説明

苗押出し装置

【課題】 ポット苗を押し出すときに加える力を軽減できるようにする。
【解決手段】 本発明の苗押出し装置1は、底面に亀裂部13を有する多数のポット苗室11が縦横に形成された苗箱10における横一列に並ぶ所定数のポット苗室11にそれぞれ対応するように列設された該所定数の押出杆7を有する苗押出し部3を備え、前記所定数のポット苗室11に対しそれぞれ前記所定数の押出杆7を亀裂部13を介して先端から貫入させることにより、苗箱10からポット苗Nを前記所定数ずつ押し出すように構成されたものである。前記所定数の押出杆7は、それぞれ対応するポット苗室11の底面に対する先端の相対位置が、所定種類の位置のうちのいずれかとなるように形成されており、該所定数の押出杆7のうち該先端がポット苗室11の底面に近いものから順に、ポット苗室11に貫入するように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多数のポット苗室が縦横に形成された苗箱から所定数ずつポット苗を押し出す苗押出し装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の苗押出し装置としては、特許文献1や2に記載された移植機における押出杆106等を例示する。
【0003】
この移植機に搭載して使用する苗箱10は、図4に示すように、湾曲自在なように可撓性に富んだ材質で両端に縦方向に延びる支持部10a、10aがあって、その中間に縦方向に延びる支持部10bを備え、各支持部の間にポット苗室11を縦横に碁盤目状に配している。支持部10a、10aには、横一列に整列するポット苗室11と並ぶ位置に縦方向に送る送り穴12が設けられている。ポット苗室11の底面には、開閉自在なようにY字状の亀裂部13を設けている。本例の亀裂部13は、ポット苗室11の底面中心から3本の同じ長さの直線切れ目が放射状に等角度ごとに設けられてなっている。
【0004】
この移植機は、図5に示すように、苗箱10の横方向に延びるベース部105と、前記所定数のポット苗室11の底面中心にそれぞれ対応するようにベース部105に列設された所定数の押出杆106とを備えている。該所定数の押出杆106は、それぞれ対応するポット苗室11の底面に対する先端の相対位置が同一となるように設定されている。そして、この移植機は、苗箱10を該移植機の苗箱ガイド部104に通過させて、前記所定数のポット苗室11にそれぞれ前記所定数の押出杆106が先端側から亀裂部13を介して貫入するように、前記ベース部105を押し付けることにより、苗受け110に対しポット苗Nを前記所定数ずつ押し出すように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−136794号公報
【特許文献2】特開2004−57079号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、前記所定数の押出杆106における先端の前記相対位置が同一に設定されていると、ポット苗Nを各ポット苗室11から押出すときの押出抵抗がすべての押出杆106に同時にかかる。この押出抵抗のなかでも、特に各押出杆106の先端が各亀裂部13に進入するときの抵抗が大きく、苗箱10に向けてベース部105を押し付けるために大きな力をかけなければならないという課題がある。
【0007】
また、この押出抵抗があるため、前述のように、横一列に整列する各ポット苗室11の底面背後から押出杆106を前進させると、図5に示すように可撓性の苗箱Nは各支持部a、b、aの間が苗受け110の側面に押しつけられて変形し、ポット苗室11が傾き底面の間隔が狭くなるように横に移動する。このとき、ポット苗室11の傾きは、苗箱ガイド部104で支持される支持部a、b、aの最も近くが最大となり、該支持部から離れるに従って減少する。これにより、同図に示すように、支持部a、b、aの近傍の各ポット苗室11の底面が該反支持部側へ移動した状態となる。このため、これらのポット苗室11に対しては、押出杆106が底面中央にある亀裂部13からずれた位置を押圧するので、破損しやすいという課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、本発明の苗押出し装置は、
