超音波モータ
【課題】駆動時における異音の発生を低減させた超音波モータを提供すること。
【解決手段】被駆動体5に当接する駆動子10を備える超音波振動子4に2相の駆動信号を印加して縦振動と屈曲振動とを同時に発生させることで、前記超音波振動子4に楕円振動を発生させ、該楕円振動から駆動力を得て前記駆動子10により前記被駆動体5を摩擦駆動する超音波モータを、次のように構成する。すなわち、制御CPU22は、前記2相の駆動信号の位相差である駆動位相差を切り替えて駆動する際に、駆動位相差の切り替えの周期を変化させるよう駆動位相差の切り替えタイミングを制御する。
【解決手段】被駆動体5に当接する駆動子10を備える超音波振動子4に2相の駆動信号を印加して縦振動と屈曲振動とを同時に発生させることで、前記超音波振動子4に楕円振動を発生させ、該楕円振動から駆動力を得て前記駆動子10により前記被駆動体5を摩擦駆動する超音波モータを、次のように構成する。すなわち、制御CPU22は、前記2相の駆動信号の位相差である駆動位相差を切り替えて駆動する際に、駆動位相差の切り替えの周期を変化させるよう駆動位相差の切り替えタイミングを制御する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電素子等から成る振動子の振動を利用する超音波モータに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電磁型モータに代わる新しいモータとして、圧電素子などの振動子の振動を利用した超音波モータが注目されている。この超音波モータは、従来の電磁型モータと比較して、ギア無しで低速高推力が得られる点、保持力が高い点、ストロークが長く高分解能である点、静粛性に富む点、磁気的ノイズを発生せず磁気的ノイズの影響を受けない点等の利点を有している。
【0003】
超音波モータでは、超音波振動子を、摩擦部材である駆動子を介して、相対運動部材である被駆動部材に押し付けることで、前記駆動子と前記被駆動部材との間に摩擦力を発生させ、この摩擦力によって前記被駆動部材を駆動する。
【0004】
具体的には、例えば超音波振動子に2相の交番信号を印加して当該超音波振動子に縦振動と屈曲振動とを同時に励起することで駆動子に楕円振動を生じさせ、該楕円振動から駆動力を得て被駆動体を相対的に移動させる超音波モータが知られている。
【0005】
このような超音波モータに関連する技術として、例えば特許文献1に次のような技術が開示されている。すなわち、特許文献1には、駆動用の電気機械変換素子および振動検出用の電気機械変換素子を備え、前記駆動用の電気機械変換素子に所定の位相差および所定の駆動周波数の2相の交番電圧を供給することにより、異なる2つの振動モードを同時に発生させて出力端に略楕円振動を生じさせる超音波振動子を備える超音波モータの運転方法であって、前記超音波振動子の出力端を被駆動体に押し付ける押圧力が、前記振動検出用の電気機械変換素子から出力された信号に基づいて、2つの振動モードの機械的共振周波数を一致させるように設定されている超音波モータの運転方法が開示されている。
【0006】
この特許文献1に開示されている技術によれば、複数の振動モードを同時に発生させる超音波モータにおいて、各振動モードを効率よく発生させて、安定して高いモータ出力を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−304425号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、超音波モータの駆動特性として、低速度領域(駆動位相差が180度近傍)ほど駆動が不安定になる。このような事情を鑑みて、超音波モータを安定して低速で駆動させる技術として、超音波振動子に印加する駆動信号を周期的にON/OFFさせるバースト駆動(間欠駆動)が知られている。このバースト駆動は、駆動時に異音が発生してしまうという課題を抱えている。
【0009】
このような異音の発生を低減させる為の技術として、次のような駆動方法が提案されている。すなわち、複数の駆動位相差を設定し、それら駆動位相差のうち何れかを駆動速度が零になる駆動位相差に設定し、それら駆動位相差を周期的に切り替えて駆動を行うことで、上述したバースト駆動を採用した場合と同様に、超音波モータを安定して低速駆動させることができる。そして、この駆動方法によれば、バースト駆動による場合よりも異音の発生が低減される。しかしながら、更なる異音発生の低減が望まれている。
【0010】
本発明は、前記の事情に鑑みて為されたものであり、駆動時における異音の発生を低減させた超音波モータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記の目的を達成するために、本発明の第1の態様による超音波モータは、
被駆動部材に当接する駆動子を備える振動子に2相の駆動信号を印加して縦振動と屈曲振動とを同時に発生させることで、前記振動子に楕円振動を発生させ、該楕円振動から駆動力を得て前記駆動子により前記被駆動部材を摩擦駆動する超音波モータであって、
前記2相の駆動信号の位相差である駆動位相差を切り替えるとともに、前記駆動位相差切り替えの周期を変化させる駆動位相差切り替え部、
を具備することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、駆動時における異音の発生を低減させた超音波モータを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第1実施形態に係る超音波モータシステムの概略一構成例を示すブロック図。
【図2】超音波振動子の一構成例を示す図。
【図3】圧電積層体の縦振動を示す図。
【図4】圧電積層体の屈曲振動を示す図。
【図5】駆動装置の内部概略構成を示す図。
【図6】ドライブ回路の一構成例を示す図。
【図7】ドライブ回路に信号生成回路から各種駆動交番信号が入力された場合における入出力値の真理値表を示す図。
【図8】<駆動方法1>による駆動の概念を示す図。
【図9】<駆動方法2>による駆動の概念を示す図。
【図10】<駆動方法3>による駆動の概念を示す図。
【図11】<駆動方法4>による駆動の概念を示す図。
【図12】<駆動方法5>による駆動の概念を示す図。
【図13】本第2実施形態に係る超音波モータによるクリーニングモード時の駆動概念を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[第1実施形態]
以下、本発明の第1実施形態に係る超音波モータについて、図面を参照して説明する。
【0015】
なお、本第1実施形態においては、説明の便宜上、超音波モータと該超音波モータを駆動する為の駆動装置とを互いに独立した別体の装置として捉え、これらの装置から成る構成を超音波モータシステムと称して説明する。しかしながら、このような呼称はあくまでも説明の便宜上の呼称であって、駆動装置まで含めて一つの超音波モータとして捉えても勿論よい。
【0016】
図1は、超音波モータシステムの概略一構成例を示すブロック図である。
【0017】
図1に示すように超音波モータシステム1は、超音波モータ2と、超音波モータ2を駆動する駆動装置3と、を具備する。超音波モータ2は、超音波振動子4と、超音波振動子4により駆動される被駆動体5と、を有する。
【0018】
前記超音波振動子4は、図2に示すように、矩形板状の圧電セラミックスシート7の片側面にシート状の内部電極(不図示)を設けたものを複数枚積層してなる直方体状の圧電積層体9と、該圧電積層体9のうち前記被駆動体5に対向する面に例えば接着等されて設けられた2個の駆動子10と、を備えている。
【0019】
なお、符号11が付されているのは外部電極である。各外部電極11には、同種の圧電セラミックスシート7の同一位置に配される全ての内部電極(不図示)が接続されている。これにより、同種の圧電セラミックスシート7の同一位置に配される内部電極(不図示)は、同一の電位とされるようになっている。
【0020】
なお、外部電極11は、配線(不図示)を介して制御器(不図示)に接続される。配線は、リード線、フレキシブル基板等、可撓性を有する配線であれば任意のものでよい。
【0021】
以下、圧電積層体9の動作について説明する。
【0022】
まず、圧電積層体9の長手方向における一端面に形成された4つの外部電極11は、図2において上側から順に、振動検出用のC相であるC−,C+に対応する内部電極(不図示)、駆動用のB相であるB−,B+に対応する内部電極(不図示)に接続された外部電極11である。他方、圧電積層体9の長手方向における他端面に形成された2つの外部電極11は、駆動用のA相であるA+,A−に対応する内部電極(不図示)に接続された外部電極11である。
【0023】
