説明

粘着テープおよび半導体加工用テープ

【課題】ダイシング時のチップ飛びを防止できる程度に十分な粘着力を維持しながら、ピックアップ時にはチップを容易に剥離することができ、ブリードアウトによる接着剤層の汚染も抑制する。
【解決手段】粘着テープ12は、基材フィルム12aに粘着剤層12bが形成された粘着テープである。粘着テープ12では、粘着剤層12bの成分として、アクリル系共重合体化合物100重量部に対し、側鎖にシロキサン結合を持つフッ素系グラフト共重合体0.01〜20重量部と、硬化剤0.01〜20重量部とが、含有されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は半導体ウエハをチップ状の素子に分断するダイシング工程において、半導体ウエハを固定するのに利用でき、さらにダイシング後のチップ−チップ間あるいはチップ−基板間を接着するダイボンディング工程やマウント工程においても利用できる粘着テープおよび半導体加工用テープに関する。
【背景技術】
【0002】
ICなどの半導体装置の製造工程では、回路パターンが形成された半導体ウエハの裏面に粘着性及び伸縮性のある半導体加工用テープを貼り付けた後、半導体ウエハをチップ単位に切断(ダイシング)する工程、切断されたチップをピックアップする工程、さらにピックアップされたチップをリードフレームやパッケージ基板等に接着する、あるいは、スタックドパッケージにおいては、半導体チップ同士を積層、接着するダイボンディング(マウント)工程が実施される。
【0003】
前記半導体装置の製造工程に使用される半導体加工用テープとして、粘着テープと、エポキシ樹脂成分を含む熱硬化性の接着フィルムが積層されたダイシング・ダイボンディングフィルム(例えば、特許文献1〜3)が提案されている。
前記粘着テープは、半導体ウエハをダイシングする工程で、切断されたチップが飛び散らないようにウエハを固定するものであり、ウエハを強力に固定する高い粘着力が求められる一方で、チップをピックアップする工程では、チップから容易に剥がれるような低い粘着力が求められる。
例えば特許文献1,2では、粘着テープにエネルギー線硬化型の粘着剤を用いることで、ダイシング後にエネルギー線照射によって前記粘着剤層の粘性を低下させてからピックアップ工程に供することによって、ダイシング時に要求される高い粘着力と、ピックアップ時に要求される低い粘着力の双方を両立させることが提案されている。また、例えば特許文献3では、シリコーン樹脂の(メタ)アクリル変性物を添加することでダイシング時に要求される高い粘着力と、ピックアップ時に要求される低い粘着力の双方を両立させることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−226796号公報
【特許文献2】特開2005−303275号公報
【特許文献3】特許第2661950号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ICなどの半導体装置の組立工程においては、パターン形成後の半導体ウエハ等は個々のチップに切断分離(ダイシング)する工程と、チップを基板等にマウントする工程と、さらに樹脂等で封止する工程とからなっている。ダイシング工程は、半導体ウエハをあらかじめ半導体加工用テープに貼り付けて固定した後、チップ形状に沿ってダイシングを行う。その後のマウント工程は、接着剤層と粘着テープが剥離可能に構成され、接着剤付きのチップを粘着テープから剥離(ピックアップ)し、チップに付着した接着固定用の接着剤で基板等に固定する。
しかしながら、特許文献1,2に記載のものは、ダイシングする際にはウエハが剥離したりしない十分な粘着力を必要とし、ピックアップの際には容易に剥離できるという要求を十分に満たすものではなかった。これに対しては、ピックアップ不良を低減する目的で粘着剤層に低分子量成分を添加する方法があるが、低分子量成分がブリードアウトにより粘着剤表面に析出し、リングフレームからの剥がれを生じやすく、ダイシングする際にはウエハが剥離しないような十分な粘着力を維持できずチップ飛びが生じてしまうことがある。さらには、ブリードアウトした低分子量成分が接着剤層を汚染することによって、その後の工程で基板から剥がれるなど、信頼性が著しく損なわれることがある。
他方、特許文献3に記載の粘着テープでは、シリコーン樹脂の(メタ)アクリル変性物がポリマー中に取り込まれないため、接着剤層が汚染され、同様に基板から剥離してしまうおそれがある。
【0006】
したがって、本発明の主な目的は、ダイシング時のチップ飛びを防止できる程度に十分な粘着力を維持しながら、ピックアップ時にはチップを容易に剥離することができ、ブリードアウトによる接着剤層の汚染も抑制することができる粘着テープおよび半導体加工用テープを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため本発明の一態様によれば、
基材フィルムに粘着剤層が形成された粘着テープにおいて、
前記粘着剤層の成分として、
アクリル系共重合体化合物100重量部に対し、
側鎖にシロキサン結合を持つフッ素系グラフト共重合体0.01〜20重量部と、硬化剤0.01〜20重量部とが、含有されていることを特徴とする粘着テープが提供される。
【0008】
本発明の他の態様によれば、
上記粘着テープと接着フィルムとを積層した半導体加工用テープが提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ダイシング時のチップ飛びを防止できる程度に十分な粘着力を維持しながらも、粘着剤層の一成分として、側鎖にシロキサン結合を持つフッ素系グラフト共重合体が含有されていることから、ピックアップ時にはチップを容易に剥離することができ、ブリードアウトによる接着剤層の汚染も抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】ダイシング・ダイボンディングテープの概略的な構成を示す断面図である。
【図2】ダイシング・ダイボンディングテープの概略的な使用方法を説明するための図面である。
【図3】図2の後続の工程を説明するための図面である。
【図4】図3の後続の工程を説明するための図面である。
【図5】図4の後続の工程を説明するための図面である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら本発明の好ましい実施形態について説明する。
【0012】
[ダイシング・ダイボンディングテープ]
図1に示すとおり、ダイシング・ダイボンディングテープ10は主には粘着テープ12,接着フィルム13から構成されている。ダイシング・ダイボンディングテープ10は半導体加工用テープの一例であり、使用工程や装置に併せて予め所定形状に切断(プリカット)されていてもよいし、半導体ウエハ1枚分ごとに切断されていてもよいし、長尺のロール状を呈していてもよい。
粘着テープ12は基材フィルム12a,粘着剤層12bから構成されており、基材フィルム12a上に粘着剤層12bが形成されている。
接着フィルム13は剥離ライナー13a,接着剤層13bから構成されており、接着剤層13bが粘着テープ12の粘着剤層12b上に設けられている。剥離ライナー13aは粘着テープ12を覆っており、粘着剤層12bや接着剤層13bを保護している。
次に、ダイシング・ダイボンディングテープ10の各構成について順に説明する。
【0013】
[基材フィルム(12a)]
基材フィルム12aとしては、放射線透過性であることが好ましく、具体的には、通常、プラスチック、ゴムなどを用い、放射線を透過する限りにおいて特に制限されるものではないが、紫外線照射によって放射線硬化性粘着剤を硬化させる場合には、この基材としては光透過性の良いものを選択することができる。
【0014】
このような基材として選択し得るポリマーの例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、ポリブテン−1、ポリ−4−メチルペンテン−1、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−アクリル酸メチル共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、アイオノマーなどのα−オレフィンの単独重合体または共重合体あるいはこれらの混合物、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート等のエンジニアリングプラスチック、ポリウレタン、スチレン−エチレン−ブテンもしくはペンテン系共重合体、ポリアミド−ポリオール共重合体等の熱可塑性エラストマー、およびこれらの混合物を列挙することができる。
【0015】
なお、素子間隙を大きくするためには、ネッキング(基材フィルム12aを放射状延伸したときに起こる力の伝播性不良による部分的な伸びの発生)の極力少ないものが好ましく、ポリウレタン、分子量およびスチレン含有量を限定したスチレン−エチレン−ブテンもしくはペンテン系共重合体等を例示することができ、ダイシング時の伸びあるいはたわみを防止するには架橋した基材フィルム12aを用いると効果的である。基材フィルム12aの厚みは、強伸度特性、放射線透過性の観点から通常30〜300μmが適当である。
