説明

研磨パッドおよび研磨パッドの製造方法

【課題】研磨レートを改善し被研磨物の平坦性を向上させることができる研磨パッドおよび研磨パッドの製造方法を提供する。
【解決手段】研磨パッド10では、湿式成膜法で内部に厚さ方向に縦長の発泡3および発泡5が連続状に形成された発泡体2を備えている。発泡体2は、研磨面Pに、発泡3が開口することで開口径が30μm以下の開口4が形成された領域2aと、発泡5が開口することで開口径が50μm以上の開口6が形成された領域2bとを有している。研磨面Pに領域2aおよび領域2bがストライプ状のパターンを形成するように配されている。研磨加工時に、領域2aで被研磨物が確実に研磨加工され、領域2bでスラリの流出入が促進される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨パッドおよび研磨パッドの製造方法に係り、特に、湿式成膜法により内部に厚さ方向に縦長の多数の発泡が連続状に形成され、被研磨物を研磨加工するための研磨面を有するシート状の発泡体を備えた研磨パッドおよび該研磨パッドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、レンズ、平行平面板、反射ミラー等の光学材料、ハードディスク用ガラスディスク、フォトマスク、シリコンウエハ、液晶ディスプレイ用ガラス基板等の電子部品材料(被研磨物)では、高精度な平坦性が要求されるため、研磨パッドを使用した研磨加工が行われている。このような被研磨物の研磨加工では、平坦性の向上を図るために一度研磨加工(一次研磨)した後に仕上げ加工(二次研磨)が広く行われている。研磨加工時には、被研磨物および研磨パッド間に研磨粒子を含む研磨液(スラリ)が供給される。
【0003】
一般に、研磨パッドには、湿式成膜法で形成されたポリウレタン樹脂製のシート状の発泡体が使用されている。湿式成膜法では、水混和性の有機溶媒に樹脂を溶解させた樹脂溶液をシート状の成膜基材に塗布後、水系凝固液中で樹脂を凝固再生させる。得られた発泡体では、内部にポリウレタン樹脂の凝固再生に伴う多数の発泡が連続状に形成され、発泡体の表面には緻密な微多孔が形成された厚さ数μm程度のスキン層が形成される。このような湿式成膜法で形成された発泡体を備えた研磨パッドでは、研磨加工時に供給されるスラリが加工面で不均一に分散することを抑制するために、発泡体の表面側に溝加工等を施すことがある。これにより、研磨加工中にスラリが溝を通して加工面を移動することができるため、加工面全体にスラリを均一に分散させ、研磨レートを向上させることができる。ところが、発泡体に形成された溝の形状が被研磨物の加工面に転写されてしまい、被研磨物の平坦性が損なわれることがある。
【0004】
一方、被研磨物の種類、一次研磨や二次研磨等のレベルに合わせて、発泡体のスキン層側にドレス処理(軽度なサンディング)やバフ処理等の研削処理を施し、表面(研磨面)に開口を形成することもある。研磨面に開口が形成された研磨パッドでは、研磨加工時にかかる押圧力により発泡が伸縮するため、スラリが発泡内へ保持されつつ、流出入することで安定した研磨レートで被研磨物が研磨加工される。また、研磨中に生じたスラッジ(研磨屑)等の異物は発泡内に貯留されるため、被研磨物表面におけるスクラッチ等の発生が抑制可能である。
【0005】
スキン層側にドレス処理が施された研磨パッドとして、例えば、内部の発泡を開口させずに微多孔のみを開口させ、発泡の開口による表面硬度の低下を抑制することで、被研磨物の微少うねりを改善させる技術が開示されている(特許文献1参照)。また、スキン層を除去し内部の発泡を開口させ、従来のものより開口径の大きい発泡体を形成することで、スラリの流入、保持、排出の円滑化を図る技術が開示されている(特許文献2参照)。更には、発泡体の外周部および中央部の周速差により生じる被研磨物の平坦性の精度差を解消するために、中央部に基材を貼付せずに外周部のみに基材を貼付させ、発泡体の研磨面側にバフ処理を施し、外周部に開口径の大きい開口を、中央部に開口径の小さい開口を形成することで、被研磨物の加工面全体での研磨量の均一化を図る技術も開示されている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−243445号公報
