説明

走行制御装置および該装置を備えたフォークリフト

【課題】走行抵抗に影響されることなく加速度を一定に保つことができ、さらに、登坂時において、走行速度を制御することができる走行制御装置を提供する。
【解決手段】アクセル操作および前後進切り替え操作に応じて決定された目標速度で走行させる走行制御装置10であって、走行速度と目標速度との偏差から第1トルク指令値を算出する第1トルク指令値算出手段11と、車両の加速度と正の加速度制限値との偏差から第2トルク指令値を算出する第2トルク指令値算出手段12と、車両の加速度と負の加速度制限値との偏差から第3トルク指令値を算出する第3トルク指令値算出手段13と、第1〜3トルク指令値を比較してトルク指令値を決定するトルク指令値決定手段14と、を備えたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクセル操作および前後進切り替え操作に応じた目標速度で車両を走行させる走行制御装置および該装置を備えたフォークリフトに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、走行輪の駆動がモータで行われるフォークリフト等の車両は、アクセル操作および前後進切り替え操作に応じて目標速度とトルク指令値とを決定し、該トルク指令値にしたがってモータを回転させる走行制御装置を備えている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
上記走行制御装置の一例として、図6に、モータ26の回転数ωから算出された走行速度と目標速度との偏差がゼロになるようにPI演算を行う走行制御装置20を示す。同図に示すように、この走行制御装置20は、上記PI演算により仮トルク指令値を算出する仮トルク指令値算出手段21と、トルク指令値を決定するトルク指令値決定手段24と、決定されたトルク指令値にしたがってモータ26を駆動するインバータ25とを備えている。
【0004】
トルク指令値決定手段24は、二つの比較器24a、24bから構成されている。比較器24aは、仮トルク指令値とあらかじめ設定された正のトルク制限値とを比較して小さい方の値を出力し、比較器24bは、比較器24aから出力された値とあらかじめ設定された負のトルク制限値とを比較して大きい方の値をトルク指令値として出力する。
【0005】
これにより、走行制御装置20は、トルク指令値を正および負のトルク制限値の範囲内に制限することができるので、走行速度が目標速度から大きくずれている場合においても、トルク指令値の絶対値が大きくなりすぎてモータ26に過大な負荷がかかるのを防ぐことができる。
【0006】
なお、上記のようにトルク指令値が制限されている場合、登坂路の傾斜状況によってはトルクが不足することがあるが、この走行制御装置20では、アクセル操作の操作量が100%(最大)になったときに、トルク制限値をモータ26の特性によって決まる値(最大トルク制限値)まで増加させるオートトルクアップが行なわれるので、登坂時におけるトルク不足を解消することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−286002号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記従来の走行制御装置20は、トルク指令値を正および負のトルク制限値の範囲内に収めるように制御しているものの、車両の走行速度が目標速度に到達するまでの加速度を何ら制御していない。このため、上記走行制御装置20では、トルク指令値が一定であったとしても、モータ26や走行輪の摩擦力等の走行抵抗が変化することにより、加速度に変化が生じることがあった。
【0009】
例えば、従来の走行制御装置20を備えたフォークリフトにおいて、前進中に前後進切り替え操作が行われた場合、走行抵抗はフォークリフトを止めようとする方向に働くので、フォークリフトの走行方向が後進に切り替わるまでの減速時の加速度は、後進に切り替わってから走行速度が目標速度に到達するまでの加速時の加速度よりも小さく(絶対値は大きく)なる。
【0010】
図7は、前後進切り替え操作時におけるフォークリフトの加速度、走行速度、およびトルク指令値の時間変化を示す図である。同図において、時刻t1は前後進切り替え操作が行われた時刻であり、時刻t2はフォークリフトの走行方向が前進から後進に切り替わった時刻であり、時刻t3はフォークリフトの走行速度が目標速度v’2に到達した時刻である。
【0011】
時刻t0〜t1間は、フォークリフトがアクセル操作の操作量に応じた目標速度v’1で前進しているので、加速度はゼロとなり、トルク指令値はゼロに近い一定の正の値となる。時刻t1の時刻で前後進切り替え操作が行われると、前後進切り替え操作およびアクセル操作の操作量に応じた目標速度v’2が決定される。
【0012】
