説明

細胞培養ならし培地組成物およびその使用方法

【課題】細胞培養ならし培地成分を含む新規産物およびその使用方法の提供。
【解決手段】細胞ならし培地成分は、あらゆる既知の規定されたまたは規定されていない培地から構成することができ、あらゆる種の真核細胞を用いて馴化することができる。培地は、間質細胞、実質細胞、間充織細胞、肝臓補充細胞、神経幹細胞、膵幹細胞、および/または胚性幹細胞で馴化することができ、細胞を遺伝子改変してもよい。このならし培地の物理的な実施形態は、液体または固体、凍結体、凍結乾燥または乾燥させた粉体であってよい。さらに、体内投与のためのビヒクルとしての製薬的に許容される担体を用いて製剤してもよく、食品材料または食用製品として直接適用してもよく、局所適用のためにサルブまたは軟膏を用いて製剤することもでき、または、例えば侵襲性処置後の縫合の癒合を促進するための外科的接着剤の製造時に添加したり、接着剤に添加することもできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
1.序論
本発明は、二次元的培養(すなわち、単層)、または三次元的培養で増殖させた細胞によって馴化した細胞培地を含んで成る組成物に関する。培地を馴化するのに用いる細胞を遺伝的に改変することにより、培地に存在するタンパク質の濃度を変えることができる。細胞ならし培地は、創傷外用薬、化粧品添加物、栄養補助食品、動物飼料栄養補助剤、培養細胞、医薬用途、ならびに、育毛を促すための組成物および方法を含む様々な用途に応じて処理される。本発明はまた、ならし培地に由来する細胞外マトリックスタンパク質および/またはその他の精製タンパク質を含む組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
2.発明の背景
2.1.細胞ならし培地
培地組成物は、通常は、必須アミノ酸、塩、ビタミン、ミネラル、微量金属、糖、脂質およびヌクレオシドを含む。細胞培地は、制御された人工かつin vitroの環境で、細胞を増殖させるのに必要とされる栄養要求を満たす上で必要な成分を供給することを目的とする。栄養素配合、pH、および浸透圧モル濃度は、使用する細胞の種類、細胞密度、ならびに培養系等のパラメーターに応じて異なる。多くの細胞培地配合物が、文献に記載されており、多数の培地が市販されている。いったん培地を細胞と共にインキュベートすると、その培地は「使用後培地」もしくは「ならし培地」と呼ばれることは、当業者には公知である。ならし培地は、培地の初期成分の大部分と共に、例えば、生物活性増殖因子、炎症性メディエーター、およびその他の細胞外タンパク質等の多様な細胞代謝産物や分泌タンパク質を含んでいる。三次元的に増殖させた細胞とは対照的に、単層として、またはビーズ上で、増殖させた細胞系は、in vivoでの組織全体に特徴的な細胞−細胞および細胞−マトリックス間の相互作用を欠いている。その結果、このような細胞は、多様な細胞代謝産物を分泌するものの、必ずしも生理的レベルに近いレベルで、これら代謝産物や分泌タンパク質を分泌するわけではない。従来の細胞ならし培地、すなわち、単層として、またはビーズ上で増殖させた細胞系を培養した培地は、通常廃棄されるか、あるいは、場合によっては、細胞密度の低減等の培養操作に使用される。
【0003】
2.2.組織培養系
脊椎動物のin vitro細胞培養物の大部分は、培地に浸した人工基質上にて単層として増殖する。単層がその上で増殖する基質の性質は、プラスチックのような固体、または、コラーゲンもしくは寒天のような半固体ゲルでよい。最近では、使い捨てプラスチックが、組織または細胞培養で使用される好ましい基質となってきている。
【0004】
数人の研究者が、基底膜成分に関連した天然基質の使用について研究している。基底膜は、in vivoでほとんどの細胞を取り囲んでいる糖タンパク質およびプロテオグリカンの混合物を含む。例えば、ReidおよびRojkund, 1979, Methods in Enzymology中, Vol. 57, Cell Culture, Jakoby & Pasten(編), New York, Acad, Press, pp. 263-278;Vlodavskyら、1980, Cell 19:607-617; Yangら、1979, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 76:3401では、肝細胞、上皮細胞および内皮組織を培養するのにコラーゲンを用いている。浮遊コラーゲン(MichalopoulosおよびPitot, 1975, Fed. Proc. 34:826)および硝酸セルロース膜(SavageおよびBonney, 1978, Exp. Cell Res. 114:307-315)上での細胞の増殖を用いて、末端分化を促進する試みがなされてきた。しかし、このような培養系での上記組織の長時間にわたる細胞再生および培養はこれまで達成されていない。
【0005】
特に低密度での細胞の増殖を増強するのに、マウスの胚繊維芽細胞の培養物が用いられてきた。この効果は、部分的には、培地の補充によるものと思われるが、細胞生成物による基質の馴化によるとも考えられる。これらの系では、繊維芽細胞の支持細胞層が集密単層として増殖し、この集密単層により、その表面は他の細胞の付着に適したものになる。例えば、正常胎児腸の集密支持層上でのグリオーマの増殖が報告されている(Lindsay, 1979, Nature 228:80)。
【0006】
二次元的な細胞の増殖は、培養中の細胞を調製、観察および研究する上で好適な方法であり、高速の細胞増殖を可能にするが、in vivoでの全組織の特徴を欠いている。このような機能上および形態学的相互作用を研究するために、数人の研究者が、コラーゲンゲル(Douglasら、1980, In Vitro 16:306-312;Yangら、1979, Proc. Natl. Acad. Sci. 76:3401;Yangら、1980, Proc. Natl. Acad. Sci. 77:2088-2092;Yangら、1981,Cancer Res.41:1021-1027);セルローススポンジ、単独で(Leightonら、1951, J. Natl. Cancer Inst. 12:545-561)もしくはコラーゲンで被覆したもの(Leightonら、1968, Cancer Res. 28 :286-296);ゼラチンスポンジ、ゲルフォーム(Sorourら、1975, J. Neurosurg. 43:742-749)等の三次元基質の使用を研究している。
【0007】
通常は、これら三次元基質に、培養しようとする細胞を接種する。多くの種類の細胞が、マトリックスに侵入し、「組織様」の組織を樹立することが報告されている。例えば、三次元コラーゲンゲルを用いて、乳房上皮(Yangら、1981,Cancer Res.41:1021-1027)および交感ニューロン(Ebendal, 1976, Exp. Cell Res. 98:159-169)を培養している。さらに、分散させた単層培養物から、組織様構造体を再生する様々な試みがなされている。KruseおよびMiedema(1965, J. Cell Biol. 27:273)は、灌流単層は、10細胞を超える深さまで増殖することができると報告しており、適切な培地を供給し続ければ、多層培養物に、器官様構造物を形成させることができる(Schneiderら、1963, Exp. Cell. Res. 30:449-459;Bellら、1979, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 76:1274-1279;Green, 1978, Science 200:1385-1388も参照のこと)。ヒト表皮のケラチノサイトは、デマトグリフ(dematoglyphs)(トランスファーせずに数週間維持すると、発生する摩擦隆起)を形成する可能性があることが報告されているが、このデマトグリフについては、FolkmanおよびHaudenschild(1980、Nature 288:551-556)は、内皮増殖因子と腫瘍細胞により馴化した培地との存在下で培養した血管内皮細胞の培養物中で、毛細管が形成されることを報告しており;また、Siricaら(1979, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 76:283-287;1980, Cancer Res. 40:3259-3267)は、薄いコラーゲン層で被覆したナイロンメッシュ上で、約10〜13日間、肝細胞を一次培養にて維持した。しかし、このような培養系での細胞の長期間にわたる培養および増殖は、達成されなかった。
【0008】
骨髄のような組織の長期培養の確立が試みられている。様々な種類の細胞を含む間質細胞層は、急速に形成されるが、有意な造血を実時間維持することができなかったため、全体としての結果は満足できるものではなかった(概説としては、Dexterら、In Long Term Bone Marrow Culture, 1984, Alan R. Liss, Inc., pp. 57-96を参照されたい)。
【0009】
多数のグループが、in vivoで移植するための皮膚および結合組織をin vitroで増殖させようとしてきた。このような系の1つでは、水和ウシコラーゲン格子が、基質を形成し、これに、繊維芽細胞等の細胞を組み込むことにより、該格子の組織への収縮が起こる(Bellら、米国特許第4,485,096号)。別の系では、多孔質架橋コラーゲンスポンジを用いて、繊維芽細胞を培養する(Eisenberg, WO 91/16010)。また合成ポリマーから構成される足場が、in vitroでの細胞成長および増殖を制御するため、いったん繊維芽細胞が増殖し、マトリックスに付着し始めれば、被険体に移植できることが記載されている(Vacantiら、米国特許第5,759,830号;5,770,193号;5,736,372号)。
【0010】
ポリエステルの生分解性、生物適合性コポリマーと、アミノ酸とから構成される合成マトリックスも、細胞増殖用の足場材として設計されている(米国特許第5,654,381号;5,709,854号)。同様に、非生分解性足場も細胞増殖を支持することができる。また、あらゆる所望の組織から、成人の組織への細胞の成長を支持する間質マトリックスから構成される三次元細胞培養系も設計されている(Naughtonら、米国特許第4,721,096号および5,032,508号)。別の手法は、多数の所望の種類の細胞を含み、被険体に投与されると徐々に重合化し固化してマトリックスとなるヒドロゲルを用いる(米国特許第5,709,854号)。間質細胞から構成される細胞外マトリックス調製物も設計されており、これは、所望の種類の細胞についての三次元細胞培養系を提供し、これを、生体材料の正確な位置にて、被険体に注射することができる(Naughtonら、WO 96/39101)。
【0011】
2.3.細胞サイトカインおよび増殖因子
増殖因子、サイトカイン、ならびに、ストレスタンパク質等の、細胞ならし培地への細胞外タンパク質の分泌は、組織の修復(例えば、創傷や、美容的欠陥のようなその他の組織欠陥の治療におけるもの)ならびにヒト用および動物飼料用栄養補助剤を含む非常に広範な領域で使用される生成物の製造に、新しい可能性を切り開くものである。例えば、増殖因子は、創傷治癒過程において重要な役割を果たすことが知られている。一般に、創傷の治療では、増殖因子の直接添加により、増殖因子の供給を増強することが望ましいと考えられている。
【0012】
細胞サイトカインおよび増殖因子は、細胞増殖、細胞接着、細胞の形態学的外観、分化、移動、炎症応答、血管形成、ならびに、細胞死を含む多数の重要な細胞過程に関与する。研究により、細胞に対する低酸素ストレスおよび損傷が、PDGF(血小板由来増殖因子)、VEGF(血管内皮増殖因子)、FGF(繊維芽増殖因子)、ならびに、IGF(インスリン様増殖因子)等の増殖因子に対応するmRNAおよびタンパク質のレベル増加を含む応答を誘導することが示されている(Gonzalez-Rubio, Mら、1996, Kidney Int, 50(1):164-73;Abramovitch, R.ら、1997、Int J. Exp. Pathol. 78(2):57-70;Stein, I.ら、1995, Mol Cell Biol. 15(10):5363-8;Yang, W.ら、1997, FEBS Lett. 403(2):139-42;West, N.R.ら、1995、J. Neurosci. Res. 40(5):647-59)。
【0013】
当技術分野ではTGF-βとしても知られるトランスフォーミング増殖因子-β等の増殖因子は、創傷治癒中の特定のストレスタンパク質により誘導される。2つの公知のストレスタンパク質は、GRP78とHSP90である。これらタンパク質は、細胞構造を安定化し、細胞を悪条件に対して耐性にする。二量体タンパク質であるTGF-βファミリーは、TGF-β1、TGF-β2およびTGF-β3を含み、多くの細胞種の増殖および分化を調節する。さらに、このファミリーのタンパク質は、ある種の生物学的作用を発揮し、ある種類の細胞の増殖を刺激したり(Nodaら、1989, Endocrinology 124:2991-2995)、別の種類の細胞の増殖を抑制したりする(Goeyら、1989, J. Immunol. 143:877-880;Pietenpolら、1990, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87:3758-3762)。TGF-βはまた、コラーゲンやフィブロネクチン等の細胞外マトリックスタンパク質の発現を高めて(Ignotzら、1986, J. Biol. Chem. 261:4337-4345)、創傷の治癒を速める(Mustoeら、1987, Science 237:1333-1335)ことが明らかにされている。
【0014】
これ以外の増殖因子にPDGFがある。PDGFは、初め、間充織由来の細胞の強力なマイトジェンであることがみいだされた(Ross R.ら、1974, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 71(4):1207-1210;Kohler N.ら、1974, Exp. Cell Res. 87:297-301)。更なる研究から、PDGFは、組織形成において、細胞充実性および顆粒化の速度を高めることがわかっている。PDGFで治療した創傷には、創傷部位での好中球およびマクロファージ細胞種の増加を含む初期段階の炎症応答が出現する。これらの創傷では、繊維芽細胞機能の増強も認められる(Pierce, G. F.ら、1988, J. Exp. Med. 167:974-987)。PDGFおよびTGF-βはいずれも、動物実験で、コラーゲン形成、DNA含有率、ならびに、タンパク質レベルが増加することが明らかにされている(Grotendorst, G. R.ら、1985, J. Clin. Invest. 76:2323-2329;Sporn, M.B.ら、1983, Science(Wash DC)219:1329)。PDGFは、ヒトの創傷の治療に有効であることが認められた。ヒトの創傷では、治癒の過程にある圧迫潰瘍内で、PDGF-AA発現が増加する。PDGF-AAの増加は、創傷の活性化繊維芽細胞、細胞外マトリックス沈着、ならびに、活性血管新生の増加につながる。さらに、PDGF-AAのこのような増加は、慢性的非治癒創傷には見られない(Principles of Tissue Engineering, R. Lanzaら(編), pp. 133-141(R.G. Landes Co. TX 1997)。血管形成および創傷治癒を誘導する能力のある多数の他の増殖因子には、VEGF、KGFおよび基本FGFが含まれる。
【0015】
本発明者のならし培地でみいだされた多様なサイトカイン、増殖因子またはその他の調節タンパク質を含む用途のための単純に有効な方法、もしくは組成物は現在存在しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】米国特許第4,485,096号明細書
【特許文献2】国際公開第91/16010号パンフレット
【特許文献3】米国特許第5,759,830号明細書
【特許文献4】米国特許第5,770,193号明細書
【特許文献5】米国特許第5,736,372号明細書
【特許文献6】米国特許第5,654,381号明細書
【特許文献7】米国特許第5,709,854号明細書
【特許文献8】米国特許第4,721,096号明細書
【特許文献9】米国特許第5,032,508号明細書
【特許文献10】米国特許第5,709,854号
【特許文献11】国際公開第96/39101号パンフレット
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】ReidおよびRojkund, 1979, Methods in Enzymology中, Vol. 57, Cell Culture, Jakoby & Pasten(編), New York, Acad, Press, pp. 263-278;
【非特許文献2】Vlodavskyら、1980, Cell 19:607-617;
【非特許文献3】Yangら、1979, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 76:3401
【非特許文献4】MichalopoulosおよびPitot, 1975, Fed. Proc. 34:826)
【非特許文献5】SavageおよびBonney, 1978, Exp. Cell Res. 114:307-315
【非特許文献6】Lindsay, 1979, Nature 228:80
【非特許文献7】Douglasら、1980, In Vitro 16:306-312
【非特許文献8】Yangら、1979, Proc. Natl. Acad. Sci. 76:3401
【非特許文献9】Yangら、1980, Proc. Natl. Acad. Sci. 77:2088-2092
【非特許文献10】Yangら、1981,Cancer Res.41:1021-1027)
【非特許文献11】Leightonら、1951, J. Natl. Cancer Inst. 12:545-561
【非特許文献12】Leightonら、1968, Cancer Res. 28 :286-296
【非特許文献13】Sorourら、1975, J. Neurosurg. 43:742-749
【非特許文献14】Yangら、1981,Cancer Res.41:1021-1027
【非特許文献15】Ebendal, 1976, Exp. Cell Res. 98:159-169
【非特許文献16】KruseおよびMiedema(1965, J. Cell Biol. 27:273
【非特許文献17】Schneiderら、1963, Exp. Cell. Res. 30:449-459
【非特許文献18】Bellら、1979, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 76:1274-1279
【非特許文献19】Green, 1978, Science 200:1385-1388
【非特許文献20】FolkmanおよびHaudenschild(1980、Nature 288:551-556
【非特許文献21】Siricaら、1979, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 76:283-287
【非特許文献22】1980, Cancer Res. 40:3259-3267
【非特許文献23】Dexterら、In Long Term Bone Marrow Culture, 1984, Alan R. Liss, Inc., pp. 57-96
【非特許文献24】Gonzalez-Rubio, Mら、1996, Kidney Int, 50(1):164-73
【非特許文献25】Abramovitch, R.ら、1997、Int J. Exp. Pathol. 78(2):57-70
