説明

空気入りタイヤ

【課題】インナーライナーの接着性を高め、耐空気透過性、低温耐久性を改善しタイヤの軽量化により転がり抵抗を低減する。
【解決手段】カーカスプライ6の内側に備えられたインナーライナーは、スチレン−イソブチレン−スチレントリブロック共重合体を5質量%以上で40質量%以下、天然ゴム、イソプレンゴム及びブチルゴムから選択されるゴム成分を60質量%以上で95質量%以下含む第1層と、スチレン−イソプレン−スチレントリブロック共重合体、スチレン−イソプレン−スチレンジブロック共重合体を10質量%以上で85質量%以下、天然ゴム、イソプレンゴム及びブチルゴムから選択されるゴム成分を15質量%以上で90質量%以下含む第2層よりなるポリマー積層体で構成され前記第2層がカーカスプライと接し、かつ前記インナーライナーはクラウン中央位置Pcにおける厚さGcに対しショルダー位置Peの厚さは120%〜500%である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はタイヤ内面に熱可塑性エラストマー組成物の複数層で構成されたインナーライナーを備えた空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤのインナーライナーはタイヤの内側に配置され、空気入りタイヤ内部から外部への空気の漏れを低減してタイヤ内圧を一定に維持する機能を有する。このような機能を有する材料としてブチル系ゴムなどの気体透過性の低いゴム組成物が使用されている。一方、タイヤの軽量化を図るために、前記ブチル系ゴム組成物にかえて熱可塑性樹脂を含む材料からなるフィルムが使用される場合がある。
【0003】
一般にインナーライナーは、タイヤ使用時に、そのショルダー部近傍に大きなせん断歪が作用する。そこで熱可塑性樹脂を含む材料をインナーライナーとして使用した場合、このせん断歪みによって、インナーライナーとカーカスプライの接着界面で剥離が発生しやすくなり、タイヤの空気漏れが発生するという問題があった。
【0004】
従来から空気入りタイヤにおいて低燃費化の課題があり、そのためにタイヤを軽量化することで転がり抵抗を軽減する方法が採用されている。そのためインナーライナーに熱可塑性エラストマーを用いる技術も提案されているが、ブチル系ゴムのインナーライナーよりも厚さを薄くすると耐空気透過性と軽量化の両立が困難である。また厚さを薄くすることでインナーライナーの強度は低下し、加硫工程時のブラダーの熱と圧力でインナーライナーが破壊または変形する問題があった。
【0005】
先行文献1は、ショルダー部における厚さをタイヤクラウン部における厚さよりも大きく設計することにより低温耐久性の向上を実現している。しかしながら厚さ寸法を大きくすることは重量の増加となり、低燃費および製造コストの観点から好ましくない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−343379号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明はインナーライナーを備えた空気入りタイヤにおいて、該インナーライナーの層を薄く維持し、隣接するタイヤ部材の接着性を高めるとともに、耐空気透過性、低温耐久性を向上し、さらにタイヤの軽量化により転がり抵抗を低減した空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の空気入りタイヤは、一対のビード部の間に装架されたカーカスプライのタイヤ内側にインナーライナーを備えた空気入りタイヤであって、前記インナーライナーは、
(a)スチレン−イソブチレン−スチレントリブロック共重合体を5質量%以上で40質量%以下、天然ゴム、イソプレンゴム及びブチルゴムよりなる群から選択される少なくとも1種のゴム成分を60質量%以上で95質量%以下含むポリマー組成物よりなる第1層と、
(b)スチレン−イソプレン−スチレントリブロック共重合体およびスチレン−イソブチレンジブロック共重合体の少なくともいずれかを10質量%以上で85質量%以下含み、さらに天然ゴム、イソプレンゴム及びブチルゴムよりなる群から選択される少なくとも1種のゴム成分を15質量%以上で90質量%以下含むポリマー組成物よりなる第2層、
よりなるポリマー積層体で構成され、
前記第2層がカーカスプライと接するように配置されており、
かつ前記インナーライナーはクラウン中央位置Pcにおける厚さGcに対し、ショルダー位置Peの厚さGeは、120%〜500%であることを特徴とする。
【0009】
前記第1層は、ポリマー成分100質量部に対し、硫黄を0.1質量部以上で5質量部以下、ステアリン酸を1質量部以上で5質量部以下、酸化亜鉛を0.1質量部以上で8質量部以下、老化防止剤を0.1質量部以上で5質量部以下、加硫促進剤を0.1質量部以上で5質量部以下配合しているポリマー組成物であることが望ましい。
【0010】
本発明の他の実施形態は、タイヤ子午断面において、前記カーカスプライとインナーライナーの境界線に対してトレッド部の接地端Teからタイヤ内径方向に法線Lを引き前記境界線との交点をショルダー位置Peとし、前記カーカスプライとインナーライナーの境界線とタイヤ中心線CLとの交点をクラウン中心位置Pcとし、さらに前記ショルダー位置Peからクラウン中心位置Pcまでのインナーライナーの輪郭線に沿った距離をショルダー距離Wcとしたとき、前記インナーライナーの肉厚部は、前記ショルダー位置Peからクラウン中心位置Pc側に前記ショルダー距離Wcの少なくとも10%の幅を有する領域に形成されている空気入りタイヤである。
【0011】
