説明

蓄圧式燃料噴射装置及びその制御装置

【課題】気筒内での燃焼状態が異なる場合であっても、基準噴射量の燃料が噴射される噴射時間が精度よく求められ、インジェクタの駆動制御を精度よく実行することができる蓄圧式燃料噴射装置及びその制御装置を提供する。
【解決手段】燃料無噴射状態が検出され、圧力が所定圧力となった後に、インジェクタ制御手段によって噴射時間を変えながら複数回の微小噴射を実行させ、微小噴射を実行したときの内燃機関のクランク角速度の変動量があらかじめ設定された基準噴射量によって得られる基準変動量となったときの噴射時間を学習する制御を実行する学習制御手段と、基準噴射量が得られると想定される基準噴射時間と学習された噴射時間とを用いてインジェクタの駆動制御を行う際の補正係数を算出する補正係数演算手段と、を備え、学習制御に使用する基準変動量を、燃焼環境検出手段によって検出される燃焼環境情報の値に応じて異ならせる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の気筒内に燃料噴射を行うための蓄圧式燃料噴射装置及びその制御装置に関するものである。特に、製造公差や劣化等に起因するインジェクタの個体差による燃料噴射量のずれの補正を実行可能に構成された蓄圧式燃料噴射装置及びその制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両に搭載されるエンジンの気筒内に燃料を噴射する装置として、高圧ポンプによって加圧された燃料を一時的に蓄積するためのコモンレールを備えた蓄圧式燃料噴射装置が用いられている。このコモンレールには複数のインジェクタが接続されており、高圧の燃料が各インジェクタに供給された状態で各インジェクタの通電制御が行われることにより、所望の噴射タイミングでエンジンの気筒内に燃料が噴射される。
【0003】
近年、ディーゼルエンジンにおいては、気筒内での燃料の燃焼性を向上させて燃焼音やNOXの低減を図ることを目的として、メイン噴射の前に微小量のパイロット噴射を実施することが一般的になっている。このパイロット噴射を実施するにあたって、燃焼音やNOXを低減する効果を十分に得るためには、微小噴射の噴射量を正確に制御することが求められる。しかしながら、インジェクタは、製造公差や経時劣化によって生じるインジェクタごとの噴射特性のばらつきに起因して、指示噴射量と実噴射量との間にずれが生じる場合がある。
【0004】
このような噴射量のずれを学習して、燃料噴射制御の精度を高めることができる制御装置として、追加装備によるコストアップがなく、かつ噴射量学習を高精度に実施できるディーゼル機関の燃料噴射制御装置が提案されている。具体的には、インジェクタに対する指令噴射量がゼロ以下となる無噴射時に単発噴射を実施し、その単発噴射によって上昇するエンジン回転数の変化量と、単発噴射を実施したときのエンジン回転数との積をトルク比例量として算出し、トルク比例量から算出する発生トルクから実噴射量を推定するように構成した燃料噴射制御装置が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−36788号公報 (全文、全図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、内燃機関の気筒内の燃焼環境が異なる場合には、同一の噴射量の燃料が噴射された場合であっても同一の燃焼状態が得られない場合がある。例えば、図6に示すように、内燃機関が平地におかれている場合と高地におかれている場合とでは、大気中の酸素量が異なるために、噴射量Qが同一であるにもかかわらず燃焼状態が異なり、発生トルク(エンジン回転数の変化量=角速度変動量)に差が生じやすい。このほか、内燃機関の冷却水温や外気温が異なることで燃焼温度に差が生じたり、ブースト圧が異なることで爆発力に差が生じたりして燃焼状態が異なることも考えられる。
【0007】
そのため、特許文献1に記載されたような噴射量の学習制御が、燃焼状態の違いを考慮しないで実行されるようになっていると、あらかじめ記憶されている発生トルクと噴射量との関係が、単発噴射を実施したときの現実の関係とは異なっている場合には、推定される実噴射量と現実の噴射量との間に誤差が生じてしまい、補正後の燃料噴射量と目標噴射量とのずれを解消できないおそれがある。
