説明

茸栽培用培基の連続活性化処理装置及び茸の栽培方法

【課題】 栽培容器内の培基に高電圧を印加する茸の栽培装置であって、作業性、安全性および経済性に優れ、高い収穫量と品質の茸を栽培できる装置を提供する。
【解決手段】 複数の栽培容器3を搬送する搬送手段5と、各栽培容器3内の培基2に電極6を差し込んで高電圧を印加する高電圧印加手段7と、この高電圧印加手段7の湿度を調整する空調手段8とからなり、前記高電圧印加手段7は、シリンダ16により昇降可能に設けた電極支持フレーム15の下面に複数の電極6を備えて、これらの電極6を各栽培容器に詰めた培基2に挿入して高電圧を印加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、栽培容器内に詰められた培基に、高電圧を印加して茸の発生および成長を促進させるための茸栽培用培基の連続活性化処理装置、およびこの処理装置を用いた茸栽培方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、ナメコ、シメジ、エノキダケ等の茸の栽培としては、フスマ、オガ屑、米ヌカなどの原料を調整した培基を、栽培容器内に詰めて殺菌処理したのち、この培基に茸菌を接種した、70%〜80%程度の高湿度の環境で培養し、育成して、成長した茸を収穫することが知られている。
【0003】
また、上記のような茸の栽培方法に加えて、培基に高電圧を印加することで、培基の分子を活性化し、養分が吸収されやすくなるようにして、茸の成長を促進させることも、例えば、特許文献1により知られている。この特許文献1によると、培基を入れた導電性の調製器を導電性の設置台の上に置き、この設置台に高電圧発生装置により、7000V〜15000Vの高電圧を24時間印加して培基に帯電させ、この帯電させた培基を茸の栽培に使用することで、茸の成長を促進させるという栽培方法が開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開平4−234916号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の特許文献1に記載されている茸の栽培方法では、導電性の設置台に高電圧発生装置を接続して、導電性の調製器内に入れた培基に高電圧を長時間印加するものであるため、一個の培基の処理に必要な時間がかかり過ぎ、作業性がよいとはいえず、しかも、設置台および調製器に直接高電圧電流が流れるために、安全性の面でそのままでは使用できないという問題があった。
【0006】
また、栽培容器にして数千個分の培基に高電圧を印加するような場合には、大容量の調製器が必要となるため、この調製器を設置するための広い場所も必要になり、経済性の面で負担が大きくなるという問題を有している。
【0007】
一方、茸の栽培の場合、一回の収穫だけでは、収穫後に栽培容器の培基中に、いまだ茸菌や養分が残っているため、最初の収穫後もこの栽培容器を用いて2回〜3回と培養、育成を繰り返えして収穫することが行われるが、この方法では、2回目以降の栽培では、収穫の回数が増すほど収穫量や品質の低下がみられるという問題がある。また、高電圧を印加した培基を栽培容器に詰めて使用する場合は、1回目の収穫ではかなりの収穫量が見込まれるが、2回目の栽培では収穫量が大幅に下がることが認められている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記のような従来における、茸栽培用の培基に高電圧を印加して、茸の発生および成長を促進する茸栽培法の問題点を解決して、作業性および安全性の向上を図るとともに、経済性に優れ、しかも、高い収穫量と品質の茸を効率よく得られる茸栽培用培基の連続活性化処理装置と、これによる栽培方法の提供を目的としたものである。
【0009】
本発明に係る茸栽培用培基の連続活性化処理装置は、そのための具体的手段として、栽培容器内に詰めた培基に、高電圧を印加して培基の分子を活性化させる茸の栽培装置であって、複数の栽培容器を搭載したコンテナを搬送する搬送手段と、各栽培容器に詰めた培基に電極を差し込み高電圧を印加する高電圧印加手段と、この高電圧印加手段の湿度調整を行うための空調手段とを備えていることを特徴とする。
【0010】