【特許文献2】特開2007−160474号公報
【特許文献3】特開2009−136935号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の技術では、内部の発泡が開口せず微多孔が開口しているため、開口径が小さく研磨加工が進行するにつれて、樹脂が引き伸ばされ開口が閉塞される。また、研磨砥粒や研磨屑が原因で開口に目詰まりが起こり、被研磨物に対するスクラッチの発生が増大することがある。これらの問題を解消するために、ドレス処理を施すと、内部の大きな発泡が開口し、うねりの改善を達成できなくなる。また、発泡体の厚さバラツキがスキン層の厚さより大きいことから、スキン層が除去されない程度のドレス処理を施しても、発泡体の厚みバラツキを解消することができず、被研磨物を略平坦に研磨加工することが難しくなる。特許文献2の技術では、開口径が大きく発泡体のかさ密度が低いため、研磨加工中の押圧力により発泡の圧縮変形が大きくなり永久歪みが生じやすくなる。永久歪みが生じると、発泡の変形を回復させる弾性が損なわれ元に戻りにくくなる。この結果、研磨加工が進行するにつれ、研磨性能の変化が生じ、被研磨物の平坦性が低下してしまう。特許文献3の技術では、内周部に基材を貼付せずに、発泡体の外周部のみに基材を貼付するため、基材で発泡体の全面が支持されず、基材と発泡体との接着面積が不十分となるため、研磨加工時にスラリが基材との接着面にまで浸透することで、基材と発泡体とが剥離しやすくなる。
【0008】
本発明は上記事案に鑑み、研磨レートを改善し被研磨物の平坦性を向上させることができる研磨パッドおよび該研磨パッドの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の第1の態様は、湿式成膜法により内部に厚さ方向に縦長の多数の発泡が連続状に形成され、被研磨物を研磨加工するための研磨面を有するシート状の発泡体を備えた研磨パッドにおいて、前記発泡体は、前記研磨面に、前記発泡の開口が形成された第1の領域と、前記第1の領域の開口より開口径の大きい開口が形成された第2の領域とを有しており、前記第1および第2の領域がパターンを形成するように配されていることを特徴とする。
【0010】
第1の態様では、第1の領域の開口径が第2の領域の開口径より小さいため、研磨加工時に研磨面における樹脂部分の面積が確保されるため、被研磨物を確実に研磨加工でき、第2の領域の開口径が第1の領域の開口径より大きいため、研磨加工時にかかる押圧力で発泡が伸縮しやすく、発泡内のスラリの流出入が促進される。第1の態様によれば、確実に被研磨物を研磨加工する第1の領域およびスラリの流出入を促進させる第2の領域がパターンを形成するように配されたことで、研磨レートを改善し被研磨物の平坦性を向上させることができる。
【0011】
第1の態様において、第1の領域には開口径が30μm以下の開口が形成されており、第2の領域には開口径が50μm以上の開口が形成されていることが好適である。第1および第2の領域の合計の幅は、10μm〜100μmの範囲であることが好ましい。また、第1の領域の開口率は、第2の領域の開口率より小さいことが好適である。パターンは、ストライプ状、格子状、同心円状とすることができる。
【0012】
本発明の第2の態様は、第1の態様の研磨パッドの製造方法であって、水混和性有機溶媒に樹脂を溶解させた樹脂溶液を基材に凹部と凸部とが隣り合うように塗布量を変えて塗布する塗布ステップと、前記塗布ステップで基材に凹凸状に塗布された樹脂溶液を、水を主成分とする凝固液中で凝固させシート状に再生させる凝固再生ステップと、前記凝固再生ステップで再生されたシートの前記基材と反対面側に該シートの厚さが一様となるようにバフ処理またはスライス処理を施す研削処理ステップと、を含む。
【0013】
