説明

製紙用エマルジョン型表面サイズ剤および製紙用表面塗工液

【課題】サイズ効果が良好であり、表面サイズ剤の製造から使用するまでの間、貯蔵安定性、特に、高濃度における貯蔵安定性に優れた製紙用表面サイズ剤および機械的シェアに安定で凝集物が発生しにくい表面塗工液を提供する。
【解決手段】(メタ)アクリルアミド(a1)30〜90重量%、スルホン酸基含有不飽和単量体(a2−1)を含むアニオン性不飽和単量体(a2)5〜50重量%、および置換基の炭素数が6〜12である(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体(a3)5〜50重量%を含む単量体成分(a)を共重合させて得られる水溶性ポリマー(A)、アルキルケテンダイマー(B)、トリメリット酸トリアルキルエステル(C)および水溶性アルミニウム化合物(D)を含有する製紙用エマルジョン型表面サイズ剤とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製紙用エマルジョン型表面サイズ剤および製紙用表面塗工液に関する。
【背景技術】
【0002】
製紙用エマルジョン型表面サイズ剤は、紙の表面に塗工することにより、紙にサイズ効果を付与するものである。これらの表面サイズ剤としては、アルキルケテンダイマー(AKD)を水に分散させたものや、カチオン性官能基を有するポリマーを水に分散させたものなどが用いられている。
【0003】
AKDを水に分散させたAKD系表面サイズ剤は、サイズ効果が良好であるが、水に分散されたエマルジョン形態であることから、機械的シェアに対する安定性や、貯蔵安定性が悪く、紙への塗工時に凝集物が発生し、この凝集物が汚れとなり紙の製造に悪影響を及ぼすという問題があった。さらに、ユーザーにおいて、在庫する際の保管期間の長期化と保管スペースをより少なくするなど使用時における利便性も求められているが、エマルジョン形態を長期間、特に高濃度で安定的に維持することは困難である。
【0004】
これらの課題を解決すべく、例えば、アルキルケテンダイマー化合物と、アニオン性基を含む保護コロイドおよび/または分散剤と、水溶性アルミニウム塩を含有することを特徴とする製紙用表面サイズ剤組成物が提案されているが(特許文献1参照)、十分なものではなく、さらなる向上が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平2−19592号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、機械的シェアに対する安定性を有し、紙への塗工時に生じる凝集物の発生が低減され、また、長期間の保管に対しても安定な製紙用エマルジョン型表面サイズ剤、さらに、高濃度で保管した場合であっても、高い保管安定性を有する製紙用エマルジョン型表面サイズ剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、前記課題を解決すべく鋭意検討したところ、アルキルケテンダイマー系サイズ剤中に(メタ)アクリルアミド、スルホン酸基含有不飽和単量体(a2−1)を含むアニオン性不飽和単量体、および置換基の炭素数が特定範囲の(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体を特定割合で含む水溶性ポリマー、トリメリット酸トリアルキルエステル、および水溶性アルミニウム化合物を含有させることにより前記課題を解決できることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は、(メタ)アクリルアミド(a1)30〜90重量%、スルホン酸基含有不飽和単量体(a2−1)を含むアニオン性不飽和単量体(a2)5〜50重量%、および置換基の炭素数が6〜12である(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体(a3)5〜50重量%を含む単量体成分(a)を共重合させて得られる水溶性ポリマー(A)、アルキルケテンダイマー(B)、トリメリット酸トリアルキルエステル(C)および水溶性アルミニウム化合物(D)を含有する製紙用エマルジョン型表面サイズ剤;(a3)成分の置換基が脂環構造を有するものである前記製紙用表面サイズ剤;(B)成分100重量部に対して(A)成分が2〜100重量部である前記製紙用エマルジョン型表面サイズ剤;さらに、アニオン性分散剤を含有する前記製紙用エマルジョン型表面サイズ剤;前記製紙用エマルジョン型表面サイズ剤および澱粉類を含有する表面塗工液、に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、サイズ効果が良好であり、機械的シェアに対する安定性、摩擦係数の低下が抑制された、紙への塗工時に生じる凝集物を低減できる製紙用表面サイズ剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の製紙用エマルジョン型表面サイズ剤(以下、単に、表面サイズ剤という。)