説明

超音波近接スイッチ

【課題】洗浄機能付き便座やエレベータ、その他の電気機器の非接触式のスイッチとして使用可能な、近接領域において誤動作のない低価格な超音波近接スイッチを提供する。
【解決手段】超音波近接スイッチは、送波回路11からの送波信号を送波器12を介して空中に超音波を送波し、反射対象物13に反射した超音波を受波器14を介して受波して受波回路15で受波信号を生成し、超音波を送波してから受波するまでの時間に応じてスイッチ出力を制御回路16により制御し、スイッチ出力によりスイッチ回路17のスイッチ端子を接合する。また、少なくともケース内に送波器12と受波器14とを収納し、ケース面上の超音波の送波面と受波面とを防滴構造とすると共に、ケース面上の超音波の送波面と受波面とを近接領域の対象物側に向ける構造とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空中に超音波を送波し、対象とする物体から反射した超音波を測定することにより、対象物の有無や対象物までの距離を検出する超音波式物体検出装置などに用いられる超音波センサに関し、特に、対象物を主に人の指先とし、検出距離を5mmから15mmの範囲に限定し、超音波センサと人の指先の距離が5mmから15mmのときに信号を出力するように構成した超音波近接スイッチに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、比較的短距離の近接スイッチとして、水洗トイレや手洗い器における赤外線センサを用いた近接スイッチが、非接触式で、衛生的であることから広く使用されている。一方、洗浄機能付き便座が、その快適性と清潔性から一般家庭で広く普及し、デパート、駅、劇場、病院などの公共施設でも導入が進んでいる。
【0003】
しかし、この洗浄機能付き便座では、機能の選択や強度の調節などに使用されるスイッチに、押しボタン式のスイッチや回転式のつまみが用いられており、これらのつまみは日常的に不特定多数の多くの者に触れられている。したがって、これら不特定多数が利用する公共設備の洗浄機能付き便座には、非接触の近接スイッチの採用が望まれている。
また、赤外線センサをこの用途に使用することも考えられるが、洗浄機能付き便座のように多くの機能があり、その機能に対応して多数のスイッチやつまみが必要となる。このため、これに対応した数の赤外線センサが必要となり、その数の分だけ赤外線センサを用意するとなると、設備費が相当高額になるという問題もあった。
【0004】
また、赤外線センサの感度は、検出距離に関して比較的鈍感であるため、離れた距離の感度を落とすと近距離の感度も落ちてしまい、近距離用の近接センサを構成することが困難である。そのため、小さな領域に複数個のセンサを併設した場合に、指先の近接を検出する代わりに手のひらの近接を検出してしまい、本来動作しなければならないセンサとは別のセンサが誤動作する危険がある。
【0005】
また、赤外線センサの代わりに、カメラのストロボで行われているような、パルス状の光を放射してその光が反射して返って来るまでの時間を計測して対象物までの距離を計測する方式の光学式近接センサを使用することも考えられるが、5mmから15mm程度の短距離の計測では、必要な計測時間の分解能がピコ秒のオーダとなり、装置が高価になってしまうという問題がある。
【0006】
これに対し、空中での超音波の送受波に用いられる超音波送受波器は、多くの場合2端子構造の圧電振動子が用いられている。一般に、2端子構造の圧電振動子のインピーダンス[Ω]はその共振周波数fr[Hz]で最小値を示し、反共振周波数fa[Hz]で最大値を示す。
【0007】
超音波送受波器を構成する方法としては、送波器と受波器に別の圧電振動子を用いる送受別方式と、1個の圧電振動子を送波器と受波器の両方に使用する送受兼用方式がある。送受別方式の場合、送波器の共振周波数fr[Hz]と受波器の反共振周波数fa[Hz]を合わせるように構成するのが一般的である。このようにすることにより、送波時には低い駆動電圧で超音波を効率よく放射することができ、受波時には感度良く超音波を受波することができる。
【0008】
また、送受兼用方式では、圧電振動子の構造を対称3端子構造とし、三番目の端子とアース端子間の開放又は短絡を外部から制御することにより、送波時の共振周波数fr[Hz]と受波時の反共振周波数fa[Hz]を一致させる方法や、一個の超音波送受波器を用いて、反共振周波数fa[Hz]の高い電圧を印加して、同じ振動子で受波する方法もある(特許文献1参照)。
【0009】
