移動体の絶対値型位置検出装置
【課題】長い距離に亘って移動体の絶対位置を正確に検出可能で低コストの移動体の絶対値型位置検出装置を提供する。
【解決手段】移動体の絶対位置を特定する絶対値特定パターンが記録されている絶対位置特定スケール10と、スケールの絶対位置を検出する検出手段と、からなる移動体の絶対値型位置検出装置1であって、スケール10の隣接するスケールは順次その一部が重なるように所定のオーバーラップ量を保持して直列に配置され、検出手段はスケール毎に各々配置されており、オーバーラップ量の絶対位置および各スケールのオーバーラップ内の特定位置を記憶しておく不揮発性記憶部31と、検出手段によるスケールの絶対位置の検出結果と不揮発性記憶部31に記憶されている情報から移動体の絶対位置を演算する演算部30とを備えた。
【解決手段】移動体の絶対位置を特定する絶対値特定パターンが記録されている絶対位置特定スケール10と、スケールの絶対位置を検出する検出手段と、からなる移動体の絶対値型位置検出装置1であって、スケール10の隣接するスケールは順次その一部が重なるように所定のオーバーラップ量を保持して直列に配置され、検出手段はスケール毎に各々配置されており、オーバーラップ量の絶対位置および各スケールのオーバーラップ内の特定位置を記憶しておく不揮発性記憶部31と、検出手段によるスケールの絶対位置の検出結果と不揮発性記憶部31に記憶されている情報から移動体の絶対位置を演算する演算部30とを備えた。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばリニア移動型の移動体の絶対位置を検出する移動体の絶対値型位置検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、リニア移動型の移動体の原点からの絶対位置を検出する移動体の絶対値型位置検出装置は一般に知られている。この移動体の絶対値型位置検出装置は、一般に磁気スケールとMR素子の組合せによって構成されているものや、位置コードを光学的に読み取るもの、静電容量を読み取るものなどがある。しかし、長い距離を検出する場合、短い磁気スケールを直列に繋ぎ合わせると接続部分で誤差が生じたり、構造的に直列には繋げられなかったり、また単純に全長を延ばしてしまうと分解能が不足してしまったりするため、高分解能で長距離の絶対値型位置検出装置の実現が難しい。
【0003】
絶対値型位置検出装置を直列に繋ぐためには、繋ぎ部の検出誤差を無くすために繋ぎ合わせる接触面間の正確な寸法関係を維持する高度な加工精度が要求される。
【0004】
一方、繋ぎ部の検出誤差を無くすためにスケールの繋ぎ部を検出すると動作する第3検出器を備えているスケール装置も知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−55647号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の特許文献1記載のスケール装置は、繋ぎ部の検出誤差を無くすためにスケールの繋ぎ部を検出すると動作する第3検出器を新たに必要とし、既存製品を使用できないために、設備投資にコストのかかる問題がある。
【0007】
一方、従来型の移動体の絶対値型位置検出装置は、ある程度長い距離を検出する場合、短い磁気スケールを単に直列に繋ぎ合わせようとすると、磁気スケールの繋ぎ合わせる接触面の表面粗さによっては繋ぎ部に隙間が生じる。また、繋ぎ部を接着剤等で繋ぎ合わせる場合にも、接着部の厚みで繋ぎ部に隙間が発生する。また、完全に直列に繋げて配置されているため、隣接する磁気スケールの磁界の影響を受け出力誤差が発生する。その結果、移動体の移動量を正確に検出できない。
【0008】
また、繋ぎ部を有さないである程度長い距離を検出する場合、ビット数を増やすことも従来から行われているが、その分コストがかかる。また、磁気スケール自体が長尺となるため運搬時や組立て時の作業性が悪い。また、運搬時の荷姿による変形や組み付け状態での加熱収縮による磁気スケール自体の破損の問題が発生する虞もある。
【0009】
本発明は、以上のような実情に鑑みてなされたもので、長い距離に亘って移動体の絶対位置を正確に検出可能で低コストの移動体の絶対値型位置検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題を解決するために、本発明の請求項1に係る移動体の絶対値型位置検出装置は、
移動体の絶対位置を特定する絶対値特定パターンが記録されている絶対位置特定スケールと、
前記スケールの絶対位置を検出する検出手段と、からなる移動体の絶対値型位置検出装置であって、
前記スケールの隣接するスケールは順次その一部が重なるように所定のオーバーラップ量を保持して直列に配置され、前記検出手段は前記スケール毎に各々配置されており、
前記オーバーラップ量の絶対位置および各スケールのオーバーラップ内の特定位置を記憶しておく不揮発性記憶部と、
前記検出手段によるスケールの絶対位置の検出結果と前記不揮発性記憶部に記憶されている情報から移動体の絶対位置を演算する演算部と、を備えることを特徴としている。
【0011】
本発明の請求項1に係る移動体の絶対値型位置検出装置によると、移動体絶対位置特定スケールを順次直列に配置するとともに、隣接するスケールの連結部が一部重なるようにオーバーラップさせて各々のスケールのオーバーラップ部分を重複させた状態で緩やかな階段状に並列配置されている。そのため、各移動体絶対位置特定スケール間の連結部(繋ぎ部)において直列方向に隙間が発生しない。その結果、移動体の絶対値型位置検出装置が繋ぎ部の隙間の影響を受けることなく、正確に検出できるエリアのデータを演算し正確な移動量を検出できる。
【0012】
そして後述するプリセットの設定は、各磁気スケールのオーバーラップ内の特定位置、すなわち隣接する磁気スケールがオーバーラップする領域内において、磁気スケールの絶対位置を計測し、この計測値を不揮発性記憶部に記憶させることにより行う。このようにすることにより、各磁気スケールの絶対位置を厳密に計測する必要がなく、プリセットの設定時間を短縮することが可能となる。
【0013】
また、本発明の請求項2に係る移動体の絶対値型位置検出装置は、請求項1に記載の移動体の絶対値型位置検出装置において、
前記演算部は、前記検出手段によるスケールの絶対位置の検出結果と、