ここで、A相及びB相に同位相で共振周波数又はその近傍の周波数に対応する周波数の交番電圧を加えると、図3に示すような1次の縦振動が励起される。また、A相とB相とに逆位相で共振周波数に対応する交番電圧を加えると、図4に示されるような2次の屈曲振動が励起される。図3及び図4は、有限要素法によるコンピュータ解析結果を示す図である。
【0024】
ここで、圧電積層体9に1次の縦振動が発生したときには、駆動子10が圧電積層体9の長さ方向(図3に示されるX方向)に変位させられる。他方、圧電積層体9に2次の屈曲振動が生じたときには、駆動子10が、圧電積層体9の幅方向(図4に示されるZ方向)に変位させられる。
【0025】
従って、A相とB相とに対応する外部電極11にそれぞれ、位相が90°ずれた共振周波数又はその近傍の周波数に対応する周波数の駆動交番電圧を加える。これにより圧電積層体9においては、1次の縦振動と2次の屈曲振動とが同時に発生して駆動子10の位置で時計回りまたは反時計回りの略楕円振動が生じる(図2における矢印C参照)。
【0026】
また、超音波振動子に発生している縦振動に応じた電荷が検出用の内部電極(不図示)に励起されることにより、C相(C+,C一)の外部電極11を介して縦振動に比例した信号(以下、この信号を「振動検出信号」という。)が検出される。この振動検出信号は、駆動装置3(図1参照)に供給され、超音波振動子4の制御等に用いられる。
【0027】
以下、前記駆動装置3について詳細に説明する。図5は、駆動装置3の内部概略構成を示す図である。図5に示すように、駆動装置3は、発振回路(基準信号生成手段)21と、制御CPU22と、信号制御回路23と、パラメータテーブル24と、信号生成回路25と、信号出力制御回路26と、位相差検出回路28と、ドライブ回路30と、エンコーダ33と、エンコーダ信号処理回路35と、モニタ信号制御回路40と、を有する。
【0028】
前記パラメータテーブル24は、駆動周波数、駆動位相差(A相の駆動信号とB相の駆動信号との位相差)、パルスエッジ遅れ、追尾位相差等の各種パラメータの設定値、エンコーダ33のカウント値、及び駆動位相差の切り替えに係る各種パラメータ(詳細は後述する)等を格納する。
【0029】
前記発振回路21は、基準信号(クロック信号)を生成し、信号制御回路23、信号生成回路25、信号出力制御回路26、及び位相差検出回路28に出力する。
【0030】
前記制御CPU22は、パラメータテーブル24に各種パラメータを設定して、超音波振動子4の駆動信号を制御する。また、パラメータテーブル24から各種パラメータ(位相差,エンコーダカウント値等)を読み出し、位置制御、速度制御、及び駆動位相差切り替え処理等を行う。すなわち、制御CPU22は、パラメータテーブル24及び後述する位相差検出回路28からのフィードバック値等に基づいて、基準駆動信号の周波数指令値、及びA相B相の位相差指令値等を作成し、出力する。
【0031】
前記信号制御回路23は、前記発振回路21から入力される基準信号S1と制御CPU22から入力される周波数指令値とに基づいて、所定の周波数のパルス信号である基準駆動信号S2を生成し、これを信号生成回路25に出力する。ここで、制御CPU22は、基準駆動信号の周波数を超音波振動子4の共振周波数またはその近傍の周波数に設定するための周波数指令値を、信号制御回路23に与える。従って、信号制御回路23からは超音波振動子4の共振周波数と略同じ周波数の基準駆動信号が出力される。
【0032】
より詳細には、信号制御回路23は、周波数制御回路、位相差制御回路、及びパルスエッジ遅れ制御回路から成る。
【0033】
信号制御回路23は、前記周波数制御回路として、パラメータテーブル24における周波数の設定値に基づき、発振回路21の出力である基準信号のパルス数を基準にして、駆動信号の周波数を決める基準駆動信号を出力する。
【0034】
信号制御回路23は、前記位相差制御回路として、パラメータテーブル24における駆動位相差の設定値に基づき、発振回路21の出力である基準信号のパルス数を基準にして、2つの駆動信号であるA相信号とB相信号との位相差を制御する。
【0035】
前記信号出力制御回路26は、制御CPU22から当該信号出力制御回路26を介して、直接信号生成回路25の出力のON/OFF、A相信号、B相信号の出力順を制御することができる。また、信号出力制御回路26は、パラメータテーブル24に設定された設定値に基づき、信号生成回路25から出力する駆動信号のパルス数や間欠駆動を行うための出力休止時間を制御する。
【0036】
前記信号生成回路25は、基準駆動信号S2と制御CPU22からのA相B相の位相差指令値とに基づいて、位相差が90°であるA相の基準駆動信号とB相の基準駆動信号とを生成する。なお、出力のON/OFF制御は、信号出力制御回路26によって行われる。
【0037】
前記ドライブ回路30は、図6に示すように、スイッチング素子で構成されたHブリッジ回路31とインピーダンスマッチング及び昇圧用のコイル32とを備えている。このドライブ回路30に、前記信号生成回路25から各種駆動交番信号が入力されると、図7に示す真理値表に従って、各駆動交番電圧OUTA+、OUTA−、OUTB+、OUTB−が出力される。
【0038】
このとき、ドライブ回路30はコイル32を有しているので、パルス信号である駆動交番信号は、コイル32の働きにより正弦波に近い波形に変換され、正弦波に近いA相、B相の駆動交番電圧が、超音波振動子4が備えるA相(A+,A−)、B相(B+,B−)の外部電極11にそれぞれ印加される。
【0039】
ここで、超音波振動子4に励起されている縦振動は、C相(C+,C−)の内部電極により検出され、この縦振動に比例する電気信号がC相(C+,C−)の外部電極11を介して位相差検出回路28に入力される。また、位相差検出回路28には、信号生成回路25から何れか一つの駆動交番信号(例えばA相プラス側の駆動交番信号)が入力される。
【0040】
そして、位相差検出回路28は、超音波振動子4の外部電極11を介して入力された振動検出信号と、信号生成回路25から入力された駆動交番信号と、の位相差を検出し、該位相差をパラメータテーブル24に出力する。
【0041】
前記モニタ信号制御回路40は、外部電極11からの出力信号を波形整形して2値化して前記位相差検出回路28に出力する。
【0042】
次に、上述したような構成を備える駆動装置3により実現される超音波モータ2の駆動方法について説明する。まず、超音波モータ2の起動時において、発振回路21から信号制御回路23に基準信号が入力される。一方、制御CPU22は、パラメータテーブルに設定されている超音波モータ2の駆動周波数を読み出し、この周波数を周波数指令値として信号制御回路23に与える。
【0043】
また、制御CPU22は、パラメータテーブル24から初期値として設定されているA相とB相との位相差(駆動位相差)を読み出し、これを信号生成回路25に与える。これにより、信号制御回路23により超音波振動子4の共振周波数またはその近傍の周波数に設定された基準駆動信号S2が生成されて信号生成回路25に出力される。
【0044】
信号生成回路25では、基準駆動信号S2及び制御CPU22からの位相差に基づいて所定の位相差をもつA相(A+,A−)に対応する基準駆動信号とB相(B+,B−)に対応する基準駆動信号とが生成される。
【0045】
A相、B相の駆動交番信号は、ドライブ回路30により正弦波の駆動交番電圧に変換されて、超音波振動子4の各外部電極11に印加される。これにより、超音波振動子には図3及び図4に示すような縦振動と屈曲振動とが同時に励起され、その駆動子10に楕円振動が形成されることにより被駆動体が相対的に移動させられる。
【0046】
超音波振動子4に励起された縦振動は、C相の内部電極及び外部電極11により検出され、振動検出信号が位相差検出回路28に入力される。位相差検出回路28では、超音波振動子4に励起されている縦振動と信号生成回路25から出力されるA相の駆動交番信号との位相差が検出され、この位相差に応じた電気信号が制御CPU22に出力される。エンコーダ信号処理回路35から通知されるカウント数が予め設定されているカウント数に達すると、制御CPU22は、被駆動体5が所望の位置まで移動したと判断し、信号生成回路25に駆動停止指令を出力する。これにより、信号生成回路25から駆動交番信号が出力されなくなることにより、超音波振動子4の振動が徐々に収束し、停止することとなる。
【0047】
以下、本第1実施形態に係る超音波モータに特有の駆動方法について詳細に説明する。ここでは、代表的な駆動方法例として<駆動方法1>乃至<駆動方法5>の5種類の駆動方法を挙げて説明する。何れの駆動方法例においても、第1駆動位相差と第2駆動位相差との2つの駆動位相差を切り替えて駆動する。
【0048】
