説明

芝草に対する望ましくない作用を軽減する方法

【課題】 ゴルフ場など、使用する除草剤に感受性が低い芝草と感受性が高い芝草とが併用されている場面において、感受性が高い芝草に対する望ましくない作用を引き起こすことなく、芝地の管理を行う方法を提供する。
【解決手段】本発明は、除草性化合物とシリコーン系界面活性剤とを当該除草性化合物に感受性が低い芝草が植え付けられている場所に処理することにより、前記除草性化合物に感受性が高い近傍の芝草に対する望ましくない作用を、軽減する方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、除草性化合物に感受性が高い芝草に対する望ましくない作用を、特定の界面活性剤を用い軽減する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、芝地において種々の除草性化合物が使用されている。例えばゴルフ場の芝地の管理において、除草性化合物の使用は欠かせないものとなっている。ゴルフ場においては、複数種の芝草が植え付けられていることが多く、使用する除草性化合物に感受性が低い芝草と感受性が高い芝草とが併用されている場合も少なくない。このような場合、除草性化合物の使用においては一定の制限を強いられることになり、作業効率面やコスト面等において必ずしも満足される状況にはなかった。
フラザスルフロンは除草性化合物として知られている(特許文献1)。高麗芝やノシバのような暖地型芝草は、フラザスルフロンに対し感受性が低いことから安全性を有し、さらにフラザスルフロンは、望ましくない植物を防除できることから優れた化合物である。一方、ベントグラス、ブルーグラス、ライグラスのような寒地型芝草は、フラザスルフロンに対し比較的感受性が高く、フラザスルフロンが望ましくない作用を示すこともある。
前述の通りゴルフ場においては、複数種の芝草が植え付けられていることが多い。例えば、フラザスルフロンが安全性を示す暖地型芝草がフェアウェイなどに植え付けられ、フラザスルフロンに感受性が高い寒地型芝草がグリーンなどに植え付けられていることがある。通常フラザスルフロンは暖地型芝草が植え付けられた場所に処理されるが、処理直後あるいは処理後一定期間経過後であっても朝露などがみられる状況下では、暖地型芝草の上を歩行したプレーヤー等の靴底にフラザスルフロンが付着することがあり、その状態でグリーンなどに進入すると、そこに植え付けられている寒地型芝草に対し望ましくない作用を示す場合がある。また、プレーヤー等の靴底以外にも、例えば各種農薬を処理するための薬剤処理用具、芝草等への散水のための散水用具、芝刈り機等の芝刈り用具などを介して、寒地型芝草に対し望ましくない作用を示す場合もある。
このような問題はフラザスルフロンに限られるものではなく、芝草の種類によって感受性の差が発生する除草性化合物において存在している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第4,744,814号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、使用する除草性化合物に感受性が低い芝草と感受性が高い芝草とが併用されているゴルフ場などの場面において、感受性が高い芝草に対する望ましくない作用を引き起こすことなく、芝地の管理を行う方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するべく検討した結果、意外にも、シリコーン系界面活性剤を用いることにより、上記課題を解決できることを見出した。
即ち、本発明は、除草性化合物とシリコーン系界面活性剤とを当該除草性化合物に感受性が低い芝草が植え付けられている場所に散布などの手段によって処理することにより、前記除草性化合物に感受性が高い、近傍の芝草に対する望ましくない作用を、軽減する方法に関する。前述の望ましくない作用としては、例えば退色、褐変、壊死(ネクロシス)、白化(クロロシス)、アントシアン、生育抑制などが挙げられる。
本発明は、以下の要旨を有するものである。
(1)除草性化合物とシリコーン系界面活性剤とを当該除草性化合物に感受性が低い芝草が植え付けられている場所に処理することにより、前記除草性化合物に感受性が高い近傍の芝草に対する望ましくない作用を、軽減する方法。
(2)除草性化合物が、アセト乳酸合成酵素(ALS)阻害剤及び細胞の有糸分裂阻害剤からなる群より選ばれる少なくとも一種である上記(1)に記載の方法。
(3)除草性化合物が、アセト乳酸合成酵素(ALS)阻害剤である上記(2)に記載の方法。
(4)アセト乳酸合成酵素(ALS)阻害剤が、スルホニルウレア系化合物、ピリミジン系化合物およびトリアゾロピリミジン系化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物またはその塩である上記(3)に記載の方法。
(5)スルホニルウレア系化合物が、フラザスルフロン、シノスルフロン、リムスルフロン、トリフロキシスルフロン、クロリムロンエチル、イオドスルフロンメチル、フォラムスルフロン、ニコスルフロン、スルホスルフロンおよびクロロスルフロンからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物であり、ピリミジン系化合物が、ピリミスルファンであり、トリアゾロピリミジン系化合物が、フロラスラムである上記(4)に記載の方法。
(6)スルホニルウレア系化合物が、フラザスルフロン、リムスルフロン、トリフロキシスルフロンおよびニコスルフロンからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物であり、トリアゾロピリミジン系化合物が、フロラスラムである上記(4)に記載の方法。
(7)除草性化合物が、細胞の有糸分裂阻害剤である上記(2)に記載の方法。
(8)細胞の有糸分裂阻害剤が、カーバメート系化合物である上記(7)に記載の方法。
(9)カーバメート系化合物が、アシュラムである上記(8)に記載の方法。
(10)シリコーン系界面活性剤が、有機変性シリコーン系界面活性剤である上記(1)に記載の方法。
(11)有機変性シリコーン系界面活性剤が、ポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤である上記(10)に記載の方法。
(12)ポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤が、下記式(I)で示される化合物である上記(11)に記載の方法。
【0006】
【化1】

