説明

表面処理皮膜付き硬質粒子の製造方法及び表面処理皮膜付き硬質粒子

【課題】低コストで製造できる湿式法を用い、ダイヤモンドやCBN等の不活性な硬質粒子の表面に均一な表面処理皮膜を形成して分散性の良い表面処理皮膜付き硬質粒子を製造する方法等を提供する。
【解決手段】ヌープ硬度が1000以上の硬質粒子2を準備する工程と、その硬質粒子2をZr、Ti、Si、Cr、Ta、Hf、Sn、Mo、W、Zn、In及びVから選ばれる1種又は2種以上の金属のフッ化物錯体を含む水溶液中に保持して、前記硬質粒子2の表面に前記金属の水和酸化物含有膜3’を形成する工程と、前記金属の水和酸化物含有膜3’が形成された硬質粒子を乾燥させる工程と、を有する方法により、表面処理皮膜付き硬質粒子1を製造した。水和酸化物含有膜形成工程と乾燥工程との間には、リン化合物を含有する水溶液への接触工程を設けることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面処理皮膜付き硬質粒子及びその水性ディスパージョンの製造方法、並びにその製造方法で製造された表面処理皮膜付き硬質粒子及びその水性ディスパージョンに関する。
【背景技術】
【0002】
炭化ケイ素、炭化タングステン、炭化クロム、炭化ホウ素、ダイヤモンド、CBN等の硬質粒子を金属又は樹脂等の母相中に分散させる場合、それら硬質粒子の分散性や母相との間の密着性が不十分なことがある。そのため、分散性や母相との密着性を向上させるため、それら硬質粒子の表面に表面処理皮膜を形成することがある。
【0003】
硬質粒子の表面に表面処理皮膜を形成するための技術として、気相化学成長法で金属、酸化物又は炭化物等を析出させる方法(特許文献1,2を参照)や、無電解めっき法で金属膜を析出させる方法(特許文献3を参照)が提案されている。また、硬質粒子の表面をシランカップリング剤で処理する方法や、硬質粒子の表面にめっき皮膜や焼付皮膜を形成した後、さらにその表面をシランカップリング剤で処理する方法が提案されている(特許文献4,5を参照)。シランカップリング剤による処理方法として、シランカップリング剤を含む処理液中に硬質粒子を浸漬して引き上げ、その後そのまま乾燥し焼成する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭61−297079号公報
【特許文献2】特開平1−234166号公報
【特許文献3】特公昭52−49197号公報
【特許文献4】特開昭62−99082号公報
【特許文献5】特開2004−74330号公報
【特許文献6】特開昭59−141441号公報
【特許文献7】特開平1−93443号公報
【特許文献8】特開平3−285822号公報
【特許文献9】特開昭57−196744号公報
【特許文献10】特開昭64−28376号公報
【特許文献11】特開昭64−28377号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1〜3で提案された方法では、硬質粒子の表面に均一に表面処理皮膜を成膜できるとされているが、成膜装置が高価であったり成膜プロセスが複雑で高コストであったりするという問題がある。また、特許文献4,5で提案された方法は、低コストが期待される湿式法による表面処理方法であるが、硬質粒子の表面に生成した皮膜の均一性に問題がある。
【0006】
本発明は、上記した従来技術の問題を解決するためになされたものであって、その目的は、均一で母相に対する分散性と密着性の良い表面処理皮膜を成膜してなる表面処理皮膜付き硬質粒子を低コストで製造できる方法を提供することにある。また、その表面処理皮膜付き硬質粒子を分散安定性よく含有する水性ディスパージョンの製造方法を提供することにある。
【0007】
本発明の他の目的は、その方法で製造された表面処理皮膜付き硬質粒子、及びその表面処理皮膜付き硬質粒子を分散安定性よく含有する水性ディスパージョンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)上記課題を解決するための本発明に係る表面処理皮膜付き硬質粒子の製造方法は、ヌープ硬度が1000以上の硬質粒子を準備する工程(準備工程)と、該硬質粒子をZr、Ti、Si、Cr、Ta、Hf、Sn、Mo、W、Zn、In及びVから選ばれる1種又は2種以上の金属のフッ化物錯体を含む水溶液中に保持して、前記硬質粒子の表面に前記金属の水和酸化物含有膜を形成する工程(水和酸化物含有膜形成工程)と、前記金属の水和酸化物含有膜が形成された硬質粒子を乾燥させる工程(乾燥工程)とを有することを特徴とする。
【0009】
この発明によれば、硬質粒子を金属のフッ化物錯体溶液を含む水溶液中に保持して該金属の水和酸化物含有膜を形成するので、高価な装置や複雑な成膜条件を必要とせずに、表面処理皮膜付き硬質粒子を製造でき、製造コストの低減を図ることができる。また、水和酸化物含有膜は硬質粒子の表面に均一に形成されており、水分散性も良好であり、金属中や樹脂中に分散させても良好な分散性と密着性を示すことができる。
【0010】
本発明に係る表面処理皮膜付き硬質粒子の製造方法において、前記水和酸化物含有膜形成工程と前記乾燥工程との間に、リン化合物を含有する水溶液への接触工程を設ける。
【0011】
この発明によれば、水和酸化物含有膜を形成した硬質粒子をリン化合物含有水溶液に接触させるので、水和酸化物含有膜上にリン化合物が吸着してリン化合物吸着膜となる。リン化合物吸着膜をさらに設けた硬質粒子は、水分散性と、金属中や樹脂中への分散性及び密着性とをより良好なものとすることができる。この理由は、リン化合物吸着膜を設けることにより、硬質粒子表面の表面電荷が強まったためであろうと考えられる。
【0012】
本発明に係る表面処理皮膜付き硬質粒子の製造方法において、前記乾燥工程後に、大気雰囲気、非酸化雰囲気又は還元雰囲気の条件下で熱処理する工程(熱処理工程)を設ける。
【0013】
この発明によれば、記乾燥工程後の熱処理工程を、大気雰囲気、非酸化雰囲気又は還元雰囲気のいずれの条件下で行うかによって、金属の水和酸化物含有膜を、金属酸化物、金属窒化物、金属酸窒化物、金属炭化物等からなる金属化合物膜とすることができる。
【0014】
本発明に係る表面処理皮膜付き硬質粒子の製造方法において、前記熱処理工程が、酸素分圧50Torr以下の非酸化雰囲気下又は還元雰囲気下で、400℃以上の温度で熱処理する工程である。
【0015】
この発明によれば、上記条件で熱処理するので、硬質粒子表面に設けた表面処理皮膜をより均一且つより安定なものとすることができ、良好な水分散性と、金属中や樹脂中への良好な分散性と密着性を達成することができる。
【0016】
(2)上記課題を解決するための本発明に係る表面処理皮膜付き硬質粒子を含有する水性ディスパージョンの製造方法は、ヌープ硬度が1000以上の硬質粒子を準備する工程(準備工程)と、該硬質粒子をZr、Ti、Si、Cr、Ta、Hf、Sn、Mo、W、Zn、In及びVから選ばれる1種又は2種以上の金属のフッ化物錯体を含む水溶液中に保持して、前記硬質粒子の表面に前記金属の水和酸化物含有膜を形成する工程(水和酸化物含有膜形成工程)と、前記金属の水和酸化物含有膜が形成された硬質粒子を水性溶媒に懸濁する工程(懸濁工程)とを有することを特徴とする。
【0017】
この発明によれば、硬質粒子を金属のフッ化物錯体溶液を含む水溶液中に保持して該金属の水和酸化物含有膜を形成するので、高価な装置や複雑な成膜条件を必要とせずに、表面処理皮膜付き硬質粒子を製造でき、製造コストの低減を図ることができる。また、水和酸化物含有膜は硬質粒子の表面に均一に形成されており、水分散性も良好であり、金属中や樹脂中に分散させても良好な分散性と密着性を示すことができる。
【0018】
