説明

繊維強化織布及びそれを用いたレドーム

【課題】レドームのFRPにオレフィン繊維のような低誘電率繊維を強化繊維として用いると、マトリックス樹脂との密着力が弱く、容易にすべりが発生し、せん断強度が低い。またオレフィン繊維は高強度であるため、機械加工が困難であった。従って、密着力、せん断強度が高く、機械加工が容易な繊維強化織布を用いて、優れた電気及び機械特性を有するレドームを得る。
【解決手段】この問題を解決する為に、オレフィン繊維とガラス繊維をたて糸またはよこ糸とし、ガラス繊維が少なくとも片面に主に現れるように交織する。交織した繊維強化織布を少なくとも1枚含めて、ガラス繊維が主に現れる面が密着するように、レドームの型に沿わせて積層する。この積層にマトリックス樹脂を含浸し一体化させレドームを製作したものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電波を送受信する空中線等の電波機器を収納し、外部環境(風、雨、雪、砂、氷、太陽光等)から保護するレドーム等の構造部に使用するFRP(繊維強化樹脂)に関するものである。FRP(繊維強化樹脂)とは、電気及び機械特性の優れた織布を積層しマトリックス樹脂を含浸することにより強化された樹脂である。このようなレドームは、主に、通信、レーダ装置として、航空機、車両、船舶等に使用されている。
【背景技術】
【0002】
レドームは、その収納している電波機器が送受信する電波を妨げず、かつ、電波機器を外部環境から保護するのに必要な強度を有していなければならない。このような特性を有する従来のレドームとしては、繊維強化樹脂を有する第一の複合材料面版と第二の対向する複合材料面版との間に、発泡体等の低密度誘電体から成るコアを挟み込んだサンドイッチ構造板を用いたものがある。このようなサンドイッチ構造板は、低密度誘電体を挟み込むことにより、構造強度を保持しつつ、全体としての誘電率を低くし、レドームの電波透過性を向上させることができる。強化繊維として、ガラス繊維が一般的に用いられているが、ポリエステル−ポリアリレート繊維のような誘電率が低い繊維を用いて誘電率をより一層低下させることも知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、当社は、特許文献2に示すように、「レドーム及びその製造方法」の特許を出願した。この特許では、まず、ガラス繊維織布をオレフィン繊維織布よりもレドーム内部側に配置し型に沿わせて積層する。次に、型内を真空状態にしつつ、マトリックス樹脂を型内に注入し硬化させ、一体化したFRPを形成してレドームを製作することを特徴とする。
この結果、低誘電率であるオレフィン織布により電波透過性を確保しながら、ガラス織布により高強度を確保し、電気及び機械特性の優れたレドームを製作出来る。
【特許文献1】特表2007−519298号(第1−12頁、第1図)
【特許文献2】特願2007−316821号(第1−13頁、第1図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、オレフィン繊維のような低誘電率の有機繊維を強化繊維として用いた場合は、マトリックス樹脂との密着力が弱く、オレフィン織布とマトリックス樹脂の界面に応力が発生すると容易にすべりが生じてしまうことが判明した。このため、オレフィン織布の表面に対してコロナ放電処理を行ない、少しは密着性を改善できたが、不十分だった。
またオレフィン繊維は高強度であるため、通常のドリルによる穴加工等の機械加工が困難であった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明はこの問題を解決する為に、オレフィン繊維とガラス繊維をたて糸またはよこ糸とし、ガラス繊維が少なくとも片面に主に現れるように交織する(異なる繊維をたて糸、よこ糸として織る)。交織した織布を少なくとも1枚含めて、ガラス繊維が主に現れる面が密着するように積み重ね、レドームの型に沿わせて積層する。この積層にマトリックス樹脂を含浸し硬化させレドームを製作したものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明は、オレフィン繊維とガラス繊維を交織することにより、オレフィン繊維によりレドームに要求される電波透過性を確保しながら、ガラス繊維により要求される強度を確保し、電気及び機械特性の優れた繊維強化織布を提供できる。
また、織布の少なくとも片面にマトリックス樹脂との密着性に優れたガラス繊維が主に現れるように構成したので、マトリックス樹脂との界面でも、すべりが発生せず、せん断強度が向上する。
第3に、オレフィン繊維のみの織布は高強度であるため、機械加工が困難であった。しかし、オレフィン繊維とガラス繊維を交織することにより、機械加工出来るようになった。
第4に、オレフィン繊維は、密度がガラス繊維の38%しかなく非常に軽い(図2参照)。従って、オレフィン繊維を多く織り込むことにより軽量化できる効果が有る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
実施の形態1.