前記インナーライナーの肉厚部は、前記ショルダー位置Peからクラウン中心位置Pc側に、前記ショルダー幅Wcの50%以下の幅を有する領域に形成されていることが望ましい。前記インナーライナーの前記ショルダー位置Peからタイヤ最大幅位置Psまでのインナーライナーの輪郭線に沿った距離をサイド距離Wsとしたとき、前記インナーライナーの肉厚部は、前記ショルダー位置Peから前記最大幅位置Ps側に、前記サイド距離Wsの少なくとも20%の幅を有する領域に形成されていることが望ましい。
【0012】
そして前記インナーライナーの肉厚部は、前記ショルダー位置Peから前記最大幅位置Ps側に、前記最大幅距離Wsの100%以下の幅を有する領域に形成されていることが望ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明のタイヤは、第1層にSIBS及びゴム成分の混合物よりなり動的架橋したポリマー組成物をインナーライナーに用いるとともに、インナーライナーの厚さをタイヤ断面においてタイヤ最大幅位置からクラウン中央位置の領域を特定範囲に調整することで、インナーライナーの全体の層厚さを薄くして軽量化による転がり抵抗の軽減を図り、さらにタイヤショルダー部に肉厚部を形成したことにより耐空気透過性を維持しながら低温耐久性を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の空気入りタイヤの右半分の概略断面図である。
【図2】図1のトレッド部の拡大概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、タイヤ内側にインナーライナーを備えた空気入りタイヤであって、前記インナーライナーは、少なくとも2層のポリマー積層体で形成される。第1層はスチレン−イソブチレン−スチレントリブロック共重合体(以下、「SIBS」ともいう。)からなる。第2層はスチレン−イソプレン−スチレントリブロック共重合体(以下、「SIS」ともいう。)およびスチレン−イソブチレンジブロック共重合体(以下、「SIB」ともいう。)の少なくともいずれかを含む。そして、前記第2層がカーカスプライのゴム層と接するように配置されており、かつ前記インナーライナーはクラウン中央位置Pcにおける厚さGcよりもショルダー位置Peの厚さGeが厚く形成されている。
【0016】
本発明の空気入りタイヤの実施形態を図に基づき説明する。図1は、空気入りタイヤの右半分の概略断面図であり、図2はそのトレッド部の拡大概略断面図である。図において空気入りタイヤ1は、トレッド部2と、該トレッド部両端からトロイド形状を形成するようにサイドウォール部3とビード部4とを有している。さらに、ビード部4にはビードコア5が埋設される。また、一方のビード部4から他方のビード部に亘って設けられ、両端をビードコア5のまわりに折り返して係止されるカーカスプライ6と、該カーカスプライ6のクラウン部外側には、少なくとも2枚のプライよりなるベルト層7とが配置されている。
【0017】
前記ベルト層7は、一般にスチールコードまたはアラミド繊維等のコードよりなるプライの少なくとも2枚をタイヤ周方向に対して、コードが通常5〜30°の角度になるようにプライ間で相互に交差するように配置される。なおベルト層の両端外側には、トッピングゴム層を設けてベルト層両端の剥離を軽減することができる。またカーカスプライはポリエステル、ナイロン、アラミド等の有機繊維コードがタイヤ周方向にほぼ90°に配列されており、カーカスプライとその折り返し部に囲まれる領域には、ビードコア5の上端からサイドウォール方向に延びるビードエーペックス8が配置される。また前記カーカスプライ6のタイヤ半径方向内側には一方のビード部4から他方のビード部4に亘るインナーライナー9が配置されている。
【0018】
本明細書においてインナーライナー9に関連する位置、距離および幅を次のように定義する。
【0019】
<ショルダー位置Pe>
タイヤ子午断面において、前記カーカスプライ6とインナーライナー9の境界線に対してトレッド部の接地端Teからタイヤ内径方向に法線Lを引き前記境界線との交点をショルダー位置Peと定義する。ここでトレッド部の接地端Teは、トレッド部の外側輪郭線を延長した線と、ショルダー部の外側輪郭線を延長した交点として定義される。
【0020】
<クラウン中心位置Pc>
カーカスプライとインナーライナーの境界線とタイヤ中心線CLとの交点をクラウン中心位置Pcとする。
【0021】
<最大幅位置Ps>
タイヤに規定内圧を充填し標準リムを装着したときの外側輪郭線の最大幅位置Leをとおるタイヤ回転軸に平行な線とカーカスプライ6とインナーライナー9の境界線との交点を最大幅位置Psとする。
【0022】
<ショルダー距離Wc>
前記ショルダー位置Peからクラウン中心位置Pcまでのインナーライナー9の輪郭線に沿った距離をショルダー距離Wcとする。
【0023】
<サイド距離Ws>
前記ショルダー位置Peからタイヤ最大幅位置Psまでのインナーライナー9の輪郭線に沿った距離をサイド距離Wsとする。
【0024】
<インナーライナー厚さGc、Ge、Gs>
インナーライナー9のクラウン中心位置Pcの厚さをGc、ショルダー位置Peにおける厚さをGe、最大幅位置Psにおける厚さをGsとする。
【0025】
前記インナーライナー9の肉厚部は、前記ショルダー位置Peからクラウン中心位置Pc側に、前記ショルダー距離Wcの少なくとも10%の幅を有する領域に形成されていることが望ましい。一方、肉厚部は前記ショルダー距離Wcの100%以下の幅を有する領域に形成することが好ましい。さらに肉厚部はショルダー距離Wcの10%〜50%の範囲がより好ましい。
【0026】
前記インナーライナー9の肉厚部は、前記ショルダー位置Peから前記最大幅位置Ps側に、前記サイド距離Wsの少なくとも20%の幅を有し、100%以下の幅の領域に形成されていることが好ましい。肉厚部がショルダー位置Peからサイド距離Wsの20%〜100%の範囲に設定することで、タイヤ走行時に屈曲変形の激しいショルダー部の変形を抑制するとともに、この領域の応力緩和を効果的に達成することができる。さらに、前記肉厚部はショルダー位置Peからサイド距離Wsの20%〜80%の範囲がより好ましい。
