説明

観察装置

【課題】光学素子を移動させる負荷が小さく、光学素子の可動量を大きくし易くする。
【解決手段】観察装置は、第1の光学素子L1L,L1Rを支持する第1の部材9と、第2の光学素子L4L,L4Rを支持し、かつ第1の部材を複数のボールを介して光軸方向に移動可能に支持する第2の部材7と、ボールを第1及び第2の部材により挟むための付勢力を発生する付勢手段11とを有する。第1及び第2の部材は、互いに光軸方向に離れた位置に配置された2つの第1のボール10a,10bの光軸方向への転動を許容し、かつ第1の部材の第2の部材に対する光軸直交方向への変位を阻止するように該第1のボールに係合するガイド部7a,7b,9a,9bと、第1のボールから光軸直交方向に離れて配置された第2のボール10c,10dの光軸方向への転動を許容するように該第2のボールを保持するボール保持部7c,7d,9c,9dとを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、双眼鏡等の観察装置に関し、特に観察光学系の一部を光軸方向に移動させる機構を有する観察装置に関する。
【背景技術】
【0002】
双眼鏡等の観察装置は、対物光学系が形成する被観察物の光学像を、接眼光学系で拡大して観察することができる光学機器である。そして、対物光学系又は接眼光学系の一部を構成する光学素子を光軸方向
に移動させることで、観察倍率の変更や被観察物へのフォーカシングが行なわれる。
【0003】
特許文献1には、対物台に一体的に取り付けられた左右一対の対物レンズを光軸方向に移動させることでフォーカシングを行う双眼鏡が開示されている。対物台は、双眼鏡の基体の箇所に形成された凸部上を摺動する。また、対物台に光軸方向に延びるように、かつ互いに光軸方向に離れて形成された2つのガイド孔には、基体に固定された2つのガイド部材がそれぞれ光軸直交方向にて係合する。これにより、対物台は基体に対して光軸方向に移動可能にガイドされる。また、4つのガイドばねによって、対物台と基体は密着状態で保持されている。さらに、基体に定位置で回転可能に保持されたフォーカスねじが対物台に形成された雌ねじと螺合しており、フォーカスねじを回転させることで一対の対物レンズが光軸方向に移動する。
【特許文献1】特開平10−319325号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1にて開示された双眼鏡では、対物台の支持機構とガイド機構とが全て摺動する構成であるため、駆動負荷が大きくなり易い。
【0005】
また、対物レンズの移動量を増やすためには、対物台を光軸方向にガイドするための2つのガイド孔のそれぞれの光軸方向長さを長くする必要がある。しかし、対物台及び基体の周辺における光軸方向のスペースが限られているので、基体に設ける2つのガイド部材の光軸方向の間隔を狭くしなければならなくなる。ガイド部材とガイド孔とは光軸方向に相対移動可能に係合しているため、これらの間にはガタがある。したがって、2つのガイド部材の光軸方向間隔が狭くなると、一対の対物レンズを移動させるときの位置精度が悪くなるとともに、ガイド部材とガイド孔との摺動部に働く摩擦力も大きくなってしまう。
【0006】
さらに、フォーカスねじと雌ねじはそれぞれ、基体と対物台に一体的に設けられているので、両者の螺合部の位置精度を高くしないと、対物台と基体との摺動部での摩擦力が増大してしまう。
【0007】
本発明は、光軸方向に移動可能な光学素子の位置精度を良好なものとし、該光学素子の移動負荷が小さく、さらに該光学素子の可動量を大きくするのに適した構造を有する観察装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一側面としての観察装置は、観察光学系と、該観察光学系の一部を構成する第1の光学素子を支持する第1の部材と、該観察光学系の他の一部を構成する第2の光学素子を支持し、かつ第1の部材を複数のボールを介して第1の光学素子の光軸方向に移動可能に支持する第2の部材と、複数のボールを第1の部材と第2の部材とにより挟み付けるための付勢力を発生する付勢手段とを有する。複数のボールは、互いに光軸方向に離れた位置に配置された2つの第1のボールと、該2つの第1のボールから光軸直交方向に離れて配置された第2のボールとを含む。そして、第1及び第2の部材は、2つの第1のボールの光軸方向への転動を許容し、かつ第1の部材の第2の部材に対する光軸直交方向への変位を阻止するように該2つの第1のボールにそれぞれ係合する2箇所のガイド部と、第2のボールの光軸方向への転動を許容するように該第2のボールを保持するボール保持部とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、光軸方向における少ないスペースで第1の光学素子の大きな移動量を確保することができる。また、移動する第1の光学素子の位置精度を良好とし、かつ駆動負荷が小さな観察装置を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の好ましい実施例について図面を参照しながら説明する。
【実施例1】
【0011】
図1、図2及び図3は、本発明の実施例1である観察装置としての双眼鏡の構成を示す。図1は、双眼鏡の左右の光軸を含む面での断面図である。ただし、左右の正立光学系については断面を示していない。図2は該双眼鏡の斜視図、図3は分解斜視図である。
【0012】
双眼鏡は、左右(一対)の対物光学系と、左右(一対)の正立光学系と、左右(一対)の接眼光学系とにより構成される左右(一対)の観察光学系を有する。図1及び図2に示すOLは左側の対物光学系の光軸、ORは右側の対物光学系の光軸であり、ELは左側の接眼光学系の光軸、ERは右側の接眼光学系の光軸である。以下の説明において、主として対物光学系及び接眼光学系の光軸が延びる方向を光軸方向といい、該光軸に直交する方向のうち特に左右方向に相当する方向を光軸直交方向という。
【0013】
