説明

苗移植機

【課題】ぬかるみやすい圃場における安定走行の確保とともに、ぬかるみにくい圃場における燃費向上および排ガス低減を可能とする苗移植機を提供する。
【解決手段】苗移植機は、エンジン(5)の動力を変速して走行装置(2,3)および苗移植装置(6)に伝動する変速伝動装置(4)、変速レバー(4a)の指示に応じてエンジン(5)および変速伝動装置(4)を動作制御する制御装置(11a)等を設けて植付け走行可能に構成され、上記制御装置(11a)は、変速レバー(4a)の指示に対するエンジン回転の動力特性が、低燃費走行用の低回転モード(L)と、通常の回転による標準モード(M)と、ぬかるみ走行用の高回転モード(H)のいずれかを選択可能に構成するとともに、変速レバー(4a)の指示が停車時の停止速および発進直後の低速域の範囲について高回転モード(H)を適用するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変速レバー対応のエンジン制御によって作業走行する苗移植機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
変速レバーの操作による車速調節とエンジン制御とによって苗移植走行する苗移植機は、特許文献1の記載のように、走行動力及び作業動力の原動部であるエンジンを搭載して圃場走行可能な機体に水田用作業部である苗植付装置を支持して構成される。苗移植機のエンジン制御については、一般に、車速に応じてエンジン回転数を上げるように制御することにより、車速増加とともに増大する走行負荷に抗して路上における安定した高速走行を可能とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−232809号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記制御ゆえに、土質が柔らかくぬかるみやすい圃場において低速走行するときや、アイドリング状態から走行を開始する際に、泥が走行抵抗となって機体が前進しにくくなることや、走行姿勢の乱れによって苗の植付精度が低下するという問題があった。その一方で、ぬかるみの少ない圃場で走行速度を上げるとエンジン出力も比例して上昇するため、余分な出力を使ってしまい、燃費が悪くなるばかりではなく、排ガス量も増えるという問題があった。
【0005】
本発明の目的は、土質が柔らかくぬかるみやすい圃場における安定走行の確保とともに、土質が硬くぬかるみにくい圃場における燃費向上および排ガス低減を可能とする苗移植機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に係る発明は、圃場走行可能に機体を支持する前後輪による走行装置(2,3)と、この走行装置(2,3)に走行動力を変速伝動する変速伝動装置(4)と、この変速伝動装置(4)を含む各機器に動力を供給する原動部であるエンジン(5)と、機体後部に昇降可能に支持されて変速伝動装置(4)から動力を受けて苗植付け作業を行う苗移植装置(6)と、前記エンジン(5)の回転数を制御する制御装置(11a)と、前記変速伝動装置(4)を変速調節する変速レバー(4a)を設けた苗移植機において、上記制御装置(11a)は、変速レバー(4a)の操作位置に対応してエンジン(5)の回転数を設定する構成とし、変速レバー(4a)の操作位置に対応するエンジン(5)の回転数の設定特性を、低燃費走行用の低回転モード(L)と、通常の回転による標準モード(M)と、高負荷時走行用の高回転モード(H)の複数設け、複数の設定特性のうちのいずれかを選択可能に構成するとともに、前記変速レバー(4a)が停止速の位置にある、または発進直後の低速域の範囲にある時には、高回転モード(H)を適用する構成としたことを特徴とする苗移植機とする。
【0007】
上記苗移植機は、低燃費走行から高負荷時走行に及ぶ動力特性幅の範囲で植付け作業走行を行うに際して、低回転、標準、高回転のモード選択に沿ってエンジンおよび変速伝動装置が変速レバーの操作に応じて制御され、このとき、停止速の位置にある、または発進直後の低速域の範囲にある時は、高回転モードが適用される。
【0008】
請求項2に係る発明は、請求項1の構成において、前記制御装置(11a)に機体の深度を検出する深度検知手段(14)を接続し、停止速から発進直後の低速域に及ぶ変速範囲について、該深度検知手段(14)による圃場深度が所定深さを越えると高回転モード(H)が適用される構成としたことを特徴とする苗移植機とする。
