説明

筋力補助具

【課題】 前屈だけでなく例えば上半身を側方に傾けたり回転させたり仰向けに反らしたり、あるいは腕を持上げたりするいずれの姿勢においても、筋肉等への負担を軽減できる。
【解決手段】 筋力補助具1を、それぞれ繊維強化プラスチックからなる外側パイプ11及びこの外側パイプに摺動自在に挿入した棒状の内側部材12と、この外側パイプと内側部材とに連結されるチューブ形状のシリコンゴムからなる弾性部材13とによって構成する。筋力補助具1を、例えば背部と大腿部との2個所の間に2本装着すれば、上半身の前屈、側屈、あるいは捻りのいずれの姿勢においても、この筋力補助具にはこの姿勢を元に戻そうとする復元力が発生し、この復元力により背部や腰部周囲の筋肉に掛かる負担を軽減できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば農作業や介護作業を行なう者が装着する筋力補助具に関する。
【背景技術】
【0002】
収益性の高い農業経営を目指す農家では、きめ細かい手作業によって農作物の付加価値を高める取り組みが行なわれている。また少子高齢化が進む今日においては、介護者の拡充等が強く求められている。ところで手作業による農作業や介護動作は、中腰や前屈姿勢で行なう場合が多く、このような姿勢の作業は、肩部、腰部、膝部あるいは首部等の筋肉等に、過大な負担を掛ける。
【0003】
このような農作業や介護動作等における筋肉の負担を低減させるために、本発明者等は、図21に示すように、肩部から大腿部に伸縮性のベルトを掛けると共に、腰部周りを締付ける腰部ベルトを有する腰部筋力補助具(特許文献1参照。)、及び図22に示すように、肩から延伸するゴムベルトを、その先端に連結したワイヤを介して電動式ワイヤ巻取器によって伸縮させる、筋力補助装置(特許文献2参照。)を、それぞれ開発して提案した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特願2009−145540(明細書及び図面)
【特許文献2】特許第4345025号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかるに上述した筋力補助具は、いずれもベルトの引張力を利用するため、前屈姿勢による作業では有効であるものの、上半身を側方に傾けた姿勢、上半身を回転させた姿勢、上半身を仰向けに反らした姿勢、あるいは腕を持上げた姿勢等による作業では、いずれもベルトの引張力を利用することができず、必ずしも有効ではない場合もある。
【0006】
そこで本発明の目的は、前屈だけでなく、例えば上半身を側方に傾けたり、回転させたり、仰向けに反らしたり、あるいは腕を持上げたりするいずれの姿勢においても、筋肉等への負担を効果的に軽減できる筋力補助具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明による筋力補助具の特徴は、伸び方向だけでなく、縮み方向及び曲げ方向に対しても復元力を発揮することにある。すなわち本発明による筋力補助具は、人体の表面において、人体の動きによって間隔が変化する2個所の間に装着するものであって、それぞれ曲げ方向に弾性を有する材料からなる外側パイプ、及びこの外側パイプに摺動自在に挿入された棒状の内側部材、並びにこの外側パイプと内側部材とに連結される弾性部材を備えている。上記弾性部材は、上記内側部材が上記外側パイプから抜け出る方向、またはこの外側パイプ内に侵入する方向に移動するときに、この移動の方向と逆向きの引張力または圧縮力を発生し、上記外側パイプの先端部分と上記内側部材の先端部分とは、それぞれ上記人体の表面に設けた係止具を介して上記2個所に係止される。
【0008】
ところで上記外側パイプと内側部材との先端部分が、いずれも係止具に揺動可能に係止される状態では、例えば上半身を側方に傾けたり、捻ったりする場合には、両先端部分の位置が相互に平行にずれるだけで、外側パイプと内側部材とに曲げ力が発生しない場合もあり得る。そこで上記2個所に設けた係止具の少なくとも一方は、上記外側パイプと内側部材との先端部分を、それぞれ軸方向のみならず倒れ方向にも拘束するものであることが望ましい。
【0009】