図1〜図3において、L1L,L1Rは左右の対物光学系の一部を構成する対物レンズユニットである。L2L,L2Rは左右の対物光学系の他の一部を構成する防振レンズユニットであり、対物レンズユニットL1L,L1Rに対して上下左右にシフトすることで対物光学系が形成する物体像を変位させる。
【0014】
L3L,L3Rは左右の正立光学系であるポロII型正立プリズムである。L4L,L4Rは左右の接眼光学系を構成する接眼レンズユニットである。ポロII型正立プリズムL3L,L3Rはそれぞれ、左右の対物光学系により倒立像として形成される物体像を正立させるとともに、左右の対物光学系の光軸OL,ORを左右の接眼光学系の光軸EL,ERの側にシフトさせる。なお、ポロII型正立プリズムに代えて、ダハプリズム、平行四辺形プリズム、ミラー等を組み合わせて用いてもよい。
【0015】
1L,1RはレンズユニットL1L,L1Rを保持する対物鏡筒である。2は左右の防振レンズユニットL2L,L2Rを含む防振ユニットである。対物鏡筒1L,1Rは、防振ユニット2の左右の前端部にバヨネット結合により位置決め固定されて一体化されている。
【0016】
レンズユニットL1L,L1Rの光軸は、防振レンズユニットL2L,L2Rの上下左右の可動範囲内の中心位置にて該防振レンズユニットL2L,L2Rの光軸と一致する。レンズユニットL1L,L1Rと防振レンズユニットL2L,L2Rとにより一体化された左右の対物光学系が構成されている。レンズユニットL1L,L1Rと防振レンズユニットL2L,L2Rが、左右(一対)の第1の光学素子に相当する。
【0017】
4L,4Rは接眼レンズユニットL4L,L4Rをそれぞれ保持する接眼鏡筒である。3L,3RはポロII型正立プリズムL3L,L3R及び接眼鏡筒4L,4Rをそれぞれ保持する支持枠である。接眼レンズユニットL4L,L4R及びポロII型正立プリズムL3L,L3Rが、左右(一対)の第2の光学素子に相当する。
【0018】
5L,5Rは接眼鏡筒4L,4Rのそれぞれに固定されたアイピースゴムであり、観察者の顔における眼の周囲に当接する。
【0019】
接眼鏡筒4L,4Rの外周にはオスヘリコイドが形成されており、支持枠3L,3Rの内周壁にはメスヘリコイドが形成されている。該オスヘリコイドとメスヘリコイドとが係合した状態で接眼鏡筒4L,4Rを回転させることで、接眼レンズユニットL4L,L4Rを光軸方向に移動させて、視度調節を行うことができる。支持枠3L,3R、ポロII型正立プリズムL3L,L3R、接眼鏡筒4L,4R及び接眼レンズユニットL4L,L4Rにより、左右(一対)の接眼ユニット6L,6Rが構成される。
【0020】
7は接眼ユニット6L,6Rを左右の対物光学系の光軸OL,ORの回りにおいて回転可能に支持するベース部材(第2の部材)である。該ベース部材7は、後述する左右の対物光学系を光軸方向に移動させて観察する物体までの距離(以下、観察距離という)に応じてピント合わせを行うフォーカス機構のベースとなる固定部材である。
【0021】
ベース部材7における左右の対物光学系の光軸OL,ORに対して垂直な接眼ユニット固定部7Eには開口部7L,7Rが形成されており、該開口部7L,7Rには、支持枠3L,3Rに形成された円筒部3La,3Raが嵌め込まれる。
【0022】
8L,8Rは左右の接眼ユニット6L,6Rをそれぞれ、左右の対物光学系の光軸OL,OR回りで回転させる回動板である。回動板8L,8Rにはギア部8La,8Raが形成されている。これらギア部8La,8Raは互いに噛み合っており、一方の回動板を回転させることで、これに連動して他方の回動板は逆方向に回転する。さらに、回動板8L,8Rには、光軸方向に付勢力を発生させる複数の腕部8Lb,8Rbが形成されている。
【0023】
ベース部材7の接眼ユニット固定部7Eを挟んで、支持枠3L,3Rと回動板8L,8Rとがビスにより締結される。これにより、左右の接眼ユニット6L,6Rはそれぞれ、ベース部材7に対して、左右の対物光学系の光軸OL,OR回りで連動回転可能に結合される。
【0024】
左右の接眼光学系の光軸EL,ERはそれぞれ、左右の対物光学系の光軸OL,ORに対してシフトしているので、左右の接眼ユニット6L,6Rを左右の対物光学系の光軸OL,OR回りで回転させることで、左右の接眼光学系の光軸EL,ER間の幅が変化する。これにより、観察者の左右の眼幅と左右の接眼光学系の光軸EL,ER間の幅とを一致させる、いわゆる眼幅調整が可能となる。
【0025】
また、接眼ユニット6L,6Rのそれぞれにより、左右の接眼レンズユニットL4L,L4Rを通して観察される物体像が眼幅調整時にずれないように、ポロII型正立プリズムL3L,L3Rの位置が調整される。この位置調整では、接眼ユニット6L,6Rの回転軸と接眼レンズユニットL4L,L4Rの光軸とをそれぞれ一致させるようにする。
【0026】
以下、フォーカス機構について説明する。7Fはベース部材7において左右の対物光学系の光軸OL,ORに平行に拡がるベースプレート部である。
【0027】
9は左右の対物光学系が固定されるフォーカス支持板(第1の部材)であり、ベースプレート部7Fの上側に配置され、ベースプレート部7Fに対して光軸方向に移動可能である。10a,10bは第1のボール,10cは第2のボールである。10dは第4のボールである。これらボール10a〜10dは互いに同一の直径を有しており、玉軸受け用鋼球等が用いられる。
【0028】
7a,7bはそれぞれ、ベースプレート部7Fにおける互いに光軸方向に離れた位置に、光軸方向に延びるように形成され、ボール10a,10bを光軸方向に転動可能に保持するガイド溝部である。7c,7dはそれぞれ、ベースプレート部7Fにおけるガイド溝部7a,7bに対して光軸直交方向に離れ、かつ互いに光軸方向に離れた位置に、光軸方向に延びるように形成されて、ボール10c,10dを光軸方向に転動可能に保持する保持溝部である。
【0029】
また、9a,9bはそれぞれ、フォーカス支持板9における互いに光軸方向に離れた位置に、光軸方向に延びるように形成され、ボール10a,10bを光軸方向に転動可能に保持するガイド溝部である。9c,9dはそれぞれ、フォーカス支持板9におけるガイド溝部9a,9bに対して光軸直交方向に離れ、かつ互いに光軸方向に離れた位置に、光軸方向に延びるように形成されて、ボール10c,10dを光軸方向に転動可能に保持する保持溝部である。