(式中、R1は、水素原子又はメチル基であり、R2は、水素原子、水酸基、メチル基又はアセチル基であり、nは0〜4の整数であり、xは0〜2の整数であり、yは1〜15の整数であり、zは0〜10の整数である)
(13)シリコーン系界面活性剤を0.005〜0.5容量%の割合で含む水で除草性化合物を希釈し当該除草性化合物に感受性が低い芝草が植え付けられている場所に処理する、上記(1)に記載の方法。
(14)前記望ましくない作用が、除草性化合物とシリコーン系界面活性剤が処理された場所の、芝草または望ましくない植物との接触を介して生じる、上記(1)〜(13)のいずれかに記載の方法。
(15)前記望ましくない作用が、除草性化合物とシリコーン系界面活性剤が処理された場所の、芝草または望ましくない植物と接触した靴底、薬剤処理用具、散水用具または芝刈り用具を介して生じる、上記(1)〜(13)のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、作業効率面やコスト面等が改善された芝地の管理方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
界面活性剤は、通常、効力増強の目的で除草性化合物と併用されている。使用する除草性化合物に感受性が低い芝草と感受性が高い芝草とが近傍に植え付けられている場面において、除草性化合物と界面活性剤を用いると、感受性が高い芝草に対する望ましくない作用を引き起こす場合もあるが、界面活性剤の中でもシリコーン系界面活性剤を用いることにより、前記望ましくない作用を軽減することができる。
【0009】
シリコーン系界面活性剤は、除草性化合物を含む処理薬液の植物に対する表面張力を低下させ、かつ適度な拡展性を付与する。理由は定かではないが、前記したシリコーン系界面活性剤の作用によって、処理された場所の植物からの除草性化合物の移動が抑制され、それにより本発明の効果の発揮に寄与しているものと推測される。
【0010】
本発明のシリコーン系界面活性剤としては、有機変性シリコーン系界面活性剤が好ましい。本発明において「有機変性シリコーン系界面活性剤」とは、主に、ポリエーテル基等の有機基の導入により親水性が付与されたシリコーンオイルを指す。有機変性シリコーン系界面活性剤において、導入する有機基として前述のポリエーテル基以外にも種々のものが知られており、本発明の目的に適合する限り、それらについても使用することができる。有機変性シリコーン系界面活性剤としては、ポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤が好ましい。
ポリエーテル基が導入された有機変性シリコーン系界面活性剤(ポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤)の例としては、ポリオキシエチレンメチルポリシロキサン、ポリオキシアルキレンメチルポリシロキサン、トリシロキサンエトキシレート、ポリエーテルポリメチルシロキサンコポリマー、ポリエーテルポリメチルシロキサンコポリマー、または下記式(I):
【0011】
【化2】

