説明

貫通孔を備えたアモルファス水素化シリコンカーバイド膜の製造方法及びこれにより得られた膜

【課題】本発明の主題は特に、多孔質アモルファス水素化シリコンカーバイド膜を製造可能にする方法である。
【解決手段】本発明は、
a)基板上に、酸化ケイ素貫通ナノワイヤが分散されたアモルファス水素化シリコンカーバイドマトリックスから成る膜を形成する段階と、
b)ステップa)において形成された膜に存在する酸化ケイ素ナノワイヤを、化学物質によって選択的に分解する段階と、を含む貫通孔を備えたアモルファス水素化シリコンカーバイド膜の製造方法に関する。
応用例:マイクロエレクトロニクスおよびマイクロテクノロジーにおけるエアギャップの形成、特に集積回路のエアギャップ相互接続の製造のための化学物質を透過する膜からの化学物質の拡散による犠牲材料の分解を含む全ての製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貫通孔、すなわち膜の一つの主表面から前記膜の別の主表面へと伸びた孔、を備えたa−SiC:H膜としても知られているアモルファス水素化シリコンカーバイド膜の製造方法に関する。
【0002】
本発明はさらに、貫通孔を備えたa−SiC:H膜に関する。
【背景技術】
【0003】
このような膜は多孔性を有するため、半導体業界で化学エッチングの実施において一般的に使用される物質(例えばフッ化水素酸など)に対して透過性を有すると同時に耐性も有する。また、前記膜は、低誘電率(low−k)を有する(すなわち比誘電率kが通常4.0以下である)という特性を有する。
【0004】
従って前記膜は、マイクロエレクトロニクス及びマイクロテクノロジーにおけるエアギャップを形成するための化学エッチング液を透過する膜を通したエッチング液の拡散による犠牲材料の分解を含む全ての製造過程において使用され得る。
【0005】
本製造方法は、例えば、集積回路のエアギャップ相互接続、バルク超音波(Bulk Acoustic Wave:BAW)型の共振空洞を有するマイクロエレクトロメカニカルシステム(microelectromechanical systems:MEMS)、マイクロ電池の製造などにおいて利用される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
マイクロエレクトロニクスまたはマイクロテクノロジーにおける装置の最先端の製造方法には、エアギャップの形成が必要である。
【0007】
現在エアギャップを形成する手法の一つに、例えばフッ化水素酸などの化学エッチング液による、一般的に酸化ケイ素などの犠牲材料の分解があり、前記化学エッチング液は犠牲材料に到達するために膜を透過しなければならない。
【0008】
前記膜は、化学エッチング液を透過させることができる能力に加えて、以下の非常に厳密な仕様を満たさなければならない。
膜自体が化学エッチング液に対して耐性を有さなければならない。
集積構造を形成するために利用するさまざまな方法および処理(金属化処理、化学機械研磨処理、熱アニーリング処理等)に適合しなければならず、特に400℃に達し得る温度において安定でなければならない。
構造のフレームワークの一部を形成するため、十分な機械的特性を有さなければならない。
集積回路の相互接続構造の場合、最大でも4.0の低誘電率を有さなければならない。
【0009】
アモルファス水素化シリコンカーバイドは、このような膜の製作に使用できる可能性の高い材料であるが、孔が形成できるという条件が必須である。
【0010】
これは、例えばフッ化水素酸溶液などの水溶液は、非多孔質水素化シリコンカーバイド膜に浸透できないためであり、これは浸透域が存在しないためだけでなく膜表面が疎水性のためである。
【0011】
従って、多孔質アモルファス水素化シリコンカーバイド膜を得ること自体が課題である。
【0012】
多孔質膜を得るために高頻度で使用される手法の一つに、一方に重合可能な材料から形成されたマトリックス、もう一方に前記マトリックス中に分散された孔形成剤を含む複合膜を形成させ、マトリックス材料が重合した後、例えば熱分解によってマトリックスから前記孔形成剤を抽出する方法がある。
【0013】
しかし、この手法は、孔形成剤が有する炭化水素特性のため、多孔質アモルファス水素化シリコンカーバイド膜の製造には使用することができない。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の主題は特に、多孔質アモルファス水素化シリコンカーバイド膜を製造可能にする方法である。
【0015】
前記方法は、
a)基板上に、酸化ケイ素貫通ナノワイヤ(すなわちマトリックスの一つの主表面から前記マトリックスの別の主表面へと伸びたナノワイヤ)が分散されたアモルファス水素化シリコンカーバイドマトリックスから成る膜を形成する段階と、
b)ステップa)において形成された膜中の酸化ケイ素ナノワイヤを化学物質によって選択的に分解する段階であり、本段階b)は前記ナノワイヤを貫通チャネルまたは貫通孔の拡散へと変換する効果を有する段階と、
を含む。
【0016】
本発明によると、酸化ケイ素ナノワイヤは、数ナノメートルから数十ナノメートルの範囲の直径を有することが好ましく、2nmから10nmであればさらに好ましい。
【0017】
さらに、ステップa)は、酸化ケイ素ナノワイヤを基板上に形成し、その後前記ナノワイヤの周りにアモルファス水素化シリコンカーバイドを形成する段階を含むことが好ましい。
【0018】
