説明

苗植付装置

【課題】苗植付装置の苗植付具の先端部分が描く軌跡を容易に変更できるようにする。
【解決手段】植付伝動部フレーム21に回転可能に取り付けられた回転ケース30と、回転ケース30に回動可能に取り付けられた植付体27と、植付伝動部フレーム21に固定された案内カム32とを備える。各植付体27は、植付体本体37、植付体本体37に取り付けられ苗マットから苗を取る苗取り爪40、および案内カム32に案内される従動カム34を有し、回転ケース30が回転するにしたがって植付体27が回転し、植付体27の回転にしたがって従動カム34が案内カム32に沿って移動する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、田植機等の苗移植機に設けられる苗植付装置に関する。
【背景技術】
【0002】
乗用型田植機などの苗移植機の後方に配置された苗載せ台に積載されている苗マットから苗を取り圃場に植え付ける苗植付装置として、左右方向の植付駆動軸を回転中心にして回転するロータリケースの左右の回転三等分角の略120度間隔位置に苗取り爪と苗押出体を有した苗植付具を配置して、ロータリケースの回転中に苗植付具の先端部をロータリケースの回転外周へ突出させて、略楕円形状の植付軌跡線を描いて苗の分離、植付作動を行わせる技術が知られている(例えば、特許文献1および特許文献2参照)。
【0003】
図21は、特許文献1における、乗用型田植機の苗植付装置の側面図を示し、図22は、その苗植付装置の内部左側面図を示し、図23は、その苗植付装置の内部右側面図を示している。なお、図21および図22では、向かって左側が乗用型田植機の前方を示しており、図23では、向かって右側が乗用型田植機の前方を示している。
【0004】
苗植付装置100は、2条ごとで1組であり、乗用型田植機の後方に備えられた植付伝動部ケース101の植付伝動部後端部に設けられる。
【0005】
植付伝動部ケース101の後端に固定支持体102が植付伝動部ケース101と一体に設けられ、固定支持体102の内側に回転体(ロータリケース)103が回転軸108を中心に回動自在に嵌合している。回転体103には、その回転軸(サンギア軸)108を中心とする円周上に互いに120度の位相で3本の最終軸107が回動自在に設けられ、それぞれの最終軸107の回転体103から突出する左右両端部に苗植付具104が一体に取り付けられている。
【0006】
回転体103の内部には、回転体103と一体回転する駆動ギア109が設けられている。この駆動ギア109を植付伝動部ケース101の後端部に設けた入力ギア110で減速回転させることにより、回転体103が矢印B方向に回転する。
【0007】
図22には、駆動ギア109と入力ギア110との噛み合い状態が表されている。駆動ギア109の歯数は入力ギア110の歯数の3倍であり、駆動ギア109は3箇所(図22における入力ギア110との噛み合い位置を基準として回転中心から0°、120°、240°の位置)が最大径となる不等径ギアであり、入力ギア110は、図22において駆動ギア109と噛み合っている1箇所(図22における駆動ギア109の噛み合い位置を基準として0°の位置)が最小径となる不等径ギアになっている。したがって、駆動ギア109が0°、120°、240°の位置で入力ギア110と噛み合うときに、駆動ギア109の回転速度が速くなり、駆動ギア109の回転速度は1/3周期で変化する。
【0008】
また、回転体103の内部には、最終軸107へ伝動するためのギア列が設けられている。
【0009】
入力ギア110が噛合する駆動ギア109の回転で、駆動ギア109と一体の回転体103が回転し、固定支持体102のケース内面に固定された内歯歯車118に噛合する回転ギア111が回転体103の回転に連動して回転体103のサンギア軸108を中心とする円軌道を移動しながら回転する。
【0010】
回転ギア111は第1偏心ギア113と共に回転体103の両側壁に端部が固定支持された支持軸112に遊嵌され、回転ギア111と第1偏心ギア113が一体回転する。
【0011】
第1偏心ギア113には第2偏心ギア114が噛合し、第2偏心ギア114は回転体103の両側壁に端部が回転自在に支持されたサンギア軸108に固定される不等速ギア115と噛合しているので、第2偏心ギア114の回転で不等速ギア115が回転すると、サンギア軸108に固定されているサンギア123を介して、サンギア123に噛合するカウンタギア116が、カウンタギア116に噛合する最終ギア117を駆動させる。
【0012】
最終ギア117はサンギア軸108を中心とする円周上に等間隔に3個設けられた最終軸107にそれぞれ個別に固定支持されている。なお、最終軸107も不等速ギア115と同様に非円形ギア(不等径ギア)である。
【0013】
回転体103が回転すると、回転体103の両側に3個ずつ設けられた苗植付具104が円軌道を移動する。そのとき、回転体103の回転に連動する回転ギア111の作動がギア列を介して最終軸107へ伝達され、苗植付具104の姿勢が変化する。これにより、苗植付具104は、苗取り爪105の先端が軌跡130を描くように作動する。
【0014】
さらに、回転体103の内部には、最終軸107に一体回転するように取り付けた制動カム119と、制動カム119の外周面に当接し、固定軸124に遊嵌する二股状の制動アーム120と、制動アーム120を制動カム119に押し付けるスプリング121と、サンギア軸108に設けられ、スプリング121の内部に係止する突起を有する留め具122とからなる3組の位相ずれ防止機構が設けられている。
【0015】
図21に示すように、各苗植付具104は、先端部が鋭利に形成された二股フォーク状の苗取り爪105と、苗取り爪105の下側で突出・後退作動をする苗押出体106とを備えている。
【0016】
そして、苗押出体106は、カムを用いたリンク機構により、最終軸107の回転運動に応じて上下動するように構成されており、回転体103の回転により所定の周期で上下動することができる。
【0017】
苗取り爪105は苗載せ台にある苗を挟持しながら掻き取り、保持しているので、苗押出体106の上下方向への回動運動で苗取り爪105に保持された苗が圃場に向けて押し出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特開2008−92881号公報
【特許文献2】特開2007−89481号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
しかしながら、上記した従来の苗植付装置では、苗植付具先端の軌跡を容易に変更することはできなかった。
【0020】
図21などに示す苗植付具104の先端部分の軌跡130は、苗移植機が走行していないときの静軌跡を示しているが、苗移植機の走行速度によって、苗植付具の先端部分が描く静軌跡の適切な形状が異なる。
【0021】
したがって、苗植付具の先端部分が描く軌跡は、これらの条件に対応して適切な軌跡となるように調整するのが望ましいが、従来の苗植付装置は、複雑なギアの組み合わせ機構によって苗植付具の先端部分の軌跡を実現しているため、その軌跡を容易に変更することはできなかった。