【0030】
ガイド溝部7a,7bとガイド溝部9a,9bは互いに向かい合うようにベースプレート部7F及びフォーカス支持板9にそれぞれ形成されており、ガイド溝部7a,9aとガイド溝部7b,9bとが互いに光軸方向に離れた2箇所のガイド部を構成する。
【0031】
保持溝部7c,7dと保持溝部9c,9dも互いに向かい合うようにベースプレート部7F及びフォーカス支持板9にそれぞれ形成されている。保持溝部7c,9cと保持溝部7d,9dとが上記2箇所のガイド部に対して光軸直交方向に離れた(かつ互いに光軸方向に離れた)2箇所のボール保持部を構成する。
【0032】
フォーカス支持板9のベースプレート部7Fに対する光軸方向への移動に伴い、各ガイド部及びボール保持部において、各ボールが光軸方向に転動する。これにより、フォーカス支持板9がベースプレート部7Fに対して光軸方向に移動する際に発生する負荷(摩擦力)を低減させることができる。なお、ガイド部とボール保持部の形状や作用については後述する。
【0033】
11は弾性部材としての板バネであり、ベースプレート部7Fに対してフォーカス支持板9とは反対側(下側)に配置されている。板バネは光軸方向を長手方向とするH形状に形成されており、その中央の前側(物体側)の部分でビスによりフォーカス支持板9に結合される。12は4つのボールであり、ベースプレート部7Fにおける互いに光軸方向及び光軸直交方向に離れた4箇所に光軸方向に延びるように形成された保持溝部7eと、板バネ11のうち光軸方向に延びる2つの部分との間に挟まれている。
【0034】
板バネ11の弾性変形により生じた付勢力は該ビスを介してフォーカス支持板9に伝達される。これにより、フォーカス支持板9は、上記ガイド溝部9a,9b及び保持溝部9c,9dにおいてボール10a〜10dをベースプレート部7Fのガイド溝部7a,7b及び保持溝部7c,7dに押し付ける。つまり、板バネ11は、フォーカス支持板9とベースプレート部7Fとの間でボール10a〜10dを挟み付けるための付勢力を発生する。
【0035】
また、ボール12は、板バネ11の光軸方向への移動に伴い、該板バネ11と保持溝部7eとの間で光軸方向に転動する。これにより、板バネ11がフォーカス支持板9と一体的にベースプレート部7Fに対して光軸方向に移動する際に発生する負荷(摩擦力)を低減することができる。板バネ11と4つのボール12により付勢手段が構成される。板バネ11の光軸方向及び光軸直交方向における端部はベースプレート部7F側(上側)に折り曲げられており、これにより4つのボール12が板バネ11と保持溝部7eとの間に保持される。
【0036】
なお、本実施例では、板バネ11とベースプレート部7Fとの間に4つのボール12を配置しているが、ボールを使用せずに、板バネ11を直接、ベースプレート部7Fに当接させてもよい。この場合、板バネ11はベースプレート部7Fに対して摺動することになるが、板バネ11の形状を摺動摩擦が小さくなるように設定することで、負荷の増加を抑えることができる。
【0037】
図4及び図5にも示すように、13は定位置で回転可能な入力部材としての送りねじであり、14は送りねじ13の後端に結合され、該送りねじ13と一体となって回転する操作ダイアルである。15は操作ダイアル14を定位置にて回転可能に支持する軸受けであり、接眼ユニット固定部7Eから上方に延出した延出部7Dにビスにより固定される。送りねじ13と操作ダイアル14とにより駆動部材が構成される。なお、後述する実施例4の説明で用いる図ではあるが、図19には送りねじ13、操作ダイアル14及び軸受け15を分解して示している。
【0038】
16は送りねじ13と噛み合う(係合する)ラック歯16aが形成されたラックである。17はねじ押さえであり、送りねじ13のラック歯16aとの噛み合いを維持するための部材である。ラック16とねじ押さえ17により、従動部材が構成される。
【0039】
18は結合部材としてのラック付勢バネである。ラック付勢バネ18は、以下のような形状に形成されている。すなわち、ラック歯16aが送りねじ13に噛み合う上方向(係合方向)を含む上下方向に適度な弾性力(付勢力)を発生するように、上下方向において弾性を有する。また、送りねじ13の軸方向である光軸方向においては係合方向(又は上下方向)よりも高い剛性を有する。
【0040】
ラック付勢バネ18の上端面には、ビス19及びナット20により、ラック16及びねじ押さえ17が取り付けられる。ラック付勢バネ18、ラック16、ねじ押さえ17、送りねじ13及び操作ダイアル14により、駆動手段としての駆動機構が構成される。ラック付勢バネ18は、フォーカス支持板9の上面にビス21により結合される。
【0041】
このように構成される駆動機構において、ラック歯16aは送りねじ13のリード方向に傾いており、図5に示すように、ラック付勢バネ18の下方向への弾性変形により生ずる上向きの弾性力によって上方に付勢されて送りねじ13の下端部に噛み合う。
【0042】
操作ダイアル14が回転操作されて送りねじ13が回転(動作)すると、送りねじ13とラック歯16aとの噛み合い作用によって発生した光軸方向への駆動力により、ラック16、ラック付勢バネ18及びフォーカス支持板9が光軸方向に移動する。
【0043】
防振ユニット2には、フォーカス支持板9にビスにより締結されるボス部2a,2bと、左右方向の位置を決める位置決めピン2cと、光軸方向の位置を決める位置決めピン2d,2eとが設けられている。ボス部2a,2bと位置決めピン2cは、ベース部材7のベースプレート部7Fに形成された開口部7f,7gを貫通して、2本のビス22によりフォーカス支持板9に固定される。位置決めピン2d,2eは、フォーカス支持板9に光軸直交方向に延びるように形成された長溝部9e,9fに挿入される。これにより、左右の対物光学系がフォーカス支持板9に一体的に固定される。
【0044】
