説明

荷重伝達筋及び荷重伝達筋の施工法

【課題】従来の荷重伝達筋の鞘管内部には予め瀝青材料や粘性の高いグリス等が詰められているが、それら材料を詰め込む作業が必要であったり、詰め込みに不均一な部分が生じていた。また、加熱設備が必要であるという不便な点もあった。更に、入口部全面を閉塞する閉鎖部材にあっては、コンクリートの打設後に該閉鎖部材に対して何等かの処理をする必要があった。
【解決手段】丸棒の長尺部材からなるスリップバー、該スリップバーのほぼ半分が滑動自在に移動することを可能とした有底鞘管、該鞘管の入口部に該スリップバーの外径よりやや小径とした内径及び該鞘管の内径よりやや大径の外径を有する密封リングを装着してなることを特徴とする荷重伝達筋。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、道路の車両用防護柵等のコンクリート立設物、空港、道路、橋梁等の各種コンクリート系舗装物及びその他外的環境にさらされるコンクリート構築物によって構築されるコンクリート打ち継ぎ部において、当該部分の補強をする荷重伝達筋及び該荷重伝達筋の施工法を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
外的環境にさらされる上記コンクリート構築物は、打設したコンクリートが気温の上昇により膨張したり、初期の乾燥収縮や気温の低下等によって収縮したりする。そこで、それらの膨張、収縮を吸収するためにコンクリート打ち継ぎ部を所定間隔をもって構成している。該打ち継ぎ部では、上記のような応力を吸収する必要があるので、通常の構造用鉄筋を連続して延長することなく、分断することになるが、上記打ち継ぎ部に鉄筋を配設しない場合、当該部分が極めて弱くなり、大きな衝撃や荷重が生じる可能性のある構築物には対応できなかった。
【0003】
そこで、丸鋼と鞘管とで構成され、荷重を伝達し、且つコンクリート構築物の伸縮にも対応することのできる荷重伝達筋が使用されている。
該荷重伝達筋における長尺棒状部材よりなるスリップバーは、鞘管の内側を滑動できるようにして挿入されるが、打ち継ぎ部に配置するため、該鞘管の入口部である鞘管とスリップバーとの間隙より打設したコンクリートのモルタルや水分が鞘管内部に浸入するおそれがあり、それらにより鞘管が詰まったり、錆び付いたりしてスリップバーが滑動できなくなる。そのことを防止するため、該鞘管内部に予め瀝青材料や粘性の高いグリス等を詰め、モルタルや水分が浸入することを防止している。
【0004】
しかし、上記瀝青材料にあっては、該材料を鞘管内に詰めるために加熱処理を行って流動化させるための加熱設備が必需品であり、且つ加熱された該瀝青材料を鞘管内に詰め込む困難な作業も生じていた。
また、粘性の高いグリスを使用する場合は、人手によりグリスを詰める作業が必要な他、品質にむらが生じて不良品となり、本来の機能を果せないことも多かった。
更に、スポンジ状のもので入口部全体を閉鎖する方法も考えられているが、管全体を閉鎖するものは予めスリップバーを嵌挿入させておくことができず、且つコンクリートの打設後に該スポンジ状のものを取り除いたり、鞘管の奥へ押し込む必要が生じていた。
【特許文献1】特開2001−182008号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように、従来の荷重伝達筋の鞘管内部には予め瀝青材料や粘性の高いグリス等が詰められているが、それら材料を詰め込む作業が必要であったり、詰め込みに不均一な部分が生じていた。また、加熱設備が必要であるという不便な点もあった。更に、入口部全面を閉塞する閉鎖部材にあっては、コンクリートの打設後に該閉鎖部材に対して何等かの処理をする必要があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記欠点を解決したもので、丸棒の長尺部材からなるスリップバー、該スリップバーのほぼ半分が滑動自在に移動することを可能とした有底鞘管、該鞘管の入口部に該スリップバーの外径よりやや小径とした内径及び該鞘管の内径よりやや大径の外径を有する密封リングを装着してなる荷重伝達筋を特徴とする。
