説明

緻密質−多孔質接合体

【課題】研削抵抗の相違に由来する、緻密質体と多孔質体との境界における段差の低減または解消を図ることができる緻密質−多孔質接合体等を提供する。
【解決手段】本発明の緻密質−多孔質接合体によれば、緻密質体1と前記多孔質体2との接合界面が実質的に隙間なく一体的に焼成されている。緻密質体1が酸化アルミニウムの焼結体からなり、XRDのピーク強度により算出される結晶配向度I300/(I300+I104)が0.1〜0.2である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質体を構成するガラスにより緻密質体と多孔質体とが接合されてなる緻密質−多孔質接合体に関する。
【背景技術】
【0002】
出願人により、多孔質体からなる載置部と、緻密質体からなる支持部とを備えている真空吸着装置が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4336532号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、緻密質体からなる支持部の研削抵抗と、多孔質体からなる載置部の研削抵抗とは著しく異なる。このため、支持部の表面と載置部の表面とが同じ高さになるように研削加工された結果、図4に示されているように載置部1がこれを囲む支持部2よりも高くなる傾向がある。特に、載置部および支持部の接合のためにガラス接合剤またはエポキシ等の有機接着剤が用いられた場合、研削加工時に多孔質体の裏面に存在する接着層がクッションのように機能する。このため、研削抵抗の低い多孔質体がいったん沈んだ後で元に戻ることで、この段差が高くなる傾向がより顕著となる。
【0005】
そこで、本発明は、研削抵抗の相違に由来する、緻密質体と多孔質体との境界における段差の低減または解消を図ることができる緻密質−多孔質接合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の緻密質−多孔質接合体は、緻密質体と、セラミックス粉末がガラスにより結合されて構成されている多孔質体とを備え、前記多孔質体のガラスにより前記緻密質体と前記多孔質体とが接合されてなる緻密質−多孔質接合体に関する。
【0007】
本発明者は、緻密質体の快削性(研削加工容易性)と、当該緻密質体を構成する酸化アルミニウム焼結体(セラミックス)のXRDのピーク強度により算出される結晶配向度I300/(I300+I104)とに相関関係があることを知見した。本発明者は、特に、結晶配向度I300/(I300+I104)が0.1〜0.2である場合、緻密質体が優れた快削性を有することを知見した。
【0008】
本発明の緻密質−多孔質接合体は、当該知見に基づいてなされたものであり、前記緻密質体と前記多孔質体との接合界面が実質的に隙間なく一体的に焼成され、前記緻密質体が酸化アルミニウムの焼結体からなり、XRDのピーク強度により算出される結晶配向度I300/(I300+I104)が0.1〜0.2であることを特徴とする。
【0009】
本発明の緻密質−多孔質接合体によれば、緻密質体の研削抵抗と、多孔質体の研削抵抗との差が低減されうる。また、緻密質体と多孔質体との接合界面が実質的に隙間なく一体的に焼成されているので、当該接合界面に接着層が存在する場合とは異なり、研削加工時における多孔質体の一時的な沈み込みが回避されうる。したがって、当該研削抵抗の相違に由来する、緻密質体と多孔質体との境界における段差の低減または解消が図られる。
【0010】
前記緻密質体が二酸化チタンを0.1〜0.4質量%含むことが好ましい。これにより、緻密質体の焼成に際して、二酸化チタン(TiO)を酸化アルミニウム(Al)に固溶させ、酸化アルミニウムの粒成長が促される。このため、十分な機械的強度に加えて、優れた快削性を緻密質体に持たせることができる。そして、前記のように緻密質体の研削抵抗と、多孔質体の研削抵抗との差に由来する、緻密質体と多孔質体との境界における段差の低減または解消が図られる。
【0011】
前記緻密質体の平均結晶粒径が10〜50[μm]であることが好ましい。これにより、結晶粒を十分に成長させて、前記のような結晶配向度を示すように緻密質体の結晶配向を進行させることができる。
【0012】
前記緻密質−多孔質接合体は、前記緻密質体からなる支持部と、前記緻密質体に設けられている凹部に形成されている前記多孔質体からなる載置部とを備え、前記支持部において前記載置部の裏面に通じる真空吸引用経路が設けられている真空吸着装置であってもよい。