【0022】
本発明は、このような従来の苗植付装置の課題を考慮し、苗植付具の先端部分が描く軌跡を容易に変更できる苗植付装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明の上記課題は、次の解決手段で解決される。
【0024】
第1の本発明は、
走行車体(10)の後方に配置された苗載せ台(22)に積載されている苗マットから苗を取り圃場に植え付ける苗植付装置であって、
植付伝動部フレーム(21)に回転可能に取り付けられた回転ケース(30)と、
前記回転ケース(30)に回動可能に取り付けられた植付体(27)と、
前記植付伝動部フレーム(21)に固定された案内カム(32)とを備え、
前記植付体(27)は、植付体本体(37)、前記植付体本体(37)に取り付けられ前記苗マットから前記苗を取る苗取り爪(40)、および前記案内カム(32)に案内される従動カム(34)を有し、
前記回転ケース(30)が回転するにしたがって前記植付体(27)が回転し、前記植付体(27)の回転にしたがって前記従動カム(34)が前記案内カム(32)に沿って移動する、苗植付装置である。
【0025】
また、第2の本発明は、
前記植付体(27)は、前記回転ケース(30)に回動自在に軸支された回動軸(35)を有し、
前記従動カム(34)は、従動カム本体(38)、および前記従動カム本体(38)に取り付けられたカムローラ(39)を有し、
前記回動軸(35)の一端には前記植付体本体(37)が固定されるとともに他端には前記従動カム本体(38)が固定され、
前記案内カム(32)は、案内溝(33)を有し、
前記案内溝(33)によって、前記カムローラ(39)が案内される、第1の本発明の苗植付装置である。
【0026】
また、第3の本発明は、
前記案内カム(32)は、前記回転ケース(30)の中に収納されており、
前記従動カム本体(38)が固定された前記回動軸(35)の前記他端は、前記回転ケース(30)の内側に配置されており、前記植付体本体(37)が固定された前記回動軸(35)の前記一端は、前記回転ケース(30)の外側に配置されている、第2の本発明の苗植付装置である。
【0027】
また、第4の本発明は、
前記苗取り爪(40)が苗取り口(25)から苗を取り出す位置又は前記苗取り爪(40)が前記苗を押し出す位置において、前記カムローラ(39)が位置する前記案内溝(33)の接線方向に前記回動軸(35)の中心が位置する、第2又は第3の本発明の苗植付装置である。
【0028】
また、第5の本発明は、
前記苗取り爪(40)が苗取り口(25)から苗を取り出す位置又は前記苗取り爪(40)が前記苗を押し出す位置において、
前記カムローラ(39)は、前記回動軸(35)よりも前記回転ケース(30)の中心寄りにあり、
前記カムローラ(39)の中心と前記回動軸(35)の中心とを結ぶ線が前記案内溝(33)の弧状外縁と交差する点における接線が、前記カムローラ(39)の中心と前記回動軸(35)の中心とを結ぶ前記線と略直交する、第2又は第3の本発明の苗植付装置である。
【0029】
また、第6の本発明は、
前記圃場に前記苗を植え付けた後、前記苗マットから次の前記苗を取りにいくまでの間に、前記回動軸(35)が前記案内溝(33)の内側と外側のうちの一方から他方へ変化する、第2〜第5の何れかの本発明の苗植付装置である。
【0030】
また、第7の本発明は、
前記回転ケース(30)には、スプリング取り付け部(53)が形成されており、
張圧スプリング(52)の一端が前記スプリング取り付け部(53)に係止され、前記張圧スプリング(52)の他端が前記カムローラ(39)に係止され、前記苗取り爪(40)が苗取り口(25)から苗を取り出す位置と前記苗取り爪(40)が前記苗を押し出す位置とにおいて、前記張圧スプリング(52)が前記植付体本体(37)を上下反対側に回動付勢する構成とした、第2〜第6の何れかの本発明の苗植付装置である。
【0031】
また、第8の本発明は、
前記カムローラ(39)は、前記従動カム本体(38)に立設したピン(54)と、前記ピン(54)に回転可能に装着された、前記案内溝(33)に接触する案内用円筒部材(55)と、前記ピン(54)に回転可能に装着されたスプリング用円筒部材(56)とを有し、
前記張圧スプリング(52)の他端は、前記スプリング用円筒部材(56)に係止されている、第7の本発明の苗植付装置である。
【0032】
また、第9の本発明は、
前記回転ケース(30)は、前記植付伝動部フレーム(21)に取り付けられており、
前記回転ケース(30)の外側主面板(28)には、3つの前記植付体(27)が設けられており、
前記植付体(27)の前記各回動軸(35)の軸方向は、前記回転ケース(30)の回転軸芯の軸芯方向と同じであり、
前記3つの植付体(27)は、前記軸芯方向から見て、前記各回動軸(35)の中心が、前記回転ケース(30)の前記回転軸芯を中心位置とした正三角形の各頂点の位置となるように設けられている、第2〜第8の何れかの本発明の苗植付装置である。
【発明の効果】
【0033】
第1の本発明によって、回転しない案内カム(32)に回転ケース(30)と共に回転する植付体(27)の回動軸(35)の一端に取り付けられた従動カム(34)を接触させたことにより、植付体(27)は案内カム(32)に従う軌跡(50)を描いて動き、苗載せ台(22)に載置された苗マットに植付体(27)を略直交方向から接触させて苗を確実に掻き取ることができるので、欠株が生じることが防止され、作業者が手作業で苗を圃場に植え付ける作業が省略されて、作業者の労力が軽減される。
【0034】
また、植付体(27)が保持した苗を圃場に植え付ける際、植付体(27)が土中に入り込む点と出る点が略同じ点となる軌跡とすることができるので、苗の植付位置の周囲に植付体(27)の掘り溝が形成されることを防止でき、植え付けた苗が掘り溝によって倒れてしまうことが無く、苗の生育が安定する。
【0035】
第2の本発明によって、案内カム(32)に形成した案内溝(33)に植付体(27)のカムローラ(39)を接触させることにより、植付体(27)の回転軌跡がずれることがなく、複数の植付体(27)を回転させても互いに干渉し合うことを防止できるので、苗の植付間隔が乱れたり植え付けられない部分が生じたりすることが防止され、苗の植付精度が向上する。
【0036】
また、苗マットから苗を掻き取るタイミングや、苗を圃場に植え付けるタイミングを一定に保つことができるので、いっそう苗の植付間隔が乱れたり植え付けられない部分が生じたりすることが防止され、苗の植付精度が向上する。
【0037】
そして、カムローラ(39)を案内溝(33)に接触させて植付体(27)の軌跡を決めていることにより、植付体(27)が振動により揺動することが防止されるので、植付精度がいっそう向上する。
【0038】
第3の本発明によって、回転ケース(30)の内部に、従動カム(34)および案内カム(32)を収容しているので、苗植付装置(23)を小型化できる。
【0039】
