説明

車両用アンテナ

【課題】バランが不要で、道路運送車両の保安基準に適合し、車両のフロントガラスの上縁部に配設できる車両用アンテナを提供する。
【解決手段】フロントガラス10の上縁10aに対して直角に下に向けて第1のエレメント12を配設し、これと略逆L字状となるよう上縁10aに沿って第2のエレメント14を配設する。第1のエレメント12の長さを送受信周波数帯の1/4波長の実効長とする。第2のエレメント14の長さを送受信周波数帯の1/4波長の実効長とし、その幅を第1のエレメント12の幅の13倍以上で25mm以下とする。第1のエレメント12と第2のエレメント14に同軸線路16の中心導体16aと外部導体16bをそれぞれに電気的接続する。実用的に不平衡アンテナとして作用させ、不平衡型の同軸線路16と電気的接続させてもバランが不要となる。第2のエレメント14の幅を25mm以下とし、道路運送車両の保安基準に適合させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のフロントガラスの上縁部に配設する車両用アンテナに関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両のフロントガラスに車両用アンテナを配設する場合に、ドライバーの視界を確保するために、アンテナはなるべく設置面積が小さく、しかもフロントガラスの周縁部に配設されることが望ましい。そこで、ドライバーの視界を確保するために、道路運送車両の保安基準第29条第4項第7号により、アンテナをフロントガラスの周縁から25mm以内に設置することが義務付けられている。なお、保安基準では、1.0mm以下の細線にあっては、周縁部の25mmの幅から突出することが許容されている。
【0003】
そこで、かかる車両用アンテナの一例として、V形ダイポールアンテナが検討されている。このV形ダイポールアンテナの構造を、図10を参照して簡単に説明する。図10において、車両のフロントガラス10の上縁部に、フロントガラス10の上縁10aに対して略直角に下に向けて放射用パターンとしての第1のエレメント12が配設され、この第1のエレメント12とともに略逆L字状となるように上縁10aに沿って接地用パターンとしての第2のエレメント14が配設される。第1と第2のエレメント12、14は、導電薄膜等で形成されており、その幅は一例としてそれぞれに0.8mmである。そして、第1のエレメント12の長さcは、一例として携帯電話用の800MHz帯の送受信周波数の1/4波長の実効長となるように設定され、その物理的長さが46mmに設定される。また、第2のエレメント14の長さdは、同様に送受信周波数の1/4波長の実効長となるように設定されるが、その物理的長さは80mmに設定される。ここで、第2のエレメント14は、上縁10aに沿って配設されるために、導電金属からなりグランド電極として作用する車両のボデーとの間で容量結合が生じて、同じ1/4波長の実効長であっても、第1のエレメント12に比較してその物理的長さdを長く必要としている。なお、1/4波長の実効長となる物理的長さは、それらのエレメントが配設されるフロントガラス10の被誘電率等の電気的特性により大きな影響を受けるとともに、グランド電極との間の容量結合の度合いにより大きく影響されることは、当業者であれば容易に理解できるであろう。そして、第1のエレメント12に同軸線路16の中心導体16aが電気的接続され、第2のエレメント14に同軸線路16の外側導体16bが電気的接続されている。
【0004】
しかるに、このV形ダイポールアンテにあっては平衡型アンテナであり、信号経路としての不平衡型の同軸線路16に電気的接続させる場合に、信号を良好に伝達させるためにはバランを必要とする。また、このV形ダイポールアンテナは、比較的に狭帯域であって、携帯電話用の800MHz帯等の広帯域用のアンテナとしては不適当である。かかるV形ダイポールアンテナの不具合については、特開2007−96475号公報に述べられている。さらに、V形ダイポールアンテナの接地用パターンを中抜き形状としたアンテナが、特許第3173904号公報に記載されている。
【特許文献1】特開2007−96475号公報
