説明

直鎖状アルファオレフィンを調製する方法

本発明は、溶媒および均一系触媒の存在下でのエチレンのオリゴマー化により直鎖状アルファオレフィン(LAO)を調製する方法であって、(i)オリゴマー化反応装置にエチレン、溶媒および触媒を供給し、(ii)この反応装置内でエチレンをオリゴマー化させ、(iii)反応装置から反応装置出口配管系を通じて、溶媒、直鎖状アルファオレフィン、エチレン、および触媒を含む反応装置出口流を取り出し、(iv)この反応装置出口流を触媒失活および除去工程に移し、(v)この反応装置出口流から触媒を除去する各工程を有してなり、少なくとも1種類の有機アミンがオリゴマー化反応装置および/または反応装置出口配管系に加えられることを特徴とする方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直鎖状アルファオレフィン(LAO)を調製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
均一系触媒を利用したエチレンのオリゴマー化プロセスが広く知られている。例えば、特許文献1には、直鎖状アルファオレフィンを得るためのエチレンのオリゴマー化プロセスであって、エチレンが、ジルコニウム成分およびアルミニウム成分を含む触媒を利用して空の環状反応装置内で触媒的に転化されるプロセスが開示されている。このプロセスは、ガス状と液状の出口流が得られる連続様式で行われることが都合よい。液状出口流は、通常、溶媒、触媒、溶解したエチレンおよび直鎖状アルファオレフィンを含有する。この触媒は、苛性アルカリにより失活させることが好ましいであろが、水、アルコールまたは脂肪酸などの他の失活剤(quenching agent)も当該技術分野において知られている。失活された触媒は、溶媒、エチレンおよびアルファオレフィンを含む相から抽出されることも好ましい。
【0003】
従来技術の欠点の1つは、触媒失活工程と触媒除去工程の最中に、LAOの望ましくない異性化を触媒するであろうHClが形成されることである。HClが存在するために、高純度であるが、限られた純度の所望のLAO生成物しか得られない。さらに、意図しない暴走反応に対するオリゴマー化の感度が極めて高い。その上、得られたLAO生成物は、限られた熱安定性しか持たない。さらに、微量の高分子量直鎖状アルファオレフィンによる詰まりやファウリング(fouling)などの、オリゴマー化反応装置および反応装置出口配管系中の副反応が生じることがあり、これらのことは、生成物の品質に影響をもたらすであろう。触媒の失活および除去工程において、さらに、直鎖状アルファオレフィンと苛性アルカリの混合効率に制限が存在し得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】独国特許発明第4338414C1号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、本発明の課題は、従来技術の欠点を克服した、直鎖状アルファオレフィンを調製する方法を提供すること、特に、オリゴマー化反応装置内の副反応が実質的に避けられる、触媒の失活中のHClの形成を避ける方法を提供すること、並びに高純度と高い熱安定性を備えたLAO生成物を生成することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この課題は、溶媒および均一系触媒の存在下でのエチレンのオリゴマー化により直鎖状アルファオレフィン(LAO)を調製する方法であって、
(i) オリゴマー化反応装置にエチレン、溶媒および触媒を供給し、
(ii) この反応装置内でエチレンをオリゴマー化させ、
(iii) 反応装置から反応装置出口配管系を通じて、溶媒、直鎖状アルファオレフィン、エチレン、および触媒を含む反応装置出口流を取り出し、
(iv) この反応装置出口流を触媒失活および除去工程に移し、
(v) この反応装置出口流から触媒を除去する
各工程を有してなり、
少なくとも1種類の有機アミンがオリゴマー化反応装置および/または反応装置出口配管系に加えられることを特徴とする方法により達成される。
【0007】
アミンが、触媒成分をオリゴマー化反応装置に供給する前に、触媒成分と混合されることが好ましい。
【0008】
アミンが連続的に加えられることが好ましい。
【0009】
有機アミンは、第一級、第二級、第三級または環状アミンであってよい。
【0010】