【0008】
そこで、本発明の発明者は鋭意努力し、内燃機関の無噴射状態において微小噴射を実行したときのクランク角速度の変動量が基準変動量となるときの噴射時間を学習してインジェクタの駆動制御を行う際の補正係数を算出するにあたり、現在の燃焼環境情報を検出するとともに検出される燃焼環境情報の値に応じて学習制御に使用する基準変動量を異ならせることによりこのような問題を解決できることを見出し、本発明を完成させたものである。すなわち、本発明は、気筒内での燃焼状態が異なる場合であっても、基準噴射量の燃料が噴射される噴射時間が精度よく求められ、インジェクタの駆動制御を精度よく実行することができる蓄圧式燃料噴射装置及びその制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、複数のインジェクタが接続されたコモンレールを備えた蓄圧式燃料噴射装置を制御して内燃機関の気筒内への燃料噴射制御を実行する蓄圧式燃料噴射装置の制御装置において、指示噴射量に基づいて噴射時間を求めてインジェクタの駆動制御を行うインジェクタ制御手段と、内燃機関の気筒内の燃焼環境情報を検出する燃焼環境検出手段と、内燃機関への燃料無噴射状態を検出する無噴射状態検出手段と、燃料無噴射状態が検出されたときにコモンレール内の圧力を所定圧力に制御する圧力制御手段と、燃料無噴射状態が検出され、圧力が所定圧力となった後に、インジェクタ制御手段によって噴射時間を変えながら複数回の微小噴射を実行させ、微小噴射を実行したときの内燃機関のクランク角速度の変動量があらかじめ設定された基準噴射量によって得られる基準変動量となったときの噴射時間を学習する制御を実行する学習制御手段と、基準噴射量が得られると想定される基準噴射時間と学習された噴射時間とを用いてインジェクタの駆動制御を行う際の補正係数を算出する補正係数演算手段と、を備え、学習制御に使用する基準変動量を、燃焼環境検出手段によって検出される燃焼環境情報の値に応じて異ならせることを特徴とする蓄圧式燃料噴射装置が提供され、上述した問題を解決することができる。
【0010】
また、本発明の蓄圧式燃料噴射装置の制御装置を構成するにあたり、基準変動量が燃焼環境情報の値に応じて設定された複数の基準変動量からなり、学習制御手段は、複数の基準変動量に対応するそれぞれの燃焼環境情報の値と、燃焼環境検出手段によって検出された燃焼環境情報の値と、複数の基準変動量の値と、に基づいて学習制御に使用する基準変動量を求めることが好ましい。
【0011】
また、本発明の蓄圧式燃料噴射装置の制御装置を構成するにあたり、燃焼環境検出手段が、燃焼環境情報として、周囲の大気圧、内燃機関の冷却水温、周囲の外気温、内燃機関のブースト圧のいずれかを検出することが好ましい。
【0012】
また、本発明の蓄圧式燃料噴射装置の制御装置を構成するにあたり、補正係数は、内燃機関の気筒の一サイクル中におけるメイン噴射の前に実行される補助噴射のための補正係数であることが好ましい。
【0013】
また、本発明の別の態様は、上述したいずれかの制御装置を備えた蓄圧式燃料噴射装置である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の蓄圧式燃料噴射装置及びその制御装置によれば、クランク角速度の変動量が基準変動量となるときの微小噴射の噴射時間を学習してインジェクタの駆動制御を行う際の補正係数を算出するにあたり、現在の燃焼環境情報の値に応じた基準変動量を用いることによって、基準噴射量が得られる噴射時間を精度よく求めることができる。したがって、得られた噴射時間と基準噴射時間とに基づいて求められる補正係数を用いて、インジェクタの駆動制御を精度よく実行することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】蓄圧式燃料噴射装置の構成例について説明するための図である。
【図2】本実施形態の蓄圧式燃料噴射装置の制御装置の構成例を説明するためのブロック図である。
【図3】学習制御について説明するための図である。
【図4】本実施形態の蓄圧式燃料噴射装置の制御の全体的な流れを示すフローチャート図である。
【図5】本実施形態の蓄圧式燃料噴射装置の制御の具体例を示すフローチャート図である。
