説明

自動変速機用バンドブレーキ

【課題】油膜を空気により強制的に除去するバンドブレーキを提供する。
【解決手段】ドラム40の外周に沿ってブレーキバンド31が配置され、このブレーキバンドが前記ドラムの外周に締め付けることにより締結される自動変速機用バンドブレーキにおいて、前記ブレーキバンドと前記ドラムとが非締結状態において、前記ブレーキバンドと前記ドラムとの間隙に空気を供給する空気噴出手段33を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動変速機用バンドブレーキに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、自動変速機は、各種摩擦要素(クラッチやブレーキ)を選択的に油圧作動させることにより所定変速段を選択し、油圧作動する摩擦要素の組合せを変更することにより他の変速段への変速を行う。その際、自動変速機の構成によっては、摩擦要素として、バンドサーボ機構によって作動されるバンドブレーキを備えるものがある(例えば、特許文献1参照)。バンドブレーキは、ドラムと、このドラムの外周に巻き付けられたブレーキバンドとを備え、ブレーキバンドがドラムを締め付けることで締結状態となるものである。
【0003】
しかしながら、従来技術においては、自動変速機の作動油がブレーキバンドとドラムとの間に入り込み、油膜を形成し、ブレーキバンドとドラムとの間の摩擦係数が低下するという問題があった。
【0004】
この問題を解決する技術として、ブレーキバンドに貫通孔を設け、貫通孔を通過した空気により油膜を除去するものがある(特許文献2参照)。
【特許文献1】特開平05−196140号公報
【特許文献2】特開平03−260424号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ブレーキバンドに貫通孔を設け、この貫通孔を通過した空気により油膜を除去する技術は、バンドブレーキとドラム間に生じる負圧により空気をこれらの間に導入し、油膜を除去するため、油膜を除去し難いという課題がある。
【0006】
本発明は、こうした事実を鑑みてなされたものであり、ブレーキバンドとドラムとの間に形成された油膜を効率的に除去する自動変速機用バンドブレーキを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、ドラムの外周に沿ってブレーキバンドが配置され、このブレーキバンドが前記ドラムの外周を締め付けることにより締結される自動変速機用バンドブレーキにおいて、前記ブレーキバンドと前記ドラムとが非締結状態で、前記ブレーキバンドと前記ドラムとの間隙に空気を供給する空気噴出手段を備えたことを特徴とする自動変速機用バンドブレーキである。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、前記ブレーキバンドと前記ドラムとの間隙に空気を供給する空気噴出手段を備えたため、前記ブレーキバンドと前記ドラム間に形成された自動変速機の作動油からなる油膜を強制的に除去し、前記ブレーキバンドと前記ドラム間の摩擦係数を安定させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき詳細に説明する。
【0010】
図1は本発明の自動変速機用バンドブレーキに用いるバンドサーボ機構の第1実施例の構成を示す図である。
【0011】
図中、変速機ケース10には、4速用と2、3速用の2組の油圧サーボ機構が収容されている。変速機ケース10はその一部にドラム40の接線方向と平行に延出する円筒状の延出部10aを備える。
【0012】
4速用の油圧サーボ機構は、円筒状のドラム40やドラム40に巻き付く帯状のブレーキバンド31を内装し、変速機ケース10の延出部10aの内周面に嵌合したサーボリテーナ11と、延出部10aおよびサーボリテーナ11によって画成され、バンドブレーキ作動圧である4速アプライ圧P4aが供給される油室12と、延出部10aおよびサーボリテーナ11の嵌合面を封止する封止部材としてのOリング13およびガスケット14とを備える。さらに、サーボリテーナ11の穴11aを経て4速アプライ圧P4aが供給されるピストン油室15と、サーボリテーナ11の内周面に摺動可能に嵌合され、4速アプライ圧P4aによってばね16のばね力に抗してピストンステム17をストロークさせるサーボピストン18と、油室12からOリング13の隙間を経てリークする油を貯えるドレン油室20と、サーボリテーナ11に形成されドレン油室20を後述するドレン油室21に連通するドレン油路(ドレン穴)22とを備える。