【0013】
当該構成の緻密質−多孔質接合体としての真空吸着装置によれば、支持部(緻密質体)と載置部(多孔質体)との界面における段差が低減または解消されうる。このため、凹部縁部に当接するように載置部に載置されたウェハ等の被吸着物を載置部に確実に当接させ、真空吸引用経路を通じた真空吸引によって、この被吸着物が真空吸着装置に確実に吸着されうる。これにより、被吸着物の加工精度の向上等が図られる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の緻密質−多孔質接合体の構成説明図。
【図2】緻密質体のXRDの計測結果および結晶配向度に関する説明図。
【図3】緻密質体と多孔質体との接合界面に関する説明図。
【図4】先行技術の緻密質−多孔質接合体の研削加工に伴う問題に関する説明図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(本発明の緻密質−多孔質接合体の構成)
本発明の緻密質−多孔質接合体の一実施形態は、図1に示されているように被吸着物xが載置される載置部(多孔質体)1と、載置部1を支持する支持部(緻密質体)2とを備えている真空吸着装置である。載置部1は、セラミックス粉末がガラスにより結合されることにより構成されている平板状の多孔質体により構成されている。支持部2は、酸化アルミニウム焼結体よりなる緻密質体により構成されている。
【0016】
支持部2の上面には、載置部1が接合される凹部が形成されている。当該凹部の周縁部をなす土手部20の上面は、載置部1の表面(上面)と同じ高さになるように研削加工されている。支持部2には、載置部1の裏面(下面)に通じ、真空吸引用経路が(図示略)形成されている。真空吸引用経路を通じて載置部1の裏側が真空吸引されることにより、載置部1に載置されている被吸着物xが真空吸着装置に吸着される。
【0017】
(本発明の緻密質−多孔質接合体の製造方法)
載置部1を形成する多孔質体の原料粉末であるアルミナ粉末およびガラス粉末、または、炭化珪素粉末およびガラス粉末に、水またはアルコールが加えられた上で混合されることによりスラリーが調整される。原料は、ボールミル、ミキサー等の公知の方法により混合されうる。セラミックス粉末の粒度、ガラス粉末の添加量を考慮し、所望の流動性が得られるよう水またはアルコールの添加量が調整されればよい。
【0018】
支持部2は、酸化アルミニウム粉末に対して、0.1〜0.4質量%、好ましくは0.1〜0.2質量%の含有量に相当する量の二酸化チタン(TiO)粉末が添加されることにより得られたスラリー状の原料粉末が鋳込み成形等により成形かつ焼成されることにより製造される。なお、原料粉末には、酸化アルミニウムおよび二酸化チタンのほか、不可避的な不純物が含まれていてもよい。
【0019】
酸化アルミニウム粉末の純度は90%以上であることが好ましく、99[%]以上であることがより好ましい。酸化アルミニウム粉末の粒径は0.1〜1.0[μm]の範囲内であることが好ましい。
【0020】
二酸化チタン粉末の純度は、良好な結晶配向性を有し、加工性に優れた酸化アルミニウム焼結体を得る観点から、90%以上であることが好ましく、95[%]以上であることがより好ましい。同様の観点から、二酸化チタン粉末の粒径は、0.5[μm]以下であることが好ましく、0.30[μm]以下であることがより好ましい。
【0021】
酸化アルミニウム粉末および二酸化チタン粉末は、ボールミル等の公知方法にしたがって混合されうる。その際に適宜分散剤またはバインダ等が加えられることにより、原料粉末が作製される。
【0022】
原料粉末は、一軸プレス成形、CIP成形、湿式成形等の種々の成形方法を用いて成形されうる。加圧鋳込みまたは廃泥鋳込み等の鋳込み成形方法が用いられる場合、原料粉末のスラリーの作製に際して、各成分の分散が均一であるスラリーを得る観点から、原料粉末がたとえば18時間以上にわたり十分に撹拌かつ混合される。
【0023】
成形体は、大気、真空、不活性ガス等の種々の雰囲気の中で、常圧で焼成される。なかでも常圧の大気雰囲気が最も好適である。焼成温度は、たとえば1500〜1700[℃]の範囲の温度に調節される。焼成温度としては、得られる焼結体の平均結晶粒径が10[μm]以上となり、十分に緻密化するような温度が望ましい。
【0024】