【図6】大気圧の違いによる燃焼性の違いを説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して、本発明の蓄圧式燃料噴射装置及びその制御装置に関する実施の形態について具体的に説明する。ただし、以下の実施の形態は、本発明の一態様を示すものであってこの発明を限定するものではなく、本発明の範囲内で任意に変更することが可能である。なお、それぞれの図中、同じ符号を付してあるものは同一の部材を示しており、適宜説明が省略されている。
【0017】
1.蓄圧式燃料噴射装置の全体的構成
図1は、本発明の実施の形態にかかる蓄圧式燃料噴射装置50の構成例を示している。この蓄圧式燃料噴射装置50は、内燃機関40の気筒41に燃料を噴射するための装置であり、燃料タンク1と、低圧フィードポンプ2と、流量制御弁8と、高圧ポンプ5と、コモンレール10と、圧力制御弁12と、インジェクタ13と、制御装置60等を主たる要素として備えている。
【0018】
内燃機関40は、クランクシャフト43の回転に伴ってピストン42が気筒41を往復動し、気筒41が圧縮状態のときに気筒41に燃料が噴射されて気筒41で爆発を生じ、ピストン42が押し下げられてクランクシャフト43がさらに回転させられることで駆動する。この内燃機関40には、クランクシャフト43の回転位相であるクランク角を検出するためのクランク角センサ44が設けられている。
【0019】
低圧フィードポンプ2は、燃料タンク1内の燃料を吸い上げて高圧ポンプ5に供給する。低圧フィードポンプ2は、エンジン40の動力によって駆動されるギアポンプや、バッテリーから供給される電流によって駆動される電磁ポンプ等が用いられる。
【0020】
高圧ポンプ5は、低圧フィードポンプ2によって供給される燃料を加圧してコモンレール10へ圧送する。高圧ポンプ5には、エンジン40の駆動力によって上下動されるプランジャ7が備えられている。このプランジャ7の上下動によって容積が可変する加圧室5aには、燃料吸入弁15を介して燃料が流入するとともに、加圧された燃料が燃料吐出弁16を介してコモンレール10に圧送されるようになっている。
【0021】
低圧フィードポンプ2と高圧ポンプ5とは低圧供給通路18で接続されている。この低圧供給通路18の途中には、高圧ポンプ5の加圧室5aに供給される燃料の流量を比例制御するための流量制御弁8が備えられている。流量制御弁8よりも上流側の低圧供給通路18には第1のリターン通路30aが接続されており、第1のリターン通路30aの他端側は燃料タンク1に連通している。この第1のリターン通路30aにはオーバーフローバルブ14が備えられている。低圧フィードポンプ2によって過剰に供給された燃料は、第1のリターン通路30aを介して燃料タンク1へ戻されるようになっている。
【0022】
高圧ポンプ5と高圧供給通路37を介して接続されたコモンレール10は、高圧ポンプ5によって圧送される高圧の燃料を蓄積するとともに、複数のインジェクタ13に対して、均等な圧力で燃料を供給する。コモンレール10に接続されたそれぞれのインジェクタ13は、通電制御によって開閉の制御が行われ、コモンレール10から圧送される燃料をエンジン40の気筒41に噴射する。このインジェクタ13には、インジェクタ13の開閉の制御に伴って排出されるリーク燃料を燃料タンク1に戻すための第3のリターン通路30cが接続されている。第3のリターン通路30cの他端は燃料タンク1に連通している。
【0023】
また、コモンレール10にはレール圧センサ21が設けられている。このレール圧センサ21のセンサ値はレール圧制御に用いられる。また、コモンレール10には、コモンレール10から排出する燃料の流量を比例制御するための圧力制御弁12が備えられた第2のリターン通路30bが接続されている。第2のリターン通路30bの他端は、燃料タンク1に連通している。
【0024】
2.制御装置
図2は、本実施形態の蓄圧式燃料噴射装置50に備えられた制御装置60の構成のうち、学習制御に関連する部分を機能的なブロックで表した図を示している。