本発明の第3の態様は、第1の態様の研磨パッドの製造方法であって、水混和性有機溶媒に樹脂を溶解させた樹脂溶液を、凸部および凹部のパターンが形成された基材に表面が平坦になるように塗布する塗布ステップと、前記塗布ステップで前記基材に塗布された樹脂溶液を、水を主成分とする凝固液中で凝固させシート状に再生させる凝固再生ステップと、前記凝固再生ステップで再生されたシートを前記基材から剥離し、該シートの前記基材が剥離された面側に平坦な面を押しつけて、該シートの厚さが一様となるように表面をバフ処理またはスライス処理を施す研削処理ステップと、を含む。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、確実に被研磨物を研磨加工する第1の領域およびスラリの流出入を促進させる第2の領域がパターンを形成するように配されたことで、研磨レートを改善し被研磨物の平坦性を向上させることができる、という効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明を適用した実施形態の研磨パッドを模式的に示す断面図である。
【図2】実施形態の研磨パッドの第1および第2の領域が研磨面でストライプ状に配されたパターンを模式的に示す平面図である。
【図3】本発明を適用可能な別の態様の研磨パッドの第1および第2の領域のパターンを模式的に示す平面図であり、(A)は第1および第2の領域が同心円状に配されたパターン、(B)は第1および第2の領域が格子状に配されたパターンをそれぞれ示す。
【図4】従来の研磨パッドの研磨面に形成された開口の分布状態を模式的に示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して、本発明を適用した研磨パッドの実施の形態について説明する。
【0017】
(構成)
図1に示すように、本実施形態の研磨パッド10は、湿式成膜法によりポリウレタン樹脂で形成された発泡体2を備えている。発泡体2は、被研磨物を研磨加工するための略平坦な研磨面Pを有している。
【0018】
発泡体2は、湿式成膜法によりポリウレタン樹脂でシート状に形成されている。本例においては、湿式成膜時に形成された表面層(スキン層)がバフ処理により除去され、その表面に研磨面Pが構成されている。発泡体2には、発泡体2の厚さ方向に沿って縦長の丸みを帯びた断面三角形状の発泡3および発泡5が形成されている。発泡3および発泡5はいずれも研磨面P側の径の大きさが、研磨面Pと反対の面側より小さく形成されている。すなわち、発泡3および発泡5は、研磨面P側で縮径されている。発泡5の大きさは、発泡3の大きさより大きく形成されている。発泡体2では、バフ処理によりスキン層が除去され、発泡3および発泡5が研磨面Pで開口することで、開口径が30μm以下の開口4および開口径が50μm以上の開口6が形成されている。発泡3および発泡5の間のポリウレタン樹脂中には、発泡3や発泡5より小さい微多孔が形成されているが、図1ではそれらの小さい微多孔が省略されている。発泡3、発泡5および微多孔は、不図示の連通孔で網目状につながっている。すなわち、発泡体2は、湿式成膜法により形成された連続状の発泡構造を有している。
【0019】
発泡体2の研磨面Pに、開口径が30μm以下の開口4が主として形成された領域2aと、開口径が50μm以上の開口6が主として形成された領域2bとを有している。領域2aの開口率は領域2bの開口率より小さくなるように形成されている。領域2aおよび領域2bの開口率は、研磨面Pのうち、それぞれの領域全体の面積に対する、領域の開口面積の割合を示している。領域2aおよび領域2bの間には、開口径が30μm〜50μmの範囲の開口が段階的に形成されている。
【0020】
図2に示すように、研磨面Pにおいて、領域2aと領域2bとがストライプ状となるように規則性を保ったパターンで配されている。このとき、領域2aは、1つの領域aの一側の端と、この領域2aと領域2bを介して隣り合う領域2aの他側の端との最短距離が、1〜10mmの範囲で離間している。また、研磨面Pに対する領域2aの面積比は、1/3〜9/10の範囲に調整されている。研磨面Pに対する領域2aの面積比は、樹脂部分と開口部分とを合わせた領域全体の面積比を示している。「規則性を保ったパターン」とは、厳密な幾何学上の規則的構造を意味するものではなく、構造的に規則性が認められた状態、すなわち、開口径や開口の分布状態がランダムに形成されたものではないことを意味している。従って、開口の形状、大きさ、間隔等に若干の乱れ(バラツキ)が生じても、規則性を保ったパターンに含まれる。