【0012】
(式中、R1は、水素原子又はメチル基であり、R2は、水素原子、水酸基、メチル基又はアセチル基であり、nは0〜4の整数であり、xは0〜2の整数であり、yは1〜15の整数であり、zは0〜10の整数である)で示される化合物などが好ましいが、本発明はこれらに限定して解釈されるものではない。
なお、シリコーン系界面活性剤が、上記式(I)で示される化合物の場合、拡展性の観点から、xが0である化合物が特に好ましい。
【0013】
シリコーン系界面活性剤の具体例としては、例えば以下のもの(商品名)が好ましい。また、市販されているシリコーン系界面活性剤には、その他の成分をさらに含んでいるものもある。
・まくぴか(石原産業社製のポリオキシエチレンメチルポリシロキサン)
・KF-640(信越化学工業社製のポリオキシアルキレンメチルポリシロキサン)
・Silwet L-77、Silwet 408、Silwet ECO(Momentive performance materials社製、Witco社製ほかのトリシロキサンエトキシレート)
・Break−Thru(Evonik Goldschmidt Chemical Corporation社製のポリエーテルポリメチルシロキサンコポリマー)
・ブレイクスルー(サンケイ化学社製のポリエーテルポリメチルシロキサンコポリマー)
【0014】
除草性化合物としては、芝草の種類によって感受性の差が発生する化合物が挙げられる。このような化合物は、当該化合物に対する感受性が低い芝草と感受性が高い芝草とが近傍に植え付けられている場合、たとえ感受性が低い芝草が植え付けられている場所に処理された場合であっても、処理された場所の主に植物(芝草、望ましくない植物など)との直接的または間接的な接触を介して、感受性が高い芝草に望ましくない作用を及ぼすことがある。
例えば、ゴルフ場においては、フェアウェイとグリーンなど、近傍に除草性化合物に対する感受性が低い芝草と感受性が高い芝草とが植え付けられている場合がある。たとえ前記除草性化合物が、感受性が低い芝草が植え付けられている場所に処理された場合であっても、直接的または間接的な接触を介して、前記除草性化合物が、感受性が高い芝草と接触することがある。このような場合、感受性が高い芝草には除草性化合物が直接処理されていないにもかかわらず、望ましくない作用を及ぼすことがある。
【0015】
本発明において「直接的または間接的な接触」とは、前記除草性化合物が、感受性が低い芝草が植え付けられている場所に処理された場合に、処理された場所の芝草または望ましくない植物などと接触したゴルフプレーヤーや作業員等の靴の底;各種農薬を処理するための薬剤処理用具(例:薬剤処理器具のホース又は車輪);芝草等への散水のための散水用具(例:散水器具のホース又は車輪);芝刈り用具(例:芝刈り機具又は車輪);などを介して接触することを意味する。
本発明において「近傍に植え付けられている」とは、前記直接的または間接的な接触が起こり得る状態で植え付けられていることを意味する。例えば、感受性が低い芝草と感受性が高い芝草とが、隣接して、或いは間隔をあけて、植え付けられている状態が挙げられる。また、ゴルフ場においては、複数のホールが同一敷地内に設けられていることもあり、同じホール内だけではなく、異なるホール間においても直接的または間接的な接触が起こり得るが、本発明においては、このような態様も「近傍に植え付けられている」に含まれるものとする。
本発明は、このような性質や背景を持った除草性化合物に付随する問題を解決するものであり、適用できる除草性化合物の化学構造や使用量などは特に制限されるものではない。
【0016】