なお、基材フィルム12aの放射線硬化性の粘着剤層12bを塗布する側と反対側表面をシボ加工もしくは滑剤コーティングすると、ブロッキング防止、粘着テープ12の放射状延伸時の粘着テープ12と治具との摩擦を減少することによる基材フィルム12aのネッキング防止などの効果があるので好ましい。
【0016】
[粘着剤層(12b)]
粘着剤層12bは、分子中にヨウ素価0.5〜20の放射線硬化性炭素−炭素二重結合を有する化合物(A)を主成分とするアクリル系粘着剤(アクリル系樹脂)から構成されている。ここで放射線とは、紫外線のような光線、または電子線などの電離性放射線をいう。
詳しくは、粘着剤層12bは、化合物(A)100重量部に対し、フッ素系グラフト共重合体(B)0.01〜20重量部と、硬化剤(C)0.01〜20重量部とが、含有されている。
特に、フッ素系グラフト共重合体(B)は側鎖にシロキサン結合を有しており、硬化剤(C)はポリイソシアネート類、メラミン・ホルムアルデヒド樹脂、およびエポキシ樹脂から少なくとも1種選ばれる化合物(C)であり、フッ素系グラフト共重合体(B)と硬化剤(C)とは反応性を有している。
以下、粘着剤層12bの構成材料(成分)やその特性などについて順に説明する。
【0017】
(1)化合物(A)
化合物(A)の放射線硬化性炭素−炭素二重結合の導入量はヨウ素価で0.5〜20、好ましくは0.8〜10とする。ヨウ素価が0.5以上であると、放射線照射後の粘着力の低減効果を得ることができ、ヨウ素価が20以下であれば、放射線照射後の粘着剤の流動性が十分で、延伸後の素子間隙を十分得ることができるため、ピックアップ時に各素子の画像認識が困難になるという問題が抑制できる。さらに、化合物(A)そのものに安定性があり、製造が容易となる。
【0018】
上記化合物(A)は、ガラス転移点が−70℃〜0℃であることが好ましく、−66℃〜−28℃であることがより好ましい。ガラス転移点(以下、「Tg」とも言う。)が−70℃以上であれば、放射線照射に伴う熱に対する耐熱性が十分であり、0℃以下であれば、表面状態が粗いウエハにおけるダイシング後の素子の飛散防止効果が十分得られる。
【0019】
上記化合物(A)はどのようにして製造されたものでもよいが、例えば、アクリル系共重合体またはメタクリル系共重合体などの放射線硬化性炭素−炭素二重結合を有し、かつ、官能基をもつ化合物(A1)と、その官能基と反応し得る官能基をもつ化合物(A2)とを反応させて得たものが用いられる。
【0020】
このうち、前記の放射線硬化性炭素−炭素二重結合および官能基を有する化合物(A1)は、アクリル酸アルキルエステルまたはメタクリル酸アルキルエステルなどの放射線硬化性炭素−炭素二重結合を有する単量体(A1−1)と、官能基を有する単量体(A1−2)とを共重合させて得ることができる。
【0021】
単量体(A1−1)としては、炭素数6〜12のヘキシルアクリレート、n−オクチルアクリレート、イソオクチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、ドデシルアクリレート、デシルアクリレート、または炭素数5以下の単量体である、ペンチルアクリレート、n−ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、エチルアクリレート、メチルアクリレート、またはこれらと同様のメタクリレートなどを列挙することができる。
【0022】
単量体(A1−1)として、炭素数の大きな単量体を使用するほどガラス転移点は低くなるので、所望のガラス転移点のものを作製することができる。また、ガラス転移点の他、相溶性と各種性能を上げる目的で酢酸ビニル、スチレン、アクリロニトリルなどの炭素−炭素二重結合をもつ低分子化合物を配合することも単量体(A1−1)の総重量の5重量%以下の範囲内で可能である。
【0023】
単量体(A1−2)が有する官能基としては、カルボキシル基、水酸基、アミノ基、環状酸無水基、エポキシ基、イソシアネート基などを挙げることができ、単量体(A1−2)の具体例としては、アクリル酸、メタクリル酸、けい皮酸、イタコン酸、フマル酸、フタル酸、2−ヒドロキシアルキルアクリレート類、2−ヒドロキシアルキルメタクリレート類、グリコールモノアクリレート類、グリコールモノメタクリレート類、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド、アリルアルコール、N−アルキルアミノエチルアクリレート類、N−アルキルアミノエチルメタクリレート類、アクリルアミド類、メタクリルアミド類、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水フマル酸、無水フタル酸、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、アリルグリシジルエーテル、ポリイソシアネート化合物のイソシアネート基の一部を水酸基またはカルボキシル基および放射線硬化性炭素−炭素二重結合を有する単量体でウレタン化したものなどを列挙することができる。
【0024】
化合物(A2)において、用いられる官能基としては、化合物(A1)、つまり単量体(A1−2)の有する官能基が、カルボキシル基または環状酸無水基である場合には、水酸基、エポキシ基、イソシアネート基などを挙げることができ、水酸基である場合には、環状酸無水基、イソシアネート基などを挙げることができ、アミノ基である場合には、エポキシ基、イソシアネート基などを挙げることができ、エポキシ基である場合には、カルボキシル基、環状酸無水基、アミノ基などを挙げることができ、具体例としては、単量体(A1−2)の具体例で列挙したものと同様のものを列挙することができる。
【0025】
化合物(A1)と化合物(A2)の反応において、未反応の官能基を残すことにより、酸価または水酸基価などの特性に関して、本発明で規定するものを製造することができる。
【0026】
上記の化合物(A)の合成において、反応を溶液重合で行う場合の有機溶剤としては、ケトン系、エステル系、アルコール系、芳香族系のものを使用することができるが、中でもトルエン、酢酸エチル、イソプロピルアルコール、ベンゼン、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、アセトン、メチルエチルケトンなどの、一般にアクリル系ポリマーの良溶媒で、沸点60〜120℃の溶剤が好ましく、重合開始剤としては、α,α’−アゾビスイソブチルニトリルなどのアゾビス系、ベンゾイルペルオキシドなどの有機過酸化物系などのラジカル発生剤を通常用いる。この際、必要に応じて触媒、重合禁止剤を併用することができ、重合温度および重合時間を調節することにより、所望の分子量の化合物(A)を得ることができる。また、分子量を調節することに関しては、メルカプタン、四塩化炭素系の溶剤を用いることが好ましい。なお、この反応は溶液重合に限定されるものではなく、塊状重合、懸濁重合など別の方法でもさしつかえない。
【0027】
以上のようにして、化合物(A)を得ることができるが、本発明において、化合物(A)の分子量は、30万〜150万程度が好ましい。30万未満では、放射線照射による凝集力が小さくなって、ウエハをダイシングする時に、素子のずれが生じやすくなり、画像認識が困難となることがある。この素子のずれを、極力防止するためには、分子量が、40万以上である方が好ましい。また、分子量が150万を越えると、合成時および塗工時にゲル化する可能性がある。なお、本発明における分子量とは、ポリスチレン換算の重量平均分子量である。
【0028】
なお、化合物(A)が、水酸基価5〜100mgKOH/gとなるOH基を有すると、放射線照射後の粘着力を減少することによりピックアップミスの危険性をさらに低減することができるので好ましい。また、化合物(A)が、酸価0.5〜30mgKOH/gとなるCOOH基を有することが好ましい。
【0029】
ここで、化合物(A)の水酸基価が低すぎると、放射線照射後の粘着力の低減効果が十分でなく、高すぎると、放射線照射後の粘着剤の流動性を損なう傾向がある。また酸価が低すぎると、テープ復元性の改善効果が十分でなく、高すぎると粘着剤の流動性を損なう傾向がある。
【0030】
(2)フッ素系グラフト共重合体(B)
フッ素系グラフト共重合体(B)は、主鎖がフッ素樹脂により構成されその側鎖にシロキサン結合を有しており、いわゆる樹枝状ポリマー(blanched polymer)と呼ばれる構造を有している。
詳しくは、フッ素系グラフト共重合体(B)は、
(B1)ウレタン結合を介してラジカル重合性不飽和結合部分を有する有機溶剤可溶性フッ素樹脂(以下、単に、ラジカル重合性フッ素樹脂と称することがある)、
(B2)下記一般式(1):
【化1】