また作業途中や終了後等には、上記2個所の係止具の間隔が過大または過小となる姿勢が必要になる場合もあり得る。かかる場合には、上記外側パイプ及び内側部材の伸縮長さや曲げの限度を越えてしまい、このような姿勢がとれないことが起こり得る。そこで上記2個所に設けた係止具のいずれか一方は、上記外側パイプまたは内側部材に予め設定した値を超える軸方向力または曲げ力が加わったときには、この係止具に係止された外側パイプまたは内側部材の先端部分を、軸方向または倒れ方向に移動させる移動手段を備え、上記移動手段は、上記先端部分乃至係止具に働く摩擦力またはばね力を利用する手段であることが、さらに望ましい。
【0010】
上記2個所に設けた係止具のいずれか一方は、上記外側パイプまたは内側部材の先端部分を、軸方向及び倒れ方向に移動させる電動モータを有しており、さらに上記人体の表面の伸縮を計測するセンサと、制御装置と、これらの電動モータ、センサ、及び制御装置に電力を供給する電源とを備え、上記制御装置は、上記センサからの信号に基づいて上記電動モータの駆動を制御するように構成することもできる。
【0011】
本発明による筋力補助具において、内側部材を2本に分割して、それぞれ外側パイプの両端から摺動自在に挿入し、弾性部材によって、この2本の内側部材を相互に連結するように構成してもよい。すなわち、この筋力補助具は、人体の表面において人体の動きによって間隔が変化する2個所の間に装着するものであって、それぞれ曲げ方向に弾性を有する材料からなる外側パイプ、及びこの外側パイプに摺動自在に挿入された2本の棒状の内側部材、並びにこの2本の棒状の内側部材を相互に連結する弾性部材を備えている。上記弾性部材は、上記2本の棒状の内側部材が軸方向であって相互に離反または接近する方向に移動するときに、この移動の方向と逆向きの引張力または圧縮力を発生し、上記2本の棒状の内側部材の両先端部分は、それぞれ上記人体の表面に設けた係止具を介して上記2個所に係止される。
【0012】
ここで上記2本の内側部材を、2本の弾性部材によって、それぞれ外側パイプに連結してもよい。すなわち、この筋力補助具は、人体の表面において人体の動きによって間隔が変化する2個所の間に装着するものであって、それぞれ曲げ方向に弾性を有する材料からなる外側パイプ及びこの外側パイプに摺動自在に挿入された2本の棒状の内側部材、並びにこの2本の棒状の内側部材をそれぞれこの外側パイプに連結する弾性部材を備えている。上記弾性部材は、上記2本の棒状の内側部材が軸方向であって相互に離反または接近する方向に移動するときに、この移動の方向と逆向きの引張力または圧縮力を発生し、上記2本の棒状の内側部材の両先端部分は、それぞれ上記人体の表面に設けた係止具を介して上記2個所に係止される。
【0013】
上記外側パイプと内側部材とは、それぞれ繊維強化プラスチックで形成され、上記弾性部材は、ゴム材からなるチューブによって形成されていることが望ましい。
【0014】
上記人体の表面における2個所は、それぞれ背部と大腿部の後側、膝の上部と下部、頭部の後側と肩部、または上腕部と腰部のいずれかであることが望ましい。
【0015】
ここで「2個所の間に装着するもの」の数は、1つに限らず2つ以上の場合も含む。「曲げ方向に弾性を有する材料」とは、例えば合成樹脂、若しくは繊維強化プラスチック、または、ばね鋼、ピアノ線、若しくは形状記憶合金等の金属が該当する。「外側パイプ」および「内側部材」の断面形状は、円形に限らず、楕円形あるいは多角形も含む。「内側部材」は中実のものに限らず、中空のパイプも含む。「外側パイプと内側部材とに連結する」とは、外側パイプと内側部材との外側の先端部分に連結する場合に限らず、外側パイプの両先端部の中間、及び内側部材の両先端部の中間に位置する個所に、それぞれ連結する場合も含む。
【0016】
「弾性部材」には、例えば天然または合成ゴムであって、「外側パイプ」および「内側部材」の周囲を囲むチューブ状乃至帯状のもの、または金属ばねであって、コイル状乃至ジグザグ状に折り畳んだ板状ばねが該当する。コイル状のばねの線材断面形状は、円形であっても多角形であってもよい。「人体の表面に設けた係止具」とは、例えばボディースーツ、ジャケット、胸と背中とに装着するサスペンダやベルト、腰部周りベルト、足周りベルト、腕周りベルト、頭部周りキャップに取り付けた部品であって、「外側パイプ」および「内側部材」と先端部分を係止する全ての部品を意味する。
【0017】
「倒れ方向」とは、「係止具」を中心として、「外側パイプ」等が揺動する方向を意味する。「軸方向及び倒れ方向に拘束する」とは、例えば布、皮、合成樹脂、または金属からなる筒状の係止具を、ボディースーツ等に接合して、この筒状の係止具に「外側パイプ」または「内側部材」の一方の先端部分を挿入すると共に、この先端部分をはと目等で、ボディースーツ等に結合したり、あるいはこの先端部分を所定の長さにわたって、糸やリング等によって、ボディースーツ等に直接固定したりすることが該当する。
