説明

超音波モータ

【課題】この発明は、簡易な構成で、圧電素子の破壊振動速度の向上を図り、モータ出力の向上を実現した超音波モータを提供することにある。
【解決手段】圧電素子10の屈曲振動による応力集中を招く屈曲振動の腹に対応する両側面を含む外周面に補強部材11を固着して屈曲振動による応力集中部位の強度を高めて耐久性の向上を図るように構成したものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えばデジタルカメラの手振れ補正ユニットやAFレンズ等のアクチュエータとして用いられている超音波モータに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、この種の超音波モータは、圧電素子に電圧を印加して縦振動と屈曲振動を励起させて楕円振動を発生させ、この楕円振動を、駆動子を介して被駆動体に伝達し、該被駆動体を摩擦駆動するように構成されている。
【0003】
このような圧電素子を用いる振動部品においては、圧電素子を、保持枠で振動可能に挟持して圧電振動体を形成し、この圧電振動体を一対のケースで挟持すると共に、振動可能に封止して、外圧による破損の防止を図るようにした構成のものが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
一方、このような圧電素子を備えた超音波モータにおいては、そのモータ出力を高めることが強く要請されている。このモータ出力を高めるには、圧電素子に印加する電力を上げるなどして、圧電素子で励起される振動を大きくすることが必要とされている。
【特許文献1】特開平8−18379号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に開示される構成では、保持枠で、外力による圧電素子の割れを防止することが可能であるが、圧電素子の振動による内部応力集中による割れを防止することが困難である。このため、モータ出力を上げて、圧電素子の振動を大きくすると、割れや破壊の要因となる振動速度が高まることで、内部応力集中による圧電素子の割れや、破壊を招くという問題を有する。
【0006】
この発明は上記の事情に鑑みてなされたもので、簡易な構成で、圧電素子の破壊振動速度の向上を図り得るようにして、モータ出力の向上を実現した超音波モータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、縦振動及び屈曲振動を同時に励起して楕円振動を発生させ、前記楕円振動により駆動力を得て被駆動体を駆動する超音波モータであって、圧電素子と、前記圧電素子の上面側における屈曲振動の腹に設けられた補強部材と、前記圧電素子の下面側における屈曲振動の腹に設けられ、前記駆動力を前記被駆動体に伝達する駆動子と、前記圧電素子に設けられ、筐体に位置決め保持される保持部材と、前記保持部材を押圧して前記圧電素子の駆動子を前記被駆導体に摩擦駆動可能に圧接する押圧部材とを備えて構成した。
【0008】
上記構成によれば、圧電素子は、その上面側における屈曲振動の応力集中部位が補強部材により補強されて応力に対する強度が高められていることにより、その振動に対する耐久性が向上されて、振動による割れや破壊防止の促進が図れ、信頼性の高い安定した摩擦駆動を行うことができる。従って、信頼性の高い安定した摩擦駆動を実現したうえで、圧電素子の供給電力の向上を図り、モータ出力の向上を図ることが可能となる。
【発明の効果】
【0009】
以上述べたように、この発明によれば、簡易な構成で、圧電素子の破壊振動速度の向上を図り得るようにして、モータ出力の向上を実現した超音波モータを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、この発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0011】
図1は、この発明の一実施の形態に係る超音波モータを示すもので、圧電素子10は、例えば複数の電極板が積層されて矩形状に形成され、各電極に電圧が印加されると、縦振動及び屈曲振動を同時に励起して楕円振動を発生させる。
【0012】
この圧電素子10には、その屈曲振動の腹に対応する二箇所の外周4面を囲んで略ロ字形状の補強部材11が、例えば接着剤を用いて固着されている(図2、図3及び図4参照)。この補強部材11は、圧電素子10の二箇所の屈曲振動の腹の周囲を補強し、その下面側に駆動子を構成する突部12が屈曲振動の腹に対応してそれぞれ形成されている。そして、この補強部材11の突部12は、被駆動体13に接触される(図2参照)。この被駆動体13は、筐体14にボール等の複数の転動部材15を介して矢印方向に移動自在に設けられている。
【0013】
上記補強部材11は、圧電素子10の屈曲振動の腹に対応する外周面に固着するのに、接着剤を用いることなく、周知のインサート成形により固着するようにしてもよい。
【0014】
また、上記圧電素子10には、その縦振動の節に対応する上面側に凹部101が長手方向に直交して形成され(図3参照)、この凹部101には、保持部材16が、例えば接着剤を用いて固着される。この保持部材16には、その両端部にそれぞれ位置決め用保持部161が突出して設けられている。
【0015】