時刻t1〜t3間は、仮トルク指令値算出手段21で算出された仮トルク指令値が、負のトルク制限値よりも小さくなるので、トルク指令値決定手段24により負のトルク制限値がトルク指令値T’1として出力される。また、時刻t1〜t2間は、走行抵抗がフォークリフトをより減速させる方向に働き、時刻t1〜t3間は、走行抵抗がフォークリフトの加速を妨げる方向に働く。このため、時刻t1〜t3間は、トルク指令値が一定であるにもかかわらず、時刻t1〜t2間における加速度a’1は、時刻t2〜t3間における加速度a’2よりも小さくなる(絶対値が大きくなる)。
【0013】
このように、従来の走行制御装置20では、一定速度で走行している最中に前後進切り替え操作が行われると、走行方向が切り替わる際に加速度が急激に変化するので、運転者が違和感を感じ、荷役運搬作業の円滑さが損なわれてしまうという問題が生じていた。
【0014】
また、従来の走行制御装置20では、登坂時におけるトルク不足を解消するためにオートトルクアップが行なわれるが、オートトルクアップが行われると、走行速度を制御することができないという問題が生じていた。
【0015】
図8は、登坂時におけるフォークリフトの走行速度およびトルク指令値の時間変化を示す図である。同図において、時刻t4はアクセル操作(操作量が100%未満)を行っているにもかかわらずトルク不足のためフォークリフトが登坂路で停止している状態で、アクセル操作の操作量を100%にした時刻であり、時刻t5はトルク制限値がトルク指令値になった時刻であり、時刻t6はオートトルクアップが行われた時刻であり、時刻t7はアクセル操作の操作量が100%未満になった時刻である。同図に示すように、従来の走行制御装置20では、時刻t6でオートトルクアップが行われると、トルク指令値とともにフォークリフトの走行速度が急激に増加し、時刻t7でアクセル操作の操作量が100%未満になると、トルク指令値とともにフォークリフトの走行速度が急激に減少する。すなわち、上記走行制御装置20では、登坂時に走行速度を制御することができなかった。
【0016】
本発明は、上記の事情を鑑みてなされたものであって、その課題とするところは、走行抵抗に影響されることなく加速度を一定に保つことができ、さらに、登坂時において走行速度を制御することができる走行制御装置および該装置を備えたフォークリフトを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するために、本発明に係る走行制御装置は、アクセル操作および前後進切り替え操作に応じて走行輪を駆動するモータに対するトルク指令値と、目標速度とが決定され、該目標速度で走行するよう構成された車両の走行制御装置であって、モータの回転数を検出する回転数検出手段と、回転数検出手段により検出された回転数から走行速度を算出し、該走行速度と目標速度との偏差がゼロになるように第1トルク指令値を算出する第1トルク指令値算出手段と、車両の加速度とあらかじめ設定された正の加速度制限値との偏差がゼロになるように第2トルク指令値を算出する第2トルク指令値算出手段と、車両の加速度とあらかじめ設定された負の加速度制限値との偏差がゼロになるように第3トルク指令値を算出する第3トルク指令値算出手段と、第1ないし第3トルク指令値を比較して、第1トルク指令値が第2トルク指令値以上の場合は、第2トルク指令値をトルク指令値とし、第1トルク指令値が第2トルク指令値よりも小さく第3トルク指令値よりも大きい場合は、第1トルク指令値をトルク指令値とし、第1トルク指令値が第3トルク指令値以下の場合は、第3トルク指令値をトルク指令値とするトルク指令値決定手段と、を備えたことを特徴とする。
【0018】
この構成によれば、加速時および減速時にトルク指令値となり得る第2(または第3)トルク指令値が、車両の加速度と正(または負)の加速度制限値との偏差がゼロになるように算出される。このため、減速時の走行抵抗に応じてトルク指令値が減少し、加速時の走行抵抗に応じてトルク指令値が増加することによって、加速度を一定に保つことができる。
【0019】
さらに、この構成によれば、トルクについては特に制限を設けていないので、車両の加速度が正および負の加速度制限値の範囲内であれば、トルク指令値をモータの特性によって決まる最大トルク制限値まで増加させることができる。これにより、登坂時において、走行速度を通常走行時と同様に制御することができる。
【0020】
上記正および負の加速度制限値は、少なくとも走行中に前後進切り替え操作が行われてから車両の走行方向が切り替わるまでの間、第2トルク指令値または第3トルク指令値がトルク指令値となるように設定されていることが好ましい。
【0021】
この構成によれば、前後進切り替え操作が行われてから走行速度が目標速度に到達するまでの間、走行抵抗が考慮された第2トルク指令値または第3トルク指令値がトルク指令値となるので、加速時の加速度と減速時の加速度とを等しくすることができる。
【0022】
上記正の加速度制限値は、アクセル操作の操作量が大きいほど大きくなるように設定され、上記負の加速度制限値は、アクセル操作の操作量が大きいほど小さくなるように設定されてもよい。また、上記加速度は、走行速度から算出してもよい。