(式(1)中、R1は水素原子又は炭素原子数1〜10の炭化水素基であり、R2、R3、R4、R5、及びR6は互いに同一でも異なっていてもよい水素原子又は炭素原子数1〜10の炭化水素基であり、nは2以上の整数である)で示される片末端ラジカル重合性ポリシロキサン及び/又は下記一般式(2):
【化2】

(式(2)中、R7は水素原子又は炭素原子数1〜10の炭化水素基であり、R8、R9、R10、R11、及びR12は互いに同一でも異なっていてもよい水素原子又は炭素原子数1〜10の炭化水素基であり、pは0〜10の整数であり、qは2以上の整数である)で示される片末端ラジカル重合性ポリシロキサン、及び
(B3)ラジカル重合反応条件下において、前記のウレタン結合を介してラジカル重合性不飽和結合部分を有する有機溶剤可溶性フッ素樹脂(B1)〔すなわち、前記ラジカル重合性フッ素樹脂(B1)〕と、二重結合による重合反応以外には反応しないラジカル重合性単量体(以下、非反応性ラジカル重合性単量体と称することがある)を共重合したものである。
【0031】
ラジカル重合性フッ素樹脂(B1),片末端ラジカル重合性ポリシロキサン(B2),非反応性ラジカル重合性単量体(B3)の各物質の重量比は、好ましくはラジカル重合性フッ素樹脂(B1)が2〜70重量%であり、片末端ラジカル重合性ポリシロキサン(B2)が4〜40重量%であり、非反応性ラジカル重合性単量体(B3)が15〜94重量%である。
【0032】
(2.1)ラジカル重合性フッ素樹脂(B1)
本発明に用いられるウレタン結合を介してラジカル重合性不飽和結合部分を有する有機溶剤可溶性フッ素樹脂(B1)は、例えば、水酸基を有する有機溶剤可溶性フッ素樹脂(B1−1)とイソシアネート基を有するラジカル重合性単量体(B1−2)とを反応させることによって得ることができる。
【0033】
前記の水酸基を有する有機溶剤可溶性フッ素樹脂(B1−1)は、その構成成分として少なくとも水酸基含有単量体部分とポリフルオロパラフィン部分とを含むものであれば特に限定されるものではないが、例えば、繰り返し単位として、一般式(3):
【0034】
【化3】

【0035】
〔式(3)中、R21及びR22は、各繰り返し単位毎に独立して、かつ同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、又は塩素原子)、炭素数1〜10のアルキル基(例えば、メチル基、又はエチル基)、炭素数6〜8のアリール基(例えば、フェニル基)、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子又は塩素原子)1個又は複数個で置換された炭素数1〜10のアルキル基(例えば、トリフルオロメチル基、2,2,2−トリフルオロエチル基、又はトリクロロメチル基)、あるいはハロゲン原子(例えば、フッ素原子又は塩素原子)1個又は複数個で置換された炭素数6〜8のアリール基(例えば、ペンタフルオロフェニル基)であり、xは2以上の整数である〕で表される繰り返し単位、及び一般式(4):
【0036】
【化4】

【0037】
〔式(4)中、R23は、繰り返し単位毎に独立して、水素原子、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子又は塩素原子)、炭素数1〜10のアルキル基(例えば、メチル基、又はエチル基)、炭素数6〜8のアリール基(例えば、フェニル基)、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子又は塩素原子)1個又は複数個で置換された炭素数1〜10のアルキル基(例えば、トリフルオロメチル基、2,2,2−トリフルオロエチル基、又はトリクロロメチル基)、あるいはハロゲン原子(例えば、フッ素原子又は塩素原子)1個又は複数個で置換された炭素数6〜8のアリール基(例えば、ペンタフルオロフェニル基)であり、R24は、繰り返し単位毎に独立して、OR25a基、CH2OR25b基、及びCOOR25c基から選択した2価の基であり、R25a、R25b、及びR25cは、炭素数1〜10のアルキレン基(例えば、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、又はヘキサメチレン基)、炭素数6〜10のシクロアルキレン基(例えば、シクロへキシレン基)、炭素数2〜10のアルキリデン基(例えば、イソプロピリデン基)、及び炭素数6〜10選択した2価の基であり、yは2以上の整数である〕で表される繰り返し単位を含むものであることができる。
【0038】
更に、前記の水酸基を有する有機溶剤可溶性フッ素樹脂(B1−1)は、その構成成分として場合により、例えば、一般式(5):
【0039】
【化5】

【0040】
〔式(5)中、R26は、各繰り返し単位毎に独立して、水素原子、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、又は塩素原子)、炭素数1〜10のアルキル基(例えば、メチル基、又はエチル基)、炭素数6〜10のアリール基(例えば、フェニル基)、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子又は塩素原子)1個又は複数個で置換された炭素数1〜10のアルキル基(例えば、トリフルオロメチル基、2,2,2−トリフルオロエチル基、又はトリクロロメチル基)、あるいはハロゲン原子(例えば、フッ素原子又は塩素原子)1個又は複数個で置換された炭素数6〜10のアリール基(例えば、ペンタフルオロフェニル基)であり、R27は、繰り返し単位毎に独立して、OR28a基又はOCOR28b基であり、R28a及びR28bは、水素原子、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子又は塩素原子)、炭素数1〜10のアルキル基(例えば、メチル基、又はエチル基)、炭素数6〜10のアリール基(例えば、フェニル基)、炭素数6〜10のシクロアルキル基(例えば、シクロヘキシル基)、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子又は塩素原子)1個又は複数個で置換された炭素数1〜10のアルキル基(例えば、トリフルオロメチル基、2,2,2−トリフルオロエチル基、又はトリクロロメチル基)、あるいはハロゲン原子(例えば、フッ素原子又は塩素原子)1個又は複数個で置換された炭素数6〜10のアリール基(例えば、ペンタフルオロフェニル基)であり、zは2以上の整数である〕
で表される繰り返し単位を含むことができる。この一般式(5)で表される繰り返し単位を含むことにより、有機溶剤に対する溶解性を向上することができる。
【0041】
前記の水酸基を有する有機溶剤可溶性フッ素樹脂(B1−1)の水酸基価は、5〜250mgKOH/gであることが好ましく、10〜200mgKOH/gであることがより好ましく、20〜150mgKOH/gであることが更に好ましい。水酸基価が5mgKOH/g未満であると、イソシアネート基を有するラジカル重合性単量体(B1−2)の導入量が著しく少なくなるために反応混合物が濁る傾向がある。一方、水酸基価が250mgKOH/gを越えると後述の片末端ラジカル重合性ポリシロキサン〔成分(B2)〕との相溶性が悪化し、グラフト共重合が進行しなくなる場合がある。前記水酸基を有する有機溶剤可溶性フッ素樹脂(B1−1)は酸価を有していることもできる。すなわち、遊離カルボン酸基を有していることができる。遊離カルボン酸基を有していると、後述のメラミン、イソシアネートプレポリマー、又はブロック化イソシアネートプレポリマー等の硬化剤と組み合わせたときの反応率が上昇する。
【0042】
本発明で用いる水酸基を有する有機溶剤可溶性フッ素樹脂(B1−1)は、公知の方法で調製した化合物を用いることができるが、あるいは市販品を用いることもできる。市販品としては、例えば、ビニルエーテル系フッ素樹脂(ルミフロンLF−100,LF−200,LF−302,LF−400,LF−554,LF−600,LF−986N;旭硝子株式会社製)、アリルエーテル系フッ素樹脂(セフラルコートPX−40,A606X,A202B,CF−803;セントラル硝子株式会社製)、カルボン酸ビニル/アクリル酸エステル系フッ素樹脂(ザフロンFC−110,FC−220,FC−250,FC−275,FC−310,FC−575,XFC−973;東亞合成株式会社製)、又はビニルエーテル/カルボン酸ビニル系フッ素樹脂(フルオネート;大日本インキ化学工業株式会社製)等を挙げることができる。前記の水酸基を有する有機溶剤可溶性フッ素樹脂(B1−1)は、単独で使用するか又は2種類以上を混合して使用することができる。
【0043】
イソシアネート基を有するラジカル重合性単量体(B1−2)は、イソシアネート基とラジカル重合性を有する部分とを含む単量体であれば特に限定されるものではないが、イソシアネート基を有し、それ以外の官能基(例えば、水酸基又はポリシロキサン鎖)を有していないラジカル重合体単量体を用いるのが好ましい。好適なイソシアネート基を有するラジカル重合性単量体(B1−2)としては、例えば一般式(6):
【0044】
【化6】

【0045】