底面に亀裂部を有する多数のポット苗室が縦横に形成された苗箱における横一列に並ぶ所定数の前記ポット苗室にそれぞれ対応するように列設された該所定数の押出杆を有する苗押出し部を備え、
前記苗箱の裏側から前記所定数の前記ポット苗室に対しそれぞれ前記所定数の前記押出杆を前記亀裂部を介して先端から貫入させることにより、前記苗箱から前記ポット苗を前記所定数ずつ押し出すように構成された苗押出し装置において、
前記所定数の押出杆は、それぞれ対応する前記ポット苗室の底面に対する先端の相対位置が、所定種類の位置のうちのいずれかとなるように形成されており、
該所定数の押出杆のうち該先端が前記ポット苗室の底面に近いものから順に、該ポット苗室に貫入するように構成されている。
【0009】
この構成によれば、前記所定数の押出杆のうち該先端が前記ポット苗室の底面に近いものから順に、前記ポット苗室に貫入するように構成しているので、前記押出杆の先端が前記亀裂部に進入するときの抵抗による荷重も段階的に前記苗押出し部に作用する。ポット苗の押出抵抗のなかでも、前記押出杆の先端が前記亀裂部に進入するときの抵抗が特に大きいので、すべての前記押出杆の先端が同時に前記亀裂部に進入しないようにすることにより、前記苗箱に向けて前記苗押出し部を押し付けるために必要な力を軽減することができる。また、前記所定数の押出杆が、それぞれ対応する前記ポット苗室の底面に同時に接触しないので、該接触に伴う前記苗箱の湾曲を低減でき、前記押出杆とそれに対応する前記ポット苗室との位置ずれに起因する不具合の発生を低減できる。
【0010】
前記苗押出し装置としては、
前記苗箱の表側がガイド手段により支持されており、
前記所定数の押出杆のうち該ガイド手段による被支持部位の近傍に位置する押出杆の前記先端の相対位置が、前記所定種類の位置のうち最も前記ポット苗室の底面に近い位置になるように形成された態様を例示する。
【0011】
この構成によれば、まず、前記被支持部位の近傍に位置する前記ポット苗室の底面に前記押出杆を接触させ、それ以外の前記ポット苗室には前記押出杆を接触させないようにすることにより、前記苗箱の湾曲を抑制しつつ、前記被支持部位の近傍に位置する前記ポット苗室に前記押出杆を貫入させることができる。これにより、前記被支持部位の近傍に位置する前記ポット苗室の位置、すなわち前記苗箱における要所の位置を固定することができ、後続の他の前記押出杆の先端が前記ポット苗室の底面に接触したときの該苗箱の湾曲が大幅に抑制される。このため、前記押出杆とそれに対応する前記ポット苗室との位置ずれに起因する不具合の発生を大幅に低減できる。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る苗押出し装置によれば、ポット苗を押し出すときに加える力を軽減できるという優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明を具体化した一実施形態に係る苗押出し装置を装備した移植機の側面図である。
【図2】同苗押出し装置の側断面図である。
【図3】同苗押出し装置の要部(ポット苗は図示略)を示す図であり、(a)は図2におけるIII−III線断面図、(b)は(a)におけるポット苗を押し出している最中のポット苗室を苗箱の表側から見た図である。
【図4】苗箱を示す図であり、(a)は平面図、(b)は(a)のb矢視図、(c)は(a)のc矢視図である。
【図5】従来の苗押出し装置の要部(ポット苗は図示略)を示す図であり、(a)は同装置の平断面図、(b)は(a)におけるポット苗を押し出している最中のポット苗室を苗箱の表側から見た図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1〜図3は本発明を具体化した一実施形態の移植機20の苗押出し装置1を示している。本例の移植機20は、図1及び図2に示すように、前後の走行車輪21に走行自在に支持された走行車体22と、苗箱10の載置自在な苗載台23と、苗箱10から横一列のポット苗Nを所定数(本例では14本)ずつ押し出す苗押出し装置1と、該苗押出し装置1により押し出されたポット苗Nを受け取り、苗搬送装置26へ供給するための苗受台30を含む苗受け装置25と、供給されたポット苗Nを一本ずつ搬送する苗搬送装置26と、圃場に植付溝を形成する溝掘器27と、苗搬送装置26により搬送されてきたポット苗Nを受け取って溝掘器27の後方で前記植付溝に植え付ける植付装置28と、該植付装置28の後方で前記植付溝を埋め戻すための左右一対の土寄輪29とを備えている。なお、各図において、矢印Fは機体前側を指し示している。
