説明

移植機

【課題】植付作業機の前方に圃場を整地する整地ロータを備える乗用型移植機において、後輪と植付作業機との前後空間を広げることなく整地ロータをコンパクトに配設できるようにする。
【解決手段】前輪16の半径R1と、前輪16と後輪17´の前後隙間寸法L1との加算値(R1+L1)に対する軸距L2´の比率が1.55倍以上1.65倍以下となる後輪17´を設けて、前輪16に対する植付作業機15の相対的な前後位置を変更することなく、後輪17´と植付作業機15との前後空間Sを広く構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植付作業機の前方に設けられ、回転駆動することによって圃場を整地する整地ロータ等の整地装置を備える移植機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、機体の後部に設けた昇降リンク機構を介して植付作業機を昇降可能に連結すると共に、この植付作業機の前方に圃場の表面から植付け深さまでの圃場表層の整地作業を行う整地ロータを設け、該整地ロータを圃場面に接地する作用位置で機体の進行方向に回転駆動させることによって、車輪等で荒れた部分のみを整地することができる簡単な構成の整地装置を備えた乗用型移植機が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2005−124442号公報(第3−5頁、図1−図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、上述した従来の乗用型移植機では、その後輪と植付作業機との空間に整地ロータを設けるためのスペースを確保しなければならず、必然的に機体が大型化して前後バランスが悪化するといった不具合と、当該植付作業機の下方に設けられる油圧感知フロートによる油圧感知機構を限られたスペースでコンパクトに構成しなければならないといった課題を有していた。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決することを目的とした請求項1の発明は、前輪と後輪を有する機体の後部に整地フロートを備えた植付作業機を昇降自在に連結すると共に、該植付作業機前方の機体幅方向に圃場面を整地する整地ロータを設けた移植機において、前輪の半径と、前輪と後輪の前後隙間寸法との加算値に対する軸距の比率が1.55倍以上1.65倍以下となる後輪を設け、前輪に対する植付作業機の相対的な前後位置を変更することなく、後輪と植付作業機との前後空間を広く構成することを第1の特徴としている。
【0005】
そして、請求項2の発明は、前輪と後輪を有する機体の後部に整地フロートを備えた植付作業機を昇降自在に連結すると共に、該植付作業機前方の機体幅方向に圃場面を整地する整地ロータを設けた移植機において、前輪の半径と、前輪と後輪の前後隙間寸法との加算値に対する軸距の比率が1.55倍以上1.65倍以下となる後輪を設け、前輪に対する植付作業機の相対的な前後位置を短く構成することを第2の特徴としている。
【発明の効果】
【0006】
請求項1の発明によれば、移植機の前輪の半径と、前輪と後輪の前後隙間寸法との加算値に対する軸距の比率が1.55倍以上1.65倍以下となる後輪を設け、前輪に対する植付作業機の相対的な前後位置を変更することなく、後輪と植付作業機との前後空間を広く構成することによって、小径化させた後輪に相当する整地ロータの前方への移動配置が可能になり、この整地ロータの前方への移動配置に対応させて整地フロートの先端部を前方へ延長させ、その接地面積を大きくすることができると共に、整地フロートを兼ねる油圧感知フロートによる油圧感知機構の設計自由度を向上させることができる。そして、後輪を小径化させたことにより得られる当該後輪の上方空間には、ペーストや粒状施肥装置等の構成装置を配置することが可能になる。また、移植機の操縦部床面であるステップを後輪の上部においても段差を生じさせることなく形成できるようになる。
【0007】
そして、請求項2の発明によれば、移植機の前輪の半径と、前輪と後輪の前後隙間寸法との加算値に対する軸距の比率が1.55倍以上1.65倍以下となる後輪を設け、前輪に対する植付作業機の相対的な前後位置を短く構成することによって、機体全体を小型化して前後バランスを向上させることができる。そして、後輪を小径化させたことにより得られる当該後輪の上方空間には、ペーストや粒状施肥装置等の構成装置を配置することが可能になる。また、移植機の操縦部床面であるステップを後輪の上部においても段差を生じさせることなく形成できるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