【特許文献2】特許第3173904号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の特許文献1で提案されている技術は、バランを不要とするために、V形ダイポールアンテナを構成する線状素子に加えて、さらに他の線状素子を配設したものである。他の線状素子を加えるために、アンテナとしての構造が複雑なものとなる。また、上記の特許文献2で提案されている技術は、接地用パターンを中抜き形状としていて、その幅が40mmであり、車両のフロントガラスの上縁部に配設するとすれば、道路運送車両の保安基準に適合しておらず、少なくとも、車両のフロントガラスの上縁部には配設することができない。
【0006】
本発明は、上述のごとき事情に鑑みてなされたもので、バランを必要とせず、しかも道路運送車両の保安基準に適合していて、車両のフロントガラスの上縁部に配設することができる車両用アンテナを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる目的を達成するために、本発明の車両用アンテナは、車両のフロントガラスの上縁部に配設される車両用アンテナであって、前記フロントガラスの上縁に対して直角に下に向けて第1のエレメントを配設し、前記第1のエレメントとともに略逆L字状となるように前記上縁に沿って第2のエレメントを配設し、前記第1のエレメントの長さを送受信周波数帯の1/4波長の実効長に設定し、前記第2のエレメントの長さを前記送受信周波数帯の1/4波長の実効長とするとともにその幅を前記第1のエレメントの幅の13倍以上で25mm以下に設定し、前記第1のエレメントに同軸線路の中心導体を電気的接続し、前記第2のエレメントに前記同軸線路の外部導体を電気的接続して構成されている。
【発明の効果】
【0008】
請求項1記載の車両用アンテナにあっては、放射用パターンとして作用する第1のエレメントに対して、接地用パターンとして作用する第2のエレメントの幅を13倍以上とすることで、実用的に不平衡アンテナとして作用させて、不平衡型の同軸線路と電気的接続させてもバランが不必要となる。また、接地用パターンとしての第2のエレメントの幅が無限大であれば完全な不平衡アンテナとして作用するが、その幅を25mm以下として、道路運送車両の保安基準に適合させているが、かかる構造で実用上の不具合がないことを実験的に確かめた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の第1実施例を図1ないし図5を参照して説明する。図1は、本発明の車両用アンテナの第1実施例の構造を示す図である。図2は、第2のエレメントの幅を広くした状態と図10に示す従来のV形ダイポールアンテナのVSWR周波数特性のシュミレーションの図である。図3は、第2のエレメントの幅を広くするとともに第1のエレメントの長さを短くして中心周波数を調整した状態と図10に示す従来のV形ダイポールアンテナのVSWR周波数特性のシュミレーションの図である。図4は、図1の本発明の車両用アンテナのVSWR周波数特性の実測データの図である。図5は、図1の本発明の車両用アンテナの仰角0度の垂直偏波の周波数に対する実測の指向特性図であり、(a)は815MHzであり、(b)は843MHzであり、(c)は875MHzであり、(d)は925MHzである。図1において、図10と同じまたは均等な部材には同じ符号を付けて重複した説明を省略する。
【0010】
図1において、図10に示した従来のV形ダイポールアンテナと相違するところは、まず接地パターンとして作用する第2のエレメント14の幅b’が、0.8mmから12mmと広くされたことにある。さらに、第1のエレメント12の長さc’が46mmから42mmと短くされたことにある。
【0011】
まず、発明者らは、有限地板上モノポールアンテナが不平衡型アンテナであることから、平衡型の従来のV形ダイポールアンテナを有限地板上モノポールアンテナにその構造を近づければ不平衡型アンテナとして動作するものと予測した。そこで、平衡型の従来のV形ダイポールアンテナを不平衡型に変更するために、有限地板となる接地パターンとして作用する第2エレメント14の幅b’を0.8mmから12mmまで拡大した。ここで、第1のエレメント12の長さcは、従来と同じ46mmのままである。すると、図2に示すように、VSWR周波数特性のシュミレーションでは、広帯域化がなされるととともにその中心周波数が低下した。そこで、発明者らは、中心周波数を調整すべく、第1のエレメント12の長さc’を42mmに短くした。