図1は、本実施の形態によるレドーム1の説明図である。図1において、レドーム1は、台座2に固定用ボルト4で固定され、また、レドーム1の内部には空中線を含む電波機器3が収納されている。レドーム1は、外部環境(例えば、風、太陽光、雨及び海水等の自然環境、外部からの衝撃、並びに埃)から電波機器3を保護すると共に、外部と電波機器3との間で電波を受送信する際には電波を透過する。
【0008】
ここで、レドーム1の形状は、電波機器3が可動する場合にはレドーム1と電波機器3とが干渉しないようにする必要がある。レドーム1は、電波機器3中心部からレドーム1までの距離が、電波機器3の電波出力方向に対して出来るだけ等距離で、且つレドーム1に対して垂直に電波が入射するような形状となる。
また、レドーム1を電波が容易に透過するためには、誘電率が低く、誘電損失の少ない材料を使用する必要がある。図2には、本発明でFRPに使用する繊維である、オレフィン繊維(ダイニーマ)とガラス繊維の機械的、電気的特性値を示す。
ダイニーマは、東洋紡績株式会社から市販されている商品名である。オレフィン繊維の中でも超高分子量ポリエチレン繊維と称されるもので、低誘電率、高弾性率、高強度でかつ軽量である優れた繊維である。E-ガラスは、日東紡績株式会社製の一般的なガラス繊維である。NE-ガラスも、日東紡績株式会社製であり、誘電率の低いガラス繊維である。
【0009】
図3は、本実施の形態にて使用する織布の代表的な例として、たて二重織り織布5の概略断面図である。図において、表たて糸6と裏たて糸8にはガラス繊維、よこ糸7にはオレフィン繊維を用いる。この結果、表裏面ともにガラス繊維が主に現れるので、よこ糸7であるオレフィン繊維は表裏面共にガラス繊維によりほとんどカバーされる。従って、含浸されるマトリックス樹脂との界面には必ずガラス繊維が密着するように構成している。
ガラス繊維はマトリックス樹脂との密着性が良いので、本織布により強化された樹脂は、オレフィン織布がすべり易くせん断強度が低いのとは異なり、すべることが無くせん断強度も高い。その上に、ガラス繊維に覆われたオレフィン繊維は誘電率が低く誘電損失が少ないので、電波透過性が良好であり、レドームの特性も向上する。
【0010】
オレフィン繊維とガラス繊維の配合比率は、太さが同じであれば、約1:2である。しかし、電波透過率を向上する場合には、オレフィン繊維の撚り本数を増やすことによりオレフィン繊維の配合比率を増やして、よこ糸6を製作する。機械的強度を向上する場合には、ガラス繊維の配合比率を増やすことにより、同様にコントロールできる。
【0011】
図4には、レドーム断面構造図の例を示す。たて二重織り織布9を例えば2層、レドーム1の型に沿わせて積層する。この積層にマトリックス樹脂10を含浸し硬化させレドーム1を製作する。11はレドーム外表面、12はレドーム内表面である。
【0012】
オレフィン繊維としては、超高分子量ポリエチレン繊維を用いる。この繊維であれば、その優れた引張強度及び弾性率をレドーム1の特性に反映できる。超高分子量ポリエチレン繊維としては、例えば、東洋紡績株式会社から市販されているダイニーマ(比誘電率:2.2、分子量400万)を用いることができる。
【0013】
本実施の形態で用いられるガラス繊維の例としては、低誘電特性ガラス繊維であるNE−ガラス(日東紡績株式会社製、比誘電率:4.7)を挙げることができる。また、ガラス繊維は一般的に水酸基を多数有しており、且つマトリックス樹脂7との密着性を向上させるためにカップリング剤処理等の表面処理も容易であるので、E−ガラス、D−ガラス及びT−ガラス等のガラス繊維も使用することができる。
【0014】