前記不揮発性記憶部に記憶されている前記スケールの手前のスケールまでのオーバーラップ内の特定位置の合算値とを加算し、
その加算値から前記不揮発性記憶部に記憶されている各々のオーバーラップ量の絶対位置を減算することを特徴としている。
【0014】
これによって、並列してオーバーラップする移動体絶対位置特定スケールのそれぞれの読み取り値を読み取る。そして、その読み取り値が不揮発性記憶部を介して演算される。その結果、移動体の移動量を短尺の移動体絶対位置特定スケールの組合せによって長い距離に亘って検出できる。また、ビット数を増やすことなく長い距離を検出できる。また、既存の絶対値エンコーダのスケールとセンサを用いることができ、新たな設備投資等がなくコストがかからない。また、運搬時や組立て時の作業性も改善される。また、運搬時の荷姿による変形や組み付け状態での加熱収縮による磁気スケール自体の破損の問題も生じない。
【発明の効果】
【0015】
本発明によると、長い距離に亘って移動体の絶対位置を正確に検出可能で低コストの移動体の絶対値型位置検出装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態に係る移動体の絶対値型位置検出装置を示す概略構成図である。
【図2】図1に示した移動体の絶対値型位置検出装置の使用前のプリセット用フローチャートである。
【図3】本発明の一実施形態に係る移動体の絶対値型位置検出装置をその各構成要素の具体的寸法関係を含めて示す概略構成図である。
【図4】図3に示した移動体の絶対値型位置検出装置の使用前のプリセット用フローチャートである。
【図5】図1に示した移動体の絶対値型位置検出装置の絶対位置検出用フローチャートである。
【図6】図3に示した移動体の絶対値型位置検出装置の絶対位置検出用フローチャートである。
【図7】n本の磁気スケールを配列した移動体の絶対値型位置検出装置の使用前のプリセット用フローチャートである。
【図8】n本の磁気スケールを配列した移動体の絶対値型位置検出装置の絶対位置検出用フローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施形態に係る移動体の絶対値型位置検出装置を図面に基づいて詳細に説明する。なお、本実施形態を説明するにあたって、移動体の絶対値型位置検出装置の一構成要素をなす移動体絶対位置特定スケールを、各寸法関係を規定せずに3本配置した構成、及び前者の各移動体絶対位置特定スケールの各寸法及び後述するオーバーラップ分の寸法を具体的に特定した構成、並びに移動体絶対位置特定スケールをn本配置した一般的構成の順に説明する。
【0018】
図1は、本発明の実施形態に係る移動体の絶対値型位置検出装置1を示す概略構成図である。本発明の一実施形態に係る移動体の絶対値型位置検出装置1は、図1に示すように、直線的に移動する移動体の位置を検知する移動体の絶対値型位置検出装置である。そして、本実施形態における移動体の絶対値型位置検出装置1は磁気式の移動体の絶対値型位置検出装置であり、移動体の絶対位置を特定する移動体絶対位置特定スケール10(以下、適宜「磁気スケール」とする)と、移動体の絶対位置を検出する移動体絶対位置検出センサ25(以下、適宜「MRセンサ」とする)と、検出した検出値を記憶する不揮発性記憶部31と、を備えている。
【0019】
磁気スケール10は、3本の磁気スケール11,12,13からなり、直列に配置され、各磁気スケール10の連結付近において一定の量だけオーバーラップするように磁気スケール10の幅方向に所定の間隔を介して階段状に並列に配置されている。即ち、各磁気スケール11,12,13はその隣接する磁気スケールの各端部を幅方向にずらしながら全体的に直列に配置されている。そして、各磁気スケール10の隣接する端部同士が、そのずらした部分において幅方向に並び合った部分をオーバーラップ部分とする。また、ここで、幅方向とは、MRセンサ25の並び方向をいう。
【0020】
第1の磁気スケール11と第2の磁気スケール12の連結付近では、上述のように所定量S2だけオーバーラップして配置されている。また、第2の磁気スケール12と第3の磁気スケール13の連結付近では、所定量S3だけオーバーラップして配置されている。なお、このオーバーラップ量は、予め特定のオーバーラップ量と規定して各磁気スケールを配置する必要はない。そのため、オーバーラップ量を気にすることなく磁気スケール10の配置作業を容易に行うことができる。
【0021】
移動体の絶対位置を検出する移動体絶対位置検出センサは、第1の磁気スケール11に対応する第1のMRセンサ21(25)と、第2の磁気スケール12に対応する第2のMRセンサ22(25)と、第3の磁気スケール13に対応する第3のMRセンサ23(25)から構成され、これら3個のMRセンサ21,22,23は、それぞれの磁気スケール10(11,12,13)に対応するように可動板20に搭載されている。各MRセンサ21,22,23にはそれぞれMR素子26,27,28が内蔵されている。そして、各MRセンサ21,22,23は、それぞれ配列された位置に対応する磁気スケール10の磁界の変化に応じて各磁気スケールの絶対位置を検出するようになっている。なお、以下に3個のMRセンサ21,22,23を適宜まとめてMRセンサ25とする。
【0022】
MRセンサ25は、演算部30に電気的に接続され、演算部30内に不揮発性記憶部31を備えている。そして、後述するプリセット時に各MRセンサ21,22,23により検出した計測値を不揮発性記憶部31に記憶すると共に、これらの計測値を演算部30に入力することにより演算処理を行い、移動体の絶対位置を特定する構成になっている。なお、各MRセンサ21,22,23に対応するMR素子26,27,28は、図面には1つとして示されているが、複数のMR素子で構成されていても良い。
【0023】
次に、図1に示す移動体の絶対値型位置検出装置1において、移動体の絶対位置を検出する前に行うプリセットについて説明する。ここで、プリセットとは、ユーザーが使用する前に製品工場出荷時に行う初期設定であり、直列配置された磁気スケール10のうち、第1の磁気スケール11と第2の磁気スケール12の最大絶対位置(以下、最大スケール長という)A1max,A2maxおよびこれらの磁気スケール11,12間のオーバーラップ量S2並びに第2の磁気スケール12と第3の磁気スケール13間のオーバーラップ量S3を予め検出して、これらの検出結果を演算部30の不揮発性記憶部31に記憶させることをいう。このプリセットの設定は、ユーザーがメンテナンス上行うことができる一方、分解して装置を運び、再組み立てをしたときなどには行う必要が生じる。
