説明

研磨パッド

【課題】研磨機に貼着したときの接着強度を確保することができる研磨パッドを提供する。
【解決手段】研磨パッド10は、湿式成膜法により形成され研磨面Pを有するウレタンシート2と、基材5とを備えている。基材5は、支持フィルム6とフィルム部材7とが貼り合わされて構成されている。支持フィルム6は、ベース6aに形成された接着剤層6bを介してウレタンシート2の研磨面Pと反対の面側に貼り合わされている。フィルム部材7は、ベース7aの一面側に粘着剤層7b、他面側に定盤装着用の粘着剤層7cがそれぞれ形成されている。フィルム部材7は粘着剤層7bを介してベース6aと貼り合わされている。基材5はウレタンシート2より高い熱抵抗性を有している。ウレタンシート2、基材5が貼り合わされ、研磨面P側にエンボス加工により溝4が形成されている。粘着剤層7c側への熱伝導が抑制される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は研磨パッドに係り、特に、湿式成膜法により形成され被研磨物を研磨加工するための研磨面側に加熱を伴うエンボス加工により溝が形成された樹脂製シートを備えた研磨パッドに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの製造や液晶ディスプレイ用ガラス基板等の材料(被研磨物)の表面(加工面)では、平坦性が求められるため、研磨パッドを使用した研磨加工(平坦化加工)が行われている。半導体デバイスでは、半導体回路の集積度が急激に増大するにつれて高密度化を目的とした微細化や多層配線化が進み、加工面を一層高度に平坦化する技術が重要となっている。一方、液晶ディスプレイ用ガラス基板では、液晶ディスプレイの大型化に伴い、加工面のより高度な平坦性が要求されている。
【0003】
一般に、半導体デバイスの製造には、化学的機械的研磨(Chemical Mechanical Polishing、以下、CMPと略記する。)法が用いられている。CMP法では、通常、研磨加工時に、砥粒(研磨粒子)をアルカリ溶液または酸溶液に分散させたスラリ(研磨液)が供給されている。すなわち、被研磨物(の加工面)は、スラリ中の砥粒による機械的研磨作用と、アルカリ溶液または酸溶液による化学的研磨作用とで平坦化される。加工面に要求される平坦性の高度化に伴い、CMP法による研磨精度や研磨効率等の研磨性能に対する要求も高まっている。これに応えるために、CMP法による半導体デバイスの研磨加工では、研磨工程により硬質な研磨層を有する研磨パッドと、軟質な研磨層を有する研磨パッドとが使い分けられている。中でも、上述した回路の微細化に伴い、スクラッチ(キズ)の発生しにくい軟質な研磨パッドが注目されている。
【0004】
軟質な研磨層を有する研磨パッドとしては、湿式成膜法で形成された発泡構造を有する樹脂製シートが使用されている。湿式成膜法では、樹脂を水混和性の有機溶媒に溶解させた樹脂溶液をシート状の成膜基材に塗布後、水系凝固液中で樹脂を凝固再生させる。製造された樹脂製シートには緻密な微多孔が形成された厚さ数μm程度の表面層(スキン層)が形成されている。表面層を研削加工等により除去し、研磨面に開孔を形成することで、スラリの供給性や貯液性が確保されている。通常、研磨パッドでは、樹脂製シートの研磨面と反対の面側に、研磨機に装着するために粘着剤層を有している。研磨加工時には、粘着剤層の粘着剤で研磨パッドが研磨機の定盤に貼着される。
【0005】
このような研磨パッドでは、研磨面にエンボス加工が施され溝が形成されている。例えば、半導体基板表面をCMP法により研磨加工するために、連続気泡樹脂で形成された樹脂製シートの表面側にエンボス加工を施すことにより凹状の溝を形成した研磨パッドの技術が開示されている(特許文献1参照)。この技術では、研磨面側に溝が形成されることで、研磨加工時に供給されるスラリの移動や研磨面の摩擦で生じた屑の排出を円滑にすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−140130号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の技術によりエンボス加工を施した研磨パッドを使用すると、研磨加工中に研磨パッドが研磨機の定盤から剥離してしまう、という問題が確認された。