酸化ケイ素ナノワイヤは、当業者によく知られた多数の技術、特にCVD法(chemical vapor deposition:化学気相成長法)、CCVD法(catalytic chemical vapor deposition:触媒化学気相成長法)、炭素還元法、レーザー蒸発法またはゾルゲル法によって基板上に形成してよい。
【0019】
しかし、本発明においては、ゾルゲル法でナノワイヤを形成することが好ましい。
【0020】
アモルファス水素化シリコンカーバイドマトリックスは、トリメチルシラン/ヘリウムまたはシラン/メタン型の対の前駆体からPECVD法(plasma−enhanced chemical vapor deposition:プラズマ化学気相成長法)で形成されることが好ましい。特に、前記技術は低圧での堆積が可能であり、ナノワイヤを、その全長にわたってアモルファス水素化シリコンカーバイドで被覆し得るため、ナノワイヤの端部がマトリックス中に含まれず化学物質と接触できるようにするために、a−SiC:Hの堆積時間の調節には注意を払わなければならないことが理解されている。
【0021】
次に、上記したように、酸化ケイ素ナノワイヤは、膜に透過性を与えるために化学物質によって選択的に分解される。従ってこの化学物質は、アモルファス水素化シリコンカーバイドマトリックスを損傷することなく酸化シリコンを分解する特性を有するものでなければならない。
【0022】
この特性を有する化合物にフッ化水素酸があり、半導体業界では広く使用されているためその使用は十分に制御されている。
【0023】
従って、ステップb)において使用される化学物質は、フッ化水素酸を含む流体であることが好ましい。
【0024】
本発明によると、前記流体は例えば1または数%(v/v)のHFを含んだフッ化水素酸水溶液または有機フッ化水素酸溶液であることが好ましく、その場合ステップb)は単に膜をこの溶液に浸漬するのみで実施することが可能である。
【0025】
しかし、前記流体は、純気体であるか窒素などのキャリアガスとの混合気体であるかにかかわらず気体フッ化水素酸、または例えば比率1/100(v/v)のフッ化水素酸と超臨界二酸化炭素との混合物であってもよい。
【0026】
変形として、化学物質はフッ化アンモニウムを含む流体であってもよく、フッ化水素酸との混合物として含むと好都合である。
【0027】
本発明の主題はさらに、貫通孔を備えた水素化アモルファスシリコンカーバイド膜である。
【0028】
前記膜の厚さは50nmから10μmの範囲であることが好ましく、100nmから1μmまでであればさらに好ましく、孔の直径は数nmから数十nmであることが好ましく、2nmから10nmであればさらに好ましい。
【0029】
本発明の主題はさらに、酸化ケイ素貫通ナノワイヤが分散されたアモルファス水素化シリコンカーバイドマトリックスから成る、貫通孔を備えた水素化アモルファスシリコンカーバイド膜の製造に有用な膜である。
【0030】
前記膜の厚さは50nmから10μmの範囲であることが好ましく、100nmから1μmまでであればさらに好ましく、酸化ケイ素ナノワイヤの直径は数nmから数十nmであることが好ましく、2nmから10nmであればさらに好ましい。
【0031】
本発明の主題はさらに、集積回路のエアギャップ相互接続構造の製造における前記膜の使用である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
発明のその他の特徴および利点は、本発明による方法の実施例に関する以下の説明を読むことでより明確になるであろう。
【0033】
もちろんこれらの例は、単に本発明の主題を説明する目的で示したものであり、本主題の制限要因となるものではない。
【実施例1】
【0034】
厚さ200nmのSiO薄膜を、トリエチルオルトシラン及び酸素の混合物を使用してシリコンウェーハ上にPECVD法で蒸着させる。
【0035】
蒸着は、Applied Materials社のCentura5200DxZ型の容量結合リアクターにおいて、以下の実施パラメータを使用して実施する。
励起周波数:13.56MHz
作動圧力:8.2torr(1kPa)
電力:910W
蒸着温度:400℃
トリエチルオルトシラン流量:1000mg/min
酸素流量:1000cm/min
蒸着時間:25秒
【0036】
次に、SiOナノワイヤをSiO薄層上に形成する。
【0037】
第1の溶液は、TEOS(テトラエチルオルトシリケート)52mlをエタノール115mLに徐々に加えることで調製し、第2の溶液は、エタノール115mLを水18mL及び塩酸0.27mLと混合することで調製する。その後、第2の溶液を第1の溶液に加える。得られる混合液を、シリコンウェーハとそれを覆うSiO層とで形成されたマルチレイヤー上にスピンコートし、これを加熱チャンバ(200℃)に12時間配置する。
【0038】
次に、PECVD法でトリメチルシラン及びヘリウムを使用し、例えばApplied Materials社のCentura(登録商標)5200DxZ型の容量結合リアクターにおいて、以下の実施パラメータを使用して、上記のように得られるSiOナノワイヤの周りにa−SiC:Hマトリックスを形成させる。
励起周波数:13.56MHz
作動圧力:4torr(533Pa)
電力:250W
蒸着温度:350−400℃
トリメチルシラン流量:350cm/min
ヘリウム流量:4900cm/min
蒸着時間:8分
【0039】