に用いる、水溶性ポリマー(A)(以下、(A)成分という。)は、(メタ)アクリルアミド(a1)30〜90重量%、スルホン酸基含有不飽和単量体(a2−1)を含むアニオン性不飽和単量体(a2)5〜50重量%、および置換基の炭素数が6〜12である(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体(a3)5〜50重量%を含む単量体成分(a)を共重合させて得られるものである。
【0011】
(メタ)アクリルアミド(a1)(以下、(a1)成分という。)とは、アクリルアミドおよび/またはメタクリルアミドを意味する。(a1)成分の使用割合は、後述する他の単量体成分の使用量とのバランスから、単量体成分(a)((A)成分を構成する全単量体成分)に対して、30〜90重量%、好ましくは、40〜70重量%である。
【0012】
スルホン酸基含有不飽和単量体(a2−1)を含むアニオン性不飽和単量体(a2)(以下、(a2)成分という。)は、少なくとも、必須成分としてスルホン酸基含有不飽和単量体(a2−1)(以下、(a2−1)成分という。)を含有する。(a2−1)成分は、得られる表面サイズ剤のエマルジョン安定性を高める効果を有するものである。(a2−1)成分としては、スルホン酸基を少なくとも1つ有し、かつラジカル重合性官能基を1つ有する単量体および/またはその塩であれば特に限定されず、公知のものを使用することができる。具体的には、アリルスルホン酸、アリルスルホン酸ナトリウム、メタリルスルホン酸、メタリルスルホン酸ナトリウム、メタリルスルホン酸アンモニウム塩、ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸などが挙げられる。これらの中でも、(メタ)アリルスルホン酸ナトリウムを用いると、分子量と架橋構造の調整が容易になる点で好ましい。
【0013】
(a2−1)成分以外の(a2)成分としては、分子内にアニオン性官能基又はその塩を有し、かつラジカル重合性官能基を1つ有するものであって、(a2−1)以外のものであればよい。具体例としては、(メタ)アクリル酸等のモノカルボン酸およびマレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸、フマル酸、ムコン酸等のジカルボン酸またはその無水物もしくはその中和塩、リン酸2−(メタ)アクリロイルオキシエチル等のリン酸基含有不飽和モノマーおよびこれらのナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、有機塩基類等が挙げられる。これらは1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。これらの中ではイタコン酸またはその中和塩が他の成分との共重合性に優れるため、好ましい。全単量体成分(a)に対する(a2)成分の使用割合としては、ポリマーの親水性および疎水性のバランスの観点から5〜50重量%、好ましくは10〜40重量%である。
また、(a2)成分中の(a2−1)成分の使用割合としては、5〜50重量%程度が好ましく、より好ましくは10〜40重量%である。
【0014】
置換基の炭素数が6〜12である(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体(a3)(以下、(a3)成分という。)は、(メタ)アクリル酸(アクリル酸またはメタクリル酸を意味する。以下、同様。)と1価のアルコール類を反応させて得られ、1分子中に(メタ)アクリル酸由来の重合性二重結合を1つ有するエステルである。アルコール類が2価以上のものは、(A)成分の親水性を過度に高めるおそれがあり使用すべきでない。(a3)成分の置換基は、炭素数が6〜12であればよく、置換基の炭素鎖は、直鎖状若しくは分岐鎖状、または環状のいずれであってもよい。また、これらは1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。(a3)成分の具体例としてはn−ヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、ベンジルアクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、イソボロニル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