【0021】
また、研磨パッド10は、研磨面Pと反対の面側に、研磨機に研磨パッド10を装着するための両面テープ7の一面側が貼り合わされている。両面テープ7は、ポリエチレンテレフタレート(以下、PETと略記する。)等の基材を有しており、その両表面に粘着剤が塗布されている。両面テープ7の他面側(最下面側)に剥離紙8を有している。
【0022】
(製造)
研磨パッド10は、ポリウレタン樹脂を溶解させた樹脂溶液を準備する準備工程、樹脂溶液を成膜基材に連続的に凹凸状に塗布する塗布工程(塗布ステップ)、水系凝固液中でポリウレタン樹脂をシート状に凝固再生させる凝固再生工程(凝固再生ステップ)、凝固再生したポリウレタン樹脂を洗浄し乾燥させる洗浄・乾燥工程、乾燥後の発泡体2の研磨面P側に、厚みを均一化させるように研削処理を施す研削処理工程(研削処理ステップ)、発泡体2に両面テープ7を貼付するラミネート加工工程を経て製造される。以下、工程順に説明する。
【0023】
準備工程では、ポリウレタン樹脂、ポリウレタン樹脂を溶解可能な水混和性の有機溶媒のN,N−ジメチルホルムアミド(以下、DMFと略記する。)および添加剤を混合してポリウレタン樹脂を溶解させる。水混和性の有機溶媒としては、水と任意の割合で混ざり合う有機溶媒であればよく、DMF以外に、例えばN,N−ジメチルアセトアミド等を用いてもよい。ポリウレタン樹脂には、ポリエステル系、ポリエーテル系、ポリカーボネート系等の樹脂から用い、例えば、ポリウレタン樹脂が30重量%となるようにDMFに溶解させる。添加剤としては、発泡3および発泡5の厚さ方向の長さや単位体積あたりの個数を制御するため、カーボンブラック等の顔料、発泡の生成を促進させる親水性活性剤及びポリウレタン樹脂の凝固再生を安定化させる疎水性活性剤等を用いることができる。得られた溶液を減圧下で脱泡してポリウレタン樹脂溶液を得る。このとき、使用されるポリウレタン樹脂溶液は、B型粘度計により測定した粘度が10,000cp以上となるように調製されている。ポリウレタン樹脂溶液の粘度は、溶液の濃度やポリウレタン樹脂の数平均分子量を変化させることで調整することができる。
【0024】
塗布工程では、準備工程で得られたポリウレタン樹脂溶液を常温下でナイフコータ等の塗布装置により帯状の成膜基材に凹部と凸部とが隣り合って配されるように、塗布厚さ(塗布量)を変えて連続的に塗布する。このとき、ナイフコータ等と成膜基材との間隙(クリアランス)を周期的に変えながら塗布することで、ポリウレタン樹脂溶液の塗布厚さが調整される。本例では、領域2aと領域2bとがストライプ状となるように塗布厚さを調整する。すなわち、領域2aが形成される部分では塗布厚さを小さくすることで凹状に、領域2bが形成される部分では塗布厚さを大きくすることで凸状にし、凹部と凸部との高低差が50〜200μmの範囲となるようにポリウレタン樹脂溶液を塗布する。本例では、ポリウレタン樹脂溶液の凹部と凸部との高低差が100μmとなるように凸部の厚みを750μm、凹部の厚みを650μmに調整する。成膜基材にはPET樹脂等の樹脂製の不織布やフィルムを用いることができるが、本例では、成膜基材としてPET製フィルムが用いられる。
【0025】
凝固再生工程では、成膜基材に塗布されたポリウレタン樹脂溶液が、凹凸状のままポリウレタン樹脂に対して貧溶媒である水を主成分とする凝固液(水系凝固液)に案内される。まず、塗布された樹脂溶液の表面側に微多孔が形成され厚さ数μm程度のスキン層が形成される。その後、混合液中のDMFと凝固液との置換の進行によりポリウレタン樹脂が成膜基材上に凹凸状に凝固再生する。DMFが混合液から脱溶媒し、DMFと凝固液とが置換することで、スキン層より内側のポリウレタン樹脂中に発泡3、発泡5および図示を省略した発泡が形成され、発泡3、発泡5および図示を省略した発泡が網目状に連通する。ポリウレタン樹脂の凸部には発泡5のような発泡が形成され、凹部には発泡3のような発泡が形成される。すなわち、発泡3および発泡5は、ポリウレタン樹脂の塗布厚さ全体に亘り形成されるため、凸部に形成された発泡5の大きさは、凹部に形成された発泡3の大きさより大きく形成される。このとき、成膜基材のPETシートが水を浸透させないため、混合液の表面側(スキン層側)で脱溶媒が生じて成膜基材側が表面側より大きな発泡3および発泡5が形成される。