上記で形成されたマトリックスの表面に、コロイダルシリカ粒子の塩基性(pH8)水性懸濁液によって、回転速度80rpm、圧力2psi(13.789 kPa)のプレートを使用して10秒間機械研磨を行う。
【0040】
その後、マルチレイヤーを1%(v/v)フッ化水素酸水溶液に10分間浸漬する。
【0041】
上記のようにして4.0未満の比誘電率を有する貫通孔を備えたa−SiC:H膜が得られる。
【実施例2】
【0042】
厚さ200nmのSiO薄膜を、トリエチルオルトシラン及び酸素の混合物を使用してシリコンウェーハ上にPECVD法で蒸着する。
【0043】
蒸着は、Applied Materials社のCentura(登録商標)5200DxZ型の容量結合リアクターにおいて、以下の実施パラメータを使用して実施する。
励起周波数:13.56MHz
作動圧力:8torr(1kPa)
電力:910W
蒸着温度:400℃
トリエチルオルトシラン流量:1000mg/min
酸素流量:1000cm/min
蒸着時間:25秒
【0044】
次に、上記のようにして得られるマルチレイヤーを反応炉に配置する。SiO層上に均一にケイ素粉末を堆積した後、内部圧6×10−2torr(8Pa)に設定された炉のアルミナ管に配置する。反応炉は昇温速度10℃/minで800℃まで加熱してこの温度で30分間保持した後、昇温速度10℃/minで1300℃まで加熱してこの温度で5時間保持した。温度が1300℃に到達した後、超高純度アルゴン、すなわち純度99.99%、H含有量最大1ppm、HO含有量最大20ppm、O含有量最大20ppm、炭化水素化合物含有量最大6ppm、のアルゴン気流を、流量50cm/min、圧力300torr(40kPa)で反応炉へと導入する。
【0045】
その後、PECVD法によって、テトラメチルシラン及びヘリウムを使用し、例えばApplied Materials社のCentura(登録商標)5200DxZ型の容量結合リアクターにおいて、以下の実施パラメータを使用して、上記のようにして得られるSiOナノワイヤのまわりにa−SiC:Hマトリックスを形成させる。
励起周波数:13.56MHz
作動圧力:4torr(533Pa)
電力:250W
蒸着温度:350−400℃
テトラメチルシラン流量:350cm/min
ヘリウム流量:4900cm/min
蒸着時間:8分
【0046】
上記のようにして得られるマトリックスの表面に、実施例1に記載した条件と厳密に同じ条件の下で、化学機械研磨処理を行う。
【0047】
その後、マルチレイヤーを1%(v/v)フッ化水素酸水溶液に10分間浸漬する。
【0048】
上記のようにして4.0未満の比誘電率を有する貫通孔を備えたa−SiC:H膜が得られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)酸化ケイ素貫通ナノワイヤが分散されたアモルファス水素化シリコンカーバイドマトリックスから成る膜を基板上に形成する段階と、
b)ステップa)で形成された膜中の酸化ケイ素ナノワイヤを化学物質によって選択的分解する段階と、
を含む、貫通孔を備えた水素化アモルファスシリコンカーバイド膜の製造方法。
【請求項2】
ステップa)が、基板上に酸化ケイ素ナノワイヤを形成する段階と、続いて上記のように形成されたナノワイヤの周りにアモルファス水素化シリコンカーバイドマトリックスを形成する段階と、を含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
酸化ケイ素ナノワイヤを、ゾルゲル法または化学気相成長法によって形成することを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
アモルファス水素化シリコンカーバイドマトリックスを、プラズマ化学気相成長法によって形成することを特徴とする請求項2または3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
ステップb)において使用される化学物質がフッ化水素酸を含有する流体であることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
フッ化水素酸を含有する流体が、フッ化水素酸水溶液または有機フッ化水素酸溶液であることを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
フッ化水素酸を含有する流体が、気体フッ化水素酸、気体フッ化水素酸とキャリアガスとの混合物、またはフッ化水素酸と超臨界二酸化炭素との混合物であることを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項8】
貫通孔を備えた水素化アモルファスシリコンカーバイド膜。
【請求項9】
酸化ケイ素貫通ナノワイヤが分散されたアモルファス水素化シリコンカーバイドマトリックスから成る請求項8に記載の膜の製造に有用な膜。
【請求項10】
集積回路のエアギャップ相互接続構造の製造における請求項8または9のいずれかに記載の膜の使用。

【公開番号】特開2009−167094(P2009−167094A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2009−7009(P2009−7009)
【出願日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【出願人】(590000514)コミツサリア タ レネルジー アトミーク (429)
【Fターム(参考)】