(a3)成分を用いない場合、得られる水溶性ポリマー(A)の疎水性および疎水性のバランスが悪く、表面サイズ剤のエマルジョン形態が安定性の高いものとならないため、貯蔵安定性や、機械的シェアに対する安定性が悪くなり、塗工の際に汚れが発生しやすくなる。さらに、表面サイズ剤を、例えば、固形分濃度40%以上の高濃度で保管する場合の貯蔵安定性を高めるには、(a3)成分中に、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘプチル(メタ)アクリレート、シクロオクチル(メタ)アクリレート、シクロデシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、シクロラウリル(メタ)アクリレートを含めることがより好ましい。
全単量体成分(a)に対する(a3)成分の使用割合としては、(A)成分の親水性および疎水性のバランスの観点から、5〜50重量%、好ましくは、10〜40重量%である。また、脂環構造を有する(a3)成分の使用割合は、(a3)成分全体に対して10〜90重量%、好ましくは30〜70重量%である。
【0015】
(a)成分としては、本発明の効果を損なわない範囲で、上記(a1)〜(a3)成分以外の成分(以下、その他の単量体成分という。)を使用してもよい。その他の単量体成分としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ノルマルブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチルなどの置換基の炭素数が6未満の(メタ)アクリル酸アルキルエステル、テトラデシル(メタ)アクリレート、ヘキサデシル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸ステアリルなどの置換基の炭素数が12を超える(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリロニトリル、酢酸ビニル、炭素数6〜22のα−オレフィン、ビニルピロリドン、スチレン、α―メチルスチレン、ビニルトルエンなどが挙げられる。また、全単量体成分(a)に対するその他の単量体成分の使用割合としては、通常、0〜10重量%以下である。
【0016】
(A)成分は、上記(a)成分を重合することにより得られる。重合法は特に限定されず公知の方法を採用することができる。溶液重合を採用する場合には、溶媒としてベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素類、アセトン、メチルエチルケトン等の低級ケトン類、n−プロピルアルコール、iso−プロピルアルコールなどのアルコール類および水等を使用することができる。重合に使用する重合開始剤としては、特に限定されず、公知のものを使用することがでる。具体的には、2,2′−アゾビスイソブチロニトリル、2,2′−アゾビス−2,4−メチルバレロニトリルなどのアゾ化合物、また過酸化ベンゾイル、クメンハイドロパーオキシド、tert−ブチルハイドロパーオキシド、ジクミルパーオキサイド、ラウリルパーオキサイドなどの有機過酸化物、また、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム等の過硫酸塩、これらと亜硫酸水素ナトリウムのような還元剤とを組み合わせたレドックス系重合触媒、その他レドックス触媒系のものが挙げられる。また、重合反応の条件としては、通常、反応温度70〜140℃程度、反応時間1〜10時間程度で行えばよい。
【0017】
(A)成分の分子量は特に限定されないが、通常、重量平均分子量(ゲルパーメーションクロマトグラフ法によるポリエチレンオキシド換算値)が2,000〜50,000程度とすることが、得られる表面サイズ剤の分散安定性の面から好ましい。また、(A)成分の25重量%(固形分換算)における粘度は、600mPa・s以下であることが好ましく、より好ましくは、300mPa・s以下である。前記粘度が600mPa・sを超えると、得られるエマルジョンの長期保管安定性の確保が困難となる傾向がある。なお、粘度は、25℃で、B型粘度計による測定値である。
【0018】
本発明の表面サイズ剤に用いるアルキルケテンダイマー(B)(以下、(B)成分という。)としては、特に限定されず公知のものを用いることができる。(B)成分としては、下記一般式で表される化合物が好ましい。
【0019】
【化1】