なお、駆動位相差切り替え処理は、上述したように前記制御CPU22が、パラメータテーブル24に設定された駆動位相差の切り替えに係る各種パラメータ(後述する“駆動持続時間”を示すパラメータ、“駆動持続時間の最大値/最小値”を示すパラメータ、“駆動持続時間の増加量/減少量”を示すパラメータ、及び“駆動持続時間の増加量/減少量の最大値/最小値”についてのパラメータなど)を読み出して行う。
【0049】
図8乃至図12は、それぞれ<駆動方法1>乃至<駆動方法5>による駆動の概念を示す図である。
【0050】
<駆動方法1>
本駆動方法1においては、第1駆動位相差と第2駆動位相差とを交互に切り替えて駆動する駆動方法であって、第1駆動位相差による駆動持続時間を、駆動位相差の切り替え毎に一定量だけ増加させ続ける。
【0051】
すなわち、図8に示すように、第1駆動位相差と第2駆動位相差とを切り替えて駆動する駆動方法であって、第1駆動位相差による駆動持続時間を、駆動位相差の切り替え毎に一定量だけ増加させ続けて駆動する。
【0052】
《変形例》
なお、ここでは図示していないが、駆動持続時間を増加させる代わりに、(駆動持続時間が零に成らない範囲で)減少させていくように駆動してもよい。
【0053】
本駆動方法1によれば、駆動位相差の切り替えについての周期性は完全に無くなる。しかしながら、駆動速度は単純増加/減少することになる。そのため、本駆動方法1は、連続したバースト駆動には適さない。他方、本駆動方法は、単発のバースト駆動、及び一定数のパルスをバースト出力して停止させるような駆動には非常に有効である。
【0054】
<駆動方法2>
本駆動方法2においては、第1駆動位相差と第2駆動位相差とを交互に切り替えて駆動する駆動方法であって、第1駆動位相差による駆動持続時間に最大値及び最小値を設定した上で、駆動位相差の切り替え毎に一定量だけ駆動持続時間を増加/減少させていき、該駆動持続時間が最大値又は最小値に達した時点で、増加/減少を反転させて駆動持続時間を一定量だけ減少/増加させつつ駆動する。
【0055】
すなわち、図9に示すように、第1駆動位相差と第2駆動位相差とを切り替えて駆動する駆動方法であって、第1駆動位相差による駆動持続時間を一定量だけ増加させ続けて駆動した後、この駆動持続時間が予め設定された最大値に達した時点で、次回の駆動位相差の切り替え時から一定量だけ駆動持続時間を減少させ続けて駆動する。
【0056】
なお、図示はしていないが、第1駆動位相差による駆動持続時間を、駆動位相差の切り替え毎に一定量だけ減少させ続けて駆動した後、この駆動持続時間が予め設定された最小値に達した時点で、次回の駆動位相差の切り替え時から駆動持続時間を一定量だけ増加させ続けて駆動する。
【0057】
本駆動方法2によれば、駆動位相差の切り替えに関して、その周期性が大きく低減される。換言すれば、駆動位相差の切り替え周期の周波数が低くなる(周期が長くなる)。従って、本駆動方法は、単発のバースト駆動及び連続したバースト駆動の双方に非常に有効である。また、変調後の周波数が可聴域外になるように設定すると、より有効である。
【0058】
<駆動方法3>
本駆動方法は、第1駆動位相差と第2駆動位相差とを交互に切り替えて駆動する方法であって、第1駆動位相差による駆動持続時間を、駆動位相差の切り替え毎に増加させ続け、且つ、この増加量自体を、駆動位相差の切り替え毎に増加させ続ける。
【0059】
すなわち、図10に示すように、第1駆動位相差と第2駆動位相差とを交互に切り替えて駆動する際に、第1駆動位相差による駆動持続時間を、駆動位相差の切り替え毎に増加させ、その増加量自体も一定量だけ増加させ続ける。
【0060】
換言すれば、本駆動方法3では、<駆動方法1>を採る場合であって、第1駆動位相差による駆動持続時間の増加量自体を、駆動位相差の切り替え毎に一定量だけ増加させ続ける。
【0061】
《変形例》
なお、<駆動方法1>の《変形例》のように駆動持続時間を増加させる代わりに減少させていくように駆動する場合には、駆動持続時間の減少量自体を、駆動位相差の切り替え毎に一定量だけ増加させ続ければよい。但し、駆動持続時間及びその減少量が零にならない範囲で行う。
【0062】
本駆動方法によれば、駆動位相差の切り替えについての周期性は完全に無くなる。しかしながら、駆動速度は単純増加/減少することになる。そのため、本駆動方法は、連続した駆動には適さない。他方、本駆動方法は、単発のバースト駆動、つまり一定数のパルスをバースト出力して停止させる駆動には非常に有効である。
【0063】
<駆動方法4>
本駆動方法4は、第1駆動位相差と第2駆動位相差とを交互に切り替えて駆動する方法であって、第1駆動位相差による駆動持続時間を、駆動位相差の切り替え毎に増加させ続け、且つ、この増加量自体を、駆動位相差の切り替え毎に、予め設定された最大値から最小値の範囲内において増加/減少させる。
【0064】
すなわち、図11に示すように、増加量が最大値に達するまでは増加量を増加させ続け、増加量が最大値に達した後は、増加量を減少させていく。そして、増加量が最小値に達した後は、再び増加量を増加させ続けていく。以降同様に、予め設定された最大値から最小値の範囲内において増加量自体を増加/減少させていきながら、第1駆動位相差による駆動持続時間を増加させていく。
【0065】
本駆動方法によれば、駆動位相差の切り替えについての周期性は完全に無くなる。しかしながら、駆動速度は単純増加/減少することになる。そのため、本駆動方法は、連続したバーストによる駆動には適さない。他方、本駆動方法は、単発のバーストによる駆動、及び一定数のバーストを出力して停止させる駆動には非常に有効である。
【0066】
<駆動方法5>
本駆動方法5は、第1駆動位相差と第2駆動位相差とを交互に切り替えて駆動する駆動方法であって、第1駆動位相差による駆動持続時間を変化させて駆動し、且つ、その変化量自体も変化させる。
【0067】
すなわち、図12に示すように、第1駆動位相差による駆動持続時間の増加量/減少量の各々に最大値及び最小値を設定した上で、当該増加量/減少量が最大値又は最小値に達した時点で、減少と増加とを切り替えていく。つまり、増加量/減少量を最小値から最大値の範囲内で切り替えながら、第1駆動位相差による駆動持続時間を変化させていく。
【0068】
本駆動方法5によれば、駆動位相差の切り替えに関して、その周期性が非常に低減される。換言すれば、駆動位相差の切り替え周期の周波数が低くなる(周期が長くなる)。従って、本駆動方法は、単発のバーストによる駆動にも、連続したバーストによる駆動にも有効である。また、変調後の周波数が可聴域外になるように設定するとより有効である。
【0069】
なお、上述した“駆動位相差の切り替えに係るパラメータ”は、例えばパラメータテーブル24に格納する。具体的には、“駆動位相差の切り替えに係るパラメータ”とは、例えば、第1駆動位相差による駆動持続時間を示すパラメータ、第1駆動位相差の最大値/最小値を示すパラメータ、第1駆動位相差による駆動持続時間の増加量/減少量を示すパラメータ、及び第1駆動位相差による駆動持続時間の増加量/減少量の最大値/最小値を示すパラメータなどを挙げることができる。
【0070】
以上説明したように、本第1実施形態によれば、駆動時における異音の発生を低減させた超音波モータを提供することができる。
【0071】
具体的には、本第1実施形態に係る超音波モータによれば、安定して低速で駆動させる際に生じる異音の発生を大幅に低減させることができる。
【0072】
[第2実施形態]
以下、本発明の第2実施形態に係る超音波モータについて説明する。なお、第1実施形態に係る超音波モータの説明との重複を避ける為、相違点のみを説明する。
【0073】
本第2実施形態に係る超音波モータは、[第1実施形態]に係る超音波モータに特有の駆動方法を、磨耗粉の除去駆動(クリーニングモード時の動作)に適用する場合の超音波モータである。
【0074】
まず、クリーニングモードについて、その背景及び従来の技術を説明した後、本第2実施形態に係る超音波モータによるクリーニングモード時の動作について説明する。
【0075】
上述したように、超音波モータにおいては、被駆動体5に当接する駆動子10を備える超音波駆動子4に交番信号を印加することにより、駆動子10の位置に楕円振動を発生させ、駆動子10と被駆動体5とが加圧接触されて当該楕円振動により相対的に被駆動体5が摩擦駆動される。
【0076】
このような超音波モータを長時間駆動した場合、駆動子10は被駆動体5との摺動によって摩耗し、該磨耗によって生じる摩耗粉が、摩擦面である被駆動体5表面に固着する。このような磨耗粉の固着は、当然ながら駆動状態に悪影響を及ぼす。
【0077】
