説明

耐火セラミック複合材およびその製造方法

【課題】従来のアイソパイプに関連する寸法安定性および他の欠点に対処する。
【解決手段】焼成されたセラミック物品が、40質量部より多い、3μmより大きく25μmまでのメジアン粒径を有する粗いジルコン成分、および、30から60質量部の、3μm以下のメジアン粒径を有する微細なジルコン成分、を含む多峰性粒径分布を有するジルコンを少なくとも90質量%含む組成物から形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐火セラミック材料およびフュージョン法によるガラス板の製造におけるそのような材料の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
フュージョン法は、ガラス板を製造するために用いられる基本技法の内の1つであり、例えば、フロート法やスロット・ドロー法などの代わりの方法により製造されるガラス板と比較して、優れた平面度および平滑度を持つ表面を有するガラス板を製造できる。その結果、フュージョン法には、液晶ディスプレイ(LCD)などの発光ディスプレイの製造に用いられるガラス基板の製造において、有利な利用法が見出された。
【0003】
フュージョン法、特に、オーバーフロー・ダウンドロー・フュージョン法では、アイソパイプとして知られる耐火体内に形成された収集トラフに溶融ガラスを提供する供給管が使用される。オーバーフロー・ダウンドロー・フュージョン法中に、溶融ガラスは供給管からトラフに通過し、次いで、トラフの頂部からその両側に溢れ出し、それゆえ、下方かつ、次いでアイソパイプの外面に沿って内側に流れるガラスの2枚の板を形成する。これら2枚の板は、アイソパイプの底部もしくは根元で出合い、そこで、互いに融合して1枚の板を形成する。次いで、この1枚の板は、板が根元から離れて引っ張られる速度によって板の厚さを制御する引張り装置に供給される。この引張り装置は、1枚の板が冷却され、この装置と接触する前に硬くなるように、根元のかなり下流に位置している。
【0004】
最終的なガラス板の外面は、このプロセスのいずれの最中にもアイソパイプの外面のどこにも接触しない。むしろ、これらの表面は、周りの雰囲気しか経ない。最終的な板を形成する2枚の半板の内面はアイソパイプと接触するが、これらの内面はアイソパイプの根元で互いに融合し、それゆえ、最終的な板の本体内に埋もれる。このようにして、最終的な板の外面の優れた性質が達成される。
【0005】
ガラス形成プロセス中の寸法安定性は、製造プロセスの全体的な成功、並びに製造されたガラス板の性質に影響を及ぼし得る。オーバーフロー・ダウンドロー・フュージョン法において、アイソパイプは、約1,000℃の温度に曝露されることがある。これらの温度に曝露されている間、アイソパイプは、自重、アイソパイプ内に収容されている溶融ガラスとその両側を溢れ出ている溶融ガラスの質量、および引っ張られているときに溶融ガラスを通じてアイソパイプに伝達される少なくともある程度の張力を支えなければならない。
【0006】
工業的要因と市場の要因により、発光ディスプレイのサイズ、それゆえ、ガラス板のサイズの絶え間ない増加が要求される。製造すべきガラス板の幅に応じて、アイソパイプは、約1.5メートル以上の未支持長さを有することがある。
【0007】
これらの厳しい条件に耐えるために、アイソパイプは、従来から、耐火性材料の等圧プレス成形(isostatically pressed)ブロック(それゆえ、「アイソパイプ」という名称が付けられた)から製造されてきた。特に、等圧プレス成形されたジルコン耐火物は、フュージョン法のためのアイソパイプを形成するために用いられてきた。従来のジルコン耐火物は、ZrO2とSiO2、または同等にZrSiO4、および焼結助剤からなる。そのような高性能の材料によってさえも、アイソパイプ材料はクリープし、それらの有用寿命を制限し得る寸法変化を生じ得る。特に、アイソパイプは、このパイプの未支持長さの中央部がその外側の支持された端部の高さよりも低く下がるような垂れを示す。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
それゆえ、従来のアイソパイプおよびガラス板の製造方法に関連する寸法安定性および他の欠点に対処する必要がある。これらの必要性および他の必要性は、本発明の組成物および方法によって満たされる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、ある態様において、例えば、オーバーフロー・ダウンドロー・フュージョン法によるガラス板の製造に用いられる耐火セラミック材料に関し、より詳しくは、使用中に垂れを制御するように設計されたアイソパイプに関する。本発明は、新規の耐火セラミック組成物およびその製造方法の使用により、上述した課題の少なくとも一部に対処する。
【0010】
第1の態様において、本発明は、ジルコンを含む組成物であって、ジルコンが、a)約40質量部より多い粗いジルコン成分、およびb)約60質量部未満の微細なジルコン成分を含む、多峰性粒径分布を有し、粗いジルコン成分が、3μmより大きく約25μmまでのメジアン粒径を有し、微細なジルコン成分が3μm以下のメジアン粒径を有する組成物を提供する。本発明の組成物のある実施の形態において、その組成物はジルコンから実質的になる。ある実施の形態において、その組成物は、少なくとも90質量%、他の実施の形態において少なくとも93%、他の実施の形態において少なくとも95%のジルコンを含む。
【0011】
本発明の第1の態様のある実施の形態によれば、粗いジルコン成分は約5μmから約25μmまでのメジアン粒径を有する。
【0012】
本発明の第1の態様のある実施の形態によれば、粗いジルコン成分は約5μmから約9μmまでのメジアン粒径を有する。
【0013】
本発明の第1の態様のある実施の形態によれば、微細なジルコン成分は約2.5μm未満のメジアン粒径を有する。