【0027】
本発明において前記インナーライナーは、クラウン中央位置Pcにおける厚さGcに対し、肉厚部の厚さ、即ち、ショルダー位置Peの厚さGeは120%〜500%である。ショルダー位置Peの厚さGeが120%未満の場合は、ショルダー部の屈曲変形およびせん断変形の抑制が十分でなく、また500%を超えるとインナーライナーの軽量化の効果は十分期待できない。
【0028】
なお、肉厚部は、ショルダー位置Peを中心に、クラウン中央位置Pc方向と、最大幅位置Ps方向に厚さを漸減する構成とすることが好ましい。インナーライナーの肉厚部を上述のように形成することで、タイヤ走行時における、この領域での繰り返し変形に伴う屈曲変形およびせん断変形が生じても、その応力を緩和することができ、インナーライナーのクラックの発生を防止することができる。
【0029】
<ポリマー積層体>
本発明のインナーライナーに用いられるポリマー積層体は、スチレン−イソブチレン−スチレントリブロック共重合体(SIBS)を含む厚さ0.05mm〜1.0mmの第1層と、スチレン−イソプレン−スチレントリブロック共重合体(SIS)およびスチレン−イソブチレンジブロック共重合体(SIB)の少なくともいずれかを含む第2層とからなり、前記第2層の厚さが0.01mm〜0.3mmである。
【0030】
そしてポリマー積層体の肉厚部を除く領域の平均厚さは、0.06mm〜1.3mmの範囲である。ポリマー積層体の厚さが、0.06mm未満であると、ポリマー積層体をインナーライナーに適用して生タイヤの加硫する際に、該ポリマー積層体がプレス圧力で破れてしまい、加硫タイヤにエアーリーク現象が生じるおそれがある。一方、ポリマー積層体の厚さが1.3mmを超えると、タイヤ重量が増加して低燃費性能が低下する。ポリマー積層体の厚さは、0.25mm以上で0.8mm以下であることが好ましい。
【0031】
なお本発明においてショルダー部に形成される肉厚部は、インナーライナーの第1層および第2層の少なくともいずれかの厚さが、ショルダー部において厚くなるように調整するほか、ショルダー部に第3層を積層して肉厚部を形成することもできる。
【0032】
<第1層>
(ポリマー組成物)
第1層は、スチレン−イソブチレン−スチレントリブロック共重合体(SIBS)を5質量%以上40質量%以下ならびに天然ゴム、イソプレンゴムおよびブチルゴムよりなる群から選択される少なくとも1種のゴム成分を60質量%以上95質量%以下含むポリマー成分100質量部に対して、硫黄を0.1質量部以上5質量部以下含むポリマー組成物よりなる。
【0033】
ポリマー組成物は、SIBS、ゴム成分および硫黄を含む。SIBSにゴム成分および硫黄を添加して加熱混合すると、加熱混合中にゴム成分と硫黄とが加硫反応して、SIBSがマトリックス(海)で、ゴム成分が島となる海島構造を形成する。
【0034】
海島構造を有するポリマー組成物は、SIBSからなるマトリックス相に由来する耐空気透過性を有する。さらに、島相を形成するゴム成分はゴム成分を含む隣接部材との加硫前粘着性を有するとともに、加熱混合中に隣接部材のゴム成分とも加硫反応をするため、隣接部材との加硫接着性も有する。したがって、該ポリマー組成物よりなるシートは耐空気透過性に優れると同時に、隣接部材との加硫前粘着性および加硫接着性を有することができる。
【0035】
(スチレン−イソブチレン−スチレントリブロック共重合体)
SIBSはイソブチレンブロックを含むため、そのポリマー積層体は優れた耐空気透過性を有する。さらに、SIBSは芳香族以外の分子構造が完全飽和であることにより、劣化硬化が抑制され優れた耐久性を有する。したがってSIBSを含むポリマー積層体をインナーライナーに用いた場合、耐空気透過性および耐久性に優れた空気入りタイヤを得ることができる。
【0036】
SIBSの分子量は、流動性、成形化工程およびゴム弾性を保持する観点から、GPC法による重量平均分子量が5万以上40万以下であることが好ましい。重量平均分子量が5万未満であると引張強度、引張伸びが低下するおそれがあり、40万を超えると押出加工性が悪くなるおそれがあるため好ましくない。
【0037】
SIBSは一般的にスチレン単位を10質量%以上40質量%以下含む。耐空気透過性と耐久性がより良好になる点で、SIBS中のスチレン単位の含有量は10質量%以上30質量%以下であることが好ましい。
【0038】
SIBSは、イソブチレン単位とスチレン単位のモル比(イソブチレン単位/スチレン単位)が、該共重合体のゴム弾性の点から40/60〜95/5であることが好ましい。SIBSにおいて、各ブロックの重合度は、イソブチレンブロックでは10,000〜150,000程度、またスチレンブロックでは5,000〜30,000程度であることが好ましい。
【0039】
SIBSは、たとえば、リビングカチオン重合法により得ることができる。特開昭62−48704号公報および特開昭64−62308号公報には、イソブチレンと他のビニル化合物とのリビングカチオン重合が可能であり、ビニル化合物にイソブチレンと他の化合物を用いることでポリイソブチレン系のブロック共重合体を製造できることが開示されている。
【0040】
SIBSは分子内に芳香族以外の二重結合を有していないために、たとえばポリブタジエンなどの分子内に二重結合を有している重合体に比べて紫外線に対する安定性が高く、耐候性が良好である。
【0041】
SIBSの含有量はポリマー組成物のポリマー成分中、5質量%以上40質量%以下である。SIBSの含有量が5質量%未満であると、ポリマーシートの耐空気透過性が低下するおそれがある。一方、SIBSの含有量が40質量%を超えると、隣接部材との加硫接着力が不十分であるおそれがある。SIBSの含有量は耐空気透過性の確保の観点からポリマー成分中10質量%以上30質量%以下が好ましい。