【0026】
洗浄・乾燥工程では、凝固再生工程で凝固再生したシート状のポリウレタン樹脂(以下、成膜樹脂という。)を成膜基材から剥離し、水等の洗浄液中で洗浄して成膜樹脂中に残留するDMFを除去する。洗浄後、成膜樹脂をシリンダ乾燥機で乾燥させる。シリンダ乾燥機は内部に熱源を有するシリンダを備えている。成膜樹脂がシリンダの周面に沿って通過することで乾燥する。乾燥後の成膜樹脂は、ロール状に巻き取られる。
【0027】
研削処理工程では、表面が凹凸状に形成された成膜樹脂の厚みが一様となるように成膜樹脂の表面に形成されたスキン層側に研削処理を施す。成膜樹脂の厚みの大きな部分に形成された発泡5の大きさは、厚みの小さな部分に形成された発泡3の大きさより大きく、発泡3および発泡5はいずれもスキン層側で縮径されている。このため、基材を剥離した面から一定の厚さ位置でみると、発泡5の発泡径が発泡3の発泡径より大きくなる。従って、スキン層側に研削処理を施すことで、成膜樹脂の内部に形成された発泡3および発泡5は、それぞれ研磨面Pで開口して開口径が30μm以下の開口4および開口径が50μm以上の開口6が形成される。研削処理には、バフ機やスライス機等を用いることができる。これにより、凹凸状に形成された成膜樹脂の厚みが均一化され、発泡体2が得られる。
【0028】
ラミネート加工工程では、得られた発泡体2の研磨面Pと反対側の面に両面テープ7の一面側を貼り合わせる。両面テープ7の他面側は剥離紙8で覆われている。そして、所望の形状、サイズに裁断し、汚れや異物等の付着がないことを確認する等の検査を行い、研磨パッド10を完成させる。
【0029】
(作用)
次に、本実施形態の研磨パッド10の作用等について説明する。
【0030】
本実施形態の研磨パッド10では、発泡体2の研磨面Pに、開口径が30μm以下の開口4が主として形成された領域2aと開口径が50μm以上の開口6が主として形成された領域2bとを有している。このため、領域2bでは、研磨加工時にかかる押圧力により発泡5が伸縮しやすく、発泡内のスラリの流出入が促進される。また、研磨加工中に生じたスラッジ等の異物が発泡内に貯留しやすくなり、被研磨物表面におけるスクラッチ等の発生を抑制することができる。領域2aの開口径や開口率は、領域2bの開口径や開口率より小さくなるように形成されている。このため、領域2aでは、研磨加工時に研磨面Pの樹脂部分の面積が確保され、被研磨物を確実に研磨加工することができる。
【0031】
また、本実施形態の研磨パッド10では、研磨加工を確実に行う領域2aおよび発泡内のスラリの流出入を促進させる領域2bがパターンを形成するようにストライプ状に配されている。また、領域2aおよび領域b2の合計の幅が10〜100mmの範囲となるように調整されている。このため、研磨加工時に、加工面全体にスラリをムラなく、略均一に分散させることができるため、研磨レートが向上し、被研磨物を平坦化させることができる。領域2aおよび領域2bの合計の幅が10mmより小さい範囲で離間していると、加工面でスラリのムラができやすくスラリの分散状態が不均一化し、略平坦に被研磨物を研磨加工しにくくなる。反対に、領域2aおよび領域2bの合計の幅が100mmより大きい範囲で離間していると、被研磨物を確実に研磨加工する領域2aが減少するため、研磨レートを改善することができなくなる。
【0032】
更に、本実施形態の研磨パッド10では、研磨面Pに対する領域2a面積比が、1/3〜9/10の範囲に調整されている。このため、領域2aの研磨加工を確実に行う作用と、領域2bの発泡内のスラリの流出入を促進する作用とをバランスよく発揮させることができる。研磨面Pに対する領域2aの面積比が1/3より小さくなると、スラリの分散状態は均一化されるものの、被研磨物を確実に研磨加工する領域2aが減少するため、研磨レートを改善することができなくなる。反対に、研磨面Pに対する領域2aの面積比が、9/10より大きくなると、加工面全体にスラリが供給されにくくムラができ、スラリの分散状態が悪化する。