第4の本発明によって、植付体(27)が苗マットから苗を取る際、カムローラ(39)と植付体(27)の回動軸(35)を結ぶ線が案内溝(33)に沿った方向となる構成としたことにより、ガタによるカムローラ(39)の案内溝(33)の幅方向への揺動幅が狭くなり、植付体(27)が揺動することを抑制できるので、植付体(27)を苗マットに略直交方向から接触させて苗を苗マットから確実に掻き取ることができ、欠株の発生が防止される。
【0040】
第5の本発明によって、植付体(27)が苗を圃場に植え付ける際、同一方向に湾曲する案内溝(33)の外周側とカムローラ(39)の円弧面が接触し、カムローラ(39)と植付体(27)の回動軸(35)の交線が案内溝(33)とカムローラ(39)の接線に対して略直交する構成としたことにより、カムローラ(39)の回転を停止させる力がかかるため、カムローラ(39)が回転して植付体(27)が揺動することを防止できるので、植付体(27)が土中に入り込む点と出る点が略同じ点となる軌跡とすることができ、苗が掘り溝に倒れ込むことが防止されて苗の生育が安定する。
【0041】
第6の本発明によって、植付体(27)が大幅に揺動する区間を、苗の植え付けに問題のない、圃場に苗を植え付け終えて上昇している期間に設定することができる。
【0042】
第7の本発明によって、案内カム(32)とカムローラ(39)を伸縮自在な張圧スプリング(52)で連結したことにより、植付体(27)は常時張圧力を受け続けるため、植付体(27)の揺動を防止することができるので、植付体(27)同士の干渉が防止され、苗の植付精度や作業能率が向上する。
【0043】
また、前記苗取り爪(40)が苗取り口(25)から苗を取り出す位置と前記苗取り爪(40)が前記苗を押し出す位置において、張圧スプリング(52)が従動カム(34)を互いに反対側に回動付勢する構成としたことにより、前記苗取り爪(40)が苗取り口(25)から苗を取り出す位置と前記苗取り爪(40)が前記苗を押し出す位置の両方で張圧スプリング(52)の回動付勢力を高めることができ、苗の取り出し及び苗の押し出しを高精度で適正に行え、苗の植付精度が向上する。
【0044】
第8の本発明によって、カムローラ(39)を案内用円筒部材(55)とスプリング用円筒部材(56)に分割し、案内溝(33)に入らないスプリング用円筒部材(56)に張圧スプリング(52)を接続したことにより、カムローラ(39)に張圧の負荷がかかることを防止できるので、カムローラ(39)の耐久性が向上する。
【0045】
第9の本発明によって、回転ケース(30)に3つの植付体(27)を設けたことにより、回転ケース(30)が一回転する間に三回苗の植え付けを行なうことができるので、作業能率が向上する。
【0046】
また、植付伝動部フレーム(21)の両側にそれぞれ回転ケース(30)を設けて苗植付装置(23)を構成したことにより、回転ケース(30)のメンテナンスを行なう際に外す部品が少なくなり、メンテナンス性が向上する。
【0047】
そして、片方の回転ケース(30)が故障した場合、故障した側の回転ケース(30)だけを交換すればよいので、苗植付装置(23)を全て交換する必要が無く、コストダウンとなる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の実施の形態1の乗用型田植機の左側面図
【図2】本発明の実施の形態1の乗用型田植機の平面図
【図3】本発明の実施の形態1の苗植付装置の水平断面図
【図4】本発明の実施の形態1の植付伝動部ケースの側面図
【図5】本発明の実施の形態1の、苗植付具を装着した回転ケース外フレームの斜視図
【図6】本発明の実施の形態1の、案内カムが連結された回転ケース内フレームの斜視図
【図7】本発明の実施の形態1の、苗植付動作時の苗植付具先端の軌跡を説明する図
【図8】本発明の実施の形態1の、回転ケースの回転に伴う苗植付具の位置および姿勢を示した図
【図9】本発明の実施の形態1の、苗取り部分における回転ケースの回転に伴う苗植付具の位置および姿勢を示した拡大図
【図10】(a)、(b)本発明の実施の形態1の、案内溝と従動カムの位置関係による苗植付具のガタつきを説明する図
【図11】本発明の実施の形態1の、苗押し出し位置における案内溝と従動カムの位置関係を説明する図
【図12】本発明の実施の形態1の、苗取り出し位置における苗植付具を安定させるスプリングの構成を説明する図
【図13】本発明の実施の形態1の、苗取り出し位置におけるスプリングの引っ張り方向を説明する図
【図14】本発明の実施の形態1の、苗押し出し位置における苗植付具を安定させるスプリングの構成を説明する図
【図15】本発明の実施の形態1の、スプリングを取り付けた構成の苗植付装置の従動カム部分の断面図
【図16】本発明の実施の形態1の、苗取り出し位置における苗植付具を安定させる板バネの構成を説明する図
【図17】本発明の実施の形態1の、板バネを取り付けた構成の苗植付装置の従動カム部分の断面図
【図18】本発明の実施の形態1の、他の形状の案内溝を有する案内カムを用いた場合の、回転ケースの回転に伴う苗植付具の位置および姿勢を示した図
【図19】本発明の実施の形態1の、他の形状の案内溝を有する案内カムを用いた場合の、回転ケースの回転に伴う苗植付具の位置および姿勢を示した図
【図20】本発明の実施の形態1の、他の形状の案内溝を有する案内カムを用いた場合の、苗植付具先端の動軌跡を示す図
【図21】従来の乗用型田植機の苗植付装置の側面図
【図22】従来の乗用型田植機の苗植付装置の内部左側面図
【図23】従来の乗用型田植機の苗植付装置の内部右側面図
【図24】(a)従来の苗植付具の内部構造を説明する図、(b)従来の苗植付具のX−X線断面矢視図
【発明を実施するための形態】
【0049】
以下、図面に基づき、本発明の好ましい実施の形態について説明する。
【0050】
(実施の形態1)
図1および図2に、本発明の実施の形態1の苗植付装置を装備した乗用型田植機の左側面図および平面図を示す。
【0051】
この乗用型田植機は、エンジン11を搭載し、駆動回転する各左右一対の前輪12および後輪13を備えた走行車体10の後方に、昇降リンク装置14を介して6条植の苗植え付け部15が連結されている。
【0052】
また、走行車体10には、運転座席16、前輪12を操向する操縦ハンドル17、予備の苗を載せておく予備苗載台18が設けられている。また運転座席16にはエンジン動力を変速する変速装置19の変速操作をする変速レバー20が設けられている。
【0053】
なお、本明細書においては、前後、左右の方向基準は、運転席からみて、車体の走行方向を基準として、前後、左右の基準を規定している。
【0054】
苗植え付け部15は、走行車体10から伝動入力される植付伝動部ケース21の上側に前部が上位となるように傾斜した苗載せ台22を設けるとともに、植付伝動部ケース21の植付伝動部の後端部に2条ごとで1組の苗植付装置23を設けている。
【0055】
フロート24を接地させた状態で機体を進行させると、苗載せ台22が左右に往復移動して台上のマット苗を苗載せ台22下端側の苗取り口25に一株ずつ順次供給し、それを苗植付装置23が分離して取り出し圃場に植付ける。
【0056】
また苗植え付け部15には機体両側に昇降自在に設けられ、圃場上に下降させて、その先端部で圃場上に機体がUターンして次回の機体走行方向を示す目印となる線引きを予めするためのマーカ26が設けられている。
