説明

研磨装置

【課題】 変位拡大機構により伸縮部材の変位量を拡大したアクチュエータを用いて、複雑かつ高精度な研磨にも使用可能で、かつ壊れにくい研磨装置を提供する。
【解決手段】 ポリッシングツールにより被研磨物の表面を研磨する研磨装置であって、電圧又は電流の供給により変形する伸縮部材と、その伸縮部材に生じる変位を拡大する変位拡大機構と、を備えたアクチュエータと、中央部にポリッシングツール又は被研磨物のいずれか一方を取り付け、周囲に前記アクチュエータを複数台接続するセンター部材と、それぞれの伸縮部材に所要の電圧又は電流の波形を供給し、アクチュエータに拡大された変位を生じさせる駆動回路と、を有し、それぞれのアクチュエータに生じる変位に伴ってセンター部材の位置が変化し、それによって被研磨物とポリッシングツールとの間に生じる相対的な動きにより被研磨物の表面を研磨することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電素子等の伸縮部材を備えたアクチュエータを利用して、レンズ等を成型するための金型を研磨する研磨装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
圧電効果によって電気エネルギーから機械エネルギーへのエネルギー変換を行う圧電素子は、変換効率が高く、小型で、微小変位の制御に優れていることから、圧電アクチュエータとして位置決め等に広く用いられている。また、歪量や応答速度に若干の違いはあるものの、磁歪や形状記憶合金といった伸縮部材も、同様に広く用いられている。ただし、これらの伸縮部材は、それ自体の変位量はあまり大きくないことから、変位拡大機構を備え、変位量を拡大して使用されることが多い(例えば、特許文献1)。
【0003】
図7は、特許文献1に記載された変位拡大機構を有する圧電アクチュエータの一例を示す図である。このような変位拡大機構を有する圧電アクチュエータ100は、積層圧電素子50が長さ方向の一端部に当接する第1の当接部材52と他端部に当接する第2の当接部材53の間に取り付けられており、電気端子51,51間に電圧が印加されることにより、積層圧電素子50に軸方向の変位が生じ、その発生変位がヒンジ部54,55を介してアーム56に伝達され、さらにアーム56の先端に取り付けられた板ばね57を介し、対象物に当接するセンターピース58に拡大した変位を与えることができる構成になっている。
【0004】
また、圧電素子は応答性に優れているという特性も有していることから、圧電素子を振動子として使用することも可能である。例えば、特許文献2(特開平5−162064号公報)では、圧電素子(ピエゾ素子)による微小運動を研磨装置に利用している。しかし、圧電素子の変位は相当小さいものであるから、このような使用方法では、対象となる被研磨物も相当小さいものに限られるという問題がある。また、研磨軸に対し被研磨面と平行で互いに直角な2方向から圧電素子の振動を付加させる構造であるため、圧電素子が伸縮を繰り返した結果、縮むときに圧電素子と研磨軸との接合部分に剥離が生じるおそれがあるだけでなく、圧電素子を与圧状態で使用することができないので、圧電素子が引っ張られる状態で使用される構造になっている。また、圧電素子の代わりに磁歪や形状記憶合金といった伸縮部材を用いた場合でも、高速で伸縮を繰り返すことになるので、特に伸縮部材に引張力が作用するときに、伸縮部材そのものが破壊される虞がある。なお、超音波振動を用いた研磨装置もあるが、その場合は直線的な振動しか与えることができないため、研磨する形状が限定されることになる。また、超音波であるため、高周波数での制御が難しく、動作自体も安定性に欠ける。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−99399号公報
【特許文献2】特開平5−162064号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明では、斯かる事情に鑑み、変位拡大機構により伸縮部材の変位量を拡大したアクチュエータを用いて、非球面レンズ等を成型するための金型のように、複雑かつ高精度な研磨が要求される場合にも使用可能で、かつ壊れにくい研磨装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る研磨装置は、ポリッシングツールにより被研磨物の表面を研磨する研磨装置であって、電圧又は電流の供給により変形する伸縮部材と、その伸縮部材に生じる変位を拡大する変位拡大機構と、を備えたアクチュエータと、中央部にポリッシングツール又は被研磨物のいずれか一方を取り付け、周囲にアクチュエータを複数台接続するセンター部材と、それぞれの伸縮部材に所要の電圧又は電流の波形を供給し、アクチュエータに拡大された変位を生じさせる駆動回路と、を有し、それぞれのアクチュエータに生じる変位に伴ってセンター部材の位置が変化し、それによって被研磨物とポリッシングツールとの間に生じる相対的な動きにより被研磨物の表面を研磨することを特徴とするものである。
