説明

蓄電装置を備えた電気鉄道のき電システム

【課題】蓄電装置を備えた電気鉄道のき電システムにおいて、蓄電装置の充放電を制御する電力変換装置が装備されていることが多いが、電力変換装置はノイズ源となるばかりでなく高価である。一方、電力変換装置を設けない場合は、蓄電装置が過充電もしくは過放電となる。
【解決手段】本発明は、き電システムの正の電位を有するき電線と負の電位を有する帰線の間に蓄電装置と直列にダイオードとスイッチを有する電流制御回路を備え、蓄電装置が過充電もしくは過放電となるときに、スイッチを開路することにより、過充電もしくは過放電を防止することにより、蓄電装置のき電線直結方式の優位性を保ちつつ、懸念事項となっていた、き電線の電圧変動による蓄電装置の過充電・過放電を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気鉄道の架線に直流電力を供給するき電システムに関し、詳しくは、電気鉄道における電力貯蔵設備の制御に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、電気鉄道用変電所は、電力会社から供給される交流電力を直流電力に変換してき電線へ供給する。き電線に供給された直流電力は、空中架線を経由し、パンタグラフを通じて電気車両に供給される。あるいは、直流電力は、き電線から第三軌条を介して電気車両に供給される。電気車両は、供給された直流電力を、電気車両に搭載した電力制御装置を介して所定の交流電力に変換して、走行用のモータに供給し、そこで電気エネルギーを走行エネルギーに変換して走行する。
【0003】
電気車両が消費するエネルギー量は車両の走行状態や走行路線の状況に応じて変化する。具体的には、加速時には電気車両に短時間に大電流が流れ、その結果、架線電圧または第三軌条電圧、さらにはき電線の電圧が一時的に降下する。一方、走行中の電気車両が減速する時には、回生ブレーキが作動して、走行用のモータは発電機となり架線等を経由して、線路上の他の電気車両に回生電力を送ろうとする。このとき、線路上に電力を必要とする電気車両があれば、その電気車両が回生電力を消費する。しかし、線路上に電力を必要とする電気車両がない場合は、回生電力は消費されず、架線等またはき電線の電圧は一時的に上昇する。
【0004】
このような一時的な電圧の下降上昇に対応するために、近年、き電回路に蓄電池やキャパシタなどを用いた蓄電装置を接続し、き電回路で余剰となった回生電力を蓄電装置へ吸収させたり、逆にき電回路で電力が不足した場合に蓄電装置から放電させたりすることによって、回生電力エネルギーの有効利用や、き電回路の電圧を安定化させる技術が実用化されている。
【0005】
特許文献1には、広大な面積を必要とせず、急速充放電特性に優れ、かつ廉価に製作できる電気鉄道用電力供給システムに関し、交流電力回線から受電する変圧器と変圧器に接続された整流装置と整流装置に接続されるき電線とを有する電気鉄道用変電所において、直流電力設備としてニッケル水素電池を有し、ニッケル水素電池がき電線に直結されてなる技術が開示されている。
【0006】
特許文献2には、エネルギー蓄積装置として、電気車からの回生電力を単に電池に蓄積して回生するのみでは、装置の利用効率及び設備効率が劣るため、これを解決するために、昇降圧チョッパは、き電線電圧が充電制御設定電圧以上にあるときにき電線から直流電力貯蔵装置への充電電流を制御し、き電線電圧が放電制御設定電圧以下にあるときに直流電力貯蔵装置からき電線への放電電流を制御するのに、直流電力貯蔵装置の電圧のうち、き電線への充放電に寄与しない電圧分を低くして所期の充放電電圧を得る高い昇降圧比にする。ストッパースイッチは直流電力貯蔵装置から昇降圧チョッパを通してき電線側への自然放電を阻止する。フィルタコンデンサとリアクトルは昇降圧チョッパからき電線側に流れる高調波を抑止する。電流検出器は昇降圧チョッパの充放電電流を制御するための電流検出を行う技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2009/107715号公報
【特許文献2】特開2001−260719号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
電気鉄道用電力供給において、蓄電装置をき電線に接続する方法として、大別して、次の2つの方法がある。第1の方法は、図1の概略構成図に示す方法であり、昇降圧チョッパ等からなる電力変換装置109を介して蓄電装置105をき電線106に接続する(例えば特許文献2)。第2の方法は、図2の概略構成図に示す方法であり、電力変換装置を介さず蓄電装置105をき電線106に直接接続する(例えば特許文献1)。
