説明

窒化珪素質焼結体

【課題】 YSiAlONの結晶が存在した場合でも破壊靭性を低下させることなく、強度に優れた窒化珪素質焼結体を提供する。
【解決手段】 窒化珪素の結晶を主相とし、粒界相にYSiAlONの結晶およびYSiAlONの結晶が存在する窒化珪素質焼結体である。これにより、強度に優れた窒化珪素質焼結体とすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械的特性に優れる窒化珪素質焼結体に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化珪素質焼結体は、優れた機械的特性を有していることから、様々な構造部材に好適に用いられている。ところで、窒化珪素は、共有結合が強く、窒化珪素粉末のみで焼結させることは困難であることから、種々の焼結助剤を添加して焼結することが行なわれている。
【0003】
例えば、特許文献1には、YやAlを焼結助剤として用いた窒化珪素質焼結体として、サイアロン粒子および粒界相により構成されるサイアロン焼結体であって、上記粒界相の総量が20wt%以下であるとともに、粒界相の酸化物換算したSi,AlおよびYがSiO−Al−Y三成分系において、重量比における(SiO,Al,Y)組成が、点A(20,10,70)、点B(20,25,65)、点C(30,25
,55)、点D(30,10,60)の4点で囲まれる領域にある高靱性サイアロン焼結体が提案さ
れている。
【0004】
また、特許文献2には、YとAlとを焼結助剤として添加してなる窒化珪素焼結体であって、焼結助剤の配合量が、窒化珪素と焼結助剤の合計の15重量%以上であるとともに、窒化珪素の酸素含有量(SiO量換算値で表す)と、Y及びAlの量との比は、SiO−Y−Al三成分系を示す三角図(重量比で表す)において、点A(0,80,20)、点B(9,73,18)、点C(9,55,36)、点D(0,60,40)の4点で囲まれる領域内にある窒化珪素焼結体が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第2820846号公報
【特許文献2】特許第2863569号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の高靱性サイアロン焼結体や特許文献2に記載の窒化珪素焼結体が提案されているように、各メーカーにおいて機械的特性を向上させるべく、焼結助剤成分や含有量等について鋭意検討されているものの、YやAlを焼結助剤として用いた窒化珪素質焼結体において、YSiAlONの結晶が存在すると破壊靭性が低下するという問題があった。
【0007】
本発明は、上記課題を解決すべく案出されたものであり、YSiAlONの結晶が存在した場合でも破壊靭性を低下させることなく、強度に優れた窒化珪素質焼結体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の窒化珪素質焼結体は、窒化珪素の結晶を主相とし、粒界相にYSiAlONの結晶およびYSiAlONの結晶が存在することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の窒化珪素質焼結体によれば、窒化珪素の結晶を主相とし、粒界相にYSiA
lONの結晶およびYSiAlONの結晶が存在することにより、YSiAlONの結晶のみが存在している窒化珪素質焼結体のように破壊靭性を低下させることなく、窒化珪素質焼結体の強度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本実施形態の窒化珪素質焼結体のX線回折チャートの一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本実施形態の窒化珪素質焼結体について説明する。
【0012】