この発明によれば、硬質粒子を金属のフッ化物錯体溶液を含む水溶液中に保持して該金属の水和酸化物含有膜を形成し、その後に水性溶媒に懸濁することにより、硬質粒子の表面に設けられた水和物酸化物膜が水性溶媒に対して良好な相溶性と分散性及び分散安定性とを示す。その結果、得られた表面処理皮膜付き硬質粒子は、水性溶媒中で良好な分散性及び分散安定性を示すので、この表面処理皮膜付き硬質粒子を分散原料として用いる場合に、凝集等の不具合がなく、金属中や樹脂中への分散原料として好ましく提供できる。また、水和酸化物含有膜の形成に、高価な装置や複雑な成膜条件を必要としないので、表面処理皮膜付き硬質粒子を容易に製造でき、製造コストの低減を図ることができる。
【0019】
本発明に係る表面処理皮膜付き硬質粒子を含有する水性ディスパージョンの製造方法において、前記水和酸化物含有膜形成工程と前記懸濁工程との間に、リン化合物を含有する水溶液への接触工程を設ける。
【0020】
この発明によれば、水和酸化物含有膜を形成した硬質粒子をリン化合物含有水溶液に接触させるので、水和酸化物含有膜上にリン化合物が吸着してリン化合物吸着膜となる。その後に水性溶媒中に懸濁することにより、リン化合物吸着膜が設けられた水和酸化物含有膜は、水性溶媒に対してより良好な相溶性と分散性を示す。
【0021】
(3)上記課題を解決するための本発明に係る表面処理皮膜付き硬質粒子は、ヌープ硬度が1000以上の硬質粒子と、該硬質粒子の表面に設けられたZr、Ti、Si、Cr、Ta、Hf、Sn、Mo、W、Zn、In及びVから選ばれる1種又は2種以上の金属化合物膜とを有することを特徴とする。
【0022】
この発明によれば、上記金属化合物膜が硬質粒子の表面に設けられているので、水分散性が良好で、金属中や樹脂中に分散させても良好な分散性と密着性を示すことができる。
【0023】
本発明に係る表面処理皮膜付き硬質粒子において、前記金属化合物膜が、前記金属の酸化物、水酸化物、窒化物及び炭化物の中から選ばれる少なくとも1種の金属化合物を含むことが好ましい。このとき、金属化合物膜中の金属元素量は1〜500mg/mであることが好ましい。
【0024】
本発明に係る表面処理皮膜付き硬質粒子において、前記金属化合物膜の表面にリン化合物膜が形成されていることが好ましい。このとき、リン化合物膜中のリン化合物量が1〜100mg/mであることが好ましい。
【0025】
(4)上記課題を解決するための本発明に係る表面処理皮膜付き硬質粒子を含有する水性ディスパージョンは、ヌープ硬度が1000以上の硬質粒子の表面に、Zr、Ti、Si、Cr、Ta、Hf、Sn、Mo、W、Zn、In及びVから選ばれる1種又は2種以上の金属の水和酸化物含有膜を有する表面処理皮膜付き硬質粒子と、該表面処理皮膜付き硬質粒子が懸濁されている水性溶媒とを有することを特徴とする。
【0026】
この発明は、ヌープ硬度が1000以上の硬質粒子の表面に各種金属の水和酸化物含有膜を有する表面処理皮膜付き硬質粒子を、水性溶媒に懸濁してなる水性ディスパージョンであるので、懸濁した硬質粒子の表面に設けられた水和物酸化物膜が水性溶媒に対して良好な相溶性と分散性及び分散安定性とを示す。その結果、この水性ディスパージョンは、水性溶媒中で良好な長期分散性を示すので、この水性ディスパージョンを分散原料として用いる場合に、凝集等の不具合がなく、金属中や樹脂中への分散原料として好ましく提供できる。
【0027】
本発明に係る表面処理皮膜付き硬質粒子を含有する水性ディスパージョンにおいて、前記金属化合物膜が、前記金属の酸化物、水酸化物、窒化物及び炭化物の中から選ばれる少なくとも1種の金属化合物を含むことが好ましい。このとき、金属化合物膜中の金属元素量は1〜200mg/mであることが好ましい。
【0028】
本発明に係る表面処理皮膜付き硬質粒子を含有する水性ディスパージョンにおいて、前記金属化合物膜の表面にリン化合物吸着膜が形成されていることが好ましい。このとき、リン化合物吸着膜中のリン化合物量が1〜50mg/mであることが好ましい。
【発明の効果】
【0029】
本発明に係る表面処理皮膜付き硬質粒子の製造方法によれば、高価な装置や複雑な成膜条件を必要とせずに、表面処理皮膜付き硬質粒子を製造でき、製造コストの低減を図ることができる。また、水和酸化物含有膜は硬質粒子の表面に均一に形成されており、水分散性も良好であり、金属中や樹脂中に分散させても良好な分散性と密着性を示すことができる。
【0030】
本発明に係る表面処理皮膜付き硬質粒子を含有する水性ディスパージョンの製造方法によれば、高価な装置や複雑な成膜条件を必要とせずに、表面処理皮膜付き硬質粒子を製造でき、製造コストの低減を図ることができる。また、水和酸化物含有膜は硬質粒子の表面に均一に形成されており、水分散性も良好であり、金属中や樹脂中に分散させても良好な分散性と密着性を示すことができる。
【0031】
本発明に係る表面処理皮膜付き硬質粒子によれば、上記金属化合物膜が硬質粒子の表面に設けられているので、水分散性が良好で、金属中や樹脂中に分散させても良好な分散性と密着性を示すことができる。
【0032】
本発明に係る表面処理皮膜付き硬質粒子を含有する水性ディスパージョンによれば、懸濁した硬質粒子の表面に設けられた水和物酸化物膜が水性溶媒に対して良好な相溶性と分散性及び分散安定性とを示すので、この水性ディスパージョンは、水性溶媒中で良好な長期分散性を示す。その結果、この水性ディスパージョンを分散原料として用いる場合に、凝集等の不具合がなく、金属中や樹脂中への分散原料として好ましく提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明に係る表面処理皮膜付き硬質粒子の製造方法の一例を示す工程図である。
【図2】本発明に係る表面処理皮膜付き硬質粒子の製造方法の他の一例を示す工程図である。
【図3】本発明に係る表面処理皮膜付き硬質粒子の製造方法のさらに他の一例を示す工程図である。
【図4】本発明に係る表面処理皮膜付き硬質粒子の一例を示す模式的な断面図である。
【図5】本発明に係る表面処理皮膜付き硬質粒子の他の一例を示す模式的な断面図である。
【図6】本発明に係る表面処理皮膜付き硬質粒子を含有する水性ディスパージョンの一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明に係る表面処理皮膜付き硬質粒子及び水性ディスパージョン、並びにそれらの製造方法について詳細に説明する。
【0035】
[表面処理皮膜付き硬質粒子の製造方法]
本発明に係る表面処理皮膜付き硬質粒子の製造方法は、図1の工程図に示すように、硬質粒子の準備工程、その硬質粒子を金属のフッ化物錯体を含む水溶液中に保持する工程(水和酸化物含有膜の形成工程)、洗浄工程、乾燥工程を順次経て、表面処理皮膜付き硬質粒子が製造される。また、図2の工程図に示すように、乾燥工程の後に熱処理工程を設けてもよい。また、図3の工程図に示すように、水和酸化物含有膜の形成工程と乾燥工程との間に、リン化合物を含有する水溶液への接触工程(リン化合物吸着膜形成工程)を設けてもよい。なお、図3の製造工程において、乾燥工程の後には図2と同様の熱処理工程を設けてもよい。また、図4及び図5には、製造された表面処理皮膜付き硬質粒子1の例を示す。
【0036】
以下、図1〜図3に示す各工程について順に説明する。
【0037】
(準備工程)
準備される硬質粒子2は、ヌープ硬度が1000以上である。こうした硬質粒子であれば特に限定されず、その構成材料の具体例としては、炭化ケイ素、炭化タングステン、炭化クロム、炭化ホウ素、ダイヤモンド、CBN、酸化アルミニウム(アルミナ)等が挙げられる。硬質粒子のヌープ硬度は、JIS−Z2251に準拠してマイクロヌープ硬度計を用いて測定できる。一例としては、ダイヤモンドのヌープ硬さは約6000であり、CBNのヌープ硬さは約4700であり、アルミナのヌープ硬さは約2000である。これらのうち、ヌープ硬さが4000以上のダイヤモンドやCBNを好ましく採用することができる。また、硬質粒子の粒径及び形状は特に限定されず、従来公知のものを適用できるが、より好ましい粒径としては、平均粒径で0.1〜50μmの範囲である。硬質粒子の平均粒径は、JIS−R6002に記載の沈降試験方法によって測定して評価できる。