【0023】
この構成によれば、アクセル操作の操作量に応じた加速度制限値を設定することができるので、走行抵抗の大小や登坂路の傾斜状態等によって加速度制限値を適切に変更することができる。
【0024】
また、上記課題を解決するために、本発明に係るフォークリフトは、上記走行制御装置を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、走行抵抗に影響されることなく加速度を一定に保つことができ、さらに、登坂時において走行速度を制御することができる走行制御装置および該装置を備えたフォークリフトを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明に係るフォークリフトを示す斜視図である。
【図2】本発明に係る走行制御装置を示すブロック図である。
【図3】前後進切り替え操作時における本発明に係るフォークリフトの加速度、走行速度、およびトルク指令値の時間変化を示す図である。
【図4】前後進切り替え操作時における本発明に係るフォークリフトのトルク指令値の時間変化を示す図である。
【図5】登坂時における本発明に係るフォークリフトの走行速度およびトルク指令値の時間変化を示す図である。
【図6】従来の走行制御装置を示すブロック図である。
【図7】前後進切り替え操作時における従来のフォークリフトの加速度、走行速度、およびトルク指令値の時間変化を示す図である。
【図8】登坂時における従来のフォークリフトの走行速度およびトルク指令値の時間変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、添付図面を参照して、本発明に係る走行制御装置およびフォークリフトの好まし
い実施形態について説明する。
【0028】
本実施形態に係る走行制御装置10は、例えば、図1に示すようなリーチ型のフォークリフト1に備えられている。同図に示すように、フォークリフト1は、前後にスライドするマスト2と、マスト2に設けられたリフトシリンダ4と、リフトシリンダ4と不図示のオイルタンクとの間を作動油が通流することによりマスト2に沿って昇降するフォーク3と、車体後方に配置された走行輪5とを備える。
【0029】
また、フォークリフト1の内部には走行制御装置10が備えられ、運転席にはアクセル操作および前後進切り替え操作を行うための不図示の速度指令手段および前後進切り替え手段が備えられている。前後進切り替え手段は、フォークリフト1の走行モードを前進モードと後進モードとに切り替え、速度指令手段は、アクセル操作の操作量と前後進切り替え操作(走行モード)に応じた目標速度を決定する。なお、速度指令手段および前後進切り替え手段は、例えば、一体型のレバーであるが、これに限らず、速度指令手段と前後進切り替え手段とが別体であってもよい。
【0030】
図2は、本実施形態に係る走行制御装置10とその周辺部材のブロック図である。同図に示すように、走行制御装置10は、第1トルク指令値算出手段11と、第2トルク指令値算出手段12と、第3トルク指令値算出手段13と、トルク指令値決定手段14と、モータ16を駆動するインバータ15と、モータ16の回転数ωを検出する不図示の回転数検出手段と、を備えている。
【0031】
第1トルク指令値算出手段11は、回転数検出手段により検出されたモータ16の回転数ωから走行速度を算出し、該走行速度と目標速度との偏差がゼロになるように第1トルク指令値を算出する。
【0032】
第2トルク指令値算出手段12は、フォークリフト1の走行モードが前進モードのときは、モータ16の回転数ωから算出された走行速度を微分することにより算出されたフォークリフト1の加速度と、あらかじめ設定された正の加速度制限値との偏差がゼロになるように第2トルク指令値を算出する。また、第2トルク指令値算出手段12は、フォークリフト1の走行モードが後進モードのときは、後述する比較器14aにおいて必ず第1トルク指令値が出力されるように、第1トルク指令値よりもはるかに大きい一定の値を第2トルク指令値として算出する。
【0033】
第3トルク指令値算出手段13は、フォークリフト1の走行モードが前進モードのときは、後述する比較器14bにおいて必ず第1トルク指令値または第2トルク指令値がトルク指令値として出力されるように、第1トルク指令値および第2トルク指令値よりもはるかに小さい一定の値を第3トルク指令値として算出する。また、第3トルク指令値算出手段13は、フォークリフト1の走行モードが後進モードのときは、フォークリフト1の加速度と、あらかじめ設定された負の加速度制限値との偏差がゼロになるように第3トルク指令値を算出する。
【0034】