したがって、上記駆動機構によってフォーカス支持板9が光軸方向に移動されることにより、観察距離に応じて物体に対するフォーカシングを行うことが可能となる。
【0045】
なお、送りねじ13の上端部よりもわずかに上方にねじ押さえ17が配置されることで、外力により送りねじ13とラック歯16aとの噛み合いが外れることが防止される。
【0046】
また、送りねじ13の左右方向での位置ずれは、ラック歯16aとの噛み合い位置のずれが許容されることで吸収される。また、送りねじ13の上下方向の位置ずれは、ラック付勢バネ18の上下方向の弾性変形により吸収される。したがって、送りねじ13とラック16との相対的な位置精度が高くなくても、送りねじ13とラック歯16aとの摺動により発生する摩擦力が増大することを防止できる。
【0047】
次に、フォーカス支持板9とベースプレート部7F(ベース部材7)とに形成されたガイド部及びボール保持部の形状と作用について、図6、図7及び図8を用いて詳しく説明する。図6は、ボール10a,10cをそれぞれ挟持するガイド部及びボール保持部の光軸方向視における形状を示す断面図であり、該断面図に示す形状がガイド部及びボール保持部の光軸方向両端まで連続している。ボール10b,10dをそれぞれ挟持するガイド部及びボール保持部も同じ形状を有する。
【0048】
図6において、ボール10aのうち中心から上側に距離r1の位置にある左右の部分には、フォーカス支持板9に形成されたガイド溝部9aの左右の斜面が当接する。また、ボール10aのうち中心から下側に距離r1の位置にある左右の部分には、ベースプレート部7Fに形成されたガイド溝部7aの左右の斜面が当接する。各ガイド溝部における左右の斜面がなす角度(開き角度)はθである。角度θが60度である場合は、r1は各ボールの半径の半分に等しい。
【0049】
このような形状を有するガイド部(ガイド溝部7a,9a)は、ボール10aの光軸方向への転動を許容し、かつフォーカス支持板9のベースプレート部7Fに対する左右方向(光軸直交方向)への変位を阻止するように、ボール10aに左右方向にて係合する。
【0050】
また、ボール10cのうち中心から下側に距離r1の位置にある左右の部分には、ベースプレート部7Fに形成された保持溝部7cの左右の斜面が当接する。すなわち、保持溝部7cは、ボール10cに左右方向にて係合している。保持溝部7cにおける左右の斜面がなす角度は、ガイド溝部7aと同じθである。ただし、ボール10cのうち上端には、ボール10cの直径よりも大きな幅を有する凹断面形状の保持溝部7cの底面に相当する平面部が当接する。該平面部のボール10cの中心からの距離r2は、ボール10の半径に等しい。
【0051】
このような形状を有するボール保持部(保持溝部7c,9c)は、ボール10cの光軸方向への転動を許容するように、ボール10cを保持する。
【0052】
そして、板バネ11の付勢力によって各ガイド部及び各ボール保持部がボールを挟持した状態で、フォーカス支持板9とベースプレート部7Fとが所定の間隔をあけて互いに平行に維持される。
【0053】
図7には、フォーカス支持板9がベースプレート部7Fに対して光軸方向(図の右側から左側)に移動する際の、ボール10aを挟持するガイド溝部7a,9aの相対位置の変化を示す。ボール10bを挟持するガイド溝部7b,9bの相対位置の変化も同様である。図中の長い横線は、ガイド溝部7a,9aの斜面のうちボール10aとの当接ラインを示しており、該長い横線の両端にある短い縦線は、ガイド溝部7a,9aの両端(ストッパ)を示している。
【0054】
フォーカス支持板9の図中左側への移動に伴い、ガイド溝部7a,9aに当接しているボール10aは矢印にて示すように、反時計回りに転動しながら左側に移動する。このとき、ボール10aは、ガイド溝部7a,9aに対して同一の距離r1の位置で当接して転動する。このため、固定側であるガイド溝部7aに対するボール10aの光軸方向での移動量と、ボール10aに対するガイド溝部9aの光軸方向での移動量とが同じになる。すなわち、ベースプレート部7Fに対するボール10aの光軸方向での移動量と、フォーカス支持板9の光軸方向での移動量との比率は、1:2となる。
【0055】
言い換えれば、ボール10aを転動させるように挟持するガイド溝部7a,9aの光軸方向での長さは、フォーカス支持板9の光軸方向での可動量の半分でよい。したがって、フォーカス支持板9の光軸方向での可動量を大きくした場合でも、ベースプレート部7F及びフォーカス支持板9に形成するガイド溝部7a,9aの長さを短くすることができる。
【0056】
図8には、フォーカス支持板9がベースプレート部7Fに対して光軸方向(図の右側から左側)に移動する際の、ボール10cを挟持する保持溝部7c,9cの相対位置の変化を示す。ボール10dを挟持する保持溝部7d,9dの相対位置の変化も同様である。図中の長い横線は、保持溝部7c,9cの斜面のうちボール10cとの当接ラインを示しており、該長い横線の両端にある短い縦線は、保持溝部7c,9cの両端(ストッパ)を示している。
【0057】
フォーカス支持板9の図中左側への移動に伴い、保持溝部7c,9cに当接しているボール10cは矢印にて示すように、反時計回りに転動しながら左側に移動する。このとき、ボール10cは、保持溝部7cに対しては距離r1の位置で当接して転動するが、保持溝部7cに対しては距離r2の位置で当接して転動する。保持溝部7cの両斜面がなす角度θが60度である場合には、r1はボール10cの半径の半分に等しく、r2はボール10cの半径であり、その比率は1:2である。このため、固定側である保持溝部7cに対するボール10cの光軸方向での移動量と、ボール10cに対するガイド溝部9cの光軸方向での移動量との比率も1:2となる。これにより、ベースプレート部7Fに対するボール10cの光軸方向での移動量と、フォーカス支持板9の光軸方向での移動量との比率は、1:3となる。
【0058】