【0057】
次に、本実施の形態1の苗植付装置23の構成について説明する。
【0058】
図3に、本実施の形態1の苗植付装置23の水平断面図を示す。
【0059】
回転ケース30は、植付伝動部ケース21の後端部の両側に、回転軸36によって支持される。植付伝動部ケース21の伝動機構によって回転軸36が回転すると、回転軸36と一体となって回転ケース30が回転する。
【0060】
本実施の形態1の回転ケース30は、植付伝動部ケース21側に配置される回転ケース内フレーム29と、植付伝動部ケース21に対して外側に配置される回転ケース外フレーム28が回転ケース接合ネジ31によって接合されている。
【0061】
回転ケース30の外側側面には、2つの苗植付具27が、回転軸36に対して点対称となる位置で、回動軸35によって回転ケース外フレーム28に軸支されている。
【0062】
苗植付具27は、回動軸35の一端に植付具アーム37が固定され、回動軸35の他端に従動カム34が固定されており、植付具アーム37および従動カム34は、回動軸35と一体となって回動する。図3に示すように、従動カム34は回転ケース30の内部に配置され、植付具アーム37は回転ケース30の外部に配置される。
【0063】
また、植付伝動部ケース21に固定され、回転軸36周りに一周している案内溝33を備えた案内カム32が、回転ケース30の内部に設けられている。
【0064】
案内カム32は従動カム34の一部が案内溝33に嵌るように配置されており、案内溝33によって案内される従動カム34の動きに応じて回動軸35が回転し、植付具アーム37が回動軸35と一体となって回転するようになっている。
【0065】
苗植付具27は、回転軸36の回転に伴って回転する回転ケース30の回転ケース外フレーム28に取り付けられているので、回転軸36の回転に伴って回転軸36の周りを回動する。一方、案内カム32は、植付伝動部ケース21に固定されており、回転軸36が回転しても回転しないので、回転軸36が回転すると、苗植付具27は、従動カム34が案内溝33に案内されることによって回動軸35自身が回転しながら、回動軸35の中心が回転軸36を中心とした円軌道を描くように回動する。
【0066】
なお、苗植付具27が、本発明の植付体の一例にあたり、植付具アーム37が、本発明の植付体本体の一例にあたる。また、植付伝動部ケース21が、本発明の植付伝動部フレームの一例にあたる。また、回転ケース外フレーム28が、本発明の回転ケースの外側主面板の一例にもあたる。また、回転軸36が、本発明の回転軸芯の一例にあたる。
【0067】
図4に、回転ケース30を装着していない状態の植付伝動部ケース21の側面図を示す。
【0068】
伝動軸49が回転すると、伝動軸49と一体に回転する歯車46が回転し、チェーン45、歯車47およびチェーン44を介して、歯車48が回転する。そして、回転軸36が、歯車48と一体となって回転することにより、回転ケース30が回転する。
【0069】
図5に、本実施の形態1の、苗植付具27を装着した回転ケース外フレーム28の斜視図を示し、図6に、案内カム32が回動自在に連結された回転ケース内フレーム29の斜視図を示す。
【0070】
なお、図3では、回転軸36に連結する中央部分が突出した形状の回転ケース30を示しているが、図5および図6では、中央部分が突出していない形状の回転ケースを示している。
【0071】
従動カム34は、板状の支持体38と、板状の支持体38の回動軸35とは反対側に立設するカムローラ39で構成されている。カムローラ39が、案内カム32の案内溝33に嵌りながら案内溝33に沿って移動していく。カムローラ39が案内溝33によって案内されることにより回動軸35が回転し、植付具アーム37が回動軸35と一体となって回動する。
【0072】
なお、支持体38が、本発明の従動カム本体の一例にあたる。
【0073】
回転ケース外フレーム28は、回転軸支持孔42の部分で回転軸36に固定支持されることにより、回転軸36の回転に伴って、回転軸36と一体に回転する。
【0074】
案内カム32は、固定用孔43の部分で、植付伝動部ケース21に固定される。
【0075】
図6において、回転ケース内フレーム29は、固定用孔43に対して自在に回転するように構成されている。回転ケース内フレーム29は、回転ケース外フレーム28に結合されるので、回転軸36の回転に伴って、回転ケース外フレーム28と一体に回転する。
【0076】
図7に、本実施の形態1の苗植付具27の側面図および苗植付動作時の苗植付具27の先端の軌跡を示す。
【0077】
苗植付具27は、植付具アーム37に、先端部が鋭利に形成された二股フォーク状の苗取り爪40と、苗取り爪40の下側で突出・後退作動をする苗押出体41が取り付けられている。
【0078】
苗植付具27は、図21に示した従来の苗植付具104と同様の機構により、苗押出体41が回動軸35の回転運動に応じて上下動するように構成されている。
【0079】
ここで、従来の苗植付具104を例に、苗押出体を上下動させる機構について説明する。
【0080】
図24(a)に、従来の苗植付具104の内部構造を説明する図を示し、図24(b)に、図24(a)のX−X線断面矢視図を示す。
【0081】
図24(a)に示すように各苗植付具104は、ピン133で係止された苗植付具ケース136a、136bの内部に装着される先端部が鋭利に形成された二股フォーク状の苗取り爪105と、苗取り爪105の下側で突出・後退作動をする苗押出体106と、苗押出体106の先端を突出・後退作動させるための押し出しカム135と、押し出しカム135が側面に常時摺接していて、押し出しカム135の回動で上下動をする押し出しアーム131と押し出しアーム131の基部を貫通して、押し出しアーム131の回動中心軸となるアーム軸132と、押し出しアーム131を押し出しカム135に常時押圧する押し出しスプリング134などから構成されている。
【0082】
また、図24(b)に示すように苗植付具ケース136bの回転体103に接する面には押し出しカム135を挿入するための開口部137があり、開口部137内に押し出しカム135を挿入して、押し出しアーム131の基部にアーム軸132を挿入した後、アーム軸132を苗植付具ケース136bに固定することで押し出しカム135の最大径部分が苗植付具ケース136bへ取り付けたアーム軸132に当接するので押し出しカム135は苗植付具ケース136bから抜け出さず、苗植付具ケース136b内の内部に回動自在に支持される。
【0083】
本実施の形態1の苗植付具27の回動軸35に相当する最終軸107は苗植付具ケース136bの開口部137から装着された押し出しカム135の中心部に設けられる挿入口に遊嵌状態で挿入される。
【0084】
また、苗植付具104は最終軸107に最終軸107の端部の四角軸部を介して一体回動するように支持されているので、最終軸107の回転運動が苗植付具104に伝達され、苗植付具104が最終軸107と一体的に回転運動をする。
【0085】
