説明

砒素含有土壌の処理方法

【課題】3価の砒素の含有量が多い汚染土壌に対しても、土壌からの砒素の溶出を低減することができる砒素含有土壌の処理方法を提供する。
【解決手段】砒素を含有する土壌に、酸化剤及びセメントを添加する砒素含有土壌の処理方法。酸化剤及びセメントの添加に当たっては、土壌からの砒素の溶出の低減の観点から、土壌に酸化剤を添加した後セメントを添加することが好ましい。
上記セメントは、該セメント中の2水石膏及び半水石膏の合量に対する半水石膏の割合がSO3換算で40質量%以上であることが好ましく、ケイ酸率(S.M.)は1.3〜2.7であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、砒素を含有する土壌からの砒素の溶出を低減する方法に関し、特に、毒性の強い3価の砒素の含有量が多い汚染土壌に対しても、土壌からの砒素の溶出を低減することができる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
砒素を含有する土壌の処理方法は、浄化・除去方法又は不溶化・封じ込め方法に大別することができる。このうち、不溶化・封じ込め方法は、浄化・除去方法に比べてコストが安く、土壌汚染対策法において、基本となる処理方法として位置づけられている。
【0003】
従来より、砒素の不溶化・封じ込め方法としては、砒素を含有する土壌からの砒素の溶出を低減する方法として、土壌に酸化剤を添加した後キレート系の重金属固定剤を添加して砒素の溶出を低減する方法(例えば、特許文献1)や、土壌に酸化剤を添加した後3価の鉄を添加して砒素の溶出を低減する方法(例えば、特許文献2)が知られている。
【0004】
【特許文献1】特開2001−191063
【特許文献2】特開2001−321761
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1や特許文献2の方法では、3価の砒素の含有量が多い汚染土壌に対しては砒素の溶出を低減することが困難になるという問題がある(後述比較例3、4参照)。
【0006】
本発明は、上記従来技術の問題点、知見に鑑みなされたものであって、その目的は、3価の砒素の含有量が多い汚染土壌に対しても砒素の溶出を低減することができる砒素含有土壌の処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、3価の砒素の含有量が多い汚染土壌に対しても砒素の溶出を低減することができる砒素含有土壌の処理方法について鋭意研究した結果、砒素を含有する土壌に酸化剤及びセメントを添加することにより、上記課題を解決することができることを見いだし、本発明を完成させたものである。
【0008】
即ち、本発明は、砒素を含有する土壌に、酸化剤及びセメントを添加することを特徴とする砒素含有土壌の処理方法である(請求項1)。このように酸化剤及びセメントを併用することにより、3価の砒素の含有量が多い汚染土壌に対しても砒素の溶出を低減することができる。
本発明においては、砒素を含有する土壌に、酸化剤を添加した後セメントを添加することが好ましい(請求項2)。このように酸化剤を先に添加し、その後セメントを添加することにより、砒素の溶出をより低減することができる。
【0009】
本発明においては、上記セメントは、該セメント中の2水石膏及び半水石膏の合量に対する半水石膏の割合がSO3換算で40質量%以上であることが好ましい(請求項3)。このようなセメントを使用することにより、土壌とセメントとの混合作業が容易になるとともに、砒素の溶出をより低減することができる。
また、上記セメントのケイ酸率(S.M.)は1.3〜2.7であることが好ましい(請求項4)。このようなセメントを使用することにより、砒素の溶出をより低減することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の砒素含有土壌の処理方法では、3価の砒素の含有量が多い汚染土壌に対しても、土壌からの砒素の溶出を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明においては、砒素を含有する土壌に、酸化剤及びセメントを添加して砒素の溶出を低減する。
酸化剤としては、過酸化水素、過マンガン酸塩、過硫酸塩、過塩素酸塩、さらし粉、オゾン等の1種以上を使用することができるが、これらのうち、コストや取り扱い性等の観点から、過酸化水素を使用することが好ましい。酸化剤の添加量は、使用する酸化剤の種類や処理する土壌の性状等によっても異なるが、土壌からの砒素の溶出の低減やコスト等の観点から、乾燥土壌100質量部に対して、酸化剤の有効成分量として0.1〜10質量部とすることが好ましく、0.5〜8質量部とすることがより好ましく、1〜6質量部とすることが特に好ましい。
【0012】