【0042】
(ゴム成分)
ポリマー積層体を構成するポリマー組成物はゴム成分を含む。ゴム成分はポリマー組成物にゴム成分を含む隣接部材との加硫前粘着性を与えることができる。さらに硫黄と加硫反応することにより、ポリマー組成物にカーカスやインスレーションなどの隣接部材との加硫接着性を与えることができる。
【0043】
ゴム成分は天然ゴム、イソプレンゴムおよびブチルゴムよりなる群から選択される少なくとも1種を含み、なかでも破壊強度および接着性の観点から、天然ゴムを含むことが好ましい。
【0044】
ゴム成分の含有量はポリマー組成物のポリマー成分中、60質量%以上95質量%以下である。ゴム成分の含有量が60質量%未満であると、ポリマー組成物の粘度が高くなり押出加工性が悪化するため、ポリマー積層体の作製の際に、シートを薄くすることができないおそれがある。一方、ゴム成分の含有量が95質量%を超えると、シートの耐空気透過性が低下するおそれがある。ゴム成分の含有量は加硫前粘着性および加硫接着性の観点から、ポリマー成分中70質量%以上90質量%以下が好ましい。
【0045】
(硫黄)
ポリマー組成物は硫黄を含む。硫黄としては、ゴム工業において加硫時に一般的に用いられる硫黄を用いることができる。中でも不溶性硫黄を用いることが好ましい。ここで不溶性硫黄とは、天然硫黄S8を加熱、急冷し、S(x=10万〜30万)となるように高分子量化した硫黄のことをいう。不溶性硫黄を用いることで、通常、硫黄をゴム加硫剤として用いた場合に生じるブルーミングを防止することができる。
【0046】
硫黄の含有量は、ポリマー成分100質量部に対して、0.1質量部以上5質量部以下である。硫黄の含有量が0.1質量部未満であると、ゴム成分の加硫効果を得ることができない。一方、硫黄の含有量が5質量部を超えると、ポリマー組成物の硬度が高くなり、ポリマー積層体をインナーライナーに用いた場合に空気入りタイヤの耐久性能が低下するおそれがある。硫黄の含有量は、さらに0.3質量部以上3.0質量部以下が好ましい。
【0047】
(ポリマー組成物の配合剤)
ポリマー組成物はステアリン酸、酸化亜鉛、老化防止剤、加硫促進剤などの配合剤を含むことができる。
【0048】
ステアリン酸はゴム成分の加硫助剤として機能する。ステアリン酸の含有量は、ポリマー成分100質量部に対して、1質量部以上5質量部以下であることが好ましい。ステアリン酸の含有量が1質量部未満であると、加硫助剤としての効果を得ることができない。一方、ステアリン酸の含有量が5質量部を超えると、ポリマー組成物の粘度が低下し、破壊強度が低下するおそれがあるため好ましくない。ステアリン酸の含有量は、さらに1質量部以上4質量部以下が好ましい。
【0049】
酸化亜鉛はゴム成分の加硫助剤として機能する。酸化亜鉛の含有量は、ポリマー成分100質量部に対して、0.1質量部以上8質量部以下であることが好ましい。酸化亜鉛の含有量が0.1質量部未満であると、加硫助剤としての効果を得ることができない。一方、酸化亜鉛の含有量が8質量部を超えると、ポリマー組成物の硬度が高くなり、ポリマーシートをインナーライナーに用いた場合に、空気入りタイヤの耐久性能が低下するおそれ
がある。酸化亜鉛の含有量は、さらに0.5質量部以上6質量部以下が好ましい。
【0050】
老化防止剤は、老化と呼ばれる酸化劣化、熱劣化、オゾン劣化、疲労劣化などの一連の劣化を防止する機能を有する。老化防止剤は、アミン類やフェノール類からなる一次老化防止剤と硫黄化合物やフォスファイト類からなる二次老化防止剤とに分類される。一次老化防止剤は各種ポリマーラジカルに水素を供与して自動酸化の連鎖反応を停止させる機能を有し、二次老化防止剤はヒドロキシペルオキシドを安定なアルコールに変えることにより安定化作用を示すものである。
【0051】
老化防止剤としては、アミン類、フェノール類、イミダゾール類、リン類またはチオウレア類などが挙げられる。老化防止剤は1種類を単独で用いても、2種類以上を組み合わせても用いても良い。なかでも、N−(1,3−ジメチルブチル)−N’−フェニル−p−フェニレンジアミンを用いることが好ましい。
【0052】
老化防止剤の含有量は、ポリマー成分100質量部に対して、0.1質量部以上5質量部以下であることが好ましい。老化防止剤の含有量が0.1質量部未満であると、老化防止効果を得ることができない。一方、老化防止剤の含有量が5質量部を超えると、ポリマー組成物にブルーミング現象が発生する。老化防止剤の含有量は、さらに0.3質量部以上4質量部以下が好ましい。
【0053】
加硫促進剤としては、チウラム類、チアゾール類、チオウレア類、ジチオカーバミン酸塩類、グアニジン類およびスルフェンアミド類などを用いることができる。加硫促進剤は1種類を単独で用いても、2種類以上を組み合わせても良い。なかでも、ジベンゾチアジルスルフィドを用いることが好ましい。
【0054】
加硫促進剤の含有量は、ポリマー成分100質量部に対して、0.1質量部以上5質量部以下であることが好ましい。加硫促進剤の含有量が0.1質量部未満であると、加硫促進効果を得ることができない。一方、加硫促進剤の含有量が5質量部を超えると、ポリマー組成物の硬度が高くなり、ポリマーシートをインナーライナーに用いた場合に、空気入りタイヤの耐久性能が低下するおそれがある。さらに、ポリマー組成物の原料費が上昇する。加硫促進剤の含有量は、さらに0.3質量部以上4質量部以下が好ましい。
【0055】
<第2層>
本発明において、第2層はスチレン−イソプレン−スチレントリブロック共重合体およびスチレン−イソブチレンジブロック共重合体の少なくともいずれかを10質量%以上で85質量%以下含み、さらに天然ゴム、イソプレンゴム及びブチルゴムよりなる群から選択される少なくとも1種のゴム成分を15質量%以上で90質量%以下含むポリマー組成物よりなる。