【0018】
「摩擦力を利用する手段」とは、「外側パイプ」等の「先端部分」と「係止具」、あるいは「係止具」と腰部ベルト等とが相互に移動可能であって、両者を所定の摩擦力によって係止することを意味する。「ばね力を利用する手段」とは、「外側パイプ」等の「先端部分」と「係止具」、あるいは「係止具」と腰部ベルト等とが相互に移動可能であって、両者を所定のばね力によって着脱するラチェット等により係止することを意味する。
【0019】
「繊維強化プラスチック」とは、例えば炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、シリコンカーバイト繊維、ボロン繊維、ウイスカ、またはアルミニウム等の金属繊維を混合した合成樹脂、あるいはこれらの繊維からなる布やシート等を合成樹脂で固めたものを意味する。合成樹脂としては、例えばポリプロピレン、若しくはポリアミド等の熱可塑性樹脂、またはエポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、若しくはエポキシアクリレート等の熱硬化性樹脂が該当する。
【発明の効果】
【0020】
本発明による筋力補助具は、伸び方向だけでなく、縮み方向及び曲げ方向に対しても復元力を発揮できるため、前屈だけでなく、例えば上半身を側方に傾けたり、捻ったり、仰向けに反らしたり、あるいは腕を持上げたりするいずれの姿勢においても、筋肉等への負担を効果的に軽減できる。
【0021】
上記2個所に設けた係止具の少なくとも一方において、上記外側パイプと内側部材との先端部分を、それぞれ軸方向及び倒れ方向に拘束することによって、筋力補助具に曲げ力を有効に発生させることができる。
【0022】
2個所に設けた係止具のいずれか一方に、外側パイプまたは内側部材の先端部分を、軸方向または倒れ方向に移動させる移動手段を備えることによって、作業途中や終了後等において、これらの外側パイプ及び内側部材の伸縮長さや曲げの限度を越えるような姿勢をとることが可能となる。
【0023】
人体の表面の伸縮を計測するセンサからの信号に基づいて、2個所に設けた係止具のいずれか一方に係止された外側パイプまたは内側部材の先端部分を、電動モータによって軸方向及び倒れ方向に移動させることによって、利用者の体型、筋力、作業の負荷、及び姿勢や姿勢の変化速度等に対して、きめ細かい伸縮力や曲げ力の調整が可能となり、より適切に利用者の筋力の負担を軽減することができる。
【0024】
外側パイプに摺動自在に挿入する内側部材を2本に分割することによって、この2本の内側部材の曲げ弾性率を相違させることができる。したがって筋力補助具の全体の曲げ弾性率を、さらに細かく調整することが可能となる。
【0025】
2本に分割した内側部材を、2本の弾性部材によって、それぞれ外側パイプに連結することによって、この2本の弾性部材の弾性率を相違させることができる。したがって筋力補助具の全体の曲げ弾性率のみならず、軸方向の弾性率についても、さらに細かく調整することが可能となる。
【0026】
外側パイプと内側部材とを、それぞれ繊維強化プラスチックで形成し、弾性部材を、ゴム材からなるチューブによって形成することによって、上記筋力補助具を小型かつ軽量にすることができると共に、容易に組み立てることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】筋力補助具の一部断面図である。
【図2】伸ばした状態の筋力補助具の一部断面図である。
【図3】曲げた状態の筋力補助具の一部断面図である。
【図4】弾性部材の連結部分の拡大断面図である。
【図5】他の筋力補助具の一部断面図である。
【図6】他の筋力補助具の一部断面図である。
【図7】伸ばした状態の他の筋力補助具の一部断面図である。
【図8】他の筋力補助具の断面図である。
【図9】他の筋力補助具の断面図である。
【図10】他の筋力補助具の断面図である。
【図11】背中と大腿部との間に装着したときの背面図である。
【図12】背中と大腿部との間に装着して前屈姿勢をとったときの側面図である。
【図13】背中と大腿部との間に装着して側屈姿勢をとったときの背面図である。
【図14】背中と大腿部との間に装着して上半身を捻ったときの背面図である。
【図15】係止具の拡大図である。
【図16】膝上と膝下との間に装着したときの側面図である。