培基に高電圧を印加する手段は、シリンダにより昇降可能な電極支持フレームの下面に設けられた複数の電極と、これらの電極を各栽培容器に詰めた培基に挿入して高電圧を印加するための高電圧発生装置と、複数の栽培容器を収納したコンテナを前記電極の下方部に固定するためのガイド部材とによって構成することが好ましい。
【0011】
また、本発明の茸栽培方法は、栽培容器内に詰めた培基に茸菌を接種し、培養し、育成して、成長させた茸を収穫したのち、この栽培容器を再び、培養し、育成し、収穫するようにして、一回の茸菌の接種で複数回収穫する茸の栽培方法において、一回目の茸菌を培養する前、及び/又は、二回目以降の茸菌を培養する前に、栽培容器内に詰めた培基に高電圧を印加することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る茸栽培用培基の連続活性化処理装置は、複数の茸栽培容器に詰めた培基のそれぞれに対して、高電圧を一度にまとめて瞬間的に印加するので、全ての培基に等しく電気的刺激を与えることが可能となり、高電圧を印加する処理時間が短くて済み、一日に数千個の栽培容器を処理することができるので、作業性および経済性に優れた効果を発揮する。
【0013】
また、ナメコ、シメジ、エノキダケ等の茸の栽培に際しては、通常70%〜80%の以上の湿度が必要であり、このような環境で高電圧印加装置を使用すると、結露や導電線の腐食等により電気系統が故障する可能性が多分にあったが、本発明の高電圧印加装置では、電気系統の制御部および電極収納部に、乾燥した空気を送ることで、結露や導電線の腐食を防止し、電気系統の安全性を確保することができる。
【0014】
茸菌を培養する前に、栽培容器に詰めた培基に高電圧を印加することにより、1回の接種で複数回栽培しても、その都度、高品質の茸を高い収穫率で収穫することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の茸栽培用培基の連続活性化処理装置は、複数の栽培容器をまとめて搬送するための搬送手段と、各栽培容器内の培基に高電圧を印加するための高電圧印加手段と、前記高電圧印加手段を空気調整するための空調手段とを備え、前記高電圧印加手段が、シリンダにより昇降可能に設けた電極支持フレームの下面に複数の電極を取付けて、これらの電極を各栽培容器に詰めた培基中に挿入して、高電圧を印加するような構成とすることが好ましい。
【0016】
また、本発明の茸栽培方法は、一回目の茸菌を培養する前、及び/又は、二回目以降の茸菌を培養する前に、栽培容器に充填した培基へ高電圧を印加するような方法とすることが好ましい。
【実施例】
【0017】
次に本発明の好適な実施例について説明する。図1〜図3に示す茸栽培用高電圧印加装置1は、培基2を詰めた複数の茸栽培容器3を搭載したコンテナ4を搬送するための搬送手段5と、この搬送手段5の中央部に設けられた、栽培容器内の培基2に電極6を介して高電圧を印加するための高電圧印加手段7と、さらに、前記高電圧印加手段7に対して乾燥した空気を送るための空調手段8とから基本的に構成される。
【0018】
前記搬送手段5は、高電圧を印加する前の栽培容器3を搭載したコンテナ4が置かれるための搬入部5aと、高電圧印加手段7が設けられている中央部5bと、高電圧印加手段7から搬出されたコンテナ4を留めておくための搬出部5cとからなっている。
【0019】
図2に示すように、前記搬入部5aにおけるコンテナ4の移送方向に沿った両側には、コンテナ4の幅方向の位置決めをするために、コンテナ4の幅寸法だけ離間して設けた一対の位置決め部材10が設けられている。
【0020】
搬送手段5の中央部分には、ケーシング11が設けられていて、このケーシング11内の上部には高電圧発生装置27が設けられており、また、ケーシング11の搬入部5aには、入口側シャッター12,搬出部5c側に出口側シャッター13が設けられている。
【0021】
さらにケーシング11内の上部には、前記搬送手段5,高電圧発生装置27および空調手段8等を制御するための制御部14が設けられていて、ケーシング11の外側面には、前記制御部14において制御される前記各手段および装置の作動状態を表示する表示部17が設けられている。
【0022】
前記制御部14内には、シリンダ16が縦向きに設けられていて、ロッド16aが制御部14の下方へ伸長するようになっている。また、このロッド16aの下端には電極支持フレーム15が接続され、この電極支持フレーム15の下面に、複数の棒状電極6が所定の間隔を維持して垂直に突設されている。