〔式(6)中、R31は水素原子又は炭素原子数1〜10の炭化水素基、例えば、炭素原子数1〜10のアルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、又はヘキシル基)、炭素原子数6〜10のアリール基(例えば、フェニル基)、又は炭素原子数3〜10のシクロアルキル基(例えば、シクロヘキシル基であり、R32は酸素原子又は炭素原子数1〜10の直鎖状又は分岐状の2価炭化水素基、例えば、炭素原子数1〜10のアルキレン基(例えば、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、又はテトラメチレン基)、炭素原子数2〜10のアルキリデン基(例えば、イソプロピリデン基)、又は炭素原子数6〜10のアリーレン基(例えば、フェニレン基、トリレン基、又はキシリレン基)、又は炭素原子数3〜10のシクロアルキレン基(例えば、シクロヘキシレン基)である〕で表されるラジカル重合性単量体、あるいは一般式(7):
【0046】
【化7】

【0047】
〔式(7)中、R41は水素原子又は炭素原子数1〜10の炭化水素基、例えば、炭素原子数1〜10のアルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、又はヘキシル基)、炭素原子数6〜10のアリール基(例えば、フェニル基)、又は炭素原子数3〜10のシクロアルキル基(例えば、シクロヘキシル基であり、R42は酸素原子又は炭素原子数1〜10の直鎖状又は分岐状の2価炭化水素基、例えば、炭素原子数1〜10のアルキレン基(例えば、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、又はテトラメチレン基)、炭素原子数2〜10のアルキリデン基(例えば、イソプロピリデン基)、又は炭素原子数6〜10のアリーレン基(例えば、フェニレン基、トリレン基、又はキシリレン基)、又は炭素原子数3〜10のシクロアルキレン基(例えば、シクロヘキシレン基)である〕で表されるラジカル重合性単量体を用いるのが好ましい。
【0048】
前記のイソシアネート基を有するラジカル重合性単量体(B1−2)としては、メタクリロイルイソシアネート、2−イソシアナトエチルメタクリレート、又はm−若しくはp−イソプロペニル−α,α−ジメチルベンジルイソシアネートの1種又は2種以上を用いるのが好ましい。
【0049】
前記の水酸基を有する有機溶剤可溶性フッ素樹脂(B1−1)と前記のイソシアネート基を有するラジカル重合性単量体(B1−2)とから前記のラジカル重合性フッ素樹脂(B1)を調製する反応では、前記のイソシアネート基を有するラジカル重合性単量体(B1−2)を、前記の水酸基を有する有機溶剤可溶性フッ素樹脂(B1−1)の水酸基1当量あたり、好ましくは0.001モル以上0.1モル未満の量、より好ましくは0.01モル以上0.08モル未満の量で反応させる。このイソシアネート基を有するラジカル重合性単量体(B1−2)が0.001モル未満であるとグラフト共重合が困難となり、反応混合物が濁り、経時的に二層分離するために好ましくない。また、0.1モル以上であるとグラフト共重合の際にゲル化が起こりやすくなり好ましくない。また、水酸基を有する有機溶剤可溶性フッ素樹脂(B1−1)とイソシアネート基を有するラジカル重合性単量体(B1−2)の反応は、無触媒下あるいは触媒存在下、室温〜80℃で行うことができる。
【0050】
こうして得られた前記のラジカル重合性フッ素樹脂(B1)は、使用する単量体全量に対して2〜70重量%、好ましくは4〜60重量%の範囲で用いられる。
【0051】
(2.2)片末端ラジカル重合性ポリシロキサン(B2)
本発明においては、片末端ラジカル重合性ポリシロキサン(B2)として、前記一般式(1)で示される単量体を用いることができる。
前記一般式(1)中のR1は水素原子又は炭素原子数1〜10の炭化水素基である。本明細書において炭素数1〜10の炭化水素基とは、例えば、炭素数1〜10のアルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基)、炭素数6〜10のアリール基(例えば、フェニル基)、又は炭素数3〜10のシクロアルキル基(例えば、シクロヘキシル基)を挙げることができる。R1は、好ましくは水素原子又はメチル基である。また、前記一般式(1)中のR2、R3、R4、R5、及びR6は互いに同一でも異なっていてもよい。R2、R3、R4、及びR5は、それぞれ独立してメチル基、又はフェニル基であることが好ましく、R6はメチル基、ブチル基、又はフェニル基であることが好ましい。また、前記一般式(1)中のnは2以上の整数であり、好ましくは10以上の整数、より好ましくは30以上の整数である。
【0052】
また、本発明においては、片末端ラジカル重合性ポリシロキサン(B2)として、前記一般式(2)で示される単量体を用いることもできる。
前記一般式(2)において、R7は水素原子又は炭素原子数1〜10の炭化水素基であり、好ましくは水素原子又はメチル基である。また、前記一般式(2)中のR8、R9、R10、R11、及びR12は互いに同一でも異なっていてもよい。R8、R9、R10、及びR11は、それぞれ独立してメチル基又はフェニル基であることが好ましく、R12はメチル基、ブチル基、又はフェニル基であることが好ましい。また、前記一般式(2)中のpは0〜10の整数であり、好ましくは3である。また、前記一般式(2)中のqは2以上の整数であり、好ましくは10以上の整数、より好ましくは30以上の整数である。
【0053】
このような片末端ラジカル重合性ポリシロキサン(B2)は、公知の方法で調製した化合物を用いるか、あるいは市販品を用いることができる。市販品として、例えば、サイラプレーンFM−0711(数平均分子量1,000、チッソ株式会社製)、サイラプレーンFM−0721(数平均分子量5,000、チッソ株式会社製)、サイラプレーンFM−0725(数平均分子量10,000、チッソ株式会社製)、X−22−174DX(数平均分子量4,600、信越化学工業株式会社製)等を挙げることができる。
【0054】
本発明においては、前記一般式(1)で表される片末端ラジカル重合性ポリシロキサンを単独で又は2種類以上混合して、あるいは前記一般式(2)で表される片末端ラジカル重合性ポリシロキサンを単独で又は2種類以上混合して使用することができ、更には前記一般式(1)で表される片末端ラジカル重合性ポリシロキサンの1種若しくはそれ以上と前記一般式(2)で表される片末端ラジカル重合性ポリシロキサンの1種若しくはそれ以上とを混合して使用することができる。
【0055】
これらの片末端ラジカル重合性ポリシロキサン(B2)は、使用する単量体全量に対して4〜40重量%、好ましくは10〜30重量%の範囲で用いられる。
【0056】
(2.3)非反応性ラジカル重合性単量体(B3)
前記の非反応性ラジカル重合性単量体(B3)、すなわち、ラジカル重合反応条件下において前記ラジカル重合性フッ素樹脂(B1)と二重結合による重合反応以外には反応しないラジカル重合性単量体(B3)は、その二重結合部分において、ラジカル重合反応条件下で前記ラジカル重合性フッ素樹脂(B1)と二重結合による重合反応によって結合することは言うまでもない。
この非反応性ラジカル重合性単量体(B3)は、置換基を有しているかあるいは置換基を有していない単量体であり、その置換基は官能基(二重結合を除く)であることができる。但し、この官能基(二重結合を除く)は、ラジカル重合反応条件下において前記ラジカル重合性フッ素樹脂(B1)とは反応しないものであることが必要である。このような官能基(二重結合を除く)を含む置換基としては、具体的には、例えば、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、又は臭素原子)、炭素数1〜20のアルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、ラウリル基、又はステアリル基)、炭素数6〜10のアリール基(例えば、フェニル基、トリル基、又はキシリル基)、又はアルキル部分の炭素数が1〜10でアリール部分の炭素数が6〜10のアラルキル基(例えば、ベンジル基)〔前記のアルキル基、アリール基及びアラルキル基をまとめて、以下単に「炭化水素基R」と称することがある〕、水酸基1個又は複数個を有する前記炭化水素基R(例えば、ヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基、ヒドロキシブチル基、2,3−ジヒドロキシプロピル基、ヒドロキシフェニル基、又は4−ヒドロキシメチルフェニル基)、ニトリル基1個又は複数個を有する前記炭化水素基R(例えば、シアノエチル基)、エーテル基1個又は複数個を有する前記炭化水素基R(例えば、メトキシメチル基、エトキシエチル基、又はメトキシメトキシメチル基)、エステル基1個又は複数個を有する前記炭化水素基R(例えば、アセトキシメチル基)、第3アミノ基1個又は複数個を有する前記炭化水素基R(例えば、ジメチルアミノメチル基、又はジエチルアミノエチル基)、エポキシ基1個又は複数個を有する前記炭化水素基R(例えば、グリシジル基、又は3,4−エポキシシクロヘキシルメチル基)、アミド基1個又は複数個を有する前記炭化水素基R、カルボキシル基1個又は複数個を有する前記炭化水素基R(例えば、カルボキシメチル基)、ウレタン基1個又は複数個を有する前記炭化水素基R、尿素基1個又は複数個を有する前記炭化水素基R、アルコキシシリル基1個又は複数個を有する前記炭化水素基R(例えば、トリメトキシシリルメチル基、又はジメトキシメチルシリルメチル基)等を挙げることができる。