【0008】
ここで、3台のアクチュエータが、センター部材の周囲に120゜ごとに接続されている構成にしたり、4台のアクチュエータが、センター部材の周囲に90゜ごとに接続されている構成にすることができる。また、4台使用する場合は、相対するアクチュエータ同士は、発生する変位が互いに逆方向になるように駆動回路から所要の電圧又は電流の波形が供給されることにすると良い。なお、3台のアクチュエータを駆動する駆動回路から供給される電圧又は電流の波形が、3台のアクチュエータに対して各々異なった3つの周波数成分を持つ正弦波であることにしたり、4台のアクチュエータを使用する場合は、2対のアクチュエータを駆動する駆動回路から供給される電圧又は電流の波形が、2対のアクチュエータに対して各々異なった2つの周波数成分を持つ正弦波であることにすることができる。
【0009】
また、伸縮部材の伸縮の方向が、センター部材の位置を変化させる方向とは異なる方向にすることができ、特にポリッシングツールの軸方向と同じ方向にすると良い。なお、伸縮部材としては、積層圧電素子、磁歪又は形状記憶合金のいずれかであると良い。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、圧電素子等の伸縮部材を使うことから高精度な研磨をすることができ、かつ、研磨装置をコンパクトにすることができる。また、変位拡大機構を用いることで研磨できる範囲を広げることができる。さらに、複数台のアクチュエータを用い、それぞれの伸縮部材に供給する電圧又は電流の波形を駆動回路により制御することで、ポリッシングツールと被研磨物との間の相対的な動きを直線だけでなく、様々な軌道にすることができるという効果を奏する。
【0011】
4台のアクチュエータの場合、相対する2対のアクチュエータを各々異なった2つの周波数成分を持つ正弦波で駆動することで、ある面の範囲に対して、満遍なく研磨する様々な軌道を作ることができるという効果がある。
【0012】
3台のアクチュエータの場合は4台のアクチュエータの場合に比べて、制御できる自由度が増え、駆動回路から供給される電圧又は電流の波形が、3台の前記アクチュエータに対して各々異なった3つの周波数成分を持つ正弦波で駆動することで、ある面の範囲に対して、より一層満遍なく研磨する様々な軌道を作ることができるという効果がある。
【0013】
また、伸縮部材の伸縮の方向をセンター部材の位置が変化する水平面内とは異なる方向にすることで、研磨装置をよりコンパクトにすることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】変位拡大機構を有するアクチュエータを3台用いた本発明に係る研磨装置の平面図である。
【図2】本発明に用いるアクチュエータの動作を示す図である。
【図3】被研磨物の研磨の様子を模式的に例示した図である。
【図4】変位拡大機構を有するアクチュエータを4台用いた実施例の平面図である。
【図5】変位拡大機構を有するアクチュエータを4台用いた他の実施例の平面図である。
【図6】伸縮部材をポリッシングツールと同じ方向に設けた実施例の斜視図である。
【図7】変位拡大機構を有する圧電アクチュエータの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照しながら説明する。
【0016】
図1は変位拡大機構を有するアクチュエータを3台用いた本発明に係る研磨装置の平面図である。また、図2は本発明に用いるアクチュエータの動作を示す図である。
【0017】
図1に示した本発明に係る研磨装置10は、伸縮部材11に変位拡大機構を設けたアクチュエータ12を3台使用するものである。その配置は、中央部に研磨に用いられるポリッシングツール又は被研磨物を取り付けるセンター部材14があって、それを取り囲むように3台のアクチュエータ12が、120゜ごとに設けられている。アクチュエータ12の一端はセンター部材14と接続され、他端は固定端13となっている。アクチュエータ12は変位拡大機構を備えているので、伸縮部材11の変位を拡大した範囲で研磨することが可能となっている。なお、ここで用いた変位拡大機構は図7のものとは形状が異なるが、形状は特定しないので、図7に示すような変位拡大機構を用いても良い。