すると、図3に示すごとく、VSWR周波数特性のシュミレーションでは、広帯域化がなされるととともにその中心周波数が従来のものと一致させることができた。そして、発明者らは本発明の車両用アンテナを製作してVSWR周波数特性を実測したところ、図4に示されるごとく、携帯電話用の800MHz帯の815MHzから925MHzの範囲で良好なVSWR特性が確認された。さらに、仰角0度の垂直偏波の周波数に対して、815MHz、843MHz、875MHz、925MHzでそれぞれの指向特性を実測したところ、図5に示すごとく、815MHz、843MHz、875MHz、925MHzのいずれでもほぼ無指向性が得られた。しかも、その平均利得は、815MHzで0.27dBi、843MHzで−0.77dBi、875MHzで−1.01dBi、925MHzで−1.02dBiと優れたものであった。そして、第2のエレメント14は、その幅b’が12mmであり、道路運送車両の保安基準第29条第4項第7号により義務付けられているアンテナをフロントガラス10の縁部10aから25mm以内に設置することができる。したがって、本発明の第1実施例の車両用アンテナにあっては、実用的に優れたものである。なお、第1のエレメント12の幅aは0.8mmであり、VSWRが3以下の帯域幅を拡大するのに寄与しており、携帯電話用の800MHz帯で必要とする広帯域化を可能としている。よって、第1のエレメント12の幅aは、0.8mm以上であることが望ましい。しかるに、道路運送車両の保安基準により、フロントガラス10の周縁部の25mmの幅から突出する細線は、1.0mm以下に規制されている。そこで、第1のエレメント12の幅aは、0.8mm以上で1.0mm以下に制限される。
【0012】
本発明の第1実施例の車両用アンテナにあっては、第2のエレメント14の幅b’は12mmであり、第1のエレメント12の幅aに対して、a:b’=1:15の関係にある。そこで、発明者らは、接地パターンとして作用する第2のエレメント14の幅b’を10mmとして、第1のエレメント12の幅aに対して、a:b’=1:13の関係として、利得と指向特性を実測してみた。すると、図6に示すように、815MHz、843MHz、875MHz、925MHzのいずれでもほぼ無指向性が得られた。しかも、その平均利得は、815MHzで−3.06dBi、843MHzで−4.65dBi、875MHzで−5.39dBi、925MHzで−4.60dBiであった。そして、925MHzにおける利得の最大と最小の差が、8.00dBであった。かかる特性の本発明の車両用アンテナも実用上で充分に使用できる。しかし、第2のエレメント14の幅b’が12mmの第1実施例の本発明の車両用アンテナに対して、第2のエレメント14の幅b’を10mmとした本発明の車両用アンテナは、利得と無指向性の点で特性が悪くなっており、第2のエレメント14の幅b’の最小幅を示唆している。そして、第2のエレメント14の幅b’の最大幅は、大きくするほど不平衡型のアンテナとして動作する有限地板上モノポールアンテナに近づき、より不平衡型となるが、道路運送車両の保安基準第29条第4項第7号により義務付けられている25mm以下に制限せざるを得ない。なお、第2のエレメント14の幅b’を10mmとするために、第1のエレメント12の長さc’は、中心周波数が一致するように調整されることは勿論である。
【0013】
さらに、発明者らは、第1のエレメント12と同軸線路16の中心導体16aの間に、図7に示すように、コイルLとコンデンサCを直列接続してなるマッチング回路18を介装して、VSRW特性を測定した。一例として、マッチング回路18を構成するコイルLは5.6nHであり、コンデンサCは10pFである。すると、図8に示すごとく、815MHzから1.575GHzの範囲で、VSWRが3以下の特性が得られた。してみると、マッチング回路18を介装することで、携帯電話用の800MHz帯とGPS1.5GHz帯の2つの周波数帯のデュアルバンドアンテナとしても十分に使用が可能である。そして、マッチング回路18を構成するコイルLとコンデンサCの定数を適宜に設定すれば、携帯電話用の800MHz帯と1.8GHzから2.0GHz帯の2つの周波数帯のデュアルバンドアンテナとして、使用することも可能である。
【0014】