【0057】
一方、前記のラジカル重合の際に、前記のラジカル重合性フッ素樹脂(B1)と反応する可能性がある置換基(官能基)としては、例えば、酸ハロゲン化物(例えば、カルボン酸塩化物、カルボン酸臭化物、リン酸塩化物、又はスルホン酸塩化物)、酸無水物(例えば、無水マレイン酸)、イソシアネート化合物等を挙げることができる。前記の非反応性ラジカル重合性単量体(B3)は、これらの官能基をもつことはできないが、前記のラジカル重合性フッ素樹脂(B1)と前記の条件下で反応しない任意の官能基を有することができる。
【0058】
本発明において用いることのできる非反応性ラジカル重合性単量体(B3)としては、例えば、スチレン、p−メチルスチレン、p−クロロメチルスチレン、又はビニルトルエン等のスチレン系単量体;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、i−プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、アダマンチル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、又はベンジル(メタ)アクリレート等の炭化水素基をもつ(メタ)アクリレート系単量体;これらの(メタ)アクリレート系単量体の水素原子をフッ素原子、塩素原子、又は臭素原子等で置換した(メタ)アクリレート系単量体;酢酸ビニル、安息香酸ビニル、又は分岐状モノカルボン酸のビニルエステル(ベオバ;シェル化学株式会社製)等のビニルエステル系単量体;アクリロニトリル、又はメタクリロニトリル等のアクリロニトリル系単量体;エチルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、i−ブチルビニルエーテル、又はシクロヘキシルビニルエーテル等のビニルエーテル系単量体;(メタ)アクリルアミド、ジメチル(メタ)アクリルアミド、又はジアセトンアクリルアミド等のアクリルアミド系単量体;ビニルピリジン、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、4−(N,N−ジメチルアミノ)スチレン、又はN−{2−(メタ)アクリロイルオキシエチル}ピペリジン等の塩基性窒素含有ビニル化合物系単量体;グリシジル(メタ)アクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート、又は3,4−エポキシビニルシクロヘキサン等のエポキシ基含有ビニル化合物系単量体;(メタ)アクリル酸、アンゲリカ酸、クロトン酸、マレイン酸、4−ビニル安息香酸、p−ビニルベンゼンスルホン酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエタンスルホン酸、又はモノ{2−(メタ)アクリロイルオキシエチル}アシッドホスフェート等の酸性ビニル化合物系単量体;p−ヒドロキシメチルスチレン、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ジ−2−ヒドロキシエチルフマレート、ポリエチレングリコール若しくはポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、又はこれらのε−カプロラクトン付加物、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸のヒドロキシアルキルエステル類、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸若しくはシトラコン酸のようなα,β−エチレン性不飽和カルボン酸とε−カプロラクトンとの付加物、又は前記のα,β−エチレン性不飽和カルボン酸とブチルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、分岐状モノカルボン酸グリシジルエステル(カージュラE,シェル化学株式会社製)のようなエポキシ化合物との付加物等の水酸基含有ビニル化合物系単量体;ビニルトリメトキシシラン、γ−メタクリルオキシエチルトリメトキシシラン、γ−メタクリルオキシエチルメチルジメトキシシラン等のシラン化合物系単量体;エチレン、又はプロピレン等のオレフィン系単量体;塩化ビニル、塩化ビニリデン、臭化ビニル、フッ化ビニル、テトラフルオロエチレン、又はクロロトリフルオロエチレン等のハロゲン化オレフィン系単量体;その他マレイミド、ビニルスルホン等を挙げることができる。
【0059】
前記の非反応性ラジカル重合性単量体(B3)としては、前記の単量体を単独で用いても、あるいは2種類以上を混合して用いてもよく、主として共重合性の観点から(メタ)アクリレート系単量体が好ましく用いられる。
【0060】
前記の非反応性ラジカル重合性単量体(B3)は、使用する単量体全量に対し15〜94重量%、好ましくは30〜70重量%の範囲で用いられる。
【0061】
本発明において、前記の片末端ラジカル重合性ポリシロキサン(B2)と前記の非反応性ラジカル重合性単量体(B3)との合計使用重量に対する前記のラジカル重合性フッ素樹脂(B1)の使用重量の比率〔すなわち、B1/(B2+B3);以下、「フッ素樹脂/アクリル比」と称することがある〕は、2/1〜1/50の範囲であることが好ましい。
【0062】
(2.4)調製方法・特性など
前記のラジカル重合性フッ素樹脂(B1)と、前記の片末端ラジカル重合性ポリシロキサン(B2)と、前記の非反応性ラジカル重合性単量体(B3)とを用いてフッ素系グラフト共重合体(B)を調製するには、公知慣用の任意の重合方法を用いることができ、特には溶液ラジカル重合法又は非水分散ラジカル重合法を用いるのが最も簡便であり、特に好ましい。
【0063】
重合の際に用いられる溶剤としては、例えば、トルエン、キシレン、又は芳香族炭化水素の混合物(ソルベッソ100,エッソ石油株式会社製)等の芳香族炭化水素系化合物;n−ヘキサン、シクロヘキサン、オクタン、ミネラルスピリット、又はケロシン等の脂肪族、脂環族炭化水素系化合物;酢酸エチル、酢酸n−ブチル、酢酸i−ブチル、又はブチルセロソルブアセテート等のエステル系化合物;メタノール、エタノール、n−プロパノール、i−プロパノール、n−ブタノール、i−ブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、エチルセロソルブ、又はブチルセロソルブ等のアルコール系化合物等が挙げることができ、それらの溶剤を単独で又は2種類以上を組合せて用いることができる。
【0064】
前記の重合は、公知慣用の種々のラジカル重合開始剤、例えば、アゾ系化合物又は過酸化物のラジカル重合開始剤を用いて、常法により実施することができる。重合時間は特に制限されないが、通常1〜48時間の範囲が選ばれる。また、重合温度は通常30〜120℃、好ましくは60〜100℃である。前記の重合は、更に必要に応じて公知慣用の連鎖移動剤、例えば、ブチルメルカプタン、ドデシルメルカプタン、又はα−メチルスチレンダイマー等を添加して実施することもできる。
【0065】
上記方法によって得られるフッ素系グラフト共重合体の分子量は特に限定されるものではないが、その重量平均分子量が、ポリスチレン換算のGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)により、好ましくは約5,000〜2,000,000(より好ましくは約10,000〜1,000,000)の範囲である。
【0066】
上記方法によって得られるフッ素系グラフト共重合体の水酸基価は、その性質を左右する因子の一つである。この水酸基価は、前記のラジカル重合性フッ素樹脂(B1)成分の水酸基価で調整することができ、更に、前記の非反応性ラジカル重合性単量体(B3)成分中に、水酸基を有する単量体が含まれる場合には、その使用量によって調整することができる。
【0067】
(3)硬化剤(C)
硬化剤(C)は、ポリイソシアネート類、メラミン・ホルムアルデヒド樹脂、およびエポキシ樹脂から少なくとも1種選ばれる化合物(C)であり、単独で又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。この化合物(C)は架橋剤として働き、化合物(A)と反応した結果、粘着剤層12bには架橋構造が形成され、粘着剤層12bは3次元網状構造を有する。特に、化合物(C)はフッ素系グラフト共重合体(B)と反応性を有し、反応した架橋剤が、化合物(A)のポリマー中に取り込まれ、粘着剤層12bにおけるブリードアウトが抑制される。化合物(C)がフッ素系グラフト共重合体(B)と反応して、化合物(A)のポリマー中に取り込まれやすくするためには、フッ素系グラフト共重合体(B)の水酸基価は好ましくは0.1mgKOH/g以上、酸価は好ましくは0.1mgKOH/g以上である。フッ素系グラフト共重合体(B)の水酸基価,酸価は少なくとも一方が0.1mgKOH/g以上であればよい。