【図17】頭部と肩部との間に装着したときの背面及び側面図である。
【図18】上腕部と腰部との間に装着したときの側面図である。
【図19】他の係止具の拡大図である。
【図20】他の係止具の拡大図である。
【図21】従来例による腰部筋力補助具の模式図である。
【図22】従来例による筋力補助装置の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
図1〜図20を参照しつつ、本発明による筋力補助具の構成と作用とを説明する。さて図1に示すように、本発明による筋力補助具1は、それぞれ曲げ方向に弾性を有する炭素繊維を用いた繊維強化プラスチックからなる外側パイプ11、及びこの外側パイプに摺動自在に挿入された中実の棒状の内側部材12、並びにこの外側パイプと内側部材とに連結するシリコンゴム材からなる弾性部材13を備えている。
【0029】
弾性部材13は、チューブ形状に形成してあり、この弾性部材の内側に、外側パイプ11と内側部材12とが挿入されている。また弾性部材13の両端部は、外側パイプ11と内側部材12との先端部分に、それぞれ連結部材14、15を介して連結してある。なお連結部材14、15の詳細については、図4及び図5等を参照しつつ後述する。
【0030】
図2は、上述した筋力補助具1の両先端部分に設けた連結部材14、15を、矢印のように軸方向に引っ張った状態を示している。すなわち筋力補助具1を軸方向に引っ張ると、棒状の内側部材12が、外側パイプ11から摺動しつつ延伸し、同時にチューブ形状の弾性部材13が軸方向に伸びる。したがってこの状態では、弾性部材13が引張られた状態になって、外側パイプ11と内側部材12との先端部分の間隔を、図1に示した状態に縮めようとする復元力が発生する。
【0031】
図3は、上述した筋力補助具1を、矢印のように曲げた状態を示している。すなわち筋力補助具1を曲げると、それぞれ弾性の外側パイプ11と、これに挿入された内側部材12とが曲げられて、これらの部材に、図1に示した真っ直ぐの状態に戻そうとする復元力が発生する。
【0032】
図4は、上述した筋力補助具1の内側部材12の先端部分に、連結部材15を介して弾性部材13を連結する構造の1例を示している。さて連結部材15は、合成樹脂からなる円柱の先端側部分を平らにして平板部分15bを形成し、この平板部分に開口穴15cが設けてある。また後側部分の中心には、雌ねじを螺設した開口穴15dが形成してある。内側部材12の先端部分には、上述した開口穴15dに形成した雌ねじに螺合する雄ねじが螺設してあり、この雄ねじの根元部分に、連結部材15とほぼ同等な外径のフランジ部材12aが螺入してある。
【0033】
チューブ形状の弾性部材13の先端部分には、内側部材12の外径とほぼ同等の直径からなる開口穴が設けてあって、この開口穴が上述した内側部材12の先端部分に設けた雄ねじに挿入されている。そして連結部材15の開口穴15dに形成した雌ねじを、内側部材12の先端部分に設けた雄ねじに螺入することによって、弾性部材13の先端部分が、この連結部材の後端面と、フランジ部材12aの前面との間に挟み込まれて、この弾性部材が内側部材の先端部分に連結される。
【0034】
図5は、弾性部材によって、外側パイプと内側部材とを連結する他の構造を示している。なお図4で示した部品または部位と同等のものは、参照の便宜等のため、図4で示した部品番号に一律100を加えた番号にしている(以下図6、図7、図8、図9、図10、図11〜図14、図15、図16、図17、図18〜図19及び図20においても同様に、一律200、300〜1200を加えた番号にしてある。)。さて図5に示す筋力補助具101では、チューブ状の弾性部材113の両先端部分が、合成樹脂材からなる締め付けバンド114e、115eによって、それぞれ外側パイプ111及び内側部材112の長さ方向のほぼ中央部に固定されている。
【0035】
なお外側パイプ111と内側部材112とは、図1において説明したものと同等の材料であり、この内側部材の先端部分と連結部材115とは、図4において説明したものと同等の構造で連結してある。また外側パイプ111先端部分と連結部材114とは、この連結部材の後側端部分に、雄ねじを設けた円柱部分114aを突設し、この円柱部分を外側パイプ111先端部分の内径面に設けた雌ねじに螺入して連結する。
【0036】