本実施形態の窒化珪素質焼結体は、窒化珪素の結晶を主相とし、粒界相にYSiAlONの結晶およびYSiAlONの結晶が存在することを特徴としている。なお、本実施形態において主相とは、窒化珪素質焼結体における体積比率が50体積%以上であることをいい、主相の体積比率としては、84体積%以上であることが好ましい。また、共有結合性の高い窒化珪素を焼結させるには、焼結助剤を必要とし、この焼結助剤によって形成される粒界相は、体積比率で5体積%以上有していることが好ましいので、主相の体積比率としては、84体積%以上95体積%以下であり、粒界相の体積比率は、5体積%以上16体積%以下であることがより好ましい。なお、本実施形態において、窒化珪素の結晶同士の間を粒界相という。
【0013】
そして、主相の体積比率が84体積%以上95体積%以下であり、粒界相の体積比率が5体
積%以上16体積%以下となる窒化珪素質焼結体の組成としては、Y換算で5質量%以上14質量%以下、Al換算で2質量%以上5質量%以下およびSiO換算で0.5質量%以上2質量%未満含有し、残部が窒化珪素からなるものである。
【0014】
ここで、体積比率の求め方の一例を記載する。まず、酸素分析装置(堀場製作所製 EMGA−650FA)を用いた赤外線吸収法により窒化珪素質焼結体中の酸素の含有量を求める。
次に、ICP(Inductively Coupled Plasma)発光分光分析装置(島津製作所製 ICPS−8100)を用いてYおよびAlの定量分析を行なう。次に、定量分析によって得られたYおよびAlの定量値をそれぞれYおよびAlに換算し、この酸化物換算で必要とした酸素量を窒化珪素質焼結体中の酸素の含有量から差し引き、この差し引いた酸素量からSiOに換算する。そして、それぞれ換算したY,Al,SiO量を100から差し引くことにより、Siの含有量とする。
【0015】
次に、Yの含有量をa,Alの含有量をb,SiOの含有量をc,窒化珪素の含有量をdとしたとき、それぞれの理論密度(Y:5.02g/cm,Al:3.98g/cm,SiO:2.65g/cm,Si:3.18g/cm)を用いて、次式(d/3.18)/(a/5.02+b/3.98+c/2.65+d/3.18)×100によって
主相の体積比率を求めることができる。a=9.5,b=3.5,c=1.0,d=86のとき、主
相の体積比率は90体積%となる。
【0016】
また、粒界相にYSiAlONの結晶およびYSiAlONの結晶が存在するか否かについては、X線回折装置(Bruker AXS社製 D8 ADVANCE)を用いて、窒化珪素質焼結体の表面にCuKα線を照射し、CuKα線の回折方向と入射方向の角度差(2θ)と回折X線強度を検出器で走査した結果であるX線回折チャートを得て、2θの値よりJCPDSカードを用いて同定して結晶の存在を確認すればよい。
【0017】
具体的に、本実施形態の窒化珪素質焼結体のX線回折チャートを図1に示す。このX線回折チャートにおいて、窒化珪素の結晶が存在していることを示すピークは、2θ=23.5°付近,27.2°付近,33.6°付近,36°付近に現れる。そして、YSiAlONの結
晶が存在しているときには、2θ=32°〜33°付近(32.6°)にピークが現れ、YSiAlONの結晶が存在しているときには、2θ=29°〜31°付近(29.4°,30.7°,31.1°)の間にピークが現れる。また、窒化珪素、YSiAlONおよびYSiAlONの存在を示すピークの間のブロードなピークは、窒化珪素質焼結体に非晶質(アモルファス)相が存在していることを示している。
【0018】
そして、図1のX線回折チャートに示すように、YSiAlONの結晶およびYSiAlONの結晶が存在している本実施形態の窒化珪素質焼結体は、YSiAlONの結晶のみが存在している窒化珪素質焼結体のように破壊靭性を低下させることなく、窒化珪素質焼結体の強度を向上させることができる。
【0019】
このように、YSiAlONの結晶およびYSiAlONの結晶が存在していることにより、破壊靭性を低下させることなく窒化珪素質焼結体の強度を向上させることができる理由については明らかになっていないが、粒界相にYSiAlONの結晶およびYSiAlONの結晶が存在していることにより、焼結時に主相である窒化珪素の結晶の粒成長を抑制し、このとき窒化珪素の結晶と、YSiAlONの結晶およびYSiAlONの結晶との間にかかる応力が焼結体に残ることによって、破壊靭性の低下が抑えられ、窒化珪素の結晶の粒成長の抑制によって微細な組織構造の焼結体とすることができるので強度を向上させることができると考えられる。
【0020】