そしてまた、図9に示すように、車両のフロントガラス10の上縁部に、本発明の車両用アンテナ20、20を横に2つ離して配設することで、ダイバーシティアンテナとしても作用させることが可能である。なお、本発明の車両用アンテナを2つ配設してダイバーシィアンテナとして作用させる場合に、2つの車両用アンテナの配設位置は、図9に示された構造に限られるものでない。また、同軸線路16を引き回す配線も、図9に示された構造に限られるものでない。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の車両用アンテナの第1実施例の構造を示す図である。
【図2】第2のエレメントの幅を広くした状態と図10に示す従来のV形ダイポールアンテナのVSWR周波数特性のシュミレーションの図である。
【図3】第2のエレメントの幅を広くするとともに第1のエレメントの長さを短くして中心周波数を調整した状態と図10に示す従来のV形ダイポールアンテナのVSWR周波数特性のシュミレーションの図である。
【図4】図1の本発明の車両用アンテナのVSWR周波数特性の実測データの図である。
【図5】図1の本発明の車両用アンテナの仰角0度の垂直偏波の周波数に対する実測の指向特性図であり、(a)は815MHzであり、(b)は843MHzであり、(c)は875MHzであり、(d)は925MHzである。
【図6】第2のエレメントの幅b’を10mmとして、第1のエレメントの幅aに対して、a:b’=1:13の関係として、本発明の車両用アンテナの仰角0度の垂直偏波の周波数に対する実測の指向特性図であり、(a)は815MHzであり、(b)は843MHzであり、(c)は875MHzであり、(d)は925MHzである。
【図7】第1エレメントと同軸線路の中心導体の間に、介装するマッチング回路18を示す回路図である。
【図8】図7のマッチング回路を介装した場合のVSRW周波数特性の実測データの図である。
【図9】車両のフロントガラスの上縁部に、本発明の車両用アンテナを2つ離して配設して、ダイバーシティアンテナとしても作用させるようにした図である。
【図10】従来のV形ダイポールアンテナの構造を示す図である。
【符号の説明】
【0016】
10 フロントガラス
10a 上縁
12 第1のエレメント
14 第2のエレメント
16 同軸線路
16a 中心導体
16b 外側導体
18 マッチング回路
L コイル
C コンデンサ
20 本発明の車両用アンテナ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のフロントガラスの上縁部に配設される車両用アンテナであって、前記フロントガラスの上縁に対して直角に下に向けて第1のエレメントを配設し、前記第1のエレメントとともに略逆L字状となるように前記上縁に沿って第2のエレメントを配設し、前記第1のエレメントの長さを送受信周波数帯の1/4波長の実効長に設定し、前記第2のエレメントの長さを前記送受信周波数帯の1/4波長の実効長とするとともにその幅を前記第1のエレメントの幅の13倍以上で25mm以下に設定し、前記第1のエレメントに同軸線路の中心導体を電気的接続し、前記第2のエレメントに前記同軸線路の外部導体を電気的接続して構成したことを特徴とする車両用アンテナ。
【請求項2】
請求項1記載の車両用アンテナにおいて、前記送受信周波数帯が携帯電話用の800MHz帯となるように、前記第1のエレメントと前記第2のエレメントの実効長を前記800MHz帯の1/4波長に設定して構成したことを特徴とする車両用アンテナ。
【請求項3】
請求項1記載の車両用アンテナにおいて、前記第1のエレメントと前記同軸線路の前記中心導体との間に、コイルとコンデンサの直列接続からなるマッチング回路を介装して、携帯電話用の800MHz帯とGPS用の1.5GHz帯の2つの周波数帯を送受信できるように構成したことを特徴とする車両用アンテナ。
【請求項4】
車両のフロントガラスの上縁部に、請求項1記載の車両用アンテナを離して2つ配設して、ダイバーシティ用のアンテナを構成したことを特徴とする車両用アンテナ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−45740(P2010−45740A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−210096(P2008−210096)
【出願日】平成20年8月18日(2008.8.18)
【出願人】(000006758)株式会社ヨコオ (158)
【Fターム(参考)】