次に、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1は、移植機の一例である従来の乗用型田植機11の側面図であって、この乗用型田植機11の機体フレーム12の後端部には、油圧シリンダ13を備える昇降リンク機構14が設けてあり、この昇降リンク機構14を介して植付作業機15を昇降可能に連結すると共に、機体フレーム12の下部には、左右一対の前輪16と後輪17とを備えている。
【0009】
そして、機体フレーム12の前部には、エンジン18を被包するボンネット19を備えており、このエンジン18から出力される動力を、図示しない油圧式無段変速装置(HST)とトランスミッションケース内の動力伝達装置を介して走行動力と植付動力とに分配し、上述した左右一対の前輪16と後輪17、及び植付作業機15に伝達できるように構成している。
【0010】
また、機体フレーム12の後部上方には、運転席21を備え、この運転席21の前方に各種モニタを表示する操作パネル22を装備すると共に、該操作パネル22の上部に運転ハンドル23、該運転ハンドル23の下方には操縦部24の床面を形成するステップ25を設けている。
【0011】
更に詳しくは、昇降リンク機構14の後端には、リンクホルダ26が取付けてあり、このリンクホルダ26の図示しないローリング軸を介して、植付作業機15をローリング可能に支持するドライブケース27を横設している。そして、このドライブケース27に立設した左右一対の苗載台支持ステー28によって、前高後低状の傾斜姿勢で左右往復動可能に苗載台29を支持している。
【0012】
また、ドライブケース27の左右両端には、植付伝動ケース31が取り付けてあり、この植付伝動ケース31に内装した図示しないチェン伝動機構及び植付駆動軸等を介して、当該植付伝動ケース31の後端部に組付けた植付ケース(ロータリケース)32が回転駆動するようになっている。
【0013】
そして、植付ケース32の両端部には、一対の移植杆33が設けてあり、この移植杆33により苗載台29に並置されているマット苗から一株分の苗を掻取って、この掻取った苗を連続的に圃場に移植することができるようになっている。即ち、植付ケース32には、自らの回転に伴って一対の移植杆33を所定の軌跡に沿って回転運動させることができる図示しない遊星ギヤ機構を内装している。
【0014】
また、植付伝動ケース31の下方には、植付作業機15を所望の高さに制御する油圧感知フロートとして作用すると共に、圃場面を整地する整地フロートを兼ねるセンター(油圧感知)フロート34と、サイドフロート35とを機体の左右方向に所定の間隔を存して配設してあり、乗用型田植機11は、これらの整地フロート34,35の下面が圃場面に接地して滑走する状態まで植付作業機15を下降させた後、機体を走行させながら上述の如く移植作業を行うことができるようになっている。
【0015】
そして、上述した植付作業機15の前方、即ち、センターフロート34とサイドフロート35の前方には、植付作業機15の略全幅に亘り機体の幅方向に整地ロータ36を横設してあり、この整地ロータ36を圃場面に接地する作用位置で機体の進行方向に回転駆動させることによって、移植杆33による苗植え付け位置前方の荒れた圃場面を整地できるようになっている。
【0016】
次に、整地ロータ36の支持構造について説明する。ドライブケース27に立設した左右一対の苗載台支持ステー28の上部には、操作軸39を回動可能に軸支するボス40を固設すると共に、当該操作軸39の一側端部に固設した図示しないブラケットを介して、整地ロータ36が圃場面に接地する作用位置と、整地ロータ36が圃場面から離間した収納位置に変更することができる昇降操作レバー41を取り付けている。
【0017】
そして、操作軸39の両端には、回動アーム42が取り付けてあり、この回動アーム42の先端に吊アーム43を連結すると共に、該吊アーム43の下端を苗載台支持ステー28の基端部から前方に延出した回動アーム44の中間部に連結することによって、当該縦アーム43と苗載台支持ステー28が略平行となるリンクK1を構成している。
【0018】
更に、回動アーム44の上方には、吊アーム43に基端部を連結した支持アーム45を備え、両アーム44,45によって平行リンクK2を構成すると共に、両アーム44,45の先端には、整地ロータ36のロータ軸37を軸支する図示しないボスを固設したサポートアーム46を連結している。