マトリックス樹脂10としては、レドーム1の製造性を考慮すると、未硬化の状態で含浸性を確保し得る液状熱硬化性樹脂が好ましい。また、硬化後に水酸基を高密度に有し、水素結合を容易に形成するものが好ましい。このようなマトリックス樹脂10の例としては、エポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂及びシリコーン樹脂等を挙げることができる。
マトリックス樹脂10の硬化剤としては、特に限定されることはなく、当該技術分野において公知のものを使用することができる。かかる硬化剤としては、有機化酸化物や酸無水物等が挙げられる。また、硬化剤の配合量も、特に限定されることはない。
【0015】
本実施の形態では、オレフィン繊維とガラス繊維を交織することにより、オレフィン繊維によりレドームとして要求される電波透過性を確保しながら、ガラス繊維により要求される強度を確保し、電気及び機械特性の優れたFRPを提供できる。
第2に、織布の両面に、マトリックス樹脂10との密着性に優れたガラス繊維が主に現れるように構成したので、マトリックス樹脂との界面においても、すべりが発生せず、せん断強度が向上する。
第3に、オレフィン繊維のみの織布は高強度であるため、機械加工が困難であった。しかし、オレフィン繊維とガラス繊維を交織することにより、機械加工出来るようになった。
第4に、オレフィン繊維は、密度がガラス繊維の38%しかなく非常に軽い(表1参照)。従って、オレフィン繊維を多く用いることにより軽量化できる効果が有る。
実施の形態2.
【0016】
図5には、実施の形態2として、朱子織り(しゅすおり)の例を示す。朱子織りは、たて糸・よこ糸5本以上で完全組織が作られ、交錯点は一定間隔でしかも隣り合わないように配置されている。たて糸・よこ糸どちらかの糸の浮きが非常に少なく、たて糸またはよこ糸のみが主に現れているように見える組織である。
オレフィン繊維をよこ糸13としガラス繊維をたて糸14とし朱子織りすると、主にガラス繊維が現れる面と主にオレフィン繊維が現れる面ができる。ガラス繊維はマトリックス樹脂との密着性が良いので、主にガラス繊維が現れる面を密着させた状態で、他の層と積層する必要がある。
なお、片面に主にガラス繊維が現れるような織り方(組織)であれば、斜文織り、たて二重織り、よこ二重織り、たてよこ二重織り、その他の組織も使用できる。
【0017】
次にこの織布の積層法を、図6に示すレドームの断面構造を用いて説明する。
前記朱子織り織布を2枚とガラス繊維織布1枚を、互いのガラス繊維が主に現れる面を密着して積層する。つまり、中央にガラス繊維織布17が位置し、その両側に朱子織り織布15,16をガラス繊維が主に現れる面15a,16aを密着させた状態で積層する。このように積層すると、ガラス繊維はマトリックス樹脂との密着性が良いので、マトリックス樹脂との界面においても、すべりが発生せず、せん断強度が向上する。
なお、必要な強度を得られるのであれば、ガラス繊維織布を取り除くこともできる。
或いは、ガラス繊維織布の替わりに、実施の形態1のたて二重織り織布を用いることもできる。
【0018】
図7には、実施の形態1の他の例として、たてよこ二重織り18の概略断面を示す。
表織布19はたて糸19a、よこ糸19b共にオレフィン繊維を用いて平織りし、裏織布20はたて糸20a、よこ糸20b共にガラス繊維を用いて平織りする。但し、裏たて糸20aの一部を表よこ糸19bに掛けて表織布19と裏織布20を接合し、表面をオレフィン繊維が覆い、裏面をガラス繊維で覆ったものである。従って、片面に主にガラス繊維が現れる織り方であるので、この組織を使用してもよい。
【0019】
本実施の形態2では、オレフィン繊維を多く(約半分)含むように構成したので、交織した織布としては電波透過性が良好であり、軽量化もできる。
また、実施の形態1で使用した、たて二重織りと比較して、一般的な簡単な組織(朱子織り等)を用いているので容易に製作できる。
実施の形態3.
