説明

褥瘡予防用具

【課題】足の動きを拘束せず下腿から足部に渡り支持して除圧し、骨突出部の褥瘡を予防することができる、かつ着脱が容易で軽量な褥瘡予防用具を提供する。
【解決手段】下腿部に接する下腿支持部5、足底に接する足底支持部4、足の両側壁に接する側面保護部2,3及び固定具1より構成され、固定具1を除くこれら構成体が伸縮性を有する素材の複数に区分した袋状体からなっており、その各々に流動性の良好なビーズ状体を充填した褥瘡予防用具である。複数に区分した袋状の構成体におけるビーズ状体の充填密度がふくらはぎと踵の間の凹部に位置する袋状体で最も高く、次いで足部の土踏まずの位置の袋状体の充填密度が高く、両端に向かうほど充填密度が低くなるように構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下肢部に装着し、足部の骨突出部の褥瘡を予防する用具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、足部の褥瘡予防用具は踵に焦点を当てたものが多く、側臥位になった場合、下腿や足部の骨突出部の褥瘡をも予防するものは入手困難で、多くの介護や看護のなかではエアマットやポジショニングのためのクッションを使用することが多い。このような状況下では使用者の体位の変化などに追従しにくいため十分褥瘡の予防効果が得られない、介護士や看護師による確認や体位を変える作業等の頻度が高まり、効果的な看護等ができにくい問題点がある。また、看護において手術や処置などで一定の体位を長時間とらざるを得ない場合持続的な圧迫により褥瘡発生しやすい問題や重篤患者において治療が優先され、足部の除圧が疎かになりやすい問題もある。そのために、クッション材を入れた足首までの側壁を一体的に設けたもの(特許文献1)、アーチ形のクッション材で足首より上の部分を保護するもの(特許文献2)、踵を含め両くるぶしまでを覆い保護するもの(特許文献3)が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−283009号 公報
【特許文献2】特開2006−34410号 公報
【特許文献3】特開2002−102275号 公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら上述した従来の技術では、足首を直角に置くため足部の自由度が低くかつふくらはぎの筋肉を緊張させた状態に維持するので長時間の使用には配慮が必要であり、また踵や足の一部を保護するものは他の保護部材との併用となるなど介護や看護、療養等長期に渡る使用には改良すべき点が多々あった。本発明では、下腿から足部に渡り支持するとともに足の動きを拘束せず除圧(体の一部にかかる圧力的な負担を取り除くこと)し、骨突出部の褥瘡を予防することができる、かつ着脱が容易で軽量な褥瘡予防用具を提供することを目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0005】
そこで本発明は、下腿部に接する下腿支持部、足底に接する足底支持部、足の両側壁に接する側面保護部及び固定具より構成される褥瘡予防用具として、固定具を除くこれら構成体が伸縮性を有する素材からなる複数に区分した袋状体を形成し、その各々に流動性の良好なビーズ状体を充填したものである。特に下腿支持部と足底支持部は、その各々にビーズ状体を当該用具着用時に床面と下腿から踵にかけての間に形成される凹部を充足するようにおよび足底凹部を充足するように充填したものである。これら複数に区分した袋状の構成体におけるビーズ状体の充填密度がふくらはぎと踵の間の凹部に位置する袋状体で最も高く、次いで足部の土踏まずの位置の袋状体の充填密度が高く、両端に向かうほど充填密度が低くなるように構成し、踵を常に浮かせる状態にしたことを特徴としている。当該予防用具を着用したときに、足部の骨突出部がビーズ状体が充填された袋状体に当たることにより、袋状体で伸縮性を考慮し制限された範囲にビーズが移動し、受ける骨突出部の押圧を分散するように作用する。すなわち袋状体内のビーズ状体が下腿の形状に沿って流動し、踵からふくらはぎの形状と床との間にできる空間を充足するようにして下腿部が保持され、下腿部から受ける圧力を均等に分散授受することができるので除圧効果が得られることになる。よって、褥瘡の発生の予防や褥瘡の改善を図ることができるようになる。