図6に、筋力補助具の他の実施の形態を示す。すなわち筋力補助具201は、図1に示す筋力補助具1とは、弾性部材213が異なるだけであって、残りの外側パイプ211と内側部材212は、同等である。すなわち弾性部材213は、ステンレス製のコイルばねによって形成してあって、このコイルばねの内径に、外側パイプ211と内側部材212とが挿入されている。
【0037】
なお弾性部材213を形成するコイルばねの両端部分は、外側パイプ211と内側部材212との両先端部分に、それぞれ連結された金属製の連結部材214、215のフランジ部214a、215aに、それぞれ溶接結合されている。したがって連結部材214,215を、相互に軸方向に引っ張れば、コイルばねで形成された弾性部材213が伸びて、この弾性部材によって、元の長さに戻そうとする復元力が生じる。
【0038】
図7に示す筋力補助具301は、上述したものと同様なコイルばねで形成された弾性部弾性部材313を、外側パイプ311から内側部材312を所定の長さだけ引っ張りだした状態において連結したものであって、この弾性部材の一方の先端部分を、この外側パイプの先端部分に連結するのではなく、所定の長手方向位置、すなわちこの外側パイプの開放端寄りの位置に結合した金属性のリング部材314aに溶接したものである。したがってこのような弾性部材313には、軸方向に引張った場合と縮めた場合との双方向に、軸方向の復元力が生じる。
【0039】
図8は、図1に示した筋力補助具の内側部材を、2分割したものである。すなわち筋力補助具401は、それぞれ外側パイプ411、及びこの外側パイプに摺動自在に挿入された2本の棒状の内側部材412、412、並びにこの2本の棒状の内側部材を相互に連結する弾性部材413を備えている。したがって弾性部材413は、2本の棒状の内側部材412、412が、軸方向であって相互に離反する方向に移動するときに、この移動の方向と逆向きの引張力を発生する。なお弾性部材413を、図7に示すようなステンレス製のコイルばねにすれば、2本の棒状の内側部材412、412が、軸方向であって相互に接近する方向に移動するときに、この移動の方向と逆向きの圧縮力を発生する。
【0040】
このように内側部材412を2本に分割することによって、この内側部材の曲げ弾性率を相違させることができるため、筋力補助具401の軸方向に沿った曲げ弾性率の分布を変化させることが可能となる。したがって筋力補助具401を取り付ける人体の、それぞれの個所毎に、より適正な曲げ弾性率を備えた筋力補助具を使用することができる。
【0041】
また内側部材412、412の長さを相違させて2分割すれば、筋力補助具401の曲げ弾性率を、この筋力補助具の長さ方向に沿って、さらに細かく調整することが可能となる。すなわち内側部材412と外側パイプ411とが重なる部分は、両者の弾性率を加えたものになるが、2本の内側部材412、412の中間であって、外側パイプ411内が中空になった部分は、この外側パイプ単独の弾性率になる。そこで内側部材412、412の長さを相違させて2分割すれば、外側パイプ411内が中空になる位置が、この外側パイプの軸方向の中央位置から変化するため、この外側パイプ単独の弾性率になる部分を、中央位置から軸方向に変化させることが可能となる。
【0042】
図9は、図8に示した筋力補助具において、合成樹脂製の締め付けバンド514eによって、弾性部材513を外側パイプ511の外周に連結したものである。このように弾性部材513と外側パイプ511とを連結することによって、内側部材512、512に対するこの外側パイプの相対的な軸方向位置を安定させることができる。
【0043】
図10に示す筋力補助具601は、内側部材612と弾性部材613とを、それぞれ2分割して、この2分割した弾性部材によって、この2分割した内側部材を、外側パイプ611にそれぞれ連結したものである。ここで弾性部材613は、内側部材612と外側パイプ611との外周に、それぞれ締付けバンド615e、614eによって固定されている。なお弾性部材613、613の長さを相互に相違させることも容易にできる。また弾性部材613、613の先端部を、図4に示したような連結部材を介して、それぞれ内側部材612、612の先端部に連結することも容易にできる。
【0044】
図11は、図5に示したものと同等な筋力補助具701を、背部と大腿部の後側との2個所に、それぞれ2本装着した場合を示している。なお筋力補助具701の両先端部分は、それぞれ係止具702、702を介して、胸部周りベルト704と大腿部周りベルト705とに連結してある。また胸部周りベルト704と大腿部周りベルト705とは、ボディースーツ703の表面に縫い付けてある。
【0045】