【0023】
制御部14の下側の電極支持フレーム15が設けられた部分は、電極収容部18となっていて、この電極収容部18は、搬送手段中央部5bのコンテナ4が搬入される空間との間が、塩化ビニル等の絶縁性樹脂で形成した隔離板19によって仕切られている。
【0024】
また、前記隔離板19には、電極支持フレーム15が昇降する際に、電極6が貫通することで電極6の垂直移動をガイドする複数の貫通孔20が開設されている。また、隔離板19の下面には、垂直に突出した脚19aを介して、搬送手段5の移動方向に沿って平行に配列された複数本の絶縁性の押さえ杆21が、コンテナ4内に収納された各栽培容器3の肩部3aの間隔と同じ間隔を置いて設けられている。
【0025】
そのため、複数の栽培容器3を搭載したコンテナ4が搬送手段中央部5bへ搬送されると、前記押さえ杆21が各栽培容器3の肩部3aの隙間に挿通されてそれぞれの容器の肩部3aを押さえ、高電圧が印加された培基から電極6を引き抜く際に、栽培容器3が電極6と一緒に浮き上がらないように構成されている。
【0026】
また、図2に示すように、搬送手段中央部5bには、コンテナ4の移送方向に沿って、搬入部5aに取付けた位置決め部材10と同様に、コンテナ4を所定の幅方向位置に固定するためのガイド部材22が取付けられており、コンテナ4の停止位置の先端側にはストッパ23が設けられている。
【0027】
一方、空調手段8は、空調器24と制御部14とが、送気ダクト25によって接続されていると共に、空調器24と電極収容部18とが、吸気ダクト26によって接続されていて、空調器24から乾燥した空気が送気ダクト25を通って制御部14へ供給され、制御部14内の空気を電極収容部18へ押し出し、この押し出された空気が、電極収容部18から吸気ダクト26を通って空調器24へ吸引され、空調器24で除湿されて、再び乾燥された空気が制御部14内へ供給されるようになっている。
【0028】
このように、制御部14と電極収容部18との湿度を低く保つことにより、茸の栽培に適した高湿度の環境下における作業であっても、制御部14および電極収容部18に結露や配線の腐食などが発生しないようにして、漏電による事故を防止する。
【0029】
上記のように構成される高電圧印加装置は、搬送手段5,高電圧印加手段7、および空調手段8の各手段が全て自動的に作動するようになっていて、作業者が搬入部5aの両側に配置された位置決め部材10、10の間に、茸栽培容器3を搭載したコンテナ4を置いて操作盤9の始動スイッチを入れると、ケーシング11の入口側のシャッター12が開いて、搬送手段5が作動し、コンテナ4を中央部5bに搬送する。そして、コンテナ4の先端がストッパ23に当接すると、搬送手段5が停止すると共に、シャッター12が閉じられる。
【0030】
次に、シリンダ16が作動して、電極収容部18に設けた電極支持フレーム15が降下すると、この電極支持フレーム15に取付けた各電極6が、隔離板19の貫通孔20を通って、栽培容器3内に詰めた培基2に2本ずつ挿入され、所定の深さまで達すると、高電圧発生装置27から、電極6を介して、家庭用100V電源を、14000V、20mmAに変圧した高電圧が瞬間的に印加される。
【0031】
培基2への高電圧の印加が終了すると、電極支持フレーム15が上昇して、培基2から引き抜かれた電極6の先端を隔離板19の貫通孔20の位置まで上昇させ、中央部5bに設けられたストッパ23が解除されると共に、ケーシング11の出口側のシャッター13が開いて、搬送手段5が作動し、コンテナ4を搬出部5cへ搬出する。
【0032】
このようにして、栽培容器3内に詰められた培基2に高電圧が印加されるが、この高電圧印加装置は、ケーシング11内でコンテナ4Aの培基2に高電圧を印加している間に、搬入部5aに次のコンテナ4Bを置いておくと、ケーシング11内で高電圧を印加されたコンテナ4Aが、搬出部5cへ搬出されるのと同期して、入口側のシャッター12が開いて、次のコンテナ4Bがケーシング11内へ搬送され、高電圧が印加される。その結果、複数のコンテナ4A、4B・・・に高電圧を連続的に印加できるようになっている。
【0033】