トルク指令値決定手段14は、二つの比較器14a、14bから構成されている。比較器14aは、第1トルク指令値と第2トルク指令値とを比較して小さい方の値を出力し、比較器14bは、比較器14aから出力された値と第3トルク指令値とを比較して大きい方の値をトルク指令値として出力する。すなわち、トルク指令値決定手段14は、第1トルク指令値が第2トルク指令値以上の場合は、第2トルク指令値をトルク指令値とし、第1トルク指令値が第2トルク指令値よりも小さく第3トルク指令値よりも大きい場合は、第1トルク指令値をトルク指令値とし、第1トルク指令値が第3トルク指令値以下の場合は、第3トルク指令値をトルク指令値とする。
【0035】
正および負の加速度制限値は、アクセル操作の操作量に応じて増減するように設定されている。具体的には、正の加速度制限値は、アクセル操作の操作量が大きいほど大きくなるように設定され、負の加速度制限値は、アクセル操作の操作量が大きいほど小さくなる(絶対値が大きくなる)ように設定されている。このため、アクセル操作の操作量を調節することで、走行抵抗の大小や登坂路の傾斜状態等に応じた加速度制限値を設定することができる。
【0036】
また、正および負の加速度制限値は、少なくとも走行中に前後進切り替え操作が行われてからフォークリフト1の走行方向が切り替わるまでの間、第2トルク指令値または第3トルク指令値がトルク指令値となるように設定されている。
【0037】
図3は、前進中に前後進切り替え操作が行われた場合におけるフォークリフト1の加速度、走行速度、およびトルク指令値の時間変化を示す図である。同図において、時刻t1は前後進切り替え操作が行われた時刻であり、時刻t2はフォークリフト1の走行方向が前進から後進に切り替わった時刻であり、時刻t3はフォークリフト1の走行速度が目標速度v2に到達した時刻である。
【0038】
時刻t0〜t1間は、フォークリフト1がアクセル操作の操作量に応じた目標速度v1で前進しているので、走行モードは前進モードとなり、加速度はゼロとなる。このため時刻t0〜t1間は、図4に示すように、第1トルク指令値はゼロに近い値となり、第2トルク指令値は正の加速度制限値とゼロとの偏差に応じた正の値となり、第3トルク指令値は第1トルク指令値および第2トルク指令値よりもはるかに小さい一定の値となる。これにより、トルク指令値決定手段14では、比較器14aが、第1トルク指令値と第2トルク指令値とを比較して第1トルク指令値を出力し、比較器14bが、第1トルク指令値と第3トルク指令値とを比較して第1トルク指令値をトルク指令値として出力する。
【0039】
時刻t1において前後進切り替え操作が行われ、走行モードが前進モードから後進モードに切り替わると、アクセル操作の操作量に応じた目標速度v2が決定される。目標速度v2が決定されると、第1トルク指令値は、目標速度v2と目標速度v1との偏差に応じた値となるため、急激に小さくなり(絶対値が大きくなり)、第3トルク指令値よりも小さくなる。このため、トルク指令値決定手段14では、比較器14bが第3トルク指令値をトルク指令値として出力し始める。
【0040】
トルク指令値が第1トルク指令値から第3トルク指令値に変わると、フォークリフト1の加速度が負の加速度制限値a1を超えようとする。しかしながら、第3トルク指令値算出手段13は、フォークリフト1の加速度と負の加速度制限値a1との偏差がゼロになるような第3トルク指令値を算出し、この第3トルク指令値がトルク指令値として出力されるので、フォークリフト1の加速度は負の加速度制限値a1と同じ値に落ち着く。
【0041】
時刻t1〜t2間は、フォークリフト1が目標速度v2に向けて加速度a1で減速しながら前進している。このため時刻t1〜t2間においては、第1トルク指令値が一定の割合で大きく(絶対値が小さく)なり、第2トルク指令値が第1トルク指令値よりもはるかに大きい一定の値となり、第3トルク指令値が負の加速度制限値と加速度a1との偏差に応じた負の値であって第1トルク指令値よりも大きな値となる。このため、トルク指令値決定手段14では、比較器14bが第3トルク指令値をトルク指令値T1として出力し続ける。
【0042】
時刻t2においてフォークリフト1の走行方向が前進から後進に切り替わると、モータ16や走行輪5の摩擦力等の走行抵抗が、フォークリフト1の加速を妨げる方向に働くため、フォークリフト1の加速度a1は大きく(絶対値が小さく)なろうとする。しかしながら、本発明に係る走行制御装置10では、第3トルク指令値算出手段13が、フォークリフト1の加速度と負の加速度制限値a1との偏差がゼロになるような第3トルク指令値を算出し、この第3トルク指令値がトルク指令値T2として出力されるので、フォークリフト1の加速度は負の加速度制限値a1と同じ値になる。このように、本発明に係る走行制御装置10では、加速時(時刻t2〜t3間)におけるトルク指令値T2が、減速時(時刻t1〜t2間)におけるトルク指令値T1よりも小さく(絶対値が大きく)なることにより、時刻t1〜t3間の加速度a1が実質的に一定に保たれる。
【0043】
なお、時刻t2〜t3間は、フォークリフト1が目標速度v2に向けて加速度a1で加速しているので、フォークリフト1の速度と目標速度v2の偏差に応じた第1トルク指令値はゼロに近づいていく。このため、厳密に言えば、フォークリフト1が目標速度v2に到達するよりも前に、第1トルク指令値は第3トルク指令値よりも大きくなり、トルク指令値決定手段14では、比較器14bが第1トルク指令値をトルク指令値として出力し始める。