停止速または低速域走行時であり、且つ圃場深度が所定深さを越えた場合に限って高回転モードが適用されることから、粘度の弱い土質の圃場等においては、発進時から操縦者の選択に沿った回転モードが維持される。
【0009】
請求項3に係る発明は、請求項1または2に記載の構成において、前記機体に搭載した電動機器に電力を供給する充電可能なバッテリ(13)と、該バッテリ(13)の電圧を検出して制御装置(11a)に送るバッテリ電圧検出手段(13a)を設け、前記バッテリ(13)が充電を要する域まで電圧が低下すると高回転モード(H)を適用する構成としたことを特徴とする苗移植機とする。
バッテリの電圧が低下すると、高回転モードによるエンジン制御が適用されるので、エンジンの回転による発電量を増大させることができ、バッテリの電圧が確保され続ける。
【0010】
請求項4に係る発明は、請求項1から3のいずれか1項に記載の構成において、前記制御装置(11a)に機体の傾斜を検出する傾斜センサ(15)を接続し、該傾斜センサ(15)が検出する傾斜角度が所定角度を超えると高回転モード(H)を適用する構成としたことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の苗移植機とする。
機体が所定角度を越えて傾斜するとエンジン制御が高回転モードに変更されることから、圃場深さの急変によっても負荷変動が補われるので、機体の走行姿勢や作業姿勢が安定する。
【0011】
請求項5に係る発明は、請求項1から4のいずれか1項に記載の構成において、機体の走行速度を減速操作するブレーキペダル(4c)を設け、該ブレーキペダル(4c)が操作されたか否かを制御装置(11c)が検出する構成とし、前記ブレーキペダル(4c)が操作されたことを制御装置(11c)が検出したときに高回転モードであると低回転モード(L)または標準モード(M)を適用すると共に、前記ブレーキペダル(4c)が操作されたことを制御装置(11c)が検出したときに低回転モード(L)または標準モード(M)であると高回転モード(H)の選択を規制する構成としたことを特徴とする苗移植機とする。
ブレーキペダルの操作に合わせて、高回転モードの場合は標準モードまたは低回転モードに変更され、また、標準モードや低回転モードの場合は高回転モードの選択が規制されることから、油圧系統の送油量や送油速度が抑えられて機器動作が低速化される。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に係る発明により、低燃費走行から高負荷時走行に亘る動力特性幅の範囲で植付け作業走行を行う場合、事前に設定した低回転、標準、高回転のモード選択に従って、エンジンおよび変速伝動装置を変速レバーの操作に連動して動作させる制御構成とすると共に、停車時の停止速及び発進直後の低速域の車速範囲に亘って高回転モードが適用される構成とする。
上記構成により、低回転モードを選択した場合は、土質の固い圃場で作業をするときにエンジンを過度に回転させなくなるため、燃費向上と排ガスの低減が可能となる。
また、高回転モードを選択した場合は、ぬかるみ易い土質の圃場で作業をするときに、泥土の抵抗で走行装置が滑って空転しない回転数を確保することができるので、低速走行時の姿勢が安定すると共に植付部の昇降等に必要な十分な油圧が確保され、植付作業能率が向上をすると共に苗の植付精度が向上する。
これにより、作業者は土質状況に合わせてモードを切り換え、適切なエンジン制御を行うことができるので、作業能率が向上すると共に、作業者が煩雑な操作を行う必要が無くなり、作業者の労力が軽減される。
そして、変速レバーが機体が停止する停止速位置にある、または変速レバーが低速域に位置している場合は、作業者がどのモードを選択しているかにかかわらず高回転モードに切り替わる構成としたことにより、ぬかるみ易い圃場で機体の走行を開始する際、走行装置が泥土の抵抗によって空転することが防止されるので、走行姿勢や植付作業姿勢が安定して作業能率が向上すると共に、高速走行時の燃費向上と排気ガスの低減が図られる。
【0013】
請求項2に係る発明により、請求項1の発明の効果に加えて、停止速または低速域走行時に圃場深度が所定深さを越えると、エンジンが高回転モードに切り換えられることにより、土質が硬くぬかるみの生じにくい圃場においては、発進時から操縦者の選択に沿った回転モードで走行することができるので、発進時から燃費が低減されると共に、排気ガスの排出量が軽減される。
【0014】
