説明

緩衝器

【課題】作動流体の温度が変化する場合においても安定した減衰力特性が得られる緩衝器を提供する。
【解決手段】伸縮作動によって減衰力を発生する緩衝器1であって、作動流体が封入されるシリンダ10と、このシリンダ10内に摺動自在に配置されるピストン2と、一端に前記ピストン2が固定されるロッド5と、ピストン2によって画成される二つの流体室3、4を連通し、ピストン2の摺動によって作動流体が通過するとともに当該作動流体に抵抗を付与するピストン貫通流路6と、このピストン貫通流路6と並列に設けられ、二つの流体室3、4を短絡させるバイパス流路65と、このバイパス流路65に介装される温度補償バルブ60とを備え、この温度補償バルブ60は形状記憶合金の温度変化による変形によってバイパス流路65の開口面積を変えて作動流体の温度変化による粘性変化に起因する減衰力の変化を補償する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、緩衝器、特に車両に搭載される緩衝器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両に搭載される緩衝器として、作動流体として磁界の作用によって見かけの粘性が変化する磁気粘性流体を用い、その伸縮作動時に作動流体が通過する固定絞りが設けられたものがある(例えば、特許文献1参照。)
【特許文献1】米国特許第6260675号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
作動流体として磁気粘性流体を用い、固定絞りが設けられる緩衝器の場合、作動流体に付与する抵抗を変える減衰バルブを持たないため、例えば低温時に作動流体の粘度が増加しても、減衰力の増加を抑えられないという問題点があった。
【0004】
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたものであり、作動流体の温度が変化する場合においても安定した減衰力特性が得られる緩衝器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、伸縮作動によって減衰力を発生する緩衝器であって、作動流体が封入されるシリンダと、このシリンダ内に摺動自在に配置されるピストンと、一端にピストンが固定されるロッドと、ピストンによって画成される二つの流体室を連通し、ピストンの摺動によって作動流体が通過するとともに当該作動流体に抵抗を付与するピストン貫通流路と、このピストン貫通流路と並列に設けられ、二つの流体室を短絡させるバイパス流路と、このバイパス流路に介装される温度補償バルブとを備え、この温度補償バルブは形状記憶合金の温度変化による変形によってバイパス流路の開口面積を変えて作動流体の温度変化による粘性変化に起因する減衰力の変化を補償するを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、温度補償バルブは作動流体の温度変化に応じてバイパス流路の開口面積を変え、緩衝器の減衰力特性を作動流体の温度に依らず一定とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0008】
図1を参照して本発明の実施の形態である緩衝器1について説明する。図1 は、緩衝器1の断面図であり、図2は、図1におけるA矢視図である。
【0009】
緩衝器1は、自動車等の車両の車体と車軸との間に介装され、伸縮作動によって車軸の振動を抑える減衰力を発生するものである。
【0010】
緩衝器1は、作動流体が封入される円筒状のシリンダ10と、このシリンダ10内に摺動自在に配置され、シリンダ10内を二つの流体室3、4に画成するピストン2とを備える。
【0011】
ピストン2にはロッド5の一端に連結される。ロッド5の他端は、シリンダ10の外部へ延在している。
【0012】
シリンダ10内には、ロッド5の侵入、退出によるシリンダ10内の容積変化を補償するガス室(図示せず)が設けられている。
【0013】
ピストン2は、ロッド5が挿通する円筒形状のピストンコア20と、このピストンコア20の外周に所定の間隔をもって配置された環状のリング体50とを備える。ピストンコア20の穴には、ロッド5の一端が嵌合している。
【0014】
ピストンコア20の外周とリング体50の内周との間には、作動流体が通過する環状のピストン貫通流路6が形成される。このように、ピストン貫通流路6はピストン2によって画成される二つの流体室3、4を連通する。
【0015】