(式中、RおよびRは、それぞれ飽和または不飽和の炭化水素基を表し、同一であっても、異なっていても良い。)
【0020】
また、サイズ効果の発現に適した範囲として、一般式中のR、Rの炭素数は、8〜30程度のものを使用することが好ましい。具体的には、アルキル基(オクチル、デシル、ドデシル、テトラデシル、ヘキサデシル、オクタデシル、エイコシル等)、アルケニル基(オクテニル、デセニル、ドデセニル、テトラデセニル、ヘキサデセニル、オクタデセニル、エイコセニル等)などを例示できる。なお、当該アルキルケテンダイマー化合物は、1種を単独で、または2種以上を組合せて用いることもできる。
【0021】
本発明の表面サイズ剤に用いるトリメリット酸トリアルキルエステル(C)(以下、(C)成分という。)は、エマルジョン形態の安定化および保存安定性に寄与するものである。(C)成分の具体例としては、トリメリット酸トリイソデシル、トリメリット酸トリノルマルデシル、トリメリット酸トリ2−エチルヘキシル、トリメリット酸トリノルマルオクチル等が挙げられ、さらに、前記化合物中の1または2個のアルキル基を、それ以外の前記化合物のアルキル基に置き換えた化合物であってもよい。これらは、花王社製商品名「トリメックスN−08」などの市販品として入手することができる。(C)成分の使用量は、(B)成分100重量部に対して、0.1〜20重量%程度が好ましい。
【0022】
本発明の表面サイズ剤に用いる水溶性アルミニウム化合物(D)(以下、(D)成分いう。)は、特に限定されず、通常のサイズ剤成分として使用される公知のものを用いることができる。予め、(D)成分を含有することにより、表面サイズ剤のエマルジョン形態の安定性が向上する。水溶性アルミニウム化合物としては、硫酸アルミニウム、塩基性硫酸アルミニウム、硫酸硅酸アルミニウム等の硫酸アルミニウム類、塩化アルミニウム、塩基性塩化アルミニウム等の塩化アルミニウム類、硝酸アルミニウムおよびこれらの重合体等を用いることができる。これらの中では、硫酸アルミニウムを用いることが、経済性、及び、工業的に入手が容易であることから好ましい。
【0023】
本発明の表面サイズ剤は、前記(A)〜(D)成分を含有してなるものである。(A)〜(D)成分の使用割合は、サイズ効果の確保とエマルジョンの安定性の面から、固形分重量比で(B)成分100重量部に対して(A)成分2〜100重量部、好ましくは5〜50重量部である。また、(C)成分および(D)成分の使用割合は、特に限定されないが、通常、固形分重量比で(B)成分100重量部に対して、それぞれ、(C)成分0.1〜20重量部(好ましくは、0.5〜15重量部)、(D)成分0.001〜2重量部(好ましくは、0.01〜1重量部、但し、アルミニウム量として)である。
【0024】
本発明の表面サイズ剤の調製方法は特に制限されず、通常、(A)成分の熱水溶液に(B)〜(D)成分を公知の手段により混合・攪拌して分散させればよい。分散に用いる設備としては、ホモミキサーや、高圧吐出型ホモジナイザー、超音波乳化機等が挙げられる。
【0025】
本発明の表面サイズ剤は、分散性をより向上させるためなど、必要により、アニオン性分散剤およびノニオン性分散剤を使用してもよい。アニオン性分散剤としては、具体的には、ジアルキルスルホコハク酸エステル塩、アルカンスルホン酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルスルホコハク酸エステル塩、ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテルスルホコハク酸エステル塩、ナフタレンスルホン酸塩ホルマリン縮合物、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステル塩等、などが挙げられる。ノニオン性分散剤としては、具体的には、ポリエチレングリコール、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、シュガーエステル等などが挙げられる。これらの中でもアニオン性分散剤を用いる方が、エマルジョンの安定化の面で好まく、ナフタレンスルホン酸塩ホルマリン縮合物がより好ましい。なお、界面活性剤は1種を単独で、または2種以上を併用することもできる。
【0026】
こうして得られた本発明の表面サイズ剤は、通常、乳白色の外観を有しており、固形分濃度20重量%において、通常、3〜20mPa・s(25℃、B型粘度計による、以下同様である。)程度、固形分濃度40重量%の高濃度であっても、5〜100mPa・s程度、pH3.0〜6.0程度、平均粒子径(レーザー回折/散乱式粒度測定装置で測定)0.3〜2.0μmを有するものである。