【非特許文献26】Stein, I.ら、1995, Mol Cell Biol. 15(10):5363-8
【非特許文献27】Yang, W.ら、1997, FEBS Lett. 403(2):139-42
【非特許文献28】West, N.R.ら、1995、J. Neurosci. Res. 40(5):647-59
【非特許文献29】Nodaら、1989, Endocrinology 124:2991-2995
【非特許文献30】Goeyら、1989, J. Immunol. 143:877-880
【非特許文献31】Pietenpolら、1990, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87:3758-3762
【非特許文献32】Ignotzら、1986, J. Biol. Chem. 261:4337-4345
【非特許文献33】Mustoeら、1987, Science 237:1333-1335
【非特許文献34】Ross R.ら、1974, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 71(4):1207-1210
【非特許文献35】Kohler N.ら、1974, Exp. Cell Res. 87:297-301
【非特許文献36】Pierce, G. F.ら、1988, J. Exp. Med. 167:974-987
【非特許文献37】Grotendorst, G. R.ら、1985, J. Clin. Invest. 76:2323-2329
【非特許文献38】Sporn, M.B.ら、1983, Science(Wash DC)219:1329
【非特許文献39】Principles of Tissue Engineering, R. Lanzaら(編), pp. 133-141、R.G. Landes Co. TX 1997
【発明の概要】
【0018】
3.発明の概要
本発明の発明者らは、新規の細胞培養ならし培地組成物を見い出した。加えて、本発明は、かかる新規組成物の使用も包含する。本発明はさらに、本発明の細胞ならし培地に由来する特定のタンパク質産物を含有する組成物を含む。
【0019】
本発明の細胞ならし培地の組成は、既知の規定されている培地または規定されていない培地の任意のものから構成されてよく、任意の種類の真核細胞を用いて馴化してもよい。間質細胞、実質細胞、間充織細胞、肝臓補充細胞、神経幹細胞、膵幹細胞、および/または胚性幹細胞で馴化することができる。三次元的組織構築物が好ましい。単層でも三次元的培養であっても、細胞種が該ならし培地の特性を左右する。例えば、星状膠細胞および神経細胞でならした培地は、特定の特徴的な代謝産物およびタンパク質を含有するため、該ならし培地は神経修復の用途にとって好ましい。好ましい実施形態では、本発明の培地は、三次元的細胞および組織培養で馴化する。他の好ましい実施形態では、TransCyte(商標)(Smith & Nephew PLC., 英国)の産生に用いられる間質細胞で馴化される。極めて好ましい実施形態では、三次元的組織培養の細胞の細胞は間質細胞であり、該組織培養構築物は、特定の実質細胞を添加したまたは添加していないDermagraft(登録商標)(Advanced Tissue Sciences, Inc., La Jolla CA)である。かかる細胞ならし培地は、特有の因子類の組み合わせおよびそれらの特異な比率を提供し、それらは単層培養のものとは異なり、in vivoで見られるものにより近いものである。三次元的間質培養は、表皮、骨、肝臓、神経、膵臓等の実質細胞でさらに培養してもよく、これにより、その組織種の特徴的な細胞外タンパク質および他の代謝産物を含有するならし培地が得られる。さらに、それぞれの細胞種は一般的に改変されてもよい。遺伝子改変により、例えばタンパク質のアップレギュレート、新規タンパク質の導入、またはイオン濃度の制御等を目的として、該培地中の1種以上の成分の濃度を変えることができる。
【0020】
本発明の細胞培地は、一度馴化されると、いかなる状況で用いられてもよい。該ならし培地の物理的な実施形態は、限定はしないが、液体または固体、凍結体、凍結乾燥または乾燥させた粉体であってよい。さらに、該培地は、体内投与のためのビヒクルとしての製薬的に許容される担体を用いて製剤してもよく、食品材料または食用製品として直接適用してもよく、局所適用のためにサルブまたは軟膏を用いて製剤することもでき、または、例えば侵襲性処置後の縫合の癒合を促進するための外科的接着剤の製造時に添加したり、接着剤に添加することもできる。また、該培地をさらに処理して、該培地中に含有される1種以上の因子類または成分を濃縮または低減させることもできる。例えば、該ならし培地では、イムノアフィニティークロマトグラフィーを用いて増殖因子を富化することもできる。
【0021】
ある実施形態では、本発明のならし培地は、創傷の治癒に用いることもできる。その例として、バンデージ(接着性のものでも非接着性のものでもよい)のガーゼに該細胞ならし培地を適用し、局所適用に用いて創傷の治癒を促進および/または速めることもできる。また、該ならし培地を処理して創傷の治癒を促進する1種以上の成分を濃縮または低減させることもできる。該成分を低温乾燥/または凍結乾燥させて、創傷充填剤として添加するか、または創傷の治癒を速めるために既存の創傷充填成分に添加することもできる。あるいはまた、該培地をヒドロゲル組成物に添加し、局所的創傷治療用のフィルムおよび抗接着性剤として用いることもできる。本発明の培地組成物は、創傷治癒特性の向上した遺伝子産物を発現する細胞、すなわち、抗瘢痕特性を有する遺伝子産物を発現する遺伝子操作細胞で馴化させてもよい。
【0022】
他の実施形態では、本発明の細胞ならし培地製剤を用いて、先天性異常または後天性身体欠陥を直すこともできる。さらに、注射用またはヒドロゲルの形態に製剤化して、しわ、眉間皺線、瘢痕の消滅および他の皮膚の状態の回復に用いることもできる。他の実施形態では、該細胞ならし培地を、アイシャドウ、化粧用パンケーキ、コンパクトまたは他の化粧品に添加することもできる。
【0023】
さらに他の実施形態では、本発明の細胞ならし培地製剤を、食品添加物または栄養補助剤として用いる。該ならし培地は、必須アミノ酸、ビタミン類、ミネラル類などの複数種の栄養成分を含む。本発明の細胞ならし培地は、濃縮および/または凍結乾燥することができ、例えば、経口摂取用のカプセルまたは錠剤に導入することが好ましい。さらに、該組成物は直接食品に添加して、栄養成分含量を増進させることもできる。
【0024】
さらなる実施形態では、該組成物は、様々なタンパク質、ビタミン類、抗生物質、多糖類、および家畜および他の反芻動物の成長に有益な他の因子類を含んでいるので、該組成物を動物用の餌の補助剤として用いてもよい。
【0025】
本発明の他の実施形態では、本発明の組成物を用いて細胞を培養することもできる。本発明の細胞ならし培地は、細胞接着および細胞増殖を促進させるために有用な因子類を含む。さらに遺伝子操作して、例えば、細胞の足場または培養表面への接着を促進させるのに有用なフィブロネクチチンまたはコラーゲンの濃度をより多く含みうる細胞で馴化してもよい。
【0026】
本発明のさらなる実施形態では、本発明の細胞ならし培地を、医薬的用途に用いてもよい。本発明は、三次元的組織構築物と共に培養することにより増殖因子および他のタンパク質がin vivoで見られる比率に酷似した比率で培地中に分泌されている細胞培地を含む。そして、本発明のならし培地は、様々な医薬品の用途に有用である。
【0027】
最後に、本発明の組成物は、毛髪の成長を刺激するための局所製剤としても製剤することができる。
【0028】
3.1.定義
本明細書で用いる以下の用語の意味は次の通りである:
接着層:三次元的支持体に直接接着した細胞、あるいは、三次元的支持体に直接接着した細胞への接着を介して間接的に結合した細胞。
【0029】
ならし培地:細胞外タンパク質と細胞代謝産物を含む組成物であり、所望の真核細胞タイプの増殖を予め支持させておいたもの。これらの細胞は、二次元的または三次元的に培養されている。また、「細胞ならし培地」もしくは「細胞および組織ならし培養培地」とも呼ばれる。
【0030】
間質細胞:疎性結合組織にみられる他の細胞および/または成分を含む、もしくは含まない繊維芽細胞、限定するものではないが、内皮細胞、周皮細胞、マクロファージ、単球、プラズマ細胞、肥満細胞、脂肪細胞、間充織幹細胞、肝蔵補充細胞(liver reserve cells)、神経幹細胞、膵幹細胞、軟骨細胞、軟骨前駆細胞等を含む。
【0031】
組織特異的細胞または実質細胞:その支持可能な骨組みから区別される器官の主要かつ個別の組織を形成する細胞。
【0032】
三次元的骨組み:あらゆる材料および/または形状から構成される三次元的足場であり、(a)細胞をそれに接着させることができる(または、細胞をそれに接着させるように、改変することができる)もの;(b)細胞を2層以上に増殖させることができるもの。この支持体に、間質細胞を接種することにより、生存三次元的間質組織を形成する。該骨組みの構造は、網状物、スポンジ状物を含むことができ、あるいは、ヒドロゲルから形成することができる。
【0033】
三次元的間質組織または生存間質マトリックス:支持体上で増殖させた間質細胞を接種しておいた三次元的骨組み。間質細胞により生成された細胞外マトリックスタンパク質を骨組み上に付着させることにより、生存間質組織を形成する。生存間質組織は、後に接種される組織特異的細胞の増殖を支持し、これにより、三次元的細胞培養物を形成することができる。
【0034】
組織特異的な三次元的細胞培養物または組織特異的な三次元的構築物:組織特異的細胞を接種し、培養しておいた三次元的の生存間質組織。一般に、三次元的間質マトリックスに接種するのに用いる組織特異的細胞は、その組織の「幹」細胞(または「補充」細胞)、すなわち、組織の実質を形成する特定の細胞に成熟する新しい細胞を生成する細胞を含む必要がある。
【0035】
下記の略語の意味は次の通りである:
BCS:仔ウシ血清
BFU-E:バースト形成単位−赤芽球
TGF-β:トランスフォーミング増殖因子−β
DFU-C:コロニー形成単位−培養
DFU-GEMM:コロニー形成単位−グラニュロイド(granuloid)、赤芽球、単球、巨核球
CSF:コロニー刺激因子
DMEM:ダルベッコの改変イーグル培地
EDTA:エチレンジアミン四酢酸
FBS:ウシ胎児血清
FGF:繊維芽増殖因子
GAG:グリコサミノグリカン
GM-CSF:顆粒球/マクロファージコロニー刺激因子
HBSS:ハンクス緩衝塩類溶液
HS:ウマ血清
IGF:インスリン様増殖因子
LTBMC:長期骨髄培養
MEM:最小必須培地
PBL:末梢血液白血球
PBS:リン酸緩衝食塩水
PDGF:血小板由来の増殖因子
RPMI 1640:Roswell Park Memorial Institute培地番号1640(GIBCO, Inc., Grand Island, N.Y.)
SEM:走査電子顕微鏡
VEGF:血管内皮増殖因子
【図面の簡単な説明】
【0036】
4.図面の説明
【図1】三次元的組織生成物Transcyte(商標)およびDermagraft(登録商標)により、時間経過毎に記したグリコサミノグリカンおよびコラーゲンの接着の動力学を表すグラフである。グリコサミノグリカンの接着量は、増殖時間に応じて異なるのに対し、コラーゲンの接着は、増殖時間に左右されない。
【図2】細胞外マトリックス(Transcyte(商標)から回収し、1:2、1:5、1:10および1:100の希釈率でヒト繊維芽細胞および角化細胞の単層培養物に添加した)の効果を表すグラフである。同図から、最も有意な効果は、1:10希釈のマトリックスで認められた。
【図3】ならし培地(Transcyte(商標)により細胞の増殖を予め支持させておいた細胞培地)に暴露したヒト繊維芽細胞および角化細胞の相対増殖を表すグラフである。細胞応答の増加が3日という短期間に明らかになった。
【図4】1×最終濃度の無血清培地および培地を添加した基本培地DMEM(2mM L-グルタミンおよび1×抗生物質/抗真菌剤含有の10%BLS添加培地を含む)と比較して、三次元的に増殖させた細胞のコラーゲン接着層上の1×ならし培地(Transcyte(商標)により細胞の増殖を予め支持させておいた細胞培地)の効果を表すグラフである。いずれの対照と比較しても、ならし培地で10日間処理した培養物のコラーゲン接着層では、ほぼ50%という統計的に有意な(p=0.05)増加が記録された。
【図5】培養中のヒト表皮角化細胞上の細胞ならし培地(Transcyte(商標)により細胞の増殖を予め支持させておいた細胞培地)における抗酸化活性を表すグラフである。Transcyte(商標)を3日間予め支持させておいたならし培地に暴露したヒト上皮ケラチノサイトでは、約50%という統計的に有意な細胞内酸化の減少(p<0.0003)が記録された。
【発明を実施するための形態】
【0037】
5.発明の詳細な説明
本発明は、真核細胞の種類または三次元的組織構築物を用いて、培養されて馴化されたあらゆる規定の培地または規定されていない培地を含む新規の組成物、ならびに、該組成物を使用する方法に関する。細胞は、単層、ビーズ(すなわち、二次元)または、好ましくは、三次元的に培養する。細胞は、好ましくは、免疫応答の危険度を低減するため、ヒトの細胞であり、間質細胞、実質細胞、間充織幹細胞、肝蔵補充細胞、神経幹細胞、膵幹細胞、および/または胚性幹細胞を含む。細胞でおよび組織培養物で馴化される培地は、生物学的に活性のある増殖因子等の様々な天然に分泌されるタンパク質を含み、三次元的に培養したものは、生理的レベルに近い比率で、これらのタンパク質を含むであろう。本発明はまた、細胞ならし培地に由来する生成物を含んで成る新規の組成物、ならびに、これら組成物の使用に関する。
【0038】
細胞「予備ならし」培地は、培養する細胞の栄養要求性に適切に対応するあらゆる細胞培地でよい。細胞培地の例は、限定するものではないが、以下の培地を含む:ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、ハム(Ham)F12、RPMI 1640、イスコフ(Iscove)培地、マッコイ(McCoy)培地、ならびに、Methods For Preparation of Media, Supplements and Substrate For Serum-Free Animal Cell Culture Alan R. Liss, New York (1984)およびCell & Tissue Culture:Laboratory Procedures, John Wiley & Sons Ltd., Chiichester, England 1996(両者は、参照として、本明細書にその全文を組み込まれる)に記載されているものを含む当業者には公知のその他の培地組成物。培地には、所望の細胞または組織培養物を支持するのに必要なあらゆる成分を添加することができる。さらに、所望であれば、アルブミン、グロブリン、成長促進剤および成長抑制剤の複合溶液であるウシ血清等の血清を添加してもよい。この血清は、病原体を含まないものであり、マイコプラズマ細菌、菌およびウイルス汚染について、注意深くスクリーニングしなければならない。また、血清は、一般に、米国から入手すべきであり、現地の家畜が伝染性の病原体を保有する国から入手してはならない。培地へのホルモン添加が望ましい場合もあれば、そうでない場合もある。
【0039】
ビタミン類、増殖および接着因子類、タンパク質等の他の成分は、当業者がその具体的な必要性に応じて選択することができる。本発明は、所望のならし培地を得るのに適切なあらゆる種類の細胞を使用することができる。遺伝子操作した細胞を用いて培養し、培地を馴化してもよい。このような細胞は、所望の1つまたは複数のタンパク質を発現するように改変することにより、培地中に発現したタンパク質の濃度を、所望する具体的用途に合わせて最適化することが可能である。本発明によれば、培地を馴化するのに用いられる細胞および組織培養物は、非常に多様な機能を付与することのできる標的遺伝子産物を発現させるように操作することができる。このような機能は、限定するものではないが、生理的反応に似たタンパク質発現特性の向上や、創傷治癒、または、プロテアーゼ、乳酸のような所定タンパク質の抑制等、特定の用途に有用な特定タンパク質の発現の増加を含む。
【0040】
細胞を操作することにより、生物学的に活性のある標的遺伝子産物、選択された生物学的機能を呈する産物、選択された生理的条件のリポーターとして機能する産物、ある遺伝子産物の発現の欠失または欠損を向上させる産物、あるいは、抗ウイルス性、抗細菌性(anti-bacterial)、抗菌性(anti-microbial)、もしくは抗癌活性を提供する産物を発現させることも可能である。本発明によれば、標的遺伝子産物は、酵素、ホルモン、サイトカイン、抗原もしくは抗体等のペプチドまたはタンパク質、転写因子またはDNA結合タンパク質等の調節タンパク質、細胞表面タンパク質等の構造タンパク質でよく、あるいは、この標的遺伝子産物は、リボソームまたはアンチセンス分子等の核酸でもよい。標的遺伝子産物は、限定するものではないが、細胞の増殖を増強する遺伝子産物を含む。例えば、遺伝子改変により、内在性タンパク質をアップレギュレートする、新しいタンパク質を導入することができ、あるいは、異種イオンチャネルを発現させるか内在性イオンチャネル機能を改変することにより、イオン濃度を調節することができる。例として、限定するものではないが、全身に送達される遺伝子産物(例えば、増殖因子、ホルモン、第VIII因子、第IX因子、神経伝達物質、ならびに、エンケファリン)を発現させるように操作された組織が挙げられる。
【0041】
本発明では、細胞は、三次元的間質支持体で成長させ、多層に増殖させることにより、細胞マトリックスを形成するのが好ましい。このマトリックス系は、すでに記載されている単層組織培養系と比べて、高い度合いまで、in vivoでみられる生理的条件に接近する。Dermagraft(登録商標)(Advanced Tissue Science, Inc., La Jolla, CA)「Dermagraft(登録商標)」やTransCyte(商標)(Smith & Nephew, PLC, United Kingdom)「TransCyte(商標)」は、多数の増殖因子および他のタンパク質を生成し、これらは、生理的比および生理的濃度で、培地に分泌される。Dermagraft(登録商標)は、生分解性ポリグラクチン上で培養される同種異系新生児繊維芽細胞から構成される。TransCyte(商標)は、米国特許第5,460,939号に記載されているように、移行型被覆(transitional covering)に結合させた三次元的間質組織を含んで成る、一時的な生存皮膚代替品(replacement)である。さらに、細胞培地を馴化する三次元的組織培養物は、多くの種類の組織に存在する間充織幹細胞、肝貯蔵細胞、神経幹細胞、膵幹細胞、および/または胚性幹細胞および/または実質細胞および/または実質幹細胞を含有することができ、これらの組織は、限定するものではないが、骨髄、皮膚、肝臓、膵臓、腎臓、副腎および神経組織、ならびに、胃腸管および尿生殖器、ならびに、循環系の組織を含む。米国特許第4,721,096号、第4,963,489号、第5,032,508号、第5,266,480号、第5,160,490号、ならびに、第5,559,022号を参照されたい。尚、これら文献の各々は、参照として全文を本明細書に組み込むものとする。
【0042】
5.1.細胞培地
細胞培地組成物は、文献においてよく知られており、多くが市販されている。
【0043】
予備ならし培地の成分は、以下に記載するものを含むが、これらに限定されるわけではない。さらに、該成分の濃度は、当業者には公知である。例えば、Methods For Preparation Of Media, Supplements and Substrate for Serum-free Animal Cell Cultures(前掲)を参照のこと。これら成分は、グルタミン、アラニン、アルギニン、アスパラギン、シスチン、グルタミン酸、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、トレオニン、トリプロファン、チロシンおよびバリン、ならびに、これらの誘導体等のアミノ酸(Dおよび/またはL-アミノ酸の両方);チアミン、アルコルビン酸、第二鉄化合物、第一鉄化合物、プリン、グルタチオンおよび一塩基性リン酸ナトリウム等の酸可溶性サブグループを含む。