【0018】
それぞれの伸縮部材11は、駆動回路から所要の電圧又は電流が供給されると、図2に示したように伸縮部材11が伸縮し、それに伴いセンター部材14には変位拡大機構によって拡大された変位が生じる構成になっている。ここで、伸縮部材11が積層圧電素子の場合は、それぞれの伸縮部材11に電圧を印加させて伸縮させれば良く、磁歪や形状記憶合金の場合は、伸縮部材11に巻き付けたコイル等に電流を供給すれば良い。そして、センター部材14は、三方向からアクチュエータ12の力(変位)を受けることから、それぞれに供給する電圧や電流を制御すれば、直線的な動きだけでなく、平面的に複雑な軌道を描くことも可能である。例えば、3台のアクチュエータ12を駆動する駆動回路から供給される電圧又は電流の波形が、3台のアクチュエータ12に対して各々異なった3つの周波数成分を持つ正弦波であることにすると、ある面の範囲に対して、満遍なく研磨する様々な軌道を作ることが可能である。なお、積層圧電素子のように応答性に優れる伸縮部材11を用いれば、高精度な制御が可能である。
【0019】
また、センター部材14の周囲にアクチュエータ12を3台設けていると、伸縮部材11に常に圧縮力が作用している状態で、センター部材14の動きを制御することが可能である。そうすると、伸縮部材11に引張力を作用させない状態で制御することが可能なので、壊れにくい使い方を実現できる。
【0020】
図3は被研磨物の研磨の様子を模式的に例示した図である。研磨装置10のセンター部材14に取り付けられたポリッシングツール15は、被研磨物20に向かって所要の荷重fを受けて、先端を被研磨物20に当接し、もしくは遊離砥粒30を介した状態で被研磨物20と接している。なお、荷重fは、図示しないアクチュエータを使用することによって付与しても良い。ここで例示する研磨方法では、研磨位置に液体に混ぜた遊離砥粒30を備え、ポリッシングツール15が摺動することで、被研磨物20を研磨するものとしているが、ポリッシングツール15に直接ダイヤモンド砥粒等を固定したもので研磨する場合もある。
【0021】
また、図3とは逆にセンター部材14に被研磨物20を取り付け、ポリッシングツール15を固定するという構成にしても、ポリッシングツール15と被研磨物20との相対的な動きには変わりはないので、同様な研磨を行うことができる。
【0022】
図4は変位拡大機構を有するアクチュエータを4台用いた実施例であり、図5は同様に変位拡大機構を有するアクチュエータを4台用いた他の実施例である。図4と図5のそれぞれの実施例は、伸縮部材11の向きや変位拡大機構の形状が異なっている。図4の場合には、伸縮部材11を使用していることと、その配置から、研磨装置10全体をコンパクトにすることが可能であるという特徴がある。一方、図5の場合には、伸縮部材11を大きくすることができ、更に変位拡大機構を使用しているため、研磨範囲をさらに広くすることが可能である。また、いずれの場合も、アクチュエータ12が3台の場合と同様に、供給する電圧や電流を制御すれば、直線的な動きだけでなく、平面的に複雑な軌道を描くことが可能であり、応答性に優れることから、高精度な制御が可能である。
【0023】
また、アクチュエータ12を4台使用した場合には、それぞれのアクチュエータ12が、センター部材14の周囲に90゜ごとに接続されることになる。このとき、相対するアクチュエータ12同士に発生する変位が逆向きになるように制御すると、効率よくセンター部材14を動かすことができる。また、2対のアクチュエータ12を駆動する駆動回路から供給される電圧又は電流の波形が、2対のアクチュエータ12に対して各々異なった2つの周波数成分を持つ正弦波であることにしても良い。なお、伸縮部材11と変位拡大機構との間に剥離が生じるおそれがあるような場合には、全ての伸縮部材11に圧縮力が作用した状態で、研磨をすることも可能である。
【0024】
また、アクチュエータ12を4台使用した場合にも、ポリッシングツール15と被研磨物20のいずれをセンター部材14に取り付けても良い。また、アクチュエータ12を3台又は4台用いた実施例を示したが、設置が可能であれば、5台以上のアクチュエータ12を使用しても同様の効果を奏することができる。
【0025】