この保持部材16の保持部161は、筐体14に設けられた位置決め用凹部141に挿入され、圧電素子10の筐体14への位置決めを実行する。この状態で、保持部材16の上部には、押圧部材、例えばばね部材17の中間部が当接される。このばね部材17は、その両端部が上記筐体14内に螺子部材18を用いて所定の撓み量を有して取付けられている。これにより、ばね部材17は、保持部材16を付勢して、圧電素子10に固着された補強部材11の突部12を上記被駆動体13に摩擦駆動可能に圧接する。
【0016】
上記圧電素子10には、その上面側端部と補強部材11に挟まれた領域A(図3参照)とにフレキシブルケーブル19が例えば導電性接着材を用いて固着され、このフレキシブルケーブル19を介して図示しない駆動回路と配線接続されている。そして、圧電素子10は、上記駆動回路(図示せず)を介して電圧が印加され、これに応動して縦振動及び屈曲振動を励起し、楕円振動を発生させ、駆動力を得て補強部材11の突部12を介して駆動力を被駆動体13に伝達する。
【0017】
なお、上記フレキシブルケーブル19は、上記領域Aに代えて補強部材11と保持部材16に挟まれたB領域、あるいは圧電素子の両側面の領域C、領域A〜Cを複数組み合わせた部位に固着するようにしてもよい(図3参照)。このフレキシブルケーブル19の配線形態としては、圧電素子10の内部の電極形状を変えることで、任意の位置に固着配置することが可能である。
【0018】
上記補強部材11は、樹脂材料、金属材料、セラミックスを用いて形成される。詳しくは、金属材料としては、例えば加工性の良い黄銅や、ばね性が良好なベリリウム銅やリン青銅等の合金や、剛性の高いステンレス鋼やジュラルミン等が用いられる。このうちステンレス鋼やジュラルミン等の剛性の高い材料を用い場合には、薄形化が図れて、小形化を図ることが可能となる。
【0019】
また、上記樹脂材料としては、例えばエポキシ樹脂、ABS樹脂、PPS樹脂(ポリフェニレンサルファイド樹脂)、PEEK樹脂(ポリエーテルエーテルケトン樹脂)等が用いられる。この樹脂材料を用いて補強部材11を構成した場合には、金属材料に比して軽量化を図ることが可能となるうえ、射出成形が可能となり、インサート成形法を行うなどして固着工程の簡略化を図ることができる。
【0020】
その他、樹脂材料としては、ガラス繊維や炭素繊維等のフィラーを充填したLCP樹脂(液晶ポリマー樹脂)や、チタン酸カリウムのフィラーを充填したPPS樹脂等の強化プラスチックを用いてもよい。この強化プラスチックを用いた場合には、補強部材11としての強度、耐熱性、加工寸法精度の向上を図ることが可能となる。
【0021】
さらに、セラミックスとしては、アルミナ、ジルコニア等が用いられる。このセラミックスを用いた場合には、補強部材11の高強度化を図ることができるうえ、圧電素子10と同程度の線膨張率を有する。この結果、圧電素子10を、例えば熱硬化接着剤を用いて圧電素子10の外面に固着する場合に、接着硬化させる際の温度変化や硬化後の使用環境の温度変化を受けても、接着層の歪を少なく抑えることができて、簡便にして容易に高品質な固着を実現することが可能となる。
【0022】
上記構成により、圧電素子10は、上記駆動回路(図示せず)を介して電圧が印加されると、縦振動及び屈曲振動を同時に励起して楕円振動を発生させ、この楕円振動により駆動力を得る。この駆動力は、その補強部材11の突部12を介して被駆動体13に伝達され、該被駆動体13が、転動体15を介して筐体14に対して矢印方向に摩擦駆動される。この際、圧電素子10は、その屈曲振動による応力集中を招く屈曲振動の腹に対応する両側面を含む外周面が補強部材11により補強されて、その強度が高められていることで、被駆動体13の安定した高品質な摩擦駆動が実行される。
【0023】
そして、この圧電素子10は、屈曲振動の腹に対応する外周面が、補強部材11により補強されて屈曲振動に対する耐久性が高められ、その楕円振動の発生に伴う応力集中による割れや破壊発生の基準となる破壊振動速度が高められている。これにより、圧電素子10は、その振動速度を高めて、モータ出力の高出力化を図ったうえで、安定した高効率な駆動が可能となる。
【0024】
このように、上記超音波モータは、圧電素子10の屈曲振動による応力集中を招く屈曲振動の腹に対応する両側面を含む外周面に補強部材11を固着して屈曲振動による応力集中部位の強度を高めて耐久性の向上を図るように構成した。
【0025】
これによれば、圧電素子10の楕円振動の発生に伴う応力集中による割れや破壊発生の基準となる破壊振動速度を高めることができて、圧電素子10の振動速度を高めて、モータ出力の高出力化を図ったうえで、安定した高品質な駆動が可能となる。
【0026】
また、この発明は、上記実施の形態に限ることなく、その他、例えば図5乃至図8に示すように構成してもよく、同様の効果が期待される。但し、この図5乃至図8に示す各実施の形態においては、上記図1乃至図4に示す実施の形態と同一部分について同一符号を付して、その詳細な説明を省略する。
【0027】
図5及び図6に示す実施の形態では、圧電素子10の屈曲振動の腹に対応する二箇所における外周面のうち下面側及び両側面を囲んで略コ字状の補強部材111が、例えば接着剤を用いて固着されている。この補強部材111は、その上面側部及び両側面側部の全体で圧電素子10の屈曲振動の腹を補強し、その下面側に、駆動子を構成する突部121が、上記被駆動体13に対応して突設される。
【0028】
そして、この補強部材111の突部121は、上述したように上記圧電素子10の上面側に固着して配した保持部材に当接するばね部材のばね力により、上記被駆動体13に摩擦駆動可能に圧接される。