また、通常の2端子型圧電振動子を用いて、これに直列あるいは並列に適切な値の静電容量を付加することにより、送波時の共振周波数fr[Hz]と受波時の反共振周波数fa[Hz]を一致させる方法が、既に本出願人により提案されている。
【0010】
また、一般に、空気中を伝搬する超音波を利用するデバイスにおいては、人に与える影響を無くすために可聴音を避けると共に、空気中を伝搬する超音波の周波数が高くなると急激に減衰が大きくなると言う特性上の制約から、これまで、25[kHz]〜40[kHz]の超音波の周波数が広く利用されている。この超音波デバイスは、10m程度離れた対象物の検出を行うには有効であるが、近接領域の対象物の検出を行うことができないという不都合があった。
【0011】
また、超音波送受波器を用いた距離センサにおいては、距離の分解能は超音波の波長に依存し、一般に2波長が分解能の限界と考えられている。したがって、超音波周波数が40[kHz]の場合、波長λが8.5mmとなるため、17mmが分解能の限界となる。
【0012】
図9は、5人の被験者による指先近接実験結果を示す図である。
図9は、5人の被験者71,72,73,74,75が、ストレスなしに10回、指先をスイッチに近接させた場合の指先の腹とスイッチまでの距離を、近くに立てた透明なスケールを用いて横から目視による測定した結果を示すものである。
【0013】
図9に示すように、5人の被験者71,72,73,74,75のうち、多少個人によりばらつきはあるものの、いずれも7mmから10mmの範囲に平均値があることがわかる。このことは、5mmから15mmに検出感度を有する近接センサがあれば、スイッチをオン/オフするという意思がなくても、すなわち、ほとんど特別に位置あわせをしようというストレスを感じること無しに検出することができるということを示している。
【0014】
因みに、近接距離を5mm以下にしようとした場合、位置あわせを行うために、かなりのストレスがかかる上、5回に1回程度はスイッチに接触してしまうという問題がある。
また、近接距離を15mm以上とした場合、スイッチをオン/オフする意思が無い状態で、たまたま指先などが近接した場合に誤動作を生ずる原因にもなる。
【0015】
【特許文献1】特開平9−166659号公報(図2,図4参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
そこで、本発明では、検出距離を近接領域に限定し、その範囲を例えば、5mmから15mmとするようにした。この根拠は、事前に行った、図9に示す、スイッチに指先を近接させる動作についての実験結果に基づいたものである。
すなわち、本発明では、近接領域の例えば、5mmから15mmを検出距離としているため、その分解能は少なくとも2mm必要になる。分解能を2mmとして逆に超音波周波数を求めると、約340[kHz]となる。超音波周波数を340[kHz]とした場合、減衰により伝搬距離は短くなるが、検出距離が5mmから15mmの範囲では、十分な検出感度を得ることができるようになることが予測される。
【0017】
したがって、本発明の目的は、不特定多数が使用する公共施設における、例えば、洗浄機能付き便座やエレベータ、その他の電気機器の非接触式のスイッチとして使用可能な、近接領域において誤動作のない低価格な超音波近接スイッチを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記課題を解決し、本発明の目的を達成するため、本発明の超音波近接スイッチは、圧電振動素子を用いた超音波近接スイッチにおいて、圧電振動素子を介して対象物に超音波を送波する送波手段と、対象物から反射した超音波を、圧電振動素子を介して受波する受波手段と、超音波を送波してから受波するまでの時間に応じてスイッチ出力を制御する制御手段と、このスイッチ出力によりスイッチ端子を接合するスイッチ手段と、を備え、少なくともケース内に送波手段と受波手段とを収納し、ケース面上の超音波の送波面と受波面は、防滴構造とされ、かつ送波面及び受波面の近接領域にある対象物側に向けられていることを特徴としている。
【0019】
また、本発明の超音波近接スイッチの好ましい形態としては、制御手段は、超音波を送波してから受波するまでの時間を計測する計測手段と、超音波を送波してから受波するまでの時間が近接領域の範囲内にあるかどうかを判定すると共に、近接領域の範囲内にあるときスイッチ出力を出力する判定手段とを備えている。
また、更に好ましい形態としては、判定手段は、近接領域の範囲内における超音波の伝播時間がおよそ30マイクロ秒から88マイクロ秒内にあることを検出することにより、近接領域の範囲内であることを判定することを特徴とするものである。