【0027】
本発明の表面表面サイズ剤は、酸化澱粉、リン酸エステル化澱粉、酵素変性澱粉、APS変性澱粉、カチオン化澱粉、両性澱粉などの澱粉類を添加し製紙用表面塗工液として使用することができる。澱粉類の塗工量は通常は0.1〜5g/m(固形分)程度であり、好ましくは0.2〜4g/mである。
さらに、本発明の表面サイズ剤および製紙用表面塗工液は、必要に応じて、公知の各種添加剤を添加して、添加剤としては、消泡剤、防滑剤、防腐剤、防錆剤、増粘剤、pH調整剤、酸化防止剤、増膜助剤、顔料、染料などが挙げられる。
【0028】
本発明の表面表面サイズ剤、製紙用表面塗工液を紙に塗工することにより、サイズ効果に優れた紙を得ることができる。本発明の製紙用表面表面サイズ剤、製紙用表面塗工液を塗工する紙としては、新聞巻取紙、筆記用紙、壁紙、PPC用紙、インクジェット用紙、印刷用紙や、ライナーや中芯等の板紙等の各種のものが挙げられる。紙表面への塗工方法としては、公知の方式を採用できる。塗工方法としては、たとえば、含浸法、バーコーター法、カレンダー法、スプレー法、二本ロールサイズプレス等の方式、ゲートロールサイズプレス、シムサイズプレス等のフィルム転写方式等が挙げられる。また、表面サイズ剤、および製紙用表面塗工液に含まれる表面サイズ剤の塗工量は通常は0.001〜2g/m(固形分)程度、好ましくは0.005〜1g/mである。
【実施例】
【0029】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら各例に限定されるものではない。なお、各例中、部および%は特記しない限りすべて重量基準である。
【0030】
水溶性ポリマー(A)の合成
(合成例1)
撹拌機、冷却管、滴下ロート、窒素導入管および温度計を備えたフラスコに、アクリルアミド99.0g、メタリルスルホン酸ナトリウム21.6g、イタコン酸21.6g、2エチルヘキシルアクリレート14.4g、シクロヘキシルメタクリレート23.4g、イソプロピルアルコール272.6g、イオン交換水256.9gを仕込み、この混合液を攪拌しながら窒素ガスバブリング下で50℃まで昇温した。過硫酸アンモニウムの10%水溶液17.4gを加え、80℃まで昇温し、同温度で3時間保持した後、イオン交換水205.0gを加え希釈し、イソプロピルアルコールを留去し、48%水酸化ナトリウム水溶液を0.8g加えた後、濃度調節し、固形分濃度25%の水溶性ポリマー(A)を得た。得られた水溶性ポリマー(A)の合成直後の粘度を表1に示す。なお、粘度は、225mlのマヨネーズ瓶にサンプルを入れ、25℃でB型粘度計を使用して測定した(以下の例も同様である。)。
【0031】
(合成例2〜5、および比較合成例1〜9)
製造例1において、各成分の種類と量を表1に変更したこと以外は、製造例1と同様にして、水溶性ポリマーを合成した。ただし、比較例4,6および9は、共重合反応が不完全であり、ポリマーを得ることができなかった。
【0032】
【表1】

表中の各成分の使用量は重量%で表示し、記号は以下のとおりである。
AM:アクリルアミド、IA:イタコン酸、SMAS:メタリルスルホン酸ナトリウム、CHA:シクロヘキシルアクリレート、CHMA:シクロヘキシルメタアクリレート、2EHA:2エチルヘキシルアクリレート、LA:ラウリルアクリレート、MMA:メチルメタクリレート、BA:ブチルアクリレート、BMA:ブチルメタクリレート、SMA:ステアリルメタクリレート
【0033】
実施例1
アルキルケテンダイマー(パルミチン酸クロライド35%、ステアリン酸クロライド65%の混合物を原料としたもの)350g、(C)成分として、トリメリット酸トリアルキルエステル(アルキル鎖C8、C10)17.5g、(A)成分として、合成例1で得られた水溶性ポリマー(A)210g、アニオン性分散剤(ナフタレンスルホン酸ナトリウムホルマリン縮合物)の40%水溶液(花王社製、商品名「デモールNL」)10.5g、硫酸アルミニウム水溶液(Alとして8%含有)17.5g、48%水酸化ナトリウム水溶液5.5g、ならびに脱イオン水399gを仕込み、70〜80℃に加熱し、ホモミキサー(特殊機化工業(株)製)で予備分散させた後、次いで、同温度にて40MPaの条件下に高圧ホモジナイザー(APV、GAULIN社製)に2回通して強制分散させた。その後、25℃まで冷却し、水で希釈して固形分濃度40%の表面サイズ剤を得た。また、別途、乳化前の脱イオン水の仕込み量を変更した以外は同様にして固形分濃度20%の表面サイズ剤を得た。前者を高濃度における貯蔵安定性の評価に使用し、後者を低濃度における貯蔵安定性の評価にそれぞれ使用した。得られたエマルジョン型表面サイズ剤の製造直後における25℃の粘度を225mlのマヨネーズ瓶にサンプルを入れ、B型粘度計を使用して測定した。結果を表1に示す。