【0038】
なお、準備した硬質粒子2は、その後の水和酸化物含有膜形成工程の前に、必要に応じて、硫酸、王水、硝酸又は塩酸等の従来公知の酸処理を行ってもよい。また、水洗等の従来公知の前処理手段を施してもよい。
【0039】
(水和酸化物含有膜の形成工程)
水和酸化物含有膜3’の形成工程は、硬質粒子2を金属のフッ化物錯体を含む水溶液中に保持して、硬質粒子2の表面に水和酸化物含有膜3’を形成する工程である。この膜形成方法は、液相中で行われることから、液相析出法と呼ばれる。なお、液相析出法とは、一般的に、金属イオンにフッ化物イオンや硫酸イオン等のアニオンを配位させた錯体を含む水溶液中に基材を浸漬し、さらにアニオン捕捉剤を添加することで、アニオン捕捉剤が金属錯体からアニオンを引き抜くことにより金属イオンを不安定化させ、基材上に金属水和酸化物含有膜を析出させる手法である。こうした液相析出法は、上記した特許文献6〜11で提案されている。
【0040】
本発明に係る製造方法では、水溶液中には、金属はフッ化物錯体の状態で存在する。金属のフッ化物錯体を構成する金属としては、Zr、Ti、Si、Cr、Ta、Hf、Sn、Mo、W、Zn、In及びVから選ばれる1種又は2種以上の金属を挙げることができる。こうした金属のフッ化物錯体は、フッ素含有化合物を水性溶媒中に添加して、水溶液化した金属フッ化物錯体を得ることができる。フッ素含有化合物としては、例えば、フッ化ジルコニウム、ジルコニウムフッ酸、ジルコニウムフッ化アンモニウム、ジルコンフッ化カリウム、ジルコンフッ化ナトリウム、フッ化チタン、チタンフッ酸、チタンフッ化アンモニウム、チタンフッ化カリウム、チタンフッ化ナトリウム、フッ化ケイ素、ケイフッ酸、ケイフッ化アンモニウム、ケイフッ化カリウム、ケイフッ化ナトリウム、フッ化クロム(III)、クロム(III)フッ酸、クロム(III)フッ化アンモニウム、クロム(III)フッ化カリウム、クロム(III)フッ化ナトリウム、フッ化タンタル、タンタルフッ酸、タンタルフッ化アンモニウム、タンタルフッ化カリウム、タンタルフッ化ナトリウム、フッ化ハフニウム、ハフニウムフッ酸、ハフニウムフッ化アンモニウム、ハフニウムフッ化カリウム、ハフニウムフッ化ナトリウム、フッ化錫、錫フッ酸、錫フッ化アンモニウム、錫フッ化カリウム、錫フッ化ナトリウム、モリブデンフッ酸、モリブデンフッ化アンモニウム、モリブデンフッ化カリウム、モリブデンフッ化ナトリウム、タングステンフッ酸、タングステンフッ化アンモニウム、タングステンフッ化カリウム、タングステンフッ化ナトリウム、フッ化亜鉛、亜鉛フッ酸、亜鉛フッ化アンモニウム、亜鉛フッ化カリウム、亜鉛フッ化ナトリウム、フッ化インジウム、インジウムフッ酸、インジウムフッ化アンモニウム、インジウムフッ化カリウム、インジウムフッ化ナトリウム、フッ化バナジウム、バナジウムフッ酸、バナジウムフッ化アンモニウム、バナジウムフッ化カリウム、バナジウムフッ化ナトリウムから選ばれる1種又は2種以上のフッ素化合物を挙げることができる。
【0041】
水性溶媒としては、50質量%以上100質量%以下の水を含有する溶媒であればよく、必要に応じて有機溶媒が含まれていてもよい。また、界面活性剤等その他の添加剤が含まれていてもよい。
【0042】
水性溶媒に含有可能な溶媒としては、例えば、エタノール、イソプロパノール等の低級アルコール;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン;酢酸エチル、酢酸ブチル、アセト酢酸エチル、2−エトキシエチルアセテート等のエステル;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等のグリコールエーテル;エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル;エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のグリコールエーテルのエステル;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;ヘキサン、イソオクタン、デカン、ドデカン等の脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂環族炭化水素;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、テルペン類等を挙げることができる。これらの溶媒は、単独で用いてもよいし、任意の2種以上の混合溶媒として配合して用いてもよい。
【0043】
金属のフッ化物錯体を構成する好ましい金属としては、Zr、Ti、Cr、Zn及びInから選ばれる1種又は2種以上の金属を挙げることができ、好ましいフッ化物錯体としては、これら金属の上記フッ素化合物を水性溶媒中に添加して得ることができる。
【0044】
金属のフッ化物錯体を含む水溶液は、水性溶媒中のフッ素含有化合物の濃度として、0.0001〜1mol/Lの範囲であることが好ましい。
【0045】
金属のフッ化物錯体を得る他の方法としては、上記したフッ素含有化合物以外の化合物(例えば、水和酸化物;硝酸塩、硫酸塩、塩化物、リン酸塩等の無機酸塩;酢酸等の有機酸塩、等)から選ばれる1種又は2種以上の化合物と、フッ酸、フッ化アンモニウム、酸性フッ化アンモニウム、フッ化ナトリウム及び酸性フッ化ナトリウムから選ばれる1種又は2種以上のフッ素化合物とを、水性溶媒中に添加して水溶液化することによっても、金属のフッ化物錯体を得ることができる。
【0046】
後述する熱処理を施す前における硬質粒子2への水和酸化物含有膜3’の付着量は、金属元素の付着量として1〜200mg/mの範囲であることが好ましい。金属元素の付着量として1mg/m未満では、表面処理皮膜付き硬質粒子2を金属や樹脂母相中に分散させる際、母相との密着性が低下することがある。一方、金属元素の付着量として200mg/mを超えると、金属や樹脂母相中に分散させる際、母相との密着性が低下することがある。なお、水和酸化物含有膜3’を構成する金属元素の付着量の測定は、後述する実施例で説明するように、硬質粒子表面の水和酸化物含有膜3’を溶解し、その液をICP分析して、水和酸化物含有膜3’を構成する金属元素成分の濃度を分析した。その結果から、水和酸化物含有膜3’を構成する金属元素の付着量を算出した。
【0047】
金属のフッ化物錯体を含む水溶液に硬質粒子を接液させる手段としては、その水溶液中に硬質粒子2を攪拌状態下で投入して接触させる方法等を挙げることができる。このときの接触時間としては、水和酸化物含有膜を上記した所定量付着できるだけの時間であることが好ましく、通常、30秒〜72時間程度である。
【0048】
また、水和酸化物含有膜を形成する効果的な方法として、金属イオンにアニオンを配位させた錯体を含む水溶液中に前記した硬質粒子を浸漬し、攪拌条件下でアニオン捕捉剤を添加し、所定時間保持して水和酸化物含有膜を形成し、洗浄した後に熱処理する方法も挙げることができる。なお、予めアニオン補足剤を含有する水溶液に硬質粒子を加え、その後にフッ化物錯体を含む水溶液を配合させてもよい。ここで用いるアニオン捕捉剤としては、金属錯体が金属フッ化物錯体の場合は、ホウ酸、塩化第一鉄、塩化第二鉄、アルミニウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、水酸化ナトリウム、アンモニア;アルミニウム、チタン、鉄、ニッケル、マグネシウム、銅、亜鉛、シリコン金属;二酸化ケイ素、酸化カルシウム、三酸化二ホウ素、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム;等が例示される。中でも、ホウ酸は、析出皮膜中に不純物が析出することが無いことから好ましい。