この制御装置60は、公知の構成からなるマイクロコンピュータを中心に構成されており、インジェクタ制御手段61と、無噴射状態検出手段62と、圧力制御手段63と、角速度検出手段64と、燃焼環境検出手段65と、学習制御手段66と、補正係数演算手段67等を主たる構成要素として備えている。これらの各手段は、具体的にはマイクロコンピュータによるプログラムの実行によって実現される。また、制御装置60には図示しないRAM(Random Access Memory)等の記憶手段が備えられ、読み込んだ各種の情報や演算結果が記憶される。
【0025】
このうち、インジェクタ制御手段61は、エンジン回転数Neやアクセル操作量Acc等に基づいて目標燃料噴射量Qtgtを求めるとともに、レール圧センサ21によって検出される実レール圧Pact及び目標燃料噴射量Qtgtに基づいてインジェクタ13の通電時間を求めて、インジェクタ13のアクチュエータに対して通電の指示を出力するようになっている。
【0026】
また、インジェクタ制御手段61は、学習制御手段66から学習制御実行の指示を受けると、学習制御を行うインジェクタ13から、一サイクル中に一回の微小噴射を、噴射時間を変えながら複数回実行する制御を行うようになっている。この微小噴射は、内燃機関40の出力に大きく影響しない程度の微小量、例えば、1〜3mm3程度の燃料噴射が行われる。また、無噴射状態検出手段62は、インジェクタ制御手段61で求められる目標燃料噴射量Qtgtがゼロになったときに、無噴射状態を検出するようになっている。
【0027】
圧力制御手段63は、エンジン回転数Neやアクセル操作量Acc等に基づいてレール圧の目標値(以下「目標レール圧」と称する。)Ptgtを求めるとともに、目標レール圧Ptgtと実レール圧Pactとの差分に基づいて流量制御弁8又は圧力制御弁12の少なくとも一つの弁への通電量をフィードバック制御するようになっている。また、圧力制御手段63は、無噴射状態検出手段62によって無噴射状態が検出されると、目標レール圧Ptgtを学習制御実行時目標圧Ptgt_calに設定し、レール圧の制御を行う。学習制御実行時目標圧Ptgt_calは一定の値であっても良いし、複数の値から選択されるようになっていてもよいが、本実施形態においては、メイン噴射の実行前に補助噴射が実行されうるレール圧に応じて設定されている。
【0028】
角速度検出手段64は、クランク角センサ44のセンサ信号Sωを単位時間ごとに継続的に読込み、単位時間当たりのクランクシャフト43の回転変位に基づいて角速度Ωを検出する。
【0029】
燃焼環境検出手段65は、内燃機関40の気筒41での燃料の燃焼条件に影響を与える燃焼環境情報を検出するようになっている。この燃焼環境検出手段65は、内燃機関40の発生トルクに影響を与える要素の状態を検出できるようになっていればよい。一例として、燃焼環境検出手段65は、周囲の大気圧Pairや内燃機関40の冷却水温Tcool、周囲の外気温Tair、内燃機関40のブースト圧Pboost等を検出するように構成されるが、本実施形態において燃焼環境検出手段65は大気圧センサのセンサ情報等に基づいて周囲の大気圧Pairを検出するようになっている。大気圧Pairは、現在車両がおかれている高度によって異なり、すなわち、大気中の酸素量が反映される情報である。
【0030】
学習制御手段66は、実際に使用されているインジェクタ13によって基準微小噴射量Qzfc0の燃料が噴射される噴射時間ETzfc_actを学習する制御を実行するようになっている。具体的に、学習制御手段66は、インジェクタ13によって基準微小噴射量Qzfc0の燃料が噴射される噴射時間ETzfc_actを、後述するように内燃機関40の角速度の変動量(以下「角速度変動量」と称する。)ΔΩzfcに基づいて求めるようになっている。
【0031】
ここで、学習制御手段66によって実行される学習制御の基本的な考え方を図3に基づいて具体的に説明する。
学習制御手段66は、無噴射状態が検出され、実レール圧Pactが学習制御実行時目標圧Ptgt_calに制御されると、学習制御を行うインジェクタ13から、一サイクル中に一回の微小噴射を、噴射時間ETを変えながら複数回実行させるよう、燃料噴射弁制御手段61に対して学習制御実行の指示を送る。微小噴射が実行されると、燃料が噴射された気筒41における圧縮行程から膨張工程にかけて、内燃機関40の角速度Ωが増大する。
【0032】