【0015】
本例の移植機20に搭載して使用する苗箱10は、背景技術において説明した図4に示すものと同様であるので、重複説明を省く。
【0016】
苗押出し装置1は、苗箱10をその縦方向へ移動可能にガイドする苗箱ガイド部2と、苗箱10からポット苗Nを押し出すための苗押出し部3と、苗箱10の縦方向への移動に同期して該苗押出し部3を深さ方向Dに往復移動させる駆動機構4とを備えている。苗押出し部3は、苗箱ガイド部2にガイドされた苗箱10の横方向に延びるベース部6と、該ベース部6に列設された前記所定数の押出杆7とを備えている。前記所定数の押出杆7は、苗箱ガイド部2にガイドされた苗箱10の横方向に並んだポット苗室11の底面にそれぞれ対応するように配設されており、各押出杆7は該苗箱10の深さ方向Dに延設されている。この苗押出し装置1は、前記所定数のポット苗室11にそれぞれ前記所定数の押出杆7が先端側から亀裂部13を介して貫入するように、苗箱10の裏側からベース部6を押し付けることにより、苗箱10からポット苗Nを前記所定数ずつ押し出すように構成されている。
【0017】
苗箱ガイド部2は、苗箱10の表側における支持部10a、10aを支持するように構成されたガイド手段2a、2aと、同表側における支持部10bを支持するように構成されたガイド手段2bとを備えている。
【0018】
前記所定数の押出杆7は、それぞれ対応するポット苗室11の底面に対する先端の相対位置が、所定種類の位置(本例では2種類の位置Pa、Pb)のうちのいずれかとなるように形成されている。本例では、前記所定数の押出杆7のうち該ガイド手段2a、2b、2aによる被支持部位(支持部10a、10b、10a)の近傍に位置する押出杆7の前記先端の相対位置が、前記所定種類の位置のうち最もポット苗室11の底面に近い位置(Pa)になるように形成されており、これにより、前記所定数の押出杆7のうち該先端が該底面に近いものから順に、ポット苗室11に貫入するように構成されている。
【0019】
苗受け装置25は、ポット苗Nを受け取る位置及びポット苗Nを跳ね出す位置の間で往復移動可能に苗受アーム33により支持された苗受台30と、該苗受台30を駆動する駆動機構(図示略)と、前記跳ね出す位置で苗受台30からポット苗Nを跳ね出すための跳ね出し部材32とを備えている。苗受台30には、苗箱10の横一列の各ポット苗室11に対応するように苗受溝31が列設されており、各苗受溝31はポット苗Nにおけるポット状に形成された根部Naの外周面を抱持するように形成されている。
【0020】
次に、本例の苗押出し装置1の動作について説明する。各ポット苗室11に床土を入れ、播種し、ポット苗Nを生育した苗箱10を苗載台23に搭載し、移植機20を作動させる。すると、図1に示すように、苗箱10が苗載台23内を湾曲して一列分ずつ間欠送りされ、図2及び図3に示すように、所定位置で苗載台23の後方に設けられた押出杆7が苗箱10の横一列のポット苗室11に底面から突入し、ポット苗Nを前方に押し出すとともにその根部Naを前方に設けられた苗受台30の苗受溝31内に押し込む。続いて、所定数のポット苗Nを受け取った苗受台30は、図2に二点鎖線で示すように、ポット苗Nを逆方向に反転させながら下方に回動し、このとき苗受溝31が苗Nの根部Naを先にして跳ね出し部材32の位置を通過する。すると、跳ね出し部材32により横一列分のポット苗Nは苗受溝31から押し出され、該横一列分のポット苗Nを横送りする苗搬送装置26の搬送ベルト26aの上に落下するようになっている。ところで、押出杆7の先端の位置が揃っていないので、苗受溝31に供給されたポット苗N同士のポット軸長方向の位置も揃わなくなるが、跳ね出し部材32が各苗受溝31内のポット苗Nに接触する位置を揃えることにより、ポット苗N同士のポット軸長方向の位置ずれがポット苗Nの跳ね出し時に直るようになっている。
【0021】