本発明に適用し得る除草性化合物の一例としては、アセト乳酸合成酵素(ALS)阻害剤、細胞の有糸分裂阻害剤などが好ましい。アセト乳酸合成酵素(ALS)阻害剤としては、例えば、フラザスルフロン、シノスルフロン、リムスルフロン、トリフロキシスルフロン、クロリムロンエチル、イオドスルフロンメチル、フォラムスルフロン、ニコスルフロン、スルホスルフロン、クロロスルフロンのようなスルホニルウレア系化合物;ピリミスルファンのようなピリミジン系化合物;フロラスラムのようなトリアゾロピリミジン系化合物;またはそれらの塩などが好ましい。細胞の有糸分裂阻害剤としては、アシュラムのようなカーバメート系化合物またはそれらの塩などが好ましい。これらの中でもフラザスルフロン、リムスルフロン、トリフロシキスルフロン、ニコスルフロン、フロラスラム、アシュラム、またはそれらの塩などが好ましい。塩としては、アルカリ土類金属塩、又はアルカリ金属塩が好ましく、ナトリウム塩が特に好ましい。
また、前述した除草性組成物に感受性が低い芝草あるいは感受性が高い芝草は、各々当該分野で知られている。
例えば、フラザスルフロン、リムスルフロン、トリフロキシスルフロン、ニコスルフロンに対し、感受性が低い芝草としては、高麗芝やノシバのような暖地型芝草などが挙げられ、それら化合物に対し感受性が高い芝草としては、ベントグラス、ブルーグラス、ライグラスのような寒地型芝草などが挙げられる。
【0017】
シリコーン系界面活性剤の使用量は、気象条件、防除対象雑草の種類や大きさ、処理対象の芝草の状態などに応じ適宜調整する必要があり、一概に定めることはできない。しかしながら、製剤調製された除草性化合物を水で希釈し処理する際、適度な表面張力と拡展性を付与し、本発明の効果をより効果的に発揮する観点から、本発明の当該水に対し前記界面活性剤を0.005〜0.5容量%の割合で混合するのが好ましく、0.01〜0.25容量%の割合で混合するのがより好ましい。
除草性化合物とシリコーン系界面活性剤とを含む処理薬液の量は、本発明の効果をより効果的に発揮する観点から、1ヘクタールあたり100〜5,000L(リットル)が好ましく、150〜4,000L(リットル)がより好ましい。但し、シリコーン系界面活性剤の使用量や前記処理薬液の量は、前述した気象等の各種条件などに応じ、この範囲外を適宜選択することも可能である。
【0018】
除草性化合物の使用量は、ALS阻害剤の場合は、芝草1ヘクタールあたり1〜200gが好ましく、10〜150gがより好ましい。細胞の有糸分裂阻害剤の場合は、芝草1ヘクタールあたり500〜6,000gが好ましく、1,000〜5,000gがより好ましい。
また、芝草に噴霧または散布される除草性化合物とシリコーン系界面活性剤とを含む処理薬液中の除草性化合物の濃度は、ALS阻害剤の場合は、0.00002〜0.2質量%が好ましく、0.00025〜0.1質量%がより好ましい。細胞の有糸分裂阻害剤の場合は、0.01〜6質量%が好ましく、0.025〜3.5質量%がより好ましい。
本発明の効果が得られる理由は定かではないが、芝に適用する場合に限っては、シリコーン系界面活性剤が薬液に適切な表面張力や拡展性を付与することにより、余分な薬液を芝草から落とし易くすること等により、本発明の効果をより効果的に発揮しているものと推測している。
【0019】
次に、本発明の実施態様として、いくつかを例示する。但し、本発明はこれらに限定して解釈されるものではない。
除草性化合物とシリコーン系界面活性剤との処理の実施態様を以下に例示する。
(1)シリコーン系界面活性剤を0.005〜0.5容量%の割合で含む水で除草性化合物を希釈し当該除草性化合物に感受性が低い芝草が植え付けられている場所に処理することにより、前記除草性化合物に感受性が高い近傍の芝草に対する望ましくない作用を、軽減する方法。
(2)除草性化合物とシリコーン系界面活性剤とを当該除草性化合物に感受性が低い芝草が植え付けられている場所に処理することにより、処理された場所の芝草または望ましくない植物との接触を介して生じる前記除草性化合物に感受性が高い近傍の芝草に対する望ましくない作用を、軽減する方法。
