説明

緩衝装置

本発明は、例えば地震の際に発生する可能性のある衝撃的な負荷を緩衝するための緩衝装置(1)に関する。本発明は、エラストマースリーブ(2)と、固定したい部材(8)をアンカー基礎(9)に対して締め付けたときにエラストマースリーブ(2)が押し込まれるアダプタスリーブ(3)とを備える緩衝装置(1)を形成することを提案する。本発明に係る緩衝装置(1)では、エラストマースリーブ(2)は、圧迫され、半径方向外側及び半径方向内側に向かって拡開するので、半径方向のプリロードをかけられた状態でアンカー(7)上に保持されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の上位概念部に記載の緩衝装置、すなわち、アンカーのための通し開口を備える緩衝装置に関する。緩衝装置は、アンカーを用いてアンカー基礎に部材を固定するために用いられる。部材は、一般に「固定対象物」とも呼ばれ、例えば1つのアンカーに設置するための1つの孔又は複数のアンカーに設置するための複数の孔を有している。アンカー基礎は、例えば壁材、コンクリート、岩又は石からなる。このような固定のために使用されるアンカーは、一般に棒状であり、アンカー固定された状態でアンカー基礎から突出し、以下、後端とも呼ぶ一端にか、又は全長にわたってねじ山を有している。アンカーに部材を設置した後、部材は、ナットをアンカーのねじ山に螺合させて締めることにより、アンカー基礎に対して締め付けられる。アンカー固定、つまり、アンカー基礎内でのアンカーの固定は、一般に機械的又は化学的に実施される。機械的なアンカー固定は、アンダカットを有しないか、又はアンダカットを有する、一般に穴あけにより製作される孔内での、拡開スリーブ又は拡張栓の拡開により実施される。化学的なアンカー固定は、アンカー基礎に設けられた孔内でのアンカーの接着又はモルタル固定による素材結合(Stoffschluss)式のアンカー固定である。
【0002】
アンカー基礎に対して締め付けられた部材は、アンカーに対して横方向、すなわちアンカー基礎の表面に対して平行に、摩擦力結合(Reibschluss)によりアンカー基礎に保持されている。本明細書では過負荷とも呼ぶ高い負荷時に初めて、部材は、摩擦力を上回って、アンカー基礎上を移動する。このような過負荷は、例えば地震の際に発生する。緩衝装置は、アンカー基礎上での部材の移動のために必要な力を増大させることができる。しかし、その本来の目的又はいずれにしても1つの目的は、過負荷の際に、アンカー基礎上での部材の(制限された)移動を可能とすると同時に、この移動に抗する作用を及ぼすことによって、アンカー及び部材に作用する負荷を軽減させることである。例えば、地震の際に発生し得るような部材の衝撃負荷は軽減される。
【0003】
ドイツ連邦共和国特許出願公開第10134809号明細書において、摩擦力増大器としてのワッシャが公知である。この公知のワッシャは、ディスクから突出する、例えばコランダム又は硬質金属等の硬質の材料からなる角張った粒子を含んでいる。ワッシャは、アンカー基礎と、固定したい部材との間で、アンカー基礎内にアンカー固定されアンカー基礎から突出した棒状のアンカーに設置され、部材は、アンカー基礎に対して締め付けられる。ワッシャから突出した粒子は、アンカー基礎に対して部材を締め付ける際に、アンカー基礎及び部材の、向かい合った表面内に押し込まれ、部材とアンカー基礎との間の摩擦を高める。ワッシャは、部材とアンカー基礎との間の、向かい合った表面に対して平行な、つまり、アンカーに対して横方向あるいは半径方向での力伝達を大きくする。これにより、アンカーの横方向負荷は軽減される。しかし、アンカー基礎に作用する衝撃は、強さが軽減されることなく、固定された部材に伝達される。
【0004】
ドイツ連邦共和国特許出願公開第3331097号明細書は、皿ばねセットをアンカーに設置することを開示している。皿ばねセットを介して、アンカーは、固定したい部材をアンカー基礎に対して締め付ける。皿ばねは、アンカーにより加えられるプリロードを弛緩時に維持すべきである。