ピストン2の両端には、一対の環状のプレート11、12が配置される。一対のプレート11、12のうちロッド5側の第一のプレート11は、ピストンコア20に形成された環状隅部25に当接するとともに、リング体50に形成された環状段部55に当接し、ピストンコア20に形成された雄ねじと螺合するナット21によって押圧される。ロッド5の反対側の第二のプレート12は、ピストンコア20に形成された環状隅部26に当接するとともに、リング体50に形成された環状段部56に当接し、ピストンコア20に形成された雄ねじと螺合するナット22によって押圧される。このようにして、一対のプレート11、12の間にピストンコア20とリング体50が挟持され、リング体50の内周面とピストンコア20の外周面との間に環状のピストン貫通流路6が均一な流路幅を持って形成される。
【0016】
プレート11、12には、ピストン2と係合した状態においてピストン貫通流路6と連通する円弧状の貫通孔11a、12aがそれぞれ複数個形成されている(本実施の形態では4個)。
【0017】
これにより、ピストン2がシリンダ10内を摺動することによって、作動流体は、貫通孔11a、12a、及びピストン貫通流路6を通って流体室3と流体室4との間を行き来する。作動流体がピストン貫通流路6を通過する際に、作動流体には抵抗が付与され、緩衝器1は減衰力を発生する。
【0018】
ここで、本実施の形態のように、作動流体が通過するピストン貫通流路6が環状隙間の場合には、ピストン貫通流路6を流れる作動流体の流量は以下の(1)式によって表される。
【0019】
Q=(πdh3ΔP)/(12μl) ・・・ (1)
Q:作動流体流量、d:流路直径、h:流路隙間量、l:流路長さ、ΔP:差圧、μ:作動流体粘度
上記の(1)式からわかるように、緩衝器1の基本特性は作動流体の粘度μによって変化する。
【0020】
緩衝器1は、作動流体として磁気粘性流体が封入される。磁気粘性流体は、磁界の作用によって見かけの粘性が変化するものであり、油等の液体中に強磁性を有する微粒子を分散させた液体である。磁気粘性流体の粘性は、作用する磁界の強さを変更することによって調節することができ、磁界を除くことによって元の状態に戻る。
【0021】
ピストンコア20及びリング体50は、磁性材料にて構成される。ピストンコア20の外周には環状の凹部8が形成され、この凹部8内にはコイル40が収容される。コイル40は、ピストンコア20の外周に巻装され、ピストン貫通流路6に面して設けられる。
【0022】
コイル40に電流を流すことによってコイル40は磁場を発生し、その磁場は、ピストンコア20及びリング体50を介して磁気回路を構成し、ピストン貫通流路6を流れる磁気粘性流体に磁力を与える。
【0023】
コイル40には、車両に搭載されたコントローラ(図示せず)からの駆動電流がリード線49を介して入力される。コイル40から延びるリード線49は、ピストンコア20に形成された凹部24を挿通するとともに、ロッド5の中空部51を挿通し、コントローラに接続されている。リード線49と中空部51、凹部24の間にはモールド樹脂が形成される。
【0024】
シリンダ10内にてピストン2が摺動すると、ピストン2両側の流体室3、4の磁気粘性流体がピストン貫通流路6を介して移動する。このとき、コイル40に電流を流すと、ピストン貫通流路6を流れる磁気粘性流体に磁場が作用し、磁気粘性流体の粘性が変化する。これにより、緩衝器1は、ピストン貫通流路6を流れる磁気粘性流体の粘性抵抗の大きさに応じた減衰力を発生する。
【0025】
コイル40の電流が大きくなるほど磁気粘性流体の粘性は大きくなり、緩衝器1の発生する減衰力も大きくなる。このように、緩衝器1が発生する減衰力の調節は、コイル40への通電量を変化させピストン貫通流路6を流れる磁気粘性流体に作用する磁場の強さを変化させることによって行われる。
【0026】
作動流体として磁気粘性流体を用いる緩衝器1は、固定絞りとしてピストン貫通流路6が設けられているため、例えば低温時に磁気粘性流体の粘度が増加することによってピストン貫通流路6にて発生する減衰力が増加する。
【0027】
そこで、緩衝器1は、形状記憶合金の温度変化による変形によって磁気粘性流体の温度変化による粘性変化に起因する緩衝器の減衰力変化を補償する温度補償バルブ60を備える。
【0028】
ピストン2には、二つの前記流体室3、4を短絡させるバイパス流路65がピストン貫通流路6と並列に設けられる。このバイパス流路65は、流体室3と流体室4とを短絡するとともに、磁気粘性流体に抵抗を付与するものである。
【0029】
ピストンコア20にはピストン2の軸方向に延びる孔41と、この孔41からピストン2の径方向に延びる対の孔42、43と、孔42、43からピストン2の軸方向に延びる孔44、45とがそれぞれ形成され、これらによってバイパス流路65が画成される。
【0030】
温度補償バルブ60は、バイパス流路65内に介装されるスプール61を備え、このスプール61によってバイパス流路65が開閉される。
【0031】