原料粉末に対する二酸化チタン粉末の添加に代えて、大気中での焼結後に酸化物を生成する塩化物または有機チタン化合物等の形態のチタン化合物が添加されることにより、二酸化チタンを含有する焼結体が得られてもよい。
【0025】
前記のようにして得られた支持部2に設けられている凹部が、その表面粗さが1.0〜3.0[μm]になるように加工される。
【0026】
載置部(多孔質体)が構成されるセラミックス粉末は、アルミナ、炭化珪素等の一般的なセラミックスでよく、アルミナが最も好ましい。ここで、多孔質体からなる載置部の気孔は連通しており、平均気孔径が10〜150[μm]、気孔率が20〜40[%]とすることが好ましく、このような気孔径および気孔率を得るためには、前記載置部のもう一方の構成原料であるセラミックス粉末の平均粒径が30〜150[μm]のものを使用することが好ましい。
【0027】
次に、前記載置部の構成成分であるガラスの熱膨張係数が前記支持部および前記載置部のもう一方の構成成分であるセラミックス粉末の熱膨張係数より小さいものを使用することが好ましい。その理由は、低熱膨張のガラスを使用することにより、焼結後の多孔質体と支持部材との界面の隙間をなくすことができ、また、多孔質体において結合材としての役割を有するガラスに圧縮応力が加わった状態が望ましいからである。
【0028】
また、本発明では、前記載置部の構成原料となるガラス粉末の平均粒子径が前記載置部のもう一方の構成原料であるセラミックス粉末の平均粒子径より小さい方が好ましい。その理由は、ガラス粉末の平均粒径がセラミックス粉末よりも大きいと、セラミックス粉末の充填を阻害するため、ガラス軟化点以上で焼結する際に焼成収縮を起こすからである。ガラスの平均粒径は、好ましくは、セラミックス粉末の平均粒径の1/2以下、さらに好ましくは1/3以下が望ましい。添加するガラス粉末の量は、特に限定しないが、ガラス粉末の粒径が大きい場合と同様に大量に添加するとセラミックス粉末の充填を阻害し、焼成収縮を起こすため、少量が望ましい。ただし、少なすぎるとセラミックス粉末の結合強度が低下し、脱粒や欠けの問題が生じるため、結合強度を発揮するような量が必要である。具体的には、目標とする気孔率、セラミックス粉末の粒度、焼成温度およびガラス粘性等を考慮して調整されるが、概ねセラミックス粉末に対して5〜30質量%程度添加混合することが望ましい。
【0029】
載置部(多孔質体)の形成方法について、述べる。はじめに載置部2を形成する多孔質体の原料粉末であるセラミックス粉末およびガラス粉末に、水またはアルコールを加えて混合してスラリーを調整する。原料の混合は、ボールミル、ミキサー等、公知の方法が適用できる。ここで、水またはアルコール量は特に限定しない。セラミックス粉末の粒度、ガラス粉末の添加量を考慮し所望の流動性が得られるよう水またはアルコールの添加量を調整する。
【0030】
その上で、凹部にスラリーが充填される。この際、必要に応じて、残留気泡を除去するための真空脱泡や、充填を高めるための振動が加えられることが好ましい。また、真空吸引用経路はスラリー充填前に、ろうまたは樹脂等の焼失部材により閉塞される。
【0031】
続いて、凹部にスラリーが充填された状態の支持部2が十分に乾燥された上で、ガラスの軟化点以上の温度で焼成される。この際、焼成温度がガラスの軟化点より低いと十分に一体化できないが、反対に焼成温度が高すぎると変形や収縮を起こすため、できるだけ低温で焼成することが望ましい。
【0032】
そして、支持部2の凹部の周縁部をなす土手部20の上面と、載置部1の表面(上面)とが、お互いに同じ高さになるようにダイヤモンド砥石によって研削加工される。
【実施例】
【0033】
平均粒子径0.7[μm]、純度99.5[%]の酸化アルミニウム粉末と、平均粒子径0.25[μm]、純度99.9[%]の二酸化チタン粉末とが混合されて得られた原料粉末が成形かつ焼成されることにより、緻密質体からなる支持部2が製造された。焼成温度は1550〜1630[℃]、特に1580〜1620[℃]の範囲の温度に調節されることがより好ましい。この支持部2が用いられて前記のようにその凹部に接合されている多孔質体からなる載置部1を有する真空吸着装置が製造された。なお、セラミックス粉末としてアルミナ(粒径:125μm)、ガラスとしてシリカ系ガラス(粒径:5μm)を用いた。得られた多孔質体は、平均気孔径が30μm、気孔率が35%であった。
【0034】
(実施例1)