【0056】
第2層にはスチレン−イソプレン−スチレントリブロック共重合体(SIS)を含むSIS層およびスチレン−イソブチレンジブロック共重合体(SIB)を含むSIB層の少なくともいずれかを有している。
【0057】
スチレン−イソプレン−スチレントリブロック共重合体(SIS)のイソプレンブロックはソフトセグメントであるため、SISからなるポリマーフィルムはゴム成分と加硫接着しやすく、カーカスプライのゴム層との接着性が向上し、耐久性に優れた空気入りタイヤを得ることができる。
【0058】
前記SISの分子量はゴム弾性および成形性の観点から、GPC測定による重量平均分子量が100,000〜290,000であることが好ましい。重量平均分子量が100,000未満であると引張強度が低下するおそれがあり、290,000を超えると押出加工性が悪くなるため好ましくない。SIS中のスチレン成分の含有量は、粘着性、接着性およびゴム弾性の観点から10〜30質量%であることが好ましい。
【0059】
本発明において、SISにおける、各ブロックの重合度は、ゴム弾性と取り扱いの観点からイソプレンでは500〜5,000程度、またスチレンでは50〜1,500程度であることが好ましい。
【0060】
スチレン−イソブチレンジブロック共重合体(SIB)のイソブチレンブロックはソフトセグメントであるため、SIBからなるポリマーフィルムはゴム成分と加硫接着しやすく、たとえばカーカスやインスレーションを形成する隣接ゴムとの接着性が向上し、屈曲疲労性に優れた空気入りタイヤを得ることができる。
【0061】
SIBは、分子鎖が直鎖状のものを用いることがゴム弾性および接着性の観点から好ましい。SIBの分子量は、ゴム弾性および成形性の観点から、GPC測定による重量平均分子量が40,000〜120,000であることが好ましい。重量平均分子量が40,000未満であると引張強度が低下するおそれがあり、120,000を超えると押出加工性が悪くなるおそれがある。
【0062】
SIB中のスチレン成分の含有量は、粘着性、接着性およびゴム弾性の観点から10〜35質量%であることが好ましい。本発明において、SIBにおける、各ブロックの重合度は、ゴム弾性と取り扱いの観点からイソブチレンでは300〜3,000程度、またスチレンでは10〜1,500程度であることが好ましい。
【0063】
前記第2層のポリマー組成物は、ゴム成分として天然ゴム、イソプレンゴムおよびブチルゴムよりなる群から選択される少なくとも1種を、ポリマー成分の15質量%〜90質量%の範囲で含む。この範囲でゴム成分を混合することでポリマー組成物にゴム成分を含む隣接部材との加硫前粘着性を与えることができる。さらに動的加硫によってポリマー組成物に前記第1層、カーカス、インスレーションなどの隣接部材との加硫接着性を与えることができる。
【0064】
ゴム成分の含有量はポリマー組成物のポリマー成分中、ゴム成分の含有量が15質量%未満であると、ポリマー組成物の粘度が高くなり押出加工性が悪化するため、ポリマー積層体の作製の際に、シートを薄くすることができないおそれがある。一方、ゴム成分の含有量が90質量%を超えると、シートの耐空気透過性が低下するおそれがある。
【0065】
前記第2層は押出成形、カレンダー成形といった熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマーをフィルム化する通常の方法によってフィルム化して得ることができる。
【0066】
第2層の肉厚部を除く平均厚さは、0.01mm〜0.3mmであることが望ましい。第2層の厚さが0.01mm未満であると、ポリマー積層体をインナーライナーに適用した生タイヤの加硫時に、第2層がプレス圧力で破れてしまい、加硫接着力が低下するおそれがある。一方、第2層の厚さが0.3mmを超えるとタイヤ重量が増加し低燃費性能が低下する。第2層の厚さは、さらに0.05〜0.2mmであることが好ましい。
【0067】
(ポリマー積層体の製造方法)
本発明において、インナーライナーに用いられるポリマー積層体の第1層は、たとえば以下の方法で製造することができる。2軸押出機に各配合剤を投入して約150〜280℃、50〜300rpmの条件下で混練して、SIBS、ゴム成分、硫黄などで動的架橋されたポリマー組成物のペレットを得る。得られたペレットをTダイ押出機に投入して、所望の厚さの第1層を得る。第1層層は、シートに成形すると同時に、第2層と貼り合わせてポリマー積層体を形成することができる。ポリマー積層体は、ラミネート押出や共押出などの積層押出をして製造できる。
【0068】
2軸押出機中では、熱可塑性エラストマーであるSIBSがマトリックス相となり、ゴム成分が島相となり分散する。さらに、2軸押出機中で、ゴム成分と添加剤成分とが反応し、島相であるゴム成分が架橋反応する。ゴム成分が2軸押出機中で動的に架橋されることから所謂動的架橋といわれている。2軸押出機中でゴム成分が架橋しても、系のマトリックス相は熱可塑性エラストマー成分からなるため、系全体のせん断粘度が低く、押出加工が可能となる。
【0069】
2軸押出機で得られた動的架橋されたポリマー組成物のペレットは、ゴム成分は架橋し
ているが、マトリックス相の熱可塑性エラストマー成分は可塑性を保持しており、ポリマー組成物全体の可塑性を生み出す役割を果たしている。そのため前記ポリマー組成物は、Tダイ押出においても可塑性を示すため、シート状に成形することが可能になる。
【0070】
さらに動的架橋されたポリマー組成物のペレットはゴム成分が架橋しているため、該ペレットを用いて作製されたポリマーシートをインナーライナーに適用して空気入りタイヤを製造する際に空気入りタイヤを加熱しても、カーカス層にインナーライナーが侵入するのを防止することができる。