伸縮部材11の伸縮の方向をセンター部材14の位置が変化する水平面内とは異なる方向にすることで、研磨装置10をコンパクトにすることができる。図6は、伸縮部材11をポリッシングツール15と同じ方向に設けた実施例の斜視図である。特に、図6のように、ポリッシングツール15の軸方向と伸縮部材11の伸縮方向が同じ方向であれば、同一平面上にアクチュエータ12を配置したときと比べて、コンパクトにすることができる。また、この場合は、アクチュエータ12同士が干渉することを考慮しなくても良いので、伸縮部材11を大きくして研磨範囲を広げることも可能となる。
【0026】
以上のような、実施例に用いる伸縮部材11としては、積層圧電素子、磁歪又は形状記憶合金といったものが挙げられる。ここで、積層圧電素子の場合は、特に応答性が良いというメリットがある。また、磁歪の場合には、伸縮部材11と変位拡大機構とを一体として製造することができるので、より壊れにくい研磨装置を製作することが可能である。
【符号の説明】
【0027】
10 研磨装置
11 伸縮部材
12 アクチュエータ
13 固定端
14 センター部材
15 ポリッシングツール
20 被研磨物
30 遊離砥粒

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリッシングツールにより被研磨物の表面を研磨する研磨装置であって、
電圧又は電流の供給により変形する伸縮部材と、前記伸縮部材に生じる変位を拡大する変位拡大機構と、を備えたアクチュエータと、
中央部にポリッシングツール又は被研磨物のいずれか一方を取り付け、周囲に前記アクチュエータを複数台接続するセンター部材と、
それぞれの前記伸縮部材に所要の電圧又は電流の波形を供給し、前記アクチュエータに拡大された変位を生じさせる駆動回路と、を有し、
それぞれの前記アクチュエータに生じる変位に伴って前記センター部材の位置が変化し、それによって前記被研磨物と前記ポリッシングツールとの間に生じる相対的な動きにより前記被研磨物の表面を研磨することを特徴とする研磨装置。
【請求項2】
3台の前記アクチュエータが、前記センター部材の周囲に120゜ごとに接続されていることを特徴とする請求項1に記載の研磨装置。
【請求項3】
4台の前記アクチュエータが、前記センター部材の周囲に90゜ごとに接続されていることを特徴とする請求項1に記載の研磨装置。
【請求項4】
請求項3に記載の研磨装置において、相対する前記アクチュエータ同士は、発生する変位が互いに逆方向になるように前記駆動回路から所要の電圧又は電流の波形が供給されることを特徴とする研磨装置。
【請求項5】
請求項2に記載の研磨装置において、3台の前記アクチュエータを駆動する前記駆動回路から供給される電圧又は電流の波形が、3台の前記アクチュエータに対して各々異なった3つの周波数成分を持つ正弦波であることを特徴とする研磨装置。
【請求項6】
請求項4に記載の研磨装置において、2対の前記アクチュエータを駆動する前記駆動回路から供給される電圧又は電流の波形が、2対の前記アクチュエータに対して各々異なった2つの周波数成分を持つ正弦波であることを特徴とする研磨装置。
【請求項7】
前記伸縮部材の伸縮の方向が、前記センター部材の位置を変化させる方向とは異なることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の研磨装置。
【請求項8】
前記伸縮部材の伸縮の方向が、前記ポリッシングツールの軸方向と同じ方向であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の研磨装置。
【請求項9】
前記伸縮部材が、積層圧電素子、磁歪又は形状記憶合金のいずれかであることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の研磨装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−121130(P2012−121130A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−16591(P2011−16591)
【出願日】平成23年1月28日(2011.1.28)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)「平成22年度、経済産業省、戦略的基盤技術高度化支援事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願」
【出願人】(503343613)株式会社長津製作所 (2)
【出願人】(502254796)有限会社メカノトランスフォーマ (22)
【Fターム(参考)】