言い換えれば、ボール10aを転動させるように挟持する保持溝部7c,9cのうち保持溝部7cの光軸方向での長さは、フォーカス支持板9の光軸方向での可動量の1/3でよい。したがって、フォーカス支持板9の光軸方向での可動量を大きくした場合でも、ベースプレート部7Fに形成される保持溝部7cの長さを短くすることができる。
【0059】
なお、上記のように4つのボールがガイド部及びボール保持部によって挟持可能に構成されている場合においては、寸法誤差により、該4つのボールのすべてが同時に挟持状態となることはほとんどなく、通常は3つのボールが挟持状態となる。ただし、ボール10a,10bはフォーカス支持板9の光軸方向へのガイドの役割を担っているので、常に挟持状態でなければならない。したがって、本実施例では、ボール10dと保持溝7d又は9dとの間に若干の隙間が形成されるように寸法設定を行い、ボール10a,10b及びボール10cが確実に挟持状態となるようにしている。ボール10dは、フォーカス支持板9に外力が加わること等による板バネ11の過剰変形を防止する役割を有する。
【0060】
図9及び図10には、フォーカス支持板9が最も接眼ユニット側に位置するときと最も物体側に位置するときにおけるガイド部及びボール保持部の様子を上方(フォーカス支持板9側)から見て示す。なお、ここでの説明と関係がない部材については、図示を省略している。
【0061】
フォーカス支持板9が最も接眼ユニット側に位置するときと最も物体側に位置するときとでは、ボール10a,10bが光軸方向に移動(転動)しており、ガイド溝部7a,9aの光軸方向での位置関係とガイド溝部7b,9bの同位置関係がそれぞれ逆転する。ボール10a,10bがフォーカス支持板9の移動に伴って転動するので、ガイド溝部7a,9a,7b,9bの光軸方向での長さを、フォーカス支持板9の移動量よりも短くすることができる。
【0062】
以上の説明で明らかなように、本実施例におけるフォーカス支持板9をボール10a〜10dを介して光軸方向にガイドする構成は、従来の構成に対して少ないスペースで、より大きな量のフォーカス支持板9の移動を実現することができる。また、ボール10a,10bとこれらを挟持する接眼ユニット側のガイド部(ガイド溝部7a,9a)及び物体側のガイド部(ガイド溝部7b,9b)とはガタなく当接(係合)している。このため、これら2箇所のガイド部の光軸方向間隔を短くしても、フォーカス支持板9のベース部材7に対する良好な位置決め精度を確保することができるとともに、フォーカス支持板9を小さな負荷で光軸方向に移動させることができる。
【0063】
ガイド部及びボール保持部とボールとの間には、適度な粘度を有する潤滑油を塗布することが望ましい。これは、適度な粘度を有する潤滑油は、双眼鏡に外力(衝撃)が加わることによってガイド部及びボール保持部とボールとの位置関係が図7〜図10に示した所定の関係からずれることをある程度防止することができるからである。また、仮に位置関係がずれた場合でも、ガイド部及びボール保持部とボールとが摺動したときの滑り摩擦力を低減させて、これらを所定の位置関係に容易に戻すことができるからである。以上がフォーカス機構の構成である。
【0064】
次に、光軸調整機構について説明する。図11には、図2に示した面Aでの断面を示している。面Aは、左右の対物光学系の光軸OL,ORに対して直交し、防振ユニット2の位置決めピン2d,2eを貫く面である。図11には、左の対物光学系(図では右側に示す)の光軸OLが右の対物光学系(図では左側に示す)の光軸ORに対して下方に位置した状態を示している。
【0065】
23は防振ユニット2にビスにより固定された光軸調整部材であり、左右に2つ配置されている。光軸調整部材23にはそれぞれ、図3にも示すように雌ねじ部23aが形成されている。24は光軸調整ビスであり、フォーカス支持板9に形成された穴24aを通って左右の雌ねじ部23aに螺合している(ただし、図には、左の対物光学系側の雄ねじ部23aに螺合した光軸調整ビス24のみを示している。
【0066】
図11の状態において、左の対物光学系側の光軸調整ビス24をねじ込んでいくと、光軸調整部材23のうち左の対物光学系側の部分がフォーカス支持板9に近づいていく(上に変位する)。これにより、防振ユニット2は、フォーカス支持板9に2つのビス22により固定されている部分を中心として、光軸OLが右上に、光軸ORが右下に移動するように変位する。これにより、左右の接眼ユニット6L,6Rのそれぞれで観察されている物体像の上下方向位置が互いに一致するように光軸OL,ORが調整される。左右の接眼ユニット6L,6Rのそれぞれで観察されている物体像の左右方向の位置は、同じ量だけ移動する。
【0067】
左の対物光学系の光軸OLが右の対物光学系の光軸ORに対して上方に位置する状態からの光軸調整においては、右の対物光学系側の光軸調整ビス24をねじ込めばよい。光軸調整後には、光軸調整ビス24が振動や衝撃で緩むことを防止するために、接着剤によりフォーカス支持板9又は光軸調整部材23に対して固定すればより良い。
【0068】
図1に示す25は、左右の対物光学系、光軸調整機構、フォーカス機構等を囲う対物側外装部材である。なお、対物側外装部材25は、図2,図3及び図11では図示を省略している。
【0069】
図1及び図12には、防振ユニット2の構成を示している。図12に示す30は防振ユニット2のベース部材である。図1及び図12に示す31は、防振レンズユニットL2L,L2Rを保持する可動部材である。可動部材31がベース部材30に対して回転せずに上下方向及び左右方向にシフトすることで、左右の対物光学系が形成する物体像も上下方向及び左右方向にシフトする。
【0070】
32はベース部材30に対して左右方向のみに移動可能に支持されたガイド部材である。33,34はガイド部材32の左右方向の動きをガイドするガイドバーである。ガイドバー33の両端部は、ベース部材30の溝部30a,30bに圧入又は接着されて固定される。ガイドバー34の両端部は、ベース部材30の溝部30c,30dに圧入又は接着されて固定される。
【0071】