ここで、破壊靭性については、JIS R 1607−2010で規定される圧子圧入法(IF法)に準拠して測定した破壊靭性値で評価することができ、強度については、JIS R
1601−2008に準拠した4点曲げ強さ試験によって得られた4点曲げ強度の値で評価することができる。
【0021】
なお、Y換算で5質量%以上14質量%以下、Al換算で2質量%以上5質量%以下およびSiO換算で0.5質量%以上2質量%未満含有し、残部が窒化珪素から
なり、粒界相にYSiAlONの結晶およびYSiAlONの結晶が存在する窒化珪素質焼結体の具体的な機械的特性としては、破壊靭性(KIC)が6.0MPa・m
/2以上であり、4点曲げ強度が800MPa以上となる。
【0022】
また、本実施形態の窒化珪素質焼結体は、X線回折チャートにおける2θ=32.6°付近のYSiAlONの結晶のピーク強度をXとし、2θ=29.4°付近のYSiAlONの結晶のピーク強度をYとしたとき、その比率X/Yが1.2以下(0を除く)である
ことが好ましい。この比率X/Yが1.2以下(0を除く)であるときには、破壊靱性およ
び強度を向上させることができる。
【0023】
具体的には、Y換算で5質量%以上14質量%以下、Al換算で2質量%以上5質量%以下およびSiO換算で0.5質量%以上2質量%未満含有し、残部が窒化珪
素からなり、粒界相にYSiAlONの結晶およびYSiAlONの結晶が存在し、X線回折チャートにおける2θ=32.6°付近のYSiAlONの結晶のピーク強度をXとし、2θ=29.4°付近のYSiAlONの結晶のピーク強度をYとしたとき、その比率X/Yが1.2以下(0を除く)であれば、破壊靭性を6.5MPa・m1/2以上、4点曲げ強度を900MPa以上とすることができる。
【0024】
また、本実施形態の窒化珪素質焼結体は、粒界相にさらにWSiおよびFeSiの結晶が存在していることが好ましい。WSiおよびFeSiの結晶は、熱力学的に安定しており、機械的応力や熱応力がかかった場合でも粒界相が相変態を起こしにくいため、高温における強度を向上させることができる。なお、WおよびFeの含有量としては、窒化珪素質焼結体を構成するSi,Y,Al,SiOの合計100質
量%に対し、WがWO換算で3質量%以下(0質量%を含まず)、FeがFe換算で2質量%以下(0質量%を含まず)であることが好ましい。
【0025】
そして、具体的な特性としては、Y換算で5質量%以上14質量%以下、Al換算で2質量%以上5質量%以下およびSiO換算で0.5質量%以上2質量%未満含
有する窒化珪素質焼結体において、窒化珪素質焼結体100質量%に対し、WをWO換算
で3質量%以下(0質量%を含まず)、FeをFe換算で2質量%以下(0質量%を含まず)含み、粒界相にYSiAlONの結晶およびYSiAlONの結晶に加えて、WSiおよびFeSiの結晶が存在する窒化珪素質焼結体は、高温(800℃
)における4点曲げ強度を700MPa以上とすることができる。なお、粒界相にWSi
およびFeSiの結晶が存在するか否かについては、波長分散型X線マイクロアナライザー装置(日本電子製 JXA−8600M型)を用いて、粒界相すなわちSiとNとが共存する領域外に、WとSiとが存在する領域、FeとSiとが存在する領域を確認し、透過型電子顕微鏡(TEM)分析によって結晶構造を確認すればよい。また、高温(800℃)
における強度については、JIS R 1604−2008に準拠して測定すればよい。
【0026】
また、本実施形態の窒化珪素質焼結体は、粒界相に、YSiON(ボラステナイト)、Y(SiN(アパタイト)、YSi(ダイシリケート)相およびYSiO(モノシリケート)のうち少なくとも1種の結晶が存在していてもよい。これらの結晶は、非晶質相と比較して軟化しにくいため、高温(800℃)における強度の向上に
効果がある。
【0027】
次に、本実施形態の窒化珪素質焼結体の製造方法について説明する。
【0028】
まず、出発原料として、Si粉末(平均粒径D50=0.5〜100μm)およびSi粉末(α化率50%以上、平均粒径D50=0.5〜10μm)と、焼結助剤であるY粉末(平均粒径D50=0.5〜10μm)、Al粉末(平均粒径D50=0.5〜10μm)およびSiO粉末(平均粒径D50=0.5〜10μm)とを準備する。その後、それぞれの粉末を所