【0005】
ドイツ連邦共和国特許出願公開第10106844号明細書は、比較可能な装置を開示している。この公知の装置でも、皿ばねセットがアンカーに設置される。皿ばねセットは、ケージ内に収容されており、ケージは、ケージがアンカーの設置及び付勢時に開放されるまで皿ばねを保持する。その後、皿ばねは、解放されて、固定したい部材をアンカー基礎に対して締め付ける。
【0006】
ドイツ連邦共和国特許出願公開第19625176号明細書は、環状の弾性的なエレメントを備える化学的なアンカー固定を開示している。この弾性的なエレメントは、アンカーロッドの前端に配置されている。弾性的なエレメントは、孔底の近傍において化学的なアンカー固定のモルタルの下に存在する。弾性的なエレメントは、アンカーの軸方向で弾発して、弛緩時のプリロードの消失に抗して働き、動的な負荷時のアンカーの軸方向負荷を軽減する。
【0007】
本発明の課題は、ショック状の横方向負荷、例えば地震の際に発生し得るような横方向負荷を緩衝する、アンカー基礎にアンカーを用いて部材を固定するための緩衝装置を提案することである。
【0008】
この課題は、本発明により、請求項1記載の特徴、すなわち、アンカーのための通し開口を備える緩衝装置において、該緩衝装置が、設置状態において前記アンカーを包囲するエラストマースリーブを備え、該アンカーにより前記エラストマースリーブを軸方向で締め付けると、前記エラストマースリーブが、圧迫されて、内周においても外周においても遊びなしになることを特徴とする緩衝装置により解決される。また、好ましくは、前記エラストマースリーブが孔付きディスクを一端面に備える。好ましくは、前記緩衝装置がアダプタスリーブを備え、該アダプタスリーブ内に前記エラストマースリーブが設置状態において収容されている。好ましくは、前記エラストマースリーブがコーン部を備える。好ましくは、前記緩衝装置がホローコーン部を備え、該ホローコーン部内に、前記エラストマースリーブが、設置状態において収容されており、軸方向で締め付けられている際には、遊びなしに埋設されている。好ましくは、前記ホローコーン部が、前記エラストマースリーブの挿入方向で先細りしている。好ましくは、前記緩衝装置がアダプタスリーブを備え、該アダプタスリーブが前記ホローコーン部を備え、該ホローコーン部内に前記エラストマースリーブが設置状態において収容されている。好ましくは、前記ホローコーン部がアンカー基礎に向かって先細りしている。好ましくは、前記アダプタスリーブが、孔内への挿入時の同軸的な心合わせのための面取り部を備える。好ましくは、前記緩衝装置が、塑性変形可能なエレメントを備え、該塑性変形可能なエレメントが、設置状態において半径方向で前記アンカーに固定可能である。本発明に係る緩衝装置は、アンカーのための通し開口を有している。緩衝装置は、例えばリング状又はスリーブ状である。緩衝装置は、設置状態においてアンカーを包囲するエラストマースリーブを有している。エラストマースリーブは、弾性的であるか、又はいずれにしても大部分弾性的である。エラストマースリーブの、場合によっては付加的な塑性特性は、緩衝作用をさらに改善可能である。エラストマースリーブの塑性変形した成分は、再度の負荷時に、もはや緩衝に寄与しない。エラストマースリーブは、アンカー基礎に部材を固定する際に、特に、例えばアンカーのねじ山にナットを螺合させて締めることで、アンカー基礎に対して部材を締め付けることにより、軸方向で圧迫され、これにより、半径方向内向き及び外向きに膨張する。しかし、エラストマースリーブは、アンカー及び部材とは独立的に、軸方向で圧迫可能であってもよい。特に、エラストマースリーブは、固定される部材又は緩衝装置のアダプタスリーブ若しくはこれに類するものに設けられた孔内でアンカーを包囲する環状の中空室を遊びなしに充填する。特に、少なくとも略非圧縮性と仮定可能なエラストマースリーブの体積は、アンカーを包囲する環状の中空室の容積と略同じ大きさであるか、又はそれよりも大きい。