(3)除草性化合物とシリコーン系界面活性剤とを当該除草性化合物に感受性が低い芝草が植え付けられている場所に処理することにより、処理された場所の芝草または望ましくない植物との間接的な接触を介して生じる前記除草性化合物に感受性が高い近傍の芝草に対する望ましくない作用を、軽減する方法。
(4)除草性化合物とシリコーン系界面活性剤とを当該除草性化合物に感受性が低い芝草が植え付けられている場所に処理することにより、処理された場所の芝草または望ましくない植物と接触した靴底、薬剤処理用具、散水用具または芝刈り用具を介して生じる前記除草性化合物に感受性が高い近傍の芝草に対する望ましくない作用を、軽減する方法。
(5)除草性化合物とシリコーン系界面活性剤とを当該除草性化合物に感受性が低い芝草が植え付けられている場所に処理することにより、処理された場所の芝草または望ましくない植物と接触した靴底;薬剤処理機具のホース又は車輪;散水機具のホース又は車輪;或いは芝刈り機具又はその車輪;を介して生じる前記除草性化合物に感受性が高い近傍の芝草に対する望ましくない作用を、軽減する方法。
【0020】
本発明は、除草性化合物を処理した後に生じる、当該除草性化合物に感受性が高い近傍の芝草に対する望ましくない作用の軽減に有用である。
【0021】
また、除草性化合物が処理された場所から前記除草性化合物に感受性が高い近傍の芝草に前記除草性化合物を持ち込むことにより、望ましくない作用が生じる場合も本発明に含まれる。
本発明において、「持ち込む」とは、直接的または間接的な接触を介してある場所から別の場所へ、つまり除草性化合物が処理された場所から、前記除草性化合物に感受性が高い近傍の芝草に、前記除草性化合物を移動させることを意味する。
【0022】
本発明は、除草性化合物に対する感受性が低い芝草と感受性が高い芝草とが植え付けられているゴルフ場において、特に有用である。このような場合の実施態様を以下に例示する。
(6) 感受性が低い芝草と感受性が高い芝草とが植え付けられているゴルフ場において、除草性化合物とシリコーン系界面活性剤とを当該除草性化合物に感受性が低い芝草が植え付けられている場所に処理することにより、前記除草性化合物に感受性が高い芝草に対する望ましくない作用を、軽減する方法。
【実施例】
【0023】
本発明をより詳しく述べるために、以下に実施例を記載するが、本発明はこれらに限定して解釈されるものではない。
実施例1
1/300,000 haポットに土壌をつめ、高麗芝を育成した。また、1/1,000,000 haポットに土壌をつめ、ベントグラス(品種:ペンクロス)を育成した。フラザスルフロンを有効成分とする顆粒水和剤(商品名:シバゲンDF、石原産業社製)の所定量(フラザスルフロン:50g a.i./ha)を、シリコーン系界面活性剤(商品名:まくぴか、石原産業(株)製)の所定量を含む水で希釈し、処理薬液量が2,000 L/ha相当となるよう小型スプレーガンで高麗芝に茎葉処理した。処理直後または処理6時間後に、フラザスルフロンを処理していないベントグラスを、それを処理した高麗芝に擦り付けた(ベントグラスのポットを一往復スライドさせた)。
フラザスルフロンの処理後14日目に、ベントグラスの生育状態を肉眼で観察調査し、以下の基準に従い評価した生育抑制率とネクロシスの程度とを、第1表および第2表に示す。なお、比較区として、当該分野で汎用されている界面活性剤:ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル(商品名:クサリノー、日本農薬社製)を用いた区と、界面活性剤を用いない区を設けた。
生育抑制率(%)=0:無処理区同等〜100:完全枯殺
ネクロシスの程度=0:無処理区同等〜5.0:極大
【0024】
【表1】