35は駆動コイルであり、ガイド部材32の左右方向中央部に接着により固定されている。36は駆動マグネットであり、図示するように左右方向にN極とS極とが配置されるように着磁されている。駆動マグネット36の背面には、図1に示すようにヨーク37が吸着されている。ヨーク37は、駆動マグネット36の背面側の磁気回路を閉じている。
【0072】
ベース部材30には、4つのボス部30eが設けられており、該4つのボス部30eは、ガイド部材32に形成された左右方向に延びる4つの長孔32fを貫通する。38はヨークであり、上記4つの長孔32fを貫通したボス部30eの端に、ビスにより固定される。ヨーク38は、駆動マグネット36よりも接眼ユニット側にて磁気回路を閉じている。ヨーク38と駆動マグネット36との間には、若干の隙間が形成されている。このように、駆動マグネット36とヨーク38との間には、駆動コイル35が配置されている。
【0073】
駆動コイル35に通電すると、ローレンツ力が発生してガイド部材32を左右方向にシフトさせる。ガイド部材32における駆動コイル35の中心に相当する位置には、磁気センサであるホール素子39が取り付けられている。ホール素子39は、磁束密度に応じた電気信号を出力する。ガイド部材32が左右方向にシフトしてホール素子39が駆動マグネット36に対して左右方向に移動することで、ホール素子39によって検出される磁束密度が変化し、ホール素子39から出力される電気信号も変化する。この電気信号を用いることで、ガイド部材32の左右方向での位置を検出することができる。
【0074】
40,41はガイドバーであり、可動部材31をガイド部材32に対して上下方向のみに移動可能に支持している。ガイドバー40の両端部は、ガイド部材32に形成された溝部32a,32bに圧入もしくは接着により固定される。ガイドバー41の両端部は、ガイド部材32に形成された溝部32c,32cに圧入もしくは接着により固定される。
【0075】
42は駆動コイルであり、可動部材31に接着により固定されている。43は駆動マグネットであり、駆動マグネット36と同じものが向きを90度異ならせて、すなわち上下方向にN極とS極とが配置されるように支持部材45により保持される。
【0076】
44は駆動マグネット43の背面側に吸着されるヨークである。駆動マグネット43の駆動コイル42側のヨークとしてヨーク38を兼用することで、駆動マグネット43の磁気回路を閉じることができる。
【0077】
支持部材45は、ベース部材30に対して位置決めされたうえでビスにより固定される。
【0078】
駆動コイル42に通電すると、ロ−レンツ力が発生して可動部材31を上下方向にシフトさせることができる。なお、図示はしないが、可動部材31における駆動コイル42の中心に相当する位置には、磁気センサであるホール素子46が取り付けられている。可動部材31が上下方向にシフトしてホール素子46が駆動マグネット43に対して上下方向に移動することで、ホール素子46によって検出される磁束密度が変化し、ホール素子46から出力される電気信号も変化する。この電気信号を用いることで、可動部材31の上下方向での位置を検出することができる。
【0079】
なお、図示はしていないが、防振ユニット2には電気回路基板が一体的に固定される。該基板には、双眼鏡のピッチ方向(上下方向)及びヨー方向(左右方向)の角速度を検出する角速度センサ(振れセンサ)が取り付けられている。角速度センサとしては、振動ジャイロ等がある。
【0080】
また、電気回路基板には、ホール素子39,46からの出力を処理したり駆動コイル35,42への通電を制御したりするマイクロコンピュータ等の電子部品も実装されている。さらに、該基板には、防振ユニット2の電力供給源である電源ユニットや、ユーザが防振機能のON/OFFを切り替えるための操作スイッチや、防振ユニット2の動作状態を示すLED等の表示素子も実装されている。
【実施例2】
【0081】
図13には、本発明の実施例2である双眼鏡の構成を示す。本実施例は、図14に示すように、実施例1に対して、フォーカス支持板を光軸方向に移動させるための駆動機構が異なる。
【0082】
図13において、OLは左の対物光学系の光軸であり、ORは右の対物光学系の光軸である。ELは左の接眼光学系の光軸であり、ERは右の接眼光学系の光軸である。これらの光学系の構成は実施例1と同じである。
【0083】
109は左右の対物光学系が固定されるフォーカス支持板(第1の部材)であり、実施例1のフォーカス支持板9と基本的に同じものである。駆動機構以外の構成は実施例1と同じであるため、説明は省略する。
【0084】
図14において、116は実施例1にて説明した送りねじ13と螺合(係合)する雌ねじ116aを有する従動部材としてのナットである。118は結合部材としてのナット付勢バネである。ナット116は、2つのビス119によってナット付勢バネ118の半円弧形状の立ち上がり部に固定される。ナット付勢バネ118の左右には脚部118a,118bが形成されており、該脚部118a,118bは、2つのビス121によってフォーカス支持板109の上面に固定される。
【0085】
ナット付勢バネ118は、脚部118a,118bを含めて以下のような形状に形成されている。すなわち、ナット116(雌ねじ116a)が送りねじ13に噛み合う上下及び左右方向(係合方向)に適度な弾性力(付勢力)を発生するように、上下及び左右方向において弾性を有する。また、送りねじ13の軸方向である光軸方向においては係合方向(上下及び左右方向)よりも高い剛性を有する。
【0086】
実施例1に示した操作ダイアル14が回転操作されて送りねじ13が回転することで、送りねじ13とナット116の雌ねじ116aとの螺合作用によって光軸方向への駆動力が発生する。該駆動力により、ナット116、ナット付勢バネ118及びフォーカス支持板109が光軸方向に移動する。
【0087】
ナット付勢バネ118の脚部118a,118bが上下方向のうち同一方向に弾性変形することで、送りねじ113と雌ねじ116aとの上下方向での位置ずれが吸収される。また、脚部118a,118bが上下方向のうち互いに逆方向に弾性変形することで、送りねじ113と雌ねじ116aとの左右方向の位置ずれが吸収される。これにより、実施例1と同様に、送りねじ13とナット116との相対的な位置精度が高くなくても、送りねじ13と雌ねじ116aとの摺動により発生する摩擦力が増大することを防止できる。