緩衝装置のエラストマースリーブは、軸方向の締め付け後、内面でアンカーに遊びなしに当接し、外面においても遊びなしに当接する。軸方向の締め付け後、エラストマースリーブが遊びを有しないことは、空ストロークなしの緩衝の利点を有する。緩衝は、アンカーに対して横方向あるいは半径方向に、すなわち、アンカー基礎及びこのアンカー基礎に固定される部材の、向かい合った表面に対して平行に作用する。発明の別の利点は、軸方向の締め付け及び圧迫の際の、部材に対するエラストマースリーブのセンタリング作用である。
【0009】
本発明の一態様では、孔付きディスクがエラストマースリーブの一端面に設けられている。孔付きディスクは、端面の外側にあって、孔付きディスクの表面で端面を形成している必要はなく、端面の近傍に配置されていれば十分である。孔付きディスクは、エラストマースリーブのための支持面を形成している。孔付きディスクは、例えば、アンカーがアンカー固定されている孔が、欠損クレータを孔の開口部に有している場合に有利である。孔付きディスクは、エラストマースリーブが欠損クレータ内に押し込まれてしまうことを防止する。孔付きディスクは、塑性変形可能であって、付加的な機能を有していてよい。固定された部材がアンカー基礎上で移動したときに、孔付きディスクは、孔付きディスクの内周及び外周にある遊びを超えた後、横方向力をアンカーに逃がす。その際、孔付きディスクの中心孔は、長孔に変形する。これにより、アンカー基礎に対する部材の移動は、緩衝される。塑性変形の際に、緩衝作用は、一方向での最初の移動時にのみ存在する。同じ方向での再度の移動の際には、孔付きディスクは、移動が最初の移動を越える場合にのみ、緩衝する。他方向での移動の際にも緩衝作用は存在する。
【0010】
本発明の一態様では、エラストマースリーブがコーン部を有している。コーン部は、エラストマースリーブの全長にわたって又はその一部にわたって延在していてよい。コーン部は、特に、圧迫時のエラストマースリーブの変形を改善し、例えばエラストマースリーブの材料が、アンカー基礎とは反対側の表面において隆起状に外方に押し遣られて挟まれることを防止すべきである。コーン部は、導入補助手段として用いられてもよい。ただし、この場合、コーン部は、エラストマースリーブの他方の端面に設けられていなければならない。
【0011】
本発明の一態様では、ホローコーン部が設けられており、ホローコーン部内には、エラストマースリーブが、設置状態において収容されており、軸方向の締め付け及び圧迫後には遊びなしに埋設されている。エラストマースリーブのコーン部と同様に、ホローコーン部も、圧迫時のエラストマースリーブの変形を改善するという目的を有している。コーン部及びホローコーン部は、両方が設けられていても、それぞれ片方が設けられていてもよい。
【0012】
本発明の一態様では、ホローコーン部が、エラストマースリーブを緩衝装置の組立の際にホローコーン部に挿入する方向で先細りしている。これにより、ホローコーン部へのエラストマースリーブの挿入は容易となっている。
【0013】
ホローコーン部は、固定したい部材に設けられていてよい。例えば部材は、錐形の貫通孔を有していてよい。一態様では、ホローコーン部を備えるアダプタスリーブが設けられている。ホローコーン部を有していても、アダプタスリーブは、弾性変形可能であり、横方向力をアンカーに逃がし、かつ緩衝に寄与することができる。
【0014】