【0007】
また、コンクリート構築物のコンクリート打ち継ぎ部において、先行するコンクリート構築物の端部の鉄筋にスリップバーを固定し、そのほぼ半分を外方へ露出させ、そのままの状態或いは該露出したスリップバーを有底鞘管内に挿入配設した状態でコンクリートを打設し、該鞘管の入口部に装着した密封リングにより該スリップバーと鞘管との間隙を閉鎖した鞘管を上記先行コンクリート構築物に連続するコンクリート構築物の端部の鉄筋に固定し、コンクリート打設することにより、スリップバーと有底鞘管とよりなる荷重伝達筋を両コンクリート構築物間に跨るように配設してなる荷重伝達筋の施工法を特徴とする。
【0008】
更に、コンクリート構築物のコンクリート打ち継ぎ部において、先行するコンクリート構築物の端部の鉄筋に有底鞘管を固定し、該鞘管内にスリップバーを、そのほぼ半分を外方へ露出するように挿入配設した状態でコンクリートを打設し、該鞘管の入口部に装着した密封リングにより、該スリップバーと鞘管との間隙を閉鎖した露出したスリップバーを上記先行コンクリート構築物に連続するコンクリート構築物の端部の鉄筋に固定し、コンクリートを打設することにより、スリップバーと有底鞘管とよりなる荷重伝達筋を両コンクリート構築物間に跨るように配設してなる荷重伝達筋の施工法を特徴とする。
【0009】
また、上記コンクリート構築物を車両用防護柵とした荷重伝達筋の施工法を特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の荷重伝達筋は、施工現場或いは工場においてその鞘管の入口部に密封リングを特別な設備や工具を使用することなく簡単に装着することができ、且つスリップバーと鞘管との間隙を確実に閉鎖することができ、モルタルや水分等が当該部分より浸入することがなく、鞘管内部が詰まったり、錆び付いたりすることを防止することが可能となった。
【0011】
また、荷重伝達筋をコンクリートの打ち継ぎ箇所に固定することにより、コンクリートの膨張や収縮等に対応できると同時に、荷重を相互に伝達することが可能となり、該コンクリートで構築された構築物に作用する衝撃等の荷重を伝達分散させることができ、構造上有効な構築物を構築することが可能となった。
【0012】
また、本発明の荷重伝達筋を使用することにより、スリップバーを鞘管に嵌挿させた状態でコンクリートを打設することができ、施工工程上有利な荷重伝達筋を得ることが可能となった。それにより鞘管よりスリップバーを引き出して水平状態を確認しながら荷重伝達筋を骨組となる鉄筋に取り付けることができ、コンクリートの打設時には鞘管に収めるようにして施工を行なうことが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を実施例に添って説明する。
【実施例1】
【0014】
図1は、本発明の荷重伝達筋1の断面図を示している。
該荷重伝達筋1は、スリップバー2、該スリップバー2が挿入され滑動自在に移動することを可能とした鞘管3及び該鞘管3の入口部に装着した密封リング4とより構成している。
【0015】
該荷重伝達筋1は、鉄筋コンクリート構築物のコンクリート打ち継ぎ部に使用するもので、構築物の完成後には、該荷重伝達筋1により打ち継ぎ箇所に作用する各種荷重を相互に伝達すると同時に、該構築物の膨張、収縮に対応できるようにするものである。
【0016】
該スリップバー2は、丸鋼等の長尺棒状のもので、本実施例では、長さ約1000mm、棒径φ25mmのものが使用される。そのほぼ中央部には塗料等による錆止め5が形成される。
また、該鞘管3は管状のもので、一端側は該スリップバー2が挿入される入口部6とされ、他端側は蓋により密封してなる有底部7としている。該鞘管3は長さ約520mm、管径φ32mmのものが使用される。
【0017】
該入口部6の管内部側端部には密封リング4が装着されるが、該密封リング4の外径を管内径よりやや大きめに形成することにより、当該箇所に固定状態で装着することができる。
該密封リング4は、硬質ゴム或いは軟質ゴムを主成分としたゴム系リングで、シーリング用のものが最適であるが、その他、合成樹脂系のものや水膨張性リング等を採用することができる。管内部側端部に装着し易いように弾力性を有するものが良い。