本発明者らは、研磨パッドの剥離した部分を調査したところ、研磨パッドの裏面(定盤に貼着された面)側に、研磨面側に形成したエンボス形状に対応した凹凸が認められた。これは、エンボス加工を施したことで、樹脂製シートが押し付けられた部分(溝が形成された部分)とそうでない部分とで生じた応力歪により研磨パッドの裏面と定盤との間に隙間が形成され、その隙間にスラリが浸入したため、研磨パッドが剥離したものと考えられる。研磨パッドの製造時、すなわち、エンボス加工を施すときに強制的に反りを押さえ込んでも、残留応力が経時的に表面化(顕在化)して、研磨パッドの使用中に反りが生じることもある。軟質の樹脂製シートにエンボス加工を施す場合は、2枚の金属プレス板の間に、エンボスパターンを有する金型と、樹脂製の基材が貼り合わされた樹脂製シートとが挟まれ、一定の温度および圧力下で一定時間プレスされる。一般に、物体が加熱されると膨張するため、高温の金型でプレスされた樹脂シートでは、金型を除去したときに膨張し裏面側に凹凸が形成される。この凹凸に粘着剤層の粘着剤が追従することで粘着剤層の表面(定盤に当接する面)に凹凸が転写されることとなる。この結果、エンボス加工を施していない場合と比べて、定盤と研磨パッドとの接触面積が小さくなり、粘着力が低下したため、粘着力不足の箇所にスラリが入り込み剥離が発生したことが判明した。
【0008】
本発明は上記事案に鑑み、研磨機に貼着したときの接着強度を確保することができる研磨パッドを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は、湿式成膜法により作製され被研磨物を研磨加工するための研磨面側に加熱を伴うエンボス加工により溝が形成された樹脂製シートと、両面にそれぞれ第1の粘着剤層および第2の粘着剤層が配され、前記シートの前記研磨面と反対の面側に前記第1の粘着剤層で貼り合わされており、前記シートより高い熱抵抗性を有し、前記第2の粘着剤層で研磨機に貼着される基材と、を備え、前記基材は、前記第2の粘着剤層の前記研磨機に貼着される面の表面粗さRmaxが20μm以下であることを特徴とする研磨パッドである。
【0010】
本発明では、両面にそれぞれ第1および第2の粘着剤層が配された基材が樹脂製シートより高い熱抵抗性を有するため、シートの研磨面側に加熱を伴うエンボス加工により溝が形成されても第2の粘着剤層の研磨機に貼着される面側への熱伝導が抑制されるので、研磨機に貼着される面における歪みの顕在化を低減して表面粗さRmaxを20μm以下とすることができ、研磨機に貼着したときの接着強度を確保することができる。
【0011】
この場合において、第1の粘着剤層および第2の粘着剤層が配された基材が単位時間あたりの発熱量に対する温度上昇量を示す熱抵抗値が40℃/W〜80℃/Wの範囲の特性を有することが好ましい。このとき、シートを、連続発泡構造を有するポリウレタン樹脂としてもよい。また、研磨面側に形成された溝を、格子状、放射状、同心円状、渦巻状またはこれらの組み合わせにより形成することができる。基材を、少なくとも2枚の樹脂製部材を貼り合わせて構成してもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、両面にそれぞれ第1および第2の粘着剤層が配された基材が樹脂製シートより高い熱抵抗性を有するため、シートの研磨面側に加熱を伴うエンボス加工により溝が形成されても第2の粘着剤層の研磨機に貼着される面側への熱伝導が抑制されるので、研磨機に貼着される面における歪みの顕在化を低減して表面粗さRmaxを20μm以下とすることができ、研磨機に貼着したときの接着強度を確保することができる、という効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明を適用した実施形態の研磨パッドを模式的に示す断面図である。