【0044】
図5は、登坂時におけるフォークリフト1の走行速度およびトルク指令値の時間変化を示す図である。同図において、時刻t4はアクセル操作を行っているにもかかわらずトルク不足のためフォークリフトが登坂路で停止している状態で、アクセル操作の操作量を大きくした時刻であり、時刻t5はフォークリフト1が登坂を開始した時刻である。本発明に係る走行制御装置10では、トルクについては特に制限を設けていないので、アクセル操作が行われると、フォークリフト1の加速度が正または負の加速度制限値の範囲内であれば、トルク指令値をモータ16の特性によって決まる最大トルク制限値までリニアに増加または減少させることができる。このため、本発明に係る走行制御装置10では、登坂時においても、フォークリフト1の走行速度を制御することができる。
【0045】
以上、本発明に係る走行制御装置、およびフォークリフトの好ましい実施形態について
説明してきたが、本発明はこれらの構成に限定されるものではない。
【0046】
例えば、上記実施形態では、フォークリフト1の加速度をモータ16の回転数ωから算出された走行速度を微分することにより算出したが、加速度センサを設けてフォークリフト1の加速度を直接検出してもよい。
【0047】
また、上記実施形態では、本発明に係る走行制御装置10を備えた車両として、リーチ型のフォークリフト1を例に挙げて説明したが、本発明に係る走行制御装置10は、リーチ型以外のフォークリフトや、走行輪の駆動がモータで行われるその他の車両にも適用することができる。
【符号の説明】
【0048】
1 フォークリフト
2 マスト
3 フォーク
4 リフトシリンダ
5 走行輪
10 走行制御装置
11 第1トルク指令値算出手段
12 第2トルク指令値算出手段
13 第3トルク指令値算出手段
14 トルク指令値決定手段
15 インバータ
16 モータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクセル操作および前後進切り替え操作に応じて走行輪を駆動するモータに対するトルク指令値と、目標速度とが決定され、該目標速度で走行するよう構成された車両の走行制御装置であって、
前記モータの回転数を検出する回転数検出手段と、
前記回転数検出手段により検出された回転数から走行速度を算出し、該走行速度と前記目標速度との偏差がゼロになるように第1トルク指令値を算出する第1トルク指令値算出手段と、
前記車両の加速度とあらかじめ設定された正の加速度制限値との偏差がゼロになるように第2トルク指令値を算出する第2トルク指令値算出手段と、
前記車両の加速度とあらかじめ設定された負の加速度制限値との偏差がゼロになるように第3トルク指令値を算出する第3トルク指令値算出手段と、
前記第1ないし第3トルク指令値を比較して、前記第1トルク指令値が前記第2トルク指令値以上の場合は、前記第2トルク指令値を前記トルク指令値とし、前記第1トルク指令値が前記第2トルク指令値よりも小さく第3トルク指令値よりも大きい場合は、前記第1トルク指令値を前記トルク指令値とし、前記第1トルク指令値が前記第3トルク指令値以下の場合は、前記第3トルク指令値を前記トルク指令値とするトルク指令値決定手段と、
を備えたことを特徴とする走行制御装置。
【請求項2】
前記正および負の加速度制限値は、少なくとも走行中に前記前後進切り替え操作が行われてから前記車両の走行方向が切り替わるまでの間、前記第2トルク指令値または前記第3トルク指令値が前記トルク指令値となるように設定されていることを特徴とする請求項1に記載の走行制御装置。
【請求項3】
前記正の加速度制限値は、前記アクセル操作の操作量が大きいほど大きくなるように設定され、
前記負の加速度制限値は、前記アクセル操作の操作量が大きいほど小さくなるように設定されていることを特徴とする請求項1または2に記載の走行制御装置。
【請求項4】
前記加速度は、前記走行速度から算出されることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の走行制御装置。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載の走行制御装置を備えたことを特徴とするフォークリフト。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−90463(P2012−90463A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−236140(P2010−236140)
【出願日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【出願人】(000232807)日本輸送機株式会社 (320)
【Fターム(参考)】