【0025】
【表2】

【0026】
実施例2
地上でノシバ0.6 m2(0.4 m×1.5 m)を育成した。また、1/300,000 haポットに土壌をつめ、ベントグラス(品種:ペンクロス)を育成した。シバゲンDF(商品名/実施例1に同じ)の所定量(フラザスルフロン:50g a.i./ha)を、まくぴか(商品名/実施例1に同じ)の所定量を含む水で希釈し、処理薬液量が2,000 L/ha相当となるよう小型スプレーガンでノシバに茎葉処理した。処理直後または処理3時間後に、フラザスルフロンを処理したノシバの上を歩行(5歩)し、その後ベントグラスを踏みつけた。
フラザスルフロンの処理後21日目に、ベントグラスの生育状態を前記実施例1と同様に評価した生育抑制率を、第3表および第4表に示す。なお、比較区として、クサリノー(商品名/実施例1に同じ)を用いた区と、界面活性剤を用いない区を設けた。
【0027】
【表3】

【0028】
【表4】

【0029】
実施例3
地上でノシバ50 m2(2 m×25 m)とベントグラス(品種:ペンクロス)0.12 m2(0.35 m×0.35 m)を各々育成した。シバゲンDF(商品名/実施例1に同じ)の所定量(フラザスルフロン:50g a.i./ha)を、まくぴか(商品名/実施例1に同じ)の所定量を含む水で希釈し、処理薬液量が2,000 L/ha相当となるよう背負い式動力噴霧器でノシバに茎葉処理した。処理直後または処理翌日にフラザスルフロンを処理したノシバの上を歩行(50 m)し、薬剤を処理していないノシバの上を歩行(10 m)した後、ベントグラスを踏みつけた。
フラザスルフロンの処理後22日目に、ベントグラスの生育状態を肉眼で観察調査し、以下の基準に従い評価した生育抑制率と退色の程度とを、第5表および第6表に示す。なお、比較区として、クサリノー(商品名/実施例1に同じ)を用いた区を設けた。
生育抑制率(%)=0:無処理区同等〜100:完全枯殺
退色の程度=0:無処理区同等〜5.0:極大
【0030】
【表5】

【0031】
【表6】

【0032】
実施例4
地上で高麗芝50 m2(2 m×25 m)とベントグラス(品種:ミナクル)0.12 m2(0.35 m×0.35 m)を各々育成した。フラザスルフロンを有効成分とする水和剤(商品名:シバゲンWP、石原産業社製)の所定量(フラザスルフロン:100 g a.i./ha)を、シリコーン系界面活性剤(商品名:Silwet L-77、Witco社製)の所定量を含む水で希釈し、処理薬液量が2,000 L/ha相当となるよう背負い式動力噴霧器で高麗芝に茎葉処理した。薬液が乾燥した後に、フラザスルフロンを処理した高麗芝の上を歩行(100 m)し、フラザスルフロンを処理していない高麗芝の上を歩行(10 m)した後、ベントグラスを5回踏みつけた。
フラザスルフロンの処理後11日目に、ベントグラスの生育状態を前記実施例3と同様に評価した生育抑制率と退色の程度とを、第7表に示す。なお、比較区として、クサリノー(商品名/実施例1に同じ)を用いた区と、界面活性剤を用いない区を設けた。
【0033】
【表7】

【0034】
実施例5
1/300,000 haポットに土壌をつめ、高麗芝を育成した。また、1/1,000,000 haポットに土壌をつめ、ベントグラス(品種:ペンクロス)を育成した。トリフロキシスルフロンナトリウム塩を有効成分とする顆粒水和剤(商品名:モニュメント顆粒水和剤、シンジェンタジャパン社製)の所定量(トリフロキシスルフロンナトリウム塩:45g a.i./ha)を、まくぴか(商品名/実施例1に同じ)の所定量を含む水で希釈し、処理薬液量が2,000L/ha相当となるよう小型スプレーガンで高麗芝に茎葉処理した。処理6時間後にトリフロキシスルフロンナトリウム塩を処理していないベントグラスを、それを処理した高麗芝に擦り付けた(ベントグラスのポットを一往復スライドさせた)。
トリフロキシスルフロンナトリウム塩の処理後12日目に、ベントグラスの生育状態を前記実施例3と同様に評価した生育抑制率と退色の程度とを、第8表に示す。なお、比較区として、クサリノー(商品名/実施例1に同じ)を用いた区と、界面活性剤を用いない区を設けた。
【0035】
【表8】