図12、図13及び図14は、図11に示した筋力補助具701を装着した状態で、それぞれ上半身を前方に傾けた前屈姿勢、上半身を側方に傾けた側屈姿勢、及び上半身を捻った捻り姿勢をとった場合を示している。すなわち図12に示す前屈姿勢では、筋力補助具701が引っ張られる共に、背部から臀部の表面に沿って曲げられるため、この筋力補助具の軸方向及び曲げ方向の復元力によって、背部及び腰部に掛かる筋力の負担が軽減される。また図13に示す側屈姿勢では、筋力補助具701が引っ張られると共に、側方に曲げられるため、この筋力補助具の軸方向及び曲げ方向の復元力によって、背部及び腰部に掛かる筋力の負担が軽減される。さらに図14に示す捻り姿勢でも、筋力補助具701が引っ張られると共に、側方に曲げられるため、この筋力補助具の軸方向及び曲げ方向の復元力によって、背部及び腰部に掛かる筋力の負担が軽減される。
【0046】
図15は、図11〜図14に示したものと同様な、筋力補助具の先端部分を係止する係止具の詳細構造の1例を示している。すなわち係止具802は、布または皮製の部材からなる縦長のポケット形状を有している。すなわち係止具802は、縦長の筒状部分823と、この筒状部分の周囲を取り巻く周縁部分822とを有しており、この周縁部分は、伸縮性の繊維からなる胸部周りバンド804に縫い付けられる。また縦長の筒状部分823には、筋力補助具801の先端部分と、これに連結した連結部材815とが挿入され、この連結部材の先端部分に形成した平板部分815bに設けた開口穴815cが、はと目821によって、胸部周りバンド804に固定される。
【0047】
このように筋力補助具801の先端部分を、縦長のポケット形状の係止具802に挿入して係止することによって、この筋力補助具の先端部分を軸方向のみならず、倒れ方向にも拘束することができる。したがって側屈姿勢や捻り姿勢をとって係止具802が側方に傾斜する場合には、筋力補助具801の先端部分が、この係止具によって倒れ方向に拘束されるため、この筋力補助具が曲げられて、これにより曲げ方向の復元力が生じる。
【0048】
さて図16は、図5に示したものと同等な筋力補助具901を、左右の膝の上部と下部との2個所の間に装着した場合を示している。なお筋力補助具901の両先端部分は、それぞれ図15に示したものと同等な係止具902に挿入されて係止されている。なお2個の係止具902、902は、それぞれボディースーツ903に設けた腰部周りベルト906と膝下周りベルト905とに縫い付けてある。
【0049】
図16(B)に示すように、膝を曲げた場合には、膝の表面に沿って筋力補助具901が引っ張られると共に曲げられるため、この筋力補助具の軸方向と曲げ方向との双方の復元力が生じて、下半身、特に膝周辺の筋力への負担を軽減することができる。
【0050】
図17は、図7に示したものと同等な筋力補助具1001を2本、それぞれ頭部の後側と肩部との2個所の間に装着した場合を示している。なお筋力補助具1001の両先端部分は、それぞれ上述したものと同等な係止具1002、1002を介して、頭部周りベルト1007と胸部周りベルト1004とにそれぞれ連結してある。また頭部周りベルト1007と胸部周りベルト1004とは、それぞれ布製の頭部キャップ1006と上半身スーツ1003とに縫い付けてある。
【0051】
図17に示す筋力補助具1001は、図7に示すように、弾性部材がコイル状のばねで形成してあるため、引張方向のみならず圧縮方向及び曲げ方向にも復元力を発揮する。したがって頭部を俯けの状態、仰向けの状態、左右に傾ける状態、回転させる状態のいずれの場合にも、この状態をもとに戻そうとする復元力を発揮する。
【0052】
図18は、図7に示したものと同等な筋力補助具1101を、それぞれ左右の上腕部の下部と、腰部の両脇との2個所の間に装着した場合を示している。なお筋力補助具1101の両先端部分は、係止具1102、1102を介して、上腕部周りベルト1109と腰部周りベルト1108とにそれぞれ連結してある。また上腕部周りベルト1109と腰部周りベルト1108とは、ボディースーツ1103とに縫い付けてある。
【0053】
図18に示す筋力補助具1101は、図7に示すように、弾性部材がコイル状のばねで形成してあるため、引張方向のみならず圧縮方向及び曲げ方向にも復元力を発揮する。したがって上腕部を上方に挙げた状態、下方に下げた状態、左右に傾ける状態、及び左右に振る状態のいずれの場合にも、この状態をもとに戻そうとする復元力を発揮する。
【0054】