【0044】
さらに、上記成分は、糖、デオキシリボース、リボース、ヌクレオシド、水溶性ビタミン、リボフラビン、塩、微量金属、脂質、酢酸塩、リン酸塩、HEPES、フェノールレッド、ピルビン酸塩、ならびに、バッファーを含む。
【0045】
培地組成物によく用いられるその他の成分は、脂溶性ビタミン(ビタミンA、D、EおよびKを含む)、ステロイドおよびこれらの誘導体、コレステロール、脂肪酸および脂質Tween 80、2-メルカプロエタノールピラミジン、ならびに、血清(胎児、ウマ、仔ウシ等)、タンパク質(インスリン、トランスフェリン、増殖因子、ホルモン等)、抗生物質(ゲンタマイシン、ペニシリン、ストレプトマイシン、アンホテリシンB等)、全卵超ろ過液、ならびに、接着因子(フィブロネクチン、ビトロネクチン、コラーゲン、ラミニン、テナシン等)のような各種補充物質を含む。
【0046】
もちろん、培地には、増殖因子や、接着因子のようなその他のタンパク質を添加する必要がある場合もあれば、必要ない場合もある。というのは、多くの細胞構築物、特に、本明細書に記載する三次元的細胞および組織培養構築物は、以下の第5.8節でさらに詳しく説明するように、それ自体が、上記のような増殖および接着因子、その他の産物を培地に生成するからである。
【0047】
5.2.細胞培養物
5.2.1.細胞
培地は、間質細胞、実質細胞、間充織幹細胞(直系の拘束または非拘束前駆細胞)、肝貯蔵細胞、神経幹細胞、膵幹細胞、および/または胚性幹細胞により馴化することができる。これら細胞は、限定するものではないが、いくつか例を挙げるならば、骨髄、皮膚、肝臓、膵臓、腎臓、神経組織、副腎、粘膜上皮、ならびに、平滑筋がある。繊維芽細胞および繊維芽様細胞、ならびに、間質を含んで成るその他の細胞および/または成分は、胎児もしくは生体のいずれから取得したものでもよく、皮膚、肝臓、粘膜、動脈、静脈、臍帯、ならびに、胎盤等の好適な供給源に由来するものでよい。このような組織および/または器官は、適した生検により、もしくは剖検に際して取得することができる。実際、死体の器官を用いて、間質細胞および成分の豊富な供給が可能になる。
【0048】
胚性幹細胞および/または間質を含むその他の成分は、当業者には公知の方法を用いて、単離することができる。例えば、近年、ヒト胚性幹細胞集団、ならびに、これらの細胞を単離および使用する方法が、Kellerら、Nature Med., 5:151-152(1999), Smith Curr. Biol. 8:R802-804(1998)に、;始原生殖細胞から単離されたものが、Shamblattら、PNAS 95:13726-1373(1998)に、また、未分化胚芽細胞から単離されたものが、Thomasonら、Science 282:1145-1147(1988)にそれぞれ報告されている。間充織幹細胞の単離および培養は、当業者には公知である。Mackayら、Tissue Eng. 4:415-428(1988);Williamら、Am Surg. 65:22-26(1999)を参照されたい。これら細胞の接種については、以下の第5.3節に記載する。同様に、神経幹細胞は、Flexら、Nature Biotechnol., 16:1033-1039(1998);ならびに、Frisenら、Cell. Mol. Life Sci., 54:935-945(1998)に記載されている方法で、単離することができる。
【0049】
細胞は、単層、ビーズ、あるいは、三次元的培養等、当業者には公知のあらゆる方法で、また、あらゆる手段(すなわち、培養皿、ローラーボトル、連続流動システム等)を用いて、培養することができる。細胞および組織培養の方法は、当業者には公知であり、例えば、Cell & Tissue Culture: Laboratory Procedures(前掲);Freshney(1987), Culture of Animal Cells: A Manual of Basic Techniques(後掲)に記載されている。
【0050】
一般に、使用する細胞系は、ヒトおよび動物の病原体について、注意深くスクリーニングする。用途によっては、このようなスクリーニングが極めて重要である場合もあり、その際には、病原体を含まない細胞だけが許容される(例えば、創傷治癒、食品添加物等)。病原体のスクリーニング方法は、当業者には公知である。二次元的または三次元的のいずれで培養するにせよ、細胞の種類は、ならし培地の特性に影響を与えることになる。三次元的構築物が好ましい。
【0051】
5.2.2.三次元的細胞培養物
三次元的培養物に用いられる間質細胞は、繊維芽細胞、間充織幹細胞、肝貯蔵細胞、神経幹細胞、膵幹細胞、および/または胚性幹細胞を含んで成り、本明細書にさらに詳しく記載した追加細胞および/または成分をさらに含んでも、含まなくてもよい。
【0052】
繊維芽細胞は、三次元的培養系で、多種の細胞および組織の増殖を支持し、従って、マトリックスに接種することにより、多種多様な細胞および組織のいずれをも培養するための「一般的」間質支持マトリックスを形成することができる。しかし、場合によっては、「一般的」より「特異的」間質支持マトリックスを使用するのが好ましいこともあり、その場合、間質細胞および成分は、特定の組織、器官または個体から取得することができる。さらに、繊維芽細胞およびその他の間質細胞および/または成分は、三次元的系で培養しようとする同じ種類の組織に由来するものでよい。これは、特異的間質細胞が、特定の構造/機能的役割を果たし得る組織、例えば、動脈の平滑筋細胞、神経組織の神経膠細胞、肝臓のクッパ−細胞等を培養する場合には、有利であろう。
【0053】
三次元的支持体に接種させると、間質細胞は、骨組み上に増殖し、間質細胞により自然に分泌される結合組織タンパク質(増殖因子、調節因子および細胞外マトリックスタンパク質等)を付着させる。間質細胞およびそれらが自然に分泌した結合組織タンパク質は、骨組みを実質的に包み込み、これにより、生存間質組織を形成する。この間質組織は、本発明の三次元的培養系に接種された組織特異的細胞の増殖を支持する。実際、組織特異的細胞を接種すると、三次元的間質組織は、長期間にわたり、培養物の活発な増殖を維持する。重要なことは、メッシュの開口部が、培養中の間質細胞の出口となり、集密的間質培養物が、接触阻止を呈示しないため、間質細胞は、増殖および分裂を続け、機能的に活性のままである。
【0054】
増殖および調節因子は、間質組織によって、培地中で生成される。増殖因子(限定するものではないが、例えば、αFGF、βFGF、インスリン様増殖因子またはTGF-ベータ)、あるいは、天然または改変血液生成物もしくはその他の生物活性生物学的分子(限定するものではないが、例えば、ヒアルロン酸またはホルモン)は、三次元的骨組みのコロニー形成または足場形成を増強し、培地を馴化させる。
【0055】
培養物をin vivoで使用する前に、間質細胞を増殖させる範囲は、三次元的組織培養物で増殖させる組織の種類に応じて異なる。培地を馴化する生存間質組織は、これらをin vivo移植することにより、矯正構造物(corrective structures)として使用することができる。あるいは、生存間質組織に、別の種類の細胞を接種して、in vivo移植してもよい。間質細胞を遺伝子操作することにより、培地に分泌されるタンパク質生成物のレベルを調節し、ならし培地から得られ、回収される生成物の濃度を高めることも可能である。例えば、抗炎症因子、例えば、抗GM-CSF、抗TNF、抗IL-1、抗IL-2等である。これ以外にも、間質細胞を遺伝子操作することにより、炎症を促進する天然遺伝子産物、例えば、GM-CSF、TNF、IL-1、IL-2の発現を「ノックアウト」する、あるいは、MHCの発現を「ノックアウト」して、拒絶反応の危険度を低減することもできる。
【0056】
三次元的での間質細胞の増殖によって、単層系よりはるかに長い期間、培養中の間質および組織特異的細胞の両者の活発な増殖を維持することになる。さらに、三次元的系は、in vitroで培養中の細胞の成熟、分化および分泌を支持し、in vivoに存在する対応物(counterparts)に類似した成体組織の成分を形成すると共に、生理的比にこれまでより近い比で、ならし培地にタンパク質を固着させる。
【0057】
本出願人らには、三次元的細胞および組織、ならびに、調製物、すなわち、三次元的培養系に固有の多数の因子が、この成功に寄与する作用機構を説明する義務はないが、
(a)三次元的骨組みは、タンパク質接着、従って、間質細胞が接着する、より広い表面積を提供する;
(b)骨組みが三次元的であるために、単層培養の細胞とは対照的に、間質細胞が活発に増殖し続ける。単層培養の場合には、増殖して集密に達すると、接触阻止を呈し、増殖および分裂を停止する。間質細胞を複製することによる増殖および調節因子の生成が、培養する細胞の増殖の刺激、ならびに、分化の調節の部分的原因と考えられる;
(c)三次元的骨組みにより、in vivoの対応組織に存在するものにさらに類似した細胞成分の部分的分布が可能になる;
(d)三次元的系での細胞増殖の見込み量の増加により、細胞成熟の助けとなる局在化した微環境を確立することができる。
【0058】
(e)三次元的骨組みは、接着層中のマクロファージ、単球、また恐らくリンパ球等の泳動細胞の運動能力を高めることにより、細胞−細胞間の相互作用を最大化する;
(f)分化した細胞表現型を維持するには、増殖/分化因子だけではなく、適した細胞間相互作用も必要であることが認められている。本発明は、組織の微環境を効果的に再形成することにより、優れたならし培地をもたらす。
【0059】
5.3.三次元的間質組織の樹立
三次元的支持体または骨組みは、(a)細胞をそれ自体に接着させることができる(もしくは、細胞をそれ自体に接着させるように改変することができる);(b)細胞を2層以上に増殖させることができるものであれば、どんな材料および/または形状であってもよい。多種の材料を用いて、骨組みを形成することができ、このような材料は、限定するものではないが、下記を含む:非生分解性材料、例えば、ナイロン(ポリアミド)、ダクロン(ポリエステル)、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリアクリル酸エステル、ポリビニル化合物(例えば、ポリ塩化ビニル)、ポリカーボネート(PVC)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE;テフロン)、サーマノックス(TPX)、ニトロセルロース、綿;ならびに、生分解性材料、例えば、ポリグリコール酸(PGA)、コラーゲン、コラーゲン海綿、腸線縫合材料、セルロース、ゼラチン、デキストラン、ポリアルカノエート等。これら材料のいずれも、例えば、メッシュ状に織る、編組する、編む等により、三次元的骨組みを形成することができる、また、この骨組みも、矯正構造物として所望するあらゆる形状、例えば、管、ロープ、フィラメントに形成することができる。ナイロン、ポリスチレン等の特定の材料は、細胞接着には不向きの基質である。これら材料を三次元的骨組みとして用いる場合には、間質細胞の接種前に、骨組みを前処理することにより、支持体への間質細胞の接着を増強することが勧められる。例えば、間質細胞を接種する前に、ナイロン製骨組みを0.1 M酢酸で処理し、ポリリジン、FBSおよび/またはコラーゲン中でインキュベートすることにより、該ナイロンを被覆してもよい。ポリスチレンは、硫酸を用いて、同様に処理することができる。
【0060】
培地を馴化する培養物をin vivo移植しようとする場合には、例えば、ポリグリコール酸、コラーゲン、コラーゲン海綿、コラーゲン織物、腸線縫合材料、ゼラチン、ポリ乳酸、もしくは、ポリグリコール酸およびそれらコポリマー等の生分解性マトリックスを使用するのが好ましいであろう。培養物を長期間維持する、あるいは、凍結保存しようとする場合には、ナイロン、ダクロン、ポリスチレン、ポリアクリル酸エステル、ポリビニル、テフロン、綿等の非生分解性材料が好ましい。本発明に従い使用することのできる好適なナイロンメッシュは、孔の平均的大きさが210μmで、ナイロン繊維の平均直径が90μmのNitex、ナイロン製ろ過メッシュ(#3-210/36, Tetko, Inc., N.Y.)である。
【0061】
繊維芽細胞、間充織幹細胞、肝貯蔵細胞、神経幹細胞、膵幹細胞および/または胚性幹細胞を含んで成り、前述のその他の細胞および成分を含む、あるいは、含まない間質細胞を上記骨組みに接種する。また、疎性結合組織に存在する細胞を繊維芽細胞と一緒に、三次元的支持体に接種することができる。このような細胞は、限定するものではないが、平滑筋細胞、内皮細胞、周皮細胞、マクロファージ、単球、プラズマ細胞、肥満細胞、脂肪細胞等を含む。すでに説明したように、胎児繊維芽細胞を用いて、多種多様な細胞および/または組織の増殖を支持する「一般的」三次元的間質マトリックスを形成することができる。しかしまた、培養しようとするものと同じ種類の組織に由来する、および/または、本発明の三次元的系による培地で増殖させた細胞および/または組織を後に受ける特定の個体由来の繊維芽細胞を三次元的骨組みに接種することにより、「特異的」間質組織を調製することもできる。
【0062】
このように、本発明の一実施形態では、特定の組織特異的間質細胞を培養することができる。例えば、限定するものではないが、繊維芽細胞、内皮細胞、マクロファージ/単球、脂肪細胞および細網細胞を含む造血組織の間質細胞を用いて、in vitroで骨髄の長期培養のための三次元的サブコンフルエント培養の間質を形成することができる。造血間質細胞は、低い遠心力、例えば、3,000Xgでの遠心分離により、骨髄懸濁液中に形成される「軟膜」から容易に取得することができる。動脈の内壁を構成する間質層では、高い比率の非分化平滑筋細胞をさらに加えることにより、タンパク質に弾性を付与することができる。肝臓の間質細胞は、繊維芽細胞、クッパー細胞、ならびに、血管および胆管内皮細胞を含んでいてよい。同様に、神経膠細胞を間質細胞として用いることにより、神経細胞および組織の増殖を支持することができる。この目的で用いられる神経膠細胞は、胚または成体脳のトリプシン処理またはコラゲナーゼ消化により取得することができる(PontenおよびWestermark, 1980, Federof, S. Hertz, L., 編 ”Advances in Cellular Neurobiology”, Vol. 1, New York, Academic Press, pp. 209-227)。三次元的間質細胞培養での細胞の増殖は、タンパク質(例えば、コラーゲン、弾性線維、細網線維)、糖タンパク質、グリコサミノグリカン(例えば、ヘパラン硫酸、コンドロイチン-4-硫酸、コンドロイチン-6-硫酸、デルマタン硫酸、ケラチン硫酸等)、細胞マトリックス、および/またはその他の材料を骨組みに添加する、あるいは、支持体にコーティングすることにより、さらに増強することができる。
【0063】
さらにまた、間充織幹細胞(直系の拘束または非拘束前駆細胞)は、骨組みへの接種に有利な「間質」細胞である。該細胞は、骨細胞、腱および靭帯の繊維芽細胞、骨髄幹細胞、脂肪細胞、ならびに、結合組織のその他の細胞、軟骨細胞に分化するが、この分化はもちろん、内生または補充された増殖および調節因子や、増殖および/または分化を調節するプロスタグラジン、インターロイキン、および天然のカローンを含むその他の因子に左右される。
【0064】
繊維芽細胞は、繊維芽細胞の供給源として役立つ、適した器官または組織を離解することにより、容易に単離することができる。これは、当業者には公知の方法を用いて、容易に達成される。例えば、組織または器官を機械的に離解する、および/または、隣接する細胞間の結合を弱める消化酵素および/またはキレート剤で処理することにより、細胞を大きく破壊することなく、個々の細胞の懸濁液に組織を分散させることができる。酵素による解離は、組織を細かく刻み、刻んだ組織を、多数の消化酵素のいずれか(単独または組み合わせて)で処理することにより、達成することができる。これら消化酵素は、限定するものではないが、トリプシン、キモトリプシン、コラゲナーゼ、エラスターゼ、および/またはヒアルロニダーゼ、DNアーゼ、プロナーゼ、ジスパーゼ等を含む。また、限定するものではないが、いくつか例を挙げれば、粉砕機、ブレンダー、ふるい、ホモジナイザー、圧力セル、もしくは、超音波処理装置(insonator)の使用を含む、多数の方法により、機械による破壊も達成が可能である。組織離解方法について、詳しくは、Freshney, Culture of Animal Cells: A Manual of Basic Technique, 2nd Ed., A. R. Liss, Inc., New York, 1987, Ch. 9, pp. 107-126を参照されたい。
【0065】
組織を個々の細胞の懸濁液の状態にしたら、該懸濁液を小集団に分画し、これらから、繊維芽細胞および/またはその他の間質細胞および/または成分を取得することができる。これはまた、限定するものではないが、特定種の細胞のクローニングおよび選択、不要細胞の選択的破壊(負の淘汰)、混合集団における細胞の凝集性差異に基づく分離、凍結解凍法、混合集団における細胞の接着性差異、ろ過、通常の遠心法および分画遠心法、遠心ふるい(逆流遠心法)、単位重力分離、向流分配、電気泳動、ならびに、蛍光活性化細胞選別を含む標準的細胞分離方法を用いて、達成することも可能である。クローン選択および細胞分離方法について詳しくは、Freshney, Culture of Animal Cells: A Manual of Basic Technique, 2nd Ed., A. R. Liss, Inc., New York, 1987, Ch. 11, pp. 137-168を参照されたい。
【0066】
繊維芽細胞の単離は、例えば、次のように実施することができる:新鮮な組織をハンクス緩衝塩類溶液(HBSS)中で入念に洗浄し、細かく刻むことにより、血清を除去する。刻んだ組織を、新しく用意したトリプシン等の解離酵素の溶液中で、1〜12時間インキュベートする。インキュベートした後、解離細胞を懸濁し、遠心分離によりペレット化し、培養皿に塗布する。繊維芽細胞はすべて、他の細胞が接着する前に接着することから、適切な間質細胞を選択的に単離および増殖させることができる。次に、単離した繊維芽細胞を集密状態まで増殖させ、集密培養物から回収して、三次元的マトリックスに接種する(Naughtonら、1987, J. Med. 18(3および4)219-250)。例えば、約106〜5×107細胞/mlの高濃度での間質細胞の三次元的骨組みへの接種により、さらに短い期間で、三次元的間質組織が樹立される。
【0067】
間質細胞の接種後、適した栄養培地において、三次元的骨組みをインキュベートしなければならない。すでに述べたように、RPMI 1640、フィッシャー(Fisher’s)培地、イスコフ(Iscove’s)培地、マッコイ(MacCoy’s)培地等、多くの市販の培地が使用に適している。インキュベート時間中、三次元的間質細胞培養物を培地に懸濁または浮遊させることにより、増殖活性を最大化することが重要である。培養物を定期的に「供給」し、本発明のならし培地を回収した後、以下の第5.6節および第5.7節に記載するように処理する。従って、培養させようとする組織および所望のコラーゲンの種類に応じて、適した間質細胞を選択して、三次元的マトリックスに接種することができる。
【0068】
