説明

衝撃緩和機能付きノック式筆記具

【課題】ペン先を収納するリターン動作時のリフィールにかかる衝撃において、部品点数を増やすことなく緩和できるノック式筆記具を提供する。
【解決手段】先端に筆記部を有するリフィール6と、それを後方へ付勢するスプリング5と、軸筒1後端より突出するノック棒4を有し、ノック棒4とリフィール6との間には回転子3を備え、ノック棒4と回転子3は対応した第一のカム斜面を有し、回転子3は軸筒1に固定された内筒2とも対応した第二のカム斜面を有しており、ノック操作を行うと、スプリング5の反発力により、第一のカム斜面、第二のカム斜面が順次噛み合っていくことにより、回転子3が所定角度ずつ一定方向に回転し、リフィール6を筆記位置、収納位置に保つよう構成されたノック式筆記具において、回転子3の第一のカム斜面と第二のカム斜面の間に弾性部を備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸後端部のノック棒を押すとペン先が繰り出され、もう一度ノック棒を押すとペン先が引っ込むノック式筆記具に関し、特にノック解除時にリフィールにかかる衝撃を緩和する機構を備えたノック式筆記具に関する。
【背景技術】
【0002】
ノック式筆記具の機構の一つであるカーンノック式筆記具では、筆記状態からノック操作をし、ノック棒から手を離すリターン動作をすると、スプリングの反発力で回転子が後方へ押し付けられるため、回転子第二のカムが内筒のカムに沿って垂直移動し、ペン先収納位置となる。このリターン動作における垂直移動時の衝突によって、リフィールに衝撃がかかり、特に水性インクやゲルインクにおいてはリフィール内部のインクがずれたり、漏れ出したり、リフィール先端より空気を巻き込んで筆記かすれを生じさせたりする可能性があるため、この垂直移動時の衝撃を緩和する機構が望まれていた。これに対し、特許文献1〜3といった対策品が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−193585号公報
【特許文献2】特開2004−255682号公報
【特許文献3】特開2008−100410号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら上記特許文献1〜3の方式では、代表的なカーンノック機構を採用できない点や、カーンノック機構を採用した場合には部品点数が増加してしまうといった問題があった。
本発明は、カーンノック機構を採用しつつ、なおかつ部品点数を増やすことなく衝撃緩和を実現できるノック式筆記具を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、先端に筆記部を有するリフィールと、それを後方へ付勢するスプリングと、リフィール後方に配置され軸筒後端より突出するノック棒を有し、ノック棒を押圧することでリフィールが筆記位置となるノック式筆記具であって、ノック棒とリフィールとの間には回転子を備え、ノック棒と回転子は対応した第一のカム斜面を有し、回転子は軸筒に固定された内筒とも対応した第二のカム斜面を有しており、ノック操作を行うと、スプリングの反発力により、第一のカム斜面、第二のカム斜面が順次噛み合っていくことにより、回転子が所定角度ずつ一定方向に回転し、リフィールを筆記位置、収納位置に保つよう構成されたノック式筆記具において、回転子の第一のカム斜面と第二のカム斜面の間に弾性部を備えることを特徴とする。これにより、リターン動作時にリフィールにかかる衝撃を緩和することができる。
【0006】
請求項2に記載の発明は、さらに、上記弾性部は、第一のカム斜面と第二のカム斜面の間の回転子の円筒部に沿って、回転子自体に切り欠きを設けることにより形成されることを特徴とする。これにより、リターン動作時にリフィールにかかる衝撃を少ない部品点数で緩和することができる。
請求項3に記載の発明は、さらに、第一のカム面が回転子後端面に配置されることを特徴とする。これにより、シンプルな構成で上記衝撃の緩和を行うことができる。
請求項4に記載の発明は、さらに、回転子と内筒の第二のカム面はリード角45度以上とすることを特徴とする。これにより、リターン動作時に上記カム面の衝突による衝撃を軽減し、リフィールにかかる衝撃をさらに緩和することができる。
請求項5に記載の発明は、回転子の切り欠きを略らせん状にすることで、回転子自体の弾力性をより向上させ、リフィールにかかる衝撃をさらに緩和することができる。
【発明の効果】
【0007】
以上説明したように、本発明の衝撃緩和機能付きノック式筆記具は、上記の弾性部を設けることで、リターン動作時にリフィールにかかる衝撃を緩和でき、水性インクやゲルインクを使用した場合でも、インク洩れや気泡発生等の不具合の防止を、少ない部品点数で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の衝撃緩和機能付きノック式筆記具の一実施形態を示す図であり、(a)は筆記状態を、(b)は収納状態を示す断面図である。