【0018】
該鞘管3の入口部6の管内部側端部に、リング状浅溝を予め形成し、該浅溝に密封リング4を取着することも可能である。
【0019】
該鞘管3には、最奥となる有底部7側の内側に所定間隔の余裕を有するようにしてスリップバー2が挿入され、入口部6に装着された密封リング4により、スリップバー2と鞘管3との間隙を閉塞し、該入口部6を密封状態とする。
従って、上記構成よりなる荷重伝達筋1に伸縮作用が働いても該伸縮を鞘管3内のスリップバー2が移動することで対応することが可能となる。また、コンクリート構築物の打ち継ぎ部に配設した荷重伝達筋1の該入口部6よりコンクリート硬化前のモルタルや水分が該鞘管3内に浸入することはなく、該移動が妨げられることはない。
【実施例2】
【0020】
図2ないし4は、本発明の荷重伝達筋1を車両用防護柵に使用した例を示している。
該車両用防護柵8は、高速道路等の中央分離帯に構築されるコンクリート構築物で、約800mmから1100mmの高さ及び約600mmから800mm程度の幅を有するものである。また、基礎となる第1次コンクリート構築体9を構築し、該第1次コンクリート構築体9から鉄筋10を立設し、該鉄筋10に組立筋11を固定し、更に、該組立筋11を囲むようにして第2次となるコンクリート12を打設して防護柵8が構築される。
【0021】
該組立筋11は、横筋13と縦筋14とにより山形状に形成し、その周囲にコンクリート12を打設して車両用防護柵を構築することになるが、その所定長さ毎にコンクリートの打ち継ぎ部15を構成することになる。
【0022】
該打ち継ぎ部15は、主としてコンクリート12や組立筋11の膨張、収縮を集中させて吸収するために設けるもので、目地部16を形成することになる。当該打ち継ぎ部15となる目地部16には通常の骨組となる鉄筋を連続的に連結することなく、断続させることになる。しかし、当該箇所へ車が衝突する等の大きな荷重が作用する場合があり、その場合には該打ち継ぎ部15が構造的に弱い箇所となり、大破するおそれがある。
そこで、該打ち継ぎ部15に上記膨張、収縮を吸収することが可能で、且つ強度的にも有効な荷重伝達筋1を配設する。
【0023】
図2、3に示すように、車両用防護柵8の打ち継ぎ部15において、上方部の横筋13に平行して5本の荷重伝達筋1を設けている。
該荷重伝達筋1は、コンクリートの打ち継ぎ部15に近接した端部の縦筋14及び横筋13或いはそのいずれかにスリップバー2を固定し、そのほぼ半分を外方へ露出するようにしてコンクリート12を打設する。鞘管3は、コンクリート打設前或いは打設後のいずれに装着してもよい。打設前の場合は、スリップバー2が露出する部分に、入口部6に密封リング4を装着した鞘管3を挿入しておくことになるが、コンクリートの打設によるところのモルタルや水分が該鞘管内部に浸入することがない。該スリップバー2がコンクリートより露出した部分で鞘管3に収まらずに一部露出或いはそのおそれのある部分が該スリップバー2の中央部に生じる可能性があるので、当該部分には錆止め5を予め施しておく。コンクリートの打設後の場合は、打ち継ぎ側の骨組に鞘管3を固定するときにスリップバー2に挿入することになる。
【0024】
上記先行構築した車両用防護柵8の端部には、図4に示す目地部16を形成する。該目地部16としては厚さが約20mm程度の瀝青繊維質系材料を使用する。
該目地部16を貫通してスリップバー2を突出させ、その露出部に挿入した鞘管3は、上記したように、次に連続構築される車両用防護柵8のコンクリート中に固定することになる。コンクリートを打設する前に該鞘管3を次の組立筋17の打ち継ぎ部端部の縦筋18及び横筋19或いはそのいずれかに固定することになる。
【0025】
組立筋17に固定された後、コンクリートが打設されて新たな車両用防護柵8が先行構築したものに打ち継ぎ構築されることになる。
コンクリートの硬化後、モルタルは硬化しているので鞘管3内に浸入することはなく、水分も密封リング4により浸入が防止され、スリップバー2が鞘管3内を滑動でき、荷重伝達筋1が有効に作用することが可能となる。
【0026】