ある実施の形態において、有機アミンは、直鎖状アルファオレフィンを含有する有機相中に可溶性である。
【0011】
有機アミンが、水中または水と苛性アルカリとの混合物中に不溶性であるか、または低い溶解度を有することがさらに好ましい。
【0012】
有機アミンが、蒸留、抽出または吸着によって、反応装置出口流または1種類以上の生成物から除去されることが好ましいであろう。
【0013】
最も好ましい実施の形態において、除去された有機アミンは、好ましくは溶媒と共に、反応装置および/または反応装置出口配管系に再循環される。
【0014】
加えられるアミンは、溶媒、好ましくはトルエン中または直鎖状アルファオレフィン分画または直鎖状アルファオレフィン生成物中に溶解されてもよい。
【0015】
その上、アミンは反応装置出口配管系中において、混合装置、好ましくはスタティックミキサ、ダイナミックミキサ、超音波ミキサまたはベンチュリ混合ノズルにより、反応装置出口流と混合されることが都合よい。
【0016】
さらに別の実施の形態において、アミンは、触媒とアミンをオリゴマー化反応装置に供給する前に、触媒成分と混合される。
【0017】
触媒が苛性アルカリにより失活されることがさらに好ましい。
【0018】
ある実施の形態において、アミンは、20℃以下、好ましくは10℃以下、さらに好ましくは5℃以下しか、利用される溶媒の沸点とは違わない沸点を有する。
【0019】
触媒が、有機酸のジルコニウム塩および少なくとも1種類の有機アルミニウム化合物を含むことが好ましい。
【0020】
このジルコニウム塩が式ZrCl4-mmを有することがさらに好ましく、ここで、X=OCORまたはOSO3R’、RおよびR’が独立して、アルキル、アルケンまたはフェニルであり、0<m<4である。
【0021】
有機アミンが、塩化物に対して0.1から2.0モル当量、好ましくは塩化物に対して0.5から1.0モル当量の量で加えられることも好ましい。
【0022】
少なくとも1種類のアルミニウム化合物が、一般式R1nAl3-nまたはAl2313を有すると提案することが好ましく、ここで、R1は、1から20の炭素原子を有するアルキル基を表し、YはCl、BrまたはIを表し、nは1<n<2の範囲内にある任意の数である。
【0023】
意外なことに、本発明の方法を利用することによって、すなわち、オリゴマー化反応装置および/または反応装置出口配管系に有機アミンを加えることによって、従来技術の欠点を克服できることが判明した。
【0024】
詳しくは、触媒失活および除去工程中に、HClの形成は観察されなかった。その上、HClが存在しないので、増大した純度のLAO生成物が得られた。さらに、改善された反応安定性が達成された、すなわち、アミンが反応の調整剤として働くので、反応の暴走に対する感度が低かった。除去区画における酸触媒副反応が阻害される(酸性部位が存在しない)ので、さらに、LAO生成物は増大した熱安定性を有する。
【0025】
適量のアミンを反応装置出口ラインに投与すると、反応装置出口配管系のファウリングおよび詰まりが完全に防がれることがさらに分かった。さらに意外なことに、部分的にファウリングしたまたは詰まった出口ラインが、適切な流量のアミン投与を使用することによって、詰まりを取り除けることが分かった。その上、触媒成分をオリゴマー化反応装置に供給する前にアミンを触媒成分と混合することにより、生成物の純度が増加し、オリゴマー化反応装置内のファウリング/詰まりが減少した。
【0026】
オリゴマー化反応装置および反応装置出口配管系中の副反応が抑制されることがさらに分かった。
【0027】
最後に、触媒失活および除去工程におけるLAOおよび苛性アルカリの混合系における混合効率が、おそらくアミンの界面活性剤効果のために、増加する。
【0028】
最も好ましい方法において、有機アミンは、蒸留、抽出または吸着により反応装置出口流から除去され、次いで、その除去された有機アミンは、反応装置および/または反応装置出口配管系に再循環される。この再循環は、好ましくは溶媒と共に、さらに好ましくはLAO生成物の分画と共に、最も好ましくはC10〜C12分画と共に行って差し支えない。投与されたアミンの回収と再循環により、アミンの費用が著しく減少するので、プロセスの経済性が著しく改善される。取り込まれる新たなアミンのコストはほとんどなく、プラントからの任意の損失を補うためのわずかな埋合せ流のコストしかない。
【0029】