【0020】
これにより、空中に超音波を送波し、対象物に反射した超音波を受波し、超音波を送波してから受波するまでの時間が近接領域の範囲内にあるかどうかを判定すると共に、近接領域の範囲内のときスイッチ出力を出力するので、対象物までの検出距離が例えば5mmから15mmの範囲の時に信号を出力する超音波近接スイッチが得られる。また、ケース面上の超音波の送波面と受波面を防滴構造とすると共に、近接領域の対象物側に向ける構造としたので、誤動作を生ずることなく、近接領域の対象物を検出することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、高周波の超音波を利用して超音波センサの距離分解能を上げると共に、超音波の減衰作用を利用することにより検出距離を短くし、基準となる送受波間の到達時間の範囲内を近接領域の到達時間に設定することにより、検出距離の精度を高くすることができるため、指先をセンサに近づけたときの距離である5mmから15mmの距離に対応して安定に出力信号を発生する超音波近接スイッチを構成することができる。
【0022】
また、本発明によれば、検出距離が短い上に、超音波の送波面と受波面を近接領域の対象物側に向ける構造としたために、複数個の超音波センサを近接して配置した場合でも、お互いの超音波センサによる誤動作を生ずる危険がない。
【0023】
また、本発明によれば、超音波の送波面と受波面を防滴構造としているため、トイレなど水滴が多い環境で使用してもセンサの性能に影響を与えることが少なく、もし水滴やほこりで汚れたとしても容易にセンサの清掃を行うことができる。
【0024】
更に、本発明によれば、近接スイッチとして超音波を利用しているため、空気中を伝搬する速度が光に比べて約5桁遅い340m/秒であり、1mmの距離に対応する時間は約3マイクロ秒となり、2mmの分解能を得るために一般的な回路素子で充分対応できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態について、適宜、図面を参照しながらその詳細の構成及び動作を説明する。
図1は、本発明の実施の形態による超音波近接スイッチの構成を示すブロック図である。
図1において、超音波近接スイッチは、圧電振動素子の振動により空中に超音波を送波する送波器12と、圧電振動素子を介して空中に超音波を送波させる送波信号を送波器12に供給する送波回路11とを備えている。
【0026】
また、超音波近接スイッチは、反射対象物13から反射した超音波を圧電振動素子の振動により受波する受波器14と、反射対象物13で反射した超音波から受波器14の圧電振動素子を介して受波信号を生成する受波回路15とを備えている。
【0027】
また、超音波近接スイッチは、送波回路11及び送波器12により超音波を送波してから、受波器14及び受波回路15により反射対象物13に反射した超音波を受波するまでの時間に応じてスイッチ出力を制御する制御回路16を備えている。
また、超音波近接スイッチは、スイッチ出力によりスイッチ端子を接合して、図示しない後段の例えばメッセージ表示・出力部に対して動作のための電流を供給するスイッチ回路17を備えている。
【0028】
また、超音波近接スイッチでは、後述する図5乃至図8に示すように、少なくともケース内に送波器12と受波器14とを収納し、ケース面上の超音波の送波面と受波面とを防滴構造とすると共に、ケース面上の超音波の送波面と受波面とを近接領域の反射対象物13側に向ける構造としている。
【0029】
このように構成された超音波近接スイッチの動作を以下に説明する。
送波回路11により生成される送波信号により送波器11から放射された超音波パルスは、反射対象物13により反射される。反射対象物13で反射された超音波パルスは、受波器14により受波信号として受波され、受波回路15により波形整形される。受波回路15で波形整形された出力は、制御回路16に入力される。
【0030】
制御回路16には、タイミング発生機能、送波パルス生成機能、伝搬時間計測機能及び伝搬時間判定機能が含まれており、伝搬回路判定機能の出力がスイッチ回路17に入力される。伝播時間判定機能により、超音波パルスの伝播時間が検出距離5mmから15mmの範囲に対応した時間であるかどうかが判断され、伝搬時間が5mmから15mmの範囲にある場合にスイッチ回路17をオンとし、スイッチ回路17からオン信号が出力される。
【0031】
図2は、制御回路の構成を示すブロック図である。