【0036】
実施例6
1/300,000 haポットに土壌をつめ、高麗芝を育成した。また、1/1,000,000 haポットに土壌をつめ、ベントグラス(品種:ペンクロス)を育成した。アシュラムを有効成分とする液剤(商品名:アージラン液剤、石原産業社製)の所定量(アシュラム:4625g a.i./ha)を、まくぴか(商品名/実施例1に同じ)の所定量を含む水で希釈し、処理薬液量が2,000L/ha相当となるよう小型スプレーガンで高麗芝に茎葉処理した。処理6時間後にアシュラムを処理していないベントグラスを、それを処理した高麗芝に擦り付けた(ベントグラスのポットを一往復スライドさせた)。
アシュラムの処理後12日目に、ベントグラスの生育状態を前記実施例3と同様に評価した生育抑制率と退色の程度とを、第9表に示す。なお、比較区として、クサリノー(商品名/実施例1に同じ)を用いた区と、界面活性剤を用いない区を設けた。
【0037】
【表9】

【0038】
実施例7
1/300,000 haポットに土壌をつめ、高麗芝を育成した。また、1/1,000,000 haポットに土壌をつめ、ベントグラス(品種:ペンクロス)を育成した。リムスルフロンを有効成分とする顆粒水和剤(商品名:ハーレイDF、丸和バイオケミカル社製)の所定量(リムスルフロン:35.25g a.i./ha)を、まくぴか(商品名/実施例1に同じ)の所定量を含む水で希釈し、処理薬液量が2,000L/ha相当となるよう小型スプレーガンで高麗芝に茎葉処理した。処理6時間後にリムスルフロンを処理していないベントグラスを、それを処理した高麗芝に擦り付けた(ベントグラスのポットを一往復スライドさせた)。
リムスルフロンの処理後13日目に、ベントグラスの生育状態を前記実施例3と同様に評価した生育抑制率と退色の程度とを、第10表に示す。なお、比較区として、クサリノー(商品名/実施例1に同じ)、あるいはサーファクタントWK(商品名:丸和バイオケミカル社製)を用いた区と、界面活性剤を用いない区を設けた。
【0039】
【表10】

【0040】
実施例8
1/300,000 haポットに土壌をつめ、高麗芝を育成した。また、1/1,000,000 haポットに土壌をつめ、ベントグラス(品種:ペンクロス)を育成した。ニコスルフロンを有効成分とする乳剤(商品名:ワンホープ乳剤、石原産業社製)の所定量(ニコスルフロン:40g a.i./ha)を、まくぴか(商品名/実施例1に同じ)の所定量を含む水で希釈し、処理薬液量が2,000L/ha相当となるよう小型スプレーガンで高麗芝に茎葉処理した。処理直後にニコスルフロンを処理していないベントグラスを、それを処理した高麗芝に擦り付けた(ベントグラスのポットを一往復スライドさせた)。
ニコスルフロンの処理後28日目に、ベントグラスの生育状態を前記実施例3と同様に評価した生育抑制率と退色の程度とを、第11表に示す。なお、比較区として、サーファクタントWK(商品名/実施例7に同じ)を用いた区を設けた。
【0041】
【表11】

【0042】
実施例9
1/300,000 haポットに土壌をつめ、高麗芝を育成した。また、1/1,000,000 haポットに土壌をつめ、ベントグラス(品種:ペンクロス)を育成した。フロラスラムを有効成分とする液剤(商品名:Plimus、Dow AgroSciences社製)の所定量(フロラスラム:36g a.i./ha)を、まくぴか(商品名/実施例1に同じ)の所定量を含む水で希釈し、処理薬液量が2,000L/ha相当となるよう小型スプレーガンで高麗芝に茎葉処理した。処理直後にフロラスラムを処理していないベントグラスを、それを処理した高麗芝に擦り付けた(ベントグラスのポットを一往復スライドさせた)。
フロラスラムの処理後7日目に、ベントグラスの生育状態を前記実施例3と同様に評価した生育抑制率と退色の程度とを、第12表に示す。なお、比較区として、サーファクタントWK(商品名/実施例7に同じ)を用いた区を設けた。
【0043】
【表12】