【0024】
続いて、図1に示す移動体の絶対値型位置検出装置のプリセットを行う具体的な方法を図2に示すフローチャートに基づいて説明する。プリセットを行うにあたって、最初に第1のMRセンサ21が第1の磁気スケール11の最大スケール長A1maxを検出できるまでMRセンサ25を移動させる(ステップS11)。そして、その位置における第1のMRセンサ21による第1の磁気スケールの出力値A1maxおよび第2のMRセンサ22による第2の磁気スケールの出力値S2をオーバーラップ量として読み取り、これらの出力値を不揮発性記憶部31に記憶する(ステップS12)。
【0025】
続いて、第2のMRセンサ22が第2の磁気スケール12の最大スケール長A2maxを検出できるまでMRセンサ25を移動させる(ステップS13)。そして、その位置における第2のMRセンサ22による第2の磁気スケール12の出力値A2maxおよび第3のMRセンサ23による第3の磁気スケール13の出力値S3をオーバーラップ量として読み取り、これらの出力値を不揮発性記憶部31に記憶する(ステップS14)。このようにしてプリセットの設定を完了する。
【0026】
続いて、プリセットの設定が完了した図1に示した移動体の絶対値型位置検出装置を用いて移動体の絶対位置を検出する方法について、図5に示すフローチャートに基づいて説明する。
【0027】
ある特定の位置で移動体の絶対位置を確認したい場合、まず何れのMRセンサ21,22,23が移動体の絶対位置を検知しているかを判断する。ここで例えば第1のMRセンサ21のみが移動体の絶対位置を検知し、その他のMRセンサ22,23が検知できていない場合、移動体は第1の磁気スケール11上に存在していると認定する(ステップS31)。そして、第1のMRセンサ21のみの出力値A1を演算部30に入力し(ステップS32)、演算部30にて演算処理を行う(ステップS36)。このときの移動体の絶対位置X=A1となる。
【0028】
一方、第1のMRセンサ21で移動体の絶対位置が検知されず、第2のMRセンサ22が移動体の絶対位置を検知している場合、移動体は第2の磁気スケール12上に存在していると認定する(ステップS33)。そして、この場合は、第2のMRセンサ22の出力値A2およびプリセット時に不揮発性記憶部31に記憶した第1の磁気スケール11の最大スケール長A1maxとオーバーラップ量S2を演算部30に入力し(ステップS34)、演算部30にて演算処理を行う(ステップS37)。このときの移動体の絶対位置X=A2+A1max−S2となる。
【0029】
なお、上述の2つの条件を満たさない場合、即ち第3のMRセンサ23が移動体の絶対位置を検知している場合、移動体は第3の磁気スケール13上に存在していると認定する(ステップS33)。そして、この場合は、第3のMRセンサ23の出力値A3およびプリセット時に不揮発性記憶部31に記憶した第1の磁気スケール11の最大スケール長A1max並びに第2の磁気スケール12の最大スケール長A2maxとオーバーラップ量S2,S3を演算部30に入力し(ステップS35)、演算部30にて演算処理を行う(ステップS38)。このときの移動体の絶対位置X=A3+(A1max+A2max)−(S2+S3)となる。なお、図1は、移動体が移動量Xだけ移動し、第3のスケール13の途中位置A3を検出する場合を示している。
【0030】
続いて、上述したプリセットの説明の理解をより深めるために、第1の磁気スケール11、第2の磁気スケール12、第3の磁気スケール13、オーバーラップ量S2,S3のそれぞれに具体的数値を当てはめた場合を説明する。図3は、図1における構成と等価的な構成を示しているが、A1maxを100mm、A2maxを100mm、A3maxを100mm、S2を5mm、S3を4mmとしている。
【0031】
図4は、図3の構成に対応する絶対位置検出装置のプリセットを行う具体的な方法を示すフローチャートである。以下、図3に示す移動体の絶対値型位置検出装置のプリセットを行う具体的な方法をフローチャートに基づいて説明する。
【0032】
プリセットを行うにあたって、最初に第1の磁気スケール11の最大スケール長である100mmまでMRセンサ25を移動させる(ステップS21)。そして、その位置における第1のMRセンサ21による第1の磁気スケール11の出力値A1max=100mmおよび第2のMRセンサ22による第2のスケール12の出力値S2=5mmをオーバーラップ量として読み取り、これらの出力値を不揮発性記憶部31に記憶する(ステップS22)。
【0033】
続いて、第2の磁気スケール12の最大スケール長である195mmまでMRセンサ25を移動させる(ステップS23)。そして、その位置における第2のMRセンサ22による第2の磁気スケール12の出力値A2max=100mmおよび第3のMRセンサ23による第3の磁気スケール13の出力値S3=4mmをオーバーラップ量として読み取り、これらの出力値を不揮発性記憶部31に記憶する(ステップS24)。このようにしてプリセットの設定を完了する。
【0034】
続いて、プリセットの設定が完了した図3に示した移動体の絶対値型位置検出装置を用いて移動体の絶対位置を検出する方法について、図6に示すフローチャートに基づいて説明する。
【0035】
第1のMRセンサ21のみが移動体の絶対位置を検知している場合、移動体は第1の磁気スケール11上に存在していると認定する(ステップS41)。ここで、移動体が存在する第1の磁気スケール11の絶対位置A1=35mmである場合は、第1のMRセンサ21のみの出力値A1=35mmを演算部30に入力し(ステップS42)、演算部30にて演算処理を行う(ステップS46)。このときの移動体の絶対位置X=35mmとなる。
【0036】
一方、第1のMRセンサ21で移動体の絶対位置が検知されず、第2のMRセンサ22が移動体の絶対位置を検知している場合、移動体は第2の磁気スケール12上に存在していると認定する(ステップS43)。ここで、移動体が存在する第2の磁気スケール12の絶対位置A2=50mmである場合は、第2のMRセンサ22の出力値A2=50mm、プリセット設定時に不揮発性記憶部31に記憶した第1の磁気スケール11の最大スケール長A1max=100mmとオーバーラップ量S2=5mmを演算部30に入力し(ステップS44)、演算部30にて演算処理を行う(ステップS47)。このときの移動体の絶対位置X=50mm+100mm−5mm=145mmとなる。