【0009】
電気車両101は、き電線106から架線102を介して電力の供給を受け走行を行い、回生ブレーキが作動時は走行用モータ104が発電機となり発生した回生電力はき電線106を介して変電所に送られて、図1の場合は電力変換装置109を介して、図2の場合は直接、蓄電装置105を充電することとなる。
【0010】
第1の方法(図1)において、電力変換装置109は、その入出力電圧を自在に調節する機能を有する。例えばき電線106の電圧が大きく変動し蓄電装置105の電圧と大きく乖離した場合も、電力変換装置109によって蓄電装置105の電圧を、き電線106の電圧に適合するよう制御することができる。すなわち、蓄電装置105の充電電流・放電電流を自在に調整することが可能である。
【0011】
その反面、電力変換装置109には制御時間遅れが発生するため、常に変動するき電線106の電圧に対し正確に追従制御させることが難しく蓄電装置105の性能を十分に発揮させるのは困難である。また、電力変換装置109の昇降圧チョッパから発生する高調波ノイズ等によって信号設備や車両制御装置等に電磁障害を引き起こす恐れがある。更に、第1の方法(図1)は、第2の方法(図2)と比較すると電力変換装置109が高価であり、システムが複雑となるため、メンテナンス負担の増大も懸念される。
【0012】
それに対し第2の方法(図2)は、き電線106と蓄電装置105が直結されており、昇降圧チョッパなどの電力変換装置が存在しないため、第1の方法(図1)で懸念される問題は無く、蓄電装置105の充電・放電性能を最大限発揮させることが可能である。
【0013】
その反面、き電線106と蓄電装置105が直結状態であるが故、き電線106の電圧が大きく変動し両者間の電圧が大きく乖離した場合、蓄電装置105の蓄電池が過放電、または過充電に陥る可能性がある。
【0014】
この過充電や過放電は、蓄電池の寿命に大きな影響を及ぼす恐れがあり、回避しなければならないが、従来技術では、高速度遮断器108(HSCB)を作動させて蓄電装置105をき電線106から切り離していた。すなわち蓄電装置105の機能を停止させる以外他の方法が無かった。
【0015】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、高価で高調波ノイズ源となる電力変換装置を用いることなく、かつ、蓄電装置を構成する蓄電池の過充電、過放電の生じる恐れの無い電気鉄道用のき電システムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0016】
前記した目的を達成するために、本発明に係る蓄電装置を備えた電気鉄道のき電システムは、蓄電装置を有する電気鉄道のき電システムにおいて、前記蓄電装置には電圧を調節する電力変換装置が設けられておらず、かつ、き電システムの正の電位を有するき電線と負の電位を有する帰線の間に前記蓄電装置と直列にダイオードとスイッチを配した電流制御回路を有することを特徴とする(CL1)。
【0017】
き電システムは、き電線、蓄電装置、高速度遮断器、電流制御回路および電池監視装置を主な構成要素として有している。なお、受電用の変圧器や整流装置、蓄電装置を充電するための充電装置が含まれていてもよい。
【0018】
この構成によれば、き電線と蓄電装置の電圧の相違を調節するための電力変換装置が蓄電装置に設けられていない。電力変換装置は、蓄電装置の端子電圧(出力電圧)が、き電線の電圧に適合するように調節する。電流制御回路はダイオードとスイッチとを主な構成素子としている。電流制御回路は、蓄電装置の正電位側に接続されていても、負電位側に接続されていてもよい。蓄電装置は二次電池の集合体であってもよく、また、電気二重層キャパシターであってもよい。
【0019】
本発明に係る蓄電装置を備えた電気鉄道のき電システムは、前記電流制御回路が前記蓄電装置に流れる電流の通流/遮断を行うことが好ましい(CL2)。
【0020】
この構成によれば、電流制御回路は電流の遮断もしくは通流を行う。電流を遮断すれば、電流制御回路と直列に接続された蓄電装置には電流が流れない。電流の通流を行えば、蓄電装置には電流が流れることとなる。ここに、電流の遮断はスイッチによって行うことが可能であるが、ダイオードによっても行うことが可能である。ダイオードは逆バイアス状態になれば、電流を遮断する。また、順バイアス状態となれば、電流は通流する。