本発明の一態様では、エラストマースリーブを収容するためのアダプタスリーブが設けられている。アダプタスリーブは、エラストマースリーブのためのソケット又はハウジングを形成しており、有利には中央孔を備える底を有している。この中央孔を備える底は、上述の孔付きディスクの代役を果たしている。アダプタスリーブは、底を備える場合、固定したい部材の厚さより短くてよい。この場合、アダプタスリーブ及び緩衝装置全体は、アンカー基礎上に載っていないので、摩擦は、部材からアンカー基礎に伝達されるだけで、その一部が緩衝装置からアンカー基礎に伝達されることはない。アダプタスリーブが存在する場合、アダプタスリーブの底は、エラストマースリーブを、アンカー基礎に面した端面において軸方向で支持しており、その結果、エラストマースリーブは、軸方向の締め付け及び圧迫の際に、例えばアンカー基礎内の、アンカーが固定されている孔の開口部にある欠損クレータ内に押し遣られない。横方向力の逃がしと、塑性変形の際に塑性変形に由来する緩衝とが、本発明のこの態様において可能である。
【0015】
本発明の一態様では、アダプタスリーブのホローコーン部が、アンカー基礎に向かって先細りしている。これにより、アダプタスリーブは、アンカー基礎の近傍において、アンカー基礎から間隔を置いたところよりも、アンカーに対して小さなスペースを有している。これにより、アダプタスリーブからアンカーへの横方向力の逃がしは、アンカーが横方向力に抗して支持されているアンカー基礎の近傍において行われる。これにより、横方向負荷の際にアダプタスリーブに作用する傾倒モーメントは小さい。
【0016】
本発明の一態様では、面取り部、つまりコーン部がアダプタスリーブに設けられている。面取り部は、アダプタスリーブ、ひいては緩衝装置を、固定したい部材に設けられた孔内への挿入の際に孔に対して配向し、これにより孔内への進入を容易にする。
【0017】
本発明の一態様では、塑性変形可能なエレメントが設けられている。塑性変形可能なエレメントは、設置状態において半径方向でアンカーに固定されている。遊びが、アンカーと塑性変形可能なエレメントとの間にあってもよい。塑性変形可能なエレメントは、例えば、既に説明した孔付きディスク、又はアンカーのための通し開口を形成する孔を備えるアダプタスリーブの底であってよい。塑性変形可能なエレメントの形態及び形状は、上述の両例に限定されるものではない。遊びを克服した後の緩衝の機能については、既に説明した通りである。
【0018】
以下に、本発明について図面に示した実施の形態を参照しながら詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係る緩衝装置の第1の実施の形態の軸方向断面図である。
【図2】設置状態にある図1の緩衝装置を示す図である。
【図3】設置状態にある本発明に係る緩衝装置の第2の実施の形態を示す図である。
【図4】設置中の本発明に係る緩衝装置の第3の実施の形態を示す図である。
【図5】設置状態にある図4の緩衝装置を示す図である。
【図6】設置中の本発明に係る緩衝装置の第4の実施の形態を示す図である。
【図7】設置状態にある図6の緩衝装置を示す図である。
【0020】
図1に示した本発明に係る緩衝装置1は、管状のエラストマースリーブ2と、例えば鋼又はプラスチックからなるアダプタスリーブ3とを有している。アダプタスリーブ3も管状である。アダプタスリーブの外面は柱面状であり、内面はホローコーン状である。ホローコーン部4は、軸方向で貫通している。アダプタスリーブ3は、ホローコーン部4の大径側に、外向きに張り出したフランジ5を有している。エラストマースリーブ2の、軸方向で貫通した内孔6と、アダプタスリーブ3の、やはり貫通したホローコーン部4とは、棒状のアンカー7のための通し開口を形成している。アンカー7は、図2に示されている。エラストマースリーブ2の外径は、ホローコーン部4の平均直径と略同じ大きさであり、かつエラストマースリーブ2は、軸方向でアダプタスリーブ3よりも長い。エラストマースリーブ2は、弾性変形可能、いずれにしても大部分弾性変形可能であり、かつ少なくとも略非圧縮性と見なされてよい。エラストマースリーブ2は、エラストマースリーブ2がアダプタスリーブ3のホローコーン部4内に押し込まれるか、あるいは圧入されると、エラストマースリーブ2の体積が、アンカー7をアダプタスリーブ3内において包囲する中空室を完全に充填し、かつアンカー7のねじピッチ内に侵入するように寸法設定されている。