定量秤量し、ポリビニルアルコール(PVA)やポリエチレングリコール(PEG)などの各種バインダとともに、例えば回転ミル、振動ミル、ビーズミルなどのミルに入れて湿式混合・粉砕し、スラリーを作製する。
【0029】
そして、Si粉末とSi粉末との質量比率は、80:20〜90:10となるように秤量する。そして、窒化珪素質焼結体の組成が、Y換算で5質量%以上14質量%以下、Al換算で2質量%以上5質量%以下およびSiO換算で0.5質量%以上2質量
%未満含有し、残部が窒化珪素からなるものとするには、Si粉末とSi粉末との質量比率が85:15であるとき、Y粉末およびAl粉末については、それぞれ7.3質量%以上20質量%以下、2.9質量%以上7.3質量%以下となるように秤量する。なお
、各粉末の秤量時と窒化珪素質焼結体の含有量とで質量%が異なるのは、Si粉末を窒化させて窒化珪素としているためである。
【0030】
また、SiO粉末については、窒化珪素質焼結体に含まれるSiO換算での含有量が0.5質量%以上2質量%未満となるように秤量する必要があるので、予めSiO粉末
を添加せずに作製した窒化珪素質焼結体に含まれるSiO量を確認して、SiO粉末の添加量を決めればよい。そのため、SiO粉末は必ずしも添加しなければならないものではなく、SiO粉末を添加していない窒化珪素質焼結体にSiOが含まれることとなるのは、Si粉末およびSi粉末に不可避的に含まれる酸素やSi粉末の酸化によるものである。なお、Y:Al:SiOの窒化珪素質焼結体の含有量は、質量比率で59〜75質量%:20〜28質量%:5〜13質量%であることが好ましい。
【0031】
また、粒界相にWSiおよびFeSiの結晶を存在させるには、Fe粉末(平均粒径D50=0.1〜3μm)、WO粉末(平均粒径D50=0.1〜3μm)を準備し、上述した出発原料粉末100質量%に対し、Fe粉末を3質量%以下(0質量%以下を
除く)、WO粉末を2質量%以下(0質量%以下を除く)秤量して、出発原料に加えればよい。
【0032】
次に、噴霧造粒乾燥装置(スプレードライヤ)を用いてスラリーを噴霧造粒して球状顆粒を得た後、この球状顆粒を用いて粉末プレス成形法や静水圧プレス(ラバープレス)成形法にて成形し、必要に応じて切削加工を施すことにより成形体を得る。
【0033】
次に、この成形体を50kPa〜1.1MPaの窒素分圧で、1000〜1400℃の温度で焼成し
、窒化珪素のα化率が90%以上の窒化体を得て、この窒化体を50〜300kPaの窒素分圧
で、1750〜1900℃の最高温度で焼成する。そして、粒界相にYSiAlONの結晶およびYSiAlONの結晶を存在させるには、最高温度から1200℃までの降温速度を10℃/min以下とすることが重要である。最高温度から1200℃までの降温速度を10℃/min以下としたのは、10℃/minを超える降温速度では、YSiAlONの結晶およびYSiAlONの結晶を粒界相に存在させることができないからである。また、最高温度から1200℃までの降温速度が5℃/min未満では、YSiAlONの結晶を粒界相に存在させにくくため、最高温度から1200℃までの降温速度は、5℃/min以上10℃/min以下であることが好ましい。
【0034】
また、X線回折チャートにおける2θ=32.6°付近のYSiAlONの結晶のピーク強度をXとし、2θ=29.4°付近のYSiAlONの結晶のピーク強度をYとしたときの比率X/Yを1.2以下(0を除く)とするには、降温速度を7〜10℃/minとす
ることが好ましい。
【0035】
そして、その後、室温まで冷却することにより本実施形態の窒化珪素質焼結体を得ることができる。このようにして得られた本実施形態の窒化珪素質焼結体は、窒化珪素を主相とし、粒界相にYSiAlONの結晶およびYSiAlONの結晶が存在しており、破壊靭性を低下させることなく、強度の向上した窒化珪素質焼結体とすることができる。
【0036】
このように、本実施形態の窒化珪素質焼結体は、優れた機械的特性を有していることから、これらの特性を必要とする構造部材として好適に用いることができる。また、各種金属溶湯と接する金属溶湯用部材などにも適用可能である。
【0037】