【0014】
本発明の第1の態様のある実施の形態によれば、粗いジルコン成分のメジアン粒径の、微細なジルコン成分のメジアン粒径に対する比は、約5:1から約15:1までである。
【0015】
本発明の第1の態様のある実施の形態によれば、その組成物はリン酸イットリウムをさらに含む。
【0016】
本発明の第1の態様のある実施の形態によれば、その組成物は少なくとも1種類の焼結助剤を含む。ある実施の形態において、焼結助剤は、チタン、鉄、カルシウム、イットリウム、ニオブ、ネオジム、またはそれらの組合せの少なくとも1種類の酸化物を含む。
【0017】
本発明の第1の態様のある実施の形態によれば、粗いジルコン成分および微細なジルコン成分は実質的に均一に混合されている。
【0018】
本発明の第1の態様のある実施の形態によれば、その組成物は、少なくとも三成分ジルコン粒径分布を有する。ある実施の形態において、その組成物は、
a) 約15μmより大きいメジアン粒径を有する粗いジルコン成分、
b) 約3μm未満のメジアン粒径を有する微細なジルコン成分、および
c) 粗いジルコン成分と微細なジルコン成分のメジアン粒径の間のメジアン粒径を有する中間のジルコン成分、
を含む。
【0019】
少なくとも三成分ジルコン粒径分布を有する本発明の第1の態様のある実施の形態によれば、粗いジルコン成分a)は、約15μmから約25μmまでのメジアン粒径を有し、微細なジルコン成分b)は、約0.1μmから約2μmまでのメジアン粒径を有する。
【0020】
本発明の第1の態様のある実施の形態によれば、その組成物は、連続的な粒径分布を有する。
【0021】
本発明の第2の態様は、本発明の第1の態様による組成物(先に概略的に説明され、以下のより詳しく説明される第1の態様の様々な実施の形態などの)から製造された未焼成体であって、等圧プレス成形された未焼成体である。
【0022】
本発明の第3の態様は、本発明の第1の態様による組成物(先に概略的に説明され、以下のより詳しく説明される第1の態様の様々な実施の形態などの)から、または本発明の第2の態様による未焼成体から製造されたセラック物品であって、焼成されたセラミック物品である。
【0023】
本発明の第3の態様のある実施の形態によれば、そのセラミック物品は約4.0g/ccより大きい嵩密度を有する。ある実施の形態において、そのセラミック物品は約4.5g/ccより大きい嵩密度を有する。
【0024】
本発明の第3の態様のある実施の形態によれば、そのセラミック物品は、標準条件下で、安定なジルコンセラミックに関する理論最大値の約50%より大きい嵩密度を有する。
【0025】
本発明の第3の態様のある実施の形態によれば、そのセラミック物品は、標準条件下で、安定なジルコンセラミックに関する理論最大値の約90%より大きい嵩密度を有する。
【0026】
本発明の第3の態様のある実施の形態によれば、そのセラミック物品は、約1180℃で測定したときに、約1×10-4インチ/時(約2.54×10-4cm/時)未満のクリープ速度を有する。
【0027】
本発明の第4の態様は、物品を製造する方法であって、
a) 本発明の第1の態様による組成物を提供し、次いで、
b) その組成物を所望の形状に成形する、
各工程を有してなる方法である。
【0028】
本発明の第4の態様のある実施の形態によれば、工程b)は、等圧プレス成形プロセスを含む。
【0029】
本発明の第4の態様のある実施の形態によれば、その方法は、所望の形状を、約4.0g/ccより大きい嵩密度を有する物品を形成するのに十分な温度と時間で焼成する工程をさらに含む。
【0030】
本発明の第4の態様のある実施の形態によれば、その方法は、粗いおよび/または微細なジルコン粒径分布の内の少なくとも一方を粉砕(milling)および/または細砕(grinding)する工程をさらに含む。
【0031】
本発明の第4の態様のある実施の形態によれば、その方法は、焼成前に、組成物を、メチルセルロース、水、グリセロール、またはそれらの組合せの内の少なくとも1種類と混合する工程をさらに含む。
【0032】
焼成工程を含む本発明の第4の態様のある実施の形態によれば、焼成は、ヘリウムまたは真空雰囲気のいずれかの下で行われる。
【0033】
焼成工程を含む本発明の第4の態様のある実施の形態によれば、焼成は、少なくとも約6時間の期間に亘り少なくとも約1500℃の温度で行われる。
【0034】
本発明の追加の態様および利点は、一部は、詳細な説明、図面、および以下の特許請求の範囲に述べられており、一部は、その詳細な説明から導かれるか、または本発明の実施により分かるであろう。以下に記載する利点は、添付の特許請求の範囲に具体的に指摘した要素と組合せにより、実現され、達成されるであろう。先の一般的な説明および以下の詳細の説明の両方が、例示と説明のためのものであり、開示された本発明のを制限するものではないことが理解されよう。
【図面の簡単な説明】
【0035】
本明細書に含まれ、その一部を構成する添付の図面は、本発明の特定の態様を示し、その説明と一緒になって、制限せずに、本発明の原理を説明するように働く。同じ数は、図面全体に亘り、同じ要素を表す。
【図1】本発明のある態様による、ガラス板を製造するためのオーバーフロー・ダウンドロー・フュージョン法に使用するためのアイソパイプに関する代表的な構造を示す概略図
【図2】嵩密度の関数としてのジルコン組成物の強度を示すグラフ
【図3】ジルコン組成物の焼成微細構造への粒径の影響を示す、様々なジルコン組成物からの走査電子顕微鏡(SEM)画像。これらの画像は、(A)7:1の粒径比の50質量%/50質量%混合物、(B)10:1の粒径比の90質量%/10質量%混合物、(C)10:1の粒径比の80質量%/20質量%混合物、および(D)10:1の粒径比の50質量%/50質量%混合物であるジルコン混合物から調製されたジルコン試料を表す。
【発明を実施するための形態】
【0036】