また化合物(C)は、上記のとおり架橋剤として働き、化合物(A)または基材フィルム12aと反応した結果できる架橋構造により、化合物(A)および(C)を主成分とした粘着剤の凝集力を、粘着剤塗布後に向上させることができる。
【0068】
ポリイソシアネート類としては、特に制限がなく、例えば、4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、4,4′−ジフェニルエーテルジイソシアネート、4,4′−〔2,2−ビス(4−フェノキシフェニル)プロパン〕ジイソシアネート等の芳香族イソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチル−ヘキサメチレンジイソシアネート、イソフォロンジイソシアネート、4,4′−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、2,4′−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、リジントリイソシアネート等が挙げられる。具体的には、市販品として、コロネートL等を用いることができる。
また、メラミン・ホルムアルデヒド樹脂としては、具体的には、市販品として、ニカラックMX−45(三和ケミカル社製)、メラン(日立化成工業株式会社製)等を用いることができる。
さらに、エポキシ樹脂としては、TETRAD−X(登録商標、三菱化学株式会社製)等を用いることができる。
本発明においては、特にポリイソシアネート類を用いることが好ましい。
【0069】
化合物(C)の添加量としては、化合物(A)100重量部に対し、0.01〜20重量部とすることが好ましく、0.1〜10重量部とすることがより好ましく、0.4〜3重量部とすることがさらに好ましい。その量が0.01重量部未満では凝集力向上効果が十分でない傾向があり、20重量部を越えると粘着剤の配合および塗布作業中に硬化反応が急速に進行し、架橋構造が形成されるため、作業性が損なわれる傾向がある。
【0070】
(4)光重合開始剤(D)
粘着剤層12bには、光重合開始剤(D)が含まれていることが好ましい。
光重合開始剤(D)に特に特に制限はなく、従来知られているものを用いることができる。例えば、ベンゾフェノン、4,4′−ジメチルアミノベンゾフェノン、4,4′−ジエチルアミノベンゾフェノン、4,4′−ジクロロベンゾフェノン等のベンゾフェノン類、アセトフェノン、ジエトキシアセトフェノン等のアセトフェノン類、2−エチルアントラキノン、t−ブチルアントラキノン等のアントラキノン類、2−クロロチオキサントン、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンジル、2,4,5−トリアリ−ルイミダゾール二量体(ロフィン二量体)、アクリジン系化合物等を挙げることができ、これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0071】
光重合開始剤(D)の添加量としては、化合物(A)100重量部に対して0.01〜5重量部とすることが好ましく、0.01〜4重量部とすることがより好ましい。
【0072】
さらに本発明に用いられる放射線硬化性の粘着剤には必要に応じて粘着付与剤、粘着調整剤、界面活性剤など、あるいはその他の改質剤および慣用成分を配合することができる。粘着剤層12bの厚さは特に制限されるものではないが、通常2〜50μmである。
【0073】
(5)特性など
粘着剤層12bは、ダイシング時のチップの割れ・欠け(チッピング)を抑制するために、80℃における貯蔵弾性率が好ましくは8×10〜1×10Paで、より好ましくは1×10〜5×10Paであり、25℃における貯蔵弾性率も好ましくは8×10〜1×10Paで、より好ましくは1×10〜5×10Paである。
粘着剤層12bの25℃または80℃での弾性率は、粘弾性計(レオメトリックサイエンス社製、商品名:ARES)を用いて、0℃から測定を開始し昇温速度5℃/分、周波数1Hzで、動的粘弾性を測定し、25℃または80℃に達した時点での貯蔵弾性率をそれぞれの弾性率とした。
なお、粘着剤層12bは基材フィルム12a上に塗工された後、硬化されることによって設けられる。粘着剤層12bには、室温で1週間程度放置することによって徐々に硬化し、好ましい範囲の弾性率となるような材料を用いることが好ましい。
粘着剤層12bを硬くする方法としては主成分として使用される粘着成分のガラス転移点(Tg)を高くする、粘着剤層12bに添加される硬化剤量を多く配合する、無機化合物フィラーを加えるなどの方法が挙げられるがこれに限定されるものではない。また、放射線照射によって硬化させて粘着剤層12bの硬さを調整してもよい。
【0074】
[接着フィルム(13)]
接着フィルム13は、剥離ライナー13aに対し、エポキシ樹脂(a)、水酸基当量150g/eq以上のフェノール樹脂(b)、グリシジルアクリレート又はグリシジルメタクリレートを0.5〜6重量%を含む重量平均分子量が10万以上のエポキシ基含有アクリル共重合体(c)、フィラー(d)及び硬化促進剤(e)を含有する組成物による接着剤層13bを形成したものである(接着剤層13bを構成する各成分の詳細や接着フィルム13の特性などは特開2005−303275号公報(段落0034〜0068など)に記載されている。)。
【0075】
接着剤層13bは、接着剤層13bに含まれる材料を溶剤に溶解あるいは分散してワニスとし、ポリテトラフルオロエチレンフィルム、表面を離型処理したポリエチレンテレフタレートフィルムなどの剥離ライナー13a上に塗布、加熱、乾燥し、溶剤を除去することにより、剥離ライナー13a上に形成される。この際の加熱条件としては、例えば、80〜250℃で、10分間〜20時間程度であることが好ましい。
【0076】
剥離ライナー13aとしては、ポリテトラフルオロエチレンフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリメチルペンテンフィルム、ポリイミドフィルムなどのプラスチックフィルムを使用することができ、これらプラスチックフィルムは表面を離型処理して使用することもできる。
【0077】
接着フィルム13は、使用時に剥離ライナー13aを剥離して接着剤層13bのみを使用することもできるし、剥離ライナー13aとともに使用し、後で除去することもできる。
【0078】
剥離ライナー13aへのワニスの塗布方法としては、公知の方法を用いることができ、例えば、ナイフコート法、ロールコート法、スプレーコート法、グラビアコート法、バーコート法、カーテンコート法等が挙げられる。
【0079】
接着剤層13bの厚さは、特に制限されるものではないが、3〜300μmであることが好ましく、5〜250μmであることがより好ましく、10〜200μmであることが更に好ましく、20〜100μmであることが特に好ましい。3μmより薄いと応力緩和効果が乏しくなる傾向があり、300μmより厚いと経済的でなくなる。
【0080】
上記ワニス化の溶剤としては、特に制限は無いが、フィルム作製時の揮発性等を考慮し、メチルエチルケトン、アセトン、メチルイソブチルケトン、2−エトキシエタノール、トルエン、キシレン、ブチルセルソルブ、メタノール、エタノール、2−メトキシエタノールなど比較的低沸点の溶媒を使用するのが好ましい。また、塗膜性を向上させるなどの目的で、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、シクロヘキサノンなど比較的高沸点の溶媒を加えることもできる。
【0081】
なお、接着剤層13bの形成にあたっては、特に、フィラー(d)の分散性を考慮して、らいかい機、3本ロール、ボールミル及びビーズミルなどを使用するのが好ましく、これらを組み合わせて使用することもできる。また、フィラーと低分子化合物をあらかじめ混合した後、高分子化合物を配合することによって、混合する時間を短縮することも可能となる。また、ワニスとした後、真空脱気等によってワニス中の気泡を除去することが好ましい。また、本発明においては、エポキシ樹脂(a)及びフェノール樹脂(b)とフィラー(d)を混合した後、それらの混合物にエポキシ基含有アクリル共重合体(c)及び硬化促進剤(e)を混合することにより接着剤組成物を製造する方法を採用することが好ましい。また、本発明の接着剤層13bは、所望の厚さを得るために、2枚以上を貼り合わせることもできる。この場合には、接着剤層13b同士の剥離が発生しないように貼り合わせる。
【0082】
[ダイシング・ダイボンディングテープの製造方法]