図2において、制御回路16は、時刻t0で予め設定された周期T1のタイミングパルスを発生させるタイミング発生回路27と、タイミング発生回路27で発生されたタイミングパルスに同期した送波パルスを生成して送波回路11へ出力する送波パルス生成回路28とを備えている。
【0032】
また、制御回路16は、予め設定された時刻t1で超音波を送波してから時刻t3で受波するまでの時間を計測する伝搬時間計測回路29と、予め設定された時刻t1で超音波を送波してから時刻t3で受波するまでの時間が予め設定された時間T2(=t2−t1)で示す近接領域の範囲内にあるかどうかを判定すると共に近接領域の範囲内のときスイッチ回路17へ時間T3(=t4−t3)の間スイッチ出力を出力する伝搬時間判定回路30とを備えるものである。
ここで、伝搬時間判定回路30により近接領域の伝搬時間の範囲内として、およそ30μ秒(マイクロ秒)から88μ秒内にあるかどうかが判定される。
【0033】
図3は、超音波近接スイッチの動作を示すフローチャートである。また、図4は、超音波近接スイッチの動作を説明するタイムチャートであり、図4Aは送波タイミングを決めるためのタイミングパルス21、図4Bは送波信号22、図4Cは受波信号23、図4Dは受波信号23による方形波24、図4Eは近接領域の範囲内を判定するためのゲートパルス25、図4Fはスイッチ回路17のオン信号26である。また、図1及び図2に示したブロック図を構成するそれぞれの手段に対応している。
【0034】
図3において、制御回路16のタイミング発生回路27からの周期T1のタイミングパルス21に同期して送波パルス生成回路28から送波パルスが出力され、送波回路11を経由して送波パルスから送波信号22が生成され、送波器12から送波信号22による超音波パルスが空中に放射される(ステップS1)。
【0035】
このとき、図4Aに示すように、時刻t0で予め設定された周期T1のタイミングパルス21がタイミング発生回路27で生成され、タイミングパルス21に同期して送波パルス生成回路28から送波パルスが出力される。そして、図4Bに示すように、送波回路11で送波パルスを波形整形及び送信レベルに増幅することにより送波信号22が生成される。送波信号22により送波器12が圧電現象に基づいて振動することによりパルス状の超音波が空中に放射される。
【0036】
対象物体13に反射した超音波パルスは、受波器14に到達して受波器14が振動することにより逆圧電現象に基づいて受波信号23を生じ、受波回路15により受信レベルに増幅される(ステップS2)。
このとき、図4Cに示すように、時刻t3、t5で受波信号23が受波回路15で生成される。なお、時刻t3、t5以前で図4Bに示す送波信号22に対応する時刻の図4Cに示す信号は送波信号22によるノイズである。
【0037】
受波信号は受波回路15で方形波24に成形され、制御回路16の中の伝播時間計測回路29及び伝搬時間判定回路30に入力される(ステップS3)。
このとき、図4Dに示すように、時刻t3、t5の受波信号23が受波回路15で積分処理などにより方形波24に成形される。そして、図4Dに示す方形波24は、伝播時間を示す信号として伝播時間計測回路29及び伝搬時間判定回路30で処理される。
【0038】
制御回路16の伝搬時間判定回路30では、タイミングパルス21の立ち上りの時間から一定の時間t1経過後に立ち上り、t2で立ち下るパルス幅T2(=t2-t1)のゲートパルス25を生成する(ステップS4)。
【0039】
このとき、図4Eに示すように、予め設定された時刻t1で立ち上り、予め設定されたt2で立ち下るパルス幅T2(=t2-t1)のゲートパルス25が伝搬時間判定回路30で生成される。ここで、ゲートパルス25のパルス幅T2(=t2-t1)は、近接領域の範囲内の伝搬時間であるか否かを判定するために設定される。
【0040】
例えば、ゲートパルス25のパルス幅T2(=t2-t1)は、近接領域の時間の範囲内がおよそ30μ秒から88μ秒内にあるかどうかを判定するためのものである。近接領域は例えば、5mmから15mmを検出距離として、分解能を2mmとしたときに超音波周波数が、約340kHzの条件である。
【0041】
伝搬時間判定回路30は、ゲートパルス25と方形波24に成形された受波信号とのアンド出力(論理積)を求め、このアンド出力(論理積)により、スイッチ回路17をオンとする(ステップS5)。
【0042】
このとき、図4Fに示すように、ゲートパルス25のパルス幅T2(=t2-t1)で示す近接領域の範囲内に、受波信号23の時刻t3の伝搬時間が含まれるため、両者のアンド出力(論理積)は、時刻t3の受波信号23と同じになる。