三次元的間質細胞培養物をインキュベートする間、増殖する細胞がマトリックスから放出される可能性がある。これらの放出された細胞は、培養容器の壁に付着し、そこで、増殖を続けて、集密単層を形成する恐れがある。これは、例えば、供給中に、放出細胞を除去する、あるいは、三次元的間質培養物を新しい培養容器に移すことにより防止しなければならない。容器中に集密単層が存在すると、三次元的マトリックスおよび/または培養物における細胞増殖の「停止」を招くことになる。コンフルエントな単層の除去、もしくは、新しい容器中の新鮮な培地への移植により、三次元的培養系の増殖活性が保存される。必要に応じて、本発明のならし培地を処理することにより、全細胞を一切含まないようにできる(もちろん、全細胞を特定の用途に用いる場合を除く)ことに留意すべきである。このような除去または移植は、25%集密を超える間質単層を有するすべての培養容器で実施しなければならない。これ以外にも、培養系を攪拌することにより、放出された細胞の付着を防ぐか、あるいは、定期的に培養物を供給するのではなく、新鮮な培地が培養系を連続的に流れるように、培養系を調製することも可能である。流量を調節して、三次元的培養物内の増殖を最大化すると同時に、培養物から放出される細胞を洗浄および除去することにより、これら細胞が容器の壁に付着し、集密状態まで増殖しないようにする。
【0069】
実質細胞等、その他の細胞を、三次元的生存間質組織に接種および増殖させることも可能である。
【0070】
5.4.三次元的間質マトリックスへの組織特異的細胞の接種、ならびに、培養物の維持
三次元的間質細胞培養物が、適した度合いの増殖に到達したら、培養しようとする組織特異的細胞(実質細胞)または表面層細胞等の追加細胞を生存間質組織に接種することもできる。細胞をin vitroで生存間質組織上に増殖させることにより、天然組織の培養対応物を形成し、生理的レベルに類似した比で、培地に細胞外生成物を生成することにより、培地を馴化する。高い濃度の接種材料が有利であり、これにより、低濃度のものと比べてはるかに早く培養物の増殖が増加する。接種用に選択される細胞は、培養すべき組織に応じて異なり、限定するものではないが、例をいくつか挙げるなら、骨髄、皮膚、肝臓、膵臓、腎臓、神経組織、副腎、粘膜上皮、平滑筋を含む。このような細胞は、所定の増殖因子等の特徴的な細胞外タンパク質を培地中に生成し、これにより、特定用途の所定組織について最適化された培地が得られる。
【0071】
例えば、制限するものではないが、様々な上皮細胞を三次元的生存間質組織上で培養することができる。このような上皮細胞の例として、限定するものではないが、角化細胞、口腔粘膜および胃腸(G.I.)管細胞が挙げられる。このような上皮細胞は、当業者には公知の方法に従い、組織の酵素処理により単離した後、これらの細胞を培養して増殖(expansion)させ、上皮細胞を三次元的間質支持体細胞マトリックスに施す。間質支持体の存在により、上皮細胞の正常分裂および分化を促進する増殖因子およびその他のタンパク質が提供される。
【0072】
一般に、この接種材料は、当該組織の「幹」細胞(「補充」細胞とも呼ばれる)、すなわち、その組織の様々な成分を形成する特異的細胞に成熟する新しい細胞を生成する細胞を含んでいなければならない。
【0073】
接種に用いられる実質またはその他の表面層細胞は、上記第5.3節に記載した間質細胞取得の標準的方法を用いて、所望の組織を離解することにより、調製される細胞懸濁液から得ることができる。全細胞懸濁液自体を用いて、三次元的の生存間質組織に接種することもできる。その結果、ホモジネートに含まれる再生細胞は、マトリックス上で適切に増殖、成熟および分化するが、非再生細胞の方は増殖、成熟および分化しない。これ以外にも、第5.1節に記載した間質細胞の標準的分画方法を用いて、特定の種類の細胞を細胞懸濁液の適した画分から単離することも可能である。「幹」細胞または「補充」細胞を容易に単離できる場合には、これらを用いて、好ましくは、三次元的間質支持体に接種することができる。例えば、骨髄を培養する場合には、三次元的間質に、新鮮な骨髄細胞、または、凍結保存サンプルの骨髄細胞のいずれも接種することができる。皮膚を培養する場合には、三次元的間質に、メラノサイトおよび角化細胞を接種することができる。また、肝臓を培養する場合には、三次元的間質に、肝細胞を接種することができる。膵臓を培養する場合には、三次元的間質に、膵臓内分泌細胞を接種することができる。各種組織から実質細胞を取得するのに使用できる方法について、詳しくは、Freshney, Culture of Animal Cells. A Manual of Basic Technique, 2nd Ed., A. R. Liss, Inc., New York, 1987, Ch. 20, pp. 257-288を参照されたい。
【0074】
実際、接種前の間質マトリックスに付着させた様々な比率の各種コラーゲンによって、後に接種する組織特異的細胞の増殖に影響を与えることができる。例えば、造血細胞の最適増殖のために、マトリックスは、初期マトリックスにおいて、約6:3:1の比で、III型コラーゲン、IV型コラーゲンおよびI型コラーゲンを含むのが好ましい。三次元的皮膚培養系では、IおよびIII型コラーゲンを初期マトリックスに付着させるのが好ましい。付着させるコラーゲン型の比率は、適したコラーゲン型を生成する繊維芽細胞を選択することにより、操作または増強することができる。これは、補体を活性化することができ、しかも、特定のコラーゲン型を識別する適切なイソタイプまたはサブクラスのモノクローナル抗体を用いて達成することができる。これらの抗体および補体を用いて、所望のコラーゲン型を発現する繊維芽細胞の負の淘汰を実施することができる。あるいは、マトリックスに接種するのに用いる間質細胞は、所望の適切なコラーゲン型を合成する細胞の混合物であってもよい。各コラーゲン型の分布および起源を表1に示す。
【0075】
【表1】

【0076】
インキュベーションの間、三次元的細胞培養系は、栄養培地に懸濁または浮遊させるほうがよい。培養物は、新しい培地を定期的に補給しなければならない。ここでもまた、培養物から遊離される細胞が容器の壁面に付着しないように注意を払うべきであり、その壁面においては、該細胞は増殖してコンフルエントな単層を形成する可能性がある。三次元的培養物からの細胞の遊離は、構造的組織とは相対するびまん性組織を培養した場合に一層容易に起こると考えられる。例えば、本発明の三次元的皮膚培養物は、組織学的および形態学的に正常であり、明らかにそれと分かる真皮層および上皮層は周囲の培地に細胞を遊離させない。対照してみると、本発明の三次元的骨髄培養物は、成熟した非付着性細胞を、かかる細胞がin vivoで骨髄において放出されるのとほぼ同様のやり方で、培地に放出する。先に説明したように、放出された細胞は培養容器に付着し、コンフルエントな単層を形成するはずであり、三次元的培養物の増殖は「停止」するであろう。これは、栄養分の供給や新しい容器に移しかえる際に遊離した細胞を除去することにより、培養物を攪拌して遊離した細胞の容器壁面への付着を防止することにより、または培養物中への栄養分の補給および遊離細胞を除去するのに十分な速度で新しい培地を連続的に流すことにより、回避できる。先に述べたように、ならし培地を処理して、必要があれば、全細胞および細胞破砕物を含まないようにする。
【0077】
培養下の細胞の増殖および活性は、例えばインスリン、成長ホルモン、ソマトメジン、コロニー刺激因子、エリスロポエチン、上皮増殖因子、肝エリすロポエチン様因子(ヘパトポエチン)および肝細胞増殖因子などの種々の増殖因子により影響を受けることがある。増殖および/または分化を調節する他の因子としては、プロスタグランジン、インターロイキンおよび天然のケイロンが挙げられる。
【0078】
5.5.遺伝子操作した構築物
別の実施形態において、培地を馴化する三次元的構築物は、該培地に、例えば組織欠陥の修復および/または再生を促進する遺伝子産物を導入するための媒体(vehicles)として作用しうる。細胞は、例えばIL-6、IL-8およびG-CSFなどの炎症性メディエーターを発現するように遺伝子操作できる。あるいはまた、細胞は、抗GM-CSF、抗TNF、抗IL-1および抗IL-2などの抗炎症性因子を発現するように遺伝子操作してもよい。
【0079】
別の実施形態において、細胞は、例えば軟骨産生を刺激するためのTGF-βの産生、軟骨形成を促進するためのBMP-13などの他の因子の産生、または間質細胞の移動および/もしくはマトリックスの付着を促進する刺激因子の産生などにおいて、治療効果を示す遺伝子を培地中に発現させるように遺伝子操作することができる。この構築物は真核細胞を含むので、遺伝子産物は、活性のある産物を生成するように適切に発現され処理される。好ましくは、用いる発現調節エレメントが、産物が培養下で過剰合成できるように遺伝子の発現を調節しうる。一般に選ばれる転写プロモーター、特にプロモーターエレメントは、一部、培養する組織および細胞の種類に応じて決まる。タンパク質を分泌できる細胞および組織が好ましい(例えば、粗面小胞体およびゴルジ複合体オルガネラを豊富に含むもの)。過剰産生された遺伝子産物は、次に、遺伝子操作された細胞によりならし培地中に分泌される。
【0080】
培地を馴化するのに用いる細胞は、1つ以上の遺伝子を調節するように遺伝子操作することができる。あるいは、遺伝子発現の調節は、一過性であってもよいし、長期にわたるものであってもよく、遺伝子の活性は非誘導性であっても誘導性であってもよい。
【0081】
また、培地を馴化する細胞は、炎症を促進する因子の発現を「ノックアウト」するように遺伝子操作することもできる。標的遺伝子の発現レベルまたは標的遺伝子の産物の活性レベルを低減させるための負の調節法については後記で述べる。本明細書中で用いる「負の調節」とは、その調節処理を行わない場合の標的遺伝子産物のレベルおよび/または活性と比べた場合、標的遺伝子の産物のレベルおよび/または活性が低減することを指す。細胞にとって負である遺伝子の発現を、多岐に渡る技術を用いて低減またはノックアウトさせることができ、例えば、標準的な相同組換え技術を用いてその遺伝子を完全に不活性化すること(一般に「ノックアウト」と呼ぶ)により発現を阻止できる。通常、タンパク質の重要な領域をコードするエキソン(または、その領域の5’側のエキソン)は、正の選択マーカー(例えばneo)により分断され、標的遺伝子からの正常なmRNAの生成を阻止して、その遺伝子の不活性化が起こる。またある遺伝子は、遺伝子の一部に欠失または不活性化するための挿入を作ることにより、あるいは遺伝子全体を欠失させることにより不活性化することもできる。標的遺伝子に対して相同性を有し、かつゲノム中ではかなり離れている2つの領域を有する構築物を用いることにより、それら2つの領域の間に挟まれる配列を欠失させることができる(Mombaertsら, 1991, Proc. Nat. Acad. Sci. U.S.A. 88:3084-3087)。あるいはまた、遺伝子は、上流または下流の発現エレメントを欠失させることにより不活性化してもよい。
【0082】
また、標的遺伝子の発現を抑制するアンチセンス分子およびリボザイム分子を本発明に用いて、標的遺伝子の活性レベルを低減させることも可能である。例えば、主要組織適合性遺伝子複合体(HLA)の発現を抑制するアンチセンスRNA分子は、免疫応答に関して最も多様に作用することが示されている。さらに、適切なリボザイム分子は、例えばHaseloffら, 1988, Nature 334:585-591;Zaungら, 1984, Science 224:574-578;ならびにZaugおよびCech, 1986, Science 231:470-475に記載のようにして設計することができる。その上さらに、標的遺伝子の活性レベルを低減させるのに、三重らせん分子を利用することができる。これらの技法は、L.G.Davisら(編),Basic Methods in Molecular Biology, 第2版, Appleton & Lange, Norwalk, Conn. 1994により詳細に記載されている。
【0083】
本発明の細胞を遺伝子操作するのに有用でありうる方法は当業界で公知であり、本出願人らの米国特許第4,963,489号および同第5,785,964号にさらに詳細に述べられており、これらの特許の開示内容は参照により本明細書に組み入れる。例えば、外来性核酸(例えば、目的の遺伝子産物をコードするもの)を含む組換えDNA構築物またはベクターを構築し、それを用いて、本発明の間質細胞を形質転換またはトランスフェクションすることができる。外来性核酸を担持し、その核酸を発現できるそのような形質転換細胞またはトランスフェクトされた細胞を選択し、本発明の三次元的構築物内でクローンとして拡大培養する。
【0084】
対象の遺伝子を含むDNA構築物の調製方法、細胞を形質転換もしくはトランスフェクトする方法、ならびに目的の遺伝子を担持しそれを発現する細胞の選択方法は、当業界で公知である。例えば、Maniatisら, 1989, Molecular Cloning, A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y.;Ausubelら, 1989, Current Protocols in Molecular Biology, Greene Publishing Associates & Willey Interscience, N.Y.;およびSambrookら, 1989, Molecular Cloning: A Laboraotry Manual, 第2版, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y.に記載の技法を参照されたい。
【0085】
細胞は、さまざまなベクターの任意のものを用いて操作することができ、かかるベクターとしては、レトロウイルスベクターもしくはアデノ随伴ウイルスベクターなどの組込み型ウイルスベクター;またはパピローマウイルスベクター、SV40ベクター、アデノウイルスベクターなどの非組込み複製型ベクター;または複製欠損型ウイルスベクターが挙げられるが、それらに限定されない。一過性の発現が望まれる場合には、非組込み型ベクターおよび複製欠損型ベクターが好ましいものになりうる。何故ならば、これらの系では、目的の遺伝子の発現を調節するために、誘導性プロモーターまたは恒常性プロモーターのいずれかが使用できるからである。あるいはまた、組込み型ベクターを用いて一過性の発現を達成することが可能であるが、但し、これは目的の遺伝子が誘導的プロモーターにより調節される場合に限る。DNAを細胞に導入するための他の方法としては、リポソームの使用、リポフェクション、エレクトロポレーション、パーティクルガン、または直接のDNA注入が挙げられる。
【0086】
細胞は、好ましくは、DNAなどの核酸を用いて形質転換もしくはトランスフェクトされ、特にプロモーターもしくはエンハンサー配列、転写ターミネーター、ポリアデニル化部位、および選択マーカーなどの1種以上の適切な発現調節エレメントにより(すなわち、該エレメントに機能しうる形で連結した状態で)調節される。外来DNAを導入した後、遺伝子操作した細胞は、富化培地で増殖させ、次に選択培地に切り替えればよい。外来DNA中の選択マーカーは、選択に対する耐性を付与し、細胞が例えばプラスミド上の外来DNAをその染色体に安定に組み込み、増殖してフォーカスを形成することを可能にする。次いでそのフォーカスをクローニングし、細胞系へと拡大培養できる。この方法は、有利なことに、遺伝子産物を培地中に発現する細胞系を作製するのに用いることができる。
【0087】
挿入した遺伝子の発現を駆動させるためには、どのようなプロモーターも使用可能である。例えば、ウイルス性プロモーターとしては、CMVプロモーター/エンハンサー、SV40、パピローマウイルス、エプスタイン−バールウイルス、エラスチン遺伝子プロモーターおよびβ-グロビンが挙げられるが、それらに限定されない。好ましくは、対象の遺伝子の発現を調節するのに用いる調節エレメントは、産物がin vivoにて必要な場合にだけ合成されるように該遺伝子の発現の調節を可能にするものである。一過性発現が望ましい場合には、非組込み型および/または複製欠損型ベクターにおいて恒常性プロモーターを用いるのが好ましい。あるいはまた、誘導性プロモーターを用いて、必要に応じて挿入遺伝子の発現を駆動することも可能である。誘導性プロモーターは、組込み型および/または複製型ベクターに組み込むこともできる。例えば、誘導性プロモーターとしては、メタロチオネインおよび熱ショックタンパク質が挙げられるが、それらに限定されない。
【0088】
1つの実施形態によれば、対象の外来性遺伝子を発現させるために用いる誘導性プロモーターは、本明細書中に開示する調節タンパクの負のプロモーターであり、これらは、低温保存およびそれに続く解凍により誘導される。例えば、TGF-β、VEGF、または種々の既知の熱ショックタンパク質のプロモーターが、発現調節エレメントとして使用可能であり、すなわち、これらは、細胞培地を馴化する組織構築物中で所望の遺伝子産物を発現させるために、対象の外来性遺伝子に機能しうる形で連結させることができる。
【0089】
作製された遺伝子産物の細胞内での恒常性または一過性発現を達成するためには、様々な方法が使用可能である。例えば、Seldonら, 1987, Science 236:714-718により記載されているトランスカリオティック(transkaryotic)移植法が使用できる。本明細書中で用いる「トランスカリオティック(transkaryotic)」とは、移植した細胞の核が、安定または一過性のトランスフェクションによるDNA配列の付加により改変されていることを示唆するものである。好ましくは、その細胞は、そのような遺伝子産物を、術後回復期の間に一過性にかつ/または誘導的調節下で、あるいは間質細胞に固定されたキメラ融合タンパク質として(例えば細胞外ドメインとしての遺伝子産物に融合した、受容体または受容体様分子の細胞内および/または膜貫通ドメインから構成されるキメラ分子として)発現するように作製される。
【0090】
さらに、外来遺伝子産物、増殖因子、調節因子などを含む細胞外マトリックスを含む構築物を調製し、それらが後にならし培地中に存在することが望ましい場合がある。この実施形態形態は、ヒト間質細胞が、三次元的支持体フレームワーク上で増殖する際に、ヒト細胞外マトリックスを、正常なヒト組織において生成されるのと同様に合成し該フレームワーク上に付着させるという知見に基づく。この細胞外マトリックスは、細胞によって局所的に分泌されて、細胞および組織を共に結合させるだけでなく、それが接触する細胞の発達および挙動に影響を及ぼす。細胞外マトリックスは、種々の結合組織タンパク質、例えば網目を構成するグリコサミノグリカン鎖の水和ゲルに絡み合っている繊維形成タンパク質を含む。グリコサミノグリカンは長く、負に荷電した多糖鎖の異質性の類であり、これらは(ヒアルロン酸を除いて)タンパク質に共有結合してプロテオグリカン分子を形成する。本発明のこの実施形態によれば、間質細胞は、所望の遺伝子産物または遺伝子産物の改変型を発現するように遺伝子操作することができ、これら遺伝子産物またはその改変型は、細胞外マトリックス中に存在し、最終的には細胞培地中に存在することとなる。
【0091】
5.6.ならし培地の回収
細胞は、当業界で公知のいかなる手段によって培養してもよい。好ましくは、細胞は、無菌的処理および取扱を可能にする環境下で培養される。細胞および組織培養の従来の手段は、人間による培地の管理・処理が必要なことにより制約を受けている。これは、1回に培養できる細胞および組織の量、ひいては1回に得られるならし細胞培地の容量を制限している。この理由により、例えば同出願人による米国特許第5,763,267号(「’267特許」)に記載されているような無菌的大規模培養のための装置を用いて、大規模な増殖(大量のならし培地をもたらす)が可能である様式で培地を馴化することが好ましい。なお、米国特許第5,763,267号はあらゆる目的で参照によりその全体を本明細書に組み入れる。’267特許(米国特許第5,763,267号)に記載されている無菌的閉鎖系を用いると、予め馴化された培地は流体用レザーバーから入口マニホールド(inlet manifold)へと移動して、連続的流動システム内で培養物中に均等に分配され、流体システム、例えばDermagraft(登録商標)などの細胞および組織の三次元的培養物の培養に有用である。特に、’267特許に記載されている装置は、1つ以上の個別の培養ポケットを含む複数の柔軟性または半柔軟性のある処理用チャンバー、複数の硬質スペーサー、流体入口マニホールド、流体出口マニホールド(outlet inlet manifold)、流体用レザーバー、および該システム内で流体を移送するための手段を備える。