【0049】
(乾燥工程)
乾燥工程は、水和酸化物含有膜3’の形成工程後に通常適用される工程である。なお、水和酸化物含有膜3’を形成した後に、洗浄工程を経てそのまま水性溶媒中に入れて水性ディスパージョンとする場合には、この乾燥工程は不要である。
【0050】
乾燥工程は、通常、100℃で大気雰囲気中で行うが、それ以外の温度で乾燥させてもよいし、大気雰囲気以外の例えば窒素ガス雰囲気やアルゴンガス雰囲気等であってもよい。乾燥時間も特に限定されない。
【0051】
(熱処理工程)
熱処理工程は、図2に示すように必要に応じて設けられる工程であって、金属の水和酸化物含有膜3’が形成された硬質粒子2を熱処理する工程である。通常は、乾燥工程後に、大気雰囲気、非酸化雰囲気又は還元雰囲気の条件下で熱処理する。この熱処理工程により、熱処理前の金属の水和酸化物含有膜3’は、熱処理によって金属化合物膜3へと変化する。
【0052】
熱処理工程を、大気雰囲気、非酸化雰囲気又は還元雰囲気のいずれの条件下で行うかによって、金属の水和酸化物含有膜3’を、金属酸化物、金属窒化物、金属酸窒化物、金属炭化物等からなる金属化合物膜3とすることができる。各雰囲気の圧力、雰囲気ガス含量、熱処理温度、熱処理時間等は、熱処理後に得ようとする金属化合物膜3に応じて任意に設定することができる。例えば雰囲気圧力の例としては、0.01〜760Torrの範囲から任意に選択することができ、熱処理温度の例としては、150〜1000℃の範囲内とすることができる。
【0053】
この熱処理工程において、酸素分圧が50Torr以下の非酸化雰囲気下又は還元雰囲気下で行えば、金属の水和酸化物含有膜3’の酸化を抑制し又は酸素を還元できるので、例えば金属窒化物や金属炭化物等からなる金属化合物膜3とすることができる。特に10Torr以下の非酸化雰囲気下又は還元雰囲気下で行うことが好ましい。酸素分圧の下限は特に限定されないが、0.01Torr程度とすることができる。非酸化雰囲気としては、前記圧力範囲の真空雰囲気、又は前記圧力範囲のアルゴン雰囲気や窒素ガス雰囲気等を挙げることができ、還元雰囲気としては、前記圧力範囲であって、還元元素(水素ガスやアンモニアガス等)を含有するアルゴン雰囲気や窒素ガス雰囲気等を挙げることができる。
【0054】
雰囲気中のガス成分によって、水和酸化物含有膜3’をそのガス成分を含む金属化合物膜3とすることができる。例えば、窒素ガス雰囲気下で熱処理することにより、水和酸化物含有膜3’中の金属を窒化させて、金属窒化物を含む金属化合物膜3とすることができる。また、ダイヤモンドや炭化珪素等のように、硬質粒子2が炭素を含む場合には、真空雰囲気下又はアルゴン雰囲気下等の非酸化雰囲気下で熱処理することにより、水和酸化物含有膜3’中の金属を炭化させて、金属炭化物を含む金属化合物膜3とすることができる。
【0055】
熱処理温度としては、400℃以上の温度が好ましく、500℃以上の温度がより好ましい。また、熱処理温度の上限も特に限定されないが、1000℃程度とすることができる。
【0056】
熱処理時間は、前記した熱処理雰囲気や熱処理温度によって任意に設定されるが、水和酸化物含有膜3’が金属化合物膜3となるに足る時間であればよい。通常、10分〜24時間程度である。
【0057】
金属化合物膜3は、金属の酸化物、水酸化物、窒化物及び炭化物の中から選ばれる少なくとも1種の金属化合物を含む。これらの金属化合物の組成は、熱処理雰囲気によって任意に調整できる。例えば、大気雰囲気下で熱処理した場合は、酸化物や水酸化物等を含有する金属化合物膜3となり易い。一方、非酸化雰囲気下又は還元雰囲気下で熱処理した場合には、その熱処理雰囲気に基づいた化合物、例えば金属窒化物や金属炭化物等を主に含む金属化合物とすることができる。しかし、こうした雰囲気下で熱処理を行う場合であっても、還元により金属として含まれていたり、金属酸化物として残っていたり、金属水酸化物として残っていたりする場合も含む。また、非酸化や還元の程度が低い場合には、金属の酸化物や水酸化物を主に含む金属化合物とすることができる。
【0058】
こうした熱処理工程により、硬質粒子2の表面に設けられた金属化合物膜3を形成させ、良好な水分散性と、金属中や樹脂中への良好な分散性と密着性を達成することができる。
【0059】
(リン化合物吸着膜の形成工程)
リン化合物吸着膜4’の形成工程は、図3に示すように必要に応じて付加される工程であって、水和酸化物含有膜形成工程と乾燥工程との間で行われる。この工程では、水和酸化物含有膜3’を表面に形成した硬質粒子2をリン化合物を含有する水溶液に接触させることにより、リン化合物吸着膜4’を形成する。水和酸化物含有膜3’の表面にリン化合物を吸着させることにより、表面処理皮膜付き硬質粒子1の表面電荷が強まり、分散性を向上させることができる。「吸着膜」としたのは、水和酸化物含有膜3’上にリン化合物が吸着して膜(リン化合物吸着膜4’)となるからである。
【0060】
具体的には、金属の水和酸化物含有膜3’の形成工程後に洗浄工程を経て、リン化合物を含有する水溶液と接液させる。リン化合物に接触させた後においては、水洗し、乾燥工程に送られる。
【0061】
リン化合物としては、リン酸類、リン酸エステル、有機ホスホン酸等が挙げられる。リン酸類としては、リン酸(=オルトリン酸)、メタリン酸、ポリリン酸を包含する縮合リン酸、及びその塩(アンモニウム塩、ナトリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩等)を挙げることができ、より具体的には、メタリン酸はトリメタリン酸、テトラメタリン酸、ヘキサメタリン酸等を包含し、ポリリン酸は鎖状のリン酸縮合物であって、ピロリン酸、トリポリリン酸、テトラポリリン酸等を包含する。特に、リン酸類を用いた場合は、分散性と分散安定性に優れているので好ましい。
【0062】
リン酸エステルとしては、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェー2ト、モノメチルホスフェート、ジメチルホスフェート、エチルホスフェート、ジエチルホスフェート、モノブチルホスフェート、ジブチルホスフェート等を挙げることができる。
【0063】
有機ホスホン酸としては、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸(HEDP)、2−ホスホノ−1,2,4−ブタントリカルボン酸(PBTC)、ニトリロトリス(メチレンホスホン酸)(NTMP)、ニトリロトリス(エチレンホスホン酸)、ニトリロトリス(プロピレンホスホン酸)、ニトリロビス(エチレンホスホン酸)モノ(メチレンホスホン酸)、ニトリロビス(メチレンホスホン酸)モノ(プロピレンホスホン酸)等のアルキレン基が同一又は異なる炭素数1〜4のアルキレン基であるニトリロトリス(アルキレンホスホン酸)、エチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸、エチレンジアミンテトラエチレンホスホン酸、エチレンジアミンテトラプロピレンホスホン酸等のアルキレン基が炭素数1〜4のアルキレン基であるエチレンジアミンテトラアルキレンホスホン酸、ヘキサメチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸、ジエチレントリアミンペンタメチレンホスホン酸;ヒドロキシメタンジホスホン酸、エタン−1−ヒドロキシ−1、1−ジホスホン酸、プロパン−1−ヒドロキシ−1,1ジホスホン酸等の炭素数1〜4のアルカン−1−ヒドロキシ−1、1−ジホスホン酸等を挙げることができる。
