説明

義肢用インナーバッグ

【課題】 従来の義足のインナーバッグでは、吸着式の場合には断端部の発汗が問題となるって非常に装用感が悪かった。また金属ピン方式が現在主流であるがこれは、インナーバッグ外面とソケット内面とを密着させることなく義足保持を行なうものであって断端はインナーバッグに密着させねばならず装用感の改善に関しては特段の貢献はしていないものであった。
【解決手段】 通気性を有する繊維布製本体の内外表面の少なくとも除圧を要する部分に、多数の独立するシリコーンラバー突起を形成させたものであることを特徴とする義肢用インナーバッグ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、義足に代表される義肢に中、装用者の断端部に装着されるインナーバッグの構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
四肢の一部を失った際に、当該失った部分の機能や外観を補う装置が義肢である。典型的な義足を例に説明すると、装用者はまず断端部に、インナーバッグ(断端袋とも呼ばれる)をはめ、義足本体のソケットに差し込むことで、装着する。
【0003】
義足改良の歴史を見ると、現在の義足の基礎は太平洋戦争後に築かれているが、それ以前は木製(ホオ等)・金属製(主としてアルミニウム)で作られており、断端に靴下のようなインナーバッグを被せてソケットに差し込み、懸垂はベルトで行なうというものであった。これは差し込み義足とも呼ばれ現在でも愛用する者が少なくない。
その後材料は軽量なプラスチックに変わり、ソケットも断端に隙間なく密着させて、その密着力によって懸垂性を確保するいわゆる「吸着式義足」が登場した。これによって力の伝達効率が向上すると共に懸垂ベルトが不要となり、歩きやすく且つスマートな義足となった。一方、密着構造を採用したことに起因して断端のおかれる状況は、通気性のないプラスチックソケットに、汗を吸わず皮膚に密着するインナーバッグを差し込む、という劣悪なものとなった。
【0004】
続いて、1990年代になって、インナーバッグ底部にピン(キャッチピン)が取り付けられており、義足ソケット側にはこのピンを着脱自在に格納できる孔が刻設された義足が提案され、極めて急速に普及しつつある。ピンとソケットとは「遊び」なく連結されるので、これまでの義足においては非常に生じやすい「歩行時の不必要なピストン運動」がほとんど完全に解消されるはずである。また、このピンはロック機構を具備していて、ソケット内に格納されると自動的にロックされ、且つ外部から簡単にこのロックの解除ができるという構造も併せ持っている。
【0005】
即ち、義足ソケットとインナーバッグとの関係は、このピンタイプ義足の場合ほとんど理想的である。そこで、断端部をこのインナーバッグに支障なく上手く収めることができて、装用中も支障なければ、完璧なものとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−034257
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、シリコーンラバーを主体とするインナーバッグに、結構な長さ(通常7cm程度)の金属ピン(通常ステンレス製)を安全且つ確実に取設するのは困難であり、義肢製作技術者が手作業で作ることはできない。そのため、既製品化されたいくつかのサイズの中から近いサイズのものを選択し、これを微調整して装用者に合ったインナーバッグとするという方法が採用されているが、それでも非常に高価格なものであった。
【0008】
また、メーカーにとっては、多種サイズを設定すると単価が上がるため、現実には大ざっぱなサイズしか準備できていないのが実情である。そして元来合っていないサイズのものを再加工によって合わせるには当然ながら限界があった。結果として、断端部に金属ピンが付けられているという不安感を感じながら、非常に高価でありながら、自分のサイズにぴったりとは合っていない装具となっていた、という状況であった。
【0009】
更にピン付帯タイプの義足において、ピンとソケットに関しては理想的に一体化される構造となっているが、一方、このピンを有するインナーバッグと断端部とにズレや遊びがあれば、もはや理想的な義足とはなり得ない。従って、極めて精密に製作される必要がある。製作義足装用者にとって、健常な足を取り戻したように感じられる義足が理想であることは間違いないが、この理想と最も乖離しているのが、インナーバッグとソケットとの適合部分である。インナーバッグとソケットとの隙間が多いと、断端部がインナーバッグ内で不安定となり歩行しづらくなるし、隙間をなくしぴったり密着させると通気性がなくなるため発汗によってべたべた感を生じ悪臭を放ちし蒸れて皮膚トラブルの原因となる。また、きっちりしていないと外れやすくなるし、きっちりしていると外しにくくなる。
【0010】
ピン付帯タイプの義足のインナーバッグは、硬度が調整され皮膚との違和感を感じさせないシリコーンラバーを内層(断端部と接触する面)に配置したものでこれを伸縮性を有する繊維袋で包んだ構成となっており、断端部全表面を圧迫するように嵌め込み固定するという手法で装着される。ところが、この構造の場合、現実には「微調整」の余地がないので、結局上記した大ざっぱなサイズに運良く適合したサイズの断端部を持つ装用者だけが良好な義足を獲得できるにすぎなかった。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そこで本発明者は、この点に鑑み汎用性があって安価に提供できるインナーバッグを開発すべく鋭意研究の結果遂に本発明を成したものであり、その特徴とするところは、通気性を有する繊維布製本体の内外表面の少なくとも除圧を要する部分に、多数の独立するシリコーンラバー突起を形成させた点にある。
【0012】
ベルトで懸垂する差し込み義足から、吸着力によって保持するタイプ、更にはピン付帯タイプの義足へ、という義足改良の歴史の中で、次第にインナーバッグに求められる機能が増大し、断端を苛酷な状況に追いやったわけであるが、その原因は、断端部とインナーバッグ内面との適合は材質の密着によってしか解決できない、というこれまでの常識から脱却できなかった点にある、と本発明者は判断した。これが本発明の出発点である。