このような事情を鑑みて、磨耗粉を除去する為に、磨耗粉除去用の部材を別途設け、該部材によって磨耗粉を削り出すなどの方法が従来より提案されている。しかしながら、このような方法によれば、新たな部材を別途設けることに起因して装置が大型化してしまう。
【0078】
他方、本第2実施形態に係る超音波モータによれば、このような装置の大型化を招かずに、磨耗粉除去を実行することができる。すなわち、本第2実施形態に係る超音波モータにおいては、
《1》 磨耗粉が固着し得る通常の駆動範囲(磨耗粉の堆積領域)を超える範囲を駆動範囲として、複数回往復駆動させる。
【0079】
《2》 固着した磨耗粉を除去しやすいように往復駆動中の駆動位相差を変化させる。具体的には、所望の速度を得るための第1駆動位相差(例えば90°)と、該第1駆動位相差よりも前記超音波振動子4に生じる振動のうち屈曲振動速度がより大きくなるような第2駆動位相差(例えば180°)と、を交互に切り替えて駆動する。
【0080】
なお、所望の速度を得るための第1駆動位相差のみで《1》に記載の駆動を行うだけでも或る程度のクリーニング効果は得られる。しかしながら、《2》に記載の駆動を同時に行うことで、第2駆動位相差での駆動時に、屈曲振動成分が大きい振動状態となるため、駆動子10が鋭角に被駆動体5表面を叩くような現象となり、これにより、固着した磨耗粉を剥がし取る効果を得ることができる。
【0081】
そして、本第2実施形態に係る超音波モータでは、この《2》に記した駆動位相差の切り替え動作について、上述した[第1実施形態]に係る超音波モータに特有の駆動方法を適用する。
【0082】
図13は、本第2実施形態に係る超音波モータによるクリーニングモード時の駆動概念を示す図である。同図に示すように、クリーニングモードでは、第1駆動位相差と第2駆動位相差とを交互に切り替えて所定駆動範囲を複数回往復し、往復駆動の片方向への駆動における駆動位相差の切り替え毎に、第1駆動位相差の駆動持続時間を増加させていく。
【0083】
図13に示す例は、[第1実施形態]に係る超音波モータの<駆動方法1>を、クリーニングモード時の動作に適用した例である。
【0084】
なお、<駆動方法1>に限らず、<駆動方法2>乃至<駆動方法5>をクリーニングモード時の動作に適用しても勿論よい。
【0085】
以上説明したように、本第2実施形態によれば、クリーニングモード時の動作においても、第1実施形態に係る超音波モータと同様の効果を奏することができる超音波モータを提供することができる。
【0086】
具体的には、本第2実施形態に係る超音波モータによれば、次のような効果を得ることができる。
【0087】
・通常の駆動範囲を越える範囲を駆動範囲とすることで、堆積した磨耗粉を、通常の駆動の妨げとならない領域へ移動させることができる。
【0088】
・超音波振動子4に生じさせる振動のうち屈曲振動成分の割合がより大きくなる第2駆動位相差による駆動時には、被駆動体5に固着した磨耗粉をより多く掻き出せる。
【0089】
・第2駆動位相差のみで駆動した場合には、屈曲振動成分の割合が大きいために、超音波モータの駆動速度は低下し、クリーニング動作を短時間に終了しなければならない状況下では好ましくないが、所望の速度を得る為の第1駆動位相差に適宜切り替えて駆動を行うことで、超音波モータの駆動速度を維持しつつ、固着した磨耗粉を剥がし取る効果を得ることができる。
【0090】
・このような第1駆動位相差と第2駆動位相差との切り替えについて、[第1実施形態]に係る超音波モータに特有の駆動方法を適用することで、異音の発生が非常に低減される。
【0091】
・ クリーニングモード時の動作により、被駆動体5表面は綺麗な状態に保たれ、超音波モータの長時間駆動及び長寿命化が実現する。具体的には、駆動位相差90度で往復駆動を行ったクリーニング動作に対して、駆動位相差を90度と180度で交互に変化させて行ったクリーニング動作を行った場合、長時間駆動試験において、モータが停止するまでの総駆動回数が1.5倍から2倍に延びる結果が得られた。
【0092】
なお、第1駆動位相差と第2駆動位相差との間に更に別の駆動位相差を設け、それらの駆動位相差を切り替えて駆動しても勿論よい。
【0093】
以上、第1実施形態及び第2実施形態に基づいて本発明を説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で変形及び応用が可能なことは勿論である。
【0094】
さらに、上述した実施形態には種々の段階の発明が含まれており、開示した複数の構成要件の適当な組み合わせにより種々の発明が抽出され得る。例えば、実施形態に示す全構成要件からいくつかの構成要件が削除されても、発明が解決しようとする課題の欄で述べた課題が解決でき、発明の効果の欄で述べられている効果が得られる場合には、この構成要件が削除された構成も発明として抽出され得る。
【0095】
例えば、上述した例では第1駆動位相差の駆動信号による駆動持続時間を変化させる例を示したが、第2駆動位相差の駆動信号による駆動持続時間を変化させても勿論よい。また、第1駆動位相差の駆動信号による駆動持続時間及び第2駆動位相差の駆動信号による駆動持続時間の双方を変化させても勿論よい。
【符号の説明】
【0096】
1…超音波モータシステム、 2…超音波モータ、 3…駆動装置、 4…超音波振動子、 5…被駆動体、 7…圧電セラミックスシート、 9…圧電積層体、 10…駆動子、 11…外部電極、 21…発振回路、 22…制御CPU、 23…信号制御回路、 24…パラメータテーブル、 25…信号生成回路、 26…信号出力制御回路、 28…位相差検出回路、 30…ドライブ回路、 31…Hブリッジ回路、 32…コイル、 33…エンコーダ、 35…エンコーダ信号処理回路、 40…モニタ信号制御回路。
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電素子等から成る振動子の振動を利用する超音波モータに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電磁型モータに代わる新しいモータとして、圧電素子などの振動子の振動を利用した超音波モータが注目されている。この超音波モータは、従来の電磁型モータと比較して、ギア無しで低速高推力が得られる点、保持力が高い点、ストロークが長く高分解能である点、静粛性に富む点、磁気的ノイズを発生せず磁気的ノイズの影響を受けない点等の利点を有している。
【0003】
超音波モータでは、超音波振動子を、摩擦部材である駆動子を介して、相対運動部材である被駆動部材に押し付けることで、前記駆動子と前記被駆動部材との間に摩擦力を発生させ、この摩擦力によって前記被駆動部材を駆動する。
【0004】
具体的には、例えば超音波振動子に2相の交番信号を印加して当該超音波振動子に縦振動と屈曲振動とを同時に励起することで駆動子に楕円振動を生じさせ、該楕円振動から駆動力を得て被駆動体を相対的に移動させる超音波モータが知られている。
【0005】
このような超音波モータに関連する技術として、例えば特許文献1に次のような技術が開示されている。すなわち、特許文献1には、駆動用の電気機械変換素子および振動検出用の電気機械変換素子を備え、前記駆動用の電気機械変換素子に所定の位相差および所定の駆動周波数の2相の交番電圧を供給することにより、異なる2つの振動モードを同時に発生させて出力端に略楕円振動を生じさせる超音波振動子を備える超音波モータの運転方法であって、前記超音波振動子の出力端を被駆動体に押し付ける押圧力が、前記振動検出用の電気機械変換素子から出力された信号に基づいて、2つの振動モードの機械的共振周波数を一致させるように設定されている超音波モータの運転方法が開示されている。
【0006】
この特許文献1に開示されている技術によれば、複数の振動モードを同時に発生させる超音波モータにおいて、各振動モードを効率よく発生させて、安定して高いモータ出力を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−304425号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、超音波モータの駆動特性として、低速度領域(駆動位相差が180度近傍)ほど駆動が不安定になる。このような事情を鑑みて、超音波モータを安定して低速で駆動させる技術として、超音波振動子に印加する駆動信号を周期的にON/OFFさせるバースト駆動(間欠駆動)が知られている。このバースト駆動は、駆動時に異音が発生してしまうという課題を抱えている。
【0009】
このような異音の発生を低減させる為の技術として、次のような駆動方法が提案されている。すなわち、複数の駆動位相差を設定し、それら駆動位相差のうち何れかを駆動速度が零になる駆動位相差に設定し、それら駆動位相差を周期的に切り替えて駆動を行うことで、上述したバースト駆動を採用した場合と同様に、超音波モータを安定して低速駆動させることができる。そして、この駆動方法によれば、バースト駆動による場合よりも異音の発生が低減される。しかしながら、更なる異音発生の低減が望まれている。