【0071】
なお、第2層も第1層と同様の製造方法を採用できるが、SIBまたはSIS、ゴム成分に硫黄および添加剤をバンバリーミキサーで混合した後、押出し成形、カレンダー成形といった熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマーをシート化する一般的な方法を採用することができる。
【0072】
<空気入りタイヤの製造方法>
本発明の空気入りタイヤは、従来の製造方法を採用できる。前記ポリマー積層体を空気入りタイヤ1の生タイヤのインナーライナーに適用して他の部材とともに成形する。これを従来の方法により生タイヤを金型に投入して加硫することで製造できる。ポリマー積層体を生タイヤに配置する際は、ポリマー積層体の第2層であるSIS層またはSIB層が、カーカスプライ6に接するようにタイヤ半径方向外側に向けて配置する。このように配置すると、タイヤ加硫工程において、SIS層またはSIB層とカーカスとの接着強度を高めることができる。得られた空気入りタイヤは、インナーライナーとカーカスプライの0ゴム層とが良好に接着しているため、優れた耐空気透過性および屈曲疲労性を向上することができる。
【0073】
なお、インナーライナーの厚さをショルダー位置Peの厚さGeとクラウン中心位置Pcの厚さGc、最大幅位置Psの厚さGsで調整するには、例えば、ポリマーシートの押し出し口にプロファイルをつけて、ショルダー位置近傍の厚さGeを所定の厚さにした一体物のシートを作成して、これをインナーライナーとしてタイヤ内面に配置する。
【0074】
本発明の空気入りタイヤに用いられるカーカスプライのゴム層の配合は、一般に用いられるゴム成分、例えば、天然ゴム、ポリイソプレン、スチレンーブタジエンゴム、ポリブタジエンゴムなどに、カーボンブラック、シリカなどの充填剤を配合したものを用いることができる。
【実施例】
【0075】
表1にポリマー積層体の第1層の配合(A1〜A5)を、表2にポリマー積層体の第2層の配合(B1〜B6)を示す。上記第1層及び第2層の配合の組み合わせて表3に示す仕様で実施例および比較例の空気入りタイヤを製造してタイヤ性能を評価した。ここで第1層および第2層のポリマー組成物に用いたポリマー成分及び配合剤は、以下のとおりである。
【0076】
【表1】

【0077】
【表2】

【0078】
(注1)IIR:エクソンモービル(株)社製の「エクソンクロロブチル1066」。
(注2)SIBS:カネカ(株)社製の「シブスターSIBSTAR 102T」(スチレン−イソブチレン−スチレントリブロック共重合体、重量平均分子量100,000、スチレン単位含有量25質量%、ショアA硬度25)。
(注3)ステアリン酸:花王(株)社製の「ステアリン酸ルナックS30」。
(注4)酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)社製の「亜鉛華1号」。
(注5)老化防止剤:大内新興化学(株)社製の「ノクラック6C」(N−(1,3−ジメチルブチル)−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン)。
(注6)加硫促進剤:大内新興化学(株)社製の「ノクセラーDM」(ジ−2−ベンゾチアゾリルジスルフィド)。
(注7)硫黄:鶴見化学工業(株)社製の「粉末硫黄」。
(注8)SIS:クレイトンポリマー社製の「D1161JP」(スチレン−イソプレン−スチレントリブロック共重合体、重量平均分子量150,000、スチレン単位含有量15質量%)。
(注9)SIB:攪拌機付き2L反応容器に、メチルシクロヘキサン(モレキュラーシーブスで乾燥したもの)589mL、n−ブチルクロライド(モレキュラーシーブスで乾燥したもの)613ml、クミルクロライド0.550gを加えた。反応容器を−70℃に冷却した後、α−ピコリン(2−メチルピリジン)0.35mL、イソブチレン179mLを添加した。さらに四塩化チタン9.4mLを加えて重合を開始し、−70℃で溶液を攪拌しながら2.0時間反応させた。次に反応容器にスチレン59mLを添加し、さらに60分間反応を続けた後、大量のメタノールを添加して反応を停止させた。反応溶液から溶剤などを除去した後に、重合体をトルエンに溶解して2回水洗した。このトルエン溶液をメタノール混合物に加えて重合体を沈殿させ、得られた重合体を60℃で24時間乾燥することによりスチレン−イソブチレンジブロック共重合体を得た。
【0079】
スチレン成分含有量:15質量%
重量平均分子量 :70,000
(注10)ブチルゴム:エクソンモービル(株)社製の「エクソンクロロブチル1066」。
【0080】
<空気入りタイヤの製造>
上記、SIBS、SISおよびSIBを含むポリマー組成物を、2軸押出機(スクリュ径:φ50mm、L/D:30、シリンダ温度:220℃)にてペレット化した。その後、Tダイ押出機(スクリュ径:φ80mm、L/D:50、ダイリップ幅:500mm、シリンダ温度:220℃)厚さが0.25mmの第1層と厚さが0.05mmの第2層を製造し、これらを貼り合わせてポリマー積層体を製造した。
【0081】
空気入りタイヤは、図1に示す基本構造を有する195/65R15サイズのものに、上記ポリマー積層体をインナーライナーに用いて生タイヤを製造し、次に加硫工程において、170℃で20分間プレス成型して製造した。
【0082】
ここでインナーライナーのショルダー部の厚さを調整するために、ポリマーシートの押し出し口にプロファイルをつけて、ショルダー部の厚さGeを厚くした一体物のシートを作成して、これをインナーライナーとしてタイヤ内面に配置した。
【0083】
【表3】

【0084】
【表4】

【0085】