本発明は、以下の詳細な説明、図面、実施例、および特許請求の範囲、並びに先の説明と以下の説明を参照することによって、より容易に理解できる。しかしながら、本発明の組成物、物品、素子、および方法が開示され、説明される前に、本発明は、別記しない限り、開示された特定の組成物、物品、素子、および方法に制限されず、もちろん、それ自体様々であって差し支えないことが理解されよう。ここに用いた用語法は、特定の態様を説明する目的のためだけであり、制限を意図するものではないことも理解されよう。
【0037】
本発明の以下の説明は、本発明の現在公知の実施の形態での実現可能な教示として与えられる。このために、本発明の有益な結果を得ながら、ここに記載された本発明の様々な態様に多くの変更を行えることが、当業者に認識され、理解されるであろう。本発明の所望の利益のいくつかは、本発明の特徴のいくつかを、他の特徴を使用せずに、選択することによって得られることも明らかである。したがって、当業者には、本発明に対する多くの改変および適用が可能であり、ある環境においては望ましくさえあり得、本発明の一部であることが認識されよう。それゆえ、以下の説明は、本発明の原理の例証として与えられ、それを制限するものではない。
【0038】
開示された方法および組成物に使用できる、それと共に使用できる、その調製に使用できる、またはその生成物である材料、化合物、組成物、および成分が開示されている。これらと他の材料がここに開示されており、これらの材料の組合せ、サブセット、相互作用、群などが開示されている場合、これらの化合物の各様々な個々と集合的な組合せと順列の特定な参照が明白に開示されていなくとも、各々は具体的に考えられここに記載されていることが理解されよう。それゆえ、置換基A、BおよびCの部類、並びに置換基D、E、およびFの部類、および組合せの態様の例、A−Dが開示されていたら、各々は、個々と集合的に考えられる。それゆえ、この例において、組合せA−E、A−F、B−D、B−E、B−F、C−D、C−EおよびC−Fの各々が、具体的に考えられ、A、BおよびC;D、EおよびF;および組合せ例A−Dの開示から、開示されていると考えるべきである。同様に、これらの任意のサブセットまたは組合せも具体的に考えられ、開示されている。それゆえ、例えば、A−E、B−F、およびC−Eのサブグループが具体的に考えられ、A、BおよびC;D、EおよびF;および組合せ例A−Dの開示から、開示されていると考えるべきである。この概念は、以下に限られないが、組成物の任意の成分並びに開示された組成物を製造する方法および使用する方法における工程を含む、この開示の全ての態様に適合される。それゆえ、実施できる様々な追加の工程がある場合、これらの追加の工程の各々は、開示された方法の任意の特定の態様または態様の組合せで実施することができ、そのよう組合せの各々は具体的に考えられ、開示されていると考えるべきであることが理解されよう。
【0039】
この明細書および以下の特許請求の範囲において、以下の意味を有すると定義される多数の用語を参照する。
【0040】
ここに用いたように、単数形は、文脈によりそうではないと明らかに示されていない限り、複数形を含む。それゆえ、例えば、文脈によりそうではないと明らかに示されていない限り、「成分」の言及は、そのような成分を2つ以上有する態様も含む。
【0041】
「随意的な」または「必要に応じて」とは、その後に記載された事象または環境が生じ得る、または生じ得ないこと、およびその記載は、その事象または環境が生じた例と、生じない例を含むことを意味する。例えば、「随意的な成分」という語句は、その成分が置換されても置換されなくても差し支えなく、その記載は、本発明の置換されていない態様と置換された態様の両方を含むことを意味する。
【0042】
範囲は、ここでは、「約」ある特定の値から、および/または「約」別の特定の値までとして表現することができる。そのような範囲が表現された場合、別の態様は、ある特定の値から、および/または他の特定の値までを含む。同様に、値が、「約」という先行詞を使用して近似として表される場合、特定の値は別の態様を形成するものと理解される。さらに、範囲の各々の端点は、他の端点に関してと、他の端点とは独立しての、両方において有意であると理解されよう。
【0043】
ここに用いたように、成分の「質量%」または「質量パーセント」もしくは「質量のパーセント」は、そうではないと具体的に述べられていない限り、百分率として表された、その成分の質量の、その成分が含まれている組成物の総質量に対する比を称する。
【0044】
明細書および結びの特許請求の範囲における、組成物または物品中の特定の成分の質量部への言及は、質量部で表現される、その組成物または物品中のその成分および任意の他の成分の間の質量の関係を意味する。それゆえ、2質量部の成分Xおよび5質量部の成分Yを含有する化合物において、XおよびYは、2:5の質量比で存在し、追加の成分がその化合物中に含まれているか否かにかかわらず、そのような比で存在する。
【0045】
ここに用いたように、「アイソパイプ」という用語は、平らなガラスを製造するフュージョン法に用いられる任意の板成形供給システムであって、その供給システムの少なくとも一部分が、供給システムを構成する構成部材の形状または数にかかわらず、フュージョンの直前にガラスと接触する供給システムを称する。
【0046】
ここに用いたように、「細孔」という用語は、耐火性材料の粒子内のおよび/またはその間の空孔や孔隙を称する。「細孔」という用語は、様々なサイズの空孔および/または孔隙を記載することを意図されており、材料内の原子間の空間を記載することを意図したものではない。
【0047】
以下の米国特許および公開された出願は、ガラス板を製造するための様々な組成物および方法を記載しており、それらのは、耐火セラミック、アイソパイプの形成、およびガラス板の製造に関連する材料および方法を開示する特別な目的のために、その全てをここに引用する:米国特許第3338696号、同第3682609号、同第3437470号、同第6794786号の各明細書、および特開平11−246230号公報。
