説明

車両の電動ブレーキ装置

【課題】 電動モータへの配線を容易且つ確実に行うことができると共に、簡単な構造で信頼性が高い電動ブレーキ装置を提供する。
【解決手段】 電動モータ6の回転力を摩擦部材(91等)の制動部材(ディスクロータ10)への押圧力に変換する運動変換機構7を、ナックル2の開口部2c内に収容し、ナックルに対し車両側で電動モータ6に連結し、電動モータをナックルに支持する。回路基板50を運動変換機構と電動モータとの間に介装し、回路基板に電動モータを直接電気的に接続する。更に、車輪速度センサ22を回路基板に支持するとよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の電動ブレーキ装置に関し、特に、電動モータによって摩擦部材を制動部材に押圧して車輪の回転を抑制するように構成された電動ブレーキ装置に係る。
【背景技術】
【0002】
車両の電動ブレーキ装置に関し、電動モータによって摩擦部材を制動部材に押圧して車輪の回転を抑制することが提案されている。例えば、特許文献1には、電動モータの回転を直進運動に変換してピストンを推進し、摩擦パッドをディスクロータに押圧して制動力を発生する電動ブレーキ装置が開示されている。同特許文献では、電動モータを制御するためのコントローラをディスクブレーキに一体に取付け、車輪速センサのワイヤハーネスをそのコントローラに接続することが提案されている。
【0003】
【特許文献1】特開2003−287069号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前掲の特許文献1に記載の装置によれば、車輪速センサのワイヤハーネスをバネ下からバネ上のコントローラまで配策する必要がなくなるが、車輪速センサとコントローラを結ぶワイヤハーネス及びその組付は依然として必要である。また、電動モータや減速機が装着されて大型となり重くなったブレーキ本体に対し、コントローラの一体化によって、更にディスクブレーキ本体の容積が大型化するので、一般的な車両に搭載することは極めて困難である。更に、コントローラは電動モータ等に発生する熱の影響を受け易くなるので、何らかの対策を講ずる必要がある。
【0005】
そこで、本発明は、電動モータによって摩擦部材を制動部材に押圧して車輪の回転を抑制するように構成された車両の電動ブレーキ装置において、電動モータへの配線を容易且つ確実に行うことができると共に、簡単な構造で信頼性が高い車両の電動ブレーキ装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を達成するため、本発明は、請求項1に記載のように、車両に対し車輪と一体的に回転する制動部材と、該制動部材に対し当接可能に前記車両に支持した摩擦部材と、該摩擦部材を前記制動部材に当接する方向に駆動する電動モータを具備し、該電動モータによって前記摩擦部材を前記制動部材に押圧して前記車輪の回転を抑制する車両の電動ブレーキ装置において、前記車輪を回転可能に支持する軸部と、該軸部と一体的に形成された本体部を有し、該本体部に、前記車輪の回転軸と略平行で少なくとも前記車両側に開口する開口部を形成して成り、当該本体部を前記車両に支持するナックルと、該ナックルの前記開口部内に収容し、前記電動モータの回転力を前記摩擦部材の前記制動部材への押圧力に変換する運動変換機構とを備え、該運動変換機構を、前記ナックルに対し前記車両側で前記電動モータに連結し、前記電動モータを前記ナックルに支持するように構成したものである。
【0007】
上記電動ブレーキ装置において、請求項2に記載のように、前記運動変換機構と前記電動モータとの間に介装した回路基板を備えたものとし、該回路基板に対し前記電動モータを直接電気的に接続するように構成するとよい。
【0008】
また、請求項3に記載のように、前記回路基板を前記車輪の回転軸近傍まで延出して成り、前記車輪の回転軸に支持し前記車輪と一体的に回転するセンサロータと、該センサロータに対向する位置で前記回路基板に支持し、前記車輪の回転速度を検出する車輪速度センサとを備えたものとしてもよい。
【0009】
更に、請求項4に記載のように、前記ナックルに支持し、前記回路基板を介して前記電動モータと電気的に接続し、前記電動モータを駆動制御するコントローラを備えたものとすることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明は上述のように構成されているので以下の効果を奏する。即ち、請求項1に記載の電動ブレーキ装置においては、運動変換機構がナックルの開口部内に収容されると共に、ナックルに対し車両側で電動モータに連結され、電動モータがナックルに支持されるように構成されているので、電動ブレーキ装置の重量及び容量を大幅に低減することができる。
【0011】
そして、請求項2に記載のように、運動変換機構と電動モータとの間に介装した回路基板を備えたものとし、回路基板に対し電動モータを直接電気的に接続する構成とすれば、ワイヤハーネスを必要としないので、車両への組付性や信頼性を向上することができる。
【0012】
また、請求項3に記載のように構成すれば、車輪速度センサに接続されるワイヤハーネスをも排除することができ、車両への組付性等に関する信頼性が向上する。
【0013】