(注1)表3、4において「領域(wc/ws)(%)」は、ショルダー位置Peを中心にクラウン中心位置Pc方向に延びる距離の、Wcに対する割合wc(%)と、ショルダー位置Peを中心にさ最大幅位置Ps方向に延びる距離の、Wsに対する割合ws(%)を示す。
(注2)表3、4において、肉厚部の厚さ比(Ge/Gs)の値は、(Ge/Gc)の値と同じである。
【0086】
<性能試験>
性能試験は、以下の方法で実施した。なお空気入りタイヤの性能に関しては、タイヤサイズが195/65R15のものを用いて以下の性能評価をおこなった。
【0087】
(a)第1層と第2層の加硫接着力指数
ポリマー積層体を170℃で20分間加熱し、加硫接着力測定用のサンプルを作製する。引張剥離試験により剥離力を測定することで加硫接着力とした。下記計算式により、比較例7を基準(100)として、各配合例の加硫接着力を指数で表示した。加硫接着力指数が大きいほど、加硫接着力が強いことを示す。
(加硫接着力指数)=(各配合例の加硫接着力)÷(比較例7の加硫接着力)×100。
【0088】
(b)静的空気低下率
サイズが195/65R15空気入りタイヤをJIS規格リム15×6JJに組み付けて、初期空気圧300KPaを封入し、90日間室温で放置し空気圧の低下率を算出して、静的空気低下率の値とした。
【0089】
(c)低温耐久性
雰囲気温度が−20℃のもとで、タイヤ空気圧を120kPa、荷重負荷率を60(%)、速度80km/時間として、インナーライナーにクラックが発生したときの走行距離を測定した。比較例7の走行距離を100として、相対値を指数表示した。
【0090】
(d)転がり抵抗性
(株)神戸製鋼所製の転がり抵抗試験機を用い、タイヤサイズ195/65R15のスチールラジアルタイヤをJIS規格リム15×6JJに組み付け、荷重3.4kN、空気圧230kPa、速度80km/時間の条件下で、室温(38℃)で走行させて、転がり抵抗を測定した。そして下記計算式により、比較例7を基準として、各実施例、比較例の転がり抵抗を指数で表示した。指数値が大きいほど、転がり抵抗が低減されていることを示す。
(転がり抵抗変化率)=(比較例7の転がり抵抗)÷(各配合例の転がり抵抗)×100
<総合評価>
上記(a)〜(d)の各性能評価に基づき総合評価を行なった。総合評価Aと総合評価Bの評価基準は、以下のとおりである。
【0091】
総合評価A
(a)〜(d)が、以下のすべての条件を満たす。
(a)第1層と第2層の加硫接着力指数が100より大きい。
(b)静的空気低下率が2.5より小さい。
(c)低温耐久性(指数)が100より大きい。
(d)転がり抵抗性(指数)が100より大きい。
【0092】
総合評価B
(a)〜(d)のいずれかが、以下の1つの条件を満たす。
(a)第1層と第2層の加硫接着力指数が100以下。
(b)静的空気低下率が2.5以上。
(c)低温耐久性(指数)が100以下。
(d)転がり抵抗性(指数)が100以下。
【0093】
<実施例1〜7>
表3において実施例1、2は、第1層として配合A1のポリマー組成物、第2層として配合B1のポリマー組成物を用いたポリマー積層体を用いた空気入りタイヤである。そして肉厚部の厚さ(Ge)は、実施例1が0.36mm、実施例2が1.5mmである。
【0094】
実施例1、2のポリマー積層体における第1層と第2層のポリマー積層体の加硫接着力指数は、いずれも200であり優れた特性が得られた。また空気入りタイヤの静的空気低下率、低温耐久性および転がり抵抗性は総合的に優れた性能が得られた。
【0095】
実施例3、4は、第1層として配合A1のポリマー組成物、第2層として配合B3のポリマー組成物を用いたポリマー積層体を用いた空気入りタイヤである。そして、肉厚部の厚さ(Ge)、厚さ比(Ge/Gc)が異なっている。実施例3、4のポリマー積層体における第1層と第2層のポリマー積層体の加硫接着力指数は、いずれも220であり優れた特性が得られた。また空気入りタイヤの静的空気低下率、低温耐久性および転がり抵抗性は総合的に優れた性能が得られた。
【0096】
実施例5、6は、第1層として配合A2のポリマー組成物、第2層として配合B2のポリマー組成物を用いたポリマー積層体を用いた空気入りタイヤである。そして、肉厚部の厚さ(Ge)、厚さ比(Ge/Gc)が異なっている。実施例5、6のポリマー積層体における第1層と第2層のポリマー積層体の加硫接着力指数は、いずれも210であり優れた特性が得られた。また空気入りタイヤの静的空気低下率、低温耐久性および転がり抵抗性は総合的に優れた性能が得られた。
【0097】
実施例7は、第1層として配合A2のポリマー組成物、第2層として配合B4のポリマー組成物を用いたポリマー積層体を用いた空気入りタイヤである。実施例7のポリマー積層体における第1層と第2層のポリマー積層体の加硫接着力指数は218であり優れた特性が得られた。また空気入りタイヤの静的空気低下率、低温耐久性および転がり抵抗性は総合的に優れた性能が得られた。
【0098】
<比較例1〜10>
表4において、比較例1は、第1層として配合A1のポリマー組成物、第2層として配合B1のポリマー組成物を用いたポリマー積層体を用いた空気入りタイヤである。比較例1のポリマー積層体における第1層と第2層のポリマー積層体の加硫接着力指数は200であり優れた特性が得られた。また空気入りタイヤの静的空気低下率および転がり抵抗性は満足な性能であった。しかし低温耐久性は、比較例7と同レベルであり不十分な性能であった。
【0099】
比較例2は、第1層として配合A1のポリマー組成物、第2層として配合B1のポリマー組成物を用いたポリマー積層体を用いた空気入りタイヤである。比較例2のポリマー積層体における第1層と第2層のポリマー積層体の加硫接着力指数は、200であり優れた特性が得られ、また空気入りタイヤの静的空気低下率は満足できる性能である。しかし低温耐久性は実施例1、2より優れているが、転がり抵抗性は比較例7よりも劣っていた。
【0100】