【実施例3】
【0088】
図15には、本発明の実施例3である双眼鏡の構成を示す。本実施例は、図16に示すように、実施例1及び2に対して、フォーカス支持板を光軸方向に移動させるための駆動駆動機構の構成が異なる。
【0089】
図15において、OLは左の対物光学系の光軸であり、ORは右の対物光学系の光軸である。ELは左の接眼光学系の光軸であり、ERは右の接眼光学系の光軸である。これらの光学系の構成は実施例1と同じである。
【0090】
209は左右の対物光学系が固定されるフォーカス支持板(第1の部材)であり、実施例1のフォーカス支持板9と基本的に同じものである。また、207はフォーカス支持板209を光軸方向に移動可能に保持し、かつ左右の接眼ユニットが取り付けられるベース部材(第2の部材)であり、実施例1のベース部材7と基本的に同じものである。駆動機構以外の構成は実施例1と同じであるため、説明は省略する。
【0091】
図16において、216は従動部材としての従動駒であり、218は結合部材としての従動駒付勢バネである。従動駒216は、2つのビス219によって従動駒付勢バネ218の上端面に固定される。従動駒付勢バネ218は、2つのビス221によりフォーカス支持板209の上面に固定される。
【0092】
213は入力部材であるスライドノブである。スライドノブ213は、双眼鏡の図示しない上面外装部材の内面側に形成されたレールにより光軸方向に移動可能に支持され、観察者が指で操作しやすい形状の突起部213aを上面外装部材の外側に露出させる。従動駒216は斜面部216bを有する。スライドノブ213の下面には、図17に示すように、斜面部216bと係合する係合部213bが形成されている。
【0093】
従動駒付勢バネ218は、以下のような形状に形成されている。すなわち、従動駒216(斜面部216b)がスライドノブ213(係合部213b)に噛み合う上方向(係合方向)を含む上下方向に適度な弾性力(付勢力)を発生するように、上下方向において弾性を有する。また、スライドノブ213の操作方向である光軸方向においては、係合方向(又は上下方向)よりも高い剛性を有する。
【0094】
スライドノブ213をスライド操作することで発生した光軸方向への駆動力により、従動駒216、従動駒付勢バネ218及びフォーカス支持板209が光軸方向に移動する。
【0095】
スライドノブ213の左右方向での位置ずれは、係合部213bの従動駒216の斜面部216bに対する係合位置のずれが許容されることによって吸収される。また、スライドノブ213の上下方向の位置ずれは、従動駒付勢バネ218の上下方向の弾性変形により吸収される。したがって、スライドノブ213と従動駒216との相対的な位置精度が高くなくてもよい。
【実施例4】
【0096】
図18には、本発明の実施例4である双眼鏡の構成を示す。本実施例は、図19に示すように、実施例1に対して、フォーカス機構の構成が異なる。
【0097】
図18において、OLは左の対物光学系の光軸であり、ORは右の対物光学系の光軸である。ELは左の接眼光学系の光軸であり、ERは右の接眼光学系の光軸である。これらの光学系の構成は実施例1と同じである。
【0098】
309は左右の対物光学系が固定されるフォーカス支持板(第1の部材)である。また、307はフォーカス支持板209をボールを介して光軸方向に移動可能に保持し、かつ左右の接眼ユニットが取り付けられるベース部材(第2の部材)である。フォーカス機構以外の構成は実施例1と同じであるため、説明は省略する。
【0099】
図19に示すように、フォーカス支持板309とベース部材307のベースプレート部307Fには、実施例1と同様にガイド部(ガイド溝部)及びボール保持部(保持溝部)が形成されている。そして、該ガイド部及びボール保持部によってボール10a,10b,10c,10dが光軸方向に転動可能に保持されている。フォーカス支持板309は、実施例1と同様に、ボール10a,10b,10c,10dを介して、ベースプレート部307Fに対して所定の間隔をあけた状態で光軸方向に移動可能に支持されている。
【0100】
311aは矩形の磁石であり、光軸方向又は左右方向にN極とS極が配置されるように着磁されている。311bは磁石311aの磁束を閉じるために、強磁性体により形成されたバックヨークである。309eはフォーカス支持板309の一部を曲げ起こして形成された4つの位置決め部であり、磁石311aとバックヨーク311bの光軸方向及び左右方向での位置決めを行う。
【0101】
フォーカス支持板309は磁石311aに吸着されない常磁性体、例えば、銅合金やSUS304等のオーステナイト系のステンレス鋼によって形成される。ベース部材307を強磁性体である鉄により形成することで、フォーカス支持板309上に配置された磁石311aのバックヨーク311bとは反対面の磁束は、ベース部材307内に磁路を形成する。この結果、磁石311aから発生した磁束は、バックヨーク311bとベース部材307を含んで形成される閉じた磁路内を通る。このため、フォーカス支持板309は、ベース部材307(ベースプレート部307F)に対して磁気的に強く吸引(付勢)される。
【0102】
このようにして、本実施例では、ガイド部及びボール保持部においてボール10a〜10dを挟持するための付勢力を、強磁性体と磁石との間に作用する吸引力を利用した非接触方式で作り出している。このため、実施例1のように接触方式で付勢力を作用させる場合のように、フォーカス支持板の光軸方向移動に対する負荷が生じない。
【0103】
312は3本の段ビスであり、ベースプレート部307F上のビス孔に締め込まれる。段ビス312のフランジ部は、フォーカス支持板309の上面に対して若干の隙間をあけて配置され、衝撃等の外力によってフォーカス支持板309のベースプレート部307Fに対する浮き上がりや脱落を防止する。
【0104】