ところで例えば図18に示すように筋力補助具1101を装着した場合には、上腕部を下方に下げると、上腕部と腰部の両脇との2個所の間の距離が短くなって、この筋力補助具の縮みまたは曲げ限度を超えてしまう場合もあり得る。したがって作業途中や中断等において、上腕部を下方に十分下げることが困難になったり、筋力補助具1101が破損したりする恐れがある。そこで図19に示すように、腰部の両脇に設けた係止具1102は、予め設定した値を超える軸方向力または曲げ力が加わったときには、この係止具に係止された外側パイプ1111の先端部分を、軸方向または倒れ方向に移動させる移動手段を備えている。
【0055】
軸方向に移動させる移動手段は、係止具1102に設けたシリンダ部分1124と、このシリンダ部分に挿入した外側パイプ1111の先端部との間に働く摩擦力を用いるもので、両者の嵌め合い寸法を、所定の軸方向力が加わったときに、この外側パイプの先端部がシリンダ部分に対して軸方向に滑るように設定してある。なおシリンダ部分1124に締め付けボルト1125を設けて、外側パイプ1111の先端部との間に働く摩擦力を調整するようにしてもよい。
【0056】
また倒れ方向に移動させる移動手段は、係止具1102に設けたラチェット機構1126を用いており、腰部周りベルトに対して図示しない回転自在の平歯車と、ばねによってこの平歯車に押圧される爪とを備えている。そして外側パイプ1111の先端部に、予め設定した値を超える揺動力が加わったときには、この平歯車の回転を止める爪が外れて係止具1102を回転させ、これにより筋力補助具1101を倒れ方向に揺動させる。
【0057】
図20に示す係止具1202は、外側パイプ1211の先端部分を、軸方向及び倒れ方向に移動させる電動モータを有している。すなわち軸方向に移動させる電動モータは、外側パイプ1211の先端部分に設けたピストン部分1229と、このピストン部分が挿入されるシリンダ部分1228とを有するリニアモータであって、このピストン部分には、複数の永久磁石が軸方向に配列してあり、このシリンダ部分には、このピストン部分を軸方向に移動させる電気コイルが巻設してある。また倒れ方向に移動させる電動モータは、係止具1202を回転させるステップ・モータ1227であって、腰部ベルト1208に装着してある。またボディースーツ1203の表面または皮膚の表面において腰部の中心位置には、上下方向に2列並列したストレイン・ゲージからなるセンサAが貼着してあり、さらに腰部ベルト1208には、バテッリーを同架した制御装置Bが設けてある。
【0058】
したがって例えば前屈姿勢をとると、2列のセンサAの長さが変化して抵抗値が変化し、この抵抗値の変化に基づいて、制御装置Bが上述したリニアモータを駆動して、外側パイプ1211の先端部分を、軸方向に移動させる。また側屈姿勢をとった場合には、2列のセンサAの長さの変化が相違するため、この抵抗値の変化の相違に基づいて、制御装置Bが上述したステップ・モータを駆動して、外側パイプ1211の先端部分を揺動させる。
【0059】
なお制御装置Bによるリニアモータ等を駆動する制御は、センサAの出力信号に対する比例制御、微分制御、積分制御、あるいはこれらの組合せ等を用いることができる。さらに手首等にスイッチを設けて、リニアモータ等を手動で駆動するようにすることも容易に構成できる。
【0060】
また図19及び図20に示す係止具1102及び係止具1202は、図7に示す構成の筋力補助具に限らず、他の構成の筋力補助具、例えば図8〜図10に示した筋力補助具に、容易に適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0061】
前屈だけでなく、例えば上半身を側方に傾けたり、回転させたり、仰向けに反らしたり、あるいは腕を持上げたりするいずれの姿勢においても、筋肉等への負担を効果的に軽減できるため、農業や介護業のみならず、他の林業、水産業、運輸、製造業、あるいはリハビリテーション等に関する産業に広く利用可能である。
【符号の説明】
【0062】
1、101〜1201 筋力補助具
11、111〜611、1111〜1211 外側パイプ
12、112〜612、812 内側部材
13、113〜613 弾性部材
702、802〜1202 係止具
1124 シリンダ部分(移動手段)
1126 ラチェット機構(移動手段)
1227 ステップ・モータ(電動モータ)
1228 シリンダ部分(電動モータ)
1229 ピストン部分(電動モータ)
A ストレンイン・ゲージ(センサ)