【0021】
本発明に係る蓄電装置を備えた電気鉄道のき電システムは、前記電流制御回路が前記ダイオードと前記スイッチの並列回路で構成される(CL3)。
【0022】
この構成によれば、スイッチが閉路しておれば、ダイオードの接続方向に関係なく、電流を通流させる。スイッチが開路しておれば、ダイオードのバイアス状況により電流が遮断されもしくは通流する。
【0023】
本発明に係る蓄電装置を備えた電気鉄道のき電システムは、前記電流制御回路において、前記帰線から前記き電線に流れる電流を遮断する方向に前記ダイオードが接続される(CL4)。
【0024】
この構成によれば、ダイオードのアノードが蓄電装置の負電位側に接続され、カソードが帰線に接続されているか、もしくは、ダイオードのアノードがき電線に接続され、カソードが蓄電装置の正電位側に接続されている。そして、スイッチが閉路しておれば、ダイオードの存在に関係なく、電流を通流させる。一方、スイッチが開路しておれば、蓄電装置を充電する方向でのみ電流が流れ、放電する方向の電流は遮断される。
【0025】
本発明に係る蓄電装置を備えた電気鉄道のき電システムは、前記電流制御回路において、前記き電線から前記帰線に流れる電流を遮断する方向に前記ダイオードが接続される(CL5)。
【0026】
この構成によれば、ダイオードのカソードが蓄電装置の負電位側に接続され、アノードが帰線に接続されているか、もしくは、ダイオードのカソードがき電線に接続され、アノードが蓄電装置の正電位側に接続されている。そして、スイッチが閉路しておれば、ダイオードの存在に関係なく、電流を通流させる。一方、スイッチが開路しておれば、蓄電装置が放電する方向でのみ電流が流れ、充電する方向の電流は遮断される。
【0027】
本発明に係る蓄電装置を備えた電気鉄道のき電システムは、前記スイッチがパワー半導体素子であることが好ましい(CL6)。
【0028】
この構成によれば、スイッチに半導体素子を使用するので、機械的な接点を有しないので、保守作業が簡便化される。
【0029】
本発明に係る蓄電装置を備えた電気鉄道のき電システムにおいて、前記電流制御回路が、第1ダイオードと第1スイッチを直列に接続した第1回路と第2ダイオードと第2スイッチを直列に接続した第2回路を並列に接続した回路であって、第1ダイオードは前記帰線から前記き電線に流れる電流を遮断する方向に接続されており、第2ダイオードは前記き電線から前記帰線に流れる電流を遮断する方向に接続されている(CL7)。
【0030】
この構成によれば、スイッチとダイオードが直列に接続された回路を並列に接続して、一方のダイオードと他方のダイオードのバイアスの向きが反対になっている。
【0031】
本発明に係る蓄電装置を備えた電気鉄道のき電システムは、前記電流制御回路が2台のサイリスタの並列接続より構成される(CL8)。この構成によれば、並列に接続された一方のサイリスタと他方のサイリスタのバイアスの向きが反対になっている。
【0032】
本発明に係る電流制御回路は、スイッチと前記帰線から前記き電線に流れる電流を遮断する方向に接続されたダイオードが並列に接続されている(CL9)。
【発明の効果】
【0033】
図1に示すような高価な昇降圧チョッパ等の電力変換装置を用いることなく、図2に示すように蓄電装置をき電線に直結する優位性を維持したまま、従来技術で問題となっていた、き電線の電圧が大きく変動する場合に蓄電装置が過放電・過充電するという問題を解決することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】電力変換装置を介して蓄電装置がき電線に接続される従来技術のき電システムの概略構成図である。
【図2】蓄電装置が電力変換装置を介さずに、き電線に接続される従来技術のき電システムの概略構成図である。
【図3】本発明の第1の実施形態に係るき電システムの概略構成を示す図面である。
【図4】蓄電装置に用いた蓄電池の電圧−SOC特性の一例を示す図面である。
【図5】本発明の第2の実施形態に係るき電システムの概略構成を示す図面である。
【図6】本発明の第3の実施形態に係るき電システムの概略構成を示す図面である。
【図7】本発明の第4の実施形態に係るき電システムの概略構成を示す図面である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明に係る実施形態を図面に従って説明するが、本発明はこの実施形態に限定されるものではない。
【0036】