【0064】
リン化合物を含有する水溶液は、水溶媒100質量部に対するリン化合物の添加量として、0.01〜50質量部の範囲であることが好ましい。
【0065】
リン化合物吸着膜4’の付着量は、リン元素の付着量として1〜50mg/mの範囲が好ましい。リン元素の付着量として1mg/m未満では、表面電荷を高めるという効果を十分に得ることができず、表面処理皮膜付き硬質粒子1を金属及び樹脂母相中に分散させる際の分散性をより向上させることができない。一方、リン元素の付着量として50mg/mを超えると、母相との密着性が低下することがある。なお、リン化合物吸着膜4’を構成するリン元素の付着量の測定は、後述する実施例で説明するように、吸着させたリン化合物吸着膜4’を溶解し、その液をICP分析して、リン化合物吸着膜4’を構成するリン元素成分の濃度を分析した。その結果から、リン化合物吸着膜4’を構成するリン元素の付着量を算出した。
【0066】
リン化合物を含有する水溶液に、水和酸化物含有膜3’が設けられた硬質粒子2を接液させる手段としては、その水溶液中に硬質粒子2を攪拌状態下で投入して接触させる方法等を挙げることができる。このときの接触時間としては、リン化合物吸着膜4’を上記した所定量付着できるだけの時間であることが好ましく、通常、30秒〜24時間程度である。
【0067】
(洗浄工程)
洗浄工程は、(ア)硬質粒子2の準備工程後で水和酸化物含有膜3’の形成工程前、(イ)水和酸化物含有膜3’の形成工程後で乾燥工程前、(ウ)必要に応じてリン化合物吸着膜4’の形成工程が付加された場合には、水和酸化物含有膜3’の形成工程後でリン化合物吸着膜4’の形成工程前、(エ)リン化合物吸着膜4’の形成工程後で乾燥工程前、の段階で、任意に挿入できる。
【0068】
洗浄方法としては、特に限定されないが、遠心分離、吸引濾過、デカンテーション等による濃縮後に再度イオン交換水を加えるといった工程を反復する手法が例示される。
【0069】
以上説明したように、本発明に係る表面処理皮膜付き硬質粒子の製造方法によれば、硬質粒子2を金属のフッ化物錯体溶液を含む水溶液中に保持して該金属の水和酸化物含有膜3’を形成するので、高価な装置や複雑な成膜条件を必要とせずに、表面処理皮膜付き硬質粒子1を製造でき、製造コストの低減を図ることができる。また、水和酸化物含有膜3’は硬質粒子2の表面に均一に形成されており、水分散性も良好であり、金属中や樹脂中に分散させても良好な分散性と密着性を示すことができる。また、リン化合物吸着膜4’を形成した後に乾燥又は熱処理してなるリン化合物膜4を表面に有する表面処理皮膜付き硬質粒子1は、分散性や密着性をより向上させることができる。
【0070】
(表面処理皮膜付き硬質粒子)
本発明に係る表面処理皮膜付き硬質粒子1は、上記した表面処理皮膜付き硬質粒子の製造方法で製造されたものであって、図4に示すように、ヌープ硬度が1000以上の硬質粒子2と、その硬質粒子2の表面に設けられたZr、Ti、Si、Cr、Ta、Hf、Sn、Mo、W、Zn、In及びVから選ばれる1種又は2種以上の金属化合物膜3とを有する。また、図5に示すように、硬質粒子2と、その硬質粒子2の表面に設けられた上記した金属化合物膜3と、リン化合物膜4とを有する。
【0071】
この表面処理皮膜付き硬質粒子1を構成する金属化合物膜3は、金属の酸化物、水酸化物、窒化物及び炭化物の中から選ばれる少なくとも1種の金属化合物を含む。その金属化合物膜3の硬質粒子2の表面への付着量は、金属元素の付着量として1〜200mg/mの範囲であることが好ましい。金属元素の付着量として1mg/m未満では、表面処理皮膜付き硬質粒子2を金属中や樹脂母相中に分散させる際、母相との密着性が低下することがある。一方、金属元素の付着量として200mg/mを超えると、金属中や樹脂母相中に分散させる際、逆に母相との密着性が低下することがある。なお、金属化合物膜3を構成する金属元素の付着量の測定は、後述する実施例で説明するように、硬質粒子表面の金属化合物膜3を溶解し、その液をICP分析して、金属化合物膜3を構成する金属元素成分の濃度を分析した。その結果から、金属化合物膜3を構成する金属元素の付着量を算出した。
【0072】
この表面処理皮膜付き硬質粒子1を構成するリン化合物膜4は、リンを含有する化合物膜であり、そのリン化合物膜4の付着量は、リン元素の付着量として1〜50mg/mの範囲が好ましい。リン元素の付着量として1mg/m未満では、表面電荷を高めるという効果を十分に得ることができず、表面処理皮膜付き硬質粒子1を金属及び樹脂母相中に分散させる際の分散性をより向上させることができない。一方、リン元素の付着量として50mg/mを超えると、母相との密着性が低下することがある。なお、リン化合物膜4を構成するリン元素の付着量の測定は、後述する実施例で説明するように、吸着させたリン化合物膜4を溶解し、その液をICP分析して、リン化合物膜4を構成するリン元素成分の濃度を分析した。その結果から、リン化合物膜4を構成するリン元素の付着量を算出した。
【0073】
本発明に係る表面処理皮膜付き硬質粒子1によれば、上記金属化合物膜3やリン化合物膜4が硬質粒子2の表面に設けられているので、水分散性が良好で、金属中や樹脂中に分散させても良好な分散性と密着性を示すことができる。
【0074】
[水性ディスパージョンの製造方法]
本発明に係る水性ディスパージョンの製造方法は、表面処理皮膜付き硬質粒子1を含有し、懸濁状態とした水性ディスパージョン11(図6を参照)を製造する方法である。具体的には、上記した本発明に係る表面処理皮膜付き硬質粒子1の製造方法において、水和酸化物含有膜3’の形成工程後に、乾燥も熱処理も行わずに、金属の水和酸化物含有膜3’が形成された硬質粒子2を水性溶媒に懸濁させる工程により製造する方法である。なお、水和酸化物含有膜3’の形成工程と、懸濁工程との間に、リン化合物を含有する水溶液への接触工程を設けてもよい。
【0075】
なお、水性ディスパージョンの製造方法を構成する各工程、すなわち、硬質粒子の準備工程、金属の水和酸化物含有膜3’の形成工程、リン化合物吸着膜4’の形成工程、乾燥工程、熱処理工程、洗浄工程等は、上記した表面処理皮膜付き硬質粒子の製造方法を構成する各工程と同じである。そのため、ここではその説明を省略する。
【0076】
(懸濁工程)
懸濁工程は、金属の水和酸化物含有膜3’が形成された硬質粒子2を水性溶媒12に懸濁させる工程である。ここで用いる水性溶媒12は、50質量%以上100質量%以下の水を含有する溶媒のことであり、必要に応じて有機溶媒が含まれていてもよい。また、その他の添加剤が含まれていてもよい。
【0077】
水性溶媒に配合可能な溶媒としては、例えば、エタノール、イソプロパノール等の低級アルコール;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン;酢酸エチル、酢酸ブチル、アセト酢酸エチル、2−エトキシエチルアセテート等のエステル;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等のグリコールエーテル;エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル;エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のグリコールエーテルのエステル;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;ヘキサン、イソオクタン、デカン、ドデカン等の脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂環族炭化水素;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、テルペン類等を挙げることができる。これらの溶媒は、単独で用いてもよいし、任意の2種以上の混合溶剤を配合して用いてもよい。