【0010】
本発明は、前記の事情に鑑みて為されたものであり、駆動時における異音の発生を低減させた超音波モータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記の目的を達成するために、本発明の第1の態様による超音波モータは、
被駆動部材に当接する駆動子を備える振動子に2相の駆動信号を印加して縦振動と屈曲振動とを同時に発生させることで、前記振動子に楕円振動を発生させ、該楕円振動から駆動力を得て前記駆動子により前記被駆動部材を摩擦駆動する超音波モータであって、
前記2相の駆動信号の位相差である駆動位相差を切り替えるとともに、前記駆動位相差切り替えの周期を変化させる駆動位相差切り替え部、
を具備することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、駆動時における異音の発生を低減させた超音波モータを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第1実施形態に係る超音波モータシステムの概略一構成例を示すブロック図。
【図2】超音波振動子の一構成例を示す図。
【図3】圧電積層体の縦振動を示す図。
【図4】圧電積層体の屈曲振動を示す図。
【図5】駆動装置の内部概略構成を示す図。
【図6】ドライブ回路の一構成例を示す図。
【図7】ドライブ回路に信号生成回路から各種駆動交番信号が入力された場合における入出力値の真理値表を示す図。
【図8】<駆動方法1>による駆動の概念を示す図。
【図9】<駆動方法2>による駆動の概念を示す図。
【図10】<駆動方法3>による駆動の概念を示す図。
【図11】<駆動方法4>による駆動の概念を示す図。
【図12】<駆動方法5>による駆動の概念を示す図。
【図13】本第2実施形態に係る超音波モータによるクリーニングモード時の駆動概念を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[第1実施形態]
以下、本発明の第1実施形態に係る超音波モータについて、図面を参照して説明する。
【0015】
なお、本第1実施形態においては、説明の便宜上、超音波モータと該超音波モータを駆動する為の駆動装置とを互いに独立した別体の装置として捉え、これらの装置から成る構成を超音波モータシステムと称して説明する。しかしながら、このような呼称はあくまでも説明の便宜上の呼称であって、駆動装置まで含めて一つの超音波モータとして捉えても勿論よい。
【0016】
図1は、超音波モータシステムの概略一構成例を示すブロック図である。
【0017】
図1に示すように超音波モータシステム1は、超音波モータ2と、超音波モータ2を駆動する駆動装置3と、を具備する。超音波モータ2は、超音波振動子4と、超音波振動子4により駆動される被駆動体5と、を有する。
【0018】
前記超音波振動子4は、図2に示すように、矩形板状の圧電セラミックスシート7の片側面にシート状の内部電極(不図示)を設けたものを複数枚積層してなる直方体状の圧電積層体9と、該圧電積層体9のうち前記被駆動体5に対向する面に例えば接着等されて設けられた2個の駆動子10と、を備えている。
【0019】
なお、符号11が付されているのは外部電極である。各外部電極11には、同種の圧電セラミックスシート7の同一位置に配される全ての内部電極(不図示)が接続されている。これにより、同種の圧電セラミックスシート7の同一位置に配される内部電極(不図示)は、同一の電位とされるようになっている。
【0020】
なお、外部電極11は、配線(不図示)を介して制御器(不図示)に接続される。配線は、リード線、フレキシブル基板等、可撓性を有する配線であれば任意のものでよい。
【0021】
以下、圧電積層体9の動作について説明する。
【0022】
まず、圧電積層体9の長手方向における一端面に形成された4つの外部電極11は、図2において上側から順に、振動検出用のC相であるC−,C+に対応する内部電極(不図示)、駆動用のB相であるB−,B+に対応する内部電極(不図示)に接続された外部電極11である。他方、圧電積層体9の長手方向における他端面に形成された2つの外部電極11は、駆動用のA相であるA+,A−に対応する内部電極(不図示)に接続された外部電極11である。
【0023】
ここで、A相及びB相に同位相で共振周波数又はその近傍の周波数に対応する周波数の交番電圧を加えると、図3に示すような1次の縦振動が励起される。また、A相とB相とに逆位相で共振周波数に対応する交番電圧を加えると、図4に示されるような2次の屈曲振動が励起される。図3及び図4は、有限要素法によるコンピュータ解析結果を示す図である。
【0024】
ここで、圧電積層体9に1次の縦振動が発生したときには、駆動子10が圧電積層体9の長さ方向(図3に示されるX方向)に変位させられる。他方、圧電積層体9に2次の屈曲振動が生じたときには、駆動子10が、圧電積層体9の幅方向(図4に示されるZ方向)に変位させられる。
【0025】
従って、A相とB相とに対応する外部電極11にそれぞれ、位相が90°ずれた共振周波数又はその近傍の周波数に対応する周波数の駆動交番電圧を加える。これにより圧電積層体9においては、1次の縦振動と2次の屈曲振動とが同時に発生して駆動子10の位置で時計回りまたは反時計回りの略楕円振動が生じる(図2における矢印C参照)。
【0026】
また、超音波振動子に発生している縦振動に応じた電荷が検出用の内部電極(不図示)に励起されることにより、C相(C+,C一)の外部電極11を介して縦振動に比例した信号(以下、この信号を「振動検出信号」という。)が検出される。この振動検出信号は、駆動装置3(図1参照)に供給され、超音波振動子4の制御等に用いられる。
【0027】
以下、前記駆動装置3について詳細に説明する。図5は、駆動装置3の内部概略構成を示す図である。図5に示すように、駆動装置3は、発振回路(基準信号生成手段)21と、制御CPU22と、信号制御回路23と、パラメータテーブル24と、信号生成回路25と、信号出力制御回路26と、位相差検出回路28と、ドライブ回路30と、エンコーダ33と、エンコーダ信号処理回路35と、モニタ信号制御回路40と、を有する。
【0028】
前記パラメータテーブル24は、駆動周波数、駆動位相差(A相の駆動信号とB相の駆動信号との位相差)、パルスエッジ遅れ、追尾位相差等の各種パラメータの設定値、エンコーダ33のカウント値、及び駆動位相差の切り替えに係る各種パラメータ(詳細は後述する)等を格納する。
【0029】
前記発振回路21は、基準信号(クロック信号)を生成し、信号制御回路23、信号生成回路25、信号出力制御回路26、及び位相差検出回路28に出力する。
【0030】
前記制御CPU22は、パラメータテーブル24に各種パラメータを設定して、超音波振動子4の駆動信号を制御する。また、パラメータテーブル24から各種パラメータ(位相差,エンコーダカウント値等)を読み出し、位置制御、速度制御、及び駆動位相差切り替え処理等を行う。すなわち、制御CPU22は、パラメータテーブル24及び後述する位相差検出回路28からのフィードバック値等に基づいて、基準駆動信号の周波数指令値、及びA相B相の位相差指令値等を作成し、出力する。
【0031】
前記信号制御回路23は、前記発振回路21から入力される基準信号S1と制御CPU22から入力される周波数指令値とに基づいて、所定の周波数のパルス信号である基準駆動信号S2を生成し、これを信号生成回路25に出力する。ここで、制御CPU22は、基準駆動信号の周波数を超音波振動子4の共振周波数またはその近傍の周波数に設定するための周波数指令値を、信号制御回路23に与える。従って、信号制御回路23からは超音波振動子4の共振周波数と略同じ周波数の基準駆動信号が出力される。
【0032】
より詳細には、信号制御回路23は、周波数制御回路、位相差制御回路、及びパルスエッジ遅れ制御回路から成る。
【0033】
信号制御回路23は、前記周波数制御回路として、パラメータテーブル24における周波数の設定値に基づき、発振回路21の出力である基準信号のパルス数を基準にして、駆動信号の周波数を決める基準駆動信号を出力する。
【0034】
信号制御回路23は、前記位相差制御回路として、パラメータテーブル24における駆動位相差の設定値に基づき、発振回路21の出力である基準信号のパルス数を基準にして、2つの駆動信号であるA相信号とB相信号との位相差を制御する。
【0035】