(第1の実施形態)
本発明に係る第1の実施形態を、図3に示す概略構成図を用いて説明する。
図3に示すき電システム9は、き電線6、蓄電装置5、高速度遮断器8、電流制御回路11および電池監視装置10を主な構成要素として有している。すなわち、
【0037】
蓄電装置5にはその電圧を調整する電力変換装置の代わりに、電流制御回路11が、き電システムの正の電位を有するき電線6と負の電位を有する帰線7の間に蓄電装置5と直列に接続されている。そして、蓄電装置5からの直流電力は、電流制御回路11の状態に応じて、き電線6を介して電気車両1に供給可能になっていて、また、回生電力が蓄電装置5に吸収可能に構成されている。
【0038】
蓄電装置5は、複数個の単位蓄電池(セル)を直列接続して構成されている。本実施形態では、き電線6の電圧が最大電圧を持続した場合においても蓄電装置5が過充電とならないように、単位蓄電池の直列数が選定されている。
【0039】
電流制御回路11には、蓄電装置5と直列に放電方向の電流を阻止するダイオード12と、ダイオード12と並列に開閉器13が設けられている。具体的には、ダイオード12のアノードが蓄電装置5の負電位側に接続され、ダイオード12のカソードが高速度遮断器8を介して、き電システム9の帰線7に接続されている。
【0040】
電池監視装置10は、蓄電装置5に取り付けられた各種計測器(図示せず)からの信号を配線16を介して電池監視装置10に読み込み、蓄電装置5の状態監視を行う。電池監視装置10に読み込まれる状態量としては、単位蓄電池の電圧(セル電圧)、蓄電装置5の温度、圧力および電流がある。状態監視において、蓄電装置5の異常が検知されれば、警報を出力する。更に、異常が進めば、配線18を介して高速度遮断器8を開放して、蓄電装置5の緊急停止を行う。
【0041】
また電池監視装置10は、高速度遮断器8や電流制御回路11の構成要素である開閉器13の開閉制御を行うと共に、電流値等の状態量から蓄電装置5のSOC(State Of Charge)の計算を行う。なお、開閉器13として遮断器、もしくはサイリスタやIGBT等の半導体素子を採用してもよい。
【0042】
次に、図3に示す第1の実施形態の動作を説明する。
本実施形態において、き電システムの定格電圧は600Vであり、想定される最大電圧を660Vとする。
【0043】
本実施形態で使用する蓄電装置5の蓄電池のSOC特性を図4に示す。SOCとは蓄電池の充電状態を示す量であり、100%が満充電状態、0%が完全放電状態を示す。すなわち、100%以上は過充電、0%以下は過放電状態であることを意味する。
【0044】
図4から、蓄電装置5が過充電・過放電とならないセル電圧を読み取ると、過充電とならない最大許容電圧はSOC100%時において約1.45V/セル、過放電とならない最小許容電圧はSOC0%において約1.25V/セルであることがわかる。
【0045】
ここで、想定される最大電圧660Vが持続した場合においても過充電とならない蓄電装置5の直列セル数を求めると、数1から、455.2セル以上必要であることがわかる。この結果から、図3の本実施形態では、蓄電装置5の単位蓄電池の直列数は456セルとした。
【0046】
【数1】

【0047】
次に、蓄電池が最低許容電圧となるき電線6の電圧を求めると、数2から、570Vとなる。すなわち、図3の本実施形態では、き電線6の電圧が持続的に570Vを下回る場合は、蓄電装置5は過放電に陥ることになる。
【0048】
【数2】

【0049】
図3の実施形態において、開閉器13が投入されている状態では従来技術である図2と同一回路構成となり、き電線6の電圧変動によって蓄電装置5は制限を受けることなく充放電を繰り返す。すなわち、
【0050】
蓄電装置5からの電流は、き電線6から架線2を介して電気車両1に供給されて、電気車両1が走行する。回生ブレーキが作動時は走行用モータ4が発電機となり、発生した回生電力はき電線6を介してき電システム9に送られて、蓄電装置5を充電する。
【0051】
ここで、き電線6の電圧が数2で求められた570Vを下回る状態が継続し、電池監視装置10が蓄電装置5の過放電、すなわちSOC0%を検出した場合、電池監視装置10は配線17を介して開閉器13を開放する。開閉器13が開放状態でも、き電線6から流入する回生電力等はダイオード12を通して蓄電装置5へ吸収される。しかし、放電方向の電流はダイオード12によって阻止されるため放電されなくなる。すなわち、蓄電装置5は充電のみが行われるため、蓄電装置5の過放電は防止される。