以下、本発明の窒化珪素質焼結体の実施例を説明する。
【実施例1】
【0038】
まず、焼成時における最高温度から1200℃までの降温速度を異ならせてYSiAlONの結晶およびYSiAlONの結晶の有無と、破壊靭性および強度の確認とを行なった。出発原料として、Si粉末(平均粒径D50=10μm)およびSi粉末(α化率50%以上、平均粒径D50=1μm)と、焼結助剤であるY粉末(平均粒径D50=1μm)およびAl粉末(平均粒径D50=1μm)を準備し、Si粉末を67質量%、Si粉末を14質量%、Y粉末を14質量%、Al粉末を5質量%秤量した。
【0039】
その後、秤量後の粉末とバインダと溶媒とを回転ミルに入れて、所定時間混合・粉砕し、スラリーを得た。そして、噴霧造粒乾燥装置を用いてスラリーを噴霧造粒して球状顆粒を得た後、この球状顆粒を所定の金型に充填して粉末プレス成形法により成形し成形体を
得た。次に、この成形体を120kPaの窒素分圧で,1300℃の温度で焼成し窒化珪素のα
化率が90%以上の窒化体を得た後、さらに120kPaの窒素分圧で、1750℃の最高温度で
5時間保持した。ここまでの条件は同じであり、最高温度から1200℃までの降温速度を、一方は15℃/minとし、他方は10℃/minで降温して、その後、室温まで冷却することにより、窒化珪素質焼結体を得た。
【0040】
そして、酸素分析装置(堀場製作所製 EMGA−650FA)を用いた赤外線吸収法により窒
化珪素質焼結体中の酸素の含有量を求めた。また、ICP発光分光分析装置(島津製作所製 ICPS−8100)を用いてYおよびAlの定量分析を行ない、それぞれYおよびAlに換算し、この酸化物換算で必要とした酸素量を窒化珪素質焼結体中の酸素の含有量から差し引き、この差し引いた酸素量からSiOに換算した。そして、それぞれ換算したY,Al,SiO量を100から差し引くことにより、窒化珪素の含
有量を求めた。その結果、窒化珪素質焼結体の組成は、窒化珪素が85.7質量%であり、Y換算で9.6質量%であり、Al換算で3.5質量%であり、SiO換算で1.2
質量%であった。
【0041】
また、X線回折装置(Bruker AXS社製 D8 ADVANCE)を用いて、窒化珪素質焼結体の表面にCuKα線を照射し、CuKα線の回折方向と入射方向の角度差(2θ)と回折X線強度を検出器で走査した結果であるX線回折チャートを得た。その結果、最高温度から1200℃までの降温速度が15℃/minのものについては、2θ=29.4°付近および32.6°付近にピークは存在していなかった。これに対し、最高温度から1200℃までの降温速度が10℃/minのものについては、2θ=32.6°付近にYSiAlONの結晶のピークが確認されるとともに、2θ=29.4°付近にYSiAlONの結晶のピークが確認された。なお、各結晶の同定は、2θの値よりJCPDSカードを用いて行なった。
【0042】
次に、破壊靭性および強度について、JIS R 1607−2010およびJIS R 1601−2008に準拠した試験片となるように窒化珪素質焼結体に研磨加工や研削加工を施した。そして、JIS R 1607−2010で規定される圧子圧入法(IF法)に準拠して破壊靱性を測定した。また、JIS R 1601−2008に準拠した4点曲げ強さ試験で4点曲げ強度を測定した。
【0043】
その結果、破壊靭性の値は同程度であったものの、最高温度から1200℃までの降温速度を10℃/minとして作製した窒化珪素質焼結体は、4点曲げ強度の値が10〜20%高く、粒界相にYSiAlONの結晶およびYSiAlONの結晶が存在していることにより、強度を向上できることがわかった。
【実施例2】
【0044】
次に、実施例1と同様の粉末を準備して、表1に示す組成となるように秤量して実施例1と同様の方法で窒化珪素質焼結体を作製した。なお、最高温度から1200℃までの降温速度は、8℃/minとし、組成については、実施例1と同様の方法により求めた。
【0045】
また、実施例1と同様の方法で破壊靭性と強度の測定を行なった。結果を表1に示す。
【0046】
【表1】

【0047】
表1に示す通り、Y換算で5質量%以上14質量%以下、Al換算で2質量%以上5質量%以下およびSiO換算で0.5質量%以上2質量%未満含有し、残部が窒