粘着テープ12の製造にあたっては、例えば、基材フィルム12a上に直接、粘着剤組成物を塗布して乾燥させ、基材フィルム12a上に粘着剤層12bを形成する。塗布・乾燥は、接着フィルム13において剥離ライナー13aに接着剤層13bを形成する際の方法と同様に行うことができる。
【0083】
その後、粘着剤層12b上に接着フィルム13(接着剤層13b)を積層する。
この場合、例えば、予め接着剤層13bを形成した剥離ライナー13a(接着フィルム13)と、粘着剤層12bが形成された基材フィルム12a(粘着テープ12)とを、粘着剤層12b面と接着剤層13b面とが接するようにラミネートする。ラミネートの条件は、10〜100℃で0.1〜100kgf/cmの線圧をかけることが好ましい。
【0084】
[ダイシング・ダイボンディングテープの使用方法]
半導体装置の製造にあたり、ダイシング・ダイボンディングテープ10を使用することができる。
まず、ダイシング・ダイボンディングテープ10から剥離ライナー13aを取り除き、図2に示すとおり、半導体ウエハ1に接着剤層13bを貼り付けて粘着テープ12の側部をリングフレーム20で固定する。リングフレーム20はダイシング用フレームの一例である。接着フィルム13(接着剤層13b)は粘着テープ12の半導体ウエハ1が貼合される部位に積層されている。粘着テープ12のリングフレーム20と接する部位には接着フィルム13はない。
その後、図3に示すとおり、粘着テープ12の下面を吸着テーブル22で吸着・固定しながら、薄型砥石21を用いて半導体ウエハ1を所定サイズにダイシングし、複数の半導体チップ2を製造する。
その後、図4に示すとおり、リングフレーム20により粘着テープ12を固定した状態で、突き上げ部材30を上昇させ、粘着テープ12の中央部を上方に撓ませるとともに、紫外線などの放射線を粘着テープ12(粘着剤層12b)に照射し、粘着剤層12bの粘着力を弱める。
その後、図5に示すとおり、半導体チップ2ごとにこれに対応した位置で突き上げピン31を上昇させ、半導体チップ2を吸着コレット32によりピックアップする。
その後は、ピックアップした半導体チップ2を、リードフレームなど支持部材や他の半導体チップ2に接着(ダイボンド)し、金ワイヤの付設や、加熱硬化等の工程を経ることにより、半導体装置が得られることとなる。
【0085】
以上のダイシング・ダイボンディングテープ10によれば、半導体ウエハ1の素子小片への切断時(ダイシング加工時)には切断された素子(半導体チップ2)を、チップ飛びを防止できる程度に十分に固定することができるだけの素子固定粘着力を有し、放射線照射後には粘着剤層12bが三次元網状構造をとりなおかつ可撓性を有するために、半導体ウエハ1の表面性状にかかわらず安定した低粘着力が得られ、切断された素子(半導体チップ2)を常に容易に粘着テープ12からピックアップすることができるという優れた効果を奏する。
特に、粘着剤層12bの一構成成分として、一定量のフッ素系グラフト共重合体(B)が含有されているため、
(i)粘着剤層12bと接着フィルム13とが剥離し易く、半導体チップ2のピックアップ性能を向上させることができる
(ii)粘着剤層12bの表面エネルギーが低下し、粘着剤層12bが接着フィルム13と付着するのを抑制することができる
(iii)フッ素系グラフト共重合体(B)が架橋剤としての硬化剤(C)と反応し、反応した架橋剤が、ポリマーとしての化合物(A)と反応することでポリマー中に取り込まれ、ブリードアウトによる接着テープ13の汚染を低減することができる、といった優れた効果を奏する。
【実施例】
【0086】
(1)サンプルの作製
(1.1)実施例1
放射線硬化性炭素−炭素二重結合および官能基を有する化合物として、2−エチルヘキシルアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレートおよびメチルメタクリレートからなり、質量平均分子量70万、ガラス転移温度−60℃、放射線硬化性炭素−炭素二重結合量0.9meq/gを有するアクリル系共重合体化合物を作製した。
その後、この共重合体化合物100重量部に対し、側鎖にシロキサン結合を有するフッ素系グラフト共重合体としてフッ素樹脂/シロキサングラフト型ポリマーZX−022(富士化成工業株式会社製、商品名)0.1重量部を加え、硬化剤としてポリイソシアネート化合物コロネートL(日本ポリウレタン株式会社製、商品名)3重量部、さらに光重合開始剤としてイルガキュア184(日本チバガイギー株式会社製、商品名)5重量部を加えて、放射線硬化性の粘着剤を得た。
【0087】
他方で、ポリプロピレン樹脂と水素化スチレン−ブタジエン共重合体からなる樹脂組成物を溶融混練して成形し、厚さ100μm、幅300mmの基材フィルムを得た。
【0088】
その後、基材フィルムに対し、粘着剤をグラビアコーターで塗工し、熱風乾燥炉で乾燥し、乾燥後の厚さが10μmの粘着剤層と基材フィルムとの積層体である粘着テープを得た。その後、後述のとおりに予め作製した厚さ20μmの接着フィルムを、粘着テープの粘着剤層上に貼り合わせ、ダイシング・ダイボンディングテープを作製した。このダイシング・ダイボンディングテープを「実施例1」のサンプルとした。
【0089】
接着フィルム(ダイボンドフィルム)は種々あり、どのように製造されたものでも構わないが、ここではアクリル系共重合体(グリシジルアクリレート系共重合体)100重量部、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂100重量部、キシレンノボラック型フェノール樹脂10重量部に、エポキシ硬化剤として2−フェニルイミダゾール5重量部とキシレンジアミン0.5重量部を配合してそれをPETフィルムに塗布し、その後110℃で2分間乾燥させ、厚さ20μmの接着フィルムを作製した。
【0090】
(1.2)実施例2
実施例1のサンプル作製において、フッ素樹脂/シロキサングラフト型ポリマーZX−022(富士化成工業株式会社製、商品名)の添加量を3重量部に変えた。それ以外は上記と全く同様の手法によりダイシング・ダイボンディングテープを作製し、これを「実施例2」のサンプルとした。
【0091】
(1.3)実施例3
実施例1のサンプル作製において、フッ素樹脂/シロキサングラフト型ポリマーZX−022(富士化成工業株式会社製、商品名)の添加量を20重量部に変えた。それ以外は上記と全く同様の手法によりダイシング・ダイボンディングテープを作製し、これを「実施例3」のサンプルとした。
【0092】
(1.4)実施例4
実施例1のサンプル作製において、フッ素樹脂/シロキサングラフト型ポリマーの種類をZX−007C(富士化成工業株式会社製、商品名)に変えてこれを0.1重量部加えた。それ以外は上記と全く同様の手法によりダイシング・ダイボンディングテープを作製し、これを「実施例4」のサンプルとした。
【0093】
(1.5)実施例5
実施例1のサンプル作製において、フッ素樹脂/シロキサングラフト型ポリマーの種類をZX−007C(富士化成工業株式会社製、商品名)に変えてこれを3重量部加えた。それ以外は上記と全く同様の手法によりダイシング・ダイボンディングテープを作製し、これを「実施例5」のサンプルとした。
【0094】
(1.6)実施例6
実施例1のサンプル作製において、フッ素樹脂/シロキサングラフト型ポリマーの種類をZX−212(富士化成工業株式会社製、商品名)に変えてこれを3重量部加えた。それ以外は上記と全く同様の手法によりダイシング・ダイボンディングテープを作製し、これを「実施例6」のサンプルとした。
【0095】
(1.7)比較例1
比較のために、実施例1のサンプル作製において、フッ素樹脂/シロキサングラフト型ポリマーを粘着剤に全く添加せずに、粘着テープ,ダイシング・ダイボンディングテープを作製し、これを「比較例1」のサンプルとした。
【0096】
(1.8)比較例2
比較のために、実施例1のサンプル作製において、フッ素樹脂/シロキサングラフト型ポリマーZX−022の添加量を0.009重量部に変えて、粘着テープ,ダイシング・ダイボンディングテープを作製し、これを「比較例2」のサンプルとした。
【0097】
(1.9)比較例3
比較のために、実施例1のサンプル作製において、フッ素樹脂/シロキサングラフト型ポリマーZX−022の添加量を22重量部に変えて、粘着テープ,ダイシング・ダイボンディングテープを作製し、これを「比較例3」のサンプルとした。
【0098】
(1.10)比較例4
比較のために、実施例1のサンプル作製において、フッ素樹脂/シロキサングラフト型ポリマーZX−022の添加量を30重量部に変えて、粘着テープ,ダイシング・ダイボンディングテープを作製し、これを「比較例4」のサンプルとした。
【0099】
(1.11)比較例5
比較のために、実施例1のサンプル作製において、フッ素樹脂/シロキサングラフト型ポリマーZX−022を、Ebe1360(シリコーンアクリレート:ダイセルサイテック)に変更して、粘着テープ,ダイシング・ダイボンディングテープを作製し、これを「比較例5」のサンプルとした。
【0100】
(1.12)比較例6