【0013】
また、2、3速用の油圧サーボ機構は、変速機ケース10の延出部10aの内周に嵌合したサーボリテーナ23と、延出部10a、サーボリテーナ11およびサーボリテーナ23によって画成されるドレン油室21と、延出部10aおよびサーボリテーナ11、23の嵌合面を封止するOリング24、25とを備える。さらに、サーボリテーナ23の内周に摺動可能に嵌合され、バンドブレーキ作動圧である2速アプライ圧P2aによって、ばね16のばね力に抗してピストンステム17をストロークさせるとともに、バンドブレーキ作動圧である3速リリースP3rによって、ばね16の付勢方向にピストンステム17をストロークさせるサーボピストン26と、延出部10a、サーボリテーナ23およびサーボピストン26によって画成され、Oリング27で封止され、3速リリースP3rが供給される油室28と、サーボリテーナ23およびサーボピストン26によって画成され、2速アプライ圧P2aが供給される油室29とを備える。
【0014】
このように構成され、ピストンステム17の先端(図示左端)は、アンカ30とともにブレーキバンド31を挾持し、ピストンステム17のストロークにより、ブレーキバンド31がドラム40を締め付ける。
【0015】
ブレーキバンド31は、ドラム40に摺設する帯状の摩擦材と、摩擦材が固着されたストラップ31aと、ストラップの両端にそれぞれ固定されたブラケット31bから構成される。ドラム40に巻き付けられたブレーキバンド31は、前述のピストンステムの移動(図中左への移動)に伴い、ピストンステム17が接触するブラケット31bを介してドラム40を締め付けることで、ブレーキバンド31とドラム40が締結状態となる。ここで、ブレーキバンド31の長さは、ドラム40の周長より短く構成され、ブレーキバンド31の端部間に合口32が形成される。この合口32の長さが変化することで、ブレーキバンド31とドラム40との締結状態と非締結状態とを成し遂げることができる。
【0016】
このバンドサーボ機構は、上述した各油室への油圧供給に応じてブレーキバンド31を締結状態または非締結状態とする。以下、各変速段での作用について説明する。
【0017】
まず、油室12、28、29に全く油圧を供給しない1速状態においては、ピストンステム17がばね16のばね力によって図1中、右へ移動してブレーキバンド31をOFF(非締結状態)にする。次に、油室29に2速アプライ圧P2aを供給して、他の油室12、28に油圧を供給しない2速状態においては、サーボピストン26がP2aによってばね16のばね力に抗して図1中、左へ移動するのに伴い、ピストンステム17が左へ移動してブレーキバンド31をON(締結状態)にする。この状態からさらに、油室28に3速リリースP3rを供給する3速状態においては、差圧(P3r−P2a)によりサーボピストン26が右へ移動するのに伴い、ピストンステム17が右へ移動してブレーキバンド31をOFF(非締結状態)にする。この状態からさらに、油室12に4速アプライ圧P4aを供給する4速状態においては、サーボピストン11がP4aによって左へ移動するのに伴い、ピストンステム17が左へ移動してブレーキバンド31をON(締結状態)にする。
【0018】
このように構成されたバンドブレーキ機構において、ブレーキバンド31とドラム40は締結時にはドラム40にブレーキバンド31の摩擦材が密着するが、非締結時には間隙が生じて、この間隙にトランスミッションの作動油が入り込み、油膜を形成する恐れがある。油膜が形成されると、摩擦材とドラム間の摩擦係数が所定の摩擦係数より低下することになる。
【0019】
そこで本実施形態では、図1に示すように合口32に向けて空気を噴出する空気噴出ノズル33を設け、ブレーキバンド31とドラム40とが非締結時に、空気を合口32からブレーキバンド31とドラム40との間隙に送り込み、ブレーキバンド31とドラム40との間の作動油を強制的に吹き飛ばし、油膜を除去するようにしたことを特徴とする。以下、空気噴出ノズル33について詳しく説明する。
【0020】