【0048】
先に手短に説明したように、本発明は、例えば、ガラス板の製造においてアイソパイプとして有用であり得る、改善された耐火セラミック体を製造する方法を提供する。より詳しくは、本発明は、改善されたジルコン組成物および本発明のジルコン組成物から形成されたアイソパイプを提供する。本発明のアイソパイプは、ガラス板の製造に用いられる従来のアイソパイプよりも、向上した寸法安定性および寿命を有することができる。
【0049】
本発明の組成物、耐火体、および方法は、アイソパイプおよびガラス板の製造に関して以下に説明されているが、同じまたは同様の組成物および方法を、寸法安定性の耐火材料が要求される他の用途に使用できることが理解されよう。したがって、本発明は、制限される様式で考えられるべきではない。
【0050】
図面を参照すると、図1は、例えば、オーバーフロー・ダウンドロー・フュージョン法によるガラス板の製造に用いられる典型的なアイソパイプの概略図を示している。従来のアイソパイプおよびガラス板製造システムは、アイソパイプとして知られている耐火体13内に形成された収集トラフ11に溶融ガラスを供給する供給管9を備えている。運転中、溶融ガラスは供給管からトラフに流れ、そこで、トラフの頂部から両側に溢れ出て、下方に、次いでアイソパイプの外面に沿って内側に流れる2枚のガラス板を形成することができる。その2枚の板は、アイソパイプの底部または根元15で出合い、そこで、互いに融合して、1枚の板を形成する。次いで、1枚の板が、引張り装置に供給される(矢印17により表される)。この装置は、板が根元を離れて引っ張られる速度、それゆえ、板の厚さを制御する。引張り装置は、一般に、形成されたガラス板が十分に冷却され、その装置と接触する前に硬くなるような根元の下流に位置している。
【0051】
従来のアイソパイプは、予め成形された市販のジルコン材料(米国、ニューヨーク州、ペンヤン所在のフェロ社(Ferro Corporation))から形成することができる。市販のジルコン材料は、粒径により分類し、アイソパイプを形成するために利用できる。従来のジルコン材料は、アイソパイプなどの所望の形状に成形し、焼成して、多結晶質耐火セラミック体を製造することができる。そのような耐火セラミック体の成形における課題は、クリープ抵抗性の緻密な構造を形成することにある。ここに用いられるクリープは、材料が移動するまたは応力を開放するように変形する傾向を称する。そのような変形は、材料の降伏または極限強さより低い応力レベルに長期間曝露された結果として生じ、長期間に亘り熱に曝露された材料においてより大きくなり得る。例えば、アイソパイプなどの耐火材料のクリープ速度を低下させると、使用中の垂れを少なくすることができる。クリープ速度は、粒界および/または三重点に位置する細孔を多量に有するものなどの、低密度または高粒界耐火材料において急速に発達し得る。
【0052】
クリープは、体拡散クリープ(Nabarro-Herring creep)(粒内の応力駆動嵩拡散)および/または粒界拡散クリープ(Cobble creep)(粒界拡散)などの様々な形態で生じ得る。理論により束縛することを意図するものではないが、体拡散クリープは、セラミックの粒子内および/またはその間などの、材料内の細孔の濃度とサイズに関連し得、粒径に比例し得る。セラミック材料の粒子間の細孔の濃度および/またはサイズが減少すると、嵩密度が増加し、クリープ抵抗が増加し得る。同様に、粒界拡散クリープは、多結晶質材料の粒界に沿って生じる質量輸送現象に関連し得、粒径に反比例し得る。
【0053】
従来のジルコン耐火セラミックは、粒界を最小にする、それゆえ、粒界拡散クリープを最小にするように、大きな粒径を有するジルコン材料から構成される。大きな粒径を有するジルコン材料を使用すると、粒界拡散クリープの影響を減少させることができるが、同時に、耐火体内の細孔の濃度とサイズを増加させ得る。細孔の濃度とサイズにおけるそのような増加は、嵩密度を減少させ、アイソパイプの強度を減少させ得る。
【0054】
従来のアイソパイプは、一般に、約1μmから約30μmまでの粒径を有するジルコン材料を使用して調製されており、その構造内に相当な細孔を含み得る。従来のジルコン材料からアイソパイプを成形し、焼成するために、一般に、焼結助剤が必要とされる。
【0055】
本発明は、多峰性粒径分布を有するジルコン組成物および従来のジルコン材料よりも、クリープおよびその結果としての垂れに対するより耐性のある耐火セラミック複合材を製造する方法を提供する。本発明による多峰性粒径分布を有するジルコン組成物は、より少ないおよび/またはより小さい細孔、より高い嵩密度、およびより高い強度を示す耐火セラミック材料を提供する。
【0056】
多峰性粒径分布
本発明のジルコン組成物は、少なくとも二成分粒径分布、例えば、二成分、三成分、またはそれより多成分の粒径分布を有する。粒径分布の各峰は、1つのメジアン粒径を有し得る。さらに、各峰の分布は、1つ以上の他の峰の分布と重複し得る。例えば、二成分組成物は二峰を有し得、第1と第2の峰は、それぞれ、約2μmおよび約15μmのメジアン粒径を有する。各峰の分布、すなわち個々の粒径の範囲は、重複し得る。本発明のジルコン組成物は、粗い粒径成分および微細な粒径成分を含み得る。各成分のメジアン粒径および量は、その組成物から製造される耐火セラミック物品の所望の気孔率、嵩密度、および強度に応じて様々であり得る。
【0057】
ある態様において、本発明の組成物は、約3μmより大きく約25μmまでのメジアン粒径を有する粗いジルコン成分を約40質量部より多く、3μm以下のメジアン粒径を有する微細なジルコン成分を約60質量部未満含む。
【0058】