【図2】実施形態の研磨パッドを構成する支持フィルムおよびフィルム部材が貼り合わされた基材を拡大して模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明を適用した研磨パッドの実施の形態について説明する。
【0015】
(構成)
図1に示すように、本実施形態の研磨パッド10は、被研磨物を研磨加工するための研磨面Pを有する樹脂製シートとしてのウレタンシート2と、ウレタンシート2の研磨面Pと反対の面側に貼り合わされた基材5と、を備えている。基材5は、2枚のフィルム部材が貼り合わされて構成されている。すなわち、基材5は、支持フィルム6と、支持フィルム6のウレタンシート2と反対の面側に貼り合わされたフィルム部材7とで構成されている。
【0016】
ウレタンシート2は、湿式成膜法によりポリウレタン樹脂でシート状に形成されている。ウレタンシート2には、厚み方向に沿って丸みを帯びた断面三角状の多数のセル3が略均等に分散した状態で形成されている。ウレタンシート2は、湿式成膜時に微多孔状に形成されたスキン層(表面層)がバフ処理等で除去されている。このため、研磨面Pにはセル3の開口が形成されている。セル3は、研磨面P側の孔径が研磨面Pと反対の面側より小さく形成されている。すなわち、セル3は研磨面P側で縮径されている。セル3の間のポリウレタン樹脂中には、セル3より小さい孔径の図示しない発泡が形成されている。セル3および図示しない発泡は、不図示の連通孔で網目状に連通されている。すなわち、ウレタンシート2は連続状の発泡構造を有している。
【0017】
研磨パッド10の基材5を構成する支持フィルム6は、ポリエチレンテレフタレート樹脂(以下、PETと略記する。)で形成されたベース6aを有している。ベース6aの一面側には、アクリル系やニトリル系等の感熱型接着剤がほぼ一様の厚みで塗工された粘着剤層6bが形成されている。支持フィルム6は、粘着剤層6bを介して、ウレタンシート2の研磨面Pと反対の面側に貼り合わされている。図2に示すように、ベース6aの厚みtaは50〜250μmの範囲に設定されており、粘着剤層6bの厚みtbは15〜45μmの範囲に調整されている。支持フィルム6は、柔軟なウレタンシート2を支持する役割を果たしている。
【0018】
図1に示すように、研磨パッド10の基材5を構成するフィルム部材7は、PET製フィルムのベース7aを有している。ベース7aの一面側には、アクリル系やニトリル系等の感熱型接着剤がほぼ一様の厚みで塗工された粘着剤層7bが形成されている。ベース7aの他面側には、感圧型接着剤がほぼ一様の厚みで塗工された粘着剤層7cが形成されている。フィルム部材7は、一面側の粘着剤層7bを介して、支持フィルム6を構成するベース6aの他面側、つまり、粘着剤層6bと反対の面側に貼り合わされている。フィルム部材7は、他面側に形成された定盤装着用の粘着剤層7cが剥離紙8で覆われている。図2に示すように、粘着剤層7bの厚みTbは15〜45μmの範囲に形成されており、粘着剤層7cの厚みTcは20〜70μmの範囲に形成されている。すなわち、粘着剤層7cの厚みTcは、粘着剤層7bの厚みTbより大きく形成されている。フィルム部材7を構成するベース7aの厚みTaは、50〜250μmの範囲に設定されている。換言すれば、ベース7aの厚みTa、粘着剤層7bの厚みTbおよび粘着剤層7cの厚みTcの合計の厚みがフィルム部材7の厚みTであり、ベース6aの厚みtaおよび粘着剤層6bの厚みtbの合計の厚みが支持フィルム6の厚みtである。また、フィルム部材7の厚みTおよび支持フィルム6の厚みtの合計の厚みが基材5の厚みとなる。
【0019】
また、支持フィルム6とフィルム部材7とが貼り合わされた基材5では、両面にそれぞれ粘着剤層が配されていることとなる。すなわち、ウレタンシート2と貼り合わされる面側に第1の粘着剤層としての粘着剤層6bが配されており、研磨機の定盤に貼着される面側に第2の粘着剤層としての粘着剤層7cが配されている。基材5は、熱抵抗値が40〜80℃/Wの範囲の特性を有している。この熱抵抗値は、熱の伝わりにくさを表す数値であり、単位時間当たりの発熱量に対する温度上昇量を示している。すなわち、基材5の一面側に熱を加えたときの単位時間あたりの発熱量に対する一面側と他面側との温度差を示している。熱抵抗値は、例えば、樹脂材料熱抵抗測定装置(株式会社日立製作所製)等を用いて測定することができる。測定では、一定厚みを有する基材5を縦5mm、横5mmに切り出した試料が用いられる。