【図2】本実施形態の内筒を示す図であり、(a)は外形図、(b)は内部のカム機構を示す断面図である。
【図3】本実施形態の回転子の第1の実施例を示す図であり、(a)は上面図、(b)は正面図、(c)は斜視図である。
【図4】本実施形態のノック棒を示す図であり、(a)は上面図、(b)は正面図、(c)は断面図、(d)は斜視図である。
【図5】本実施形態のノック式筆記具のカム展開図であり、ノック動作中のカムの動きを示す。
【図6】本実施形態のノック式筆記具のカム展開図であり、リターン動作中のカムの動きを示す。
【図7】本実施形態のノック式筆記具の回転子の他の実施例を示す図であり、(a)〜(f)はそれぞれの回転子の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の一実施形態について説明する。
本実施形態のノック式筆記具は、カーンノック方式の筆記具であって、ノック操作によりリフィールを筆記位置、収納位置に移動させる。以下に、各部品および動作について説明する。
【0010】
図1に示す軸筒1の内部には、リフィール6及びリフィール6をノック棒4に向けて付勢するスプリング5が配設されている。また、軸筒1の上部には内筒2が嵌め込まれている。なお、図1(a)及び(b)は各々後述する筆記状態及び収納状態を示している。
【0011】
図1及び図2に示す内筒2には、内壁面にノック棒4の回り止め4b用の溝、及びリフィール6の位置決め用の内筒カム2aが配設されている。また、内筒2の上部には後述するペン先の収納時に、上記回り止め4bの上面と当接するアゴ部2bが設けられている。
【0012】
図1及び図3に第1の実施形態を示す回転子3は、上端部にノック棒カム4a部に当接する第1のカム3aと略中間部にリフィール6の位置決め用の第2のカム3bを備えた円筒状の部材である。第1のカム3aと第2のカム3bの間の円筒部Aに沿って略らせん形状の切り欠きBを設けることで、回転子3はこの部分(弾性部3c)で軸方向に伸縮可能となり、バネと同様の性質を持つことになる。すなわち、本実施形態では弾性部3cを回転子3と一体的に形成している。しかしながら、この弾性部3cは本実施形態のように必ずしも回転子3と一体的でなくてもよく、また弾性変形可能な材料で2色成形にて作製されても良い。この弾性部3cは、ノック操作時の変形や長期保存時のクリープ性などを考慮し、後述するスプリング5のバネ定数より大きいバネ定数を有することが望ましい。
【0013】
図1及び図4に示すノック棒4は、筆記具の尾端に配設される円筒状の部材で、片側が閉じられたコップ状に形成されている。コップ内側底面には回転子3上端面のカムと当接するノック棒カム4aが設けられている。また外周部には内筒2の溝内を摺動する回り止め4bが配設されている。回り止め4bの上面は上述のように、ペン先収納時に内筒2のアゴ部2bと当接する。
【0014】
ノック棒カム4aと第1のカム3aとはお互いに対応する山型状のカム斜面を有しており、非ノック動作時においては、この山型のピッチがずらして配設されている。ノック棒4は、回り止め4bが内筒2の内壁面に設けられた上記の溝内を摺動するため、周方向の回転が規制されている。軸方向へのノック動作により、ノック棒カム4aと第1のカム3aとが噛合うことで回転子3には一定方向への回転力が与えられ、回転子3は後述のように、第2のカム3bを内筒カム2aに当接させながら移動し、ノック操作毎に一定方向へ回転する。
【0015】
次にノック操作及びノック解除について説明する。
ノック操作とは、ノック棒4を押し込んで、指を放して開放するまでの操作であって、ペン先を後退した状態から筆記位置に移行させる場合を指し、この場合の各カムの動きをノック動作という。これに対してノック解除とは、同じくノック棒4を押し込んでから放す操作であるが、ペン先を筆記位置から収納位置に移行させる場合を指し、この場合の各カムの動きをリターン動作という。
【0016】
まず、ノック操作によるノック動作について図5のカム展開図を用いて説明する。このカム展開図は、回転子3の外周面に設けられた第2のカム3bが、内筒2の内周面に設けられた内筒カム2aに対して、ノック動作中どの位置にあり、どの面と接触しているかを示すものである。内筒2の内周全周を展開して示しているが、2箇所ある第2のカム3bについては便宜上1箇所のみの動きを示す。図の上方がノック棒4側であり、下方がペン先側である。
【0017】
図5(a)はペン先が収納状態(図1(b)参照)の回転子3の第2のカム3bの位置を示す。ここからノック棒4をノック操作すると、ノック棒4に押され回転子3とリフィール6が前進する(ノック1)。その時、回転子3はノック棒カム4aと第1のカム3aとの関係から回転力が付与される。しかしながら内筒カム2aの縦壁で回転を規制されており、回転子3第2のカム3bが内筒カム2aの縦壁を越えた位置まで前進した時点(ノック2)で、規制がなくなり回転子3は上記回転力によりわずかに回転する(ノック3)。