セメントとしては、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント等のポルトランドセメントや、高炉セメント、フライアッシュセメント等の混合セメントや、エコセメント等を使用することができる。また、前記ポルトランドセメントに、シリカフュームや石灰石粉末等の混和材を添加したセメントも使用することができる。さらに、水硬率(H.M.)が1.8〜2.3、ケイ酸率(S.M.)が1.3〜2.3、鉄率(I.M.)が1.3〜2.8である焼成物の粉砕物と石膏を含むセメントも使用することができる。
【0013】
本発明においては、セメント中の2水石膏及び半水石膏の合量に対する半水石膏の割合は、SO3換算で40質量%以上であることが好ましい。セメント中の2水石膏及び半水石膏の合量に対する半水石膏の割合をSO3換算で40質量%以上にすることにより、土壌とセメントとの混合作業が容易になるとともに、土壌からの砒素の溶出をより低減させることができる。2水石膏及び半水石膏の合量に対する半水石膏のより好ましい割合は、SO3換算で50質量%以上であり、特に好ましくは60質量%以上である。
なお、2水石膏・半水石膏の定量は、例えば、特開平6-242035号公報に記載される試料容器を使用した熱分析(熱重量測定等)により行うことができる。
【0014】
また、本発明においては、セメントのケイ酸率(S.M.)は1.3〜2.7であることが好ましい。セメントのケイ酸率を前記範囲とすることにより、セメント中のAl3+、Fe3+の割合が増加し土壌からの砒素の溶出をより低減させることができる。セメントのケイ酸率のより好ましい範囲は、1.5〜2.6であり、特に好ましくは1.6〜2.6である。
なお、本発明においては、セメントの水硬率(H.M.)は2.0〜2.3であることが好ましい。セメントの水硬率を前記範囲とすることにより、セメント中のCaOの割合が増加し土壌からの砒素の溶出をより低減させることができる。
【0015】
セメントの添加量は、使用するセメントの種類や処理する土壌の性状等によっても異なるが、土壌からの砒素の溶出の低減や処理後の土壌の強度発現性(透水係数の低下)、さらにはコスト等の観点から、一般的には、乾燥土壌100質量部に対して1〜20質量部とすることが好ましく、2〜15質量部とすることがより好ましい。
【0016】
酸化剤及びセメントの添加に当たっては、酸化剤及びセメントを同時に土壌に添加しても良いし、土壌に酸化剤を添加した後セメントを添加しても良い。本発明においては、土壌からの砒素の溶出の低減の観点から、土壌に酸化剤を添加した後セメントを添加することが好ましい。この場合、セメントの添加は、酸化剤を添加した後1〜10分後に行うことが好ましい。
【0017】
酸化剤の添加に当たっては、酸化剤として過マンガン酸塩等の粉体の酸化剤を使用する場合は、土壌と酸化剤との接触効率を高める等の観点から、1〜5質量%の水溶液の状態で添加することが好ましい。酸化剤として過酸化水素を使用する場合は、10〜35質量%の水溶液を使用することが好ましい。
セメントの添加に当たっては、粉体状又はスラリー状いずれの状態で添加しても良く、土壌との混合容易性を重視する場合は粉体状で添加し、粉塵の発生抑制を重視する場合はスラリー状で添加する等、適宜選択することができる。なお、スラリー状で添加する場合は、スラリーの作業性等の観点から、セメントと水の質量比1:0.4〜1.5のスラリーとすることが好ましい。
【0018】
酸化剤及びセメントの添加後の土壌との混合方法は、土壌の改良深さによって異なり、改良深さが2〜3m程度までは、スタビライザや特殊バックホウ等の混合機械を用いた原位置混合方式又はプラントで連続的に事前混合方式を採用できる。一方、改良深さが3m以上の場合には、機械攪拌翼方式若しくは噴射攪拌方式を用いる深層混合処理工法又は柱配列若しくは等厚壁式を用いるソイルセメント地中連続壁工法を採用できる。
【実施例】
【0019】
以下、実施例により本発明を説明する。
1.模擬汚染土壌の作製
含水比2.7%の砂質土4kgに、蒸留水480gに亜ひ酸ナトリウム(NaAsO2)1.952gを溶解させた溶液を添加・混合後、24時間静置して、3価の砒素を多量に含有する模擬汚染土壌を作製した。なお、模擬汚染土壌中の3価の砒素の含有量は、乾燥砂質土1kg当たり289mgである。
【0020】
2.セメントの作製
普通ポルトランドセメントクリンカ(ケイ酸率:2.5、水硬率:2.15)又は普通ポルトランドセメントクリンカとケイ酸率の異なる特殊クリンカ100質量部に対して、排脱ニ水石膏(住友金属社製)及び前記排脱ニ水石膏を140℃で加熱して得た半水石膏を添加し、バッチ式ボールミルでブレーン比表面積が3250±50cm2/gとなるように同時粉砕して、セメントを作製した。使用したセメントの2水石膏及び半水石膏の合量に対する半水石膏の割合およびケイ酸率を表1に示す。なお、セメント中の全SO3量は3.0質量%とした。また、特殊クリンカの水硬率は2.1〜2.2の範囲であった。
【0021】
【表1】