【0037】
なお、上述の2つの条件を満たさない場合、即ち第3のMRセンサ23が移動体の絶対位置を検知している場合、移動体は第3の磁気スケール13上に存在していると認定する(ステップS43)。ここで、移動体が存在する第3の磁気スケール13の絶対位置A3=80mmである場合は、第3のMRセンサ23の出力値A3=80mmおよびプリセット時に不揮発性記憶部31に記憶した第1の磁気スケール11の最大スケール長A1max=100mmおよび第2の磁気スケール12の最大スケール長A2max=100mmとオーバーラップ量S2=5mm、S3=4mmを演算部30に入力し(ステップS45)、演算部30にて演算処理を行う(ステップS48)。このときの移動体の絶対位置X=80mm+(100mm+100mm)−(5mm+4mm)=271mmとなる。
【0038】
これまでは、磁気スケールが3本直列に配置されている構成について説明したが(図1および図3を参照)、本発明はこれに限定されることなく任意の本数でも実現が可能である。そこで次に、n本の磁気スケールを配置した構成におけるプリセットの方法と絶対位置検出方法について説明する。図7は、n本の磁気スケールを配置した場合のプリセットの方法を示すフローチャートである。また、図8は、n本の磁気スケールを配置した場合の絶対位置検出方法を示すフローチャートである。
【0039】
まず、図7に示すプリセットの方法について説明する。
【0040】
磁気スケールがn本(nは1以上の整数)直列に配置されている場合、その手前の本数(n−1)本までの各磁気スケールの最大スケール長であるA1maxからA(n−1)maxまでおよび隣接する各磁気スケールのオーバーラップ量S2からSnまでを、MRセンサ25を移動させることにより計測する(ステップS51,S53,S55)。そして、その位置における各々のMRセンサによる各出力値を不揮発性記憶部31に記憶させてプリセットの設定を完了する。(ステップS52,S54,S56)。
【0041】
続いて、磁気スケールがn本(nは1以上の整数)直列に配置されている場合の移動体の絶対位置検出方法を図8のフローチャートに基づいて説明する。
【0042】
移動体を移動させたい位置に停止させ、その位置における移動体の絶対位置を検出する。ここで例えば、n本ある磁気スケールのうち、移動体がk本目の磁気スケール(kは1以上n以下の整数)上に存在していると認定される場合(ステップS61,S63,S65,S67)、k本目の磁気スケールに対応するMRセンサの出力値Akと、上述のプリセット設定時に予め不揮発性記憶部31に記憶した1本目から(k−1)本目までの最大スケール長であるA1maxからA(k−1)maxまで、および各オーバーラップ量S2からSkまでの計測値を演算部30に入力する(ステップS62,S64,S66,S68)。
【0043】
従って、計測すべき移動体の絶対位置をXとすると、X=Ak+(A1max+A2max+・・・+A(k−1)max)−(S2+S3+・・・+Sk)として、移動体の絶対位置を演算部30にて演算処理する(ステップS69,S70,S71,S72)。この演算部30にて演算処理を行う演算式は以下の式で表わされる。
【0044】
【数1】
(1≦k≦n、k:整数)
【0045】
以上説明したように、本発明によると、複数の磁気スケール10を機械的接続することなく繋ぎ合わせることができるため、長い距離の検出をすることが可能となる。その結果、運搬時や組立て時の作業性効率が向上する。また、運搬時の荷姿による変形や、組み付け状態での加熱収縮による磁気スケール自体の破損の問題もなくなる。また、ビット数を増やすことなく長い距離を検出できる。また、プリセットにおいて各磁気スケールの最大スケール長とオーバーラップ量を予め記憶させているため、検出のたびに計測する必要がない。
【0046】
なお、以上の説明においてプリセットの設定を行うに際して、各磁気スケールの最大スケール長および各オーバーラップ量を計測し、これらの計測値を不揮発性記憶部31に記憶し、演算部30に入力し演算処理を行うことにより、移動体の絶対位置を計測したが、不揮発性記憶部31に記憶する各磁気スケールの計測値は、最大スケール長に限定されず隣接する磁気スケールがオーバーラップする領域内において、磁気スケールの絶対位置を計測し、この計測値を不揮発性記憶部31に記憶させる場合も本発明の技術的範囲に属するのは上述した通りである。このようにすることで、各磁気スケールの絶対位置を厳密に計測する必要がなく、プリセットの設定時間を短縮できるという利点がある。
【0047】
また、本実施例では磁気式の移動体の絶対値型位置検出装置について説明したが、磁気式に限らず光学式や静電容量式等何れの移動体の絶対値型位置検出装置であってもかまわない。
【符号の説明】
【0048】
1 移動体の絶対値型位置検出装置
10(11,12,13) 移動体絶対位置特定スケール(磁気スケール)
11 第1の磁気スケール
12 第2の磁気スケール
13 第3の磁気スケール
20 可動板
21 第1のMRセンサ
22 第2のMRセンサ
23 第3のMRセンサ
25(21,22,23) 移動体絶対位置検出センサ(MRセンサ)
26,27,28 MR素子
30 演算部
31 不揮発性記憶部
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばリニア移動型の移動体の絶対位置を検出する移動体の絶対値型位置検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、リニア移動型の移動体の原点からの絶対位置を検出する移動体の絶対値型位置検出装置は一般に知られている。この移動体の絶対値型位置検出装置は、一般に磁気スケールとMR素子の組合せによって構成されているものや、位置コードを光学的に読み取るもの、静電容量を読み取るものなどがある。しかし、長い距離を検出する場合、短い磁気スケールを直列に繋ぎ合わせると接続部分で誤差が生じたり、構造的に直列には繋げられなかったり、また単純に全長を延ばしてしまうと分解能が不足してしまったりするため、高分解能で長距離の絶対値型位置検出装置の実現が難しい。