粉末材料は、任意量のφ10[mm]のアルミナボールを入れた樹脂ポットが用いられることにより18時間にわたり混合され、スラリー化された。原料粉末における二酸化チタンの質量比が「0.10」に調節された。この原料粉末は鋳込み成形法により成形された。さらに、当該成形体が常圧大気中、昇温速度50[℃/hr]で1600[℃]まで加熱され、当該焼成温度が3時間保持されることにより焼成された。その後、焼成された成形体が自然冷却されることによって、実施例1の緻密質体(支持部2)が製造された。凹部は、その表面粗さが1.5[μm]になるように加工された。
【0035】
(実施例2)
原料粉末における二酸化チタンの質量比が「0.20」に調節され、原料粉末の成形体の焼成温度が1550[℃]に調節された以外は、実施例1と同様の条件下で実施例2の緻密質体が製造された。凹部は、その表面粗さが1.5[μm]になるように加工された。
【0036】
(実施例3)
原料粉末における二酸化チタンの質量比が「0.20」に調節された以外は、実施例1と同様の条件下で実施例3の緻密質体が製造された。凹部は、その表面粗さが2.0[μm]になるように加工された。
【0037】
(実施例4)
原料粉末における二酸化チタンの質量比が「0.20」に調節され、原料粉末の成形体の焼成温度が1630[℃]に維持された以外は、実施例1と同様の条件下で実施例4の緻密質体が製造された。凹部は、その表面粗さが3.0[μm]になるように加工された。
【0038】
(実施例5)
原料粉末における二酸化チタンの質量比が「0.40」に調節された以外は、実施例1と同様の条件下で実施例5の緻密質体が製造された。凹部は、その表面粗さが3.0[μm]になるように加工された。
【0039】
実施例1〜5の支持部2を構成する酸化アルミニウム焼結体について、鋳込み成形法による着肉方向に垂直な面におけるXRD強度が測定された上で、結晶配向度I300/(I300+I104)が算出された。XRD強度は、鏡面研磨した焼結体表面を用い、リガク社製X線回折装置MultiFlexを使用し、CuKα線源、加速電圧40[kV]、40[mA]の条件下で測定された。測定結果が表1に示されている。結晶配向度I300/(I300+I104)は0.10〜0.20の範囲であることがわかる。
【0040】
参考までに、実施例1の緻密質体(酸化アルミニウム焼結体)について、図2(a)にXRD強度の測定結果が示され、図2(b)には結晶配向度の基礎である(300)面および(104)面のそれぞれにおけるXRD強度の測定結果が示されている。
【0041】
実施例1〜5のそれぞれの緻密質体の平均結晶粒度が測定された。表1から明らかなように、実施例1〜5の緻密質体の平均結晶粒径が10〜50[μm]の範囲であることがわかる。
【0042】
【表1】

【0043】
実施例1〜5のそれぞれについて、載置部1(多孔質体)の上面に対する、支持部2(緻密質体)の土手部20の上面の段差が緻密質−多孔質接合体の断層写真を用いて測定された。当該段差は1.0[μm]以下であり、段差低減効果が十分であること(表では「○」が付されている。)が確認された。
【比較例】
【0044】
原料粉末における二酸化チタンの質量比が0.10〜0.40から外れている等の点で、実施例と異なる条件下で支持部2が製造された。
【0045】
(比較例1)
原料粉末における二酸化チタンの質量比が「0」に調節された以外は、実施例1と同様の条件下で比較例1の緻密質体が製造された。凹部は、その表面粗さが0.6[μm]になるように加工された。
【0046】
(比較例2)
原料粉末における二酸化チタンの質量比が「0.05」に調節された以外は、実施例1と同様の条件下で比較例2の緻密質体が製造された。凹部は、その表面粗さが1.0[μm]になるように加工された。
【0047】
(比較例3)
原料粉末における二酸化チタンの質量比が「0.5」に調節された以外は、実施例1と同様の条件下で比較例3の緻密質体が製造された。凹部は、その表面粗さが3.8[μm]になるように加工された。
【0048】
(比較例4)
原料粉末の成形体の焼成温度が1650[℃]に維持された以外は、比較例1と同様の条件下で比較例4の緻密質体が製造された。凹部は、その表面粗さが1.5[μm]になるように加工された。
【0049】
(比較例5)
原料粉末の成形体の焼成温度が1700[℃]に維持された以外は、比較例1と同様の条件下で比較例5の緻密質体が製造された。凹部は、その表面粗さが2.0[μm]になるように加工された。
【0050】
(比較例6)