【0019】
一方、整地ロータ36の昇降操作レバー41が設けられている側の苗載台支持ステー28には、昇降操作レバー41用のレバーガイド47が固設してあり、このレバーガイド47に備える図示しない複数段の係止溝のうち、当該昇降操作レバー41を係止溝の所望の位置に係止することによって、整地ロータ36が圃場面から離間する収納位置と、図1に示すように整地ロータ36が圃場面に接地する複数段の作用位置とに多段調節することができるようになっている。
【0020】
次に、整地ロータ36の伝動系について説明する。機体フレーム12の後部下方に配設されているリヤアクスルケース51の前部には、図示しない油圧式無段変速装置とトランスミッションケース内の動力伝達装置を介して伝達されるエンジン18の動力を、後輪17の駆動力と整地ロータ36の駆動力に分配する伝動機構と、整地ロータ36への駆動力の伝動を断接するクラッチ機構とを備えた分配ケース52を設けている。そして、この分配ケース52内の伝動機構により分岐された一方の動力を、伝動軸53を介して整地ロータ36を回転駆動させる駆動ケース54内の伝動機構に伝達している。
【0021】
次に、従来の乗用型田植機11の前輪16を基準とする後輪17、整地ロータ36、及び植付作業機15の位置関係について説明する。図1に示すように、前輪16の半径はR1であり、L1は、前輪16と後輪17の前後隙間寸法を示す。そして、L2は、両輪16,17の軸距を示す。また、L3は、前輪16車軸からの整地ロータ36のロータ軸37の位置寸法を示し、L4は、同じく前輪16車軸からの整地フロート34,35の回動支点Pの位置寸法を示している。ところで、この配置構成における前輪16の半径R1と、前輪16と後輪17の前後隙間寸法L1との加算値(R1+L1)に対する軸距L2の比率は略1.7となっている。
【0022】
一方、図2に示す移植機は、本発明の乗用型田植機11´の第1実施例であって、この乗用型田植機11´の前輪16を基準とする後輪17´、整地ロータ36、及び植付作業機15の位置関係について説明する。乗用型田植機11´の前輪16の半径R1と、前輪16と後輪17´の前後隙間寸法L1は、従来の乗用型田植機11と同一である。そして、前輪16と後輪17´の軸距は、L2´であり、前輪16の半径R1と、前輪16と後輪17´の前後隙間寸法L1との加算値(R1+L1)に対する軸距L2´の比率は略1.55となっている。
【0023】
更に詳しくは、従来の乗用型田植機11の軸距L2と第1実施例の乗用型田植機11´の軸距L2´の関係は、L2>L2´であり、当該乗用型田植機11´は、前輪16の半径R1と略同一の小径化させた後輪17´を採用している。したがって、小径化させた後輪17´に相当する整地ロータ36の前方への移動配置が可能になり、それによって、前輪16に対する整地ロータ36の相対的な前後位置はL3´<L3となる。
【0024】
したがって、前輪16に対する植付作業機15の相対的な前後位置L4を変更することなく、従来の乗用型田植機11と同一位置に植付作業機15を配置した場合は、後輪17´と植付作業機15との前後空間Sを広く構成することができる。つまり、整地ロータ36の前方への移動量(L3−L3´)に対応させて整地フロート34´,35´の先端部を前方へ延長〔(L4−L3)−(L4−L3´)〕させ、その接地面積を大きくすることが可能であり、整地フロートを兼ねる油圧感知フロート34´による油圧感知機構の設計自由度を向上させることができる。そして、後輪17´を小径化させたことにより得られる当該後輪17´の上方空間S1には、ペーストや粒状施肥装置等の構成装置を配置することが可能になる。また、乗用型田植機11´の操縦部24床面であるステップ25を後輪17´の上部においても段差を生じさせることなく形成できるようになる。
【0025】
また、図3に示す移植機は、本発明の乗用型田植機11´の第2実施例であって、この乗用型田植機61の前輪16を基準とする後輪17´及び整地ロータ36の位置関係は、上述した第1実施例の乗用型田植機11´と同様に、前輪16と後輪17´の軸距は、L2´であり、前輪16の半径R1と、前輪16と後輪17´の前後隙間寸法L1との加算値(R1+L1)に対する軸距L2´の比率は略1.55となっている。
【0026】
そして、第1実施例の乗用型田植機11´も、前輪16の半径R1と略同一の小径化させた後輪17´を採用することにより、小径化させた後輪17´に相当する整地ロータ36と植付作業機15の前方への移動〔(L3−L3´)に相当〕配置が可能になり、それによって、前輪16に対する整地ロータ36の相対的な前後位置はL3´<L3となり、また前輪16に対する植付作業機15の相対的な前後位置は、L4´<L4となる。