更に、請求項4に記載のように構成すれば、電動モータ等の熱によって影響されるおそれが小さい適切な位置に、コントローラを配設することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。本実施形態の電動ブレーキ装置は、図1にその一部を示すように、車両のホイール1内に設けられるディスクブレーキ装置に係るもので、車両のサスペンションを構成するナックル2に、ホイール1を回転可能に支持する円筒状の軸部2aと、この軸部2aと一体的に本体部2bが形成されている。本体部2bには、ホイール1の回転軸と略平行で少なくとも車両側(図1の右側)に開口する開口部2cが形成されている。尚、本実施形態では図1の左側にも開口しており、貫通孔となっている。
【0015】
ナックル2の軸部2a内には、ベアリング3を介して回転可能にハブ4が支持されている。このハブ4はディスクロータ10を介してボルト・ナット11によってホイール1に固定されており、ホイール1とナックル2との間の空間にディスクロータ10が介装された形態となっている。ディスクロータ10は本発明の制動部材を構成するもので、筒体部を有し、その外周面に、ホイール1の回転軸と平行に摺動ピン12が固定されており、この摺動ピン12に対し、二枚の環状部材13及び14がホイール1の回転軸と平行に摺動自在に支持されている。而して、ハブ4、ディスクロータ10及びホイール1は一体となって、ナックル2ひいては車両本体に対し、車両の速度に応じた回転速度で、回転運動を行うように構成されている。
【0016】
ハブ4に関し、ホイール1と反対側の端部4aの外周面には螺子溝が形成されており、ナックル2の軸部2aの内孔にベアリング3が装着された後、ベアリング3の内側に筒体部4bが嵌合するようにハブ4が挿入されると、ハブ4の端部4aはベアリング3から延出する。このハブ4の端部4aに環状のセンサロータ20が装着された後に、ナット5が螺子溝に螺合されて固定される。センサロータ20は後述する車輪速度センサ22と共に車輪速度検出手段を構成するもので、その端面には歯部21が形成されている。
【0017】
一方、ナックル2の開口部2c内には、電動モータ6の回転力を摩擦部材(後述する91等)の制動部材(ディスクロータ10)への押圧力に変換する運動変換機構7が収容されている。この運動変換機構7は、ナックル2に対し車両側で電動モータ6に連結され、電動モータ6はナックル2に支持されている。電動モータ6と運動変換機構7との間には回路基板50が介装され、この回路基板50に電動モータ6のステータ62が固定され、直接電気的に接続されている。また、回路基板50はハブ4の端部4a、即ち車輪の回転軸近傍まで延出しており、回路基板50の延出端部に、センサロータ20の歯部21に対向するように車輪速度センサ22が支持され、電気的に接続されている。
【0018】
更に、電動モータ6を駆動制御するコントローラ100が、ナックル2に対し車両側で回路基板50とナックル2の本体部2bとの間に介装され、車輪速度センサ22及び電動モータ6に電気的に接続されている。尚、コントローラ100にはリード線101が接続されている。
【0019】
電動モータ6はその出力軸61が運動変換機構7に連結されており、その回転運動がピストン部材80の直線運動に変換され、ひいては摩擦部材(後述する91等)の制動部材(ディスクロータ10)への押圧力に変換される。運動変換機構7は、減速機構70とピストン部材80から成り、減速機構70としては種々の態様があるが、本実施形態では一般的なものでよいので、構造の説明は省略する。ピストン部材80は、有底筒体81及び82の開口部が対向するように重合して成り、両者間に圧縮スプリング83が介装され、有底筒体81及び82が相互に離隔する方向に付勢されている。有底筒体81の内面は開口端方向に拡径されたテーパ面が形成されており、このテーパ面と有底筒体82の外周面との間にボール84及び圧縮スプリング85が収容され、有底筒体81の開口端にストッパ86が固定されている。これにより、有底筒体81及び82は一体となって前進(図1の左方向に移動)すると共に、有底筒体82が有底筒体81に対して相対的に前進し得るように構成されている。
【0020】
而して、電動モータ6の回転が減速機構70で減速されると共に、ピストン部材80の直線運動に変換され、第1の摩擦部材91が車輪の回転軸と平行に外側(ホイール1側)に押圧されるように構成されている。本実施形態の摩擦部材は、夫々裏板91p、92p及び93pに固着された第1の摩擦部材91、第2の摩擦部材92及び第3の摩擦部材93で構成されており、これらの裏板91p、92p及び93pを貫通する支持ピン95によって摺動自在に支持されると共に、この支持ピン95によってアーム部材94がナックル2に固定されている。而して、第1の摩擦部材91に対する推進力は、環状部材13、第2の摩擦部材92、環状部材14、第3の摩擦部材93、そしてアーム部材94の順に伝達される。このとき、環状部材13及び14は、ディスクロータ10に対し車輪の回転軸と平行に摺動可能に支持されており、所謂フローティング方式が構成されているので、第1乃至第3の摩擦部材91、92及び93によって均等な力で押圧される。また、第1乃至第3の摩擦部材91、92及び93が磨耗すると、そのままでは各々と環状部材13及び14との間隙が大きくなることになるが、本実施形態では、ピストン部材80が前述のように構成されており、摩擦部材が磨耗して薄くなるに従い、有底筒体82が有底筒体81に対して相対的に前進するので、各部材が密着した状態に維持される。
【0021】