【0020】
研磨パッド10では、ウレタンシート2および基材5が貼り合わされ、研磨面P側にエンボス加工が施されている。エンボス加工により、溝4が形成されている。溝4は、断面が台形状に形成されており、研磨面Pでの開孔幅がウレタンシート2の内部側の幅より大きく形成されている。溝4は、研磨面Pで格子状に形成されている。本例では、研磨面P側で幅1mm、深さが560μmの溝4が4mmピッチで形成されている。得られた研磨パッド10では、基材5(フィルム部材7)の粘着剤層7c側の表面の表面粗さRmaxが20μm以下である。なお、表面粗さRmaxは、日本工業規格(JIS B 0601−1982)に基づいて測定した値に相当し、測定で得られた断面曲線における評価長さ内での最大高さを示している。
【0021】
(製造)
研磨パッド10は、湿式成膜法により作製されたウレタンシート2に基材5を貼り合わせ、エンボス加工することで製造される。ウレタンシート2は、ポリウレタン樹脂を溶解させた樹脂溶液を準備する準備工程、樹脂溶液を成膜基材に連続的に塗布し水系凝固液中でポリウレタン樹脂をシート状に凝固再生させる凝固再生工程、凝固再生したポリウレタン樹脂を洗浄・乾燥させる洗浄・乾燥工程を経て作製される。以下、工程順に説明する。
【0022】
準備工程では、ポリウレタン樹脂、ポリウレタン樹脂を溶解可能な水混和性の有機溶媒のN,N−ジメチルホルムアミド(以下、DMFと略記する。)および添加剤を混合してポリウレタン樹脂を溶解させる。ポリウレタン樹脂には、ポリエステル系、ポリエーテル系、ポリカーボネート系等の樹脂から選択して用い、例えば、ポリウレタン樹脂が30重量%となるようにDMFに溶解させる。添加剤としては、セル3の大きさや数量(個数)を制御するため、カーボンブラック等の顔料、気孔形成を促進させる親水性活性剤およびポリウレタン樹脂の凝固再生を安定化させる疎水性活性剤等を用いることができる。得られた溶液を減圧下で脱泡してウレタン樹脂溶液を得る。
【0023】
塗布工程では、準備工程で調製されたウレタン樹脂溶液を常温下でナイフコータ等の塗布装置により帯状の成膜基材に略均一に塗布する。このとき、ナイフコータと成膜基材との間隙を調整することで、ウレタン樹脂溶液の塗布厚み(塗布量)を調整する。成膜基材には、可撓性フィルム、不織布、織布等を用いることができるが、本例では、液体の浸透性を有していないPET製フィルムを用いる。
【0024】
凝固再生工程では、塗布工程で成膜基材に塗布されたウレタン樹脂溶液を、ポリウレタン樹脂に対して貧溶媒である水を主成分とする凝固液(水系凝固液)に案内し浸漬する。凝固液中では、まず、塗布されたウレタン樹脂溶液の表面側に厚さ数μm程度のスキン層が形成される。その後、ウレタン樹脂溶液中のDMFと凝固液との置換の進行によりポリウレタン樹脂が成膜基材にシート状に凝固再生する。DMFがウレタン樹脂溶液から脱溶媒し、DMFと凝固液とが置換することにより、スキン層より内側(ポリウレタン樹脂中)にセル3および図示しない発泡が形成され、セル3および図示しない発泡を網目状に連通する不図示の連通孔が形成される。このとき、成膜基材のPET製フィルムが水を浸透させないため、ウレタン樹脂溶液の表面側(スキン層側)で脱溶媒が生じて成膜基材側が表面側より大きなセル3が形成される。
【0025】
洗浄・乾燥工程では、凝固再生工程で凝固再生したシート状のポリウレタン樹脂(以下、成膜樹脂という。)を成膜基材から剥離し、水等の洗浄液中で洗浄して成膜樹脂中に残留するDMFを除去する。洗浄後、成膜樹脂をシリンダ乾燥機で乾燥させる。シリンダ乾燥機は内部に熱源を有するシリンダを備えている。成膜樹脂がシリンダの周面に沿って通過することで乾燥する。乾燥後の成膜樹脂をロール状に巻き取る。
【0026】
