説明

脱穀装置の揺動選別構造

【課題】 処理物の重量に応じて開度が自動調整されるチャフシーブを備えた脱穀装置の揺動選別構造において、開度調節バネの固定端を支持するバネ受け部材を単純な形状のものに済ますことができ、バネ受け部材を外部から容易に遠隔操作できるようにする。
【解決手段】 チャフシーブ39のリップ板群を、連動揺動可能に連動連結してチャフシーブ39の開度を調節可能に構成し、リップ板群を開度減少方向に揺動付勢する開度調節バネ57を備えて、リップ板群に作用する処理物重量が大きくなるほどリップ板群が下方揺動してチャフシーブ39の開度が大きくなるように構成し、開度調節バネ57の固定端を支持するバネ受け部材56を位置変更してリップ板群に付与する付勢力を調節可能に構成し、かつ、バネ受け部材56を直線スライド可能に案内支持してある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自脱型や普通型のコンバイン等に搭載される脱穀装置の揺動選別構造に関する。
【背景技術】
【0002】
脱穀装置の揺動選別構造としては、シーブケースに装備されるチャフシーブのリップ板群を横向きの支点周りに連動揺動可能に連動連結して、チャフシーブの開度を調節可能に構成し、リップ板群を開度減少方向に揺動付勢する開度調節バネを備えたものがある。この場合、リップ板群に作用する処理物重量が大きくなるほど、リップ板群が下方揺動してチャフシーブの開度が大きくなるように構成し、開度調節バネの固定端を支持するバネ受け部材を位置変更してリップ板群に付与する付勢力を調節可能に構成して、バネ受け部材を脱穀装置の外部に設けた操作レバーに操作ワイヤ連係したものが知られている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平2001−245526号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記揺動選別構造は、外部の調節レバーを操作して遠隔操作でチャフシーブの開度調整特性を変更することができるものであるが、バネ受け部材が揺動操作される構造であるために、バネ受け部材を効率よく揺動操作するためのワイヤ引き方向に制約を受けやすく(バネ受け部材が円弧移動するのに対して、操作ワイヤのワイヤ引き方向が直線であることによる)、バネ受け部材を特殊な形状にする必要があり、外部の操作レバーとバネ受け部材とを連係する操作ワイヤの引き回しが複雑なものになるものであった。
【0004】
本発明は、このような点に着目してなされたものであって、開度調節バネの固定端を支持するバネ受け部材を単純な形状のものに済ますことができ、バネ受け部材を外部から容易に遠隔操作できるようにすることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
第1の発明は、シーブケースに装備されるチャフシーブのリップ板群を、横向きの支点周りに連動揺動可能に連動連結してチャフシーブの開度を調節可能に構成し、リップ板群を開度減少方向に揺動付勢する開度調節バネを備えて、リップ板群に作用する処理物重量が大きくなるほどリップ板群が下方揺動してチャフシーブの開度が大きくなるように構成するとともに、開度調節バネの固定端を支持するバネ受け部材を位置変更してリップ板群に付与する付勢力を調節可能に構成した脱穀装置の揺動選別構造において、
バネ受け部材を直線スライド可能に案内支持してあることを特徴とする。
【0006】
上記構成によると、例えばバネ受け部材に操作ワイヤを連結してバネ受け部材を外部から操作するよう構成する場合、操作ワイヤにおけるバネ受け部材側の端部の移動軌跡(直線状)と、バネ受け部材のスライド移動軌跡(直線状)とを、略同じ位置に平行(略同一の直線上)に配置することにより、操作ワイヤにおけるバネ受け部材側の端部の移動方向(操作方向)と、バネ受け部材のスライド移動方向とが略一致することになって、操作ワイヤの操作力が無駄なくバネ受け部材に伝達され、バネ受け部材を無理なくスライド移動させることができる。
これに伴って、バネ受け部材を揺動操作する場合のように、バネ受け部材を特殊な形状にして効率のよいワイヤ操作を行うためのワイヤ連結点を設けるような配慮は不要であり、バネ受け部材の形状を、例えば矩形あるいはこれに近い形状のもので済ますことが可能となる。
バネ受け部材を直線スライド操作する操作ワイヤは、その操作によって振り回されることがなく、操作ワイヤの引き回し配置が容易となる。
【0007】
従って、第1の発明によると、開度調節バネの固定端を支持するバネ受け部材を単純な形状のものに済ますことができ、操作ワイヤ等によってバネ受け部を外部から遠隔操作することが無理なく容易に行える。