【0052】
その後、蓄電装置5が充電されて、例えば蓄電池のSOCが10%以上まで回復し過放電の恐れが無くなったと判断されると、開閉器13を再投入する。開閉器13を再投入すると、従来技術である図2と同等の回路となる。
【0053】
なお、開閉器13の開放条件として、蓄電池のSOC条件以外に、き電線6または蓄電装置5の電圧低下を条件としてもよい。同様に、開閉器13を再投入する条件として、SOC条件以外に、き電線6または蓄電装置5の電圧上昇を条件としてもよい。
【0054】
図3の本実施形態の場合、開閉器13が開放されている間もき電線6から蓄電装置5への充電は引き続き行われるため、余剰となった回生電力を吸収することを主目的とした蓄電装置5として有効に動作する。また、開閉器13の開閉制御に用いるSOC値を任意に設定することも可能であるため、蓄電装置5を任意のSOC以上に維持することが出来る、すなわち、変電所停電時のき電線6への非常給電を目的とした蓄電装置5としても有効である。例えば、SOC70%以下を検出した場合に開閉器13を開放する制御とすれば、蓄電装置5のSOCは常時70%以上に維持することができるため、万一、変電所が停電した場合にも、蓄電装置5からき電線6へSOC70%分の電力を供給することが可能となり、その電力を使用して線路上の電気車両を走行させることができる。
【0055】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態を図5に示す。
蓄電装置5は、き電線6の電圧が最低電圧を持続した場合にも過放電とならないように、単位蓄電池の直列数が選定されている。
【0056】
電流制御回路21には、蓄電装置5と直列に充電方向の電流を阻止するダイオード22と、ダイオード22と並列に開閉器23が設けられている。具体的には、ダイオード22のカソードが蓄電装置5の負電位側に接続され、ダイオード22のアノードが高速度遮断器8を介して、き電システム9の帰線7に接続されている。
【0057】
電池監視装置10は、図3の本発明の第1の実施形態と同様であるので説明を省略する。また、本発明の第1の実施形態と同様、開閉器23の代わりに遮断器、もしくはサイリスタやIGBTなどの半導体素子を採用しても良い。
【0058】
図5に示す本発明の第2の実施形態の動作について説明する。本実施形態において、き電線6の電圧の定格電圧は600Vであり、想定される最低電圧を560Vとした。
【0059】
また、第1の実施形態と同じく、使用する単位蓄電池の過充電とならない最大許容電圧を1.45V/セル、過放電とならない最小許容電圧を1.25V/セルであることが図4からわかる。
【0060】
ここで、最低電圧560Vが持続した場合にも、蓄電装置5が過放電とならない直列セル数を求めると、数3から、448セル以下とする必要があることがわかる。この結果から、本実施形態では、蓄電装置5の単位蓄電池の直列数を448セルとした。
【0061】
【数3】

【0062】
次に、蓄電池が最大許容電圧となるき電線6の電圧を求めると、数4から、649.6Vとなる。すなわち本実施形態では、き電線6の電圧が連続的に649.6Vを上回る場合、蓄電装置5は過充電に陥ることになる。
【0063】
【数4】

【0064】
本実施形態において、開閉器23が投入されている状態では従来技術である図2と同一回路構成となり、き電線6の電圧変動によって蓄電装置5は自由に充放電を繰り返す。すなわち、
【0065】
蓄電装置5からの電流は、き電線6から架線2を介して電気車両1に供給されて、電気車両1が走行する。回生ブレーキが作動時は走行用モータ4が発電機となり、発生した回生電力はき電線6を介してき電システム9に送られて、蓄電装置5を充電する。
【0066】
ここで、き電線6の電圧が数4で求められた649.6Vを上回る状態が継続し電池監視装置10が蓄電装置5の過充電、すなわちSOC100%を検出した場合、電池監視装置10は開閉器23を開放する。開閉器23が開放状態でも、蓄電装置5からき電線6へ電力が供給し続けられるが、充電方向の電流はダイオード22によって阻止されるため回生電力の吸収は行われない。すなわち、蓄電装置5は放電のみが行われるため、蓄電装置5の過充電は抑止される。
【0067】
その後、蓄電装置5からの放電によって、例えば蓄電池のSOCが90%以下まで低下し過充電の恐れが無くなったと判断されると、開閉器23を再投入する。開閉器23を再投入すると従来技術である図2と同等の回路となる。
【0068】