【0033】
また更に、本実施形態の研磨パッド10では、発泡体2がポリウレタン樹脂製であり、発泡体2の製造に使用する樹脂溶液の粘度が10,000cp以上に調整されている。このため、塗布工程で基材に凹凸状に塗布された樹脂溶液を、凹凸を保ったまま凝固液中で凝固再生させることができる。樹脂溶液の粘度が10,000cpに満たない場合、塗布工程で基材に凹凸状に樹脂溶液を塗布しても、凝固再生工程までに樹脂溶液の表面が平らな状態となり、凹凸が形成されないまま凝固再生されることとなるため、領域2aや領域2bを配することができなくなる。
【0034】
なお、本実施形態では、樹脂製発泡体としてポリウレタン樹脂製のものを例示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、他の樹脂を使用してもよい。例えば、ポリエステル樹脂等を使用してもよい。ポリウレタン樹脂を用いるようにすれば、湿式成膜法により連続状の発泡構造を容易に形成することができる。
【0035】
また、本実施形態では、発泡体2の作製時に、塗布工程でポリウレタン樹脂溶液を成膜基材に凹凸状に塗布する例を示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、成膜樹脂の厚みが所定パターンの凹凸状となるように凝固再生させることができればよい。例えば、塗布工程で凸部と凹部とが隣り合うように形成された成膜基材に、ポリウレタン樹脂溶液を表面が平坦になるように塗布してもよい。この場合でも、凝固再生後に再生したシートを成膜基材から剥離し、シートの基材が剥離された面側に平坦な面を押しつけて、厚さが一様となるように表面にバフ処理等の研削処理を施すようにすればよい。
【0036】
更に、本実施形態では、発泡体2の作製時に、発泡体2の研磨面Pと反対側面に両面テープ7を貼り合わせる例を示したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、両面テープ7と発泡体2との間に更に支持体を貼り合わせてもよい。支持体を貼り合わせることで、発泡体2が全面で支持されるため、研磨パッド10を研磨定盤に安定して固定させることができる。
【0037】
また更に、本実施形態では、領域2aおよび領域2bがストライプ状に配されている例を示したが、本発明はこれに限定されるものではない。すなわち、領域2aおよび領域2bが規則性を保ったパターンで隣り合うように配されていればどのような形状で配されていてもよい。例えば、図3(A)に示すように、同心円状に配されていてもよく、図3(B)に示すように、格子状に配されていてもよい。領域2aないし領域2bを同心円状や格子状に配する場合、塗布工程において、ポリウレタン樹脂を成膜基材に表面が平坦となるように塗布後、凸部を配する部分にポリウレタン樹脂をノズルでスポット状に更に塗布することで、発泡体を製造することができる。領域2aおよび領域2bがこれらを含むどのような形状で配されていても、本実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0038】
更にまた、本実施形態では、研磨面Pに開口径が30μm以下の開口4が主として形成された領域2aと、開口径が50μm以上の開口6が主として形成された領域2bとを有している例を示したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、領域2bに形成された開口6のうち開口径の異なる開口が形成された2つ以上の領域に、領域2bを更に分割することができる。この場合、塗布工程において、樹脂溶液の塗布厚さの異なる2つ以上の凸部が形成されるように塗布することで発泡体を製造することが可能である。
【実施例】
【0039】
以下、本実施形態に準じて製造した研磨パッドの実施例について説明する。なお、比較のために製造した比較例の研磨パッドについても併記する。