直鎖状アルファオレフィンを含有する有機相中の溶解度が良好であるが、水中または水と苛性アルカリの混合物中の溶解度がわずかしかまたは全くない有機アミンを使用することが好ましい。例えば、酸性基を含むアミン、アミノ酸、モノエチルアミン(MEA)、ジエチルアミン(DEA)などは適していない。
【発明を実施するための形態】
【0030】
ここで、本発明の方法の追加の特徴および利点は、その好ましい実施の形態の詳しい説明から明らかになるであろう。
【0031】
エチレンは、ジルコニウム成分およびアルミニウム成分を含む触媒を利用した、適切な反応装置、例えば、特許文献1に開示されたような空の環状反応装置内でオリゴマー化される。適切なジルコニウム成分はジルコニウムテトライソブチレートであり、適切なアルミニウム成分はエチルアルミニウムセスキクロライドである。
【0032】
オリゴマー化は、当該技術分野において公知の条件(温度、圧力など)下で行われる。エチレン、溶媒および触媒が導入される。溶媒、例えば、トルエン、触媒、溶媒中に溶解したエチレン、および直鎖状アルファオレフィンを含有する液状有機出口流が、反応装置から、反応装置出口配管系中に排出される。この液状有機出口流は、触媒失活および除去区画に移される。触媒は、苛性アルカリにより失活され、出口流から除去される。この苛性アルカリ相は、アルカリ金属水酸化物、好ましくはNaOHおよび/またはKOHを含有してよい。反応装置は、有機アミンをオリゴマー化反応装置に供給するための供給ラインおよび/または有機アミンを反応装置出口配管系に供給するための供給ラインを備えている。加えられたアミンは、例えば、オリゴマー化反応装置の外部の触媒成分と混合して差し支えなく、次いで、その反応装置に互いに供給して差し支えない。その上または代わりに、反応装置出口配管系に加えられるアミンは、スタティックミキサ、ダイナミックミキサ、超音波ミキサまたはベンチュリ混合ノズルなどの混合装置によって、反応装置出口流と混合して差し支えない。
【0033】
アミンは、直鎖状アルファオレフィンを別々の分画に分離するためのLAOプラントの分離ユニットに通して差し支えなく、1つ以上の生成物中で終わり、例えば、蒸留、抽出または吸着により生成物から除去される。
【0034】
他の実施の形態において、アミンは、反応装置出口流を個々の分画に分離する前に、これもまた蒸留、抽出または吸着により、その出口流からすでに除去されていても差し支えない。
【0035】
アミンは、貫流式動作様式で利用してもよい。
【0036】
アミンは、任意の手段により(例えば、蒸留または抽出により)回収され、オリゴマー化反応装置または反応装置出口配管系に再循環させても差し支えない。
【0037】
より詳しく実例において、LAOプラントの分離区画から再循環されたLAOおよび3−エチル−ヘプチル−アミンの混合物がLAO反応装置出口ラインに投与される。その投与量は、1000質量ppmのアミン濃度を達成するように調節される。C10およびC12LAO生成物の間の沸点を有するアミンは、全LAO分画と一緒に、LAOプラントの分離区画に通される。
【0038】
分離区画において、アミンは、従来の蒸留によりLAO生成物から除去される。C10およびC12生成物中に残留する微量のアミンは、要求される生成物の仕様に応じて、適切な吸着体により除去される。アミンはLAO反応装置に再循環されるので、すなわち、再循環流は3−エチル−ヘプチル−アミンとC10およびC12LAOの混合物であるので、純粋なアミン分画の生成は必要ない。
【0039】
任意のアミンの損失を補うために、アミン貯蔵容器からの少量のアミン埋合せ流がアミン系に供給される。それゆえ、分離区画は、LAO生成物からアミンを除去するため、また必要に応じて、さらに加工処理するために、LAO生成物の別々の分画への分離を行うために提供される。分離区画が、触媒失活および除去工程後にあることが好ましい。
【0040】
有機アミンを、エチレンのオリゴマー化により直鎖状アルファオレフィンを調製する方法に加えることにより、既に先に説明したような利点が得られる。
【0041】
先の説明および特許請求の範囲に開示された特徴は、別々とその任意の組合せの両方で、本発明をその様々な形態で実現するための素材となるであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶媒および均一系触媒の存在下でのエチレンのオリゴマー化により直鎖状アルファオレフィン(LAO)を調製する方法であって、