【0003】
絶対値型位置検出装置を直列に繋ぐためには、繋ぎ部の検出誤差を無くすために繋ぎ合わせる接触面間の正確な寸法関係を維持する高度な加工精度が要求される。
【0004】
一方、繋ぎ部の検出誤差を無くすためにスケールの繋ぎ部を検出すると動作する第3検出器を備えているスケール装置も知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−55647号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の特許文献1記載のスケール装置は、繋ぎ部の検出誤差を無くすためにスケールの繋ぎ部を検出すると動作する第3検出器を新たに必要とし、既存製品を使用できないために、設備投資にコストのかかる問題がある。
【0007】
一方、従来型の移動体の絶対値型位置検出装置は、ある程度長い距離を検出する場合、短い磁気スケールを単に直列に繋ぎ合わせようとすると、磁気スケールの繋ぎ合わせる接触面の表面粗さによっては繋ぎ部に隙間が生じる。また、繋ぎ部を接着剤等で繋ぎ合わせる場合にも、接着部の厚みで繋ぎ部に隙間が発生する。また、完全に直列に繋げて配置されているため、隣接する磁気スケールの磁界の影響を受け出力誤差が発生する。その結果、移動体の移動量を正確に検出できない。
【0008】
また、繋ぎ部を有さないである程度長い距離を検出する場合、ビット数を増やすことも従来から行われているが、その分コストがかかる。また、磁気スケール自体が長尺となるため運搬時や組立て時の作業性が悪い。また、運搬時の荷姿による変形や組み付け状態での加熱収縮による磁気スケール自体の破損の問題が発生する虞もある。
【0009】
本発明は、以上のような実情に鑑みてなされたもので、長い距離に亘って移動体の絶対位置を正確に検出可能で低コストの移動体の絶対値型位置検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題を解決するために、本発明の請求項1に係る移動体の絶対値型位置検出装置は、
移動体の絶対位置を特定する絶対値特定パターンが記録されている絶対位置特定スケールと、
前記スケールの絶対位置を検出する検出手段と、からなる移動体の絶対値型位置検出装置であって、
前記スケールの隣接するスケールは順次その一部が重なるように所定のオーバーラップ量を保持して直列に配置され、前記検出手段は前記スケール毎に各々配置されており、
前記オーバーラップ量の絶対位置および各スケールのオーバーラップ内の特定位置を記憶しておく不揮発性記憶部と、
前記検出手段によるスケールの絶対位置の検出結果と前記不揮発性記憶部に記憶されている情報から移動体の絶対位置を演算する演算部と、を備えることを特徴としている。
【0011】
本発明の請求項1に係る移動体の絶対値型位置検出装置によると、移動体絶対位置特定スケールを順次直列に配置するとともに、隣接するスケールの連結部が一部重なるようにオーバーラップさせて各々のスケールのオーバーラップ部分を重複させた状態で緩やかな階段状に並列配置されている。そのため、各移動体絶対位置特定スケール間の連結部(繋ぎ部)において直列方向に隙間が発生しない。その結果、移動体の絶対値型位置検出装置が繋ぎ部の隙間の影響を受けることなく、正確に検出できるエリアのデータを演算し正確な移動量を検出できる。
【0012】
そして後述するプリセットの設定は、各磁気スケールのオーバーラップ内の特定位置、すなわち隣接する磁気スケールがオーバーラップする領域内において、磁気スケールの絶対位置を計測し、この計測値を不揮発性記憶部に記憶させることにより行う。このようにすることにより、各磁気スケールの絶対位置を厳密に計測する必要がなく、プリセットの設定時間を短縮することが可能となる。
【0013】
また、本発明の請求項2に係る移動体の絶対値型位置検出装置は、請求項1に記載の移動体の絶対値型位置検出装置において、
前記演算部は、前記検出手段によるスケールの絶対位置の検出結果と、
前記不揮発性記憶部に記憶されている前記スケールの手前のスケールまでのオーバーラップ内の特定位置の合算値とを加算し、
その加算値から前記不揮発性記憶部に記憶されている各々のオーバーラップ量の絶対位置を減算することを特徴としている。
【0014】
これによって、並列してオーバーラップする移動体絶対位置特定スケールのそれぞれの読み取り値を読み取る。そして、その読み取り値が不揮発性記憶部を介して演算される。その結果、移動体の移動量を短尺の移動体絶対位置特定スケールの組合せによって長い距離に亘って検出できる。また、ビット数を増やすことなく長い距離を検出できる。また、既存の絶対値エンコーダのスケールとセンサを用いることができ、新たな設備投資等がなくコストがかからない。また、運搬時や組立て時の作業性も改善される。また、運搬時の荷姿による変形や組み付け状態での加熱収縮による磁気スケール自体の破損の問題も生じない。
【発明の効果】
【0015】
本発明によると、長い距離に亘って移動体の絶対位置を正確に検出可能で低コストの移動体の絶対値型位置検出装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態に係る移動体の絶対値型位置検出装置を示す概略構成図である。
【図2】図1に示した移動体の絶対値型位置検出装置の使用前のプリセット用フローチャートである。
【図3】本発明の一実施形態に係る移動体の絶対値型位置検出装置をその各構成要素の具体的寸法関係を含めて示す概略構成図である。
【図4】図3に示した移動体の絶対値型位置検出装置の使用前のプリセット用フローチャートである。
【図5】図1に示した移動体の絶対値型位置検出装置の絶対位置検出用フローチャートである。
【図6】図3に示した移動体の絶対値型位置検出装置の絶対位置検出用フローチャートである。
【図7】n本の磁気スケールを配列した移動体の絶対値型位置検出装置の使用前のプリセット用フローチャートである。
【図8】n本の磁気スケールを配列した移動体の絶対値型位置検出装置の絶対位置検出用フローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施形態に係る移動体の絶対値型位置検出装置を図面に基づいて詳細に説明する。なお、本実施形態を説明するにあたって、移動体の絶対値型位置検出装置の一構成要素をなす移動体絶対位置特定スケールを、各寸法関係を規定せずに3本配置した構成、及び前者の各移動体絶対位置特定スケールの各寸法及び後述するオーバーラップ分の寸法を具体的に特定した構成、並びに移動体絶対位置特定スケールをn本配置した一般的構成の順に説明する。