【0078】
その他の添加剤としては、界面活性剤等を挙げることができる。なお、こうした添加剤は、その趣旨に反しない範囲で、水性溶媒中に0.01〜10質量%含有させることができる。
【0079】
水性溶媒12中への表面処理皮膜付き硬質粒子1の懸濁濃度は、0.5〜90質量%であることが好ましく、1〜50質量%であることがより好ましい。懸濁濃度が0.5質量%未満では、濃度が低すぎて母相中に硬質粒子を含有させられず、硬度向上等、硬質粒子を分散させることによる効果が得られなくなることがある。一方、懸濁濃度が90質量%を超えると、ディスパージョンの粘度が高くなりすぎて扱いずらくなることがある。
【0080】
こうした水性ディスパージョン11の製造方法によれば、水和酸化物含有膜3’を形成した硬質粒子2をリン化合物含有水溶液に接触させるので、水和酸化物含有膜上にリン化合物が吸着してリン化合物吸着膜となる。その後に水性溶媒中に懸濁することにより、リン化合物吸着膜4’が設けられた水和酸化物含有膜3’は、水性溶媒に対してより良好な相溶性と分散性及び分散安定性とを示す。
【0081】
以上、本発明に係る表面処理皮膜付き硬質粒子1を含有する水性ディスパージョン11の製造方法によれば、硬質粒子2の表面に設けられた水和物酸化物膜3’が水性溶媒12に対して良好な相溶性と分散性及び分散安定性とを示すので、得られた表面処理皮膜付き硬質粒子1は、水性溶媒12中で良好な分散性及び分散安定性とを示す。その結果、この表面処理皮膜付き硬質粒子1を分散原料として用いる場合に、凝集等の不具合がなく、金属中や樹脂中への分散原料として好ましく提供できる。また、リン化合物膜4をさらに形成した表面処理皮膜付き硬質粒子1を、熱処理工程を実施せずに水性溶媒12中に懸濁させることにより、表面処理皮膜付き硬質粒子1の分散性及び分散安定性をさらに向上させることができる。
【0082】
(水性ディスパージョン)
本発明に係る水性ディスパージョン11は、上記した水性ディスパージョンの製造方法で製造されたものであって、図6に示すように、ヌープ硬度が1000以上の硬質粒子2と、その硬質粒子2の表面に設けられたZr、Ti、Si、Cr、Ta、Hf、Sn、Mo、W、Zn、In及びVから選ばれる1種又は2種以上の金属化合物膜3と、必要に応じて設けられたリン化合物吸着膜4’とを有する表面処理皮膜付き硬質粒子1を、乾燥も熱処理もせずに、水性溶媒中に懸濁してなるものである。
【0083】
この表面処理皮膜付き硬質粒子1を構成する金属の水和酸化物含有膜3’は、上記した金属の中から選ばれるいずれか1又は2以上金属の水酸化物で主に構成されている。その水和酸化物含有膜3’の硬質粒子2の表面への付着量は、金属元素の付着量として1〜200mg/mの範囲であることが好ましい。
【0084】
金属元素の付着量として1mg/m未満では、表面処理皮膜付き硬質粒子1を水性溶媒12中に分散させた後に、表面処理皮膜付き硬質粒子が凝集することがある。また、水性ディスパージョン11が含む表面処理皮膜付き硬質粒子1を、金属や樹脂に含有させる粒子として用いる場合に、金属や樹脂母相への分散性や密着性が低下することがある。一方、金属元素の付着量として200mg/mを超えると、金属や樹脂母相との密着性が低下することがある。
【0085】
水性ディスパージョン11を構成するリン化合物吸着膜4’は、リンを含有する化合物の吸着膜であり、そのリン化合物吸着膜4’の付着量は、リン元素の付着量として1〜50mg/mの範囲が好ましい。リン元素の付着量として1mg/m未満では、表面電荷を高めるという効果を十分に得ることができず、表面処理皮膜付き硬質粒子1を水性溶媒12中に分散させても、表面処理皮膜付き硬質粒子1の分散性や分散安定性をさほど高めることはできない。一方、リン元素の付着量として50mg/mを超えると、金属や樹脂母相との密着性が低下することがある。
【0086】
以上、本発明に係る水性ディスパージョン11の製造方法によれば、硬質粒子2を金属のフッ化物錯体溶液を含む水溶液中に保持して該金属の水和酸化物含有膜3’を形成し、その後に水性溶媒に懸濁することにより、硬質粒子2の表面に設けられた水和物酸化物膜3’が水性溶媒に対して良好な相溶性と分散性及び分散安定性とを示す。その結果、水性ディスパージョン11中で懸濁する表面処理皮膜付き硬質粒子1は、水性溶媒12中で良好な分散性及び分散安定性を示すので、この表面処理皮膜付き硬質粒子1を分散原料として用いる場合に、凝集等の不具合がなく、金属中や樹脂中への分散原料として好ましく提供できる。
【実施例】
【0087】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。ただし、本発明は下記の実施例に限られるものではない。
【0088】
[実施例1]
40℃に加温し、アンモニア水によってpHを6.4に調整した0.06mol/Lフッ化亜鉛水溶液(フッ化物水溶液)50mLに、攪拌条件下でダイヤモンド粒子(硬質粒子、トーメイダイヤ株式会社製、平均粒径:16.0μm)を1g添加した。さらにその水溶液に、アンモニア水によってpHを6.4に調整した0.6mol/Lホウ酸水溶液(アニオン補足剤)を40℃に加温して50mL添加した。引き続き、液温を40℃に保持しながら5時間攪拌した。その後、デカンテーションにより濃縮した後、再度イオン交換水を加える作業を10回繰り返して洗浄した。洗浄後の粒子を、100℃で大気雰囲気中で乾燥するまで加熱し、その後さらに300℃で大気雰囲気中で1時間加熱した。こうして、実施例1に係る表面処理皮膜付き硬質粒子(ダイヤモンド粒子)Aを作製した。
【0089】
[実施例2]
40℃に加温した0.41mol/Lホウ酸水溶液(アニオン補足剤)48mL中に、攪拌条件下で炭化ケイ素粒子(硬質粒子、信濃電気精錬株式会社製、平均粒径:20μm)を1g添加した。さらにその水溶液に、40℃に加温した0.19mol/Lフッ化クロム(III)水溶液(フッ化物水溶液)52mLを添加した。引き続き、液温を40℃に保持しながら3時間攪拌した。その後、デカンテーションにより濃縮した後、再度イオン交換水を加える作業を10回繰り返して洗浄した。洗浄後の粒子を、100℃で大気雰囲気中で乾燥するまで加熱した。こうして、実施例2に係る表面処理皮膜付き硬質粒子(炭化ケイ素粒子)Bを作製した。
【0090】
[実施例3]
40℃に加温し、アンモニア水によってpHを2.0に調整した0.06mol/Lジルコンフッ酸水溶液(フッ化物水溶液)100mLに、攪拌条件下で炭化ホウ素粒子(硬質粒子、株式会社ニューメタルスエンドケミカルス製、平均粒径:15〜16μm)を2g添加した。さらにその水溶液に、アルミニウム板(A1050P)をアニオン補足剤として投入し、液温を40℃に保持しながら4時間攪拌した。その後、アルミニウム板を取り出し、デカンテーションにより濃縮した後、再度イオン交換水を加える作業を10回繰り返して洗浄した。洗浄後の粒子を、100℃で大気雰囲気中で乾燥するまで加熱した。こうして、実施例3に係る表面処理皮膜付き硬質粒子(炭化ホウ素粒子)Cを作製した。
【0091】
[実施例4]