また、最終軸107の回転運動で苗植付具104のケース136bを介して押し出しカム135も回転し、押し出しカム135のカム面に接する押し出しアーム131が押し出しカム135の回転で上下方向に回動しながらアーム軸132の回りを揺動する。さらに押し出しアーム131の長手方向が最終軸107の延長方向と並行位置になるように配置され、苗押出体106及び押し出しアーム131は、機体の左右方向に伸びる最終軸107の回りを回転する回転体103に支持され、回転体103の回転により所定の周期で上下動することができる。
【0086】
苗押出体106の先端は押し出しアーム131の挟持部に挟み込まれているので(図24(a)のサークル内にA方向矢視図を示す)、押し出しアーム131の動きに連動して苗押出体106が苗取り爪105に接するように上下方向に揺動する。
【0087】
このように、最終軸107が回転すると、最終軸107と一体回転する苗植付具104のケース136bを介して押し出しカム135が回転し、押し出しカム135と押し出しアーム131とからなるカム機構の働きで押し出しアーム131が揺動するとき、押し出しアーム131を押し出しスプリング134が押圧することで押し出しアーム131による苗押出体106の付勢が安定に行われる。
【0088】
本実施の形態1の苗植付具27も、図3に示すように、植付具アーム37、押し出しカム70および押し出しスプリング71による上記と同様のカム機構を備えており、苗押出体41が回動軸35の回転運動に応じて上下動する。
【0089】
苗取り爪40は苗載せ台22にある苗を挟持しながら掻き取り、保持しているので、苗押出体41の上下方向への運動で苗取り爪40に保持された苗が圃場に向けて押し出される。
【0090】
回動軸35は、回転ケース外フレーム28に軸支されているので、回転ケース30の回転に伴って、回転軸36を中心とした円形の回転軸軌跡51を描くように回動する。
【0091】
図7に破線で示した苗植付具27は、回動軸35の他の位置にきたときの苗植付具27の位置および姿勢を示している。回転ケース30が回転すると、従動カム34が案内溝33によって案内されることにより回動軸35自体も回転するため、図7に示すように回動軸35の位置によって苗植付具27の姿勢も変化する。
【0092】
回転ケース30が回転すると、苗植付具27の回動軸35が回転軸軌跡51に沿って回動するとともに、苗植付具27の姿勢が変化しながら苗植付具27の先端部分は苗植付具先端軌跡50を描くように移動していく。
【0093】
次に、本実施の形態1の苗植付装置23の動作について説明する。
【0094】
なお、苗植付装置23に設けられた2つの苗植付具27は、それぞれ同様の動作をするので、以下では、1つの苗植付具27について説明する。また、本実施の形態1で説明する以降の図では、紙面に向かって左側を走行車体10の前方として説明する。
【0095】
図8は、回転ケース30の回転に伴う苗植付具27の位置および姿勢を示している。
【0096】
なお、図8以降の図では、図8の右上の図に示すように、苗植付具27の形状および姿勢を、苗植付具27の先端部および回動軸35の中心を頂点とする三角形で表している。
【0097】
回転ケース30が回転すると、回動軸35の中心位置は、円形の回転軸軌跡51上を移動していく。
【0098】
図8では、回転軸軌跡51上を移動していく回動軸35の複数の位置を示しており、その各位置におけるカムローラ39および三角形状で表す苗植付具27の位置を示している。
【0099】
回動軸35の一端には植付具アーム37が固定されており、他端には従動カム34が固定されているので、回動軸35の中心とカムローラ39とを結ぶ線と植付具アーム37がなす角度は、いずれの回動軸35の位置においても一定の角度である。したがって、案内溝33によってカムローラ39を案内することにより、すなわち案内溝33によってカムローラ39の位置を規制することにより、植付具アーム37の向きを変化させることができる。
【0100】
回転軸軌跡51に対して図8のように案内溝33を配置することにより、回動軸35の中心位置が回転ケース30の回転に伴って回動するとともに、カムローラ39が案内溝33に案内されながら移動していくので、苗植付具27の姿勢(向き)を変化させることができる。
【0101】
その結果、回転ケース30の回転とともに、苗植付具27の先端を苗植付具先端軌跡50を描くように移動させることができる。
【0102】
案内溝33の形状を調整することにより、図21で示した従来の苗植付具104の先端が描く軌跡130と同様の苗植付具先端軌跡50を描くようにすることができる。
【0103】
すなわち、従来は複雑なギアの組み合わせ機構によって実現していた苗植付具104の先端が描く軌跡130を、本実施の形態1では、案内カム32と従動カム34という簡易な組み合わせ構造で実現することができる。
【0104】
従来の複雑なギア構造に比べて簡易な構成のカム構造なので、従来よりもメンテナンス性に優れている。
【0105】
また、回転ケース30も、回転ケース結合ネジ31により回転ケース外フレーム28と回転ケース内フレーム29を結合している簡易な構造であるため、例えば圃場において、回転ケース外フレーム28を外して、案内溝33の形状が異なる他の案内カム32に交換することも容易にでき、簡単に苗植付具先端軌跡50を変えることができる。
【0106】
図9は、回転ケース30の回転に伴う苗植付具27の位置および姿勢の、苗取り部分における拡大図を示している。
【0107】
苗取り口25部分において、苗植付具先端軌跡50の実線で示した部分が、本実施の形態1の苗植付具27の先端の軌跡を示しており、破線で示した部分が、従来の苗植付具の先端の軌跡を示している。
【0108】
従来のギア構造を用いた場合には、苗植付具先端軌跡50として外側に膨らむような形状の軌跡しか実現できず直線的な軌跡を描かせるようにはできないが、本実施の形態1のカム構造を用いる場合には、部分的に苗植付具先端軌跡50が直線を描くように変化させることができる。
【0109】
その結果、図9の実線で示すように、苗取り口25部分で苗植付具先端軌跡50が直線を描くようにすることで、苗マットから苗を平行に分離することができる。
【0110】
図10(a)および(b)に、案内溝33と従動カム34の位置関係による苗植付具27のガタつきを説明する図を示す。
【0111】
本実施の形態1のように、従動カム34が案内溝33に案内される構造とした場合、回動軸35と案内溝33の位置関係によって、案内溝33に対するカムローラ39のガタつき度合いが異なる。
【0112】
図10(a)のように、回動軸35が案内溝33の弧状の内側に位置するとき、カムローラ39は案内溝33に沿った方向へ動き易いためガタつきが大きくなる。
【0113】
一方、図10(b)のように、回動軸35の中心とカムローラ39の中心とを結ぶ線が、案内溝33に沿った方向に位置するとき、すなわち、カムローラ39が位置する案内溝33の接線方向に回動軸35の中心が位置するときには、カムローラ39は案内溝33の幅方向へは動き難いためガタつきは小さくなる。
【0114】