B バテッリーを同架した制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
人体の表面において人体の動きによって間隔が変化する2個所の間に装着するものであって、
それぞれ曲げ方向に弾性を有する材料からなる外側パイプ及びこの外側パイプに摺動自在に挿入された棒状の内側部材、並びにこの外側パイプと内側部材とに連結される弾性部材を備え、
上記弾性部材は、上記内側部材が上記外側パイプから抜け出る方向またはこの外側パイプ内に侵入する方向に移動するときに、この移動の方向と逆向きの引張力または圧縮力を発生し、
上記外側パイプの先端部分と上記内側部材の先端部分とは、それぞれ上記人体の表面に設けた係止具を介して上記2個所に係止される
ことを特徴とする筋力補助具。
【請求項2】
上記2個所に設けた係止具の少なくとも一方は、上記外側パイプと内側部材との先端部分を、それぞれ軸方向及び倒れ方向に拘束するものである
ことを特徴とする請求項1に記載の筋力補助具。
【請求項3】
上記2個所に設けた係止具のいずれか一方は、上記外側パイプまたは内側部材に予め設定した値を超える軸方向力または曲げ力が加わったときには、この係止具に係止された外側パイプまたは内側部材の先端部分を、軸方向または倒れ方向に移動させる移動手段を備え、
上記移動手段は、上記先端部分乃至係止具に働く摩擦力またはばね力を用いる
ことを特徴とする請求項1または2に記載の筋力補助具。
【請求項4】
上記2個所に設けた係止具のいずれか一方は、上記外側パイプまたは内側部材の先端部分を、軸方向及び倒れ方向に移動させる電動モータを有し、
さらに上記人体の表面の伸縮を計測するセンサと、制御装置と、上記電動モータ、センサ、及び制御装置に電力を供給する電源とを備え、
上記制御装置は、上記センサからの信号に基づいて上記電動モータの駆動を制御する
ことを特徴とする請求項1または2に記載の筋力補助具。
【請求項5】
人体の表面において人体の動きによって間隔が変化する2個所の間に装着するものであって、
それぞれ曲げ方向に弾性を有する材料からなる外側パイプ及びこの外側パイプに摺動自在に挿入された2本の棒状の内側部材、並びにこの2本の棒状の内側部材を相互に連結する弾性部材を備え、
上記弾性部材は、上記2本の棒状の内側部材が軸方向であって相互に離反または接近する方向に移動するときに、この移動の方向と逆向きの引張力または圧縮力を発生し、
上記2本の棒状の内側部材の両先端部分は、それぞれ上記人体の表面に設けた係止具を介して上記2個所に係止される
ことを特徴とする筋力補助具。
【請求項6】
人体の表面において人体の動きによって間隔が変化する2個所の間に装着するものであって、
それぞれ曲げ方向に弾性を有する材料からなる外側パイプ及びこの外側パイプに摺動自在に挿入された2本の棒状の内側部材、並びにこの2本の棒状の内側部材をそれぞれこの外側パイプに連結する弾性部材を備え、
上記弾性部材は、上記2本の棒状の内側部材が軸方向であって相互に離反または接近する方向に移動するときに、この移動の方向と逆向きの引張力または圧縮力を発生し、
上記2本の棒状の内側部材の両先端部分は、それぞれ上記人体の表面に設けた係止具を介して上記2個所に係止される
ことを特徴とする筋力補助具。
【請求項7】
上記外側パイプと内側部材とは、それぞれ繊維強化プラスチックで形成され、上記弾性部材は、ゴム材からなるチューブによって形成されている
ことを特徴とする請求項1乃至6に記載の筋力補助具。
【請求項8】
上記人体の表面における2個所は、それぞれ背部と大腿部の後側、膝の上部と下部、頭部と肩部、または上腕部と腰部のいずれかである
ことを特徴とする請求項1乃至7に記載の筋力補助具。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate


【公開番号】特開2011−188896(P2011−188896A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−55327(P2010−55327)
【出願日】平成22年3月12日(2010.3.12)
【出願人】(310010575)地方独立行政法人北海道立総合研究機構 (51)
【出願人】(504173471)国立大学法人北海道大学 (971)
【出願人】(509173155)株式会社スマートサポート (3)
【上記2名の代理人】
【識別番号】100067448
【弁理士】
【氏名又は名称】下坂 スミ子
【Fターム(参考)】