【0043】
スイッチ回路17のオン信号26は、アンド出力(論理積)が無くなった後、所定の時間T3(=t4-t3)が経過するとオフ信号となる(ステップS6)。
このとき、図4Fに示すように、オン信号26は、アンド出力(論理積)が出力される時刻t3から予め設定された時刻t4まで続いて時間T3(=t4-t3)が経過したときオフ信号となる。
【0044】
上述したように、制御回路16から周期T1のタイミングパルス21に同期して送波パルスによる送波信号22が出力され、送波回路11を経由して送波器12に印加され、送波器12から超音波パルスが空中に放射される。そして、対象物体13に反射した超音波パルスは、受波器14に到達して受波信号23を生じ、受波回路15により増幅される。受波信号23は受波回路15で方形波24に成形され、制御回路16の中の伝播時間計測回路29及び伝搬時間判定回路30に入力される。
【0045】
さらに、制御回路16では、タイミングパルス21の立ち上りの時間から一定の時間t1で立ち上り、タイミングパルス21の立ち上りの時間から一定のt2で立ち下るパルス幅T2(=t2−t1)のゲートパルス25と受波信号が成形された方形波24とのアンド出力(論理積)AND出力を求め、このアンド出力(論理積)により、スイッチ回路17をオンとする。スイッチ回路17のオン信号26は、アンド出力(論理積)が無くなった後、所定の時間T3が経過するとオフ信号となる。
【0046】
ここで、図2において、t1の値とt2の値を、空気中の音速(約340m/秒)を用いて、それぞれ、対象物までの距離5mmおよび距離15mmに対応した時間29μ秒および88μ秒(伝搬距離は往復となるので対象物までの距離の2倍になる)とすれば、対象物までの距離が5mmから15mmのときだけ、アンド出力(論理積)AND回路出力がONとなり、スイッチ回路17のオン出力26がオンとなる。
【0047】
超音波送受波器と対象物までの距離が15mmより大きくなると、方形波に成形された受波信号24は出力されるが、検出される時間がt2よりも大きくなるため、アンド出力(論理積)はオフのままであり、スイッチ回路17のオン出力26は、最後にアンド出力(論理積)がオンになった時間から時間T3が経過した時点でOFFになり、次にアンド出力(論理積)がオンになるまで、オフの状態を保つ。
【0048】
また、受波信号に含まれる、送波パルスによる電磁的誘導などによるノイズや、送波器から受波器に直接ケースを通して伝搬する超音波振動によるノイズは、送波パルスを印加した直後に発生するので、タイミングパルス21の時刻t0からゲートパルス25が発生するまでの時間t1を適切に決めることにより、これらのノイズの影響を防ぐことができる。
【0049】
また、一般に人がスイッチを押すという動作は、意思を持って行われる動作であるため、少なくとも1秒以上指先をスイッチに近接させる。そのため、この超音波近接スイッチでは、タイミングパルス21の周期T1とスイッチ回路17のオン信号26の保持時間T3を適切に選ぶことにより、オン信号26が継続して複数回発生した場合に初めて、対象物が検出された信号とすることも容易で、このようにすることにより、指先以外の、例えば、洋服の裾などがたまたま、この超音波近接スイッチの応答範囲に入った場合でも、これによる誤動作を防ぐことができる。
【0050】
図5は、超音波近接スイッチに用いられる超音波送受波器の一例の構造を示す断面図である。図5において、31は送波用圧電振動素子、32は受波用圧電振動素子であり、33は有底のケースであり、送波用圧電振動素子31と受波用圧電振動素子32は、近接領域の反射対象物側に向けるように、同一のケースに互いに向かい合う方向に所定の角度を付けて接合されている。
【0051】
図5において、送波用圧電振動素子31が接合されたケース33の送波面部分は超音波送波器として動作し、その送波面部分のケース表面からは超音波が放射され、近接された指先の腹の部分34で反射する。受波用圧電振動素子32が接合された受波面部分は、超音波受波器として動作し、指先の腹の部分34で反射した超音波を受波することができる。
【0052】
送波用圧電振動素子31と受波用圧電振動素子32の接合されたケース33の送波面と受波面の成す角度は、図5に示すように、対象物である指先の腹の部分34が近い距離にある場合の受波感度を高くする効果があり、具体的な角度は、送波用圧電振動素子31と受波用圧電振動素子32の大きさや間隔により異なるので、これらの条件に合わせて適切に選択すればよい。
【0053】