【0040】
(実施例1)
実施例1では、発泡体2の作製にポリウレタン樹脂として、ポリエステルMDI(ジフェニルメタンジイソシアネート)ポリウレタン樹脂を用いた。このポリウレタン樹脂を溶解させた30重量%の溶液100部に対して、溶媒のDMFの45部、顔料としてカーボンブラックの30重量%を含むDMF分散液の40部を添加し混合してポリウレタン樹脂溶液を調製した。B型粘度計により測定したポリウレタン樹脂溶液の粘度は12,408cpであった。得られたポリウレタン樹脂溶液を成膜基材に凹凸状に塗布した後、凝固液中でシート状のポリウレタン樹脂溶液を凝固再生させた。ポリウレタン樹脂はストライプ状の凹凸が形成され、凹部の厚みは650μm、幅は45mmで、凸部の厚みは750μm、幅は5mmであった。洗浄・乾燥させた後、ポリウレタン樹脂の厚さが一様に600μmとなるようにスキン層側に研削処理を施した。両面テープ7を貼り合わせ、領域2aおよび領域2bがストライプ状のパターンを形成するように配された実施例1の研磨パッド10を製造した。
【0041】
(比較例1)
比較例1では、成膜基材にポリウレタン樹脂溶液を表面が平坦になるように塗布し、厚さが650μmのポリウレタン樹脂を形成した後、研磨面に平均開口径が30μmの開口が形成されるように研削処理量を50μmとして、スキン層側に研削処理を施したこと以外は実施例1と同様にして比較例1の研磨パッドを製造した。すなわち、図6(A)に示すように、比較例1の研磨パッドは、実施例1の領域aのみを有する研磨パッドである。
【0042】
(比較例2)
比較例2では、成膜基材にポリウレタン樹脂溶液を表面が平坦になるように塗布し、厚さが750μmのポリウレタン樹脂を形成した後、研磨面に平均開口径が50μmの開口が形成されるように研削処理量を150μmとして、スキン層側に研削処理を施したこと以外は実施例1と同様にして比較例2の研磨パッドを製造した。すなわち、図6(A)に示すように、比較例2の研磨パッドは、実施例1の領域bのみを有する研磨パッドである。
【0043】
(研磨加工)
各実施例および比較例の研磨パッドを用いて、以下の研磨条件でハードディスク用のアルミニウム基板の研磨加工を行い、研磨レートおよびうねりを測定した。研磨レートは、研磨効率を示す数値の一つであり、一分間あたりの研磨量を厚さで表したものである。研磨加工前後のアルミニウム基板の重量減少から求めた研磨量、アルミニウム基板の研磨面積および比重から算出した。うねりは、被研磨物に対する表面精度(平坦性)を評価するための測定項目の一つであり、光学式非接触表面粗さ計で観察した単位面積当たりの表面像のうねり量を、オングストローム(Å)単位で表したものである。試験評価機として、Zygo New View 5022で80μm~500μmの波長を透過するフィルタを使用して評価した。測定結果の数値が低いと、被研磨物のうねりが少なく、より平坦な研磨面であることとなる。下表1に研磨レートおよびうねり評価結果を示す。
(研磨条件)
使用研磨機:スピードファム社製、9B−5Pポリッシングマシン
研磨速度(回転数):30rpm
加工圧力:100g/cm
スラリ:コロイダルシリカスラリ(pH:1.5)
スラリ供給量:100cc/min
被研磨物:ハードディスク用アルミニウム基板
【0044】
【表1】

【0045】
表1に示すように、平均開口径が50μmの開口が形成された比較例2ではうねりは4.6Åで示した。これに対して、平均開口径が30μmの開口が形成された比較例1ではうねりは3.1Åを示し、開口径が30μm以下の領域2aと、開口径が50μm以上の領域2bとがパターンを形成するように配された実施例1では、うねりは3.0Åを示した。これは、比較例2の研磨パッドは、研磨面における樹脂部分の面積が小さく研磨加工中にかかる押圧力を受けやすいため、被研磨物の平坦性が損なわれ、うねりが悪化したと考えられる。
【0046】