本実施の形態1では、図8に示すように、苗植付具27の先端が苗取り口25を通る際の案内溝33と従動カム34の位置関係が、回動軸35の中心とカムローラ39の中心とを結ぶ線が図10(b)のように案内溝33に沿った方向になるようにしている。苗取り時の苗植付具27を安定させるために、少なくとも、苗植付具27の先端が苗取り口25の入口部分に達したときに、回動軸35の中心と案内溝33がこのような位置関係とするのが望ましい。
【0115】
また、苗取り爪40が苗を押し出す位置においても、回動軸35の中心と案内溝33がこのような位置関係になるように構成すれば、植え付け時のガタつきを小さくでき、苗植付具27の姿勢が安定した状態で苗を圃場に植え付けることができるので、苗の植付姿勢が安定し、苗が倒れたり流されたりすることがなく、苗の生育が安定する。
【0116】
このような構成としたことで、苗取り時の苗植付具27のガタつきを小さくし、安定して苗を取ることができる。
【0117】
一方、案内溝33の形状に対して回動軸35およびカムローラ39が図10(a)のような位置関係となるときに、カムローラ39のガタつきが大きくなるが、図8においてこのような位置関係となるのは、苗植え付け後、次に苗取り口25に至るまでの区間であり、これは、回動軸35の中心位置が、案内溝33の外側から内側へと変化するときである。
【0118】
苗植え付け後、次に苗を取るまでのこの区間は、苗植付具27がガタついてもあまり問題がないので、本実施の形態1では、カムローラ39がガタつき易い状態が、この区間となる構成としている。
【0119】
また、回動軸35の中心位置が、案内溝33の内側から外側へと変化するときも同様にガタつきが大きくなるので、苗植え付け後、次に苗取り口25に至るまでの区間に、回動軸35の中心位置が、案内溝33の内側から外側へと変化するように構成してもよい。
【0120】
図11は、回転ケース30の回転に伴う従動カム34の位置および向きの、苗押し出し位置における拡大図を示している。
【0121】
図11に示すように、カムローラ39の方が回動軸35よりも回転軸36寄りにあり、かつ回動軸35が案内溝33の弧状の外側に位置するような位置関係にあるときには、案内溝33の外縁の弧状形状によりカムローラ39は案内溝33に沿った方向へ動き難く、ガタつきは小さくなる。すなわち、回動軸35の中心とカムローラ39の中心とを結ぶ線が、案内溝33の外縁の弧状の接線と直交するときに、ガタつきは小さくなる。
【0122】
本実施の形態1では、苗押し出し時に苗植付具27のガタつきを小さくするために、図11に示すように、回動軸35の中心とカムローラ39の中心とを結ぶ線が、案内溝33の外縁の弧状の接線と直交する構成としている。
【0123】
また、図11に示すように、苗押し出し時の区間では、回動軸35の中心とカムローラ39の中心とを結ぶ線が変わらない移動軌跡を描く、すなわち平行に移動する構成としている。
【0124】
このような構成としたことで、苗押し出し時において、苗植付具27のガタつきを小さくし、また苗植付具27の姿勢を安定させて、苗の植え付け姿勢を安定させている。
【0125】
また、苗取り爪40が苗取り口25から苗を取り出す位置においても、同様に回動軸35の中心とカムローラ39の中心とを結ぶ線が、案内溝33の外縁の弧状の接線と略直交するように構成してもよい。このように構成することにより、苗取り時においても苗植付具27のガタつきを小さくし、苗取り時の姿勢を安定させることができるので、苗の植付姿勢が安定し、苗が倒れたり流されたりすることがなく、苗の生育が安定する。
【0126】
また、回動軸35は一定速度で回転軸36の周りを回動するので、図8に示した回動軸35と苗植付具27の先端の位置より、苗植付具27の先端が苗取り口25を通過する際には、回動軸35の動きに対して苗植付具27の先端の動きが遅く、かつ一定速で移動していることがわかる。したがって、苗取り口25からの苗を一定速で低速に分離することができる。
【0127】
また、図8より、苗植付具27が苗取り口25を通過した後、苗植え付け位置に至るまで、苗植付具27の先端の移動速度が徐々に加速しているのがわかる。苗植付具27の先端をこのように動作させることにより、苗植付具27が苗取り口25で取って保持している苗が抜け落ちてしまうのを防止することができる。
【0128】
図12に、苗植付具27の動作をより安定させる作用を有するスプリングを追加した構成の説明図を示す。
【0129】
回転ケース外フレーム28の内側面にスプリング取り付け部53を設け、スプリング52の一端をスプリング取り付け部53に係止し、もう一端をカムローラ39に係止することにより、常にカムローラ39がスプリング取り付け部53側へ引っ張られる張力が作用する構成とする。なお、図12中の矢印は、力の加わる方向を示している。
【0130】
なお、スプリング52が、本発明の張圧スプリングの一例にあたる。
【0131】
図12は、苗植付具27の先端が苗取り口25の入口部に達した際の、従動カム34、案内溝33およびスプリング52の位置関係を示している。
【0132】
このとき、スプリング52による張力は、苗植付具27の先端を上げる方向へ作用する。
【0133】
苗植付具27の先端には、苗取り口25から苗を取る際に大きな抵抗がかかるため、このときに苗植付具27がブレ易くなる。図12の構成では、苗植付具27の先端が移動する向きとは逆の苗植付具27の先端を上げる向きの力を予めスプリング52によって作用させているので、苗取り時の抵抗に対して苗植付具27をブレ難い構成として、苗植付具27を安定させている。
【0134】
図13に、このときの従動カム34部分の拡大図を示す。
【0135】
カムローラ3に係止されているスプリング52の張力が作用する点は、図13に黒点で示すAの位置である。したがって、スプリング52の張力が、A点と回動軸35の中心とを結ぶ線を基準として90°の方向に張力が作用する向きにスプリング52を配置した際に、苗植付具27に対して最も大きな力を作用させることができる。
【0136】
したがって、苗植付具27の先端に大きな抵抗がかかる図12に示した苗取り時において、A点と回動軸35の中心とを結ぶ線を基準として90°の方向に張力が作用する向きにスプリング52を取り付けるのが好ましい。
【0137】
図14は、図12の位置にスプリング52を取り付けた場合の、苗植付具27の先端が苗押し出し位置にきた際の、従動カム34、案内溝33およびスプリング52の位置関係を示している。
【0138】
このときには、案内溝33に案内されるカムローラ39と回動軸35との位置関係で、図12の場合とは逆に、スプリング52による張力は、苗植付具27の先端を下げる方向へ作用する。
【0139】
苗を植え付ける苗押し出し時に苗植付具27の先端を下げる方向へスプリング52による張力を作用させることにより、苗植え付け姿勢を安定させることができる。
【0140】
図12および図14に示したように、本実施の形態1では、苗取り爪40が苗を取る位置と、苗取り爪40が苗を押し出す位置とにおいて、スプリング52が苗植付け具27の先端を上下反対側に回動付勢する構成としている。
【0141】
図15に、スプリング52を取り付けた構成の苗植付装置の従動カム34部分の断面図を示す。
【0142】