図5において、ケース33は、プラスチックの成形で製作されており、ケース33の送波面の表面から超音波が放射されるとともに、ケース33の受波面の表面を通して超音波を受波するため、超音波スイッチは完全な防滴構造となり、送波面及び受波面の表面を簡単に清掃することができる。
【0054】
図6は、超音波近接スイッチに用いられる超音波送受波器の他の構造を示す断面図である。図6において、41は送受波用圧電振動素子、43は有底のケースであり、送受波用圧電振動素子41は、ケース43の底部に接合されている。
【0055】
図6において、送受波用圧電振動素子41が接合されたケース43の表面の送受波面部分は超音波送波器及び超音波受波器の両方の動作をし、そのケース表面の送受波面部分からは超音波を放射させることができると共に、超音波受波器としても動作し、対象物である指先の腹の部分44に反射した超音波を受波することができる。
【0056】
図6では、ケース43の超音波を放射する送受波面を近接領域の反射対象物側に向けるように、凹面状に加工しているが、このようにすることにより、超音波の放射ビーム角を小さくすることが可能で、狭い角度の送受波感度を高める効果がある。図4においてもケース43は、プラスチックの成形で製作されており、完全な防滴構造となっている。
【0057】
図7は、図5に示した、送受別方式の超音波送受波器3個を一体のケースに収容した場合の構造例を示す断面図である。
図7において、送波用圧電振動素子51と受波用圧電振動素子52、送波用圧電振動素子51−2と受波用圧電振動素子52−2、送波用圧電振動素子51−3と受波用圧電振動素子52−3の3個の超音波近接スイッチの送受波器ユニット分が一体に成形されたプラスチックケース53の底部に接合されている。
【0058】
上述したように、検出距離を5mmから15mmと短い距離に限定しているので、互いに隣り合う送波用圧電振動素子51と受波用圧電振動素子52、送波用圧電振動素子51−2と受波用圧電振動素子52−2、送波用圧電振動素子51−3と受波用圧電振動素子52−3の中心距離(中心から中心までの距離)を例えば15mmとすれば、送波用圧電振動素子51、51−2、51−3から空中を伝搬して隣の受波用圧電振動素子52、52−2、52−3に到達するまでの距離は15mm以上となる。
【0059】
このためこの中心距離により隣り合う送波用圧電振動素子51と受波用圧電振動素子52、送波用圧電振動素子51−2と受波用圧電振動素子52−2、送波用圧電振動素子51−3と受波用圧電振動素子52−3が誤動作する危険はない。
【0060】
また、ケース53を伝播する信号については、それぞれ隣り合う送波用圧電振動素子51と受波用圧電振動素子52、送波用圧電振動素子51−2と受波用圧電振動素子52−2、送波用圧電振動素子51−3と受波用圧電振動素子52−3の送受波器ユニットの間に形成した、溝54,54−2や吸振材料からなる遮蔽板55,55−2を付加することによって防ぐことができる。
【0061】
さらに、一つのケース53に複数個の隣り合う送波用圧電振動素子51と受波用圧電振動素子52、送波用圧電振動素子51−2と受波用圧電振動素子52−2、送波用圧電振動素子51−3と受波用圧電振動素子52−3の送受波器ユニットを収容する場合、それぞれの送受波器ユニットの超音波の周波数を適当な量だけ異なった値にオフセットして設定することにより、お互いの干渉を防ぐことができる。
【0062】
図8は、図6に示した、送受兼用方式の超音波送受波器3個を一体のケースに収容した場合の構造例を示す断面図である。
図8において、送受波用圧電振動素子61,61−2,61−3の3個の超音波近接スイッチの送受波器ユニット分が一体に成形されたプラスチックケース63の底部に接合されている。この場合も、図6の場合と同様に、互いに隣り合う超音波送受波器として動作する送受波用圧電振動素子61,61−2,61−3の中心距離(中心から中心までの距離)を例えば15mm程度離して配置する。
【0063】
これにより、空気中の伝搬距離を15mm以上とすると共に、隣り合う超音波送受波器として動作する送受波用圧電振動素子61,61−2,61−3の間に、溝64,64−2や吸振材料の遮蔽版65、65−2を形成することにより、ケース63やケース63内部の空気中を伝搬する超音波振動の影響を防ぐことができる。
【0064】
図7及び図8に示すような複数個の超音波センサを一体にした場合、ケースをプラスチック成形で一体に形成できるので、部品数が少なくなると共に、設置の手間も大幅に省くことができる。
【0065】