【0006】
各構成体はそれぞれ2分割またはそれ以上の領域に縫合や接着等の方法により区分された袋状部材をさらに縫合などにより接合し提供することができる。袋状体の素材としては、用具を洗濯して清潔に保つことができ蒸れにくく伸縮性を有するものであれば利用可能である。このようなものとしてポリエステルなど合成繊維製の吸汗速乾素材やニットやトリコットなどの布があるがこれに限るものではない。また、ビーズ状体としては、発泡スチロール製の粒径0.2ミリメートルから1ミリメートル以下の範囲のビーズが好ましく、それらを界面活性剤などで処理しビーズ同士の摩擦係数の低下や帯電防止を図ったものは流動性、復元力の点で特に好ましい。また、合成繊維製のこれら布と発泡スチロール製のビーズを併用することにより軽量化と洗濯容易性を図ることができる。
【0007】
下腿支持部は、踵からふくらはぎに向けてその形状に沿って幅広になるように形成し、踵よりふくらはぎ最太部の間で袋状体を複数に区分し、各々にビーズ状体を踵に近いほど充填密度が高くなるよう充填すると、当該用具を装着し臥床した場合に踵からふくらはぎにかけて受ける押圧に応じ、素材の伸縮性により袋状体の容積の拡張性が増し、ビーズ状体の移動できる自由度が高くなるので、踵からふくらはぎ部の空間を埋めるようにしてなされる体圧の分散の均等性がより良好となる。ここで、袋状体への充填密度は、当該用具装着時下腿支持部と足底支持部の接合部に踵を保持させるために足底支持部の土踏まずの位置の空隙を埋める程度のビーズ状体を充填することを基準とした。
【0008】
両側面保護部における略三日月状の袋状体は、下腿支持部と足底支持部のそれぞれの側端に合わせ接合し、それにより下腿支持部を底面としたときに略L字型を形成し足底支持部が立ち上がるようにしている。さらに直線状の袋状体を下腿支持部と足底支持部の両端を結ぶように接合させ、当該用具全体が足部の形状に沿うようにしっかりと固定しつつ素材の伸縮性をも利用して着用時の足首や足指の適度な自由度が得られるような構造としている。
【0009】
以上の構成体を足部に固定する固定具は、面ファスナーや、バックルなどの留め具を備え、着用者の足のサイズや締め具合を調節可能で、かつ少なくとも側面保護具の直線袋状部を覆うようにして複数対、取り付けられることが直接固定具の圧力が皮膚にかかりにくく、人の足の種々のサイズに適応でき取り外しも容易であることから好ましい。
【発明の効果】
【0010】
流動性の良いビーズ状体を充填した当該褥瘡予防用具は足の動きを拘束せず足部に馴染み易く、骨突出部に対し大きな除圧効果を発揮し、それら部位の褥瘡の発生の予防やそれを改善させることが可能となった。また、足部に静止荷重が継続してかかる大きな手術時など着用者が足部を数時間動かすことができない場合もビーズ状体の易動性により足部に沿う形状になり均等に体圧を受けるので長時間の除圧効果を得ることが可能となった。併せて、取り付け位置を考慮した固定具により着脱が容易であり、かつ全体の素材を軽量で伸縮性があるものとすることにより着用者にほとんど負担をかけず、看護者にとっては、作業時間や作業工数減など作業性向上につながり、取扱い性に優れた褥瘡予防用具となっている。また、当該品に配色を施すことにより、着用者の注意を促し、看護者の作業管理をも行い易くなる効果も得られる。

【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】使用の状態を示す側面図
【図2】使用の状態を示す平面図
【図3】各構成要素の展開図の例
【図4】褥瘡予防用具を上面から見た図
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、図3及び図4の展開図に示したように下腿部に接する下腿支持部5、足底に接する足底支持部4、足の両側壁に接する側面保護部及び固定具1より構成されている。各構成要素は縫製あるいは接着剤、熱接着等により接合され、固定具1は、複数本の先端に面ファスナーやバックルなどの留め具を有し、足底支持部4、側面保護部3、下腿支持部5の側面と直線状側面保護部2の接合部の外側に接合され、図1及び図2に示したように当該予防具全体で下腿部から足底までを一体的に包み込むように装着することにより足部の骨突出部の保護を図ろうとするものである。
【0013】