【0092】
処理の間、液体培地は、流体用レザーバーから入口マニホールドへと移動し、次に連結している処理用チャンバーおよび内在培養ポケットの各々に該培地を均等に分配する。流体出口マニホールドはまた、各処理用チャンバーが確実かつ均等に満たされるように、処理の間に発生する気泡が処理用チャンバーから確実に除去されるようにするために備わっている。処理用チャンバーは、培養した移植片の洗浄および適用の際に末端ユーザーが容易に取り扱いできるように、柔軟性または半柔軟性である。処理用チャンバーが柔軟性であるために、硬質のスペーサーも設けられており、これは、処理の間に該チャンバー内に流体が確実に均等に分配されるようにする。適切な時点で(すなわち、増殖因子などの細胞外タンパク質が培地中で所望のレベルに達するまで培地を馴化したら)、「ならし」培地をシステムからポンプで汲み出し、処理して使用する。好ましくは、ならし細胞培地は、組織の増殖の後期であって特定の増殖因子および結合組織タンパク質の分泌レベルが最大レベルにある時(図1を参照)に、該装置から回収される。1つの好ましい実施形態では、三次元的細胞培養物で馴化された培地は、該培地を細胞に曝露した後、培養の10日目〜14日目に回収する。
【0093】
別の実施形態において、三次元的組織は、米国特許第5,843,766号(「’766特許」)(あらゆる目的で参照によりその全体を本明細書に組み入れる)に記載されているような三次元的組織培養物の無菌的増殖用の装置内で培養する。’766特許は、組織培養チャンバーを開示しており、このチャンバーは三次元的組織の増殖を行う容器であり、その三次元的組織は、同じ無菌容器の中で増殖させ、凍結形態で保存し、末端ユーザーに搬送することができる。この組織培養チャンバーは、その表面上での三次元的の組織の増殖を容易にするように設計された基体を内部に含む容器を備える。該容器は、培地の流入および流出を補助する流入口および流出口を備える。また該容器は、少なくとも1個の流体分配器を備える。1つの実施形態において、この流体分配器はバッフル(baffle)であり、これは、チャンバー内での培地の流れを分配して、1つの連続した均一の三次元的組織片を作り出すのに用いる。第2の実施形態では、この流体分配器は、デフレクター板と、分配チャンネルと、流体チャンネルとの組合せである。各実施形態において、該容器はさらに、組織の増殖および保存の際にチャンバー内部を確実に無菌的環境にするための密閉器を備える。ここでもまた、培地は、組織の増殖の後期であって増殖因子および結合組織タンパク質の分泌レベルがその最大レベルにある時(図1参照)に、装置から回収されることが好ましい。1つの好ましい実施形態では、三次元的細胞培養物により馴化された培地は、該培地を細胞に曝露させた後、培養の10〜14日目に回収される。
【0094】
5.7.ならし培地の濃度
細胞ならし培地を回収した後、得られた上清をさらに処理することが必要な場合がある。そのような処理としては、水流束濾過装置(water flux filtration device)による、またはCell & Tissue Culture: Laboratory Procedures, 前掲, pp 29D: 0.1-29D:0.4に記載されている方法を用いるデフィルトレーション(defiltration)による濃縮が挙げられるが、それに限定されない。
【0095】
さらに、培地は、10,000mlカットオフのフィルターを備える加圧濃縮装置(Amicon, Beverly, MA)を用いて10〜20倍に濃縮してもよい。
【0096】
また、ならし培地を、例えば不要なプロテアーゼを除去するなどの、生成物の単離および精製のためにさらなる処理をしてもよい。最適な生物学的活性が維持されるように生成物を単離および精製するのに用いる方法は、当業者には容易に明らかである。例えば、増殖因子、調節因子、ペプチドホルモン、抗体などを精製することが望ましいと考えられる。そのような方法としては、ならし培地のゲルクロマトグラフィー[セファデックス(Sephadex)などの担体を用いるもの]、イオン交換、架橋アガロースなどの不溶性担体を用いる金属キレートアフィニティクロマトグラフィー、HPLC精製および疎水性相互作用クロマトグラフィーが挙げられるが、それらに限定されない。そのような技法は、Cell & Tissue Culture: Laboratry Procedures, 前掲に非常に詳細に記載されている。もちろん、ならし培地および/またはそれから誘導される生成物の目的とする用途に応じて、無菌性を維持するために適切な手段を取らなければならない。あるいはまた、滅菌が必要な場合があり、それは、目的の生物学的活性を維持するよう注意しながら、例えば加熱および/またはフィルター滅菌などの当業者に公知の方法により達成することができる。
【0097】
5.7.1.コラーゲンの単離
先に述べたように、本発明のならし培地は、多数の生成物を含み、それらは、該ならし培地から単離・精製できる。例えば、ヒト皮膚繊維芽細胞は、コラーゲン前駆体を合成および分泌し、これらの前駆体の画分は三次元的細胞外マトリックスに取り込まれる。この取込みには、末端ペプチド(N-およびC-ペプチド)の除去が必要であり、このことは、コラーゲン分子の溶解性を有意に低下させる(分泌されたコラーゲンの残りは、タンパク質の分解がないために溶液中に残存する)。一般に、可溶性のコラーゲンは、中性pH条件下で高い塩濃度にて得ることができる。Kielty, C.M., I. Hopkinsonら, (1993), Collagen: The Collagen Family: Structure, Assembly, and Organization in the Extracellular Matrix, Connective Tissue and Its Heritable Disorders: molecular, genetic and medical aspects. P.M.RoyceおよびB.Steinmann. New York, Wiley-Liss, Inc.: 103-149を参照のこと。本出願人らは、無血清培地、培地または三次元的培養ならし培地の存在下で培養した組織の細胞外マトリックスに分泌されるコラーゲンの量を測定することによる、三次元的組織の調製および組成におけるならし培地(三次元的で培養された細胞の増殖を予め支持しておいた培地)の効果を示すデータを提示する(6.3.節を参照)。本発明のならし培地は、図4に示すように、in vitroにおける組織のコラーゲン蓄積を有意に増大させる。
【0098】
さらに、本出願人らは、驚くべきことに、コラーゲンが、培養プロセスの間に、均一的に存在するではなく、レベルを徐々に増大させながら分泌されることを見出した(図1を参照)。したがって、本出願人らは、この知見をコラーゲンの回収の際に応用した。
【0099】
以下のプロトコールは例示のために提示されるものであり、当業者に公知の方法を用いて変更を加えることが可能であることを理解すべきである。コラーゲンを精製するために、繊維芽細胞で馴化させた培地240mLを5MのNaCl 240mLに添加し(培地と塩とが1:1の比率)、4℃で16時間沈殿させる。上清を4000×gで20分間遠心分離する。上清を捨てる。ペレットを50mM Tris-HCl(pH7.5)および2.4M NaClの溶液10mLで洗浄する。4000×gで約20分間遠心分離する。上清を捨てる。ペレットを10mLの0.5M酢酸中に再懸濁する。プロペプチドを除去するために、0.1mLのペプシン(100mg/mL)(Sigma Chemical, St. Louis, MO)を添加し、4℃で16時間消化する(これにより、プロペプチドは除去されるが、3重らせんは完全なまま残る)。上清を4000×gで20分間遠心分離する。上清を回収し、ペレットを捨てる。2.1mLの5M NaClおよび0.5M酢酸を添加して、最終容量を15mLとする(最終NaCl濃度は0.7M)。4℃で約16時間沈殿させる。上清を4000×gで20分間遠心分離し、上清を捨てる。ペレットを0.5mLの0.5M酢酸溶液に溶かす。コラーゲンの純度は少なくとも90%となるはずであり、例えばSDS-PAGEなどの当業界で公知の標準的方法により分析可能である。
【0100】
5.8.ならし培地を用いる適用
5.8.1.創傷治癒への適用
本発明のならし培地は、創傷および火傷の治癒を促進するように処理できる。組織が損傷を受けると、ペプチド性増殖因子(これは多くの生物学的活性を示す)がその創傷に放出されて、治癒を促進する。創傷の癒合は、幾つかの段階を含む複雑なプロセスであり、調節された様式で裂け目を封止し、外被として機能的に十分な能力を有する組織を形成する。このプロセスは、止血から始まり、それに続いて好中球およびマクロファージが関与する炎症期が起こる。このプロセスは、肉芽組織の発生・発達および再上皮形成と共に継続して、創傷を閉じる。続いて、瘢痕組織が形成され、その後の数ヶ月にわたってほぼ元の解剖学的構造に再構築される。健全な組織、つまり元の正常な組織と組織学的および生理学的に似かよっている機能的に十分な能力を有する組織が形成できるように、瘢痕組織はできるだけ小さいことが理想的である。
【0101】
治癒の過程の各段階では、サイトカイン、増殖因子、および炎症性メディエーターなどの調節タンパク質を介する細胞内相互作用ならびに細胞接触メカニズムによる調節がなされている。例えば、IL-6、IL-8およびG-CSFなどの炎症性メディエーターは、リンパ球の分化および急性期タンパク質、ならびに好中球の浸潤、成熟および活性化を誘導し、これは、創傷治癒の炎症段階において重要な過程である。創傷治癒の過程に関与する調節タンパク質の他の例は、VEGF(炎症の際の血管形成および肉芽組織形成を誘導する)、BMP(骨形成を誘導する)、KGF(ケラチノサイトを活性化する)、およびTGF-β1(細胞外マトリックスの蓄積を誘導する)である。表2(下記)には、ELISA(酵素結合免疫アッセイ)により求めた、Dermagraft(登録商標)組織培養物で増殖させた細胞の増殖を予め支持しておいた本発明のならし培地中に存在する幾つかの増殖因子の濃度を示す。下記の表は、因子の全てを含む一覧ではなく、本発明の培地中に存在する生物学的に活性な因子の幾つかの濃度を提示することでならし培地をさらに特徴付けるためだけに提示されている、と理解すべきである。
【0102】
【表2】

【0103】
慢性の創傷において、治癒の過程は、止血の後かつ上皮再形成の前のある時点で中断され、再開始は不可能であると思われる。創傷床で見られる炎症の大部分は感染と関連するが、この炎症は、調節タンパク質を分解するプロテアーゼに富む環境をもたらし、そのため創傷の癒合プロセスを妨害する。
【0104】
三次元的組織培養物であるTransCyte(商標)およびDermagraft(登録商標)で見られる繊維芽細胞により分泌される主な分子成分を定量し特性解析するために、様々な方法が用いられている。TransCyte(商標)およびDermagraft(登録商標)に存在するヒトのマトリックスタンパク質およびグリコサミノグリカン(GAG)としては、I型コラーゲン、III型コラーゲン、フィブロネクチン、テネイシン、デコリン、バーシカン、ベータグリカン、シンデカン、ならびに他の成分が挙げられるが、それらに限定されない(データは示さず)。これらの分泌型タンパク質およびGAGは、主要な構造的機能を発揮するだけでなく、細胞の分裂、移動、接着およびシグナル伝達を刺激する。三次元的増殖系におけるグリコサミノグリカンの蓄積(蓄積容量は増殖期間に依存性である)およびコラーゲンの蓄積(蓄積容量は増殖期間に依存性ではない)を図1に示す。これらの成分は、ELISA、ウエスタンブロット分析、免疫組織学およびPCRにより測定した。例えば、TransCyte(商標)において見られる幾つかの成分としては、I型コラーゲン、III型コラーゲンおよびVII型コラーゲン(RNA)、フィブロネクチン、テネイシン、トロンボスポンジン2、エラスチン、プロテオグリカン、デコリン、バーシカン、ならびに他の成分が含まれる(データは示さず)。組織の発達、治癒および正常な機能におけるこれらの成分の活性は、詳細に記載されている。さらに、本出願人らは、生物学的に作製されたヒトのマトリックスの、in vitroでの細胞機能に対する特定の作用を記載する。例えば、本出願人らは、細胞増殖が、生物学的に作製されたマトリックスの添加により増大することを特筆しておく。細胞増殖に対するその影響を調べるために、マトリックスをTransCyte(商標)およびDermagraft(登録商標)から物理的に取り出し、希釈率を様々に変えて、ヒト繊維芽細胞およびケラチノサイトの単層培養物に添加した。細胞増殖が増大した結果を図2に示す。
【0105】
さらに、6.3.節で詳細に述べるように、本出願人らは、三次元的組織の調製および組成に対する三次元的培養ならし培地の影響を、無血清培地、培地または三次元的培養ならし培地の存在下で培養した組織の細胞外マトリックスに分泌されるコラーゲンの量を測定することにより調べたことを特筆しておく。三次元的組織の調製および組成に対する三次元的培養ならし培地の影響が、無血清培地、培地または三次元的ならし培地で培養した組織の細胞外マトリックスに分泌されるコラーゲンの量を測定することにより調べた。図4に示すように、本発明のならし培地は、in vitroでの組織のコラーゲン蓄積を有意に増大させる。本発明は、創傷の治癒に重要と考えられ、かつ創傷治癒のin vivoのモデルでは欠乏していることが示されている調節タンパク質の多くを含む。さらに、糖尿病などの幾つかの医学的症状では、創傷の治癒に必要な調節タンパク質の幾つかの供給が不十分である。例えば、インスリン非依存性糖尿病のマウスモデル(例えばdb/dbマウス)において、創傷におけるVEGFおよびPDGFの分泌ならびにPDGF受容体の発現が全て、正常なマウスの創傷におけるレベルと比較して低下していることが判っている。
【0106】
また、かかる増殖因子の多くが、本出願人らのならし細胞培地中に見出されていることから、本発明により提供されるならし培地は、例えば外傷性または先天性などの他種の組織損傷にも有用である。この場合、組織の欠陥または損傷の修復および/または再生が望まれる。そうした増殖因子としては、例えば繊維芽細胞増殖因子(FGF)、血小板由来の増殖因子(PDGF)、上皮増殖因子(EGF)、骨形態形成タンパク質(BMP)、トランスフォーミング増殖因子(TGF)、ならびに血管形成をモジュレートするもの、例えば血管内皮増殖因子(VEGF)、ケラチノサイト増殖因子(KGF)および塩基性FGF、ならびに血管形成因子、および抗血管形成因子が挙げられる。GR78およびMSP90などのストレスタンパク質は、TGF-βなどの増殖因子を誘導する。TGF-β(TGFβ-1、TGFβ-2、TGFβ-3、TGFβ-4およびTGFβ-5を含む)は、増殖および分化を調節し、創傷の治癒を促進する(Nodaら, 1989, Endocrin. 124:2991-2995;Goeyら, 1989, J. Immunol. 143:877-880;Mutoeら, 1987, Science 237:1333-1335)。PDGFなどのマイトジェンは、組織形成における細胞質および肉芽形成の速度を増大させる(Kohlerら, 1974, Exp. Cell. Res. 87:297-301)。先に述べたように、免疫原性の問題を最低限に抑えるために、細胞はヒト由来であることが好ましい。
【0107】
本発明のならし培地は、そのような多数の創傷治癒性の因子を含むので、このならし培地は、皮膚の創傷、骨折した骨、胃潰瘍、膵臓、肝臓、腎臓、脾臓、血管の損傷、ならびに他の体内創傷をはじめとする創傷および火傷の治癒の処置に有利に用いられる。さらに、このならし培地は、抗生物質や鎮痛剤などの他の医薬成分と組み合せることが可能である。実施形態としては、局所適用用のサルブ(salve)および軟膏とともにならし培地を製剤化することが挙げられる。事実、本発明のならし培地は、ヒト繊維芽細胞およびケラチノサイトの増殖を誘導することが示されている。細胞応答の増大は、in vitroで少なくとも3日間にわたりならし培地に曝露した細胞により確認された(図3)。
【0108】
あるいはまた、ならし培地は、(接着性または非接着性の)バンデージと組み合わせて、創傷の治癒を向上および/または促進させてもよい。ならし培地は、どのような状態でも使用でき、すなわち、液体もしくは固体、凍結乾燥または乾燥して粉末にした状態で、局所的創傷治療用および抗接着適用用のフィルムとして、注射剤として、使用できる(PCT WO96/39101を参照されたい;これは参照によりその全体を本明細書に組み入れる)。
【0109】
あるいはまた、本発明のならし培地は、米国特許第5,709,854号、同第5,516,532号、同第5,654,381号およびWO98/52543号(これらの各々は参照によりその全体を本明細書に組み入れる)に記載されているような重合性または架橋性のヒドロゲルと共に製剤化してもよい。ヒドロゲルを形成するのに使用可能な物質の例としては、修飾アルギン酸塩が挙げられる。アルギン酸塩は、海草から単離された炭水化物重合体であり、例えばWO94/25080(その開示内容は参照により本明細書に組み入れる)に記載されているように、カルシウムなどの2価のカチオンに曝露することにより架橋してヒドロゲルを形成できる。アルギン酸塩は、2価のカチオンの存在下で、水中で、室温にてイオン的に架橋して、ヒドロゲルマトリックスを形成する。本明細書で用いる「修飾アルギン酸塩」なる用語は、化学的に修飾された、改変されたヒドロゲル特性を備えるアルギン酸塩をいう。
【0110】
さらに、1価のカチオンに曝露することによりゲル化する多糖類(ゲランガムなどの細菌性多糖類、カラギーナンなどの植物性多糖類を含む)は、上記のアルギン酸塩の架橋に利用可能な方法に類似の方法を用いて架橋してヒドロゲルを形成する。
【0111】
修飾ヒアルロン酸誘導体が特に有用である。本明細書で用いる「ヒアルロン酸」なる用語は、天然および化学的に修飾したヒアルロン酸をいう。修飾ヒアルロン酸は、架橋および生分解性の速度および程度を調整するための所定の化学的修飾により設計および合成できる。
【0112】
また、共有結合により架橋したヒドロゲル前駆体も有用である。例えば、キトサンなどの水溶性ポリアミンは、ポリエチレングリコールジイソシアネートなどの水溶性ジイソシアネートと架橋できる。
【0113】
あるいはまた、ラジカル開始剤と接触させた後のラジカル反応により架橋する置換基を含むポリマーを利用してもよい。例えば、WO93/17669(その開示内容は参照により本明細書に組み入れる)に開示されているような、光化学的に架橋しうるエチレン様不飽和基を含むポリマーが利用可能である。この実施形態では、少なくとも1つの水溶性領域、生分解性領域および少なくとも2つの遊離ラジカル重合領域を含む水溶性のマクロマーが提供される。これらのマクロマーの例は、PEG-オリゴラクチル-アクリレートであり、この場合、アクリレート基はエオシン色素などのラジカル開始系を用いて、あるいは紫外光もしくは可視光への短時間の曝露により重合する。さらに、Matsudaら, ASAID Trans., 38:154-157(1992)に開示されているような、光化学的に重合しうるシナモイル基を誘導する水溶性ポリマーが使用可能である。
【0114】
好ましい重合性基は、アクリレート、ジアクリレート、オリゴアクリレート、ジメタクリレート、オリゴメタクリレートおよび他の生物学的に許容される光重合性基である。アクリレートは最も好ましい活性種の重合性基である。
【0115】
天然および合成ポリマーは、当技術分野で利用可能な、例えばMarch, 「Advanced Organic Chemistry」第4版, 1992, Wiley-Intersicence Publication, New Yorkに記載されている化学反応を用いて修飾できる。
【0116】
重合は、好ましくは光開始剤を用いて開始される。有用な光開始剤は、細胞傷害性を引き起こさずに、短時間で、少なくとも数分以内に、最も好ましくは数秒以内にマクロマーの重合を開始させるのに使用可能なものである。
【0117】