請求項3に係る発明により、請求項1または2の発明の効果に加え、バッテリの電圧が低下すると高回転モードにエンジン制御が切り換えられることにより、他の回転モードを選択している最中にバッテリの電圧不足が生じるとバッテリの電圧を確保する状態に移行されるので、植付作業中に電力不足で機体が停止したり、一部の機能が使用不能になることが防止され、作業能率が向上すると共に、苗の植付精度が向上する。
また、植付作業中の圃場内でバッテリの交換や充電を要しないので、メンテナンス負荷を抑えることができ、作業能率が向上すると共に、作業者の労力が軽減される。
【0015】
請求項4に係る発明により、請求項1から3いずれか1項の発明の効果に加え、機体が所定角度を越えて傾斜するとエンジン制御が高回転モードに変更される構成としたことにより、圃場に大きな凹凸があり、この深みに走行装置が入り込むことがあっても、走行装置が凹凸に入り込んだ際の負荷変動をエンジン回転数の変化によって補うことができるので、機体の走行姿勢や植付作業姿勢が安定するので作業能率が向上すると共に、苗の植付精度の向上を図ることができる。
【0016】
請求項5に係る発明により、請求項1から4のいずれか1項の効果に加え、ブレーキペダルの操作量に対応して、高回転モードである場合は標準モードまたは低回転モードに変更され、標準モードや低回転モードである場合は高回転モードの選択が規制される構成としたことにより、油圧系統の送油量や送油速度が抑えられて機器の動作が低速化されるので、機体を倉庫等に収納する際に植付部等を誤って操作しても、植付部等の急速動作による周辺物との接触損傷を防止することができるので、機体が破損することがなく、機体の耐久性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】乗用型田植機の側面図
【図2】乗用型田植機の平面図
【図3】エンジンの動力特性線図
【図4】制御処理機構に関するブロック図
【図5】バッテリ対応制御処理のフローチャート
【図6】深み進入時の深度に対応した制御処理のフローチャート
【図7】機体傾斜時の傾斜角度に対応した制御処理のフローチャート
【図8】ブレーキペダル操作時のエンジン回転制御のフローチャート
【図9】残留肥料排出時のエンジン回転制御のフローチャート
【図10】アシストモータの配置を示す田植機の平面図
【図11】アシストモータの別の配置を示す田植機の平面図
【図12】変速レバーの操作背面側の見取図(a)およびその側面図(b)
【発明を実施するための形態】
【0018】
上記技術思想に基づいて具体的に構成された発明の実施形態について、以下に図面に沿って詳細に説明する。
苗移植機の一例である6条型の乗用田植機1は、その側面図を図1、平面図を図2に示すように、圃場走行可能に機体を支持する前後輪2,3、これら前後輪2,3に走行動力を変速伝動する変速伝動装置4、この変速伝動装置4を含む各機器に動力を供給する原動部であるエンジン5、機体後部に昇降可能に支持されて変速伝動装置4からの分岐動力により圃場に苗を植付けする苗移植装置6、苗の植付位置の近傍に所定量の施肥を行う施肥装置7、各種機器を操作するための操作具を配置した操縦部8等から構成される。
【0019】
変速伝動装置4は、HSTと略称される静油圧式無段変速機4bを備え、前後進切替えと無段変速を行う電動操作によるトラニオン軸の角度調節によりベルト伝動で受けたエンジン動力を前後輪2,3に変速伝動し、中低速域の作業走行および高速域の路上走行のそれぞれについて停止速から最高速までの変速が可能に構成する。
【0020】
エンジン5は、低燃費走行からぬかるみ対応走行までの動力特性範囲の走行動力をスロットル開度の電動調節によりカバー可能に構成するほか、ベルト伝動によってバッテリ充電用のジェネレータおよび油圧機器駆動用の油圧ポンプ等の補機を駆動する。
【0021】
苗移植装置6は油圧動力によって昇降駆動されるとともにローリング角度調節によって水平支持され、また、変速伝動装置4からの分岐動力によって車速連動で植付動作可能に構成する。施肥装置7は電動繰出部と電動送風部によって肥料ホッパから所定面積密度の施肥動作が可能に構成する。
【0022】
(制御システム)
また、上記苗移植機1には、条件に従って各機器を制御する制御システム11を備え、この制御システム11は、エンジン5の動力特性を切替える動力特性切替制御を構成する。
動力特性切替制御の制御システムは、エンジンスロットル5a、バッテリ充電装置13、変速伝動装置4、苗移植装置6、施肥装置7等を制御装置11aによって動作制御可能に構成し、入力側には、変速伝動装置4の変速操作用の変速レバー4a、ブレーキペダル4c、施肥スイッチ7a、エンジンモード選択部11b、圃場深度検出部14、機体傾斜検出部15、バッテリ電圧検出部13a等を接続する。