【0008】
第2の発明は、上記第1の発明において、
バネ受け部材の位置変更によってチャフシーブの最小開度を変更可能に構成してあるものである。
【0009】
上記構成によると、開度調節バネの固定端を位置変更することでチャフシーブの最大開度を変更して、処理物漏下特性を変更することができる。例えば、単位時間当たりの収穫量が比較的少なくて処理物が少ない場合には、チャフシーブの最小開度を小さくすることで、ワラ屑やゴミの混入の少ない精度の高い選別を行うことができる。単位時間当たりの収穫量が多く処理物が多い場合には、チャフシーブの最大開度を大きくすることでリップ板群を大きく開きやすくし、処理物の漏下性を高めて停滞や詰まりのない選別を行うことができる。
【0010】
第3の発明は、上記第1または2の発明において、
バネ受け部材を操作具で人為的に移動操作可能に連係してあるものである。
【0011】
上記構成によると、収穫作業を行いながら、作物情況に応じて作業者が操作具を操作することにより、バネ受け部材の位置調節を行って、処理物に好適なチャフシーブの開度で選別を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図1に、自脱型のコンバインに搭載される脱穀装置1の縦断側面図が示されている。この脱穀装置1は、図外左方の刈取り部から搬送されてきた横倒れ姿勢の刈取り穀稈をフィードチェーン2で受取り、刈取穀稈の穂部を扱室3に挿入した状態で図中左方から右方に挟持搬送することで、扱室3に駆動回転可能に軸支した扱胴4によって脱穀処理する。扱室3の下方に沿って張設した受け網8を漏下した脱穀処理物および扱室終端の送塵口9から排出された処理物を扱室下方の選別部5で揺動風選処理し、穀粒を1番回収部11に回収して横スクリュー12および揚穀装置13で機外に搬出する。枝梗付き穀粒などの2番物を2番回収部14に回収した後、横スクリュー15および還元装置16によって選別部5の前部に還元搬送して再度の選別処理を行い、送塵口9から搬出された脱穀処理後の排ワラを排ワラ搬送装置6に受け渡して後方に斜め搬送し、脱穀装置1の後部に連結される排ワラカッタ7に供給する。
【0013】
脱穀装置1のケースは、扱胴4を軸支した上部ケース1aと、受け網8および選別部5が組み付けられた下部ケース1bとで構成されるとともに、上部ケース1aが前後向きに支点Pを中心にして上方に揺動開放可能に支持されており、上部ケース1aを上方揺動して下部ケース1bを開放することで、受け網8や選別部5の点検整備および掃除を容易に行えるよう構成されている。
【0014】
図7に示すように、脱穀装置1の上部横側に、エンジン動力がベルト掛け伝達される入力ケース20が設けられ、この入力ケース20に備えた横向きの入力軸21と、上部ケース16の揺動支点となる支点Pと同芯に挿通配備された前後向きの伝動軸22とが、ベベルギヤ連動されている。伝動軸22の前端部と扱胴軸23の前端部とがベルト掛け連動されるとともに、伝動軸22の後方延出端からギヤケース24を介して取り出された動力が排ワラ搬送装置6の駆動チェーン25に伝達されるようになっている。
【0015】
図8に示すように、駆動チェーン25の後端を巻回したスプロケット26が、排ワラ搬送装置6を構成する穂先側係止搬チェーン6aと株元側挟持搬送チェーン6bの後端駆動軸27に遊嵌されるとともに、スプロケット26と後端駆動軸27との間にトルクリミッタ28が備えられている。このトルクリミッタ28は、スプロケット26の側面に爪係合するクラッチ部材29を後端駆動軸27にスライド可能にスプライン連結するとともに、バネ30によって係合付勢して構成されている。排ワラ搬送装置6の駆動負荷が設定以上に大きくなると、爪係合部での乗り上がりカム作用によってクラッチ部材29がバネ30に抗して後退スライドして、スプロケット26から後端駆動軸27への動力伝達が断たれるようになっている。
【0016】
選別部5には、落下供給された脱穀処理物を後方(図1では右方)に向けて揺動搬送しながら篩い選別する前後に長いシーブケース35、このシーブケース35に向けて下方から選別風を供給して風選別する唐箕36が備えられるとともに、選別部5の後部上方にはシーブケース35の上方に浮き上げられた塵埃やワラ屑、および、扱室終端の送塵口9から送出された塵埃やワラ屑を吸引して機外に排出する横断流型の排塵ファン37が配備されている。
【0017】
シーブケース35には、前方から後方に亘って、前部グレンパン38、前後に長い粗選別用のチャフシーブ39、および、ストローラック40が装備されるとともに、チャフシーブ39の下方には精選別用のグレンシーブ41が装備されている。シーブケース35の前後中間の上部には、送塵口9から排出された処理物を受ける解し選別用の中間ラック42と篩い線43が備えられている。