また、この培基の連続活性化処理装置は、搬入部5aに置いたコンテナ4が、ケーシング11に搬入されて、中央部5bで培基2に高電圧が印加されたのち、搬出部5cに搬出されるまでに要する時間が25秒程度であることから、例えば、16個の栽培容器3を搭載したコンテナ4に、高電圧を印加する作業を連続的に行えば、1時間に2300個の栽培容器3を処理する能力を有し、作業効率がきわめてよいことが判る。
【0034】
なお、茸栽培の作業工程としては、図4に示すように、1回目の収穫は、図4のフロー図の符号1〜7のように、栽培容器3内に培基2を詰めて殺菌したのち、茸菌を接種して培養し、育成したのちに収穫するという作業工程で行われる。また、2回目の収穫は、図4のフロー図の符号8〜11のように、1回目の収穫を終えた栽培容器3の培基2を培養する前の段階で高電圧を印加し、その後、培養、育成して収穫する作業工程で行われる。
【0035】
この場合、1回目の栽培を行う作業工程では、培基2も茸菌も新鮮であって、良好な育成条件が整っているため、あえて培養前に高電圧を印加しなくても、所定の収穫量と品質を得ることができ、そのため1回目は、培養の前の高電圧印加を省略している。
【0036】
また、1回目の収穫を終えた栽培容器は、培基2中に、未だ養分も茸菌も残っているので、培基2に高電圧を印加して電気的刺激を与えることで、培基2および茸菌を活性化させて、培養、育成することで、2回目の収穫においても、1回目の収穫と変わらない収穫量と品質が得られるようにする。
【産業上の利用可能性】
【0037】
この発明の茸栽培用培基の連続活性化処理装置では、コンテナに複数の栽培容器を搭載し、一度にまとめて各栽培容器の培基に高電圧を印加することで、多数の培基に効率的に高電圧を印加することができ、作業性および経済性に優れており、また、2回目の培養の前に、培基に高電圧を印加することで、1回目の収穫と変わらない収穫量と品質の茸を栽培することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明に係る茸栽培用培基の連続活性化処理装置の正面図。
【図2】同じく茸栽培用培基の連続活性化処理装置の平面図。
【図3】同じく茸栽培用培基の連続活性化処理装置の側面図。
【図4】本発明の茸の栽培方法の作業工程を示す説明図。
【符号の説明】
【0039】
1:茸栽培用高電圧印加装置、
2:培基、
3:栽培容器、
4:コンテナ、
5:搬送手段、
6:電極、
7:高電圧印加手段、
8:空調手段、
9:操作盤、
10:位置決め部材、
11:ケーシング、
12:シャッター、
13:シャッター、
14:制御部、
15:電極支持フレーム、
16:シリンダ、
17:表示部、
18:電極収容部、
19:隔離板、
20:貫通孔、
21:押さえ杆、
22:ガイド部材、
23:ストッパー、
24:空調器、
25:送気ダクト、
26:吸気ダクト、
27:高電圧発生装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
栽培容器内に詰めた培基に、高電圧を印加して培基の分子を活性化させる茸の栽培装置であって、複数の栽培容器を搭載したコンテナを搬送する搬送手段と、各栽培容器に詰めた培基に電極を差し込み高電圧を印加する高電圧印加手段と、この高電圧印加手段の湿度調整を行うための空調手段とを備えている茸栽培用培基の連続活性化処理装置。
【請求項2】
高電圧印加手段が、シリンダにより昇降可能な電極支持フレームの下面に設けられた複数の電極と、これらの電極を各栽培容器に詰めた培基に挿入して高電圧を印加するための高電圧発生装置と、複数の栽培容器を収納したコンテナを前記電極の下方部に固定するためのガイド部材とからなっている請求項1の茸栽培用培基の連続活性化処理装置。
【請求項3】
栽培容器内に詰めた培基に茸菌を接種し、培養し、育成して成長した茸を収穫したのち、この栽培容器を再び、培養し、育成し、収穫するようにして、一回の茸菌の接種で複数回収穫する茸の栽培方法において、一回目の茸菌を培養する
前、及び/又は、二回目以降の茸菌を培養する前に、栽培容器内に詰めた培基に高電圧を印加することを特徴とする茸の栽培方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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