40℃に加温し、アンモニア水によってpHを6.5に調整した0.04mol/L硝酸インジウムと0.12mol/Lフッ化水素酸との混合水溶液(フッ化物水溶液)70mLに、攪拌条件下で炭化ホウ素粒子(硬質粒子、株式会社ニューメタルスエンドケミカルス製、平均粒径:15〜16μm)2g添加した。さらにその水溶液に、アンモニア水でpHを6.4に調整した0.4mol/Lホウ酸水溶液(アニオン補足剤)を40℃に加温して30mL添加した。引き続き、液温を40℃に保持しながら35時間攪拌した。その後、デカンテーションにより濃縮した後、再度イオン交換水を加える作業を10回繰り返して洗浄した。洗浄後の粒子を、100℃で大気雰囲気中で乾燥するまで加熱した。こうして、実施例4に係る表面処理皮膜付き硬質粒子(炭化ホウ素粒子)Dを作製した。
【0092】
[実施例5]
40℃に加温し、0.25mol/Lホウ酸水溶液(アニオン補足剤)80mL中に、攪拌条件下でダイヤモンド粒子(硬質粒子、トーメイダイヤ株式会社製、平均粒径:16.0μm)を3g添加した。さらにその水溶液に、40℃に加温した0.55mol/Lチタンフッ化アンモニウム水溶液(フッ化物水溶液)20mLを添加した。引き続き、液温を40℃に保持しながら3時間攪拌した。その後、デカンテーションにより濃縮した後、再度イオン交換水を加える作業を10回繰り返して洗浄した。洗浄後の粒子を、100℃で大気雰囲気中で乾燥するまで加熱した。こうして、実施例5に係る表面処理皮膜付き硬質粒子(ダイヤモンド粒子)Eを作製した。
【0093】
[実施例6]
実施例3で作製した表面処理皮膜付き硬質粒子(炭化ホウ素粒子)Cを、酸素分圧5Torrの真空下で700℃で2時間加熱した。こうして、実施例6に係る表面処理皮膜付き硬質粒子(炭化ホウ素粒子)Fを作製した。
【0094】
[実施例7]
実施例5で作製した表面処理皮膜付き硬質粒子(ダイヤモンド粒子)Eを、酸素分圧1Torrの窒素雰囲気下で500℃で3時間加熱した。こうして、実施例7に係る表面処理皮膜付き硬質粒子(ダイヤモンド粒子)Gを作製した。
【0095】
[実施例8]
実施例3で作製した表面処理皮膜付き硬質粒子(炭化ホウ素粒子)Cを、1.0質量%トリポリリン酸水溶液(25℃)に添加した後、1時間攪拌した。その後、デカンテーションにより濃縮した後、再度イオン交換水を加える作業を10回繰り返して洗浄した。その後、100℃で大気雰囲気中で乾燥するまで加熱した。こうして、実施例10に係る表面処理皮膜付き硬質粒子(炭化ホウ素粒子)Hを作製した。
【0096】
[実施例9]
実施例2で作製した表面処理皮膜付き硬質粒子(炭化ケイ素粒子)Aを、0.1質量%トリポリリン酸水溶液(25℃)に添加した後、10分間攪拌した。その後、デカンテーションにより濃縮した後、再度イオン交換水を加える作業を10回繰り返して洗浄した。その後、100℃で大気雰囲気中で乾燥するまで加熱した。こうして、実施例9に係る表面処理皮膜付き硬質粒子(炭化ケイ素粒子)Iを作製した。
【0097】
[実施例10]
40℃に加温し、アンモニア水によってpHを2.0に調整した0.06mol/Lジルコンフッ酸水溶液(フッ化物水溶液)100mLに、攪拌条件下でCBN粒子(硬質粒子、株式会社ニューメタルスエンドケミカルス製、平均粒径:15〜16μm)を2g添加した。さらにその水溶液に、アルミニウム板(A1050P)をアニオン補足剤として投入し、液温を40℃に保持しながら4時間攪拌した。その後、アルミニウム板を取り出し、デカンテーションにより濃縮した後、再度イオン交換水を加える作業を10回繰り返して洗浄した。洗浄後の粒子を、再度デカンテーションにより濃縮した後、イオン交換水を添加して、固形分濃度50.0質量%の実施例10に係る表面処理皮膜付き硬質粒子(CBN粒子)を含む水性ディスパージョンJを作製した。
【0098】
[実施例11]
実施例2で作製した表面処理皮膜付き硬質粒子(炭化ケイ素粒子)Aを、1.0質量%トリポリリン酸水溶液(25℃)中に添加した後、1時間攪拌した。その後、デカンテーションにより濃縮した後、再度イオン交換水を加える作業を10回繰り返して洗浄した。その後、再度デカンテーションにより濃縮した後、イオン交換水を添加して、固形分濃度20.0質量%の実施例11に係る表面処理皮膜付き硬質粒子(炭化ケイ素粒子)を含む水性ディスパージョンKを作製した。
【0099】
[比較例1]
0.2mol/L炭酸水素ナトリウム水溶液20mL中に、攪拌条件下で炭化ケイ素粒子(硬質粒子、信濃電気精錬株式会社製、平均粒径:20μm)を1g添加した。さらにその水溶液に、30℃に加温した0.2mol/L水酸化カルシウム水溶液20mLを添加した。引き続き、液温を40℃に保持しながら24時間攪拌した。その後、デカンテーションにより濃縮した後、再度イオン交換水を加える作業を10回繰り返して洗浄した。こうして、比較例1に係る表面処理皮膜付き硬質粒子(炭化ケイ素粒子)Lを作製した。
【0100】
[比較例2]
ダイヤモンド粒子(硬質粒子、トーメイダイヤ株式会社製、平均粒径:16.0μm)に金属ニッケルを真空蒸着して、比較例2に係る表面処理皮膜付き硬質粒子(ダイヤモンド粒子)Mを作製した。
【0101】
[比較例3]
CBN粒子(硬質粒子、株式会社ニューメタルスエンドケミカルス製、平均粒径:15〜16μm)に金属チタンをスパッタリングして、比較例3に係る表面処理皮膜付き硬質粒子(CBN粒子)Nを作製した。
【0102】
[比較例4]
ダイヤモンド粒子(硬質粒子、トーメイダイヤ株式会社製、平均粒径:16.0μm)にSiOを高周波励起イオンプレーティングして、比較例3に係る表面処理皮膜付き硬質粒子(ダイヤモンド粒子)Oを作製した。
【0103】
[比較例5]
ダイヤモンド粒子(硬質粒子、株式会社ニューメタルスエンドケミカルス製、平均粒径:30μm)に表面処理皮膜を形成しないで、比較例5に係る硬質粒子とした。
【0104】
[表面処理皮膜付き硬質粒子の評価]
実施例1〜11及び比較例1〜5で得られた表面処理皮膜付き硬質粒子について、以下のようにして各種の評価を行った。
【0105】
(表面処理皮膜の組成分析)
実施例1〜11及び比較例1〜4で得られた表面処理皮膜付き硬質粒子をカーボンテープに貼り付け、それをサンプルホルダに取り付けて測定試料とした。以下に示す条件でXPS分析を行い、表面処理皮膜の構成元素の定性分析を行った。その結果を表1に示す。
【0106】
XPS分析条件;
・使用装置:島津製作所株式会社製、ESCA850
・励起X線:Mg−Kα
・測定面積:約50mm
・測定領域:0〜1100eV
・1secスパッタリングした後に分析(SiO換算でのスパッタリング速度:80nm/min)
【0107】
(表面処理皮膜の付着量の分析)
実施例1〜11及び比較例1〜4で得られた表面処理皮膜付き硬質粒子1gを、5質量%フッ化水素酸水溶液100mL(25℃)に添加し、1時間攪拌した。その後、遠心分離により表面処理皮膜を除去し、硬質粒子を沈降させた。ろ液をICP分析して、表面処理皮膜を構成する金属元素成分の濃度分析と吸着リン化合物由来のPの濃度分析とを行った。その分析結果を換算して、表面処理皮膜を構成する金属元素としての付着量と吸着リン化合物を構成するリン元素としての付着量を算出した。その結果を表1に示す。なお、表1には示さないが、水和酸化物含有膜中には水和物を構成する水素原子も含まれる。
【0108】
(密着性評価)
実施例1〜11及び比較例1〜5で得られた表面処理皮膜付き硬質粒子70質量%と、フェノール樹脂塗料(昭和高分子株式会社製、BRP−5417)30質量%とを均一に混合した。そこにクレゾールを加えて、硬質粒子の分散溶液中の溶剤量を50質量%とした。次に、この分散溶解液を10×50mmの黄銅板に塗布した後、その塗布膜を炉内温度300℃の焼成炉で熱硬化させた。次いで、室温まで放冷したのち、セロハン粘着テープを貼り付けて垂直に引き剥がし、硬質粒子の脱落の有無を実体顕微鏡(1000倍)で表面観察した。密着性の評価は、硬質粒子の脱落が認められるものを1点、脱落が認められないものを2点とした。その結果を表1に示す。
【0109】
(分散性評価)