多数の色素が光重合に使用できる。適切な色素は当業者に公知である。好ましい色素としては、エリトロシン、フロキシメ(phloxime)、ローズベンガル、トニン(thonine)、カンファキノン、エチルエオシン、エオシン、メチレンブルー、リボフラビン、2,2-ジメチル-2-フェニルアセトフェノン、2-メトキシ-2-フェニルアセトフェノン、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン、他のアセトフェノン誘導体、およびカンファキノンが挙げられる。適切な共触媒としては、N-メチルジエタノールアミン、N,N-ジメチルベンジルアミン、トリエタノールアミン、トリチルアミン、ジベンジルアミン、N-ベンジルエタノールアミン、-イソプロピルベンジルアミンなどのアミン類が挙げられる。トリエタノールアミンが好ましい共触媒である。
【0118】
別の実施形態では、本発明のならし培地、あるいは該培地に生じる特定の細胞外マトリックスタンパク質は、縫合糸を被覆するための優れた物質の提供のために使用できる。天然に分泌される細胞外マトリックスは、I型およびIII型コラーゲン、フィブロネクチン、テラシン(terascin)、グリコサミノグリカン、酸性および塩基性FGF、TGF-αおよびTGF-β、KGF、バーシカン、デコリンならびに種々の他の分泌型ヒト皮膚マトリックスタンパク質を含むならし培地を提供する。同様に、本発明の細胞ならし培地および該ならし培地に由来する細胞外マトリックスタンパク質は、身体の欠陥を矯正するための外科的アプローチにおいて、血管用人工器官を含む慣用の移植装置を被覆するのに使用可能であり、それにより優れた移植装置ができる。移植片は、欠損した機能を置き換えまたは代用する生体適合性で不活性な物質から作られ、非生分解性物質もしくは生分解性物質のいずれかから作られるべきである。これらの細胞外タンパク質を含む培地で移植装置を被覆することにより、移植片は適切な細胞接着をするようになり、その結果、移植部位でより優れた組織ができる。したがって、ならし培地または該培地に由来するタンパク質で被覆された縫合糸、バンデージおよび移植片は、白血球および繊維芽細胞などの細胞の損傷領域への集中を高め、細胞の増殖および分化を誘導して、創傷治癒の向上をもたらす。
【0119】
別の実施形態において、ならし培地は、ヒビクルとしての製薬上許容される体内投与のための担体と共に製剤化することができる。また、該培地をさらに処理して、該培地中に含まれる1種以上の因子または成分を濃縮または低減させてもよく、例えば、イムノアフィニティクロマトグラフィーを用いて増殖因子を富化したり、逆に本明細書に記載するような任意の所定の適用にとってあまり望ましくない成分を除去することもできる。
【0120】
もちろん、特定組織における創傷には、その特定組織で馴化した培地が必要な場合もある。例えば、神経組織の損傷は、神経細胞培養物で馴化した培地中に含まれるタンパク質を必要とする。特定の生成物が誘導させたり、場合によっては、ならし培地をイムノアフィニティクロマトグラフィーにより富化したり、または特定の培地からの目的のタンパク質(例えばNGF)の発現を増強させることもできる。NGFにより調節される特徴としては、コリン作動性の神経伝達物質の機能[アセチルコリンエステラーゼ(AChE)およびアセチルコリン合成酵素(ChAT)]、神経細胞の大きさ、およびII型NGF受容体の発現が挙げられるが、それらに限定されない。NGFは、三次元的間質組織上で培養したグリア細胞および他の神経細胞で馴化されるならし培地中に分泌され、それを神経治癒用の組成物に用いることができる。
【0121】
内在性NGFの欠乏は、ある特定のヒト神経変性障害を悪化させ、損傷を受けた成人CNSニューロンは明らかに再生不能となる。具体的に述べると、神経が損傷を受けると、その損傷から遠位にある神経繊維が変性して、細胞体からの軸索の離脱が起こる。中枢神経系では、損傷部位での有意な増殖は起こらず、典型的には、損傷を受けたニューロンは死に至る。NGFは、細胞体レベル(例えば中隔野)、介在的組織腔(例えば神経ブリッジ)および神経再支配領域(例えば海馬形成)における成人CNSコリン作動性ニューロンの再生能力において非常に重要な役割に担う。さらに、NGFは、認知欠陥の改善において有益でありうる。例えば、グリア細胞で馴化させた培地は、外因性のNGFおよび他の神経成長因子を供給して、損傷を受けた神経の切断端から新たな軸索が伸びて(成長円錐の発生)結合の元の部位まで伸展させることができる。
【0122】
さらに、脳および脊髄の損傷は、随伴する軸索変性に対するグリアの応答を伴う場合が多く、結果的に瘢痕組織となる。この瘢痕組織は、当初は神経発育に対する物理的なバリアであると考えられたが、しかし、極めて重要なことは、ニューロン外環境における神経栄養因子の存在の有無である。星状膠細胞は、損傷に応答してラミニンを合成できると考えられる(ラミニンは、細胞外マトリックスに関連する5.8.2.節でより詳細に述べるように、ならし培地中にも見出される)。コラーゲンおよびフィブロネクチン、そして特にラミニンは、in vitroでの培養したニューロンまたは神経外植片からの神経突起の成長を促進することが判っている。これらの細胞外マトリックスタンパク質は、成長円錐の前方移動および軸索の伸長を促進する接着性の下層を提供すると考えられる。したがって、神経栄養因子および支持下層の存在は、神経再生の達成に必要である。何故ならば、再生には、神経細胞体が適切な生合成応答を展開できること、そして損傷部位を包囲する環境が軸索の伸長および最終的な機能的再結合を支援できることが必要であると考えられるからである。星状膠細胞やグリア細胞などの神経系の細胞で馴化した培地は、脳および脊髄の損傷における神経再生に必要な神経栄養因子、神経成長因子および細胞外マトリックスタンパク質を含む。したがって、1つの実施形態では、ならし培地は、かかる損傷の治療用に製剤化される。
【0123】
別の実施形態において、皮膚、骨、肝臓、膵臓、軟骨および他の特定の組織の治療は、それら各々の特定の細胞種、好ましくは三次元的で培養したもので馴化した培地により治療することができる。かかる馴化により、その各々の組織型の創傷の治療に有用で特徴的な細胞外タンパク質およびその組織タイプの他の代謝産物を含むならし培地が得られる。
【0124】
また、細胞ならし培地は、均一な組織修復を促進するために歯周手術で用いられる装置に加えたり、生分解性のコンタクトレンズ、角膜シールドまたは骨移植片を提供するため、外科的空隙充填剤を提供するため、軟組織増強を促進する(特に皮膚の皺の低減を目的として皮膚において)ため、ならびに失禁の調節を目的とする尿道括約筋(urinary sphincter)を増強するために加えることも可能である。
【0125】
別の実施形態では、本組成物は、凍結乾燥して、創傷充填剤(例えば、移植用の毛栓子(hair plug)によりできた穴を充填するもの)として加えたり、既存の創傷充填用組成物に添加して、創傷の治癒を促進することができる。別の実施形態では、本培地は、遺伝子操作した細胞で馴化させて、該培地中の創傷治癒タンパク質の濃度を増大させることができる。例えば、その細胞は、任意の上記に記載した増殖因子などの遺伝子産物を発現するように作製できる。
【0126】
5.8.2. 先天性奇形、後天性欠陥および美容的欠陥の修復および矯正
本培地組成物は、先天性および後天性の種々の奇形、ならびに表面上および浸潤した美容的欠陥を修復および矯正するのに用いることもできる。例えば、本組成物は、いずれの形態で添加してもよく、ヒドロゲル、注射剤、クリーム剤、軟膏として用いてもよく、さらにはアイシャドウ、パンケーキ、メーキャップ用品、コンパクトまたは他の化粧品に添加して皮膚を局所的に補強してもよい。
【0127】
別の実施形態では、皺や、例えばUV光、種々の汚染物質への曝露および正常な加齢により引き起こされる多くの有害な影響を回復および/または予防するために、本ならし培地の局所的適用または注射、経口などの任意の公知の方法による適用がなされる。
【0128】
さらに、別の実施形態では、本発明の培地は、細胞の老化を低下させ、皮膚癌を引き起こす因子の活性を抑制するのに用いられる。ならし培地には抗酸化活性があることが7.1.節で示されている。ここでもまた、哺乳動物への適用は、局所的であってもよいし、注射、経口などの任意の公知の方法による適用であってもよい。本出願人らは、本出願人らのならし培地に曝露したヒト・ケラチノサイトにおいては、細胞内酸化の約50%の統計学上有意な(p<0.003)低下が示されたことに気づいた。
【0129】
したがって、上皮および真皮細胞の増殖、ならびにin vitroでのコラーゲンの分泌を誘導することに加えて、本発明のならし培地は、強力な抗酸化活性を持つ(図5)。また、それらの因子は比較的安定であり、TGF β1、VEGFおよびコラーゲンの含有量は37℃でpH7.4および5.5にて21日間保存した後に安定であった。―20℃で2年間保存した溶液は、安定なTGF β1およびVEGFのレベルを維持していた。
【0130】
この無菌の富化栄養溶液は、容易に大量に入手可能な、生物学的に作製した薬用化粧品であり、ヒトの皮膚、毛髪および爪における増殖因子およびマトリックス分子のレベルを補充するための様々な皮膚用、化粧品用および皮膚科学的製品の添加剤として有用でありうる。製品は、増殖因子および他の生体成分の皮膚への浸透を潜在的に最適化するためにαヒドロキシ酸の剥脱剤と共に用いること、および潜在的に治癒を促進し炎症を軽減するために化学的剥離剤と共に用いることが想定されている。
【0131】
本ならし培地は、シリコンまたは他の製品を用いるかわりに、皺、眉間の皺、および他の皮膚の症状をなくすために製剤化してもよい。ならし培地は、例えばVEGF、HGF、IL-6、IL-8、G-CSFおよびTFGβ1などの増殖因子および炎症メディエーター(5.8.1.節の表3を参照)、ならびにI型およびIII型コラーゲン、フィブロネクチン、テネイシン、グリコサミノグリカン、酸性および塩基性FGF、TGF-αおよびTGF-β、KGF、バーシカン、デコリン、βグリカン(betaglycens)、シンディーン(syndean)ならびに他の分泌型ヒト皮膚マトリックスタンパク質などの細胞外マトリックスタンパク質を含み、これらは身体的奇形や美容的欠陥を修復するのに有用である。6.3.節で詳述するように、本出願人らは、三次元的組織の調製および組成に対する三次元ならし培地の影響を、無血清培地、培地または三次元ならし培地の存在下で培養した組織の細胞外マトリックスに分泌されたコラーゲンの量を測定することにより調べたことを特筆しておく。図4に示すように、本発明のならし培地は、in vitroでの組織のコラーゲン蓄積を有意に増大させた。三次元的組織の調製および組成に対する三次元ならし培地の影響は、無血清培地、培地または三次元ならし培地の存在下で培養した組織の細胞外マトリックスに分泌されたコラーゲンの量を測定することにより調べた。もちろん、該培地を馴化するのに用いる細胞は、培地中にそのようなタンパク質を高濃度で発現するように遺伝子操作してもよい。
【0132】
本発明のならし培地は、注射用製剤に製剤化できる。あるいはまた、該ならし培地に由来する生成物を製剤化してもよい。例えば、生物学的に活性な物質、例えばタンパク質および薬物は、本発明の組成物を注射した後でこれらの活性な物質を放出または制御放出させるために、該組成物に混ぜることができる。代表的な生物学的に活性な物質としては、注射した部位での治癒および組織修復を促進するTGF-βなどの組織増殖因子を挙げることができる。生成物の精製方法としては、ならし培地のセファデックス(SEPHADEX)(登録商標)などのマトリックスを用いるゲルクロマトグラフィー、イオン交換、架橋アガロースゲルなどの不溶性のマトリックスを用いる金属キレートアフィニティークロマトグラフィー、HPLC精製、疎水性相互作用クロマトグラフィーが挙げられるが、それらに限定されない。そのような技法は、Cell & Tissue Culture: Laboratory Procedures, 前掲;Sanbrookら, 1989, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 第2版, Cold Spring Harbor Lab Press, Cold Spring Hgarbor, NY.に非常に詳細に記載されている。
【0133】
注射用薬剤の実施形態では、水系懸濁液が用いられ、この水系懸濁液の製剤は、典型的には生理学的pH(すなわち、pH6.8〜7.5程度)を有する。さらに、通常はリドカインなどの局所麻酔薬(通常、約0.3重量%の濃度)を添加して、注射の際の局所的な痛みを軽減する。最終的な製剤は、典型的には、マルトースなどの液体滑剤も含み、これは体により寛容されなければならない。代表的な滑剤成分としては、グリセロール、グリコーゲン、マルトースなどが挙げられる。また、有機ポリマー系材料、例えばポリエチレングリコールおよびヒアルロン酸ならびに非原繊維性コラーゲン、好ましくはサクシニル化コラーゲンも滑剤として作用できる。そのような滑剤は、一般に、注射する生体物質の注射部位における注入性、侵入性(intrudability)および分散性を向上させ、該組成物の粘度を変えることによりスパイキング(spiking)の量を低減させるために用いられる。最終的な製剤は、当然のことながら、処理した細胞ならし培地を製薬上許容される担体に含めたものである。
【0134】
次に、処理したならし培地を、該ならし培地を組織欠陥部位に正確に注入(placement)するために、シリンジまたは他の注入用装置に入れる。皮膚増大のための製剤の場合、「注射可能(または注射用)」なる用語は、製剤が、正常な条件下、正常な圧力下で、実質的なスパイキングなしに、25程度の低いゲージのシリンジから供給できることを意味する。スパイキングにより、該組成物は、組織に注射されずに、シリンジから漏れてしまうようになる可能性がある。この正確な注入のためには、27ゲージ(直径が200μ)程度か、せいぜい30ゲージ(直径が150μ)の細い針が望ましい。そのような針から押し出すことができる最大の粒子サイズは、少なくとも次のものの複雑な関数である:最大粒子サイズ、粒子のアスペクト比(長さ:幅)、粒子の硬さ、粒子の表面粗さおよび粒子:粒子付着に影響を及ぼす関連要因、懸濁用液体の粘弾性、ならびに針を通過する流速。ニュートン流体に懸濁した硬い球形のビーズが最も単純なケースであり、繊維状もしくは分岐した粒子を粘弾性流体に懸濁したものはより複雑なものであると考えられる。
【0135】
注射用の分泌ヒトならし培地の調製方法における上記で記載した工程は、好ましくは、無菌の条件下で無菌の物質を用いて行う。製薬上許容される担体に加えた処理したならし培地は、皮内的または皮下的に注射して、軟組織を増大させ、先天的な奇形、後天的な欠陥または美容的欠陥を修復または矯正することができる。そのような症状の例は、片側小顔面症、頬部および頬骨の形成不全、片側乳房の形成不全、漏斗胸、胸筋の無発育(ポーランド奇形)ならびに、(咽頭後移植としての)口蓋裂修復または粘膜下口蓋裂に付随する口蓋帆咽頭不全などの先天的な奇形;陥没した瘢痕、皮下萎縮(例えば、円板状エリテマトーデスに付随するもの)、角化性病変、摘出眼(uncleated eye)の眼球陥没[また上側溝症候群(superior sulcus syndrome)]、顔面の挫瘡の痘痕、皮下萎縮を伴う線状強皮症、鞍鼻変形、ロンベルク病および片側声帯麻痺などの後天的な欠陥(外傷後、術後、感染後);ならびに眉間の皺、深い鼻唇の皺、口周辺の地図状皺、窪んだ頬および乳房の発育不全などの美容的欠陥である。また、本発明の組成物を身体の括約筋を規定する組織などの内部組織に注射して、かかる組織を増大させることもできる。
【0136】
該培地を馴化するのに使用可能な他の組織タイプとしては、骨髄、皮膚、上皮細胞、および軟骨が挙げられるが、それらに限定されない。しかし、この三次元培養系は他のタイプの細胞や組織と共に使用可能であることを、はっきりと理解されたい。
【0137】
あるいはまた、本発明の細胞ならし培地は、創傷の治療について先の節に記載したように、重合性または架橋性ヒドロゲルと共に製剤化してもよい。
【0138】
5.8.3.食品添加剤および栄養補助剤
本ならし培地は、食品添加剤として使用したり、栄養補助剤に処方することができる。本発明のならし培地は、個々の食品または商品群では見られない必須アミノ酸、ミネラルおよびビタミンをはじめとする多くの有用な栄養素を豊富かつ多様に含む。本出願人らはそのように非常に多種多様な栄養素を含むバランスの取れた食品材料(母乳以外で)を知らないが、成人と乳児の双方が利用できる特別に処方された高価な液体製剤においては試みられている。細胞ならし培地および/またはそれに由来する生成物は、体重減少のため、あるいは特に第三世界諸国における食品の栄養含有量を増大させるための、バランスの取れた栄養補助剤の安価な供給源として用いることができる。該培地は無菌であり、ヒト病原体による汚染がない(すなわち無菌)。該ならし培地は、濃縮および/または凍結乾燥することが可能であり、好ましくは摂取用のカプセル剤または錠剤にして投与することが可能である。あるいはまた、該組成物を、成人用または乳児用の食品に直接添加して、栄養含有量を増大させてもよい。この栄養素に富む供給源は、比較的安価に加工でき、栄養不足の老人、特に、栄養不良に関連した、感染に対する抵抗力が低いために死亡率が増大している発展途上諸国の子供達にとって、非常に貴重なものとなりうる。
【0139】
さらに、鉄やマグネシウムなどの、このならし培地中に見られる多くの微量元素は、哺乳動物の生存および生殖(reproduction)にとって重要であり、最低限の(marginal)微量元素の欠乏は公共の健康上の問題となりうる懸念がある。種々の必須微量栄養素の摂取は、感染症だけでなく発癌の特定のステージを改変することによって癌の危険性も低下させることが示唆されている。また微量栄養素は、種々のサイトカインの産生を増強させて、侵入する病原体に対するそれらの食作用性および細胞障害性の作用を増強し、および/または種々の生きている生物において出現する前悪性細胞を破壊することにより、免疫系の機能的活性や、そのT細胞およびB細胞、特にMosおよびNK細胞の相互作用メカニズムを増強する。Chandra, R.K.(編) (1988), Nutrition and Immunology; Contemporary Issues in Clinical Nutrition, Alan R. Liss, New Yorkを参照されたい。したがって、バランスの取れた栄養素の比較的安価な供給源が必要とされている。ならし培地で強化した理想的な食品は、パン、シリアル、ならびにパスタ、クラッカーなどの他の穀物製品である。また、該培地を、該培地中に含まれる1種以上の因子または成分を濃縮または低減するために更に処理してもよく、例えば、イムノアフィニティークロマトグラフィーを用いた増殖因子の富化、または逆に、本節で記載するような任意の所定の適用にとってあまり望ましくない成分の除去が挙げられる。
【0140】
5.8.4.動物用食餌補助剤
本組成物は、動物用食餌の補助剤(supplement)として用いることもできる。1つの実施形態において、ならし培地は、畜牛や他の反芻動物(例えば乳牛、シカなど)などの哺乳動物にとって有益なタンパク質および他の因子の供給源となるウシ血清を含む。該培地を病原体についてスクリーニングしたが、ウシの病原体やマイコプラズマは含まれていない。本発明のならし培地は、好ましくは、病原体の可能性が非常に低くなるように、アメリカ合衆国で育てた乳牛から得られる。
【0141】
5.8.5.細胞培養培地