前記信号出力制御回路26は、制御CPU22から当該信号出力制御回路26を介して、直接信号生成回路25の出力のON/OFF、A相信号、B相信号の出力順を制御することができる。また、信号出力制御回路26は、パラメータテーブル24に設定された設定値に基づき、信号生成回路25から出力する駆動信号のパルス数や間欠駆動を行うための出力休止時間を制御する。
【0036】
前記信号生成回路25は、基準駆動信号S2と制御CPU22からのA相B相の位相差指令値とに基づいて、位相差が90°であるA相の基準駆動信号とB相の基準駆動信号とを生成する。なお、出力のON/OFF制御は、信号出力制御回路26によって行われる。
【0037】
前記ドライブ回路30は、図6に示すように、スイッチング素子で構成されたHブリッジ回路31とインピーダンスマッチング及び昇圧用のコイル32とを備えている。このドライブ回路30に、前記信号生成回路25から各種駆動交番信号が入力されると、図7に示す真理値表に従って、各駆動交番電圧OUTA+、OUTA−、OUTB+、OUTB−が出力される。
【0038】
このとき、ドライブ回路30はコイル32を有しているので、パルス信号である駆動交番信号は、コイル32の働きにより正弦波に近い波形に変換され、正弦波に近いA相、B相の駆動交番電圧が、超音波振動子4が備えるA相(A+,A−)、B相(B+,B−)の外部電極11にそれぞれ印加される。
【0039】
ここで、超音波振動子4に励起されている縦振動は、C相(C+,C−)の内部電極により検出され、この縦振動に比例する電気信号がC相(C+,C−)の外部電極11を介して位相差検出回路28に入力される。また、位相差検出回路28には、信号生成回路25から何れか一つの駆動交番信号(例えばA相プラス側の駆動交番信号)が入力される。
【0040】
そして、位相差検出回路28は、超音波振動子4の外部電極11を介して入力された振動検出信号と、信号生成回路25から入力された駆動交番信号と、の位相差を検出し、該位相差をパラメータテーブル24に出力する。
【0041】
前記モニタ信号制御回路40は、外部電極11からの出力信号を波形整形して2値化して前記位相差検出回路28に出力する。
【0042】
次に、上述したような構成を備える駆動装置3により実現される超音波モータ2の駆動方法について説明する。まず、超音波モータ2の起動時において、発振回路21から信号制御回路23に基準信号が入力される。一方、制御CPU22は、パラメータテーブルに設定されている超音波モータ2の駆動周波数を読み出し、この周波数を周波数指令値として信号制御回路23に与える。
【0043】
また、制御CPU22は、パラメータテーブル24から初期値として設定されているA相とB相との位相差(駆動位相差)を読み出し、これを信号生成回路25に与える。これにより、信号制御回路23により超音波振動子4の共振周波数またはその近傍の周波数に設定された基準駆動信号S2が生成されて信号生成回路25に出力される。
【0044】
信号生成回路25では、基準駆動信号S2及び制御CPU22からの位相差に基づいて所定の位相差をもつA相(A+,A−)に対応する基準駆動信号とB相(B+,B−)に対応する基準駆動信号とが生成される。
【0045】
A相、B相の駆動交番信号は、ドライブ回路30により正弦波の駆動交番電圧に変換されて、超音波振動子4の各外部電極11に印加される。これにより、超音波振動子には図3及び図4に示すような縦振動と屈曲振動とが同時に励起され、その駆動子10に楕円振動が形成されることにより被駆動体が相対的に移動させられる。
【0046】
超音波振動子4に励起された縦振動は、C相の内部電極及び外部電極11により検出され、振動検出信号が位相差検出回路28に入力される。位相差検出回路28では、超音波振動子4に励起されている縦振動と信号生成回路25から出力されるA相の駆動交番信号との位相差が検出され、この位相差に応じた電気信号が制御CPU22に出力される。エンコーダ信号処理回路35から通知されるカウント数が予め設定されているカウント数に達すると、制御CPU22は、被駆動体5が所望の位置まで移動したと判断し、信号生成回路25に駆動停止指令を出力する。これにより、信号生成回路25から駆動交番信号が出力されなくなることにより、超音波振動子4の振動が徐々に収束し、停止することとなる。
【0047】
以下、本第1実施形態に係る超音波モータに特有の駆動方法について詳細に説明する。ここでは、代表的な駆動方法例として<駆動方法1>乃至<駆動方法5>の5種類の駆動方法を挙げて説明する。何れの駆動方法例においても、第1駆動位相差と第2駆動位相差との2つの駆動位相差を切り替えて駆動する。
【0048】
なお、駆動位相差切り替え処理は、上述したように前記制御CPU22が、パラメータテーブル24に設定された駆動位相差の切り替えに係る各種パラメータ(後述する“駆動持続時間”を示すパラメータ、“駆動持続時間の最大値/最小値”を示すパラメータ、“駆動持続時間の増加量/減少量”を示すパラメータ、及び“駆動持続時間の増加量/減少量の最大値/最小値”についてのパラメータなど)を読み出して行う。
【0049】
図8乃至図12は、それぞれ<駆動方法1>乃至<駆動方法5>による駆動の概念を示す図である。
【0050】
<駆動方法1>
本駆動方法1においては、第1駆動位相差と第2駆動位相差とを交互に切り替えて駆動する駆動方法であって、第1駆動位相差による駆動持続時間を、駆動位相差の切り替え毎に一定量だけ増加させ続ける。
【0051】
すなわち、図8に示すように、第1駆動位相差と第2駆動位相差とを切り替えて駆動する駆動方法であって、第1駆動位相差による駆動持続時間を、駆動位相差の切り替え毎に一定量だけ増加させ続けて駆動する。
【0052】
《変形例》
なお、ここでは図示していないが、駆動持続時間を増加させる代わりに、(駆動持続時間が零に成らない範囲で)減少させていくように駆動してもよい。
【0053】
本駆動方法1によれば、駆動位相差の切り替えについての周期性は完全に無くなる。しかしながら、駆動速度は単純増加/減少することになる。そのため、本駆動方法1は、連続したバースト駆動には適さない。他方、本駆動方法は、単発のバースト駆動、及び一定数のパルスをバースト出力して停止させるような駆動には非常に有効である。
【0054】
<駆動方法2>
本駆動方法2においては、第1駆動位相差と第2駆動位相差とを交互に切り替えて駆動する駆動方法であって、第1駆動位相差による駆動持続時間に最大値及び最小値を設定した上で、駆動位相差の切り替え毎に一定量だけ駆動持続時間を増加/減少させていき、該駆動持続時間が最大値又は最小値に達した時点で、増加/減少を反転させて駆動持続時間を一定量だけ減少/増加させつつ駆動する。
【0055】
すなわち、図9に示すように、第1駆動位相差と第2駆動位相差とを切り替えて駆動する駆動方法であって、第1駆動位相差による駆動持続時間を一定量だけ増加させ続けて駆動した後、この駆動持続時間が予め設定された最大値に達した時点で、次回の駆動位相差の切り替え時から一定量だけ駆動持続時間を減少させ続けて駆動する。
【0056】
なお、図示はしていないが、第1駆動位相差による駆動持続時間を、駆動位相差の切り替え毎に一定量だけ減少させ続けて駆動した後、この駆動持続時間が予め設定された最小値に達した時点で、次回の駆動位相差の切り替え時から駆動持続時間を一定量だけ増加させ続けて駆動する。
【0057】
本駆動方法2によれば、駆動位相差の切り替えに関して、その周期性が大きく低減される。換言すれば、駆動位相差の切り替え周期の周波数が低くなる(周期が長くなる)。従って、本駆動方法は、単発のバースト駆動及び連続したバースト駆動の双方に非常に有効である。また、変調後の周波数が可聴域外になるように設定すると、より有効である。
【0058】
<駆動方法3>
本駆動方法は、第1駆動位相差と第2駆動位相差とを交互に切り替えて駆動する方法であって、第1駆動位相差による駆動持続時間を、駆動位相差の切り替え毎に増加させ続け、且つ、この増加量自体を、駆動位相差の切り替え毎に増加させ続ける。
【0059】
すなわち、図10に示すように、第1駆動位相差と第2駆動位相差とを交互に切り替えて駆動する際に、第1駆動位相差による駆動持続時間を、駆動位相差の切り替え毎に増加させ、その増加量自体も一定量だけ増加させ続ける。
【0060】
換言すれば、本駆動方法3では、<駆動方法1>を採る場合であって、第1駆動位相差による駆動持続時間の増加量自体を、駆動位相差の切り替え毎に一定量だけ増加させ続ける。
【0061】
《変形例》
なお、<駆動方法1>の《変形例》のように駆動持続時間を増加させる代わりに減少させていくように駆動する場合には、駆動持続時間の減少量自体を、駆動位相差の切り替え毎に一定量だけ増加させ続ければよい。但し、駆動持続時間及びその減少量が零にならない範囲で行う。
【0062】
