンダ19にはホッパ21が設置されると共に、シリンダ19の外側にヒータ等の加熱源(不図示)が配置されている。ホッパ21に、例えばポリプロピレン(PP)などの熱河塑性樹脂の樹脂ペレット2と、化学発泡剤マスターバッチ3がそれぞれ投入される。
【0021】
ホッパ21に投入された樹脂ペレット2及び化学発泡剤マスターバッチ3は、スクリュー20が回転しながら後退する間に、加熱源により加熱されて溶融状態になり、シリンダ19の先端に溜められる。このシリンダ19の先端に溜まった所定量の溶融樹脂1は、スクリュー20が前進することで発泡成形用金型10へ射出され、前述の如く発泡成形用金型10のキャビティ14内に導かれて充填される。キャビティ14に充填された溶融樹脂1は、後述の如く発泡され冷却されて発泡成形品4になる。
【0022】
発泡成形用金型10による発泡成形工程について、図3を用いて説明する。図3(A)に示すように、発泡成形用金型10は型締めされた後、図示しないエア供給・排出穴からキャビティ14にエアが供給されてキャビティ14内が加圧される。このときのキャビティ14内の圧力は、溶融樹脂1の発泡を抑制する圧力に設定される。
【0023】
この状態で、図3(B)に示すように、発泡成形用金型10のキャビティ14内に射出成形機13から溶融樹脂1が射出される。キャビティ14内が上述の如く加圧されることで、このキャビティ14内への溶融樹脂1の充填中に、この溶融樹脂1の発泡が抑制される。
【0024】
キャビティ14内への溶融樹脂1の充填完了後、図3(C)に示すように、可動型12を固定型11に対し矢印α方向に所定量離反(コアバック)させて、キャビティ14内の溶融樹脂1を発泡させる。可動型12のコアバックと同時またはその前のタイミングで、キャビティ14内のエアをエア供給・排出穴(不図示)から吸引してキャビティ14内を減圧する。この減圧により、溶融樹脂1の発泡が促進される。
【0025】
その後、図3(D)に示すように、可動型12をコアバックした状態で溶融樹脂1を冷却して固化させる。そして、図3(E)に示すように、可動型12を固定型11に対して更に離反させて、キャビティ14内で固化した溶融樹脂1、つまりキャビティ14にて成形された発泡成形品4を取り出す。
【0026】
ところで、図1に示すように、キャビティ14を形成する固定型11及び可動型12には、図4及び図5に示すように、発泡成形品4の端部5が薄肉構造になるように、キャビティ14における上記端部5の成形部分が狭隘部22(図1)として形成されている。発泡成形品4の端部5が薄肉化されることで、可動型12のコアバック時における溶融樹脂1の冷却が迅速に行われて、発泡成形品4の端部5に玉縁形状部114(図9)が生ずることが防止される。
【0027】
ここで、図1中の符号Pは、可動型12を固定型11から離反させるときのパーティングラインを示す。このパーティングラインPは、固定型11と可動型12及び発泡成形品4とが分離する面に設けられたものである。
【0028】
図4及び図5に示すように、発泡成形品4の端部5におけるゲート15の近傍に対応する位置にリブ6が成形されるように、固定型11には、図1及び図7(B)に示すようにリブ用凹部23が形成されている。このリブ用凹部23は、発泡成形品4の端部5を成形する狭隘部22に連続してゲート15の両側に形成される。これにより、図4及び図5に示すように、リブ用凹部23により成形されるリブ6が発泡成形品4の端部5と一体化されて、端部5におけるゲート15の近傍に対応する位置の剛性が高められる。
【0029】
例えば、図6に示すように、発泡成形品4に成形される端部5の板厚t1がt1=0.5〜1.0mmで、固定型11のゲート15の幅WがW=5mmのとき、発泡成形品4に成形されるリブ6は、ゲート15の両端からの距離SがS=1〜2mmだけ離れた位置に、板厚t2をt2=0.8〜1mmとして形成される。従って、このときの両リブ6間の距離Lは、L=7〜9mmに設定される。尚、この具体例において、固定型11に形成されるゲート15は、長軸が5mmで短軸が0.5〜1.0mmの断面楕円形状に形成されている。
【0030】
以上のように構成されたことから、本実施の形態によれば、次の効果(1)及び(2)を奏する。
【0031】