作製されたウレタンシート2の研磨面Pと反対の面側に、支持フィルム6を粘着剤層6bで貼り合わせる。支持フィルム6のウレタンシート2と反対の面側には、フィルム部材7を一面側の粘着剤層7bで貼り合わせる。すなわち、ウレタンシート2と支持フィルム6のベース6aとが粘着剤層6bを介して貼り合わされ、支持フィルム6のベース6aとフィルム部材7のベース7aとが粘着剤層7bを介して貼り合わされる。ベース7aの他面側の粘着剤層7cは、剥離紙8で覆われたままとなる。
【0027】
エンボス加工するときは、貼り合わされたウレタンシート2、支持フィルム6およびフィルム部材7を平坦表面を有する台上に、剥離紙8を下側にして載置する。エンボスパターン(本例では格子状)に合わせた凸部を有する金型を加熱しておき、台上に載置したウレタンシート2の研磨面P側に当接し加圧する。これにより、研磨面P側に溝4が格子状に形成される。エンボス加工では、通常、樹脂シートに使用する樹脂の融点をTm(℃)、ガラス転移温度をTg(℃)としたときに、エンボス金型を温度(Tm±50)℃ないし(Tg+100〜Tg+200)℃の近傍まで加熱し、一定圧力で一定時間プレスすることで、研磨面に凹凸を付与する。本実施形態では、エンボス金型を140〜180℃の温度に加熱し、4.5〜9.0MPaの圧力で120〜180秒間プレスする。そして、円形等の所望の形状に裁断した後、キズや汚れ、異物等の付着が無いことを確認する等の検査を行い研磨パッド10を完成させる。
【0028】
得られた研磨パッド10で被研磨物の研磨加工を行うときは、例えば、片面研磨機の保持定盤に被研磨物を保持させる。保持定盤と対向するように配置された研磨定盤には研磨パッド10を装着する。研磨定盤に研磨パッド10を装着するときは、剥離紙8を取り除いて粘着剤層7cを露出させた後、露出した粘着剤層7cを研磨定盤に接触させ押圧する。研磨加工時には、被研磨物および研磨パッド10間に研磨粒子を含む研磨液(スラリ)を循環供給すると共に、被研磨物に圧力(研磨圧)をかけながら研磨定盤ないし保持定盤を回転させることで、被研磨物を研磨加工する。
【0029】
(作用)
次に、本実施形態の研磨パッド10の作用等について説明する。
【0030】
本実施形態では、ウレタンシート2と、支持フィルム6およびフィルム部材7で構成された基材5と、が貼り合わされた状態で研磨面P側にエンボス加工により溝4が形成されている。エンボス加工では、加熱した金型を当接し加圧するため、ウレタンシート2および基材5に残留応力が生じることとなる。研磨パッド10を構成する基材5がウレタンシート2より高い熱抵抗性を有するため、フィルム部材7の粘着剤層7c側への熱伝導が抑制され、ウレタンシート2および基材5の残留応力による歪みが粘着剤層7cの表面側に顕在化することが抑制される。これにより、研磨機に粘着剤層7cで貼着したときに、粘着剤層7cの表面平坦性が確保されるので、研磨機の定盤に対する接着強度を確保することができる。従って、安定して研磨加工を継続することができ、研磨パッド10の長寿命化を図ることができる。また、粘着剤層7cの表面(定盤貼着面)では、表面粗さRmaxを20μm以下とすることができる。表面粗さRmaxが20μmを超えると、研磨パッドと定盤との接着面からスラリが浸入し、研磨加工中に定盤から研磨パッドが剥がれてしまい、安定した研磨加工を行うことができなくなる。従って、表面粗さRmaxを20μm以下とすることで、研磨加工の安定性を向上させることができる。
【0031】
また、本実施形態では、支持フィルム6とフィルム部材7とが貼り合わされた基材5は、熱抵抗値が40〜80℃/Wの範囲の特性を有している。このため、例えば、研磨面P側に、加工圧力4.5MPa、加工温度160℃、加工時間180秒間の条件でエンボス加工を施した場合においても、粘着剤層7cの定盤貼着面に凹凸が現れず、平坦性が確保されるので、定盤に略平坦に貼着することができる。これにより、研磨面P側の平坦性が確保されるので、被研磨物の平坦性向上を図ることができる。基材5の熱抵抗値が40℃/Wに満たない場合は、エンボス加工による残留歪みが研磨パッドの裏面(定盤貼着面)側に影響し、研磨加工中に剥離が生じる。一方、80℃/Wを超えるような熱抵抗値を得るためには、基材5の厚み(支持フィルム6とフィルム部材7との合計の厚み)を格段に大きくする必要があり、却って研磨機への装着が難しくなるため好ましくない。また、本実施形態では、ウレタンシート2の研磨面P側にエンボス加工により溝4が形成されている。このため、研磨加工時に供給されるスラリの移動性、ウレタンシート2の摩耗により生じた研磨屑の排出性が確保されるので、被研磨物にスクラッチ等を生じることなく研磨効率を向上させることができる。