本発明の粗いジルコン成分は、二成分ジルコン組成物の他の峰に対して、40より大きく約100質量部未満、例えば、約40.1、41、42、45、50、60、70、80、90、95、または99質量部を構成する。粗いジルコン成分が、二成分ジルコン組成物の約40から約80質量部、例えば、約40、42、44、48、50、52、55、58、60、63、65、70、75、78、79、または80質量部を構成することが好ましく、約40から約60質量部、例えば、40、42、44、48、50、52、55、58または60質量部がより好ましい。粗いジルコン成分は、約3μmより大きく約25μmまでの、例えば、約3.1、3.4、4、5、8、10、14、17、20、23、24、または25μmのメジアン粒径を有し得る。粗いジルコン成分のメジアン粒径は、約3μmより大きく約10μmまで、例えば、3.01、3.2、3.4、3.6、3.8、4、5、6、7、8、9、9.5、9.9、または10μmであることが好ましく、約5μmより大きく約9μmまで、例えば、5.01、5.2、5.4、5.6、5.8、6、6.5、6.8、7.0、7.4、7.8、8、8.4、8.8、または9μmがより好ましい。
【0059】
本発明の微細なジルコン成分は、二成分ジルコン組成物の他の峰に対して、0より大きく約60質量部未満、例えば、約0.1、0.5、1、2、5、10、20、30、40、50、55、または59.5質量部を構成する。微細なジルコン成分が、二成分ジルコン組成物の約30から約60質量部、例えば、約30、30.5、31、33、35、38、40、42、44、46、48、50、52、54、56、58、59、59.5、または60質量部を構成することが好ましく、約40から約60質量部、例えば、約40、40.5、42、44、46、48、50、52、54、56、58、59、59.5、または60質量部がより好ましい。本発明の微細なジルコン成分は、約3μm以下、例えば、約3、2.8、2.5、2.1、1.8、1.5、1.3、1.0、または0.9μmのメジアン粒径を有し得る。微細なジルコン成分のメジアン粒径が、約0.5から約2.5μm、例えば、約0.5、0.7、0.9、1.1、1.3、1.5、1.7、1.9、2.1、2.3、または2.5μmであることが好ましく、約0.5から約1.5μm、例えば、約0.5、0.7、0.9、1.1、1.3、または1.5μmがより好ましい。
【0060】
粗いジルコン成分の微細なジルコン成分に対する粒径比は、ここに列記された粒径により提供される任意の比であって差し支えない。粗いジルコン成分の微細なジルコン成分に対する粒径比は、約5:1から約15:1、例えば、5:1、7:1、9:1、10:1、12:1、14:1、または15:1であることが好ましく、約5:1から約11:1、例えば、約5:1、6:1、6.5:1、7:1、7.5:1、8:1、8.5:1、9:1、9.5:1、10:1、10.5:1、または11:1がより好ましい。
【0061】
ある態様において、二成分ジルコン組成物は、それぞれ、約20μmおよび約2μmのメジアン粒径を有する粗いおよび微細なジルコン成分を含む。この態様において、粗いおよび微細なジルコン成分は、二成分ジルコン組成物の、それぞれ、約90および約10質量部を構成する。
【0062】
別の態様において、二成分ジルコン組成物は、それぞれ、約20μmおよび約2μmのメジアン粒径を有する粗いおよび微細なジルコン成分を含む。この態様において、粗いおよび微細なジルコン成分は、二成分ジルコン組成物の、それぞれ、約80および約20質量部を構成する。
【0063】
別の態様において、二成分ジルコン組成物は、それぞれ、約7μmおよび約1μmのメジアン粒径を有する粗いおよび微細なジルコン成分を含む。この態様において、粗いおよび微細なジルコン成分は、二成分ジルコン組成物の、それぞれ、約70および約30質量部を構成する。
【0064】
別の態様において、二成分ジルコン組成物は、それぞれ、約7μmおよび約1μmのメジアン粒径を有する粗いおよび微細なジルコン成分を含む。この態様において、粗いおよび微細なジルコン成分の各々は、二成分ジルコン組成物の約50質量部を構成する。
【0065】
本発明のジルコン組成物は、例えば、3(三成分)または4(四成分)峰などの二峰より多くを有する。ある態様において、本発明の組成物は、粗い、中間の、および微細な細孔径ジルコン成分を有する三成分粒径分布を有する。この態様において、粗いジルコン成分は、約15μmより大きい、例えば、約15.1、15.5、16、18、20、21、22、24、または25μmのメジアン粒径を有し、中間のジルコン成分は、約3から約15μmの、例えば、約3、3.5、4、5、7、9、11、13、14、または15μmのメジアン粒径を有し、微細なジルコン成分は、約3μm未満の、例えば、2.9、2.8、2.5、2.1、1.8、1.5、1.3、1.0、または0.9μmのメジアン粒径を有する。三成分またはより多成分のジルコン組成物において、各成分の相対的質量部は、ジルコン粒子の形態学に応じて、様々であり得る。
【0066】
各成分内の粒径の分布は均一である必要はない。例えば、三成分ジルコン組成物は、粗い、中間の、および微細な粒径のジルコン成分を含み得る。粗いジルコン成分は、この粗い成分の約90質量%が約15μmより大きく約25μmまでの粒径を有し、粗い成分の約10質量%が約25μmより大きい粒径を有する、分布を有し得る。微細なジルコン成分は、この微細なジルコン成分の約90質量%が約0.8μmより大きく約1.6μmまでの粒径を有し、微細なジルコン成分の約10質量%が約1.6μmより大きい粒径を有する、分布を有し得る。
【0067】
別の態様において、本発明のジルコン組成物は、多峰性により実質的に均一な分布が得られる連続分布を有する。そのような連続分布組成物において、個々の峰を識別することが難しいことがある。連続分布は、例えば、25μmなどの特定の値以下の実質的に全てのサイズの粒子を含み得、それら粒子の体積の寄与により、効率的に充填された混合物が得られる。連続分布は、例えば、特定の公称粒径未満、以下、より大きい、または以上などの、ある周囲での境界での、±2μmの許容範囲内、好ましくは±1μmの許容範囲内の実質的に全ての粒径として定義できる。例示の態様において、連続分布は、約25μm未満の、例えば、約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、および24μmの実質的に全ての粒径を含み、その粒子の体積の寄与により、効率的に充填された混合物が得られる。