【0013】
本発明においてインナーバッグ内外面は、平滑ではない。少なくとも除圧を要する部分に多数の突起が設けられている。この突起は、シリコーンラバーにて構成されるが、隣接する突起同士は離反しており、個々が独立したものとなっている。基材は通気性を有する繊維布であって、その内外面に個々が独立する突起が設けられているため、通気性は確保されている。
【0014】
また、隣接する突起同士は離反しており、個々が独立したものとなっているため、個々の突起は、インナーバッグ装着時、或いはソケット内に装着される際に容易に変形し、変形された状態で装着されることになる。歩行動作の際には、個々の突起が変形が復元したり更に変形したりすることで形状変化に追従し、その結果、吸着式と変わらぬ義足本体吊持力を得ることができる。
【0015】
多数の突起はシリコーンラバーにて成るが、突起個々の形状は特に限定するものではなく、半球状、円板状、円錐状、等々種々採用可能である。基材面への取り付け方法は、粒状体を接着させるという方法でも良いが、本発明者が試作した範囲では、粘性の高い溶融体を少量ずつ基材表面に塗布(滴下)し、固化させるという方法が好適であった。
【0016】
基材は、通気性を有する繊維布製であるが、その材質を特には限定しない。また、基材は、筒状であっても良いが、平面状であっても良いものとする。筒状の場合には、従来のインナーバッグと同様の使用形態となる。
平面状に形成されている場合には、これでまず断端を包み、ソケットに押し込むことになる。適切な固定力は、包み込むインナーバッグの量とその配置を調整して決定されるものであるが、やり直しが自由にできるものであるし、密着式のインナーバッグではないので自由度が大きいということもあり、多少の要領は必要であるが面倒な作業ではない。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る義肢用インナーバッグは以下述べる如き効果を有する極めて高度な発明である。
(1) 通気性があるので、発汗によって蒸れる、汗が潤滑油の働きをして外れやすくなる、皮膚トラブルを起こす、といった問題が起こりにくい。
(2) 粒状突起が独立して設けられているので、圧力を受けた場合に容易に変形する。これによって、精確にサイズを調整しなくても快適な義肢装用が可能となる。
(3) 金属ピン等、装用に不安感を与える部材を必要としない。
(4) 安価に提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係る義肢用インナーバッグの一例を示す概略正面図である。
【図2】本発明に係る義肢用インナーバッグの粒状突起を示すもので、同図(a)は平面図、同図(b)乃至(d)は概略斜視図である。
【図3】本発明に係る義肢用インナーバッグを使用しようとしている状態の一例を示す概略斜視図である。
【図4】本発明に係る義肢用インナーバッグの他の一例を示す概略正面図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0019】
図1は、本発明に係る義肢用インナーバッグ1(以下「本発明インナーバッグ1」という)の一例を示すものである。図より明らかなように本例の本発明インナーバッグ1は、やや先細りとなった底を持つ筒状体であって、外面及び内面それぞれに、多数の粒状突起2が設けられている。筒状体を構成する基材3は、やや伸縮性のある繊維であり、ここに粘性の高い溶融シリコーンラバーを滴下、一体化させて本発明インナーバッグ1が形成される。従って基材3の通気性は、その表面に粒状突起2が形成された後も保持されていることになる。
【0020】
図2は、粒状突起2について示したものである。粒状突起2は、同図(a)の如く基材3上に、隣接する粒状突起2と距離をおいて多数設けられている。個々の形状は、同図(b)の如き半球形、(c)の如き円柱形、(d)の如き円錐形、等々種々採用し得る。
【0021】
本発明インナーバッグ1使用方法は、図3の如く装用者の断端部に装着することから始まる。この状態で断端部表面には本発明インナーバッグ1の内面側の粒状突起2が当たっている。精密に採寸する必要はないが、この時本発明インナーバッグ1が断端から容易に外れてしまうことがない程度にはなっている必要がある。
【0022】
続いて断端を義足4のソケット41に嵌め込む。嵌め込む作業は多少面倒であるが、押し込んでゆくにつれて圧縮される空気は、粒状突起2の段差による空間、或いは基材3自身の持つ通気性、から漏れ出ることになるため、従来の吸着式の場合(ソケット底に設けられたバルブから空気を排出する場合)と比較すると、非常に容易である。
【0023】
図4は本発明の他の例を示すものであり、本例の本発明インナーバッグ1は、筒状ではなく平面状である。断端先端をこの中心付近に当て、全体を包んだ状態でソケット41に嵌め込むことになる。この中心部分は荷重を受ける部分であるので、周囲よりも肉厚にしておいても良い。平面状であるので断端部から離れるにつれて折り畳まれる部分が増してゆく。これを勘案しながらの装着であるため、慣れが必要となるが、金属ピン等の部材がなく、バッグ自体の加工や調整も不要であるので、非常に安価に提供できる。
【0024】
なおここまで義足を例に本発明を説明してきたが、本発明は義手にも好適に適用できるものである(図示略)。
【符号の説明】
【0025】
1 本発明に係る義肢用インナーバッグ
2 粒状突起
3 基材
4 義足
41 ソケット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
通気性を有する繊維布製本体の内外表面の少なくとも除圧を要する部分に、多数の独立するシリコーンラバー突起を形成させたものであることを特徴とする義肢用インナーバッグ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−120749(P2011−120749A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−281127(P2009−281127)
【出願日】平成21年12月11日(2009.12.11)
【出願人】(000212511)中村ブレイス株式会社 (4)
【Fターム(参考)】