【0032】
なお、本実施形態では、エンボス加工により形成される溝4を格子状とする例を示したが、本発明はこれに制限されるものではない。溝4の形成パターンとしては、格子状以外に、放射状、同心円状、渦巻状としてもよく、これらを組み合わせるようにしてもよい。また、溝4の幅、深さ、断面形状等についても、特に制限のないことはもちろんである。
【0033】
また、本実施形態では、ポリウレタン樹脂を用いて湿式成膜法により作製したウレタンシート2を例示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、ポリウレタン樹脂以外にも、ポリエチレンやポリビニルクロライド等の樹脂を用いることができる。湿式成膜法により連続発泡構造のシートを作製することを考慮すれば、ポリウレタン樹脂とすることがシート作製上好ましい。
【0034】
更に、本実施形態では、支持フィルム6のベース6aおよびフィルム部材7のベース7aの材質を、いずれもPET製フィルムとする例を示したが、本発明はこれに制限されるものではない。基材5が上述した熱抵抗値の特性を有していればよく、例えば、支持フィルム6を樹脂に含浸させた不織布としてもよい。また、本実施形態では、基材5を支持フィルム6とフィルム部材7との2枚の部材を貼り合わせて構成した例を示したが、本発明はこれに制限されるものではなく、3枚以上の部材を貼り合わせてもよい。更に、本実施形態では、ウレタンシート2、支持フィルム6およびフィルム部材7を粘着剤により貼り合わせた後、エンボス加工する例を示したが、本発明はこれに制限されるものではない。例えば、熱抵抗値が40〜80℃/Wの支持フィルム6をウレタンシート2と貼り合わせ、エンボス加工した後にフィルム部材7を貼り合わせてもよい。
【実施例】
【0035】
以下、本実施形態に従い製造した研磨パッド10の実施例について説明する。なお、比較のために製造した比較例の研磨パッドについても併記する。
【0036】
(実施例1)
実施例1では、PET製フィルムの両面にアクリル系粘着剤が塗工された厚み283μmのフィルム部材7(ベース7aの厚み188μm、粘着剤層7bの厚み35μm、粘着剤層7cの厚み60μm)を使用した。厚み190μmのPET製フィルムを支持フィルム6として粘着剤層7bと仮接着した。このとき、支持フィルム6およびフィルム部材7を貼り合わせた基材5の熱抵抗値は52.6℃/Wであった。ウレタンシート2の作製にはポリエステルMDI(ジフェニルメタンジイソシアネート)ポリウレタン樹脂を用い、厚み770μmのウレタンシート2を得た。得られたウレタンシート2の一面側にポリウレタン系粘着剤を塗布し、支持フィルム6のフィルム部材7が接着されていない面側とウレタンシート2とを仮接着した。仮接着された研磨パッド10に、加工圧力4.5MPa、加工温度160℃、加工時間180秒間の条件でエンボス加工を施した。
【0037】
(比較例1)
比較例1では、PET製フィルムの両面にアクリル系粘着剤が塗工された厚み155μmの基材(ベースの厚み60μm、ウレタンシート側の粘着剤層の厚み35μm、研磨機側の粘着剤層の厚み60μm)を使用した以外は実施例1と同様にして研磨パッドを製造した。このとき、支持フィルム6およびフィルム部材7を貼り合わせた基材5の熱抵抗値は34.7℃/Wであった。
【0038】
(表面粗さの評価)
実施例1および比較例1で作製した研磨パッドの定盤貼着面の表面粗さRmaxは、研磨パッドの剥離紙を取り除いた粘着剤の面に厚み25μmのPETシートを貼り付け、表面粗さ形状測定機(株式会社東京精密社製、Surfcom420A)を用いて測定した。得られた断面曲線から、日本工業規格(JIS B 0601−1982)に基づく方法により、基準長さ内における最大高さRmaxを求めた。
【0039】
(耐浸水性の評価)