培地組成物は、細胞、特にin vitroの培養が難しい細胞を培養するために「再使用」することが可能である。慣用の増殖培地に、典型的には、本出願人らのならし培地に既に存在する因子の多くを補充する。さらに、ならし培地はまた、上記の細胞外マトリックスタンパク質などの細胞の接着および増殖を促進する因子も含んでいる。フィブロネクチンまたはコラーゲンの濃度が高くなるほど、足場または培養物表面への細胞の接着を促進するのに有利である。これらの因子を培地に添加するのではなく、ならし培地は、細胞を培養し、Dermagraft(登録商標)などの三次元的組織構築物を調製するの使用してもよい。本出願人らは、このならし培地が繊維芽細胞およびケラチノサイトの細胞増殖を増大させることを実証した(図3を参照)。細胞破砕物または他の粒子状物、ならびにプロテアーゼ、乳酸および細胞増殖にとって好ましくない他の成分は、それを細胞培養培地として再使用する前に、該培地から除去できる。この適用のためには、細胞ならし培地において血清を用いることが望ましい場合もある。血清も、支持体への細胞の接着を促進するフィブロネクチンや血清拡散因子などの接着因子を含んでいる。そのような接着は、幾つかの細胞(しかし全細胞ではない)のin vitroでの増殖に必要である。血清は、細胞増殖に必要な物質を提供するだけでなく、培養環境の安定化および解毒においてある役割を担っていることがある。例えば、血清は、有意な緩衝能を持ち、α1-アンチトリプシンやα2-マクログロビンなどの特定のプロテアーゼインヒビターを含む。血清アルブミンは、例えば10%の血清を含む培地では高レベルで存在しており、これはタンパク質分解の非特異的インヒビターとして作用しうるだけでなく、それらの遊離型では毒性である可能性がある脂溶性ビタミンおよびステロイドホルモンに結合できる。また、血清の成分は、培地成分中に存在する可能性がある重金属および反応性の有機物に結合し解毒することもある。
【0142】
5.8.6.医薬用途
本発明のならし培地は、明細書全体にわたって記述しているように、増殖因子、調節因子、ペプチドホルモン、抗体その他などの多種の有用な医薬用因子および成分を含有し、したがって、多様な医薬用途にとって有用である。また、添加することができる生成物として、限定するわけではないが、抗生物質、抗ウイルス剤、抗真菌剤、ステロイド、鎮痛剤、抗腫瘍薬、治験薬、または結果的にならし培地中の因子と相補的もしくは相乗的な組合せとなるあらゆる化合物が含まれる。前述のように、細胞を培養し、その培地を無菌条件下で回収する。その上、この培地を病原体について試験することができる。滅菌を実施する場合は、上記のように、所望の生物学的活性に与える影響が最少となる様式で実施しなければならない。培地をさらに処理して、培地内に含まれる1以上の因子もしくは成分を濃縮もしくは低減することができる。例えば、上記のいずれかの所定の用途について、イムノアフィニティークロマトグラフィーを使用して増殖因子を富化するか、または逆に必要でない成分を除去することができる。好ましい1実施形態において、三次元細胞構築物によって馴化した培地から製剤を作製する。三次元的培養は最適生理学的比率および濃度で培地中に分泌される多数種の増殖因子およびタンパク質を産生する。例えば、第5.8.1節の表2を参照されたい。したがって、この培地は独特の因子の組合せおよびin vivoで見られるものに近似した特定の比率を提供する。ウシ血清は一般的にこの用途には好ましくない。細胞砕片またはその他の特定の物質だけでなく、プロテアーゼ、乳酸、および細胞の増殖にとって有害である可能性があるその他の成分を除去することが好ましい。
【0143】
ならし培地は錠剤、カプセル、皮膚パッチ、吸入剤、点眼剤、点鼻剤、点耳剤、坐剤、クリーム、軟膏、注射剤、ヒドロゲルの形態の医薬、ならびに当業者に公知のその他の任意の適切な製剤に製剤化することができる。経口投与のためには、医薬組成物は、例えば結合剤(例えば予備ゼラチン化したトウモロコシ澱粉、ポリビニルピロリドンもしくはヒドロキシプロピルメチルセルロース);充填剤(例えばラクトース、微結晶セルロースもしくはリン酸水素カルシウム);滑剤(例えばステアリン酸マグネシウム、タルクもしくはシリカ);崩壊剤(例えば馬鈴薯澱粉もしくはグリコール酸ナトリウム澱粉);または湿潤剤(例えばラウリル硫酸ナトリウム)などの薬学上許容される賦形剤を通常通りに用いて調製した、例えば錠剤もしくはカプセルの形態とすることができる。錠剤は当分野で周知の方法を使用してコーティングしてもよい。経口投与用の液体製剤は、例えば溶液、シロップもしくは懸濁液の形態とするか、あるいは使用前に水もしくはその他の好適なビヒクルにより構成するための乾燥製品として提供してもよい。こうした液体製剤は、懸濁化剤(例えばソルビトールシロップセルロース誘導体もしくは水素化食用油脂);乳化剤(例えばレシチンもしくはアラビアゴム);非水性ビヒクル(例えばアーモンド油、油状エステル、エチルアルコールもしくは分画植物油);および保存剤(例えばメチルもしくはプロピル-p-ヒドロキシ安息香酸またはソルビン酸)などの薬学上許容される添加剤を通常通りに用いて調製することができる。また、該製剤にバッファー塩、香味剤、着色剤および甘味剤を適宜含有させてもよい。
【0144】
当業者に周知の標準的操作法を使用して、本発明の医薬製剤を各種の経路で患者に送達することができる。例えば、こうした送達は部位特異的、経口、経鼻、静脈内、皮下、皮内、経皮、筋内もしくは腹腔内投与である。また、これらを制御された徐放ビヒクルとして機能するように製剤化することができる。
【0145】
ならし培地中に含有される治療用生成物として、限定するわけではないが、酵素、ホルモン、サイトカイン、抗原、抗体、凝固因子および調節タンパク質が含まれる。治療用タンパク質として、限定するわけではないが、炎症性メディエーター、血管形成誘導因子、因子VIII、因子IX、エリスロポエチン(EPO)、アルファ1抗トリプシン、カルシトニン、グルコセレブロシダーゼ、ヒト成長ホルモンおよび誘導体、低密度リポタンパク質(LDL)およびアポリポタンパク質E、IL-2受容体およびそのアンタゴニスト、インスリン、グロビン、イムノグロブリン、触媒性抗体、インターロイキン(IL)、インスリン様増殖因子、スーパーオキシドジスムターゼ、免疫応答体改変因子、BMP(骨形態形成タンパク質)、副甲状腺ホルモンおよびインターフェロン、神経増殖因子、組織プラスミノーゲン活性化因子、ならびにコロニー刺激因子(CSF)が含まれる。もちろん、培地をさらに処理して、培地内に含まれる1以上の因子もしくは成分を濃縮もしくは低減することができる。例えば、上記のいずれかの所定の用途について、イムノアフィニティークロマトグラフィーを使用して増殖因子を富化するか、または逆に必要のない成分を除去することができる。
【0146】
当業者が普通使用するアッセイを利用して、特定の因子もしくは因子群の活性を試験することにより、接着した分子もしくはカプセル化した分子によって、許容されるレベルの生物学的活性(例えば治療上有効な活性)が保持されていることを、確認することができる。
【0147】
このように、本発明の細胞ならし培地およびその培地に由来する生成物を使用して、例えば糖尿病の治療におけるインスリン、アルツハイマー病の治療用の神経増殖因子、血友病治療用の因子VIIIおよびその他の凝固因子、パーキンソン病の治療用のドーパミン、慢性痛の治療用の副腎クロマフィン細胞を経たエンケファリン、筋ジストロフィー治療用のジストロフィン、ならびに成長異常の治療用のヒト成長ホルモンを供給することができる。
【0148】
こうした治療用タンパク質剤の投与量は当業者に周知であり、また以下のような医薬の概説書に見出される:PHYSICIANS DESK REFERENCE,Medical Economics Data Publishers;REMINGTON'S PHARMACEUTICAL SCIENCES,Mack Publishing Co.;GOODMAN & GILMAN,THE PHARMACOLOGICAL BASIS OF THERAPEUTICS,McGraw Hill Publ.,THE CHEMOTHERAPY SOURCE BOOK,Williams and Wilkens Publishers。
【0149】
上記の薬剤もしくは作用物質の治療上有効な投与量はいずれも当業者に周知の技法を使用して、常套的に決定することができる。「治療上有効な」投与量とは、治療すべき過程および/または疾病の少なくとも1つの症状の軽減をもたらすのに十分な化合物の量を称する。
【0150】
医薬の毒性および治療効果は、細胞培養物もしくは実験動物において、標準的な薬学的手法によって、決定することができる。例えばLD50(集団の50%への致死用量)およびED50(集団の50%への治療上有効な用量)を決定する。毒性と治療効果の用量の比が治療指数であり、これを比率LD50/ED50として表現することができる。大きな治療指数を示す化合物が好ましい。毒性副作用を示す化合物を使用する場合は、感染していない細胞に対する潜在的な損傷を最少にすることによって副作用を減少させるために、こうした化合物が罹患した組織の部位をターゲットとするような送達システムを設計するように、注意すべきである。
【0151】
ヒトでの使用のための一定の範囲の投薬量を製剤化する際に、細胞培養アッセイおよび動物研究から取得したデータを使用することができる。こうした化合物の投与量は、ほとんどもしくは全く毒性を持たないED50を含む、一定の範囲の循環濃度内にあるのが好ましい。投与量はこの範囲内で、使用する投与剤型および利用する投与経路にしたがって変更し得る。本発明の方法において使用するどの化合物についても、治療上有効な投与量は最初に細胞培養アッセイから見積もることができる。循環血漿中濃度は細胞培養で決定したIC50(すなわち、最大値の半分の症状抑制を達成する試験化合物の濃度)を含む範囲とする。こうした情報を使用して、ヒトでの有用な用量をさらに正確に決定することができる。血漿中のレベルは例えば高速液体クロマトグラフィーによって測定することができる。
【0152】
その上、細胞および組織を遺伝学的に操作して、例えばインスリンなどの所望の産物の発現を増強し、かつ/または上掲の遺伝子産物をターゲットとする、例えばリボザイム、アンチセンス分子および三重ヘリックスであって、ターゲットとする遺伝子発現および/もしくは活性に阻害的作用を持つと見られる、ヌクレオチド配列および/もしくは部分分子を発現させることができる。これは、その中で例えば神経組織のグリア細胞、肝臓のKupffer細胞その他のような、特定の間質細胞が特定の構造的/機能的役割を果たす組織を培養する場合に、有利であると考えられる。
【0153】
5.8.7.毛髪成長の促進
例えば、ヒト毛髪パピラ細胞を使用して、培地を馴化することができる。好ましくは、こうした細胞によって馴化した培地を三次元で増殖させる。毛髪パピラ細胞は、毛髪形成、成長および回復に中心的役割を果たす間葉幹細胞の1タイプである(Matsuzakiら、Wound Repair Regen.6:524-530(1988))。ならし培地は好ましくは濃縮して、局所製剤として適用する。皮膚内への化合物の浸透を促進する薬剤、例えばDMSOを使用して、ならし培地組成物を局所適用用に製剤し、毛髪の成長を刺激するための局所適用法で適用する。
【0154】
本発明の組成物は、局所適用されたとき、増殖因子および上皮細胞の毛髪濾胞への移動を増大させるその他の因子を供給することによって、毛髪の成長を促進もしくは回復させる。ならし培地中にある増殖因子の他に、ミノキシジルおよび抗生物質などのその他の化合物を使用することができる。毛髪成長中には、カタゲン(catagen)(毛髪濾胞の成長期および休止期の間の移行相)ならびにテロゲン(telogen)(休止期)中に血液供給の減少がある。若年性脱毛のための断端尾を持つ(stump-tailed)マカク属サルのモデルを含む、当分野で知られたアッセイを使用して、毛髪成長のこれらの期相中での使用のために、細胞ならし培地から得られた生物学的に活性な分子を決定および最適化することができる。例えば以下の文献を参照されたい:Brigham,P.a.,A.Cappas,and H.Uno,The Stumptailed Macaque as a Model For Androgenetic Alopecia:Effects of Topical Minoxidil Analyzed by Use of the Folliculogram,Clin Dermatol,1988,6(4):p.177-87;Diani,A.R.and C.J.Mills,Immunocytochemical Localization of Androgen Receptors in the Scalp of the Stumptail Macaque Monkey,a Model of Androgenic Alopecia,J Invest Dermatol,1994,102(4):p.511-4;Holland,J.M.,Animal Models of Alopecia,Clin Dermatol,1988,6(4):p.159-162;Pan,H.J.ら、Evaluation of RU58841 as an Anti-Androgen in Prostate PC3 Cells and a Topical Anti-Alopecia Agent in the Bald Scalp of Stumptailed Macaques,Endocrine,1998,9(1):p.39-43;Rittmaster,R.S.ら、The Effects of N,N-diethyl-4-methyl-3-oxo-4-aza-5alpha-androstane-17 beta-carboxamide,a 5 alpha-reductase Inhibitor and Antiandrogen,on the Development of Baldness in the Stumptail Macaque,J.Clin Endocrinol Metab,1987,65(1):p.188-93(これらのそれぞれの全文を参照として組み入れる)。その他のモデルとして、新生ラットモデル、ならびに円形脱毛症のラットモデルの脱毛部および毛髪部から培養した濾胞からの毛髪濾胞の増殖の差異を測定するものが含まれる。以下を参照されたい:Neste,D.V.,The Growth of Human hair in Nude Mice,Dermatol Clin.,1996,14(4):p.609-17;McElwee,K.J.,E.M.Spiers,and R.F.Oliver,In Vivo Depletion of CD8+T Cells Restores Hair Growth in the DEBR Model for Alopecia Areata,Br J Dermatol,1996,135(2):p.211-7;Hussein,A.M.,Protection Against Cytosine Arabinowide-Induced Alopecia by Minoxidil in a Rat Animal Model,Int J Dermatol,1995,34(7):p.470-3;Oliver,R.F.ら、The DEBR Rat Model for Alopecia Areata,J Invest Dermatol,1991,96(5):p.978;Michie,H.J.ら、Immunobiological Studies on the Alopecic(DEBER)Rat,Br J Dermatol,1990,123(5):p.557-67(これらのそれぞれの全文を参照として組み入れる)。
【実施例】
【0155】
6.実施例
6.1.培地の馴化
'766特許に記載し、かつ上記第5.3、5.4および5.6節に詳細に記載した装置の基質上に、ヒト皮膚繊維芽細胞を播種した。基質はケース内に存在し、その表面上で三次元組織増殖を促進するように設計されており、そして加湿した5%CO2雰囲気中、37℃で、高グルコースDMEM(2 mM L-グルタミンおよび50 mg/mlアスコルビン酸を補充した10%BCS)中で培養した閉鎖システムで、細胞を培養した。10日後、細胞培養物を取り出し、新鮮な培地を添加した。上述のように、細胞をさらに4日間培養した。細胞および組織培養物に4日間(10-14日)曝露して得たならし培地を、次に個々の区画から取り出してプールした。このならし培地(約5〜10リッター/プール)を200 mlアリコートに分配し、10,000 MWカットオフのフィルターを持つ加圧濃縮器(Amicon,Beverly,MA)を使用して、さらに10〜20倍に濃縮した。生成した10〜20 mlの濃縮ならし培地を1 mlアリコートに分配し、分析のために-20℃で凍結した。標準培地に10×ならし培地を10%(vol/vol)溶液として添加した結果、1×濃度のならし培地となる。同様に、標準培地に10×培地(すなわち標準培地)もしくは10×無血清培地(血清を含まない標準培地)を10%(vol/vol)溶液として添加した結果、1×濃度の「培地」もしくは「無血清培地」となり、その後これらを対照として使用する。
【0156】
6.2.三次元ならし培地の増殖活性
6.2.1.ならし培地への繊維芽細胞およびケラチノサイトの曝露
ヒト繊維芽細胞およびケラチノサイトの増殖を促進する能力について、第6.1節のならし培地を試験した。ヒト繊維芽細胞もしくはヒト基底ケラチノサイトを96ウェルプレートに播種(約5,000細胞/ウェル)し、上記の第6.1節に記載した1X最終濃度の無血清培地、または三次元ならし培地を補充した高グルコースDMEM(2 mM L-グルタミンおよび1×抗生物質/抗真菌剤を補充した10%BCS)中で培養した。培養物を加湿した5%CO2雰囲気中、37℃で3日間維持した。
【0157】
6.2.2.細胞の増殖
細胞増殖の評価の1つとして総核酸含量を測定する、市販の蛍光を基礎とする色素アッセイ(CyQuant Cell Proliferation Assay Kit,Molecular Probes,Eugene,Or)を使用して、細胞増殖を測定した。すべてのアッセイを製造元の指示にしたがって実施した。ブロッティングによって培地を除去し、緑色蛍光色素、CyQuant GR色素を含有する溶解バッファーを使用して、細胞を溶解させた。この色素は細胞核酸に結合したとき強い蛍光の強化を示し、その蛍光の量はサンプル中に存在する核酸の量に比例する。サンプルを光不在下で5分インキュベートし、約480 nm励起および約520 nm発光最大値に適切なフィルターを持つマイクロタイタープレートリーダーを使用して、サンプルの蛍光を測定した。標準として既知の濃度の小牛胸腺DNAを使用して得た標準曲線に対して、各ウェル中で観測された蛍光の量を比較することによって、各サンプル中の核酸の量を算出した。
【0158】
図3に示すように、ならし培地を含有する培地中で培養した細胞は、2つの対照に比較したとき、繊維芽細胞およびケラチノサイトの両方の細胞増殖が増大する結果となった。
【0159】
6.3.三次元ならし培地による組織中へのコラーゲンの沈着の調節
6.3.1.創傷治療用途
無血清培地、培地もしくは三次元ならし培地の存在下で培養した組織の細胞外マトリックス中に分泌されたコラーゲンの量を測定することによって、三次元組織の調製および構成に与える三次元ならし培地の影響を試験した。
【0160】
ナイロン足場を11 mm×11 mm正方形にレーザーカットし、0.5 M酢酸中で洗浄し、FBS中で完全に洗浄し、8継代目の12F臨床用繊維芽細胞を播種(約38,000/cm2)した。上記の第6.1節に記載した1×最終濃度の無血清培地、培地または三次元ならし培地を補充したDMEM(2 mM L-グルタミンおよび1×抗生物質/抗真菌剤を補充した10%BCS)1 ml中で、培養毎に50 mg/mlアスコルビン酸を添加して、培養物を増殖させた。硫酸銅を最終濃度2.5 ng/mlとなるように添加し、標準的インキュベーターの調節ガス供給によって、高酸素(40%、空気中の約2倍)に維持した。培養物(n=3もしくはそれ以上)を加湿した5%CO2 雰囲気中、37℃で10日間維持した。アスコルビン酸非含有対照も加えた。
【0161】
6.3.2.コラーゲンの単離
上記の1X最終濃度の無血清培地、培地もしくは三次元ならし培地を補充した標準培地の存在下で増殖させた三次元組織培養物から、コラーゲンを単離し、ほとんど均質になるまで精製した。精製したコラーゲンサンプルを勾配SDS-ポリアクリルアミドゲル上の電気泳動にかけて、個別のタンパク質バンドをクーマシーブルーで可視化し、総タンパク質(下記)に比較したコラーゲンに特異的なアルファ、ベータおよびガンマバンドの量を評価することによって、最終サンプル調製品の純度を評価した。精製法の結果、すべてのサンプルで同様のパターンが生成した。
【0162】