側面保護部における三日月状側面保護部3は、下腿支持部5と足底支持部4に連接され、さらに略三日月状をした袋状体の他端と下腿支持部から足底支持部の両端を結ぶラインに直線状側面保護部2を連接し、当該用具全体が踵の通常自然体である略L字の形状に沿うように形成させている。これらの構造により足首をしっかりと固定しつつ着用時の足首や足指の適度な自由度が得られるようにしている。
【0014】
固定具を除く各構成体は、ポリエステルなど合成繊維製の吸汗速乾素材やニットやトリコットなどの布など伸縮性を有する素材を用い、それぞれ構成部ごとに縫製あるいは接着などにより袋状体として、その各々に発泡スチロール製などの粒径0.2ミリメートルから1.0ミリメートルの流動性良好なビーズ状体を充填し、その後各構成部を複数の袋状体に縫製等により区分して製作することができる。また、複数の袋状体に区分しながらビーズ状体を順次充填していくこともできる。なお、ビーズ状体としては、発泡スチロール製の1ミリメートル以下のものが好ましく、それらを界面活性剤などで処理し個体同士の摩擦係数の低下や帯電防止を図ったビーズが流動性、復元力の点で特に好ましい。
【0015】
以上の構成体を足部に固定する固定具1は、一般的に面ファスナーや、バックルなどの留め具などを備えた布製のものが着用者の蒸れの点で好ましい。これにより着用者の足のサイズに対応し、締め具合を調節できるので負担なく、また着脱の容易なものとしている。固定具1の取り付け位置は、少なくとも側面保護具の直線袋状部を覆うようにすると袋状体のクッション効果を常に利用することができるのでよい。
【0016】
下腿支持部5の袋状の構成体は、通常、2から3に区分し、ふくらはぎに当たる部分が最も幅広になるような形状とすることができる。これにより、一定の押圧を受けた時に幅広の部位ほどビーズの移動がされ易く、より均等に押圧を分散するよう作用することになる。そして、ビーズ状体の充填密度が、ふくらはぎと踵の間の凹部に位置する袋状体で最も高く、次いでそこから離れる部位に対して充填密度が低くなるように構成し、加えて足部の土踏まずの位置の袋状体の充填密度が最密充填密度よりやや低くなるように構成することで踵の位置を安定させ骨突出部の押圧をより均等に受けることができるようになりより好ましい。
【実施例1】
【0017】
以下に、添付の図面を用いて本発明の好ましい実施例を説明する。なお、当該発明はこの実施例の範囲に限定されるものではない。
【0018】
図3に示した各構成部品であるポリエステル製の吸汗速乾素材の袋状体に粒径として0.2ミリメートルから1.0ミリメートルの範囲に分布を有する発泡スチロール製ビーズを充填し、袋状体に区分する位置で袋をミシンで縫製して閉じ、さらに同ビーズを充填し、縫製により閉じることを順次繰り返し、下腿支持部5と足底支持部4の連結体を作製した。別に、直線状側面保護部2となる細い円筒状の袋状体と三日月状側面保護部3となる略三日月状の袋状体それぞれ一対に同ビーズを充填したものを作製した。なお、下腿支持部5から足底支持部4にかけてのビーズの充填比率は4:4:10:6:4とし、直線状側面保護部2と三日月状側面保護部3はそれぞれ6:3とし、全ビーズの充填量は46グラムとした。固定ベルト1は、ポリエステル製の帯状体の先端付近に接合できるように面を揃えて面ファスナーを接着したものを4対準備した。
【0019】
まず、下腿支持部5と足底支持部4の接合部に三日月状側面保護部3を図4のように縫合し、固定具1は足底支持部4、側面保護部3、下腿支持部5の側面と直線状側面保護部2の接合部の外側に接合し、これら固定具で直線状側面保護部2の上部から固定することで固定具による局所的な圧迫なく予防具を着用できるようにした。外側に表れる縫い代はバイアスで袋綴じし見栄えをよくした。なお、このように接合することにより縫い代や固定ベルトが骨突出部に直接当たることがないものとした。このように作成した当該予防具は、全容がおおよそ長さ400ミリメートル×最大幅230ミリメートル×高さ70ミリメートルで重量100グラムであった。これを消毒薬と洗剤を使用し手洗いで10回洗浄、脱水、自然乾燥を繰り返しても、ヘタリはなく、復元力やビーズの流動性は良好であった。
【0020】