空気噴出ノズル33は、ドラム40の径方向から合口32に向けて空気が噴出されるようにその開口部33aが設置され、図示しない空気供給源からの空気をブレーキバンド31とドラム40との間隙に送り込む。空気噴出ノズル33は、図2に示すように開口部33aを備えた空気ガイド部33bと、一方向弁(チェック弁)として機能するボール34を内装した隔室からなる空気制御部33cと、空気供給源と空気制御部33cとを連通する空気供給管33dとから構成される。
【0021】
空気ガイド部33bは、空気制御部33cからの空気を開口部33aにガイドして効率良く空気を合口32に供給する。
【0022】
空気ガイド部33bと空気制御部33cとの間の隔壁には少なくとも2個以上の貫通孔33eが形成され、一方、空気制御部33cと空気供給管33dとの間の隔壁には1個の貫通孔33fが形成される。ここで貫通孔33e、33fの径は、空気制御部cに設置されたボール34の径より小さく設定される。
【0023】
空気制御部33cは、前述の通り一方向弁としての機能を有し、具体的には合口32に空気を供給する場合には、図2(a)に示すように、複数設けた貫通孔33eのうち少なくとも1個の貫通孔33eはボール34に塞がれることがないから、この貫通孔33eから空気が合口32に向けて供給される。一方、トランスミッションの内圧の変化等により開口部33aから空気供給管33dに向けて作動油等の流体が空気制御部33cに流れ込むような場合には、図2(b)に示すように、圧力差等によりボール34が空気制御部33cと空気供給管33dとの間の隔壁に形成された貫通孔33fを塞ぎ、作動油の流れを妨げる。
【0024】
このように本発明は、ドラム40とブレーキバンド31間に空気を供給する空気噴出手段としての空気噴出ノズル33を設け、非締結時に空気を供給することで、ドラム40とブレーキバンド31間に形成された油膜を強制的に除去することができる。
【0025】
また空気噴出ノズル33を構成する空気制御部33cは、一方向弁として機能するため、空気噴出ノズル33を逆流する流体、例えば自動変速機の作動油の流れを阻止することができる。
【0026】
本発明は前記の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】バンドブレーキの構成の一例を示す概略図である。
【図2】空気噴出ノズルを説明する図である。
【符号の説明】
【0028】
10:変速機ケース
10a:延出部
31:ブレーキバンド
31a:ストラップ
31b:ブラケット
32:合口
33:空気噴出ノズル
33a:開口部
33b:空気ガイド部
33c:空気制御部
33d:空気供給管
33e、33f:貫通孔
34:ボール
40:ドラム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドラムの外周に沿ってブレーキバンドが配置され、このブレーキバンドが前記ドラムの外周を締め付けることにより締結される自動変速機用バンドブレーキにおいて、
前記ブレーキバンドと前記ドラムとが非締結状態で、前記ブレーキバンドと前記ドラムとの間隙に空気を供給する空気噴出手段を備えたことを特徴とする自動変速機用バンドブレーキ。
【請求項2】
前記空気噴出手段は、前記ドラム及び前記ブレーキバンドを内装するケースに設置されることを特徴とする請求項1に記載の自動変速機用バンドブレーキ。
【請求項3】
前記空気噴出手段は、前記ブレーキバンドと前記ドラムとの間隙に空気を供給する方向にのみ流体の通過を許可する一方向弁を備えることを特徴とする請求項1または2に記載の自動変速機用バンドブレーキ。
【請求項4】
前記一方向弁は、空気の流れ方向上流側の隔壁に空気が流通する貫通孔を備えた隔室内に前記貫通孔を閉塞する閉塞部材を設け、前記閉塞部材は空気の流れ方向に逆流する流体が前記隔室内に流入する場合に、前記貫通孔を閉塞することを特徴とする請求項3に記載の自動変速機用バンドブレーキ。
【請求項5】
前記空気噴出手段は、空気の噴出方向をガイドするガイド手段を備えたことを特徴とする請求項3または4に記載の自動変速機用バンドブレーキ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−225044(P2007−225044A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−48039(P2006−48039)
【出願日】平成18年2月24日(2006.2.24)
【出願人】(000231350)ジヤトコ株式会社 (899)
【Fターム(参考)】