【0027】
即ち、前輪16に対する整地ロータ36の相対的な前後位置と、前輪16に対する植付作業機15の相対的な前後位置とを従来の乗用型田植機11よりも短く構成(L4´<L4)することによって、機体全体を小型化して前後バランスを向上させることができる。そして、後輪17´を小径化させたことにより得られる当該後輪17´の上方空間S1には、ペーストや粒状施肥装置等の構成装置を配置することが可能になる。また、乗用型田植機11´の操縦部24床面であるステップ25を後輪17´の上部においても段差を生じさせることなく形成できるようになる。
【0028】
尚、上述した実施例における乗用型田植機11´の前輪16の半径R1と、前輪16と後輪17´の前後隙間寸法L1との加算値(R1+L1)に対する軸距の比率が、1.55倍以上1.65倍以下となる小径化させた後輪17´を採用することが好ましい。
【0029】
そして、前輪16に対する整地ロータ36の相対的な前後位置と軸距の大まかな関係は、従来の乗用型田植機11では、L3−L2=0.55L2=1.23(L4−L3)であるのに対し、第1実施例の乗用型田植機11´では、L3´−L2´=0.52L2´=0.74(L4−L3´)となっており、L2´に対するL3´−L2´の比率が0.53倍以下になるのが好ましく、L4−L3´に対するL3´−L2´の比率は0.6倍以上0.8倍以下となるのが好ましい。また、第2実施例の乗用型田植機11´では、L3´−L2´=0.52L2´=1.04(L4´−L3´)となっており、L2´に対するL3´−L2´の比率が0.53倍以下になるのが好ましく、L4´−L3´に対するL3´−L2´の比率は0.9倍以上1.1倍以下となるのが好ましい。この時、前輪16に対する植付作業機15の相対的な前後位置と整地ロータ36の前後位置の大まかな関係は、L4−L3=2.14R1であり、一方第1及び第2実施例の乗用型田植機11´では、L4´−L3´=1.81R1となっている。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】整地ロータを備える従来の乗用型田植機の側面図。
【図2】整地ロータを備える本発明の乗用型田植機の側面図(第1実施例)。
【図3】整地ロータを備える本発明の乗用型田植機の側面図(第2実施例)。
【符号の説明】
【0031】
15 植付作業機
16 前輪
17´ 後輪
34 整地フロート(センターフロート)
35 整地フロート(サイドフロート)
L1 前後隙間寸法
L2
R1 半径(前輪)
S 前後空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前輪(16)と後輪(17´)を有する機体の後部に整地フロート(34,35)を備えた植付作業機(15)を昇降自在に連結すると共に、該植付作業機(15)前方の機体幅方向に圃場面を整地する整地ロータ(36)を設けた移植機において、前輪(16)の半径(R1)と、前輪(16)と後輪(17´)の前後隙間寸法(L1)との加算値(R1+L1)に対する軸距(L2´)の比率が1.55倍以上1.65倍以下となる後輪(17´)を設け、前輪(16)に対する植付作業機(15)の相対的な前後位置を変更することなく、後輪(17´)と植付作業機(15)との前後空間(S)を広く構成することを特徴とする移植機。
【請求項2】
前輪(16)と後輪(17´)を有する機体の後部に整地フロート(34,35)を備えた植付作業機(15)を昇降自在に連結すると共に、該植付作業機(15)前方の機体幅方向に圃場面を整地する整地ロータ(36)を設けた移植機において、前輪(16)の半径(R1)と、前輪(16)と後輪(17´)の前後隙間寸法(L1)との加算値(R1+L1)に対する軸距(L2´)の比率が1.55倍以上1.65倍以下となる後輪(17´)を設け、前輪(16)に対する植付作業機(15)の相対的な前後位置を短く構成することを特徴とする移植機。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2007−174917(P2007−174917A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−374379(P2005−374379)
【出願日】平成17年12月27日(2005.12.27)
【出願人】(000001878)三菱農機株式会社 (1,502)
【Fターム(参考)】