【0018】
図2に示すように、チャフシーブ39は、多数のリップ板39aを前後方向に所定間隔をもって並列配備して構成されている。各リップ板39aは、リップ板39aの上端における横向きの支点a周りに前後揺動可能に枢支されるとともに、リップ板39aの下端部が前後に長い連係リンク44に枢支連結されており、全部のリップ板39aの角度が同時に変更されて、前後のリップ板39aの間に形成される漏下間隙の開度が増減され、処理物の漏下特性が変更調節されるようになっている。
【0019】
扱室3で脱穀されて穀稈から分離した処理物は先ず受け網8で漏下選別され、この受け網8を漏下した処理物は選別部5の前半部に落下供給されるとともに、受け網8を漏下しなかった処理物は送塵口9から送出されて選別部5の前後中間部に落下供給される。
【0020】
選別部5に落下した処理物はシーブケース35に供給され、供給された処理物は後方(図1では右方)に向けて揺動搬送されながら前部グレンパン38で比重差選別されるとともに、粗選別用のチャフシーブ39、精選別用のグレンシーブ41、ストローラック40等により篩い選別され、唐箕36から後方上方に向けて供給される選別風で風選処理される。
【0021】
グレンシーブ41から漏下した穀粒は1番回収部11に、また、ストローラック40を漏下した2番物は2番回収部14にそれぞれ選別回収され、ストローラック40を漏下しない大きいワラ屑が選別部5の後端の排塵口17から外部に排出される。
【0022】
粗選別用のチャフシーブ39の開度調節構造が以下のように構成されている。図2および図3に示すように、チャフシーブ39を構成するリップ板39a群の内、前後中間に位置する所定のリップ板39aにおける上部枢支ピン51が、シーブケース35の横外側に突出されるとともに、リップ板39aにおける下部枢支ピン52がシーブケース35の横側面に形成された円弧状長孔53を貫通して横外側に突出され、これら上部枢支ピン51の突出部と下部枢支ピン52の突出部とに亘って作動リンク54が装着されている。作動リンク54における下部枢支ピン連結側とは反対側となる後端箇所にバランスウエイト55が連結されており、シーブケース35の揺動作動に伴ってリップ板39a群が慣性によって揺動作動するのをバランスウエイト55で抑制するよう構成されている。
【0023】
下部枢支ピン52の突出端と、シーブケース35の横外側に配備されたバネ受け部材56とに亘って引っ張りバネからなる開度調節バネ57が張設され、開度調節バネ57の張力によって下部枢支ピン52が前方上方に引き上げ付勢されることで、連係リンク44を介して連動揺動する全リップ板35aが上方前方、つまり、開度を小さくする方向に付勢されている。
【0024】
バネ受け部材56は、金属板材を略矩形に打抜き加工して形成されたものであり、バネ受け部材56の前方上部に開度調節バネ57の固定端が連結されるとともに、バネ受け部材56の前後中間部に下部枢支ピン52を挿通する開口58が形成されている。バネ受け部材56の上下には、前後方向に向かう直線長孔59が形成されるとともに、シーブケース35の横外側面には、各直線長孔59に上下ガタなく挿通される一対の案内部材60が設けられており、これら直線長孔59と案内部材60による係合案内作用によって、バネ受け部材56が前後方向に直線スライド可能に支持されている。上方の案内部材60は、上部枢支ピン51に外嵌されたカラーとして機能する。
【0025】
バネ受け部材56の前端とシーブケース35とに亘って引っ張りバネからなる復帰バネ61が張設されて、バネ受け部材56が前方へスライド付勢されている。シーブケース35の横外側面にはワイヤ受け金具62が設けられ、このワイヤ受け金具62に操作ワイヤ63のアウタ端部が前後向き姿勢で固定支持されるとともに、操作ワイヤ63のアウタ端部から前方に導出されたインナワイヤ63aがバネ受け部材56の後端部に連結されている。
【0026】
操作ワイヤ63は選別部5の後端の排塵口17を通って図示されていない運転部に導かれ、運転部の着座位置近くの適所に配備された操作具としての操作レバー64に連動連結されている。この操作レバー64を所定方向に揺動操作して操作ワイヤ63のインナワイヤ63aを引くことで、バネ受け部材56を復帰バネ61に抗して後方にスライド移動させ、操作レバー64を逆に揺動操作して操作ワイヤ63のインナワイヤ63aを弛めることで、バネ受け部材56を復帰バネ61によって前方にスライド移動させることができるようになっている。操作レバー64は、その操作域の複数個所においてレバーガイド65に係止固定可能となっており、操作レバー64を任意の操作位置に係止固定することで、バネ受け部材56を複数の移動位置で固定保持しておくことができる。