【0020】
オレフィン繊維織布を表布としガラス繊維織布を裏布とし重ね合わせ、ガラス繊維の糸を用いて2枚の織布がすべらないように充分縫い合わせることも可能である。
これには、オレフィン繊維のみの織布とガラス繊維のみの織布を使用するため、交織する必要が無く、比較的単純な縫い合せ作業で製作できる。また、オレフィン繊維とマトリックス樹脂10の界面でのすべりを無くし、せん断強度を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】この発明の実施の形態1を示すレドーム説明図
【図2】この発明の実施の形態1を示すダイニーマ、ガラス繊維の機械的、電気的特性値
【図3】この発明の実施の形態1を示す たて二重織り織布の概略断面図
【図4】この発明の実施の形態1を示すレドームの断面構造
【図5】この発明の実施の形態2を示す朱子織り織布の概略構造図
【図6】この発明の実施の形態2を示すレドームの断面構造
【図7】この発明の実施の形態2を示す たてよこ2重織り織布の概略断面図
【符号の説明】
【0022】
1 レドーム、2 台座、3 電波機器、4 固定用ボルト、5 たて二重織り織布、
6 表たて糸(ガラス繊維)、7 よこ糸(オレフィン繊維)、
8 裏たて糸(ガラス繊維)、9 たて二重織り織布、10 マトリックス樹脂、
11 レドーム外表面、12 レドーム内表面、
13 よこ糸(オレフィン繊維)、14 たて糸(ガラス繊維)、
15 朱子織り織布、15a 朱子織り織布15の主にガラス繊維が現れる面、
16 朱子織り織布、16a 朱子織り織布16の主にガラス繊維が現れる面、
17 ガラス繊維織布、18 たてよこ二重織り織布、
19 表織布(オレフィン繊維)、20 裏織布(ガラス繊維)、
19a 表たて糸(オレフィン繊維)、19b 表よこ糸(オレフィン繊維)、
20a 裏たて糸(ガラス繊維) 、20b 裏よこ糸(ガラス繊維)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オレフィン繊維とガラス繊維をたて糸又はよこ糸とし、交織したことを特徴とする繊維強化織布。
【請求項2】
前記ガラス繊維を表面と裏面のたて糸とし前記オレフィン繊維をよこ糸とし、表面と裏面共に前記ガラス繊維が主に現れるように交織したことを特徴とする繊維強化織布。
【請求項3】
前記オレフィン繊維が主に現れる面と前記ガラス繊維が主に現れる面とを有するように交織したことを特徴とする繊維強化織布。
【請求項4】
前記オレフィン繊維織布の表布と、前記ガラス繊維織布の裏布とを、前記ガラス繊維の糸を用いて縫い合わせたこと特徴とする繊維強化織布。
【請求項5】
前記オレフィン繊維が、超高分子量ポリエチレン繊維であることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の繊維強化織布。
【請求項6】
前記ガラス繊維が、低誘電率ガラス繊維であることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の繊維強化織布。
【請求項7】
前記請求項1ないし請求項6のいずれかに記載の繊維強化織布を少なくとも1枚含めて、ガラス繊維が主に現れる面を密着して積み重ねた積層に、マトリックス樹脂を含浸し一体化した繊維強化樹脂を構造材料として用いたことを特徴とするレドーム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−53479(P2010−53479A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−219552(P2008−219552)
【出願日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】