以上説明した各実施例は代表的な例にすぎず、本発明の実施に際しては、各実施例に対して種々の変形や変更が可能である。
【0105】
例えば、上記各実施例では、防振機能を有する双眼鏡について説明したが、防振機能を有さない双眼鏡にも本発明を適用することができる。また、上記各実施例では、左右の対物光学系を光軸方向に移動させてフォーカシングを行うフォーカス機構について説明したが、左右の接眼光学系を光軸方向に移動させてフォーカシングを行うフォーカス機構に本発明を適用してもよい。
【0106】
また、本発明は、左右の対物光学系又は接眼光学系の一部を構成するレンズユニット(第1の光学素子)を可動部材(第1の部材)に固定し、該可動部材を固定部材(第2の部材)に対して光軸方向に移動させることで変倍機能を持たせてもよい。
【0107】
また、上記各実施例では、フォーカス機構を駆動する駆動機構を手動操作機構とした場合について説明したが、モータやリニアアクチュエータ等の電動アクチュエータを用いた電動機構としてもよい。
【0108】
さらに、上記各実施例では、一対の観察光学系(対物光学系、正立光学系及び接眼光学系)を有する双眼鏡について説明したが、本発明は、1つの観察光学系を有する観察装置にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0109】
【図1】本発明の実施例1である双眼鏡の断面図。
【図2】実施例1の双眼鏡の斜視図。
【図3】実施例1の双眼鏡の分解斜視図。
【図4】実施例1における駆動機構の分解斜視図。
【図5】実施例1における駆動機構の背面図。
【図6】実施例1におけるガイド部及びボール保持部の断面図。
【図7】実施例1におけるガイド部の動きを説明する図。
【図8】実施例1におけるボール保持部の動きを説明する図。
【図9】実施例1においてフォーカス支持板が最も接眼ユニット側に位置するときのガイド部及びボール保持部の様子を示す平面図。
【図10】実施例1においてフォーカス支持板が最も物体側に位置するときのガイド部及びボール保持部の様子を示す平面図。
【図11】実施例1における光軸調整機構を説明する図。
【図12】実施例1における防振ユニットの分解斜視図。
【図13】本発明の実施例2である双眼鏡の斜視図。
【図14】実施例2における駆動機構の分解斜視図。
【図15】本発明の実施例3である双眼鏡の斜視図。
【図16】実施例3における駆動機構の分解斜視図。
【図17】実施例3における駆動機構に用いられるスライドノブの斜視図。
【図18】本発明の実施例4である双眼鏡の斜視図。
【図19】実施例4におけるフォーカス機構の分解斜視図。
【符号の説明】
【0110】
OL,OR 対物光学系の光軸
EL,ER 接眼光学系の光軸
L1L,L1R 対物レンズユニット
L2L,L2R 防振レンズユニット
L3L,L3R ポロII型正立プリズム
L4L,L4R 接眼レンズユニット
1L,1R 対物鏡筒
2 防振ユニット
3L,3R 支持枠
4L,4R 接眼鏡筒
6L,6R 接眼ユニット
7 ベース部材
8L,8R 回動板
9 フォーカス支持板
10a〜10d ボール
11 板バネ
12 ボール
13 送りねじ
14 操作ダイアル
15 軸受け
16 ラック
18,118,218 付勢バネ
116 ナット
218 従動駒
213 スライドノブ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
観察光学系と、
前記観察光学系の一部を構成する第1の光学素子を支持する第1の部材と、
前記観察光学系の他の一部を構成する第2の光学素子を支持し、かつ前記第1の部材を複数のボールを介して前記第1の光学素子の光軸方向に移動可能に支持する第2の部材と、
前記複数のボールを前記第1の部材と前記第2の部材とにより挟み付けるための付勢力を発生する付勢手段とを有し、
前記複数のボールは、互いに前記光軸方向に離れた位置に配置された2つの第1のボールと、該2つの第1のボールから光軸直交方向に離れて配置された第2のボールとを含み、
前記第1及び第2の部材は、
前記2つの第1のボールの前記光軸方向への転動を許容し、かつ前記第1の部材の前記第2の部材に対する前記光軸直交方向への変位を阻止するように該2つの第1のボールにそれぞれ係合する2箇所のガイド部と、
前記第2のボールの前記光軸方向への転動を許容するように該第2のボールを保持するボール保持部とを有することを特徴とする観察装置。
【請求項2】
前記付勢手段は、
前記第2の部材に対して前記第1の部材とは反対側に配置され、前記第1の部材に結合された弾性部材と、
該弾性部材と前記第2の部材との間に、前記光軸方向に転動可能に配置された第3のボールとにより構成されていることを特徴とする請求項1に記載の観察装置。
【請求項3】
一対の前記観察光学系を有し、
前記第1の部材は、前記一対の観察光学系のそれぞれの一部を構成する一対の前記第1の光学素子を支持し、
前記第2の部材は、前記一対の観察光学系のそれぞれの他の一部を構成する一対の前記第2の光学素子を支持することを特徴とする請求項1又は2に記載の観察装置。
【請求項4】
前記第1の部材を前記第2の部材に対して前記光軸方向に移動させる駆動手段は、前記第1の部材に結合された結合部材と、該結合部材に固定された従動部材と、該従動部材に係合する入力部材とにより構成され、該入力部材の動作により前記光軸方向への駆動力を発生し、
前記結合部材は、前記従動部材を前記入力部材に係合させる係合方向において弾性力を発生し、かつ前記光軸方向において前記係合方向よりも高い剛性を有することを特徴とする請求項1から3のいずれか1つに記載の観察装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2010−54573(P2010−54573A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−216448(P2008−216448)
【出願日】平成20年8月26日(2008.8.26)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】