円筒形のスプール61は軸方向に延びる孔41に摺動可能に挿入される。スプール61はその中程で外径が小さくなっているグルーブ61aが形成され、図3の(a)に示す閉位置にて径方向に延びる対の孔42、43を閉塞する一方、図3の(b)に示す閉位置にて径方向に延びる対の孔42、43をグルーブ61aを介して連通する。
【0032】
スプール61の一端には形状記憶バネ62が設けられ、他端にはバイアスバネ63が設けられ、形状記憶バネ62とバイアスバネ63間にスプール61が挟持される。
【0033】
コイル状の形状記憶バネ62は、その温度が所定値を超えて上昇すると伸張し、その温度が所定値より低下すると収縮する。
【0034】
コイル状のバイアスバネ63は、スプール61の一端とピストンコア20に螺合するバネ受け45の間に圧縮して介装される。バネ受け45の螺合位置を変えることにより、バイアスバネ63がスプール61に付与するバネ荷重が調節される。
【0035】
スプール61は、形状記憶バネ62とバイアスバネ63との復元力の差によって移動し、流体室3及び流体室4とを短絡するバイパス流路65の開口面積(以下、「短絡面積」と称する。)を変更し、バイパス流路65を通過する磁気粘性流体に抵抗を付与する。
【0036】
次に、シリンダ10内にてピストン2が摺動することによって、ピストン2両側の流体室3、4の磁気粘性流体がピストン貫通流路6を介して移動する際におけるバイパス流路65内のスプール61の動作について説明する。
【0037】
磁気粘性流体の温度が基準温度から上昇した場合には、磁気粘性流体の粘性は基準温度時の粘性と比較して小さくなる。この場合、磁気粘性流体はピストン貫通流路6を通過し易くなるため、ピストン貫通流路6にて発生する減衰力は低下する。しかし、形状記憶バネ62の復元力は大きくなり、スプール61を押してバイパス流路65の開口面積を小さくして減衰力を増加させる方向に移動する。
【0038】
一方、磁気粘性流体の温度が基準温度から低下した場合には、磁気粘性流体の粘性は基準温度時の粘度と比較して大きくなる。この場合、磁気粘性流体はピストン貫通流路6を通過し難くなるため、ピストン貫通流路6にて発生する減衰力は増加する。しかし、形状記憶バネ62の復元力は小さくなり、スプール61は対峙するバイアスバネ63によって押されて図3の(b)に示すように摺動し、バイパス流路65の開口面積を大きくする。
【0039】
このように、ピストン貫通流路6と並列に設けられたバイパス流路65は、温度変化による磁気粘性流体の粘性変化に起因する緩衝器1の減衰力変化を補償するように動作する。
【0040】
このことから、磁気粘性流体の温度が基準温度から変化した場合でも、緩衝器1の減衰力特性が基準温度時のものと同等の特性となるように、形状記憶バネ62の変形特性を設定すれば、スプール61を介してバイパス流路65が開閉されることで緩衝器1の減衰力特性を磁気粘性流体の温度に依らず一定とすることができる。これにより、緩衝器1が環境温度の変化が激しい環境にて使用する場合においても、温度変化による磁気粘性流体の粘性変化に起因する減衰力の変化が補償され、コイル40に流す電流を調整することによって所望の減衰力を得ることができる。
【0041】
本実施の形態では、伸縮作動によって減衰力を発生する緩衝器1であって、作動流体が封入されるシリンダ10と、このシリンダ10内に摺動自在に配置されるピストン2と、一端にピストン2が固定されるロッド5と、ピストン2によって画成される二つの流体室3、4を連通し、ピストン2の摺動によって作動流体が通過するとともに当該作動流体に抵抗を付与するピストン貫通流路6と、このピストン貫通流路6と並列に設けられ、二つの流体室3、4を短絡させるバイパス流路65と、このバイパス流路65に介装される温度補償バルブ60とを備え、この温度補償バルブ60は形状記憶合金の温度変化による変形によってバイパス流路65の開口面積を変えて作動流体の温度変化による粘性変化に起因する減衰力の変化を補償することを特徴とする。
【0042】
これにより、温度補償バルブ60は作動流体の温度変化に応じてバイパス流路65の開口面積を変え、緩衝器1の減衰力特性を作動流体の温度に依らず一定とすることができる。
【0043】
本実施の形態では、温度補償バルブ60は、ピストン2に形成される孔41と、
この孔41に摺動可能に挿入される円柱形のスプール61と、このスプール61の一端に並んで設けられ、温度変化により復元力が変化する形状記憶合金からなる形状記憶バネ62と、スプール61の他端に並んで設けられ、形状記憶バネ62との間にスプール61を挟持するバイアスバネ63とを備え、形状記憶バネ62の復元力とバイアスバネ63の復元力との釣り合いによりスプール61を移動させ、バイパス流路65の開口面積を変えることを特徴とする。
【0044】