【0018】
ノック棒4から手を離すと、回転子3の第2のカム3bが内筒カム2aに沿って回転運動する。この際、ペン先の筆記位置で内筒カム2aの縦壁に当たり回転が止まり、スプリング5により回転子3が内筒カム2aの斜面に押し付けられることで図5(e)に示す筆記状態となる。このときペン先及びノック機構は図1(a)に示す状態となっている。
【0019】
次にノック解除によるリターン動作について、上記と同様に図6のカム展開図を用いて説明する。
図6(a)は上述した第2のカム3bの位置(筆記状態)を示す。ここからノック棒4をノック解除すると、ノック操作同様、回転子3はノック棒カム4aと第1のカム3aとの関係から回転力が付与される。この時も内筒カム2aの縦壁で回転を規制されており、縦壁を越えた位置まで前進した時点(リターン1)で回転子3は上記回転力によりわずかに回転する(リターン2)。
【0020】
図6(c)でノック棒4から手を離すと、リフィール6及び回転子3はノック棒4とともにスプリング5の反発力により後退し、第2のカム3bが内筒カム2aの斜面に衝突する(リターン3)。この時、図6(e)に示す内筒カム2a斜面のリード角θが大きければ、カム斜面に当接したときの衝撃は少ない。第2のカム3bはさらに内筒カム2aの斜面に沿って収納位置まで後退する(収納状態)。このときリフィール6、回転子3及びノック棒4は一体となって後退し、収納位置まで後退した瞬間にノック棒4が、回り止め4b上面と内筒2のアゴ部2bが衝突することにより停止する。同時に回転子3とノック棒4とは、お互いのカム面、すなわち第1のカム3aとノック棒カム4aのカム面で衝撃力を受け、回転子3と一体となったリフィール6も互いの接触面から衝撃力を受ける。このときペン先及びノック機構は図1(b)に示す状態となっている。
【0021】
本発明のノック式筆記具では、上記の衝突に対して、回転子3円筒部に弾性部3cを設けており、この弾性部3cの変形によりリフィール6への衝撃力を緩和させることができる。また、上記衝撃力が回転子3とノック棒4の上記カム面で発生するように、内筒カム2aと、第2のカム3bとの間にはクリアランスCが設けられている。この部分が衝突してしまうと回転子3の弾性部3cによる衝撃力の吸収が十分に行えないからである。
【0022】
図7(a)〜(f)に弾性部3cのバリエーションによる回転子3の他の実施例を示す。各図において弾性部3cには回転子自体に略らせん状の切り欠きが設けられている。
【0023】
本発明のノック式筆記具は、以上説明した構成により、リターン動作時のリフィールへの衝撃を緩和することで、リフィール内部のインクのずれや漏れ出し及び筆記かすれを、カーンノック機構を採用しつつ、なおかつ部品点数を増やすことなく防止することができる。
【符号の説明】
【0024】
1 軸筒
2 内筒
2a 内筒カム
2b アゴ部
3 回転子
3a 第1のカム
3b 第2のカム
3c 弾性部
4 ノック棒
4a ノック棒カム
4b 回り止め
5 スプリング
6 リフィール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端に筆記部を有するリフィールと、それを後方へ付勢するスプリングと、リフィール後方に配置され軸筒後端より突出するノック棒を有し、ノック棒を押圧することでリフィールが筆記位置となるノック式筆記具であって、
ノック棒とリフィールとの間には回転子を備え、ノック棒と回転子は対応した第一のカム斜面を有し、回転子は軸筒に固定された内筒とも対応した第二のカム斜面を有しており、ノック操作を行うと、スプリングの反発力により、第一のカム斜面、第二のカム斜面が順次噛み合っていくことにより、回転子が所定角度ずつ一定方向に回転し、リフィールを筆記位置、収納位置に保つよう構成されたノック式筆記具において、
回転子の第一のカム斜面と第二のカム斜面の間に弾性部を備えることを特徴とするノック式筆記具。
【請求項2】
上記弾性部は、第一のカム斜面と第二のカム斜面の間の回転子の円筒部に沿って、回転子自体に切り欠きを設けることにより形成されることを特徴とする請求項1に記載のノック式筆記具。
【請求項3】
第一のカム面が回転子後端面に配置されることを特徴とする請求項1または2に記載のノック式筆記具。
【請求項4】
回転子と内筒の第二のカム面はリード角45度以上とすることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のノック式筆記具。
【請求項5】
回転子に形成される切り欠きは略らせん状である請求項2〜4のいずれか1項に記載の
ノック式筆記具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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