【0023】
変速レバー4aは操作位置に応じて変速伝動装置4の前後進と走行車速を指令する。ブレーキペダル4cは踏込操作に応じて走行装置2,3の抑速を指令する。施肥スイッチ7aは施肥装置7の稼動を指令する。エンジンモード選択部11bはエンジン5の動力特性の切替えを指令する。
【0024】
次に、制御システム11における各機器の制御について説明する。
エンジン5の動力特性は、その特性線図を図3に示すように、変速レバー4aのニュートラル位置0から最高速位置8に亘る車速指示による回転数について、低回転モードL、標準モードM、高回転モードHを設定する。
【0025】
低回転モードLは低燃費走行用として低回転アイドリングL0から始まる動力特性、標準モードMは通常の走行用として通常回転アイドリングM0から始まる動力特性、高回転モードHはぬかるみ走行用として高回転アイドリングH0から始まる動力特性である。
【0026】
制御装置11aは、3つの回転モードのいずれかをエンジンモード選択部11bによって選択可能に構成するとともに、変速レバー4aの指示がニュートラル位置0から発進直後のレバー位置2までの低速域について高回転モードHを適用し、レバー位置3以上の中速域以上では選択した回転モードを適用する。
【0027】
例えば、エンジンモード選択部11bによって低回転モードLを選択している場合は、特性図上のH0、H2、L3、L8の各点を結ぶ特性線によるエンジン動力を変速伝動装置4に供給する。このような動力特性による制御動作は、変速レバー4aがニュートラル位置0から増速操作されると、変速伝動装置4が停止速で高回転モードHによるアイドリング回転H0から発進直後の低速域のレバー位置2まで高回転モードHが維持され、次いで中速域の増速操作により、エンジンモード選択部11bによる低回転モードLに移行する。
【0028】
このように、低燃費走行からぬかるみ走行に及ぶ動力特性幅でエンジンから各機器に動力を供給して変速伝動装置、苗移植装置により植付け作業走行を行うに際して、低回転L、標準M、高回転Hのモード選択に沿って変速レバー4aの操作に応じたエンジン制御を行い、また、停車時及び発進直後の低速域の走行に限り高回転モードHが適用される。
【0029】
したがって、低回転モードLの選択では硬い土質の場合の燃費向上と排ガスの低減が可能となり、高回転モードHの選択ではぬかるみが酷い土質の場合の低速走行姿勢の安定化と植付部の昇降等に必要な十分な油圧の確保により作業能率の向上や苗の植付精度の向上が可能となることから、モード選択による簡易な操作によって土質状況に合わせたエンジン制御が可能となり、また、停車時及び発進直後の低速域の走行に限り高回転モードHが適用されることから、ぬかるみが酷い土質の場合において不適合の回転モードを選択していても、低速安定走行を確保した上で、高速走行時の燃費向上と排気ガスの低減を図ることができる。
【0030】
(圃場深度対応制御)
次に圃場深度に対応したエンジン動力特性の切替制御について説明する。以下においてフローチャートの参照は処理ステップに付した「S」から始まる符号による。
制御装置は、図6のフローチャートに示すように、圃場深度に対応した動力特性切替えのために、機体の走行深度を検出する深度検知手段の信号に基づき、深度が大なる圃場と判定される場合に限り、変速レバーの指示が停止速および低速域の範囲について高回転モードHを適用(S21〜S23)する制御処理を構成する。
【0031】
このような切替制御により、停車時または低速域走行に際して、圃場深度が所定深さを越えた場合に限って高回転モードHが適用されることから、ぬかるみの少ない浅い圃場においては、低回転モードL等の選択に沿って発進時から燃費向上と排気ガス低減が可能となる。この場合においては、操縦者が圃場深度を判断して操作する湿田スイッチ等の信号を用いることにより、上記深度検知手段と同様の特性切替制御が可能となる。
【0032】
(バッテリ対応制御)
次に、機体に搭載した電動機器に電力を供給する充電可能なバッテリとの関係によるエンジン動力特性の切替制御について説明する。
制御装置は、バッテリ対応制御処理のフローチャートを図5に示すように、バッテリ電圧検出手段を設けてバッテリの給電電圧を検出し、その検出電圧がバッテリの充電なしの給電継続に不十分であることを判定する処理ステップ1により該当判定の場合は、選択モードが高回転モードHであることの判定(S2)により非該当判定となる限りにおいて高回転モードHを適用(S3)する制御処理を構成する。
【0033】