次に、上記の構成になる電動ブレーキ装置の作動を説明すると、ホイール1の回転に応じてセンサロータ20が回転すると、車輪速度センサ22にてホイール1の回転数に比例した電気信号が発生し、コントローラ100に供給される。コントローラ100においては、リード線101を介して供給される電気信号と共に、電動モータ6に対する制御指示値が演算され、これに応じてコントローラ100から出力される制御信号によって電動モータ6が回転駆動される。この回転運動は減速機構70で減速されると共に、ピストン部材80の前進作動に変換されて第1乃至第3の摩擦部材91、92及び93が押圧され、ディスクロータ10に制動力が付与される。
【0022】
以上のように、上記の構成になる電動ブレーキ装置によれば、従来装置のシリンダに相当するハウジング部を、本来ブレーキとは無関係のナックル2と共用することができるため、重量及び容量を大幅に低減しつつ十分な強度を確保することが可能になる。更に、取付精度に関しても、従来のナックルとマウンティング及びシリンダとの間に発生する傾き誤差を解消することができるため、それに起因する運動変換機構の機能低下を抑制することができる。もっとも、作動時に特別な負荷がかからず、特に高精度であることが要求されない電動モータ6については、ナックル2内に収容することは無意味であるどころか、不必要にナックル2の厚さや幅が大となり、反って重量や容量の増加を招くことになるので、図1に示すようにナックル2の外側に配置することが望ましい。
【0023】
また、コントローラ100は、電動モータ6との間で電力の供給や制御信号の通信用として、多くのワイヤハーネスを必要とするため、前掲の特許文献1で示されているように、コントローラとモータ部を一体化すればワイヤハーネスを除去することができるが、単純にコントローラ100を電動モータ6あるいはディスクブレーキ本体と一本化したのでは、取付けスペースの大幅な増大を招いてしまう。特に電動モータの構成上、特許文献1に図示されているように、制御装置(コントローラ)はモータの車両内側端部に取付けられることになり、ディスクブレーキの軸長が著しく長いものになり、車両に搭載することが極めて困難となる。
【0024】
これに対し、上記の構成になる電動ブレーキ装置によれば、ディスクブレーキ本体の軸長は殆ど延長する必要はなく、ワイヤハーネスを除去しつつ、コントローラ100をスペースに余裕のある位置に配設することが可能になる。特に、電動モータ6をはじめディスクブレーキ本体に発生する熱によって影響されるおそれが小さい適切な位置に、コントローラ100を配設することができる。また、車輪速度センサ22に接続されるワイヤハーネスをも排除することができ、車両への組付性等に関する信頼性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の一実施形態に係る電動ブレーキ装置を示す断面図である。
【符号の説明】
【0026】
1 ホイール
2 ナックル
4 ハブ
6 電動モータ
7 運動変換機構
10 ディスクロータ
20 センサロータ
22 車輪速度センサ
50 回路基板
70 減速機構
80 ピストン部材
91 第1の摩擦部材
92 第2の摩擦部材
93 第3の摩擦部材
100 コントローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に対し車輪と一体的に回転する制動部材と、該制動部材に対し当接可能に前記車両に支持した摩擦部材と、該摩擦部材を前記制動部材に当接する方向に駆動する電動モータを具備し、該電動モータによって前記摩擦部材を前記制動部材に押圧して前記車輪の回転を抑制する車両の電動ブレーキ装置において、前記車輪を回転可能に支持する軸部と、該軸部と一体的に形成された本体部を有し、該本体部に、前記車輪の回転軸と略平行で少なくとも前記車両側に開口する開口部を形成して成り、当該本体部を前記車両に支持するナックルと、該ナックルの前記開口部内に収容し、前記電動モータの回転力を前記摩擦部材の前記制動部材への押圧力に変換する運動変換機構とを備え、該運動変換機構を、前記ナックルに対し前記車両側で前記電動モータに連結し、前記電動モータを前記ナックルに支持するように構成したことを特徴とする車両の電動ブレーキ装置。
【請求項2】
前記運動変換機構と前記電動モータとの間に介装した回路基板を備え、該回路基板に対し前記電動モータを直接電気的に接続したことを特徴とする請求項1記載の車両の電動ブレーキ装置。
【請求項3】
前記回路基板を前記車輪の回転軸近傍まで延出して成り、前記車輪の回転軸に支持し前記車輪と一体的に回転するセンサロータと、該センサロータに対向する位置で前記回路基板に支持し、前記車輪の回転速度を検出する車輪速度センサとを備えたことを特徴とする請求項2記載の車両の電動ブレーキ装置。
【請求項4】
前記ナックルに支持し、前記回路基板を介して前記電動モータと電気的に接続し、前記電動モータを駆動制御するコントローラを備えたことを特徴とする請求項2又は3記載の車両の電動ブレーキ装置。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2006−161953(P2006−161953A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−354040(P2004−354040)
【出願日】平成16年12月7日(2004.12.7)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】