【0021】
図2は、緩衝装置1を用いてアンカー7によりアンカー基礎9に部材8を固定した状態を示している。部材8、アンカー基礎9、アンカー7及び緩衝装置1は、相俟って1つの固定装置を形成している。アンカー7は、拡開可能な拡開スリーブ10を備える拡開アンカーであり、アンカー基礎9に設けられた孔11内に挿入され、孔11内でのアンカー固定のために拡開されている。アンカー7は、アンカー基礎9から突出している。部材8は、貫通孔12を有している。貫通孔12の直径は、緩衝装置1のアダプタスリーブ3の直径に等しい。部材8は貫通孔12でもって、アンカー7の、アンカー基礎9から突出した部分に設置されており、緩衝装置1はアダプタスリーブ3でもって、やはり、部材8の貫通孔12内に挿入されるとともに、アンカー7に設置されている。アダプタスリーブ3のフランジ5は、部材8の、アンカー基礎9とは反対側の表面に載置されている。この表面を外面13と言う。緩衝装置1に続いて、ワッシャ14がアンカー7に設置されており、ナット15がアンカー7のねじ山16に螺合されている。ナット15は、ワッシャ14及びアダプタスリーブ3のフランジ5を介して、部材8をアンカー基礎9に対して締め付ける。同時に、ナット15は、ワッシャ14を介してエラストマースリーブ2を、アンカー7をアダプタスリーブ3内において包囲する中空室内に押し込む。その際、少なくとも略非圧縮性と仮定し得るエラストマースリーブ2は、弾性変形して、外方においてはアダプタスリーブ3のホローコーン部4に適合し、内方においてはアンカー7のねじ山16に適合する。エラストマースリーブ2は、ねじ山16のピッチ内に侵入する。ワッシャ14がアダプタスリーブ3のフランジ5に当接したとき、エラストマースリーブ2は、アンカー7をアダプタスリーブ3内において包囲する中空室を完全に、有利には所定のプリロードをともなって充填している。ホローコーン部4により、エラストマースリーブ2は、問題なくアダプタスリーブ3内に侵入可能であり、アンカー7における部材8のセンタリングを実施する。部材8は、遊びなしにアンカー7に固定されている。
【0022】
択一的には、ワッシャ14は、アダプタスリーブ3に螺合可能な袋ナット又はこれに類するものとして形成されていてもよい。このために、アダプタスリーブ3は、フランジ5に雄ねじ山を有していてもよい。これにより、エラストマースリーブ2は、アンカー7の拡開とは独立して、軸方向で締め付け可能であり、緩衝装置1は、それ自体で締め付け可能である。このことは、相応に、後述する第4の実施の形態にも当てはまる。
【0023】
アンカー基礎9に対して締め付けられた部材8は、摩擦により移動に抗してアンカー基礎9に保持されている。部材8とアンカー基礎9との間の摩擦が、例えば地震の際に発生し得る高い負荷時に上回られると、部材8は、アンカー基礎9に対して移動する。この移動のために、エラストマースリーブ2は変形しなければならない。これにより、アンカー基礎9に対する部材8の移動は緩衝される。
【0024】
図2と比較して、図3に示した本発明の実施の形態では、アダプタスリーブ3が省略されている。部材8の貫通孔12は、錐形であり、緩衝装置1のホローコーン部4あるいはエラストマースリーブ2のためのホローコーン部4を形成している。図2について説明したように、部材8は、アンカー7の、アンカー基礎9から突出した部分に設置されており、エラストマースリーブ2も、アンカー7に設置されるとともに、部材8の錐形の貫通孔12内に挿入されている。アンカー7のねじ山12に螺合されるナット15によって、エラストマースリーブ2は、ワッシャ14を介して貫通孔12内に押し込まれ、その際に、外側ではホローコーン部4に当接し、内側ではねじ山16に当接してねじ山16に合わせて変形される。ワッシャ14を介してナット15は、部材8をアンカー基礎9に対して締め付ける。アンカー基礎9に対する部材8の移動の際には、エラストマースリーブ2は、変形して、アンカー基礎9に対する部材8の移動を緩衝する。