このような切替制御により、充電を要するバッテリの電圧低下の範囲で高回転モードHによるエンジン制御が適用されることから、不適合の回転モードを選択していてもバッテリの電圧を確保できるので、植付作業中に電力不足で機体が停止したり、一部の機能が使用不能になることが防止され、作業能率が向上すると共に、苗の植付精度が向上する。また、植付作業中の圃場内でバッテリの交換や充電を要しないのでメンテナンス負荷を抑えることができる。
【0034】
(機体傾斜対応制御)
次に、機体の傾斜との関係によるエンジン動力特性の切替制御について説明する。
制御装置は、機体傾斜対応制御処理のフローチャートを図7に示すように、傾斜センサ15によって機体の傾斜が所定角度を超える範囲について高回転モードHを適用(S11〜S13)する制御処理を構成する。
【0035】
このような切替制御により、代掻きによっても凹凸によって深さ変動が避けられない圃場において、作業車両が急に深いところに入るとエンジン回転数が急激に低下し、また、片輪だけ潜る状況においてデフが逆効果となって走行トルクの低下を来たし、このようなエンジン回転の急激な低下や走行トルクの低下の際に自動的にエンジン回転が上昇することによって安定した走行により操作性が確保されるので、快適な作業継続により業能率の向上と共に苗の植付精度の向上を図ることができる。
【0036】
(ブレーキ対応制御)
次に、機体の走行車速を抑えるブレーキ操作との関係によるエンジン動力特性の切替制御について説明する。
制御装置は、図8及びブロック図である図4で示すように、走行装置の抑速操作用のブレーキペダル4cが操作され、ブレーキペダル4cの操作検知センサ4dが検知状態となったとき、エンジン回転モードが高回転モードHであれば低回転モードLか標準モードMのいずれかのモードを適用(S31〜S33)すると共に、低回転モードLまたは標準モードMであれば高回転モードHの選択を規制(S34)する制御構成とする。
【0037】
上記エンジン回転モードの切替制御により、ブレーキペダル4cが操作されているとエンジン回転モードが高回転モードHになることが規制されるので、エンジン回転数が所定値以上に上昇することが防止され、油圧系統の送油量や送油速度が抑えられて機器動作が低速化されるので、機体を倉庫等に収納する際に苗移植装置6等を誤って操作しても、操縦者が誤操作に対応した操作を行なうことが可能となるため、苗移植装置6等が急速上昇動作して周辺物と接触し、損傷することが防止される。
【0038】
(施肥機対応制御)
次に、施肥機との関係によるエンジン動力特性の切替制御について説明する。
図9で示すように、施肥機7の残留肥料を排出するための施肥リフトスイッチ7aを操作すると、自動的に高回転モードHに切り替わる制御構成としたことにより、肥料排出の際にブロア7bの回転数が高回転モードHに対応し、該ブロア7bからの風量が自動的に増加するので、施肥機7内の肥料の残留を最小限度に抑えつつ、排出作業時間を短縮することができる。
【0039】
(アシストモータ)
次に、油圧式無段変速装置(HST)の作動量を変速レバー4aの操作量に基づいて回転して変更する、アシストモータ31の配置について説明する。なお、アシストモータ31の回転数は、変速レバー4aに設けたポテンショメータ(図示省略)の検出値に対応して増減する構成であり、走行速度を早く設定するほど高回転になる。アシストモータ31を用いることにより、変速レバー4aを操作する際に抵抗力が殆どかからなくなるので、操作性が向上する。
図11に示すように、アシストモータ31は、ハンドルポスト32の後方の座席下部に位置するエンジン5に対して前後の位置関係となるように、機体前部のハンドルポスト32をカバーするボンネット32aの右側にアシストモータ31を配置する。
上記のようにモータ31とエンジン5とを前後に配置することにより、アクセルケーブル33をハンドルポスト32の右側位置に直線的に配索することができるので、ケーブル33の長さが短くなり部品量の削減が図られると共に、ケーブル33が蛇行したり交差したりする配置となりにくいため、ケーブル33の負荷を低減することができる。
【0040】
しかしながら上記構成では、アシストモータ31をボンネット32aの右前部に配置すると、アシストモータ31がフロアステップの下側に位置するため、走行に伴い跳ね上がる泥水がアシストモータ31にかかり、破損の原因となることがある。
これを防止する構造として、図10で示すように、ボンネット32a内にアシストモータ31を配置することにより、ケーブル33が蛇行したり絡み合ったりしにくい配置となるので、ケーブル33の配索性が確保されるとともに、アシストモータ31の防水性を向上することができる。