【0068】
ジルコン成分
個々のジルコン成分は、市販のものを購入しても(米国、ニューヨーク州、ペンヤン所在のフェロ社)、例えば、市販のジルコン材料を目的のメジアン粒径まで細砕することによって、他のジルコン材料から調製しても差し支えない。そのようなジルコン成分は、所望のメジアン粒径および分布を提供するのに適した任意の方法によって、細砕しても差し支えない。ある態様において、市販のジルコン材料は、イットリア安定化ジルコニア細砕メディアによって、所望のメジアン粒径までボールミル粉砕される。必要であれば、例えば、メタノールなどの溶媒中の湿式細砕によって、成分をさらに細砕しても差し支えない。
【0069】
ジルコン成分の粒径分布は、細砕のタイプおよび程度に応じて、様々であり得る。例えば、約2μmより大きいメジアン粒径までの中程度の細砕により、広い粒径分布が与えられ、その一方で、約1μmのメジアン粒径までの細砕により、狭い粒径分布が与えられる。
【0070】
ジルコン材料は、例えば、細砕済みジルコン成分を篩い分けすることによって、1つ以上の粒径分画に分類および/または分離することもできる。細砕および粒子分粒技法は公知であり、当業者には、適切なジルコン材料および細砕技法が容易に選択できるであろう。
【0071】
多峰性ジルコン組成物
本発明のジルコン組成物の各成分は、例えば、乾式混合などの任意の適切な方法によって、混合することができる。ジルコン組成物の各成分は、均一にまたは実質的に均一に混合されることが好ましい。複数のジルコン成分の均一な混合物は、より高い嵩密度およびより大きい強度を有するセラミック物品を提供できる。そのような均一な混合物は、従来の混合および分散技法を用いて形成できる。ジルコン成分の混合および/または分散は、例えば、ボールミル、アトリションミル、および/またはハンマーミルなどの高剪断ミキサによって、実施できる。例示の混合プロセスは、米国、オハイオ州、シンシナティ所在のプロセサル社(Processall Incorporated)から市販されているProcessall(登録商標)ミキサにより実施できる。ジルコン成分の均質なブレンドを得るために、「Processall」ミキサなどの高剪断ミキサが好ましい。ある態様において、複数のジルコン成分が混合されて、実質的に均質な混合物が提供される。そのような均質な混合物は、例えば、粗い、中間の、および微細な粒子の均一なまたは実質的に均一な分布を有することができる。セラミックおよび微細粒子の業界において、様々な混合および分散技法が公知であり、当業者には、適切な混合および/または分散技法が容易に選択できるであろう。
【0072】
本発明の多峰性ジルコン組成物は、従来のジルコン材料に一般に用いられる焼結助剤の必要性を減らすかなくすことができる。ある態様において、多峰性ジルコン組成物は、焼結助剤を含まないかまたは実質的に含まない。この態様において、この組成物は、焼結助剤を、約3質量%未満しか、好ましくは約1質量%未満しか、より好ましくは約0.1質量%未満しか含まず、最も好ましくは焼結助剤を含まない。
【0073】
別の態様において、この組成物は少なくとも1種類の焼結助剤を含んで差し支えない。そのような焼結助剤は、例えば、チタン、鉄、カルシウム、イットリウム、ニオブ、ネオジムの酸化物、ガラス化合物、またはそれらの組合せなどの、ジルコンを鉱化できる任意の材料を含んで差し支えない。焼結助剤は、約2μm未満のメジアン粒径を有するジルコン材料も含んで差し支えない。ジルコン焼結助剤は、多峰性ジルコン粒径分布の微細なジルコン成分と同じであっても異なっていても差し支えない。焼結助剤は、存在する場合には、例えば、約0.1から約5質量%、もしくは0.1、0.2、0.5、0.9、1、1.3、1.8、2、2.5、3、4、または5質量%などの任意の適切な量で加えることができる。例示の態様において、ジルコン組成物は、約15μmのメジアン粒径を有する粗いジルコン成分、約2.5μmのメジアン粒径を有する微細なジルコン成分、および約1μmのメジアン粒径を有するジルコンを含む焼結助剤を含んで差し支えない。別の態様において、この組成物は二酸化チタン焼結助剤を含む。特定の焼結助剤の使用およびその量は、組成物を所望の形状に成形するために利用される組成物の性質および方法に応じて、様々であり得る。焼結助剤は、市販されており(米国、ミズーリ州、セントルイス所在のシグマ・アルドリッチ社(Sigma-Aldrich))、セラミック業界において公知である。当業者には、所望の組成物またはセラミック物品にとって適切な焼結助剤を容易に選択できるであろう。
【0074】
本発明のジルコン組成物は、必要に応じて、例えば、ゼノタイム(リン酸イットリウム)などの他のセラミックをさらに含んで差し支えない。そのようなセラミックは、追加の強度を与えられるおよび/または特定の物理的性質を所望のように調整できるが、それは一般に、コストが相当高くつき、調製および成形方法が複雑である。
【0075】
セラミック物品の成形および焼成