【0022】
3.セメント以外の使用材料
セメント以外の使用材料を以下に示す。
高炉スラグ粉末:ブレーン比表面積が4000cm2/gの高炉スラグ粉末を使用した。
酸化剤 :関東化学(株)製の過酸化水素(31質量%水溶液)を使用した。
重金属固定剤 :キレート系の重金属固定剤を使用した。
鉄塩 :塩化鉄6水和物(FeCl3・6H2O)を使用した。
水 :水道水を使用した。
【0023】
4.供試体の製造および評価
上記各材料を表2に示す割合でホバートミキサを使用して混合した。なお、混合手順は、
模擬汚染土壌に過酸化水素を添加して1分間混合し、1分間静置後、別途作製しておいたセメントと水のスラリーを添加して3分間混合した。
混合後、JGS 0811「安定処理土の突き固めによる供試体作製」に準じて、φ5×10cmの供試体を作製した。20℃で7日間湿空養生後、環境庁告示第46号に準じて砒素の溶出試験を行った。その結果を表2に併記する。
【0024】
【表2】

【0025】
表2より、本発明の砒素含有土壌の処理方法(実施例1〜14)では、3価の砒素の含有量が多い汚染土壌(289mg/kg-dry)であっても砒素の溶出量が小さいことが分かる。
また、セメント中の2水石膏及び半水石膏の合量に対する半水石膏の割合が高いほど、
砒素の溶出量が小さくなることが分かる。
一方、セメントのみ添加した処理方法(比較例2)、酸化剤を添加した後キレート系の重金属固定剤を添加した処理方法(比較例3)、酸化剤を添加した後3価の鉄を添加した処理方法(比較例4)では、砒素の溶出量が大きかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
砒素を含有する土壌に、酸化剤及びセメントを添加することを特徴とする砒素含有土壌の処理方法。
【請求項2】
砒素を含有する土壌に、酸化剤を添加した後セメントを添加する請求項1記載の砒素含有土壌の処理方法。
【請求項3】
前記セメント中の2水石膏及び半水石膏の合量に対する半水石膏の割合がSO3換算で40質量%以上である請求項1又は2記載の砒素含有土壌の処理方法。
【請求項4】
前記セメントのケイ酸率(S.M.)が1.3〜2.7である請求項1〜3のいずれかに記載の砒素含有土壌の処理方法。

【公開番号】特開2006−21065(P2006−21065A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−198727(P2004−198727)
【出願日】平成16年7月6日(2004.7.6)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【Fターム(参考)】