また、学習制御手段66は、燃料噴射弁制御手段61によって学習制御を行うインジェクタ13から微小噴射が実行されるごとに、この微小噴射が行われたときの角速度Ωのピークを、微小噴射が行われなかったときの角速度のピークと比較し、角速度変動量ΔΩzfcを求める。このように微小噴射を噴射時間ETを変えながら複数回実行することで、生じた角速度変動量ΔΩzfcと噴射時間ETとの関係が得られる。
【0033】
このとき、異なる噴射時間ETでの微小噴射実行時におけるそれぞれの角速度のピークは、例えば、ある噴射時間ETの微小噴射をそれぞれ一回ずつ実行したときの角速度のピーク値を用いるようにすることができる。あるいは、ある噴射時間ETの微小噴射をそれぞれ複数回実行し、それぞれの微小噴射実行時における角速度のピークの平均値をその噴射時間ETの微小噴射実行時の角速度のピーク値として用いるようにすることもできる。
【0034】
また、学習制御手段66は、制御装置60にあらかじめ記憶されている実噴射量Qactと角速度変動量ΔΩzfcとの関係を示すデータ(図3中のデータA)を参照可能になっており、角速度変動量ΔΩzfcが基準変動量ΔΩzfc0となったときの微小噴射の噴射時間ETzfc_actを学習するようになっている。この基準変動量ΔΩzfc0は、基準微小噴射量Qzfc0の燃料が噴射されたときに生じる角速度変動量ΔΩzfcの値として、あらかじめ実験等により求められる値である。
【0035】
このようにして噴射時間ETzfc_actを学習するにあたり、内燃機関40の気筒41における燃料の燃焼状態の違いによって、同じ基準微小噴射量Qzfc0の燃料が噴射されていても、生じる角速度変動量ΔΩzfc0に違いが生じる。そのため、学習制御手段66は、燃焼環境検出手段65で検出される燃焼環境情報に応じた基準変動量ΔΩzfc0を用いて学習制御を実行するようになっている。すなわち、学習制御が実行されるときの燃焼環境で基準微小噴射量Qzfc0の燃料が噴射されたときに想定される角速度変動量ΔΩを基準変動量ΔΩzfc0として噴射時間ETzfc_actが求められるため、燃焼環境にかかわらず基準微小噴射量Qzfc0の燃料を噴射するための噴射時間ETzfc_actが精度よく求められる。
【0036】
本実施形態の制御装置60においては、燃焼環境情報として大気圧Pairの値が用いられており、複数の大気圧PairA、PairB・・・の条件下において基準微小噴射量Qzfc0の燃料を噴射したときに生じる角速度Ωの基準変動量ΔΩzfc0A、ΔΩzfc0B・・・があらかじめ実験等で求められて制御装置60に記憶されている。学習制御手段66は、検出される大気圧Pair_actと、記憶されている基準変動量ΔΩzfc0A、ΔΩzfc0B・・・に対応する大気圧PairA、PairB・・・との関係に基づいて、現在の大気圧Pair_actに対応する基準変動量ΔΩzfc0を記憶されている基準変動量ΔΩzfc0A、ΔΩzfc0B・・・から補間計算によって求めるようになっている。そのため、記憶させる基準変動量ΔΩzfc0のサンプル数が少なくても、現在の大気圧Pair_actに応じた基準変動量ΔΩzfc0を用いて、基準微小噴射量Qzfc0の燃料を噴射するための噴射時間ETzfc_actが精度よく求められる。
【0037】
補正係数演算手段67は、インジェクタ制御手段61によってインジェクタ13の制御量を求める際の基準とされている基準インジェクタと、実際に使用されるインジェクタ13との個体差に起因する指示噴射量Qtgtと実噴射量Qactとのずれを解消するための補正係数αを求めるようになっている。個体差のばらつきは、例えば、インジェクタ13の噴射孔の大きさや弁体のストローク量、摺動性、噴射孔の詰まり具合、弁体のシート摩耗等の違いによって発生する。本実施形態の制御装置60では、求められる補正係数αは、メイン噴射の前に実行される補助噴射実行時のインジェクタ13の制御量の補正に用いられるようになっている。
【0038】
具体的に、本実施形態において、制御装置60には、基準インジェクタによって、あらかじめ定められた基準微小噴射量Qzfc0の燃料が噴射される基準噴射時間ETzfc0があらかじめ記憶されており、補正係数演算手段67は、学習制御を行ったインジェクタ13ごとに、基準噴射時間ETzfc0に対する学習された噴射時間ETzfc_actの比率(ETzfc_act/ETzfc0)を、学習制御実行時目標圧Ptgt_calにおける補正係数αとして求めるようになっている。