上記した施工を繰り返すことにより、連続した車両用防護柵8が完成することになる。
上記打ち継ぎ部15或いはその近接位置に車両等が衝突し車両用防護柵8に大きな荷重が作用した場合、当該打ち継ぎ部15に配設されている荷重伝達筋1によりその衝撃が打ち継ぎ部15の左右の車両用防護柵8に伝わることになり、当該衝撃を分散吸収させることが可能となる。
特に図2に示すように、車両用防護柵8の上方部に荷重伝達筋を配設することにより、より効果的に荷重を分散させることが可能となる。
【実施例3】
【0027】
上記実施例2では、スリップバー2を先行構築するコンクリート中に埋設固定しているが、それとは逆に、鞘管3を先行構築するコンクリート中に埋設固定し、その後露出しているスリップバー2側を打ち継ぎコンクリート側に固定することも可能である。
更に、スリップバー2と鞘管3の取り付け位置を同一のコンクリート構築物の隣接位置において交互に固定することも可能である。
【0028】
上記実施例2、3では、荷重伝達筋の車両用防護柵への適用に沿って説明したが、他の様々なコンクリート構築物の打ち継ぎ部において使用できることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の荷重伝達筋の断面図。
【図2】本発明の荷重伝達筋を車両用防護柵に使用した実施例の短手方向の断面図。
【図3】本発明の荷重伝達筋を車両用防護柵に使用した実施例の長手方向の断面図。
【図4】継ぎ目部の目地部を示す断面図。
【符号の説明】
【0030】
1 荷重伝達筋
2 スリップバー
3 鞘管
4 密封リング
5 錆止め
6 入口部
7 有底部
8 車両用防護柵
9 第1次コンクリート構造体
10 鉄筋
11、17 組立筋
12 コンクリート
13、19 横筋
14、18 縦筋
15 打ち継ぎ部
16 目地部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
丸棒の長尺部材からなるスリップバー、該スリップバーのほぼ半分が滑動自在に移動することを可能とした有底鞘管、該鞘管の入口部に該スリップバーの外径よりやや小径とした内径及び該鞘管の内径よりやや大径の外径を有する密封リングを装着してなることを特徴とする荷重伝達筋。
【請求項2】
コンクリート構築物のコンクリート打ち継ぎ部において、先行するコンクリート構築物の端部の鉄筋にスリップバーを固定し、そのほぼ半分を外方へ露出させ、そのままの状態或いは該露出したスリップバーを有底鞘管内に挿入配設した状態でコンクリートを打設し、該鞘管の入口部に装着した密封リングにより該スリップバーと鞘管との間隙を閉鎖した鞘管を上記先行コンクリート構築物に連続するコンクリート構築物の端部の鉄筋に固定し、コンクリート打設することにより、スリップバーと有底鞘管とよりなる荷重伝達筋を両コンクリート構築物間に跨るように配設してなることを特徴とする荷重伝達筋の施工法。
【請求項3】
コンクリート構築物のコンクリート打ち継ぎ部において、先行するコンクリート構築物の端部の鉄筋に有底鞘管を固定し、該鞘管内にスリップバーを、そのほぼ半分を外方へ露出するように挿入配設した状態でコンクリートを打設し、該鞘管の入口部に装着した密封リングにより、該スリップバーと鞘管との間隙を閉鎖した露出したスリップバーを上記先行コンクリート構築物に連続するコンクリート構築物の端部の鉄筋に固定し、コンクリートを打設することにより、スリップバーと有底鞘管とよりなる荷重伝達筋を両コンクリート構築物間に跨るように配設してなることを特徴とする荷重伝達筋の施工法。
【請求項4】
コンクリート構築物を車両用防護柵としたことを特徴とする請求項2又は3に記載の荷重伝達筋の施工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−16881(P2006−16881A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−196699(P2004−196699)
【出願日】平成16年7月2日(2004.7.2)
【出願人】(000161817)ケイコン株式会社 (37)
【Fターム(参考)】