本駆動方法によれば、駆動位相差の切り替えについての周期性は完全に無くなる。しかしながら、駆動速度は単純増加/減少することになる。そのため、本駆動方法は、連続した駆動には適さない。他方、本駆動方法は、単発のバースト駆動、つまり一定数のパルスをバースト出力して停止させる駆動には非常に有効である。
【0063】
<駆動方法4>
本駆動方法4は、第1駆動位相差と第2駆動位相差とを交互に切り替えて駆動する方法であって、第1駆動位相差による駆動持続時間を、駆動位相差の切り替え毎に増加させ続け、且つ、この増加量自体を、駆動位相差の切り替え毎に、予め設定された最大値から最小値の範囲内において増加/減少させる。
【0064】
すなわち、図11に示すように、増加量が最大値に達するまでは増加量を増加させ続け、増加量が最大値に達した後は、増加量を減少させていく。そして、増加量が最小値に達した後は、再び増加量を増加させ続けていく。以降同様に、予め設定された最大値から最小値の範囲内において増加量自体を増加/減少させていきながら、第1駆動位相差による駆動持続時間を増加させていく。
【0065】
本駆動方法によれば、駆動位相差の切り替えについての周期性は完全に無くなる。しかしながら、駆動速度は単純増加/減少することになる。そのため、本駆動方法は、連続したバーストによる駆動には適さない。他方、本駆動方法は、単発のバーストによる駆動、及び一定数のバーストを出力して停止させる駆動には非常に有効である。
【0066】
<駆動方法5>
本駆動方法5は、第1駆動位相差と第2駆動位相差とを交互に切り替えて駆動する駆動方法であって、第1駆動位相差による駆動持続時間を変化させて駆動し、且つ、その変化量自体も変化させる。
【0067】
すなわち、図12に示すように、第1駆動位相差による駆動持続時間の増加量/減少量の各々に最大値及び最小値を設定した上で、当該増加量/減少量が最大値又は最小値に達した時点で、減少と増加とを切り替えていく。つまり、増加量/減少量を最小値から最大値の範囲内で切り替えながら、第1駆動位相差による駆動持続時間を変化させていく。
【0068】
本駆動方法5によれば、駆動位相差の切り替えに関して、その周期性が非常に低減される。換言すれば、駆動位相差の切り替え周期の周波数が低くなる(周期が長くなる)。従って、本駆動方法は、単発のバーストによる駆動にも、連続したバーストによる駆動にも有効である。また、変調後の周波数が可聴域外になるように設定するとより有効である。
【0069】
なお、上述した“駆動位相差の切り替えに係るパラメータ”は、例えばパラメータテーブル24に格納する。具体的には、“駆動位相差の切り替えに係るパラメータ”とは、例えば、第1駆動位相差による駆動持続時間を示すパラメータ、第1駆動位相差の最大値/最小値を示すパラメータ、第1駆動位相差による駆動持続時間の増加量/減少量を示すパラメータ、及び第1駆動位相差による駆動持続時間の増加量/減少量の最大値/最小値を示すパラメータなどを挙げることができる。
【0070】
以上説明したように、本第1実施形態によれば、駆動時における異音の発生を低減させた超音波モータを提供することができる。
【0071】
具体的には、本第1実施形態に係る超音波モータによれば、安定して低速で駆動させる際に生じる異音の発生を大幅に低減させることができる。
【0072】
[第2実施形態]
以下、本発明の第2実施形態に係る超音波モータについて説明する。なお、第1実施形態に係る超音波モータの説明との重複を避ける為、相違点のみを説明する。
【0073】
本第2実施形態に係る超音波モータは、[第1実施形態]に係る超音波モータに特有の駆動方法を、磨耗粉の除去駆動(クリーニングモード時の動作)に適用する場合の超音波モータである。
【0074】
まず、クリーニングモードについて、その背景及び従来の技術を説明した後、本第2実施形態に係る超音波モータによるクリーニングモード時の動作について説明する。
【0075】
上述したように、超音波モータにおいては、被駆動体5に当接する駆動子10を備える超音波駆動子4に交番信号を印加することにより、駆動子10の位置に楕円振動を発生させ、駆動子10と被駆動体5とが加圧接触されて当該楕円振動により相対的に被駆動体5が摩擦駆動される。
【0076】
このような超音波モータを長時間駆動した場合、駆動子10は被駆動体5との摺動によって摩耗し、該磨耗によって生じる摩耗粉が、摩擦面である被駆動体5表面に固着する。このような磨耗粉の固着は、当然ながら駆動状態に悪影響を及ぼす。
【0077】
このような事情を鑑みて、磨耗粉を除去する為に、磨耗粉除去用の部材を別途設け、該部材によって磨耗粉を削り出すなどの方法が従来より提案されている。しかしながら、このような方法によれば、新たな部材を別途設けることに起因して装置が大型化してしまう。
【0078】
他方、本第2実施形態に係る超音波モータによれば、このような装置の大型化を招かずに、磨耗粉除去を実行することができる。すなわち、本第2実施形態に係る超音波モータにおいては、
《1》 磨耗粉が固着し得る通常の駆動範囲(磨耗粉の堆積領域)を超える範囲を駆動範囲として、複数回往復駆動させる。
【0079】
《2》 固着した磨耗粉を除去しやすいように往復駆動中の駆動位相差を変化させる。具体的には、所望の速度を得るための第1駆動位相差(例えば90°)と、該第1駆動位相差よりも前記超音波振動子4に生じる振動のうち屈曲振動速度がより大きくなるような第2駆動位相差(例えば180°)と、を交互に切り替えて駆動する。
【0080】
なお、所望の速度を得るための第1駆動位相差のみで《1》に記載の駆動を行うだけでも或る程度のクリーニング効果は得られる。しかしながら、《2》に記載の駆動を同時に行うことで、第2駆動位相差での駆動時に、屈曲振動成分が大きい振動状態となるため、駆動子10が鋭角に被駆動体5表面を叩くような現象となり、これにより、固着した磨耗粉を剥がし取る効果を得ることができる。
【0081】
そして、本第2実施形態に係る超音波モータでは、この《2》に記した駆動位相差の切り替え動作について、上述した[第1実施形態]に係る超音波モータに特有の駆動方法を適用する。
【0082】
図13は、本第2実施形態に係る超音波モータによるクリーニングモード時の駆動概念を示す図である。同図に示すように、クリーニングモードでは、第1駆動位相差と第2駆動位相差とを交互に切り替えて所定駆動範囲を複数回往復し、往復駆動の片方向への駆動における駆動位相差の切り替え毎に、第1駆動位相差の駆動持続時間を増加させていく。
【0083】
図13に示す例は、[第1実施形態]に係る超音波モータの<駆動方法1>を、クリーニングモード時の動作に適用した例である。
【0084】
なお、<駆動方法1>に限らず、<駆動方法2>乃至<駆動方法5>をクリーニングモード時の動作に適用しても勿論よい。
【0085】
以上説明したように、本第2実施形態によれば、クリーニングモード時の動作においても、第1実施形態に係る超音波モータと同様の効果を奏することができる超音波モータを提供することができる。
【0086】
具体的には、本第2実施形態に係る超音波モータによれば、次のような効果を得ることができる。
【0087】
・通常の駆動範囲を越える範囲を駆動範囲とすることで、堆積した磨耗粉を、通常の駆動の妨げとならない領域へ移動させることができる。
【0088】
・超音波振動子4に生じさせる振動のうち屈曲振動成分の割合がより大きくなる第2駆動位相差による駆動時には、被駆動体5に固着した磨耗粉をより多く掻き出せる。
【0089】
・第2駆動位相差のみで駆動した場合には、屈曲振動成分の割合が大きいために、超音波モータの駆動速度は低下し、クリーニング動作を短時間に終了しなければならない状況下では好ましくないが、所望の速度を得る為の第1駆動位相差に適宜切り替えて駆動を行うことで、超音波モータの駆動速度を維持しつつ、固着した磨耗粉を剥がし取る効果を得ることができる。
【0090】
・このような第1駆動位相差と第2駆動位相差との切り替えについて、[第1実施形態]に係る超音波モータに特有の駆動方法を適用することで、異音の発生が非常に低減される。
【0091】
・ クリーニングモード時の動作により、被駆動体5表面は綺麗な状態に保たれ、超音波モータの長時間駆動及び長寿命化が実現する。具体的には、駆動位相差90度で往復駆動を行ったクリーニング動作に対して、駆動位相差を90度と180度で交互に変化させて行ったクリーニング動作を行った場合、長時間駆動試験において、モータが停止するまでの総駆動回数が1.5倍から2倍に延びる結果が得られた。
【0092】
なお、第1駆動位相差と第2駆動位相差との間に更に別の駆動位相差を設け、それらの駆動位相差を切り替えて駆動しても勿論よい。
【0093】
以上、第1実施形態及び第2実施形態に基づいて本発明を説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で変形及び応用が可能なことは勿論である。