混合後、多峰性ジルコン組成物を、例えば、鋳込み成形、押出し、等圧プレス成形、および/または射出成形などの適切な技法によって、アイソパイプなどの任意の所望の形状の未焼成体に成形することができる。ここに用いられる未焼成体は、成形されているが、焼成されていないセラミック材料からなる。採用した特定の成形技法に応じて、成形プロセスを容易にするために、必要に応じて、液体、溶媒、および/または成形助剤を多峰性ジルコン組成物と混合して差し支えない。そのような液体、溶媒、および/または成形助剤は、存在する場合には、成形プロセスを容易にするのに適した任意の材料を含んで差し支えない。ある態様において、液体、溶媒、および/または成形助剤は、存在する場合には、メチルセルロース、水、グリセロール、またはそれらの組合せの内の少なくとも1種類を含む。これらの液体、溶媒、および/または成形助剤は、焼成プロセスの前またはその最中に除去しても、焼成後に物品中に残留していても差し支えない。ある態様において、鋳込み成形技法を用いて、多峰性ジルコン組成物を含む高液体含有量の混合物を所望の形状に成形する。別の態様において、押出技法を用いて、多峰性ジルコン組成物を所望の形状に成形する。さらに別の態様において、等圧プレス成形を用いて、乾燥したまたは実質的に乾燥した多峰性ジルコン組成物を所望の形状に成形する。例示の等圧プレス成形技法において、予備焼成した組成物を、必要に応じて、周囲条件で高度の圧密を達成するためにタッピング(tapping)および/または真空工程に施し、次いで、約5から約20分の期間に亘り、約18,000psi(約124MPa)で等圧プレス成形する。成形技法は、セラミック業界において公知であり、当業者には、所望のセラミック物品のための適切な成形技法は容易に選択できるであろう。
【0076】
その後、耐火物は、当該技術分野において現在公知の技法により、または将来開発されるであろう改良技法により、調製することができる。この耐火物を焼成して、その組成物のジルコン成分の少なくとも一部分を焼結することができる。焼成工程は、安定な耐火セラミック体を形成するのに適した温度と時間で成形済み未焼成体を加熱する工程を含み得る。ある態様において、焼成工程は、約1から約48時間の期間に亘り約1,400℃から約1,650℃の温度で電気炉内で成形済み未焼成体を加熱する工程を含み得る。別の態様において、焼成工程は、約2から約24時間の期間に亘り約1,400℃から約1,600℃の温度で電気炉内で成形済み未焼成体を加熱する工程を含み得る。焼成工程は、空気雰囲気、ヘリウムなどの不活性雰囲気、または真空下で行っても差し支えない。耐火セラミックの焼成技法は公知であり、当業者には、本発明の耐火セラミック組成物にとって適切な焼成工程を選択し、実施するのが容易であろう。
【0077】
焼成済み耐火セラミック体
本発明の組成物および方法から調製された焼成済み耐火セラミック体は、低い気孔率、高い嵩密度、および高いクリープ抵抗を示すことができる。特定の多峰性ジルコン組成物、混合の程度、成形および焼成技法に応じて、本発明により調製した耐火セラミック体は、約2.3g/cc、3g/cc、4g/cc、4.5g/cc、またはそれより大きい嵩密度を有し得る。ジルコン物品の理論的最大嵩密度は約4.65g/ccである。それゆえ、例えば、理論最大値の50%、68%、75%、86%、90%、または96%の嵩密度値を達成することが可能である。
【0078】
得られた耐火セラミック体の強度およびそのクリープおよび/または垂れ抵抗は、一部には、耐火セラミック体中に残留する細孔空間の量に依存する。その構造内により少ない細孔空間を有する耐火セラミック体は、一般に、より大きい細孔空間体積を有するセラミック体よりも、クリープ抵抗が大きい。本発明により調製したジルコン耐火セラミック体は、約25%未満、約12%未満、約10%未満、または約3%未満の気孔率値を有し得る。
【0079】
耐火セラミック体の強度は、例えば、ASTM C158によって、破壊係数(MOR)を測定することによって確認できる。MORは、テストサンプルを破壊するのに必要な力の量を称し、通常、平方インチ当たりのポンドの力で表される。本発明により調製されたジルコン耐火セラミック物品のMORは、約10×103psi(約69MPa)より大きい、約15×103psi(約103MPa)より大きい、または約20×103psi(約138MPa)より大きくあり得る。そのような高強度(MOR)は、運転中に、アイソパイプなどの物品に増加したクリープ抵抗を与える。
【0080】
本発明により調製した耐火セラミック体のクリープ速度は、従来のジルコンセラミックに関するよりも実質的に低くあり得る。リン酸イットリウムなどの他のセラミック材料を使用してもより低いクリープ速度が達成されるかもしれないが、そのような材料は、一般に、実質的により高価であり、それゆえ、商業的に実現できない。ある態様において、本発明により調製したジルコン耐火セラミック体のクリープ速度は、従来の(等圧プレス成形された)ジルコンアイソパイプのクリープ速度の約50%未満、好ましくは約25%未満であり得る。
【0081】
本発明のいくつかの態様を添付の図面に示し、詳細な説明に記載してきたが、本発明は、開示された態様に制限されず、以下の特許請求の範囲に述べられ定義された本発明の精神から逸脱せずに、数多くの再配置、改変および置換が可能であることが理解されよう。
【実施例】
【0082】
本発明の原理をさらに例証するために、以下の実施例は、当業者に、ここに開示された物品、装置、および方法をどのように製造し、評価されるかの完全な開示と説明を与えるように述べられている。それら実施例は、本発明の純粋な例示であることが意図されており、本出願の発明者等が発明とみなすものの範囲を制限することを意図したものではない。数(例えば、量、温度など)に関する精度を確実にするように努力してきたが、ある程度の誤差および偏差も考慮すべきである。別記しない限り、温度は℃または周囲温度であり、圧力は大気圧またはほぼ大気圧である。製品の品質および性能を最適にするために使用できるプロセス条件の変種および組合せが数多くある。そのようなプロセス条件を最適化するには、適当なありきたりの実験しか必要ない。
【0083】
実施例1−押出ジルコンブロックの調製