(1)発泡成形用金型10のキャビティ14の狭隘部22によって発泡成形品4の端部5が薄肉化されると共に、発泡成形用金型10のリブ用凹部23によって、発泡成形品4の薄肉化された端部5には、発泡成形用金型10のゲート15近傍に対応する位置にリブ6が成形される。このため、発泡成形品4の薄肉化された端部5がリブ6によって剛性が確保される。
【0032】
図7(A)に示すように、可動型12が固定型11に対し閉じた状態(コアバックした状態)から、図7(B)に示すように、可動型12が固定型11に対し離反し発泡成形品4を発泡成形用金型10から取り出す際には、この発泡成形品4の薄肉の端部5とゲート15内で固化された樹脂とが引っ張られて切断される。このとき、発泡成形品4の薄肉化された端部5の剛性がリブ6によって確保されているので、発泡成形品4の薄肉の端部5がゲート15内の固化された樹脂に引っ張られても塑性変形することを防止できる。この結果、発泡成形品4の薄肉化された端部5に白化傷119(図11)が発生することを防止できる。
【0033】
(2)発泡成形品4の端部5が薄肉化されることで、可動型12のコアバック時における溶融樹脂1の冷却が迅速に行われて、発泡成形品4の端部5に玉縁形状部114(図9)の発生が防止される。このため、この玉縁形状部114を、発泡成形品4の成形後の工程で切削する必要がなくなり、製造コストを低減できる。
【0034】
以上、本発明を上記実施の形態に基づいて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々変形することができる。
【符号の説明】
【0035】
1 溶融樹脂
4 発泡成形品
5 端部
6 リブ
10 発泡成形用金型
11 固定型
12 可動型
14 キャビティ
15 ゲート
22 狭隘部
23 リブ用凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定型に対して移動可能な可動型と前記固定型に囲まれて発泡成形用のキャビティと、このキャビティに順次連続するゲート及びランナーとが形成され、これらのランナー及びゲートを経て前記キャビティ内に溶融樹脂を充填した後、前記可動型を前記固定型から離反させることで前記溶融樹脂を発泡させて発泡成形品を得る発泡成形用金型において、
前記キャビティを形成する前記固定型と前記可動型の少なくとも一方には、前記発泡成形品の端部が薄肉となるように前記キャビティにおける前記端部の成形部分が狭隘部として形成されると共に、
前記端部における前記ゲート近傍に対応する位置にリブが成形されるようリブ用凹部が形成されたことを特徴とする発泡成形用金型。
【請求項2】
前記リブ用凹部は、発泡成形品の端部を成形する狭隘部に連続してゲートの両側に形成されたことを特徴とする請求項1に記載の発泡成形用金型。
【請求項3】
前記リブ用凹部は、ゲートと共に固定型に形成されたことを特徴とする請求項1に記載の発泡成形用金型。
【請求項4】
固定型に対して移動可能な可動型と前記固定型に囲まれて発泡成形用のキャビティと、このキャビティに順次連続するゲート及びランナーとが形成された発泡成形用金型を用いて、前記ランナー及び前記ゲートを経て前記キャビティ内に溶融樹脂を充填した後、前記可動型を前記固定型から離反させることで前記溶融樹脂を発泡させて得られた発泡成形品において、
端部が、前記キャビティに形成された狭隘部によって薄肉化されると共に、
前記端部には、前記発泡成形用金型のリブ用凹部によって、前記ゲート近傍に対応する位置にリブが成形されたことを特徴とする発泡成形品。
【請求項5】
前記リブは、発泡成形用金型のゲートの両側に対応する位置に、端部と一体化されて成形されたことを特徴とする請求項4に記載の発泡成形品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−126023(P2012−126023A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−279699(P2010−279699)
【出願日】平成22年12月15日(2010.12.15)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】