【0039】
補正係数αが求められると、インジェクタ制御手段61は、算出される目標燃料噴射量Qtgt又は通電時間に対して補正係数αを乗じる。その結果、インジェクタ13による燃料の噴射時間が補正され、実噴射量Qactと目標燃料噴射量Qtgtとの誤差が低減される。特に、本実施形態の制御装置60では、インジェクタ制御手段61は、各気筒41におけるメイン噴射の前に補助噴射を実行可能に構成されており、インジェクタ制御手段61は、補助噴射を実行する際の制御量を、補正係数αを用いて補正するようになっている。補正係数αが、微小噴射を実行することによって得られるものであることから、この補助噴射を実行する際の目標補助噴射量Qtgt_pilotあるいはこれに対応する通電時間を補正した後の実際の補助噴射量Qact_pilotは、目標補助噴射量Qtgt_pilotに限りなく近づけられる。
【0040】
3.制御方法のフローチャート
次に、これまで説明した制御装置60によって実行される蓄圧式燃料噴射装置50の制御方法の具体例を、図4及び図5のフローチャートに基づいて説明する。図4は、制御方法の全体的な流れを示すフローチャートであり、図5は、制御方法を具体的に示すフローチャートである。
【0041】
まず、ステップS1において、制御装置60は燃料無噴射状態を検出する。具体的には、ステップS11においてアクセル操作量Accやエンジン回転数Neが検出された後、ステップS12において目標燃料噴射量Qtgtが算出され、この目標燃料噴射量Qtgtの値に基づいてステップS13において燃料無噴射状態か否かの判別が行われる。
【0042】
燃料無噴射状態が検出されると、ステップS2において、制御装置60は、学習制御を実行する際の基準変動量ΔΩzfc0を現在の燃焼環境情報に応じて設定する。具体的に、本実施形態の制御装置60では、ステップS14において大気圧Pair_actが検出された後、ステップS15において、記憶されている基準変動量ΔΩzfc0A、ΔΩzfc0B・・・と、これらの基準変動量ΔΩzfc0A、ΔΩzfc0B・・・に対応する大気圧PairA、PairB・・・と、検出される大気圧Pair_actとに基づいて、現在の大気圧Pair_actに応じた基準変動量ΔΩzfc0が得られる。
【0043】
基準変動数ΔΩzfc0が設定されると、ステップS3において、制御装置60は学習制御を実行する。具体的には、ステップS16において、今回の学習制御実行時目標圧Ptgt_calが目標レール圧Ptgtとして設定され、ステップS17において、レール圧が制御される。次いで、ステップS18において学習制御を実行するインジェクタ13が選択された後、ステップS19において、噴射時間ETを変えながら複数回の微小噴射が実行される。
【0044】
微小噴射が実行される間、ステップS20では角速度Ωが読込まれ、ステップS21では、各噴射時間ETごとに角速度変動量ΔΩzfcが求められる。次いで、ステップS22において、角速度変動量ΔΩzfcの値がステップS2(S15)で設定された基準変動数ΔΩzfc0となる噴射時間ETzfc_actが求められる。このように実施される学習制御によって、現在の燃焼環境において、基準微小噴射量Qzfc0の燃料が噴射される噴射時間ETzfc_actが正確に学習される。
【0045】
学習制御によって噴射時間ETzfc_actが学習されると、ステップS4(S23)において、制御装置60は、基準インジェクタによって基準微小噴射量Qzfc0の燃料が噴射されると想定される基準噴射時間ETzfc0に対する噴射時間ETzfc_actの比率(ETzfc_act/ETzfc0)を求め、その値を補正係数αとして更新する。
【0046】
その結果、上述したステップS13において、目標燃料噴射量Qtgtがゼロで無く、燃料無噴射状態にないと判別されて進んだステップS24において、メイン噴射の前の補助噴射が実行される際には、目標補助噴射量Qtgt_pilot、又は目標補助噴射量Qtgt_pilot及びレール圧Prailに基づいて得られる通電時間に補正係数αを乗じることにより、補助噴射の噴射時間が補正され、補助噴射実行時の噴射量が目標補助噴射量Qtgt_pilotに合わせられるようになる。
【0047】