第1の実施例において、一連の押出ジルコンブロックを調製し、分析した。各実験に関して、ジルコンの粗いおよび微細な粒径の部分は、イットリア安定化ジルコニア細砕メディアによりジルコン(米国、ニューヨーク州、ペンヤン所在のフェロ社)をボールミル粉砕することによって調製した。微細な粒径部分をメタノール中で所望のメジアンサイズに湿式細砕した(以下の表1に示されているように)。粒径分布は、ジルコン粒子をアルコール溶液中に分散させ、音波処理して、Micormeritics(登録商標)Microtrac Analyzerを用いて測定した。「Micrometitics」Autopore IV水銀圧入気孔率測定器を用いて、気孔率、細孔体積、および密度の測定を行った。破壊係数(MOR)値は、ASTM C158にしたがって、約0.5×1.0×6.4cmのサンプルブロックについて測定した。
【0084】
次いで、各サンプルについて、粗いおよび微細な粒径部分を、乾式混合し、1〜3質量%のMethocel(登録商標)ヒドロキシプロピルメチルセルロース(米国、ミシガン州、ミッドランド所在のダウ・ケミカル社(Dow Chemical Company))とブレンドし、水および1〜2質量%のグリセロール(米国、ミズーリ州、セントルイス所在のアルドリッチ社)と混練した。次いで、得られた材料を押し出し、1,600℃で焼成した。
【表1】

【0085】
表1におけるサンプルは、焼成ジルコン物品の嵩密度への粒径の影響を示すために、様々な比率および粒径で調製した。基準サンプルは、5μmのメジアン粒径を有する市販のジルコン材料を表す。この基準材料は、二成分粒径分布を有さなかった。50/50質量%の比で7:1の粒径比を有するサンプルAは、約4.2g/ccの嵩密度および約2%の気孔率を示した。90/10および80/20質量%の比で10:1の粒径比を有するサンプル(BおよびC)は、それぞれ、3.2および3.2の嵩密度値を示した。図2は、20,000psi(約138MPa)でのサンプルA、BおよびEの強度(破壊係数)を示している。サンプルA、B、CおよびDの走査電子顕微鏡写真が、図3に示されている。これらの顕微鏡写真は、本発明の二成分ジルコン組成物により達成できる改善された充填密度を示している。
【0086】
実施例2−クリープ速度の決定
第2の実施例において、実施例1において調製したものなどの焼成ジルコンブロックを、1,000psi(約69MPa)の圧力下において1,180℃で100時間に亘るクリープについてテストした。クリープ速度は、従来のジルコン(等圧プレス成形した)アイソパイプのクリープ速度に対して正規化した。以下の表2に詳しく記載された結果は、本発明により調製したジルコン物品が、市販のジルコンアイソパイプのクリープ速度の四分の一のクリープ速度を示すことができるのを示している。
【表2】

【0087】
ここに記載した組成物、物品、装置、および方法に様々な改変および変更を行うことができる。ここに記載した組成物、物品、装置、および方法の他の態様は、ここに記載した組成物、物品、装置、および方法の仕様の検討および実施から明らかである。明細書および実施例は、例示と考えることが意図されている。
【符号の説明】
【0088】
9 供給管
11 トラフ
13 アイソパイプ
15 根元

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a) 40質量部より多い、3μmより大きく25μmまでのメジアン粒径を有する粗いジルコン成分、および
b) 30から60質量部の、3μm以下のメジアン粒径を有する微細なジルコン成分、
を含む多峰性粒径分布を有するジルコンを少なくとも90質量%含む組成物、
から形成された、焼成されたセラミック物品。
【請求項2】
4.0g/ccより大きい嵩密度を有することを特徴とする請求項1記載のセラミック物品。
【請求項3】
標準条件下において安定ジルコンセラミックの理論最大値の90%より大きい嵩密度を有することを特徴とする請求項1または2記載のセラミック物品。
【請求項4】
1180℃の温度で1×104インチ/時(2.54×104cm/時)未満のクリープ速度を有することを特徴とする請求項1から3いずれか1項記載のセラミック物品。
【請求項5】
アイソパイプの形状を有することを特徴とする請求項1から4いずれか1項記載のセラミック物品。
【請求項6】
物品を製造する方法であって、
a)(i)40質量部より多い、3μmより大きく25μmまでのメジアン粒径を有する粗いジルコン成分、および(ii)30から60質量部の、3μm以下のメジアン粒径を有する微細なジルコン成分、を含む多峰性粒径分布を有するジルコンを少なくとも90質量%含む組成物を提供し、
b) 前記組成物を所望の形状の未焼成体に成形し、
c) 4.0g/ccより大きい嵩密度を有する物品を形成するのに十分な温度と時間で前記未焼成体を焼成する、
各工程を有してなる方法。
【請求項7】
前記工程b)が等圧プレス成形プロセスを含むことを特徴とする請求項6記載の方法。
【請求項8】
前記未焼成体がアイソパイプの形状であることを特徴とする請求項6または7記載の方法。
【請求項9】
前記工程b)が、前記組成物を、メチルセルロース、水およびグリセロールのうちの少なくとも1つと混合することを含むことを特徴とする請求項6から8いずれか1項記載の方法。
【請求項10】
前記焼成を、ヘリウムまたは真空雰囲気下で、少なくとも1500℃の温度で少なくとも6時間の期間に亘り行うことを特徴とする請求項6から9いずれか1項記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−100232(P2013−100232A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2013−41849(P2013−41849)
【出願日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【分割の表示】特願2009−550878(P2009−550878)の分割
【原出願日】平成20年2月4日(2008.2.4)
【出願人】(397068274)コーニング インコーポレイテッド (1,222)
【Fターム(参考)】