上述した図5乃至図8の例では、上述した超音波近接スイッチの送受波に用いられる送波器12及び受波器14に用いられる圧電振動素子の他に、ケース内部又はケース外部に送波回路11及び受波回路15、制御回路16、スイッチ回路17が設けられる。
【0066】
なお、上述した超音波近接スイッチの送受波に用いられる送波器12及び受波器14に用いられる圧電振動素子単体、又は送波器12及び受波器14に用いられる圧電振動素子と、送波回路11及び受波回路15とを一般的に超音波センサと呼んでいる。
【0067】
上述した本発明の実施の形態に限らず、本発明の範囲内であれば、適宜、その構成を変更しうることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明の実施の形態の超音波近接スイッチの構成を示すブロック図である。
【図2】制御回路の構成を示すブロック図である。
【図3】超音波近接スイッチの動作を示すフローチャートである。
【図4】超音波近接スイッチの動作タイムチャートであり、図4Aは送波タイミングを決めるためのタイミングパルス21、図4Bは送波信号22、図4Cは受波信号23、図4Dは受波信号23による方形波24、図4Eは近接領域の範囲内を判定するためのゲートパルス25、図4Fはスイッチ回路17のオン信号26である。
【図5】超音波近接スイッチに用いられる超音波送受波器の一例の構造を示す断面図である。
【図6】超音波近接スイッチに用いられる超音波送受波器の他の構造を示す断面図である。
【図7】図5に示した、送受別方式の超音波送受波器3個を一体のケースに収容した場合の構造例である。
【図8】図6に示した、送受兼用方式の超音波送受波器3個を一体のケースに収容した場合の構造例である。
【図9】5人の被験者による指先近接実験結果を示す図である。
【符号の説明】
【0069】
11…送波回路、12…送波器、13…反射対象物、14…受波器、15…受波回路、16…制御回路、17…スイッチ回路、タイミングパルス21、送波信号22、受波信号23、方形波24、ゲートパルス25、オン信号26、27…タイミング発生回路、28…送波パルス生成回路、29…伝搬時間計測回路、30…伝搬時間判定回路、31…送波用圧電振動素子、32…受波用圧電振動素子、33…ケース、34…反射対象物(指先の腹部)、41…送受波用圧電振動素子、43…ケース、44…反射対象物(指先の腹部)、45…凹面、51,51−2,51−3…送波用圧電振動素子、52,52−2,52−3…受波用圧電振動素子、53…ケース、54、54−2…溝、55,55−2…遮蔽板、61,61−2,61−3…送受波用圧電振動素子、63…ケース、64、64−2…溝、65,65−2…遮蔽版

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電振動素子を用いた超音波近接スイッチにおいて、
前記圧電振動素子を介して対象物に超音波を送波する送波手段と、
前記対象物から反射した超音波を、前記圧電振動素子を介して受波する受波手段と、
超音波を送波してから受波するまでの時間に応じてスイッチ出力を制御する制御手段と、
前記スイッチ出力によりスイッチ端子を接合するスイッチ手段と、
を備え、
少なくともケース内に前記送波手段と前記受波手段とを収納し、
前記ケース面上の前記超音波の送波面と受波面は、防滴構造とされ、かつ前記送波面及び受波面の近接領域にある前記対象物側に向けられていることを特徴とする超音波近接スイッチ。
【請求項2】
前記制御手段は、
前記超音波を送波してから受波するまでの時間を計測する計測手段と、
前記超音波を送波してから受波するまでの時間が前記近接領域の範囲内にあるかどうかを判定すると共に、前記近接領域の範囲内にあるとき前記スイッチ出力を出力する判定手段と、
を備えることを特徴とする請求項1に記載の超音波近接スイッチ。
【請求項3】
前記判定手段は、前記近接領域の範囲内における前記超音波の伝播時間がおよそ30マイクロ秒から88マイクロ秒内にあることを検出することにより、前記近接領域の範囲内であることを判定することを特徴とする請求項2に記載の超音波近接スイッチ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−205869(P2007−205869A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−24917(P2006−24917)
【出願日】平成18年2月1日(2006.2.1)
【出願人】(000107804)スミダコーポレーション株式会社 (285)
【Fターム(参考)】