【0027】
開度調節バネ57の張力によって前方上方に付勢される下部枢支ピン52は、バネ受け部材56に形成された開口58の上端縁に接当されてそれ以上の付勢移動が阻止され、これによってチャフシーブ39の最小開度が規制されるとともに、下部枢支ピン52が開口58の下端縁に接当されてチャフシーブ39の最大開度が規制されるようになっている。開口58の上下開口幅は、前端において最大で後方ほど小さくなる後狭まり形状に形成されている。従って、バネ受け部材56が後方にスライド移動されて下部枢支ピン52が開口58の前方に移動すると、チャフシーブ39の最小開度と最大開度が大きくなり、バネ受け部材56が前方にスライド移動されて下部枢支ピン52が開口58の後方に移動すると、チャフシーブ39の最小開度と最大開度が小さく制限される。
【0028】
これによると、ワラ屑や切れワラの多い場合や、単位時間当たりの処理物量が少ない場合には、図2に示すように、バネ受け部材56を前方にスライド移動させてチャフシーブ39の最小開度と最大開度を小さくし、概して小さい開度で穀粒を漏下してワラ屑やゴミの混入が少ない選別を行うことがでる。単位時間当たりの処理物量が多い場合には、図5に示すように、バネ受け部材56を後方にスライド移動させてチャフシーブ39の最小開度と最大開度を大きくして漏下性を高くすることで、比較的大きい開度で多くの処理物を滞留なく漏下させて高能率の選別を行うことができる。
【0029】
〔他の実施例〕
(1)バネ受け部材56を直線スライド移動させる案内構造は上記実施例の構造以外に各種の形態を利用することができる。例えば、バネ受け部材56の上下端辺を直線状に形成し、この上下端辺をシーブケース35に備えた上下の案内レールに係合案内する構造を採用することもできる。
【0030】
(2)バネ受け部材56をスライド移動操作する操作具である操作レバー64の設置位置は任意であり、例えば、脱穀装置4の後部外方に設置して、予め作業前に調節を行うように構成することもできる。
【0031】
(3)操作ワイヤ63を適所に固定配備した電動モータなどのアクチュエータで操作可能に構成することもでき、この場合は、運転部に設けたポテンショメータをレバーやダイヤルなどの操作具で調節操作することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】脱穀装置の縦断側面図
【図2】チャフシーブの開度調節構造を示す側面図
【図3】チャフシーブの開度調節構造を示す横断平面図
【図4】チャフシーブの支点構造を示す縦断正面図
【図5】開度拡大状態に調節されたチャフシーブの開度調節構造を示す側面図
【図6】チャフシーブの開度調節操作構造を示す側面図
【図7】扱胴および排ワラ搬送装置の駆動構造を示す平面図
【図8】排ワラ搬送装置のトルクリミッタを示す横断平面図
【符号の説明】
【0033】
35 シーブケース
39 チャフシーブ
39a リップ板
56 バネ受け部材
57 開度調節バネ
64 操作具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シーブケースに装備されるチャフシーブのリップ板群を、横向きの支点周りに連動揺動可能に連動連結してチャフシーブの開度を調節可能に構成し、リップ板群を開度減少方向に揺動付勢する開度調節バネを備えて、リップ板群に作用する処理物重量が大きくなるほどリップ板群が下方揺動してチャフシーブの開度が大きくなるように構成するとともに、前記開度調節バネの固定端を支持するバネ受け部材を位置変更してリップ板群に付与する付勢力を調節可能に構成した脱穀装置の揺動選別構造において、
前記バネ受け部材を直線スライド可能に案内支持してあることを特徴とする脱穀装置の揺動選別構造。
【請求項2】
前記バネ受け部材の位置変更によって前記チャフシーブの最小開度を変更可能に構成してある請求項1記載の脱穀装置の揺動選別構造。
【請求項3】
前記バネ受け部材を操作具で人為的に移動操作可能に連係してある請求項1または2記載の脱穀装置の揺動選別構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−165368(P2009−165368A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−4624(P2008−4624)
【出願日】平成20年1月11日(2008.1.11)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】