【0034】
(実施例2〜9および比較例1〜8)
成分(A)については種類と使用量を、(B)〜(D)成分およびアニオン性分散剤については、使用量のみを表3のように変更した他は実施例1と同様にして、それぞれ固形分濃度40%と、20%のエマルジョン型表面サイズ剤を得た。得られたエマルジョン型表面サイズ剤の25℃の粘度を実施例1と同様に測定した。結果を表1に示す。ただし、比較例7および8の固形分濃度40%のものは、高粘度のクリーム状となったため、測定不能であった。
【0035】
(貯蔵安定性)
上記実施例および比較例1〜3において得られた、高濃度(40%)および低濃度(20%)の各エマルジョン型表面サイズ剤をそれぞれ用いて、以下の評価方法により貯蔵安定性を評価した。その結果を表2に示す。
評価方法
225mlのマヨネーズ瓶にサンプルを入れ、30℃で1ヵ月保存した後の粘度(B型粘度計:25℃)を測定した。
【0036】
(機械的安定性)
市販の酸化澱粉(王子エースA 王子コーンスターチ社製)を固形分濃度15%として90℃で糊化を行い、これを用いて固形分濃度で酸化澱粉4%、実施例および比較例で調製したエマルジョン型表面サイズ剤を固形分濃度0.2%含有する塗工液を調製し、350メッシュの金網でろ過した。この塗工液250gを40℃に調整し、容量1250mlの家庭用ミキサーに入れて1分間攪拌処理後した。その後、350メッシュ金網でろ過し、金網に残った粕を乾燥させた後、秤量して、粕発生率(%)を下式により算出した。
粕発生率(%)={粕(g)/塗工液250g×0.002}×100
なお、固形分濃度40%のものが得られなかった比較例7および比較例8は、固形分濃度20%のもののみ試験を行った。
【0037】
【表2】

なお、表中の各成分の使用量は、重量部である。
【0038】
(サイズ性能)
市販の酸化澱粉(王子エースA 王子コーンスターチ(株)製)を固形分濃度15%として90℃で糊化を行い、これを用いて固形分濃度で酸化澱粉4%、実施例および比較例で調製したエマルジョン型表面サイズ剤を固形分濃度0.03%含有する塗工液を調製した。得られた塗工液を、未塗工の中性上質原紙(坪量80g/m)にサイズプレス機にて塗工し、105℃の回転式ドラムドライヤーに1分間通して乾燥した。乾燥後、23℃、RH50%の条件に24時間調湿した後、得られた塗工紙をJIS P−8122に準拠して、ステキヒトサイズ度(秒)を測定した。数値が大きいほど良好なサイズ度を表す。
なお、サイズ性能の評価に使用した、各実施例および比較例のエマルジョン型サイズ剤は、固形分濃度40%のものを使用し、固形分濃度40%のものが得られなかった比較例7および比較例8のみ、固形分濃度20%のものを使用した。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリルアミド(a1)30〜90重量%、スルホン酸基含有不飽和単量体(a2−1)を含むアニオン性不飽和単量体(a2)5〜50重量%、および置換基の炭素数が6〜12である(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体(a3)5〜50重量%を含む単量体成分(a)を共重合させて得られる水溶性ポリマー(A)、アルキルケテンダイマー(B)、トリメリット酸トリアルキルエステル(C)および水溶性アルミニウム化合物(D)を含有する製紙用エマルジョン型表面サイズ剤。
【請求項2】
(a3)成分として、置換基に脂環構造を有する単量体(a3−1)を含有する請求項1記載の製紙用表面サイズ剤。
【請求項3】
(B)成分100重量部に対して(A)成分が2〜100重量部である、請求項1または2に記載の製紙用エマルジョン型表面サイズ剤。
【請求項4】
さらに、アニオン性分散剤を含有する請求項1〜3のいずれかに記載の製紙用エマルジョン型表面サイズ剤。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか記載の製紙用エマルジョン型表面サイズ剤および澱粉類を含有する製紙用表面塗工液。


【公開番号】特開2012−211422(P2012−211422A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−78644(P2011−78644)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000168414)荒川化学工業株式会社 (301)
【Fターム(参考)】