【0018】
図1は、本発明の実施形態に係る移動体の絶対値型位置検出装置1を示す概略構成図である。本発明の一実施形態に係る移動体の絶対値型位置検出装置1は、図1に示すように、直線的に移動する移動体の位置を検知する移動体の絶対値型位置検出装置である。そして、本実施形態における移動体の絶対値型位置検出装置1は磁気式の移動体の絶対値型位置検出装置であり、移動体の絶対位置を特定する移動体絶対位置特定スケール10(以下、適宜「磁気スケール」とする)と、移動体の絶対位置を検出する移動体絶対位置検出センサ25(以下、適宜「MRセンサ」とする)と、検出した検出値を記憶する不揮発性記憶部31と、を備えている。
【0019】
磁気スケール10は、3本の磁気スケール11,12,13からなり、直列に配置され、各磁気スケール10の連結付近において一定の量だけオーバーラップするように磁気スケール10の幅方向に所定の間隔を介して階段状に並列に配置されている。即ち、各磁気スケール11,12,13はその隣接する磁気スケールの各端部を幅方向にずらしながら全体的に直列に配置されている。そして、各磁気スケール10の隣接する端部同士が、そのずらした部分において幅方向に並び合った部分をオーバーラップ部分とする。また、ここで、幅方向とは、MRセンサ25の並び方向をいう。
【0020】
第1の磁気スケール11と第2の磁気スケール12の連結付近では、上述のように所定量S2だけオーバーラップして配置されている。また、第2の磁気スケール12と第3の磁気スケール13の連結付近では、所定量S3だけオーバーラップして配置されている。なお、このオーバーラップ量は、予め特定のオーバーラップ量と規定して各磁気スケールを配置する必要はない。そのため、オーバーラップ量を気にすることなく磁気スケール10の配置作業を容易に行うことができる。
【0021】
移動体の絶対位置を検出する移動体絶対位置検出センサは、第1の磁気スケール11に対応する第1のMRセンサ21(25)と、第2の磁気スケール12に対応する第2のMRセンサ22(25)と、第3の磁気スケール13に対応する第3のMRセンサ23(25)から構成され、これら3個のMRセンサ21,22,23は、それぞれの磁気スケール10(11,12,13)に対応するように可動板20に搭載されている。各MRセンサ21,22,23にはそれぞれMR素子26,27,28が内蔵されている。そして、各MRセンサ21,22,23は、それぞれ配列された位置に対応する磁気スケール10の磁界の変化に応じて各磁気スケールの絶対位置を検出するようになっている。なお、以下に3個のMRセンサ21,22,23を適宜まとめてMRセンサ25とする。
【0022】
MRセンサ25は、演算部30に電気的に接続され、演算部30内に不揮発性記憶部31を備えている。そして、後述するプリセット時に各MRセンサ21,22,23により検出した計測値を不揮発性記憶部31に記憶すると共に、これらの計測値を演算部30に入力することにより演算処理を行い、移動体の絶対位置を特定する構成になっている。なお、各MRセンサ21,22,23に対応するMR素子26,27,28は、図面には1つとして示されているが、複数のMR素子で構成されていても良い。
【0023】
次に、図1に示す移動体の絶対値型位置検出装置1において、移動体の絶対位置を検出する前に行うプリセットについて説明する。ここで、プリセットとは、ユーザーが使用する前に製品工場出荷時に行う初期設定であり、直列配置された磁気スケール10のうち、第1の磁気スケール11と第2の磁気スケール12の最大絶対位置(以下、最大スケール長という)A1max,A2maxおよびこれらの磁気スケール11,12間のオーバーラップ量S2並びに第2の磁気スケール12と第3の磁気スケール13間のオーバーラップ量S3を予め検出して、これらの検出結果を演算部30の不揮発性記憶部31に記憶させることをいう。このプリセットの設定は、ユーザーがメンテナンス上行うことができる一方、分解して装置を運び、再組み立てをしたときなどには行う必要が生じる。
【0024】
続いて、図1に示す移動体の絶対値型位置検出装置のプリセットを行う具体的な方法を図2に示すフローチャートに基づいて説明する。プリセットを行うにあたって、最初に第1のMRセンサ21が第1の磁気スケール11の最大スケール長A1maxを検出できるまでMRセンサ25を移動させる(ステップS11)。そして、その位置における第1のMRセンサ21による第1の磁気スケールの出力値A1maxおよび第2のMRセンサ22による第2の磁気スケールの出力値S2をオーバーラップ量として読み取り、これらの出力値を不揮発性記憶部31に記憶する(ステップS12)。
【0025】
続いて、第2のMRセンサ22が第2の磁気スケール12の最大スケール長A2maxを検出できるまでMRセンサ25を移動させる(ステップS13)。そして、その位置における第2のMRセンサ22による第2の磁気スケール12の出力値A2maxおよび第3のMRセンサ23による第3の磁気スケール13の出力値S3をオーバーラップ量として読み取り、これらの出力値を不揮発性記憶部31に記憶する(ステップS14)。このようにしてプリセットの設定を完了する。
【0026】
続いて、プリセットの設定が完了した図1に示した移動体の絶対値型位置検出装置を用いて移動体の絶対位置を検出する方法について、図5に示すフローチャートに基づいて説明する。
【0027】
ある特定の位置で移動体の絶対位置を確認したい場合、まず何れのMRセンサ21,22,23が移動体の絶対位置を検知しているかを判断する。ここで例えば第1のMRセンサ21のみが移動体の絶対位置を検知し、その他のMRセンサ22,23が検知できていない場合、移動体は第1の磁気スケール11上に存在していると認定する(ステップS31)。そして、第1のMRセンサ21のみの出力値A1を演算部30に入力し(ステップS32)、演算部30にて演算処理を行う(ステップS36)。このときの移動体の絶対位置X=A1となる。
【0028】