燃焼環境情報として大気圧以外の情報を使用する場合においては、当該情報の複数の異なる値ごとに角速度Ωの基準変動量をあらかじめ実験等によって求めておくことで、同様の制御を実施することができる。異なる種類の複数の燃焼環境情報を使用して、学習制御に用いる基準変動数を得るようにしてもよい。
【0048】
また、得られる補正係数αは、補助噴射実行時のインジェクタ13の制御量の補正に用いるだけでなく、メイン噴射等の他の噴射を実行する際のインジェクタ13の制御量の補正に用いることもできる。
【符号の説明】
【0049】
1:燃料タンク、2:低圧フィードポンプ、5:高圧ポンプ、5a:加圧室、7:プランジャ、8:流量制御弁、10:コモンレール、12:圧力制御弁、13:インジェクタ、14:オーバーフローバルブ、15:燃料吸入弁、16:燃料吐出弁、18:低圧供給通路、21:レール圧センサ、30a・30b・30c:リターン通路、37:高圧供給通路、40:内燃機関、41:気筒、42:ピストン、43:クランクシャフト、44:クランク角センサ、50:蓄圧式燃料噴射装置、60:制御装置、61:インジェクタ制御手段、62:無噴射状態検出手段、63:圧力制御手段、64:角速度検出手段、65:燃焼環境検出手段、66:学習制御手段、67:補正係数演算手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のインジェクタが接続されたコモンレールを備えた蓄圧式燃料噴射装置を制御して内燃機関の気筒内への燃料噴射制御を実行する蓄圧式燃料噴射装置の制御装置において、
指示噴射量に基づいて噴射時間を求めて前記インジェクタの駆動制御を行うインジェクタ制御手段と、
前記内燃機関の気筒内の燃焼環境情報を検出する燃焼環境検出手段と、
前記内燃機関への燃料無噴射状態を検出する無噴射状態検出手段と、
前記燃料無噴射状態が検出されたときに前記コモンレール内の圧力を所定圧力に制御する圧力制御手段と、
前記燃料無噴射状態が検出され、前記圧力が前記所定圧力となった後に、前記インジェクタ制御手段によって噴射時間を変えながら複数回の微小噴射を実行させ、前記微小噴射を実行したときの前記内燃機関のクランク角速度の変動量があらかじめ設定された基準噴射量によって得られる基準変動量となったときの噴射時間を学習する制御を実行する学習制御手段と、
前記基準噴射量が得られると想定される基準噴射時間と学習された前記噴射時間とを用いて前記インジェクタの駆動制御を行う際の補正係数を算出する補正係数演算手段と、を備え、
学習制御に使用する基準変動量を、前記燃焼環境検出手段によって検出される前記燃焼環境情報の値に応じて異ならせることを特徴とする蓄圧式燃料噴射装置の制御装置。
【請求項2】
前記基準変動量が燃焼環境情報の値に応じて設定された複数の基準変動量からなり、
前記学習制御手段は、前記複数の基準変動量に対応するそれぞれの燃焼環境情報の値と、前記燃焼環境検出手段によって検出された燃焼環境情報の値と、前記複数の基準変動量の値と、に基づいて前記学習制御に使用する基準変動量を求めることを特徴とする請求項1に記載の蓄圧式燃料噴射装置の制御装置。
【請求項3】
前記燃焼環境検出手段が、前記燃焼環境情報として、周囲の大気圧、前記内燃機関の冷却水温、周囲の外気温、前記内燃機関のブースト圧のいずれかを検出することを特徴とする請求項1又は2に記載の蓄圧式燃料噴射装置の制御装置。
【請求項4】
前記補正係数は、前記内燃機関の気筒の一サイクル中におけるメイン噴射の前に実行される補助噴射のための補正係数であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の蓄圧式燃料噴射装置の制御装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載された制御装置を備えた蓄圧式燃料噴射装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2011−256839(P2011−256839A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−134389(P2010−134389)
【出願日】平成22年6月11日(2010.6.11)
【出願人】(000003333)ボッシュ株式会社 (510)
【Fターム(参考)】