【0094】
さらに、上述した実施形態には種々の段階の発明が含まれており、開示した複数の構成要件の適当な組み合わせにより種々の発明が抽出され得る。例えば、実施形態に示す全構成要件からいくつかの構成要件が削除されても、発明が解決しようとする課題の欄で述べた課題が解決でき、発明の効果の欄で述べられている効果が得られる場合には、この構成要件が削除された構成も発明として抽出され得る。
【0095】
例えば、上述した例では第1駆動位相差の駆動信号による駆動持続時間を変化させる例を示したが、第2駆動位相差の駆動信号による駆動持続時間を変化させても勿論よい。また、第1駆動位相差の駆動信号による駆動持続時間及び第2駆動位相差の駆動信号による駆動持続時間の双方を変化させても勿論よい。
【符号の説明】
【0096】
1…超音波モータシステム、 2…超音波モータ、 3…駆動装置、 4…超音波振動子、 5…被駆動体、 7…圧電セラミックスシート、 9…圧電積層体、 10…駆動子、 11…外部電極、 21…発振回路、 22…制御CPU、 23…信号制御回路、 24…パラメータテーブル、 25…信号生成回路、 26…信号出力制御回路、 28…位相差検出回路、 30…ドライブ回路、 31…Hブリッジ回路、 32…コイル、 33…エンコーダ、 35…エンコーダ信号処理回路、 40…モニタ信号制御回路。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被駆動部材に当接する駆動子を備える振動子に2相の駆動信号を印加して縦振動と屈曲振動とを同時に発生させることで、前記振動子に楕円振動を発生させ、該楕円振動から駆動力を得て前記駆動子により前記被駆動部材を摩擦駆動する超音波モータであって、
前記2相の駆動信号の位相差である駆動位相差を切り替えるとともに、前記駆動位相差切り替えの周期を変化させる駆動位相差切り替え部、を具備することを特徴とする超音波モータ。
【請求項2】
前記駆動位相差切り替え部は、少なくとも、所望の駆動速度を得るための第1駆動位相差と、該第1駆動位相差に対応する2相の駆動信号により駆動した場合の屈曲振動の速度よりも大きな屈曲振動の速度を生じる第2駆動位相差とを切り替える
ことを特徴とする請求項1に記載の超音波モータ。
【請求項3】
前記駆動位相差切り替え部は、所定の駆動範囲を複数回往復駆動するクリーニングモードにおいて前記駆動位相差切り替えを行い、
前記クリーニングモードによる駆動時には駆動範囲を拡大させる駆動範囲拡大部を含むことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の超音波モータ。
【請求項4】
予め設定された複数の駆動位相差を記憶する記憶部を更に有し、
前記駆動位相差切り替え部は、前記複数の駆動位相差のうちの少なくとも2つ以上の駆動位相差の切り替えを行う
ことを特徴とする請求項1乃至請求項3のうち何れか一つに記載の超音波モータ。
【請求項5】
前記駆動位相差切り替えの駆動位相差は、90度乃至180度の範囲内において設定されていることを特徴とする請求項1乃至請求項4のうち何れか一つに記載の超音波モータ。
【請求項6】
前記駆動位相差切り替え部は、前記駆動位相差の駆動持続時間に基づいて切り替えを行う
ことを特徴とする請求項1乃至請求項5のうち何れか一つに記載の超音波モータ。
【請求項7】
前記駆動位相差切り替え部は、前記駆動位相差の駆動持続時間の変化量に基づいて切り替えを行う
ことを特徴とする請求項1乃至請求項5のうち何れか一つに記載の超音波モータ。
【請求項8】
前記駆動位相差切り替え部は、
前記駆動位相差の切り替え毎に、前記駆動持続時間を増加又は減少させる
ことを特徴とする請求項6に記載の超音波モータ。
【請求項9】
前記駆動持続時間についての最大値及び最小値が設けられ、
前記駆動位相差切り替え部は、前記駆動位相差の切り替え毎に、最大値から最小値の範囲内において、前記駆動持続時間を増加又は減少させる制御を行う
ことを特徴とする請求項8に記載の超音波モータ。
【請求項10】
前記駆動持続時間の変化量は一定であることを特徴とする請求項7に記載の超音波モータ。
【請求項11】
前記駆動持続時間の変化量は可変であることを特徴とする請求項7に記載の超音波モータ。
【請求項12】
前記駆動位相差切り替え部は、
前記駆動位相差の切り替え毎に、前記変化量を増加又は減少させる
ことを特徴とする請求項11に記載の超音波モータ。
【請求項13】
前記変化量についての最大値及び最小値が設けられ、
前記駆動位相差切り替え部は、前記駆動位相差の切り替え毎に、最大値から最小値の範囲内において、前記変化量を増加又は減少させる制御を行う
ことを特徴とする請求項12に記載の超音波モータ。
【請求項1】
被駆動部材に当接する駆動子を備える振動子に2相の駆動信号を印加して縦振動と屈曲振動とを同時に発生させることで、前記振動子に楕円振動を発生させ、該楕円振動から駆動力を得て前記駆動子により前記被駆動部材を摩擦駆動する超音波モータであって、
前記2相の駆動信号の位相差である駆動位相差を切り替えるとともに、前記駆動位相差切り替えの周期を変化させる駆動位相差切り替え部、を具備することを特徴とする超音波モータ。
【請求項2】
前記駆動位相差切り替え部は、少なくとも、所望の駆動速度を得るための第1駆動位相差と、該第1駆動位相差に対応する2相の駆動信号により駆動した場合の屈曲振動の速度よりも大きな屈曲振動の速度を生じる第2駆動位相差とを切り替える
ことを特徴とする請求項1に記載の超音波モータ。
【請求項3】
前記駆動位相差切り替え部は、所定の駆動範囲を複数回往復駆動するクリーニングモードにおいて前記駆動位相差切り替えを行い、
前記クリーニングモードによる駆動時には駆動範囲を拡大させる駆動範囲拡大部を含むことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の超音波モータ。
【請求項4】
予め設定された複数の駆動位相差を記憶する記憶部を更に有し、
前記駆動位相差切り替え部は、前記複数の駆動位相差のうちの少なくとも2つ以上の駆動位相差の切り替えを行う
ことを特徴とする請求項1乃至請求項3のうち何れか一つに記載の超音波モータ。
【請求項5】
前記駆動位相差切り替えの駆動位相差は、90度乃至180度の範囲内において設定されていることを特徴とする請求項1乃至請求項4のうち何れか一つに記載の超音波モータ。
【請求項6】
前記駆動位相差切り替え部は、前記駆動位相差の駆動持続時間に基づいて切り替えを行う
ことを特徴とする請求項1乃至請求項5のうち何れか一つに記載の超音波モータ。
【請求項7】
前記駆動位相差切り替え部は、前記駆動位相差の駆動持続時間の変化量に基づいて切り替えを行う
ことを特徴とする請求項1乃至請求項5のうち何れか一つに記載の超音波モータ。
【請求項8】
前記駆動位相差切り替え部は、
前記駆動位相差の切り替え毎に、前記駆動持続時間を増加又は減少させる
ことを特徴とする請求項6に記載の超音波モータ。
【請求項9】
前記駆動持続時間についての最大値及び最小値が設けられ、
前記駆動位相差切り替え部は、前記駆動位相差の切り替え毎に、最大値から最小値の範囲内において、前記駆動持続時間を増加又は減少させる制御を行う
ことを特徴とする請求項8に記載の超音波モータ。
【請求項10】
前記駆動持続時間の変化量は一定であることを特徴とする請求項7に記載の超音波モータ。
【請求項11】
前記駆動持続時間の変化量は可変であることを特徴とする請求項7に記載の超音波モータ。
【請求項12】
前記駆動位相差切り替え部は、
前記駆動位相差の切り替え毎に、前記変化量を増加又は減少させる
ことを特徴とする請求項11に記載の超音波モータ。
【請求項13】
前記変化量についての最大値及び最小値が設けられ、
前記駆動位相差切り替え部は、前記駆動位相差の切り替え毎に、最大値から最小値の範囲内において、前記変化量を増加又は減少させる制御を行う
ことを特徴とする請求項12に記載の超音波モータ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2011−30285(P2011−30285A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−170388(P2009−170388)
【出願日】平成21年7月21日(2009.7.21)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年7月21日(2009.7.21)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】
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