以上のように構成された本例の苗押出し装置1によれば、前記所定数の押出杆7のうち該先端がポット苗室11の底面に近いものから順に、ポット苗室11に貫入するように構成しているので、押出杆7の先端が亀裂部13に進入するときの抵抗による荷重も段階的に苗押出し部3に作用する。ポット苗Nの押し出し時の抵抗のなかでも、押出杆7の先端が亀裂部13に進入するときの抵抗が特に大きいので、すべての押出杆7の先端が同時に亀裂部13に進入しないようにすることにより、苗箱10に向けてベース部6を押し付けるために必要な力を軽減することができる。また、前記所定数の押出杆7が、それぞれ対応するポット苗室11の底面に同時に接触しないので、該接触に伴う苗箱10の湾曲を低減でき、押出杆7とそれに対応するポット苗室11との位置ずれに起因する不具合の発生を低減できる。
【0022】
また、本例の苗押出し装置1においては、苗箱10の表側がガイド手段2a、2b、2aにより支持されており、前記所定数の押出杆7のうち該ガイド手段による被支持部位(支持部10a、10b、10a)の近傍に位置する押出杆7の前記先端の相対位置が、前記所定種類の位置のうち最もポット苗室11の底面に近い位置(Pa)になるように形成されている。この構成によれば、まず、被支持部位(支持部10a、10b、10a)の近傍に位置するポット苗室11の底面に押出杆7を接触させ、それ以外のポット苗室11には押出杆7を接触させないようにすることにより、苗箱10の湾曲を抑制しつつ、被支持部位(支持部10a、10b、10a)の近傍に位置するポット苗室11に押出杆7を貫入させることができる。これにより、被支持部位(支持部10a、10b、10a)の近傍に位置するポット苗室11の位置、すなわち苗箱10における要所(横方向における両端部及び中央部)の位置を固定することができ、後続の他の押出杆7の先端がポット苗室11の底面に接触したときの苗箱10の湾曲が大幅に抑制される。このため、押出杆7とそれに対応するポット苗室11との位置ずれに起因する不具合の発生を大幅に低減できる。
【0023】
なお、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、例えば以下のように、発明の趣旨から逸脱しない範囲で適宜変更して具体化することもできる。
(1)押出杆7の先端の位置の所定種類を、2種類より多くすること。
(2)各押出杆7への所定種類の先端の相対位置(前記実施形態ではPa、Pbの2種類)の割り当て方を適宜変更すること。例えば、ガイド手段2a、2b、2aに最も近いポット苗室11に対応する4本の押出杆7にのみ、先端の位置Paを割り当てるようにすることが挙げられる。
【符号の説明】
【0024】
1 苗押出し装置
2 苗箱ガイド部
2a 苗箱ガイド手段
2b 苗箱ガイド手段
3 苗押出し部
4 駆動機構
6 ベース部
7 押出杆
10 苗箱
10a 支持部
10b 支持部
11 ポット苗室
12 送り穴
13 亀裂部
20 移植機
21 走行車輪
22 走行車体
23 苗載台
25 苗受け装置
26 苗搬送装置
26a 搬送ベルト
27 溝掘器
28 植付装置
29 土寄輪
30 苗受台
31 苗受溝
32 跳ね出し部材
33 苗受アーム
D ポット苗室の深さ方向
F 機体前方
N ポット苗
Na 根部
Pa、Pb 押出杆の先端の位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
底面に亀裂部を有する多数のポット苗室が縦横に形成された苗箱における横一列に並ぶ所定数の前記ポット苗室にそれぞれ対応するように列設された該所定数の押出杆を有する苗押出し部を備え、
前記苗箱の裏側から前記所定数の前記ポット苗室に対しそれぞれ前記所定数の前記押出杆を前記亀裂部を介して先端から貫入させることにより、前記苗箱から前記ポット苗を前記所定数ずつ押し出すように構成された苗押出し装置において、
前記所定数の押出杆は、それぞれ対応する前記ポット苗室の底面に対する先端の相対位置が、所定種類の位置のうちのいずれかとなるように形成されており、
該所定数の押出杆のうち該先端が前記ポット苗室の底面に近いものから順に、該ポット苗室に貫入するように構成された苗押出し装置。
【請求項2】
前記苗箱の表側がガイド手段により支持されており、
前記所定数の押出杆のうち該ガイド手段による被支持部位の近傍に位置する押出杆の前記先端の相対位置が、前記所定種類の位置のうち最も前記ポット苗室の底面に近い位置になるように形成された請求項1記載の苗押出し装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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