比較のために、実施例1のサンプル作製において、フッ素樹脂/シロキサングラフト型ポリマーZX−022を、Ebe1360(シリコーンアクリレート:ダイセルサイテック)に変更してこれを3重量部添加し、粘着テープ,ダイシング・ダイボンディングテープを作製し、これを「比較例6」のサンプルとした。
【0101】
(1.13)比較例7
比較のために、実施例1のサンプル作製において、フッ素樹脂/シロキサングラフト型ポリマーZX−022を、アルフローE−10(オレイン酸アミド:日油株式会社)に変更してこれを3重量部添加し、粘着テープ,ダイシング・ダイボンディングテープを作製し、これを「比較例7」のサンプルとした。
【0102】
(2)サンプルの評価
(2.1)粘着力の測定
各サンプルに紫外線を照射し、紫外線照射前後の粘着力をJIS−Z0237に基づき測定した。測定は90°剥離,剥離速度50mm/minとした。紫外線ランプはとして高圧水銀灯(80mw/cm,照射距離10cm)を使用し、照射強度を200mJ/cmとした。測定結果を第1表に示す。
【0103】
(2.2)チップ飛びの発生の有無
各サンプルを70℃で1分間ウエハへ加熱貼合した後、ウエハを5mm×5mmにダイシングした。その後、ダイシング後のチップを観察し、ダイシング時のチップ飛びの有無を観察した。観察結果を第1表に示す。
【0104】
(2.3)ピックアップ性
各サンプルに対し厚み50μmのシリコンウエハを70℃で10秒間加熱貼合した後、10mm×10mmにダイシングした。
その後、粘着剤層に紫外線を空冷式高圧水銀灯(80mw/cm、照射距離10cm)により200mJ/cm照射した後、シリコンウエハ中央部のチップ50個についてダイボンダー装置(NECマシナリー製、商品名:CPS−100FM)によるピックアップ試験を行い、ピックアップチップ個数でのピックアップ成功率を求めた。
その際、ピックアップされた素子において、粘着剤層から剥離した接着剤層が保持されているものをピックアップが成功したものとし、ピックアップ成功率を算出した。その算出結果を第1表に示す。第1表中、◎,○,△,×の基準(ピックアップ性の基準)は下記のとおりである。
【0105】
「◎」…突き上げピンによる突き上げ高さ0.7mm、0.5mm、0.3mmにおけるピックアップ成功率が100%である
「○」…突き上げ高さ0.7mm、0.5mmにおけるピックアップ成功率が100%で、且つ、突き上げ高さ0.3mmにおけるピックアップ成功率が100%未満である
「△」…突き上げ高さ0.7mmにおけるピックアップ成功率が100%で、且つ、突き上げ高さ0.5mm、0.3mmにおけるピックアップ成功率が100%未満である
「×」…突き上げ高さ0.7mm、0.5mm、0.3mmにおけるピックアップ成功率が100%未満である
【0106】
(2.4)パッケージ信頼性
各サンプルを70℃で1分間ウエハへ加熱貼合した後、ウエハを10mm×10mmにダイシングした。その後、粘着剤層に紫外線を空冷式高圧水銀灯(80mW/cm2、照射距離10cm)により200mJ/cm照射した後、ダイボンダー装置(NECマシナリー製、商品名CPS−100FM)によるピックアップ試験を行い、ピックアップした接着剤付きチップのシリコンチップ上にアルミ配線を形成した模擬素子を、シート状接着剤を介して、銀メッキされたFR4基板上にダイボンディングし、175℃、70kgf/cm2、成形時間120秒の条件で、1.0mm厚のBGAパッケージ20個を成形し、180℃、4時間ポストキュアし、これを評価パッケージとして用いた。
その後、得られたパッケージを、予め260℃に調整したハンダ浴に10秒間浸けた後、超音波探査装置(日立建機(株)製 Hyper)を用いて、透過法にてパッケージクラックの有無を評価した。その評価結果を第1表に示す。ここでは、20個の評価パッケージ中、クラックのある不良パッケージがいくつかあるかの個数で評価した。
【0107】
【表1】

【0108】
(3)まとめ
第1表の結果から、粘着剤組成にフッ素樹脂/シロキサングラフト型ポリマーとポリイソシアヌレート化合物とを併用した実施例1〜6のサンプルでは、いずれも紫外線照射前はきわめて高い粘着強度を有する一方、紫外線照射後にはきわめて低い粘着強度を示しており、チップ飛びの発生がなく、ピックアップ性,パッケージ信頼性に優れていた。
これに対し、フッ素樹脂/シロキサングラフト型ポリマーを完全にまたはほとんど配合しない比較例1および2のサンプルでは、紫外線照射後の粘着強度が十分に低下せず、ピックアップ性に劣っていた。
また、フッ素樹脂/シロキサングラフト型ポリマーを22および30重量部添加した比較例3および4のサンプルでは、紫外線照射前の粘着強度が十分でないため、ダイシング時にチップ飛びが発生した。
さらに、シリコーンアクリレートを用いた比較例5および6、オレイン酸アミドを用いた比較例7のサンプルでは、チップ飛びが発生するとともにピックアップ性やパッケージ信頼性が著しく低下した。
以上から、粘着剤層の一成分として、側鎖にシロキサン結合を有するフッ素系グラフト共重合体を一定量含有させることは、少なくとも、チップ飛びの防止,ピックアップ特性,パッケージ信頼性の観点において、有用であることがわかる。
【符号の説明】
【0109】
1 半導体ウエハ
2 半導体チップ
10 ダイシング・ダイボンディングテープ
12 粘着テープ
12a 基材フィルム
12b 粘着剤層
13 接着フィルム
13a 剥離ライナー
13b 接着剤層
20 リングフレーム
21 薄型砥石
22 吸着テーブル
30 突き上げ部材
31 突き上げピン
32 吸着コレット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材フィルムに粘着剤層が形成された粘着テープにおいて、
前記粘着剤層の成分として、
アクリル系共重合体化合物100重量部に対し、
側鎖にシロキサン結合を持つフッ素系グラフト共重合体0.01〜20重量部と、硬化剤0.01〜20重量部とが、含有されていることを特徴とする粘着テープ。
【請求項2】
請求項1に記載の粘着テープにおいて、
前記フッ素系グラフト共重合体は、水酸基価が0.1mgKOH/g以上であるか、または酸価が0.1mgKOH/g以上であることを特徴とする粘着テープ。
【請求項3】
請求項1または2に記載の粘着テープにおいて、
前記フッ素系グラフト共重合体と前記硬化剤とが反応性を有することを特徴とする粘着テープ。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の粘着テープにおいて、
前記粘着剤層の80℃における貯蔵弾性率が8×10〜1×10Paであることを特徴とする粘着テープ。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の粘着テープにおいて、
前記粘着剤層の25℃における貯蔵弾性率が8×10〜1×10Paであることを特徴とする粘着テープ。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の粘着テープにおいて、
前記粘着剤層が3次元網状構造を有するアクリル系樹脂であることを特徴とする粘着テープ。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の粘着テープにおいて、
前記粘着剤層が、少なくともアクリル系樹脂と硬化剤とを含む混合物を基材フィルム上に塗布した後、硬化させたものであることを特徴とする粘着テープ。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の粘着テープにおいて、
前記粘着剤層が、
分子中にヨウ素価0.5〜20の放射線硬化性炭素−炭素二重結合を有する化合物と、
ポリイソシアネート類、メラミン・ホルムアルデヒド樹脂およびエポキシ樹脂から少なくとも1種選ばれる化合物とを、
含有していることを特徴とする粘着テープ。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の粘着テープと接着フィルムとを積層した半導体加工用テープ。
【請求項10】
請求項9に記載の半導体加工用テープにおいて、
半導体装置を製造するにあたり、ダイシング時にはダイシング用フレームに固定されて、ウエハを固定しダイシングし、さらにリードフレームや半導体チップと重ね合わせるための接着工程に使用されるダイシング・ダイボンディングテープであって、
基材フィルム上の少なくともウエハの貼合される部位には前記接着フィルムが積層され、ダイシング用フレームに貼合される部分には前記接着フィルムがないことを特徴とする半導体加工用テープ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−184603(P2011−184603A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−52490(P2010−52490)
【出願日】平成22年3月10日(2010.3.10)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】