一方、第1のMRセンサ21で移動体の絶対位置が検知されず、第2のMRセンサ22が移動体の絶対位置を検知している場合、移動体は第2の磁気スケール12上に存在していると認定する(ステップS33)。そして、この場合は、第2のMRセンサ22の出力値A2およびプリセット時に不揮発性記憶部31に記憶した第1の磁気スケール11の最大スケール長A1maxとオーバーラップ量S2を演算部30に入力し(ステップS34)、演算部30にて演算処理を行う(ステップS37)。このときの移動体の絶対位置X=A2+A1max−S2となる。
【0029】
なお、上述の2つの条件を満たさない場合、即ち第3のMRセンサ23が移動体の絶対位置を検知している場合、移動体は第3の磁気スケール13上に存在していると認定する(ステップS33)。そして、この場合は、第3のMRセンサ23の出力値A3およびプリセット時に不揮発性記憶部31に記憶した第1の磁気スケール11の最大スケール長A1max並びに第2の磁気スケール12の最大スケール長A2maxとオーバーラップ量S2,S3を演算部30に入力し(ステップS35)、演算部30にて演算処理を行う(ステップS38)。このときの移動体の絶対位置X=A3+(A1max+A2max)−(S2+S3)となる。なお、図1は、移動体が移動量Xだけ移動し、第3のスケール13の途中位置A3を検出する場合を示している。
【0030】
続いて、上述したプリセットの説明の理解をより深めるために、第1の磁気スケール11、第2の磁気スケール12、第3の磁気スケール13、オーバーラップ量S2,S3のそれぞれに具体的数値を当てはめた場合を説明する。図3は、図1における構成と等価的な構成を示しているが、A1maxを100mm、A2maxを100mm、A3maxを100mm、S2を5mm、S3を4mmとしている。
【0031】
図4は、図3の構成に対応する絶対位置検出装置のプリセットを行う具体的な方法を示すフローチャートである。以下、図3に示す移動体の絶対値型位置検出装置のプリセットを行う具体的な方法をフローチャートに基づいて説明する。
【0032】
プリセットを行うにあたって、最初に第1の磁気スケール11の最大スケール長である100mmまでMRセンサ25を移動させる(ステップS21)。そして、その位置における第1のMRセンサ21による第1の磁気スケール11の出力値A1max=100mmおよび第2のMRセンサ22による第2のスケール12の出力値S2=5mmをオーバーラップ量として読み取り、これらの出力値を不揮発性記憶部31に記憶する(ステップS22)。
【0033】
続いて、第2の磁気スケール12の最大スケール長である195mmまでMRセンサ25を移動させる(ステップS23)。そして、その位置における第2のMRセンサ22による第2の磁気スケール12の出力値A2max=100mmおよび第3のMRセンサ23による第3の磁気スケール13の出力値S3=4mmをオーバーラップ量として読み取り、これらの出力値を不揮発性記憶部31に記憶する(ステップS24)。このようにしてプリセットの設定を完了する。
【0034】
続いて、プリセットの設定が完了した図3に示した移動体の絶対値型位置検出装置を用いて移動体の絶対位置を検出する方法について、図6に示すフローチャートに基づいて説明する。
【0035】
第1のMRセンサ21のみが移動体の絶対位置を検知している場合、移動体は第1の磁気スケール11上に存在していると認定する(ステップS41)。ここで、移動体が存在する第1の磁気スケール11の絶対位置A1=35mmである場合は、第1のMRセンサ21のみの出力値A1=35mmを演算部30に入力し(ステップS42)、演算部30にて演算処理を行う(ステップS46)。このときの移動体の絶対位置X=35mmとなる。
【0036】
一方、第1のMRセンサ21で移動体の絶対位置が検知されず、第2のMRセンサ22が移動体の絶対位置を検知している場合、移動体は第2の磁気スケール12上に存在していると認定する(ステップS43)。ここで、移動体が存在する第2の磁気スケール12の絶対位置A2=50mmである場合は、第2のMRセンサ22の出力値A2=50mm、プリセット設定時に不揮発性記憶部31に記憶した第1の磁気スケール11の最大スケール長A1max=100mmとオーバーラップ量S2=5mmを演算部30に入力し(ステップS44)、演算部30にて演算処理を行う(ステップS47)。このときの移動体の絶対位置X=50mm+100mm−5mm=145mmとなる。
【0037】
なお、上述の2つの条件を満たさない場合、即ち第3のMRセンサ23が移動体の絶対位置を検知している場合、移動体は第3の磁気スケール13上に存在していると認定する(ステップS43)。ここで、移動体が存在する第3の磁気スケール13の絶対位置A3=80mmである場合は、第3のMRセンサ23の出力値A3=80mmおよびプリセット時に不揮発性記憶部31に記憶した第1の磁気スケール11の最大スケール長A1max=100mmおよび第2の磁気スケール12の最大スケール長A2max=100mmとオーバーラップ量S2=5mm、S3=4mmを演算部30に入力し(ステップS45)、演算部30にて演算処理を行う(ステップS48)。このときの移動体の絶対位置X=80mm+(100mm+100mm)−(5mm+4mm)=271mmとなる。
【0038】
これまでは、磁気スケールが3本直列に配置されている構成について説明したが(図1および図3を参照)、本発明はこれに限定されることなく任意の本数でも実現が可能である。そこで次に、n本の磁気スケールを配置した構成におけるプリセットの方法と絶対位置検出方法について説明する。図7は、n本の磁気スケールを配置した場合のプリセットの方法を示すフローチャートである。また、図8は、n本の磁気スケールを配置した場合の絶対位置検出方法を示すフローチャートである。
【0039】
まず、図7に示すプリセットの方法について説明する。
【0040】
磁気スケールがn本(nは1以上の整数)直列に配置されている場合、その手前の本数(n−1)本までの各磁気スケールの最大スケール長であるA1maxからA(n−1)maxまでおよび隣接する各磁気スケールのオーバーラップ量S2からSnまでを、MRセンサ25を移動させることにより計測する(ステップS51,S53,S55)。そして、その位置における各々のMRセンサによる各出力値を不揮発性記憶部31に記憶させてプリセットの設定を完了する。(ステップS52,S54,S56)。
【0041】