これを寝たきり状態でまったく動けない者(A)、寝たきりでもわずかに足を動かせる者(B)各2名にそれぞれ仰臥位で図1及び図2のように装着してもらい、10分おきに2時間に渡り踵部の体圧測定を行うとともに褥瘡形成の様子を観察した。その結果、(A)は足を動かさないため水銀柱で表した踵部の体圧はほぼ一定の14mmHgを示し、(B)は足を動かしたり、力を入れたりしたため一時的に体圧が32〜39mmHgと高値となるが静止したときには15〜18mmHgと低い値であった。一時的な高値を示す理由は、充填したビーズが袋状体内で移動し応力を分散するまでのトランジェントと考えられる。このことから本発明は除圧に有効であるといえる。
【0021】
体圧が分散された状態では、各着用者の体圧は14〜18mmHgと低い値で良好な結果であった。なお、褥瘡は、一般に32mmHg以上の体圧が2時間以上かかると形成しやされやすいとされ、このように高い体圧を受けることが一時的で済むようにできたために褥瘡に至らないと考えられる。
【実施例2】
【0022】
実施例1の褥瘡予防具を寝たきりで自力体動困難な対象者30名に同様に着用し使用したところ褥瘡発生は見られず、また別に褥瘡発生者8名に使用したところ褥瘡の悪化はまったく無く、むしろ改善の方向にあった。よって、本発明は長期の足を動かせない状況にある場合にも予防効果があることが確認できた。
【符号の説明】
【0023】
1 固定ベルト(固定具)
2 直線状側面保護部
3 三日月状側面保護部
4 足底支持部
5 下腿支持部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下腿部に接する下腿支持部、足底に接する足底支持部、足の両側壁に接する側面保護部、それらを足に固定する固定具より構成される褥瘡予防具であって、固定具を除くこれら構成体が伸縮性を有する素材からなる複数に区分した袋状を形成し、その各々にビーズ状体を充填し、それら充填状態が当該用具着用時に床面と下腿から踵にかけての間に形成される凹部を充足するようにおよび足底凹部を充足するように、そしてそのときに少なくとも踵部が浮くようにしたものであることを特徴とする褥瘡予防用具。
【請求項2】
請求項1に記載の褥瘡予防用具であって、これら複数に区分した袋状の構成体におけるビーズ状体の充填密度がふくらはぎと踵の間の凹部に位置する袋状体で最も高く、次いで足部の土踏まずの位置の袋状体の充填密度が高く、両端に向かうほど充填密度が低くなるように構成したことを特徴とする褥瘡予防用具。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の褥瘡予防用具であって、各々の側面保護部が下腿支持部と足底支持部に略三日月形をした袋状体を連結し、略三日月形をした袋状体の他端と下腿支持部から足底支持部の両端を結ぶラインに直線状の袋状体を連接し踵の形状に沿うような構造としたことを特徴とした褥瘡予防用具。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の褥瘡予防用具であって、下腿支持部のこれら複数に区分した袋状の構成体が踵部からふくらはぎの最も太い部分に向けて幅広になるような形状であることを特徴とする褥瘡予防用具。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の褥瘡予防用具で、固定具が踵を挟んで下腿支持部、足底支持部、側面保護部のそれぞれを押さえ込むように、側面保護部の直線状の袋状体の連結部の外側に端を発し足部を固定するように設けた複数の固定具が固定ベルトよりなることを特徴とした褥瘡予防用具。
【請求項6】
請求項1ないし請求項7のいずれかに記載の褥瘡予防用具であって、袋状に形成した構成体に充填するビーズ状体は、直径が0.2ミリメートルから1.0ミリメートルの合成樹脂製のビーズであることを特徴とする褥瘡予防用具。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−39189(P2013−39189A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−176911(P2011−176911)
【出願日】平成23年8月12日(2011.8.12)
【特許番号】特許第4958055号(P4958055)
【特許公報発行日】平成24年6月20日(2012.6.20)
【出願人】(711009132)
【出願人】(711009121)
【Fターム(参考)】