なお、スプリング52は、図12に示すように回転軸36からずれた位置に取り付けられるため断面図には表示されないものであるが、図15では、スプリング52の係止方法を説明するために、スプリング52については前後関係を無視して記載している。
【0143】
図15に示す従動カム34では、スプリング52を係止するために、カムローラ39を、ピン54、ガイド用ローラ55およびスプリング取り付け用ローラ56で構成している。
【0144】
なお、ガイド用ローラ55が、本発明の案内用円筒部材の一例にあたり、スプリング取り付け用ローラ56が、本発明のスプリング用円筒部材の一例にあたる。
【0145】
ピン54が支持板38に立設して固定されており、略円筒形状のガイド用ローラ55および略円筒形状のスプリング取り付け用ローラ56が、これらが個別に回転可能な構成で、いずれもピン54に差し込まれピン54に対して回転自在となっている。
【0146】
ピン54の先端部分は、ガイド用ローラ55が抜けることを防止すべく、ガイド用ローラ55の取付穴の径よりも断面積を大きく構成している。
【0147】
案内溝33には、ガイド用ローラ55の部分が接触するようになっており、案内溝33に接触しながら移動するのに応じて自在に回転することにより、スムーズに従動カム34が案内されるようになっている。
【0148】
スプリング取り付け用ローラ56は、スプリング52が係止される部分の円周の径が、周囲の径よりも小さく形成されている。案内溝33の案内に応じて回動軸35に対するピン54の位置が変化するが、スプリング取り付け用ローラ56が自在に回転することにより、ピン54の位置変化にスプリング52がスムーズに対応できる構成になっている。
【0149】
このように、スプリング取り付け用ローラ56をガイド用ローラ55とは別に設けることで、ガイド用ローラ55の回転に負担をかけない構成としている。上記構成とすることにより、耐久性が向上する。
【0150】
また、ガイド用ローラ55とスプリング取り付け用ローラ56がピン54を共用する構成なので、低コストで実現できる。
【0151】
図16に、苗植付具27の動作をより安定させるべく、板バネを追加した構成の説明図を示す。図17に、このときの従動カム34部分の拡大図を示す。
【0152】
上記したように、苗マットから苗を取る際には、苗植付具27の先端を上げる方向に付勢して苗植付具27がブレないようにするのが望ましい。
【0153】
図16に示す構成では、案内カム32に板バネを取り付けることにより、苗取りの際に、苗植付具27の先端を持ち上げる方向に付勢している。
【0154】
まず、従動カム34において、支持体38のカムローラ39が立設している側とは反対側の面、すなわち回動軸35側にガタ取り用ローラ57を立設させている。案内溝33によって回動軸35に対するカムローラ39の位置が変化するに伴い、ガタ取り用ローラ57の回動軸35に対する位置も変化する。
【0155】
図16に示すように、案内カム32の案内溝33よりも内側の部分に、板バネ取り付け部59およびストッパ60を設け、板バネ取り付け部59に板バネ58の一端を固定し、板バネ58の他端を可動するようにストッパ60で係止している。
【0156】
回動軸35が回転ケース30の回転に伴って回転軸36の周りを回動し、従動カム34が板バネ58を取り付けた部分を通過する際、ガタ取り用ローラ57が板バネ58に接触し、図16に示すように苗植付具27の先端が苗取り口25に達する際に、板バネ58の反発力によって苗植付具27の先端が持ち上がる方向に付勢される。
【0157】
図12のようにスプリング52を用いる場合には、苗植付具27毎にスプリング52を取り付ける必要があり、例えば苗植付具27を2つ備える場合には、2個のスプリング52が必要となる。一方、図16および図17に示すように板バネ58を用いる場合には、固定された案内カム32側の1箇所に板バネ58を設けるだけでよく、コストダウンが図られる。
【0158】
なお、図17に示した構成では、カムローラ39を、支持体38に立設したピン54に略円筒形状の自在に回転するガイド用ローラ55を差し込んだ構成としている。カムローラ39を、このような構成ではなく、支持体38に対して回転可能なピンを取り付けるような構成としてもよい。
【0159】
本実施の形態1の苗植付装置23は、案内カム32の案内溝33の形状を変化させることで、回転ケース30の回転に応じて苗植付具27の先端が描く軌跡を変化させることができる。
【0160】
図18および図19は、異なる形状の案内溝を有する案内カムを用いた場合の苗植付具27の先端が描く軌跡を示している。
【0161】
図8に示した案内溝33の形状を、図18に示した案内溝61の形状とすることにより、苗植付具27の先端に軌跡62を描かせるように動作させることができる。
【0162】
図18に示す軌跡62のうち、苗植付具27が苗取り口25で苗を取り保持した後、その苗を植え付け、苗植付具27の先端が表土より上に位置するまでの軌跡は、図8に示した苗植付具先端軌跡50と同じ軌跡である。すなわち、この間における軌跡62の軌跡は、従来の苗植付装置における苗植付具の先端の軌跡と同じである。
【0163】
そして、軌跡62のうち、苗植付具27の先端が表土から上に出た後の軌跡が、従来の軌跡と異なっている。
【0164】
このような軌跡62とすることにより、特定の株数の際に苗の植え付け入り口と出口が同じになり、植付位置周辺の地面を掘らないようにすることができる。
【0165】
また、図8に示した案内溝33の形状を、図19に示した案内溝63の形状とすることにより、苗植付具27の先端に軌跡64を描かせるように動作させることができる。
【0166】
このような軌跡64とすることにより、苗植付具27が苗を植え付けた後、すぐに圃場から退避する軌跡へと移行するため、植付位置周辺の地面を掘ってしまう範囲を狭くすることができる。
【0167】
苗植付具27の先端が図19のような静軌跡64を描く苗植付装置23を用いたときの、苗植え付け時の動軌跡を図20に示す。
【0168】
図20は、60株の植付け株数に調整した苗植付装置23の、各植付け株数(37株、42株、50株、60株、70株、80株)における動軌跡を示している。
【0169】
図20において、「カム方式」と示した軌跡は、本実施の形態1のカム構造を用いて図19に示した静軌跡を描かせるようにした場合の動軌跡を示しており、それ以外の軌跡は、従来のギア構造を用いた苗植付装置における動軌跡を示している。
【0170】
図20に示すように、本実施の形態1のカム構造を用いることにより、従来のギア構造に比べて、苗を引き摺ることなく植え付けることができる。
【0171】
また、図20では、植付け株数が60株で最適になるように調整しているが、回転ケース30の移動距離と苗植付具27先端の移動距離とを同期させることで、ある狙い目の植付け株数において苗の引き摺り距離を0にすることができるので、圃場に植え付けた苗の周囲の圃場面が掘られることが防止され、苗が倒れたり流されたりすることがなく、苗の生育が安定する。
【0172】
従来のギア構造を用いた構成では、図18および図19に示した軌跡62や軌跡64のように、苗植付具27の先端が回転軸36の周りを一周するような軌跡を描かせるようにすることはできない。
【0173】