【0044】
実施例10
1/300,000 haポットに土壌をつめ、高麗芝を育成した。また、1/1,000,000 haポットに土壌をつめ、ベントグラス(品種:ペンクロス)を育成した。シバゲンDF(商品名/実施例1に同じ)の所定量(フラザスルフロン:50g a.i./ha)を、シリコーン系界面活性剤(商品名:ブレイクスルー、サンケイ化学社製)の所定量を含む水で希釈し、処理薬液量が2,000L/ha相当となるよう小型スプレーガンで高麗芝に茎葉処理した。処理6時間後にフラザスルフロンを処理していないベントグラスを、それを処理した高麗芝に擦り付けた(ベントグラスのポットを一往復スライドさせた)。
フラザスルフロンの処理後21日目に、ベントグラスの生育状態を前記実施例3と同様に評価した生育抑制率と退色の程度とを、第13表に示す。なお、比較区として、クサリノー(商品名/実施例1に同じ)を用いた区と、界面活性剤を用いない区を設けた。
【0045】
【表13】

【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明により、使用する除草剤に感受性が低い芝草と感受性が高い芝草とが近傍に植え付けられている場面において、感受性が高い芝草に対する望ましくない作用を引き起こすことなく、芝地の管理を行うことができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
除草性化合物とシリコーン系界面活性剤とを当該除草性化合物に感受性が低い芝草が植え付けられている場所に処理することにより、前記除草性化合物に感受性が高い近傍の芝草に対する望ましくない作用を、軽減する方法。
【請求項2】
除草性化合物が、アセト乳酸合成酵素(ALS)阻害剤及び細胞の有糸分裂阻害剤からなる群より選ばれる少なくとも一種である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
除草性化合物が、アセト乳酸合成酵素(ALS)阻害剤である請求項2に記載の方法。
【請求項4】
アセト乳酸合成酵素(ALS)阻害剤が、スルホニルウレア系化合物、ピリミジン系化合物およびトリアゾロピリミジン系化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物またはその塩である請求項3に記載の方法。
【請求項5】
スルホニルウレア系化合物が、フラザスルフロン、シノスルフロン、リムスルフロン、トリフロキシスルフロン、クロリムロンエチル、イオドスルフロンメチル、フォラムスルフロン、ニコスルフロン、スルホスルフロンおよびクロロスルフロンからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物であり、ピリミジン系化合物が、ピリミスルファンであり、トリアゾロピリミジン系化合物が、フロラスラムである請求項4に記載の方法。
【請求項6】
スルホニルウレア系化合物が、フラザスルフロン、リムスルフロン、トリフロキシスルフロンおよびニコスルフロンからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物であり、トリアゾロピリミジン系化合物が、フロラスラムである請求項4に記載の方法。
【請求項7】
除草性化合物が、細胞の有糸分裂阻害剤である請求項2に記載の方法。
【請求項8】
細胞の有糸分裂阻害剤が、カーバメート系化合物である請求項7に記載の方法。
【請求項9】
カーバメート系化合物が、アシュラムである請求項8に記載の方法。
【請求項10】
シリコーン系界面活性剤が、有機変性シリコーン系界面活性剤である請求項1に記載の方法。
【請求項11】
有機変性シリコーン系界面活性剤が、ポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤である請求項10に記載の方法。
【請求項12】
ポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤が、下記式(I)で示される化合物である請求項11に記載の方法。
【化1】

(式中、R1は、水素原子又はメチル基であり、R2は、水素原子、水酸基、メチル基又はアセチル基であり、nは0〜4の整数であり、xは0〜2の整数であり、yは1〜15の整数であり、zは0〜10の整数である)
【請求項13】
シリコーン系界面活性剤を0.005〜0.5容量%の割合で含む水で除草性化合物を希釈し当該除草性化合物に感受性が低い芝草が植え付けられている場所に処理する、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記望ましくない作用が、除草性化合物とシリコーン系界面活性剤が処理された場所の、芝草または望ましくない植物との接触を介して生じる、請求項1〜13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
前記望ましくない作用が、除草性化合物とシリコーン系界面活性剤が処理された場所の、芝草または望ましくない植物と接触した靴底、薬剤処理用具、散水用具または芝刈り用具を介して生じる、請求項1〜13のいずれかに記載の方法。

【公開番号】特開2011−201870(P2011−201870A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−43816(P2011−43816)
【出願日】平成23年3月1日(2011.3.1)
【出願人】(000000354)石原産業株式会社 (289)
【Fターム(参考)】