実施例1および比較例1の研磨パッドのそれぞれ1枚について、以下の条件でドレス処理を行い、定盤外周部の1点を基準位置として、中心角で0度、90度、180度、270度の4地点における研磨パッドの浸水状況を10分後、30分後、60分後に目視にて確認した。
使用研磨機:不二越株式会社製、MCP−150X
回転数:(定盤)100rpm/min、(トップリング)75rpm/min
研磨圧力:100g/cm
揺動幅:10mm(揺動中心値より200mm)
揺動移動:1mm/min
研磨液:水
研磨液吐出量:500ml/min
使用ドレッサー:100番手ダイヤモンドドレッサー
研磨時間:60分間/各回
ドレッシング:(研磨布貼付後)10min
【0040】
比較例1の研磨パッドでは、表面粗さRmaxが21.594μmを示した。研磨パッド裏面での平均粗さが大きく、エンボス加工による残留歪の影響が現れたものと考えられる。また、測定した断面曲線の形状はエンボス加工に由来した4.0mm間隔での突出谷部が周期的に現れた。さらに、研磨パッドの耐浸水性評価では、経時的に浸水が進行し、60分後には外周部の4.60cm程度にわたる浸水が見られた。これに対して、実施例1の研磨パッド10では、表面粗さRmaxが15.257μmを示した。エンボス加工による残留歪みは現れず、平坦性の高い研磨パッドが得られた。また、測定した断面曲線の形状にエンボス加工由来の周期性のある突出谷部は見られなかった。さらに、研磨パッドの耐浸水性評価では、ドレス処理60分後においても浸水が進行しなかった。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は研磨機に貼着したときの接着強度を確保することができる研磨パッドを提供するものであるため、研磨パッドの製造、販売に寄与するので、産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0042】
P 研磨面
2 ウレタンシート(樹脂シート)
4 溝
5 基材
6 支持フィルム
6b 粘着剤層(第1の粘着剤層)
7 フィルム部材
7c 粘着剤層(第2の粘着剤層)
10 研磨パッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
湿式成膜法により作製され被研磨物を研磨加工するための研磨面側に加熱を伴うエンボス加工により溝が形成された樹脂製シートと、
両面にそれぞれ第1の粘着剤層および第2の粘着剤層が配され、前記シートの前記研磨面と反対の面側に前記第1の粘着剤層で貼り合わされており、前記シートより高い熱抵抗性を有し、前記第2の粘着剤層で研磨機に貼着される基材と、
を備え、
前記基材は、前記第2の粘着剤層の前記研磨機に貼着される面の表面粗さRmaxが20μm以下であることを特徴とする研磨パッド。
【請求項2】
前記第1の粘着剤層および第2の粘着剤層が配された基材は、単位時間あたりの発熱量に対する温度上昇量を示す熱抵抗値が40℃/W〜80℃/Wの範囲の特性を有することを特徴とする請求項1に記載の研磨パッド。
【請求項3】
前記シートは、連続発泡構造を有するポリウレタン樹脂であることを特徴とする請求項2に記載の研磨パッド。
【請求項4】
前記研磨面側に形成された溝は、格子状、放射状、同心円状、渦巻状またはこれらの組み合わせにより形成されたことを特徴とする請求項3に記載の研磨パッド。
【請求項5】
前記基材は、少なくとも2枚の樹脂製部材が貼り合わされて構成されたことを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の研磨パッド。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−234458(P2010−234458A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−83005(P2009−83005)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(000005359)富士紡ホールディングス株式会社 (180)
【Fターム(参考)】