一方、比較例1では研磨レートが0.08μm/minを示し、比較例2では研磨レートが0.07μm/min示した。これらに対して、実施例1では研磨レートが0.11μm/minで、実施例1の研磨レートが比較例1および比較例2の研磨レートを超える値を示した。これは、実施例1の研磨パッド10では、確実に被研磨物を研磨加工できる領域2aおよびスラリの流出入を促進させる領域2bがストライプ状のパターンを形成するように配されているため、研磨加工中に加工面全体でスラリの分散状態が均一化され、被研磨物のうねりを比較例1と同程度となるように仕上げつつ、研磨レートを向上させることができたと考えられる。このような研磨パッド10では、高度な平坦性精度を要求される被研磨物の研磨加工に好適に使用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明は、研磨レートを改善し被研磨物の平坦性を向上させることができる研磨パッドおよび該研磨パッドの製造方法を提供するものであるため、研磨パッドの製造、販売に寄与するので、産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0048】
P 研磨面
2 発泡体
2a 領域(第1の領域)
2b 領域(第2の領域)
3、5 発泡
4、6 開口
10 研磨パッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
湿式成膜法により内部に厚さ方向に縦長の多数の発泡が連続状に形成され、被研磨物を研磨加工するための研磨面を有するシート状の発泡体を備えた研磨パッドにおいて、前記発泡体は、前記研磨面に、前記発泡の開口が形成された第1の領域と、前記第1の領域の開口より開口径の大きい開口が形成された第2の領域とを有しており、前記第1および第2の領域がパターンを形成するように配されていることを特徴とする研磨パッド。
【請求項2】
前記第1の領域には開口径が30μm以下の開口が形成されており、前記第2の領域には開口径が50μm以上の開口が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の研磨パッド。
【請求項3】
前記第1および第2の領域の合計の幅は、10mm〜100mmの範囲であることを特徴とする請求項2に記載の研磨パッド。
【請求項4】
前記第1の領域の開口率は、前記第2の領域の開口率より小さいことを特徴とする請求項3に記載の研磨パッド。
【請求項5】
前記パターンは、ストライプ状、格子状、同心円状であることを特徴とする請求項4に記載の研磨パッド。
【請求項6】
請求項1に記載の研磨パッドの製造方法であって、
水混和性有機溶媒に樹脂を溶解させた樹脂溶液を基材に凸部と凹部とが隣り合うように塗布量を変えて塗布する塗布ステップと、
前記塗布ステップで基材に凹凸状に塗布された樹脂溶液を、水を主成分とする凝固液中で凝固させシート状に再生させる凝固再生ステップと、
前記凝固再生ステップで再生されたシートの前記基材と反対面側に該シートの厚さが一様となるようにバフ処理またはスライス処理を施す研削処理ステップと、
を含むことを特徴とする製造方法。
【請求項7】
請求項1に記載の研磨パッドの製造方法であって、
水混和性有機溶媒に樹脂を溶解させた樹脂溶液を、凸部および凹部のパターンが形成された基材に表面が平坦になるように塗布する塗布ステップと、
前記塗布ステップで前記基材に塗布された樹脂溶液を、水を主成分とする凝固液中で凝固させシート状に再生させる凝固再生ステップと、
前記凝固再生ステップで再生されたシートを前記基材から剥離し、該シートの前記基材が剥離された面側に平坦な面を押しつけて、該シートの厚さが一様となるように表面側にバフ処理またはスライス処理を施す研削処理ステップと、
を含むことを特徴とする製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−212779(P2011−212779A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−82255(P2010−82255)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000005359)富士紡ホールディングス株式会社 (180)
【Fターム(参考)】