【0029】
上記補強部材111は、例えば上述したように樹脂材料、金属材料、セラミックスのいずれかを用いて形成され、圧電素子10が屈曲振動した際の応力集中に対する圧電素子10の補強を高めて楕円振動の発生による割れや破壊発生を防止する。
【0030】
また、図7及び図8に示す実施の形態では、圧電素子10の屈曲振動の腹に対応する上面側の二箇所に補強部材112が、例えば接着剤を用いて所定の間隔を有して固着されている。そして、圧電素子10の屈曲振動の腹に対応する下面側には、上記補強部材112に対向して駆動子122が、例えば接着剤を用いて所定の間隔に固着されている。
【0031】
上記圧電素子10は、上記保持部材16の保持部161が上記筐体14に設けられた凹部141に挿入されて、筐体14に位置決めされた状態で、その駆動子122が上記被駆動体13に接触される。この状態で、圧電素子10は、その保持部材16が、上記ばね部材17により付勢されて駆動子122が上記被駆動体13に摩擦駆動可能に圧接される。ここで、この圧電素子10は、電圧が印加されて、縦振動及び屈曲振動が同時に励起されて楕円振動を発生させる。
【0032】
この際、圧電素子10は、その上面側の補強部材112により屈曲振動による応力集中部位の強度が高められていることで、楕円振動による割れや破壊発生が効果的に阻止される。上記補強部材112は、例えば上述したように樹脂材料、金属材料、セラミックスのいずれかを用いて形成される。
【0033】
よって、この発明は、上記実施の形態に限ることなく、その他、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で種々の変形を実施し得ることが可能である。さらに、上記実施の形態には、種々の段階の発明が含まれており、開示される複数の構成要件における適宜な組合せにより種々の発明が抽出され得る。
【0034】
例えば実施の形態に示される全構成要件から幾つかの構成要件が削除されても、発明が解決しようとする課題の欄で述べた課題が解決でき、発明の効果で述べられている効果が得られる場合には、この構成要件が削除された構成が発明として抽出され得る。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】この発明の一実施の形態に係る超音波モータの概略構成を説明するために示した平面図である。
【図2】図1を側面から見た状態を示した平面図である。
【図3】図1の圧電素子を取出して正面から見た状態を示した平面図である。
【図4】図3を側面から見た状態を示した平面図である。
【図5】この発明の他の実施の形態に係る超音波モータの圧電素子を取出して示した平面図である。
【図6】図5を側面から見た状態を示した平面図である。
【図7】この発明の他の実施の形態に係る超音波モータの圧電素子を取出して示した平面図である。
【図8】図7を側面から見た状態を示した平面図である。
【符号の説明】
【0036】
10…圧電素子、101…凹部、11,111,112…補強部材、12,121…突部、122…駆動子、13…被駆動体、14…筐体、15…転動体、16…保持部材、161…保持部、17…ばね部材、18…螺子部材、19…フレキシブルケーブル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
縦振動及び屈曲振動を同時に励起して楕円振動を発生させ、前記楕円振動により駆動力を得て被駆動体を駆動する超音波モータであって、
圧電素子と、
前記圧電素子の上面側における屈曲振動の腹に設けられた補強部材と、
前記圧電素子の下面側における屈曲振動の腹に設けられ、前記駆動力を前記被駆動体に伝達する駆動子と、
前記圧電素子に設けられ、筐体に位置決め保持される保持部材と、
前記保持部材を押圧して前記圧電素子の駆動子を前記被駆導体に摩擦駆動可能に圧接する押圧部材と、
を具備することを特徴とする超音波モータ。
【請求項2】
縦振動及び屈曲振動を同時に励起して楕円振動を発生させ、前記楕円振動により駆動力を得て被駆動体を駆動する超音波モータであって、
圧電素子と、
前記圧電素子の屈曲振動の腹を囲む外面のうち少なくとも下面を含む3面に設けられ、下面側が前記駆動力を前記被駆動体に伝達する駆動子として機能する補強部材と、
前記圧電素子に設けられ、筐体に位置決め保持される保持部材と、
前記保持部材を押圧して前記補強部材の下面側を前記被駆導体に摩擦駆動可能に圧接する押圧部材と、
を具備することを特徴とする超音波モータ。
【請求項3】
前記補強部材は、下面側に突部が設けられ、該突部が前記被駆動体に摩擦駆動可能に圧接されることを特徴とする請求項2記載の超音波モータ。
【請求項4】
前記補強部材は、樹脂材料,金属材料又はセラミックのいずれかで形成され、前記圧電素子に接着剤を用いて固着されること特徴とする請求項1乃至3のいずれか記載の超音波モータ。
【請求項5】
前記補強部材は、樹脂材料で形成され、前記圧電素子をインサート成形して設けられたことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか記載の超音波モータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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