(i) オリゴマー化反応装置にエチレン、溶媒および触媒を供給し、
(ii) 前記反応装置内でエチレンをオリゴマー化させ、
(iii) 前記反応装置から反応装置出口配管系を通じて、溶媒、直鎖状アルファオレフィン、エチレン、および触媒を含む反応装置出口流を取り出し、
(iv) 前記反応装置出口流を触媒失活および除去工程に移し、
(v) 前記反応装置出口流から前記触媒を除去する、
各工程を有してなり、
少なくとも1種類の有機アミンが前記オリゴマー化反応装置および/または前記反応装置出口配管系に加えられることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記アミンが、触媒成分を前記オリゴマー化反応装置に供給する前に、該触媒成分と混合されることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記アミンが連続的に加えられることを特徴とする請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
前記有機アミンが第一級、第二級、第三級または環状アミンであることを特徴とする請求項1から3いずれか1項記載の方法。
【請求項5】
前記有機アミンが、直鎖状アルファオレフィンを含有する有機相中に可溶性であることを特徴とする請求項1から4いずれか1項記載の方法。
【請求項6】
前記有機アミンが、水中または水と苛性アルカリの混合物中に不溶性であるかまたは低い溶解度を有することを特徴とする請求項1から5いずれか1項記載の方法。
【請求項7】
前記有機アミンが、蒸留、抽出または吸着により、前記反応装置出口流または1種類以上の生成物から除去されることを特徴とする請求項1から6いずれか1項記載の方法。
【請求項8】
除去された前記有機アミンが、前記反応装置および/または前記反応装置出口配管系に再循環されることを特徴とする請求項7記載の方法。
【請求項9】
加えられた前記アミンが溶媒中に溶解していることを特徴とする請求項1から8いずれか1項記載の方法。
【請求項10】
前記アミンが、前記反応装置出口配管系内で、混合装置により、前記反応装置出口流と混合されることを特徴とする請求項1から9いずれか1項記載の方法。
【請求項11】
前記アミンが、前記触媒とアミンを前記オリゴマー化反応装置に供給する前に、触媒成分と混合されることを特徴とする請求項1から10いずれか1項記載の方法。
【請求項12】
前記触媒が苛性アルカリにより失活されることを特徴とする請求項1から11いずれか1項記載の方法。
【請求項13】
前記アミンが、使用される前記溶媒の沸点よりも20℃以下しか違わない沸点を有することを特徴とする請求項1から12いずれか1項記載の方法。
【請求項14】
前記触媒が有機酸のジルコニウム塩および少なくとも1種類の有機アルミニウム化合物を含むことを特徴とする請求項1から13いずれか1項記載の方法。
【請求項15】
前記ジルコニウム塩が式ZrCl4-mmを有し、ここで、X=OCORまたはOSO3R’、RおよびR’が独立して、アルキル、アルケンまたはフェニルであり、0<m<4であることを特徴とする請求項14記載の方法。
【請求項16】
前記有機アミンが、塩化物に対して0.1から2.0モル当量の量で加えられることを特徴とする請求項15記載の方法。
【請求項17】
前記少なくとも1種類のアルミニウム化合物が、一般式R1nAl3-nまたはAl2313を有し、ここで、R1は、1から20の炭素原子を有するアルキル基を表し、YはCl、BrまたはIを表し、nは1<n<2の範囲内に任意の数であることを特徴とする請求項14から16いずれか1項記載の方法。

【公表番号】特表2011−510939(P2011−510939A)
【公表日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−544609(P2010−544609)
【出願日】平成21年1月7日(2009.1.7)
【国際出願番号】PCT/EP2009/000030
【国際公開番号】WO2009/095147
【国際公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【出願人】(507055615)リンデ アーゲー (29)
【氏名又は名称原語表記】LINDE AG
【出願人】(502132128)サウディ ベーシック インダストリーズ コーポレイション (109)
【Fターム(参考)】