化珪素からなる試料No.2〜8は、破壊靭性の値が6MPa・m1/2以上であり、4点曲げ強度の値が800MPa以上であり、この範囲外の組成を示す試料よりも破壊靱性お
よび強度に優れていた。また、試料No.5と試料No.6とを比較すると、試料No.5の方が破壊靭性および4点曲げ強度に優れており、Y:Al:SiOの窒化珪素質焼結体の含有量の質量比率が59〜75質量%:20〜28質量%:5〜13質量%であった方が機械的特性に優れていることがわかった。
【実施例3】
【0048】
次に、実施例2の試料No.4と同様の組成となるように各粉末を秤量して、実施例1と同様の作製方法で窒化体までを作製した。次に、120kPaの窒素分圧で、1750℃の最
高温度で5時間保持し、最高温度から1200℃までの降温速度をそれぞれ表1に示す設定として、その後、室温まで冷却することにより、試料No.14〜17の窒化珪素質焼結体を得た。そして、実施例1と同様の方法で破壊靭性と強度の測定を行なった。結果を表2に示す。
【0049】
【表2】

【0050】
表2に示す結果、X線回折チャートにおける2θ=32.6°付近のYSiAlONの結晶のピーク強度をXとし、2θ=29.4°付近のYSiAlONの結晶のピーク強度をYとしたときの比率X/Yが1.2以下である試料No.14〜16は、比率X/Yが1.31で
ある試料No.17よりも破壊靱性および4点曲げ強度に優れていることがわかった。
【実施例4】
【0051】
次に、実施例3の試料No.15と同様の組成となるように各粉末を秤量した。そして、Fe粉末(平均粒径D50=0.1〜3μm)、WO粉末(平均粒径D50=0.1〜3μm)を準備し、Si粉末、Si粉末、Y粉末、Al粉末の合計100質
量%に対し、Fe粉末を2質量%以下(0質量%以下を除く)、WO粉末を1質量%以下(0質量%以下を除く)加えて、後の工程については、実施例3の試料No.15と同様の作製方法で窒化珪素質焼結体を得た。
【0052】
そして、得られた窒化珪素質焼結体について、波長分散型X線マイクロアナライザー装置(日本電子製 JXA−8600M型)を用いて、粒界相すなわちSiとNとが共存する領域外に、WとSiとが存在する領域、FeとSiとが存在する領域を確認した。次に、透過型電子顕微鏡(TEM)分析によってWSiおよびFeSiであることを確認した。そして、実施例3の試料No.15と今回得られた窒化珪素質焼結体とを用いて、JIS
R 1604−2008に準拠した試験片寸法となるように研削加工を施して、高温(800℃)
における4点曲げ強さ試験を行なった。
【0053】
その結果、今回得られた窒化珪素質焼結体は、実施例3の試料No.15よりも高温(800℃)における4点曲げ強度の値が大きく、WSiおよびFeSiの結晶が粒界相に
存在していることにより、高温における強度を向上できることがわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化珪素の結晶を主相とし、粒界相にYSiAlONの結晶およびYSiAlONの結晶が存在することを特徴とする窒化珪素質焼結体。
【請求項2】
X線回折チャートにおける2θ=32.6°付近のYSiAlONの結晶のピーク強度をXとし、2θ=29.4°付近のYSiAlONの結晶のX線回折におけるピーク強度をYとしたとき、その比率X/Yが1.2以下(0を除く)であることを特徴とする請求項1に記載の窒化珪素質焼結体。
【請求項3】
前記粒界相に、さらにWSiおよびFeSiの結晶が存在することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の窒化珪素質焼結体。

【図1】
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【公開番号】特開2012−176863(P2012−176863A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−40089(P2011−40089)
【出願日】平成23年2月25日(2011.2.25)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】