続いて、磁気スケールがn本(nは1以上の整数)直列に配置されている場合の移動体の絶対位置検出方法を図8のフローチャートに基づいて説明する。
【0042】
移動体を移動させたい位置に停止させ、その位置における移動体の絶対位置を検出する。ここで例えば、n本ある磁気スケールのうち、移動体がk本目の磁気スケール(kは1以上n以下の整数)上に存在していると認定される場合(ステップS61,S63,S65,S67)、k本目の磁気スケールに対応するMRセンサの出力値Akと、上述のプリセット設定時に予め不揮発性記憶部31に記憶した1本目から(k−1)本目までの最大スケール長であるA1maxからA(k−1)maxまで、および各オーバーラップ量S2からSkまでの計測値を演算部30に入力する(ステップS62,S64,S66,S68)。
【0043】
従って、計測すべき移動体の絶対位置をXとすると、X=Ak+(A1max+A2max+・・・+A(k−1)max)−(S2+S3+・・・+Sk)として、移動体の絶対位置を演算部30にて演算処理する(ステップS69,S70,S71,S72)。この演算部30にて演算処理を行う演算式は以下の式で表わされる。
【0044】
【数1】
(1≦k≦n、k:整数)
【0045】
以上説明したように、本発明によると、複数の磁気スケール10を機械的接続することなく繋ぎ合わせることができるため、長い距離の検出をすることが可能となる。その結果、運搬時や組立て時の作業性効率が向上する。また、運搬時の荷姿による変形や、組み付け状態での加熱収縮による磁気スケール自体の破損の問題もなくなる。また、ビット数を増やすことなく長い距離を検出できる。また、プリセットにおいて各磁気スケールの最大スケール長とオーバーラップ量を予め記憶させているため、検出のたびに計測する必要がない。
【0046】
なお、以上の説明においてプリセットの設定を行うに際して、各磁気スケールの最大スケール長および各オーバーラップ量を計測し、これらの計測値を不揮発性記憶部31に記憶し、演算部30に入力し演算処理を行うことにより、移動体の絶対位置を計測したが、不揮発性記憶部31に記憶する各磁気スケールの計測値は、最大スケール長に限定されず隣接する磁気スケールがオーバーラップする領域内において、磁気スケールの絶対位置を計測し、この計測値を不揮発性記憶部31に記憶させる場合も本発明の技術的範囲に属するのは上述した通りである。このようにすることで、各磁気スケールの絶対位置を厳密に計測する必要がなく、プリセットの設定時間を短縮できるという利点がある。
【0047】
また、本実施例では磁気式の移動体の絶対値型位置検出装置について説明したが、磁気式に限らず光学式や静電容量式等何れの移動体の絶対値型位置検出装置であってもかまわない。
【符号の説明】
【0048】
1 移動体の絶対値型位置検出装置
10(11,12,13) 移動体絶対位置特定スケール(磁気スケール)
11 第1の磁気スケール
12 第2の磁気スケール
13 第3の磁気スケール
20 可動板
21 第1のMRセンサ
22 第2のMRセンサ
23 第3のMRセンサ
25(21,22,23) 移動体絶対位置検出センサ(MRセンサ)
26,27,28 MR素子
30 演算部
31 不揮発性記憶部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体の絶対位置を特定する絶対値特定パターンが記録されている絶対位置特定スケールと、
前記スケールの絶対位置を検出する検出手段と、からなる移動体の絶対値型位置検出装置であって、
前記スケールの隣接するスケールは順次その一部が重なるように所定のオーバーラップ量を保持して直列に配置され、前記検出手段は前記スケール毎に各々配置されており、
前記オーバーラップ量の絶対位置および各スケールのオーバーラップ内の特定位置を記憶しておく不揮発性記憶部と、
前記検出手段によるスケールの絶対位置の検出結果と前記不揮発性記憶部に記憶されている情報から移動体の絶対位置を演算する演算部と、を備えることを特徴とする移動体の絶対値型位置検出装置。
【請求項2】
前記演算部は、前記検出手段によるスケールの絶対位置の検出結果と、
前記不揮発性記憶部に記憶されている前記スケールの手前のスケールまでのオーバーラップ内の特定位置の合算値とを加算し、
その加算値から前記不揮発性記憶部に記憶されている各々のオーバーラップ量の絶対位置を減算することを特徴とする請求項1に記載の移動体の絶対値型位置検出装置。
【請求項1】
移動体の絶対位置を特定する絶対値特定パターンが記録されている絶対位置特定スケールと、
前記スケールの絶対位置を検出する検出手段と、からなる移動体の絶対値型位置検出装置であって、
前記スケールの隣接するスケールは順次その一部が重なるように所定のオーバーラップ量を保持して直列に配置され、前記検出手段は前記スケール毎に各々配置されており、
前記オーバーラップ量の絶対位置および各スケールのオーバーラップ内の特定位置を記憶しておく不揮発性記憶部と、
前記検出手段によるスケールの絶対位置の検出結果と前記不揮発性記憶部に記憶されている情報から移動体の絶対位置を演算する演算部と、を備えることを特徴とする移動体の絶対値型位置検出装置。
【請求項2】
前記演算部は、前記検出手段によるスケールの絶対位置の検出結果と、
前記不揮発性記憶部に記憶されている前記スケールの手前のスケールまでのオーバーラップ内の特定位置の合算値とを加算し、
その加算値から前記不揮発性記憶部に記憶されている各々のオーバーラップ量の絶対位置を減算することを特徴とする請求項1に記載の移動体の絶対値型位置検出装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【公開番号】特開2012−189443(P2012−189443A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−53088(P2011−53088)
【出願日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【出願人】(000114215)ミネベア株式会社 (846)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【出願人】(000114215)ミネベア株式会社 (846)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]