原料粉末の成形体の焼成温度が1750[℃]に維持された以外は、比較例1と同様の条件下で比較例6の緻密質体が製造された。凹部は、その表面粗さが3.8[μm]になるように加工された。
【0051】
(比較例7)
緻密質体および多孔質体がガラス接合された以外は、比較例1と同様の条件下で比較例7の緻密質体が製造された。凹部は、その表面粗さが0.6[μm]になるように加工された。
【0052】
比較例1〜7の支持部2を構成する酸化アルミニウム焼結体について、鋳込み成形法による着肉方向に垂直な面におけるXRD強度が測定された上で、結晶配向度I300/(I300+I104)が算出された。比較例1〜7のそれぞれの緻密質体の平均結晶粒度が測定された。これらの測定結果が表2に示されている。
【0053】
【表2】

【0054】
比較例1〜7のそれぞれについて、載置部1(多孔質体)の上面に対する、支持部2(緻密質体)の土手部20の上面の段差が緻密質−多孔質接合体の断層写真を用いて測定された。当該段差は1.0[μm]を超えており、段差低減効果が不十分であること(表では「×」が付されている。)が確認された。
【0055】
二酸化チタンの添加量が「0」とされた比較例1によれば、結晶配向度は0.1〜0.2の範囲から外れた値であった。また、緻密質体の平均結晶粒度が10〜50の範囲から外れた値であった(粒成長:小)。以上のことから比較例1は、緻密質体に快削性を持たないので、段差低減効果は不十分である。
【0056】
二酸化チタンの添加量が「0.05」とされた比較例2によれば、二酸化チタンの添加量が少ないため粒成長促進効果が得られなかったため、緻密質対の平均結晶粒度が10〜50の範囲から外れた値であった(粒成長:小)。以上のことから比較例2は、緻密質体に快削性を持たないので、段差低減効果は不十分である。
【0057】
二酸化チタンの質量比が「0.50」とされた比較例3によれば、二酸化チタンの添加量が過剰となり、粒成長の進行が顕著となったため、緻密質体の平均結晶粒度が10〜50の範囲から外れた値となった(粒成長:大)。以上のことから比較例3は、支持部の密度低下が発生したため、適用できなかった。
【0058】
二酸化チタンの添加量が「0」とされ、かつ。成形体の焼成温度が1650[℃]、1700[℃]に維持された比較例4,5によれば、結晶配向度は0.1〜0.2の範囲から外れた値であった。平均結晶粒度が10〜50の範囲であるものの、部分的に粒成長が不十分な部分があるため、緻密質体に均質な快削性が得られなかった。以上のことから比較例4,5は、段差低減効果は不十分である。
【0059】
二酸化チタンの添加量が「0」とされ、かつ、成形体の焼成温度が1750[℃]に維持された比較例6によれば、結晶配向度は0.1〜0.2の範囲から外れた値であった。また、焼成温度が高すぎるため、粒成長の進行が顕著となり、緻密質体の平均結晶粒度が10〜50の範囲から外れた値となった(粒成長:大)。以上のことから支持部の密度低下が発生したため、適用できなかった。
【0060】
二酸化チタンの質量比が「0」とされた比較例7によれば、結晶配向度は0.1〜0.2の範囲から外れた値であった。また、緻密質体の平均結晶粒度が10〜50の範囲から外れた値であった(粒成長:小)。以上のことから比較例7は、緻密質体に快削性を持たず、かつ、緻密質体および多孔質体がガラス接合されているため、段差低減効果は不十分である。
【0061】
(本発明の作用効果)
本発明の緻密質−多孔質接合体によれば、緻密質体2に二酸化チタンが0.1〜0.4質量%の範囲で含まれるように、原料粉末に二酸化チタンが混合される。これにより、緻密質体2の焼成に際して、二酸化チタンを酸化アルミニウムに固溶させ、酸化アルミニウムの粒成長が促される。緻密質体2の平均結晶粒径が10〜50[μm]である。これにより、結晶粒を十分に成長させて、緻密質体2の結晶配向を進行させることができる。
【0062】
その結果、緻密質体2を構成する酸化アルミニウム焼結体のXRDのピーク強度により算出される結晶配向度I300/(I300+I104)が0.1〜0.2になる。このため、緻密質体が優れた快削性を有することになり、緻密質体2の研削抵抗と、多孔質体1の研削抵抗との差が低減されうる。
【0063】
したがって、十分な機械的強度に加えて、優れた快削性を緻密質体に持たせることができる。そして、前記のように緻密質体2の研削抵抗と、多孔質体1の研削抵抗との差に由来する、多孔質体1と緻密質体2との境界における段差の低減または解消が図られる。