なお、開閉器23の開放条件として、蓄電装置5のSOC条件以外に、き電線6または蓄電装置5の電圧上昇を条件としても良い。同様に、開閉器23を再投入する条件として、SOC条件以外に、き電線6または蓄電装置5の電圧低下を条件としてもよい。
【0069】
本実施形態の場合、開閉器23が開放されている間も蓄電装置5からき電線6への電力供給は引き続き行われるため、主にき電電圧の低下抑制を目的とした電気鉄道用地上蓄電装置に有効である。
【0070】
(第3の実施形態)
次に図3および図5に示した第1および第2の実施形態の両方の特徴を併せ持つ第3の実施形態を図6に示す。
【0071】
蓄電装置5と直列に電流制御回路31が接続されている。電流制御回路31は、第1ダイオード32と第1開閉器33とが直列に接続された回路と、第2ダイオード34と第2開閉器35とが直列に接続された回路とが、並列に接続されて構成されている。そして、第1ダイオードは蓄電装置5の放電方向の電流を阻止する向きに接続されていて、第2ダイオード34は蓄電装置5の充電方向の電流を阻止する向きに接続されている。
【0072】
図6において、第1開閉器33と第2開閉器35の両方が投入されている場合、従来技術である図2と同等の回路となり、き電線6の電圧変動によって蓄電装置5は自由に充放電を繰り返す。
【0073】
もし、き電線6の電圧低下によって電池監視装置10が蓄電装置5のSOC0%を検出した場合、第1開閉器33の閉路を保持しつつ、第2開閉器35を開放すれば、き電線6からの回生電力は第1ダイオード32を通して蓄電装置5へ吸収されるものの、放電方向の電流は第1ダイオード32によって阻止されるため放電は行われず蓄電装置5のSOCは上昇する。すなわち、図3に示す第1の実施形態と同等の動作となる。
【0074】
また逆に、き電線6の電圧上昇によって電池監視装置10が蓄電装置5のSOC100%を検出した場合、第1開閉器33を開放しつつ、第2開閉器35の投入を保持すれば、蓄電装置5からき電線6への電力供給は第2ダイオード34を通して行われるものの、充電方向の電流は第2ダイオード34によって阻止されるため回生電力の吸収は行われず蓄電装置5のSOCは低下する。すなわち、図5に示す第2の実施形態と同等の動作となる。なお、第1および第2開閉器33,35の開放後の再投入条件は、第1および第2実施形態と同じである。
【0075】
また図6の本実施形態でも、第1および第2実施形態と同様、第1および第2開閉器33,35を開放/再投入させる条件は、蓄電装置5のSOC条件以外に、き電線6の電圧または、蓄電装置5の電圧の上昇/低下を条件としてもよいことは当然である。
【0076】
また、図6の本実施形態でも第1および第2開閉器33,35の代わりに遮断器、もしくはサイリスタなどの半導体素子を採用してもよい。半導体素子を採用する場合は、半導体素子自身が整流作用を有しているため、第1および第2ダイオード32,34を省略することも可能となる。
【0077】
(第4の実施形態)
図7に示す本発明の第4の実施形態によれば、開閉器の代わりに、サイリスタを採用することができる。互いに極性が反対となるように第1サイリスタ43と第2サイリスタ44を並列に接続して、電流制御回路41を構成する。サイリスタを使用すれば、ダイオードは省略することができる。
【0078】
図7において、第1サイリスタ43と第2サイリスタ44の両方が導通状態のとき、従来技術である図2と同等の回路となり、き電線6の電圧変動によって蓄電装置5は自由に充放電を繰り返す。
【0079】
もし、き電線6の電圧低下によって電池監視装置10が蓄電装置5のSOC0%を検出した場合、第1サイリスタ43を導通状態に保持しつつ、第2サイリスタ44を遮断状態にすれば、き電線6からの回生電力は第1サイリスタ43を通して蓄電装置5へ吸収されるものの、放電方向の電流は第2サイリスタ44によって阻止されるため放電は行われず蓄電装置5のSOCは上昇する。すなわち、図3に示す第1の実施形態と同等の動作となる。
【0080】
また逆に、き電線6の電圧上昇によって電池監視装置10が蓄電装置5のSOC100%を検出した場合、第1サイリスタ43を遮断状態にしつつ、第2サイリスタ44を導通状態に保持すれば、蓄電装置5からき電線6への電力供給は第2サイリスタ44を通して行われるものの、充電方向の電流は第1サイリスタ43によって阻止されるため回生電力の吸収は行われず蓄電装置5のSOCは低下する。すなわち、図5に示す第2の実施形態と同等の動作となる。なお、第1サイリスタ43および第2サイリスタ44の遮断後の再導通条件は、第1および第2実施形態と同じである。