【0025】
図4に示した本発明の実施の形態でも、緩衝装置1はアダプタスリーブを有しておらず、エラストマースリーブ2は、固定したい部材8に設けられた貫通孔12内に直接挿入されている。図4において、部材8の貫通孔12は、図2と同様に柱面状である。エラストマースリーブ2は、同様に管状であるが、アンカー基礎9とは反対側の端部にコーン部17を有している。このエラストマースリーブ2は、コーン部17の一部が部材8の貫通孔12から突出するような長さを有している。他方の、アンカー基礎9側の端部に、エラストマースリーブ2は、孔付きディスク18を有している。孔付きディスク18は、塑性変形可能な材料からなっており、鋼若しくはその他の金属又はプラスチックからなっていてよい。この列挙は限定列挙ではない。
【0026】
アンカー7のねじ山16にナット15を螺合させて締めることにより、エラストマースリーブ2は、部材8に設けられた貫通孔12内に押し込まれるか、あるいは圧入され、外方においては孔壁に適合し、内方においてはねじ山16に適合する。エラストマースリーブ2は、ねじ山16のピッチ内に入り込むように変形する。本実施の形態でも、エラストマースリーブ2は、アンカー7を貫通孔12内において包囲する中空室を完全に充填する。孔付きディスク18がエラストマースリーブ2を軸方向で支持しているので、エラストマースリーブ2が、例えば、アンカー7が固定されている孔11の開口部の欠損クレータ19内に侵入するように変形することはない。エラストマースリーブ2の孔付きディスク18は、エラストマースリーブ2の変形のために利用可能な容積を制限する。その結果、エラストマースリーブ2は、ナット15の締め付け後、所定の通りに、利用可能な容積を遊びなしに外方及び内方に充填する。アンカー基礎9に対する部材8の移動時、エラストマースリーブ2は、変形して、移動を緩衝する。この移動が、孔付きディスク18の、アンカー7上の遊び及び部材8の貫通孔12内の遊びより大きいと、孔付きディスク18も変形する。緩衝装置1の緩衝作用は、これにより増大する。孔付きディスク18の変形は塑性、いずれにしても大部分塑性である。その結果、孔付きディスク18の中心孔は、長孔に変形する。孔付きディスク18の緩衝作用は、そのために、一方向でのアンカー基礎9に対する部材8の移動の際に1回限り提供されている。
【0027】
図6に示した本発明に係る緩衝装置1は、図2と同様に、アダプタスリーブ3を有している。アダプタスリーブ3内には、エラストマースリーブ2が収容されている。図2とは異なり、図6のアダプタスリーブ3は、内面において錐形でなく、柱面状である。アダプタスリーブ3は、中心孔を備える底20を有している。底20は、機能及び作用に関して、図4及び図5に示した孔付きディスク18と比較可能である。図6に示したアダプタスリーブ3又はいずれにしてもアダプタスリーブ3の底20は、塑性変形可能である。図4と同様に、エラストマースリーブ2はコーン部17を有している。このコーン部17は、未変形の状態で部分的にアダプタスリーブ3から突出している。アダプタスリーブ3は、固定したい部材8の貫通孔12内への挿入のための面取り部21を有している。アダプタスリーブ3は、軸方向で部材8の厚さより短いため、アダプタスリーブ3は、アンカー基礎9に載置されず、部材8だけがアンカー基礎9に対して締め付けられる。ナット15を締めることにより、エラストマースリーブ2は、アダプタスリーブ3内の、アンカー7を包囲する中空室内に侵入するように変形し(図7)、かつアンカー基礎9に対する部材8の移動を緩衝する。これについては繰り返し説明した通りである。移動量が、アンカー7の、アダプタスリーブ3の底20の中心孔内の遊びより大きいと、底20は、塑性変形して、移動を付加的に緩衝する。これについては、図4及び図5に示した孔付きディスク18を参照しながら説明した通りである。
【0028】