【0064】
また、緻密質体2に設けられている凹部表面における表面粗さが1.0〜3.0[μm]に加工されている。このため、図3(a)に示されているように多孔質体1の骨格粒子であるセラミックス粒子11が、緻密質体2の表面に直接的に接合され、アンカー効果によって多孔質体1と緻密質体2とが強固に接合されている。すなわち、緻密質体2と多孔質体1との接合界面が実質的に隙間なく一体的に焼成される。
【0065】
これにより、図3(b)に示されているように多孔質体1と緻密質体2との接合界面に接着層14が存在する場合とは異なり、研削加工時における多孔質体1の一時的な沈み込みが回避されうる。したがって、当該研削抵抗の相違に由来する、多孔質体1と緻密質体2との境界における段差の低減または解消が図られる。
【0066】
本発明の緻密質−多孔質接合体としての真空吸着装置によれば、支持部2(緻密質体)と載置部1(多孔質体)との界面における段差が低減または解消されうる。このため、土手部20(凹部縁部)に当接するように載置部1に載置されたウェハ等の被吸着物xを載置部1に確実に当接させ、吸気経路12を通じた真空吸引によって、この被吸着物xが真空吸着装置に確実に吸着されうる。これにより、被吸着物の加工精度の向上等が図られる。
【0067】
(本発明の他の実施形態)
前記構成の真空吸着装置のほか、緻密質体および多孔質体が接合され、当該緻密質体の表面および当該多孔質体の表面の高さが同一であるような構造を有するさまざまな装置または器具などに、本発明の緻密質−多孔質接合体が採用されてもよい。
【0068】
二酸化チタン粉末の添加量を多くするほど酸化アルミニウムに固溶せずに存在するフリーの二酸化チタンに起因する青色の色むらが生じ、酸化アルミニウム焼結体が有する白色又は乳白色といった色味を損なう場合がある。そこで、これを防止するために、緻密質体の原料粉末に対して、0.03〜2.0質量%、好ましくは0.03〜1.5質量%の含有量に相当する量の酸化カルシウムが添加されてもよい。
【0069】
添加する酸化カルシウム粉末は白色度が90[%]以上のものが好ましい。また、純度は90[%]以上が好ましい。粒径は1[μm]以下が好ましい。なお、原料粉末に対する酸化カルシウム粉末の添加に代えて、大気中での焼結後に酸化物を生成する炭酸塩または硝酸塩などの形態のカルシウム化合物が添加されることにより、酸化カルシウムを含有する焼結体が得られてもよい。
【符号の説明】
【0070】
1‥多孔質体、2‥緻密質体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
緻密質体と、セラミックス粉末がガラスにより結合されて構成されている多孔質体とを備え、前記多孔質体のガラスにより前記緻密質体と前記多孔質体とが接合されてなる緻密質−多孔質接合体であって、
前記緻密質体と前記多孔質体との接合界面が実質的に隙間なく一体的に焼成され、
前記緻密質体が酸化アルミニウムの焼結体からなり、XRDのピーク強度により算出される結晶配向度I300/(I300+I104)が0.1〜0.2であることを特徴とする緻密質−多孔質接合体。
【請求項2】
請求項1記載の緻密質−多孔質接合体において、
前記緻密質体が二酸化チタンを0.1〜0.4質量%含むことを特徴とする緻密質−多孔質接合体。
【請求項3】
請求項1または2記載の緻密質−多孔質接合体において、
前記緻密質体の平均結晶粒径が10〜50[μm]であることを特徴とする緻密質−多孔質接合体。
【請求項4】
請求項1〜3のうちいずれか1つに記載の緻密質−多孔質接合体において、
前記緻密質−多孔質接合体は、前記緻密質体からなる支持部と、前記緻密質体に設けられている凹部に形成されている前記多孔質体からなる載置部とを備え、前記支持部において前記載置部の裏面に通じる真空吸引用経路が設けられている真空吸着装置であることを特徴とする緻密質−多孔質接合体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−140257(P2012−140257A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−292547(P2010−292547)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【出願人】(391005824)株式会社日本セラテック (200)
【Fターム(参考)】