硫酸ニッケル0.53M、塩化ニッケル0.09M、及びクエン酸ナトリウム1.24Mを含有し、水酸化ナトリウムでpHを8に調整したニッケルめっき浴中に、実施例1〜11及び比較例1〜5で得られた表面処理皮膜付き硬質粒子を5g/L添加した。10分間スターラー攪拌した後、攪拌を止め、1分静置した後に、基材としての純銅板(C1020P、厚さ0.1mm、縦40mm、横30mm)とニッケル陽極とを、極間距離50mmとして対向させて設置した。その後、液温50℃、電流密度20A/dmで電解を行い、めっき膜厚約10μmのニッケルめっき銅板を得た。その後、得られたニッケルめっき銅板を実体顕微鏡(1000倍)で表面観察した。硬質粒子が僅かしか析出していないものを1点、硬質粒子が析出するが不均一なものを2点、硬質粒子が均一に析出しているものを3点とした。その結果を表1に示す。
【0110】
【表1】

【0111】
表1の結果から明らかなように、実施例1〜5の表面処理皮膜付き硬質粒子の表面処理皮膜からは、それぞれの金属元素と酸素が検出されたことから、その表面処理皮膜は各金属の水和酸化物含有膜であることが推定された。なお、実施例6では、ジルコニウムの水和酸化物に加え、ジルコニウム炭化物が形成していることが推定された。また、実施例7では、チタンの水和酸化物に加え、チタン窒化物が形成していることが推定された。また、実施例8では、表面処理皮膜がジルコニウムの水和酸化物からなり、その表面にリン化合物が吸着していることが推定された。また、実施例9では、表面処理皮膜がクロムの水和酸化物からなり、その表面にリン化合物が吸着していることが推定された。一方、比較例1では、表面処理皮膜がカルシウムの炭酸塩で形成されていることが推定された。また、比較例2では金属Niが検出され、比較例3では金属Tiが検出され、比較例4では、表面処理皮膜がケイ素の水和酸化物からなることが推定された。
【0112】
密着性と分散性に関しては、実施例1〜7では密着性及び分散性とも2点であった。また、実施例8,9では、密着性が2点で分散性は3点であり、分散性がさらに優れる結果となった。また、実施例10,11の水性ディスパージョンでは、分散性がいずれも3点であり、分散性に優れる結果になった。一方、比較例1〜3,5では、いずれも密着性が1点で分散性も1点であり、密着性と分散性のいずれも劣る結果となった。また、比較例4では、密着性は2点であったが分散性は1点であり、分散性に劣る結果となった。
【0113】
(表面処理皮膜の均一成膜性評価)
実施例5で得られた表面処理皮膜付き硬質粒子(ダイヤモンド粒子)E及び比較例5の表面処理被膜を形成していない硬質粒子(ダイヤモンド粒子)について、以下の条件でEPMA分析を実施した。
【0114】
EPMA分析条件;
・使用装置:日本電子株式会社製、JXA−8230
・加速電圧:15.0kV
・照射電流:5×10−8
・測定元素:Ti,O,C
・測定倍率:3000倍
【0115】
その結果、表面処理被膜を形成していないダイヤモンド粒子の表面からは、Tiが検出されず、CとOのみが検出された。しかし、表面処理皮膜付き硬質粒子(ダイヤモンド粒子)Cの表面にはTiが検出され、且つOの検出強度が高くなっていた。その結果、TiとOが、ダイヤモンド粒子表面の全面で、ほぼ同強度で検出されており、表面処理皮膜が均一に形成されていることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0116】
用途は特に限定されないが、本発明に係る表面処理皮膜付き硬質粒子の製造方法及び得られた表面処理皮膜付き硬質粒子は、アルミニウム等の金属の分散めっきに使用される表面硬化用硬質粒子としての用途に利用できる。また、切削ホイール、ワイヤーソー等の切削用砥粒等にも好適に利用できる。
【符号の説明】
【0117】
1 表面処理皮膜付き硬質粒子
2 硬質粒子
3 金属化合物膜
3’ 金属水和酸化物含有膜
4 リン化合物膜
4’ リン化合物吸着膜
11 水性ディスパージョン
12 水性溶媒

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヌープ硬度が1000以上の硬質粒子を準備する工程と、
前記硬質粒子をZr、Ti、Si、Cr、Ta、Hf、Sn、Mo、W、Zn、In及びVから選ばれる1種又は2種以上の金属のフッ化物錯体を含む水溶液中に保持して、前記硬質粒子の表面に前記金属の水和酸化物含有膜を形成する工程と、
前記金属の水和酸化物含有膜が形成された硬質粒子を乾燥させる工程と、を有することを特徴とする表面処理皮膜付き硬質粒子の製造方法。
【請求項2】
前記水和酸化物含有膜形成工程と前記乾燥工程との間に、リン化合物を含有する水溶液への接触工程を設ける、請求項1に記載の表面処理皮膜付き硬質粒子の製造方法。
【請求項3】
前記乾燥工程後に、大気雰囲気、非酸化雰囲気又は還元雰囲気の条件下で熱処理する工程を設ける、請求項1又は2に記載の表面処理皮膜付き硬質粒子。
【請求項4】
前記熱処理工程が、酸素分圧50Torr以下の非酸化雰囲気下又は還元雰囲気下で、400℃以上の温度で熱処理する工程である、請求項3に記載の表面処理皮膜付き硬質粒子の製造方法。
【請求項5】
ヌープ硬度が1000以上の硬質粒子を準備する工程と、
前記硬質粒子をZr、Ti、Si、Cr、Ta、Hf、Sn、Mo、W、Zn、In及びVから選ばれる1種又は2種以上の金属のフッ化物錯体を含む水溶液中に保持して、前記硬質粒子の表面に前記金属の水和酸化物含有膜を形成する工程と、
前記金属の水和酸化物含有膜が形成された硬質粒子を水性溶媒に懸濁する工程と、を有することを特徴とする表面処理皮膜付き硬質粒子を含有する水性ディスパージョンの製造方法。
【請求項6】
前記水和酸化物含有膜形成工程と前記懸濁工程との間に、リン化合物を含有する水溶液への接触工程を設ける、請求項5に記載の表面処理皮膜付き硬質粒子を含有する水性ディスパージョンの製造方法。
【請求項7】
ヌープ硬度が1000以上の硬質粒子と、該硬質粒子の表面に設けられたZr、Ti、Si、Cr、Ta、Hf、Sn、Mo、W、Zn、In及びVから選ばれる1種又は2種以上の金属化合物膜と、を有することを特徴とする表面処理皮膜付き硬質粒子。
【請求項8】
前記金属化合物膜は、前記金属の酸化物、水酸化物、窒化物及び炭化物の中から選ばれる少なくとも1種の金属化合物を含む、請求項7に記載の表面処理皮膜付き硬質粒子。
【請求項9】
前記金属化合物膜の表面にリン化合物膜が形成されている、請求項7又は8に記載の表面処理皮膜付き硬質粒子。
【請求項10】
ヌープ硬度が1000以上の硬質粒子の表面に、Zr、Ti、Si、Cr、Ta、Hf、Sn、Mo、W、Zn、In及びVから選ばれる1種又は2種以上の金属の水和酸化物含有膜を有する表面処理皮膜付き硬質粒子と、該表面処理皮膜付き硬質粒子が懸濁されている水性溶媒と、を有することを特徴とする表面処理皮膜付き硬質粒子を含有する水性ディスパージョン。
【請求項11】
前記金属化合物膜が、前記金属の酸化物、水酸化物、窒化物及び炭化物の中から選ばれる少なくとも1種の金属化合物を含む、請求項8に記載の表面処理皮膜付き硬質粒子を含有する水性ディスパージョン。
【請求項12】
前記金属化合物膜の表面にリン化合物吸着膜が形成されている、請求項10又は11に記載の表面処理皮膜付き硬質粒子を含有する水性ディスパージョン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−180238(P2012−180238A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−43565(P2011−43565)
【出願日】平成23年3月1日(2011.3.1)
【出願人】(000229597)日本パーカライジング株式会社 (198)
【Fターム(参考)】