【0041】
(モード選択スイッチ)
エンジンのモード選択スイッチの配置については、変速レバー4aの操作背面側の見取図(a)およびその側面図(b)を図12に示すように、変速レバー4aのグリップ21の側面部に植付部昇降レバー22を配置し、その操作側に、操作すると植付部を設定量下降させる、調整用の微下降スイッチ22aを配置し、さらに背面側にモード選択スイッチ11bを配置することにより、変速レバー4aのグリップ21を操作する際にその手を離すことなくモード選択スイッチ11bを操作することができるので、操作性の向上を図ることができる。
【符号の説明】
【0042】
1 乗用田植機(苗移植機)
2 前輪(走行装置)
3 後輪(走行装置)
4 変速伝動装置
4a 変速レバー
4b 静油圧式無段変速機
4c ブレーキペダル
5 エンジン
5a エンジンスロットル
6 苗移植装置
11 制御システム
11a 制御装置
11b エンジンモード選択部
13 バッテリ充電装置
13a バッテリ電圧検出部
14 圃場深度検出部
15 機体傾斜検出部
H 高回転モード
L 低回転モード
M 標準モード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圃場走行可能に機体を支持する前後輪による走行装置(2,3)と、この走行装置(2,3)に走行動力を変速伝動する変速伝動装置(4)と、この変速伝動装置(4)を含む各機器に動力を供給する原動部であるエンジン(5)と、機体後部に昇降可能に支持されて変速伝動装置(4)から動力を受けて苗植付け作業を行う苗移植装置(6)と、前記エンジン(5)の回転数を制御する制御装置(11a)と、前記変速伝動装置(4)を変速調節する変速レバー(4a)を設けた苗移植機において、
上記制御装置(11a)は、変速レバー(4a)の操作位置に対応してエンジン(5)の回転数を設定する構成とし、変速レバー(4a)の操作位置に対応するエンジン(5)の回転数の設定特性を、低燃費走行用の低回転モード(L)と、通常の回転による標準モード(M)と、高負荷時走行用の高回転モード(H)の複数設け、複数の設定特性のうちのいずれかを選択可能に構成するとともに、前記変速レバー(4a)が停止速の位置にある、または発進直後の低速域の範囲にある時には、高回転モード(H)を適用する構成としたことを特徴とする苗移植機。
【請求項2】
前記制御装置(11a)に機体の深度を検出する深度検知手段(14)を接続し、停止速から発進直後の低速域に及ぶ変速範囲について、該深度検知手段(14)による圃場深度が所定深さを越えると高回転モード(H)が適用される構成としたことを特徴とする請求項1記載の苗移植機。
【請求項3】
前記機体に搭載した電動機器に電力を供給する充電可能なバッテリ(13)と、該バッテリ(13)の電圧を検出して制御装置(11a)に送るバッテリ電圧検出手段(13a)を設け、前記バッテリ(13)が充電を要する域まで電圧が低下すると高回転モード(H)を適用する構成としたことを特徴とする請求項1または2記載の苗移植機。
【請求項4】
前記制御装置(11a)に機体の傾斜を検出する傾斜センサ(15)を接続し、該傾斜センサ(15)が検出する傾斜角度が所定角度を超えると高回転モード(H)を適用する構成としたことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の苗移植機。
【請求項5】
機体の走行速度を減速操作するブレーキペダル(4c)を設け、該ブレーキペダル(4c)が操作されたか否かを制御装置(11c)が検出する構成とし、前記ブレーキペダル(4c)が操作されたことを制御装置(11c)が検出したときに高回転モードであると低回転モード(L)または標準モード(M)を適用すると共に、前記ブレーキペダル(4c)が操作されたことを制御装置(11c)が検出したときに低回転モード(L)または標準モード(M)であると高回転モード(H)の選択を規制する構成としたことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の苗移植機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−120516(P2012−120516A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−276318(P2010−276318)
【出願日】平成22年12月10日(2010.12.10)
【出願人】(000000125)井関農機株式会社 (3,813)
【Fターム(参考)】