これにより、温度補償バルブ60は作動流体の温度変化に応じてスプール61の摺動位置が的確に調整され、緩衝器1の減衰力特性を作動流体の温度に依らず一定とすることができる。
【0045】
本実施の形態では、作動流体は磁気粘性流体であり、ピストン2は、ロッドが挿入されるとともにピストン貫通流路6に磁界を作用させるコイル40を巻装したピストンコア20と、このピストンコア20の外周に所定の間隔をもって配置されピストンコア20の外周との間にピストン貫通流路6を形成するリング体50とを備えたことを特徴とする。
【0046】
これにより、温度補償バルブ60は温度変化による磁気粘性流体の粘性変化に起因する減衰力の変化を補償するため、コイル40に流す電流を調整することによってピストン貫通流路6を流れる磁気粘性流体の粘性抵抗を調整し所望の減衰力を得ることができる。
【0047】
本実施の形態では、バイパス流路65をピストンコア20に形成し、バイパス流路65をコイル40の内側に配置したことを特徴とする。
【0048】
これにより、バイパス流路65を流れる磁気粘性流体がコイル40によって発生する磁場の影響を受けることが抑えられ、温度補償バルブ60によって温度変化による磁気粘性流体の粘性変化に起因する減衰力の変化を補償することと、コイル40に流す電流を調整することによってピストン貫通流路6を流れる磁気粘性流体の粘性抵抗を調整し所望の減衰力を得ることとを両立できる。
【0049】
本発明は上記の実施の形態に限定されずに、その技術的な思想の範囲内において種々の変更がなしうることは明白である。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、車両に搭載する緩衝器に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の実施の形態を示す緩衝器の断面図。
【図2】同じく図1のA矢視図。
【図3】同じく(a)、(b)はスプールの動作を示す断面図。
【符号の説明】
【0052】
1 緩衝器
2 ピストン
3、4 流体
5 ロッド
6 ピストン貫通流路
10 シリンダ
20 ピストンコア
40 コイル
60 温度補償バルブ
61 スプール
62 形状記憶バネ
63 バイアスバネ
65 バイパス通路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
伸縮作動によって減衰力を発生する緩衝器であって、
作動流体が封入されるシリンダと、
当該シリンダ内に摺動自在に配置されるピストンと、
一端に前記ピストンが固定されるロッドと、
前記ピストンによって画成される二つの流体室を連通し、前記ピストンの摺動によって前記作動流体が通過するとともに当該作動流体に抵抗を付与するピストン貫通流路と、
当該ピストン貫通流路と並列に設けられ、二つの前記流体室を短絡させるバイパス流路と、
当該バイパス流路に介装される温度補償バルブとを備え、
当該温度補償バルブは形状記憶合金の温度変化による変形によって前記バイパス流路の開口面積を変えて前記作動流体の温度変化による粘性変化に起因する減衰力の変化を補償することを特徴とする緩衝器。
【請求項2】
前記温度補償バルブは、
前記ピストンに形成される孔と、
当該孔に摺動可能に挿入される円柱形のスプールと、
当該スプールの一端に並んで設けられ、温度変化により復元力が変化する前記形状記憶合金からなる形状記憶バネと、
前記スプールの他端に並んで設けられ、前記形状記憶バネとの間に前記スプールを挟持するバイアスバネとを備え、
前記形状記憶バネの復元力と前記バイアスバネの復元力との釣り合いにより前記スプールを移動させ、前記バイパス流路の開口面積を変えることを特徴とする請求項1に記載の緩衝器。
【請求項3】
作動流体は磁気粘性流体であり、
前記ピストンは、前記ロッドが挿入されるとともに前記ピストン貫通流路に磁界を作用させるコイルを巻装したピストンコアと、
当該ピストンコアの外周に所定の間隔をもって配置され前記ピストンコアの外周との間に前記ピストン貫通流路を形成するリング体とを備えたことを特徴とする請求項1または2に記載の緩衝器。
【請求項4】
前記バイパス流路を前記ピストンコアに形成し、
前記バイパス流路を前記コイルの内側に配置したことを特徴とする請求項1から3のいずれか一つに記載の緩衝器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−228861(P2009−228861A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−77793(P2008−77793)
【出願日】平成20年3月25日(2008.3.25)
【出願人】(000000929)カヤバ工業株式会社 (2,151)
【Fターム(参考)】