【0081】
以上、本発明によれば、図1に示す高価な昇降圧チョッパ等の電力変換装置を用いることなく、図2に示すように蓄電装置をき電線に直結する優位性を維持したまま、従来技術で問題となっていた、き電線6の電圧が大きく変動する場合の蓄電装置が過放電もしくは過充電するという問題を解決することが可能となる。
【0082】
本実施形態は、蓄電装置と直列にダイオードなどの整流作用を有する手段と、開閉器などの電流を遮断する手段を追加することによって、図2における直結方式の優位性を保ちつつ、懸念事項となっていた、き電線6の電圧変動による蓄電装置の過充電・過放電を解決するための発明である。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明に係る電気鉄道用蓄電装置の制御装置は、電気鉄道のき電システムの制御装置として好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0084】
1 電気車両
2 架線
4 走行用モータ
5 蓄電装置
6 き電線
7 帰線
8 高速度遮断器
9 き電システム
10 電池監視装置
11 電流制御回路
12 ダイオード
13 開閉器
16 配線
17 配線
18 配線
21 電流制御回路
22 ダイオード
23 開閉器
31 電流制御回路
32 第1ダイオード
33 第1開閉器
34 第2ダイオード
35 第2開閉器
41 電流制御回路
43 第1サイリスタ
44 第2サイリスタ
101 電気車両
102 架線
104 走行用モータ
105 蓄電装置
106 き電線
108 高速度遮断器
109 電力変換装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄電装置を有する電気鉄道のき電システムであって、
前記蓄電装置には電圧を調節する電力変換機が設けられておらず、
かつ、き電システムの正の電位を有するき電線と負の電位を有する帰線の間にダイオードとスイッチを有する電流制御回路が前記蓄電装置と直列に接続されてなる蓄電装置を備えた電気鉄道のき電システム。
【請求項2】
前記電流制御回路が前記蓄電装置に流れる電流の通流/遮断を行う請求項1に記載の蓄電装置を備えた電気鉄道のき電システム。
【請求項3】
前記電流制御回路が前記ダイオードと前記スイッチの並列回路で構成される請求項1または2のいずれか一項に記載の蓄電装置を備えた電気鉄道のき電システム。
【請求項4】
前記電流制御回路において、
前記帰線から前記き電線に流れる電流を遮断する方向に前記ダイオードが接続される請求項1〜3のいずれか一項に記載の蓄電装置を備えた電気鉄道のき電システム。
【請求項5】
前記電流制御回路において、
前記き電線から前記帰線に流れる電流を遮断する方向に前記ダイオードが接続される請求項1〜3のいずれか一項に記載の蓄電装置を備えた電気鉄道のき電システム。
【請求項6】
前記スイッチがパワー半導体素子である請求項1〜5のいずれか一項に記載の蓄電装置を備えた電気鉄道のき電システム。
【請求項7】
前記電流制御回路が、第1ダイオードと第1スイッチを直列に接続した第1回路と、第2ダイオードと第2スイッチを直列に接続した第2回路を並列に接続した回路であって、
第1ダイオードは前記帰線から前記き電線に流れる電流を遮断する方向に接続されており、第2ダイオードは前記き電線から前記帰線に流れる電流を遮断する方向に接続されている請求項1または2のいずれか一項に記載の蓄電装置を備えた電気鉄道のき電システム。
【請求項8】
前記電流制御回路が2台のサイリスタの並列接続より構成される請求項1または2のいずれか一項に記載の蓄電装置を備えた電気鉄道のき電システム。
【請求項9】
請求項1または2のいずれか一項に記載の電流制御回路であって、
スイッチと前記帰線から前記き電線に流れる電流を遮断する方向に接続されたダイオードが並列に接続されている電流制御回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−18464(P2013−18464A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−155882(P2011−155882)
【出願日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【出願人】(000000974)川崎重工業株式会社 (1,710)
【Fターム(参考)】