サンプルをPBS中で、次に滅菌水で洗浄し、その後0.5 M酢酸中で2〜6時間洗浄した。次に0.012 N HCl中の1 mg/mlペプシン(Worthington,Inc.)中、4℃で一晩、サンプルを消化させた。4℃で13000 rpmの遠心分離によって、サンプルを清澄化した。5 M NaClの最終濃度 0.7 Mまでの添加後、4℃、30〜60分でコラーゲンが沈殿した。4℃、13000 rpmで30〜60分の遠心分離によって、沈殿したコラーゲンを分離し、0.012 N HCl中に再懸濁させた。
【0163】
6.3.3.分析
市販の比色アッセイキット(Pierce,Inc.BCAアッセイキット)を使用して総タンパク質を測定した。アッセイは製造元の指示にしたがって実施した。総タンパク質を定量するための標準としてウシ皮膚コラーゲン(InVitrogen,Carlsbad,CA;Cohesion Technologies,Inc.,Palo Alto,CA)を使用した。
【0164】
次にサンプルを3〜8%勾配ゲル上の電気泳動によるSDS-PAGE分析にかけた。次に単離したコラーゲンのサンプルを還元サンプルバッファー中で95℃に加熱した。ゲルをクーマシーブルーで染色し、色素を除去し、可視化のためにコンピューターでスキャンした。
【0165】
図4に示すように、どの対照に比較しても、三次元ならし培地で処理した三次元的培養物について、統計的に有意な(p<0.05)約50%のコラーゲン沈着の増加が注目された。その活性は培地もしくは血清のみの存在からは得ることができなかった。
【0166】
こうしたin vivoでの強化されたコラーゲンの沈着には、多数の用途がある。これらとして、創傷の治療、加齡にともなって出現するしわおよび輪郭線の処置、ならびに麻痺もしくは寝たきりの患者において圧迫潰瘍が起きやすい骨隆起のまわりへのマトリックスの沈着を促進することができるものが含まれる。
【0167】
7.抗酸化活性
7.1.ならし培地への皮膚細胞の曝露
抗酸化剤は細胞老化および悪性新生物を回復/阻害する能力が証明されている。ヒト皮膚細胞上で、三次元的ならし培地の抗酸化活性を測定した。1×の三次元的ならし培地、培地若しくは無血清培地の対照を添加したMCDB153培地(KGM,Clonetics,Inc.)の存在下でペトリディッシュ内で加湿した5%CO2環境中、37℃で3日間、ヒト基底表皮ケラチノサイト(〜100,000/ウェル)を培養した。各サンプルから培地を除去し、トリプシンの存在下でインキュベートすることによって、ディッシュから細胞を分離し(Sambrookら、1989,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,2nd Ed.,Cold Spring Harbor Lab Press,Cold Spring Harbor,NY)、その後遠心分離した。
【0168】
7.2.FACS分析
分離した細胞を1 mMジヒドロローダミン-1,2,3(Molecular Probes,Eugene,Or)の存在下で37℃で30分インキュベートし、次にBecton-Dickinson(Franklin Lakes,New Jersey)FACSCAN装置を使用し、製造元の指示にしたがって、FACS(蛍光活性化細胞選別)によって分析した。還元型ジヒドロローダミン染料の細胞内酸化の量は、この染料の酸化状態の検出可能な細胞内蛍光の量に直接比例する。
【0169】
7.3.結果
本発明の細胞ならし培地に曝露されたヒトケラチノサイトは、無血清培地若しくは血清含有培地の存在下でインキュベートした同一の細胞に比較して、細胞内酸化について統計的に有意な(p<0.0003)50%の減少を示した(図5参照)。観測された差異は対照サンプル中に存在する血清因子若しくはアスコルビン酸によるものとは見られない。したがって、三次元的培養によって馴化した培地の局所適用は、老化した細胞の影響を治療若しくは回復させるのに有用な薬用化粧用品として有用となり得る。
【0170】
8.生物工学的に作製した薬用化粧栄養剤溶液のヒト皮膚へのin vivoの効果を評価する閉塞性パッチ試験
8.1.実験計画
承諾を得た6名の健康な成人女性(30-60才)を登録した。除外基準には、タンパク質に対する過敏性、皮膚病、試験部位若しくはその近傍の皮膚の損傷、糖尿病、腎臓、心臓疾患若しくは免疫性疾患、抗炎症剤、免疫抑制剤、抗ヒスタミン若しくは局所剤または化粧品の使用、および妊娠が含まれる。位置若しくは順番の偏りを最少にするため、輪番スキームで、各被験者の右若しくは左上腕部の試験部位(2部位、3.8 cm2)に、試験物質を適用した。部位1には対照ビヒクルを、部位2には処置剤(すなわちならし培地)を与えた。閉塞性パッチはビヒクル若しくは処置剤のいずれかを0.2 ml含むWebril不織コットンパッドである。3M閉塞性、プラスチック性の低アレルゲンテープでパッチをカバーして保持した。3人の被験者の前腕に、24時間周期で5回連続して毎日、閉塞性パッチを置いた。その他の3人の被験者には、24時間周期で12回連続して毎日、閉塞性パッチを置いた(処置はそのまま継続している)。最後のパッチの適用の翌日、各部位から2-mmの生体組織をとった。このプロトコルは研究機関、California Skin Research Institute(San Diego,Ca.)のためのIRBによって承認され、またCFRのTitle 21、Part50および56 にしたがっている。
【0171】
8.2.評価
光沢、剥皮、痂皮、亀裂、色素沈着昂進および色素沈着低下について全体的観察を等級化した。5点評価尺度を使用して、視覚的に刺激を採点し、紅斑、浮腫、丘疹および小水疱(>25%パッチ部位)、ならびに認識可能な反応(<25%パッチ部位)、すなわち浸潤、拡散および硬化を伴うか若しくは伴わない水疱反応について、数値的に等級化した。当局公認の病理学者によるH&E組織学的評価には、生物活性がある表皮の厚さ、表皮過形成(アカントーシス)、顆粒細胞層の厚さ、炎症性浸潤、細胞分裂像、コラーゲンおよび弾性線維の外観、ならびに脈管構造に関するパラメーターを含んでいた。
【0172】
8.3.結果
5日間の処置を受けた3人の被験者について、ならし培地若しくは対照によって、何ら有害現象は誘発されなかった。栄養溶液(0.3)および対照(0.2)についての毎日の刺激評点の平均は、双方の部位とも何ら視覚的反応若しくは紅斑を示さないか、またはわずかな融合若しくは斑点状の紅斑を示すことが多いことを意味していた。組織検査(トリクロムコラーゲン染色)では、測定した全パラメーターについて、健全な組織であることが示された。したがって、ならし培地はヒトの皮膚に適合する効力を示す。
【0173】
9.ヒト内皮細胞の挙動の調節
ならし培地およびマトリックス結合繊維芽細胞によって産生されたヒトマトリックスの血管形成および内皮細胞運動性に対する影響を判定した。ならし培地は、本明細書に記載(第5.3、5.4および5.6節に記載)した三次元的繊維芽細胞培養を介して製造し、濃縮(10×)または凍結乾燥した。ヒト細胞外マトリックスは産生後、組織から物理的に分離した。
【0174】
9.1.内皮細胞細管形成アッセイ
ヒト臍静脈内皮細胞(HUVEC)による内皮細胞細管形成アッセイを使用して、血管形成を評価した。凍結乾燥したならし培地とHUVECとの共培養の結果、陰性対照(馴化前の培地)に比較して細管形成が増大し、4.9±9.31 mmおよび0.00±0.00 mmであり、濃縮培地では細管形成が44.10±1.75 mmに増大し、そしてヒト細胞外マトリックスでは細管形成が39.3±5.6 mmに増大していた。
【0175】
9.2.創傷アッセイ
内皮細胞の密集層に掻き傷をつけて、生成した「創傷」の閉塞速度を測定して、細胞の運動性の評価に使用した。この「創傷」アッセイは閉塞の速度として、mm/h(ミリメーター/時間)で測定した。凍結乾燥培地で処理した内皮細胞は25.59±12.907 mm/hの速度を示し、濃縮培地では39.56±15.87 mm/hであった。ヒト細胞外マトリックスは陰性対照(馴化前の培地)に比較して速度の増大を示さず、ヒト細胞外マトリックスおよび陰性対照のそれぞれについて、0.00 mm/hおよび27.96±0.01 mm/hだった。
【0176】
このように、血管形成(細管形成アッセイ)および細胞運動性(「創傷」アッセイを使用して評価)の変化によって説明されるように、本発明のならし培地はヒト内皮細胞の挙動を調節する能力がある。
【0177】
本発明は、本明細書中に記載した特定の実施形態によってその範囲が限定されるべきではない。実際、上記および添付の図面から、記載したものの他に、本発明の各種の改変が当業者に明らかになるはずである。こうした改変は特許請求の範囲内に入ることを意図する。
【0178】
本明細書中に各種の文献を引用したが、それらの開示の全部を参照として、本明細書中に組み入れる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
三次元的培養による真核細胞の増殖を予め支持させておいた培地を含む細胞培養ならし培地および医薬担体を含有する医薬組成物。
【請求項2】
細胞培養ならし培地が液体、固体、凍結乾燥体、粉体、ゲルまたはフィルムの形態である、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項3】
イムノアフィニティークロマトグラフィー、ゲルクロマトグラフィー、イオン交換、金属キレートアフィニティークロマトグラフィー、HPLC精製、および疎水性相互作用クロマトグラフィーを含むタンパク質分離技術により低減または富化されたならし培地に由来する1種以上の細胞外生成物を含む、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項4】
細胞外生成物が細胞外マトリックスタンパク質である、請求項3記載の医薬組成物。
【請求項5】
細胞外生成物が、増殖因子、抗炎症性メディエーター、酵素、サイトカイン、ホルモン、凝固因子、調節因子、血管形成因子、または抗血管形成因子である、請求項3記載の医薬組成物。
【請求項6】
三次元的に培養された細胞が、間質細胞を含み、かつ三次元的間質組織を形成する、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項7】
三次元構造を形成する生体適合性のある非生存材料からなる骨組みに接着して実質的に該骨組みを包み込んでいる間質細胞を含む、請求項6記載の三次元的間質組織。
【請求項8】
骨組み構造物が、網状物、スポンジ状物、または重合化ヒドロゲルを含む、請求項7記載の医薬組成物。
【請求項9】
間質細胞が、間充織幹細胞、肝臓補充細胞、神経幹細胞、膵幹細胞、繊維芽様細胞、繊維芽細胞、軟骨前駆細胞、軟骨細胞、胚性幹細胞、内皮細胞、周皮細胞、マクロファージ、単球、プラズマ細胞、肥満細胞、またはこれらの組み合わせを含む、請求項8記載の医薬組成物。
【請求項10】
間質細胞がヒト由来である、請求項9記載の医薬組成物。
【請求項11】
間質細胞が遺伝子操作された細胞を含む、請求項9または10記載の医薬組成物。
【請求項12】
実質細胞が三次元的間質組織上で培養されて組織特異的な三次元的組織構築物を形成する、請求項6記載の医薬組成物。
【請求項13】
実質細胞が、皮膚、肝臓、腎臓、神経、膵臓、小腸、尿生殖器、血管、脾臓、骨、骨髄、または粘膜の細胞を含む、請求項12記載の医薬組成物。
【請求項14】
実質細胞が遺伝子操作された細胞を含む、請求項13記載の医薬組成物。
【請求項15】
真核細胞の増殖を予め支持させておいた培地を含む細胞培養ならし培地を動物摂取用の別の食品材料と共に含有する、栄養成分含量を増大させた食用品。
【請求項16】
別の食品材料がヒトの摂取に適したものである、請求項15記載の食用品。
【請求項17】
真核細胞の増殖を予め支持させておいた培地を含む細胞培養ならし培地を、液体、錠剤またはカプセル形態のヒトの摂取に適する担体と共に含有する、栄養補助剤。
【請求項18】
医薬組成物を製造する方法であって、
(a) in vitroでの細胞の増殖に必要な栄養要求性を満たすのに十分な細胞培養培地中で三次元的に真核細胞を培養し、
(b) 細胞培養培地が細胞外生成物を所望のレベルで含むようになるまで、細胞をin vitroで培養することにより、ならし培地を作製し、
(c) 培地を馴化するために用いた細胞からならし培地を分離し、
(d) 医薬担体とならし培地を組み合わせること、
を含む上記方法。
【請求項19】
ならし培地を連続的流動システムから回収する、請求項18記載の方法。
【請求項20】
ならし培地が無菌的環境で培養されたものである、請求項18または19記載の方法。
【請求項21】
細胞ならし培地を、液体、固体、凍結乾燥体、粉体、ゲルまたはフィルムに加工することを含む、請求項18記載の方法。
【請求項22】
ならし培地をさらに処理して、培地中に含まれる1種以上の生成物を濃縮または低減させることを含む、請求項18記載の方法。
【請求項23】
ならし培地に由来する1種以上の細胞外生成物を、イムノアフィニティークロマトグラフィー、ゲルクロマトグラフィー、イオン交換、金属キレートアフィニティークロマトグラフィー、HPLC精製、および疎水性相互作用クロマトグラフィーを含むタンパク質分離技術により低減または富化することを含む、請求項22記載の方法。
【請求項24】
細胞外生成物が細胞外マトリックスタンパク質である、請求項22記載の方法。
【請求項25】
細胞外生成物が、増殖因子、抗炎症性メディエーター、酵素、サイトカイン、ホルモン、抗原、抗体、凝固因子、調節因子、血管形成因子、または抗血管形成因子である、請求項22記載の方法。
【請求項26】
三次元的に培養された細胞が、間質細胞を含み、かつ三次元的間質組織を形成する、請求項18記載の方法。
【請求項27】
三次元構造を形成する生体適合性のある非生存材料からなる骨組みに接着して実質的に該骨組みを包み込んでいる間質細胞を含む、請求項26記載の方法。
【請求項28】
三次元的骨組みが、網状物、スポンジ状物、または重合化ヒドロゲルを含む、請求項27記載の方法。
【請求項29】
間質細胞が、間充織幹細胞、肝臓補充細胞、神経幹細胞、膵幹細胞、繊維芽様細胞、繊維芽細胞、軟骨前駆細胞、軟骨細胞、胚性幹細胞、内皮細胞、周皮細胞、マクロファージ、単球、プラズマ細胞、肥満細胞、またはこれらの組み合わせを含む、請求項26または27記載の方法。
【請求項30】
間質細胞が遺伝子操作された細胞を含む、請求項26記載の方法。
【請求項31】
遺伝子操作された細胞が、外来遺伝子産物を発現し、ならし培地中に分泌するように、発現エレメントの制御下にある外来遺伝子をトランスフェクトされたものである、請求項30記載の方法。
【請求項32】
実質細胞が三次元的間質組織上で培養されて組織特異的な三次元的組織培養物を形成する、請求項26記載の方法。
【請求項33】
実質細胞が、皮膚、肝臓、腎臓、神経、膵臓、小腸、尿生殖器、腎臓、脾臓、骨、骨髄、または粘膜の細胞である、請求項32記載の方法。
【請求項34】
実質細胞が遺伝子操作された細胞を含む、請求項33記載の方法。
【請求項35】
遺伝子操作された細胞が、外来遺伝子産物を発現し、ならし培地中に分泌するように、発現エレメントの制御下にある外来遺伝子をトランスフェクトされたものである、請求項34記載の方法。
【請求項36】
創傷または火傷の治癒を促進するための方法であって、三次元的培養による真核細胞の増殖を予め支持させておいた培地を含む細胞培養培地を別の治療用成分と共に含有する組成物を、創傷または火傷の治癒を必要とする被検体に投与することを含み、そのことにより、被検体が損傷組織または瘢痕組織の量の低減を示し、さらに創傷部位における健全な組織の再生の促進を示す、上記方法。
【請求項37】
創傷が血管性創傷である、請求項36記載の方法。
【請求項38】
創傷が脳または脊髄に対するものである、請求項36記載の方法。
【請求項39】
創傷が、皮膚、肝臓、腎臓、膵臓、小腸、脾臓、尿生殖器管、骨、骨髄、または粘膜の組織に対するものである、請求項36記載の方法。
【請求項40】
成分がバンデージである、請求項36記載の方法。
【請求項41】
成分が軟膏またはクリーム剤であり、かつ組成物を局所適用する、請求項36記載の方法。
【請求項42】
成分が外科的接着剤または創傷充填剤である、請求項36記載の方法。
【請求項43】
成分が縫合糸または移植片であり、使用前にならし培地で被覆する、請求項36記載の方法。
【請求項44】
成分が、ならし培地を注射用、錠剤またはカプセル剤の形態にするような医薬担体である、請求項36記載の方法。
【請求項45】
組成物が抗生剤、抗炎症剤、抗ウイルス剤、抗真菌剤、ホルモン、抗腫瘍剤、鎮痛剤、麻酔剤、またはこれらの組み合わせをさらに含む、請求項36記載の方法。
【請求項46】
三次元的に培養された細胞が間質細胞を含み、かつ三次元的間質組織を形成する、請求項36記載の方法。
【請求項47】
三次元的間質組織が、三次元構造を形成する生体適合性のある非生存材料からなる骨組みに接着して実質的に該骨組みを包み込んでいる間質細胞を含む、請求項46記載の方法。
【請求項48】
骨組み構造物が、網状物、スポンジ状物、またはヒドロゲルを含む、請求項47記載の方法。
【請求項49】
間質細胞が、間充織幹細胞、繊維芽様細胞、繊維芽細胞、軟骨前駆細胞、軟骨細胞、胚性幹細胞、内皮細胞、周皮細胞、マクロファージ、単球、プラズマ細胞、肥満細胞、またはこれらの組み合わせである、請求項46記載の方法。
【請求項50】
間質細胞が遺伝子操作された細胞である、請求項49記載の方法。
【請求項51】
実質細胞が三次元的間質組織上で培養されて組織特異的な三次元的組織構築物を形成する、請求項46記載の方法。
【請求項52】
実質細胞が、皮膚、肝臓、腎臓、神経、膵臓、小腸、尿生殖器、血管、脾臓、骨、骨髄、または粘膜の細胞を含む、請求項51記載の方法。
【請求項53】
実質細胞が遺伝子操作された細胞である、請求項52記載の方法。
【請求項54】
遺伝子操作された細胞が、外来遺伝子産物を発現し、ならし培地中に分泌するように、発現エレメントの制御下にある外来遺伝子をトランスフェクトされたものである、請求項53記載の方法。
【請求項55】
美容的欠陥を補うための方法であって、三次元的に培養された真核細胞の増殖を予め支持させておいた培地を含む細胞培養ならし培地を美容目的に有用な成分と共に含有する組成物を、ヒトに投与することを含み、そのことによりヒトが美容上の改善を示す、上記方法。
【請求項56】
細胞内酸化により誘導されるヒトの体内の細胞に対する有害な影響を阻害するかまたは回復させるための方法であって、三次元的に培養された真核細胞の増殖を予め支持させておいた培地を含む細胞ならし培地を、かかる処置を必要とするヒトに適用して投与することを含み、それにより細胞内酸化が低減される、上記方法。
【請求項57】
有害な影響が老化した皮膚の出現である、請求項56記載の方法。
【請求項58】
毛髪の成長を刺激するための方法であって、三次元的に培養した真核細胞の増殖を予め支持させておいた培地を含む細胞培養ならし培地を局所投与用担体と共に含有する組成物を、ヒトに局所投与することを含み、それによりヒトが毛髪の成長の刺激の改善を示す、上記方法。
【請求項59】
細胞ならし培地を液体、固体、凍結乾燥体、粉体、ゲルまたはフィルムの形態に加工することを含む、請求項36、55、56または57のいずれか1項に記載の方法。
【請求項60】
コラーゲンを単離するための方法であって、
(a) 三次元的培養で馴化した培地から、プロコラーゲンを中性のpHの条件下および高塩濃度条件下で沈殿させ、
(b) 酸性条件下でプロペプチドを除去することにより、コラーゲンの三重鎖を完全な状態で残し、そして、
(c) 高塩濃度でコラーゲンを沈殿させること、
を含む上記方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−10781(P2013−10781A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−196046(P2012−196046)
【出願日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【分割の表示】特願2000−617908(P2000−617908)の分割
【原出願日】平成12年5月12日(2000.5.12)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(503179403)スキンメディカ,インコーポレーテッド (1)
【Fターム(参考)】