なお、本実施の形態1では、1つの回転ケース30に2つの苗植付具27を備える構成を用いて説明したが、図21に示すような1つの回転ケースに対して3つの苗植付具を備える構成としてもよいし、4つ以上の苗植付具を備える構成としてもよい。
【0174】
なお、1つの回転ケースに3つの苗植付具を備える場合には、各苗植付具の回動軸が側面から見て等間隔の位置となるように配置する。すなわち、回転ケース30の外側側面から見て、各回動軸35の中心が、回転軸36を中心位置とした正三角形の各頂点の位置となるように配置する。
【0175】
以上に説明したように、本実施の形態1の苗植付装置は、案内溝の形状を変化させるだけで苗植付具の先端部分が描く軌跡を容易に変更することができる。
【0176】
また、従来の複雑なギアの組み合わせによる構成ではなく、簡易な構造なので、メンテナンス性に優れ、また案内カムを交換するだけで、苗植付具の先端部分が描く軌跡を容易に変更することができる。
【0177】
また、簡易な構造であるため、部品点数も少なく、従来よりも低コストで実現できる。
【産業上の利用可能性】
【0178】
本発明にかかる苗植付装置は、苗植付具の先端部分が描く軌跡を容易に変更できるので、苗植付装置を備えた乗用型田植機等の苗移植機など、産業上の利用可能性が高い。
【符号の説明】
【0179】
10 走行車体
11 エンジン
12 前輪
13 後輪
14 昇降リンク装置
15 苗植え付け部
16 運転座席
17 操縦ハンドル
18 予備苗載台
19 変速装置
20 変速レバー
21 植付伝動部ケース
22 苗載せ台
23 苗植付装置
24 フロート
25 苗取り口
26 マーカ
27 苗植付具
28 回転ケース外フレーム
29 回転ケース内フレーム
30 回転ケース
31 回転ケース接合ネジ
32 案内カム
33 案内溝
34 従動カム
35 回動軸
36 回転軸
37 植付具アーム
38 支持体
39 カムローラ
40 苗取り爪
41 苗押出体
42 回転軸支持孔
43 固定用孔
44、45 チェーン
46、47、48 歯車
49 伝動軸
50 苗植付具先端軌跡
51 回動軸軌跡
52 スプリング
53 スプリング取り付け部
54 ピン
55 ガイド用ローラ
56 スプリング取り付け用ローラ
57 ガタ取り用ローラ
58 板バネ
59 板バネ取り付け部
60 ストッパ
61 案内溝
62 軌跡
63 案内溝
64 軌跡
70 押し出しカム
71 押し出しスプリング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行車体(10)の後方に配置された苗載せ台(22)に積載されている苗マットから苗を取り圃場に植え付ける苗植付装置であって、
植付伝動部フレーム(21)に回転可能に取り付けられた回転ケース(30)と、
前記回転ケース(30)に回動可能に取り付けられた植付体(27)と、
前記植付伝動部フレーム(21)に固定された案内カム(32)とを備え、
前記植付体(27)は、植付体本体(37)、前記植付体本体(37)に取り付けられ前記苗マットから前記苗を取る苗取り爪(40)、および前記案内カム(32)に案内される従動カム(34)を有し、
前記回転ケース(30)が回転するにしたがって前記植付体(27)が回転し、前記植付体(27)の回転にしたがって前記従動カム(34)が前記案内カム(32)に沿って移動する、苗植付装置。
【請求項2】
前記植付体(27)は、前記回転ケース(30)に回動自在に軸支された回動軸(35)を有し、
前記従動カム(34)は、従動カム本体(38)、および前記従動カム本体(38)に取り付けられたカムローラ(39)を有し、
前記回動軸(35)の一端には前記植付体本体(37)が固定されるとともに他端には前記従動カム本体(38)が固定され、
前記案内カム(32)は、案内溝(33)を有し、
前記案内溝(33)によって、前記カムローラ(39)が案内される、請求項1に記載の苗植付装置。
【請求項3】
前記案内カム(32)は、前記回転ケース(30)の中に収納されており、
前記従動カム本体(38)が固定された前記回動軸(35)の前記他端は、前記回転ケース(30)の内側に配置されており、前記植付体本体(37)が固定された前記回動軸(35)の前記一端は、前記回転ケース(30)の外側に配置されている、請求項2に記載の苗植付装置。
【請求項4】
前記苗取り爪(40)が苗取り口(25)から苗を取り出す位置又は前記苗取り爪(40)が前記苗を押し出す位置において、前記カムローラ(39)が位置する前記案内溝(33)の接線方向に前記回動軸(35)の中心が位置する、請求項2又は3に記載の苗植付装置。
【請求項5】
前記苗取り爪(40)が苗取り口(25)から苗を取り出す位置又は前記苗取り爪(40)が前記苗を押し出す位置において、
前記カムローラ(39)は、前記回動軸(35)よりも前記回転ケース(30)の中心寄りにあり、
前記カムローラ(39)の中心と前記回動軸(35)の中心とを結ぶ線が前記案内溝(33)の弧状外縁と交差する点における接線が、前記カムローラ(39)の中心と前記回動軸(35)の中心とを結ぶ前記線と略直交する、請求項2又は3に記載の苗植付装置。
【請求項6】
前記圃場に前記苗を植え付けた後、前記苗マットから次の前記苗を取りにいくまでの間に、前記回動軸(35)が前記案内溝(33)の内側と外側のうちの一方から他方へ変化する、請求項2〜5の何れかに記載の苗植付装置。
【請求項7】
前記回転ケース(30)には、スプリング取り付け部(53)が形成されており、
張圧スプリング(52)の一端が前記スプリング取り付け部(53)に係止され、前記張圧スプリング(52)の他端が前記カムローラ(39)に係止され、前記苗取り爪(40)が苗取り口(25)から苗を取り出す位置と前記苗取り爪(40)が前記苗を押し出す位置とにおいて、前記張圧スプリング(52)が前記植付体本体(37)を上下反対側に回動付勢する構成とした、請求項2〜6の何れかに記載の苗植付装置。
【請求項8】
前記カムローラ(39)は、前記従動カム本体(38)に立設したピン(54)と、前記ピン(54)に回転可能に装着された、前記案内溝(33)に接触する案内用円筒部材(55)と、前記ピン(54)に回転可能に装着されたスプリング用円筒部材(56)とを有し、
前記張圧スプリング(52)の他端は、前記スプリング用円筒部材(56)に係止されている、請求項7に記載の苗植付装置。
【請求項9】
前記回転ケース(30)は、前記植付伝動部フレーム(21)に取り付けられており、
前記回転ケース(30)の外側主面板(28)には、3つの前記植付体(27)が設けられており、
前記植付体(27)の前記各回動軸(35)の軸方向は、前記回転ケース(30)の回転軸芯の軸芯方向と同じであり、
前記3つの植付体(27)は、前記軸芯方向から見て、前記各回動軸(35)の中心が、前記回転ケース(30)の前記回転軸芯を中心位置とした正三角形の各頂点の位置となるように設けられている、請求項2〜8の何れかに記載の苗植付装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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