比較例3、4は、第1層として配合A1のポリマー組成物、第2層として配合B1のポリマー組成物を用いたポリマー積層体を用いた空気入りタイヤである。ポリマー積層体における第1層と第2層のポリマー積層体の加硫接着力指数は220であり優れた特性が得られ、また空気入りタイヤの静的空気低下率は満足できる性能である。比較例3は低温耐久性に改善は認められず、比較例4は転がり抵抗は劣っている。
【0101】
比較例5は、第1層として配合A2のポリマー組成物、第2層として配合B2のポリマー組成物を用いたポリマー積層体を用いた空気入りタイヤである。ポリマー積層体における第1層と第2層のポリマー積層体の加硫接着力指数は210であり優れた特性が得られた。しかし空気入りタイヤの静的空気低下率および転がり抵抗は劣っている。
【0102】
比較例6〜10は、第1層および第2層にいずれも本発明のポリマー組成物と異なるポリマー組成物を用いている。いずれも加硫接着力指数、静的空気低下率、低温耐久性および転がり抵抗は総合的に劣っている。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明のポリマー積層体をインナーライナーに用いた空気入りタイヤは、乗用車用空気入りタイヤのほか、トラック・バス用、重機用等のインナーライナーを備えた空気入りタイヤにも広く採用することができる。
【符号の説明】
【0104】
1 空気入りタイヤ、2 トレッド部、3 サイドウォール部、4 ビード部、5 ビードコア、6 カーカスプライ、7 ベルト層、8 ビードエーペックス、9 インナーライナー、Pe ショルダー位置、Pc クラウン中央位置、Ps タイヤ最大幅位置、Te トレッド端。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対のビード部の間に装架されたカーカスプライのタイヤ内側にインナーライナーを備えた空気入りタイヤであって、前記インナーライナーは、
(a)スチレン−イソブチレン−スチレントリブロック共重合体を5質量%以上で40質量%以下、天然ゴム、イソプレンゴム及びブチルゴムよりなる群から選択される少なくとも1種のゴム成分を60質量%以上で95質量%以下含むポリマー組成物よりなる第1層と、
(b)スチレン−イソプレン−スチレントリブロック共重合体およびスチレン−イソブチレンジブロック共重合体の少なくともいずれかを10質量%以上で85質量%以下含み、さらに天然ゴム、イソプレンゴム及びブチルゴムよりなる群から選択される少なくとも1種のゴム成分を15質量%以上で90質量%以下含むポリマー組成物よりなる第2層、
よりなるポリマー積層体で構成され、
前記第2層がカーカスプライと接するように配置されており、
かつ前記インナーライナーはクラウン中央位置Pcにおける厚さGcに対し、ショルダー位置Peの厚さGeは、120%〜500%であることを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記第1層は、ポリマー成分100質量部に対し、硫黄を0.1質量部以上で5質量部以下、ステアリン酸を1質量部以上で5質量部以下、酸化亜鉛を0.1質量部以上で8質量部以下、老化防止剤を0.1質量部以上で5質量部以下、加硫促進剤を0.1質量部以上で5質量部以下配合しているポリマー組成物である請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
タイヤ子午断面において、前記カーカスプライとインナーライナーの境界線に対してトレッド部の接地端Teからタイヤ内径方向に法線Lを引き前記境界線との交点をショルダー位置Peとし、前記カーカスプライとインナーライナーの境界線とタイヤ中心線CLとの交点をクラウン中心位置Pcとし、さらに前記ショルダー位置Peからクラウン中心位置Pcまでのインナーライナーの輪郭線に沿った距離をショルダー距離Wcとしたとき、 前記インナーライナーの肉厚部は、前記ショルダー位置Peからクラウン中心位置Pc側に前記ショルダー距離Wcの少なくとも10%の幅を有する領域に形成されている請求項1または2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記インナーライナーの肉厚部は、前記ショルダー位置Peからクラウン中心位置Pc側に、前記ショルダー幅Wcの50%以下の幅を有する領域に形成されている請求項1〜3のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記インナーライナーの前記ショルダー位置Peからタイヤ最大幅位置Psまでのインナーライナーの輪郭線に沿った距離をサイド距離Wsとしたとき、前記インナーライナーの肉厚部は、前記ショルダー位置Peから前記最大幅位置Ps側に、前記サイド距離Wsの少なくとも20%の幅を有する領域に形成されている請求項1〜4のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
前記インナーライナーの肉厚部は、前記ショルダー位置Peから前記最大幅位置Ps側に、前記最大幅距離Wsの100%以下の幅を有する領域に形成されている請求項1〜5のいずれかに記載の空気入りタイヤ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−56571(P2013−56571A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−194696(P2011−194696)
【出願日】平成23年9月7日(2011.9.7)
【特許番号】特許第5053452号(P5053452)
【特許公報発行日】平成24年10月17日(2012.10.17)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】