図4及び図5に示した孔付きディスク18及び図6及び図7に示したアダプタスリーブ3の底20と同様に、図2に示したアダプタスリーブ3も、アンカー基礎9に対する部材8の相応に大きな移動の際に、緩衝装置1の緩衝作用を増大させるために、塑性変形可能であってもよい。
【符号の説明】
【0029】
1 緩衝装置
2 エラストマースリーブ
3 アダプタスリーブ
4 ホローコーン部
5 フランジ
6 貫通孔
7 アンカー
8 部材
9 アンカー基礎
10 拡開スリーブ
11 孔
12 貫通孔
13 外面
14 ワッシャ
15 ナット
16 ねじ山
17 コーン部
18 孔付きディスク
19 欠損クレータ
20 底
21 面取り部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンカー(7)のための通し開口を備える緩衝装置において、該緩衝装置(1)が、設置状態において前記アンカー(7)を包囲するエラストマースリーブ(2)を備え、該アンカー(7)により前記エラストマースリーブ(2)を軸方向で締め付けると、前記エラストマースリーブ(2)が、圧迫されて、内周においても外周においても遊びなしになることを特徴とする、緩衝装置。
【請求項2】
前記エラストマースリーブ(2)が孔付きディスク(18)を一端面に備える、請求項1記載の緩衝装置。
【請求項3】
前記緩衝装置(1)がアダプタスリーブ(3)を備え、該アダプタスリーブ(3)内に前記エラストマースリーブ(2)が設置状態において収容されている、請求項1記載の緩衝装置。
【請求項4】
前記エラストマースリーブ(2)がコーン部(17)を備える、請求項1記載の緩衝装置。
【請求項5】
前記緩衝装置(1)がホローコーン部(4)を備え、該ホローコーン部(4)内に、前記エラストマースリーブ(2)が、設置状態において収容されており、軸方向で締め付けられている際には、遊びなしに埋設されている、請求項1記載の緩衝装置。
【請求項6】
前記ホローコーン部(4)が、前記エラストマースリーブ(2)の挿入方向で先細りしている、請求項5記載の緩衝装置。
【請求項7】
前記緩衝装置(1)がアダプタスリーブ(3)を備え、該アダプタスリーブ(3)が前記ホローコーン部(4)を備え、該ホローコーン部(4)内に前記エラストマースリーブ(2)が設置状態において収容されている、請求項5記載の緩衝装置。
【請求項8】
前記ホローコーン部(4)がアンカー基礎(9)に向かって先細りしている、請求項7記載の緩衝装置。
【請求項9】
前記アダプタスリーブ(3)が、孔(12)内への挿入時の同軸的な心合わせのための面取り部(21)を備える、請求項7記載の緩衝装置。
【請求項10】
前記緩衝装置(1)が、塑性変形可能なエレメント(18;20)を備え、該塑性変形可能なエレメント(18;20)が、設置状態において半径方向で前記アンカー(7)に固定可能である、請求項1記載の緩衝装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2012−512346(P2012−512346A)
【公表日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−541141(P2011−541141)
【出願日】平成21年12月2日(2009.12.2)
【国際出願番号】PCT/EP2009/008576
【国際公開番号】WO2010/069462
【国際公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【出願人】(509003117)フィッシャーヴェルケ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング ウント コンパニー コマンディートゲゼルシャフト (14)
【氏名又は名称原語表記】fischerwerke GmbH & Co. KG
【住所又は居所原語表記】Weinhalde 14−18, D−72178 Waldachtal, Germany
【Fターム(参考)】